説明

自動車用排気ガス浄化装置に用いられる触媒系、それを用いた排気ガス浄化装置、及び排気ガス浄化方法

【課題】自動車の内燃機関から排出される排気ガスを触媒に接触させ、炭化水素濃度が変動する場合でも窒素酸化物に対して優れた浄化能力を発揮する自動車用排気ガス浄化装置に用いられる触媒系、それを用いた排気ガス浄化装置、及び排気ガス浄化方法を提供する。
【解決手段】無機構造担体に担持された第1の触媒2と、これとは別の第2の触媒3とを含む2以上の排気ガス浄化触媒を用いてなる触媒系であって、第1の触媒は、排気ガス流路中に配置したとき、上流側に位置する無機構造担体の部分に担持させ、一方、第2の触媒は、排気ガス流路中に配置したとき、下流側に位置する無機構造担体の部分に担持させ、かつ、原料混合物をその融点以上の温度で加熱熔融した後、冷却して形成されるインゴットを粉砕して得られるセリウム−ジルコニウム系複合酸化物(A)を含有する、自動車用排気ガス浄化装置に用いられる触媒系。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車用排気ガス浄化装置に用いられる触媒系、それを用いた排気ガス浄化装置、及び排気ガス浄化方法に関し、より詳しくは、自動車の内燃機関から排出される排気ガスを触媒に接触させ、炭化水素濃度が変動する場合でも窒素酸化物に対して優れた浄化能力を発揮する排気ガス浄化装置に用いられる触媒系、それを用いた排気ガス浄化装置、及び排気ガス浄化方法に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車等の内燃機関や、ボイラーなどの燃焼機関から排出される排気ガス中には、炭化水素(HC)、一酸化炭素(CO)、窒素酸化物(NOx)などの有害物質が含まれており、これらを浄化するための様々な排気ガス浄化技術が提案されている。その一つとして、触媒を排気ガス流路中に設置し、排気ガス中の有害成分を浄化する排気ガス浄化技術が検討されている。
特に、このような触媒技術によって自動車からの排気ガスを浄化する場合は、これら有害ガス(CO、HC、NOx)濃度の数ppmから数%にわたる急激な変化に柔軟に対応でき、高効率で排気ガスが浄化できる性能が求められている。
【0003】
このような触媒を使った排気ガス浄化技術では、排気ガス中に存在する酸素が、CO、HCの酸化や、NOxの還元反応を促進するという重要な働きをする。しかし、自動車の場合では、道路の混み具合などによって走行状況が変化することから、エンジンの燃焼状態を一定に保つ事が難しく、排気ガス中の酸素濃度も刻々変化する。そのため、酸素濃度が低下した際には、酸素を利用した有害成分の浄化が出来なくなってしまうことがあった。
そこで、排気ガス浄化触媒の組成中に酸素吸蔵放出材(Oxygen Storage Component:以下、OSC材ということがある。)を配合し、低酸素濃度時には排気ガス中に酸素を供給し、有害成分の浄化能力を高める事が行われている。
【0004】
CeO粉末は、酸素の吸蔵および放出能が大きいために、この触媒のOSC材として用いられており、排気ガス処理効率を増大させることが明らかにされている。そして、これまでにCeO−ZrO系など、CeO系粉末における酸素の吸蔵容量、放出特性の向上とそれを助触媒とした排気ガス浄化触媒について多くの研究が行われてきた。
このような排気ガス浄化触媒としては、排気ガス中のHC、COの酸化作用、またNOxの還元作用を調整するために、排気ガス浄化触媒用の酸素吸蔵放出材として、特定原子比率のセリウム−ジルコニウム複合酸化物が有効であるとされている。
【0005】
また、自動車に搭載される排気ガス浄化触媒の場合、比較的温度の低い床下に設置されるものと、エンジンから排出された直後、高温の排気ガスに触れる位置に設置される直下型と言われるものとがある。しかし、エンジンから排出された直後に高温であった排気ガスも、床下に至るまでには温度がかなり低くなってしまう。排気ガス浄化触媒は、一般にある程度以上の温度において高い活性が得られる事が多いことから、このような状態は排気ガスの浄化にとっては好ましい条件では無い。しかし、床下型として用いられる触媒では、このように温度の低い状態でも浄化能力を発揮する必要がある。
これに対して、直下型では排気ガスの温度は1000℃を超える場合があり、排気ガス浄化触媒成分の焼結を招くことがある。そのため、排気ガス浄化触媒には、このような高温で苛酷な条件においても、触媒成分の焼結を抑制し、安定して排気ガスを浄化できる性能が要求される。
【0006】
自動車用排ガス浄化触媒としては、一つの触媒で、CO及びHCの酸化とNOxの還元とを同時に行って排気ガスを浄化する触媒が三元触媒(Three Way Catalyst:TWC)として知られている(以下、TWCを使用する排気ガス浄化装置をTWC装置と言うことがある)。このTWCの構成は、例えば、アルミナからなる多孔質担体の母材に白金、ロジウム、パラジウムなどの貴金属元素を担持させたスラリーでコーディエライトなどからなる構造型担体を被覆したものが一般的である。
このようなTWCでは、CO、HCなどの還元成分を排気ガス中の酸素と反応させて酸化除去することや、NOxを還元して浄化することが行われるが、先に述べたとおり、自動車から排出される排気ガス中の酸素濃度は刻々と変化することから、このような環境でも浄化能力を発揮する触媒が求められている。そこで、このような排気ガス中の酸素濃度の変化を緩衝することを主目的として、排気ガス浄化触媒の組成中にセリウム酸化物や、セリウム−ジルコニウム系複合酸化物(特許文献1)を、酸素吸蔵放出材として配合し、低酸素濃度時には排気ガス中に酸素を供給するなどして、有害成分の浄化能力を高める事が行われている。
【0007】
しかしながら、近年の排気ガス規制の強化に伴い、市場は、OSC材に対して低い温度域で酸素放出が可能であり、かつより高い酸素吸蔵放出能と、触媒のロングライフ性能を要求しており、排ガス浄化触媒にはより優れた高温耐性が望まれている。このようなことから、本出願人は、高温でも優れた性能を有するOSC材を開発し、1000℃以上の高温でも焼結しないセリウム−ジルコニウム複合酸化物を提案している(特許文献2参照)。
【0008】
また、自動車用の排気ガス浄化触媒では、浄化対象の排気ガス成分に応じた機能を有する触媒を排気ガス流路の複数個所に配置し、排気ガス浄化装置を構成する事がある。
ガソリン機関においても、排気ガス流路中にTWC自体を2つ以上配置することが、しばしば行われている。例えば、温度の高い排気ガスに晒される前段には、耐熱性の高い触媒を配置し、後段には通常のTWCを配置することで、部分酸化されたHCを完全酸化すること(特許文献3)、前段にTWCを配置し、後段にはHC吸着剤とTWCが複合された複合触媒を配置することで、排気ガス中のHC浄化率を大幅に向上させる事が検討されている(特許文献4)。
また、限られたスペース、形状の排気ガス流路に対して触媒を配置する場合、排気ガス浄化の為の充分な活性面積を得るために、同種のTWCを2箇所以上に分けて配置することもある。特許文献4は、2つ以上の触媒を用いて構成したTWC装置により排気ガスを浄化するケースである。
【0009】
また、従来のTWCにおいて、HC、CO、NOxの3成分を適正に浄化できるのはウインドウと称される理論空気/燃料比が14.6近辺のごく狭い範囲であるとされていた。しかしながら、自動車では、先の走行条件に加え、近年の環境問題への関心の増大から、燃費の向上を図るために、フューエルカット(一時的に燃焼室への燃料の供給を中断すること)、希薄燃焼(リーンバーンとも言われる)などリーン状態での稼動が余儀なくされている。このように理論空気/燃料比の大きな状態では、NOxの発生量が増えてしまい、今までのTWCではその浄化が困難であった。
【0010】
また、石油資源の枯渇問題および地球温暖化問題の観点からも、自動車の低燃費実現が期待されており、ガソリン自動車においても希薄燃焼機関への関心が高まっている。希薄燃焼においては、走行時の排気ガス雰囲気は、理論空気/燃料比状態(以下、「ストイキ状態」と言う事がある)に比べて、酸素過剰雰囲気(以下、「リーン雰囲気」と言う事がある)となる。リーン雰囲気において、従来のTWCを使用した場合には、過剰な酸素の影響からNOxが多量に発生し、浄化作用が不十分となるという問題があった。このためリーン雰囲気下においてもNOxを浄化できる触媒も検討されてきた(特許文献5)。
【0011】
しかしながら、近年では自動車の燃費向上に対する要求は厳しくなる一方で、リーン雰囲気での稼動やフューエルカットの頻度も増えているが、環境意識の高まりにより、NOxの浄化に対する要求も厳しさの度を増し、特にTWCのNOx浄化性能について、一層の改善が望まれている。
【特許文献1】特公平6−75675号公報
【特許文献2】WO2006/030763
【特許文献3】特開平11−123331号公報
【特許文献4】特開平7−144119号公報
【特許文献5】特開平10−192713号公報[0002]
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明の目的は、上記の問題点に鑑み、自動車の内燃機関から排出される排気ガスを触媒に接触させ、炭化水素濃度が変動する場合でも窒素酸化物に対して優れた浄化能力を発揮する自動車用排気ガス浄化装置に用いられる触媒系、それを用いた排気ガス浄化装置、及び排気ガス浄化方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明者等は、排気ガス中の窒素酸化物(NOx)浄化触媒について上記目的を達成するために鋭意研究した結果、セリウム原料とジルコニウム原料との原料混合物を、その融点以上の高温に加熱して熔融し、冷却後、粉砕し、必要により酸化焼成することにより得られたセリア−ジルコニア系複合酸化物の微粉末を含有させた触媒がNOxを効率的に分解するという優れた特性を有することを見出し、これを排気ガス流路の前段である上流側と後段である下流側に配置された排気ガス浄化装置の下流側触媒として用いると、排気ガス中のCO、HCをNOxと同時に浄化できることを確認して、本発明を完成するに至った。
【0014】
すなわち、本発明の第1の発明によれば、無機構造担体に担持された第1の触媒と、これとは別の第2の触媒とを含む2以上の排気ガス浄化触媒を用いてなる触媒系であって、第1の触媒は、排気ガス流路中に配置したとき、上流側に位置する無機構造担体の部分に担持させ、一方、第2の触媒は、排気ガス流路中に配置したとき、下流側に位置する無機構造担体の部分に担持させ、かつ、原料混合物をその融点以上の温度で加熱熔融した後、冷却して形成されるインゴットを粉砕して得られるセリウム−ジルコニウム系複合酸化物(A)を含有することを特徴とする、自動車用排気ガス浄化装置に用いられる触媒系が提供される。
【0015】
また、本発明の第2の発明によれば、第1の発明において、第1の触媒と第2の触媒とは、隣接して配置されていることを特徴とする触媒系が提供される。
さらに、本発明の第3の発明によれば、第1の発明において、第1の触媒と第2の触媒とは、窒素酸化物(NOx)を炭化水素(HC)や一酸化炭素(CO)や水素(H)によって還元する機能を有することを特徴とする触媒系が提供される。
【0016】
また、本発明の第4の発明によれば、第1の発明において、セリウム−ジルコニウム系複合酸化物(A)の原料混合物が、0.5〜3時間加熱熔融されることを特徴とする触媒系が提供される。
また、本発明の第5の発明によれば、第1の発明において、セリウム−ジルコニウム系複合酸化物(A)の粒径が、3mm以下であることを特徴とする請求項1に記載の触媒系が提供される。
また、本発明の第6の発明によれば、第1の発明において、セリウム−ジルコニウム複合酸化物(A)のセリウムとジルコニウムが、酸化物換算のモル比基準で、CeO/(ZrO+CeO)=1/9〜9/1の割合で含有されることを特徴とする触媒系が提供される。
【0017】
また、本発明の第7の発明によれば、第1の発明において、第2の触媒が、さらに、白金、パラジウム、又はロジウムから選ばれる一種以上の活性金属種(B)を含有することを特徴とする触媒系が提供される。
また、本発明の第8の発明によれば、第7の発明において、活性金属種(B)が、ジルコニア、セリウム−ジルコニウム複合酸化物、セリア、γ−Al、又はランタン添加γ−Alから選ばれる一種以上の耐熱性無機酸化物(C)に担持されていることを特徴とする触媒系が提供される。
また、本発明の第9の発明によれば、第8の発明の活性金属種(B)が白金を含有し、一方、耐熱性無機酸化物(C)がランタン添加γ−Alからなることを特徴とする触媒系が提供される。
【0018】
また、本発明の第10の発明によれば、第1の発明において、前記無機構造担体が、ハニカム構造体(D)であることを特徴とする触媒系が提供される。
また、本発明の第11の発明によれば、第10の発明において、第2の触媒が、ハニカム構造体(D)上に少なくとも2層として被覆され、セリウム−ジルコニウム複合酸化物(A)が下層に含まれることを特徴とする触媒系が提供される。
また、本発明の第12の発明によれば、第10又は11の発明において、ハニカム構造体(D)が、セル密度10〜1500cel/inchのフロースルー型担体であることを特徴とする触媒系が提供される。
また、本発明の第13の発明によれば、第1〜12のいずれかの発明において、第2の触媒の各成分は、ハニカム構造体(D)の単位体積あたり、セリウム−ジルコニウム系複合酸化物(A)が5.0〜200g/L、活性金属種(B)が0.01〜20g/L、耐熱性無機酸化物(C)が1〜300g/Lであることを特徴とする触媒系が提供される。
【0019】
また、本発明の第14の発明によれば、第1の発明において、第1の触媒は、セリウム塩及びジルコニウム塩を、熔融物が生成しない温度条件で焼成して得られるセリウム−ジルコニウム系複合酸化物(A’)を含有することを特徴とする触媒系が提供される。
また、本発明の第15の発明によれば、第14の発明において、第1の触媒が、さらに、白金、パラジウム、又はロジウムから選ばれる一種以上の活性金属種(B)を含有することを特徴とする触媒系が提供される。
また、本発明の第16の発明によれば、第15の発明において、活性金属種(B)が、ジルコニア、γ−Al、又はランタン添加γ−Alから選ばれる一種以上の耐熱性無機酸化物(C)に担持されていることを特徴とする触媒系が提供される。
また、本発明の第17の発明によれば、第14〜16のいずれかの発明において、第1の触媒の各成分は、ハニカム構造体(D)の単位体積あたり、セリウム−ジルコニウム系複合酸化物(A’)が5.0〜200g/L、活性金属種(B)が0.01〜20g/L、耐熱性無機酸化物(C)が1〜300g/Lであることを特徴とする触媒系が提供される。
【0020】
また、本発明の第18の発明によれば、第1〜17のいずれかの発明に係る触媒系を用いてなる自動車用排気ガス浄化装置が提供される。
また、本発明の第19の発明によれば、第18の発明に係る自動車用排気ガス浄化装置を用いて、内燃機関の排気ガスを排気ガス流路の上流側と下流側の少なくとも2箇所に配置された触媒に順次接触させることによって、排気ガス中に含まれる窒素酸化物(NOx)を分解することを特徴とする排気ガス浄化方法が提供される。
また、本発明の第20の発明によれば、第19の発明において、窒素酸化物(NOx)が、炭化水素(HC)や一酸化炭素(CO)によって還元されることを特徴とする排気ガス浄化方法が提供される。
さらに、本発明の第21の発明によれば、第19の発明において、内燃機関が、ガソリンエンジンであることを特徴とする排気ガス浄化方法が提供される。
【発明の効果】
【0021】
本発明の排気ガス浄化装置によれば、自動車排気ガス中のNOxを効率的に浄化することができる。また、HC濃度が変動する環境で、排気ガス中の有害成分であるHC、CO、NOxを浄化する事が可能であり、特にTWCとして用いた時には、NOxに対して優れた浄化性能を発揮する。このNOx浄化能力はフューエルカットなどにより内燃機関がリーン状態で稼動された場合、その直後に多量に発生するNOxの浄化に対して顕著に現れる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
次に、本発明の自動車用排気ガス浄化装置に用いられる触媒系、それを用いた排気ガス浄化装置、及び排気ガス浄化方法について、図面を用いて詳細に説明する。
【0023】
1.自動車用排気ガス浄化装置
本発明の自動車用排気ガス浄化装置に用いられる触媒系は、無機構造担体に担持された第1の触媒と、これとは別の第2の触媒とを含む2以上の排気ガス浄化触媒を用いてなる触媒系であって、第1の触媒は、排気ガス流路中に配置したとき、上流側に位置する無機構造担体の部分に担持させ、一方、第2の触媒は、排気ガス流路中に配置したとき、下流側に位置する無機構造担体の部分に担持させ、かつ、原料混合物をその融点以上の温度で加熱熔融した後、冷却して形成されるインゴットを粉砕して得られるセリウム−ジルコニウム系複合酸化物(A)を含有することを特徴とする。
なお、本発明において無機構造担体とは、ハニカムやペレット形状に成型されたシリカ、アルミナ、炭化珪素、コーディエライト等のことであり、特にハニカム状に成型されたものを一体構造型担体といい、この一体構造型担体に触媒成分を被覆したものを一体構造型触媒ということがある。
【0024】
図1は、一般的な排気ガス浄化装置1を示すものであるが、自動車から排出される排気ガスを浄化する場合、構造型触媒(特に一体構造型触媒)をその排気ガスの排出経路に配置する。本発明では、排気ガス流路中の上流側に第1の触媒(2)、下流側に第2の触媒(3)を含む2個以上の窒素酸化物(NOx)浄化機能を有する触媒などの排気ガス浄化触媒が配置される。
一体構造型触媒を配置する位置は、排気ガス温度が比較的高温になるエンジンのエキゾースト部位近傍(直下型)、あるいはそれよりも更に下流(床下型)のいずれかである。本発明の排気ガス浄化触媒は、直下型、床下型のどちらに用いても良いが、本発明の触媒装置は床下型のように、比較的触媒温度の低いところでもその効果を発揮できる。直下型、床下型いずれであっても、セリウム−ジルコニウム系複合酸化物(A)を含有する触媒は、排気ガスの最上流部に配置される事はなく、排気ガスの流れに対して2つ目以降に配置されることになるため、第2の触媒又は下流側の触媒と称する。これに対して、排気ガスの最上流部に配置される触媒は、第1の触媒又は上流側の触媒と称する。
【0025】
本発明の自動車用排気ガス浄化装置が使用される環境としては、通常のガソリン機関から排出される排気ガス成分の浄化があるが、このようなガソリン機関から排出される排気ガス成分に含まれる有害物質としては、CO、HC、NOxが主要な規制対象とされている。このような排気ガスに対して本発明を適用することで有害成分が浄化される。
以下、本発明の好ましい態様であるCO、HC、NOxを同時に浄化処理するTWCについて中心に説明する。TWCでは、図1に示すように、下流側の触媒3は、上流側の触媒2と隣接して配置されていることが望ましい。また、TWCでは、排気ガス中の窒素酸化物(NOx)が、炭化水素(HC)、一酸化炭素(CO)、また、水蒸気改質反応によって発生した水素(H)によって還元される。
【0026】
本発明の自動車用排気ガス浄化装置は、空気/燃料比の変動を繰り返しながら駆動される内燃機関の排気ガスの浄化、特に排気ガス中のNOxの浄化に効果を発揮する。また、自動車では燃費の向上のために、フューエルカットが行われ、このとき、内燃機関においては空気/燃料比が大きくなり多量のNOxが発生することが知られている。本発明の自動車用排気ガス浄化装置は、特にこのようなフューエルカット直後におけるNOx浄化性能に効果を発揮し、NOxの排出量を著しく低減することが可能である。このようなNOx浄化特性は、ガソリン自動車において、フューエルカットをした際の排気ガスの浄化に対して顕著にあらわれる。このような効果が発揮される理由は定かでないが、以下のように考えられる。
【0027】
通常、自動車では走行状態に応じて排気ガス中のHC、CO、NOxなどの有害成分の濃度が変動する。ここで、NOxの浄化には、排気ガス中の還元成分であるHCやCO、また水蒸気改質反応により生じた水素(H)が必要であるが、フューエルカットなどリーン駆動をするとNOxや酸素が増加し、還元成分であるHC、CO、H濃度も減少することから、充分な浄化が行われずNOxの排出量が多くなってしまう事がある。
しかし、本発明の自動車用排気ガス浄化装置では、上流側に配置された触媒によって、急激な排気ガス成分の濃度変化が緩衝され、すなわちNOxや酸素が増加しても、還元成分であるHC、COの濃度がさほど減少せず、それを一因として排気ガスの浄化、特にNOxの浄化が促進されるのではないかと考えられる。
【0028】
このように、本発明の自動車用排気ガス浄化装置には、排気ガス流路の下流側に第2の触媒としてセリウム−ジルコニウム系複合酸化物(A)を含有する触媒を配置するものである。すなわち、セリウム−ジルコニウム系複合酸化物(A)を含有した触媒は、それを単独で使用するよりも前段に第1の触媒である上流側触媒を配置した時の方が優れた浄化性能を発揮する。
【0029】
2.第2の触媒
本発明では、排気ガス流の下流側に配置される第2の触媒は、原料混合物をその融点以上の温度で加熱熔融した後、冷却して形成されるインゴットを粉砕して得られるセリウム−ジルコニウム系複合酸化物(A)を含有し、無機構造担体に担持される。
【0030】
この第2の触媒としては、セリウム−ジルコニウム系複合酸化物(A)に加え、白金、パラジウム、ロジウムから選択される触媒活性種(B)と、前記触媒活性種の少なくとも一部を担持するためのアルミナ、チタニア、ジルコニア等の耐熱性無機酸化物(C)とを基本的な構成とするものである。そして、これらが無機構造担体である一体構造型担体(D)の上に担持されている。
【0031】
(A)セリウム−ジルコニウム系複合酸化物
以下、本発明において触媒成分となるセリウム−ジルコニウム系複合酸化物について、図2により、その製造方法の一例を記載するが、本発明に使用されるセリウム−ジルコニウム系複合酸化物は、これにより何ら制限されるものではない。
【0032】
本発明に用いられるセリウム原料は、特に限定されないが、酸化セリウムで有る事が好ましい。この酸化セリウムは硝酸塩、炭酸塩、硫酸塩、酢酸塩、塩化物、臭化物等から得られる酸化物でも良い。また、本発明に用いられるジルコニウム原料についても特に限定されないが、バデライト、脱珪ジルコニア、酸化ジルコニウム等、酸化ジルコニウムを含むジルコニウム元素材料である事が好ましい。ここで酸化ジルコニウムとしては、硝酸塩、炭酸塩、硫酸塩、酢酸塩、塩化物、臭化物等から得られた酸化物でも良い。また、セリウム原料とジルコニウム原料は、これらの原料の混合物、または複合酸化物であってもよい。なお、セリウム原料とジルコニウム原料の純度は、特に限定されるものではないが、純度99.9%以上のものが好ましい。
【0033】
本発明において使用する元素材料は、以下に示す複合酸化物の製造工程において、元素材料を加熱したときに、その少なくとも一つが熔融するものであれば良い。セリウム原料、ジルコニウム原料は、酸化物で有る事が好ましい。酸化セリウムの融点は2200℃、酸化ジルコニウムの融点は2720℃として知られている。このように元素材料の酸化物は融点が高いわけであるが、元素材料として酸化セリウム、酸化ジルコニウムを用いる場合、融点降下の影響があるので、酸化物の融点よりも低い加熱温度であっても熔融状態を得ることができる場合がある。これら原料には、少量のセリウムまたはジルコニウムの硝酸塩、炭酸塩、硫酸塩、塩化物、臭化物が配合されても良い。このような酸化物以外の原料化合物を配合すると製造工程で熔融が促進される事がある。
また、融点を下げるためには、微量のフラックスなど第三成分を配合する場合もある。これら元素材料を混合したときの、原料混合物の融点は、セリア/ジルコニアのモル比により異なり、具体的には、CeO/ZrO(モル比)=1/9の場合は約2600℃、モル比が5/5の場合は約2200℃、モル比が9/1の場合は約2000℃である。
第三成分としてセリウム元素材料、ジルコニウム元素材料以外の材料を併せて用いる場合は、本発明により得られるOSC材の特性を損なわない範囲であれば、アルカリ、アルカリ土類、金属成分などを加える事ができる。より具体的には、カリウム、ルビジウム、セシウム、マグネシウム、カルシウム、ストロンチウム、バリウム、アンチモン、ハフニウム、タンタル、レニウム、ビスマス、プラセオジム、ネオジウム、サマリウム、ガドリニウム、ホルミウム、ツリウム、イッテルビウム、ゲルマニウム、セレン、カドミウム、インジウム、スカンジウム、チタン、ニオブ、クロム、鉄、銀、ロジウム、白金などがあげられる。また、このような第三成分は、セリウム元素材料、ジルコニウム元素材料中の不純物に由来して含まれていても良い。ただし、このような第三成分が有害性の規制対象である場合は、その量を低減するか、除去する事が望ましい事は言うまでも無い。
【0034】
上記セリウム原料とジルコニウム原料は、所定の割合で混合し熔融装置に装入する。このようにして得られたセリウム−ジルコニウム系複合酸化物のセリウムとジルコニウムの含有率は、特に限定されるものではないが、モル比を基準として、[CeO/(ZrO+CeO)]が1/9〜9/1であり、さらには、2/3〜3/2が好ましい。このような組成比であれば、優れた酸素吸蔵放出性能と耐熱性を得ることができる。
【0035】
その後、原料混合物を装置内で熔融するが、熔融方法については、原料混合物の少なくとも一種が熔融する方法であれば特に限定されず、アーク式、高周波熱プラズマ式等が例示される。中でも一般的な電融法、すなわちアーク式電気炉を用いた熔融方法を好ましく利用することができる。
アーク式電気炉を用いた熔融方法であれば、セリウム原料とジルコニウム原料の混合割合により変化するが、混合されたセリウム原料とジルコニウム原料に、必要に応じ、初期の通電を促すために導電材としてのコークスを所定量添加する。その後、例えば、二次電圧70〜100Vで平均負荷電力を80〜100kWとし、2400℃以上の温度で加熱する。セリウム−ジルコニウム系複合酸化物(A)の原料混合物が、0.5〜3時間加熱熔融されることが望ましい。原料が熔融状態となってから、0.5時間以上保持することにより、均一に熔融させることが出来る。加熱温度は、2000℃以上であればよいが、原料の融点以上、特に2600〜2800℃が好ましい。熔融状態での保持時間は、1〜2時間とすることが好ましい。なお、熔融時の雰囲気については、特に限定されず、大気中の他、窒素、アルゴン、あるいはヘリウムなどの不活性ガス中とする。また、圧力は特に限定されず、常圧、加圧、減圧のいずれでもよいが、通常、大気圧下で行うことが出来る。
熔融終了後、電気炉に炭素蓋をして、20〜30時間徐冷しインゴットを得る。熔融物の冷却方法は、特に限定されないが、通常、熔融装置から取り出して、大気中で100℃以下、好ましくは50℃以下となるように放冷する。これにより、セリウム原料とジルコニウム原料が均一になったセリウム−ジルコニウム系複合酸化物のインゴットを得ることが出来る。
【0036】
熔融後のインゴットは、次いで粉砕される。インゴットの粉砕については、特に限定されないが、セリウム−ジルコニウム系複合酸化物(A)の粒径が、3mm以下であるように粉砕することが望ましい。インゴットは、ジョークラッシャーまたはロールクラッシャー等の粉砕機で粉砕することができる。後工程での取り扱いを考慮して、インゴットが1mm以下の粉体になるまで粉砕し、分級するのが好ましい。
なお、得られた粉末は、磁力選鉱して不純物などを分離した後、所望に応じて、電気炉などにいれ、熔融工程での亜酸化物や過冷却による結晶内の歪みを酸化焼成によって除去することができる。酸化焼成の条件は、インゴットまたは粉末が酸化される条件であれば特に限定されないが、通常、100℃〜1000℃、好ましくは600℃〜800℃で焼成することができる。また、焼成時間については、特に限定されないが、1〜5時間、好ましくは1〜3時間とすることができる。
上記方法で得られた粉末を用途に合わせて、さらに微粉砕することができる。微粉砕については、特に限定されないが、遊星ミル、ボールミルまたはジェットミル等の粉砕機で5〜30分間、微粉砕することができる。この微粉砕により、セリウム−ジルコニウム系複合酸化物の平均粒径を0.3〜2.0μm、特に0.5〜1.5μmとすることが好ましい。詳細な理由は不明であるが、微粉砕されることで複合酸化物の表面積が大きくなり、低い温度域で大きな酸素放出が可能となるものと考えられる。なお、平均粒径の測定はレーザー回折散乱装置などで分析できる。
これにより、酸化物換算のモル比:CeO/(ZrO+CeO)基準として、1/9〜9/1の割合でセリウムとジルコニウムを含有するセリウム−ジルコニウム複合酸化物(A)が得られる。
【0037】
セリウム−ジルコニウム系複合酸化物(A)は、加熱耐久試験を行い、その前後における構造の変化をX線回析装置(XRD)により測定すると、図3(A)に示すような結果となる。このセリウム−ジルコニウム系複合酸化物では、1050℃及び1150℃での高温大気中焼成後のメインピーク(Zr0.5Ce0.5に相当)の波形が同じように重なっていることから、十分な熱的安定性を有すると同時に、本ピークが極めてシャープであることから、大きな結晶構造を有することが明らかである。
これに対して、前記特許文献1などに記載された原料混合物の融点以上の高温で加熱溶融しない従来品を用いて、加熱耐久試験を行い、その前後における構造の変化をX線回析装置(XRD)により測定すると、図3(B)に示すような結果となる。従来品では1050℃及び1150℃での高温大気中焼成後に観測されるメインピーク(Zr0.5Ce0.5に相当)が徐々にシャープとなっており、高温耐久時の物理的状況変化が著しい。また、熱的安定性が本発明のセリウム−ジルコニウム系複合酸化物よりも明らかに低いことがわかる。
【0038】
(B)触媒活性金属
本発明において、触媒活性金属(以下、活性金属種あるいは金属触媒成分ともいう)は、単独で用いることもできるが、熱や雰囲気に対して安定で、活性も高い事が望ましいことから、母材となる多孔質無機酸化物(C)に担持されている事が好ましい。以下、複合酸化物(A)と触媒活性金属(B)、多孔質無機酸化物(C)など触媒を構成する材料と組み合わせたものを触媒組成物ということがある。
【0039】
本発明に適用可能な金属触媒成分は、排気ガスの浄化に対して活性を有するものであれば制限されないが、白金、パラジウム、ロジウムから選ばれる一種以上の触媒活性金属を含有することが望ましい。この他、遷移金属、希土類金属などを含有することができる。
遷移金属としては、鉄、ニッケル、コバルト、ジルコニウム、銅など、また希土類金属としては、ランタン、プラセオジム、ネオジムのほか、金、銀等の貴金属を挙げることができ、これらの中から一種以上を適宜選択できる。
【0040】
なお、貴金属成分としては、ロジウムを必須成分として、白金、パラジウムのうち少なくとも一つと組み合わせる事が好ましい。これにより、TWC用途でNOxの浄化性能を向上させることができる。その場合、貴金属の担持量はトータル貴金属量に対して5〜50wt%、望ましくは10〜30wt%をロジウムとして、残りの貴金属成分をPd、Ptの少なくとも一種とする事が好ましい。
すなわち、TWCとしての作用を発揮するために、本発明の触媒には貴金属成分としてロジウムを含む事が好ましいが、その作用としては水蒸気改質反応の促進が考えられる。
NOx浄化における水蒸気改質反応の働きを式にあらわすと以下のとおりである。
HC+HO −−−−−−−−−−−→ COx+H ………(1)
+NOx −−−−−−−−−→ N+HO ………(2)
活性金属であるロジウムは、ジルコニウムと共に用いる事で水蒸気改質反応を促進するので(WO2000/027508公報、14頁参照)、この働きをNOxの還元に利用できる事が知られている。本発明でも、これに類するメカニズムが少なくとも一部生起しているものと思われる。
これまでロジウムは、排気ガス中に置かれることでCO等により被毒されてしまい活性を失ってしまう事があるとされていた。しかし、セリウム−ジルコニウム系複合酸化物(A)が、ロジウム表面の被毒の原因となるCO等の還元成分を効率的に酸化除去する事により、ロジウムの活性低下を防ぎ、その結果、NOxの浄化作用に少なくとも一部に貢献しているものと考えられる。
【0041】
金属触媒成分の使用量については、活性金属の種類や、無機母材や、構造担体の種類、触媒の用途などによっても異なるが、触媒活性金属が貴金属でありこれを一体構造型担体に被覆する場合、その担持量は一体構造型担体の容積当り、0.01〜20g/L、特に0.1〜15g/Lである事が好ましい。金属触媒成分の量が20g/Lを超えると、触媒の生産コストが上昇してしまい、0.01g/L未満では、金属触媒成分使用による排気ガスの浄化性能の向上が見込めない事がある。
【0042】
(C)耐熱性無機酸化物
本発明では、活性金属種(B)が、耐熱性無機酸化物(以下、無機母材、あるいは単に母材ともいう)に担持されていることが望ましい。
【0043】
すなわち、触媒活性金属が担持される母材としては、耐熱性が高く、比表面積の大きな多孔質の無機材料が好ましく、γ−アルミナ、θ−アルミナなどの活性アルミナ、ジルコニア、セリウム−ジルコニウム複合酸化物、セリア、酸化チタン、シリカ、各種ゼオライトなどを用いることができる。このような多孔質無機母材には、ランタン、セリウム、バリウム、プラセオジム、ストロンチウム等の希土類や、アルカリ土類金属を添加し、耐熱性を更に向上させたものを用いてもよい。
【0044】
母材は、ジルコニア、セリウム−ジルコニウム複合酸化物、セリア、γ−Al、又はランタン添加γ−Alから選ばれる一種以上であることが好ましい。特に、活性金属種(B)が白金を含み、一方、耐熱性無機酸化物(C)がランタン添加γ−Alである触媒が好ましい。ランタンが添加されたγ−アルミナは、耐熱性に優れ、白金を担持させた場合、高温時にも高い触媒活性を維持することが可能であることが知られている(特開2004−290827)。セリウム−ジルコニウム系複合酸化物(A)も優れた高温耐性を有することから、これをランタンが添加されたγ−アルミナと併用することで、高温安定性に優れた触媒組成物を得る事が出来る。
【0045】
γ−アルミナとしては、比表面積(BET法による、以下同様)が、30m/g以上であるものを用いることが好ましく、更に、90m/g以上であるものを用いることがより好ましい。γ−アルミナの比表面積値が30m/g以上であることで貴金属を高分散状態で安定化することができる。また、このようなγ−アルミナへの貴金属の担持方法であるが、塩化白金(IV)酸、亜硝酸ジアンミン白金(II)、水酸化白金酸アミン溶液、塩化白金酸、ジニトロジアンミンパラジウム、硝酸パラジウム、塩化パラジウム、塩化ロジウム(III)、硝酸ロジウム(III)など金属塩との水溶液と、γ−アルミナとを混合して乾燥、焼成を行う等、適宜公知の方法により行うことができる。
【0046】
本発明の自動車用排気ガス浄化装置に用いられる触媒は、排気ガスが流通可能な環境で使用される構造型触媒として形成する事が望ましい。このような構造型触媒としては、以下に述べる一体構造型担体の表面に触媒組成物を被覆したものの他、触媒組成物をペレット状の構造体表面に被覆したもの、触媒組成物をペレット状に成型した構造型触媒等がある。
【0047】
(D)一体構造型担体
本発明では、第2の触媒が、無機構造担体である一体構造型担体(例えばハニカム構造体)上に担持されている。
【0048】
一体構造型担体の形状は、特に限定されるものではなく、公知の一体構造型担体の中から選択可能であるが、TWCであればフロースルー型担体を用いる事が好ましい。
このような一体構造型担体の材質としては金属、セラミックスがある。金属の場合はステンレス製のものが一般的であるが、その形状はハニカム状をしたものが一般的である。セラミックスの材質は、コージェライト、ムライト、アルミナ、マグネシア、スピネル、炭化ケイ素などがあるが、ハニカムを作製するための成形性が良く、耐熱性や機械的強度にも優れる点からコージェライト製であることが好ましい。
【0049】
また、この他にも、細い繊維状物を編んだシート状構造体、比較的太い繊維状物からなるフェルト状の不燃性構造体も使用できる。なお、これら繊維成分からなる一体構造型担体は、金属触媒成分の担持量が大きく、また排気ガスとの接触面積が大きいので、他の構造型担体よりも処理能力を高めることが可能である。
TWC用途では、製造の容易さ、構造体としての強度、構造触媒の設置に伴う圧力損失の抑制(排気ガス抜けの良さの維持)、触媒組成物の被覆量などを高め安定性を向上しうる点から、コージェライト製フロースルー型担体が好ましい。
【0050】
この一体構造型担体の外部形状は任意であり、断面真円または楕円の円柱型、四角柱型、六角柱型など一体構造型担体を適用する排気系の構造に応じて適宜選択できる。一体構造型担体の開口部の孔数についても、処理すべき排気ガスの種類、ガス流量、圧力損失あるいは除去効率などを考慮して適正な孔数が決められるが、自動車用排気ガス浄化用途としては1平方インチ当たり10〜1500個程度である事が望ましい。
フロースルー型担体のようなハニカム形状の担体では、その構造的特徴がセル密度であらわされる。本発明では、ハニカム構造体(D)が、セル密度10〜1500cel/inchであり、特に300〜900cel/inchのフロースルー型担体である事が好ましい。セル密度が10cel/inch以上であれば、浄化に必要な排気ガスと触媒の接触面積を確保する事ができ、構造上の強度にも優れた排気ガスの浄化性能が得られ、セル密度が1500cell/inch以下であれば内燃機関の排気ガスの圧力を大きく損失することなく、内燃機関の性能を損なう事がなく、排気ガスと触媒の接触面積も充分に確保する事ができる。特に、ガソリンエンジン用のTWCでは、300〜900cel/inchのフロースルー型担が、圧力損失の抑制の点から好ましい。
【0051】
本発明では、第2の触媒が、ハニカム構造体(D)上に担持されていることが好ましい。触媒組成物が2層として被覆され、その下層にセリウム−ジルコニウム複合酸化物(A)が含まれる事がより好ましく、セリウム−ジルコニウム複合酸化物(A)がPtまたはPdと同一層中に存在する事が更に好ましい。また、更にTWC用途としては、その上層を実質的にPt、Pdを含まずRhを含む触媒層により被覆することが好ましい。
一体構造型触媒をこのように構成することが好ましい理由としては以下のように考えられる。すなわち、Pt、PdとRhが同一組成中に存在すると、Pd、PtとRhが反応して貴金属同士のシンタリングを生じ、Pt、Pdの触媒活性が弱くなってしまうことがあるとともに、触媒の排気ガス浄化能自体も低下していくことが知られている。また、Pdには排気ガス中の鉛や硫黄による被毒の問題があり、Pdが構造触媒表層に存在すると触媒活性が減退することが知られている。この問題に対しては貴金属量を多くすることによっても対策可能であるが、触媒コストが高くなる問題があることから、Pt、PdとRhとを同一組成に存在させることは好ましくない場合がある(特開平11−169712の段落0011、特開2005−021793の段落0005参照)。
また、セリウム−ジルコニウム系複合酸化物(A)は、その製法に由来して熔融温度に至らずに焼成されたセリウム−ジルコニウム系複合酸化物よりも緻密な構造を有していることから、酸素の放出速度が比較的遅いという傾向がある。このようなセリウム−ジルコニウム系複合酸化物(A)に対しPt、Pdが共存することで、Pt、Pdの触媒活性によりセリウム−ジルコニウム系複合酸化物(A)に吸蔵された酸素の利用が促進され、OSC能力の活性化が図られる。
また、Rhは上層に配置されることにより、特に一体構造型触媒の表層に配置することでNOxの浄化活性が早期に活性化される。このような理由から、排気ガスに近い上層にはRhを配置し、その下層にPt、Pdとセリウム−ジルコニウム系複合酸化物(A)とを配置した一体構造型触媒であることが好ましい。
第2の触媒の各成分は、担体のハニカム構造体単位体積あたり、セリウム−ジルコニウム系複合酸化物(A)が5.0〜200g/L、活性金属種(B)が0.01〜20g/L、耐熱性無機酸化物(C)が1〜300g/Lである事が好ましい。
【0052】
(触媒の調製)
本発明において第2の触媒を製造するのに必要な金属触媒成分は、硝酸塩、硫酸塩、炭酸塩、酢酸塩等の化合物として用意する。これらは、一般に水や有機溶媒に溶解して用いる。次に、触媒成分(B)を担持するための一種以上の母材(C)、およびセリウム−ジルコニウム系複合酸化物(A)と混合し、例えば50〜200℃で乾燥して溶媒を除去した後、300〜1200℃で焼成することで触媒組成物にする。また、前記セリウム−ジルコニウム系複合酸化物(A)以外に、公知のセリウム−ジルコニウム系複合酸化物や、酸化セリウムを配合してもよい。
【0053】
このような多孔質無機母材に触媒活性金属を担持させる方法は、多孔質無機母材と金属塩溶液を混合して焼成する方法の他、本発明の複合酸化物や他の成分と水系媒体を媒質として混合し、一体型構造担体表面に前記混合物を被覆した後で焼成する方法、金属塩を除く他の材料からなる混合物を一体構造型担体に被覆し焼成した後、金属塩溶液を含浸させる方法等がある。なお、触媒成分を溶液中に混合する際には、分散剤、pH調整剤などを配合しても良い。
また、本発明の排気ガス浄化装置に使用される触媒には、使用される環境、また使用する目的に応じて、他の機能を持つ触媒成分、助触媒成分、バインダーを混合して使用することができる。
【0054】
前述した一体構造型担体の単位体積あたり、セリウム−ジルコニウム系複合酸化物(A)を5〜200g/L使用することが好ましく、35〜100g/L使用する事がより好ましい。200g/Lを超えると、前記無機母材等の使用量との関係でハニカム構造体に触媒成分を被覆する際に目詰まりを起こし、充分な機能が得られない場合があり、5g/Lを下回ると充分な性能が得られない場合がある。
無機母材(C)成分の使用量は、後述する一体構造型担体の単位体積あたり、好ましくは1〜300g/L、より好ましくは30〜150g/Lである。300g/Lを超えると他の添加成分必要量が加わるので、ハニカム構造体に触媒成分を被覆する際に目詰まりを起こし、充分な機能が得られない場合があり、1.0g/Lを下回ると活性が得られるだけの量の触媒活性種を十分に分散させることができず、耐久性が得られない恐れがある。
【0055】
本発明に使用される一体構造型触媒は、前記の方法で金属触媒成分またはその前駆体と、前記多孔質無機母材またはその前駆体とを水系媒体と共に混合してスラリー状混合物にしてから、一体構造型担体へスラリー状混合物を塗工して、乾燥、焼成する事により製造することができる。
すなわち、まず、多孔質無機母材、金属触媒成分原料、水系媒体を所定の比率で混合してスラリー状混合物を得る。本発明においては、無機母材100重量部に対して、金属触媒成分を0.01〜25重量部混合することが好ましい。水系媒体は、スラリー中で多孔質無機母材と金属触媒成分が均一に分散できる量を用いる。また、必要に応じて他の触媒組成物と重ねて被覆しても良い。
スラリー調整に際しては、必要に応じてpH調整のために酸、アルカリを、粘性の調整やスラリー分散性向上のために界面活性剤、分散用樹脂等を配合する事ができる。スラリーの混合方法としては、ボールミルなどによる粉砕混合が適用可能であるが、他の粉砕、もしくは混合方法を適用しても良い。
次に、一体構造型担体へスラリー状混合物を塗工する。塗工方法は、特に限定されないがウオッシュコート法が好ましい。塗工した後、乾燥、焼成を行う事により触媒組成物が担持された一体構造型触媒を得ることができる。なお、乾燥温度は、100〜300℃が好ましく、100〜200℃がより好ましい。また、焼成温度は、300〜1200℃が好ましく、400〜800℃、特に400〜600℃が好ましい。加熱手段については、電気炉やガス炉等の公知の加熱手段によって行う事ができる。
【0056】
3.第1の触媒
本発明において、上流側に位置する第1の触媒は、特に制限されないが、酸素の吸蔵放出機能とNOxの浄化機能を有するものであることが好ましい。上流側触媒の基本的な組成は、上記セリウム−ジルコニウム系複合酸化物(A)を必須成分としない以外、前述した第2の触媒である下流側触媒と基本的な組成、製法を同一とすることができる。
【0057】
例えば、セリウム塩及びジルコニウム塩を、熔融物が生成しない条件で焼成して得られるセリウム−ジルコニウム系複合酸化物(A’)や、酸化セリウムを含有するものであることが好ましい。セリウム元素材料、ジルコニウム元素材料を熔融状態とさせずにセリウム−ジルコニウム系複合酸化物を得る方法としては特に限定されず、例えばセリウム塩溶液、ジルコニウム塩溶液を混合して乾燥、焼成、粉砕の工程を経て得る他、共沈法等の方法によっても得ることができる。また、前記したセリウム−ジルコニウム系複合酸化物(A)の製法のうち、熔融工程を除く工程の一部、またはその全てを利用して得ることもできる。なお、酸化セリウムとは、原料に由来して不純物が含まれても良いが、実質的にセリウム酸化物からなるものである。このようなセリウム系酸化物を得る方法としても特に限定はされず、例えばセリウム塩を焼成、粉砕して得ることができる。なお、このようなセリウム−ジルコニウム系複合酸化物、酸化セリウムは市販されているものを用いても良い。
【0058】
なお、この上流側触媒には、下流側触媒の説明において記載した他の触媒材料を使用することが出来る。すなわち、上流側の触媒は、さらに、白金、パラジウム、又はロジウムから選ばれる一種以上の活性金属種(B)を含有することができ、また、活性金属種(B)が、ジルコニア、γ−Al、又はランタン添加γ−Alから選ばれる一種以上の耐熱性無機酸化物(C)に担持されていること、さらには、上流側の触媒が、ハニカム構造体(D)に被覆されていることが好ましい。特に、コージェライト製フロースルー構造担体に触媒成分を被覆した一体構造型触媒が望ましい。また、触媒成分の被覆はシングルコートでも良いが、異なる触媒組成物を二層以上重ねた被覆状態であっても良い。その際、前記した触媒組成物は排気ガスと直接するトップコート層としてであってもよく、その下に被覆されるアンダーコート層としてであっても良い
また、第1の触媒である上流側触媒の各成分は、担体のハニカム構造体(D)の単位体積あたり、セリウム−ジルコニウム系複合酸化物(A’)が5.0〜200g/L、活性金属種(B)が0.01〜20g/L、耐熱性無機酸化物(C)が1〜300g/Lである事が好ましい。
【0059】
4.排気ガス浄化方法
本発明の排気ガス浄化方法は、上記の自動車用排気ガス浄化装置を用いて、内燃機関の排気ガスを排気ガス流路の上流側と下流側の少なくとも2箇所に配置された触媒に順次接触させることによって、排気ガス中に含まれる窒素酸化物(NOx)を分解することを特徴とする。
【0060】
本発明の自動車用排気ガス浄化装置に用いられる触媒系は、前記したとおり、無機構造担体に担持された第1の触媒と、これとは別の第2の触媒とを含む2以上の排気ガス浄化触媒を用いてなる触媒系であって、第1の触媒は、排気ガス流路中に配置したとき、上流側に位置する無機構造担体の部分に担持させ、一方、第2の触媒は、排気ガス流路中に配置したとき、下流側に位置する無機構造担体の部分に担持させ、かつ、原料混合物をその融点以上の温度で加熱熔融した後、冷却して形成されるインゴットを粉砕して得られるセリウム−ジルコニウム系複合酸化物(A)を含有している。
少なくとも2つの触媒が排気ガス流路の上流側と下流側に配置されているが、触媒同士が隣り合って配置されることが好ましく、少なくとも下流側の触媒には、OSCとしてセリウムを含むセリウム原料と、ジルコニウムを含むジルコニウム原料とを混合して得られる原料混合物を、融点以上の温度下で熔融して得られたセリウム−ジルコニウム系複合酸化物(A)が使用される。
【0061】
本発明の排気ガス浄化方法は、上流側触媒と下流側触媒に排気ガスを流通させることによって、排気ガス中に含まれるNOxが浄化されるものであり、特に上流側触媒と下流側触媒を隣接して排気ガスの排出経路中に配置して用いる事が好ましい。
また特に、自動車用排気ガス浄化装置のTWCとして使用するとNOxの浄化に優れた効果を発揮し、特に空気/燃料比の変動に伴い、リーン状態が生じて発生した排気ガス中のNOx浄化性能に優れている。すなわち、内燃機関がガソリンエンジンであり、理論空気/燃料比状態で稼動されるか、または、空気/燃料比をリッチ状態からリーン状態に変動させて稼動されることが好ましい。このように、本発明の排気ガス浄化装置をTWC装置として用いる場合、窒素酸化物(NOx)が、炭化水素(HC)、一酸化炭素(CO)、または水蒸気改質反応によって発生した水素(H)によって還元される。各触媒は、前述した方法により作られた一体構造型触媒であることが好ましい。
また、本発明の排気ガス浄化方法は、エンジン稼動中にたびたびフューエルカットをされるような、たびたびリーン状態で稼動されるような、空気/燃料比の変動をもって稼動される環境で使用されるときに特徴的な効果を発揮する。
【0062】
内燃機関において空気/燃料比の変化は、排気ガス中のHC濃度の変動に繋がるものであり、このようなHC濃度の変動が、本発明が排気ガス浄化能力を発揮するのに好適な環境を提供するものと思われる。このような作用を発揮する理由は定かでは無いが、以下のような作用も貢献しているのではないかと予測される。
本発明の排気ガス浄化装置の望ましい実施形態は、上流側触媒、下流側触媒ともTWCであり、上流側のTWCには、融点以下の温度下で生産されたセリウム−ジルコニウム系複合酸化物が使用されるものであるが、このセリウム−ジルコニウム系複合酸化物はOSCとして知られている。この場合、以下のような要因により上流側TWCの排気ガス浄化性能は、下流側TWCの排気ガス浄化性能よりも、HC、COの還元性能に勝る場合がある。
【0063】
すなわち、上流側TWCで使われるOSCは、比較的低温で製造されるセリウム−ジルコニウム系複合酸化物(A’)で、下流側で使われる高温熔融品であるセリウム−ジルコニウム系複合酸化物(A)に比べて高い比表面積を有することが多い。そして、それに由来したOSCとしての活性面積も大きいことから、特に酸化活性の高い触媒になりやすいためと考えられる。
セリウム系酸化物粒子、セリウム−ジルコニウム系複合酸化物粒子において、OSCとして酸素の吸蔵放出が有効に行われる部位は、粒子表面からある程度の深さまでと考えられている。このことは、比表面積値の大きなOSCの方が酸素の吸蔵放出能力において有効に作用する成分が多いことを意味しており、上流側TWCに比表面積値の大きなOSCを使うことは、下流側TWCに比べて活性の高い触媒になりやすいといえる。換言すれば、本発明の排気ガス浄化装置では、上流側に浄化能力に優れた触媒を配置し、下流側にはそれより劣る傾向の触媒を配置することが望ましい実施形態であるともいえる。
このように本発明に使用される下流側触媒は、セリウム成分とジルコニウム成分、望ましくは酸化セリウムと酸化ジルコニウムとを混合し、熔融状態になるまで加熱することにより得られた複合酸化物を粉砕して製造された粉体を触媒成分として用いている。これに対して、前記特許文献1に記載された従来の触媒(OSC材)は、いずれもセリウム塩、およびジルコニウム塩を混合し、1000℃以下、高くても1300℃以下の温度で焼成して製造された複合酸化物を用いている。このように、比表面積値からすると一見性能の高い触媒と、性能の高いとはいえない触媒との組合せによって、特徴的なNOx浄化性能を発揮し、より優れた排気ガス浄化装置を提供できることは驚くべきことである。
【0064】
なお、本発明の自動車用排気ガス浄化装置では、上記した上流側触媒との組み合わせの他、下流側触媒の後段触媒として、さらに上流側触媒と同様な機能を有する触媒、あるいは全く異なる触媒を組み合わせる等、適宜設計変更して用いる事ができる。
このように排気ガス中のHC濃度の変動が伴う環境は、前記の条件に限られるものではなく、HCを還元剤としてディーゼルエンジン排気ガス中のNOx浄化に用いられるHC−SCR(Selective Catalytic Reduction:選択的触媒還元法)等も考えられる。HC−SCRは、還元剤としてHCを使用し希薄燃焼される排気ガス中のNOxを浄化するものであり、その際使用されるHCは、燃焼室へ供給される燃料混合空気の空気/燃料比を一時的に小さくして排気ガス中のHC濃度を高くすることや、排気ガス中に直接燃料を噴霧して供給するものである。
【0065】
本発明では、セリウム−ジルコニウム系複合酸化物(A)を含む触媒を単独で使用するのではなく、近年の自動車用排気ガス浄化触媒では、一般的である2以上の触媒を使用するものである。したがって、新たな触媒レイアウトを検討する必要はなく、従来からある自動車、または将来市販される自動車に対しても容易に適用可能である。
このような稼働環境としては前述のTWCの他、前述したHC−SCR等も考えられ、広く自動車排気ガス中のNOxの浄化に使用可能である。本発明はガソリン機関から排出される排気ガス成分の浄化に使用される事が好ましいが、浄化される排気ガス成分としては、ディーゼル、LPG等、化石燃料を燃料とする自動車用内燃機関から排出されるものや、ボイラー、ガスタービン等から排出される排気ガスを浄化対象としてもよい。
【実施例】
【0066】
以下に実施例及び比較例を示し、本発明の特徴を一層明確にする。なお、本発明は、これら実施例の態様に限定されるものではない。なお、触媒の各成分は次に示す方法によって調製した。
【0067】
[セリウム−ジルコニウム系複合酸化物(A)]
Zrの原料として高純度酸化ジルコニウム(純度99.9%)を、Ceの原料として高純度酸化セリウム(純度99.9%)を用い、図2に示す製造工程の手順に従って本発明のセリウム−ジルコニウム系複合酸化物粉末を製造した。
まず、粉末10kgを調製するために高純度酸化ジルコニウム(4.2kg)と高純度酸化セリウム(5.8kg)を分取・混合し、アーク式電気炉を用い、二次電圧85V、平均負荷電力99.5kW、通電時間1時間50分、総電力量182kWhを印加して、2200℃以上で熔融を行った。
なお、初期の通電を促すためにコークス500gを使用した。熔融終了後、電気炉に炭素蓋をして、大気中で24時間徐冷しインゴットを得た。得られたインゴットをジョークラッシャーおよびロールクラッシャーで3mm以下まで粉砕した後、篩で1mm以下の粉末を捕集し、本セリウム−ジルコニウム系複合酸化物を得た。
次に、熔融工程での亜酸化物や過冷却による結晶内の歪みを除去するために電気炉を用いて大気中、800℃で3時間焼成し、遊星ミルで10分間粉砕し、平均粒径が1.3μmを持った粉末を得た。なお、平均粒径の測定は、レーザー回折散乱装置(COULTER Co., LTD, LS230)で分析した。以下、これを「Ce−Zr(A)」という事がある。
【0068】
[セリウム−ジルコニウム系複合酸化物(A’)]
市販の硝酸セリウム(純度99.0%)およびオキシ硝酸ジルコニウム(純度99.0%)をイオン交換水で溶解し、CeO換算20wt%およびZrO換算25wt%の水溶液を調製した。
次に、58wt%CeO−42wt%ZrO複合酸化物を調製するための必要な各硝酸溶液を混合し、5%アンモニア水を添加し、最終的にpH=10.2とし、水酸化セリウムと水酸化ジルコニウムを共沈させた。
そして吸引ろ過を行った後、純水で水洗した。これを1000℃で3時間焼成し、セリウム−ジルコニウム系複合酸化物を得た。ついで、本セリウム−ジルコニウム系複合酸化物の製造と同様の工程を経て、粒子径2.0μm以下の非熔融型のセリウム−ジルコニウム系複合酸化物をえた。以下これを「Ce−Zr(A’)」という事がある。
【0069】
[貴金属成分を担持したγ−アルミナ]
市販のランタン添加γ−アルミナ(比表面積:220m /g、 Al /La (重量比)=98.4/1.6)に、亜硝酸ジアンミン白金(II)の20重量%水溶液、また、硝酸ロジウムの8重量%水溶液を含浸処理し、次いで水分を乾燥・除去して、粉体の白金担持触媒成分を得た。以下これをLa−γアルミナという事がある。パラジウムは、ジニトロジアンミンパラジウムの28重量%水溶液を含浸処理した。なお、その他の成分であるジルコニアは、99.9%の市販品、セリアは、純度が99.9%の市販品を用いた。
【0070】
(実施例1)
上記の触媒材料が、下記一体構造担体の単位体積あたり所定の被覆量になるように成分量を調整し、適量の水系媒体と共に、ボールミルで5時間混合して触媒スラリーを調整した。調整したスラリーは、ウォッシュコート法により一体構造型担体に被覆した。被覆は一層目のコート層の上から二層目のコート層を被覆して2層コート構造とした。これを乾燥し、500℃で1時間焼成して一体構造型触媒を得た。各層に含まれる単位体積あたりの触媒成分の被覆量を表2に示す。なお、表中の数値は「g/L」を表す。
<一体構造担体>
・一体構造型触媒の種類:フロースルー型担体
・一体構造型触媒の容量:645cc(高さ:95mm×直径:93mm)
・一体構造型触媒の材質:コージェライト
・一体構造型触媒のセル密度:600cel/inch2
・一体構造型触媒のセル壁の厚み:4mil
(実施例2)
上記の触媒材料が、下記一体構造担体の単位体積あたり所定の被覆量になるように成分量を調整し、適量の水系媒体と共に、ボールミルで5時間混合して触媒スラリーを調整した。調整したスラリーは、ウォッシュコート法により一体構造型担体に被覆した。被覆を単層コートとした以外は、実施例1と同様にして一体構造型触媒を得た。単位体積あたりの触媒成分の被覆量を表2に示す。
【0071】
実施例1の高温溶融型のセリウム−ジルコニウム系複合酸化物(A)を含んでいる触媒を2つ用い、TWCとして装置を構成したが、NOx浄化率は目標値に達しなかった。そこで、これを下流側触媒(表2)とし、その上流側に従来のTWC触媒(表1)を配置した。実施例2の触媒でも同様に、これを下流側触媒(表2)とし、その上流側に従来のTWC触媒(表1)を配置した。この一体構造型触媒を配置した図1の排気ガス浄化用触媒装置について、TWCとしての浄化性能を測定した。測定条件は下記の条件に従った。
「測定条件」
・評価エンジン:NA2.4L ガソリンエンジン
・測定モード:FTP(Federal Test Procedure)モード、排気ガスの浄化能力を評価する際に用いられる米国環境保護庁が定めた走行テストモードである。
・排気ガスの測定機器:HORIBA社製 MEXA7000
・触媒の配置:床下
【0072】
図4は、NOx浄化性能、図6は、NOx、HC、COの浄化性能を示しており、いずれもFTPモードにおけるトータルバッグの結果である。実施例2の場合、図示していないが、NOxは実施例1ほど顕著に減少せず、0.015g/mileであった。
なお、図6の表中縦軸は、一回あたりのトータルバッグ(3Bag)中における各成分の重量をあらわし、「THC」はトータルハイドロカーボンであり、「CO(1/10)」は、便宜上、トータルバッグ中のCO値を10分の1とした値である。
また、フューエルカットの時期とNOx浄化性能との相関関係を図5に示した。図5中、フューエルカットしたポイントを矢印で示した。「F/C」は「Fuel Cut」の略である。
【0073】
【表1】

【0074】
【表2】

【0075】
(比較例1)
下流側触媒(表2)として、低温焼成型のセリウム−ジルコニウム系複合酸化物(A’)を含む触媒を用いた以外は、実施例1と同様にして触媒を調製した。上流側触媒(表1)は実施例1と同じく従来のTWCである。
この一体構造型触媒を配置した排気ガス浄化用触媒装置について、TWCとしての浄化性能を測定した。その結果を、図4〜6に実施例1の結果とともに示した。
図4は、NOx浄化性能、図6は、NOx、HC、COの浄化性能を示しており、いずれもFTPモードにおけるトータルバッグの結果である。
なお、図6の表中縦軸は、一回あたりのトータルバッグ(3Bag)中における各成分の重量をあらわし、「THC」はトータルハイドロカーボンであり、「CO(1/10)」は、便宜上、トータルバッグ中のCO値を10分の1とした値である。
また、フューエルカットの時期とNOx浄化性能との相関関係を図5に示した。図5中、フューエルカットしたポイントを矢印で示した。「F/C」は「Fuel Cut」の略である。
【0076】
「評価」
実施例1では、下流側触媒として高温溶融型のセリウム−ジルコニウム系複合酸化物(A)を含む触媒を用いたためNOxの浄化性能が優れており(図4)、しかも、HC、CO、NOxの排ガス各成分とも比較例1で用いた触媒以上の浄化性能を発揮していることがわかる(図6)。また、本発明の排気ガス浄化装置である実施例1は、比較例1に比べてフューエルカット後でも排気ガス中におけるNOxの濃度の低減に優れた作用効果を有することが分かる(図5)。実施例2の場合、NOxは比較例1に比べると大幅に減少したが、その効果は実施例1ほど顕著ではなかった。
【図面の簡単な説明】
【0077】
【図1】本発明の自動車用排気ガス浄化装置の断面を示す説明図である。
【図2】本発明における下流側触媒の成分であるセリウムージルコニウム複合酸化物を製造する工程(手順)を示すフローシートである。
【図3】セリウムージルコニウム複合酸化物の加熱耐久試験前後における構造の違いを表したX線回析装置(XRD)データを示すグラフである。
【図4】本発明の自動車用排気ガス浄化装置による、排気ガス中のNOxの浄化性能を示すグラフである。
【図5】フューエルカットの時期とNOx浄化性能との相関関係を示したグラフである。
【図6】本発明の自動車用排気ガス浄化装置による、排気ガス中のTHC、NOx、COの浄化性能を示すグラフである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
無機構造担体に担持された第1の触媒と、これとは別の第2の触媒とを含む2以上の排気ガス浄化触媒を用いてなる触媒系であって、
第1の触媒は、排気ガス流路中に配置したとき、上流側に位置する無機構造担体の部分に担持させ、
一方、第2の触媒は、排気ガス流路中に配置したとき、下流側に位置する無機構造担体の部分に担持させ、かつ、原料混合物をその融点以上の温度で加熱熔融した後、冷却して形成されるインゴットを粉砕して得られるセリウム−ジルコニウム系複合酸化物(A)を含有することを特徴とする、自動車用排気ガス浄化装置に用いられる触媒系。
【請求項2】
第1の触媒と第2の触媒とは、隣接して配置されていることを特徴とする請求項1に記載の触媒系。
【請求項3】
第1の触媒と第2の触媒とは、窒素酸化物(NOx)を炭化水素(HC)や一酸化炭素(CO)や水素(H)によって還元する機能を有することを特徴とする請求項1に記載の触媒系。
【請求項4】
セリウム−ジルコニウム系複合酸化物(A)の原料混合物が、0.5〜3時間加熱熔融されることを特徴とする請求項1に記載の触媒系。
【請求項5】
セリウム−ジルコニウム系複合酸化物(A)の粒径が、3mm以下であることを特徴とする請求項1に記載の触媒系。
【請求項6】
セリウム−ジルコニウム複合酸化物(A)のセリウムとジルコニウムが、酸化物換算のモル比基準で、CeO/(ZrO+CeO)=1/9〜9/1の割合で含有されることを特徴とする請求項1に記載の触媒系。
【請求項7】
第2の触媒が、さらに、白金、パラジウム、又はロジウムから選ばれる一種以上の活性金属種(B)を含有することを特徴とする請求項1に記載の触媒系。
【請求項8】
活性金属種(B)が、ジルコニア、γ−Al、又はランタン添加γ−Alから選ばれる一種以上の耐熱性無機酸化物(C)に担持されていることを特徴とする請求項7に記載の触媒系。
【請求項9】
活性金属種(B)が白金を含有し、一方、耐熱性無機酸化物(C)がランタン添加γ−Alからなることを特徴とする請求項8に記載の触媒系。
【請求項10】
前記無機構造担体が、ハニカム構造体(D)であることを特徴とする請求項1に記載の触媒系。
【請求項11】
第2の触媒が、ハニカム構造体(D)上に少なくとも2層として被覆され、セリウム−ジルコニウム複合酸化物(A)が下層に含まれることを特徴とする請求項10に記載の触媒系。
【請求項12】
ハニカム構造体(D)が、セル密度10〜1500cel/inchのフロースルー型担体であることを特徴とする請求項10又は11に記載の触媒系。
【請求項13】
第2の触媒の各成分は、ハニカム構造体(D)の単位体積あたり、セリウム−ジルコニウム系複合酸化物(A)が5.0〜200g/L、活性金属種(B)が0.01〜20g/L、耐熱性無機酸化物(C)が1〜300g/Lであることを特徴とする請求項1〜12のいずれかに記載の触媒系。
【請求項14】
第1の触媒は、セリウム塩及びジルコニウム塩を熔融物が生成しない温度条件で焼成して得られるセリウム−ジルコニウム系複合酸化物(A’)を含有することを特徴とする請求項1に記載の触媒系。
【請求項15】
第1の触媒が、さらに、白金、パラジウム、又はロジウムから選ばれる一種以上の活性金属種(B)を含有することを特徴とする請求項14に記載の触媒系。
【請求項16】
活性金属種(B)が、ジルコニア、セリウム−ジルコニウム複合酸化物、セリア、γ−Al、又はランタン添加γ−Alから選ばれる一種以上の耐熱性無機酸化物(C)に担持されていることを特徴とする請求項15に記載の触媒系。
【請求項17】
第1の触媒の各成分は、ハニカム構造体(D)の単位体積あたり、セリウム−ジルコニウム系複合酸化物(A’)が5.0〜200g/L、活性金属種(B)が0.01〜20g/L、耐熱性無機酸化物(C)が1〜300g/Lであることを特徴とする請求項14〜16のいずれかに記載の触媒系。
【請求項18】
請求項1〜17のいずれかに記載の触媒系を用いてなる自動車用排気ガス浄化装置。
【請求項19】
請求項18に記載の自動車用排気ガス浄化装置を用いて、内燃機関の排気ガスを排気ガス流路の上流側と下流側の少なくとも2箇所に配置された触媒に順次接触させることによって、排気ガス中に含まれる窒素酸化物(NOx)を分解することを特徴とする排気ガス浄化方法。
【請求項20】
窒素酸化物(NOx)が、炭化水素(HC)や一酸化炭素(CO)によって還元されることを特徴とする請求項19に記載の排気ガス浄化方法。
【請求項21】
内燃機関が、ガソリンエンジンであることを特徴とする請求項19に記載の排気ガス浄化方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate


【公開番号】特開2008−68225(P2008−68225A)
【公開日】平成20年3月27日(2008.3.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−250514(P2006−250514)
【出願日】平成18年9月15日(2006.9.15)
【出願人】(000208662)第一稀元素化学工業株式会社 (56)
【出願人】(000228198)エヌ・イーケムキャット株式会社 (87)
【Fターム(参考)】