説明

自動車用放電バルブおよび自動車用前照灯

【課題】自動車用前照灯の配光照度(光度)および遠方視認性の双方を改善する上で有効な放電バルブを提供する。
【解決手段】電極15が対設され発光物質等が封入された放電発光室sをセラミック管12内に設けた発光管本体を備えた自動車放電バルブで、セラミック管12の外周面の略下半分を遮光部材200で覆った。セラミック管12下方への出射光も上方から出射しリフレクターの有効反射面101aに向かうので、前照灯の配光の光度が上がる。リフレクター100の配光設計の際、カットオフラインに沿って投影する(貼り付ける)矩形状光源像aがスリム(幅狭)になるので、最大輝度部a1がカットオフラインに接近するよう配光設計(有効反射面101aを設計)することで、ホットゾーンがカットオフライン位置に近づき、遠方視認性が良好となる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、内部に電極が対設され発光物質等が封入されたセラミック製発光管を備えた自動車用放電バルブおよび同放電バルブを光源として備えた自動車用前照灯に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車用前照灯の光源としての放電バルブは、図9に示すように、ガラス製発光管本体2にシュラウドガラス4を溶着一体化した発光管1が、背後の合成樹脂製絶縁性ベース9に組み付け一体化されて、前方に延出する形態に固定保持されている。具体的には、発光管1(発光管本体2)の後端側が絶縁性ベース9の前面側に金具5を介して把持固定され、発光管1(発光管本体2)の前端側が絶縁性ベース9から延出する通電路でもあるリードサポート6で支持されている。符号6aは、リードサポート6が挿通されている絶縁筒体である。
【0003】
発光管本体2は、ガラス管の両端部が封止されて、ガラス管の長手方向略中央部に発光物質(金属ハロゲン化物等)を始動用希ガスとともに封入しかつ電極を対設した密閉ガラス球2aが形成された構造で、対向電極間の放電により発光する。発光管本体2に溶着一体化されたUVカット作用のある円筒形状のシュラウドガラス4の外側面には、発光管本体2の発光を反射制御するリフレクタ―8の有効反射面8aに向かう光の一部を遮って、鮮明なカットオフラインを形成するための配光制御用の遮光膜7が設けられている。符号8bは、リフレクター8に設けられたバルブ挿着孔である。
【0004】
しかし、ガラス製発光管本体2では、封入されている金属ハロゲン化物によりガラス管の腐食が進み、黒化や失透現象が現れて適正な配光が得られず、寿命もそれほど長いものでもないという問題があった。
【0005】
そこで、特許文献1(図10参照)に示すように、円筒型のセラミック管120の両端部が円筒型の絶縁体130を介して封止されて、セラミック管120の内部に、電極140,140が対設されかつ発光物質が始動用希ガスとともに封入された放電発光室sを形成したセラミック製発光管本体110が提案されるに至った。セラミック管120は金属ハロゲン化物に対して安定であり、ガラス管に比べて寿命が長いというものである。
【0006】
また、下記特許文献2には、図11に示すように、セラミック管120にモリブデンパイプ135をメタライズ接合し、モリブデンパイプ135に挿通されてその先端が放電発光室s内に突出する電極140の後端部をモリブデンパイプ135後端部に接合(溶接)することで、放電発光室sを封止したセラミック製発光管本体110Aが提案されている。シュラウドガラス4は、発光管本体110Aの前後端部から導出するリード線118a,118bにシールされている。セラミック製発光管本体110Aを備えた放電バルブも、図12に示すように、ガラス製発光管本体2を備えた放電バルブと同様に、発光管の後端側が絶縁性ベース9の前面側に金具5を介して把持固定され、発光管の前端側リード線が絶縁性ベース9から延出する通電路でもあるリードサポート6で支持されている。図12における符号3a,3bは、前照灯の灯室を画成するランプボディと前面カバーで、符号3cはエクステンションリフレクターである。
【特許文献1】特開2001−76677号(明細書段落0005、図5参照)
【特許文献2】特開2004−362978号
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
発光管本体がガラス製かセラミック製かの違いがあるものの、この種の放電バルブを光源とする自動車用前照灯では、図12に示すように、発光管本体の下半分から出射する光L2は、リードサポート6や筒体6aでけられたり、エクステンションリフレクター3cでの反射によりグレア光が発生する等の理由から、一般には、所定の配光を形成する光として有効に利用されておらず、障害物のない発光管本体上半分から出射する光L1をリフレクター8の有効反射面8aで反射制御することで、すれ違いビーム等の所定の配光を形成するように構成されている。
【0008】
このため、発光管本体から下方に出射する光L2は、配光の形成にほとんど寄与しておらず、無駄に消費されており、それだけ消費電力に対し十分な前照灯の配光照度(光度)が得られないという第1の問題が提起された。
【0009】
また、前記した第1,第2の従来技術に示すようなセラミック製発光管本体を備えた放電バルブを光源とする前照灯では、ホットゾーンがカットオフラインから下方に大きく下がった遠方視認性の悪い配光しか得られないという第2の問題も提起された。
【0010】
即ち、この種の放電バルブを光源とする自動車用前照灯では、前記したような理由から、リフレクターのバルブ配置位置より上側に形成した有効反射面によってすれ違いビームの配光を形成する構造となっており、この有効反射面を設計するには、リフレクター前方の配光スクリーン上に、発光管本体を構成するセラミック管120に対応する矩形状の光源像aをカットオフライン・エルボー部を中心に放射状に投影することで設計する。例えば、リフレクターにおける発光管本体と左右方向に水平な位置近傍に設けられるカットオフライン形成用の有効反射面の形状は、図13符号A,Cに示すように、エルボー部を中心とする放射状方向である左右方向(カットオフラインに沿った方向)に隣接する光源像a,aの一部が互いに重なるようにカットオフラインに沿って投影する(貼り付ける)ことで設計し、カットオフライン形成用の有効反射面の上側に設けられる左右拡散配光形成用の有効反射面の形状は、図13符号Bに示すように、エルボー部を中心とする放射状方向である下方向または斜め方向に隣接する光源像a,aの一部が互いに重なるように投影する(貼り付ける)ことで設計する。なお、この図13に示す配光パターンは、反射面を回転放物面で構成した場合の配光パターンを示しており、実際には、反射面に拡散ステップを形成する等して、光源像aを所定方向(主に左右方向)に拡散させることで、図14に示すような配光ムラのない所定の形状の配光パターンA1,B1,C1を形成する。
【0011】
しかし、セラミック製発光管本体を光源とする前照灯では、セラミック管120からの出射光は拡散するため、図13に示すように、セラミック管120に対応する矩形状光源像a中の放電アークに対応する最大輝度部(電極間に生成されるアークに対応する部位)a1が巾wの矩形状光源像aの略中央に位置するため、ホットゾーンHz位置がカットオフラインCL位置に接近する配光となるように設計(リフレクターの有効反射面を設計)するには限界があり、どうしてもホットゾーンHz位置がカットオフラインCLに対し下がり気味となって、それだけ遠方方視認性が悪い。
【0012】
そこで、発明者は、発光管本体(セラミック管120)のほぼ下半分の領域をその内面に対し反射する機能をもつ遮光部材で覆ってやれば、発光管本体(セラミック管120)から下方に出射しようとする光が遮光部材で反射されて発光管本体(セラミック管120)のほぼ上半分の領域からリフレクター8の有効反射面8aに向けて出射することになって、前照灯の配光照度(光度)が上がるし、リフレクター8の有効反射面8aの配光設計の際には、カットオフラインCLに沿って投影する(貼り付ける)矩形状光源像aの最大輝度部a1に対する大きさがスリム(幅狭)になって(矩形状光源像aの幅wが小さくなって)、最大輝度部a1がカットオフラインCLに接近するように配光設計(リフレクターの有効反射面を設計)することができ、この結果、ホットゾーンHz位置がカットオフラインCL位置に近くなって遠方方視認性も改善される、と考えた。そして、放電バルブを試作しその効果のほどを検証したところ、有効であることが確認されたので、この度の特許出願に至ったものである。
【0013】
本発明は前記従来技術の問題点および発明者の前記した知見に基づいてなされたもので、その目的は、自動車用前照灯の配光照度(光度)および遠方視認性の双方を改善する上で有効な自動車用放電バルブを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0014】
前記目的を達成するために、請求項1に係る自動車用放電バルブにおいては、電極が対設され発光物質等が封入された放電発光室を設けたセラミック製発光管を備えた自動車放電バルブであって、前記発光管を構成するセラミック管の外周面の少なくとも略下半分を内面に対し反射する遮光部材で覆うように構成した。
【0015】
セラミック管の外周面の略下半分を覆う遮光部材の構成としては、請求項4に示すように、セラミック管に取着した遮光部材で構成する場合と、セラミック管に密着形成した遮光膜で構成する場合とがある。
【0016】
(作用) 自動車用放電バルブを光源とする前照灯において、リフレクターの有効反射面を設計するには、図6に示されるように、リフレクター前方に配置した配光スクリーン上に、発光管本体(セラミック管)の外形に対応する矩形状の光源像aをカットオフライン・エルボー部を中心に放射状に投影する(貼り付ける)ことで設計するが、発光管本体(セラミック管)の外周面の略下半分が遮光部材で覆われたことにより、以下の作用がある。
【0017】
第1に、図7に示すように、カットオフラインに沿って投影する(貼り付ける)矩形状光源像aの最大輝度部(電極間に生成されるアークに対応する部位)a1に対する大きさが、従来の発光管本体(その外周面が反射材で覆われていない発光管本体)の場合と比べてスリム(幅狭)になる(矩形状光源像aの幅w1が小さくなる、即ちw1<wとなる)とともに、最大輝度部a1が矩形状光源像aの上側縁に接近した位置となるので、最大輝度部a1がカットオフラインに接近するように配光設計(リフレクターの有効反射面を設計)することができ、これにより配光のホットゾーンがカットオフライン位置に近づく(0.5〜1.5D位置となる)。
【0018】
第2に、発光管本体(セラミック管)から出射して下方に向かおうとする光が遮光部材で反射されて発光管本体内に戻り、遮光部材で覆われていない発光管本体(セラミック管)のほぼ上半分の領域から出射するので、カットオフラインに沿って投影する(貼り付ける)矩形状光源像aそれぞれの輝度が高められることとなって、リフレクターによって形成される配光の光度が上がる。即ち、従来構造では配光の形成にほとんど寄与していない発光管本体(セラミック管)下方に出射する光が、発光管本体(セラミック管)の下方ではなく発光管本体(セラミック管)のほぼ上半分の領域からリフレクターの有効反射面に向けて出射し、前照灯の配光の形成に寄与する。
【0019】
また、カットオフラインに沿った領域以外の領域に放射状に投影する(貼り付ける)矩形状光源像aは、カットオフラインに沿った領域に投影する(貼り付ける)矩形状光源像aに比べてその幅w2が大きく(w2>w1)、したがって配光中に光度ムラが現れることもない。
【0020】
請求項2においては、請求項1に記載の自動車用前照灯において、前記遮光部材材を、対向電極を結ぶ放電軸と略水平な第1の位置から該放電軸を挟んだ反対側で放電軸に対し略15度下方に傾斜する第2の位置まで周方向に延在するように構成した。
【0021】
(作用)セラミック管の外周面の略下半分を覆う遮光部材は、対向電極を結ぶ放電軸と略水平な第1の位置から該放電軸を挟んだ反対側で放電軸に対し略15度下方に傾斜する第2の位置まで延在して、カットオフライン・エルボー部を中心とする鮮明な水平カットオフラインおよび斜め15度カットオフラインを形成する。
【0022】
請求項3においては、請求項1または2に記載の自動車用放電バルブにおいて、前記放電発光室に連通する細孔が設けられた管端部領域では、その外周面と端面の全域を前記遮光部材で覆うように構成した。
【0023】
(作用)発光管本体(セラミック管)では、アークだけが主として発光するガラス製発光管本体とは異なり発光管本体(セラミック管)全体が発光するため、リフレクターの有効反射面を設計するには、リフレクター前方の配光スクリーン上に、発光管本体(セラミック管)全体の外形に対応する矩形状の光源像aをカットオフライン・エルボー部を中心に放射状に投影する(貼り付ける)ことになるが、光源像aの長手方向中央部(放電発光室に対応するセラミック管中央部領域対応部位)では全体がほぼ均一に高輝度で発光するのに対し、光源像aの長手方向両端部(セラミック管端部領域対応部位)ではぼやっと低輝度で発光するにとどまるので、発光管本体(セラミック管)全体の外形に対応する光源像aを投影し(貼り付け)た場合は、光源像aにおける輝度の格差が配光中に光度ムラとなって顕在化し、前方視認性が悪い。
【0024】
しかるに、請求項3では、低輝度となる発光管本体(セラミック管)端部領域の外周面全体が反射材で覆われて、リフレクターの有効反射面を設計する際には、全体がほぼ均一に発光して高輝度となる放電発光室に対応する発光管本体(セラミック管)中央部領域対応部位の外形に対応する矩形状光源像だけが配光スクリーン上に投影され(貼り付けられ)るので、配光中に光度ムラが現れず、前方視認性が良好となる。
【0025】
請求項4においては、請求項1〜3のいずれかに記載の自動車用放電バルブにおいて、前記遮光部材を、前記セラミック管に取着した遮光部材または前記セラミック管に密着形成した遮光膜で構成するようにした。
【0026】
(作用)セラミック管に取着した遮光部材としては、白色セラミック製キャップ(例えば、反射率60%の白色セラミックスで構成したキャップ)または内側が反射面である金属製キャップが考えられ、セラミック管に密着形成した遮光膜としては、セラミック管の外表面に形成した無機の耐熱白色塗膜で構成する場合とセラミック管の外表面に形成された屈折率の異なる誘電体多層膜で構成する場合とが考えられる。いずれの形態においても、セラミック管を覆う遮光部材がセラミック管からの放熱を抑制し、放電バルブの発光効率(光束/電力)が向上する。
【0027】
請求項5に係る自動車用前照灯においては、請求項1〜4のいずれかに記載の放電バルブと、前記セラミック管の発光を反射制御するリフレクターとを備えるように構成した。
【0028】
(作用)請求項1〜4の作用で説明したように、リフレクターによって形成される所定の配光の光度が上がるとともに、配光のホットゾーンがカットオフライン位置に近づく(0.5〜1.5D位置となる)。
【発明の効果】
【0029】
以上の説明から明かなように、請求項1に係る自動車用放電バルブによれば、前照灯の光源として用いることで、配光照度(光度)および遠方視認性の双方が改善された前照灯を提供できる。
【0030】
請求項2によれば、前照灯の光源として用いることで、鮮明なカットオフラインをもつ遠方視認性に優れた配光を形成できる。
【0031】
請求項3によれば、前照灯の光源として用いることで、カットオフラインより下方の左右拡散配光における光度ムラが目立たない前方視認性に優れた配光を形成できる。
【0032】
請求項4によれば、セラミック管からの放熱が抑制されて放電バルブの発光効率(光束/電力)が向上するので、前照灯の光源として用いることで、前照灯の配光照度(光度)をさらに上げることができる。
【0033】
請求項5に係る自動車用前照灯によれば、配光照度(光度)および遠方視認性の双方が改善される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0034】
次に、本発明の実施の形態を実施例に基づいて説明する。
【0035】
図1〜図7は本発明の第1の実施例を示すもので、図1は本発明の第1の実施例である放電バルブを光源とする自動車用前照灯の正面図、図2は同前照灯の鉛直縦断面図(図1に示す線II−IIに沿う断面図)、図3は同放電バルブの要部である発光管の拡大鉛直縦断面図、図4は同発光管の横断面図(図3に示す線IV−IVに沿う断面図)、図5(a)はセラミック製発光管本体の拡大側面図、図5(b)はセラミック製発光管本体の拡大鉛直縦断面図、図6はリフレクターの有効反射面を設計する場合の様子を示す斜視図、図7はリフレクターを配光設計する際の配光スクリーンに投影した(貼り付けた)光源像を示す図である。
【0036】
これらの図において、符号80は、前面側が開口する容器状の自動車用前照灯のランプボディで、その前面開口部に透明な前面カバー90が組み付けられて灯室Sが画成され、灯室S内には、後頂部のバルブ挿着孔102に放電バルブV1を挿着したリフレクター100が収容されている。リフレクター100の内側にはアルミ蒸着処理が施された反射面が形成され、特に、バルブ挿着孔102より上側には、曲面形状が異なる複数の配光制御用ステップ(多重反射面)で構成された有効反射面101aが設けられており、バルブV1の発光がリフレクター100(の有効反射面101a)で反射されて前方に照射されることで、図6に示すように、前照灯の所定の配光パターンが形成される。
【0037】
また、リフレクター100とランプボディ80間には、図1に示すように、1個の玉継手構造のエイミング支点E0と、2本のエイミングスクリューE1,E2で構成したエイミング機構Eが介装されて、リフレクター100(前照灯)の光軸Lを水平傾動軸Lx,鉛直傾動軸Ly周りにそれぞれ傾動(前照灯の光軸Lの傾動軸をいわゆるエイミング調整)できるように構成されている。
【0038】
符号30は、リフレクタ100のバルブ挿着孔102に係合する焦点リング34が外周に設けられたPPS樹脂からなる絶縁性ベースで、この絶縁性ベース30の前方には、ベース30から前方に延出する通電路である金属製リードサポート36と、ベース30の前面に固定された金属製支持部材60とによって、発光管10Aが固定支持されて、放電バルブV1が構成されている。
【0039】
即ち、発光管10Aの前端部から導出するリード線18aが、絶縁性ベース30から延出するリードサポート36の折曲された先端部にスポット溶接により固定されることで、発光管10Aの前端部がリードサポート36の折曲された先端部に担持されている。一方、発光管10Aの後端部から導出するリード線18bが、絶縁性ベース30後端部に設けられた端子47に接続されるとともに、発光管10Aの後端部が、絶縁性ベース30の前面に固定された金属製支持部材60で把持された構造となっている。
【0040】
絶縁性ベース30の前端部には凹部32が設けられ、この凹部32内に発光管10Aの後端部が収容保持されている。そして、絶縁性ベース30の後端部には、後方に延出する円筒形状外筒部42で囲まれた円柱形状ボス43が形成され、外筒部42の付け根部外周には、リードサポート36に接続された円筒形状のベルト型端子44が固定一体化され、ボス43には、後端側リード線18bが接続されたキャップ型端子47が被着一体化されている。
【0041】
発光管10Aは、図3,4に示すように、棒状電極15,15が対設されかつ金属ハロゲン化物等の発光物質が始動用希ガスとともに封入された放電発光室sをもつ発光管本体11Aと、発光管本体11Aを覆う円筒型の紫外線遮蔽用シュラウドガラスと20とが一体化されて構成されている。発光管本体11Aの前後端部からは、放電発光室s内に突出する棒状電極15,15に電気的に接続されたリード線18a,18bが導出し、これらのリード線18a,18bに紫外線遮蔽用のシュラウドガラス20がシール(封着)されることで、両者(発光管本体11Aとシュラウドガラス20)が一体化されて、発光管10Aが構成されている。符号22は、シュラウドガラス20の縮径されたシール部を示す。
【0042】
発光管本体11Aは、外形が長手方向に均一の真円筒形状の透光性セラミック管12を備え、セラミック管12の長手方向中央部には、放電発光室sを画成する放電発光部12aが形成されている。セラミック管12の両端部には、放電発光部12aの放電発光室sに連通する細孔13が設けられた管端部領域12cが形成されている。
【0043】
管端部領域12cの細孔13の端部側開口寄りには、モリブデンパイプ14がメタライズ接合により固定されて、セラミック管12の端部からモリブデンパイプ14が突出している。モリブデンパイプ14内に挿通されてその先端部が放電発光室s内に突出する棒状電極15は、その後端部がモリブデンパイプ14突出端部に溶着(接合)されることで、セラミック管12に一体化されるとともに、金属ハロゲン化物等の発光物質が始動用希ガスとともに封入されている放電発光室sに連通する細孔13が封止されている。符号14aはレーザ溶接部である。
【0044】
そして、セラミック管12は、長手方向に直交する断面の外形が長手方向に均一に形成されて、セラミック管端部領域12cの細孔13を取り囲む管壁が厚肉となって、管壁全体がほぼ均一の厚さに形成されている従来のセラミック管(図11参照)に比べて、特にセラミック管端部領域12cの耐熱衝撃強度が高められている。
【0045】
また、モリブデンパイプ14は細孔13の開口端部寄りに接合されて、モリブデンパイプ14の挿入先端部は、放電発光室sから離間した位置にあるため、それだけ放電発光室s側の熱がモリブデンパイプ14に伝わり難い。このため、細孔13のほぼ全域にモリブデンパイプが接合されている(モリブデンパイプの挿入先端部が放電発光室近傍にある)構造に比べて、セラミック管端部領域12cに発生する熱応力は小さく、それだけセラミック管端部領域12cにクラックが発生し難い。
【0046】
また、セラミック管中央部領域である放電発光部12aと管端部領域12cとの間には、細孔13を取り囲む管壁を薄肉化することで放電発光部12aから管端部領域12cへの熱伝達を抑制して、管端部領域12cにおける耐熱衝撃強度を高めるとともに、放電発光部12aにおける発光効率を高めるための括れ部12bが周設されている。
【0047】
即ち、括れ部12bに対応する管壁は管端部領域12cの厚さより薄く、セラミック管中央部領域(放電発光部)12aから管端部領域12cへの熱伝達経路が薄肉化されて、セラミック管中央部領域(放電発光部)12aから管端部領域12cへの熱伝達が抑制されている。このため、管端部領域12cへの熱伝達量が減少する分、管端部領域12cが高温とならず、モリブデンパイプがメタライズ接合されている管端部領域12cに発生する熱応力も小さく、管端部領域12cの耐熱衝撃強度が高いといえる。
【0048】
また、セラミック管中央部領域(放電発光部)12aから管端部領域12cへの熱伝達が抑制されているため、放電発光室s内の温度が維持されて、発光管本体11Aの発光効率(消費電力に対する光束値)が向上する。
【0049】
特に、括れ部12bは、モリブデンパイプ14の挿入先端部から放電発光室s間に対応する位置に設けられている(モリブデンパイプ14の挿入先端部が括れ部12b対応位置まで延びていない)ので、薄肉化された管壁の熱伝達抑制作用が熱伝導性のよいモリブデンパイプ14によって妨げられることなく有効に働く。
【0050】
また、セラミック管端部領域12cが厚肉となる分、セラミック管12の体積(重量)が増えて、セラミック管12の熱容量はそれだけ増加することになる。しかし、放電発光部12aと管端部領域12cとの間に括れ部12bが設けられることで、セラミック管12の体積(重量)が減って、セラミック管12の熱容量はそれだけ減少することになる。即ち、セラミック管12の熱容量の増加分と減少分が相殺されて、セラミック管12の熱容量は従来のセラミック管(図11参照)と比べて大きく変化することはない。
【0051】
また、セラミック管12の放電発光部12aの外周面のほぼ下半分の領域および括れ部12bを含む管端部領域12cの外周面および端面には、反射遮光塗膜200が形成されて、放電発光部12a上側の反射遮光塗膜非形成領域からの出射光量を増やして前照灯の配光照度(光度)を上げるとともに、管端部領域12cにおける発光を遮光してグレア光の発生を防止している。即ち、放電発光部12aにおける反射遮光塗膜200は、対向電極15,15を結ぶ放電軸と水平な第1の位置から該放電軸を挟んだ反対側で放電軸に対し15度下方に傾斜する第2の位置まで周方向に延在するように設けられて、すれ違いビームの配光におけるカットオフライン・エルボー部を中心とする鮮明なカットオフライン(水平カットオフラインおよび斜め15度カットオフライン)を形成するものであるが、放電発光部12aから下方に出射しようとする光が反射遮光塗膜200で反射されて放電発光部12aに戻り、放電発光部12aにおける反射遮光塗膜非形成領域からリフレクター100の有効反射面101aに向けて出射することになるので、放電発光部12aにおける輝度が高くなる。
【0052】
また、放電発光部12a以外の領域12b,12cでの僅かな発光(セラミック管12特有の拡散光となる出射光)がグレア光につながることのないように、管端部領域12cの外周面に形成されている反射遮光塗膜200の放電発光部12a側の側縁部が棒状電極15の先端対応位置Pの軸方向±0.5mmの範囲内にくるように正確に形成されている。
【0053】
また、セラミック管12に遮光部材である反射遮光塗膜200が形成されることで、セラミック管12からの放熱が抑制されることとなって、それだけ放電発光部12aにおける発光効率が上がるようになっている。
【0054】
なお、反射遮光塗膜200としては、屈折率の異なる誘電体の多層膜(例えば、TaとSiOとを交互に積層するか、またはTiOとSiOとを交互に積層した、厚さ10〜20μmの多層膜)で構成する場合と、無機白色塗料を塗布して焼き付けて形成した塗膜(例えば、KSiOとAlと水性溶媒との混合物の塗膜、またはAlとZrOとTiOとアルコール系溶剤とバインダ(オルガノシロキサン縮合物)との混合物の塗膜)で構成する場合とがあり、いずれの塗膜の場合も、800〜1000℃の耐熱性、可視光を反射する反射性、セラミック管12との良好な密着性およびセラミック管12の熱膨張率(8.1×10−6)に近い熱膨張率をもつという4条件を全て満足する。
【0055】
また、棒状電極15は、先端側の細いタングステン電極棒15aと基端部側の太いモリブデン棒15bとが同軸状に接合一体化されたもので、モリブデンパイプ14と棒状電極15(のモリブデン棒15b)間には、棒状電極15を挿通できるように、またセラミック管12両端に発生する熱応力を吸収できるように、25μm程度の微小隙間16が形成されている。セラミック管12から突出するモリブデンパイプ14には、リード線18a,18bの先端屈曲部が溶接により固定されて、リード線18a,18bと棒状電極15,15とが同一軸状に配置されている(図3参照)。
【0056】
次に、本実施例の前照灯によって形成される配光について詳しく説明する。
【0057】
リフレクター100の有効反射面101aを設計するには、図13,14に示す従来の方法と同様で、図6、7に示すように、リフレクター100の前方に配置した配光スクリーン上に、発光管11Aの外形に対応する矩形状の光源像aをカットオフライン・エルボー部を中心に放射状に投影する(貼り付ける)ことで設計するが、発光管11A(放電発光部12c)の外周面のほぼ下半分が反射遮光塗膜200で覆われていることで、以下のような特徴がある。
【0058】
第1に、カットオフラインCL,CLHに沿った領域の配光パターンA(A1),C(C1)を形成する光源像(カットオフラインCL,CLHに沿って投影する(貼り付ける)矩形状光源像)aがスリム(幅狭)になり、即ち、矩形状光源像aの最大輝度部(電極棒間に生成されるアークに対応する部位)a1に対する大きさが、図7に示されるように、反射遮光塗膜を設けていない発光管の場合(図13参照)に比べてスリム(矩形状光源像aの幅w1が幅狭、即ちw1<w)になるとともに、最大輝度部a1が矩形状光源像aの上側縁に接近した位置となるので、最大輝度部a1がカットオフラインCL,CLHに接近するように配光設計(リフレクター100の有効反射面101aを設計)することができ、これにより配光のホットゾーンHzがカットオフラインCL,CLHに近い0.5〜1.5D位置となっている。
【0059】
第2に、発光管12から出射して下方に向かおうとする光が反射遮光塗膜200で反射されて発光管12内に戻り、反射遮光塗膜200で覆われていない発光管12のほぼ上半分の領域から出射するので、カットオフライン・エルボー部を中心に放射状に投影する(貼り付ける)矩形状光源像aそれぞれの輝度が高められることとなって、リフレクターの有効反射面101aによって形成される配光の光度が上がる。
【0060】
第3に、配光パターンA(A1),B(B1),C(C1)を形成する光源像(カットオフライン・エルボー部を中心に放射状に投影する(貼り付ける)矩形状光源像)aは、ぼんやりと発光する管端部領域12cが反射遮光塗膜200で遮光されて、明るく発光する放電発光部12aに対応する輝度の大きい矩形状光源像となって、しかもカットオフラインCL,CLHに沿った領域以外の領域に投影する(貼り付ける)矩形状光源像は、カットオフラインCL,CLHに沿った領域に投影する(貼り付ける)スリム(幅狭)な光源像(その幅はw1)ではなく、発光管12の管径に対応した幅w2(>w1)をもつことから、エルボー部の周りに隣接する他の光源像と重なる領域が増え、それぞれの光源像a,a間の色や光度の格差が平滑化されて、車両前方の配光における色ムラや光度ムラが目立たない配光が形成される。
【0061】
このように、本実施例の前照灯では、放電発光部12aから下方に出射しようとする光も上方に出射し、リフレクターの有効反射面101aで反射制御されてすれ違いビームの配光が形成されるように構成されているので、放電発光部12aにおける輝度が高く、それだけ前照灯の配光照度(光度)が大きい。また、カットオフラインCLの近傍(0.5〜1.5D位置)にホットゾーンがくるため、遠方視認性にも優れた配光が得られる。さらに、車両前方のカットオフラインCLより下方の左右拡散配光における色ムラや光度ムラが目立たないので、前方視認性にも優れた配光が得られる。
【0062】
図8は、本発明の第2の実施例である放電バルブの要部である発光管本体を示し、(a)は同発光管本体の拡大鉛直縦断面図、(b)は発光管本体を覆う反射遮光部材の分解斜視図、(c)は図8(a)に示す線VIII―VIIIに沿う断面図である。
【0063】
前記した第1の実施例では、セラミック管12に反射遮光塗膜200を形成して、前照灯の配光照度(光度)を上げるとともに、管端部領域12cからの出射光を遮光してグレア光の発生を防止しているが、この第2の実施例では、セラミック管12を、一部が切り欠かれた白色セラミック筒体210で覆うことで、前照灯の配光照度(光度)を上げるとともに、管端部領域12cからの出射光を遮光してグレア光の発生を防止している。
【0064】
即ち、セラミック筒体210(筒体下部212,筒体上部214)は、反射率60%の白色セラミックスで構成されて、内面に対し反射する機能と出射光(透過光)の一部を遮光する機能を備えている。セラミック筒体210には、前記した第1の実施例の反射遮光塗膜200が形成されていない反射遮光塗膜非形成領域に相当する開口部(切り欠き)211が設けられており、セラミック管12の略下半分の領域を包囲する筒体下部212と、セラミック管12の端部領域12bの略上半分を包囲する一対の筒体上部214で構成されている。開口部(切り欠き)211を構成する筒体下部212の側縁部212a,212bは、対向電極15,15を結ぶ放電軸と水平な位置および放電軸に対し15度下方に傾斜する位置にあって、すれ違いビームの配光におけるカットオフライン・エルボー部を中心とする鮮明な水平カットオフラインCLHおよび斜め15度カットオフラインCLを形成する。
【0065】
筒体下部212および筒体上部214の端面壁には、セラミック管12端部に突出するモリブデンパイプ14に係合する円弧状凹部213,215が設けられている。そして、発光管本体11Aを筒体下部212内に収容し、発光管本体11Aを覆うように筒体上部214を筒体下部212に例えば接着剤で接合することで、セラミック筒体210が発光管本体11Aのセラミック管12を覆う形態に一体化される。
【0066】
セラミック筒体210(筒体下部212,筒体上部214)の内周面には、軸方向に延びる凸条212c,214cが周方向等ピッチに設けられて、発光管12とセラミック筒体210間に空間が形成されることで、セラミック管12の熱容量の増加が抑制されている。即ち、セラミック筒体210(筒体下部212,筒体上部214)の内周面がセラミック管12外周面に密着しているとセラミック筒体210相当の体積(重量)分だけ、セラミック管12の熱容量が実質的に増えることになって、それだけ放電バルブの初期特性が劣るおそれがあるが、発光管12とセラミック筒体210間に形成されている断熱空間によって、発光管12の熱容量は実質的に増えないので、放電バルブの初期特性が劣ることもない。
【0067】
また、前記した第2の実施例において、白色セラミックスで構成したセラミック筒体210に代えて、内側にアルミ蒸着反射面処理をした金属製筒体で構成してもよい。
【0068】
なお、前記した第1、第2の実施例の放電バルブでは、絶縁性ベース30の前方にセラミック製の発光管本体とこの発光管本体を包囲するシュラウドガラスとを一体化した発光管が配置された構造として説明されているが、ベース30の前方に配置する発光管は、シュラウドガラスを設けないセラミック製発光管本体だけの構造であってもよい。
【図面の簡単な説明】
【0069】
【図1】本発明の第1の実施例である放電バルブを光源とする自動車用前照灯の正面図である。
【図2】同前照灯の鉛直縦断面図(図1に示す線II−IIに沿う断面図)である。
【図3】同放電バルブの要部である発光管の拡大縦断面図である。
【図4】発光管の横断面図(図3に示す線IV−IVに沿う断面図)である。
【図5(a)】発光管本体の拡大側面図である。
【図5(b)】発光管本体の拡大鉛直縦断面図である。
【図6】リフレクターの有効反射面を設計する場合の様子を示す斜視図である。
【図7】リフレクターを配光設計する際の配光スクリーンに投影した(貼り付けた)光源像を示す図である。
【図8】本発明の第2の実施例である放電バルブの要部である発光管本体を示し、(a)は同発光管本体の拡大鉛直縦断面図、(b)はセラミック製発光管を覆う反射遮光部材の分解斜視図、(c)は図8(a)に示す線VIII―VIIIに沿う断面図である。
【図9】従来の放電バルブの縦断面図である。
【図10】従来のセラミック製発光管(特許文献1)の縦断面図である。
【図11】従来の他のセラミック製発光管(特許文献2)の縦断面図である。
【図12】セラミック製発光管(特許文献2)を光源として用いた前照灯本の縦断面図である。
【図13】配光スクリーンに投影した(貼り付けた)光源像を示す図である。
【図14】配光スクリーンに形成された配光パターンを示す図である。
【符号の説明】
【0070】
V1 放電バルブ
10A 発光管
11A 発光管本体
12 セラミック管
s 放電発光室
12a 放電発光部
12b 括れ部
12c 発光管端部領域
14 モリブデンパイプ
14a レーザ溶接部
15,15 棒状電極
18a,18b リード線
20 紫外線遮蔽用シュラウドガラス
30 合成樹脂製絶縁性ベース
100 リフレクター
101a 有効反射面
200 遮光部材である反射遮光塗膜
210 遮光部材である白色セラミック筒体
CL,CLH 配光スクリーンに形成された配光パターンのカットオフライン
A(A1),C(C1) カットオフラインに沿った領域の配光パターン
B(B1) カットオフラインに沿った領域以外の領域の配光パターン
a 配光スクリーンに投影された矩形状光源像
a1 矩形状光源像における最大輝度部
w1 配光パターンのカットオフラインに沿った領域に投影された(貼り付けられた)矩形状光源像の幅
w2 配光パターンのカットオフラインに沿った領域以外の領域に投影された(貼り付けられた)矩形状光源像の幅

【特許請求の範囲】
【請求項1】
電極が対設され発光物質等が封入された放電発光室を設けたセラミック製発光管を備えた自動車放電バルブであって、前記発光管を構成するセラミック管の外周面の少なくとも略下半分が内面に対し反射する遮光部材で覆われたことを特徴する自動車放電バルブ。
【請求項2】
前記遮光部材は、対向電極を結ぶ放電軸と略水平な第1の位置から該放電軸を挟んだ反対側で放電軸に対し略15度下方に傾斜する第2の位置まで周方向に延在することを特徴する請求項1に記載の自動車用放電バルブ。
【請求項3】
前記放電発光室に連通する細孔が設けられた前記セラミック管端部領域では、その外周面と端面の全域が前記遮光部材で覆われたことを特徴する請求項1または2に記載の自動車用放電バルブ。
【請求項4】
前記遮光部材は、前記セラミック管に取着された遮光部材または前記セラミック管に密着形成された遮光膜で構成されたことを特徴する請求項1〜3のいずれかに記載の自動車用放電バルブ。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれかに記載の放電バルブと、前記セラミック管の発光を反射制御するリフレクターとを備えたことを特徴する自動車用前照灯。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5(a)】
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【図5(b)】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【公開番号】特開2007−26985(P2007−26985A)
【公開日】平成19年2月1日(2007.2.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−209824(P2005−209824)
【出願日】平成17年7月20日(2005.7.20)
【出願人】(000001133)株式会社小糸製作所 (1,575)
【Fターム(参考)】