説明

自動車用暖機装置及び自動車用暖機方法

【課題】気体状の溶質を溶媒に溶解させる際に生じる溶解熱を利用することにより、発熱量が大きく、また、昇温した溶媒を利用して、種々の部位を暖機できる自動車用暖機装置及び自動車用暖機方法を提供する。
【解決手段】気体状の溶質を溶媒に溶解させることにより発生する溶解熱を、始動時に自動車の所定の暖機部位に作用させて加熱する自動車用暖機装置1であって、液化又は圧縮された上記溶質を保持する溶質保持タンク3と、上記溶質保持タンクから流出させた上記溶質を吸熱膨張させる溶質膨張手段9,4と、上記溶媒を保持する溶媒保持タンク6と、上記溶媒保持タンクに保持された上記溶媒に、上記溶質を溶解させる溶解手段13と、上記溶質が溶解されて昇温した溶媒を、暖機部位に作用させて加熱する加熱手段11と、上記溶媒に溶解された溶質を上記溶媒から気化させるとともに圧縮して、上記溶質保持タンクに回収する溶質回収手段7,8と、上記溶質を上記各手段に流動させる溶質循環回路2とを備えて構成される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願発明は、自動車用暖機装置及び自動車用暖機方法に関する。特に、電気自動車やハイブリッド自動車に搭載される電池や、燃料電池車に搭載される燃料電池を、始動時に加熱するのに好適な自動車用暖機装置及び自動車用暖機方法に関する。
【背景技術】
【0002】
環境問題や石油資源の枯渇に対応する必要があることから、ガソリンエンジン等に電気モータの駆動を組み合わせて燃費を高めたハイブリッド自動車や、ガソリンを使わずに走行する電気自動車、さらに、燃料電池を搭載した燃料電池車が提供されている。
【0003】
上記のような自動車においては、電力を蓄える電池や燃料電池が採用されているが、これらの電池は、低温始動性が悪い。たとえば、夜間に戸外に駐車された場合、上記電池の温度は外気温度にまで低下する。寒冷地においては、マイナス50度に達する低温にまで低下する可能性がある。このような低温では、電池の発電能力は非常に低く、始動に必要な電力を賄えない恐れがある。
【0004】
また、エンジン駆動の自動車においても、低温始動時には燃費が悪く、エンジンや、トランスミッション等のパワートレインを加熱することにより、始動時の燃費を向上させることができる。
【0005】
暖機を行うために、始動時に電気ヒータ等を用いて暖機部位を加熱する手法が考えられる。しかしながら、電気ヒータによる加熱は、電池に蓄積した電力を消費することになり、電気自動車では走行に支障をきたす恐れがある。また、従来の電池では、充分な暖機効果を期待できない。上記問題を解決するために、水蒸気の吸着熱を利用した電池温度調節装置が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2008−305575号公報
【0007】
上記特許文献に記載されている電池温度調節装置では、車両の始動時に、蒸気をシリカゲル等の吸着媒を充填した吸着器に供給し、蒸気が上記吸着媒に吸着されることによって生じる吸着熱を、熱交換媒体を介して電池に作用させて加熱するように構成されている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
電池の加熱が必要となるのは、外気温度が0℃以下の低温始動時である。一方、空気中の水蒸気の濃度は温度の関数であり、温度が高いほど空気中の水蒸気量が多くなる。このため、低温始動時には、空気中の蒸気量は非常に少なく、電池を加熱する熱量を発熱させるのに時間を要する。また、吸着による発熱方式は、単位体積当たりの発熱量が少ないため、充分な暖機を行うのは困難である。
【0009】
また、吸着媒に多量の水蒸気を作用させるために、外気をファン等で多量に導入することも考えられる。しかしながら、低温の外気を導入すると、電池や吸着媒が冷却されることになる。このため、発生する吸着熱を有効に利用できない。
【0010】
さらに、飽和水蒸気を蓄積するタンクを設けることも考えられる。しかしながら、装置が大型化するとともに、上記タンクの保温装置等を設ける必要があるため、製造コストが増加するといった問題が生じる。
【0011】
しかも、吸着方式の暖機装置では、固体状の吸着媒が発熱するため、生じた熱を移動させて有効利用するには、固体状の吸着媒内部から熱を取り出す熱交換媒体が必要になる。このため、熱伝導部材等を吸着媒の内部に設けたり、流動性のある熱媒体を利用する必要が生じる。ところが、上記熱交換媒体と熱交換させると熱損失が大きくなり、吸着熱を利用できる効率が低下する。このため、吸着媒を暖機部位の近傍に配置する必要がある。したがって、吸着媒を保持する容器や暖機部位が限定されるという問題もある。
【0012】
本願発明は、気体状の溶質を溶媒に溶解させる際に生じる溶解熱を利用することにより、発熱量が大きく、また、昇温した溶媒を利用して、種々の部位を効率よく暖機できる自動車用暖機装置及び自動車用暖機方法を提供することを課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本願の請求項1に記載した発明は、気体状の溶質を溶媒に溶解させることにより発生する溶解熱を、始動時に自動車の所定の暖機部位に作用させて加熱する自動車用暖機装置であって、液化又は圧縮された上記溶質を保持する溶質保持タンクと、上記溶質保持タンクから流出させた上記溶質を吸熱膨張させる溶質膨張手段と、上記溶媒を保持する溶媒保持タンクと、上記溶媒保持タンクに保持された上記溶媒に、上記溶質を溶解させる溶解手段と、上記溶質が溶解されて昇温した溶媒を、暖機部位に作用させて加熱する加熱手段と、上記溶媒に溶解された溶質を上記溶媒から気化させるとともに圧縮して、上記溶質保持タンクに回収する溶質回収手段と、上記溶質を上記各手段に流動させる溶質循環回路とを備えて構成される。
【0014】
本願発明では、気体状の溶質を溶媒に溶解させる際に生じる溶解熱を利用して、自動車各部の暖機を行うように構成される。
【0015】
上記溶質保持タンクに保持される溶質の状態は特に限定されることはない。気体状態で保持することもできるし、液体状態で保持することもできる。また、上記溶質保持タンク内の保持圧力も特に限定されることはなく、上記溶質膨張手段において膨張させるとともに、上記溶質循環回路内を流動させて、上記溶媒に作用させるだけの圧力で保持すれば足りる。
【0016】
溶質を気化あるいは膨張させると、溶質の温度が低下する。特に、上記溶質保持タンク内で液体状態に保持される溶質を使用する場合、気化する際に気化熱が奪われるためさらに温度が低下する。したがって、気化させて温度が低下した溶質をそのまま溶媒に溶解させると、溶媒の温度を低下させる恐れがある。上記不都合を回避するため、溶質を吸熱膨張させる溶質膨張手段が設けられる。
【0017】
上記溶質膨張手段は、溶質の種類に応じて種々の構造のものを採用できる。たとえば、請求項2に記載した発明のように、上記溶質膨張手段を、上記循環回路内で上記溶質を膨張させる膨張弁と、膨張させられた溶質に外気から吸熱させる吸熱手段とを備えて構成することができる。たとえば、上記膨張弁として、空調装置用の膨張弁を利用することができる。空調装置用の膨張弁は、細いノズルを備えるため、溶質を効率よく気化膨張させることができる。また、気化しやすい液体状の溶質の場合、一般的なバルブを用いて、溶質を溶質保持タンクから上記溶質循環回路内へ導入するだけで気化膨張させることもできる。
【0018】
上記吸熱手段の構成も特に限定されることはない。たとえば、上記膨張弁の下流側管路の外周部に吸熱フィンを設けて、膨張により温度が低下した溶質に、外気から吸熱させるように構成することができる。
【0019】
上記溶媒保持タンクには、上記溶質を溶解するための溶媒が保持される。本願発明では、暖機部位に応じて上記溶質保持タンク及び上記溶媒保持タンクの容量や、溶質の溶解量を設定することにより、発熱量を調節することができる。このため、種々の加熱部位に対応した発熱量を有する暖機装置を構成できる。
【0020】
上記溶質を溶解させることができれば、上記溶解手段の構成も特に限定されることはない。たとえば、請求項3に記載した発明のように、気体状の上記溶質を上記溶媒に溶解させる吹き込み装置を備えて構成することができる。溶質を細かい泡状に噴出するノズル等を備える吹き込み装置を採用することにより、短時間に大量の溶質を溶媒に溶解させることができる。
【0021】
溶媒に溶質を溶解させると溶解熱が生じて、溶質が溶解された溶媒の温度が上昇する。本願発明では、溶解熱によって加熱された上記溶媒を利用して暖機が行われる。上記加熱手段の構成は限定されることはない。たとえば、請求項4に記載した発明のように、上記加熱手段を、上記溶媒保持タンクの壁部を介して上記暖機部位を加熱するように構成することができる。本願発明では、発熱した液状の溶媒自体が、上記溶媒保持タンク内で循環流動できるため、暖機部位を効率よく加熱できる。
【0022】
また、請求項5に記載した発明のように、上記加熱手段を、上記溶媒、又は上記溶媒によって加熱された熱媒体を上記暖機部位に流動させて加熱を行う暖機回路を備えて構成することができる。たとえば、電池等の周囲に、上記溶媒、又は上記溶媒によって加熱された熱媒体が流動する暖機回路を設け、ポンプによって加熱された上記溶媒又は上記熱媒体を循環流動させて暖機を行うことができる。
【0023】
本願発明が適用される暖機部位も特に限定されることはない。低温始動時に加熱することにより、燃費を改善できる種々の部位に適用することができる。たとえば、エンジンブロックやパワートレイン等を加熱することができる。また、加熱することにより発電量が増加する種々の電池を暖機するのに好適である。たとえば、リチウムイオン電池等の駆動用二次電池のみならず、燃料電池の暖機に本願発明を適用できる。また、電池を搭載した自動車の駆動方式も特に限定されることはない。たとえば、電気自動車や、ハイブリッド自動車、さらに燃料電池駆動の自動車に本願発明を適用できる。
【0024】
また、駆動系を冷却するための冷却回路中に上記溶媒保持タンクを設け、駆動系全体を暖機するように構成することもできる。たとえば、上記溶媒保持タンクを、エンジン冷却システムの不凍液循環回路内に設置し、エンジン冷却回路を流れる冷却用不凍液と、溶質が溶解された暖機用不凍液との間で熱交換させて、上記冷却回路を流れる冷却用不凍液を加熱することにより、エンジン始動時の暖機を行うように構成することができる。また、エンジン冷却回路を流れる冷却用不凍液に溶質を直接溶解させて、エンジンを暖機することもできる。
【0025】
また、不凍液が循環させられる駆動系の冷却回路に、本願発明に係る暖機回路を付属させ、自動車の始動時に、上記冷却回路の熱媒体の一部及び循環ポンプを利用して、駆動部以外の暖機部位を加熱するように構成することもできる。この構成を採用した場合、定常運転時には、上記冷却システムを用いて上記暖機部位を冷却することも可能となる。
【0026】
本願発明に係る暖機装置は、自動車の始動時において暖機を行うものであり、上記暖機が終了した後、溶媒に溶解された溶質を回収して次の始動時に備える必要がある。このため、本願発明では、上記溶媒に溶解された溶質を上記溶媒から気化させるとともに圧縮して、上記溶質保持タンクに回収する溶質回収手段が設けられる。
【0027】
一般に、温度が高くなれば、気体の溶解度は低下して、溶質が溶媒から気化させられる。始動後、自動車が定常運転される状態になると、暖機部位が自己発熱する場合が多い。このため、暖機部位において生じる熱を利用して上記溶質を回収することができる。
【0028】
上記溶質を回収する手段として、請求項6に記載した発明のように、上記溶媒保持タンク及び上記溶質循環回路内の溶質を吸引して圧縮するとともに、上記溶質保持タンクに圧送する圧縮機を備えて構成することができる。
【0029】
上記溶媒保持タンク内の圧力が低いほど、溶質の溶解度は低下する。このため、上記圧縮機の吸引力によって、溶媒保持タンク内の圧力を負圧にするよう構成するのが望ましい。
【0030】
上記圧縮機は、種々の形式のものを採用できる。また、溶質を液化するように構成することもできるし、圧縮のみ行うように構成することもできる。
【0031】
請求項7に記載した発明は、上記溶質回収手段を、回収される上記溶質に混合した溶媒及び不純物を除去する溶質分離装置を備えて構成したものである。溶質が溶媒から離脱して気化する際、溶媒の一部も気化される。また、上記溶質循環回路内を流動する際に不純物が混入する恐れもある。上記溶質分離装置を設けることにより、溶質を精度高く分離して、次回の暖機行程における発熱効率を高めることができる。
【0032】
上記溶質分離装置の構成は特に限定されることはない。たとえば、水分をベースとする溶媒を採用する場合、シリカゲル等の除湿剤を採用することにより、溶媒を除去することができる。また、不純物を除去するためにフィルター等を設けるのが好ましい。
【0033】
上記溶質及び上記溶媒も特に限定されることはないが、溶解熱の大きい組合せを採用するのが好ましい。たとえば、請求項8に記載した発明のように、上記溶媒として不凍液を採用するとともに、上記溶質としてアンモニアを採用できる。また、上記アンモニアの他にCO2を採用することもできる。
【0034】
アンモニアガスは、水に対して低温になるほど溶解度が高くなる。このため、自動車の低温始動時において、大量の溶解熱を発生させることができる。たとえば、0℃におけるアンモニアガスの水に対する溶解度は、水1ccに対して1176ccであり、溶解熱は、約33kJ/molである。このため、水1リットル当たり、約1650kJの熱量を発生させることができる。
【0035】
一方、上記暖機が終了した後には、迅速に溶媒から溶質を回収できるのが好ましい。上記アンモニアガスは、40℃における水に対する溶解度がほぼ0である。このため、定常運転時に発生する熱を利用して、上記アンモニアを水から容易に気化させることができる。したがって、アンモニアは、本願発明に係る溶質として好適である。
【0036】
上記溶媒として、水を主成分とする不凍液を採用するのが好ましい。寒冷地においては、マイナス50℃となる場合も考えられるため、使用温度に応じた不凍液を採用するのが好ましい。
【0037】
請求項9に記載した発明は、気体状の溶質を溶媒に溶解させることにより発生する溶解熱を、始動時に自動車の所定の暖機部位に作用させて加熱する自動車用暖機方法であって、溶質保持タンク内で高圧で保持された気体状あるいは液体状の溶質を、溶質循環回路内で膨張させるとともに、外気から吸熱させて昇温させる吸熱膨張行程と、上記膨張させた気体状の溶質を、溶媒保持タンク内に収容された液体状の溶媒に溶解させることにより上記溶媒を昇温させる溶解行程と、昇温した上記溶媒を、上記所定の暖機部位に作用させて暖機する暖機行程と、上記溶媒に溶解された上記溶質を気化させて回収するとともに圧縮し、上記溶質保持タンクに圧送する溶質回収行程とを含む自動車用暖機方法に関するものである。
【0038】
上記吸熱膨張行程は、請求項10に記載した発明のように、外気から吸熱できる吸熱装置を設けた上記溶質循環回路内で上記溶質を膨張させることにより行うことができる。
【0039】
上記溶解行程は、請求項11に記載した発明のように、気体状の溶質を上記液体状の溶媒に吹き込むことにより行うことができる。
【0040】
上記暖機行程は、請求項12に記載した発明のように、溶媒保持タンクの壁部を介して暖機部位を加熱することにより行うことができる。また、請求項13に記載した発明のように、上記暖機行程を、上記溶質が溶解された溶媒、又は上記溶媒によって加熱された熱媒体を、暖機部位に循環流動させることにより行うことができる。
【0041】
上記溶質回収行程は、請求項14に記載した発明のように、上記溶質循環回路内に設けられた圧縮機によって、上記溶媒から離脱して気化した溶質を吸引回収して圧縮し、上記溶質保持容器に圧送することにより行うことができる。
【0042】
また、請求項15に記載した発明のように、上記溶質としてアンモニアを採用するとともに、上記溶媒として不凍液を採用することができる。
【発明の効果】
【0043】
気体状の溶質を溶媒に溶解させる際に生じる溶解熱を利用することにより、発熱量が大きく、また、昇温した溶媒を利用して、自動車始動時に種々の部位を暖機できる自動車用暖機装置及び自動車用暖機方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0044】
【図1】本願発明の第1の実施形態に係る自動車用暖機装置の全体構成を示す図である。
【図2】第1の実施形態に係る溶媒保持タンク及び溶解手段の一例を示す図である。
【図3】本願発明に係る第2の実施形態に係る自動車用暖機装置の全体構成を示す図である。
【図4】第2の実施形態に係る溶媒保持タンク及び溶解手段の一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0045】
以下、本願発明を適用した自動車用暖機装置の一例について説明する。
【0046】
図1及び図2に、本願発明の第1の実施形態を示す。本実施形態は、電気自動車等に搭載される駆動用リチウムイオン電池10を加熱する自動車用暖機装置1に、本願発明を適用したものである。
【0047】
図1に示すように、本実施形態に係る暖機装置1は、液化又は圧縮された溶質としてのアンモニアガスを保持する溶質保持タンク3と、上記溶質保持タンクから流出させた上記溶質を吸熱膨張させる溶質膨張手段9,4と、溶媒としての不凍液を保持する溶媒保持タンク6と、上記電池10を加熱する加熱手段11と、上記溶媒に溶解された溶質を上記溶媒から気化させるとともに圧縮して、上記溶質保持タンク3に回収する溶質回収手段7,8と、上記溶質を上記各装置に流動させる溶質循環回路2とを備えて構成されている。
【0048】
上記溶質循環回路2は、上記溶媒保持タンク6の上流側に設けられる上流側溶質循環管路2aと、下流側に設けられる下流側溶質循環管路2bとから構成されている。上記各溶質循環管路2a,2bの端部と、上記溶質保持タンク3の出入口とが、三方弁9の接続口にそれぞれ接続されている。
【0049】
上記三方弁9は、図示しない制御装置によって開閉制御され、上記溶質保持タンク3を上記上流側溶質循環管路2aに接続することにより、上記溶質を上記循環回路2内に流入させる一方、上記溶質保持タンク6を上記下流側溶質循環管路2bに接続することにより、上記溶質循環回路2から上記溶質を回収するように構成されている。
【0050】
本実施形態では、溶質としてアンモニアが使用されている。アンモニアガスは、水に対して低温になるほど溶解度が高くなる。このため、自動車の低温始動時において、大量の溶解熱を発生させることができる。たとえば、0℃におけるアンモニアガスの水に対する溶解度は、水1ccに対して1176ccであり、溶解熱は、約33kJ/molである。このため、水1リットル当たり、約1650kJの熱量を発熱させることができる。
【0051】
一方、上記暖機が終了した後には、迅速に溶媒から溶質を気化させて回収するのが好ましい。上記アンモニアガスは、40℃における水に対する溶解度がほぼ0である。このため、定常運転時において、暖機部位から生じる熱を利用して、上記アンモニアを水から容易に気化させて回収することができる。
【0052】
また、アンモニアガスは、8気圧程度で液化する。したがって、上記溶質保持タンク3内に、8〜10気圧程度の圧力で液状のアンモニアを保持することができる。
【0053】
本実施形態では、上記溶質膨張手段を、上記三方弁9と吸熱装置4とを備えて構成している。液状のアンモニアは、容易に気化膨張させることができる。このため、上記三方弁9から上記吸熱装置4を設けた上流側溶質循環管路2aに、液状のアンモニアを流入させるだけで気化膨張させることができる。なお、気化を促進するために、液状の溶質を霧状に噴出させることができる膨張弁を設けることもできる。
【0054】
上記吸熱装置4は、上記三方弁9の接続口近傍の下流側溶質循環管路2aの外周部に吸熱フィン5を設けて構成されている。上記吸熱フィン5を設けることにより、上記三方弁9の接続口において気化膨張させられることにより温度が低下した溶質に、外気から吸熱させて昇温させることができる。上記溶質の気化膨張と吸熱とは連続的あるいは同時に生じ、吸熱膨張行程が行われる。本実施形態では、溶質を上記溶質循環回路内に導入することにより気化膨張させたが、気体状の溶質を保持するタンクを設け、気化膨張と吸熱とを別に行わせることもできる。
【0055】
上記溶媒保持タンク6内には、溶媒12としての不凍液(LLC)が充填されている。図2に示すように、上記溶媒12は、上記溶媒保持タンク6の上部に空間6aが形成されるように充填されている。上記空間6aから、上記下流側溶質循環管路2bが延出されている。
【0056】
上記溶媒保持タンク6の底部に、上記上流側溶質循環管路から供給される気体状の溶質14を上記溶媒12に溶解するための溶解手段が設けられている。本実施形態に係る上記溶解手段13は、多数の気体噴出用細孔を設けたパイプ状の噴出ノズルを、上記溶媒保持タンク6の底部に延入させて構成されている。上記噴出ノズルの細孔から気泡状の溶質14を溶媒12中に噴出させることにより、上記溶質14を上記溶媒12に溶解させる溶解行程が行なわれる。上記溶質14を上記溶媒12に溶解させると、上述した溶解熱が発生し、上記溶質14が溶解された溶媒12の温度が上昇させられる。そして、上記溶媒12を用いて上記電池10が加熱される。
【0057】
図2に示すように本実施形態では、上記溶媒保持タンク6の壁部を利用して、上記電池10を加熱する加熱手段11が構成されている。すなわち、溶媒保持タンク6の壁部に隣接するようにして電池10を設けている。上記溶媒保持タンク6内で溶解熱によって昇温させられた溶媒から上記壁部6bを介して熱が伝導して、電池10が加熱される。
【0058】
本実施形態では、上記溶媒保持タンク6内で、昇温した溶媒12が対流することができる。このため、発生した溶解熱を有効に利用することができる。
【0059】
自動車始動から時間が経過して定常運転状態になると、上記電池10は、自己発熱によって、上記溶媒12の温度以上の温度となり、上記溶媒に放熱する状態となる。これにより、上記溶媒12が加熱される。たとえば、リチウムイオン電池の場合、40℃程度まで温度が上昇するため、上記溶媒12が加熱される。
【0060】
一方、上記溶媒12に溶解しているアンモニアガスの溶解度は、40℃においてほぼ0となる。このため、上記溶媒12に溶解している溶質14は、溶媒の温度が上昇するにつれて、上記溶媒保持タンク内で気化されることになる。
【0061】
本実施形態では、上記気化された溶質14を回収する溶質回収手段が設けられている。上記溶質回収手段は、上記下流側溶質循環管路2bに設けられた圧縮機7と、気化させられた溶質を分離する分離装置8とを備えて構成される。
【0062】
上記圧縮機7は、上記溶媒12が所定の温度に達した時に運転を開始するように制御されている。また、上記圧縮機7の始動と同時に、上記下流側溶質循環管路2bを上記溶質保持タンク3に連通するように、上記三方バルブ9が切り換えられる。上記圧縮機7は、上記溶媒保持タンク6の内部空間6a及び圧縮機7にいたる下流側溶質循環管路2b内の気体状の溶質(アンモニアガス)を吸引して圧縮し、上記三方バルブ9を介して上記溶質保持タンク3に送ることにより、溶質回収行程が行われる。また、圧縮機7の上記吸引動作によって、上記溶媒保持タンク6内の圧力が低下させられ、上記溶質14の気化が促進される。上記圧縮機7による圧縮は、溶質14を液化するように行うこともできるし、高圧の気体状態に圧縮してもよい。
【0063】
本実施形態では、上記溶媒12として水を主成分とする不凍液を採用しているため、上記溶質14が上記溶媒から離脱して気化する際、上記溶媒12の一部の水分も気化される。このため、回収された溶質に水分が混入している。また、上記溶質に不純物が混入する恐れがある。上記溶質14からこれら成分を除去するために、上記分離装置8が設けられている。
【0064】
上記分離装置8は、上記水分を吸着するための吸着剤と、上記不純物を除去するためのフィルターとを備えて構成されている。上記分離装置8を設けることにより、上記溶質を精度高く分離することが可能となり、水分や不純物が除去された溶質を上記溶質保持タンク3に回収することができる。このため、次回の自動車始動時に、純度の高い溶質を溶媒に作用させることが可能となり、発熱量の低下を防止することができる。
【0065】
図3及び図4に本願発明の第2の実施形態を示す。第2の実施形態では、電池10を加熱する加熱手段11として、暖機用の熱媒体が流動させられる暖機回路が設けられている。なお、溶媒保持タンク6と上記加熱手段11以外の構成は、第1の実施形態と同様であるので説明は省略する。
【0066】
上記溶媒保持タンク6内には、溶媒12としての不凍液(LLC)が充填されている。図4に示すように、上記溶媒12は、上記溶媒保持タンク6の上部に空間6aが形成されるように充填されている。上記空間6aから、上記下流側溶質循環管路2bが延出されている。
【0067】
上記溶媒保持タンク6の底部に、上記上流側溶質循環管路2aから供給される気体状の溶質14を上記溶媒12に溶解するための溶解手段13が設けられている。第1の実施形態と同様に、上記溶解手段13は、多数の気体噴出用細孔を設けたパイプ状の噴出ノズルを、上記溶媒保持タンクの底部に延入させて構成されている。上記噴出ノズルの細孔から気泡状の溶質14を溶媒12中に噴出させることにより、上記溶質14を上記溶媒12に溶解させる溶解行程が行なわれる。上記溶質14を上記溶媒12に溶解させると、上述した溶解熱が発生し、上記溶質14が溶解された溶媒12の温度が上昇させられる。そして、上記溶媒12を用いて上記電池10が加熱される。
【0068】
上記加熱手段11は、上記溶媒保持タンク6内を貫通して設けられる熱交換管路11eと、上記溶媒保持タンク6の側部から延出させられた熱媒体送出管路11aと、この熱媒体送出管路11aの先端部が接続されるとともに上記電池10のハウジングに接するように設けられた加熱装置11bと、上記熱媒体送出管路11aの途中に設けられた循環ポンプ11cと、上記加熱装置11bから延出して上記溶媒保持タンク6に接続された熱媒体戻り管路11dとを備えて構成されている。上記暖機回路には、暖機用の熱媒体として不凍液が充填されている。
【0069】
図4に示すように、上記熱交換管路11eの外周部分には、暖機用の熱媒体と上記溶媒12との間の熱交換を促進するフィン15が設けられている。
【0070】
上記溶媒保持タンク6内の溶媒12の温度が上昇した後、上記循環ポンプ11cを運転することにより、上記溶媒12との熱交換により温度が上昇した暖機用の熱媒体が、暖機回路内を流動させられて、上記電池10を加熱する。これにより、暖機行程が行われて、電池10の温度が上昇させられ、始動時の発電能力を高めることができる。
【0071】
第1の実施形態と同様に、自動車始動から時間が経過して定常運転状態になると、上記電池は、自己発熱によって温度が上昇し、暖機用熱媒体に放熱する状態となる。また、この暖機用熱媒体を介して、上記溶媒12が加熱される。
【0072】
第2の実施形態においても、上述した第1の実施形態と同様に、圧縮機7と、分離装置8とを備える溶質回収手段が設けられており、第1の実施形態と同様にして溶質回収行程が行われる。
【0073】
本実施形態における上記暖機装置1では、気体状の溶質14を溶媒12に溶解させる際に生じる溶解熱を利用しているため、発熱量が大きい。また、溶媒12としての不凍液自体が発熱させられるため、溶媒保持タンク内で対流することができる。このため、上記溶媒を利用して自動車始動時に種々の部位の暖機を行うことができる。なお、上述した第1の実施形態のように、溶媒保持タンク6を利用して直接暖気部位を過熱することができる。また、第2の実施形態のように、流動性のある熱媒体を介して暖気部位を過熱することができる。さらに、溶媒自体を流動させて、暖気部位を過熱することもできる。
【0074】
また、定常運転状態となった後は、上記溶媒又は上記暖機用熱媒体を用いて暖機部位の冷却を行うことができる。特に、上記溶質を回収する際に、溶媒から気化熱が奪われて溶媒の温度が低下するため、上記溶質回収過程における冷却効果を期待できる。
【0075】
さらに、第2の実施形態に係る上記熱媒体送出管路11aあるいは熱媒体戻り管路11dを自動車の駆動部を冷却する冷却回路や、ラジエータに接続することにより、定常運転状態で、上記暖機部位を連続的に冷却するように構成することも可能となる。このため、始動時の暖機と、定常運転時の冷却とを一つの装置で効率よく行うことも可能となる。
【0076】
上記実施形態では、本願発明を、電池10を加熱する暖機装置に適用したが、エンジンブロックや、パワートレイン等を加熱する暖機装置に適用することができる。
【0077】
また、実施形態では、電池10の自己発熱と、圧縮機7による吸引時の負圧によって、上記溶質を回収するように構成したが、自己発熱しない部位の暖機に適用する場合や、自己発熱のみでは溶質を充分に回収できない場合には、上記溶媒保持タンクに溶質回収用の加熱ヒータを設けることもできる。たとえば、定常運転に入ったエンジンやモータの排熱を利用したヒータを設けることにより、溶質が溶解された溶媒を加熱し、溶質の回収を促進することができる。
【0078】
上記開示された本願発明の実施の形態の構造は、あくまで例示であって、本願発明の範囲はこれらの記載の範囲に限定されるものではない。本願発明の範囲は、特許請求の範囲の記載によって示され、さらに特許請求の範囲の記載と均等の意味及び範囲内でのすべての変更を含むものである。
【産業上の利用可能性】
【0079】
自動車の低温始動時に、所定の部位を加熱することにより、燃費やエネルギ効率を高めることができる。
【符号の説明】
【0080】
1 暖機装置
2 溶質循環回路
3 溶質保持タンク
4 溶質膨張手段
6 溶媒保持タンク
7 溶質回収手段
8 溶質回収手段
9 溶質膨張手段
10 暖機部位(電池)
11 加熱手段
12 溶媒
13 溶解手段(噴出ノズル)
14 溶質

【特許請求の範囲】
【請求項1】
気体状の溶質を溶媒に溶解させることにより発生する溶解熱を、始動時に自動車の所定の暖機部位に作用させて加熱する自動車用暖機装置であって、
液化又は圧縮された上記溶質を保持する溶質保持タンクと、
上記溶質保持タンクから流出させた上記溶質を吸熱膨張させる溶質膨張手段と、
上記溶媒を保持する溶媒保持タンクと、
上記溶媒保持タンクに保持された上記溶媒に、上記溶質を溶解させる溶解手段と、
上記溶質が溶解されて昇温した溶媒を、暖機部位に作用させて加熱する加熱手段と、
上記溶媒に溶解された溶質を上記溶媒から気化させるとともに圧縮して、上記溶質保持タンクに回収する溶質回収手段と、
上記溶質を上記各手段に流動させる溶質循環回路とを備える、自動車用暖機装置。
【請求項2】
上記溶質膨張手段は、
上記循環回路内で上記溶質を膨張させる膨張弁と、
膨張させられた溶質に外気から吸熱させる吸熱手段とを備えて構成されている、請求項1に記載の自動車用暖機装置。
【請求項3】
上記溶解手段は、気体状の上記溶質を上記溶媒に溶解させる吹き込み装置を備えて構成されている、請求項1又は請求項2のいずれかに記載の自動車用暖機装置。
【請求項4】
上記加熱手段は、上記溶媒保持タンクの壁部を介して上記暖機部位を加熱するように構成されている、請求項1から請求項3のいずれか1項に記載の自動車用暖機装置。
【請求項5】
上記加熱手段は、上記溶媒、又は上記溶媒によって加熱された熱媒体を上記暖機部位に流動させて加熱を行う暖機回路を備えて構成されている、請求項1から請求項3のいずれか1項に記載の自動車用暖機装置。
【請求項6】
上記溶質回収手段は、上記溶媒保持タンク及び上記溶質循環回路内の溶質を吸引して圧縮するとともに、上記溶質保持タンクに圧送する圧縮機を備えて構成される、請求項1から請求項5のいずれか1項に記載の自動車用暖機装置。
【請求項7】
上記溶質回収手段は、回収される上記溶質に混合した溶媒及び不純物を除去する溶質分離装置を備えて構成される、請求項1から請求項6のいずれか1項に記載の自動車用暖機装置。
【請求項8】
上記溶媒が不凍液であり、上記溶質がアンモニアである、請求項1から請求項7のいずれか1項に記載の自動車用暖機装置。
【請求項9】
気体状の溶質を溶媒に溶解させることにより発生する溶解熱を、始動時に自動車の所定の暖機部位に作用させて加熱する自動車用暖機方法であって、
溶質保持タンク内で高圧で保持された気体状あるいは液体状の溶質を、溶質循環回路内で膨張させるとともに、外気から吸熱させて昇温させる吸熱膨張行程と、
上記膨張させた気体状の溶質を、溶媒保持タンク内に収容された液体状の溶媒に溶解させることにより上記溶媒を昇温させる溶解行程と、
昇温した上記溶媒を、上記所定の暖機部位に作用させて暖機する暖機行程と、
上記溶媒に溶解された上記溶質を気化させて回収するとともに圧縮し、上記溶質保持タンクに圧送する溶質回収行程とを含む、自動車用暖機方法。
【請求項10】
上記吸熱膨張行程は、外気から吸熱できる吸熱装置を設けた上記溶質循環回路内において上記溶質を膨張させることにより行われる、請求項9に記載の自動車用暖機方法。
【請求項11】
上記溶解行程は、気体状の溶質を上記溶媒に吹き込むことにより行われる、請求項9又は請求項10のいずれかに記載の自動車用暖機方法。
【請求項12】
上記暖機行程は、溶媒保持タンクの壁部を介して暖機部位を加熱することにより行われる、請求項9から請求項11のいずれか1項に記載の自動車用暖機方法。
【請求項13】
上記暖機行程は、上記溶質が溶解された溶媒、又は上記溶媒によって加熱された熱媒体を、暖機部位に循環流動させることにより行われる、請求項9から請求項11のいずれか1項に記載の自動車用暖機方法。
【請求項14】
上記溶質回収行程は、上記溶質循環回路内に設けられた圧縮機によって、上記溶媒から離脱して気化した溶質を吸引回収して圧縮し、上記溶質保持容器に圧送することにより行われる、請求項9から請求項13のいずれか1項に記載の自動車用暖機方法。
【請求項15】
上記溶質がアンモニアであるとともに、上記溶媒が不凍液である、請求項9から請求項14のいずれか1項に記載の自動車用暖機方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2011−101514(P2011−101514A)
【公開日】平成23年5月19日(2011.5.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−254831(P2009−254831)
【出願日】平成21年11月6日(2009.11.6)
【出願人】(000002130)住友電気工業株式会社 (12,747)
【Fターム(参考)】