説明

自動車用駆動装置

【課題】ハイブリッド自動車で電気自動車として走行する場合に、2個のモーター・ジェネレーター(M/G)の同時駆動を可能にして、より小さい容量のM/Gで済ませる。
【解決手段】出力遊星歯車組20と、入力歯車群30と、第1モーター・ジェネレーター42と、第2モーター・ジェネレーター52と、を備え、出力軸12は第1キャリア28と連結し、第2モーター・ジェネレーター52は第1サンギヤ22と連結し、第1リングギヤ24を静止部46に固定可能な手段を有し、入力軸10は入力歯車群30を介して第1リングギヤ24を増速駆動可能であり、第1モーター・ジェネレーター42は入力軸10と直接または入力歯車群30を介して連結可能であるとともに、第1リングギヤ24を駆動可能とした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、内燃機関と電気モーターの2種類の動力源を有する、いわゆるハイブリッド自動車の駆動装置に関し、特にエンジンより入力される動力を、遊星歯車を介して出力軸へ伝達可能で、複数のモーターを備えた自動車用駆動装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、この種の自動車用駆動装置としては、2個のモーター・ジェネレーター(以下、M/Gと記す)、2組の遊星歯車組、および該遊星歯車組の回転要素同士間の接続関係を切り替える2個の摩擦要素を備え、該摩擦要素の接続を切り替えることにより低速モードと高速モードの2種類の駆動モードを得るようにした例が知られている(たとえば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】米国特許第6,478,705号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、2個のM/G、2組の遊星歯車組および2個の摩擦要素を備え、低速モードと高速モードの2種類の駆動モードを有する方式とした上記従来の自動車用駆動装置にあっては、バッテリーに蓄えた電力のみを動力源として、いわゆる電気自動車と同じような走行をする場合に、1個のM/Gでしか駆動することができず、せっかく2個のM/Gを備えているにもかかわらず、両M/Gを有効活用できず、これによる強力な駆動力を得ることができないという問題があった。
【0005】
解決しようとする問題点は、バッテリーの電力のみを動力源として電気自動車と同じ走行をする場合に、1個のM/Gでしか駆動することができず、このため、大きな駆動力を発揮するには大きな容量のM/Gが必要となる点である。
本発明の目的は、2個のM/Gを備えたハイブリッド自動車にあって、電気自動車として走行する場合に2個のM/Gを使った駆動を可能にし、これにより、より小さい容量のM/Gの適用で済ませることができるようにすることにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の自動車用駆動装置は、エンジンからの動力を受け入れ可能な入力軸と、出力軸と、入力歯車群と、第1サンギヤ、第1リングギヤ、第1キャリアの、3つの回転要素を有する出力遊星歯車組と、第1モーター・ジェネレーターと、第2モーター・ジェネレーターと、を備え、出力軸は第1キャリアと連結し、第2モーター・ジェネレーターは第1サンギヤと連結し、第1リングギヤを静止部に固定可能な手段を有し、入力軸は入力歯車群を介して第1リングギヤを増速駆動可能であり、第1モーター・ジェネレーターは入力軸と直接または入力歯車群を介して連結可能であるとともに、第1リングギヤを駆動可能であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0007】
本発明の自動車用駆動装置は、ハイブリッド自動車(HV)用でありながら、バッテリーのみを動力源とした電気自動車(EV)走行において2個のM/Gで同時駆動することができる。したがって、2個のM/Gの合計容量を小さくして、コスト・重量・大きさの面でメリットを出すことが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1】本発明の実施例1に係る自動車用駆動装置の主要部を示したスケルトン図である。
【図2】実施例1の自動車用駆動装置における作動表を示す図である。
【図3】実施例1の自動車用駆動装置における共通速度線図である。
【図4】実施例1の自動車用駆動装置における他の共通速度線図である。
【図5】本発明の実施例2に係る自動車用駆動装置の主要部を示したスケルトン図である。
【図6】実施例2の自動車用駆動装置における作動表を示す図である。
【図7】本発明の実施例3に係る自動車用駆動装置の主要部を示したスケルトン図である。
【図8】実施例3の自動車用駆動装置における作動表を示す図である。
【図9】実施例3の自動車用駆動装置における共通速度線図である。
【図10】実施例3の自動車用駆動装置における他の共通速度線図である。
【図11】本発明の実施例4に係る自動車用駆動装置の主要部を示したスケルトン図である。
【図12】実施例4の自動車用駆動装置における作動表を示す図である。
【図13】本発明の実施例5に係る自動車用駆動装置の主要部を示したスケルトン図である。
【図14】実施例5の自動車用駆動装置における作動表を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明の実施の形態に係る自動車用駆動装置を、各実施例に基づき図とともに説明する。
【実施例1】
【0010】
図1は、本発明の実施例1に係る自動車用駆動装置における主要部のスケルトン図である。
実施例1の自動車用駆動装置は、エンジン1から駆動される入力軸10と、該入力軸10と同軸心上に設けられた出力軸12を備えている。出力軸12は図示しない差動装置などを介して自動車の車輪を駆動する。
入力軸10と出力軸12との間には、第1遊星歯車組20、第2遊星歯車組30の2つの遊星歯車組が配置してある。第1遊星歯車組20および第2遊星歯車組30は一般的にシングルピニオン型と呼ばれるもので、それぞれが同様の構成になっている。
【0011】
すなわち、第1遊星歯車組20は、第1サンギヤ22と、第1リングギヤ24と、第1サンギヤ22および第1リングギヤ24に噛み合った複数の第1ピニオン26を回転自在に軸支する第1キャリア28と、の3つの回転要素で構成され、本発明の出力遊星歯車組を構成する。
また、第2遊星歯車組30は、第2サンギヤ32と、第2リングギヤ34と、第2サンギヤ32および第2リングギヤ34に噛み合った複数の第2ピニオン36を回転自在に軸支する第2キャリア38と、の3つの回転要素で構成され、本発明の入力歯車群を構成する。
【0012】
次に、上記各回転要素と他の回転メンバーとの連結関係を説明する。
入力軸10は、第2キャリア38と連結されるとともに、第1クラッチ40により第1M/G42と連結可能である。
第2サンギヤ32は、ブレーキ44を介してケース46(静止部)に固定可能である。
第1リングギヤ24は、第2リングギヤ34と連結されるとともに第2クラッチ48により第1M/G42と連結可能であり、ワンウエイクラッチ50により一方の回転方向にのみケース46に固定可能である。
第1サンギヤ22は第2M/G52と、また第1キャリア28は出力軸12と、それぞれ連結されている。
【0013】
なお、ワンウエイクラッチ50は、第1リングギヤ24がエンジン1の回転方向と逆の方向に回転するのを阻止するようになっているもので、本実施例では周知の機械式のものを用いるが、油圧多板式ブレーキで締結・開放制御するものなどでもよい。
【0014】
次に、図1に示した自動車用駆動装置の作動を、図2に示した作動表を参考にしながら説明する。
図2の作動表において、縦方向にこれから説明する走行モードと各駆動モードを割り当て、横方向にはクラッチなどの締結要素とM/Gをそれぞれ割り当ててある。すなわち、第1クラッチ40を「C1」、第2クラッチ48を「C2」、ブレーキ44を「B」、ワンウエイクラッチ50を「OWC」、第1M/G42を「M/G1」、第2M/G52を「M/G2」とした。
【0015】
表中の○印はクラッチなどの摩擦要素を含む締結要素にあっては締結・係合を表し、第1M/G42、第2M/G52にあっては駆動を表し、△印は第1M/G42、第2M/G52において発電を表している。第1M/G42における−印は停止することを表す。また、括弧付き○印は、締結するものの動力伝達には必須でないことを表している。
【0016】
なお、図示は省略するが図1に示した自動車用駆動装置は、これを作動させるため、必要に応じて油圧ポンプ、バッテリー、各種センサ、コントローラー、アクチュエーターなどを備えており、以下の作動はコントローラーの指示に基づいて行われる。
また、以下の説明ではエンジン1の回転方向と同じ方向の回転を「正回転」、その逆を「逆回転」と定義する。
さらに、各遊星歯車組の歯数比(サンギヤの歯数/リングギヤの歯数)を、第1遊星歯車組20にあってはα1、第2遊星歯車組30にあってはα2とする。
【0017】
始めに、バッテリーに蓄えた電力のみを動力源として、いわゆる電気自動車(EV)として走る、EV走行について説明する。
EV走行は、E−1モードとE−2モードの2種類の駆動モードがある。
E−1モードは、第2M/G52のみを使った駆動である。つまり、第2M/G52が第1サンギヤ22を正回転駆動すると、第1リングギヤ24がワンウエイクラッチ50により逆回転を阻止されるので、第1キャリア28と連結した出力軸12は減速駆動される。
この場合の出力トルクToは、第2M/G52のトルクをT2とした場合、T2(1+α1)/α1である。
このとき、第2クラッチ48は締結しているものの、動力伝達には関与しない。
【0018】
次に、E−1モードからE−2モードへの切り替えは、ワンウエイクラッチ50が自動的に解放するだけで、クラッチなどの摩擦要素の切り替え操作は必要ない。ここで、E−2モードは、駆動に第1M/G42と第2M/G52の両方、または第2M/G52による駆動なしで第1M/G42のみを用いる。
すなわち、第1M/G42のみを正回転させて駆動する場合は、第2クラッチ48および第2リングギヤ34を介して、第1リングギヤ24を駆動する。このとき、第2M/G52に若干の電流を供給して第2M/G52の停止を維持させると、第1リングギヤ24は第1キャリア38と連結した出力軸12を減速駆動する。
【0019】
この場合の出力トルクToは、第1M/G42のトルクをT1とした場合、T1(1+α1)である。
なお、このとき第2M/G52に作用するトルクをT2とすると、T2と出力トルクToとの関係はE−1モードと同じ、T2(1+α1)/α1である。つまり、本発明の各実施例においては第2M/G52のトルクT2と出力トルクToの関係は、常にTo=T2(1+α1)/α1である。
【0020】
一方、第1M/G42と第2M/G52の両方で駆動する場合は、上記の第1M/G42が正回転して駆動するのに加えて第2M/G52を正回転させる。この場合の出力トルクToは、T1とT2の和になるが、このときもTo=T2(1+α1)/α1の関係は変わらない。
【0021】
また、上述したようにE−1モードとE−2モードにおいては摩擦要素の切り替えは必要ないので、第1M/G42のみで駆動すること、第2M/G52のみで駆動すること、および両者で駆動することが自由に制御できる。
したがって、第1M/G42と第2M/G52を、あえて異なる容量に設定しておくと、3種類のモーター容量で駆動することが可能になる。
【0022】
次に、後進の場合は、作動表のE−Rで表したように、第1クラッチ40、第2クラッチ48、ブレーキ44の全部を締結する。すなわち、これにより第2遊星歯車組30の全ての回転要素が一体になるとともにケース46に固定される。
したがって、第1リングギヤ24も固定されるので、第2M/G52を逆回転させることで、後進することができる。
このときの出力トルクToは、回転方向が逆回転方向になるだけでE−1モードと同じである。
また、次で説明するEB走行では後進の説明を省略するが、後進走行中に第2M/G52に発電させて制動する作用は、E−Rモードにおける第2M/G52の駆動が発電に変わるだけで、摩擦要素の締結はE−Rモードと同じである。
【0023】
続いて、前進走行中においてエンジン1が停止した状態で、第1M/G42と第2M/G52のいずれも駆動せずに惰行するか、あるいはいずれかが発電して自動車を制動する作用について説明する。
これらの走行は作動表のEB欄に記載してある。
【0024】
B−1モードは、第2クラッチ48を締結して行う。すなわち前述のE−2モードと同じ締結であり、第1M/G42と第2M/G52が駆動ではなく発電になる点がE−2モードと異なる。
すなわち、第1M/G42のみで発電すること、第2M/G52のみで発電すること、および両者で発電することを自由に制御して、3種類の制動を得ることができる。
なお、B−1モードは高速走行中の制動、またはあまり積極的に制動せずに惰行する場合など比較的弱い制動を得るのに適する。
また、B−1モードではブレーキ44を締結しておいて、次のB−2モードへの切り替えに備えることができる。
【0025】
次にB−2モードは、E−Rモードと同様に全部の摩擦要素40、44、48を締結し、第2M/G52に発電させることで制動する。
B−2モードはあまり高速でない走行中により強力な制動を得たい場合に適する。
これら、B−1モード、B−2モードで発電した電力は、バッテリーに蓄えて次の加速等に使うことにより、いわゆるエネルギー回生を行って電力消費を少なくする。
【0026】
次に、エンジン1を始動して第1M/G42と第2M/G52の両者を併用して走行するハイブリッド自動車(HV)として走る、HV走行について説明する。
HV走行は、バッテリーの充電量が少なくなった場合の一般走行や、EV走行では得られない大きな駆動力を要する加速または登坂、および高速走行等において用いる。
【0027】
始めにエンジン1の始動について説明する。
エンジン1の始動は、第1クラッチ40を締結した上で第1M/G42に電力を供給して正回転させる。これによりエンジン1が正回転方向に駆動されるので、燃料供給や点火動作などの一般的な方法でエンジン1が始動する。
この作用は自動車の駆動から独立したものであり、E−1モードによる走行中にエンジン1を始動することができる。
したがって、HV走行であっても発進と低速走行はE−1モードで走行することができる。
【0028】
エンジン1が始動した後は、そのままの締結で自動的にH−1モード(HV走行での低速モード)へ移行する。すなわち、H−1モードの駆動は第1クラッチ40が締結されているので、エンジン1により駆動される第1M/G42が発電し、その電力を第2M/G52に供給してE−1モードと同様に出力軸12を減速駆動する。
これは、いわゆるシリーズ型と呼ばれるハイブリッド駆動であり、エンジン1の動力の全てを第1M/G42で電力に変換して第2M/G52へ伝達する。
【0029】
次に、H−1モードからH−2モードへの切り替えは、第1クラッチ40の締結に加えて、第2クラッチ48を締結することで行われる。
両クラッチ40、48の締結により入力軸10は第2遊星歯車組30および第1M/G42と一体になって第1リングギヤ24と連結され、これを駆動する。
すなわち、エンジン1は第1M/G42を駆動して発電するとともに、第1リングギヤ24を駆動する。
【0030】
H−2モードは一般にパラレル型と呼ばれるハイブリッド駆動であり、エンジン1の動力の一部は第1遊星歯車組20を介して機械的に、残りは第1M/G42で電力に変換して第2M/G52へ、それぞれ伝達する。
つまり、第2M/G52が第1サンギヤ22を駆動する際の反力トルクが第1リングギヤ24に作用するので、この反力トルクに相当するトルクでエンジン1は第1リングギヤ24を駆動し、残りを電気的に伝達することになる。
したがって、H−1モードよりも電気的な動力伝達比率が下がる。一般的に電気的な動力伝達は機械的な伝達に比べて伝達ロスが大きいので、H−2モードはH−1モードより動力伝達効率が高い。
H−2モードは、低速から中速度域のHV走行に適する。
【0031】
H−2モードにおける第1遊星歯車組20の速度線を図3の共通速度線図に示す。
図3は、各回転メンバーの回転速度の関係を直線で表すことができる共通速度線図であり、H−2モードにおける状態を表している。
【0032】
共通速度線図にあっては、図の縦軸方向が回転速度を表し、各回転メンバーに対応する縦線がそれぞれ横方向に、上記した各遊星歯車組の歯数比α1に応じた間隔で割り振って描いてある。
なお、同図中、速度線を太い線で描いてあり、これと各メンバーの縦線との交点(●印で表示)の縦軸方向の高さ(位置)が、そのメンバーの回転速度を表す。
【0033】
ここで、共通速度線図の縦線で表した各回転メンバーを横方向左端から順番に、第1リングギヤ24を「R1」、第1キャリア28を「C1」、第1サンギヤ22を「S1」として表している。また、それらの上方に、これらと連結していて駆動に関わる、第2M/G52を「MG2」として、出力軸12と連結された第1キャリア28(C1)を「Out」として書いた。
【0034】
図3は、入力軸10と連結した第1リングギヤ24(R1)の回転速度を1として、第1サンギヤ22(S1)にあっては第2M/G52の回転速度をゼロとして描いたのが実線であり、2として描いたのが破線である。
むろん、第2M/G52の回転速度は図3に示した例(回転速度0、2)に限ることなく無段階に変化させることができる。すなわち、第2M/G52の回転速度をゼロから2まで変化させると、出力軸12と連結した第1キャリア28の回転速度は「v2」で示した範囲で変化する。
【0035】
次に、さらに自動車の速度が上昇した場合などにおいて、H−2モードからH−3モードへの移行が行われる。
H−3モードへの移行は第2クラッチ48の締結を解除して、ブレーキ44を締結して行う。
この際、第1M/G42に電力を供給して回転速度を正回転方向に上げてからブレーキ44を締結するのが望ましい。
【0036】
これにより、第2遊星歯車組30は第2サンギヤ32が固定されるので、第1リングギヤ24と連結された第2リングギヤ34は入力軸10により増速駆動される。すなわち、第2遊星歯車組30の歯数比をα2とすると、増速比(入力軸10の回転速度/第1リングギヤ24の回転速度)は、1/(1+α2)である。
【0037】
H−3モードにおける第1遊星歯車組20の速度線を図4の共通速度線図に示す。
図3との違いは、上記増速比によって第1リングギヤ24(R1)が入力軸10の回転速度1より高い速度になっていることである。
図4も、第1サンギヤ22(S1)と連結した第2M/G52の回転速度をゼロとして描いたのが実線であり、2として描いたのが破線である。
この場合も、第2M/G52の回転速度をゼロから2まで変化させると、出力軸12と連結した第1キャリア28の回転速度は「v3」で示した範囲で変化する。
図3と見比べると分かるように、H−3モードのv3の範囲はH−2モードのv2よりも高回転速度側にあり、H−3モードは高速走行に適していると言える。
【0038】
続いてH−4モードへの切り替えは、第1クラッチ40の締結を解除して、再び第2クラッチ48を締結することで行う。
H−3モードとの違いは、第1M/G42の回転速度である。すなわち、H−3モードでは第1M/G42が入力軸10と連結されていたので、その回転速度はエンジン1と同じであったのに対して、H−4モードにあっては第2リングギヤ34と連結されるので、入力軸10から増速駆動されて高速回転することである。
したがって、H−4モードにおける第1遊星歯車組20の速度線は図4に示したのと同じである。
H−4モードとH−3モードのどちらを選択するかは、自動車の走行条件や各M/G42、52の性能(特性)を考慮して決めればよい。
【0039】
以上は、HV走行としてエンジン1と第1M/G42および第2M/G52の併用で出力軸12を駆動する場合の説明を行ったが、減速する場合や降坂する場合には、前述のEB走行で説明したように、エンジン1を止めて第1M/G42および第2M/G52に発電させて制動することができる。
【0040】
また、図1で分かるように、第1クラッチ40、第2クラッチ48、ブレーキ44といった摩擦要素は、第1遊星歯車組20、第2遊星歯車組30およびワンウエイクラッチ50などのオイル潤滑が必要な要素と離れた配置が可能であり、したがってこれらの摩擦要素40、44、48を乾式の摩擦要素とすることが容易にできる。
【0041】
この場合、さらに、第1クラッチ40、第2クラッチ48、ブレーキ44を、スプリングの張力で常に締結する構成にして、締結を解除するときだけアクチュエーターで操作するようにすれば、一般的な自動変速機などが有する油圧ポンプを用いないで済ませることができる。それらにより、油圧ポンプを駆動する動力や湿式の摩擦要素につきまとう引きずり抵抗といったロスを回避するころが出来るので、より一層、電力消費効率や燃料消費効率の高い走行が期待できる。
【0042】
以上説明したように、本実施例1の自動車用駆動装置は出力遊星歯車組である第1遊星歯車組20と、入力歯車群である第2遊星歯車組30とを備えるため、EV走行において第1M/G42と第2M/G52との両方をフルに活用できる。
このため、第1M/G42と第2M/G52の合計容量が自動車のEV走行に必要とする容量を満足すれば済むとともに、バッテリーの電力のみを動力源とするEV走行においては、自動車の走行条件に応じて最適な駆動モードを選択することで、電力消費率の高い走行を行うことができる。
【0043】
さらに、エンジン1の動力を用いるHV走行においても、低速用のH−1モードと中速用のH−2モード、高速用のH−3モード、H−4モードを、走行条件に応じて適切に使い分けて燃料消費率の高い走行を行うことができる。
【0044】
したがって、たとえば市街地走行などの短距離は主に電気自動車として走行して、バッテリーの電力が少なくなった場合にエンジン1の動力で走行する、いわゆるプラグインハイブリッド自動車と呼ばれる車両等の駆動装置として用いるのに適する。
【実施例2】
【0045】
次に、本発明の実施例2の自動車用駆動装置につき説明する。
図5は、本発明の実施例2に係る自動車用駆動装置の主要部のスケルトン図である。
ここでは、実施例1と異なる部分を中心に説明し、実施例1と実質的に同じ部分については同じ符号を付し、それらの説明を省略する。
【0046】
実施例2における実施例1との違いは、第1遊星歯車組20と第2遊星歯車組30との間に第3遊星歯車組60が配置されていることである。
すなわち、第3遊星歯車組60は第3サンギヤ62と、第3リングギヤ64と、第3サンギヤ32および第3リングギヤ64に噛み合った複数の第3ピニオン66を回転自在に軸支する第3キャリア68と、の3つの回転要素で構成され、第2遊星歯車組30とともに入力歯車群を構成している。
【0047】
そして、第3サンギヤ62は常にケース46に固定されており、第3リングギヤ64は第2クラッチ48によって第1M/G42と連結可能であり、第3キャリア68は第1リングギヤ24および第2リングギヤ34と連結している。
したがって第3遊星歯車組60は、第2クラッチ48が締結された場合に、第1M/G42が第1リングギヤ24を減速駆動する作用を行う。
その場合の減速比(第1M/G42の回転速度/第1リングギヤ24の回転速度)は、第3遊星歯車組60の歯数比をα3とした場合、1+α3である。
【0048】
続いて実施例2の作動を説明する。
実施例2の作動表は実施例1と同じであり、図2を参考に説明する。
E−1モードは第3遊星歯車組60の存在は関係ないので実施例1と同様であり、説明を省略する。
【0049】
E−2モードは、第2クラッチ48が締結されているので、前述のように第1M/G42が第1リングギヤ24を減速駆動する。したがって、第1遊星歯車組20における各回転要素の回転速度を実施例1と同じとして比較した場合、第1M/G42の回転速度は実施例1の(1+α3)倍である。
E−2モードの出力トルクToは、第1M/G42のトルクをT1、第2M/G52のトルクをT2とした場合、T1(1+α3)+T2である。
【0050】
EB走行のB−1モードもEV走行のE−2モードと同様であり、B−1モードでの第1M/G42の回転速度も実施例1と比べて(1+α3)倍である。
B−2モードは、実施例1と同様に全ての摩擦要素40、44,48、が締結されて第1リングギヤ24が固定されるので第3遊星歯車組60の存在は関係なく、説明を省略する。
【0051】
続いてHV走行の作動について説明する。
エンジン1の始動とH−1モードの作動は、第3遊星歯車組60の存在は関係なく実施例1と同様であり、説明を省略する。
H−2モードは、第1クラッチ40と第2クラッチ48が締結されることによって、入力軸10は第1M/G42とともに、第3遊星歯車組60を介して第1リングギヤ24を減速駆動する。その減速比も前述の1+α3である。
【0052】
H−2モードの共通速度線図を図6に示す。第1リングギヤ24の回転速度は減速されて入力軸10の回転速度1より低い位置にあり、図3、図4と同様に第2M/G52の回転速度をゼロとして描いたのが実線であり、2として描いたのが破線である。
この場合も、第2M/G52の回転速度をゼロから2まで変化させると、出力軸12と連結した第1キャリア28の回転速度はv2で示した範囲で変化する。
【0053】
続くH−3モードとH−4モードの動力伝達は実施例1と同様であるので詳細の説明は省略する。ただ、H−4モードにおける第1M/G42の回転速度は、第3遊星歯車組60が介在するので、実施例1と比べると(1+α3)倍になる。
【0054】
したがって、H−3モード、H−4モードともに共通速度線図は図4に示した実施例1と同様である。ここで、図4と図6とを見て分かるように、第1キャリア28の回転速度が変化する範囲、H−2モードのv2とH−3モード、H−4モードのv3が大きくオーバーラップすることなく並ぶ。これはH−2モードとH−3モード、H−4モードの変速比という見方で見た場合、それら変速比の守備範囲が適切な関係にあることを示す。
【0055】
ここで、第3遊星歯車組60が存在する効果について説明する。
上記したように、H−2モードとH−3モード、H−4モードの守備範囲の関係が好適になることに加えて、第1M/G42の大きさの面でもメリットがある。
すなわち、E−2モードやH−2モードで第1M/G42が第1リングギヤ24を減速駆動するということは、同じ出力軸12の駆動トルクを出すのに第1M/G42のトルクは低くてよいことになる。つまり、それだけ高速回転する代わりに、第1M/G42は実施例1に比べて低トルク高速回転型の特性で済むことになる。一般にモーターは最大トルクに応じて大きさ(外径や軸方向長さ)が決まるので、同じ駆動力とした場合、この減速比分だけ第1M/G42は実施例1よりもサイズが小さく、重量が軽くなるというメリットがある。
【0056】
実施例2の自動車用駆動装置も、出力遊星歯車組である第1遊星歯車組20と、入力歯車群である第2遊星歯車組30および第3遊星歯車組60とを備え、EV走行において第1M/G42と第2M/G52との両方をフルに活用できる。
このため、第1M/G42と第2M/G52の合計容量が自動車のEV走行に必要とする容量を満足すれば済むとともに、第1M/G42のサイズや重量を小さくするメリットがある。
【0057】
性能面でも実施例1と同様に、バッテリーの電力のみを動力源とするEV走行においても、エンジン1の動力を用いるHV走行においても、多彩な駆動モードを走行条件に応じて適切に使い分けて燃料消費率の高い走行を行うことができる。
また、上述したように第1M/G42はサイズが小さく、重量が軽くなるというメリットがある。
実施例2の自動車用駆動装置も実施例1と同様に、いわゆるプラグインハイブリッド自動車と呼ばれる車両等の駆動装置として用いるのに適する。
【実施例3】
【0058】
次に、本発明の実施例3の自動車用駆動装置につき説明する。
図7は、本発明の実施例3に係る自動車用駆動装置の主要部のスケルトン図である。
ここでは、実施例1と異なる部分を中心に説明し、実施例1と実質的に同じ部分については同じ符号を付し、それらの説明を省略する。
【0059】
実施例3における実施例1との違いは、実施例2と同様に第3遊星歯車組60を有していることと、第1クラッチ40、第2クラッチ48、第1ブレーキ44、第2ブレーキ54の4つの摩擦要素を有している点である。
【0060】
次に各回転メンバー間の連結関係であるが、入力軸10は第2キャリア38と連結されるとともに第1クラッチ40によって第1M/G42と連結可能であり、第2サンギヤ32は第2クラッチ48によって第1M/G42と連結可能であるとともに、第1ブレーキ44によりケース46に固定可能である。
また、第2リングギヤ34は第1リングギヤ24と連結されるとともに第3キャリア68と連結され、第3サンギヤ62は第1M/G42と連結され、第3リングギヤ64は第2ブレーキ54によりケース46に固定可能である。
上記以外の第1遊星歯車組20の連結関係は実施例1と同様である。
【0061】
続いて実施例2の作動を、図8に示した作動表を参考に説明する。
E−1モードは第3遊星歯車組60の存在は関係なく、実施例1と同様であり、説明を省略する。
E−2モードは、第2ブレーキ54の締結により、第1M/G42は第3遊星歯車組60によって減速されて第1リングギヤ24を駆動する。減速比(第1M/G42の回転速度/第1リングギヤ24の回転速度)は、第3遊星歯車組60の歯数比をα3とした場合、(1+α3)/α3である。
E−2モードの出力トルクToは、第1M/G42のトルクをT1、第2M/G52のトルクをT2とした場合、T1(1+α3)/α3+T2である。
【0062】
E−Rモードについては第1クラッチ40、第2クラッチ48、第2ブレーキ54の締結で、入力歯車群である第2遊星歯車組30と第3遊星歯車組60とを一体化して、第1リングギヤ24を固定するが、他は実施例1と同様であるので説明を省略する。
EB走行のB−1モードもEV走行のE−2モードと同様であり、B−1モードでの第1M/G42の回転速度も実施例1と比べると(1+α3)/α3倍である。
なお、E−RモードおよびB−2モードでは、4つの摩擦要素40、44,48、54のうちいずれか3個が締結すれば第1リングギヤ24を固定することができる。
【0063】
続いてHV走行の作動について説明する。
エンジン1の始動とH−1モードの作動は、第3遊星歯車組60の存在は関係なく実施例1と同様であり、説明を省略する。
H−2モードは、第1クラッチ40と第2ブレーキ54が締結されることによって、入力軸10は第1M/G42とともに、第3遊星歯車組60を介して第1リングギヤ24を減速駆動する。その減速比は前述の(1+α3)/α3である。
H−2モードの共通速度線図を図9に示す。第1リングギヤ24の回転速度は実施例2よりさらに減速されて入力軸10の回転速度1より低い位置にあり、図3、図4などと同様に第2M/G52の回転速度をゼロとして描いたのが実線であり、2として描いたのが破線である。
この場合も、第2M/G52の回転速度をゼロから2まで変化させると、出力軸12と連結した第1キャリア28の回転速度はv2で示した範囲で変化する。
【0064】
続くH−3モードは、第2クラッチ48と第2ブレーキ54の締結で駆動する。
第2クラッチ48の締結で第2サンギヤ32と第3サンギヤ62とが第1M/G42を介して連結され、第2ブレーキ54の締結で第3リングギヤ64がケース46に固定される。
【0065】
H−3モードの共通速度線図を図10に示す。図10は第2遊星歯車組30と第3遊星歯車組60とが互いに連結され、これと第1遊星歯車組20を並べた共通速度線図である。入力軸10と連結した第2キャリア38(C2)の回転速度を1として、第3リングギヤ64(R3)の回転速度をゼロとした場合、第2リングギヤ34(R2)と第3キャリア68(C3)は減速されて第1リングギヤ24(R1)を駆動する。
【0066】
この場合の減速比は、{α2+α3(1+α2)}/α3(1+α2)である。
図10の第1遊星歯車組20の部分は、減速された第2リングギヤ34(R2)と第3キャリア68(C3)の回転速度を水平の破線で第1リングギヤ24へ結んで描いたもので、第2M/G52の回転速度をゼロとした場合の実線と、2とした場合の破線で表している。
第2M/G52の回転速度をゼロから2まで変化させると、出力軸12と連結した第1キャリア28の回転速度はv3で示した範囲で変化する。
このv3の範囲は、歯数比、α2とα3の設定に左右されるが、実施例3のH−2モードと同程度であり、共通速度線図も図6と同様になる。
【0067】
続くH−4モードは、第1クラッチ40と第2クラッチ48の締結で駆動される。これにより、第2遊星歯車組30と第3遊星歯車組60とともに入力軸10および第1M/G42の全体が一体になって回転して第1リングギヤ24を駆動する。この状態は実施例1のH−2モードと同様であり、第1遊星歯車組20の共通速度線図は図3と同様になる。
【0068】
次に、H−5モードは、第1クラッチ40と第1ブレーキ44の締結で駆動され、連結関係も回転速度も実施例1のH−3モードと同様になるので、説明を省略する。
実施例3のHV走行の各共通速度線図を統括すると、図9のH−2モード、図10のH−3モード、図3と同様のH−4モード、図4と同様のH−5モードというようになる。
【0069】
これらを見て分かるように、各駆動モードの出力軸10の回転速度の変化範囲はそれぞれオーバーラップする。したがって、各共通速度線図で表したほどに第2M/G52の回転速度を変化させることなく、自動車の走行条件および各M/G42、52の特性などを考慮して、きめ細かく駆動モードを選択することができる。
このように、実施例3は駆動モード選択の自由度が高いので、より燃費の良い駆動が可能になる。
上述したように、第3遊星歯車組60による減速比が実施例2よりも大きいので、同じ条件で比較すると、第1M/G42をより小さいサイズ、重量にすることができる。
【0070】
実施例3の自動車用駆動装置も、出力遊星歯車組である第1遊星歯車組20と、入力歯車群である第2遊星歯車組30および第3遊星歯車組60とを備え、EV走行において第1M/G42と第2M/G52との両方をフルに活用できることとが特徴である。
このため、第1M/G42と第2M/G52の合計容量が自動車のEV走行に必要とする容量を満足すれば済むとともに、第1M/G42のサイズや重量を小さくするメリットがある。
【0071】
性能面でも実施例1と同様に、バッテリーの電力のみを動力源とするEV走行においても、エンジン1の動力を用いるHV走行においても、多彩な駆動モードを走行条件に応じて適切に使い分けて燃料消費率の高い走行を行うことができる。
実施例3の自動車用駆動装置も実施例1と同様に、いわゆるプラグインハイブリッド自動車と呼ばれる車両等の駆動装置として用いるのに適する。
【実施例4】
【0072】
次に、本発明の実施例4の自動車用駆動装置につき説明する。
図11は、本発明の実施例4に係る自動車用駆動装置の主要部のスケルトン図である。
ここでは、実施例1と異なる部分を中心に説明し、実施例1と実質的に同じ部分については同じ符号を付し、それらの説明を省略する。
【0073】
実施例4における実施例1との違いは、出力軸12が入力軸10と平行に設けられており、第2遊星歯車組30と第1M/G42とが入力軸10の同軸心上に、出力遊星歯車組を構成する第1遊星歯車組20と第2M/G52とが出力軸12の同軸心上に、それぞれ配置されている点である。
また、出力軸12と一体の出力歯車56が、図示しない相手歯車を介して自動車を駆動するようになっている。
【0074】
そして、第2遊星歯車組30と第1遊星歯車組20とが離れて配置されているため、第2キャリア28と第1リングギヤ24との間に伝達歯車対58が介在して動力伝達を行うようにしている。
ここで、第2遊星歯車組30と伝達歯車対58a、58bは本発明の入力歯車群を構成する。
【0075】
さらに、出力軸12のエンジン1側の端に油圧ポンプ2が設けられ、出力軸12がこれを駆動するようになっている。油圧ポンプ2はエンジン1の図示しない潤滑回路と吸入管2aと吐出管2bとで結ばれており、後述するようにエンジン1が回転していないEV走行において、予備的にエンジン1を潤滑する機能を有している。
【0076】
各回転要素同士の連結関係は以下のようになっている。
入力軸10は第1クラッチ40を介して第2サンギヤ32と連結可能であり、第2サンギヤ32は常時第1M/G42と連結している。
入力軸10はまた、第2クラッチ48を介して第2リングギヤ34と連結可能であり、第2リングギヤ34はブレーキ44によりケース46に固定可能である。
ここで、第1クラッチ40と第2クラッチ48の両方を締結すると第2遊星歯車組30は一体になる。
【0077】
第2キャリア38は前述のように伝達歯車対58a、58bを介して第1リングギヤ24と連結するとともに、ワンウエイクラッチ50により一方の回転方向の回転をケース46に固定される構成になっている。
なお、伝達歯車対58a、58bは入力軸10側の58aの方が出力軸12側の58bより歯数を多くしてあり、第2キャリア38が第1リングギヤ24を増速駆動するようになっている。
その他の第1遊星歯車組20の回転メンバーに関しては実施例1などと同様の連結関係である。
【0078】
続いて実施例4の作動を、図12に示した作動表を参考に説明する。
E−1モードは、第1リングギヤ24のケース46への固定が離れた入力軸10側に配置されたワンウエイクラッチ50という点は異なるが、実質的に実施例1と同様であり、説明を省略する。
E−1モードにおいてブレーキ44を締結しているが、動力伝達には関与しない。
【0079】
E−2モードは、既にブレーキ44の締結により第2リングギヤ34がケース46に固定されているので、第1M/G42が第2遊星歯車組30で減速して伝達歯車対58aを駆動する。この減速比は(1+α2)/α2である。前述の伝達歯車対58a、58bの増速比はこの第2遊星歯車組30での減速比を考慮した設定しておけば、E−2モードでは第1M/G42は第1リングギヤ24を減速駆動することになる。
【0080】
次にE−Rモードの詳細の説明は省略するが、実施例1などと同様に全ての摩擦要素を締結することで、第1リングギヤ24を固定して駆動する。
また、EB走行もE−2モードとE−Rモードと同様の締結関係で、各M/G42、52が発電する点だけが異なる点であり、説明を省略する。
【0081】
続いてHV走行について説明する。
まず、エンジン1の始動は、E−1モードで出力軸12を駆動しながら第1クラッチ40を締結して、第1M/G42でエンジン1を駆動して行う。
エンジン1が始動すると、締結関係はそのままに第1M/G42がエンジン1に駆動されて発電するH−1モードに切り替わるのは実施例1などと同様である。
第1M/G42が発電した電力を第2M/G52に供給して駆動する点も各実施例のH−1モードと同様である。
【0082】
続いて、H−2モードは第1クラッチ40に加えてブレーキ44を締結して駆動する。これにより、エンジン1は第1M/G42に発電させる一方、第2遊星歯車組30で減速して伝達歯車対58a、58bを介して第1リングギヤ24を駆動する。
この場合の第2遊星歯車組30における減速比は先述の(1+α2)/α2であり、エンジン1は第1リングギヤ24を減速駆動する。
このH−2モードの共通速度線図は図6に示した例と同様になる。
【0083】
次にH−3モードは、ブレーキ44の締結を解除して第2クラッチ48を締結して駆動する。これにより第2遊星歯車組30は入力軸10および第1M/G42と一体になるので、エンジン1は第1M/G42に発電させる一方、伝達歯車対58a、58bを介して第1リングギヤ24を増速駆動する。
このH−3モードの共通速度線図は図4に示した例と同様になる。
以上の説明で分かるように、HV走行の駆動は実施例2のH−1モード乃至H−3モードと同様である。
【0084】
ここで、油圧ポンプ2の役割について説明する。
実施例1の作動の部分に記したように、EV走行においてはエンジン1が回転しておらず、HV走行に切り替わって初めて始動されて回転する。自動車の運転条件にもよるが、EV走行を長時間行った後にHV走行に切り替わり、急に高負荷の運転を余儀なくされる場合が考えられ、エンジン1にとって潤滑面で厳しい状態になる可能性がある。
そこで、EV走行をしている間に出力軸12で駆動する油圧ポンプ2でエンジン1の潤滑回路にエンジンオイルを循環させて、予備的に潤滑を行っておくことができるようになっている。
【0085】
図示は省略したが、吐出管2b側に電磁バルブなどを設けて、時々油圧を発生させることも可能である。むろん、エンジン1自体にも図示しない潤滑ポンプを有しているので、油圧ポンプ2はあくまでも補助的な潤滑を行うものである。
また、油圧ポンプ2の駆動は出力軸12に限ることなく、他の回転メンバーで駆動してもよいし、専用の小型モーターで駆動してもよい。重要なことはEV走行をしている間にエンジン1を予備的に潤滑できるようにすることである。
【0086】
実施例4の自動車用駆動装置も、出力遊星歯車組である第1遊星歯車組20と、入力歯車群である第2遊星歯車組30および伝達歯車対58a、58bとを備え、EV走行において第1M/G42と第2M/G52との両方をフルに活用できることとが特徴である。
このため、第1M/G42と第2M/G52の合計容量が自動車のEV走行に必要とする容量を満足すれば済むとともに、第1M/G42のサイズや重量を小さくするメリットがある。
【0087】
性能面でも実施例1と同様に、バッテリーの電力のみを動力源とするEV走行においても、エンジン1の動力を用いるHV走行においても、多彩な駆動モードを走行条件に応じて適切に使い分けて燃料消費率の高い走行を行うことができる。
実施例4の自動車用駆動装置も実施例1と同様に、いわゆるプラグインハイブリッド自動車と呼ばれる車両等の駆動装置として用いるのに適する。
【実施例5】
【0088】
次に、本発明の実施例5の自動車用駆動装置につき説明する。
図13は、本発明の実施例5に係る自動車用駆動装置の主要部のスケルトン図である。
ここでは、実施例1と異なる部分を中心に説明し、実施例1と実質的に同じ部分については同じ符号を付し、それらの説明を省略する。
【0089】
実施例5における実施例1との違いは、実施例4と同様に出力軸12が入力軸10と平行に設けられていることと、入力歯車群に遊星歯車を用いていない点である。
すなわち入力歯車群は、入力軸10と平行に設けたカウンタ軸60との間も含めて、伝達歯車対58a、58bの他に入力歯車対62a、62b、および減速歯車64の、計5枚のいわゆる平行軸歯車で構成されている。
【0090】
そして、カウンタ軸60と同軸上に設けられた第1M/G42を含めて各回転メンバーの連結関係は以下のようになっている。
第1遊星歯車組20の周辺の連結関係は基本的に実施例4と同様であるが、ワンウエイクラッチ50が第1リングギヤ24の外側に設けられている点だけが異なる。
入力軸10は、第1クラッチ40と入力歯車対62a、62bを介して第1M/G42と連結可能であり、第2クラッチ48と伝達歯車対58a、58bを介して第1リングギヤ24を増速駆動可能である。
【0091】
第1M/G42は、第3クラッチ66と減速歯車64および伝達歯車対58a、58bを介して第1リングギヤ24を減速駆動可能である。
すなわち、実施例4と同様に伝達歯車対58a、58bは入力軸10側から出力軸12側へ増速駆動する歯数比であるが、減速歯車64を介してカウンタ軸60側から出力軸12側へは減速駆動ができるように減速歯車64と伝達歯車対58a、58bの歯数比が設定してある。
【0092】
続いて実施例5の作動を、図14に示した作動表を参考に説明する。
E−1モードは実施例1と同様であり、説明を省略する。なお、E−1モードにあっては次のE−2モードに備えて第3クラッチ66を締結してある。
E−2モードは、既に締結した第3クラッチ66と減速歯車64および伝達歯車対58a、58bを介して、第1M/G42が第1リングギヤ24を減速駆動する。遊星歯車を使っていないが、この減速駆動する点は実質的に実施例2乃至実施例4と同様である。
【0093】
次にE−Rモードの詳細の説明は省略するが、実施例1などと同様に全ての摩擦要素を締結することで入力歯車群全体が固定されるので、それにより第1リングギヤ24を固定して駆動する。
また、EB走行もE−2モードとE−Rモードと同様の締結関係で、各M/G42、52が発電するのが異なる点であり、説明を省略する。
【0094】
続いてHV走行について説明する。
まず、エンジン1の始動は、E−1モードと同様に出力軸12を駆動しながら第1クラッチ40を締結して、第1M/G42でエンジン1を駆動して行う。
エンジン1が始動すると、締結関係はそのままに第1M/G42がエンジン1に駆動されて発電するH−1モードに切り替わるのは実施例1などと同様である。第1M/G42が発電した電力で第2M/G52を駆動するのは実施例1などと同様である。
【0095】
続いて、H−2モードは第1クラッチ40に加えて第3クラッチ66を締結して駆動する。これにより、エンジン1は入力歯車対62a、62bを介して第1M/G42に発電させる一方、減速歯車64と伝達歯車対58a、58bを介して第1リングギヤ24を減速駆動する。
このH−2モードの共通速度線図は図6に示した例と同様になる。
【0096】
次にH−3モードは、第1クラッチ40の締結を解除して第2クラッチ48を締結して駆動する。これによりエンジン1は伝達歯車対58a、58bを介して第1リングギヤ24を増速駆動する一方、減速歯車64と第3クラッチ66を介して第1M/G42に発電させる。第1M/G42が発電した電力で第2M/G52を駆動するのは実施例1などと同様である。
このH−3モードの共通速度線図は図4に示した例と同様になる。
【0097】
以上の説明で分かるように、HV走行の駆動は実施例2のH−1モード乃至H−3モードと実質的に同様である。
なお、油圧ポンプ2の役割については実施例4と同様であり、説明を省略する。
ここで、実施例5の入力歯車群のメリットについて説明する。一般に歯車対の歯数比は遊星歯車組に比べて変更が容易であり、歯数比の種類を増やしても製造コストへの影響は遊星歯車組より大幅に少ない。このため、駆動装置を適用する車両に合わせて入力歯車群の歯数比を最適に設定することが容易にできる。これは複数の種類の車両に適用する駆動装置にとっては非常に重要なことであり、これが容易にできるメリットは大きいと言える。
【0098】
実施例5の自動車用駆動装置も、出力遊星歯車組である第1遊星歯車組20と、上記した入力歯車群を備え、EV走行において第1M/G42と第2M/G52との両方をフルに活用できることとが特徴である。
このため、第1M/G42と第2M/G52の合計容量が自動車のEV走行に必要とする容量を満足すれば済むとともに、第1M/G42のサイズや重量を小さくするメリットがある。
【0099】
性能面でも実施例1と同様に、バッテリーの電力のみを動力源とするEV走行においても、エンジン1の動力を用いるHV走行においても、多彩な駆動モードを走行条件に応じて適切に使い分けて燃料消費率の高い走行を行うことができる。
実施例5の自動車用駆動装置も実施例1と同様に、いわゆるプラグインハイブリッド自動車と呼ばれる車両等の駆動装置として用いるのに適する。
【0100】
以上説明したように、本発明の自動車用駆動装置にあっては、出力遊星歯車組である第1遊星歯車組20と、上記伝達歯車対58a、58b、入力歯車対62a、62b、および減速歯車64からなる各入力歯車群を備え、EV走行において従来例のような大きな容量のM/Gを用いなくても十分な駆動力を得ることができる。
このため、一般的にコントローラーに含まれるインバーターも含めて製造コスト・重量・大きさを小さくできるメリットがある。
また、エンジン1で駆動するHV走行も含めて多様な駆動モードを駆使して、電力消費と燃料消費の少ない走行が可能である。
【0101】
また、本発明の自動車用駆動装置にあっては、以下のような変更を行うことも可能である。
例えば、各実施例の説明において摩擦要素として説明した第1クラッチ40、第2クラッチ48、ブレーキ44などは、ドッグクラッチや円錐クラッチに置き換えても上記各作用は成立する。
また、上記した各実施例は、第1遊星歯車組20、第2遊星歯車組30などを、シングルピニオン型と呼ばれる遊星歯車組を用いたが、これをダブルピニオン型に置き換えることも可能である。図示は省略したが、ダブルピニオン型の場合の連結関係は、シングルピニオン型に対してキャリアとリングギヤを入れ替えればよい。
【0102】
本発明の自動車用駆動装置は、当業者の一般的な知識に基づいて、自動車の走行条件に応じて最適な駆動モードを選択し、M/Gの最も効率の高いゾーンでの駆動を行うことや、GPS(全地球測位システム)、カーナビゲーションシステムなどの情報を基に、長い坂道の走行時や高速道路の入り口において、さらには気温が低くて自動車の暖房熱源が足りない場合などに、自動的にHV走行に切り替えるなどの制御面での工夫と合わせた態様で実施することができる。
【産業上の利用可能性】
【0103】
本発明の自動車用駆動装置は、特に走行コストを重視し、環境負荷の低減を要求される小型乗用車などに適用することができるが、それらに限らず内燃機関および電気モーター・ジェネレーターを利用したさまざまな車両に適用することができる。
【符号の説明】
【0104】
1 エンジン
2 油圧ポンプ
10 入力軸
12 出力軸、第1出力軸
20 第2遊星歯車組
22 第1サンギヤ
24 第1リングギヤ
26 第1ピニオン
28 第1キャリア
30 出力遊星歯車組
32 第2サンギヤ
34 第2リングギヤ
36 第2ピニオン
38 第2キャリア
40 第1クラッチ
42 第1M/G
44 ブレーキ、第1ブレーキ
46 ケース
48 第2クラッチ
50 ワンウエイクラッチ
52 第2M/G
54 第2ブレーキ
56 出力歯車
58 伝達歯車対
60 カウンタ軸
62 入力歯車
64 減速歯車
66 第3クラッチ


【特許請求の範囲】
【請求項1】
エンジンからの動力を受け入れ可能な入力軸と、
出力軸と、
入力歯車群と
第1サンギヤ、第1リングギヤ、第1キャリアの、3つの回転要素を有する出力遊星歯車組と、
第1モーター・ジェネレーターと、
第2モーター・ジェネレーターと、
を備え、
前記出力軸は前記第1キャリアと連結し、
前記第2モーター・ジェネレーターは前記第1サンギヤと連結し、
前記第1リングギヤを静止部に固定可能な手段を有し、
前記入力軸は前記入力歯車群を介して前記第1リングギヤを増速駆動可能であり、
前記第1モーター・ジェネレーターは前記入力軸と直接または前記入力歯車群を介して連結可能であるとともに、前記第1リングギヤを駆動可能であることを特徴とする自動車用駆動装置。
【請求項2】
前記第1リングギヤを固定可能な手段がワンウエイクラッチであることを特徴とする請求項1に記載の自動車用駆動装置。
【請求項3】
前記第1モーター・ジェネレーターは、前記入力歯車群を介して前記第1リングギヤを減速駆動可能であることを特徴とする請求項1または2に記載の自動車用駆動装置。
【請求項4】
前記入力歯車群は、第2サンギヤ、第2リングギヤ、第2キャリアの、3つの回転要素を有する第2遊星歯車組で構成され、前記第2キャリアは前記入力軸と連結し、前記第2リングギヤは前記第1リングギヤと連結し、前記第2サンギヤを静止部に固定可能としたことを特徴とする請求項1または2に記載の自動車用駆動装置。
【請求項5】
前記入力歯車群は、前記第2遊星歯車組と、第3サンギヤ、第3リングギヤ、第3キャリアの、3つの回転要素を有する第3遊星歯車組とで構成され、前記第3キャリアは前記第1リングギヤと連結し、前記第3サンギヤと前記第3リングギヤの一方を前記第2モーター・ジェネレーターと連結した場合に他方を静止部に固定可能であり、前記第3サンギヤと前記第3リングギヤの一方を前記第2モーター・ジェネレーターと連結可能とした場合に他方を静止部に固定したことを特徴とする請求項4に記載の自動車用駆動装置。
【請求項6】
前記出力軸を前記入力軸と平行に配置して、前記出力遊星歯車組を前記出力軸と同心上に、前記入力歯車群を前記入力軸と同心上に配置し、該入力歯車群と前記第1リングギヤとを連結歯車対で連結したことを特徴とする請求項1または2に記載の自動車用駆動装置。
【請求項7】
前記入力歯車群は、第2サンギヤ、第2リングギヤ、第2キャリアの、3つの回転要素を有する第2遊星歯車組で構成され、前記第2サンギヤは前記第1モーター・ジェネレーターと連結するとともに前記入力軸と連結可能であり、前記第2キャリアは増速比を有する前記連結歯車対を介して前記第1リングギヤと連結し、前記第2リングギヤを静止部に固定可能とするとともに、前記第2遊星歯車組を一体化可能なクラッチを設けたことを特徴とする請求項6に記載の自動車用駆動装置。
【請求項8】
前記出力軸を前記入力軸と平行に配置して、前記出力遊星歯車組を前記出力軸と同心上に配置し、前記入力歯車群を前記入力軸と、これに平行に配置したカウンタ軸との間に設けた2対の歯車組で構成するとともに、該2対の歯車組のうちの前記入力軸と同じ軸心上の1枚の歯車は前記第1リングギヤを増速駆動可能な連結歯車対の一方を構成したことを特徴とする請求項6に記載の自動車用駆動装置。
【請求項9】
前記エンジンを停止して、前記第1モーター・ジェネレーターと、前記第2モーター・ジェネレーターを動力源として駆動している間に、前記エンジンを予備的に潤滑可能とする油圧ポンプを有することを特徴とする請求項1乃至98のいずれか1項に記載の自動車用駆動装置。
【請求項10】
前記油圧ポンプを前記出力軸で駆動するようにしたことを特徴とする請求項9に記載の自動車用駆動装置。



【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【公開番号】特開2013−32130(P2013−32130A)
【公開日】平成25年2月14日(2013.2.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−204007(P2011−204007)
【出願日】平成23年9月20日(2011.9.20)
【出願人】(393011821)有限会社ファインメック (13)
【Fターム(参考)】