説明

自動車用駆動装置

【課題】ハイブリッド自動車で電気自動車として走行する場合に、2個のM/Gの同時駆動を可能にして、小さい容量のM/Gで済ませる。
【解決手段】入力軸10から受け入れた動力を動力分割遊星歯車組20へ変速して出力可能な入力変速歯車群30と、第1M/G56と、第2M/G58と、を備え、出力軸12は第1リングギヤ24と第1キャリア28とのうちの一方と連結し、入力変速歯車群30は第1リングギヤ24と第1キャリア28とのうちの他方と連結し、第1M/G56は第1サンギヤ22と連結し、第2M/G58は出力軸と連結されるか、または連結可能であり、入力変速歯車群30は低速段を可能にする第1締結要素54と、高速段を可能にする第2締結要素50とを有し、第1締結要素54と第2締結要素50とを同時に締結して、第1M/G56および第2M/G58が出力軸12を同時駆動可能とした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、内燃機関と電気モーターの2種類の動力源を有する、いわゆるハイブリッド自動車の駆動装置に関し、特にエンジンより入力される動力を、遊星歯車を介して出力軸へ伝達可能で、複数のモーターを備えた自動車用駆動装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、この種の自動車用駆動装置としては、2個のモーター・ジェネレーター(以下、M/Gと記す)、2組の遊星歯車組を備え、電気的無段変速機としてハイブリッド駆動する例が知られている(たとえば、特許文献1参照)。
また、このような従来例に対して電気的無段変速機としての性能を上げるため、別の変速機能を追加することにより低速モード(UDモード)と高速モード(ODモード)の2種類の駆動モードを得るようにした例が知られている(たとえば、特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】公開特許公報2002−274201号公報
【特許文献2】公開特許公報2009−190694号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、2個のモーター・ジェネレーター(以下、M/Gと記す)、2組の遊星歯車組を備え、電気的無段変速機としてハイブリッド駆動する上記従来の自動車用駆動装置にあっては、バッテリーに蓄えた電力のみを動力源として、電気自動車と同じような走行をする場合に、1個のM/Gでしか駆動することができず、せっかく2個のM/Gを備えているにもかかわらず、両M/Gを有効活用できず、これによる強力な駆動力を得ることができないという問題があった。
【0005】
解決しようとする問題点は、バッテリーの電力のみを動力源として電気自動車と同じ走行をする場合に、1個のM/Gでしか駆動することができず、このため、大きな駆動力を発揮するには大きな容量のM/Gが必要となる点である。
本発明の目的は、2個のM/Gを備えたハイブリッド自動車にあって、電気自動車として走行する場合に同時に2個のM/Gを使った駆動を可能にし、これにより、より小さい容量のM/Gの適用で済ませることができるようにすることにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の自動車用駆動装置は、エンジンからの動力を受け入れ可能な入力軸と、出力軸と、第1サンギヤ、第1リングギヤ、第1キャリアの、3つの回転要素を有する第1遊星歯車組で構成される、動力分割が可能な動力分割遊星歯車組と、低速段と高速段の2段変速が可能で、入力軸から受け入れた動力を動力分割遊星歯車組へ変速して出力可能な入力変速歯車群と、第1モーター・ジェネレーターと、第2モーター・ジェネレーターと、を備え、出力軸は第1リングギヤと第1キャリアとのうちの一方と連結し、入力変速歯車群は第1リングギヤと第1キャリアとのうちの他方と連結し、第1モーター・ジェネレーターは第1サンギヤと連結し、第2モーター・ジェネレーターは、出力軸と連結されるか、または連結可能であり、入力変速歯車群は、低速段の動力伝達を可能にする第1締結要素と、高速段の動力伝達を可能にする第2締結要素とを有し、第1締結要素と第2締結要素とを同時に締結して、エンジンが停止した状態で第1モーター・ジェネレーターおよび第2モーター・ジェネレーターが出力軸を同時駆動可能としたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0007】
本発明の自動車用駆動装置は、ハイブリッド自動車(HV)用でありながら、バッテリーのみを動力源とした電気自動車(EV)走行において2個のM/Gで同時駆動することができる。したがって、2個のM/Gの合計容量を小さくして、コスト・重量・大きさの面でメリットを出すことが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1】本発明の実施例1に係る自動車用駆動装置の主要部を示したスケルトン図である。
【図2】実施例1の自動車用駆動装置における作動表を示す図である。
【図3】本発明の実施例2に係る自動車用駆動装置の主要部を示したスケルトン図である。
【図4】本発明の実施例3に係る自動車用駆動装置の主要部を示したスケルトン図である。
【図5】本発明の実施例4に係る自動車用駆動装置の主要部を示したスケルトン図である。
【図6】実施例4の自動車用駆動装置における作動表を示す図である。
【図7】本発明の実施例5に係る自動車用駆動装置の主要部を示したスケルトン図である。
【図8】実施例5の自動車用駆動装置における作動表を示す図である。
【図9】本発明の実施例6に係る自動車用駆動装置の主要部を示したスケルトン図である。
【図10】実施例6の自動車用駆動装置における作動表を示す図である。
【図11】本発明の実施例7に係る自動車用駆動装置の主要部を示したスケルトン図である。
【図12】実施例7の自動車用駆動装置における作動表を示す図である。
【図13】本発明の実施例8に係る自動車用駆動装置の主要部を示したスケルトン図である。
【図14】実施例8の自動車用駆動装置における作動表を示す図である。
【図15】本発明の実施例9に係る自動車用駆動装置の主要部を示したスケルトン図である。
【図16】実施例9の自動車用駆動装置における作動表を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明の実施の形態に係る自動車用駆動装置を、各実施例に基づき図とともに説明する。
【実施例1】
【0010】
図1は、本発明の実施例1に係る自動車用駆動装置における主要部のスケルトン図である。
実施例1の自動車用駆動装置は、エンジン1から駆動される入力軸10と、該入力軸10と同軸心上に設けられた出力軸12を備えている。出力軸12は図示しない差動装置などを介して自動車の車輪を駆動する。
入力軸10と出力軸12との間には、第1遊星歯車組20、第2遊星歯車組30、第3遊星歯車組40の3つの遊星歯車組が配置してある。第1遊星歯車組20と、第2遊星歯車組30と、第3遊星歯車組40は、いずれも一般的にシングルピニオン型と呼ばれるもので、それぞれが同様の構成になっている。
【0011】
すなわち、第1遊星歯車組20は、第1サンギヤ22と、第1リングギヤ24と、第1サンギヤ22および第1リングギヤ24に噛み合った複数の第1ピニオン26を回転自在に軸支する第1キャリア28と、の3つの回転要素で構成され、本発明の動力分割遊星歯車組を構成する。
また、第2遊星歯車組30は、第2サンギヤ32と、第2リングギヤ34と、第2サンギヤ32および第2リングギヤ34に噛み合った複数の第2ピニオン36を回転自在に軸支する第2キャリア38と、の3つの回転要素で構成され、本発明の入力変速歯車群を構成する。
同様に第3遊星歯車組40は、第3サンギヤ42と、第3リングギヤ44と、第3サンギヤ42および第3リングギヤ44に噛み合った複数の第3ピニオン46を回転自在に軸支する第3キャリア48と、の3つの回転要素で構成され、本発明の減速歯車を構成する。
【0012】
次に、上記各回転要素と他の回転メンバーとの連結関係を説明する。
入力軸10は、第2キャリア38と連結している。
第2サンギヤ32はブレーキ50によりケース(静止部)52に固定可能であるとともに、ワンウエイクラッチ54により一方の回転方向にのみにおいて第2リングギヤ34と連結可能である。また第2リングギヤ34は第1キャリア28と連結している。
第1サンギヤ22は第1M/G56と連結している。
第1リングギヤ24は第3リングギヤ44と連結するとともに出力軸12と連結している。
第3サンギヤ42は第2M/G58と連結し、第3キャリア48はケース52に固定されている。
ここで、ワンウエイクラッチ54は本発明の第1締結要素を、またブレーキ50は本発明の第2締結要素をそれぞれ構成する。
【0013】
なお、ワンウエイクラッチ54は、第2サンギヤ32が第1リングギヤ24に対してエンジン1の回転方向と同じ方向に相対回転するのを係止(係合)するようになっているもので、本実施例では周知の機械式のものを用いるが、油圧多板式クラッチで締結・開放制御するものなどでもよい。
したがって、入力軸10と連結した第2キャリア38がエンジン1に駆動され、ブレーキ50が解放されていて第2サンギヤ32がエンジン1の回転方向と同じ方向回転しようとすると第1リングギヤ24に係止され、第2遊星歯車組30が一体になる。
これとは逆に、第2リングギヤ34がエンジン1の回転方向と逆の方向に回転しようとした場合も、第2サンギヤ32との間でワンウエイクラッチ54が係合して、第2遊星歯車組30が一体になる。
また、ワンウエイクラッチ54は上記に限らず、第2キャリア38と第1キャリア28との間に設けても同様の機能を果たすことができる。
【0014】
次に、図1に示した自動車用駆動装置の作動を、図2に示した作動表を参考にしながら説明する。
図2の作動表において、縦方向にこれから説明する走行モードと各駆動モードを割り当て、横方向にはブレーキなどの締結要素とM/Gをそれぞれ割り当ててある。すなわち、ブレーキを「B」、ワンウエイクラッチ54を「OWC」、第1M/G56を「M/G1」、第2M/G58を「M/G2」とした。
【0015】
表中の○印はクラッチなどの締結要素にあっては締結・係合を表し、第1M/G56、第2M/G58にあっては駆動を表し、△印は第1M/G56、第2M/G58において発電を表している。第1M/G56における−印は停止可能であることを表す。また、括弧付き○印は、締結するものの動力伝達には関与しないことを表している。
【0016】
なお、図示は省略するが図1に示した自動車用駆動装置は、これを作動させるため、必要に応じて油圧ポンプ、バッテリー、各種センサ、コントローラー、アクチュエーターなどを備えており、以下の作動はコントローラーの指示に基づいて行われる。
また、以下の説明ではエンジン1の回転方向と同じ方向の回転を「正回転」、その逆を「逆回転」と定義する。
さらに、各遊星歯車組の歯数比(サンギヤの歯数/リングギヤの歯数)を、第1遊星歯車組20にあってはα1、第2遊星歯車組30にあってはα2、第3遊星歯車組40にあってはα3とする。
【0017】
始めに、バッテリーに蓄えた電力のみを動力源として、電気自動車(EV)として走る、EV走行について説明する。
EV走行は、E−1モードとE−2モードの2種類の駆動モードがある。
E−1モードは、第2M/G58のみを使った駆動である。つまり、本発明の減速歯車である第3遊星歯車組40は逆転減速作用を行うので、第2M/G58が第3サンギヤ42を逆回転駆動すると、第3キャリア48がケース52に固定されているので、出力軸12と連結した第3リングギヤ44が正回転方向に減速駆動される。
この場合の出力トルクToは、第2M/G58のトルクを−T2とした場合、T2/α3である。このとき第1M/G56は、ワンウエイクラッチ54が係合しない回転方向であるため停止していることができる。
【0018】
次に、E−2モードは、ブレーキ50を締結して第2サンギヤ32をケース52に固定する。そして第2M/G58に加えて第1M/G56も駆動に参加する。
すなわち、第1M/G56に電力を供給して逆回転駆動すると、第1キャリア28が第2リングギヤ34を逆回転方向に回転させようとするが、この場合は前述のように第2遊星歯車組30が一体になり、第2サンギヤ32がケース52に固定されているので、第1キャリア28も固定される。
【0019】
したがって、出力軸12と連結した第1リングギヤ24が第1M/G56に正回転方向に減速駆動される。これにより出力トルクToは、第1M/G56のトルクを−T1とした場合、T2/α3+T1/α1である。
むろん、E−1モードとE−2モードは、自動車の走行負荷などに応じて自由に切り替えて駆動することができる。
【0020】
次にEV走行で後進するE−Rモードについて説明する。
E−Rモードは図2に見るように、第2M/G58のみが駆動するので、そういう意味ではE−1モードと同じである。出力軸12のトルクも回転方向が逆になるだけでE−1モードと同様である。
違いは、ワンウエイクラッチ54の係合と第1M/G56の回転である。
上述したように、第2リングギヤ34が逆回転方向に回転しようとすると第2遊星歯車組30は一体になり、エンジン1が停止したEV走行においては第2遊星歯車組30とともに第1キャリア28も停止している。
したがって、E−Rモードで後進走行すると出力軸12と連結した第1リングギヤ24が逆回転して、第1キャリア28が停止しているので、第1サンギヤ22は正転し、これと連結した第1M/G56も正回転、すなわち空転する。
【0021】
続いて、前進走行中においてエンジン1が停止した状態で、第1M/G56と第2M/G58のいずれも駆動せずに惰行するか、あるいはいずれかが発電して自動車を制動する作用について説明する。この走行は作動表のEB欄に記載してある。
【0022】
EB走行は、上述のE−1モードと同じ締結関係であるが、E−1モードとは逆に第2M/G58が発電することにより制動する。したがって、出力軸12のトルクと第2M/G58の発電トルクの関係もE−1モードと同様であり、トルクの方向がE−1モードの逆になる。このときも、E−1モードと同様に第1M/G56は停止していることができる。
EB走行で発電した電力は、バッテリーに蓄えて次の加速等に使うことにより、いわゆるエネルギー回生を行って自動車の電力消費を少なくする。
【0023】
次に、エンジン1を始動して第1M/G56と第2M/G58の両者を併用して走行するハイブリッド自動車(HV)として走る、HV走行について説明する。
HV走行は、バッテリーの充電量が少なくなった場合の一般走行や、EV走行では得られない大きな駆動力を要する加速または登坂、および高速走行等において用いる。
【0024】
始めにエンジン1の始動について説明する。
自動車が停止中または低速走行中のエンジン1の始動は、ブレーキ50を締結した上で第1M/G56に電力を供給して正回転させる。これにより第1サンギヤ22が第1キャリア28と第2リングギヤ34とを正回転方向に減速駆動し、入力軸10と連結した第2キャリア38はさらに正回転方向に減速駆動される。
これによりエンジン1が駆動されるので、燃料供給や点火動作などの一般的な方法でエンジン1が始動する。
【0025】
このエンジン1の始動が完了するまでの間、第1M/G56が第1サンギヤ22を駆動すると、その反力トルクが第1リングギヤ24に作用して出力軸12に逆回転方向の駆動力が作用するので、これを補うように第2M/G58のトルクを増すことによって打ち消して、乗員が違和感をもたないように制御する。
また、自動車が一定速以上の速度で走行中のエンジン1の始動にあっては、第1M/G56に発電させることでエンジン1を正回転させて行うことができる。このときもブレーキ50の締結を行う。
【0026】
エンジン1が始動した後は、自動車の速度等に応じてH−1モード(HV走行での低・中速モード)またはH−2モード(同、高速モード)へ移行する。
はじめに、H−1モードはブレーキ50が解放されているので、エンジン1のトルクで第2キャリア38が駆動されると上記のようにワンウエイクラッチ54が自動的に係合して第2遊星歯車組30は一体になり、第1キャリア28が入力軸10と直結して駆動される。
【0027】
第1キャリア28に入ったエンジン1のトルクは第1遊星歯車組20で分割され、エンジン1のトルクをTeとした場合、Te/(1+α1)は第1リングギヤ24から出力軸12へ機械的に伝達され、Te・α1/(1+α1)は第1サンギヤ22から第1M/G56を駆動して発電させる。
第1M/G56が発電した電力は、図示しないコントローラーを経由して第2M/G58に供給され、第2M/G58はE−1モードと同じように出力軸12を減速駆動する。
【0028】
したがって、第2M/G58のトルクをT2とすると出力軸12のトルクは、Te/(1+α1)+T2/α3である。
自動車の速度が上がって、回転比(出力軸12の回転速度/入力軸10の回転速度)が1/(1+α1)に近づくと、第1M/G56が非常に低い回転速度域で発電するようになり、一般的に発電機として効率が悪い運転域になるので、駆動装置全体の動力伝達効率が低下して自動車の燃費が悪くなる。
そこで、そうなる前にH−2モードへの切り替えを行う。
【0029】
H−1モードからH−2モードへの切り替えは、ブレーキ50を締結して行う。
この際、スムーズな切り替えのためにエンジン1の出力や第1M/G56の出力を調整することが望ましい。ブレーキ50を締結するとワンウエイクラッチ54の係合は自動的に解除され、第2サンギヤ32がケース52に固定されているので、第2遊星歯車組30は増速作用を行う。すなわち、エンジン1の回転速度を1とすると第2リングギヤ34と第1キャリア28とは1+α2の回転速度で駆動されるようになる。
【0030】
その結果、出力軸12、すなわち第1リングギヤ24の回転速度を切り替え前と同じとした場合、第1サンギヤ22は回転速度が上がり、上記の発電効率が悪い運転域から脱する結果、動力伝達効率が向上する。
すなわち、動力伝達効率が低下して自動車の燃費が悪化する車速が、第2遊星歯車組30の増速比分高くなるので、それだけ高速走行の燃費が向上することになる。このように、H−2モードは高速走行に適する。
H−2モードにおける出力軸12のトルクは、Te/{(1+α2)(1+α1)}+T2/α3である。
【0031】
次にハイブリッド走行の後進であるH−Rモードについて説明する。
エンジン1を回転させての後進は、第2M/G58の回転方向が逆になるだけで基本的に前進の場合と同様である。
しかし、例えば前進のE−1モードと同じように駆動して第2M/G58の回転方向を逆にした場合の出力軸12のトルクは、Te/(1+α1)−T2/α3であるのに対して、図2のH−Rモードに書いたようにH−2モードと同じ締結にした場合の出力軸12のトルクは、Te/(1+α2)(1+α1)−T2/α3となるので、後進方向の駆動力は後者の方が大きい。
【0032】
すなわち、エンジン1のトルクのうち機械的に伝達するトルクは常に前進方向のトルクであるので、これを少なくした方が後進駆動トルクを大きく確保できる。
したがって、バッテリーの残量が少ない場合などの後進には、H−2モードと同じ締結のH−Rモードが適している。
【0033】
また、図1で分かるようにブレーキ50は、第1遊星歯車組20、第2遊星歯車組30、第3遊星歯車組40およびワンウエイクラッチ54などのオイル潤滑が必要な要素と離れた配置が可能であり、したがってブレーキ50を乾式の摩擦要素とすることが容易にできる。
【0034】
この場合、さらに、ブレーキ50をスプリングの張力で常に締結する構成にして、締結を解除するときだけアクチュエーターで操作するようにすれば、一般的な自動変速機などが有する油圧ポンプを用いないで済ませることができる。それらにより、油圧ポンプを駆動する動力や湿式の摩擦要素につきまとう引きずり抵抗といったロスを回避することが出来るので、より一層、電力消費や燃料消費の低い走行が期待できる。
【0035】
以上説明したように、本実施例1の自動車用駆動装置は、入力軸10と動力分割遊星歯車組を構成する第1遊星歯車組20との間で、低速段の直結と高速段の増速の2段変速が可能な入力変速歯車群を構成する第2遊星歯車組30を設けるとともに、直結駆動を可能にするワンウエイクラッチ54と増速駆動を可能にするブレーキ50とを備え、EV走行において第1M/G56と第2M/G58の両方を、同時駆動を含め、フルに活用できることが特徴である。
【0036】
すなわち、ワンウエイクラッチ54とブレーキ50の両者を締結することにより、EV走行において第1M/G56が出力軸12を駆動するようにした。これにより、EV走行では必要に応じて第2M/G58と第1M/G56の両者での駆動が可能であるし、第2M/G58のみでの駆動もできるので、自動車の走行負荷に応じて最適な制御を行うことができるとともに、第1M/G56と第2M/G58の合計容量が自動車の必要とするモーター容量を満足すればいいので、1個のモーターでしか駆動できなかった従来例に比べてモーターのトータル容量を減らすことができる。
また、減速歯車を構成する第3遊星歯車組40を省いて、第2M/G58を出力軸12と直接連結することも可能であるが、実施例1では第3遊星歯車組40が存在するため、低トルク高速回転型の第2M/G58を使うことができるので、そのサイズを小さくすることができる。
【0037】
したがって、2個のM/G56、58の合計容量を小さくして、一般的にコントローラーに含まれるインバーターも含めてコスト・重量・大きさの面でメリットを出すことが可能となる。
さらに、入力変速歯車群を設けて増速駆動する手法は、高速走行における動力伝達効率を向上させることに効果を発揮するので、2個のM/G56、58の合計容量のメリットに加えてHV走行における燃費の改善が可能である。
そして、前進走行中にエンジン1を停止した場合のロスを減らすことができるという効果もある。
【0038】
上記したように、E−1モードとEB走行において第1M/G56が回転しないように制御することができる。例えばHV走行における高速走行中にアクセルペダルの踏み込みをゆるめて、加速はしないけれども積極的な制動はしたくない場合、エンジン1を停止させて惰行するとEB走行と同じ状態になる。このとき従来例では第1M/G56と第2M/G58がともに回転するので、それらが発電することによって制動に至らないように若干の電力を供給する必要があり、電力を消費することになる。本実施例1のような制御により第1M/G56が回転せず第2M/G58のみが回転するので、余計な電力消費を抑えられるという効果があり、その分、燃費が向上する。
【0039】
したがって、第1M/G56と第2M/G58の両方をフルに活用できることを生かして、たとえば市街地走行などの短距離は主に電気自動車として走行して、バッテリーの電力が少なくなった場合にエンジン1の動力で走行する、いわゆるプラグインハイブリッド自動車と呼ばれる車両等の駆動装置として用いるのに適する。
【実施例2】
【0040】
次に、本発明の実施例2の自動車用駆動装置につき説明する。
図3は、本発明の実施例2に係る自動車用駆動装置の主要部のスケルトン図である。
ここでは、実施例1と異なる部分を中心に説明し、実施例1と実質的に同じ部分については同じ符号を付し、それらの説明を省略する。
【0041】
実施例2における実施例1との違いは、第1遊星歯車組20と第2遊星歯車組30の配置が軸方向で入れ替わっていることである。
すなわち、第2遊星歯車組30がエンジン1側に配置されているが、各回転要素間の連結関係に違いはない。したがって、作動面での違いはないので、詳細の説明は省略する。
【0042】
実施例2のメリットは、第1遊星歯車組20の歯数比α1を小さくとることが容易な点である。すなわち、第1サンギヤ22の内側には入力軸10があるだけであり、実施例1に比べて第1サンギヤ22の径方向の大きさを小さくすることが容易である。
本発明の自動車用駆動装置は、入力変速歯車群によって増速駆動が可能なので、第1遊星歯車組20の歯数比α1を小さくして、第2遊星歯車組30の歯数比α2を大きくとる方が燃費の面で有利である。
実施例2は実施例1に比べると、第1遊星歯車組20と第2遊星歯車組30との間の連結が軸方向に多く重なるので、軸方向長さという面では実施例1に比べて不利な点はあるが、より燃費を重視した場合に適するといえる。
【0043】
実施例2も、実施例1と同様にEV走行において第1M/G56と第2M/G58の両方を、同時駆動を含め、フルに活用できることが特徴であり、第1M/G56と第2M/G58の合計容量が自動車の必要とするモーター容量を満足すればいいので、1個のモーターでしか駆動できなかった従来例に比べてモーターのトータル容量を減らすことができる。
【0044】
むろん、入力変速歯車群で増速駆動することにより、高速走行における動力伝達効率を向上させて燃費をよくすることや、高速走行中にエンジン1を停止させて惰行する場合のロスを低減することなど、燃費を向上することが可能であり、いわゆるプラグインハイブリッド自動車と呼ばれる車両等の駆動装置として用いるのに適する。
【実施例3】
【0045】
次に、本発明の実施例3の自動車用駆動装置につき説明する。
図4は、本発明の実施例3に係る自動車用駆動装置の主要部のスケルトン図である。
ここでは、実施例1と異なる部分を中心に説明し、実施例1と実質的に同じ部分については同じ符号を付し、それらの説明を省略する。
【0046】
実施例3における実施例1との違いは、出力軸12が入力軸10と平行に設けられており、第1遊星歯車組20と第2遊星歯車組30および第1M/G56が入力軸10と同軸心上に配置され、第1リングギヤ24と出力軸12との間を伝達歯車12a、24aとで連結していることである。
さらに、第2M/G58は入力軸10、出力軸12と平行に配置され、本発明の減速歯車を構成する減速歯車58aが伝達歯車12aと噛み合って、出力軸12を減速駆動するようになっている。
【0047】
さらに、出力軸12のエンジン1側の端に油圧ポンプ2が設けられ、出力軸12がこれを駆動するようになっている。油圧ポンプ2はエンジン1の図示しない潤滑回路と吸入管2aと吐出管2bとで結ばれており、後述するようにエンジン1が回転していないEV走行において、予備的にエンジン1を潤滑する機能を有している。
【0048】
その他の構成および各回転メンバー間の連結関係は実施例1と同様である。
実施例3の作動についても実施例1と同様であり、詳細の説明を省略する。ただ、出力軸12の駆動トルクは伝達歯車12a、24aおよび減速歯車52aが存在する分だけ実施例1と異なるが、基本的に同様である。
【0049】
ここで、油圧ポンプ2の役割について説明する。
実施例1の作動の部分に記したように、EV走行においてはエンジン1が回転しておらず、HV走行に切り替わって初めて始動されて回転する。自動車の運転条件にもよるが、EV走行を長時間行った後にHV走行に切り替わり、急に高負荷の運転を余儀なくされる場合が考えられ、エンジン1にとって潤滑面で厳しい状態になる可能性がある。
そこで、EV走行をしている間に出力軸12で駆動する油圧ポンプ2でエンジン1の潤滑回路にエンジンオイルを循環させて、予備的に潤滑を行っておくことができるようになっている。
【0050】
図示は省略したが、吐出管2b側に電磁バルブなどを設けて、時々油圧を発生させることも可能である。むろん、エンジン1自体にも図示しない潤滑ポンプを有しているので、油圧ポンプ2はあくまでも補助的な潤滑を行うものである。
また、油圧ポンプ2の駆動は出力軸12に限ることなく、他の回転メンバーで駆動してもよいし、専用の小型モーターで駆動してもよい。重要なことはEV走行をしている間にエンジン1を予備的に潤滑できるようにすることである。
【0051】
実施例3も、実施例1と同様にEV走行において第1M/G56と第2M/G58の両方をフルに活用できることが特徴であり、第1M/G56と第2M/G58の合計容量が自動車の必要とするモーター容量を満足すればいいので、1個のモーターでしか駆動できなかった従来例に比べてモーターのトータル容量を減らすことができる。
【0052】
むろん、入力変速歯車群で増速駆動することにより、高速走行における動力伝達効率を向上させて燃費をよくすることや、高速走行中にエンジン1を停止させて惰行する場合のロスを低減することなど、燃費を向上することが可能であり、いわゆるプラグインハイブリッド自動車と呼ばれる車両等の駆動装置として用いるのに適する。
【実施例4】
【0053】
次に、本発明の実施例4の自動車用駆動装置につき説明する。
図5は、本発明の実施例4に係る自動車用駆動装置の主要部のスケルトン図である。
ここでは、実施例1と異なる部分を中心に説明し、実施例1と実質的に同じ部分については同じ符号を付し、それらの説明を省略する。
【0054】
実施例4における実施例1との違いは、実施例3と同様に出力軸12が入力軸10と平行に設けられていることと、入力変速歯車群に遊星歯車を用いていない点である。
すなわち入力変速歯車群は、入力軸10と平行に設けたカウンタ軸62との間に、本発明の第1歯車対を構成する入力歯車64a、64b、および本発明の第2歯車対を構成する駆動歯車66a、66bの、計4枚のいわゆる平行軸歯車で構成されており、第1クラッチ60を介して第1リングギヤ24を増速駆動可能である。
【0055】
そして、実施例3と同様に伝達歯車24a、12aが第1リングギヤ24と出力軸12とを連結するとともに、第2M/G58は本発明の減速歯車を構成する減速歯車58aが伝達歯車12aと噛み合って、出力軸12を減速駆動し、出力軸12は油圧ポンプ2を駆動可能になっている。
入力変速歯車群を含めて各回転メンバーの連結関係は以下のようになっている。
入力軸10はワンウエイクラッチ54を介して第1キャリア28を駆動可能である。この場合、エンジン1が正回転方向に駆動する方向にのみワンウエイクラッチ54が係合する。
【0056】
入力軸10はまた、クラッチ60を介して入力歯車64aと連結可能であり、入力歯車64aは相手の入力歯車64b、カウンタ軸62、駆動歯車66a、66bを介して第1キャリア28を増速駆動可能になっている。すなわち、入力歯車64a、64bと駆動歯車66a、66bの各歯数は増速比になるようにそれぞれ設定されている。
その他の連結関係は、実施例1または実施例3と同様である。
また、実施例3と同様の油圧ポンプ2をカウンタ軸62の右端に設けており、該カウンタ軸62が常に油圧ポンプ2を駆動できるようになっている。
【0057】
続いて実施例4の作動を、図6に示した作動表を参考に説明する。
図6は、実施例1の図2におけるブレーキ50に代わってクラッチ60を「C」としてあるのみで、他は同じである。
上記したように、実施例1における入力変速歯車群であった第2遊星歯車組30に代わって入力歯車64a、64bと駆動歯車66a、66bがあるのと、増速駆動を司るブレーキ50に代わってクラッチ60が存在するので、基本的な作動に違いはない。
【0058】
すなわち、E−1モードにあっては第2M/G58が減速歯車58aを介して出力軸12を減速駆動する。そのとき、伝達歯車12a、24aを介して第1リングギヤ24が正回転し、第1M/G56が停止しているので、第1キャリア28が減速駆動される。ワンウエイクラッチ54は第1キャリア28が入力軸10に対して相対的に正回転するのはフリーになるので、第1M/G56と、入力軸10およびエンジン1は止まったままである。
【0059】
E−2モードは、クラッチ60が締結され、第1キャリア28が入力軸10に対して相対的に逆回転する方向にはワンウエイクラッチ54が係合するので、第1キャリア28と入力軸10との間は、ワンウエイクラッチ54を介した直結と、カウンタ軸62を介した変速比の、いわば2重噛み合い状態になる。これにより入力歯車64a、64bと駆動歯車66a、66bを含む一連の回転メンバーがロックするので、第1キャリア28は回転できず固定される。
【0060】
したがって、第1M/G56が逆回転すると第1遊星歯車組20で逆転減速されて、伝達歯車24a、12aを介して出力軸12を正回転駆動することができる。むろん、第2M/G58もともに駆動可能である。
E−Rモードも、第1M/G56が連れ回りすることを含めて実施例1と同様であり、第2M/G58のみで駆動する。
EB走行も、駆動と発電が入れ替わっているだけで、基本的にE−1モードと同じであり、これも実施例1と同様である。
【0061】
H−1モードは、入力軸10がワンウエイクラッチ54を介して第1キャリア28を駆動するのは、実施例1と基本的に同様である。
H−2モードは、入力軸10はクラッチ60の締結によって、入力歯車64a、64bと駆動歯車66a、66bを介して第1キャリア28を増速駆動するが、これも実施例1と基本的に同様である。
H−Rモードも、H−2モードと同じ締結関係であり、実施例1と基本的に同様である。
【0062】
これらの作動で出力軸12のトルクの説明を省略したが、入力歯車64a、64bと駆動歯車66a、66b、伝達歯車12a、24aの各歯数比が関係してくる点が異なるだけであり、実施例1と基本的に同様である。
また、油圧ポンプ2に関する説明を省略したが、駆動するのがカウンタ軸62であることのみが異なるだけであって、作用は実施例3で説明したのと同様である。
【0063】
実施例4も、実施例1と同様にEV走行において第1M/G56と第2M/G58の両方をフルに活用できることが特徴であり、第1M/G56と第2M/G58の合計容量が自動車の必要とするモーター容量を満足すればいいので、1個のモーターでしか駆動できなかった従来例に比べてモーターのトータル容量を減らすことができる。
【0064】
むろん、入力変速歯車群で増速駆動することにより、高速走行における動力伝達効率を向上させて燃費をよくすることや、高速走行中にエンジン1を停止させて惰行する場合のロスを低減することなど、燃費を向上することが可能であり、いわゆるプラグインハイブリッド自動車と呼ばれる車両等の駆動装置として用いるのに適する。
【実施例5】
【0065】
次に、本発明の実施例5の自動車用駆動装置につき説明する。
図7は、本発明の実施例5に係る自動車用駆動装置の主要部のスケルトン図である。
ここでは、実施例1と異なる部分を中心に説明し、実施例1と実質的に同じ部分については同じ符号を付し、それらの説明を省略する。
【0066】
実施例5における実施例1との違いは、本発明の動力分割遊星歯車組を構成する第1遊星歯車組20と他の回転メンバーの連結関係と、第2M/G58の連結方法が異なるとともに、第1M/G56と第2M/G58の配置が実施例1と入れ替わっていることである。
すなわち、第1リングギヤ24は入力変速歯車群を構成する第2遊星歯車組30の第2リングギヤ34と連結しており、第1キャリア28が出力軸12と連結している。また、第2M/G58は第1クラッチ60を介して出力軸12と連結可能であり、第2クラッチ68を介して第1リングギヤ24および第2リングギヤ34と連結可能である。
【0067】
続いて実施例5の作動を、図8に示した作動表を参考にしながら説明する。
図8は、第1クラッチ60を「C1」、第2クラッチ68を「C2」と記した他は図2と同様の書き方をしている。
はじめに、EV走行のE−1モードは第1M/G56のみによる駆動である。すなわち、実施例1におけるE−2モードと同様に、ブレーキ50の締結とワンウエイクラッチ54の自動的な係合で入力軸10および第1リングギヤ24がケース52に固定されるので、第1遊星歯車組20により、第1M/G56が出力軸12を減速駆動する。
E−1モードの出力軸12のトルクは、第1M/G56のトルクをT1とするとT1(1+α1)/α1である。このとき、第2M/G58は停止していることができる。
【0068】
次にE−2モードは第2M/G58のみによる駆動である。すなわち、第1クラッチ60により第2M/G58と出力軸12とが直接連結して駆動する。したがって、出力軸12のトルクは第2M/G58のトルクT2と同じである。このとき、第1M/G56は停止していることができる。すなわち、ワンウエイクラッチ54がフリーになるので、第1M/G56が停止して第1リングギヤ24、第2リングギヤ34は回転することができる。
【0069】
次にE−3モードは第1M/G56と第2M/G58の両者による駆動である。すなわち、第1クラッチ60の締結により第2M/G58はE−2モードと同様に出力軸12を駆動し、第1サンギヤ22はE−1モードと同様に出力軸12を減速駆動する。
したがって、出力軸12のトルクはT1(1+α1)/α1+T2である。
【0070】
次にE−4モードも第1M/G56と第2M/G58の両者による駆動であるが、第1クラッチ60に代わって第2クラッチ68が締結され、第2M/G58が第1リングギヤ24を駆動する点がE−3モードと異なる。
したがって、出力軸12のトルクは第1M/G56のトルクT1と第2M/G58のトルクT2との和になる。
【0071】
また、E−3モードとE−4モードの切り替え途中に、第1クラッチ60と第2クラッチ68が同時に締結することがあっても差し支えない。すなわち、その場合は第1M/G56、第2M/G58と第1遊星歯車組20および出力軸12とが一体になって回転する。
以上のEV走行において、E−1モード乃至E−4モードは、自動車の走行負荷などに応じて自由に切り替えて駆動することができる。
【0072】
次にEV走行で後進するE−Rモードについて説明する。
E−Rモードは図8に見るように、第1クラッチ60を締結することにより、第2M/G58が逆回転して出力軸12を直接駆動する。この場合の出力軸12のトルクは、E−2モードと回転方向が異なるだけで同じである。
また、図8には記してないが、第1クラッチ60に代わって第2クラッチ68を締結することにより、第1M/G56が駆動して第2M/G58が発電するようにして後進駆動することもできる。ここでいう第2M/G58の発電は、第2M/G58がごく低速で正回転して発電するか、または停止していることを意味するが、詳細の説明は省略する。
【0073】
続いて、前進走行中においてエンジン1が停止したEB走行におけるB−1モードは、E−4モードと同様の締結で第1M/G56と第2M/G58の両者による発電を行う。したがって、出力軸12のトルクは回転方向が異なるだけでE−4モードと同じである。B−1モードは高速走行から低速まで幅広い条件に適する。
【0074】
次に、B−2モードは、EV走行におけるE−3モードとE−4モードの切り替え途中で説明したのと同様に、第1クラッチ60と第2クラッチ68が同時に締結して行う。この場合は第1M/G56、第2M/G58と第1遊星歯車組20および出力軸12とが一体になって回転し、第1M/G56と第2M/G58の両者による発電を行う。B−2モードも第1M/G56と第2M/G58の回転速度が同一という制約はあるが、高速走行から低速まで幅広い条件に適する。
【0075】
次に、B−3モードは、E−2モードと同様の締結で第2M/G58による発電を行う。したがって、出力軸12のトルクは回転方向が異なるだけでE−2モードと同じである。このとき、第1M/G56は停止していることができる。B−3モードは積極的な制動をしたくない走行に適する。
【0076】
次に、HV走行について説明する。
自動車が停止または低速で走行中におけるエンジン1の始動は、ブレーキ50と第2クラッチ68を締結して第2M/G58を正回転することで、第2遊星歯車組30による減速駆動でエンジン1を回転させて行う。
また、自動車が一定速度以上で走行中におけるエンジン1の始動は、第2リングギヤ34が正回転している状態においてブレーキ50で第2サンギヤ32を制動することで、エンジン1を減速回転させて行う。このとき、ブレーキ50は締結(第2サンギヤ32の固定)ではなく、制動力の付与(第2サンギヤ32の制動回転)でよい。
【0077】
次に、エンジン1が始動した後の低速走行に適したH−1モードは、第1クラッチ60を締結して行う。すなわち、実施例1のH−1モードと同様にワンウエイクラッチ54の作用で第2遊星歯車組30が一体になって、入力軸10とともに第1リングギヤ24を駆動する。
第1遊星歯車20でトルク分割が行われ、一部が第1サンギヤ22を経て第1M/G56による発電に、他は第1キャリア28を経て機械的に出力軸12を減速駆動する。同時に、第1M/G56が発電した電力は、図示しないコントローラーを経由して第2M/G58に供給され、第2M/G58は第1クラッチ60を介して出力軸12を駆動する。
【0078】
このとき、出力軸12のトルクは、第1M/G56の発電トルクをT1とすると、T1(1+α1)/α1+T2であり、Te(1+α1)+T2でもある。
H−1モードにおいて自動車の速度が上昇したりすると、第1M/G56の回転速度がごく低速回転になって発電効率が悪い運転域になるので、そうなる前にH−2モードへ切り替える。
【0079】
H−2モードは第1クラッチ60に加えてブレーキ50を締結することで駆動する。ブレーキ50の締結で第2遊星歯車組30によって、エンジン1は第1リングギヤ24を増速駆動する。したがって、出力軸12の回転速度を切り替え前と同じとした場合、第1サンギヤ22と第1M/G56の回転速度が上昇し、上記の発電効率が悪い運転域から脱する結果、動力伝達効率が向上する。このとき、出力軸12のトルクは、T1(1+α1)/α1+T2であり、Te(1+α1)/(1+α2)+T2でもある。
【0080】
続いて、さらに車速が上がった場合にH−3モードに切り替える。H−3モードは第1クラッチ60に加えて第2クラッチ68を締結することで、ワンウエイクラッチ54の係合とあいまって、第1遊星歯車組20と第2遊星歯車組30が一体になり、エンジン1による直結駆動が行われる。図8の作動表にはH−3モードに発電・駆動の印を記していないが、第2M/G58が発電し、その電力で第1M/G56が駆動する運転が可能であるし、特に両者とも発電・駆動を行わなくてもよい。
H−3モードは直結駆動なので、H−4モードへ移行する一時的な中継モードとしてとらえることもできる。変速比1前後の運転はH−4モードへ移行して行う。
【0081】
H−4モードは、第2クラッチに加えてワンウエイクラッチ54が自動的に係合することで、入力軸10は第2遊星歯車組30と一体になって第1リングギヤ24と第2M/G58を直結駆動する。そして第2M/G58が発電し、その電力で第1M/G56が駆動する。H−4モード以降において出力軸12のトルクはT1(1+α1)/α1である。
H−4モードにおいて車速が上昇すると、第1M/G56の回転速度が上がって、第1M/G56の駆動効率が悪い運転域になるので、そうなる前にH−5モードへ切り替える。
【0082】
H−4モードは、クラッチ60とともに第1ブレーキ50を締結して駆動する。
その結果、入力軸10の回転は第2遊星歯車組30において増速され、第2M/G58と第1リングギヤ24とを(1+α2)倍の回転速度で駆動する。
したがって、出力軸12の回転速度を切り替え前と同じとした場合、第2サンギヤ32と第2M/G58の回転速度が低下し、上記の発電効率が悪い運転域から脱する結果、動力伝達効率が向上する。
なお、図8には記してないが、ブレーキ50の締結はそのままに第2クラッチ68に代えて第1クラッチ60を締結しての駆動も可能である。
【0083】
続いて、HV走行の後進はH−Rモードで行う。H−Rモードは、H−2モードと同様の締結で駆動する。ただし、H−2モードと同様に第1リングギヤ24がエンジン1に増速駆動されて第1M/G56に発電させるため、エンジン1は機械的に出力軸12を前進方向に駆動するので、第2M/G58が逆回転方向に駆動するトルクからその分が減じられて駆動する。H−Rモードの出力軸12のトルクは、Te(1+α1)/(1+α2)−T2である。
【0084】
実施例5も、実施例1と同様にEV走行において第1M/G56と第2M/G58の両方を、同時駆動を含め、フルに活用できることが特徴であり、第1M/G56と第2M/G58の合計容量が自動車の必要とするモーター容量を満足すればいいので、1個のモーターでしか駆動できなかった従来例に比べてモーターのトータル容量を減らすことができる。
【0085】
また、実施例1と比べて摩擦要素が2個増えている分、駆動モードが多様になり、自動車の運転条件に応じて最適な駆動モードを選択することで、電力消費や燃料消費の少ない運転をすることができる。
さらに、上記したように、EB走行のB−1モードでは第2クラッチ68を締結して第1M/G56と第2M/G58とで発電しながら制動を行うが、第2クラッチ68の締結を解除すると第1M/G56と第2M/G58の両方を回転させないことも可能である。
例えばHV走行における高速走行中にアクセルペダルの踏み込みをゆるめて、加速はしないけれども積極的な制動はしたくない場合、エンジン1を停止させて惰行するとEB走行と同じ状態になる。このとき従来例では少なくとも一方のM/Gが回転するので、それが発電することによって制動に至らないように若干の電力を供給する必要があり、電力を消費することになる。
上記のような制御により第1M/G56と第2M/G58が回転しないで済むので、余計な電力消費を抑えられるという効果があり、その分、燃費が向上する。
実施例5も、いわゆるプラグインハイブリッド自動車と呼ばれる車両等の駆動装置として用いるのに適する。
【実施例6】
【0086】
次に、本発明の実施例6の自動車用駆動装置につき説明する。
図9は、本発明の実施例6に係る自動車用駆動装置の主要部のスケルトン図である。
ここでは、実施例1および実施例5と異なる部分を中心に説明し、これらと実質的に同じ部分については同じ符号を付し、それらの説明を省略する。
【0087】
実施例6における実施例5との違いは、実施例1と同様に本発明の減速歯車を構成する第3遊星歯車組40が設けられ、この周辺の連結関係が異なることである。
すなわち、第2M/G58は、第3サンギヤ42と連結されるとともに、クラッチ60により一体になった第1リングギヤ24および第2リングギヤ34と連結可能であり、第3キャリア48は出力軸12と連結され、第3リングギヤ44は第2ブレーキ70によりケース52に固定可能である。
なお、ブレーキが2個あるので、第2サンギヤ32を固定する側を第1ブレーキ50とした。
【0088】
続いて実施例6の作動を、図10に示した作動表を参考にしながら説明する。ここでも実施例1および実施例5と基本的に同じ部分は詳細の説明を省略する。
図10は、クラッチ60を「C」、第1ブレーキ50を「B1」、第2ブレーキ70を「B2」と記した他は図8と同様の書き方をしている。
上記したように、実施例6の第1ブレーキ50は実施例5のブレーキ50に相当し、実施例6のクラッチ60は実施例5の第2クラッチ68に相当し、実施例6の第2ブレーキ70は実施例5の第1クラッチ60に相当するが、図10に示した作動表では図8と一部の用い方に違いがある。
【0089】
はじめに、EV走行のE−1モードは実施例5と同様であるので、説明を省略する。
E−2モードは、第3遊星歯車組40で減速作用する分、出力軸12のトルクが実施例5と異なり、T2(1+α3)/α3である。このとき、第1M/G56は停止していることができる。
【0090】
次にE−3モードは、基本的に実施例5と同様の締結関係であるが、出力軸12のトルクはT1(1+α1)/α1+T2(1+α3)/α3である。
続いてE−4モードは、基本的に実施例5と同様であり、出力軸12のトルクも同じである。また、E−3モードとE−4モードの切り替え途中に、クラッチ60と第2ブレーキ70が同時に締結することがあっても差し支えないが、詳細の説明は省略する。
以上のEV走行において、E−1モード乃至E−4モードは、自動車の走行負荷などに応じて自由に切り替えて駆動することができる。
【0091】
次にEV走行で後進するE−Rモードについて説明する。
E−Rモードは、第2ブレーキ70を締結することにより、第2M/G58が逆回転して出力軸12を直接駆動する。この場合の出力軸12のトルクは、E−2モードと回転方向が異なるだけで同じである。
【0092】
続いて、前進走行中においてエンジン1が停止したEB走行におけるB−1モードは、実施例5と同様である。
次にB−2モードは、EV走行におけるE−3モードとE−4モードの切り替え途中で説明したのと同様に、クラッチ60と第2ブレーキ70が同時に締結することで、第1M/G56と第2M/G58の両者による発電を行う。
B−3モードは、第2ブレーキ70が締結することで、第2M/G58が第3遊星歯車組40に増速されて発電する。出力軸12のトルクは回転方向が異なるだけでE−2モードと同じである。このとき、第1M/G56は停止していることができる。
【0093】
次に、HV走行について説明する。
エンジン1の始動は、実施例5と同様であるので説明を省略する。
エンジン1が始動した後のH−1モードも実施例5と同様であるが、第3遊星歯車組40の減速比分だけ出力軸12のトルクが異なる。すなわち、出力軸12のトルクはT1(1+α1)/α1+T2(1+α3)/α3であり、他方、Te(1+α1)+T2(1+α3)/α3でもある。
【0094】
H−2モードは第2ブレーキ70に加えてブレーキ50を締結することで駆動する。第1ブレーキ50の締結で第2遊星歯車組30によって、エンジン1は第1リングギヤ24を増速駆動する点は実施例1と同様である。このとき、出力軸12のトルクは、T1(1+α1)/α1+T2(1+α3)/α3であり、他方、Te(1+α1)/(1+α2)+T2(1+α3)/α3でもある。
【0095】
続いて、H−3モードは実施例5のH−4モードと、H−4モードは実施例5のH−5モードとそれぞれ同様であるので説明を省略する。
H−1モードからH−2モードは低・中速走行に、H−3モードからH−4モードは中・高速走行に適する。
【0096】
続いて、HV走行の後進はH−Rモードで行う。H−Rモードは、実施例5と同様にH−2モードと同じ締結で駆動する。ただし、第3遊星歯車組40の減速比分だけ出力軸12のトルクが異なる。すなわち、出力軸12のトルクはT1(1+α1)/α1−T2(1+α3)/α3である。
【0097】
実施例6も、実施例1と同様にEV走行において第1M/G56と第2M/G58の両方を、同時駆動を含め、フルに活用できることが特徴であり、第1M/G56と第2M/G58の合計容量が自動車の必要とするモーター容量を満足すればいいので、1個のモーターでしか駆動できなかった従来例に比べてモーターのトータル容量を減らすことができる。
【0098】
また、実施例1と比べて摩擦要素が2個増えている分、駆動モードが多様になるので自動車の運転条件に応じて最適な駆動モードを選択することで、電力消費や燃料消費の少ない運転をすることができる。
さらに実施例5との比較では、減速歯車である第3遊星歯車組40を備えたので、特に低速段と後進の駆動モードにおける駆動力の確保が容易になり、第2M/G58をより小トルク・高速型にすることができる。
実施例6も、いわゆるプラグインハイブリッド自動車と呼ばれる車両等の駆動装置として用いるのに適する。
【実施例7】
【0099】
次に、本発明の実施例7の自動車用駆動装置につき説明する。
図11は、本発明の実施例7に係る自動車用駆動装置の主要部のスケルトン図である。ここでは、実施例1および実施例4ならびに実施例6と異なる部分を中心に説明し、これらと実質的に同じ部分については同じ符号を付し、それらの説明を省略する。
【0100】
実施例7における実施例6との違いは、実施例4と同様に、出力軸12が入力軸10と平行に設けられていることと、入力変速歯車群に遊星歯車を用いていない点である。
すなわち入力変速歯車群は、入力軸10と平行に設けたカウンタ軸62との間に、入力歯車64a、64b、および駆動歯車66a、66bの、計4枚のいわゆる平行軸歯車で構成されており、第1クラッチ60を介して駆動可能である。
【0101】
そして、実施例4と同様に伝達歯車28a、12aが第1キャリア28と出力軸12とを連結するとともに、第2M/G58が出力軸12を第2クラッチ68と第1減速ギヤ58aを介して減速駆動可能である。さらに、第2M/G58は第3クラッチ72と第2減速歯車58bを介して入力歯車64bを駆動可能であり、カウンタ軸62および駆動歯車66a、66bを経て第1リングギヤ24を減速駆動することができる。
図11では、減速歯車58bと入力歯車64bが離れて描かれているが、実際は両者が噛み合う位置関係になっている。
さらに、出力軸12は油圧ポンプ2を駆動可能になっている。
【0102】
各回転メンバーの連結関係は以下のようになっている。
入力変速歯車群については、上記した減速歯車58bとの噛み合いと、駆動歯車66bが第1リングギヤ24と連結していることと、入力軸10がワンウエイクラッチ54を介して第1リングギヤ24と連結していることが実施例4と異なるのみである。
また、エンジン1が正回転方向に駆動する方向にのみワンウエイクラッチ54が係合することは実施例4と同様である。
【0103】
続いて実施例7の作動を、図12に示した作動表を参考にしながら説明する。
図12は、図10におけるそれぞれ実施例6の第1ブレーキ50に代わって第1クラッチ60を「C1」とし、第2ブレーキ70に代わって第2クラッチ68を「C2」として、クラッチ60に代わって第3クラッチ72を「C3」としてあるのみで、締結の組み合わせは実施例6と同じである。
【0104】
上記したように、実施例6における入力変速歯車群であった第2遊星歯車組30に代わって入力歯車64a、64bと駆動歯車66a、66bがあるのと、減速歯車の第3遊星歯車組40に代わって減速歯車58a、58bがそれぞれの相手歯車12a、64bと噛み合って同じ機能を果たしている。
唯一、機能的に異なるのは減速歯車58bが入力歯車64bと噛み合って、第2M/G58が第1リングギヤ24を減速駆動するようになっている点である。
【0105】
また、各駆動モードにおける出力軸12のトルクであるが、上記した伝達歯車28a、12aと、入力変速歯車群を構成する入力歯車64a、64b、および駆動歯車66a、66bと、減速歯車58a、58bとそれぞれの相手歯車12a、64bの、各歯数比が出力軸トルクに影響することが異なるのみで、実施例6と同様であるので、詳細の説明を省略する。
【0106】
実施例7も、実施例1と同様にEV走行において第1M/G56と第2M/G58の両方を、同時駆動を含め、フルに活用できることが特徴であり、第1M/G56と第2M/G58の合計容量が自動車の必要とするモーター容量を満足すればいいので、1個のモーターでしか駆動できなかった従来例に比べてモーターのトータル容量を減らすことができる。
【0107】
また、実施例6と同様に駆動モードが多様であるので自動車の運転条件に応じて最適な駆動モードを選択することで、電力消費や燃料消費の少ない運転をすることができる。
さらに実施例6との比較では、第2M/G58が、減速歯車58aと伝達歯車12aでの減速駆動に加えて、減速歯車58bとそれぞれの入力歯車64bから第1リングギヤ24にかけても減速駆動するので、特に低速段の駆動モードにおける駆動力の確保が容易になり、第2M/G58をより小トルク・高速型にすることができる。
【0108】
また、伝達歯車28a、12aと、入力変速歯車群を構成する入力歯車64a、64b、および駆動歯車66a、66bと、減速歯車58a、58bとそれぞれの相手歯車12a、64bなどに用いた平行軸の歯車は歯数比の変更が遊星歯車に比べて容易であり、適用する車種に応じた仕様に最適化することがやりやすいメリットもある。
実施例7も、いわゆるプラグインハイブリッド自動車と呼ばれる車両等の駆動装置として用いるのに適する。
【実施例8】
【0109】
次に、本発明の実施例8の自動車用駆動装置につき説明する。
図13は、本発明の実施例8に係る自動車用駆動装置の主要部のスケルトン図である。ここでは、実施例1および実施例6と異なる部分を中心に説明し、これらと実質的に同じ部分については同じ符号を付し、それらの説明を省略する。
【0110】
実施例8における実施例6との違いは、第3リングギヤ44のケース52への固定が実施例6の第2ブレーキ70に代わって減速ワンウエイクラッチ74であることと、これに関連して入力軸10を機械的に静止部(ケース52またはエンジン1の本体)に固定可能な固定装置52aを設けたことである。
すなわち、第3リングギヤ44のケース52への固定を減速ワンウエイクラッチ74とし、第3リングギヤ44の逆回転方向の回転を阻止する構成にしたため、後述するようにEV走行の後進およびEB走行の低速時の作動を実施例6と同じにはできない。
【0111】
そこで、入力軸10にドッグ歯10aを形成して、これに固定装置52aを噛み合わせて入力軸10を固定するものである。固定装置52aは原則としてエンジン1が停止した状態でドッグ歯10aと係合(噛み合わせ)させるものである。
固定装置52aは一般的な自動変速機に用いられるパーキングロック機構と同様のものでよく、ドッグ歯10aは入力軸10に限らずエンジン1のフライホイールの外周に形成してもよい。
その他の構成および各回転メンバーの連結関係は実施例6と同様であるので、詳細な説明を省略する。
【0112】
続いて実施例8の作動を、図14に示した作動表を参考にしながら説明する。
図14は、実施例6における図10の、第2ブレーキ70に代わって減速ワンウエイクラッチ74を「OWC2」、固定装置52aを「L」と、それぞれしてあるのが異なる。なお、実施例6と同様の構成であるが、ブレーキ50を「B」、第1ワンウエイクラッチ54を「OWC1」とした。
【0113】
はじめにEV走行のE−1モードの作動は実施例6と同様である。
続くE−2モードおよびE−3モードは、第3リングギヤ44の固定が減速ワンウエイクラッチ74であるのが異なるが、実質的な作動はそれぞれ実施例6と同様である。
次のE−4モードは実施例6と同様である。
【0114】
続いて後進のE−Rモードは、ブレーキ50の締結に加えて固定装置52aをドッグ歯10aに係合させることにより、第1リングギヤ24が回転方向にかかわらず固定される。この状態で第1M/G56を逆回転させると、出力軸12は減速駆動される。
このときの出力軸12のトルクは、第1M/G56のトルクを−T1とすると、−T1(1+α1)/α1である。
【0115】
続いてEB走行のB−1モードは、実施例6と同様である。
次のB−2モードは、E−Rモードと同様にブレーキ50の締結と固定装置52aの係合により第1リングギヤ24を固定し、第1M/G56に発電させる。このときの出力軸12のトルクは、回転方向が逆になるだけでE−Rモードと同様である。
B−2モードでは第2M/G58を停止させておくことができる。
【0116】
続いてHV走行について説明する。
エンジン1の始動は実施例6と同様である。また、続くH−1モードおよびH−2モードは、第3リングギヤ44の固定が減速ワンウエイクラッチ74であるのが異なるが、実質的な作動はそれぞれ実施例6と同様である。
また、H−3モードとH−4モードは実施例6と同様である。
【0117】
実施例8も、実施例1および実施例6と同様にEV走行において第1M/G56と第2M/G58の両方を、同時駆動を含め、フルに活用できることが特徴であり、第1M/G56と第2M/G58の合計容量が自動車の必要とするモーター容量を満足すればいいので、1個のモーターでしか駆動できなかった従来例に比べてモーターのトータル容量を減らすことができる。
【0118】
また、実施例6と同様に駆動モードが多様であるので自動車の運転条件に応じて最適な駆動モードを選択することで、電力消費や燃料消費の少ない運転をすることができる。
さらに、実施例6に比べて減速ワンウエイクラッチ74が増えた代わりに、実施例6にあった第2ブレーキ70がないので、製造コストが安いというメリットがある。
ただ、実施例6との比較では、HV走行における後進がないので、いわゆるプラグインハイブリッド自動車と呼ばれる車両等の駆動装置として用いるのに限定される。
【実施例9】
【0119】
次に、本発明の実施例9の自動車用駆動装置につき説明する。
図15は、本発明の実施例9に係る自動車用駆動装置の主要部のスケルトン図である。ここでは、実施例1と実施例6および実施例7、実施例8と異なる部分を中心に説明し、これらと実質的に同じ部分については同じ符号を付し、それらの説明を省略する。
【0120】
実施例9における実施例8との違いは、入力軸10と出力軸12とが同じ軸心上にありながら、カウンタ軸62が入力軸10と平行に設けられていることである。
すなわち実施例7と同様に、入力変速歯車群が入力軸10および第1遊星歯車組20とカウンタ軸62との間に設けられた入力歯車64a、64b、および駆動歯車66a、66bの、計4枚の平行軸歯車で構成されており、第1クラッチ60を介して第1リングギヤ24を増速駆動可能である。
【0121】
また、第1M/G56は出力軸12と平行に設けられ、第1減速歯車56a、22aを介して第1サンギヤ22と連結している。さらに、第2M/G58はカウンタ軸62と同じ軸心上に配置され、減速ワンウエイクラッチ74と第2減速歯車58a、28aを介して第1キャリア28および出力軸12と、第3クラッチ72と駆動歯車66a、66bを介して第1リングギヤ24と、それぞれ連結可能である。
また、実施例8と同様に、減速ワンウエイクラッチ74に関連して入力軸10のドッグ歯10aと係合可能な固定装置52aが設けられている。
【0122】
そして、駆動歯車66aは動力取り出し歯車76と噛み合っており、これを介して動力取り出し軸78を駆動することができる。これは、一般にパワーテークオフ装置と言われるもので、駆動装置の横に取り付けて自動車の走行以外の目的で、動力取り出し軸78から動力を取り出してさまざまな作業等に使用するものである。
【0123】
続いて実施例9の作動を、図16に示した作動表を参考にして説明する。
図16は、図14に示した実施例8の作動表と基本的に同じである。違いは、実施例8における「C」が第3クラッチ72の「C3」に、「B」が第1クラッチ60の「C1」に、それぞれ代わっていることである。
作動については実質的に実施例8と同様であるので詳細の説明は省略する。
【0124】
むろん、入力変速歯車群が入力歯車64a、64b、および駆動歯車66a、66bの、4枚の平行軸歯車で構成され、第1M/G56と第1サンギヤ22との間に第1減速歯車56a、22aが、さらに第2M/G58と出力軸12との間に第2減速歯車58a、28aが、第2M/G58と第1リングギヤ24との間に駆動歯車66a、66bが介在する分、出力軸12のトルクは実施例8と異なるが基本的に同様である。
【0125】
また、動力取り出し軸78は、第3クラッチ72を締結すると第2M/G58で駆動可能であり、第1クラッチ60を締結した場合はエンジン1で駆動することができるので、自動車が停止中、走行中を問わずに駆動することができる。
外部への動力取り出し方法は上記に限らず、例えばカウンタ軸62から直接取り出すことも可能である。重要なことは、第1リングギヤ24の回転と連動した動力を取り出すことである。
【0126】
実施例9も、実施例1と同様にEV走行において第1M/G56と第2M/G58の両方を、同時駆動を含め、フルに活用できることが特徴であり、第1M/G56と第2M/G58の合計容量が自動車の必要とするモーター容量を満足すればいいので、1個のモーターでしか駆動できなかった従来例に比べてモーターのトータル容量を減らすことができる。
【0127】
また、実施例7と同様に駆動モードが多様であるので自動車の運転条件に応じて最適な駆動モードを選択することで、電力消費や燃料消費の少ない運転をすることができる。
さらに実施例7との比較では、第2M/G58が、第2減速歯車58a、28aでの減速駆動に加えて、駆動歯車66a、66bを介した第1リングギヤ24をも減速駆動するので、特に低速段の駆動モードにおける駆動力の確保が容易になり、第2M/G58をより小トルク・高速型にすることができる。
さらに、第1M/G56も第1減速歯車56a、22aを介して第1サンギヤ22と連結しているので、第1M/G56もより小トルク・高速型にすることができる。
したがって、動力取り出し軸78からの動力取り出しが可能であることもあいまって、実施例9は大きな駆動力を必要とするハイブリッド商用車に適しているといえる。
【0128】
以上説明したように、本発明の自動車用駆動装置にあっては、入力軸と動力分割遊星歯車組を構成する第1遊星歯車組との間で、低速段と高速段の増速の2段変速が可能な入力変速歯車群を備え、低速段の駆動を可能にするワンウエイクラッチと増速駆動を可能にするブレーキまたはクラッチといった摩擦要素の活用により、EV走行において第1M/Gと第2M/Gの両方をフルに活用できることが特徴であり、入力変速歯車群における増速作用でHV走行の高速において動力伝達効率の向上も果たし、高速走行における惰行時のロス低減などにより、燃料消費や電力消費の低減が可能である。
【0129】
このため、EV走行において従来例のような大きな容量のM/Gを用いなくても十分な駆動力を得ることができるので、一般的にコントローラーに含まれるインバーターも含めて製造コスト・重量・大きさを小さくできるメリットがある。
これらの特徴は、これから普及が期待されるプラグインハイブリッド車に適したものである。
【0130】
また、本発明の自動車用駆動装置にあっては、以下のような変更を行うことも可能である。
例えば、上記各実施例は入力変速歯車群の変速段数が2段のものであったが、これをさらに多段化することができる。
また、各実施例の説明において摩擦要素として説明したブレーキ50、クラッチ60は、円錐クラッチなど他の締結要素に置き換えても上記各作用は成立する。
【0131】
さらに、上記した各実施例は、第1遊星歯車組20、第2遊星歯車組30などを、シングルピニオン型と呼ばれる遊星歯車組を用いたが、これをダブルピニオン型に置き換えることも可能である。図示は省略したが、ダブルピニオン型の場合の連結関係は、シングルピニオン型に対してキャリアとリングギヤを入れ替えればよい。
【0132】
本発明の自動車用駆動装置は、当業者の一般的な知識に基づいて、自動車の走行条件に応じて最適な駆動モードを選択し、M/Gの最も効率の高いゾーンでの駆動を行うことや、GPS(全地球測位システム)、カーナビゲーションシステムなどの情報を基に、長い坂道の走行時や高速道路の入り口において、さらには気温が低くて自動車の暖房熱源が足りない場合などに、自動的にHV走行に切り替えるなどの制御面での工夫と合わせた態様で実施することができる。
【産業上の利用可能性】
【0133】
本発明の自動車用駆動装置は、特に走行コストを重視し、環境負荷の低減を要求される小型乗用車などに適用することができるが、それらに限らず内燃機関および電気モーター・ジェネレーターを利用したさまざまな車両に適用することができる。
【符号の説明】
【0134】
1 エンジン
2 油圧ポンプ
10 入力軸
12 出力軸、第1出力軸
20 第1遊星歯車組(動力分割遊星歯車組)
22 第1サンギヤ
24 第1リングギヤ
26 第1ピニオン
28 第1キャリア
30 第2遊星歯車組(入力変速歯車群)
32 第2サンギヤ
34 第2リングギヤ
36 第2ピニオン
38 第2キャリア
40 第3遊星歯車組(減速歯車)
42 第3サンギヤ
44 第3リングギヤ
46 第3ピニオン
48 第3キャリア
50 ブレーキ、第1ブレーキ(第2締結要素)
52 ケース(静止部)
54 ワンウエイクラッチ(第1締結要素)
56 第1M/G
58 第2M/G
60 クラッチ、第1クラッチ
62 カウンタ軸
64 入力歯車
66 駆動歯車
68 第2クラッチ
70 第2ブレーキ
72 第3クラッチ
74 減速ワンウエイクラッチ
76 動力取り出し歯車
78 動力取り出し軸


【特許請求の範囲】
【請求項1】
エンジンからの動力を受け入れ可能な入力軸と、
出力軸と、
第1サンギヤ、第1リングギヤ、第1キャリアの、3つの回転要素を有する第1遊星歯車組で構成される動力分割が可能な動力分割遊星歯車組と、
低速段と高速段の2段変速が可能で、前記入力軸から受け入れた動力を前記動力分割遊星歯車組へ変速して出力可能な入力変速歯車群と、
第1モーター・ジェネレーターと、
第2モーター・ジェネレーターと、
を備え、
前記出力軸は前記第1リングギヤと前記第1キャリアとのうちの一方と連結し、
前記入力変速歯車群は第1リングギヤと前記第1キャリアとのうちの他方と連結し、
前記第1モーター・ジェネレーターは前記第1サンギヤと連結し、
前記第2モーター・ジェネレーターは、前記出力軸と連結されるか、または連結可能であり、
前記入力変速歯車群は、前記低速段の動力伝達を可能にする第1締結要素と、前記高速段の動力伝達を可能にする第2締結要素とを有し、前記第1締結要素と前記第2締結要素とを同時に締結して、前記エンジンが停止した状態で前記第1モーター・ジェネレーターおよび前記第2モーター・ジェネレーターが前記出力軸を同時駆動可能としたことを特徴とする自動車用駆動装置。
【請求項2】
前記入力変速歯車群が第1リングギヤと連結するとともに、前記第2モーター・ジェネレーターが、前記第1リングギヤと直接、または減速歯車を介して連結可能であることを特徴とする請求項1に記載の自動車用駆動装置。
【請求項3】
前記第2モーター・ジェネレーターが、前記出力軸と前記減速歯車を介して連結されるか、または連結可能であることを特徴とする請求項2に記載の自動車用駆動装置。
【請求項4】
前記減速歯車が減速駆動を可能にする締結要素を減速ワンウエイクラッチとして、入力軸を静止部に固定可能な固定装置を設けたことを特徴とする請求項3に記載の自動車用駆動装置。
【請求項5】
前記第1締結要素がワンウエイクラッチであることを特徴とする請求項1請求項1乃至4のいずれか1項に記載の自動車用駆動装置。
【請求項6】
前記エンジンを停止した前進走行において、前記第2締結要素を解放するようにしたことを特徴とする請求項1乃至5のいずれか1項に記載の自動車用駆動装置。
【請求項7】
前記エンジンで駆動する後進走行において、前記第2締結要素を締結するようにしたことを特徴とする請求項1乃至6のいずれか1項に記載の自動車用駆動装置。
【請求項8】
前記出力軸を前記入力軸と平行に配置して、前記動力分割遊星歯車組と前記入力変速歯車群と前記第1モーター・ジェネレーターを前記入力軸と同軸上に配置し、前記第1リングギヤと前記第1キャリアのとのうちの前記他方と前記出力軸とを歯車対で連結するとともに、前記第2モーター・ジェネレーターが前記歯車対の一方の歯車を介して前記出力軸を減速駆動可能としたことを特徴とする請求項1乃至7のいずれか1項に記載の自動車用駆動装置。
【請求項9】
前記入力変速歯車群は、第2サンギヤ、第2リングギヤ、第2キャリアの、3つの回転要素を有する第2遊星歯車組で構成され、前記第2キャリアは前記入力軸と連結し、前記第2リングギヤは前記第1キャリアと前記第1リングギヤとのうちの前記一方と連結し、前記第2サンギヤを静止部に固定可能な前記第2締結要素を構成するブレーキと、前記第2リングギヤと前記第2キャリアとのうちのいずれか一方と前記第2サンギヤとの間、または前記第2キャリアと前記第1キャリアとの間のいずれかの間に前記ワンウエイクラッチを設けたことを特徴とする請求項1乃至8のいずれか1項に記載の自動車用駆動装置。
【請求項10】
前記動力分割遊星歯車組を前記入力軸と同軸上に配置し、前記入力軸と該入力軸と平行に配置したカウンタ軸との間に第1歯車対と第2歯車対からなる前記入力変速歯車群を構成し、前記入力軸と前記第1キャリアおよび前記第1リングギヤのうちの一方とを、前記第2締結要素を構成するワンウエイクラッチで連結可能であり、前記入力軸と同軸上に配置したクラッチにより、前記入力変速歯車群と前記入力軸とを連結可能としたことを特徴とする請求項1乃至7のいずれか1項に記載の自動車用駆動装置。
【請求項11】
前記第2モーター・ジェネレーターが、前記カウンタ軸上の前記第1歯車対と前記第2歯車対とのうちの一方と噛み合う減速歯車を介して前記第1リングギヤと連結可能であることを特徴とする請求項10に記載の自動車用駆動装置。
【請求項12】
前記第1リングギヤ、もしくはこれと連動して回転する歯車から外部へ動力を取り出し可能としたことを特徴とする請求項1乃至11のいずれか1項に記載の自動車用駆動装置。
【請求項13】
前記第2締結要素は、ブレーキであり、該ブレーキを、前記第1モーター・ジェネレーターと前記第2モーター・ジェネレーターとのうちの前記エンジンに近い方のモーター・ジェネレーターと前記エンジンとの間に配置したことを特徴とする請求項1乃至12のいずれか1項に記載の自動車用駆動装置。
【請求項14】
前記出力軸を前記入力軸と平行に配置して、前記第1モーター・ジェネレーターを前記入力軸上の前記エンジンと軸方向反対側に配置して、前記入力軸上で軸方向に前記エンジン側から順に、前記入力変速歯車群、前記動力分割遊星歯車組、を配置し、前記クラッチを前記エンジンと前記入力変速歯車群との間に配置したことを特徴とする請求項10に記載の自動車用駆動装置。
【請求項15】
前記エンジンを停止して、前記第1モーター・ジェネレーターと、前記第2モーター・ジェネレーターを動力源として駆動している間に、前記エンジンを予備的に潤滑可能とする油圧ポンプを有することを特徴とする請求項1乃至13のいずれか1項に記載の自動車用駆動装置。
【請求項16】
前記油圧ポンプを、前記出力軸と前記カウンタ軸の、いずれか一方で駆動するようにしたことを特徴とする請求項15に記載の自動車用駆動装置。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【公開番号】特開2013−83306(P2013−83306A)
【公開日】平成25年5月9日(2013.5.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−223514(P2011−223514)
【出願日】平成23年10月8日(2011.10.8)
【出願人】(393011821)有限会社ファインメック (13)
【出願人】(594008626)協和合金株式会社 (49)
【Fターム(参考)】