説明

自動車車体の組立装置及び車体組立方法

【課題】自動車車体の組立に必要なスペースを小さくすることが可能であるとともにサイクルタイムの短縮が可能な自動車車体の組立装置及び車体組立方法を提供する。
【解決手段】自動車車体の組立装置10は、サイドパネルW1を搬送する搬送装置12と、サイドパネルW1を溶接位置に位置決めする位置決め治具14と、サイドパネルW1を搬送装置12から受け取り、位置決め治具14にセットするロボット16とを備え、搬送装置12、位置決め治具14及びロボット16が1つの組立ステーション内に設置されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、左右のサイドパネルをフロアやルーフ等の他の車体構成部材に溶接結合して自動車車体を組み立てる自動車車体の組立装置及び車体組立方法に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に自動車車体は、組立装置により、左右のサイドパネル、フロア、ルーフ等の複数の車体構成部材が溶接により結合されて組み立てられる(例えば特許文献1参照)。このような組立を行う従来の自動車車体の組立装置は、サイドパネルを含む車体構成部材をセットするセット工程を行うセットステーションと、セットされた車体構成部材を溶接する溶接工程を行う溶接ステーションとを別々に備えている。
【0003】
上記のように構成された従来の自動車車体の組立装置により自動車車体を組み立てるには、セットステーションで車体構成部材をプリセット用治具でセット(プリセット)した後に、溶接ステーションに搬送し、溶接ステーションに設置された溶接ロボットにより車体構成部材を溶接する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2000−203472号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上述した従来の自動車車体の組立装置では、車体構成部材のセット工程と溶接工程とを別々のステーションで行うため、自動車車体の組立に使用するスペースが大きく、設備費用が多くかかる。また、プリセットした車体構成部材をセットステーションから溶接ステーションに搬送する必要があるため、その分、サイクルタイムが長くなっている。
【0006】
本発明は、上記の事情に鑑みてなされたものであり、自動車車体の組立に必要なスペースを小さくすることが可能であるとともにサイクルタイムの短縮が可能な自動車車体の組立装置及び車体組立方法を提供すること目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記の目的を達成するため、本発明は、左右のサイドパネルをフロアやルーフ等の他の車体構成部材に溶接結合して自動車車体を組み立てる自動車車体の組立装置において、前記サイドパネルを搬送する搬送装置と、前記サイドパネルを溶接位置に位置決めする位置決め治具と、前記サイドパネルを前記搬送装置から受け取り、前記位置決め治具にセットするロボットとを備え、前記搬送装置、前記位置決め治具及び前記ロボットが1つの組立ステーション内に設置されている、ことを特徴とする。
【0008】
上記の本発明の構成によれば、サイドパネルを搬送する搬送装置、サイドパネル用の位置決め治具及びサイドパネルを移動させるロボットが1つの組立ステーション内に配置されているので、自動車車体の組立に必要なスペースを小さくすることが可能である。また、車体構成部材のセット工程と溶接工程とを別々のステーションで行う従来技術と異なり、本発明では、車体構成部材のセット工程と溶接工程とを1つの組立ステーションで行うので、組立工程のサイクルタイムの短縮が可能である。また、従来では搬送ロボットによりサイドパネルの位置決めを行っていたが、本発明では、位置決め治具によりサイドパネルの位置精度を出すことから、ロボットによる位置決め治具へのサイドパネルのセットに関しては高い位置決め精度が要求されず、ロボット及びこれに装着するハンドリング治具に求められる剛性を小さくでき、ロボットの動作の高速化が可能であり、結果としてサイクルタイムの短縮が可能である。
【0009】
また、上記の自動車車体の組立装置において、前記ロボットは、ロボット本体と、前記ロボット本体に着脱可能であり且つ前記サイドパネルを前記搬送装置から受け取って前記位置決め治具にセットするためのハンドリング治具とを備え、前記位置決め治具は、前記ハンドリング治具を保持可能に構成されている、ことを特徴とする。
【0010】
上記の構成によれば、ハンドリング治具を位置決め治具に保持させることにより、別の場所にハンドリング治具の置き場を設ける必要が無いため、その分、省スペース化が可能である。また、ハンドリング治具を位置決め治具に収納するために、サイドパネルの外側(車体の外側になる側)からサイドパネルをハンドリング治具で保持するので、搬送装置から位置決め治具にサイドパネルを移載する際に、サイドパネルを反転させる等の余計な動作が不要であり、結果としてサイクルタイムの短縮が可能である。
【0011】
また、上記の自動車車体の組立装置において、前記位置決め治具は、ベース部と、前記ベース部から延出する複数のブラケットと、前記各ブラケットの先端部に設けられた把持機構とを備え、前記ベース部と前記把持機構との間に、前記ブラケット間の隙間を通して、前記ハンドリング治具が進入可能なスペースが設けられている、ことを特徴とする。
【0012】
上記の構成によれば、ブラケット間の隙間を通してハンドリング治具が位置決め治具に進入できるように構成されている。従って、簡単な構成で、位置決め治具内にハンドリング治具を収容するためのスペースを確保することができる。
【0013】
また、上記の自動車車体の組立装置において、前記ロボットは、前記ロボット本体に着脱可能な溶接ガンをさらに備える、ことを特徴とする。
【0014】
上記の構成によれば、ロボットがサイドパネルを位置決め治具にセットした後に、ハンドリング治具を溶接ガンに持ち替えて、車体構成部材を溶接することが可能である。すなわち、ロボットは、サイドパネルを移載するための移載ロボットと、車体構成部材を溶接するための溶接ロボットの2つの機能を兼ね備えている。従って、組立ステーションに設置する溶接ロボットの台数を減らすことが可能である。
【0015】
また、本発明は、左右のサイドパネルをフロアやルーフ等の他の車体構成部材に溶接結合して自動車車体を組み立てる車体組立方法において、ロボット本体と、前記サイドパネルを保持可能であって前記ロボット本体に着脱可能なハンドリング治具とを備えるロボットにより、前記サイドパネルを搬送する搬送装置から前記サイドパネルを受け取り、受け取った前記サイドパネルを、前記サイドパネルを溶接位置に位置決めする位置決め治具にセットし、その後、前記ハンドリング治具を前記位置決め治具内に収納して、前記ロボット本体から前記ハンドリング治具を分離させ、その後、前記ハンドリング治具を前記位置決め治具内に収納した状態で前記サイドパネルと前記車体構成部材とを溶接結合し、前記位置決め治具が前記サイドパネルを開放した後に前記ロボット本体を用いて前記ハンドリング治具を回収する、ことを特徴とする。
【0016】
上記の本発明の方法によれば、車体構成部材のセット工程と溶接工程とを別々のステーションで行う従来技術と異なり、車体構成部材のセット工程と溶接工程とを1つの組立ステーションで行うので、組立工程のサイクルタイムを短縮化できる。また、ハンドリング治具を位置決め治具に収納することにより、別の場所にハンドリング治具の置き場を設ける必要が無いため、その分、省スペース化が可能である。また、ハンドリング治具を位置決め治具に収納するために、サイドパネルの外側(車体の外側になる側)からサイドパネルをハンドリング治具で保持するので、搬送装置から位置決め治具にサイドパネルを移載する際に、サイドパネルを反転させる等の余計な動作が不要であり、結果としてサイクルタイムの短縮が可能である。
【0017】
また、上記の車体組立方法において、前記ハンドリング治具を前記位置決め治具に収納して前記ロボット本体から前記ハンドリング治具を分離させた後に、前記ロボット本体に前記溶接ガンを装着し、前記溶接ガンを装着した前記ロボットにより、前記サイドパネルと前記車体構成部材とを溶接結合する、ことを特徴とする。
【0018】
上記の方法によれば、ロボットがサイドパネルを位置決め治具にセットした後に、ハンドリング治具を溶接ガンに持ち替えて車体構成部材を溶接するので、組立ステーションに設置する溶接ロボットの台数を減らすことが可能である。
【発明の効果】
【0019】
上記の本発明に係る自動車車体の組立装置及び車体組立方法によれば、自動車車体の組立に必要なスペースを小さくすることが可能であるとともにサイクルタイムの短縮が可能である。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】本発明の一実施形態に係る自動車車体の組立装置の第1状態を示す一部省略正面図である。
【図2】本発明の一実施形態に係る自動車車体の組立装置の第2状態を示す一部省略正面図である。
【図3】本発明の一実施形態に係る自動車車体の組立装置の第3状態を示す一部省略正面図である。
【図4】本発明の一実施形態に係る自動車車体の組立装置を示す全体平面図である。
【図5】図5Aは、溶接ガンがロボット本体に対して着脱可能であることを説明する図であり、図5Bは、ハンドリング治具がロボット本体に対して着脱可能であることを説明する図である。
【図6】図6Aは、位置決め治具を組立ステーションの内方側から見た図あり、図6Bは、サイドパネルを保持した状態の位置決め治を組立ステーションの内方側から見た図である。
【図7】図7Aは、位置決め治具を図6A中のA方向から見た図であり、図7Bは、サイドパネルを保持した状態の位置決め治具を図6B中のA方向から見た図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明に係る自動車車体の組立装置10について好適な実施の形態を挙げ、添付の図面を参照しながら説明する。
【0022】
図1〜図3は、本発明の一実施形態に係る自動車車体の組立装置10を示す一部省略正面図であり、図4は、自動車車体の組立装置10を示す全体平面図である。自動車車体の組立装置10(以下、単に「組立装置10」という)は、左右のサイドパネルW1をフロアW2やルーフW3等の他の車体構成部材Wに溶接結合して自動車車体を組み立てるための設備である。
【0023】
図1〜図4に示すように、組立装置10は、サイドパネルW1を搬送する搬送装置12と、サイドパネルW1を溶接位置に位置決めする位置決め治具14と、サイドパネルW1を搬送装置12から位置決め治具14に移載するロボット16と、車体構成部材Wに対して溶接加工をする溶接ロボット18A〜18Eとを備えており、これらが1つの組立ステーション22内に設置されている。なお、図1〜図3では、溶接ロボット18A、18B、18Eの図示を省略している。
【0024】
車体構成部材Wは、車体の中核部分を構成するボディW4、車体の側面部分を構成するサイドパネルW1、車体の下部を構成するフロアW2、車体の上部(天井部分)を構成するルーフW3等であり、これらが組立装置10により溶接接合されて自動車車体として組み立てられる。
【0025】
なお、図示例の車体構成部材Wは、トラック車両用の部材として構成されているが、本発明はこれに限られず、セダン型車両、ワゴン型車両、ハイルーフ型車両等、他形態の車両用の部材として構成されてもよい。
【0026】
組立装置10の下部側には、ステーション治具24とボディ投入装置26が設置されている。ステーション治具24は、車体構成部材Wを載置するための治具である。ボディ投入装置26は、組立ステーション22内と、組立ステーション22の外側との間を水平往復移動可能に構成された可動支持部27を有し、可動支持部27上にボディW4を載置してボディW4を組立ステーション22内に搬入し、所定位置に載置するための装置である。なお、図示例のボディ投入装置26の可動支持部27は、図1の紙面に垂直な方向に移動する。
【0027】
ステーション治具24の上方には、前述した搬送装置12が設置されている。一構成例に係る搬送装置12は、左右のサイドパネルW1を保持可能なパネル保持部30と、このパネル保持部30を上述した可動支持部27と平行な水平方向(図1の紙面に垂直な方向)に移動させる移送機構32を備えている。
【0028】
パネル保持部30によるサイドパネルW1の保持形態は、特に限定されず、吸着、把持、係合による吊り下げ等であってよい。移送機構32の構成としては特に限定されず、例えば、ベルト機構、チェーン機構、ラックアンドピニオン機構、リニアモータ、ボールネジ機構等が挙げられる。
【0029】
図1に示すように、ロボット16は、組立ステーション22の左右両側に配置されている。具体的には、図示例のロボット16は、ハンド部37に装着したハンドリング治具38により搬送装置12からサイドパネルW1を受け取ることができるように、ハンドリング治具38が搬送装置12に保持されたサイドパネルW1まで到達できるような長さ(高さ)に設定された支持台34上に設置されている。
【0030】
各ロボット16は、ロボット本体36と、ハンドリング治具38とを備える。ロボット本体36は、ハンド部37(先端部)の位置及び姿勢を三次元的に変化させることが可能な多関節ロボットとして構成されており、図示しない制御部による制御の下、ハンド部37の位置及び姿勢が制御される。ハンドリング治具38は、サイドパネルW1を搬送装置12から受け取って位置決め治具14にセットすることができるように構成されている。
【0031】
図5に示すように、ハンドリング治具38は、ロボット本体36に着脱可能に構成されている。具体的には、ハンドリング治具38は、サイドパネルW1を保持可能な治具本体40と、治具本体40に取り付けられた治具側接続部42とを有している。図示例の治具本体40には、サイドパネルW1が引っ掛かることが可能な支持部44、45が設けられ、支持部44、45にサイドパネルW1を引っ掛けることで、サイドパネルW1を保持できるように構成されている。
【0032】
なお、治具本体40は、図示例の構成に限られず、サイドパネルW1を吸着又は把持するように構成されてもよい。治具側接続部42は、ロボット本体36のハンド部37に着脱可能に構成されている。ロボット本体36のハンド部37は、治具側接続部42を保持及び開放できるように構成されている。
【0033】
なお、ハンドリング治具38の大きさ及び形状は、保持対象であるサイドパネルW1の大きさ及び形状に応じて適切に設定される。
【0034】
また、図5Bに示すように、ロボット16は、ロボット本体36に着脱可能な溶接ガン46を備えている。このため、この溶接ガン46には、ロボット本体36のハンド部37に着脱可能に構成されたガン側接続部48が設けられている。溶接ガン46は、ロボット本体36から分離しているとき、組立ステーション22内に設けられたガン置き場47(図4参照)に載置される。
【0035】
図5Bに示すように、一構成例に係る溶接ガン46は、いわゆるC型ガンとして構成されており、C形状部材50と、C形状部材50の一端に設けられた可動電極チップ51と、C形状部材50の他端に設けられた固定電極チップ52とを有している。なお、溶接ガン46は、X型ガン等、他の形態の溶接ガンとして構成されてもよい。
【0036】
図6Aは、サイドパネルW1を保持していないときの位置決め治具14を組立ステーション22の内側(ステーション治具24側)から見た図であり、図6Bは、サイドパネルW1を保持しているときの位置決め治具14を組立ステーション22の内側から見た図である。また、図7Aは、サイドパネルW1を保持していないときの位置決め治具14を図6A中のA方向から見た図であり、図7Bは、サイドパネルW1を保持しているときの位置決め治具14を図6B中のA方向から見た図である。
【0037】
これらの図に示すように、位置決め治具14は、可動フレーム54と、可動フレーム54のステーション治具24側に設けられた治具本体56とを有している。可動フレーム54は、ステーション治具24に対して接近及び離反する方向(B方向)に移動可能に、支持フレーム58によって支持されている。具体的には、支持フレーム58の上面に設けられたB方向に延在するガイドレール59aと、ガイドレール59aに沿ってスライド可能なスライドブロック59bとによりスライド機構59が構成されており、このスライド機構59により、可動フレーム54がB方向に移動自在となっている。
【0038】
可動フレーム54は、図示しない治具駆動機構によりB方向に進退駆動されることで、サイドパネルW1を溶接位置に位置決めする「進出位置」に位置することが可能であるとともに、この進出位置よりも組立ステーション22の外側方向(図7A及び図7B中の矢印B2方向)に所定距離だけ離れた「待機位置」に位置することが可能である。
【0039】
位置決め治具14の治具本体56は、上下方向に延在するベース部60と、ベース部60から組立ステーション22の内方(矢印B1方向)に延出する複数のブラケット62と、各ブラケット62の先端に設けられた(固定された)複数のクランプ機構(把持機構)64〜66とを有する。クランプ機構64〜66は、車体構成部材Wを把持(保持)及び解放することができるように構成されている。
【0040】
クランプ機構64は、サイドパネルW1を把持するためのものである。このため、クランプ機構64の配置位置は、サイドパネルW1を把持できるように設定されている。
【0041】
クランプ機構65は、サイドパネルW1とフロアW2とを共に把持して両部材の相対位置を位置決めするためのものである。このため、クランプ機構65の配置位置は、サイドパネルW1とフロアW2とを共に把持できるように治具本体56の下部側に設定されている。
【0042】
クランプ機構66は、サイドパネルW1とルーフW3とを共に把持して両部材の相対位置を位置決めするためのものである。このため、クランプ機構66の配置位置は、サイドパネルW1とルーフW3とを共に把持できるように治具本体56の上部側に設定されている。
【0043】
クランプ機構64〜66の配置位置及び個数は、図示例に限られず、把持対象となる車体構成部材Wの形状、大きさ等に応じて適切に設定され得ることは勿論である。
【0044】
なお、位置決め治具14の治具本体56において、クランプ機構65、66を省略してもよく、この場合、クランプ機構65の機能を、フロアW2用の図示しない位置決め治具に持たせるとともに、クランプ機構66の機能を、ルーフW3用の図示しない位置決め治具に持たせるようにしてもよい。
【0045】
あるいは、サイドパネルW1用の位置決め治具と、フロアW2用の位置決め治具と、ルーフW3用の位置決め治具を、それぞれのフレーム同士の係合、例えば、ピンがピン用穴に挿入されることによって、相互に位置決めがなされるように構成し、これらフレーム同士の相互位置決めにより各位置決め治具により把持した車体構成部材W(サイドパネルW1、フロアW2及びルーフW3)が相互に位置決めされるようにしてもよい。
【0046】
また、ベース部60の組立ステーション22の内方側(B1側)には、サイドパネルW1を支持するための支持部材70と、ベース部60に対してサイドパネルW1を所定位置に位置決めするための位置決めピン72とが設けられている。
【0047】
治具本体56において、クランプ機構64〜66とベース部60との間には、サイドパネルW1を一時的に収納(留置)するためのスペース69が設けられている。このため、各ブラケット62の配置位置及び長さは、クランプ機構64〜66とベース部60との間にサイドパネルW1を収納可能なスペース69が形成されるように設定されている。
【0048】
また、ベース部60の組立ステーション22の内方側(B1方向側)には、ハンドリング治具38を支持するための治具用支持部74が設けられており、治具本体56の奥側まで進入したハンドリング治具38の一部が治具用支持部74に引っ掛かることで、ハンドリング治具38が治具本体56に保持されるように構成されている。
【0049】
なお、治具本体56において治具用支持部74を省略し、その代わりに、治具用支持部74の機能を、ブラケット62に持たせるようにしてもよい。すなわち、ハンドリング治具38の一部(例えば、支持部44、45)がブラケット62に引っ掛かることでハンドリング治具38が治具本体56に保持されるようにハンドリング治具38を構成してもよい。
【0050】
図4に示すように、組立ステーション22内には、ステーション治具24の周囲に複数(図示例では5台)の溶接ロボット18A〜18Eが配置されている。各溶接ロボット18A〜18Eは、ロボット本体76と、ロボット本体76のハンド部77に固定された(取り付けられた)溶接ガン78とを備えている。ロボット本体76の構成は、上述したロボット16のロボット本体36と同様に多関節ロボットとして構成されている。また、溶接ガン78は、ロボット16の溶接ガン46と同様にC型ガンとして構成されている。
【0051】
また、図4に示すように、組立ステーション22内には、ルーフW3を所定の溶接位置に位置決めするためのルーフ搬送ロボット20が設置されている。ルーフ搬送ロボット20は、ロボット本体80と、ロボット本体80のハンド部81に固定され(取り付けられ)、ルーフW3を把持する把持部82とを有する。ロボット本体80は、上述したロボット16のロボット本体36と同様に多関節ロボットとして構成されている。
【0052】
本実施の形態に係る組立装置10は、基本的には以上のように構成されるものであり、以下、その作用及び効果について説明する。
【0053】
組立装置10における自動車車体の組立工程では、図1に示すように、まず、搬送装置12により左右のサイドパネルW1をステーション治具24の上方まで搬送するとともに、ハンド部37にそれぞれハンドリング治具38を装着した左右のロボット16が、図示しない制御部による制御作用下に、それぞれ左右のサイドパネルW1をハンドリング治具38で受け取る。なお、このとき、位置決め治具14は、組立ステーション22の外方側の待機位置において待機している。
【0054】
次に、図2に示すように、各ロボット16は、搬送装置12から受け取ったサイドパネルW1を位置決め治具14の治具本体56にセットする。すなわち、ロボット16が、サイドパネルW1を治具本体56に対して所定位置に位置させるとともに、治具本体56のクランプ機構64がサイドパネルW1を把持することにより、サイドパネルW1が治具本体56に対して所定位置に保持及び固定される(図4、図6B及び図7B参照)。
【0055】
クランプ機構64によりサイドパネルW1を把持したら、図7Bに示すように、サイドパネルW1をハンドリング治具38から開放して、ロボット16がハンドリング治具38を、ブラケット62間の隙間に設けられたスペース69を通して、治具本体56の奥側に移動させることで、サイドパネルW1からハンドリング治具38を離間させる。
【0056】
そして、ハンドリング治具38を治具本体56に保持させる。すなわち、本実施の形態では、ハンドリング治具38を治具本体56の奥側に設けられた治具用支持部74に引っ掛ける。なお、図7Bでは、治具本体56の奥側で保持されたハンドリング治具38が仮想線で描かれている。
【0057】
ハンドリング治具38を治具本体56に保持させたら、ロボット16は、ハンド部37からハンドリング治具38を分離する。これにより、ハンドリング治具38が位置決め治具14(具体的には治具本体56)に収納(留置)された状態となる。一方、ハンドリング治具38を開放したロボット本体36は、ガン置き場47(図4参照)から溶接ガン46を受け取る。すなわち、ロボット本体36は、ハンド部37に溶接ガン46を装着し、溶接の準備に入る。
【0058】
また、位置決め治具14へのハンドリング治具38の収納と並行して、ボディ投入装置26によりボディW4が、図示しないフロア投入装置によりフロアW2が、それぞれ組立ステーション22内に投入(搬入)され、ステーション治具24上に載置及び固定される。
【0059】
また、位置決め治具14へのハンドリング治具38の収納が完了したら、サイドパネルW1を保持した位置決め治具14は、上述した図示しない治具駆動装置により組立ステーション22の内方(図7B中のB1方向)に向かって所定の進出位置まで移動させられる。これにより、サイドパネルW1が所定の溶接位置に位置決めされる。なお、図3では、位置決め治具14が進出位置へ向かう途中の状態が示されている。
【0060】
サイドパネルW1が所定の溶接位置に位置決めされたら、位置決め治具14のクランプ機構65がサイドパネルW1とフロアW2を共に把持することで両部材の相対位置を位置決めする。次に、ルーフ搬送ロボット20が、ルーフW3をボディW4にプリセットし、位置決め治具14のクランプ機構66がルーフW3とサイドパネルW1とを共に把持することで両部材の相対位置を位置決めする。
【0061】
すべての車体構成部材Wについて位置決めが完了したら、溶接ロボット18A〜18E及び溶接ガン46を装着したロボット16により、車体構成部材Wの所定の仮打ち打点に対して溶接を行う。仮打ち打点に対する溶接が完了したら、位置決め治具14による車体構成部材Wに対する把持(クランプ)を解除し、位置決め治具14を組立ステーション22の外方側(図7B中のB2方向)に向かって移動させ、待機位置に退避させる。
【0062】
また、溶接ガン46を装着したロボット16が、担当する溶接箇所の溶接を完了したら、溶接ガン46をガン置き場に戻す(ロボット本体36から溶接ガン46を分離させる)。そして、ロボット本体36は、待機位置に戻った位置決め治具14に収納されたハンドリング治具38を装着して、位置決め治具14からハンドリング治具38を取り出す。ハンドリング治具38を再び装着したロボット16は、次に組み立てる自動車車体の車体構成部材Wとして使用するサイドパネルW1を取りに行く。
【0063】
一方、位置決め治具14が待機位置に戻る動作、又はロボット本体36が位置決め治具14からハンドリング治具38を取り出す動作と並行して、溶接ロボット18A〜18Eの全部又は一部が所定の増し打ち打点に対して溶接を行う。すべての増し打ち打点に対する溶接が完了し、自動車車体が組み立てられたら、自動車車体は組立ステーション22から次の工程のステーションに向けて搬出される。
【0064】
上述した本実施の形態に係る組立装置10及び車体組立方法によれば、サイドパネルW1を搬送する搬送装置12、サイドパネルW1用の位置決め治具14及びサイドパネルW1を移動させるロボット16が1つの組立ステーション22内に配置されているので、自動車車体の組立に必要なスペースを小さくすることが可能である。
【0065】
また、車体構成部材Wのセット工程と溶接工程とを別々のステーションで行う従来技術と異なり、車体構成部材Wのセット工程と溶接工程とを1つの組立ステーション22で行うので、組立工程のサイクルタイムを短縮化できる。
【0066】
また、位置決め治具14によりサイドパネルW1の位置精度を出すことから、ロボット16による位置決め治具14へのサイドパネルW1のセットに関しては高い位置決め精度が要求されず、ロボット16及びこれに装着するハンドリング治具38に求められる剛性を小さくでき、ロボット16の動作の高速化が可能であり、結果としてサイクルタイムの短縮が可能である。
【0067】
さらに、本実施の形態によれば、ハンドリング治具38を位置決め治具14に収納することにより、別の場所にハンドリング治具38の置き場を設ける必要が無いため、その分、省スペース化が可能である。
【0068】
また、ハンドリング治具38を位置決め治具14に収納するために、サイドパネルW1の外側(車体の外側になる側)からサイドパネルW1をハンドリング治具38で保持するので、搬送装置12から位置決め治具14にサイドパネルW1を移載する際に、サイドパネルW1を反転させる等の余計な動作が不要であり、結果としてサイクルタイムの短縮が可能である。
【0069】
上述したように、本実施の形態では、ベース部60とクランプ機構64〜66との間に、ブラケット62間の隙間を通して、ハンドリング治具38が進入可能なスペース69が設けられている。このように、ブラケット62間の隙間を通してハンドリング治具38が位置決め治具14に進入できるように構成されているので、簡単な構成で、位置決め治具14内にハンドリング治具38を収容するためのスペース69を確保することができる。
【0070】
さらにまた、本実施の形態では、ロボット16がサイドパネルW1を位置決め治具14にセットした後に、ハンドリング治具38を溶接ガン46に持ち替えて、車体構成部材Wを溶接する。すなわち、ロボット16は、サイドパネルW1を移載するための移載ロボットと、車体構成部材Wを溶接するための溶接ロボットの2つの機能を兼ね備えている。従って、組立ステーション22に設置する溶接ロボットの台数を減らすことが可能である。
【0071】
上記において、本発明について好適な実施の形態を挙げて説明したが、本発明は前記実施の形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲において、種々の改変が可能なことは言うまでもない。
【符号の説明】
【0072】
10…自動車車体の組立装置 12…搬送装置
14…位置決め治具 16…ロボット
18A〜18E…溶接ロボット 22…組立ステーション
36、76、80…ロボット本体 38…ハンドリング治具
40、56…治具本体 46、78…溶接ガン
62…ブラケット 64、65、66…クランプ機構
69…スペース W…車体構成部材
W1…サイドパネル W2…フロア
W3…ルーフ W4…ボディ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
左右のサイドパネルをフロアやルーフ等の他の車体構成部材に溶接結合して自動車車体を組み立てる自動車車体の組立装置において、
前記サイドパネルを搬送する搬送装置と、
前記サイドパネルを溶接位置に位置決めする位置決め治具と、
前記サイドパネルを前記搬送装置から受け取り、前記位置決め治具にセットするロボットとを備え、
前記搬送装置、前記位置決め治具及び前記ロボットが1つの組立ステーション内に設置されている、
ことを特徴とする自動車車体の組立装置。
【請求項2】
請求項1記載の自動車車体の組立装置において、
前記ロボットは、ロボット本体と、前記ロボット本体に着脱可能であり且つ前記サイドパネルを前記搬送装置から受け取って前記位置決め治具にセットするためのハンドリング治具とを備え、
前記位置決め治具は、前記ハンドリング治具を保持可能に構成されている、
ことを特徴とする自動車車体の組立装置。
【請求項3】
請求項2記載の自動車車体の組立装置において、
前記位置決め治具は、ベース部と、前記ベース部から延出する複数のブラケットと、前記各ブラケットの先端部に設けられた把持機構とを備え、
前記ベース部と前記把持機構との間に、前記ブラケット間の隙間を通して、前記ハンドリング治具が進入可能なスペースが設けられている、
ことを特徴とする自動車車体の組立装置。
【請求項4】
請求項2又は3記載の自動車車体の組立装置において、
前記ロボットは、前記ロボット本体に着脱可能な溶接ガンをさらに備える、
ことを特徴とする自動車車体の組立装置。
【請求項5】
左右のサイドパネルをフロアやルーフ等の他の車体構成部材に溶接結合して自動車車体を組み立てる車体組立方法において、
ロボット本体と、前記サイドパネルを保持可能であって前記ロボット本体に着脱可能なハンドリング治具とを備えるロボットにより、前記サイドパネルを搬送する搬送装置から前記サイドパネルを受け取り、受け取った前記サイドパネルを、前記サイドパネルを溶接位置に位置決めする位置決め治具にセットし、
その後、前記ハンドリング治具を前記位置決め治具内に収納して、前記ロボット本体から前記ハンドリング治具を分離させ、
その後、前記ハンドリング治具を前記位置決め治具内に収納した状態で前記サイドパネルと前記車体構成部材とを溶接結合し、
前記位置決め治具が前記サイドパネルを開放した後に前記ロボット本体を用いて前記ハンドリング治具を回収する、
ことを特徴とする車体組立方法。
【請求項6】
請求項5記載の車体組立方法において、
前記ハンドリング治具を前記位置決め治具に収納して前記ロボット本体から前記ハンドリング治具を分離させた後に、前記ロボット本体に前記溶接ガンを装着し、
前記溶接ガンを装着した前記ロボットにより、前記サイドパネルと前記車体構成部材とを溶接結合する、
ことを特徴とする車体組立方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2011−121436(P2011−121436A)
【公開日】平成23年6月23日(2011.6.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−279570(P2009−279570)
【出願日】平成21年12月9日(2009.12.9)
【出願人】(000005326)本田技研工業株式会社 (23,863)
【Fターム(参考)】