説明

自動車部品並びにその製造方法及び製造装置

【課題】 部品の焼戻しおよび塗装剤の焼付けにおける処理時間の短縮化およびコスト低減を図る。
【解決手段】 高周波焼入れ後に外表面に塗装剤が塗布された金属製の外側継手部材10を移送する搬送路20と、その搬送路20の部品移送方向に沿って配設され、外側継手部材10の焼戻しと塗装剤焼付けとを同時に行う高周波誘導コイル21,22とで構成されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば等速自在継手を構成する外側継手部材や、ドライブシャフトを構成する中間軸などの自動車部品を高周波焼入れし、その焼入れ後に自動車部品を焼戻しすると共に自動車部品の外表面に塗布された塗装剤を焼付ける自動車部品並びにその製造方法及び製造装置に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車のエンジンから駆動車輪に動力を伝達するドライブシャフトは、エンジンと車輪との相対的位置関係の変化による角度変位と軸方向変位に対応する必要があるため、一般的に、エンジン側(インボード側)に摺動式等速自在継手を、駆動車輪側(アウトボード側)に固定式等速自在継手をそれぞれ装備し、両者の等速自在継手を金属製の中間軸で連結した構造を具備する。
【0003】
このドライブシャフトに組み込まれる摺動式等速自在継手および固定式等速自在継手のいずれも、前述の中間軸に連結された内側継手部材を含む内部部品を収容するカップ部と、そのカップ部から軸方向に一体的に延びるステム部とで構成された金属製の外側継手部材を備えている。
【0004】
インボード側に位置する等速自在継手の外側継手部材、アウトボード側に位置する等速自在継手の外側継手部材、および両者の等速自在継手を連結する中間軸からなる部品は、その強度などを高めるために高周波焼入れによる熱処理で硬化させているのが一般的である。この高周波焼入れ後には、部品の靭性を高めて焼入れに伴う応力の一部を開放し焼割れを未然に防止する目的で、部品を焼戻ししている。また、これらの部品の外表面には、耐腐食性を向上させるために塗装剤を塗布して加熱により焼付けることで防錆処理が施されている。
【0005】
前述した部品の焼戻しは、温風炉を利用した方式と誘導加熱を利用した方式が採用されている。この温風炉を利用した方式では、160〜185℃程度の炉の中で部品を40〜60分程度加熱し、その加熱終了後に部品を空冷することで焼戻しを完了している。この焼戻しの際に、焼入れ後の部品の外表面に塗装剤を予め塗布しておき、焼戻しの加熱を利用して塗装剤の焼付けを行うことがある。
【0006】
一方、誘導加熱を利用した焼戻しでは、部品の加熱を15〜30秒程度で行うことが多く、加熱温度も220〜270℃程度まで上昇させる必要がある。そのため、温風炉を利用した方式の場合よりも加熱時間が短く、加熱温度も高いことから塗装剤の焼付けには不適であった。この場合、塗装工程を別に設けて温風炉を利用して塗装剤の焼付けを行っているというのが現状であった。また、誘導加熱による塗装の焼付け法も提案されているが、この場合、塗装の焼付けのみを目的としており、焼戻しと同時に成立する処理条件ではない(例えば、特許文献1,2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2005−259575号公報
【特許文献2】特開2003−10737号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
ところで、温風炉を利用した方式および誘導加熱を利用した方式による部品の焼戻しと塗装剤の焼付けについて、従来では以下の課題があった。
【0009】
まず、温風炉を利用した方式による部品の焼戻しで、その焼戻しの加熱を利用して塗装剤の焼付けを行う場合、加熱時間と冷却時間とを合わせると60〜90分以上必要とするため、部品の投入から処理終了まで長時間を要する。このように、部品の投入から処理終了まで長時間を要すると、焼戻しの前工程である高周波焼入れのサイクルタイムが25〜35秒程度であるため、これと同じサイクルタイムで焼戻しするには炉内への部品投入個数が多くなり、設備が大型になる。また、炉の温度を所定温度まで上げるには長時間を要するため、エネルギーコストが大きい。
【0010】
一方、誘導加熱を利用した方式による部品の焼戻しで、その焼戻しの加熱を利用して塗装剤の焼付けを行おうとした場合、加熱時間が30秒程度で塗装剤を焼き付けると焼付け不良が発生し易く、必要な塗装性能を確保することが困難である。そのため、前述したように、焼戻し工程とは別に塗装工程を設けて温風炉を利用して塗装剤の焼付けを行わなければならず、工数増加により製品のコストアップを招くことになる。
【0011】
そこで、本発明は前述の改善点に鑑みて提案されたもので、その目的とするところは、部品の焼戻しおよび塗装剤の焼付けにおける処理時間の短縮化およびコスト低減を図り得る自動車部品並びにその製造方法及び製造装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
前述の目的を達成するための技術的手段として、本発明に係る自動車部品の製造方法は、金属製の自動車部品を高周波焼入れし、その焼入れ後に自動車部品の外表面に塗装剤を塗布した上で、自動車部品の焼戻しと塗装剤焼付けとを高周波誘導加熱により同時に行うことを特徴とする。なお、塗装剤としては、焼付け条件を考慮すると、粉体塗料を使用することが望ましい。
【0013】
また、本発明に係る自動車部品の製造装置は、高周波焼入れ後に外表面に塗装剤が塗布された金属製の自動車部品を移送する搬送路と、その搬送路の部品移送方向に沿って配設され、自動車部品の焼戻しと塗装剤焼付けとを同時に行う高周波誘導コイルとで構成されていることを特徴とする。
【0014】
本発明では、金属製の自動車部品を高周波焼入れし、その焼入れ後に外表面に塗装剤が塗布された金属製の自動車部品を移送する搬送路と、その搬送路の部品移送方向に沿って配設された高周波誘導コイルにより、自動車部品の焼戻しと塗装剤焼付けとを高周波誘導加熱でもって同時に行うことから、自動車部品の焼戻しおよび塗装剤の焼付けにおける処理時間の短縮化が図れる。この処理時間の短縮化により装置内での処理途中の部品個数を少なくすることができるので設備の小型化が図れる。また、誘導加熱を利用することで自動車部品を瞬時に加熱することができるのでエネルギーコストの削減が図れる。さらに、焼付け不良が発生し難く必要な塗装性能を容易に確保することができ、焼戻しと焼付けとを一工程で行うことから工数削減によるコスト低減が図れる。
【0015】
本発明における高周波誘導コイルは、その一部が搬送路の両側で部品移送方向に沿って直線状に延びるように配置された構造や、自動車部品を内包するように搬送路の部品移送方向に沿って螺旋状に巻回された構造、あるいは、両構造を組み合わせて、一部が搬送路の両側で部品移送方向に沿って直線状に延びるように配置された第一のコイル部と、自動車部品を内包するように搬送路の部品移送方向に沿って螺旋状に巻回された第二のコイル部とで構成されている構造が望ましい。このような構造を採用すれば、自動車部品の焼戻しと塗装剤焼付けとを同時に行うことが容易となる。
【0016】
さらに、本発明に係る自動車部品の製造装置は、高周波誘導コイルにより自動車部品を加熱する加熱ポジションと、自動車部品を放冷する放冷ポジションとを、自動車部品を移送する搬送路の部品移送方向に沿って交互に繰り返し配置した構造が望ましい。このような構造を採用すれば、自動車部品の焼戻しと塗装剤焼付けとを同時に行うことが容易となる。
【0017】
前述の製造方法および製造装置により製作された本発明に係る自動車部品は、高周波焼入れ後に外表面に塗装剤が塗布された上で、焼戻しと塗装剤焼付けとが高周波誘導加熱により同時に行われていることを特徴とする。この自動車部品としては、等速自在継手を構成する外側継手部材や、ドライブシャフトを構成する中間軸が好適である。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、金属製の自動車部品を高周波焼入れし、その焼入れ後に外表面に塗装剤が塗布された金属製の自動車部品を移送する搬送路と、その搬送路の部品移送方向に沿って配設された高周波誘導コイルにより、自動車部品の焼戻しと塗装剤焼付けとを高周波誘導加熱でもって同時に行うことから、自動車部品の焼戻しおよび塗装剤の焼付けにおける処理時間の短縮化が図れて生産性が向上する。この処理時間の短縮化により装置内での処理途中の部品個数を少なくすることができるので設備の小型化が図れる。また、誘導加熱を利用することで自動車部品を瞬時に加熱することができるのでエネルギーコストの削減が図れる。さらに、焼付け不良が発生し難く必要な塗装性能を容易に確保することができ、焼戻しと焼付けとを一工程で行うことから工数削減によるコスト低減が図れる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】本発明の実施形態で、塗布装置およびコイル通過型の誘導加熱装置の概略構成を示す図である。
【図2】本発明の他の実施形態で、塗布装置および多段型の誘導加熱装置の概略構成を示す図である。
【図3】図1のコイル通過型の誘導加熱装置の一つの具体例で、(A)は正面図、(B)は(A)の高周波誘導コイルの一部を省略した平面図である。
【図4】図1のコイル通過型の誘導加熱装置の他の具体例で、(A)は正面図、(B)は(A)の高周波誘導コイルの一部を省略した平面図である。
【図5】図1のコイル通過型の誘導加熱装置の他の具体例で、(A)は正面図、(B)は(A)の高周波誘導コイルの一部を省略した平面図である。
【図6】図2の多段型の誘導加熱装置の一つの具体例を示す構成図である。
【図7】コイル通過型の誘導加熱装置による温度チャートである。
【図8】多段型の誘導加熱装置による温度チャートである。
【図9】等速自在継手の外側継手部材を示す外観図である。
【図10】中間軸を示す外観図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
本発明の実施形態を以下に詳述する。なお、以下の実施形態では、自動車のエンジンから駆動車輪に動力を伝達するドライブシャフトに組み込まれる等速自在継手の外側継手部材を自動車部品として適用した場合について説明するが、ドライブシャフトを構成する一対の等速自在継手を連結する後述の中間軸にも適用可能である。さらに、車輪用軸受装置を構成する自動車部品としてのハブ輪にも適用可能である。
【0021】
このドライブシャフトに組み込まれる摺動式等速自在継手あるいは固定式等速自在継手のいずれも、図9に示すように、中間軸に連結された内側継手部材を含む内部部品を収容するカップ部11と、そのカップ部11から軸方向に一体的に延びるステム部12とで構成された金属製の外側継手部材10を備えている。この外側継手部材10は、その強度などを高めるために高周波焼入れによる熱処理で硬化させ、その高周波焼入れ後には、靭性を高めて焼入れに伴う応力の一部を開放し焼割れを未然に防止する目的で焼戻しする。また、外側継手部材10の外表面には、耐腐食性を向上させるために塗装剤を塗布して加熱により焼付けることで防錆処理が施される。
【0022】
なお、図中のクロスハッチング部分は塗装剤が塗布される領域を示す。つまり、外側継手部材10のカップ部11の開口端部13にはブーツが装着され、ステム部12には車輪用軸受装置などが取り付けられることから、カップ部11の開口端部13およびステム部12以外のカップ部11の外周面(クロスハッチング部分)が塗装剤の塗布領域となる。
【0023】
前述の外側継手部材10を高周波焼入れし、その焼入れ後に外側継手部材10の外表面に塗装剤を塗布した上で、その外側継手部材10の焼戻しと塗装剤焼付けとを高周波誘導加熱により同時に行う。この塗装剤の焼付け条件としては、3〜5分程度の加熱時間が必要で250℃以下の加熱温度が望ましい。このことから、本出願人は、3〜5分の加熱時間で必要な焼戻し性能を確保するために外側継手部材10の最高到達温度が210〜240℃の範囲に収める必要があることを見出した。
【0024】
この条件で外側継手部材10を加熱することが可能な誘導加熱方式として、図1に示すコイル通過型あるいは図2に示す多段型のものが実現可能である。これらの誘導加熱装置は、高周波焼入れ後に外表面に塗装剤が塗布された外側継手部材10を移送するコンベア等の搬送路20,30と、その搬送路20,30の部品移送方向に沿って配設され、外側継手部材10の焼戻しと塗装剤焼付けとを同時に行う高周波誘導コイル21,22,31とで構成されている。
【0025】
図1に示すコイル通過型の誘導加熱装置は、搬送路20上を移動する外側継手部材10を高周波誘導コイル21,22により連続的に加熱するものであり、図2に示す多段型の誘導加熱装置は、搬送路30上を移動する外側継手部材10を高周波誘導コイル31により断続的に加熱するものである。なお、これらコイル通過型および多段型の誘導加熱装置の前段には、高周波焼入れ後の外側継手部材10の外表面に塗装剤を塗布する塗布装置40が設置されている。
【0026】
まず、コイル通過型の誘導加熱装置としては、図3〜図5に示す具体的な各形態のものが実現可能である。
【0027】
図3に示すタイプの誘導加熱装置は、一部が搬送路20の両側で部品移送方向に沿って直線状に延びるように配置された高周波誘導コイル21を具備する。この誘導加熱装置の高周波誘導コイル21は、その直線状部21a,21bが搬送路20上の外側継手部材10をその両側から加熱する。なお、搬送路20の一方の側に位置する直線状部21aと他方の側に位置する直線状部21bとは、図示しないが、搬送路20の入口側および出口側で外側継手部材10の搬入および搬出の障害とならないように電気的に接続することにより高周波誘導コイル21を形成している。
【0028】
また、図4に示すタイプの誘導加熱装置は、搬送路20上の外側継手部材10を内包するように搬送路20の部品移送方向に沿って螺旋状に巻回された高周波誘導コイル22を具備する。この誘導加熱装置の高周波誘導コイル22は、その全体が搬送路20の部品移送方向に沿って延びるように配置されている。この高周波誘導コイル22が搬送路20上の外側継手部材10をその全周囲から加熱する。
【0029】
さらに、図5に示すタイプの誘導加熱装置は、図3のタイプと図4のタイプとを組み合わせたもので、直線状部21a,21bが搬送路20の両側で部品移送方向に沿って延びるように配置された高周波誘導コイル21(第一のコイル部)と、搬送路20上の外側継手部材10を内包するように搬送路20の部品移送方向に沿って螺旋状に巻回された高周波誘導コイル22(第二のコイル部)とを具備する。この誘導加熱装置の高周波誘導コイル21の直線状部21a,21bが搬送路20上の外側継手部材10をその両側から加熱すると共に、高周波誘導コイル22が搬送路20上の外側継手部材10をその全周囲から加熱する。
【0030】
なお、図5に示す誘導加熱装置では、外側継手部材10をその両側から加熱する高周波誘導コイル21の直線状部21a,21bを外側継手部材10のステム部12と対応する部位に配置しているが、これは、外側継手部材10のステム部12が温度上昇し難いことから、高周波誘導コイル21,22により外側継手部材10の全体を均一加熱するためである。また、この誘導加熱装置では、外側継手部材10のサイズ変更などに対応できるように、高周波誘導コイル21を上下動自在に配置し、かつ、搬送路20の幅方向で水平動自在に配置している。
【0031】
次に、多段型の誘導加熱装置としては、図6に示す形態のものが実現可能である。
【0032】
図6に示すタイプの誘導加熱装置は、高周波誘導コイル31により外側継手部材10を加熱する加熱ポジションPと、外側継手部材10を放冷する放冷ポジションQとを、外側継手部材10を移送する搬送路30の部品移送方向に沿って交互に繰り返し配置した構造を具備する。
【0033】
この誘導加熱装置では、外側継手部材10を水平方向に移送する搬送路30の加熱ポジションPにおいて、その搬送路30の上方に、搬送路30の部品移送方向に直交する方向(鉛直方向)に螺旋状に巻回された高周波誘導コイル31を配置している。この加熱ポジションPでは、外側継手部材10が載置された受台32を上下移動させるエレベータ機構(図示せず)が配備されている。このエレベータ機構により外側継手部材10を上昇させて高周波誘導コイル31内に外側継手部材10を収容することで加熱することが可能となっている。
【0034】
なお、外側継手部材10を上下移動させる機構としては、前述の受台32を上下させるエレベータ機構以外に、外側継手部材10を掴んで上下させるチャック機構などの他の昇降機構を利用することも可能である。
【0035】
図1に示すコイル通過型の誘導加熱装置および図2に示す多段型の誘導加熱装置では、まず、その前段に設置された塗布装置40により、高周波焼入れ後の外側継手部材10の外表面に塗装剤を塗布する。この際、必要に応じて塗布前に脱脂洗浄、リン酸鉄皮膜等の処理を行うようにしてもよい。
【0036】
塗装剤としては、エポキシ樹脂系、ポリエステル樹脂系、アクリル樹脂系、あるいはこれらを混合した複合系の粉体塗料を使用することが好ましいが、塗装剤の仕様や性能に合わせて液体状のスプレー塗装、カチオン塗装などを適用することも可能である。例えばカチオン塗装では塗膜の厚みが20〜30μmであるのに対して、粉体塗装では塗膜の厚みを50μm以上とすることが可能である。この点で、液体状の塗装よりも粉体塗装の方が耐腐食性等の塗装性能を向上させることができる。
【0037】
また、塗装剤の焼付け条件を、3〜5分程度の加熱時間および250℃以下の加熱温度としているが、塗装剤の仕様によっては、3分以下の加熱時間あるいは5分以上の加熱時間とし、その加熱時間に応じた加熱温度で外側継手部材10を加熱する誘導加熱装置を実現することも可能である。
【0038】
このようにして塗装剤が塗布された外側継手部材10を誘導加熱装置の搬送路20,30上に移載する。図1に示すコイル通過型の誘導加熱装置、具体的には図3〜図5に示すタイプの誘導加熱装置では、図7に示すように、搬送路20上を移動する外側継手部材10が、その周囲に配置された高周波誘導コイル21,22により3〜5分程度の時間で210〜240℃の最高到達温度まで加熱されることで、外側継手部材10の焼戻しと塗装剤の焼付けが同時に行われる。なお、加熱終了後の外側継手部材10は、冷却位置へ搬送されて放冷され、冷却液により水冷されるか、あるいは送風により空冷される。
【0039】
この誘導加熱装置では、焼入れのサイクルタイム(25〜35秒程度)に対して、高周波誘導コイル21,22のコイル長(全長)を長くし、高周波誘導コイル21,22内に位置する外側継手部材10の個数を多くすることにより、焼入れのサイクルタイムと同期をとることができる。その場合でも、加熱時間が3〜5分程度であるので、従来、温風炉を利用した方式による部品の焼戻しの場合のように設備が大型化することはない。
【0040】
一方、図2に示す多段型の誘導加熱装置、具体的には図6に示すタイプの誘導加熱装置では、図8に示すように、搬送路30上を移動する外側継手部材10が、加熱ポジションPで上昇して高周波誘導コイル31により加熱され、放冷ポジションQにて搬送路30上で放冷される。この加熱と放冷とを繰り返すことにより3〜5分程度の時間で210〜240℃の最高到達温度まで加熱されることで、外側継手部材10の焼戻しと塗装剤の焼付けが同時に行われる。なお、加熱終了後の外側継手部材10は、冷却位置へ搬送されて放冷され、冷却液により水冷されるか、あるいは送風により空冷される。
【0041】
この誘導加熱装置では、焼入れのサイクルタイム(25〜35秒程度)に対して、加熱ポジションPを多くすることにより、焼入れのサイクルタイムと同期をとることができる。その場合でも、加熱時間が3〜5分程度であるので、従来、温風炉を利用した方式による部品の焼戻しの場合のように設備が大型化することはない。
【0042】
以上のようにして、高周波焼入れ後に外表面に塗装剤が塗布された外側継手部材10の焼戻しと塗装剤の焼付けとを高周波誘導加熱でもって同時に行うことから、外側継手部材10の焼戻しおよび塗装剤の焼付けにおける処理時間の短縮化が図れて生産性が向上する。この処理時間の短縮化により装置内での処理途中の部品個数を少なくすることができるので設備の小型化が図れる。また、誘導加熱を利用することで外側継手部材10を瞬時に加熱することができるのでエネルギーコストの削減が図れる。さらに、焼付け不良が発生し難く必要な塗装性能を容易に確保することができ、焼戻しと焼付けとを一工程で行うことから工数削減によるコスト低減が図れる。
【0043】
なお、以上の実施形態では、ドライブシャフトに組み込まれる等速自在継手の外側継手部材10に適用した場合について説明したが、本発明はこれに限定されることなく、図10に示すように、ドライブシャフトを構成する一対の等速自在継手を連結する中間軸50にも適用可能である。この中間軸50の場合、その両軸端部51が等速自在継手の内側継手部材に連結されることから、少なくとも両軸端部51を除く中央部52の外周面(クロスハッチング部分)が塗装剤の塗布領域となる。なお、本発明は、車輪用軸受装置を構成するハブ輪にも適用可能であり、その場合、塗装剤の塗装領域は、ハブ輪のパイロット部となる。
【0044】
本発明は前述した実施形態に何ら限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において、さらに種々なる形態で実施し得ることは勿論のことであり、本発明の範囲は、特許請求の範囲によって示され、さらに特許請求の範囲に記載の均等の意味、および範囲内のすべての変更を含む。
【符号の説明】
【0045】
10 自動車部品(外側継手部材)
20,30 搬送路
21 高周波誘導コイル(第一のコイル部)
22 高周波誘導コイル(第二のコイル部)
31 高周波誘導コイル
P 加熱ポジション
Q 放冷ポジション

【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属製の自動車部品を高周波焼入れし、その焼入れ後に前記自動車部品の外表面に塗装剤を塗布した上で、前記自動車部品の焼戻しと塗装剤焼付けとを高周波誘導加熱により同時に行うことを特徴とする自動車部品の製造方法。
【請求項2】
前記塗装剤は、粉体塗料である請求項1に記載の自動車部品の製造方法。
【請求項3】
前記自動車部品は、等速自在継手を構成する外側継手部材である請求項1又は2に記載の自動車部品の製造方法。
【請求項4】
前記自動車部品は、ドライブシャフトを構成する中間軸である請求項1又は2に記載の自動車部品の製造方法。
【請求項5】
高周波焼入れ後に外表面に塗装剤が塗布された金属製の自動車部品を移送する搬送路と、前記搬送路の部品移送方向に沿って配設され、前記自動車部品の焼戻しと塗装剤焼付けとを同時に行う高周波誘導コイルとで構成されていることを特徴とする自動車部品の製造装置。
【請求項6】
前記高周波誘導コイルは、その一部が前記搬送路の両側で部品移送方向に沿って直線状に延びるように配置されている請求項5に記載の自動車部品の製造装置。
【請求項7】
前記高周波誘導コイルは、前記自動車部品を内包するように前記搬送路の部品移送方向に沿って螺旋状に巻回されている請求項5に記載の自動車部品の製造装置。
【請求項8】
前記高周波誘導コイルは、一部が前記搬送路の両側で部品移送方向に沿って直線状に延びるように配置された第一のコイル部と、前記自動車部品を内包するように前記搬送路の部品移送方向に沿って螺旋状に巻回された第二のコイル部とで構成されている請求項5に記載の自動車部品の製造装置。
【請求項9】
前記高周波誘導コイルにより自動車部品を加熱する加熱ポジションと、前記自動車部品を放冷する放冷ポジションとを、前記自動車部品を移送する搬送路の部品移送方向に沿って交互に繰り返し配置した請求項5に記載の自動車部品の製造装置。
【請求項10】
前記塗装剤は、粉体塗料である請求項5〜9のいずれか一項に記載の自動車部品の製造装置。
【請求項11】
前記自動車部品は、等速自在継手を構成する外側継手部材である請求項5〜10のいずれか一項に記載の自動車部品の製造装置。
【請求項12】
前記自動車部品は、ドライブシャフトを構成する中間軸である請求項5〜10のいずれか一項に記載の自動車部品の製造装置。
【請求項13】
高周波焼入れ後に外表面に塗装剤が塗布された上で、焼戻しと塗装剤焼付けとが高周波誘導加熱により同時に行われていることを特徴とする自動車部品。
【請求項14】
前記塗装剤は、粉体塗料である請求項13に記載の自動車部品。
【請求項15】
等速自在継手を構成する外側継手部材である請求項13又は14に記載の自動車部品。
【請求項16】
ドライブシャフトを構成する中間軸である請求項13又は14に記載の自動車部品。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2012−67345(P2012−67345A)
【公開日】平成24年4月5日(2012.4.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−212299(P2010−212299)
【出願日】平成22年9月22日(2010.9.22)
【出願人】(000102692)NTN株式会社 (9,006)
【Fターム(参考)】