説明

自動車部材及びその製造方法

【課題】接合強度に優れ、接着力のバラツキを小さくすることができ、使用環境に長時間曝されても界面剥離を生じることのない自動車部材及びその製造方法を提供すること。
【解決手段】金属芯材2と、金属芯材2上に形成された接着剤層3と、接着剤層3を介して金属芯材2に積層されたポリオレフィン樹脂組成物層4とからなる。接着剤層3は、無水マレイン酸で変性したポリプロピレン樹脂を70〜99質量%と、スチレン−イソプレン−ブタジエンブロック共重合体及び/又はスチレン−αオレフィン共重合体を1〜30質量%とを混合してなる。接着剤層3の厚みは0.1〜10μmである。ポリオレフィン樹脂組成物層4は、TPO(熱可塑性ポリオレフィン)または、結晶性PP(結晶性ポリプロピレン)からなることが好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ベルトラインモール、ウィンドウモール、サイドモール等の自動車モールディングをはじめとする自動車部材及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、ベルトラインモール、ウィンドウモール、サイドモール等の自動車モールディングをはじめとする自動車部材においては、アルミニウムやステンレス鋼等の金属を芯材とし、芯材を塩化ビニル樹脂で被覆したものが広く採用されてきた。
しかし、塩化ビニル樹脂はダイオキシンの発生原因となる等の環境問題から、塩化ビニル樹脂に代わる被覆樹脂として、TPO(熱可塑性ポリオレフィン)や結晶性PP(結晶性ポリプロピレン)等のポリオレフィン樹脂が検討されている。
【0003】
金属芯材への樹脂被覆の手段としては、アルミニウム合金形材、またはアルミニウム合金やステンレス鋼の長尺板を成形加工(例えばロールフォーミングにより折り曲げ加工)した後、樹脂混練押出機のダイに導入し、ダイ内にて樹脂層を接合させる複合押し出し成形が広く実施されている。そして、通常は、金属芯材と被覆樹脂の接合強度を高めるために、両者の界面には接合剤層を介在させている。
【0004】
自動車部材においては、これまで、耐傷つき性の向上、押し出し成形時の残留応力に起因する使用時のクラック発生防止、金属芯材との接着性の改善等を目的として被覆樹脂の改良が試みられている。具体的には、例えば、クラック発生防止のために、曲げ弾性率を低く特定したポリオレフィン樹脂を用いるもの(特許文献1)、耐傷つき性の向上、金属芯材との接着性改善のために、オレフィン系熱可塑性エラストマーとエチレン系アイオノマー樹脂の特定割合の重合体組成物を使用するもの(特許文献2)が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2003−226202号公報
【特許文献2】特開2003−237495号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
金属芯材とポリオレフィン樹脂等の被覆樹脂との間に介在させる接着剤として、通常は、変性ポリオレフィン接着剤やウレタン接着剤が使用されている。しかしながら、これらの接着剤を適用した場合には、混練押出機により金属芯材と複合成型する際の熱ひずみや、その後の曲げ加工による応力ひずみの残留に起因して、使用環境によっては長期間の使用により金属芯材と接着剤層との界面で剥離を生じるという問題があることがわかった。
【0007】
本発明は、かかる従来の問題点に鑑みてなされたものであって、金属芯材と樹脂組成物層との強度に優れ、接着力のバラツキを小さくすることができ、使用環境に長時間曝されても界面剥離を生じることのない自動車部材及びその製造方法を提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
第1の発明は、金属芯材と、該金属芯材上に形成された接着剤層と、該接着剤層を介して上記金属芯材に積層されたポリオレフィン樹脂組成物層とからなり、
上記接着剤層は、無水マレイン酸で変性したポリプロピレン樹脂70〜99質量%と、スチレン−イソプレン−ブタジエンブロック共重合体及び/又はスチレン−αオレフィン共重合体を1〜30質量%とを混合してなり、
上記接着剤層の厚みは0.1〜10μmであることを特徴とする自動車部材にある(請求項1)。
【0009】
第2の発明は、無水マレイン酸で変性したPP樹脂と、スチレン−イソプレン−ブタジエンブロック共重合体及び/又はスチレン−αオレフィンとを有する分散体を金属芯材に塗布し、乾燥した後、上記金属芯材の成形加工を行い、その後、上記金属芯材に上記分散体を介してポリオレフィン樹脂組成物を被覆することを特徴とする自動車部材の製造方法にある(請求項3)。
【0010】
第3の発明は、無水マレイン酸で変性したPP樹脂と、スチレン−イソプレン−ブタジエンブロック共重合体及び/又はスチレン−αオレフィンとを有する分散体を金属芯材に塗布し、乾燥した後、上記金属芯材に上記分散体を介してポリオレフィン樹脂組成物を被覆し、その後上記金属芯材の成形加工を行うことを特徴とする自動車部材の製造方法にある(請求項4)。
【発明の効果】
【0011】
第1の発明の自動車部材の注目すべき点は、上記金属芯材と、上記ポリオレフィン樹脂組成物層との間に、上述の特定の構成を有する接着剤層を設けることにある。
上記無水マレイン酸で変性したPP樹脂単体は、金属芯材と上記ポリオレフィン樹脂組成物層との初期の密着性を得ることができるが、金属芯材との接着性が低温で著しく低下するものである。
また、上記スチレン−イソプレン−ブタジエンブロック共重合体、及びスチレン−αオレフィン共重合体は、低温環境でも柔軟性を失うことがなく、ひび割れし難い。
【0012】
そして、上記接着剤層は、上記無水マレイン酸で変性したポリプロピレン樹脂と、上記スチレン−イソプレン−ブタジエンブロック共重合体及び/又はスチレン−αオレフィン共重合体とを組み合わせて特定の割合で配合させ、かつ、上記特定の膜厚を有するように形成されている。
【0013】
これにより、上記接着剤層は、上記金属芯材と上記ポリオレフィン樹脂組成物層との初期の密着性を得ることができる。また、−40℃〜80℃程度の使用環境において、金属芯材の伸縮に対して追従することが可能であり、低温環境における上記金属芯材と上記ポリオレフィン樹脂組成物層との接着性の低下を抑制することができる。そのため、接着力のバラツキを小さくすることができる。
また、上記接着剤層は、上記ポリオレフィン樹脂組成物層とも良好な接着性を発揮することができる。
つまり、接着剤層と金属芯材との界面、及び接着剤層とポリオレフィン樹脂組成物層との界面で、良好な密着性を有することができる。
【0014】
そのため、長期間使用しても、金属芯材とポリオレフィン樹脂組成物層との密着性を維持することができ、上記金属芯材と上記ポリオレフィン樹脂組成物層とを複合成形する際の熱ひずみや、成形加工による応力ひずみが残留しても、それに起因した界面剥離の発生を抑制することができる。
【0015】
このように、本発明によれば、接合強度に優れ、接着力のばらつきを小さくすることができ、使用環境に長時間曝されても界面剥離を生じることがない自動車用部材を提供することができる。
また、上記自動車部材は、上記ポリオレフィン樹脂組成物層により、耐傷つき性を有することができ、押出成形時の残留応力等に起因する使用時のクラック発生を防止することができる。
【0016】
第2の発明及び第3の発明の自動車部材の製造方法は、金属芯材とポリオレフィン樹脂組成物との間に、無水マレイン酸で変性したPP樹脂と、スチレン−イソプレン−ブタジエンブロック共重合体及び/又はスチレン−αオレフィンとを有する分散体を介在させて両者を接着させる点に特徴を有するものである。そして、上記製造方法により得られる自動車部材は、上述の第1の発明の構造を有するものとなる。
【0017】
つまり、上記第2の発明及び第3の発明の自動車部材の製造方法によれば、接合強度に優れ、接着力のばらつきを小さくすることができ、使用環境に長時間曝されても界面剥離を生じることがない自動車用部材を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】実施例1における、自動車部材を示す説明図。
【発明を実施するための形態】
【0019】
第1の発明の自動車部材は、上述したように、金属芯材と、該金属芯材上に形成された接着剤層と、該接着剤層を介して上記金属芯材に積層されたポリオレフィン樹脂組成物層とからなる。
上記金属芯材としては、例えば、アルミニウム(純アルミニウム及びアルミニウム合金)、ステンレス鋼等からなる金属芯材(形材、条等)を用いることができる。
【0020】
また、上記接着剤層は、無水マレイン酸で変性したポリプロピレン樹脂(変性PP樹脂)を70〜99質量%と、スチレン−イソプレン−ブタジエンブロック共重合体及び/又はスチレン−αオレフィン共重合体を1〜30質量%とを混合してなる。
【0021】
上記変性PP樹脂の含有量が70質量%未満である場合には、金属芯材と上記ポリオレフィン樹脂組成物層との初期の密着性を十分に得ることができないおそれがある。一方、上記変性PP樹脂の含有量が99質量%を超える場合には、低温環境において、金属芯材と上記ポリオレフィン樹脂組成物層との接着性が著しく低下するおそれがある。
【0022】
また、上記スチレン−イソプレン−ブタジエンブロック共重合体及び/又はスチレン−αオレフィン共重合体の合計含有量が1質量%未満である場合には、冷熱試験後の金属芯材と上記ポリオレフィン樹脂組成物層の接着性を十分に得ることができないおそれがある。一方、スチレン−イソプレン−ブタジエンブロック共重合体及び/又はスチレン−αオレフィン共重合体の合計含有量が30質量%を超える場合には、金属芯材と上記ポリオレフィン樹脂組成物層との初期の密着性を十分に得ることができないおそれがある。
【0023】
また、上記接着剤層の厚みは0.1〜10μmである。
上記接着剤層の厚みが0.1μm未満の場合には、接着剤層による接着効果を十分に得ることができないおそれがある。一方、上記接着剤層の厚みが10μmを超える場合には、冷熱サイクルを繰り返した際に、接着剤層内での凝集破壊が生じ、接着効果が低下するおそれがある。
そして、上記接着剤層の厚みは、0.5〜5μmであることがより好ましい。
【0024】
また、上記自動車部材における上記ポリオレフィン樹脂組成物層としては、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン等からなる層とすることができる。そして、本発明では、上記ポリオレフィン樹脂組成物層は、TPO(熱可塑性ポリオレフィン)または、結晶性PP(結晶性ポリプロピレン)とすることができる(請求項2)。
【0025】
第2の発明の製造方法は、上述したように、無水マレイン酸で変性したPP樹脂と、スチレン−イソプレン−ブタジエンブロック共重合体及び/又はスチレン−αオレフィンとを有する分散体を金属芯材に塗布し、乾燥した後、上記金属芯材の成形加工を行い、その後、上記金属芯材に上記分散体を介してポリオレフィン樹脂組成物を被覆するものである。
【0026】
本発明においては、上記分散体を塗布した後、上記変性PP樹脂の融点以上に加熱して乾燥を行い、その後冷却することが好ましい。
また、上記分散体の塗布は、例えば、バーコーターによるコーティング、ロールコーティング、フローコーティング、スプレーコーティング、浸漬コーティング等により行うことができる。
【0027】
また、上記成形加工としては、例えば、ロールフォーミング、プレス成形等の加工方法を適用できる。
また、上記ポリオレフィン樹脂組成物を被覆する前に、脱脂処理を施すことが好ましい。
また、上記ポリオレフィン樹脂組成物の被覆は、例えば、上記金属芯材を樹脂混練押出機に導入して行う方法、ホットプレス方法等により行うことができる。
【0028】
第3の発明の製造方法は、上述したように、無水マレイン酸で変性したPP樹脂と、スチレン−イソプレン−ブタジエンブロック共重合体及び/又はスチレン−αオレフィンとを有する分散体を金属芯材に塗布し、乾燥した後、上記金属芯材に上記分散体を介してポリオレフィン樹脂組成物を被覆し、その後上記金属芯材の成形加工を行うものである。
【0029】
また、上記分散体の塗布は、上記と同様の方法により行うことができる。
また、上記分散体を塗布した後、上記変性PP樹脂の融点以上に加熱して乾燥を行い、その後冷却することが好ましい。
【0030】
また、上記ポリオレフィン樹脂組成物の被覆は、例えば、ホットプレス、ラミネートなどの方法により行うことができる。
また、上記成形加工としては、上記と同様の方法を適用できる。
【0031】
また、上記第2、第3の発明において、上記分散体は、無水マレイン酸で変性したポリプロピレン樹脂、スチレン−イソプレン−ブタジエンブロック共重合体及び/又はスチレン−αオレフィン共重合体とからなる樹脂混合体を、トルエン、キシレン、ソルベッソ等の有機溶剤に分散させたものであることが好ましい。
また、上記樹脂混合体は、無水マレイン酸で変性したポリプロピレン樹脂(変性PP樹脂)を70〜99質量%と、スチレン−イソプレン−ブタジエンブロック共重合体及び/又はスチレン−αオレフィン共重合体を1〜30質量%とからなることが好ましい。
また、上記ポリオレフィン樹脂組成物は、TPO(熱可塑性ポリオレフィン)または、結晶性PP(結晶性ポリプロピレン)であることが好ましい。
【実施例】
【0032】
(実施例1)
本例は、本発明の実施例にかかる自動車部材について説明する。
本例では、実施例として8種類の自動車部材(試料E1〜試料E8)を作製し、また、比較例として5種類の自動車部材(試料C1〜試料C5)を作製した。
本発明はこれらの実施例によってのみ限定されるものではない。
【0033】
図1に示すように、上記自動車部材1(試料E1〜試料E8)は、金属芯材2と、金属芯材2上に形成された接着剤層3と、接着剤層3を介して金属芯材2に積層されたポリオレフィン樹脂組成物層4とからなる。接着剤層3は、無水マレイン酸で変性したポリプロピレン樹脂を70〜99質量%と、スチレン−イソプレン−ブタジエンブロック共重合体及び/又はスチレン−αオレフィン共重合体を1〜30質量%とを混合してなる。上記接着剤層3の厚みは0.1〜10μmである。
そして、試料C1〜試料C5は、上記接着剤層の組成あるいは膜厚が本発明の範囲外となるように作製したものである。
【0034】
上記自動車部材1(試料E1〜試料E8、及び試料C1〜試料C5)を作製するに当たっては、まず、リン酸クロメート処理を施したアルミニウム合金板(A5052P−H34、0.5mm厚さ)よりなる金属芯材2を用意した。
また、接着剤層3を構成する樹脂分散体(分散体e1〜分散体e6、及び分散体c1〜分散体c3)を作製した。
また、ポリオレフィン樹脂組成物層4を構成するオレフィン系熱可塑性エラストマー(EXCELINK1300、MFR170g/10min、230℃、ジェイエスアール(株)製)を用意した。
【0035】
ここで、上記樹脂分散体(分散体e1〜分散体e6、及び分散体c1〜分散体c3)の作製工程について説明する。
まず、ポリプロピレン樹脂(MFR10g/10min、230℃)100部に対し、無水マレイン酸15部、キシレン400部を加え、130℃に加熱しながら、窒素ガス雰囲気下で撹拌した。そこに過酸化ベンゾイルの1%キシレン溶液を2時間かけて滴下した。さらに、130℃で60分間撹拌した後、室温まで放冷した。得られた懸濁液をろ過した後、メチルエチルケトンで洗浄し、無水マレイン酸で変性したポリプロピレン樹脂(PP樹脂)を得た。
【0036】
そして、試料E1に用いる樹脂分散体として、上記変性PP樹脂90部に対し、スチレン−イソプレン−ブタジエンブロック共重合体10部を加え、トルエンに分散させた分散体e1を得た。
また、試料E2に用いる樹脂分散体として、上記変性PP樹脂70部に対し、スチレン−イソプレン−ブタジエンブロック共重合体30部を加え、トルエンに分散させた分散体e2を得た。
【0037】
また、試料E3に用いる樹脂分散体として、上記変性PP樹脂99部に対し、スチレン−イソプレン−ブタジエンブロック共重合体1部を加え、トルエンに分散させた分散体e3を得た。
また、試料E4に用いる樹脂分散体として、上記変性PP樹脂90部に対し、スチレン−αオレフィン共重合体10部を加え、トルエンに分散させた分散体e4を得た。
【0038】
また、試料E5に用いる樹脂分散体として、上記変性PP樹脂99部に対し、スチレン−αオレフィン共重合体1部を加え、トルエンに分散させた分散体e5を得た。
また、試料E6に用いる樹脂分散体として、上記変性PP樹脂70部に対し、スチレン−イソプレン−ブタジエンブロック共重合体15部、スチレン−αオレフィン共重合体15部を加え、トルエンに分散させた分散体e6を得た。
【0039】
また、試料C1に用いる樹脂分散体として、上記変性PP樹脂100部をトルエンに分散させた分散体c1を得た。
また、試料C2に用いる樹脂分散体として、上記変性PP樹脂65部に対し、スチレン−イソプレン−ブタジエンブロック共重合体35部を加え、トルエンに分散させた分散体c2を得た。
また、試料C3に用いる樹脂分散体として、上記変性PP樹脂65部に対し、スチレン−αオレフィン共重合体35部を加え、トルエンに分散させた分散体c3を得た。
【0040】
そして、上記金属芯材2に、バーコーターを使用して、上記各樹脂分散体(分散体e1〜分散体e6、及び分散体c1〜分散体c3)を乾燥膜厚で1μmになるように塗布した後、板温到達温度が210℃になるように加熱し、その後、放冷し、接着剤層3を形成した。
【0041】
このようにして得られた接着剤層を有するアルミニウム合金板を図1に示す金属芯材2の形状に、ロールフォーミングにより成形加工した。
次に、得られた金属芯材2に対して、圧縮比3のフルフライト型スクリューを備えた単軸押出機を用い、オレフィン系熱可塑性エラストマー(EXCELINK1300、MFR170g/10min、230℃、ジェイエスアール(株)製)を押出成形により3mm厚さで被覆し、ポリオレフィン樹脂組成物層4を形成し、自動車部材1(試料E1〜試料E6、及び試料C1〜試料C3)を得た。
【0042】
また、上記試料E1の接着剤層の膜厚を表1に示す膜厚に変更した4種類の自動車部材(試料E7、試料E8、試料C4、及び試料C5)を作製した。これらは、膜厚を変えた以外は、試料E1と同様の方法で作製した。
【0043】
次に、上記自動車部材1(試料E1〜試料E8、及び試料C1〜試料C5)について、引き裂き試験を行い、破壊形態を観察することにより密着性の評価を行った。
引き裂き試験は、各試料について、冷熱試験前の試料、及び冷熱試験後の試料について、それぞれ5回ずつ行った。
冷熱試験は、試験材ついて、110℃の温度で30分間加熱した後、−40℃の温度で30分間保持する処理を1サイクルとする冷熱試験を2000サイクル実施することにより行った。
【0044】
引き裂き試験方法は、まず、試料端部において、金属芯材(アルミニウム合金板)とポリオレフィン樹脂組成物層との間にナイフを用いて切れ目を入れる。その後、ポリオレフィン樹脂組成物層を手で引っ張り、金属芯材からはがすことにより行った。
【0045】
そして、破壊形態を観察し、5回中全てにおいて、金属芯材表面にポリオレフィン樹脂組成物層が残存して剥離した場合には、密着性が良好であると判断し、評価を○とした。5回中1回でも金属芯材表面にポリオレフィン樹脂組成物層が残存せずに剥離した場合には、密着性は不良であると判断し、評価を×とした。結果を表1に示す。
【0046】
【表1】

【0047】
表1より知られるように、試料E1〜試料E8は、いずれも、冷熱試験前及び冷熱試験後の金属芯材とポリオレフィン樹脂組成物層との密着性が良好であり、優れた密着性を備えていることが分かる。
このように、本例によれば、接合強度に優れ、接着力のバラツキを小さくすることができ、使用環境に長時間曝されても界面剥離を生じることのない自動車部材を得られることが分かる。
【0048】
また、試料C1の接着剤層は、無水マレイン酸で変性したポリプロピレン樹脂のみからなり、スチレン−イソプレン−ブタジエンブロック共重合体、及びスチレン−αオレフィン共重合体のいずれも含有していないため、冷熱試験前の密着性は優れるものの、冷熱試験後の密着性が不合格であった。
【0049】
また、試料C2の接着剤層は、無水マレイン酸で変性したポリプロピレン樹脂の含有量が本発明の下限を下回り、スチレン−イソプレン−ブタジエンブロック共重合体の含有量が本発明の上限を上回るため、冷熱試験前の密着性及び冷熱試験後の密着性のいずれも不合格であった。
また、試料C3の接着剤層は、無水マレイン酸で変性したポリプロピレン樹脂の含有量が本発明の下限を下回り、スチレン−αオレフィン共重合体の含有量が本発明の上限を上回るため、冷熱試験前の密着性及び冷熱試験後の密着性のいずれも不合格であった。
【0050】
また、試料C4は、接着剤層の膜厚が本発明の下限を下回るため、接着剤層による接着効果を十分に得ることができず、冷熱試験前の密着性及び冷熱試験後の密着性のいずれも不合格であった。
また、試料C5は、接着剤層の膜厚が本発明の上限を上回るため、接着剤層による接着性向上効果が十分に得られず、冷熱試験後の密着性が不十分であった。
【0051】
なお、本例においては、金属芯材2にポリオレフィン樹脂組成物層形成前に成形加工を行ったが、ポリオレフィン樹脂組成物層形成後に成形加工を行ってもよい。そして、本発明の構成を有すれば、ポリオレフィン樹脂組成物層形成後に成形加工が行われている場合であっても、優れた密着性を発揮することができる。
【符号の説明】
【0052】
1 自動車部材
2 金属芯材
3 接着剤層
4 ポリオレフィン樹脂組成物層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属芯材と、該金属芯材上に形成された接着剤層と、該接着剤層を介して上記金属芯材に積層されたポリオレフィン樹脂組成物層とからなり、
上記接着剤層は、無水マレイン酸で変性したポリプロピレン樹脂を70〜99質量%と、スチレン−イソプレン−ブタジエンブロック共重合体及び/又はスチレン−αオレフィン共重合体を1〜30質量%とを混合してなり、
上記接着剤層の厚みは0.1〜10μmであることを特徴とする自動車部材。
【請求項2】
請求項1において、上記ポリオレフィン樹脂組成物層は、TPO(熱可塑性ポリオレフィン)または、結晶性PP(結晶性ポリプロピレン)からなることを特徴とする自動車部材。
【請求項3】
無水マレイン酸で変性したPP樹脂と、スチレン−イソプレン−ブタジエンブロック共重合体及び/又はスチレン−αオレフィンとを有する分散体を金属芯材に塗布し、乾燥した後、上記金属芯材の成形加工を行い、その後、上記金属芯材に上記分散体を介してポリオレフィン樹脂組成物を被覆することを特徴とする自動車部材の製造方法。
【請求項4】
無水マレイン酸で変性したPP樹脂と、スチレン−イソプレン−ブタジエンブロック共重合体及び/又はスチレン−αオレフィンとを有する分散体を金属芯材に塗布し、乾燥した後、上記金属芯材に上記分散体を介してポリオレフィン樹脂組成物を被覆し、その後上記金属芯材の成形加工を行うことを特徴とする自動車部材の製造方法。

【図1】
image rotate


【公開番号】特開2010−274545(P2010−274545A)
【公開日】平成22年12月9日(2010.12.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−129956(P2009−129956)
【出願日】平成21年5月29日(2009.5.29)
【出願人】(000002277)住友軽金属工業株式会社 (552)
【出願人】(592215435)株式会社ティ−アンドケイ東華 (12)
【Fターム(参考)】