説明

自動追尾スキャニングソナー

【目的】
ソナーにおいて送信波が標的に反射してから自船の探知部に到達するまでの間に、自船が移動してしまうことによる誤差を抑える。
【構成】
自動追尾スキャニングソナーにおいて、GPS及びコンパスの指示値の時系列データを保持するメモリを有し、過去の任意の時刻における自船の緯度、経度、船首方位を推定することができる船位置・方位計算部と、標的からの反射波を自船で受信した時刻における標的の緯度、経度、水深を算出する標的位置算出部とを備える事を特徴とするスキャニングソナー。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、魚群などの標的を探査するスキャニングソナーに関し、特に、標的を自動的に追尾する機能を備えた自動追尾スキャニングソナーに関する。
【背景技術】
【0002】
魚群などの標的を探査するソナーとして、超音波ビームを水中に送信してその反射波を受信することで標的などの画像を表示するスキャニングソナーが知られている。このスキャニングソナーは、図1に示すように、俯角(水平面とのなす角、ティルト角)θの円錐面上の全方位に送信ビームTBを送受信器102から送信し、その後、送受信器102からペンシル状の(指向性が高い)受信ビームRBを俯角θで回転走査させる。そして、この受信ビームRBを介して魚群Tや海底などからの反射波を受信し、受信した反射波に基づいて、魚群Tなどの画像をモニタに表示するものである。なお、図中符号Jは、スキャニングソナー101が搭載された船舶(自船)である。
【0003】
このようなスキャニングソナーには、ユーザが追尾対象として定めた魚群Tを自動的に追尾する機能を備えた自動追尾スキャニングソナーが知られている。
【0004】
例えば自動追尾スキャニングソナーによる魚群追尾はソナー画面上で魚群を追尾する探査面内追尾と、魚群が探査面に捉え続けられるように俯角を制御する俯角方向追尾とにより実現される。
【0005】
この内、上記探査面内追尾は、まず、図2に示すようにモニタ110上で追尾対象とする魚群Tの位置Xを中心とする一定の大きさの検出エリアWを設定し、その後、図3に示すように魚群Tが検出エリアW内で移動すると、魚群T’の位置X’を解析し、X’を中心とする検出エリアW’を設定することを繰り返すことで実現可能である。この探査面内追尾の従来例として特許文献1がある。
【0006】
【特許文献1】特開平11−316277号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上記魚群の位置Xとして、魚群の緯度、経度を利用すると、検出エリアの大きさを魚群の最大移動速度から決定することで、移動後の魚群T’が検出エリア内に入ると考えられる。対して、上記魚群の位置Xとして、魚群の自船に対する相対位置(相対距離、相対方位)を利用すると、魚群の緯度、経度を利用した場合に比べて検出エリアの大きさは船の移動、旋回を考慮して、より大きくする必要がある。
【0008】
検出エリアの大きさが大きいほど、検出エリア内に入るノイズが多くなり、ノイズを魚群と誤認する可能性が高くなるので、魚群の緯度、経度を求め、その魚群の緯度、経度を元に検出エリアを設定すると、検出エリアを小さくでき、ノイズを魚群と誤認する可能性が低くなり、追尾に有利である。
【0009】
標的の緯度、経度は、標的によるソナービームの反射を元に特定した標的の相対位置と俯角と自船の緯度、経度、船首方位とにより算出することが出来る。この自船の緯度、経度、船首方位として、1情報画面分の探査時間における自船の移動量は小さいとみなし、超音波ビームを送信した時刻、あるいは標的の緯度、経度を算出する時刻など、取得が容易な決まった一定タイミングの自船の緯度、経度、船首方位を用いる事が考えられる。
【0010】
しかし実際にはソナービームを送信した時刻から自船の送受信器102に反射波が到達するまでの間に音速に基づく遅延時間が生じてしまうため、上記の自船の緯度、経度、船首方位を用いて算出した標的の緯度、経度は、特に長いレンジで探査中に自船が旋回した場合、標的からの反射波を受信した時刻における正確な緯度、経度からずれてしまう。
【0011】
本発明は前記のような、音速に基づく標的の緯度、経度算出の問題点を解決し、標的からの反射波を受信した時刻に遡って標的の緯度、経度計算をする手段を与えるものである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
前記課題を解決するために本発明は、送信ビームをある俯角(水平面とのなす角)で全方位に水中に送信して、ペンシル状の受信ビームを前記俯角で回転走査することで反射波を受信し、その反射波に基づいて標的を探査するとともに、発見した標的の移動にあわせて前記俯角を制御することで前記標的を自動追尾する自動追尾スキャニングソナーにおいて、
発見した標的の自船に対する相対距離と相対方位からなる相対位置を取得する検出部と、
取得した自船の緯度、経度、船首方位を時系列に保持する船位置・方位記憶部と、
前記検出部から得られる自船から前記標的までの距離と水中における音速を用いて前記船位置・方位記憶部の参照先を決定し、前記標的からの反射波を自船で受信した時刻における自船の緯度、経度、船首方位を計算することができる船位置・方位計算部と、
前記検出部から得られる前記標的の自船に対する相対位置と前記標的からの反射波を自船で受信したときの俯角と前記船位置・方位計算部から得られる前記標的からの反射波を自船で受信した時刻における自船の緯度、経度、船首方位によって前記標的の緯度、経度、水深を算出する標的位置算出部と、
を備える事を特徴とする自動追尾スキャニングソナーとする。
【0013】
また、本発明は、前記船位置・方位計算部は、前記船位置・方位記憶部を参照し、複数の記憶データからなる補間計算をすることにより、任意の時刻における自船の緯度、経度、船首方位を得る自動追尾スキャニングソナーとする。
【0014】
また、本発明は、前記記憶データの補間方法として、記憶データの加算平均による補間を行なう自動追尾スキャニングソナーとする。

【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、ソナービームを送信した時刻を基準として、標的からの反射波を受信した時刻における自船の緯度、経度、船首方位を用いて標的の緯度、経度、水深を計算できるため、海中における音速にもとづく遅延時間の影響を抑え、標的の緯度、経度、水深を、より正確に知ることが可能となる。
【0016】
また、緯度、経度、水深を用いることで、標的の3次元の移動速度を求めることが可能となる。
【実施例】
【0017】
本発明の好適な実施例について、図を参照して説明する。ここでは魚群探査を例とし、自船から放射したソナービームを魚群が反射し、再び自船にソナービームが戻ってくる場合について説明する。
【0018】
図4は本発明にかかるスキャニングソナーのブロック図の一例である。送受信部401、モニタ403、画像処理部405、俯角制御部407、検出部409、GPS・コンパス415はスキャニングソナーに従来から装備されている装置である。
【0019】
つまり、俯角制御部407により送信角度を制御されたソナービームを送受信部401において送信し、標的により反射された反射波が再び自船の送受信部401に戻ってきた場合に、画像処理部405にてソナービームを反射した物体の位置画像を生成し、モニタ403によって表示する。また、様々な反射波の中から標的を特定するために、検出部409によって標的候補の形状や移動方向を観察する。GPS・コンパス415によって自船の緯度、経度、船首方位は既知のものとなるため、検出部409によって標的の自船に対する相対位置と俯角がわかれば、標的の緯度、経度、水深がわかることとなる。
【0020】
本発明にかかる船位置・方位計算部と標的位置算出部の必要性を図5により説明する。ソナービームを送信した時点における自船の緯度、経度、船首方位が(x,y,φ)であったとする。
【0021】
魚群に反射した際のソナービームの俯角と魚群までの距離をモニタ403に表示するのであるが、実際には海中における音波の音速により、魚群からの反射波が自船に到来する時には自船の緯度、経度、船首方位は(x’,y’,φ’)となっており、魚群の緯度、経度、水深を特定するためには、この魚群からの反射波が自船に到来した時の自船の緯度、経度、船首方位を算出する必要がある。
【0022】
前記課題を解決するために、図4に示すように、本発明では船位置・方位計算部413をGPS・コンパス415の出力を記憶する船位置・方位記憶部417に接続し、該記憶部から任意の時刻における自船の緯度、経度、船首方位を呼び出せるようにした。
【0023】
ソナービームを送信した時刻をt0としてこれらの処理の流れを説明する。検出部409は自船の中心から魚群までの距離を船位置・方位計算部413に伝達する。船位置・方位計算部413では魚群までの距離と海中における音速を用いて、送信時刻t0から、魚群による反射波が自船に到来するまでに要する時間を算出する。この時間をaとする。
【0024】
船位置・方位記憶部417に格納されている時系列データにおいて、船位置・方位計算部413は、魚群からの反射波を自船で受信した(t0+a)におけるGPS・コンパスの指示値を参照することで、魚群からの反射波を自船で受信した時刻における自船の緯度、経度、船首方位を得ることができる。
【0025】
前記時刻(t0+a)における自船の緯度、経度、船首方位と、検出部409から得られる魚群の自船に対する相対位置と俯角により、標的位置算出部411は、魚群の緯度、経度、水深を知ることができる。
【0026】
時刻t0に送信したソナービームの反射波に基づく画像に検出エリアWを設定し、検出した魚群T’の位置X’を標的位置算出部411により算出し、この魚群の位置X’を用いて、検出部409は、次の魚群検出のための検出エリアW’を設定する。従来は1情報画面分の探査時間における自船の移動量は小さいと考え、前記X’を、決まったタイミング、例えば時刻t0における自船の緯度、経度、船首方位を用いて算出した魚群の緯度、経度としていたのに対して、本発明は、前記X’を、時刻(t0+a)における自船の緯度、経度、船首方位を用いて算出した魚群の緯度、経度としていることが特徴である。
【0027】
自船と標的との距離および水中における音速を元に、前記のようにソナービームの到来に要する時間を計算し、船位置・方位記憶部417における該当時刻の格納データを参照する際に、計算によって求まる該当時刻と記憶された時刻が一致しない場合の計算手段の一例を図7を用いて説明する。
【0028】
前記船位置・方位計算部によって計算された、送信時刻から、標的による反射波が自船に到来するまでに要する時間が2.5秒であったとする。この際、船位置・方位記憶部において、GPS・コンパスから出力される自船の緯度、経度、船首方位データのサンプリング間隔を1秒とすると、送信時刻から2.5秒後に一致する格納データは存在しないので、2秒後の格納データと3秒後の格納データに該当するラベル2とラベル3の格納データa2とa3を船位置・方位計算部に伝送する。
【0029】
前記船位置・方位計算部は伝送された送信時刻から2秒後と3秒後の自船の緯度、経度、船首方位データを用いて、2.5秒後の自船の緯度、経度、船首方位である(a2+a3)/2を得る。
【0030】
標的位置算出部411は前記のように算出された2.5秒後の自船の緯度、経度、船首方位(a2+a3)/2、および、検出部409から伝送される、標的の自船に対する相対位置と俯角を用いれば標的の緯度、経度、水深を計算できる。
【0031】
前記処理のまとめを図6に示す。従来のスキャニングソナーと同様に自船から魚群までの距離を得て(S601)、海中における音速を用いて前記距離に相当する遅延時間を得て(S603)、前記時刻(t0+a)における自船の緯度、経度、船首方位を記憶部から読み出し(S605)、前記自船の緯度、経度、船首方位と魚群の自船に対する相対位置、および俯角から、魚群の緯度、経度、水深を得る(S607)ものである。
【0032】
本発明により、ソナービームを送信した時刻と、自船がその信号を受け取る時刻のずれによる標的の緯度、経度、水深決定における誤差の発生をおさえる事が可能となった。
【0033】
また、本発明によって得られる標的の絶対位置を利用すれば、検出部409において、図2に示す検出エリアWに関して標的を見失うことなく設定することが可能となる。
【0034】
また、本実施例においては船位置・方位記憶部417を船位置・方位計算部413に従属接続したが、図8に示すように、例えばGPS・コンパス415に接続することも可能であるし、また、船位置・方位計算部413に内蔵することも可能であり、船位置・方位記憶部417の接続先については一意に限定するものではない。
【0035】
また、船位置・方位計算部413が船位置・方位記憶部417に格納されたデータを用いて自船の緯度、経度、船首方位を計算する際には、魚群がソナービームを反射した時刻に最も近い時刻に該当するデータを用いるのみではなく、もっとも近い時刻とその周囲に存在する複数のデータを用いて、平均値計算や補間計算をして決定することも考えられる。
【0036】
また、船位置・方位記憶部417を参照して自船の緯度、経度、船首方位を計算する場合の補間計算に関して、前述した例では該当時刻の前後一個ずつのデータを用いたが、補間に用いるデータの個数に関しては限定しない。
【0037】
なお、本実施例においては標的を魚群として説明したが、例えば海底に敷設された装置など、魚群に限定するものではない。
【図面の簡単な説明】
【0038】
【図1】一般的なスキャニングソナー
【図2】検出エリアの例
【図3】標的の移動に伴い検出エリアを更新する例
【図4】本発明にかかるスキャニングソナーの構成図
【図5】反射波が到来するまでに自船が移動している状態
【図6】処理フローチャート
【図7】船位置・方位記憶部の参照方法の例
【図8】スキャニングソナーの構成図の変形例
【符号の説明】
【0039】
θ…俯角、 TB…送信ビーム、
RB…受信ビーム、 T…標的、 W…検出エリア、
X…標的の位置、 J…自船、
T’…移動した標的、 W’…標的の移動に伴い変化した検出エリア、
X’…移動した標的の位置、
101…自動追尾スキャニングソナー、 102…送受信部、
110…画像処理部、
401…送受信部、 403…モニタ、 405…画像処理部、
407…俯角制御部、 409…検出部、 411…標的位置算出部、
413…船位置・方位計算部、 415…GPS・コンパス、
417…船位置・方位記憶部。



【特許請求の範囲】
【請求項1】
送信ビームをある俯角(水平面とのなす角)で全方位に水中に送信して、ペンシル状の受信ビームを前記俯角で回転走査することで反射波を受信し、その反射波に基づいて標的を探査するとともに、発見した標的の移動にあわせて前記俯角を制御することで前記標的を自動追尾する自動追尾スキャニングソナーにおいて、
発見した標的の自船に対する相対距離と相対方位からなる相対位置を取得する検出部と、
取得した自船の緯度、経度、船首方位を時系列に保持する船位置・方位記憶部と、
前記検出部から得られる自船から前記標的までの距離と水中における音速を用いて前記船位置・方位記憶部の参照先を決定し、前記標的からの反射波を自船で受信した時刻における自船の緯度、経度、船首方位を計算することができる船位置・方位計算部と、
前記検出部から得られる前記標的の自船に対する相対位置と前記標的からの反射波を自船で受信したときの俯角と前記船位置・方位計算部から得られる前記標的からの反射波を自船で受信した時刻における自船の緯度、経度、船首方位によって前記標的の緯度、経度、水深を算出する標的位置算出部と、
を備える事を特徴とする自動追尾スキャニングソナー。
【請求項2】
前記船位置・方位計算部は、前記船位置・方位記憶部を参照し、複数の記憶データからなる補間計算をすることにより、任意の時刻における自船の緯度、経度、船首方位を得る請求項1に記載の自動追尾スキャニングソナー。
【請求項3】
前記記憶データの補間方法として、記憶データの加算平均による補間を行なう請求項2に記載の自動追尾スキャニングソナー。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2009−98126(P2009−98126A)
【公開日】平成21年5月7日(2009.5.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−217063(P2008−217063)
【出願日】平成20年8月26日(2008.8.26)
【出願人】(000004330)日本無線株式会社 (1,186)
【Fターム(参考)】