説明

自発光素子、自発光パネル、自発光素子の製造方法、および自発光パネルの製造方法

【課題】上部電極を厚膜に形成して低抵抗化を実現すること、上部電極を厚膜に形成した場合に、上部電極にヒロックが発生することを防止すること、自発光パネルにおいてヒロックや電気的短絡等による表示不良を防止すること、等。
【解決手段】自発光パネルでは、上部電極8は、金属材料とともに有機材料を蒸着して形成された、金属材料に有機材料を含む導電性混合層である。上記構成の自発光パネルでは、上部電極8を厚膜に形成して低抵抗化を実現することができる。また上部電極8の抵抗値が低減して低消費電力化を実現することができる。金属材料のみで上部電極を形成した場合と比べて、膜内の応力が緩和されて小さくなり、ヒロックなどの発生を防止することができる。ヒロックや電気的短絡等による表示不良を防止することができるので、信頼性の高い自発光パネル1を作製することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自発光素子、自発光パネル、自発光素子の製造方法、および自発光パネルの製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
光デバイスは、例えば携帯電話、車載用モニタ、家庭用電化製品のモニタ、パーソナルコンピュータの表示装置やテレビジョン受像装置等のドットマトリクス表示を行う情報表示装置や、時計や宣伝用パネル等の固定表示装置、スキャナやプリンタの光源、照明、液晶のバックライト等の照明装置、光電変換機能を利用した光通信装置等の各種デバイスに採用されている。この光デバイスは、一般的に複数の画素により形成されており、各画素に対して表示駆動や非表示駆動を行うことにより所望の情報を表示する。この光デバイスを形成する画素に、自発光素子を採用したものが知られている。自発光素子は、低電力且つバックライトが不要であるという利点を有し、この自発光素子を複数個ドットマトリックス状に配置した光パネルや、アイコン部(固定表示部)を形成した表示部、平面状や球面状等の照明器具などの光デバイスにも採用されており、その光デバイスの大きさも小型用から大型スクリーンなど様々なものが知られている。
【0003】
自発光素子の代表的なものとして有機EL(エレクトロルミネッセンス)素子が知られている。有機EL素子は、例えば有機EL(OEL:Organic electroluminescence)デバイス、有機発光ダイオード(OLED:Organic light emitting diode)デバイス、自発光素子、電場発光光源とも呼ばれている。一般的に有機EL素子は、アノード(陽極、正孔注入電極に相当する)と、カソード(陰極、電子注入層に相当する)との間に有機層(発光層)を挟み込んだ構造を有する。一般的に有機層は、複数の機能層が積層した構造を有し、例えば正孔注入層、正孔輸送層、有機発光層、電子輸送層、および電子注入層等が順に積層された構造を有する。この各層は、単一の有機材料からなる単層、複数の材料を混ぜ合わせた混合層、高分子バインダの中に有機材料や無機材料の機能材料(電荷輸送機能、発光機能、電荷ブロッキング機能、光学機能等)を分散させた層、等を採用することができる。また各層に、上部電極をスパッタ法により形成する際に有機層がダメージを受けないようにバッファ機能を設けたものや、成膜プロセスによる凹凸を防ぐために平坦化機能を設けた有機EL素子も知られている。
【0004】
一般的な自発光パネルの製造方法は、例えば基板上に下部電極(陽極)を形成し、その下部電極上に発光層を含む成膜層を形成し、その成膜層上に上部電極(陰極)を成膜することで有機EL素子を形成し、その有機EL素子を封止部材により封止した後、フレキシブル基板(配線部材)を引出電極に圧着接続することで有機ELパネルを作製する。詳細には、基板上にクロム(Cr)およびITO(Indium Tin Oxide)を成膜し、ITO,クロムの順にエッチングしてパターン形成することで、クロムからなる補助配線、及びITOからなる下部電極を形成し、下部電極形成後、例えばCuPc/NPB/Alq/Li2 Oからなる成膜層を蒸着法にて形成する。成膜層形成後に、アルミニウム等の金属材料を膜厚約100nmに成膜して、上部電極を形成する。
【0005】
上記構成の一般的な有機ELパネルは比較的消費電力が高い。特に携帯電話等の携帯型情報処理装置や携帯型通信装置等に使用する場合に、低消費電力化が望まれている。低消費電力化の方法として、例えば下部電極を低抵抗化する方法(例えば特許文献1参照)や、クロム(Cr)からなる補助配線にアルミニウム(Al)等を配置して補助配線を低抵抗化する方法等が知られている。
【0006】
【特許文献1】特開2000−106275号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
そして更なる低消費電力化のために、上部電極(陰極)を厚膜に形成して低抵抗化する方法が検討されている。しかし、一般的な上部電極(膜厚60〜100nm)と比べて、単純に上部電極を膜厚約200nm以上に厚膜化した場合、成膜後、時間が経過するにつれて膜内の応力が大きく作用し、上部電極に割れ等のヒロックが発生する場合がある。このヒロックから成膜層に水分等が浸入すると、成膜層の劣化や電気的短絡等が生じて、自発光パネルにダークスポット等の表示不良が発生する虞がある。
【0008】
本発明は、このような問題に対処することを課題の一例とするものである。すなわち、上部電極を厚膜に形成して低抵抗化を実現すること、上部電極を厚膜に形成した場合に、上部電極にヒロックが発生することを防止すること、自発光パネルにおいてヒロックや電気的短絡等による表示不良を防止すること、簡単な工程により上記機能を備えた自発光素子および自発光パネルを作製すること、等が本発明の目的である。
【課題を解決するための手段】
【0009】
このような目的を達成するために、本発明は、以下の各独立請求項に係る構成を少なくとも具備するものである。
【0010】
請求項1に記載の発明は、基板上に形成された、下部電極と上部電極とで挟持される発光層を含む成膜層を有する自発光素子であって、前記上部電極は、金属材料に有機材料を含む導電性混合層であることを特徴とする。
【0011】
請求項7に記載の発明は、陽極と陰極とで狭持される発光層を含む成膜層を有する自発光素子であって、前記陰極は、金属材料に有機材料を含む導電性混合層であることを特徴とする。
【0012】
請求項8に記載の発明は、基板上に形成された、下部電極と上部電極とで挟持される発光層を含む成膜層を有する自発光素子を、一つ又は複数備える自発光パネルであって、前記上部電極は、金属材料に有機材料を含む導電性混合層であることを特徴とする。
【0013】
請求項9に記載の発明は、基板上に下部電極と上部電極とで狭持される発光層を含む成膜層を形成してなる自発光素子の製造方法であって、前記上部電極の形成時に、金属材料に有機材料を含む前記上部電極を形成することを特徴とする。
【0014】
請求項11に記載の発明は、基板上に下部電極と上部電極とで狭持される発光層を含む成膜層を形成してなる自発光素子を一つ又は複数備える自発光パネルの製造方法であって、前記上部電極の形成時に、金属材料に有機材料を含む前記上部電極を形成することを特徴とする。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
本発明の一実施形態に係る自発光素子は、基板上に形成された、下部電極と上部電極とで狭持される発光層を含む成膜層を有し、上部電極は、金属材料に有機材料を含む導電性混合層であることを特徴とする。また自発光パネルは、一つ又は複数個の上記自発光素子を備える。この上部電極は、金属材料とともに有機材料を蒸着して形成されている。
【0016】
上記構成の本発明に係る上部電極は、厚膜に形成されているので、上部電極の抵抗値が低減して、自発光パネルの低消費電力化を実現することができる。また上部電極を、例えば約200nm以上の膜厚となるように形成した場合、アルミニウム等の金属材料からなる従来の上部電極と比べて、本発明に係る上部電極では、有機材料により膜内の応力が緩和されて小さくなり、ヒロックの発生を防止することができる。また自発光パネルにおいてヒロックや電気的短絡等による表示不良を防止することができる。
【0017】
また、上部電極を形成するときに、金属材料とともに有機材料を蒸着して上部電極を形成するので、簡単な工程により、上記機能を備えた自発光素子、および自発光パネルを作製することができる。
【0018】
以下、図面を参照しながら、本発明の一実施形態に係る自発光素子、自発光パネル、自発光素子の製造方法、および自発光パネルの製造方法を説明する。
【0019】
図1は、本発明の一実施形態に係る自発光パネルを説明するための図である。図1(a)は自発光パネルの上面図であり、図1(b)は図1(a)に示した自発光パネルの領域A付近の断面図である。図2は、封止部材を備える自発光パネルを説明するための図である。図2(a)は自発光パネルの上面図であり、図2(b)は図2(a)に示した自発光パネルの領域A付近の断面図である。
【0020】
本発明の一実施形態に係る自発光パネル1は、少なくとも一つの画素10又は複数の画素10を有している。また本実施形態に係る自発光パネル1は、複数の画素10が格子状に形成されている。また自発光パネル1において、一つの画素10に一つの自発光素子100が形成されている。この自発光素子100それぞれについて、一対の電極間に形成された発光層(成膜層)の発光と非発光とを駆動制御することにより、各種情報表示を行う。詳細には自発光パネル1では、例えば電源回路、コントローラIC(Integrated circuit)等の外部回路からの入力信号により、各自発光素子100の発光および非発光が駆動制御される。
【0021】
以下、本発明の一実施形態に係る光デバイスを採用したボトムエミッションタイプのパッシブ駆動型有機ELパネルを説明する。
【0022】
本実施形態に係る自発光パネル1は、図1,図2に示すように、基板(支持基板)2、下部電極3、絶縁層4、成膜層5(少なくとも発光層6を含む)、上部電極8、および封止部材9(封止基板91,封止材料92)を有する。
【0023】
基板(支持基板)2は、例えば平板状、フィルム状のものが好ましく、材質としてはガラス又はプラスチック等の各種材料を採用することができる。例えばボトムエミッション型の光デバイスでは、透明性を有する材料により基板2を形成する。下部電極3は、導電材料からなり、基板2上に直接又は他の層(例えば保護層等)を介して形成されている。本実施形態では図1,図2に示すように、矩形状の複数の下部電極3(3A)が、ストライプ状に基板2上に形成されている。絶縁層4、例えばポリイミド等の絶縁材料からなる。本実施形態に係る絶縁層4は、基板2や下部電極3上に形成され、下部電極3上に開口部11を区画形成する。
【0024】
成膜層5は、第1電極3上に、絶縁層4により区画形成された開口部11内に形成される。成膜層5は、少なくとも1層の発光層6(自発光層)を有する。また成膜層5は必要に応じて、発光層6を狭持するようにキャリア輸送層7(正孔輸送層7A、電子輸送層7B)やキャリア注入層(正孔注入層、電子注入層)等が形成された多層構造を有してもよい。
【0025】
本実施形態に係る上部電極8は、陰極(電子注入電極)として機能し、図1,2に示すように、成膜層5や絶縁層4上に形成され、金属材料に有機材料を含む導電性混合層である。また上部電極8は一層の導電性混合層からなる。上部電極8は、例えば一般的な上部電極(膜厚約60〜100nm)と比べて厚膜に形成されている。本実施形態に係る上部電極8は膜厚が約200nm以上、約1000nm以下程度、好ましくは300nm程度に形成されている。上部電極8の膜厚は、自発光素子100の駆動電流値、抵抗率、温度、成膜条件など各種条件に応じて規定される。上記構成の上部電極8は、厚膜に形成されていても有機材料を含むので、一般的な上部電極と比べて、膜内の応力が小さくなりヒロック等の成膜不良の発生を防止することができる。
【0026】
この上部電極8は、例えば金属材料とともに有機材料を蒸着して形成されている。例えば上部電極8には、金属材料に対して約1%〜10%程度の有機材料がドーピングされることが好ましい。
【0027】
上部電極8に含まれる有機材料は、各種有機材料を採用することができる。例えば蒸着することができる有機材料であればよい。また上部電極8の形成材料としては、一般的に有機EL素子の有機成膜層に用いられる有機材料、その他の炭素系材料、金属錯体、など各種有機材料を採用することができる。また上部電極8の形成材料としては、成膜層5の形成材料と同じ種類の材料を採用してもよい。こうすることにより、上部電極8と成膜層5間に高い密着性をもたせることができ、ヒロックなどの成膜不良をより低減することができる。また成膜層5を成膜する成膜装置と、上部電極8を形成する成膜装置の一部を共通化することができ、製造コストや製造時間を低減することができる。
【0028】
以下、上部電極8に混合する有機材料の一具体例を説明する。
(1)上部電極8の形成材料として、例えば一般的に正孔注入層や正孔輸送層に用いられる有機物質、具体的には、TPD、ポルフィン、テトラフェニルポルフィン銅、フタロシアニン、銅フタロシアニン、チタニウムフタロシアニンオキサイド等のポリフィリン化合物や、1,1−ビス{4−(ジ−P−トリルアミノ)フェニル}シクロヘキサン、4,4’,4’’−トリメチルトリフェニルアミン、N,N,N’,N’−テトラキス(P−トリル)−P−フェニレンジアミン、1−(N,N−ジ−P−トリルアミノ)ナフタレン、4,4’−ビス(ジメチルアミノ)−2−2’−ジメチルトリフェニルメタン、N,N,N’,N’−テトラフェニル−4,4’−ジアミノビフェニル、N,N’−ジフェニル−N,N’−ジ−m−トリル−4,N,N−ジフェニル−N,N’−ビス(3−メチルフェニル)−1,1’−4,4’−ジアミン、4’−ジアミノビフェニル、N−フェニルカルバゾール等の芳香族第三級アミンや、4−ジ−P−トリルアミノスチルベン、4−(ジ−P−トリルアミノ)−4’−〔4−(ジ−P−トリルアミノ)スチリル〕スチルベン等のスチルベン化合物や、トリアゾール誘導体や、オキサジアゾール誘導体や、イミダゾール誘導体や、ポリアリールアルカン誘導体や、ピラゾリン誘導体や、ピラゾロン誘導体や、フェニレンジアミン誘導体や、アニールアミン誘導体や、アミノ置換カルコン誘導体や、オキサゾール誘導体や、スチリルアントラセン誘導体や、フルオレノン誘導体や、ヒドラゾン誘導体や、シラザン誘導体や、ポリシラン系アニリン系共重合体や、高分子オリゴマーや、スチリルアミン化合物や、芳香族ジメチリディン系化合物や、ポリ3−メチルチオフェン等を採用してもよい。
【0029】
(2)上部電極8の形成材料として、例えば一般的にドーピング材料として使用されている有機物質、具体的には、電子受容性化合物(ルイス酸化合物)として、DDQ(ジシアノ−ジクロロキノン)、TNF(トリニトロフルオレノン)、TCNQ(テトラシアノキノジメタン)、F4−TCNQ(テトラフルオロ−テトラシアノキノジメタン、電子供与性化合物としてフッ素を置換基として有する有機物質やシアノ基を置換基として有する有機物等、を採用することができる。
【0030】
(3)上部電極8の形成材料として、例えば発光層に使用されている有機物質、具体的には、Alq3やBe−ベンゾキノリノール(BeBq2)の他に、2,5−ビス(5,7−ジ−t−ペンチル−2−ベンゾオキサゾリル)−1,3,4−チアジアゾール、4,4’−ビス(5,7−ペンチル−2−ベンゾオキサゾリル)スチルベン、4,4’−ビス〔5,7−ジ−(2−メチル−2−ブチル)−2−ベンゾオキサゾリル〕スチルベン、2,5−ビス(5,7−ジ−t−ベンチル−2−ベンゾオキサゾリル)チオフェン、2,5−ビス(〔5−α,α−ジメチルベンジル〕−2−ベンゾオキサゾリル)チオフェン、2,5−ビス〔5,7−ジ−(2−メチル−2−ブチル)−2−ベンゾオキサゾリル〕−3,4−ジフェニルチオフェン、2,5−ビス(5−メチル−2−ベンゾオキサゾリル)チオフェン、4,4’−ビス(2−ベンゾオキサイゾリル)ビフェニル、5−メチル−2−〔2−〔4−(5−メチル−2−ベンゾオキサイゾリル)フェニル〕ビニル〕ベンゾオキサイゾリル、2−〔2−(4−クロロフェニル)ビニル〕ナフト〔1,2−d〕オキサゾール等のベンゾオキサゾール系、2,2’−(p−フェニレンジビニレン)−ビスベンゾチアゾール等のベンゾチアゾール系、2−〔2−〔4−(2−ベンゾイミダゾリル)フェニル〕ビニル〕ベンゾイミダゾール、2−〔2−(4−カルボキシフェニル)ビニル〕ベンゾイミダゾール等のベンゾイミダゾール系等の蛍光増白剤や、トリス(8−キノリノール)アルミニウム、ビス(8−キノリノール)マグネシウム、ビス(ベンゾ〔f〕−8−キノリノール)亜鉛、ビス(2−メチル−8−キノリノラート)アルミニウムオキシド、トリス(8−キノリノール)インジウム、トリス(5−メチル−8−キノリノール)アルミニウム、8−キノリノールリチウム、トリス(5−クロロ−8−キノリノール)ガリウム、ビス(5−クロロ−8−キノリノール)カルシウム、ポリ〔亜鉛−ビス(8−ヒドロキシ−5−キノリノール)メタン〕等の8−ヒドロキシキノリン系金属錯体やジリチウムエピンドリジオン等の金属キレート化オキシノイド化合物や、1,4−ビス(2−メチルスチリル)ベンゼン、1,4−(3−メチルスチリル)ベンゼン、1,4−ビス(4−メチルスチリル)ベンゼン、ジスチリルベンゼン、1,4−ビス(2−エチルスチリル)ベンゼン、1,4−ビス(3−エチルスチリル)ベンゼン、1,4−ビス(2−メチルスチリル)2−メチルベンゼン等のスチリルベンゼン系化合物や、2,5−ビス(4−メチルスチリル)ピラジン、2,5−ビス(4−エチルスチリル)ピラジン、2,5−ビス〔2−(1−ナフチル)ビニル〕ピラジン、2,5−ビス(4−メトキシスチリル)ピラジン、2,5−ビス〔2−(4−ビフェニル)ビニル〕ピラジン、2,5−ビス〔2−(1−ピレニル)ビニル〕ピラジン等のジスチルピラジン誘導体や、ナフタルイミド誘導体や、ペリレン誘導体や、オキサジアゾール誘導体や、アルダジン誘導体や、シクロペンタジエン誘導体や、スチリルアミン誘導体や、クマリン系誘導体や、芳香族ジメチリディン誘導体等、更にアントラセン、サリチル酸塩、ピレン、コロネン等を採用してもよい。
【0031】
(4)上部電極8の形成材料として、例えば電子輸送層に使用されている有機物質、具体的には、1,3−ビス(4−tert−ブチルフェニル−1,3,4−オキサジアゾリル)フェニレン(OXD−7)等のジョキサジアゾール誘導体、アントラキノジメタン誘導体、ジフェニルキノン誘導体等を採用してもよい。
【0032】
また本実施形態では、図1,図2に示すように、矩形状に形成された複数の上部電極8が、複数の下部電極3に直交する方向に沿って形成されている。上記構成の自発光パネル1では、下部電極3と上部電極8との交差点に各画素10が形成されている。自発光素子100は、下部電極3、成膜層5、および上記上部電極8により形成される。なお本実施形態では、下部電極3を正孔注入電極(陽極、正極)、上部電極8を電子注入電極(陰極、負極)として形成する。両電極の機能としては、この形態に限られるものではなく、下部電極3を電子注入電極、上部電極8を正孔注入電極として形成してもよい。
【0033】
上記自発光素子100は、湿気等により著しく劣化するので、例えば図2(a),(b)に示すように、封止部材9により自発光素子100を封止する。本実施形態に係る封止部材9は、図2(a),(b)に示すように、例えばガラスや金属材料等の各種材料からなる封止基板91と、樹脂等の各種材料からなる封止材料92とを有する。封止方法は、上記形態に限られるものではなく、各種封止方法を採用することができる。
【0034】
また本実施形態に係る自発光パネル1は、図1,2に示すように、基板2上に、下部電極3を延出して封止領域外に引き出して形成された下部電極用引出電極3aと、上部電極8を延出して封止領域外に引き出して形成された上部電極用引出電極8aが形成されている。下部電極用引出電極3a、および上部電極用引出電極8aには、例えば異方性導電性膜(ACF:Anisotropic conductive film)等の導電材料を介して、配線基板(フレキシブル基板)80が電気的に圧着接続される。配線基板80には駆動回路などの外部回路85が接続されている。また自発光パネル1と外部回路との接続は、上記実施形態に限られるものではない。例えば外部回路の実装としては、駆動回路を基板2上に形成するCOG(Chip on glass)や、フレキシブル基板上に駆動回路を形成したFOG(Flip chip on glass)等の各種実装技術を採用してもよい。
【0035】
図3〜図6は、図1,2に示した自発光パネルの製造方法を説明するための図である。図2〜図6を参照しながら自発光パネルの製造方法の一実施形態を説明する。
【0036】
[下部電極形成工程]
図3は、本発明の一実施形態に係る自発光パネルの製造方法の下部電極形成工程を説明するための図である。図3(a)は基板の上面図であり、図3(b)は図3(a)に示した基板の領域A付近の断面図である。
【0037】
先ず図3(a),(b)に示すように、ガラス等の基板2上に、ITO(Indium Tin Oxide)やIZO(Indium Zinc Oxide)等の透明電極の形成材料を、スパッタ成膜法などの各種成膜方法により成膜して、下部電極3を形成する。この際、矩形状の複数の下部電極3(3A)が、ストライプ状に基板2上に形成されている。この際、下部電極3の表面を平滑にするために、下部電極3に研磨やエッチング処理等の表面処理を施してもよい。また基板2上に有機EL素子の発光および非発光を示す制御信号を外部回路から入力するための下部電極用引出電極3aや、上部電極用引出電極3b等のパターニングを行う。本実施形態ではストライプ状に形成された下部電極3の端部が下部電極用引出電極3aに相当する。
【0038】
[絶縁層形成工程]
図4は、本発明の一実施形態に係る自発光パネルの製造方法の絶縁層形成工程を説明するための図である。図4(a)は基板の上面図であり、図4(b)は図4(a)に示した基板の領域A付近の断面図である。
【0039】
本実施形態に係る自発光パネル1では、情報表示を行うために、一つの有機EL素子が一つの画素10として機能する。次に図4(a),(b)に示すように、基板2や下部電極3上に絶縁層4により区画形成して開口部11を形成する。この開口部11の形成領域に成膜層5を形成する。絶縁層4の形成材料は、ポリイミド、エポキシ樹脂等の各種絶縁材料を採用することができる。この形成材料を基板2の下部電極形成側にスピンコート法、スリットコート法等の各種製造方法により塗布した後、フォトリソグラフィ法などにより規定形状にパターニングする。
【0040】
この際、絶縁層形成工程後、絶縁層4上に隔壁を形成してもよい。この隔壁は、例えば逆テーパ形状やオーバーハング部を備えた形状に形成されていることが好ましい。この隔壁を形成することにより、成膜層5や上部電極8を成膜用マスクを利用せずにパターニングすることができる。この際オーバーハング部は、下部電極3と上部電極8とが接触しないように、絶縁層4の幅より狭くなるように形成することが好ましい。
【0041】
[成膜層形成工程]
図5は、本発明の一実施形態に係る自発光パネルの製造方法の成膜層形成工程を説明するための図である。図5(a)は基板の上面図であり、図5(b)は図5(a)に示した基板の領域A付近の断面図である。
【0042】
絶縁層形成工程の後、上記下部電極3及び絶縁層4等が形成された基板2に、前処理工程を施す。前処理工程としては、例えば界面活性剤、純水等による洗浄工程や、UV(ultraviolet)照射洗浄やオゾン洗浄等の各種洗浄工程を採用することができる。
【0043】
次に前処理工程後、その基板2を、例えば真空度1×10-4 Paに設定した成膜室内に搬送して、図5(a),(b)に示すように、抵抗加熱蒸着法など各種製造方法により有機材料を成膜することで成膜層5を形成する。抵抗加熱蒸着法は、成膜室内に上記基板2を設置して、成膜材料を充填した成膜源を加熱することにより、蒸発や昇華した成膜材料を絶縁層4により区画形成された開口部11内に成膜する。本実施形態では成膜方法として抵抗加熱法を採用したが、この形態に限られるものではない。例えば塗布法、印刷法、レーザ熱転写法等の各種成膜方法により成膜層5を形成してもよい。また本発明に係る自発光パネル1を利用する状況、環境など各種条件に応じて材料、膜厚、成膜方法などを適宜設計してもよい。
【0044】
次に成膜方法の一具体例として、正孔輸送層7A、発光層6、電子輸送層7Bが順次積層された3層構造を有する成膜層5を、抵抗加熱蒸着法により形成する方法を説明する。例えばNPB(N,N-di(naphthalene-1-yl)-N,N-diphenyl-benzidene)を膜厚30nm程度となるように蒸着して正孔輸送層7Aを形成する。次に例えばホスト材料のアルミニウム錯体(Alq3 )及びゲスト材料のクマリン(0.67重量%)を膜厚30nm程度となるように蒸着して成膜層5を形成する。次にアルミニウム錯体(Alq3 )を膜厚30nm程度となるように蒸着して電子輸送層7Bを形成する。上記製造方法により成膜層5が得られる。
【0045】
[上部電極形成工程]
図6は、本発明の一実施形態に係る自発光パネルの製造装置を説明するための図である。図6,図1を参照しながら上部電極形成工程を説明する。製造装置200は、成膜室201、真空ポンプ202、排気口203、蒸着源204、膜厚計205、および制御回路206を有する。成膜室201内には、蒸着源204が配置される。本実施形態に係る蒸着源204として、上部電極8の形成材料である金属材料を備える蒸着源204Aと、有機材料を備える蒸着源204Bとが配置されている。有機材料としては、上記成膜層5に用いられる有機材料等、各種材料を採用することができる。この蒸着源204の上部には、上記製造工程により下部電極3、絶縁層4、および成膜層5が成膜された基板2が配置される。制御回路206は、真空ポンプ202を駆動することにより、成膜室201中の気体を排気口203から排出させて、成膜室201内を所定の真空度に制御する。また制御回路206は、蒸着源204A,204Bを加熱制御することにより、蒸着源204の上部に配置された基板(支持基板)2に、金属材料とともに有機材料を蒸着する。この際、金属材料に対して有機材料を約1%〜数%程度ドープするように真空蒸着を行う。また、この際図1に示すように、絶縁層4、成膜層5上にストライプ状に上部電極8を形成する。詳細には下部電極3の形成方向に対して上部電極8の形成方向が直交するように形成する。この上部電極8は、シャドーマスクを用いてパターン形成してもよいし、予め下部電極3の形成方向に対して直交するように隔壁を形成しておき、その隔壁が形成された状態で金属材料及び有機材料を蒸着することにより、上部電極8を形成してもよい。上部電極8の端部は、引出電極部8Aに相当する。上記製造工程により基板2上に形成された自発光素子100を一画素として、自発光素子100を複数個備える自発光パネル1を作製することができる。制御回路206は膜厚計205により、上部電極8の膜厚が所定の厚さになった場合に蒸着を終了する。
【0046】
[封止工程]
次に基板2上に形成された自発光素子100を封止部材9により封止する。封止方法は、例えば封止缶により封止する方法や固体封止法等の各種封止法を採用することができる。本実施形態では図2に示すように、先ず接着剤などの封止材料92を、基板2上に形成された自発光素子100を覆うように塗布した後、自発光素子100上に封止材料92を介して封止基板91を貼り付ける。
【0047】
[配線部材や外部回路等の圧着工程]
次に図2に示すように、下部電極用引出電極3a、および上部電極用引出電極8aには、例えば異方性導電性膜(ACF:Anisotropic conductive film)等の導電材料を介して、配線基板(フレキシブル基板)80を電気的に圧着接続する。配線基板80には駆動回路などの外部回路85を接続する。また自発光パネル1と外部回路85との接続は、上記実施形態に限られるものではない。
【0048】
以上説明したように、本実施形態に係る自発光パネル1では、上部電極8を厚膜に形成して低抵抗化を実現することができる。また、上部電極8の抵抗値が低減して、自発光パネル1の低消費電力化を実現することができる。また、上部電極8を厚膜に形成する際に、金属材料とともに有機材料を蒸着して、金属材料に有機材料を含む導電性混合層を形成したので、金属材料のみで上部電極を形成した場合と比べて、膜内の応力が緩和されて小さくなり、ヒロックなどの発生を防止することができる。ヒロックや電気的短絡等による表示不良を防止することができるので、信頼性の高い自発光パネル1を作製することができる。
【0049】
また、金属材料とともに有機材料を蒸着して上部電極を形成するという簡単な製造工程により、上記機能を備えた自発光素子100および自発光パネル1を作製することができる。
【0050】
図7は、本発明の一実施形態に係る自発光パネル1の効果を説明するための図である。図7(a)は従来の自発光パネルの上部電極の表面状態を説明するための図であり、図7(b)は本発明の一実施形態に係る自発光パネルの上部電極の表面状態を説明するための図である。
【0051】
本願発明者は、本発明の一実施形態に係る自発光パネル1の効果を確認するために、上部電極がアルミニウムのみからなる従来の自発光パネルと、アルミニウムにアルミニウム錯体(Alq3 )をドープした上部電極を備える本発明に係る自発光パネルを作製して、それぞれの表面状態を観察して比較した。
【0052】
[従来構造]
詳細には、比較対象の従来の自発光パネルとしては、ガラス基板上にITOからなる下部電極(陽極)を形成し、下部電極上に成膜層を形成し、成膜層上にアルミニウムのみにより厚さ300nmの上部電極を形成した。成膜層としては、NPB(N,N-di(naphthalene-1-yl)-N,N-diphenyl-benzidene)を膜厚30nm程度となるように蒸着して正孔輸送層7Aを形成し、次にホスト材料のアルミニウム錯体(Alq3 )及びゲスト材料のクマリン(0.67重量%)を膜厚30nm程度となるように蒸着して成膜層5を形成し、次にアルミニウム錯体(Alq3 )を膜厚30nm程度となるように蒸着して電子輸送層7Bを形成した。そして封止接着剤を塗布して、温度約100℃にて加熱することにより、封止接着剤を硬化させた。すると図7(a)に示すように、厚膜化した上部電極には内部応力により熱硬化時に多数のヒロック(HL1)やボイドが発生した。このヒロック(HL1)は、表示異常やリークを引き起こす原因となる。
【0053】
[本発明に係る自発光パネル]
一方、本発明に係る自発光パネルとしては、アルミニウムに対して約10%程度のアルミニウム錯体(Alq3 )をドープして上部電極を形成した。詳細には成膜層上に上部電極を膜厚300nm(Al;270nm、Alq3;30nm)程度に形成した。そして封止接着剤を塗布して、温度約100℃にて加熱することにより、封止接着剤を硬化させた。すると図7(b)に示すように、厚膜化した上部電極にはAlq3をドープしたのでAlの内部応力が緩和してヒロックの発生が抑制され、ヒロック(HL1)が発生しなかった。このため表示異常やリーク等の不具合を防止することができる。
【0054】
[他の実施形態]
図8は、本発明の他の実施形態に係る自発光パネルを説明するための図である。
【0055】
上記実施形態に係る自発光パネル1では、図8(a)に示すように、ITOやIZO等の透明導電性材料により下部電極(正孔注入電極:陽極)3を形成し、アルミニウム等の金属材料に有機材料を含む導電性混合層により上部電極(電子注入電極:陰極)8を形成して、ボトムエミッションタイプの順積構造(上部電極が電子注入電極、下部電極が正孔注入電極)を有する自発光パネルを説明したが、この形態に限られるものではない。
【0056】
本発明に係る自発光パネルとして、例えば図8(b)に示すように、クロム(Cr)、ニッケル(Ni)、銅(Cu)、ITO/Al(積層)等の金属材料により下部電極(正孔注入電極:陽極)3bを形成し、酸化スズ(SnO2 )等の金属材料に有機材料を含む上部電極(電子注入電極:陰極)8bを形成し、上部電極8bの下層に電子注入層としてカルシウム(Ca)やアルミ(Al)等の材料を挿入した構造を有するトップエミッション構造(順積構造)の自発光素子100bを備えた自発光パネル1bを採用してもよい。
【0057】
また、本発明に係る自発光パネルとして、例えば図8(c)に示すように、アルミニウム(Al)等の金属材料により下部電極(電子注入電極:陰極)3cを形成し、酸化スズ(SnO2 )等の金属材料に有機材料を含む上部電極(正孔注入電極:陽極)8cを有するボトムエミッション構造(逆積構造)に形成された自発光パネル1cを採用してもよい。
【0058】
また、本発明に係る自発光パネルとして、例えば図8(d)に示すように、アルミニウム(Al)等の金属材料により下部電極(電子注入電極:陰極)3dを形成し、酸化スズ(SnO2 )等の金属材料に有機材料を含む上部電極(正孔注入電極:陽極)8dを有するトップエミッション構造(逆積構造)に形成された自発光パネル1dを採用してもよい。
【0059】
上述したように本発明に係る自発光パネルとして、ボトムエミッション構造(順積構造)、トップエミッション構造(順積構造)、ボトムエミッション構造(順積構造)、トップエミッション構造(逆積構造)を採用してもよい。各自発光パネルの上部電極として、金属材料に有機材料を含む導電性混合層を有していればよい。
【0060】
図9は、本発明の他の実施形態に係る自発光パネルを説明するための図である。上記実施形態では上部電極8が一層構造であったが、この形態に限られるものではない。例えば図9に示すように、上部電極8が、金属材料に有機材料がドープされたドープ層81と、金属材料に有機材料がドープされていない非ドープ層82の多層構造に形成されていてもよい。この構造の上部電極では、成膜層5と上部電極8のドープ層81が高い密着性を有し、かつ上部電極8の非ドープ層82が比較的低い抵抗値を有するので、より高い密着性および低抵抗化を実現することができる。
【0061】
なお、本発明は上述した実施形態に限られるものではない。上述した実施形態や具体例を組み合わせてもよい。
【0062】
また上述した実施形態では、本発明に係る自発光パネル1をパッシブ駆動型の有機ELパネルに適用したが、この形態に限られるものではない。例えば各有機EL素子に対してスイッチング素子としてのTFT(Thin Film Transistor)を設けたアクティブ駆動型有機ELパネルに、本発明に係る自発光パネル1を適用してもよい。また本発明に係る自発光パネル1を実現することができれば、上記実施形態に限定されるものではない。
【0063】
また上述した実施形態では真空蒸着法による成膜方法を採用したが、この形態に限られるものではない。例えば塗布法、印刷法、レーザ熱転写法等の各種成膜方法を採用してもよい。
【0064】
また上述したように、本発明の実施形態に係る自発光パネルの製造方法により形成される自発光パネルについて、本発明をなんら限定しない細部を以下に説明する。
【0065】
まず、有機EL素子について説明すると、一般的に有機EL素子は、アノード(陽極、正孔注入電極)とカソード(陰極、電子注入電極)との間に有機EL機能層を挟み込んだ構造をとっている。両電極に電圧を印加することにより、アノードから有機EL機能層内に注入・輸送された正孔とカソードから有機EL機能層内に注入・輸送された電子がこの層内(発光層)で再結合することで発光を得るものである。基板上に、下部電極,有機EL機能層からなる成膜層,上部電極を積層した有機EL素子の具体的構成および材料例を示すと以下の通りである。
【0066】
基板については、透明性を有する平板状、フィルム状のものが好ましく、材質としてはガラス又はプラスチックを用いることができる。
【0067】
下部又は上部電極ついては、一方が陰極、他方が陽極に設定されることになる。この場合、陽極は仕事関数が高い材料で構成されるのがよく、クロム(Cr),モリブデン(Mo),ニッケル(Ni),白金(Pt)等の金属膜,或いはITO,IZO等の酸化金属膜等による透明導電膜が用いられる。そして、陰極は仕事関数の低い金属で構成されるのがよく、特に、アルカリ金属(Li,Na,K,Rb,Cs),アルカリ土類金属(Be,Mg,Ca,Sr,Ba),希土類といった仕事関数の低い金属、その化合物、又はそれらを含む合金を用いることができる。また、下部電極、上部電極ともに透明な材料により構成した場合には、光の放出側と反対の電極側に反射膜を設けた構成とすることもできる。
【0068】
また下部電極又は上部電極から封止空間に外側に引き出される引出電極は、有機ELパネルとそれを駆動するIC(集積回路),ドライバ等の駆動手段とを接続するために設けられる配線電極であって、好ましくはAg,Cr,Al等などの低抵抗金属材料やそれらの合金を用いるのがよい。
【0069】
一般に、下部電極と引出電極の形成は、ITO,IZO等によって下部電極及び引出電極のための薄膜を蒸着或いはスパッタリング等の方法で形成し、フォトリソグラフィ法などによってパターン形成がなされる。下部電極と引出電極(特に低抵抗化の必要な引出電極)に関しては、前述のITO,IZO等の下地層にAg,Al,Cr等の低抵抗金属もしくはその合金を積層した2層構造にしたもの、或いはAg等の保護層としてCu,Cr,Ta等の耐酸化性の高い材料を更に積層した3層構造にしたものを採用することができる。
【0070】
下部電極と上部電極との間に成膜される有機EL機能層としては、下部電極を陽極,上部電極を陰極とした場合には、正孔輸送層/発光層/電子輸送層の積層構造が一般的であるが(下部電極を陰極、上部電極を陽極とした場合にはその逆の積層順となる)、発光層、正孔輸送層、電子輸送層についてはどちらかの層を省略しても、両方の層を省略して発光層のみにしても構わない。また有機EL機能層としては、正孔注入層,電子注入層,正孔障壁層,電子障壁層等の有機機能層を用途に応じて挿入することができる。
【0071】
有機EL機能層の材料は、有機EL素子の用途に合わせて適宜選択可能である。以下に例を示すがこれらに限定されるものではない。
【0072】
正孔輸送層としては、正孔移動度が高い機能を有していればよく、その材料としては従来公知の化合物の中から任意のものを選択して用いることができる。具体例としては、銅フタロシアニン等のポルフィリン化合物、4,4’−ビス[N−(1−ナフチル)−N−フェニルアミノ]−ビフェニル(NPB)等の芳香族第三アミン、4−(ジ−p−トリルアミノ)−4’−[4−(ジ−p−トリルアミノ)スチリル]スチルベンゼン等のスチルベンゼン化合物、トリアゾール誘導体、スチリルアミン化合物等の有機材料が用いられる。また、ポリカーボネート等の高分子中に低分子の正孔輸送用の有機材料を分散させた高分子分散系の材料も使用できる。好ましくは、ガラス転移温度(Tg)が封止用樹脂を加熱硬化させる温度より高い材料が好ましく、例えば4,4’−ビス[N−(1−ナフチル)−N−フェルミアミノ]−ビフェニル(NPB)が挙げられる。
【0073】
発光層は、公知の発光材料が使用可能であり、具体例としては、4,4’−ビス(2,2’−ジフェニルビニル)−ビフェニル(DPVBi)等の芳香族ジメチリディン化合物、1,4−ビス(2−メチルスチリル)ベンゼン等のスチリルベンゼン化合物、3−(4−ビフェニル)−4−フェニル−5−t−ブチルフェニル−1,2,4−トリアゾール(TAZ)等のトリアゾール誘導体、アントラキノン誘導体、フルオレノン誘導体等の蛍光性有機材料、(8−ヒドロキシキノリナト)アルミニウム錯体(Alq3 )等の蛍光性有機金属化合物、ポリパラフェニレンビニレン(PPV)系、ポリフルオレン系、ポリビニルカルバゾール(PVK)系等の高分子材料、白金錯体やイリジウム錯体等の三重項励起子からのりん光を発光に利用できる有機材料を使用できる。上述したような発光材料のみから構成したものでもよいし、正孔輸送材料、電子輸送材料、添加剤(ドナー、アクセプター等)または発光ドーパント等が含有されてもよい。また、これらが高分子材料又は無機材料中に分散されていてもよい。
【0074】
電子輸送層は、陰極より注入された電子を発光層に伝達する機能を有していればよく、その材料としては従来公知の化合物の中から任意のものを選択して用いることができる。具体例としては、ニトロ置換フルオレノン誘導体、アントラキノジメタン誘導体等の有機材料、8−キノリノール誘導体の金属錯体、メタルフタロシアニン等が使用できる。
【0075】
上記正孔輸送層、発光層、電子輸送層は、本発明に係る成膜工程および加熱工程を同時又は交互に行う層を除いては、スピンコーティング法、ディッピング法等の塗布法、インクジェット法、スクリーン印刷法等のウェットプロセス、又は蒸着法、レーザ転写法等のドライプロセスで形成することができる。
【0076】
また封止部材としては、気密性を確保できる材料であればよく、特に限定されるものではないが、接着剤を加熱硬化させる都合上、熱膨張や経時的変化の少ない材料を用いることが好ましく、例えば、アルカリガラス、無アルカリガラス等のガラス材、ステンレス、アルミニウム等の金属材、プラスチック等を採用することができる。また封止部材としては、ガラス製の封止基板にプレス成形、エッチング、ブラスト処理等の加工によって封止凹部(一段掘り込み、二段掘り込みを問わない)を形成したもの、または平板ガラスを使用し、ガラス(プラスチックでもよい)製のスペーサにより基板と封止空間を形成したもの、封止部材と基板間の気密空間を樹脂等で充填したものなども採用することができる。
【0077】
また封止材料92(接着剤)としては、熱硬化型、化学硬化型(二液混合)、光(紫外線)硬化型等を用いることができ、材料としてアクリル樹脂、エポキシ樹脂、ポリエステル、ポリオレフィン等を用いる。特に、紫外線硬化型のエポキシ樹脂製の使用が好ましい。
【0078】
基板と封止部材間の封止空間には、乾燥手段(乾燥剤)を配備してもよく、この乾燥手段は、ゼオライト、シリカゲル、カーボン、カーボンナノチューブ等の物理的乾燥剤、アルカリ金属酸化物、金属ハロゲン化合物,過酸化塩素等の化学的乾燥剤、有機金属錯体をトルエン,キシレン,脂肪族有機溶剤等の石油系溶剤に溶解した乾燥剤、乾燥剤粒子を透明性を有するポリエチレン,ポリイソプレン,ポリビニルシンナエート等のバインダに分散させた乾燥剤により形成することができる。
【0079】
また、本発明に係る自発光パネルを、携帯電話、車載用モニタ、家庭用電化製品のモニタ、パーソナルコンピュータの表示装置やテレビジョン受像装置等のドットマトリクス表示を行う情報表示装置や、時計や宣伝用パネル等の固定表示装置、スキャナやプリンタの光源、照明、液晶のバックライト等の照明装置、光電変換機能を利用した光通信装置等の各種デバイスに適用してもよい。
【0080】
以上説明したように、本発明の実施形態に係る自発光パネルでは、上部電極8は、金属材料に有機材料を含む導電性混合層であるので、上部電極8を厚膜に形成して低抵抗化を実現することができる。また上部電極8の抵抗値が低減して、自発光パネル1の低消費電力化を実現することができる。また、上部電極8を厚膜に形成する際に、金属材料とともに有機材料を蒸着して、金属材料に有機材料を含む導電性混合層を形成したので、金属材料のみで上部電極を形成した場合と比べて、膜内の応力が緩和されて小さくなり、ヒロックなどの発生を防止することができる。ヒロックや電気的短絡等による表示不良を防止することができるので、信頼性の高い自発光パネルを作製することができる。
【0081】
また、金属材料とともに有機材料を蒸着して上部電極を形成するという簡単な製造工程により、上記機能を備えた自発光素子100および自発光パネルを作製することができる。
【図面の簡単な説明】
【0082】
【図1】本発明の一実施形態に係る自発光パネルを説明するための図である。(a)は自発光パネルの上面図であり、(b)は(a)に示した自発光パネルの領域A付近の断面図である。
【図2】封止部材を備える自発光パネルを説明するための図である。(a)は自発光パネルの上面図であり、(b)は(a)に示した自発光パネルの領域A付近の断面図である。
【図3】本発明の一実施形態に係る自発光パネルの製造方法の下部電極形成工程を説明するための図である。(a)は基板の上面図であり、(b)は(a)に示した基板の領域A付近の断面図である。
【図4】本発明の一実施形態に係る自発光パネルの製造方法の絶縁層形成工程を説明するための図である。(a)は基板の上面図であり、(b)は(a)に示した基板の領域A付近の断面図である。
【図5】本発明の一実施形態に係る自発光パネルの製造方法の成膜層形成工程を説明するための図である。(a)は基板の上面図であり、(b)は(a)に示した基板の領域A付近の断面図である。
【図6】本発明の一実施形態に係る自発光パネルの製造装置を説明するための図である。
【図7】本発明の一実施形態に係る自発光パネル1の効果を説明するための図である。(a)は従来の自発光パネルの上部電極の表面状態を説明するための図であり、(b)は本発明の一実施形態に係る自発光パネルの上部電極の表面状態を説明するための図である。
【図8】本発明の他の実施形態に係る自発光パネルを説明するための図である。(a)は、ボトムエミッションタイプの順積構造(上部電極が電子注入電極、下部電極が正孔注入電極)を有する自発光パネルを説明するための図である。(b)は、トップエミッションタイプの順積構造(上部電極が電子注入電極、下部電極が正孔注入電極)を有する自発光パネルを説明するための図である。(c)は、ボトムエミッションタイプの逆積構造(上部電極が正孔注入層、下部電極が電子注入層)を有する自発光パネルを説明するための図である。(d)は、トップエミッションタイプの順積構造(上部電極が正孔注入層、下部電極が電子注入層)を有する自発光パネルを説明するための図である。
【図9】本発明の他の実施形態に係る自発光パネルを説明するための図である。
【符号の説明】
【0083】
1 自発光パネル(有機ELパネル)
2 基板(支持基板)
3 下部電極(第1電極)
4 絶縁層(区画層)
5 成膜層
6 発光層(自発光層)
7 キャリア輸送層
7A 正孔輸送層
7B 電子輸送層
8 上部電極(第2電極)
9 封止部材
10 画素
11 開口部
80 配線基板
85 外部回路
91 封止基板
92 封止材料
100 自発光素子(有機EL素子)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板上に形成された、下部電極と上部電極とで挟持される発光層を含む成膜層を有する自発光素子であって、
前記上部電極は、金属材料に有機材料を含む導電性混合層であることを特徴とする自発光素子。
【請求項2】
前記上部電極は、前記金属材料とともに前記有機材料を蒸着して形成されていることを特徴とする請求項1に記載の自発光素子。
【請求項3】
前記上部電極は、電子注入電極であることを特徴とする請求項1に記載の自発光素子、
【請求項4】
前記上部電極は、単層構造を有することを特徴とする請求項1に記載の自発光素子。
【請求項5】
前記有機材料は、前記成膜層の形成材料と同じ種類の材料であることを特徴とする請求項1に記載の自発光素子。
【請求項6】
前記成膜材料は、有機金属錯体からなることを特徴とする請求項1に記載の自発光素子。
【請求項7】
陽極と陰極とで狭持される発光層を含む成膜層を有する自発光素子であって、
前記陰極は、金属材料に有機材料を含む導電性混合層であることを特徴とする自発光素子。
【請求項8】
基板上に形成された、下部電極と上部電極とで挟持される発光層を含む成膜層を有する自発光素子を、一つ又は複数備える自発光パネルであって、
前記上部電極は、金属材料に有機材料を含む導電性混合層であることを特徴とする自発光パネル。
【請求項9】
基板上に下部電極と上部電極とで狭持される発光層を含む成膜層を形成してなる自発光素子の製造方法であって、
前記上部電極の形成時に、金属材料に有機材料を含む前記上部電極を形成する
ことを特徴とする自発光素子の製造方法。
【請求項10】
前記上部電極の形成時に、前記金属材料とともに有機材料を蒸着して前記上部電極を形成することを特徴とする請求項9に記載の自発光素子の製造方法。
【請求項11】
基板上に下部電極と上部電極とで狭持される発光層を含む成膜層を形成してなる自発光素子を一つ又は複数備える自発光パネルの製造方法であって、
前記上部電極の形成時に、金属材料に有機材料を含む前記上部電極を形成することを特徴とする自発光パネルの製造方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate


【公開番号】特開2007−250329(P2007−250329A)
【公開日】平成19年9月27日(2007.9.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−71277(P2006−71277)
【出願日】平成18年3月15日(2006.3.15)
【出願人】(000221926)東北パイオニア株式会社 (474)
【Fターム(参考)】