説明

自発的乳化のためのエマルション濃縮物のための非イオン性乳化剤

一般構造式:獣脂アルコール−nPO−mEOの化学化合物であって、ここで、獣脂アルコールの炭素原子の平均数は16〜18であり、ヨウ素価は、ヨウ素1g以下/前記化学化合物100gであり、平均プロポキシ化度が1〜4であり、かつ平均エトキシ化度が2〜6である化学化合物を含有する、自発的乳化のための非イオン性乳化剤を開示する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
エマルションは種々の分野の工業において使用されている:
例えば、腐食防止エマルションは、金属加工材を大気中の腐食作用から一時的に保護するための不動態化剤として使用される。この場合、従来の系は、乳化剤及び腐食防止剤を含有し、かつ水を僅かに含有するか又は全く含有しない、油濃縮物をベースとしている。水中油型エマルションの製造、即ち、水で希釈された形で使用される系のためには、系が自己乳化性であることが重要である。
【0002】
同様に、例えば低温用潤滑剤エマルションは、金属物品の非切削又は切削成形において使用される。前記エマルションは、腐食防止エマルションと類似の組成を有し、かつ同様に腐食防止作用を示す。
【0003】
前記エマルションはいずれも、使用される乳化剤が原因で発泡傾向を示すという問題を有する。これは、種々の使用分野における使用可能性にマイナスの影響を及ぼす。従って、本発明の課題は、乳化剤、エマルション濃縮物及び/又はエマルションにおいて、又は、乳化剤、エマルション濃縮物及び/又はエマルションとして使用することができ、かつ、公知の化学化合物に対して改善された発泡挙動を示す化学化合物を提供することである。提供すべき化学化合物は、更に、鉱油のための乳化剤として十分に好適であり、高い油混和性、良好な生分解性、低い水中毒性並びに高い化学的安定性を示すことが望ましい。
【0004】
前記課題は、驚異的にも、請求項1から7までのいずれか1項記載の化学化合物、請求項8記載の乳化剤、請求項9から11までのいずれか1項記載のエマルション濃縮物及び請求項12から14までのいずれか1項記載のエマルションにより解決される。請求項15記載の使用は、本発明のもう1つの対象である。
【0005】
一般構造式:獣脂アルコール−nPO−mEOの化学化合物であり、ここで、獣脂アルコールの炭素原子の平均数は16〜18であり、ヨウ素価は、ヨウ素1g以下/前記化学化合物100gであり、アルキレンオキシド単位は本質的に、平均プロポキシ化度が1〜4でありかつ平均エトキシ化度が2〜6であるブロック構造を有する化学化合物は、本発明により、発泡性の低い化合物を提供するという課題を解決する。
【0006】
前記化合物は、アルキレンオキシド単位の80%超がブロック状に配置されており、平均プロポキシ化度が1〜3であり、かつ平均エトキシ化度が3〜5である場合に有利である。前記化合物は、アルキレンオキシド単位の80%超がブロック状に配置されており、平均プロポキシ化度が1〜2であり、かつ平均エトキシ化度が4である場合に特に有利である。
【0007】
アルコキシ化単位の順番に関して、基本的に複数の可能性が存在する:獣脂アルコールから出発して、まずEO−ブロックが続き、これにPO−ブロックが引き続くことができ、また同様に、獣脂アルコールにまずPO−ブロック、次いでEO−ブロックが続くことができる。同様に、勾配又はランダム分布が可能である。本発明によれば、化学化合物は、PO−ブロックが獣脂アルコールに隣接しており、これにEOブロックが続いている。この場合、「本質的にブロック構造」を有する化合物とは、平均でアルコキシ化単位の65%超がブロック状に配置されている化合物であると解釈される。
【0008】
更に、上記の通り、EOの質量割合とPOの質量割合の半分との合計が、乳化剤の全質量の35〜50%、特に有利に40〜49%、極めて特に有利に45〜49%である化学化合物は有利である。
【0009】
本発明の他の対象は、上記の化学化合物を含有する乳化剤である。
【0010】
同様に、上記の化学化合物及び/又は上記の乳化剤及び炭化水素及び/又はエステルを含有するエマルション濃縮物は、本発明の更なる対象である。
【0011】
本発明によるエマルション濃縮物は、更に、水、殺生剤、腐食防止剤、香料、農薬、薬剤、緩衝剤、粘度調整剤、不凍剤、消泡剤、染料、錯化剤、塩及び補助乳化剤からなる群から選択された1以上の添加剤を含有することができる。
【0012】
殺生剤は、細菌を殺滅する化合物である。殺生剤の一例は、グルタルアルデヒドである。殺生剤を使用することの利点は、殺生剤が病原体の蔓延に抵抗する作用を有し、かつエマルションの寿命を高めることである。
【0013】
例えばカルボン酸が腐食防止剤として作用する。これは直鎖又は分枝鎖であってよい。種々のカルボン酸の混合物は、特に有利であり得る。カプリル酸、エチルヘキサン酸、イソノナン酸及びイソデカン酸は特に有利なカルボン酸である。腐食防止エマルションはしばしば中性ないし弱アルカリ性であるため、カルボン酸を少なくとも部分的に中和された形で、即ち塩として使用することが有利であり得る。中和のために、特に、水酸化ナトリウム及び/又は水酸化カリウム並びにアルカノールアミンが好適である。この場合、モノ−及び/又はトリアルカノールアミンの使用が特に有利である。ジアルカノールアミンの使用は、ニトロサミンの形成が危惧されるため、あまり有利でない。同様に、ジアルカノールアミンを単独でか又はモノ−及び/又はトリアルカノールアミンと一緒に中和のために使用することもできる。
【0014】
香料は、アルコール、アルデヒド、テルペン及び/又はエステルの個々の化合物又は混合物であってよい。香料の例は、以下の通りである:レモングラス油、コーチン(Cochin)、ジヒドロミルセノール、リリアール、フェニルエチルアルコール、テトラヒドロリナロール、ヘキサノール cis−3、ラバンジングロッソ、シトラール、アリルカプロネート、シトロニトリル、ベンジルアセテート、ヘキシルシンナムアルデヒド、シトロネロール、イソアミルサリチレート、イソボルニルアセテート、テルピニルアセテート、リナリルアセテート、テルピニルアセテート、ジヒドロミルセノール、アグルニトリル(Agrunitril)、ユーカリ油、ヘルバフロラート(Herbaflorat)及びオレンジ油。香料を使用することの利点は、組成物にフレッシュな、又は警告的な臭いを付与することができ、かつ障害となる臭いを遮蔽する点である。
【0015】
農薬とは、既存の全ての植物保護剤並びに害虫駆除剤と解釈される。農薬は、標的となる生物に応じて、以下のものに区分される:殺ダニ剤、殺藻剤、殺菌剤、殺黴剤、除草剤、殺虫剤、軟体動物駆除剤、殺線虫剤、殺鼠剤、殺鳥剤並びに抗ウイルス剤。
【0016】
薬剤には、公知の全ての作用物質が含まれる。US特許実務の目的のために、特にドイツにおける医薬品のリストであるRote Liste(R) 2006 [Red List 2006] が明確に参照され、これを参照することにより引用するものとする。
【0017】
緩衝剤は、酸又は塩基をわずかに添加した際に組成物のpH値を本質的に一定に保つのに好適な全ての化合物である。
【0018】
粘度調整剤は、液体の流動特性を調整するのに利用される。
【0019】
不凍剤は、低温での組成物の凝固を防ぐ。不凍剤の使用により、組成物をより広い温度範囲にわたって使用することが可能となる。不凍剤の例は、グリセリン、グリコール及びエタノールである。
【0020】
消泡剤は、(例えば廃水浄化、製紙の際の、洗浄機における洗浄工程における)望ましくないフォーム形成を抑制するか、又は、既に形成されたフォームを崩壊させるのに好適な卓越した界面活性を有する配合物である。ここで、シリコーン油及び該シリコーン油中に分散されたシリカ粒子が普及しているが、均質な消泡剤もこれに含まれる。
【0021】
染料は、特に以下のものであってよい:Acid Blue 9、Acid Yellow 3、Acid Yellow 23、Acid Yellow 73、Pigment Yellow 101、Acid Green 1、Acid Green 25。染料を使用することの利点は、染料が組成物に所定の明白な色を付与し、それによって容易に区別が可能となることである。
【0022】
錯化剤は、カチオンを形成し得る化合物である。錯化剤は、水の硬度を低下させ、かつ障害となる重金属イオンを沈殿させるために利用することができる。錯化剤の例は、NTA、EDTA、MGDA及びGLDAである。前記化合物を使用することの利点は、多くの化合物が軟水中でより良好な作用を達成することであり;更に、水の硬度を低下させることによって、石灰沈殿物の発生が組成物の使用の間及び後に低減ないし回避され得ることである。
【0023】
塩は、種々の課題を解決することができるため、本発明により使用することのできる塩の種類は極めて広範である。従って、例示的に挙げられるものに過ぎないが、上記のようなカルボン酸の塩を腐食防止剤として使用することができる。
【0024】
他の成分は、補助乳化剤であることができる。この場合、1以上の補助乳化剤が、イオン性界面活性剤、アルコール及びヒドロトロープからなる群から選択されているエマルション濃縮物が有利である。
【0025】
イオン性界面活性剤は、アニオン性界面活性剤並びにカチオン性界面活性剤であることができる。アニオン性界面活性剤の例は、以下のものである:カルボン酸塩、スルホン酸塩、スルホ脂肪酸メチルエステル、硫酸塩、リン酸塩。カチオン性界面活性剤の例は、以下のものである:4級アンモニウム化合物。
【0026】
アルコールは、OH官能基を有する化合物である。例えば、エタノール、グリコールである。
【0027】
ヒドロトロープは、例えばペラルゴン酸をベースとする塩である。
【0028】
本発明の更なる対象は、上記の化学化合物及び/又は上記の乳化剤及び炭化水素及び/又はエステル並びに水を含有するエマルションである。
【0029】
この場合、更に、殺生剤、腐食防止剤、香料、農薬、薬剤、緩衝剤、粘度調整剤、不凍剤、消泡剤、染料、錯化剤、塩及び補助乳化剤からなる群から選択された1以上の添加剤を含有するエマルションが有利である。1以上の補助乳化剤が、イオン性界面活性剤、アルコール及びヒドロトロープからなる群から選択されているエマルションは、特に有利である。
【0030】
本発明の更なる対象は、以下
− 金属加工及び/又は
− 農業分野及び/又は
− テキスタイル工業及び/又は
− 皮革工業及び/又は
− 被覆工業及び/又は
− 建設工業及び/又は
− プラスチック加工工業及び/又は
− タイヤ工業及び/又は
− 洗浄剤工業及び/又は
− 工業的な洗濯及び家庭内の洗濯及び/又は
− 化粧品及び/又は
− 調剤
における、本発明によるエマルション濃縮物又は本発明によるエマルションの使用である。
【0031】
本発明を以下に実施例により詳説する:
【実施例】
【0032】
実施例1:
乳化剤1(比較):セチル−オレイルアルコール×5EO
KOH触媒を用いた5モル当量のEOによるセチル−オレイルアルコール(ヨウ素価 ヨウ素約60g/100g)のエトキシ化によって、セチル−オレイルアルコール×5EOを製造した。このタイプの乳化剤を、エマルション濃縮物の製造のための標準生成物とする。
【0033】
実施例2:
乳化剤2(本発明による):獣脂アルコール×2PO×4EO
C14及びC20 5質量%未満、ヨウ素価 ヨウ素1g未満/100gの獣脂アルコールC16C18 237gを、50%KOH水溶液5.0gと混合し、120℃、20ミリバール未満で30分間脱水した。その後、160℃で、プロピレンオキシド105gをガス混入し、計量供給後に30分間後反応させた。引き続き、エチレンオキシド160gをガス混入し、再度30分間後ガス処理した。最終的に60℃に冷却し、80%乳酸溶液5.0gで中和した。
【0034】
実施例3:
乳化剤3(比較):獣脂アルコール×2PO×7EO
獣脂アルコールC16C18を、実施例2と同様に、2モル当量のPOと反応させたが、ただしその後7モル当量のEOと反応させた。
【0035】
実施例4:
EN 12728による発泡性、界面活性剤2g/l、40℃:
乳化剤1 30ml
乳化剤2 20ml
乳化剤3 120ml
本発明による乳化剤2は、比較よりも低い発泡性を示す。
【0036】
実施例5:
油混和性:
乳化剤20質量%+油80質量%を2ヶ月間貯蔵した後の外観,
【表1】

【0037】
本発明による乳化剤2は、比較乳化剤に対して改善された油混和性を示す。
【0038】
実施例6:
エマルション安定性
エマルション安定性の測定を、DE 10247086に記載されたマーカー法を用いて行った:2つの600mlのガラスビーカー中で、それぞれ界面活性剤1質量%と水69質量%とを混合し、引き続き、(黄色ないし青に着色された)油30質量%を添加した。その後、プロペラ型撹拌機を用いて、15分間、約10kW/m3の出力を加えた。
【0039】
得られた黄色ないし青色に着色された油のエマルションを混合し、引き続き所定の温度(以下の表を参照のこと)で貯蔵した。周期的な間隔で、エマルションを手動で振盪し、試料を採取し、凝集により生じた緑色の液滴の割合を、顕微鏡及び電子画像解析により測定した。測定した緑色物の割合を、引き続き、貯蔵時間に対してプロットし、最小二乗法による次式によりフィットさせる:
【化1】

【0040】
フィットパラメータとして、凝集率rを用いる。最終的に、安定性係数Sは、以下から求められる:
【化2】

【0041】
油として、ヒマワリ油(25℃で56mm2/s)及びパラフィン油(25℃で30mm2/s)を使用した。
【0042】
【表2】

【0043】
本発明による乳化剤2は、パラフィン油において、乳化剤1又は3に対して改善されたか又は同等の安定性を示す。ヒマワリ油の場合、本発明による乳化剤2は、乳化剤1よりも明らかに良好である。
【0044】
実施例7:
生物学的分解性
OECD 301Bによる生物学的分解性は、本発明による乳化剤2に関して、>60% ThCO2である。
【0045】
実施例8:
OECD 202による水中毒性
EC50(ミジンコ属)=10−100mg/l
実施例は、本発明による乳化剤が、使用のために重要な幾つかの特性において、比較乳化剤よりも優れていることを示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
一般構造式:獣脂アルコール−nPO−mEOの化学化合物であって、ここで、獣脂アルコールの炭素原子の平均数は16〜18であり、ヨウ素価は、ヨウ素1g以下/前記化学化合物100gであり、アルキレンオキシド単位は本質的にブロック構造を有し、平均プロポキシ化度が1〜4であり、かつ平均エトキシ化度が2〜6である、化学化合物。
【請求項2】
アルキレンオキシド単位の80%超がブロック状に配置されており、平均プロポキシ化度が1〜3であり、かつ平均エトキシ化度が3〜5である、請求項1記載の化学化合物。
【請求項3】
アルキレンオキシド単位の80%超がブロック状に配置されており、平均プロポキシ化度が1〜2であり、かつ平均エトキシ化度が4である、請求項1又は2記載の化学化合物。
【請求項4】
POブロックが獣脂アルコールに隣接しており、これにEOブロックが続いている、請求項1から3までのいずれか1項記載の化学化合物。
【請求項5】
EOの質量割合とPOの質量割合の半分との合計が、乳化剤の全質量の35〜50%である、請求項1から4までのいずれか1項記載の化学化合物。
【請求項6】
EOの質量割合とPOの質量割合の半分との合計が、乳化剤の全質量の40〜49%である、請求項1から5までのいずれか1項記載の化学化合物。
【請求項7】
EOの質量割合とPOの質量割合の半分との合計が、乳化剤の全質量の45〜49%である、請求項1から6までのいずれか1項記載の化学化合物。
【請求項8】
請求項1から7までのいずれか1項記載の化学化合物を含有する乳化剤。
【請求項9】
以下
− 請求項1から7までのいずれか1項記載の化学化合物及び/又は請求項8記載の乳化剤、及び
− 炭化水素及び/又はエステル
を含有するエマルション濃縮物。
【請求項10】
更に、水、殺生剤、腐食防止剤、香料、農薬、薬剤、緩衝剤、粘度調整剤、不凍剤、消泡剤、染料、錯化剤、塩及び補助乳化剤からなる群から選択された1以上の添加剤を含有する、請求項9記載のエマルション濃縮物。
【請求項11】
1以上の補助乳化剤が、イオン性界面活性剤、アルコール及びヒドロトロープからなる群から選択されている、請求項10記載のエマルション濃縮物。
【請求項12】
以下
− 請求項1から7までのいずれか1項記載の化学化合物及び/又は請求項8記載の乳化剤、及び
− 炭化水素及び/又はエステル並びに水
を含有するエマルション。
【請求項13】
更に、殺生剤、腐食防止剤、香料、農薬、薬剤、緩衝剤、粘度調整剤、不凍剤、消泡剤、染料、錯化剤、塩及び補助乳化剤からなる群から選択された1以上の添加剤を含有する、請求項12記載のエマルション。
【請求項14】
1以上の補助乳化剤が、イオン性界面活性剤、アルコール及びヒドロトロープからなる群から選択されている、請求項13記載のエマルション。
【請求項15】
以下
− 金属加工及び/又は
− 農業分野及び/又は
− テキスタイル工業及び/又は
− 皮革工業及び/又は
− 被覆工業及び/又は
− 建設工業及び/又は
− プラスチック加工工業及び/又は
− タイヤ工業及び/又は
− 洗浄剤工業及び/又は
− 工業的な洗濯及び家庭内の洗濯及び/又は
− 化粧品及び/又は
− 調剤
における、請求項9から11までのいずれか1項記載のエマルション濃縮物又は請求項12から14までのいずれか1項記載のエマルションの使用。

【公表番号】特表2010−513239(P2010−513239A)
【公表日】平成22年4月30日(2010.4.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−540710(P2009−540710)
【出願日】平成19年12月3日(2007.12.3)
【国際出願番号】PCT/EP2007/063189
【国際公開番号】WO2008/071582
【国際公開日】平成20年6月19日(2008.6.19)
【出願人】(508020155)ビーエーエスエフ ソシエタス・ヨーロピア (2,842)
【氏名又は名称原語表記】BASF SE
【住所又は居所原語表記】D−67056 Ludwigshafen, Germany
【Fターム(参考)】