説明

自転車用クランクおよびその製造方法

【課題】構成部材同士を接着剤により接合して自転車用クランクを製造するに際し、接着剤を簡単にかつ精度良く良好な再現性をもって塗布でき、塗布状態や接着剤使用量のばらつきを抑え品質上のばらつきを抑えた自転車用クランクとその製造方法を提供する。
【解決手段】構成部材同士を接着剤により接合する自転車用クランクの製造方法において、接着剤の介在領域に対応させて接着剤を線状または点状に塗布する工程と、接着剤の介在領域に対応させて布帛を配置する工程と、線状または点状に塗布された接着剤を布帛中に拡げる工程と、拡げられた接着剤により構成部材同士を接合する工程と、を有する自転車用クランクの製造方法、およびその方法により製造された自転車用クランク。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自転車用クランクおよびその製造方法に関し、とくに、構成部材同士を間に介在させた接着剤により接合した自転車用クランクおよびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
自転車用クランクは、曲面部や立ち壁部を有する比較的複雑な三次元形状の部材から構成されることが多く、軽量化等のための部材の材質として繊維強化プラスチック(FRP)が使用される場合には、FRP製部材同士あるいはFRP製部材と他の材質の部材との構成部材同士を、接着剤により接合することが多い。従来、構成部材同士を接着剤により接合するに際しては、例えば、一方の部材の接合部に対して接着剤を塗布し、該一方の部材に対し他方の部材を合わせて組み立て、間に介在させた接着剤により構成部材同士を接合するようにしている。
【0003】
接着剤の塗布対象となる構成部材が、上述の如く曲面部や立ち壁部を有する比較的複雑な三次元形状を有するため、接着剤の塗布は通常人手によって行われている。人手による接着剤の塗布であるため、多かれ少なかれ、塗布状態のばらつきや接着剤使用量(塗布量)のばらつきが発生し、接合強度等の品質上のばらつきや製品重量のばらつきを生じるおそれがある。接着剤の塗布にロボットを使用することも考えられるが、実際には複雑な曲面部やアンダーカット部等への所望の塗布が難しい場合が多く、仮に塗布できるとしても、その接着ロボットが非常に高価な設備になる。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
そこで本発明の課題は、構成部材同士を接着剤により接合して自転車用クランクを製造するに際し、接着剤を所定の場所に所望の状態で簡単にかつ精度良く良好な再現性をもって塗布でき、塗布状態や接着剤使用量のばらつきの発生を抑えて、接合強度等の品質上のばらつきの発生を抑えることが可能な自転車用クランクの製造方法、およびその方法により製造された自転車用クランクを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記課題を解決するために、本発明に係る自転車用クランクの製造方法は、自転車用クランクの構成部材同士を、該構成部材間に介在する接着剤により接合する自転車用クランクの製造方法において、接着剤の介在領域に対応させて接着剤を線状または点状に塗布する工程と、接着剤の介在領域に対応させて布帛を配置する工程と、線状または点状に塗布された接着剤を布帛中に拡げる工程と、布帛中に拡げられた接着剤により構成部材同士を接合する工程と、を有することを特徴とする方法からなる。
【0006】
すなわち、本発明に係る自転車用クランクの製造方法においては、構成部材同士の接合領域(つまり、接着剤の介在領域)には布帛が配置され、接着剤はその介在領域全域に塗布されるのではなく、介在領域に対応させてまず線状または点状に塗布され、その線状または点状に塗布された接着剤が布帛中に拡げられ、必要な所定の接合領域の実質的に全域にわたって拡げられて、この布帛中に拡げられた接着剤により構成部材同士が接合される。接着剤の最初の塗布自体としては、線状または点状に塗布するだけでよいので、被塗布構成部材が曲面部や立ち壁部を有する比較的複雑な三次元形状を有するものであっても、簡単に所望の塗布を行うことが可能になる。この線状または点状に塗布された接着剤が布帛中に拡げられることで、構成部材同士の接合に必要な接着剤層が効率よく形成されることになる。ここで本発明における「接着剤が布帛中に拡げられる」とは、布帛中への浸透を含む概念であり、線状または点状に塗布された接着剤が布帛の面に沿う方向に拡げられるだけでなく、布帛の厚み方向に、例えば接着剤塗布面とは反対側の面まで染み込んでいく状態を示す概念である。したがって、布帛の片面に線状または点状に接着剤を塗布するだけでも、それを布帛中に拡げることにより、塗布面側、非塗布面側の区別なく、実質的に所定の接着剤を介在させるべき領域の全域にわたって布帛中、布帛両面にわたって接着剤が存在されることになり、このように布帛中に拡げられた接着剤により構成部材同士が確実に極めて良好に接合されることになる。つまり、接着剤は、所定の接着剤を介在させるべき領域に布帛を介して所望の状態にて簡単にかつ精度良く拡げられ、かつ、介在させる布帛として適切な種類の布帛を使用することによって、良好な再現性をもって接着剤が所望状態で介在され、その接着剤層を介して構成部材同士が良好に接合されることになる。また、布帛を介して接着剤が拡げられる領域が必要な所定の接合領域に限られるとともに、介在する布帛の厚みによって接着剤層の厚みもばらつきが抑えられた状態で規制されることになるので、接着剤使用量のばらつきも抑えられる。
【0007】
このような本発明に係る自転車用クランクの製造方法においては、上記布帛としては、例えば不織布を用いることが好ましい。使用する不織布の種類や厚み、目付等は、上記の布帛中に接着剤を拡げることが容易なもの、とくに非塗布面側まで容易にかつ確実に浸透できる性能を有するものが好ましい。
【0008】
また、線状または点状に接着剤を塗布する工程、および線状または点状に塗布された接着剤を布帛中に拡げる工程は、例えば次のように実施できる。すなわち、布帛に接着剤を線状または点状に塗布した後、接着剤が塗布された布帛を上記接着剤の介在領域に対応させて配置し、配置された布帛中で接着剤を拡げることができる。あるいは、少なくとも一方の構成部材に接着剤を線状または点状に塗布した後、接着剤が塗布された構成部材の上記接着剤の介在領域に対応させて布帛を配置し、配置された布帛中で接着剤を拡げることもできる。つまり、接着剤の線状または点状塗布は、布帛に対して行ってもよく、構成部材に対して行ってもよい。
【0009】
線状または点状に塗布された接着剤を布帛中に拡げる工程は、上記構成部材同士の所定の位置関係への組み立て動作を利用して行うことができ、該構成部材間に形成される間隙において組み立て時に加わる挟圧力を利用して線状または点状に塗布されていた接着剤を布帛中に拡げるようにすることが可能である。組み立て動作と接着剤の拡大動作が同時に行われることになるので、接合作業が簡略化され、接合時間が短縮される。
【0010】
このような本発明に係る自転車用クランクの製造方法は、少なくとも一方の構成部材がFRPで形成されている場合に好適なものである。FRP製部材には、一般的に機械的接合手段を用いることは少ないので、上記のように最適な状態の接着剤層を介在させることにより、目標とする接合強度等を満たす目標品質にて、構成部材同士が良好に接合される。
【0011】
本発明におけるクランクの構造は、構成部材同士が接着剤を介して接合されるものである限り、とくに限定されない。例えば、本発明に係る自転車用クランクの製造方法は、C形断面を有する構成部材同士を接合する工程を有するものや、中空部を備えた断面を形成する(形成するための)構成部材同士の接合工程を有するものとすることができる。後者の場合、本発明における布帛中に拡げられた接着剤により接合される構成部材に、上記中空部内に配置されるブロック状の部材を含む形態とすることもできる。ブロック状部材は、例えばアルミニウム製部材からなる。例えば、C形断面を有するFRP製構成部材同士が布帛中に拡げられた接着剤により接合され、接合された両構成部材中に中空部が形成され、その中空部内にアルミニウム製ブロック状部材が配置されて、該ブロック状部材がいずれか一方のFRP製構成部材あるいは両構成部材と、布帛中に拡げられた接着剤により接合される形態とすることができる。また、アルミニウム製部材を使用する場合には、上記のような布帛を用いることにより、該布帛で覆われたアルミニウム表面に対して電蝕防止効果を期待することも可能である。
【0012】
また、本発明に係る自転車用クランクの製造方法においては、上記布帛を、上記接着剤の介在領域の端縁に対し、該端縁の両側にわたって延びるように配置することが好ましい。このように布帛を配置すれば、線状または点状に塗布されていた接着剤が布帛中に拡げられる際、構成部材同士の接合領域(接合部)からはみ出した位置、つまり、上記接着剤の介在領域(介在させるべき領域)の端縁から少量はみ出した位置まで拡げられるようにすることが可能になる。このはみ出し位置では、接着剤は、構成部材間の間隙に拘束されず布帛の厚み方向に解放されることになり、かつ、その状態で、硬化のために加熱され粘度が低下した場合にあってもそこに存在する布帛(例えば、不織布)に保持されることになるので、上記接着剤の介在領域の端縁に沿ってビード状に延びる形態となり、その状態で硬化される。このように構成部材同士の接合部に隣接し、構成部材同士の接合領域の端縁に沿ってビード状に硬化された接着剤部分(接着ビード)は、とくに構成部材同士の接合領域において接合面に沿う方向の引っ張り剪断力(シェア)が作用する際に、剪断応力を緩和するように機能し(シェアラグ効果)、構成部材同士の接着強度、とくに引っ張り剪断耐性を向上させることになる。
【0013】
本発明に係る自転車用クランクは、接合部に介在された接着剤により構成部材同士が接合されてなる自転車用クランクであって、前記接合部に前記接着剤とともに布帛が介在されており、該接着剤が、好ましくは線状または点状に付与されていた状態から、布帛中に拡散された状態にて硬化されていることを特徴とするものからなる。
【0014】
この自転車用クランクにおいては、上記布帛は例えば不織布からなり、少なくとも一方の構成部材がFRPで形成されている。
【0015】
また、本発明に係る自転車用クランクは、例えば、C形断面を有する構成部材同士が接合されているもの、中空部を備えた断面を形成する構成部材同士が接合されているものからなる。中空部を形成する場合には、上記布帛中に拡げられた状態にて硬化されている接着剤により接合された構成部材に、中空部内に配置されたブロック状の部材が含まれる構成とすることもできる。ブロック状部材としては、例えばアルミニウム製部材を使用できる。
【0016】
また、本発明に係る自転車用クランクは、例えば、上記布帛が、接着剤の介在領域の端縁に対し、該端縁の両側にわたって延びるように配置されており、該端縁に隣接する非接合部側の布帛延在領域に、接合部からはみ出した接着剤がビード状に硬化されている構成とすることができる。ビード状に硬化された接着剤部分(接着ビード)は、前述のシェアラグ効果を発揮でき、構成部材同士の接着強度、とくに引っ張り剪断耐性を向上させることができる。
【発明の効果】
【0017】
本発明に係る自転車用クランクおよびその製造方法によれば、構成部材同士の接合部に布帛を介在させ、接着剤を線状または点状の簡略化した塗布状態から接合のための所望の塗布領域に拡げてその接着剤により構成部材同士を接合できるようにしたので、接着剤を目標とする所定の場所に所望の状態で容易にかつ精度良く良好な再現性をもって塗布でき、塗布状態や接着剤使用量のばらつきの発生を抑えて、接合強度等のばらつきや製品重量のばらつきの発生を抑えた優れた品質の自転車用クランクを提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
以下に、本発明の望ましい実施の形態について、図面を参照しながら説明する。
図1〜図5は、本発明の一実施態様に係る自転車用クランクの構造とその製造方法を示している。なお、図1〜図5は本発明の例を示したもので、とくに構成部材の形状や材質等については本実施態様に示したものには限定されない。図1において、本実施態様に係る自転車用クランク1は、構成部材として、互いに嵌合されて接合され、中空部を備えた断面を形成可能なC形断面を有する第1の外殻部材2および第2の外殻部材3と、第1の外殻部材2と第2の外殻部材3の嵌合・接合により形成される中空部内の一端側に配置され、放射状に延びる部位を有する星形の比較的複雑な三次元形状のアルミニウム製ブロック状部材からなるコア部材4と、第1の外殻部材2と第2の外殻部材3の嵌合・接合により形成される中空部内の他端側に配置され、比較的単純な厚肉板状形状のアルミニウム製ブロック状部材からなる端部コア部材5を有している。本実施態様では、第1の外殻部材2および第2の外殻部材3は、FRP製構成部材、例えば炭素繊維強化プラスチック製構成部材からなる。これら構成部材2〜5が構成部材間に介在する接着剤により接合されることによって自転車用クランク1が製造される。
【0019】
この接着剤による接合においては、本実施態様では、第1の外殻部材2と第2の外殻部材3との接合、および第1の外殻部材2とコア部材4との接合に、布帛6(例えば、不織布からなる布帛)に第1の外殻部材2とコア部材4の形状に沿って線状に接着剤7が塗布され、この接着剤7が後述の如く布帛6中に拡げられて接合に用いられる。また、第1の外殻部材2と端部コア部材5との接合には、布帛6に点状に塗布され後述の如く布帛6中に拡げられる接着剤8、布帛6に線状に塗布され後述の如く布帛6中に拡げられる接着剤9、および端部コア部材5の一面に点状に塗布され後述の如く布帛6中に拡げられる接着剤10が用いられる。布帛6には、構成部材同士の接合前に、平面状態の布帛6に対し、例えば図2に示すような形態で線状または点状に接着剤7、8、9が塗布される。コア部材4と第2の外殻部材3との接合には、コア部材4の形状に沿う形状の布帛11が使用され、この布帛11にコア部材4の形状に沿う形状に塗布され接合時に布帛11中に拡げられる接着剤12が用いられる。端部コア部材5と第2の外殻部材3との接合には、端部コア部材5に線状に塗布された接着剤13および端部コア部材5の背面側に点状に塗布された接着剤14(図4(A)に図示)が用いられ、接着剤13、14が、両構成部材5、3間に介在される布帛15中に拡げられた後、接合に供される。
【0020】
上記のような各布帛、各構成部材を用いて、構成部材同士の接合は例えば図3〜図5に示すように行われる。図3は、C形断面を有する第1の外殻部材2とコア部材4の間に、接着剤7が塗布された布帛6を介在させた状態を示している。この状態で、コア部材4をC形断面を有する第1の外殻部材2の内面側に相対的に押し込むことにより、布帛6に線状に塗布されていた接着剤7が布帛6中に拡げられ、コア部材4の外面と第1の外殻部材2の内面との間に実質的に万遍なく押し拡げられる。このとき、線状に塗布されていた接着剤7は、布帛6の面方向に拡げられるとともに、布帛6中に浸透されて接着剤の非塗布面まで拡げられるので、両部材を接合するために接着剤を介在させるべき領域の実質的に全域にわたって、かつ、布帛6の両面間にわたって、拡げられることになる。このように接合領域全域にわたって拡げられた接着剤を介して第1の外殻部材2とコア部材4が接合されるので、両部材は目標とする所望の接合強度にて良好に接合されることになる。また、この望ましい接着剤の展開は、接着剤の塗布段階では接着剤7を平面状の布帛6に線状に塗布しておくだけでよいので、塗布が容易に行われるとともに、塗布事態にそれほど精度は要求されず、接合後の状態にばらつきが生じる要因も極めて少ない。また、接着剤7が線状や点状に塗布された布帛6は、比較的複雑な三次元形状のコア部材4に対しても簡単に外形に沿わせて配置することができ、その状態で線状に塗布されていた接着剤7が布帛6中に拡げられることになるので、接着剤7の所定接合領域への展開が、例えば第1の外殻部材2とコア部材4を所定の位置関係に組み合わせるだけで、極めて容易に行われることになる。さらに、接着剤の展開領域は上記のように押し拡げ力がかかる領域、換言すれば、構成部材同士が接合されるべき接合領域に限られ、かつ、展開される接着剤の層の厚みは、構成部材同士間のクリアランスや布帛6の厚みによって規制できるから、接着剤の使用量は必要最小限に抑えることが可能であり、使用量のばらつきも極めて小さく抑えることが可能になる。
【0021】
図4は、端部コア部材5と第2の外殻部材3との接合について示している。図4(A)に示すように、端部コア部材5が、線状に接着剤13が塗布された状態および点状に接着剤10、14が塗布された状態にて、布帛15を介在さて、第2の外殻部材3のC形断面内に嵌合される。この嵌合、組み立てにより、図4(B)に示すように、線状に塗布されていた接着剤13および点状に塗布されていた接着剤14が、端部コア部材5の外面と第2の外殻部材3の内面との間で布帛15中に実質的に万遍なく押し拡げられる。このとき、上記同様に、線状、点状に塗布されていた接着剤13、14は、布帛15の面方向に拡げられるとともに、布帛15中に浸透されて布帛15の両面間にわたって拡げられるので、両部材を接合するために接着剤を介在させるべき領域の実質的に全域にわたって良好に拡げられることになる。このように接合領域全域にわたって拡げられた接着剤を介して端部コア部材5と第2の外殻部材3が接合されるので、両部材は目標とする所望の接合強度にて良好に接合されることになる。また、接合状態のばらつきや接着剤使用量のばらつきも抑えられる。
【0022】
図5は、とくに第1の外殻部材2と第2の外殻部材3とのFRP製構成部材同士の接合に関して示しており、端部コア部材5部分について示している。図5(A)に示すように、図4に示したように端部コア部材5が挿入された第2の外殻部材3に対し、線状に接着剤7が塗布された布帛6を介在させた状態で(被せられた状態で)、第1の外殻部材2が嵌合される。この嵌合過程では、第1の外殻部材2は第2の外殻部材3に対し所定の位置関係になるように徐々に図の下方に向けて押し込まれるが、このとき、図5(B)、(C)に示すように、線状に塗布されていた接着剤7が第1の外殻部材2と第2の外殻部材3の立ち壁間のクリアランス内にて布帛6の面方向に拡げられるとともに、布帛6中に浸透されて布帛6の両面間にわたって拡げられ、両部材を接合するために接着剤を介在させるべき領域の実質的に全域にわたって良好に拡げられる。このように接合領域全域にわたって拡げられた接着剤を介して第1の外殻部材2と第2の外殻部材3が接合されるので、両部材は目標とする所望の接合強度にて良好に接合されることになる。また、接合状態のばらつきや接着剤使用量のばらつきも抑えられる。同時に、布帛6に点状に塗布されていた接着剤10も、端部コア部材5と第1の外殻部材2との間に介在する布帛6部分中に拡げられ、同様に、端部コア部材5と第1の外殻部材2との良好な接合が行われる。なお、このとき、図4に示した端部コア部材5と第2の外殻部材3との接合工程において、両部材間での接着剤の展開が不十分である場合には、第1の外殻部材2の押し込み動作に伴う端部コア部材5の第2の外殻部材3側への押し付け動作により、両部材間における布帛中への接着剤の展開動作が補われる。
【0023】
上述のような工程により、接着剤を介在させるべき領域の全域にわたって、接着剤が布帛中に所望の形態で十分に拡げられることになり、布帛中に拡げられ硬化された接着剤を介して各構成部材同士が望ましい状態で接合されることになる。
【0024】
図6は、布帛が、接着剤の介在領域の端縁に対し、該端縁の両側にわたって延びるように配置されており、該端縁に隣接する非接合部側の布帛延在領域に、接合部からはみ出した接着剤がビード状に硬化されている構成を、第1の外殻部材2と第2の外殻部材3との接合部について例示している。すなわち、図6(A)に示すように、線状または点状に接着剤7が塗布された布帛6が第1の外殻部材2と第2の外殻部材3との間に配置され、図6(B)に示すように、第1の外殻部材2を第2の外殻部材3の嵌合させていく際に、接着剤7が布帛6中に拡げられていくとともに、一部の接着剤7が接合部からはみ出し、はみ出した接着剤7はその部分に存在する布帛6部分に保持されることになるので、嵌合が終了した時点でも、図6(C)、(D)に示すように、接合部端縁から非接合部側の布帛延在領域にはみ出した接着剤がビード状の接着剤はみ出し部21として残り、このビード状の接着剤はみ出し部21がそのまま硬化されることになる。このビード状に硬化された接着剤部分21(接着ビード)は、次のようなシェアラグ効果を発揮することになり、それによって、構成部材同士の接着強度、とくに引っ張り剪断耐性を向上させることが可能になる。
【0025】
このシェアラグ効果について、図7〜図9に示した模式図を参照して説明する。とくに加熱硬化型の接着剤の場合、例えば図7に示すように、温度Tを所定の硬化温度に加熱する時に一旦粘度ρの低下が起こり、最低粘度ρminを経て再び粘度が上昇する挙動を示す。このような粘度の低下が生じたときには、被接合部材同士の接合部の端部(つまり、接着剤が介在されるべき領域から、接着剤が解放される部位)では、粘度の低下した接着剤の流出が生じ、その部位では接着剤は保持されない。しかしこの部位に布帛が存在することにより、粘度が低下し流出しようとしていた接着剤は布帛に保持されて、上述のような接着ビードを形成することになる。
【0026】
図8と図9は、このような接着ビードが無い場合と有る場合とについて、引っ張り剪断応力τの状態を例示したものである。図8に示すように、モデル的に示した被接合部材31と被接合部材32との間に介在される接着剤層33に、接合領域からのはみ出しがなく上記のような接着ビードが無い場合には、矢印で示す方向に引っ張り剪断力を加えた際、接合領域には図示のような引っ張り剪断応力τの分布が生じ、接合領域の端部で最大引っ張り剪断応力τmaxとなる。したがって、この部分が、剪断に対する接合強度の律則となる。これに対し、図9に示すように、接合領域の端部に、上記のように布帛で保持されそのまま硬化された接着ビード34(接着剤はみ出し部)が形成されていると、この接着ビード34部分および接合領域端部での最大引っ張り剪断応力が上記τmaxよりも低下するように緩和される。これを本願ではシェアラグ効果と呼んでいる。このようなシェアラグ効果を発現させることにより、結果的に両被接合部材31、32の接合強度が増大されることになり、とくに引っ張り剪断耐性を向上させることができる。本発明においては、前述の如く、布帛によりこのようなシェアラグ効果を発現させることが可能な接着ビードを容易に形成することができ、高い引っ張り剪断耐性を実現できる。
【産業上の利用可能性】
【0027】
本発明に係る自転車用クランクおよびその製造方法は、構成部材同士の接着剤による接合が要求されるあらゆる自転車用クランクに適用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】本発明の一実施態様に係る自転車用クランクの製造方法を示す分解斜視図である。
【図2】図1の製造方法に用いる接着剤を塗布した布帛の平面図である。
【図3】図2の布帛を用いて構成部材同士を接合する際の一状態を示す斜視図である。
【図4】図1の製造方法における端部コア部材部分の接合の過程を示す、互いに異なる方向から見た部分断面図である。
【図5】図1の製造方法における外殻部材同士の接合の過程を、端部コア部材部分について示した、互いに異なる方向から見た部分断面図である。
【図6】(A)〜(C)は外殻部材同士の接合において布帛中への接着剤のはみ出し部が有る場合の接合の過程を示す概略断面図であり、(D)は(C)のD部の拡大部分断面図である。
【図7】接着剤の加熱時の粘度低下の一例を示す特性図である。
【図8】接着剤のはみ出し部が無い場合の接合部における剪断応力分布の一例を示す説明図である。
【図9】接着剤のはみ出し部が有る場合の接合部における剪断応力分布の一例を示す説明図である。
【符号の説明】
【0029】
1 自転車用クランク
2 第1の外殻部材
3 第2の外殻部材
4 コア部材
5 端部コア部材
6、11、15 布帛
7、8、9、10、12、13、14 接着剤
21 接着剤はみ出し部
31、32 被接合部材
33 接着剤層
34 接着ビード(接着剤はみ出し部)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
自転車用クランクの構成部材同士を、該構成部材間に介在する接着剤により接合する自転車用クランクの製造方法において、
接着剤の介在領域に対応させて接着剤を線状または点状に塗布する工程と、
接着剤の介在領域に対応させて布帛を配置する工程と、
線状または点状に塗布された接着剤を布帛中に拡げる工程と、
布帛中に拡げられた接着剤により構成部材同士を接合する工程と、
を有することを特徴とする自転車用クランクの製造方法。
【請求項2】
前記布帛として不織布を用いる、請求項1に記載の自転車用クランクの製造方法。
【請求項3】
前記布帛に接着剤を線状または点状に塗布した後、接着剤が塗布された布帛を前記接着剤の介在領域に対応させて配置する、請求項1または2に記載の自転車用クランクの製造方法。
【請求項4】
少なくとも一方の構成部材に接着剤を線状または点状に塗布した後、接着剤が塗布された構成部材の前記接着剤の介在領域に対応させて布帛を配置する、請求項1または2に記載の自転車用クランクの製造方法。
【請求項5】
前記構成部材同士の所定の位置関係への組み立て動作を利用して、該構成部材間に形成される間隙において前記線状または点状に塗布された接着剤を布帛中に拡げる、請求項1〜4のいずれかに記載の自転車用クランクの製造方法。
【請求項6】
少なくとも一方の構成部材がFRPで形成されている、請求項1〜5のいずれかに記載の自転車用クランクの製造方法。
【請求項7】
C形断面を有する構成部材同士を接合する工程を有する、請求項1〜6のいずれかに記載の自転車用クランクの製造方法。
【請求項8】
中空部を備えた断面を形成する構成部材同士の接合工程を有する、請求項1〜7のいずれかに記載の自転車用クランクの製造方法。
【請求項9】
前記布帛中に拡げられた接着剤により接合される構成部材に、前記中空部内に配置されるブロック状の部材を含む、請求項8に記載の自転車用クランクの製造方法。
【請求項10】
前記ブロック状部材がアルミニウム製部材からなる、請求項9に記載の自転車用クランクの製造方法。
【請求項11】
前記布帛を、前記接着剤の介在領域の端縁に対し、該端縁の両側にわたって延びるように配置する、請求項1〜10のいずれかに記載の自転車用クランクの製造方法。
【請求項12】
接合部に介在された接着剤により構成部材同士が接合されてなる自転車用クランクであって、前記接合部に前記接着剤とともに布帛が介在されており、該接着剤が、布帛中に拡散された状態にて硬化されていることを特徴とする自転車用クランク。
【請求項13】
前記布帛が不織布からなる、請求項12に記載の自転車用クランク。
【請求項14】
少なくとも一方の構成部材がFRPで形成されている、請求項12または13に記載の自転車用クランク。
【請求項15】
C形断面を有する構成部材同士が接合されている、請求項12〜14のいずれかに記載の自転車用クランク。
【請求項16】
中空部を備えた断面を形成する構成部材同士が接合されている、請求項12〜15のいずれかに記載の自転車用クランク。
【請求項17】
前記布帛中に拡げられた状態にて硬化されている接着剤により接合された構成部材に、前記中空部内に配置されたブロック状の部材が含まれる、請求項16に記載の自転車用クランク。
【請求項18】
前記ブロック状部材がアルミニウム製部材からなる、請求項17に記載の自転車用クランク。
【請求項19】
前記布帛が、前記接着剤の介在領域の端縁に対し、該端縁の両側にわたって延びるように配置されており、該端縁に隣接する非接合部側の布帛延在領域に、接合部からはみ出した接着剤がビード状に硬化されている、請求項12〜18のいずれかに記載の自転車用クランク。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2009−160965(P2009−160965A)
【公開日】平成21年7月23日(2009.7.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−339430(P2007−339430)
【出願日】平成19年12月28日(2007.12.28)
【出願人】(000003159)東レ株式会社 (7,677)
【出願人】(000002439)株式会社シマノ (1,038)
【Fターム(参考)】