説明

航空機の前縁構造及びそれの製造方法

【課題】エネルギを消費することなく、航空機の前縁部における防氷及び除氷を実現する。
【解決手段】繊維強化複合材料における少なくとも繊維に、撥水性材料を含浸する工程(P1)と、繊維強化複合材料を順次積層すると共に、少なくともその最表面の層を撥水性材料を含浸させた繊維強化複合材料によって形成することにより、前縁部の形状を有する積層体を作成する工程(P2)と、前縁部形状の積層体を硬化させる工程(P3)と、を含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、航空機の前縁構造及びそれの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
航空機の飛行中において、例えば主翼等の前縁部には過冷却水の衝突により氷が付着することがある。その付着した氷が成長した場合は、空気抵抗の増加や、揚力減少等を招くことから、その対策として、加熱空気式や電熱式等の防氷及び除氷装置を備えることが従来から知られている(例えば特許文献1,2参照)。
【特許文献1】特開平9−71298号公報
【特許文献2】特開2004−25925号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかしながら、例えば加熱空気式の防氷及び除氷装置は、エンジン抽気を利用することから燃費の悪化を招くと共に、例えば電熱式等の防氷及び除氷装置もまた、電力消費に伴い燃費の悪化を招くという問題があった。
【0004】
本発明は、かかる点に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、エネルギを消費することなく、航空機の前縁部における防氷及び除氷を実現することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明の一側面によると、航空機の前縁部を製造する方法は、繊維強化複合材料における少なくとも繊維に、撥水性材料を含浸する工程と、繊維強化複合材料を順次積層すると共に、少なくともその最表面の層を前記撥水性材料を含浸させた繊維強化複合材料によって形成することにより、前記前縁部の形状を有する積層体を作成する工程と、前記前縁部形状の積層体を硬化させる工程と、を含む。
【0006】
この構成によると、前縁部を構成する繊維強化複合材料における少なくとも繊維には、予め撥水性材料を含浸されており、そのため、その撥水性材料を含浸させた繊維強化複合材料を少なくとも最表面に積層させた積層体、ひいてはその積層体を硬化させて製造された前縁部は、その表面に撥水性を有することになる。
【0007】
それによって、その前縁部を有する航空機が飛行中に、過冷却水が前縁部におけるよどみ点に衝突しても氷の付着が抑制される。また、仮に氷が表面に付着してそれが多少成長したとても、その氷と表面との接着力は極めて弱いため、例えば翼の変位や気流の変化によってよどみ点の位置が変化することに伴い、氷は表面から容易に脱落する。尚、よどみ点以外の箇所においても、過冷却水はその表面に付着せずに後方に流れていくため、着氷は発生しない。
【0008】
ここで、例えば撥水性材料を前縁部の表面にコーティングした場合は、そのコーティングの剥がれ等の問題が生じ得るが、本構成では繊維強化複合材の少なくとも繊維に撥水性材料を含浸させている、換言すれば、前縁部を構成する材料自体が撥水性を有しているため、そうした剥がれ等の問題が生じない。
【発明の効果】
【0009】
以上説明したように、本発明によると、前縁部を構成する繊維強化複合材料の少なくとも繊維に予め撥水性材料を含浸させ、その撥水性材料が含浸された繊維強化複合材料によって、前縁部の表面を構成することにより、その表面に撥水性を付与することができる。それによって、前縁部の防氷及び除氷を行うことができる。また、前縁部を構成する材料自体に撥水性を持たせているため、撥水性材料を前縁部にコーティングした場合に生じ得るコーティングの剥がれ等の問題を未然に回避することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて説明する。尚、以下の好ましい実施形態の説明は、本質的に例示に過ぎず、本発明、その適用物或いはその用途を制限することを意図するものではない。
【0011】
図1は、本発明に係る航空機の前縁構造が適用された主翼の前縁部分を示しており、この前縁部1は、例えばカーボン繊維強化複合材料によって形成されている。尚、図1では理解容易のために、複合材料の層の厚みを誇張して描いている。
【0012】
尚、前記主翼は、桁等を含めその全ての部位を繊維強化複合材料によって形成してもよいし、少なくとも前縁部1を繊維強化複合材料によって形成するのであれば、他の部位は繊維強化複合材料以外の材料、例えば金属材料等によって形成してもよい。また、主翼の翼型等については何ら制限がない。
【0013】
図2は、前記前縁部1の断面を拡大して示す図であり、この前縁部1は、樹脂材の内部に多数のカーボン繊維(例えばカーボンクロス等)31,32が積層されていると共に、カーボン繊維31,32はその層毎に所定の方向に配向されている。
【0014】
そして本実施形態においては特に、前記前縁部1の表面11が撥水性を有しており、それによって、前縁部1への着氷や氷の成長が防止されるようになっている。
【0015】
次に、前縁部1の製造方法について、図3を参照しながら説明する。先ず、複数のカーボン繊維を用意し、そのうちのいくつかについては、撥水性材料を含浸させる(図3のP1参照)。ここで、撥水性材料は特に限定されるものではないが、例えばフッ素化カーボン等とすることが可能である。
【0016】
次に、前縁部1の形状を有する所定の型に対して、例えばハンドレイアップ法等によって、カーボン繊維を順次積層していく(図3のP2参照)。そうして、前縁部1の形状を有する積層体を成形する。また、その積層体の少なくとも最表面の層は、前記撥水性材料を含浸させたカーボン繊維によって形成しておく。ここで、撥水性材料含浸のカーボン繊維の層としては、最表面の一層のみでもよいし、最表面の一層を含む複数の層としてもよい。尚、図2において、符号31が撥水性材料含浸のカーボン繊維であり、符号32が撥水性材料未含浸のカーボン繊維であり、撥水性材料含浸のカーボン繊維31は、表面の2層を形成する。
【0017】
そうして、樹脂未含浸の、前縁部1形状を有する積層体が完成すれば、それに樹脂を含浸させる。ここで、樹脂には撥水性材料を含有させておくことが望ましい。
【0018】
このようにしてカーボン繊維強化複合材料により、前縁部1が成形されれば、その樹脂を硬化させることによって、前縁部1が完成する(図3のP3参照)。
【0019】
このようにして製造された前縁部1は、その少なくとも最表面が、撥水性材料含浸のカーボン繊維及び撥水性材料含有の樹脂によって形成されている。このため、前縁部1の表面11は撥水性を有している。
【0020】
これによって、この主翼前縁部1を有する航空機が飛行している最中に、その前縁部1に過冷却水が衝突しても氷が付着することが抑制される。また、仮に氷が付着してそれが成長したとしても、氷と前縁部1の表面11との接着力は極めて弱いため、主翼の変位や気流の変化によって氷は容易に剥がれる。そうして、防氷及び除氷効果が得られる。
【0021】
またこの構成では、前縁部1の表面11が撥水性を有していることによって防氷及び除氷効果が得られるため、例えばエンジン抽気の利用や電力の消費がなく、それによって燃費の悪化を抑制することができる。
【0022】
さらにこの構成では、前縁部1を構成するための複合材料自体が撥水性を有しているため、例えば前縁部1の表面11に撥水性材料をコーティングする場合とは異なり、そうしたコーティングが剥がれてしまうという問題がなく、航空機の前縁構造として適している。
【0023】
尚、前記実施形態における繊維強化複合材料による前縁部1の成形は一例であり、公知の種々の方法を採用することが可能である。例えば、カーボン繊維に予め樹脂を含浸させてプリプレグとし、そのプリプレグを積層すると共に樹脂を硬化させることによって、前縁部1を製造してもよい。その場合も積層体の少なくとも最表面の層は、撥水性材料が含浸されたカーボン繊維及び樹脂を含むプリプレグによって形成すればよい。
【0024】
また、本発明は、主翼の前縁部1に適用することに限らず、航空機において従来より防氷乃至除氷システムが適用されている箇所に広く適用することが可能である。
【産業上の利用可能性】
【0025】
以上説明したように、本発明は、航空機の前縁部1の表面を撥水性を有する材料によって構成することにより、エネルギを消費することなく防氷及び除氷を行うことができるから、航空機の前縁構造及びそれの製造方法として有用である。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】主翼の前縁部1を示す断面図である。
【図2】前縁部1の一部を拡大して示す拡大断面図である。
【図3】前縁部1の製造手順を示すフローチャートである。
【符号の説明】
【0027】
1 前縁部
11 表面
31,32 カーボン繊維

【特許請求の範囲】
【請求項1】
航空機の前縁部を製造する方法であって、
繊維強化複合材料における少なくとも繊維に、撥水性材料を含浸する工程と、
繊維強化複合材料を順次積層すると共に、少なくともその最表面の層を前記撥水性材料を含浸させた繊維強化複合材料によって形成することにより、前記前縁部の形状を有する積層体を作成する工程と、
前記前縁部形状の積層体を硬化させる工程と、を含む製造方法。
【請求項2】
請求項1に記載の製造方法により製造された前縁部を含み、それによって、その表面が撥水性を有している航空機の前縁構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2008−137445(P2008−137445A)
【公開日】平成20年6月19日(2008.6.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−324259(P2006−324259)
【出願日】平成18年11月30日(2006.11.30)
【出願人】(000002358)新明和工業株式会社 (919)
【Fターム(参考)】