説明

航空機用内燃機関の故障診断方法

【課題】航空機用エンジンの制御システムの故障診断については、安全性の観点からより高い精度の故障診断が要求されている。
【解決手段】3つ以上のセンサおよび制御システムを備える航空機の内燃機関において、3つ以上のセンサの出力値について2つのセンサの組ごとの相関関係を判定するステップと、相関関係の結果に基づいて、センサのいずれかが異常であるかを判定するステップと、異常と判定されたセンサの数が所定値より多い場合は制御システムが故障していると判定し、異常と判定されたセンサの数が所定値より少ない場合にはセンサのいずれかが故障していると判定するステップと、を含む故障診断方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
航空機用内燃機関の故障診断方法に関する。
【背景技術】
【0002】
エンジンについての制御システムには、エンジンの動作を制御するシステム、冷却系システム、潤滑システムおよび排気システムなどが挙げられる。これらのエンジンの制御システムには多数のセンサが使用されており、該センサ情報に基づき、センサおよびこれらのエンジンの制御システムの故障かどうかの診断が行われている。
【0003】
例えば特許文献1においては、油圧レギュレータ下流の潤滑油供給通路に設けられた油圧センサからの油圧情報に基づき、潤滑系統の異常を判断する制御装置が開示されている。また特許文献2においては、水温センサからの情報と基準値とを比較してサーモスタット故障(冷却系システム)または水温センサ故障を判断する異常検出装置が開示されている。
【特許文献1】特公平7-84843公報
【特許文献2】特開平11-173149公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1および引用文献2では、故障の判断を1つのセンサの情報に基づいて行っており、誤判断されるおそれがある。航空機用エンジンの制御システムの故障診断については、安全性の観点からより高い精度の故障診断が要求される。したがって、良好な精度で故障診断できる手法が望まれている。
【課題を解決するための手段】
【0005】
この発明の一形態によると、3つ以上のセンサおよび制御システムを備える航空機の内燃機関において、3つ以上のセンサの出力値について2つのセンサの組ごとの相関関係を判定し、相関関係の結果に基づいて、センサのいずれかが異常であるかを判定し、異常と判定されたセンサの数が所定値より多い場合は制御システムが故障していると判定する。異常と判定されたセンサの数が所定値より少ない場合にはセンサのいずれかが故障していると判定する。
【0006】
この形態によると、相関関係に基づいてセンサの故障を判定するため、より良好な精度で故障診断をすることができる。また、冷却系システムの故障であるか、センサの故障であるかの故障判定を行うことができるという利点が得られる。
【0007】
この発明の一実施形態によると、センサの出力値の異常の数が1つの場合には、センサが故障していると判定する。
【0008】
この発明のもう一つの形態によると、3つ以上のセンサおよび制御システムを備える航空機の内燃機関において、3つ以上のセンサの出力値がセンサごとに予め定められた範囲に入るかをそれぞれ判定し、比較の結果、出力値が予め定められた範囲に入らないセンサが複数ある場合はシステムが故障していると判定する。予め定められた範囲に入らないセンサが1つの場合にはセンサが故障していると判定する。
【0009】
この形態によると、各センサが取りうる値に基づいてセンサの故障を判定するため、より良好な精度で故障診断をすることができる。また、冷却系システムの故障であるか、センサの故障であるかの故障診断判断を行うことができるという利点が得られる。
【0010】
この発明の一実施形態によると、内燃機関の制御システムは、冷却系システムおよび潤滑系システムの少なくとも一方である。
【0011】
この発明の一実施形態によると、制御システムが冷却系システムである場合に、3つ以上のセンサが、内燃機関の水温センサ、冷却水タンクのタンク圧センサおよびオイルクーラのオイル温度センサである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
次に図面を参照して、本発明に係る各実施形態について説明する。第2実施形態以降では第1実施形態と異なる構成のみを説明し、同一の構成については同一の符号を付し説明を簡略または省略する。
【0013】
(第1実施形態)
図1は本発明の第1実施形態係る内燃機関(以下、エンジンと呼ぶ)2の制御システムである冷却系システムの故障診断システム1の全体的な構成図である。本実施形態の故障診断システム1は、エンジンおよび冷却系システムに取り付けたセンサの出力値の相関関係に基づいて冷却系システムおよびセンサの故障を診断するものである。
【0014】
冷却系システムは、エンジン2の運転温度を適正な範囲に保つために、ラジエータ3、サーモスタット4、ウォータポンプ6、冷却水タンク7等から構成される水冷式の冷却系システムである。冷却系システムは、ウォータポンプ6で冷却水を循環し、冷却水が高温状態になるとサーモスタット4で冷却水をラジエータ3に送り冷却水の水温を下げ、再び内燃機関の冷却に用いる。
【0015】
電子制御ユニット(以下、「ECU」)という)9は、中央演算処理装置(CPU)と、読み取り専用メモリ(ROM)およびランダムアクセスメモリ(RAM)を有するメモリを備えるコンピュータである。ROMには、航空機の様々な制御を実現するためのコンピュータ・プログラムおよび該プログラムの実施に必要なデータ(マップを含む)を格納することができる。ROMには、EPROMのような不揮発性メモリが含まれる。RAMには、CPUによる演算のための作業領域が設けられる。ECU9は、航空機の各部から信号を受取ると共に、該メモリに記憶されたデータおよびプログラムに従って演算を行い、航空機の各部を制御するための制御信号を生成する。
【0016】
サーモスタット4には水温(Tw)センサ5が設けられており、サーモスタット4内の冷却水の水温を検出する。また冷却水タンク7にはタンク圧(Pw)センサ8が設けられており、冷却水タンク内の圧力を検出する。さらに潤滑系システムに備えられたオイルクーラ(図示せず)には油温(Toc)センサが設けられており、オイルクーラ内のエンジンオイルの油温を検出する。これらのセンサの出力値は、ECU9に送られる。
【0017】
ECU9は、上記各種センサからの入力信号に応じて、メモリに記憶されたプログラムおよびデータ(マップを含む)に従い、冷却系システムの故障を診断し、診断結果をモニタ10に表示する。
【0018】
図2は、本実施形態の冷却系システムの故障診断システム1のECU9の機能ブロック図である。各機能ブロックによる処理は、所定の制御周期で実行される。例えば、各気筒の吸入行程開始時の上死点でカム角センサ(図示せず)が発生するパルス(TDC信号)に基づいて実行してもよい。
【0019】
相関関係判定部21は、運転時の各センサの出力値に基づいて相関関係の崩れを判定する。まず運転時の各センサの出力値を検出し、該センサのうちの所定のセンサの出力値を他の残りのセンサの出力値を用いて推定し、所定のセンサの推定値をそれぞれ求める。この所定のセンサの出力値および該センサの推定値の2つの組ごとの差を求め、この差をそれぞれ所定値と比較して、運転時の各センサ間の相関関係が崩れているかを判定する。
【0020】
本実施形態に基づいて説明すると、相関関係判定部21では、まずエンジン2の運転時に前述のTwセンサ5、Pwセンサ8およびTocセンサの出力値をそれぞれ取得する。次に、Pwセンサ8の出力値からTwセンサの推定値TwPwを、Tocセンサの出力値からTwセンサの推定値TwTocをそれぞれ求める。これにより次式に示すように、Twセンサ5の出力値TwおよびTwセンサの推定値TwPw,TwTocのそれぞれ2つの組ごとに差を求め、所定値の範囲にあるかどうかを判定する。
【0021】
|Tw−TwPw|<10℃
|Tw−TwToc|<10℃ (1)
|TwPw−TwToc|<10℃
ここで、式(1)では所定値を10℃とするが、該所定値はこれに限定されず、またそれぞれに異なる値を設定してもよい。
【0022】
センサ異常判定部22は、相関関係判定部21の判定結果からTwセンサ5、Pwセンサ8およびTocセンサのいずれが異常であるかを判定する。
【0023】
故障判定部23は、センサ異常判定部22で異常と判定されたセンサの数が所定値より多い場合には冷却系システムの故障と判定し、異常と判定されたセンサの数が所定値より少ない場合には前述のセンサのいずれかが故障していると判定する。
【0024】
この形態によると、相関関係に基づいてセンサの故障を判定するため、より良好な精度で故障診断をすることができる。また、冷却系システムの故障であるか、センサの故障であるかの故障判定を行うことができる。
【0025】
なお本実施形態では3つのセンサを用いたがこれに限定されず、3つ以上のセンサを用いてもよい。またPwセンサ8を用いたが、例えばタンク内の冷却水の水温を検出する水温センサおよびタンク内の冷却水の水面高を検出する水面レベルセンサなどを用いてもよい。
【0026】
次に図3を参照して、本実施形態の冷却系システムの故障診断フローを説明する。該フローに示されるプロセスは、ECU9により実行され、より具体的には、図2に示される機能ブロックによって実現される。該フローの制御周期は、前述の通り例えばTDC信号に同期する。
【0027】
ステップS31において、相関関係の崩れの判定を行うプロセスを実行する。図4は、エンジンの運転時のTocセンサの出力41、Twセンサ5の出力42、Pwセンサ8の出力43をそれぞれ縦軸に示し、時間を横軸に示した図である。図4(a)は、エンジン2が正常運転している際の各センサの出力を示す図である。図4(a)に基づいて、Twの推定値の関数TwPw=f1(Pw)、TwToc=f2(Toc)をそれぞれ求める。ここで、PwはPwセンサ8の出力値であり、TocはTocセンサの出力値である。
【0028】
運転時の各センサの出力値をそれぞれ求め、前述の関数を用いてTwの推定値TwPw、TwTocを算出し、前述の式(1)を用いて各センサの出力値の2つの組ごとに運転時の相関関係の崩れをそれぞれ判定する。
【0029】
ステップ32において、ステップ31の判定の結果に相関関係の崩れがない場合は冷却系システムが正常であると判定する(ステップ33)。例えば運転時の各センサの出力が図4(a)である場合は、Tocセンサ出力41とTwセンサ出力42の相関関係(以下、41−42相関関係と示し、相関関係については同様の形式で示す)は、|Tw−TwToc|が10℃の範囲に入るので崩れていないと判定される。また、41−43相関関係は|TwPw−TwToc|が10℃の範囲に入るので崩れていないと、42−43相関関係は|Tw−TwPw|が10℃の範囲に入るので崩れていないとそれぞれ判定される。これより、それぞれ相関関係は崩れていないので、冷却系システムが正常であると判定し故障診断を終了する。一方ステップ32においてステップ31の判定の結果に相関関係の崩れがある場合には、次のステップでセンサの異常を判定する(ステップ34)。
【0030】
ステップ34では、ステップ31の相関関係の判定結果に基づいて異常と判定されたセンサの数を判定する。例えば、図4(b)の場合には、ライン44以降で、41−42相関関係は|Tw−TwToc|が10℃の範囲を外れるので崩れていると、41−43相関関係は|TwPw−TwToc|が10℃の範囲を外れるので崩れているとそれぞれ判定される。これより、41−42相関関係、41−42相関関係はそれぞれ崩れており、42−43相関関係は崩れていないので、1つのセンサ(Tocセンサ)が異常であることがわかる。
【0031】
また、例えば図4(c)の場合には、ライン44以降で、41−42相関関係は|Tw−TwToc|が10℃の範囲を外れるので崩れていると、42−43相関関係は|Tw−TwPw|が10℃の範囲を外れるので崩れているとそれぞれ判定される。これより、41−42相関関係、42−43相関関係はそれぞれ崩れており、41−43相関関係は崩れていないので、1つのセンサ(Twセンサ)が異常であることがわかる。
【0032】
さらに、例えば図4(d)の場合には、ライン44以降で、41−42相関関係は|Tw−TwToc|が10℃の範囲を外れるので崩れていると、41−43相関関係は|TwPw−TwToc|が10℃の範囲を外れるので崩れていると、42−43相関関係は|Tw−TwPw|が10℃の範囲を外れるので崩れていると、それぞれ判定される。これより、全ての相関関係が崩れているので、2以上のセンサが異常であることがわかる。
【0033】
ステップ35では、ステップ34の異常センサの数を所定値と比較する。本実施形態では所定値を2とする。所定値は、故障診断に用いるセンサの数に応じて適当な値とすることができる。図4(d)のように異常センサの数が2以上の場合には冷却系システムが故障していると判定し(ステップ36)、故障診断を終了する。図4(b)および(c)のように異常センサの数が2より少ない場合には、センサ類が故障していると判定し(ステップ39)、故障診断を終了する。
【0034】
好ましくはステップ37をおこなってもよく、異常センサが1つの場合には該センサが故障していると特定し(ステップ38)、故障診断を終了する。図4(b)の場合はTocセンサが故障していること、図4(c)の場合にはTwセンサが故障しているであることがそれぞれ特定される。
【0035】
(第2実施形態)
図5は、本発明の第2実施形態に係る冷却系システムの故障診断システム1のECU9の機能ブロック図で示される。本実施形態の故障診断システム1は、エンジンおよび冷却系システムに取り付けたセンサの出力値を所定値と比較することにより、冷却系システムおよびセンサの故障を診断するものである。なお冷却系システムの故障診断システム1は、前述した図1に示す通りであるので説明を省略する。
【0036】
センサ値判定部51は、センサの出力値が該センサごとに事前に定められた所定の範囲に入るかを判定し、該所定の範囲を超えたセンサは異常であると判定する。例えば該所定の範囲は、各センサの取りうる値として、エンジン2が正常運転している場合の各センサの出力の最小値と最大値の幅とする。
【0037】
故障判定部52は、センサ値判定部51で異常と判定されたセンサの数が2以上の場合には冷却系システムの故障と判定し、異常と判定されたセンサの数が1つの場合には該センサが故障していると判定する。
【0038】
この形態によると、各センサが取りうる値に基づいてセンサの故障を判定するため、より良好な精度で故障診断をすることができる。また、冷却系システムの故障であるか、センサの故障であるかの故障診断判断を行うことができる。なお第1実施形態と同様に、他のセンサを用いてこれを行ってもよい。
【0039】
次に図6を参照して、本実施形態の冷却系システムの故障診断フローを説明する。
【0040】
ステップS61において、各センサ値が所定の範囲に入るかを判定するプロセスを実行する。図7は、図4と同様に、エンジンの運転時のTocセンサの出力41、Twセンサ5の出力42、Pwセンサ8の出力43をそれぞれ縦軸に示し、時間を横軸に示した図である。図7(a)は、エンジン2が正常運転している際の各センサの出力を示す図である。この図によると、所定の範囲は、Tocセンサの出力の最小値と最大値の幅46、Twセンサの出力の最小値と最大値の幅45、Pwセンサの出力の最小値と最大値の幅47である。
【0041】
ステップ62において、ステップ61で異常と判定されたセンサがない場合は冷却系システムが正常であると判定する(ステップ63)。例えば、運転時の各センサの出力が図7(a)である場合は、Tocセンサ出力41、Twセンサ出力42およびPwセンサ出力43が所定の範囲内にあるため、冷却系システムが正常であると判定し故障診断を終了する。一方ステップ62においてステップ61で異常と判定されたセンサがある場合には、次のステップへ進む(ステップ64)。
【0042】
ステップ64で異常と判定されたセンサが1つの場合は、該センサが故障していると特定し(ステップ65)、故障診断を終了する。例えば、運転時の各センサの出力が図7(b)である場合は、ライン44以降で、Tocセンサ出力41が所定の範囲を外れTocセンサが異常であると判定され、Tocセンサが故障していると特定される。一方ステップ64で異常と判定されたセンサが1つではない場合には、冷却系システムが故障していると判定し(ステップ66)、故障診断を終了する。例えば運転時の各センサの出力が図7(c)である場合は、ライン44以降で、Tocセンサ出力41、Twセンサ出力42およびPwセンサ出力43がそれぞれ所定の範囲を外れ、3つのセンサ(Tocセンサ、Twセンサ、Pwセンサ)が異常であると判定されるので、冷却系システムが故障していると判定される(ステップ66)。
【0043】
(第3実施形態)
図8は、本発明の第3実施形態に係るエンジン2の制御システムである潤滑系システムの故障診断システム1の全体的な構成図である。本実施形態の故障診断システム1は、エンジンおよび潤滑系システムに取り付けたセンサの出力値と油圧設定情報の相関関係に基づいて、潤滑系システムおよびセンサの故障を診断するものである。
【0044】
潤滑系システムは、オイルパン81、オイルポンプ83、レギュレータ84およびチェックバルブ88、オイルクーラ85,オイルフィルタ86、差圧センサ87等から構成される。潤滑系システムは、オイルパン81のエンジンオイルがオイルポンプ83によって吸い上げられ、オイルクーラ85で冷却され、オイルフィルタ86でろ過され、エンジン2の各部分に送られ、オイルパン81に戻るという循環を繰り返す。レギュレータ84はEUC9から送られるレギュレータ設定圧情報(Preg)に基づきエンジンオイルの圧力を制御する。
【0045】
オイルポンプ83には油圧(Pop)センサ82が設けられており、オイルポンプ83の吐出圧力を検出する。またオイルフィルタ86には差圧(dPo)センサ87が設けられており、オイルフィルタ86への入力時と出力時のエンジンオイルの差圧を検出する。これらのセンサの出力値は、ECU9に送られる。
【0046】
本実施形態の潤滑系システムの故障診断システム1のECU9の機能ブロック図は、図2で示される。相関関係判定部21は、運転時の各センサの出力値およびPregの値に基づいて相関関係の崩れを判定する。まず運転時の各センサの出力値を検出し、該センサのうちの所定のセンサの出力値を他の残りのセンサの出力値およびPregの値を用いて推定し、所定のセンサの推定値をそれぞれ求める。この所定のセンサの出力値および該センサの推定値の2つの組ごとの差を求め、この差をそれぞれ所定値と比較して、運転時の各センサ間の相関関係が崩れているかを判定する。
【0047】
本実施形態に基づいて説明すると、相関関係判定部21では、まずエンジン2の運転時に前述のPopセンサ82およびdPoセンサ87の出力値をそれぞれ取得する。次に、dPoセンサ87の出力値からPopセンサの推定値PopdPoを、Pregの値からPopセンサの推定値PopPregをそれぞれ求める。これにより次式に示すように、Popセンサ82の出力値PopおよびPopセンサの推定値PopdPo,PopPregのそれぞれ2つの組ごとに差を求め、所定値の範囲にあるかどうかを判定する。
【0048】
|Pop−PopdPo|<100KPa
|Pop−PopPreg|<100KPa (2)
|PopdPo−PopPreg|<100KPa
ここで式(2)では、所定値を100KPaとするが、該所定値はこれに限定されず、またそれぞれに異なる値を設定してもよい。
【0049】
センサ異常判定部22は、相関関係判定部21の判定結果からPopセンサ82およびdPoセンサ87のいずれかが異常であるかを判定する。
【0050】
故障判定部23は、センサ異常判定部22で異常と判定されたセンサの数が所定値より多い場合には潤滑系システムの故障と判定し、異常と判定されたセンサの数が所定値より少ない場合には前述のセンサのいずれかが故障していると判定する。
【0051】
本実施形態によると、相関関係に基づいてセンサの故障を判定するため、より良好な精度で故障診断をすることができる。また、潤滑系システムの故障であるか、センサの故障であるかの故障診断判断を行うことができる。
【0052】
本実施形態では3つのセンサを用いたがこれに限定されず、3つ以上のセンサを用いてもよい。またdPoセンサ87を用いたが、例えばオイルフィルタ86の出口側にエンジンオイルの圧力を検出する圧力センサなどを用いてもよい。
【0053】
次に図3を参照して、本実施形態の潤滑系システムの故障診断フローを説明する。ステップS31において、相関関係の崩れの判定を行うプロセスを実行する。図9は、エンジンの運転時のPopセンサ82の出力92およびdPoセンサ87の出力93をそれぞれ縦軸に示し、時間を横軸に示した図である。91はレギュレータの設定圧情報(Preg)を示す。図9(a)は、エンジン2が正常運転している際の各センサの出力およびPregを示す図である。図9(a)に基づいて、Popセンサの推定値の関数PopdPo=f3(dPo)、PopPreg=f4(Preg)をそれぞれ求める。ここで、dPoはdPoセンサ87の出力値であり、PregはPregの値である。
【0054】
運転時の各センサの出力値をそれぞれ求め、前述の関数を用いてPopの推定値PopdPo、PopPregを算出し、前述の式(2)を用いて各センサの出力値の2つの組ごとに運転時の相関関係の崩れをそれぞれ判定する。
【0055】
ステップ32において、ステップ31の判定の結果に相関関係の崩れがない場合は潤滑系システムが正常であると判定する(ステップ33)。例えば、運転時の各センサの出力が図9(a)である場合は、91−92相関関係は、|Pop−PopPreg|が100KPaの範囲に入るので崩れていないと判定される。また、91−93相関関係は|PopdPo−PopPreg|が100KPaの範囲に入るので崩れていないと、92−93相関関係は|Pop−PopdPo|が100KPaの範囲に入るので崩れていないとそれぞれ判定される。これより、それぞれ相関関係は崩れていないので、潤滑系システムが正常であると判定し故障診断を終了する。一方ステップ32においてステップ31の判定の結果に相関関係の崩れがある場合には、次のステップでセンサの異常を判定する(ステップ34)。
【0056】
ステップ34では、ステップ31の相関関係の判定結果に基づいて異常と判定されたセンサの数を判定する。例えば図9(b)の場合には、ライン94以降で、91−93相関関係は|PopdPo−PopPreg|が100KPaの範囲を外れるので崩れていると、92−93相関関係は|Pop−PopdPo|が100KPaの範囲を外れるので崩れているとそれぞれ判定される。これより、91−93相関関係、92−93相関関係はそれぞれ崩れており、91−92相関関係は崩れていないので、1つのセンサ(Popセンサ)が異常であることがわかる。
【0057】
また、例えば図9(c)の場合には、ライン94以降で、91−92相関関係は|Pop−PopPreg|が100KPaの範囲を外れるので崩れていると、91−93相関関係は|Pop−PopdPo|が100KPaの範囲を外れるので崩れていると、92−93相関関係は|Pop−PopdPo|が100KPaの範囲を外れるので崩れているとそれぞれ判定される。これより、全ての相関関係が崩れているので、2つのセンサが異常であることがわかる。
【0058】
ステップ35では、ステップ34の異常センサの数を所定値と比較する。本実施形態では所定値を2とする。所定値は、故障診断に用いるセンサの数に応じて適当な値とすることができる。図9(c)のように異常センサの数が2以上の場合には潤滑系システムが故障していると判定し(ステップ36)、故障診断を終了する。図9(b)のように異常センサの数が2より少ない場合には、センサ類が故障していると判定し(ステップ39)、故障診断を終了する。好ましくは前述の通り、ステップ37をおこなってもよい。
【0059】
(第4実施形態)
本発明第4実施形態に係る潤滑系システムの故障診断システム1のECU9の機能ブロック図は図5で示される。本実施形態の故障診断システム1は、エンジンおよび潤滑系システムに取り付けたセンサの出力値を所定値と比較することにより、潤滑系システムおよびセンサの故障を診断するものである。なお潤滑系システムの故障診断システム1は、前述した図8に示す通りであるので説明を省略する。
【0060】
センサ値判定部51は、センサの出力値が該センサごとに事前に定められた所定の範囲に入るかを判定し、該所定の範囲を超えたセンサは異常であると判定する。例えば該所定の範囲は、各センサの取りうる値として、エンジン2が正常運転している場合の各センサの出力値の前後10%の値の幅とする。
【0061】
故障判定部52は、センサ値判定部51で異常と判定されたセンサの数が2以上の場合には潤滑系システムの故障と判定し、異常と判定されたセンサの数が1つの場合には該センサが故障していると判定する。
【0062】
この形態によると、各センサが取りうる値に基づいてセンサの故障を判定するため、より良好な精度で故障診断をすることができる。また、潤滑系システムの故障であるか、センサの故障であるかの故障診断判断を行うことができる。なお第3実施形態と同様に、他のセンサを用いてこれを行ってもよい。
【0063】
次に図6を参照して、本実施形態の潤滑系システムの故障診断フローを説明する。ステップS61において、各センサ値が所定の範囲に入るかを判定するプロセスを実行する。図10は、図9と同様に、エンジンの運転時のPopセンサの出力92、dPoセンサの出力93およびレギュレータの設定圧情報(Preg)91をそれぞれ縦軸に示し、時間を横軸に示した図である。図10(a)は、エンジン2が正常運転している際の各センサの出力を示す図である。この図によると、所定の範囲は、Popセンサの出力92の前後10%の値の幅95、dPoセンサの出力93の前後10%の値の幅96である。
【0064】
ステップ62において、ステップ61で異常と判定されたセンサがない場合は潤滑系システムが正常であると判定する(ステップ63)。例えば、運転時の各センサの出力が図10(a)である場合は、Popセンサ出力92が所定範囲95に、dPoセンサ出力93が所定範囲96にそれぞれ入っているため、潤滑系システムが正常であると判定し故障診断を終了する。一方ステップ62においてステップ61で異常と判定されたセンサがある場合には、次のステップへ進む(ステップ64)。
【0065】
ステップ64において、異常と判定されたセンサが1つの場合は、該センサが故障していると特定し(ステップ65)、故障診断を終了する。例えば運転時の各センサの出力が図10(b)である場合は、ライン94以降で、dPoセンサ出力93が所定範囲96を外れ異常と判定され、1つのセンサ(dPoセンサ)が故障していると判定される。一方ステップ64で異常と判定されたセンサが一つでない場合には、潤滑系システムが故障していると判定し(ステップ66)、故障診断を終了する。例えば運転時の各センサの出力が図10(c)である場合は、ライン94以降で、Popセンサ出力92およびdPoセンサ出力93がそれぞれ所定範囲を外れ、2つのセンサ(Popセンサ、dPoセンサ)が異常であると判定され、潤滑系システムが故障していると判定される。
【0066】
以上に、この発明の特定の実施形態について説明したが、本発明は前述の実施形態に限定されるものではなく、本発明の目的を達成できる他の構成等を含むものである。
【図面の簡単な説明】
【0067】
【図1】本発明の第1および第2実施形態に従う、航空機用の内燃機関およびその制御システムの故障診断システムを概略的に示す図。
【図2】本発明の第1および第3実施形態に従う、故障診断システムの機能ブロック図。
【図3】前記第1および第3実施形態に従う、故障診断プロセスのフローチャート。
【図4】本発明の第1実施形態に従う、センサの出力の関係を表す図。
【図5】本発明の第2および第4実施形態に従う、故障診断システムの機能ブロック図。
【図6】前記第2および第4実施形態に従う、故障診断プロセスのフローチャート。
【図7】本発明の第2実施形態に従う、センサの出力の関係を表す図。
【図8】本発明の第3および4実施形態に従う、航空機用の内燃機関およびその制御システムの故障診断システム概略的に示す図。
【図9】本発明の第3実施形態に従う、センサの出力およびレギュレータの設定圧情報の関係を表す図。
【図10】本発明の第4実施形態に従う、センサの出力および設定情報の関係を表す図。
【符号の説明】
【0068】
2 エンジン(内燃機関)
5 水温センサ(センサ)
8 タンク圧センサ(センサ)
9 ECU
82 油センサ(センサ)
87 差圧センサ(センサ)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
3つ以上のセンサおよび制御システムを備える航空機の内燃機関において、
前記3つ以上のセンサの出力値について2つのセンサの組ごとの相関関係を判定するステップと、
該相関関係の結果に基づいて、前記センサのいずれかが異常であるかを判定するステップと、
前記異常と判定されたセンサの数が所定値より多い場合は前記制御システムが故障していると判定し、前記異常と判定されたセンサの数が所定値より少ない場合には前記センサのいずれかが故障していると判定するステップと、
を含む、故障診断方法。
【請求項2】
前記センサの出力値の異常の数が1つの場合には、該センサが故障していると判定するステップをさらに含む、請求項1に記載の故障診断方法。
【請求項3】
3つ以上のセンサおよび制御システムを備える航空機の内燃機関において、
前記3つ以上のセンサの出力値が該センサごとに予め定められた範囲に入るかをそれぞれ判定するステップと、
前記比較の結果、出力値が前記予め定められた範囲に入らないセンサが複数ある場合は前記システムが故障していると判定し、前記予め定められた範囲に入らないセンサが1つの場合には当該センサが故障していると判定するステップと、
を含む、故障診断方法。
【請求項4】
前記内燃機関の制御システムは、冷却系システムおよび潤滑系システムの少なくとも一方である、請求項1または3に記載の故障診断方法。
【請求項5】
前記制御システムが冷却系システムである場合に、前記3つ以上のセンサが、前記内燃機関の水温センサ、冷却水タンクのタンク圧センサおよびオイルクーラのオイル温度センサである、請求項1または3に記載の故障診断方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2009−281263(P2009−281263A)
【公開日】平成21年12月3日(2009.12.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−133656(P2008−133656)
【出願日】平成20年5月21日(2008.5.21)
【出願人】(000005326)本田技研工業株式会社 (23,863)
【Fターム(参考)】