説明

船外機

【課題】前進ギア又は後退ギアとドッグギアとを噛合する際や駆動力を伝達する際に、噛合凸部や噛合凹部の耐久性を向上できるクラッチ装置を備える船外機を提供する。
【解決手段】駆動部で駆動される駆動軸21により常時反対方向に駆動される一対の前進ギア31及び後退ギア33と、出力軸29の周囲に配置されたドッグギア35とを備え、それぞれ互いに嵌合可能な噛合凸部31a、33a及び噛合凹部36aが複数設けられ、ドッグギアが一方の軸方向に移動させられることにより、前進ギア又は後退ギアの一方と噛合するクラッチ装置25を備える船外機10であり、駆動軸は駆動ギア23を備え、前進ギア及び後退ギアは、それぞれ駆動ギアと常時噛合された入力ギア31c、33cを備え、噛合凸部及び噛合凹部は、入力ギアより径方向内側に配置されて周方向にそれぞれ7個以上10個以下設けられている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、駆動部により回転駆動される駆動軸から出力軸へ駆動力を伝達するためのクラッチ装置を備える船外機に係り、特に、駆動軸により駆動される前進ギア及び後退ギアと出力軸側のドッグギアとの噛合部位の改良に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、船外機は、図14に示すように、ケーシング61の上部には図示しない駆動部としてのエンジンが搭載され、エンジンにより駆動される駆動軸62が垂設され、駆動軸62の下端部の駆動ギア63と連結されたクラッチ装置64が配設され、クラッチ装置64にプロペラ65を有する出力軸66が連結されている。
【0003】
クラッチ装置64は、出力軸66の周囲に回転自在に配置されて、駆動軸62の駆動ギア63により常時反対方向に駆動される一対の前進ギア67及び後退ギア68と、出力軸66の周囲の前進ギア67と後退ギア68との間に配置されて、出力軸66に対して周方向に回転不能な状態で軸方向に移動可能なドッグギア69とを備えている。
【0004】
このクラッチ装置64では、ドッグギア69が前進ギア67又は後退ギア68の何れか一方側に移動することにより、前進ギア67又は後退ギア68の一方とドッグギア69とが噛合してその一方のギア67、68の駆動力が出力軸66に伝達されて、プロペラ65が前進又は後退方向に回転させられるようになっている。
【0005】
このような船外機60のクラッチ装置64は、図15及び図16に示すように、ドッグギア69の両面の前進ギア67及び後退ギア68との対向面には噛合凹部69aが設けられ、前進ギア67及び後退ギアの噛合凹部69aとの対向面には、噛合凸部67a、68aが設けられている。そして、前進ギア67又は後退ギア68とが噛合した状態では、噛合凸部67a、68aが噛合凹部69a内に配置され、噛合凹部69aの駆動力伝達面69bに噛合凸部67a、68aの駆動力伝達面67b、68bが当接して駆動力が伝達されている。
【0006】
このような船外機用クラッチ構造として、例えば下記特許文献1に記載されたようなものが知られている。ここでは、噛合凸部67a、68aと噛合凹部69aとの周方向の長さを略同一にすることで、駆動系の騒音を低減している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2005−48820号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、従来のクラッチ構造では、エンジンの出力が高い場合、前進ギア67又は後退ギア68とドッグギア69とを噛合させる際や噛合状態で駆動力を伝達する際に、噛合凸部67a、68aと噛合凹部69aとの一部に潰れ、割れ、変形等の破損が生じることがあった。
【0009】
そこで、この発明では、前進ギア又は後退ギアとドッグギアとを噛合する際や駆動力を伝達する際に、噛合凸部や噛合凹部の耐久性を向上できるクラッチ装置を備える船外機を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決する請求項1に記載の発明は、ケーシングの上部に駆動部が搭載され、該駆動部により駆動される駆動軸と、前記駆動軸の下端側に当該駆動軸と一体に回転可能に配設された駆動ギアと、前記ケーシングの下部に配設され、前記駆動ギアと連結されたクラッチ装置と、前記クラッチ装置に連結され、プロペラを駆動する出力軸と、を備え、前記クラッチ装置は、前記プロペラを駆動する前記出力軸の周囲に回転自在に配置され、前記駆動部で駆動される前記駆動軸により常時反対方向に駆動される一対の前進ギア及び後退ギアと、前記出力軸の周囲の前記前進ギアと前記後退ギアとの間に配置され、前記出力軸に対して軸方向に移動可能、且つ、周方向に回転不能なドッグギアとを備え、前記前進ギア及び前記後退ギアの前記ドッグギアと対向する部位と、前記ドッグギアの前記前進ギア及び前記後退ギアとそれぞれ対向する部位とに設けられた噛合部に、それぞれ互いに嵌合可能な噛合凸部及び噛合凹部が複数設けられ、前記ドッグギアが前記出力軸に対して一方の軸方向に移動させられて、前記複数の噛合凹部と前記複数の噛合凸部とが嵌合することにより、前記ドッグギアと前記前進ギア又は前記後退ギアの一方とが噛合し、前記出力軸が駆動されるように構成されており、前記駆動軸は、前記出力軸側に固定された前記駆動ギアを回転させるものであり、前記前進ギア及び前記後退ギアは、前記駆動ギアと常時噛合された入力ギアをそれぞれ備え、前記噛合凸部及び前記噛合凹部は、前記入力ギアより径方向内側の範囲で、それぞれ周方向に7個以上10個以下配設されていることを特徴とする。
【0011】
請求項2に記載の発明は、請求項1に記載の構成に加え、前記噛合凸部は前記噛合凹部よりも周方向の長さが前記出力軸の軸中心角度で1度乃至12度小さくなるように形成されていることを特徴とする。
【0012】
請求項3に記載の発明は、請求項1又は2に記載の構成に加え、前記前進ギアと前記ドッグギアとの前記各噛合部又は前記後退ギアと前記ドッグギアとの前記各噛合部では、前記駆動力伝達面の面積の合計がそれぞれ340mm以上であることを特徴とする。
【0013】
請求項4に記載の発明は、請求項1乃至3の何れか一つに記載の構成に加え、前記前進ギアと前記ドッグギアとの前記各噛合部又は前記後退ギアと前記ドッグギアとの前記各噛合部では、前記各駆動力伝達面の外側端縁が、それぞれ前記出力軸の軸方向に対して直交方向に沿う直線状に形成され、前記各噛合部の前記外側端縁の長さの合計がそれぞれ70mm以上であることを特徴とする。
【0014】
請求項5に記載の発明は、請求項1乃至4の何れか一つに記載の構成に加え、前記前進ギアと前記ドッグギアとの前記各噛合部又は前記後退ギアと前記ドッグギアとの前記各噛合部では、少なくとも一方の前記噛合凹部に隣接する頂部に、他方の前記噛合凸部を該噛合凹部に案内するスロープが形成されていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0015】
請求項1に記載の発明によれば、ドッグギアと各前進ギア及び後退ギアとの互いに対向する各噛合部では、噛合凸部及び噛合凹部が入力ギアより径方向内側に配置されているので、全ての噛合凸部及び噛合凹部とが入力ギアと出力軸との間の限られた空間内に設けられている。そのため、噛合凸部及び噛合凹部の大きさが著しく制限されるが、このように噛合凸部及び噛合凹部の大きさが制限されていても、噛合凸部及び噛合凹部を周方向にそれぞれ7個以上10個以下設けることで、噛合時には噛合凸部と噛合凹部との互いに周方向に対向する駆動力伝達面のそれぞれに伝達トルクを分散し、噛合凸部や噛合凹部の耐久性を向上することができる。
【0016】
請求項2に記載の発明によれば、噛合凸部は噛合凹部よりも周方向の長さが出力軸の軸中心角度で所定範囲小さくなるように形成されていることで、噛合凸部と噛合凹部を噛合い易くすることができる。
【0017】
請求項3に記載の発明によれば、前進ギアとドッグギアとの各噛合部又は後退ギアとドッグギアとの各噛合部では、駆動力伝達面の面積の合計がそれぞれ所定値以上であるので、伝達トルクを十分に分散することができ、噛合凸部や噛合凹部の耐久性を向上することができる。
【0018】
請求項4に記載の発明によれば、前進ギアとドッグギアとの各噛合部又は後退ギアとドッグギアとの各噛合部では、各駆動力伝達面の軸方向外側の端縁がそれぞれ出力軸の軸方向に対して直交方向に沿う直線状に形成され、各噛合部の外側端縁の長さの合計がそれぞれ所定値以上であるので、前進ギア又は後退ギアとドッグギアとを噛合する際に、駆動力伝達面の外側端縁近傍同士の当接時の衝撃を分散することができる。
【0019】
請求項5に記載の発明によれば、前進ギアとドッグギアとの各噛合部又は後退ギアとドッグギアとの各噛合部では、少なくとも一方の各噛合凹部の隣接する頂部に、他方の噛合凸部をその噛合凹部に案内するスロープが形成されているので、噛合凸部及び噛合凹部をそれぞれ7個以上設けることでピッチが小さくても、回転速度の異なる噛合凹部と噛合凸部とを嵌合させる際、噛合凸部が噛合凹部に隣接する頂部に圧接されれば、頂部で噛合凸部が摺動してスロープにより案内され、その噛合凹部に容易に噛合させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】この発明の実施の形態のクラッチ装置を装着した船外機の側面図である。
【図2】この発明の実施の形態の船外機のクラッチ装置を示す断面図である。
【図3】同実施の形態のクラッチ装置の前進ギア及び後退ギアの断面図である。
【図4】同実施の形態のクラッチ装置の前進ギア及び後退ギアの正面図である。
【図5】同実施の形態の図4のA−Aを円周方向に沿って切断した断面図である。
【図6】同実施の形態のクラッチ装置のドッグギアの断面図である。
【図7】同実施の形態のクラッチ装置のドッグギアの平面図である。
【図8】同実施の形態のクラッチ装置のドッグギアの正面図である。
【図9】同実施の形態の図8のB−Bを円周方向に沿って切断した断面図である。
【図10】同実施の形態のクラッチ装置のドッグギアを出力軸に装着した状態の平面図である。
【図11】同実施の形態の図2のC−C断面図である。
【図12】同実施の形態の図2のD−D断面図である。
【図13】同実施の形態のクラッチ装置の前進ギア及び後退ギアの噛合凸部とドッグギアの噛合凹部との噛合動作を説明するための断面図である。
【図14】従来の船外機の下部の側面図である。
【図15】従来のクラッチ装置のドッグギアの側面図であり、前進ギア及び後退ギアとの噛合状態を示している。
【図16】従来のクラッチ装置の図15のE−Eを円周方向に沿って切断した断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、この発明の実施の形態について説明する。
【0022】
図1乃至図12は、この実施の形態を示す。
【0023】
図1及び図2において、10は船外機であり、船体12に固定されるケーシング14の上部には、図示しない駆動部としてのエンジンがカウリング16に覆われて搭載されている。このエンジンは最大馬力300PS以上の出力を有している。このエンジンにより駆動される駆動軸21がケーシング14内に垂設されており、駆動軸21の下端側に駆動軸21と一体に回転可能な駆動ギア23を備えている。そして、駆動軸21の駆動ギア23に連結されたクラッチ装置25がケーシング14の下部に配設され、クラッチ装置25にプロペラ27を有する出力軸29が連結されている。
【0024】
このクラッチ装置25は、出力軸29で周囲に回転自在に配置され、駆動軸21の下端部に設けられた駆動ギア23と噛合した一対の前進ギア31及び後退ギア33と、前進ギア31と後退ギア33との間で出力軸29に連結され、出力軸29の軸方向に移動させられることにより前進ギア31又は後退ギア33と択一的に噛合可能なドッグギア35とを備えている。
【0025】
前進ギア31と後退ギア33は、図3〜図5に示すように、一方の側面の外周側に駆動ギア23から駆動力が入力される入力ギア31c、33cを有し、入力ギア31c、33cより径方向内側にドッグギア35と対向して噛合可能な噛合部31d、33dを備えている。この前進ギア31と後退ギア33は、出力軸29の周囲に出力軸29に接合されることなく、それぞれケーシング14に固定された軸受け26により回転自在に保持されている。そして、これらの前進ギア31及び後退ギア33には、駆動軸21の駆動ギア23が常時噛合されており、駆動軸21の回転により、常時互いに反対方向に駆動されるようになっている。
【0026】
ドッグギア35は、図6〜図9に示すように、前進ギア31と後退ギア33との間の出力軸29の周囲に配置され、両側面に前進ギア31及び後退ギア33と対向して噛合可能な噛合部35dを有する略円筒形状を有し、内周面には軸方向にスプライン歯35cが設けられている。
【0027】
このドッグギア35は、ドッグギア35の軸方向に設けられたスプライン歯35cが出力軸29に軸方向に設けられたスプライン歯29aに結合されるとともに、後述する切換え機構41の固定ピン34が出力軸29の軸方向に形成された長孔29bとドッグギア35の相通孔35fとに挿通されて、周囲からコイルバネ28で係止されることにより、出力軸29に対して軸方向に移動可能に連結されている。
【0028】
また、このドッグギア35は、そのスプライン歯35cが出力軸29に設けられた軸方向のスプライン歯29aに結合されることにより、出力軸29に対して周方向に回転不能に連結されている。
【0029】
そして、前進ギア31及び後退ギア33の噛合部31d、33dには、図5に示すような複数の噛合凸部31a、33aが周方向に均等に配設されており、一方、ドッグギア35の噛合部35dには、図9に示すような噛合凹部36aが、噛合凸部31a、33aと同ピッチで配設されている。
【0030】
これらの噛合凸部31a、33a及び噛合凹部36aは、入力ギア31c、33cより内側であって、出力軸29より外側の範囲に設けられており、その範囲としては、例えば、出力軸29の軸心廻りの半径20〜32mmの範囲とするのが好適である。この範囲の最小半径が小さ過ぎると、出力軸29の直径が不足して、300PS以上のエンジンによる駆動力に対する強度が不足し易くなる。一方、最大半径が大きすぎると前進ギア31及び後退ギア33の入力ギア31c、33cの外径が大きくなるため、クラッチ装置25が肥大化して船外機10が大型化し易い。
【0031】
また、300PS以上のエンジンにより駆動される場合、噛合凸部31a、33a及び噛合凹部36aは、それぞれ少なくとも7個設けられることが必要であり、好ましくは、10個以下とするのが好適である。噛合凸部31a、33a及び噛合凹部36aが多過ぎると、噛合い時の噛合い衝突が増加し、好ましくない。好ましくは、これらの噛合凸部31a、33a及び噛合凹部36aの数は8個乃至10個、特に好ましくは、この実施の形態のようにそれぞれ9個設けられることが好適である。
【0032】
これらの前進ギア31及び後退ギア33の各噛合凸部31a、33aの駆動方向前方側には、ドッグギア35の噛合時に、ドッグギア35の噛合凹部36aと周方向に対向して当接する駆動力伝達面31b、33bを有し、一方、ドッグギア35の各噛合凹部36aの駆動方向後方側には、前進ギア31及び後退ギア33との噛合時に、前進ギア31及び後退ギア33の各噛合凸部31a、33aと周方向に対向して当接する駆動力伝達面35bを有している。
【0033】
このクラッチ装置25では、前進ギア31の噛合部31dにおける全ての噛合凸部31aの駆動力伝達面31bの面積の合計、及び、前進ギア31の噛合部31dと噛合するドッグギア35の噛合部35dにおける全ての噛合凹部36aの駆動力伝達面35bの面積の合計が340mm以上となっていることが好ましく、更に好ましくは、394.625mm以上であることが好適である。
【0034】
また。後退ギア33の噛合部33dにおける全ての噛合凸部33aの駆動力伝達面33bの面積の合計、及び、後退ギア33の噛合部33dと噛合するドッグギア35の噛合部35dにおける全ての噛合凹部36aの駆動力伝達面35bの面積の合計が340mm以上となっていることが好ましく、更に好ましくは、394.625mm以上であることが好適である。
【0035】
ここでは、前進ギア31の駆動力伝達面31bの面積の合計及び前進ギア31側の駆動力伝達面35bの面積の合計か、後退ギア33の駆動力伝達面33bの面積の合計及び後退ギア33側の駆動力伝達面35bの面積の合計かの一方がこの面積以上であってもよいが、好ましくは、両方がこの面積以上であることが好適である。
【0036】
駆動力伝達面31b、駆動力伝達面33b、駆動力伝達面35bがこのような範囲であれば、前進ギア31又は後退ギア33とドッグギア35との噛合状態で、伝達トルクを十分に分散することができ、噛合凸部や噛合凹部の破損をより防止し易いからである。
【0037】
また、このクラッチ装置25では、噛合凸部31a、33a及び噛合凹部36aは、それぞれ出力軸29の軸心を中心に40度のピッチθ1で形成されており、各噛合凸部31a、33a及び噛合凹部36aの周方向長さは出力軸29の軸心を中心にした角度で12度〜23度の範囲に形成されている。この範囲であれば、300PS以上のエンジンによる駆動力に対する強度を確保し易いからである。
【0038】
その場合、噛合凸部31a、33aは噛合凹部36aより周方向長さが出力軸29の軸心を中心にした角度で1度〜12度小さく形成されることが好ましい。噛合い易さのためである。更に、ここでは、40度のピッチと噛合凸部31a、33aの周方向長さとの差θ2を20度以上確保することが特に好ましい。これにより噛合凸部と噛合凹部とを確実に嵌合し易くできるからである。
【0039】
更に、このクラッチ装置25では、各駆動力伝達面31b、33bのドッグギア35側となる外側端縁31g、33gと、ドッグギア35の前進ギア31側の各駆動力伝達面35bの前進ギア31側となる外側端縁35gと、ドッグギア35の後退ギア33側の各駆動力伝達面35bの後退ギア33側となる外側端縁35gとが、全て出力軸29の軸方向に対して直交方向に沿う直線状に形成されている。
【0040】
ここでは、前進ギア31の噛合部31dにおける全ての駆動力伝達面31bの外側端縁31gの長さの合計、及び、前進ギア31の噛合部31dと噛合するドッグギア35の噛合部35dにおける全ての駆動力伝達面35bの外側端縁35gの長さの合計が、70mm以上となっていることが好ましく、更に好ましくは71.75mm以上であることが好適である。
【0041】
後退ギア33の噛合部33dにおける全ての駆動力伝達面33bの外側端縁33gの長さの合計、及び、後退ギア33の噛合部33dと噛合するドッグギア35の噛合部35dにおける全ての駆動力伝達面35bの外側端縁35gの長さの合計が、70mm以上となっていることが好ましく、更に好ましくは71.75mm以上であることが好適である。
【0042】
ここでは、前進ギア31の駆動力伝達面31bの外側端縁31gの合計及び前進ギア31側の駆動力伝達面35bの外側端縁35gの長さの合計か、後退ギア33の駆動力伝達面33bの外側端縁33gの長さの合計及び後退ギア33側の駆動力伝達面35bの外側端縁35gの長さの合計かの一方がこの長さ以上であってもよく、両方であってもよい。好ましくは、両方がこの長さ以上であることが好適である。
【0043】
駆動力伝達面31b、駆動力伝達面33b、駆動力伝達面35bの長さの合計がこのような範囲であれば、前進ギア31又は後退ギア33とドッグギア35との噛合時に、駆動力伝達面31b、33b、35bの外側端縁31g、33g、35g近傍同士が当接した際の衝撃を分散することができる。
【0044】
また、このクラッチ装置25では、隣接する噛合凹部36a間の噛合凸部である頂部37a、即ち、各噛合凹部36aの駆動方向前方側の頂部37aに、後壁部35eまで達するスロープ37bが設けられている。このスロープ37bは噛合凹部36aの駆動方向前方側に駆動方向に沿って深くなるように形成されている。なお、頂部37aのスロープ37b以外の部分は出力軸29の軸心と直交する平面に形成されている。
【0045】
このようにすれば、噛合凸部31a、33a及び噛合凹部36aをそれぞれ7個以上設けることでピッチθ1が小さくなり、噛合し難くなっていても、噛合凸部31a、33aが噛合凹部36aに隣接する頂部に圧接されて、スロープ37b上を摺動することで、その噛合凹部36aに嵌合し易くなるからである。
【0046】
このスロープ37bは、図9に示すように各噛合凹部36aの駆動方向前方端部の底部36bから延びる仮想平面37cと一致するように形成することが好ましい。スロープ37bを加工し易いからである。
【0047】
このクラッチ装置25は、ドッグギア35が固定ピン34に連結された切換え機構41により軸方向に移動可能に構成されている。
【0048】
この切換え機構41は、図2及び図10〜図12に示すように、出力軸29のプロペラ27とは反対側の端部の中心部に配置され、固定ピン34と連結された軸方向に移動可能なシフトプランジャ43と、このシフトプランジャ43の端部に接合されたシフト従動体45と、このシフト従動体45をケーシング14の上部から軸方向に操作するためのシフトロッド47と、このシフトロッド47の上部に固定されてシフトロッド47を回動させるためのシフトレバー49とを有している。
【0049】
シフトプランジャ43には、位置決め用ボール51がバネ部材53により直径方向に付勢された状態で配置されており、ドッグギア35が前進ギア31又は後退ギア33と噛合しない位置で位置決め用ボール51が出力軸29の被係止部29cに係止できる構成となっている。
【0050】
また、図11及び図12に示すように、シフトロッド47の下端近傍には、シフトロッド47の軸から偏心してシフト従動体45と連結したカム部55が設けられている。一方、シフト従動体45のカム部55との連結部位には、カム部55が摺動可能な横溝57が設けられている。そのため、シフトロッド47が回動されてカム部55がシフトロッド47の軸を中心に揺動すると、カム部55が横溝57を押圧して、シフト従動体45とシフトプランジャ43とが軸方向に移動し、ドッグギア35が軸方向に移動可能となっている。
【0051】
このような構成のクラッチ装置25を有する船外機10では、エンジンにより駆動軸21が回転すると、駆動ギア23により前進ギア31及び後退ギア33が互いに逆方向に回転駆動される。そして、シフトレバー49によりシフトロッド47を前進となる一方側に回動させると、シフトロッド47のカム部55が揺動してシフト従動体45の横溝57を一方側に押圧することにより、シフト従動体45及びシフトプランジャ43が出力軸29の軸方向の端部側へ移動する。
【0052】
すると、シフトプランジャ43に連結されている固定ピン34を介して、ドッグギア35が出力軸29の軸方向の端部側に移動し、ドッグギア35の一方の噛合部35dが前進ギア31に噛合する。
【0053】
このとき、前進ギア31はエンジンの回転数に応じた回転速度で回転しているが、出力軸29及びドッグギア35は停止状態等、前進ギア31とは異なる回転速度となっている。即ち、噛合凸部31aが噛合凹部36aより速い速度で移動している。そのため、噛合凹部36aが噛合凸部31aに対向する位置においてドッグギア35が軸方向に充分に速い移動速度で挿入されれば、噛合凹部36aが直接、噛合凸部31aに嵌合されることができるが、通常は、ドッグギア35を軸方向に移動させると、図13(a)から(e)に示すように、隣接する噛合凹部36a間が噛合凸部31aの頂面に当接して嵌合されることになる。
【0054】
まず、図13(a)に示すように、噛合凸部31aが矢印X方向に移動している状態で、停止状態の噛合凹部36aを矢印Y方向に移動させると、噛合凸部31aの頂面31eに噛合凹部36a間の頂部37aが圧接され、(b)に示すように、頂部37aが噛合凸部31aの頂面31e上で摺動してスロープ37bに到達する。ここでスロープ37bの形状に沿って移動し、(c)に示すように、噛合凹部36aが噛合凸部31a側に案内される。そして、噛合凹部36aが噛合凸部31aの位置に達すると、(d)に示すように、噛合凹部36aの駆動力伝達面35bの先端部分が噛合凸部31aの駆動力伝達面31bの外側端縁に当接し、噛合凹部36a内の所定位置に噛合凸部31aが配置される。その後、(e)に示すように、噛合凹部36a内に噛合凸部31aが嵌合され、両者の駆動力伝達面31b、35b同士が確実に当接されてドッグギア35と前進ギア31とが噛合される。
【0055】
このようにしてドッグギア35と前進ギア31とが噛合されると、駆動軸21からの駆動力が前進ギア31を介してドックギア35に伝達され、ドッグギア35のスプライン歯35cにより出力軸29に伝達されて、出力軸29及びこの出力軸29に連結されているプロペラ27を前進方向に回転させることができる。
【0056】
なお、後退する場合には、シフトレバー49によりシフトロッド47を反対方向に回動させ、シフトロッド47のカム部55により、シフト従動体45及びシフトプランジャ43を反対方向に移動させ、ドッグギア35を出力軸29のプロペラ27側へ移動させることにより、前記と同様にしてドッグギア35と後退ギア33とを噛合させればよい。
【0057】
以上のような構成のクラッチ装置25を有する船外機10によれば、ドッグギア35と各前進ギア31及び後退ギア33との互いに対向する各噛合部31d、33d、35dでは、噛合凸部31a、33a及び噛合凹部36aが入力ギア31c、33cより径方向内側に配置されているので、噛合凸部31a、33a及び噛合凹部36aとが、入力ギア31c、33cと出力軸29との間の限られた空間に配置されている。そのため、噛合凸部31a、33a及び噛合凹部36aの大きさが著しく制限されている。
【0058】
ところが、このような限られた空間内であっても、噛合凸部31a、33a及び噛合凹部36aを周方向にそれぞれ7個以上設け、噛合時に噛合凸部31a、33aと噛合凹部36aとの互いに周方向に対向する駆動力伝達面31b、33b、35bのそれぞれに伝達トルクを分散するように構成されているので、300PS以上の最大出力を有する駆動部から大きな駆動力を出力軸29に伝達される場合であっても、噛合させる際や噛合状態で駆動力を伝達する際に、噛合凸部31a、33aや噛合凹部36aに潰れ、割れ、変形等の破損が生じることを防止することができる。例えば、クラッチ装置25の伝達トルクが60kg・m以上であっても十分に破損を防止することが可能である。
【0059】
なお、上記実施の形態は、この発明の範囲内において、適宜変更可能である。例えば、上記では、ドッグギア35だけにスロープ37bを設けた例について説明したが、前進ギア31及び後退ギア33にスロープを設けてもよく、前進ギア31及び後退ギア33並びにドッグギア35にスロープを設けることも可能である
【符号の説明】
【0060】
10 船外機
21 駆動軸
23 駆動ギア
25 クラッチ装置
29 出力軸
31 前進ギア
31a 噛合凸部
31b 駆動力伝達面
31c、33c 入力ギア
31d 噛合部
31g 外側端縁
33 後退ギア
33a 噛合凸部
33b 駆動力伝達面
33d 噛合部
33g 外側端縁
35 ドッグギア
35b 駆動力伝達面
35d 噛合部
36a 噛合凹部
37b スロープ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ケーシングの上部に駆動部が搭載され、該駆動部により駆動される駆動軸と、
前記駆動軸の下端側に当該駆動軸と一体に回転可能に配設された駆動ギアと、
前記ケーシングの下部に配設され、前記駆動ギアと連結されたクラッチ装置と、
前記クラッチ装置に連結され、プロペラを駆動する出力軸と、を備え、
前記クラッチ装置は、
前記プロペラを駆動する前記出力軸の周囲に回転自在に配置され、前記駆動部で駆動される前記駆動軸により常時反対方向に駆動される一対の前進ギア及び後退ギアと、
前記出力軸の周囲の前記前進ギアと前記後退ギアとの間に配置され、前記出力軸に対して軸方向に移動可能、且つ、周方向に回転不能なドッグギアとを備え、
前記前進ギア及び前記後退ギアの前記ドッグギアと対向する部位と、前記ドッグギアの前記前進ギア及び前記後退ギアとそれぞれ対向する部位とに設けられた噛合部に、それぞれ互いに嵌合可能な噛合凸部及び噛合凹部が複数設けられ、
前記ドッグギアが前記出力軸に対して一方の軸方向に移動させられて、前記複数の噛合凹部と前記複数の噛合凸部とが嵌合することにより、前記ドッグギアと前記前進ギア又は前記後退ギアの一方とが噛合し、前記出力軸が駆動されるように構成されており、
前記駆動軸は、前記出力軸側に固定された前記駆動ギアを回転させるものであり、
前記前進ギア及び前記後退ギアは、前記駆動ギアと常時噛合された入力ギアをそれぞれ備え、
前記噛合凸部及び前記噛合凹部は、前記入力ギアより径方向内側の範囲で、それぞれ周方向に7個以上10個以下配設されていることを特徴とする船外機。
【請求項2】
前記噛合凸部は前記噛合凹部よりも周方向の長さが前記出力軸の軸中心角度で1度乃至12度小さくなるように形成されていることを特徴とする請求項1に記載の船外機。
【請求項3】
前記前進ギアと前記ドッグギアとの前記各噛合部又は前記後退ギアと前記ドッグギアとの前記各噛合部では、前記駆動力伝達面の面積の合計がそれぞれ340mm以上であることを特徴とする請求項1又は2に記載の船外機。
【請求項4】
前記前進ギアと前記ドッグギアとの前記各噛合部又は前記後退ギアと前記ドッグギアとの前記各噛合部では、前記各駆動力伝達面の外側端縁が、それぞれ前記出力軸の軸方向に対して直交方向に沿う直線状に形成され、
前記各噛合部の前記外側端縁の長さの合計がそれぞれ70mm以上であることを特徴とする請求項1乃至3の何れか一つに記載の船外機。
【請求項5】
前記前進ギアと前記ドッグギアとの前記各噛合部又は前記後退ギアと前記ドッグギアとの前記各噛合部では、少なくとも一方の前記噛合凹部に隣接する頂部に、他方の前記噛合凸部を該噛合凹部に案内するスロープが形成されていることを特徴とする請求項1乃至4の何れか一つに記載の船外機。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【公開番号】特開2012−159196(P2012−159196A)
【公開日】平成24年8月23日(2012.8.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−69479(P2012−69479)
【出願日】平成24年3月26日(2012.3.26)
【分割の表示】特願2007−31053(P2007−31053)の分割
【原出願日】平成19年2月9日(2007.2.9)
【出願人】(000010076)ヤマハ発動機株式会社 (3,045)
【Fターム(参考)】