説明

船舶の制動装置及びその制動方法

【課題】プロペラの羽根が水から受ける抵抗を有効活用することで、船体を効率的に停止させる。
【解決手段】航行速度制御レバーを原動機4の前進自動運転状態の位置から当該原動機をアイドリング状態にする位置に移動させると、コントローラ36は、原動機で駆動するプロペラ5の正転回転数を当該プロペラの羽根が水から受ける抵抗によって船舶を制動可能な数値まで下げ、プロペラが船舶を制動可能な回転数まで下がると、閉回路に接続された可変容量型油圧ポンプ7及び可変容量型油圧モータ8でプロペラの回転数をプロペラキャビテーション現象が発生しないように徐々に下げながらゼロにして当該プロペラの羽根が水から受ける抵抗を最大にするようにプロペラ駆動装置1を制御して船舶を制動する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は船舶の制動装置及びその制動方法に係り、特に船体を効率的に停止させる船舶の制動装置及びその制動方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、船舶用動力源の運転制御装置が各種、提案されている。例えば、前進から後進に切り替えて制動を行う場合のエンジンストールを防止でき、且つアイドリング回転数より低い極低速回転数が安定して得られる船舶用エンジンの運転制御装置が開示されている(例えば、特許文献1参照)。この船舶用エンジンの運転制御装置は、スロットル弁開度が全閉の状態でエンジン回転数がアイドリング回転数より低い極低速回転数に低下したとき、点火時期をアイドリング回転時より遅角側で且つ上記極低速回転数に応じた極低速回転時点火時期に制御することができる。
【0003】
また、船舶の抵抗変化に応じて遊星歯車機構の変速比を最適に自動制御して常に最大船速で航行を行うことができる船舶用動力伝達装置の制御装置及び制御方法が開示されている(例えば、特許文献2参照)。この船舶用動力伝達装置の制御装置及び制御方法は、遊星歯車機構を使用してエンジンの動力と、油圧ポンプによって駆動する油圧モータの動力とをコントローラで切り換えることで、船舶の総重量や風量などによって決まる船舶抵抗に対して最大船速を得られる変速比に遊星歯車機構を制御することができる。
【0004】
また、船舶の加速時に遊星歯車機構の変速比を最適に制御する動力伝達装置の制御装置及び制御方法が開示されている(例えば、特許文献3参照)。この動力伝達装置の制御装置及び制御方法は、遊星歯車機構を使用してエンジンの動力と、油圧ポンプによって駆動する油圧モータの動力とをコントローラで切り換えることで、船舶が最大船速まで加速するときに遊星歯車機構の変速比を最適に制御して短期間で最大船速に達することができる。
【0005】
【特許文献1】特開平10−318113号公報
【特許文献2】特開2004−169818号公報
【特許文献3】特開2004−210033号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、背景技術に記載した特許文献1の船舶用エンジンの運転制御装置では、前進走行中の船体を制動する場合、操作レバーでスロットル弁を閉じると共にシフト位置を前進から後進に切り替えてプロペラを逆転させることにより後進推力を発生させて減速させているが、船体が惰性で前進していることから前進水流で前進方向に回転しているプロペラを強制的に瞬時に後進方向に切り替えているので、プロペラキャビテーション現象が発生する虞があった。
【0007】
プロペラキャビテーション現象は、プロペラを水中において急激に回転変化すると、プロペラの羽根によって水が加速され、水との相対速度の関係で羽根表面にある限界の圧力より低い部分が発生することから、プロペラの羽根の周りに気泡ができ隙間ができるので、推進力を効率よく得ることができなくなる現象である。したがって、船体に制動をかけにくくなる。
【0008】
また、背景技術に記載した特許文献2の船舶用動力伝達装置の制御装置及び制御方法、特許文献3の動力伝達装置の制御装置及び制御方法では、前進走行中の船体を制動する場合、何れも具体的な制動装置及び制動方法が記載されていなかった。
【0009】
本発明は、このような従来の難点を解決するためになされたもので、プロペラの羽根が水から受ける抵抗を有効活用することで、船体を効率的に停止させることができる船舶の制動装置及びその制動方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の第1の態様である船舶の制動装置は、船舶の動力源となるピストン機関である原動機と、原動機を使用して船舶の航行速度を手動調節するための航行速度制御レバーと、太陽歯車、複数の遊星歯車、外輪歯車及び複数の遊星歯車を回動自在に支持する遊星キャリアを有し、船舶を前進自動運転させる場合には、外輪歯車が回転可能になると共に太陽歯車が固定される遊星歯車機構と、遊星キャリアに接続されたプロペラ軸で回転するプロペラと、外輪歯車の外周に形成された外歯車に噛合される入力歯車に原動機からの動力を伝達・遮断する前進クラッチと、入力歯車に噛合される第1のポンプ歯車によって駆動する吐出方向が二方向となる可変容量型油圧ポンプと、可変容量型油圧ポンプによって駆動され太陽歯車を駆動する回転方向が二方向となる可変容量型油圧モータと、外輪歯車の外歯車に噛合されるブレーキ歯車を選択的に固定する外輪歯車ブレーキクラッチと、前進クラッチを油圧制御する前進クラッチ用制御弁と、可変容量型油圧ポンプを油圧制御する油圧ポンプ用制御弁と、可変容量型油圧モータを油圧制御する油圧モータ用制御弁と、外輪歯車ブレーキクラッチを油圧制御するブレーキクラッチ用制御弁とを備えたプロペラ駆動装置によって船舶の制動を行う船舶の制動装置である。
【0011】
この船舶の制動装置は、航行速度制御レバーを原動機の前進自動運転状態の位置から当該原動機をアイドリング状態にする位置に移動させると、油圧ポンプ用制御弁を制御して可変容量型油圧ポンプを停止させ、原動機がアイドリング状態になると、油圧ポンプ用制御弁及び油圧モータ用制御弁を制御して可変容量型油圧ポンプを介して可変容量型油圧モータの船舶が後進する際の回転方向の回転数を上げることで、太陽歯車で複数の遊星歯車の公転を制御してプロペラの正転回転数を当該プロペラの羽根が水から受ける抵抗によって船舶を制動可能な数値まで下げる第1のプロペラ制御機能、及び第1のプロペラ制御機能によってプロペラが船舶を制動可能な回転数まで下がると、前進クラッチ用制御弁を制御して前進クラッチを遮断すると共にブレーキクラッチ用制御弁を制御して外輪歯車ブレーキクラッチで外輪歯車を固定し、さらに、油圧モータ用制御弁を制御して可変容量型油圧モータの船舶が前進する際の回転方向の回転数を徐々に下げて停止すると共に、油圧ポンプ用制御弁を制御して可変容量型油圧ポンプの吐出量を徐々に減らして停止してプロペラの回転数の低下を無段階にて行うことで、プロペラの回転数をプロペラキャビテーション現象が発生しないように徐々に下げながらゼロにして当該プロペラの羽根が水から受ける抵抗を最大にする第2のプロペラ制御機能を有するコントローラを備えているものである。
【0012】
本発明の第2の態様は第1の態様である船舶の制動装置において、前記プロペラ駆動装置は、第2のポンプ歯車を駆動する電動機と、第2のポンプ歯車に電動機からの動力を伝達・遮断する電動機クラッチと、電動機クラッチを油圧制御する電動機クラッチ用制御弁と、船舶を航行させるための動力源を電動機及び原動機の何れか1つに選択すると共に何れの動力源も前記航行速度制御レバーで制御可能になる切換手段とを備え、コントローラは、切換手段で電動機が選択され、船舶が電動機で前進手動運転状態において、遊星歯車機構の外輪歯車が回転可能になると共に太陽歯車が固定される状態で、航行速度制御レバーを電動機の前進手動運転状態の位置から船舶を減速させる方向に移動させると、第1のプロペラ制御機能及び第2のプロペラ制御機能を実行する第3のプロペラ制御機能を有するものである。
【0013】
また、本発明の第3の態様である船舶の制動方法は、船舶の動力源となるピストン機関である原動機と、原動機を使用して前記船舶の航行速度を手動調節するための航行速度制御レバーと、太陽歯車、複数の遊星歯車、外輪歯車及び複数の遊星歯車を回動自在に支持する遊星キャリアを有し、船舶を前進自動運転させる場合には、外輪歯車が回転可能になると共に太陽歯車が固定される遊星歯車機構と、遊星キャリアに接続されたプロペラ軸で回転するプロペラと、外輪歯車の外周に形成された外歯車に噛合される入力歯車に原動機からの動力を伝達・遮断する前進クラッチと、入力歯車に噛合される第1のポンプ歯車によって駆動する吐出方向が二方向となる可変容量型油圧ポンプと、可変容量型油圧ポンプによって駆動され太陽歯車を駆動する回転方向が二方向となる可変容量型油圧モータと、外輪歯車の外歯車に噛合されるブレーキ歯車を選択的に固定する外輪歯車ブレーキクラッチと、前進クラッチを油圧制御するクラッチ用制御弁と、可変容量型油圧ポンプを油圧制御する油圧ポンプ用制御弁と、可変容量型油圧モータを油圧制御する油圧モータ用制御弁と、外輪歯車ブレーキクラッチを油圧制御するブレーキクラッチ用制御弁とを備えたプロペラ駆動装置をコントローラで制御することで船舶の制動を行う船舶の制動方法である。
【0014】
この船舶の制動方法におけるコントローラは、航行速度制御レバーが原動機の前進自動運転状態の位置から当該原動機をアイドリング状態にする位置に移動すると、油圧ポンプ用制御弁を制御して可変容量型油圧ポンプを停止させるステップと、原動機がアイドリング状態になると、油圧ポンプ用制御弁及び油圧モータ用制御弁を制御して可変容量型油圧ポンプを介して可変容量型油圧モータの船舶が後進する際の回転方向の回転数を上げて、太陽歯車で複数の遊星歯車の公転を制御してプロペラの正転回転数を当該プロペラの羽根が水から受ける抵抗によって船舶を制動可能な数値まで下げるステップと、プロペラが船舶を制動可能な回転数まで下がると、前進クラッチ用制御弁を制御して前進クラッチを遮断すると共にブレーキクラッチ用制御弁を制御して外輪歯車ブレーキクラッチで外輪歯車を固定するステップと、外輪歯車を固定後、油圧モータ用制御弁を制御して可変容量型油圧モータの船舶が前進する際の回転方向の回転数を徐々に下げて停止すると共に、油圧ポンプ用制御弁を制御して可変容量型油圧ポンプの吐出量を徐々に減らして停止してプロペラの回転数の低下を無段階にて行うことで、プロペラの回転数をプロペラキャビテーション現象が発生しないように徐々に下げながらゼロにして当該プロペラの羽根が水から受ける抵抗を最大にするステップとから成るものである。
【0015】
本発明の第4の態様は第3の態様である船舶の制動方法において、第2のポンプ歯車を駆動する電動機と、第2のポンプ歯車に電動機からの動力を伝達・遮断する電動機クラッチと、電動機クラッチを油圧制御する電動機クラッチ用制御弁と、船舶を航行させるための動力源を電動機及び原動機の何れか1つに選択すると共に何れの動力源も航行速度制御レバーで制御可能になる切換手段とを備えたプロペラ駆動装置をコントローラで制御することで船舶の制動を行う船舶の制動方法であって、コントローラは、切換手段で電動機が選択され、船舶が電動機で前進手動運転状態において、遊星歯車機構の外輪歯車が回転可能になると共に太陽歯車が固定される状態で、航行速度制御レバーが電動機の前記前進手動運転状態の位置から船舶を減速させる方向に移動すると、すべてのステップを実行するものである。
【0016】
このような第1の態様による船舶の制動装置及び第3の態様による船舶の制動方法によれば、航行速度制御レバーを原動機の前進自動運転状態の位置から当該原動機をアイドリング状態にする位置に移動させると、コントローラは、原動機で駆動するプロペラの正転回転数を当該プロペラの羽根が水から受ける抵抗によって船舶を制動可能な数値まで下げ、プロペラが船舶を制動可能な回転数まで下がると、閉回路に接続された可変容量型油圧ポンプ及び可変容量型油圧モータでプロペラの回転数をプロペラキャビテーション現象が発生しないように徐々に下げながらゼロにして当該プロペラの羽根が水から受ける抵抗を最大にするようにプロペラ駆動装置を制御して船舶を制動することができるので、プロペラの羽根が水から受ける抵抗を有効活用することができる。
【0017】
また、第2の態様による船舶の制動装置及び第4の態様による船舶の制動方法によれば、航行速度制御レバーを電動機の前進手動運転状態の位置から船舶を減速させる方向に移動させると、コントローラは、電動機で駆動するプロペラの正転回転数を当該プロペラの羽根が水から受ける抵抗によって船舶を制動可能な数値まで下げ、プロペラが船舶を制動可能な回転数まで下がると、閉回路に接続された可変容量型油圧ポンプ及び可変容量型油圧モータでプロペラの回転数をプロペラキャビテーション現象が発生しないように徐々に下げながらゼロにして当該プロペラの羽根が水から受ける抵抗を最大にするようにプロペラ駆動装置を制御して船舶を制動することができるので、プロペラの羽根が水から受ける抵抗を有効活用することができる。
【発明の効果】
【0018】
本発明の船舶の制動装置及びその方法によれば、プロペラの羽根が水から受ける抵抗を、プロペラキャビテーション現象を発生させることなく有効活用することができるので、船体を効率的に停止させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
以下、本発明の船舶の制動装置及びその方法における好ましい実施の形態例について、図面を参照して説明する。本明細書の全体を通じて同一要素には同一参照番号を付す。
【0020】
図1は本発明の船舶の制動装置の好ましい実施の形態例を示す構成図である。図2は本発明の船舶の制動装置の主要部であるコントラーラとコントラーラが制御する機器との関係を示す制御ブロック図である。図3は本発明の船舶の制動装置が適用される動力伝達機構の遊星歯車機構の動作状態を示す図で、(A)は油圧モータのみでプロペラを正転させる説明図、(B)は原動機のみでプロペラを正転させる説明図、(C)は油圧モータのみでプロペラを逆転させる説明図、(D)は原動機及び油圧モータでプロペラの正転を減速させる説明図である。なお、この図3は船舶を船尾側から船首側へ見たときの遊星歯車機構を示している。
【0021】
本発明の船舶の制動装置を適用するプロペラ駆動装置は図1に示すように、プロペラ5に動力源からの動力を伝達する動力伝達機構2と、この動力伝達機構2を制御する制御装置3とを備えている。
【0022】
動力伝達機構2は、船舶の動力源となるピストン機関である原動機4と、太陽歯車211、複数の遊星歯車212、外輪歯車213及び複数の遊星歯車212を回動自在に支持する遊星キャリア214を有する遊星歯車機構21と、遊星キャリア214に接続されたプロペラ軸5aで回転するプロペラ5と、外輪歯車213の外周に形成された外歯車213aに噛合される入力歯車22に原動機4からの動力を伝達・遮断する前進クラッチ6と、入力歯車22に噛合される第1のポンプ歯車23によって駆動する吐出方向が二方向となる可変容量型油圧ポンプ7と、可変容量型油圧ポンプ7によって駆動され太陽歯車211を駆動する回転方向が二方向となる可変容量型油圧モータ8と、外輪歯車213の外歯車213aに噛合されるブレーキ歯車24を選択的に固定する外輪歯車ブレーキクラッチ9とから構成されている。
【0023】
原動機4は、原動機軸4aが原動機クラッチ10の入力側に固定され、原動機クラッチ10の出力側は入力歯車22に動力を伝達する入力軸25に固定されている。原動機クラッチ10は、原動機4の動力を入力軸25に選択的に伝達するためのもので、原動機クラッチ10を接続すると原動機4からの動力を入力軸25に伝達し、原動機クラッチ10を遮断すると原動機4からの動力を入力軸25に伝達しなくなる。
【0024】
遊星歯車機構21は、太陽歯車211が機構中心部に位置し、太陽歯車211に複数の遊星歯車212が噛合され、複数の遊星歯車212は遊星キャリア214によって回動可能に支持され、複数の遊星歯車212の外周側には外輪歯車213が噛合されている。
【0025】
プロペラ5は、プロペラ軸5aに固定され、このプロペラ軸5aは遊星歯車機構21の遊星キャリア214の回転中心部に接続されている。この船舶用のプロペラ5は、一般的に構造が簡単で比較的推進効率の高いスクリュプロペラが使用されている。なお、本明細書中において、プロペラ5の回転方向を「正転」と言うときには船舶が前進する回転方向で、「逆転」というときには船舶が後進する回転方向である。また、回転系の部材においても「正転」、「逆転」というときには、プロペラ5の回転方向と同一方向のことをいう。
【0026】
前進クラッチ6は、入力側に入力軸25が固定され、出力側に入力歯車22が固定されている。この前進クラッチ6は、入力軸25に伝達された原動機4からの動力を入力歯車22に選択的に伝達するためのもので、前進クラッチ6を接続すると、入力軸25の回転運動を入力歯車22に伝達し、前進クラッチ6を遮断すると入力軸25の回転運動を入力歯車22に伝達しなくなる。
【0027】
可変容量型油圧ポンプ7はアキシャル型で、駆動用オイルの吐出方向が二方向にするための2つの吸入吐出ポート71、72と、2つの吸入吐出ポート71、72の吐出容量をそれぞれ変更するための2つの制御ポート73、74とを備え、一方の制御ポート73に制御用オイルを圧送することで一方の吸入吐出ポート71から駆動用オイルを圧送し、他方の制御ポート74に制御用オイルを圧送することで他方の吸入吐出ポート72から駆動用オイルを圧送することができる。
【0028】
可変容量型油圧モータ8はアキシャル型で、駆動用オイルの供給方向が二方向となる2つの供給排出ポート81、82と、回転速度を制御する制御ポート83とを備え、制御ポート83に圧送される制御用オイルの流量によって油圧モータの回転速度が制御される。
【0029】
この可変容量型油圧ポンプ7及び可変容量型油圧モータ8は、油圧配管26、27で相互に接続され双方向にオイル循環が可能になっている。具体的には、可変容量型油圧ポンプ7の一方の吸入吐出ポート71と可変容量型油圧モータ8の一方の供給排出ポート81とは油圧配管26で接続され、可変容量型油圧ポンプ7の他方の吸入吐出ポート72と可変容量型油圧モータ8の他方の供給排出ポート82とは油圧配管27で接続されることで、閉回路となっている。したがって、可変容量型油圧ポンプ7から吐出される駆動用オイルのほとんどが可変容量型油圧モータ8からの戻油となるので、可変容量型油圧ポンプ7を停止することで、可変容量型油圧モータ8は回転を停止させると共にロック状態となる。
【0030】
また、可変容量型油圧ポンプ7のポンプ軸7aには第1のポンプ歯車23が固定され、この第1のポンプ歯車23は入力歯車22に噛合されている。これにより可変容量型油圧ポンプ7が入力歯車22及び第1のポンプ歯車23を介して入力軸25によって駆動されることになるので、駆動用オイルを可変容量型油圧モータ8に圧送可能となる。この可変容量型油圧モータ8の駆動軸8aは、遊星歯車機構21の太陽歯車211に固定され、太陽歯車211を双方向に回転させることができる。
【0031】
外輪歯車ブレーキクラッチ9は、入力側にブレーキ歯車24が固定され、出力側は固定系に固定されている。ブレーキ歯車24は、外輪歯車213の外歯車213aに噛合されている。この外輪歯車ブレーキクラッチ9は、外輪歯車213を固定するためのもので、外輪歯車ブレーキクラッチ9を接続すると外輪歯車213を固定し、外輪歯車ブレーキクラッチ9を遮断すると外輪歯車213を自由回転可能にする。
【0032】
このような遊星歯車機構21、可変容量型油圧ポンプ7、可変容量型油圧モータ8及び油圧配管26、27などにより無段変速機20が構成されている。この無段変速機20は、可変容量型油圧モータ8により遊星歯車機構21の太陽歯車211の回転速度を変化させると、プロペラ軸5aの回転速度を変化させることができるので、太陽歯車211の回転速度を無段階で変化させることで変速比を無段階で変化させることができるようになる。
【0033】
例えば、可変容量型油圧モータ8のみでプロペラ5を正転させる場合には図3(A)に示すように、入力歯車22及び外輪歯車213を固定させた状態で太陽歯車211をプロペラ5の正転方向と同一方向に回転させることで、複数の遊星歯車212を介して遊星キャリア214がプロペラ5を正転させることができる。
【0034】
また、原動機4のみでプロペラ5を正転させる場合には図3(B)に示すように、太陽歯車211を固定させた状態で入力歯車22をプロペラ5の正転方向と反対方向に回転させ、外輪歯車213をプロペラ5の正転方向と同一方向に回転させることで、複数の遊星歯車212を介して遊星キャリア214がプロペラ5を正転させることができる。したがって、無段変速機20は図3(B)の場合において、太陽歯車211を固定させた時に変速比を最高速比にすることができる。
【0035】
また、可変容量型油圧モータ8のみでプロペラ5を逆転させる場合には図3(C)に示すように、入力歯車22及び外輪歯車213を固定させた状態で太陽歯車211プロペラ5の逆転方向と同一方向に回転させることで、複数の遊星歯車212を介して遊星キャリア214がプロペラ5を逆転させることができる。
【0036】
さらに、原動機4と可変容量型油圧モータ8とを連動させて正転しているプロペラ5を減速させる場合には図3(D)に示すように、入力歯車22をプロペラ5の正転方向と反対方向に回転させ、外輪歯車213がプロペラ5の正転方向と同一方向に回転している状態において、太陽歯車211をプロペラ5の正転方向と反対方向に回転させることで、複数の遊星歯車212を介して正転している遊星キャリア214の回転速度を減速させることができる。したがって、無段変速機20は図3(D)の場合において、太陽歯車211をプロペラ5の正転方向と反対方向に回転させた時に変速比を最低速比にすることができる。
【0037】
次に、プロペラ駆動装置1の制御装置3について説明する。制御装置3は図1、図2に示すように、原動機クラッチ10を油圧制御する原動機クラッチ用制御弁31と、前進クラッチ6を油圧制御する前進クラッチ用制御弁32と、可変容量型油圧ポンプ7を油圧制御する油圧ポンプ用制御弁33と、可変容量型油圧モータ8を油圧制御する油圧モータ用制御弁34と、外輪歯車ブレーキクラッチ9を油圧制御するブレーキクラッチ用制御弁35とを備えている。
【0038】
原動機クラッチ用制御弁31、前進クラッチ用制御弁32及びブレーキクラッチ用制御弁35は、各クラッチ10、6、9を接続、遮断するためのもので、例えば、3ポート2位置切換弁でスプリングオフセット電磁方式が使用される。この3ポート2位置切換弁を原動機クラッチ用制御弁31に使用した場合、ソレノイド31aを駆動して制御用オイルを原動機クラッチ31に吐出することで当該原動機クラッチ31は接続される。また、3ポート2位置切換弁を前進クラッチ用制御弁32に使用した場合、ソレノイド32aを駆動(オン)して制御用オイルを前進クラッチ6に吐出することで当該前進クラッチ6は接続される。また、3ポート2位置切換弁をブレーキクラッチ用制御弁35に使用した場合、ソレノイド35aを駆動(オン)して制御用オイルを外輪歯車ブレーキクラッチ9に吐出することで当該外輪歯車ブレーキクラッチ9は接続される。
【0039】
油圧ポンプ用制御弁33は、可変容量型油圧ポンプ7の吐出方向及び吐出容量を制御するもので、例えば、4ポート3位置切換弁でスプリングオフセット電磁比例方式が使用される。この4ポート3位置切換弁を油圧ポンプ用制御弁33に使用した場合、ソレノイド33aを駆動(オン)して制御用オイルを可変容量型油圧ポンプ7の一方の制御ポート73に吐出することで、可変容量型油圧ポンプ7は可変容量型油圧モータ8が太陽歯車211をプロペラ5の正転方向と同一方向に回転させるように駆動用オイルを圧送する。また、ソレノイド33bを駆動(オン)して制御オイルを可変容量型油圧ポンプ7の他方の制御ポート74に吐出することで、可変容量型油圧ポンプ7は可変容量型油圧モータ8が太陽歯車211をプロペラ5の逆転方向と同一方向に回転するように駆動用オイルを圧送する。なお、この4ポート3位置切換弁はスプリングオフセット電磁比例方式なので、2つのソレノイド33a、33bの1つに入力電流を与えることにより方向を制御し、また、入力電流の大きさを変えることにより流量の大きさを制御することができる。
【0040】
油圧モータ用制御弁34は、可変容量型油圧モータ8の回転速度を制御するもので、例えば、4ポート2位置切換弁でスプリングオフセット電磁方式が使用される。この4ポート2位置切換弁を油圧モータ用制御弁34に使用した場合、ソレノイド34aを駆動(オン)して制御用オイルを可変容量型油圧モータ8の制御ポート83に吐出することで、当該可変容量型油圧モータ8は回転することができる。なお、ソレノイド34aは移動位置が調整可能になっているので、可変容量型油圧モータ8の回転速度を制御することができる。
【0041】
さらに、制御装置3は原動機クラッチ用制御弁31、前進クラッチ用制御弁32、油圧ポンプ用制御弁33、油圧モータ用制御弁34及びブレーキクラッチ用制御弁35と共に原動機4を制御するコントローラ36を備えている。このコントローラ36は図2に示すように、原動機クラッチ用制御弁31、前進クラッチ用制御弁32、油圧ポンプ用制御弁33、油圧モータ用制御弁34及びブレーキクラッチ用制御弁35と共に原動機4が電気的に接続されている。
【0042】
また、コントローラ36には、船舶の操縦室に設置され原動機4を使用して船舶の航行速度を手動調節するための航行速度制御レバー37と、原動機4から排出される排ガスの温度を検出するために排気マニホールド(図示せず)に設置された排ガスセンサ38と、原動機4の回転数を検出する回転数検出センサ39とが電気的に接続されている。航行速度制御レバー37は、レバーポジションを検出するための検出手段である例えばロータリーエンコーダ(図示せず)が設けられ、ロータリーエンコーダの検出値はコントローラ36に入力される。また、航行速度制御レバー37は、レバーポジションとして中立位置(ニュートラル)、前進位置及び後進位置が設定され、前進位置及び後進位置において、無段変速機20の変速比を最低変速比と最高変速比との間で、無段階で調節できるようになっている。
【0043】
このようなコントローラ36は、原動機4の始動時、船舶の前進加速時、船舶の前進自動運転時及び船舶の後進時と共に、船舶の制動時にも制御を行っている。
【0044】
このコントローラ36は、船舶の制動時の制御機能として、航行速度制御レバー37を原動機4の前進自動運転状態の位置から当該原動機4をアイドリング状態にする位置に移動させると、油圧ポンプ用制御弁33を制御して可変容量型油圧ポンプ7を停止させ、原動機4がアイドリング状態になると、油圧ポンプ用制御弁33及び油圧モータ用制御弁34を制御して可変容量型油圧ポンプ7を介して可変容量型油圧モータ8の船舶が後進する際の回転方向の回転数を上げることで、太陽歯車211で複数の遊星歯車212の公転を制御してプロペラ5の正転回転数を当該プロペラ5の羽根が水から受ける抵抗によって船舶を制動可能な数値まで下げる第1のプロペラ制御機能を有している。
【0045】
さらに、コントローラ36は、船舶の制動時の制御機能として、第1のプロペラ制御機能によってプロペラ5が船舶を制動可能な回転数まで下がると、前進クラッチ用制御弁32を制御して前進クラッチ6を遮断すると共にブレーキクラッチ用制御弁35を制御して外輪歯車ブレーキクラッチ9で外輪歯車213を固定し、さらに、油圧モータ用制御弁34を制御して可変容量型油圧モータ8の船舶が前進する際の回転方向の回転数を徐々に下げて停止すると共に、油圧ポンプ用制御弁33を制御して可変容量型油圧ポンプ7の吐出量を徐々に減らして停止してプロペラ5の回転数の低下を無段階にて行うことで、プロペラ5の回転数をプロペラキャビテーション現象が発生しないように徐々に下げながらゼロにして当該プロペラ5の羽根が水から受ける抵抗を最大にする第2のプロペラ制御機能を有している。
【0046】
このコントローラ36の第1のプロペラ制御機能及び第2のプロペラ制御機能でプロペラ5を駆動制御することで、プロペラ5の羽根が水から受ける抵抗を、プロペラキャビテーション現象を発生させることなく有効活用することができるので、船体を効率的に停止させることができる。
【0047】
なお、このプロペラ駆動装置1は、原動機クラッチ用制御弁31、前進クラッチ用制御弁32、油圧ポンプ用制御弁33、油圧モータ用制御弁34及びブレーキクラッチ用制御弁35に制御用オイルを供給するために、第1のポンプ歯車23に噛合される第2のポンプ歯車28によって駆動する吐出方向が一方向となる定容量油圧ポンプ11を備えている。これにより、定容量油圧ポンプ11は、入力歯車22が回転すると、第1のポンプ歯車23を介して第2のポンプ歯車28が回転するので、各制御弁31、32、33、34、35に制御用オイルを供給することができる。
【0048】
また、このプロペラ駆動装置1は図1、図2に示すように、動力伝達機構2に、第2のポンプ歯車28を駆動する電動機12と、第2のポンプ歯車28に電動機12からの動力を伝達・遮断する電動機クラッチ13とを備え、制御装置3に、電動機クラッチ13を油圧制御する電動機クラッチ用制御弁300と、船舶を航行させるための動力源を電動機12及び原動機4の何れか1つに選択すると共に何れの動力源も航行速度制御レバー37で制御可能になる切換手段である例えば切換スイッチ301とを備えている。この切換スイッチ301は、船舶の操縦室に設置されている。なお、電動機クラッチ用制御弁300は、定容量油圧ポンプ11から制御用オイルが供給されている。
【0049】
電動機12は、電動機軸12aが電動機クラッチ13の出力側に固定され、電動機クラッチ13の入力側は第2のポンプ歯車28に固定されたポンプ軸11aに固定されている。この電動機クラッチ13は、電動機12の動力をポンプ軸11aに選択的に伝達するもので、電動機クラッチ13を接続すると電動機12からの動力をポンプ軸11aに伝達し、電動機クラッチ13を遮断すると電動機12からの動力をポンプ軸11aに伝達しなくなる。
【0050】
電動機クラッチ用制御弁300は、電動機クラッチ13を接続、遮断するためのもので、例えば、3ポート2位置切換弁でスプリングオフセット電磁方式が使用される。この3ポート2位置切換弁を電動機クラッチ用制御弁300に使用した場合、ソレノイド300aを駆動(オン)して制御用オイルを電動機クラッチ13に吐出することで当該電動機クラッチ13は接続される。
【0051】
この電動機12及び電動機クラッチ用制御弁300と共に切換スイッチ301はコントローラ36に電気的に接続されている。このコントローラ36は、切換スイッチ301で電動機12が選択された場合には、電動機12の始動時、船舶の前進加速時、船舶の前進手動運転時及び船舶の後進時と共に、船舶の制動時にも制御を行っている。
【0052】
このコントローラ36は、船舶の制動時の制御機能として、切換スイッチ301で電動機12が選択され、船舶が電動機12で前進手動運転状態において、遊星歯車機構21の外輪歯車213が回転可能になると共に太陽歯車211が固定される状態で、航行速度制御レバー37を電動機12の前進手動運転状態の位置から船舶を減速させる方向に移動させると、第1のプロペラ制御機能及び第2のプロペラ制御機能を実行する第3のプロペラ制御機能を有している。なお、第1のプロペラ制御機能及び第2のプロペラ制御機能おいて、「原動機」は「電動機」に置換される。
【0053】
また、原動機4のトラブル時等の予備動力として用いる電動機12を設けない場合には、原動機4と入力軸25とは直結してもよい。
【0054】
このように構成されたプロペラ駆動装置1による船舶の航行制御について、図4〜図7に基づき説明する。図4は船舶の通常の航行運転におけるコントローラの航行制御を示すフローチャート図である。図5は船舶の通常の航行運転におけるコントローラの制動制御を示すフローチャート図である。図6は船舶の電動機による航行運転における航行制御を示すフローチャート図である。図7は船舶の電動機による航行運転における制動制御を示すフローチャート図である。
【0055】
まず、船舶の通常の航行運転におけるコントローラの航行制御について図1〜図4を参照しながら説明する。
【0056】
船舶の操縦室に設置されている切換スイッチ301で、動力源として原動機を選択して始動すると(ステップ101)、電動機クラッチ用制御弁300を制御しソレノイド300aをオフにして遮断位置にするので、電動機クラッチ13は遮断される(ステップ102)。電動機クラッチ13を遮断後、原動機クラッチ用制御弁31を制御しソレノイド31aをオンにして接続位置にすることにより、原動機クラッチ10は原動機4と入力軸25とを接続するので、原動機4の動力は入力軸25に伝達される(ステップ103)。なお、この時点においては、前進クラッチ6は前進クラッチ用制御弁32が遮断位置なので、入力軸25の回転運動は入力歯車22には伝達されない。
【0057】
また、この時点においては、油圧ポンプ用制御弁33は、2つのソレノイド33a、33bが何れも制御信号の入力レベルがゼロになることで遮断位置になるので、可変容量型油圧ポンプ7の各吸入吐出ポート71、72からの吐出量がゼロになり太陽歯車211が固定される(ステップ104)。ステップ104を処理後、原動機4が予め定められたアイドリング回転数になっているか否かをチェックする。原動機4が所定のアイドリング回転数の場合にはブレーキクラッチ用制御弁35を制御しソレノイド35aをオンにして接続位置にすることにより、外輪歯車ブレーキクラッチ9はブレーキ歯車24を固定するので、外輪歯車213が固定される。このように、外輪歯車213が固定され且つ太陽歯車211が固定されるので、プロペラ5の回転数をゼロにすると共にプロペラ5をロック状態にすることができる。なお、原動機4が所定のアイドリング回転数でない場合はステップ102まで戻る(ステップ105、106)。
【0058】
ステップ106を処理後、回転数検出センサ39からプロペラ5の回転数がゼロになった旨の検出信号が入力し、且つ航行速度制御レバー37が前進操作されると(ステップ107、108)、ロータリーエンコーダがそのレバーポジションを検出し、レバー角度が第1の前進操作である例えば+5°(前進スタート角度)〜+25°の場合は、油圧ポンプ用制御弁33のソレノイド33aへの制御信号の入力レベルを上昇させるので、可変容量型油圧ポンプ7の一方の吸入吐出ポート71からの駆動用オイルの吐出量が増加する。このように、可変容量型油圧ポンプ7の一方の吸入吐出ポート71からの駆動用オイルの吐出量が増加すると、可変容量型油圧モータ8が太陽歯車211をプロペラ5の正転方向と同一方向に回転させるように回転を開始するので、複数の遊星ギヤ212が公転して遊星キャリア214が正転を開始する。遊星キャリア214が正転を開始することで、プロペラ軸5aを介してプロペラ5が正転を開始する。なお、航行速度制御レバー37のレバー角度が+5°(前進スタート角度)〜+25°の範囲外の場合には、ステップ108に戻ることになる(ステップ109、110)。
【0059】
ステップ110を処理後、回転数検出センサ39からプロペラ5が正転を開始した旨の検出信号が入力すると(ステップ111)、油圧ポンプ用制御弁33のソレノイド33aへの制御信号の入力レベルが上限に到達すると共に、油圧モータ用制御弁34のソレノイド34aの制御信号の入力レベルを上昇させると、図3(A)に示すように、プロペラ5の正転方向の回転数が上がることになる(ステップ112、113)。
【0060】
ステップ113を処理後、回転数検出センサ39からプロペラ5の正転方向の回転数が上昇した旨の検出信号が入力すると(ステップ114)、航行速度制御レバー37のレバー角度が+25°に到達しているか否かをチェックし、到達している場合にはブレーキクラッチ用制御弁35を制御しソレノイド35aをオフにして遮断位置にすることにより、ブレーキクラッチ用制御弁35は外輪歯車ブレーキクラッチ9を遮断するので、外輪歯車213が自由回転状態になる(ステップ115、116)。なお、航行速度制御レバー37のレバー角度が+25°に到達していない場合には、ステップ108に戻ることになる。
【0061】
ステップ116を処理後、前進クラッチ用制御弁32を制御しソレノイド32aをオンにして接続位置にすることにより、前進クラッチ6が接続され原動機4の動力が外輪歯車213に伝達されることになるので、図3(B)に示すように、自由回転状態の外輪歯車213は原動機4によって回転を開始する(ステップ117)。前進クラッチ6が接続されると、油圧モータ用制御弁34を制御しソレノイド34aをオフにして遮断位置にすることにより、可変容量型油圧モータ8内の駆動用オイルの吸収量が最大になり、当該可変容量型油圧モータの最大ブレーキ力になる(ステップ118)。そして、油圧ポンプ用制御弁33を制御しソレノイド33aをオフにして遮断位置にすることにより、可変容量型油圧ポンプ7の吐出量がゼロになり、可変容量型油圧モータ8が最大ブレーキ力で停止することになるので、見掛け上の減速比が下がりプロペラ5の正転回転数が上がる(ステップ119、120)。
【0062】
可変容量型油圧ポンプ7が停止後、ロータリーエンコーダが航行速度制御レバー37のレバーポジションを検出し、レバー角度が第2の前進操作(前進増速の角度)である例えば+25°〜+110°の場合は、そのレバー角度に応じて原動機4の回転数を上げる(ステップ121、122)。なお、航行速度制御レバー37のレバー角度が+25°〜+110°の範囲外の場合には、ステップ108に戻ることになる。
【0063】
ステップ122を処理後、航行速度制御レバー37の操作を停止すると(ステップ123)、コントローラ36内の自動運転スタートタイマ(図示せず)が計時を開始する。自動運転スタートタイマで設定された計時内に航行速度制御レバー37が操作されなければ、前進自動運転に切り替わり、航行速度制御レバー37が操作されると、ステップ123に戻ることになる(ステップ124、125)。
【0064】
ステップ125を処理後、排ガスセンサ38で検出する原動機4の排ガスの温度をチェックし、当該排ガスの温度が例えば450℃±10℃の場合にはステップ123に戻ることになる。しかし、排ガスの温度が450℃±10℃以外の場合には440℃より下回っているか、460℃より上回っているかをチェックする(ステップ126)。なお、ステップ126では、前進自動運転が正常に行われているか否かを排ガスの温度でチェックする制御機能である。
【0065】
原動機4の排ガスの温度が440℃より下回っている場合には、原動機4に対する負荷力低下と判断し、油圧ポンプ用制御弁33のソレノイド33aへの制御信号の入力レベルを少しだけ上昇させ(ステップ127)、可変容量型油圧ポンプ7の一方の吸入吐出ポート71からの駆動用オイルの吐出量を微増させると(ステップ128)、可変容量型油圧モータ8が回転を開始することで太陽歯車211も回転して見掛け上の減速比が下がるので、複数の遊星歯車212が公転すると遊星キャリア214を介してプロペラ5の正転方向の回転数が可変容量型油圧ポンプ7の一方の吸入吐出ポート71からの駆動用オイルの吐出量に応じて上がる(ステップ129)。そして、ステップ126に戻り原動機4の排気ガス温度が450℃±10℃であるかをチェックし、その範囲内ならば前進自動運転を続行する。
【0066】
一方、原動機4の排ガスの温度が460℃より上回っている場合には、原動機4の過負荷と判断し、油圧ポンプ用制御弁33のソレノイド33bへの制御信号の入力レベルを少しだけ上昇させ(ステップ130)、可変容量型油圧ポンプ7の他方の吸入吐出ポート72からの駆動用オイルの吐出量を微増させると(ステップ131)、可変容量型油圧モータ8が回転を開始することで太陽歯車211も回転して見掛け上の減速比が上がるので、複数の遊星歯車212が公転すると遊星キャリア214を介してプロペラ5の正転方向の回転数が可変容量型油圧ポンプ7の他方の吸入吐出ポート72からの駆動用オイルの吐出量に応じて下がる(ステップ132)。そして、ステップ126に戻り原動機4の排気ガス温度が450℃±10℃であるかをチェックし、その範囲内ならば前進自動運転を続行する。
【0067】
このように、ステップ125〜132の前進自動運転中に航行速度制御レバー37を操作すると(ステップ133)、油圧ポンプ用制御弁33は、2つのソレノイド33a、33bが何れも制御信号の入力レベルがゼロになることで遮断位置になるので、可変容量型油圧ポンプ7の各吸入吐出ポート71、72からの吐出量がゼロになり、可変容量型油圧モータ8が最大ブレーキ力で停止することになる(ステップ134)。したがって、前進自動運転が解除されると共に、原動機4のみでプロペラ5は正転方向に回転することになる。その後、ステップ123に戻ることになる。
【0068】
また、ステップ108において、航行速度制御レバー37が船舶を後進させるように操作されると、ロータリーエンコーダがそのレバーポジションを検出し、レバー角度が第1の後進操作である例えば−5°(後進スタート角度)〜−25°の場合は、油圧ポンプ用制御弁33のソレノイド33bへの制御信号の入力レベルを上昇させるので、可変容量型油圧ポンプ7の他方の吸入吐出ポート72からの駆動用オイルの吐出量が増加する。このように、可変容量型油圧ポンプ7の他方の吸入吐出ポート72からの駆動用オイルの吐出量が増加すると、図3(C)に示すように、可変容量型油圧モータ8が太陽歯車211をプロペラ5の逆転方向と同一方向に回転させるように回転を開始するので、複数の遊星ギヤ212が公転して遊星キャリア214が逆転を開始する。遊星キャリア214が逆転を開始することで、プロペラ軸5aを介してプロペラ5が逆転を開始する。なお、航行速度制御レバー37のレバー角度が−5°(後進スタート角度)〜−25°の範囲外の場合には、ステップ108に戻ることになる(ステップ135、136)。
【0069】
ステップ136を処理後、回転数検出センサ39からプロペラ5が逆転を開始した旨の検出信号が入力すると(ステップ137)、油圧ポンプ用制御弁33のソレノイド33bへの制御信号の入力レベルが上限に到達する(ステップ138)。ここで、ロータリーエンコーダが航行速度制御レバー37のレバーポジションを検出し、レバー角度が第2の後進操作(後進増速の角度)である例えば−25°〜−70°の場合は、そのレバー角度に応じて油圧モータ用制御弁34のソレノイド34aの制御信号の入力レベルを上昇させるので、プロペラ5の逆転方向の回転数が上がることになる(ステップ139、140、141)。したがって、船舶は後進する。なお、航行速度制御レバー37のレバー角度が−25°〜−70°の範囲外の場合には、ステップ135に戻ることになる。
【0070】
次に、船舶の自動前進運転中にプロペラで制動して停止させるコントローラの航行制御について図1〜図3、図5を参照しながら説明する。
【0071】
航行速度制御レバー37のレバー角度が+25°〜+110°における前進自動運転中の場合に、当該航行速度制御レバー37を減速方向に操作すると(ステップ201、202、203)、ロータリーエンコーダがそのレバーポジションを検出し、そのレバーポジションに基づき油圧ポンプ用制御弁33は、2つのソレノイド33a、33bが何れもオフになることで遮断位置になるので、可変容量型油圧ポンプ7の各吸入吐出ポート71、72からの吐出量がゼロになり可変容量型油圧モータ8が最大ブレーキ力で停止することになる(ステップ204)。したがって、原動機4のみで正転しているプロペラ5は、当該原動機4の回転数が下がるので、正転方向の回転数が下がる(ステップ205)。
【0072】
原動機4によりプロペラ5の正転方向の回転数が下がると、航行速度制御レバー37のレバー角度が+25°に到達しているか否かをチェックし、到達している場合には原動機4が予め定められたアイドリング回転数になっているかをチェックする。なお、航行速度制御レバー37のレバー角度が+25°に到達していない場合には、ステップ203に戻ることになる(ステップ206)。
【0073】
原動機4が所定のアイドリング回転数になっていると(ステップ207)、油圧ポンプ用制御弁33のソレノイド33bへの制御信号の入力レベルを上昇させるので、可変容量型油圧ポンプ7の他方の制御ポート72からの制御用オイルの吐出量が増加する(ステップ208)。また、油圧モータ用制御弁34のソレノイド34aへの制御信号の入力レベルを上昇させる。このように、可変容量型油圧ポンプ7の他方の制御ポート72からの制御用オイルの吐出量が増加し、油圧モータ用制御弁34のソレノイド34aへの制御信号の入力レベルが上昇することで、可変容量型油圧モータ8の駆動用オイルの吸収量を下げることができる。可変容量型油圧ポンプ7の他方の制御ポート72からの制御用オイルの吐出量を上限まで上げて可変容量型油圧モータ8の駆動用オイルの吸収量を下げた状態で、図3(D)に示すように、可変容量型油圧モータ8が太陽歯車211をプロペラ5の逆転方向と同一方向に回転させるように回転を上げると(ステップ209)、複数の遊星ギヤ212が公転して遊星キャリア214の正転回転数を下げるので、プロペラ軸5aを介してプロペラ5は正転回転数が大幅に下がることになる(ステップ210)。即ち、プロペラ5の正転回転数を、当該プロペラ5の羽根が水から受ける抵抗によって船舶を制動可能な数値まで下げることができる。
【0074】
そして、前進クラッチ用制御弁32を制御しソレノイド32aをオフにして遮断位置にすることにより、前進クラッチ6が遮断され原動機4の動力が外輪歯車213に伝達されなくなる(ステップ211)。前進クラッチ6が遮断されると、ブレーキクラッチ用制御弁35を制御しソレノイド35aをオンにして接続位置にすることにより、外輪歯車ブレーキクラッチ9はブレーキ歯車24を固定するので、外輪歯車213が固定される(ステップ212)。このように、前進クラッチ6を遮断し、外輪歯車213を固定することで、可変容量型油圧ポンプ7及び可変容量型油圧モータ8のみでプロペラ5を駆動することが可能になる。
【0075】
前進クラッチ6を遮断し、外輪歯車213を固定後、油圧モータ用制御弁34のソレノイド34aへの制御信号の入力レベルを下げ、さらに、油圧モータ用制御弁34を制御しソレノイド34aをオフにして遮断位置にすることにより、可変容量型油圧モータ8内の駆動用オイルの吸収量が最大になり、当該可変容量型油圧モータの最大ブレーキ力になる(ステップ213、214)。そして、この時点においては、可変容量型油圧モータ8のみでプロペラ5を回転させるために、スプリングオフセット電磁比例方式である油圧ポンプ用制御弁33のソレノイド33aへの制御信号の入力レベルは上昇しているので、その油圧ポンプ用制御弁33のソレノイド33aへの制御信号の入力レベルを下げることで、図3(A)に示すように、可変容量型油圧ポンプ7及び可変容量型油圧モータ8のみでプロペラ5の正転回転数を原動機4のアイドリング回転数より除々に下げることができるようになる(ステップ215)。
【0076】
可変容量型油圧ポンプ7及び可変容量型油圧モータ8のみでプロペラ5を駆動できるようになると、航行速度制御レバー37のレバー角度が+5°に到達しているか否かをチェックし、到達している場合にはステップ217に進み、到達していない場合には、ステップ212に戻ることになる(ステップ216)。
【0077】
ステップ217では、油圧ポンプ用制御弁33を制御しソレノイド33aをオフにして遮断位置にすることにより、可変容量型油圧ポンプ7の吐出量がゼロになり、可変容量型油圧モータ8が最大ブレーキ力で停止することになるので、回転数検出センサ39からプロペラ5の回転数がゼロになった旨の検出信号が入力する(ステップ217、218)。即ち、可変容量型油圧モータ8でプロペラ5の回転数をプロペラキャビテーション現象が発生しないように徐々に下げながらゼロにして当該プロペラ5の羽根が水から受ける抵抗を最大にするように、船舶を制動することができる。また、原動機4でアイドリング回転数以下にすることで生じる船舶推進軸系のねじり振動特性を考慮することなくプロペラ5の回転数をゼロにすることができる。
【0078】
ステップ218を処理後、原動機4が予め定められたアイドリング回転数になっているか否かをチェックする(ステップ219)。ここで、船舶を完全停止させるために、航行速度制御レバー37が後進操作されると(ステップ220)、ロータリーエンコーダがそのレバーポジションを検出し、レバー角度が第1の後進操作である例えば−5°(後進スタート角度)〜−25°の場合は、油圧ポンプ用制御弁33のソレノイド33bへの制御信号の入力レベルを上昇させるので、可変容量型油圧ポンプ7の他方の吸入吐出ポート72からの駆動用オイルの吐出量が増加する。このように、可変容量型油圧ポンプ7の他方の吸入吐出ポート72からの駆動用オイルの吐出量が増加すると、可変容量型油圧モータ8が太陽歯車211をプロペラ5の逆転方向と同一方向に回転させるように回転を開始するので、複数の遊星ギヤ212が公転して遊星キャリア214が逆転を開始する。遊星キャリア214が逆転を開始することで、プロペラ軸5aを介してプロペラ5が逆転を開始する。なお、航行速度制御レバー37のレバー角度が−5°(後進スタート角度)〜−25°の範囲外の場合には、ステップ217に戻ることになる(ステップ221、222、223)。
【0079】
この航行速度制御レバー37による第1の後進操作で船舶が完全停止することで、航行速度制御レバー37が後進減速操作されると(ステップ224)、航行速度制御レバー37のレバー角度が−5°に到達しているか否かをチェックし、到達している場合にはステップ226に進み、到達していない場合には、ステップ224に戻ることになる(ステップ225)。
【0080】
ステップ226では、油圧ポンプ用制御弁33を制御しソレノイド33bをオフにして遮断位置にすることにより、可変容量型油圧ポンプ7の吐出量がゼロになり、可変容量型油圧モータ8が最大ブレーキ力で停止することになるので、回転数検出センサ39からプロペラ5の回転数がゼロになった旨の検出信号が入力する(ステップ226、227)。即ち、プロペラ5は回転数がゼロになると共に固定されるので、後進時において当該プロペラ5の羽根が水から受ける抵抗を最大にすることができる。
【0081】
最後に、航行速度制御レバー37が中立位置に操作されることで、船舶の制動が完了する(ステップ228)。
【0082】
次に、電動機のみで船舶の前進手動運転におけるコントローラの航行制御について図1〜図3、図6を参照しながら説明する。
【0083】
船舶の操縦室に設置されている切換スイッチ301で、動力源として電動機を選択して始動すると(ステップ301)、原動機クラッチ用制御弁31を制御しソレノイド31aをオフにして遮断位置にするので、原動機クラッチ10は遮断される(ステップ302)。原動機クラッチ10を遮断後、電動機クラッチ用制御弁300を制御しソレノイド300aをオンにして接続位置にすることにより、電動機クラッチ13は電動機12とポンプ軸11aとを接続するので、電動機12の動力は第2のポンプ歯車28に伝達される(ステップ303)。
【0084】
ステップ303を処理後においては、油圧ポンプ用制御弁33は、2つのソレノイド33a、33bが何れも制御信号の入力レベルがゼロになることで遮断位置になるので、可変容量型油圧ポンプ7の各吸入吐出ポート71、72からの吐出量がゼロになり太陽歯車211が固定される(ステップ304)。
【0085】
この時点で、航行速度制御レバー37が中立位置に位置しているか否かをチェックする(ステップ305)。航行速度制御レバー37が中立位置に位置している場合にはブレーキクラッチ用制御弁35を制御しソレノイド35aをオンにして接続位置にすることにより、外輪歯車ブレーキクラッチ9はブレーキ歯車24を固定するので、外輪歯車213が固定される。このように、外輪歯車213が固定され且つ太陽歯車211が固定されるので、プロペラ5の回転数をゼロにすると共にプロペラ5をロック状態にすることができる。なお、航行速度制御レバー37が中立位置に位置していない場合はステップ302まで戻る(ステップ306、307)。
【0086】
外輪歯車213を固定後、回転数検出センサ39からプロペラ5の回転数がゼロになった旨の検出信号が入力し、且つ航行速度制御レバー37が前進操作されると(ステップ308)、ロータリーエンコーダがそのレバーポジションを検出し、レバー角度が第1の前進操作である例えば+5°(前進スタート角度)〜+25°の場合は、油圧ポンプ用制御弁33のソレノイド33aへの制御信号の入力レベルを上昇させるので、可変容量型油圧ポンプ7の一方の吸入吐出ポート71からの駆動用オイルの吐出量が増加する。このように、可変容量型油圧ポンプ7の一方の吸入吐出ポート71からの駆動用オイルの吐出量が増加すると、可変容量型油圧モータ8が太陽歯車211をプロペラ5の正転方向と同一方向に回転させるように回転を開始するので、複数の遊星ギヤ212が公転して遊星キャリア214が正転を開始する。遊星キャリア214が正転を開始することで、プロペラ軸5aを介してプロペラ5が正転を開始する。なお、航行速度制御レバー37のレバー角度が+5°(前進スタート角度)〜+25°の範囲外の場合には、ステップ308に戻ることになる(ステップ309、310)。
【0087】
ステップ310を処理後、回転数検出センサ39からプロペラ5が正転を開始した旨の検出信号が入力すると(ステップ311)、油圧ポンプ用制御弁33のソレノイド33aへの制御信号の入力レベルが上限に到達すると共に、油圧モータ用制御弁34のソレノイド34aの制御信号の入力レベルを上昇させると、図3(A)に示すように、プロペラ5の正転方向の回転数が上がることになる(ステップ312、313)。
【0088】
ステップ313を処理後、回転数検出センサ39からプロペラ5の正転方向の回転数が上昇した旨の検出信号が入力すると(ステップ314)、航行速度制御レバー37のレバー角度が+25°に到達しているか否かをチェックし、到達している場合にはブレーキクラッチ用制御弁35を制御しソレノイド35aをオフにして遮断位置にすることにより、ブレーキクラッチ用制御弁35は外輪歯車ブレーキクラッチ9を遮断するので、外輪歯車213が自由回転状態になる(ステップ315、316)。なお、航行速度制御レバー37のレバー角度が+25°に到達していない場合には、ステップ308に戻ることになる。
【0089】
ステップ316を処理後、前進クラッチ用制御弁32を制御しソレノイド32aをオンにして接続位置にすることにより、前進クラッチ6が接続され原動機4の動力が外輪歯車213に伝達されることになるので、図3(B)に示すように、自由回転状態の外輪歯車213は電動機12によって回転を開始する(ステップ317)。即ち、船舶は電動機12で前進航行することになる(ステップ318)。
【0090】
したがって、電動機12のみによる船舶の前進手動運転においても、航行速度制御レバー37のレバー角度を第2の前進操作(前進増速の角度)である例えば+25°〜+110°に操作することで、電動機12のみでその航行速度制御レバー37のレバー角度に応じた速度で航行することができる。
【0091】
また、ステップ308において、航行速度制御レバー37が船舶を後進させるように操作されると、ロータリーエンコーダがそのレバーポジションを検出し、レバー角度が第1の後進操作である例えば−5°(後進スタート角度)〜−25°の場合は、油圧ポンプ用制御弁33のソレノイド33bへの制御信号の入力レベルを上昇させるので、可変容量型油圧ポンプ7の他方の吸入吐出ポート72からの駆動用オイルの吐出量が増加する。このように、可変容量型油圧ポンプ7の他方の吸入吐出ポート72からの駆動用オイルの吐出量が増加すると、図3(C)に示すように、可変容量型油圧モータ8が太陽歯車211をプロペラ5の逆転方向と同一方向に回転させるように回転を開始するので、複数の遊星ギヤ212が公転して遊星キャリア214が逆転を開始する。遊星キャリア214が逆転を開始することで、プロペラ軸5aを介してプロペラ5が逆転を開始する。なお、航行速度制御レバー37のレバー角度が−5°(後進スタート角度)〜−25°の範囲外の場合には、ステップ308に戻ることになる(ステップ319、320)。
【0092】
ステップ320を処理後、回転数検出センサ39からプロペラ5が逆転を開始した旨の検出信号が入力すると(ステップ321)、油圧ポンプ用制御弁33のソレノイド33bへの制御信号の入力レベルが上限に到達すると共に、油圧モータ用制御弁34のソレノイド34aの制御信号の入力レベルを上昇させると、図3(C)に示すように、プロペラ5の正転方向の回転数が上がることになる(ステップ322、323、324)。したがって、船舶を後進させることができる(ステップ325)。
【0093】
次に、電動機のみで船舶の前進手動運転中にプロペラで制動して停止させるコントローラの航行制御について図1〜図3、図7を参照しながら説明する。
【0094】
航行速度制御レバー37のレバー角度が+25°〜+110°における前進手動運転中で、可変容量型油圧ポンプ7の一方の吸入吐出ポート71から駆動用オイルが吐出中の場合に、当該航行速度制御レバー37を減速方向に操作すると(ステップ401、402、403)、ロータリーエンコーダがそのレバーポジションを検出し、そのレバーポジションに基づき油圧ポンプ用制御弁33を制御しソレノイド33aをオフにして遮断位置にすることにより可変容量型油圧ポンプ7の吐出量をゼロにすると共に、ソレノイド33bへの制御信号の入力レベルを上げる(ステップ404)。油圧ポンプ用制御弁33のソレノイド33bへの制御信号の入力レベルが上がると、可変容量型油圧ポンプ7の他方の制御ポート72からの制御用オイルの吐出量が増加する(ステップ405)。
【0095】
また、油圧モータ用制御弁34のソレノイド34aへの制御信号の入力レベルを上昇させる。このように、可変容量型油圧ポンプ7の他方の制御ポート72からの制御用オイルの吐出量が増加し、油圧モータ用制御弁34のソレノイド34aへの制御信号の入力レベルが上昇することで、可変容量型油圧モータ8の駆動用オイルの吸収量を下げることができる。可変容量型油圧ポンプ7の他方の制御ポート72からの制御用オイルの吐出量を上限まで上げて可変容量型油圧モータ8の駆動用オイルの吸収量を下げた状態で、図3(D)に示すように、可変容量型油圧モータ8が太陽歯車211をプロペラ5の逆転方向と同一方向に回転させるように回転を上げると(ステップ406)、複数の遊星ギヤ212が公転して遊星キャリア214の正転回転数を下げるので、プロペラ軸5aを介してプロペラ5は正転回転数が大幅に下がることになる(ステップ407)。即ち、プロペラ5の正転回転数を、当該プロペラ5の羽根が水から受ける抵抗によって船舶を制動可能な数値まで下げることができる。
【0096】
電動機12によりプロペラ5の正転方向の回転数が下がると、航行速度制御レバー37のレバー角度が+25°に到達しているか否かをチェックする(ステップ408)。航行速度制御レバー37のレバー角度が+25°に到達している場合には、前進クラッチ用制御弁32を制御しソレノイド32aをオフにして遮断位置にすることにより、前進クラッチ6が遮断され電動機12の動力が外輪歯車213に伝達されなくなる(ステップ409)。前進クラッチ6が遮断されると、ブレーキクラッチ用制御弁35を制御しソレノイド35aをオンにして接続位置にすることにより、外輪歯車ブレーキクラッチ9はブレーキ歯車24を固定するので、外輪歯車213が固定される(ステップ410)。このように、前進クラッチ6を遮断し、外輪歯車213を固定することで、可変容量型油圧ポンプ7及び可変容量型油圧モータ8のみでプロペラ5を駆動することが可能になる。なお、航行速度制御レバー37のレバー角度が+25°に到達していない場合には、ステップ404に戻ることになる。
【0097】
ステップ410を処理後、航行速度制御レバー37のレバー角度が+5°〜+25°の範囲内であるか否かをチェックする(ステップ411)。航行速度制御レバー37のレバー角度が+5°〜+25°の場合は、油圧モータ用制御弁34のソレノイド34aへの制御信号の入力レベルを下げ、さらに、油圧モータ用制御弁34を制御しソレノイド34aをオフにして遮断位置にすることにより、可変容量型油圧モータ8内の駆動用オイルの吸収量が最大になり、当該可変容量型油圧モータの最大ブレーキ力になる(ステップ412、413)。そして、この時点においては、可変容量型油圧モータ8のみでプロペラ5を回転させるために、スプリングオフセット電磁比例方式である油圧ポンプ用制御弁33のソレノイド33aへの制御信号の入力レベルは上昇しているので、その油圧ポンプ用制御弁33のソレノイド33aへの制御信号の入力レベルを下げることで、図3(A)に示すように、可変容量型油圧ポンプ7及び可変容量型油圧モータ8のみでプロペラ5の正転回転数を原動機4のアイドリング回転数より除々に下げることができるようになる(ステップ414)。
【0098】
なお、航行速度制御レバー37のレバー角度が+5°〜+25°の範囲外の場合には、ステップ409に戻ることになる。
【0099】
可変容量型油圧ポンプ7及び可変容量型油圧モータ8のみでプロペラ5を駆動できるようになると、航行速度制御レバー37のレバー角度が+5°に到達しているか否かをチェックし、到達している場合にはステップ416に進み、到達していない場合には、ステップ412に戻ることになる(ステップ415)。
【0100】
ステップ416では、油圧ポンプ用制御弁33を制御しソレノイド33aをオフにして遮断位置にすることにより、可変容量型油圧ポンプ7の吐出量がゼロになり、可変容量型油圧モータ8が最大ブレーキ力で停止することになるので、回転数検出センサ39からプロペラ5の回転数がゼロになった旨の検出信号が入力する(ステップ416、417)。即ち、可変容量型油圧モータ8でプロペラ5の回転数をプロペラキャビテーション現象が発生しないように徐々に下げながらゼロにして当該プロペラ5の羽根が水から受ける抵抗を最大にするように、船舶を制動することができる。
【0101】
これまで本発明について図面に示した特定の実施の形態をもって説明してきたが、本発明は図面に示した実施の形態に限定されるものではなく、本発明の効果を奏する限り、これまで知られたいかなる構成であっても採用することができることはいうまでもないことである。
【図面の簡単な説明】
【0102】
【図1】本発明の船舶の制動装置の好ましい実施の形態例を示す構成図である。
【図2】本発明の船舶の制動装置の主要部であるコントローラとコントローラが制御する機器との関係を示す制御ブロック図である。
【図3】本発明の船舶の制動装置が適用される動力伝達機構の遊星歯車機構の動作状態を示す説明図である。
【図4】船舶の通常の航行運転におけるコントローラの航行制御を示すフローチャート図である。
【図5】本発明の船舶の制動方法の好ましい実施の形態例を示す図で、船舶の通常の航行運転におけるコントローラの制動制御を示すフローチャート図である。
【図6】船舶の電動機による航行運転におけるコントローラの航行制御を示すフローチャート図である。
【図7】本発明の船舶の制動方法の好ましい実施の形態例を示す図で、船舶の電動機による航行運転におけるコントローラの制動制御を示すフローチャート図である。
【符号の説明】
【0103】
1……プロペラ駆動装置
4……原動機
5……プロペラ
5a……プロペラ軸
6……前進クラッチ
7……可変容量型油圧ポンプ
8……可変容量型油圧モータ
9……外輪歯車ブレーキクラッチ
12……電動機
13……電動機クラッチ
21……遊星歯車機構
211……太陽歯車
212……複数の遊星歯車
213……外輪歯車
214……遊星キャリア
22……入力歯車
23……第1のポンプ歯車
24……ブレーキ歯車
28……第2のポンプ歯車
32……前進クラッチ用制御弁
33……油圧ポンプ用制御弁
34……油圧モータ用制御弁
35……ブレーキクラッチ用制御弁
36……コントローラ
37……航行速度制御レバー
300……電動機クラッチ用制御弁
301……切換スイッチ(切換手段)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
船舶の動力源となるピストン機関である原動機と、
前記原動機を使用して前記船舶の航行速度を手動調節するための航行速度制御レバーと、
太陽歯車、複数の遊星歯車、外輪歯車及び前記複数の遊星歯車を回動自在に支持する遊星キャリアを有し、前記船舶を前進自動運転させる場合には、前記外輪歯車が回転可能になると共に前記太陽歯車が固定される遊星歯車機構と、
前記遊星キャリアに接続されたプロペラ軸で回転するプロペラと、
前記外輪歯車の外周に形成された外歯車に噛合される入力歯車に前記原動機からの動力を伝達・遮断する前進クラッチと、
前記入力歯車に噛合される第1のポンプ歯車によって駆動する吐出方向が二方向となる可変容量型油圧ポンプと、
前記可変容量型油圧ポンプによって駆動され前記太陽歯車を駆動する回転方向が二方向となる可変容量型油圧モータと、
前記外輪歯車の前記外歯車に噛合されるブレーキ歯車を選択的に固定する外輪歯車ブレーキクラッチと、
前記前進クラッチを油圧制御する前進クラッチ用制御弁と、
前記可変容量型油圧ポンプを油圧制御する油圧ポンプ用制御弁と、
前記可変容量型油圧モータを油圧制御する油圧モータ用制御弁と、
前記外輪歯車ブレーキクラッチを油圧制御するブレーキクラッチ用制御弁とを備えたプロペラ駆動装置によって船舶の制動を行う船舶の制動装置であって、
前記航行速度制御レバーを前記原動機の前進自動運転状態の位置から当該原動機をアイドリング状態にする位置に移動させると、前記油圧ポンプ用制御弁を制御して前記可変容量型油圧ポンプを停止させ、前記原動機がアイドリング状態になると、前記油圧ポンプ用制御弁及び前記油圧モータ用制御弁を制御して前記可変容量型油圧ポンプを介して前記可変容量型油圧モータの前記船舶が後進する際の回転方向の回転数を上げることで、前記太陽歯車で前記複数の遊星歯車の公転を制御して前記プロペラの正転回転数を当該プロペラの羽根が水から受ける抵抗によって前記船舶を制動可能な数値まで下げる第1のプロペラ制御機能、及び前記第1のプロペラ制御機能によって前記プロペラが前記船舶を制動可能な回転数まで下がると、前記前進クラッチ用制御弁を制御して前記前進クラッチを遮断すると共に前記ブレーキクラッチ用制御弁を制御して前記外輪歯車ブレーキクラッチで前記外輪歯車を固定し、さらに、前記油圧モータ用制御弁を制御して前記可変容量型油圧モータの前記船舶が前進する際の回転方向の回転数を徐々に下げて停止すると共に、前記油圧ポンプ用制御弁を制御して前記可変容量型油圧ポンプの吐出量を徐々に減らして停止して前記プロペラの回転数の低下を無段階にて行うことで、前記プロペラの回転数をプロペラキャビテーション現象が発生しないように徐々に下げながらゼロにして当該プロペラの羽根が水から受ける抵抗を最大にする第2のプロペラ制御機能を有するコントローラを備えたことを特徴とする船舶の制動装置。
【請求項2】
前記プロペラ駆動装置は、
前記第2のポンプ歯車を駆動する電動機と、
前記第2のポンプ歯車に前記電動機からの動力を伝達・遮断する電動機クラッチと、
前記電動機クラッチを油圧制御する電動機クラッチ用制御弁と、
前記船舶を航行させるための動力源を前記電動機及び前記原動機の何れか1つに選択すると共に何れの動力源も前記航行速度制御レバーで制御可能になる切換手段とを備え、
前記コントローラは、前記切換手段で前記電動機が選択され、前記船舶が前記電動機で前進手動運転状態において、前記遊星歯車機構の前記外輪歯車が回転可能になると共に前記太陽歯車が固定される状態で、前記航行速度制御レバーを前記電動機の前記前進手動運転状態の位置から前記船舶を減速させる方向に移動させると、前記第1のプロペラ制御機能及び前記第2のプロペラ制御機能を実行する第3のプロペラ制御機能を有することを特徴とする請求項1記載の船舶の制動装置。
【請求項3】
船舶の動力源となるピストン機関である原動機と、
前記原動機を使用して前記船舶の航行速度を手動調節するための航行速度制御レバーと、
太陽歯車、複数の遊星歯車、外輪歯車及び前記複数の遊星歯車を回動自在に支持する遊星キャリアを有し、前記船舶を前進自動運転させる場合には、前記外輪歯車が回転可能になると共に前記太陽歯車が固定される遊星歯車機構と、
前記遊星キャリアに接続されたプロペラ軸で回転するプロペラと、
前記外輪歯車の外周に形成された外歯車に噛合される入力歯車に前記原動機からの動力を伝達・遮断する前進クラッチと、
前記入力歯車に噛合される第1のポンプ歯車によって駆動する吐出方向が二方向となる可変容量型油圧ポンプと、
前記可変容量型油圧ポンプによって駆動され前記太陽歯車を駆動する回転方向が二方向となる可変容量型油圧モータと、
前記外輪歯車の前記外歯車に噛合されるブレーキ歯車を選択的に固定する外輪歯車ブレーキクラッチと、
前記前進クラッチを油圧制御する前進クラッチ用制御弁と、
前記可変容量型油圧ポンプを油圧制御する油圧ポンプ用制御弁と、
前記可変容量型油圧モータを油圧制御する油圧モータ用制御弁と、
前記外輪歯車ブレーキクラッチを油圧制御するブレーキクラッチ用制御弁とを備えたプロペラ駆動装置をコントローラで制御することで船舶の制動を行う船舶の制動方法であって、
前記コントローラは、前記航行速度制御レバーが前記原動機の前進自動運転状態の位置から当該原動機をアイドリング状態にする位置に移動すると、前記油圧ポンプ用制御弁を制御して前記可変容量型油圧ポンプを停止させるステップと、
前記原動機がアイドリング状態になると、前記油圧ポンプ用制御弁及び前記油圧モータ用制御弁を制御して前記可変容量型油圧ポンプを介して前記可変容量型油圧モータの前記船舶が後進する際の回転方向の回転数を上げて、前記太陽歯車で前記複数の遊星歯車の公転を制御して前記プロペラの正転回転数を当該プロペラの羽根が水から受ける抵抗によって前記船舶を制動可能な数値まで下げるステップと、
前記プロペラが前記船舶を制動可能な回転数まで下がると、前記前進クラッチ用制御弁を制御して前記前進クラッチを遮断すると共に前記ブレーキクラッチ用制御弁を制御して前記外輪歯車ブレーキクラッチで前記外輪歯車を固定するステップと、
前記外輪歯車を固定後、前記油圧モータ用制御弁を制御して前記可変容量型油圧モータの前記船舶が前進する際の回転方向の回転数を徐々に下げて停止すると共に、前記油圧ポンプ用制御弁を制御して前記可変容量型油圧ポンプの吐出量を徐々に減らして停止して前記プロペラの回転数の低下を無段階にて行うことで、前記プロペラの回転数をプロペラキャビテーション現象が発生しないように徐々に下げながらゼロにして当該プロペラの羽根が水から受ける抵抗を最大にするステップとから成ることを特徴とする船舶の制動方法。
【請求項4】
前記第2のポンプ歯車を駆動する電動機と、
前記第2のポンプ歯車に前記電動機からの動力を伝達・遮断する電動機クラッチと、
前記電動機クラッチを油圧制御する電動機クラッチ用制御弁と、
前記船舶を航行させるための動力源を前記電動機及び前記原動機の何れか1つに選択すると共に何れの動力源も前記航行速度制御レバーで制御可能になる切換手段とを備えた前記プロペラ駆動装置を前記コントローラで制御することで船舶の制動を行う船舶の制動方法であって、
前記コントローラは、前記切換手段で前記電動機が選択され、前記船舶が前記電動機で前進手動運転状態において、前記遊星歯車機構の前記外輪歯車が回転可能になると共に前記太陽歯車が固定される状態で、前記航行速度制御レバーが前記電動機の前記前進手動運転状態の位置から前記船舶を減速させる方向に移動すると、前記すべてのステップを実行することを特徴とする請求項3記載の船舶の制動方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2009−19729(P2009−19729A)
【公開日】平成21年1月29日(2009.1.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−184131(P2007−184131)
【出願日】平成19年7月13日(2007.7.13)
【出願人】(507238698)
【出願人】(596039693)株式会社ヤマナカ (1)
【Fターム(参考)】