説明

船舶の電力供給システム

【課題】船舶の船内電気設備に効率よく電力を供給する。
【解決手段】船舶に搭載され電気設備200に電力を供給する電力供給システム400であって、電力を発生する発電機142、144と、電力の供給を受けて荷役対象121を上昇させるとともに、荷役対象121を降下させる場合に電力を発生する回生ユニット350を含むデッキクレーン122、124、126、128と、回生ユニット350が発生した電力を蓄積する蓄電器260と、発電機140、蓄電器260、電気設備200および回生ユニット350が共通に結合された母線152とを備え、母線152に基づいて、当該船舶におけるデッキクレーン122、124、126、128以外の電気設備200に電力を供給する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、船舶の電力供給システムに関する。より詳細には、回生制動機を含む起重機を備えた船舶において、船内の電気設備に電力を供給するシステムに関する。
【背景技術】
【0002】
船舶は電力を供給することにより動作する電気設備を搭載する。船舶における電力設備の例は、灯火機器、通信機器、測位装置等の他、ムアリングウインチ、ウインドラス等である。また、船舶の居住区には、調理器具、照明器具、空調装置等の電気器具も搭載される。更に、船舶の用途により、起重機、電動ハッチ等が装備される場合もある。
【0003】
下記の特許文献1には船舶用電源装置が記載される。この船舶用電源装置は、配電線を含む配電盤を介して船内負荷に接続された常用発電機に加え、電力供給源として太陽電池ユニットを備える。これにより、船舶が太陽光線から得たエネルギーを有効活用して発電用の燃料消費を抑制することができる。
【0004】
また、下記の特許文献2にも船舶用電源装置が記載される。この船舶用電源装置は、母線を直流化することにより電力供給システムを簡素化している。更に、下記特許文献3には、水中翼船に容量の大きな燃料電池を搭載して、停泊中の船内電気設備に対する電力を燃料電池から供給することが記載されている。
【特許文献1】特開平10−032942号公報
【特許文献2】特開平11−266532号公報
【特許文献3】特開2004−066917号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、太陽電池ユニットの発電効率は低く、太陽電池ユニットにより獲得された電力で船内電気設備の電力を賄うことは難しい。また、燃料電池は、発電のための燃料または燃料生成手段を用いるので、航海中の船舶の電力設備を当該燃料電池で使用する場合にはその分の燃料等を船舶に搭載しなければならないという不具合がある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の第1の形態として、船舶に搭載され電気設備に電力を供給する電力供給システムであって、電力を発生する発電機と、電力の供給を受けて荷役対象を上昇させるとともに、荷役対象を降下させる場合に電力を発生する回生制動機を有する起重機と、回生制動機が発生した電力を蓄積する蓄電器と、発電機、蓄電器、電気設備および回生制動機が共通に結合された電力母線とを備え、電力母線に基づいて、当該船舶における起重機以外の電気設備に電力を供給する電力供給システムが提供される。
【0007】
なお、上記の発明の概要は、本発明の必要な特徴の全てを列挙したものではなく、これらの特徴群のサブコンビネーションもまた、発明となり得る。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
以下、発明の実施の形態を通じて本発明を説明するが、以下の実施形態は特許請求の範囲にかかる発明を限定するものではなく、また実施形態の中で説明されている特徴の組み合わせの全てが発明の解決手段に必須であるとは限らない。
【0009】
図1は、本発明の実施形態に係る電力供給システム400を装備した貨物船100の外観を模式的に示す斜視図である。同図に示すように、この貨物船100は、船体110の内部に複数の貨物室を備える。それぞれの貨物室の天面は、ハッチカバー232により開閉される。また、ハッチカバー232の各々の近傍には、それぞれ、デッキクレーン122、124、126、128が設けられる。このような設備を備えた貨物船100は、ハッチカバー232が開いた状態で、デッキクレーン122、124、126、128を稼働させることにより、船体110内の船倉に荷役対象121を運び込み、また、運び出すことができる。
【0010】
更に、貨物船100の船体110の後端近傍には、船員が搭乗する居住区を含む船橋130が配置される。また、船橋130の下方の船体110内には、後述する発電機140および配電盤150が搭載される。配電盤150は、後述する母線152を介して船内の各部に電力を供給する。
【0011】
図2は、貨物船100の船内において、デッキクレーン122、124、126、128を含む電気設備200を模式的に示す図である。デッキクレーン122、124、126、128の各々は、船体110に対して固定されたベース部301の上端に装着された旋回塔310を備える。旋回塔310は、ベース部301に対して旋回する。更に、旋回塔310は、昇降できるジブ330を有する。ジブ330は、それ自体が昇降すると共に、その先端から垂下したワイヤを巻上げまたは巻き下げて、ワイヤの先端に懸架された荷役対象121を昇降させることができる。
【0012】
デッキクレーン122、124、126、128が荷役対象121を上昇させる場合は、荷役対象121の重量に応じた電力が消費される。一方、荷役対象121を降下させる場合は、荷役対象121およびジブ330の重量に対抗して可動部に制動をかけながら、適切な速度で降下させる。
【0013】
また、この貨物船100の電気設備200は、ウインドラス210、ムアリングウインチ220、および、電動ハッチ230を有する。これらウインドラス210、ムアリングウインチ220は、この貨物船100の母線152に接続される。ウインドラス210は、重量の大きなアンカー212を巻上げるのに用いられるが、この場合に電力を消費する。また、ムアリングウインチ220も、ムアリングワイヤ222(ムアリングチェーン)を巻上げるのに用いられるが、この場合に電力を消費する。電動ハッチ230は、船体110の甲板上に設けられたハッチカバー232を電動で開閉する。
【0014】
さらに、電気設備200は、船橋130の居住区に、ブロワ242、投光機244、室内灯246、航海灯248等、電力を消費する居住区電気設備240を有する。図示は省略したが、居住区電気設備240には、通信機器、レーダー、航法装置、調理機器等が含まれる。これらの居住区電気設備240も、母線152に接続されて電力の供給を受けるが、相対的に電力消費が少ないこと、陸上の商用電源を前提として製造された機器が多いことから、居住区電気設備240には、100V程度の電圧で電源が供給される。
【0015】
更に、この貨物船100は、上記の電力設備200に供給する電力を発生または保持する二次電池250、蓄電器260および発電機140を搭載する。発電機140は母線152に接続され、母線152を介して船内の各部に440V程度の高圧で電力を供給する。このように、船舶において、母線152に接続された発電機140を備えることにより、船内の電気設備200の稼働に大きな電力が求められる場合に、発電機140を稼働させて十分な電力を供給できる。
【0016】
二次電池250および蓄電器260は、それぞれ個別の制御装置252、262を介して母線152に接続され、過充電等を防止する。なお、二次電池250は、主に停泊中に居住区電気設備240に電力を供給する場合に利用される。
【0017】
蓄電器260は、二次電池250に対してより大きな容量を有して、後述する回生ユニット350が発生した大きな電力を蓄積する。これにより、より大きな電力を備蓄して船内の電力消費が増大した場合の電力供給を補うことができる。換言すれば、蓄電器260を搭載することにより、発電機140のピーク発電容量を抑制することができる。
【0018】
このように、母線152に接続された蓄電器260を更に備え、蓄電器260は、回生制動機として動作する回生ユニット350が発生した電力を蓄積することができる。これにより、船内の電気設備200に対する電力需要に柔軟に対応して、無駄なく回生電力を利用できる。
【0019】
このような用途で用いる蓄電器260としては、電気二重層キャパシタを用いた蓄電装置が使用されることが好ましい。電気二重層キャパシタは、電極および電解液の境界に発生した電気二重層に電荷を蓄積する。電気二重層は1分子相当という極限まで薄いギャップを形成するので、非常に大きなエネルギー密度で電力を蓄積できる。ただし、印加電圧が耐圧を越えると電気二重層が破れるので、印加電圧を管理する制御装置262と組み合わせて蓄電装置が形成される。
【0020】
このように、蓄電器260として、電気二重層キャパシタを用いた蓄電装置を用いることができる。これにより、高いエネルギー密度で電力を蓄積して、船舶内の電気設備200を稼働させる電力として利用できる。
【0021】
図3は、図1および図2に示したデッキクレーン122、124、126、128として使用する起重機300の電気的な構造を模式的に示す図である。なお、図3は、旋回塔310を抜き出して描かれている。
【0022】
同図に示すように、旋回塔310の外側には、起重機300の操縦装置が配置されたキャビン320が設けられる。また、旋回塔310の外側には、ジブ330が側方に装着される。
【0023】
旋回塔310の内部には、ジブ330を昇降させるジブモータ342、フックを懸架したワイヤを巻上げるホイストモータ344、旋回塔310自体を旋回させる旋回モータ346がそれぞれ配置される。また、母線152から供給される電力を制御してこれらジブモータ342、ホイストモータ344および旋回モータ346に供給する逆変換器340も装備される。各モータを駆動する電力は、旋回塔310の底部に設けられたスリップリング360を介して母線152より供給される。
【0024】
このように、上記電力供給システム400において、起重機300は、逆変換器340を有する電動起重機とすることができる。これにより、電動機を動力源とする起重機300を効率よく稼働させることができる。
【0025】
更に、旋回塔310には、回生ユニット350が装備される。回生ユニット350は、起重機300が取り扱う荷役対象121が降下する場合に、荷役対象121およびジブ330の運動エネルギーを電力に変換することにより、荷役対象121およびジブ330の降下速度を低減させる。回生ユニット350により発生した電力は、スリップリング360を介して船体110内の母線152に戻される。
【0026】
なお、起重機300は、荷役対象121が懸架されていない場合においても、ジブ330の重量およびワイヤの先端に装着されたフックの重量によりジブ330を降下させて、回生ユニット350から電力を発生させることができる。この場合に発生した電力も、蓄電器260および二次電池250に蓄積させて、船内の他の居住区電気設備240において利用することができる。
【0027】
図4は、貨物船100の船内の電力供給システム400の構造を模式的に示す図である。同図に示すように、この電力供給システム400は、配電盤150に設けられた母線152に対して、電気設備200の各々が遮断器156を介して接続される。また、蓄電器260および二次電池250も、それぞれ制御装置241、252、262を介して母線152に接続される。更に、発電機140も、遮断器154を介して母線152に接続される。なお、発電機140は、常用発電機142および非常用発電機144を含み、それぞれ個別に、遮断器154を介して母線152に接続される。
【0028】
上記のような電力供給システム400においては、遮断器154、156および制御装置241、252、262が電気的な接続を遮断していない限り、電気設備200の各々は母線152に電気的に結合されている。従って、この母線152に対する電力源となる発電機140、二次電池250、蓄電器260および回生ユニット350のいずれかにより十分な電力が供給されていれば、電気設備200は稼働できる。
【0029】
例えば、デッキクレーン122、124、126、128、ウインドラス210、ムアリングウインチ220、電動ハッチ230のように電力消費の大きな機器が稼働している場合は、発電機140を稼働させて消費電力に見合った電力が供給される。また、例えば停泊中で、表示灯等の小さい電力を消費する場合は、二次電池250が電力を供給する。
【0030】
一方、例えば荷役作業中は4基のデッキクレーン122、124、126、128を稼働させるので、それに見合った電力を供給することが求められる。そのような電力を発電機140から供給するには、発電量の大きな発電機140を装備しなければならない。しかしながら、この電力供給システム400では、4基のデッキクレーン122、124、126、128のうち、荷役対象121を降下させているものが装備する回生ユニット350からも電力が母線152に供給される。従って、この電力供給システム400では発電機140に求められる最大発電量を抑制することができる。
【0031】
このように、この電力供給システム400においては、船舶は共通の母線152に接続された起重機300を複数備え、起重機300のひとつが荷役対象121を降下させる場合に当該起重機300の回生制動機が発生した電力を、荷役対象121を上昇させる起重機300の他のひとつに供給することができる。これにより、回生電力を効率よく利用して起重機300を経済的に稼働させることができる。
【0032】
図5は、図1に示した貨物船100において、デッキクレーン122、124、126、128のいずれかを稼働させた場合の電力量の推移を示すグラフである。この貨物船100の電力供給システム400は図4に示す構造を有する。なお、蓄電器260としては、内部抵抗が十分に小さな電気二重層キャパシタを備えた蓄電装置(以下、「EDLC」と記載する)を用いた。
【0033】
図5に示すように、デッキクレーン122、124、126、128のひとつが荷役対象121に対して巻上げ、巻下げおよびジブ330の昇降を行った場合、動作開始当初は電動機の突入電流等により消費電力が250kWを越える。その後、荷役対象121またはジブ330を上昇させる動作の場合は電力消費が継続するが、降下させる動作の場合は回生電力が発生する。また、荷役対象121またはジブ330を上昇させる動作においても、各動作期間の終期に回生電力が発生する。従って、これら回生電力を有効利用することにより、発電機140の負荷が低減される。なお、容量の大きな蓄電器260を備えるので、デッキクレーン122、124、126、128が休止した場合は、発電機140を停止させても、居住区電気設備240等の小さな電力消費を賄うことができる。
【0034】
このように、船舶に搭載されて当該船舶における起重機300以外の電気設備200に電力を供給する電力供給システム400であって、巻下げる場合に電力を発生する回生制動機を含む起重機300と、電気設備200および回生制動機が共通に結合された母線152とを備える電力供給システム400が提供される。これにより、起重機300において荷役対象121を降下させる場合に熱エネルギーとして放散されていたエネルギーを効率よく回収して、船内の電気設備200の稼働に利用できる。また、回生電力の利用先を多種の電気設備200とすることにより、回生電力の多寡に関係なく、回生電力を効率よく利用できる。
【0035】
また、回生ユニット350を装備した起重機300で発生した電力を、電気設備200の起重機300以外の電気機器にも供給する電力供給システム400により、電力供給のための燃料消費を低減できる。これにより、燃料費の削減に加えて、炭酸ガス、窒素酸化物、硫黄酸化物等の排出量も抑制でき、環境負荷も低減できる。
【0036】
以上、本発明を実施の形態を用いて説明したが、本発明の技術的範囲は上記実施の形態に記載の範囲には限定されない。上記実施の形態に、多様な変更または改良を加え得ることが当業者に明らかである。その様な変更または改良を加えた形態も本発明の技術的範囲に含まれ得ることが、特許請求の範囲の記載から明らかである。
【図面の簡単な説明】
【0037】
【図1】本発明の実施形態に係る貨物船100の外観を模式的に示す斜視図である。
【図2】貨物船100の船内の電気設備200を模式的に示す図である。
【図3】起重機300の電気的な構造を模式的に示す図である。
【図4】貨物船100の船内の電力供給システム400の構造を模式的に示す図である。
【図5】電力供給システム400における電力量の推移を示すグラフである。
【符号の説明】
【0038】
100 貨物船、110 船体、121 荷役対象、122、124、126、128 デッキクレーン、130 船橋、140 発電機、142 常用発電機、144 非常用発電機、150 配電盤、152 母線、154、156 遮断器、200 電気設備、210 ウインドラス、212 アンカー、220 ムアリングウインチ、222 ムアリングワイヤ、230 電動ハッチ、232 ハッチカバー、240 居住区電気設備、241、252、262 制御装置、242 ブロワ、244 投光機、246 室内灯、248 航海灯、250 二次電池、260 蓄電器、300 起重機、310 旋回塔、320 キャビン、330 ジブ、340 逆変換器、342 ジブモータ、344 ホイストモータ、346 旋回モータ、350 回生ユニット、360 スリップリング、400 電力供給システム

【特許請求の範囲】
【請求項1】
船舶に搭載され電気設備に電力を供給する電力供給システムであって、
電力を発生する発電機と、
電力の供給を受けて荷役対象を上昇させるとともに、荷役対象を降下させる場合に電力を発生する回生制動機を有する起重機と、
前記回生制動機が発生した電力を蓄積する蓄電器と、
前記発電機、前記蓄電器、前記電気設備および前記回生制動機が共通に結合された電力母線と
を備え、
前記電力母線に基づいて、当該船舶における起重機以外の電気設備に電力を供給する電力供給システム。
【請求項2】
前記船舶は共通の前記母線に接続された前記起重機を複数備え、前記起重機のひとつが荷役対象を降下させる場合に当該起重機の前記回生制動機が発生した電力を、荷役対象を上昇させる前記起重機の他のひとつに供給する請求項1に記載の電力供給システム。
【請求項3】
前記起重機が、逆変換器を有する電動起重機である請求項1または請求項2に記載の電力供給システム。
【請求項4】
前記母線は、交流電力を伝達する請求項1から請求項3までのいずれか1項に記載の電力供給システム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2008−81054(P2008−81054A)
【公開日】平成20年4月10日(2008.4.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−266003(P2006−266003)
【出願日】平成18年9月28日(2006.9.28)
【出願人】(000215431)辻産業株式会社 (4)
【Fターム(参考)】