説明

船舶用エンジンの制御装置

【課題】負荷が急増したときにエンジンがストールするのを確実に防ぐことができるようにした船舶用エンジンの制御装置を提供する。
【解決手段】エンジンが、該エンジンの燃焼サイクルの各行程に相当するクランク角区間よりも充分に狭く設定された角度回転する毎に特定クランク角位置を検出するクランク角位置検出手段51と、各特定クランク角位置が検出される毎にエンジンの瞬時回転速度を検出する瞬時回転速度検出手段52と、検出された瞬時回転速度の低下から、エンジンのクランク軸に外部から駆動力を与えてエンジンをアシストする必要があるか否かを判定するアシスト要否判定手段53と、エンジンをアシストする必要があると判定されたときにモータ・ジェネレータMGからエンジンに駆動力を与えるようにモータ・ジェネレータを駆動するモータ・ジェネレータ駆動手段54とを設けた。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、船外機等の船舶用エンジンを制御する制御装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
船外機を搭載した船舶においては、ブレーキが設けられていないため、非常時や着岸時に船舶を前進航行状態から急停止させる際には、一般には、シフトレバーを「前進」位置から「ニュートラル」位置を経て「後退」位置に切り換えることにより、進行方向と逆の方向の推力を発生させるようにしている。このような場合に、前進速度が速い状態でシフトレバーを前進位置から後退位置に切り換えてプロペラを逆転させようとすると、エンジンに非常に大きい負荷がかかり、エンジンの低回転時の出力トルクが小さい場合には、エンジンがストールするおそれがある。
【0003】
上記のような問題を解決するため、特許文献1に示された船外機用エンジンの制御装置では、シフトレバーが前進位置から後退位置に切り換えられたことが検出され、クランク軸とともに回転するリラクタのエッジを検出してパルスを発生するパルス信号発生器の出力パルスの発生間隔から求めたエンジンの平均回転速度が所定値以下に低下したことが検出されたときに、スタータモータを駆動してエンジンをアシストするようにしている。
【0004】
船外機等の小型の船舶に搭載されるエンジン始動装置としては、特許文献2に示されているように、エンジンのクランク軸に取り付けられたリングギアと、スタータモータと、スタータモータの回転軸にクラッチ機構を介して結合されたピニオンギアと、スタータモータの回転軸が回転したときにピニオンギアをリングギアに向けて押し出す押出し機構と、エンジンが始動してその回転速度がスタータモータの回転速度よりも大きくなったときに上記クラッチ機構を切り離してピニオンギアをリングギアから離れる方向に後退させる後退機構とを備えたものが用いられている。
【特許文献1】特開平6−213112号公報
【特許文献2】特開平1ー224463号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記のようなエンジン始動装置でエンジンを始動する際には、最初リングギアが停止しているため、スタータモータを駆動した際にピニオンギアをリングギアにうまく噛み合わせることができる。しかしながら、エンジンが運転されている状態でスタータモータを駆動した際には、リングギアに向って押し出されたピニオンギアが、回転しているリングギアにより弾かれることが多いため、ピニオンギアをリングギアにスムースに噛み合わせることができない。この状態は、自動車のエンジンを始動させた後に誤ってスタータモータを駆動した際に、異音がしてギアが噛み合わない状態と同じである。このような始動装置のスタータモータをエンジンをアシストするためのモータとして用いると、ピニオンギアやリングギアが容易に破損するため、始動装置の寿命が短くなるのを避けられない。
【0006】
そこで、上記の始動装置に代えて、電動機としても発電機としても動作が可能な回転電機のロータを船舶用エンジンのクランク軸に直結して、この回転電機をスタータモータとして動作させることによりエンジンを始動させることが考えられる。この種の回転電機は、モータ・ジェネレータやスタータ・ジェネレータと呼ばれるが、本明細書では、この回転電機をエンジンの始動時だけでなく、運転時にも必要に応じてエンジンをアシストするモータとして動作させるため、モータ・ジェネレータと呼ぶことにする。
【0007】
モータ・ジェネレータのロータをエンジンのクランク軸に直結させておけば、エンジンの運転中でも、必要なときにその電機子コイルに駆動電流を供給して、該モータ・ジェネレータをモータとして動作させることにより、エンジンをアシストすることができる。またギアを噛み合わせたり切り離したりする必要がないため、エンジンの始動装置部分の寿命が短くなるおそれもない。
【0008】
しかしながら、モータ・ジェネレータを用いた場合でも、特許文献1に示されたように、シフトレバーが前進位置から後退位置に切り換えられたことが検出され、エンジンの平均回転速度が所定値以下に低下したことが検出されたときに、モータ・ジェネレータのモータとしての駆動を開始させるようにした場合には、エンジンがアシストを必要とする状態になったことの検出が遅れて、エンジンのアシストが遅れることがあるため、エンジンのストールを確実に防ぐことができないおそれがある。
【0009】
また小型船舶においては、潮流に逆らって停船状態を維持したり、一定の水域にとどまるために低速で旋回したりする場合などに、エンジンのアイドル回転速度を低くした状態でアイドル運転を行なわせて、いわゆるトローリングを行うことがある。エンジンのアイドル回転速度を低下させて、エンジンをストールさせることなく、安定にアイドル回転を維持することは容易ではないため、トローリング時の回転速度を低下させるには限界があった。しかし、エンジンのアイドル運転時に、エンジンがストールしようとしたときに、エンジンがアシストを必要としていると判定して、モータによりエンジンをアシストするアシスト制御を行なわせるようにすれば、エンジンをストールさせることなく、アイドル回転速度を低い状態に維持して、エンジンを微速で運転することが可能になる。
【0010】
ところが、エンジンの微速回転時には、エンジンの回転速度が行程の変化に伴って大きく変動するため、エンジンの平均回転速度に基づいてエンジンがアシストを必要としているか否かの判定を行なうようにした場合には、アシスト制御を的確に行ってエンジンの微速回転を維持することが難しく、特に低回転域での出力トルクが小さいエンジンの場合には、エンジンがストールするのを防ぐことができないことがある。
【0011】
なお本明細書においては、スロットルバルブの開度を絞って(通常は全閉状態にして)設定されたアイドル設定速度を維持しつつエンジンを回転させる状態をアイドル運転と呼び、アイドル設定速度を超える回転速度でエンジンを回転させる状態を定常運転と呼ぶ。船舶用のエンジンにおいて、アイドル設定速度は、常に一定であるとは限らず、運転者により適宜に切り換えられることがある。
【0012】
本発明の目的は、定常運転時及びトローリング時にエンジンをモータでアシストする制御を的確に行うことができるようにして、定常航行を行っている状態で負荷が急増したとき、及びアイドル設定速度を低くしてアイドル運転を行うときに、エンジンがストールするのを確実に防ぐことができるようにした船舶用エンジンの制御装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明を適用する船舶用エンジンにおいては、従来用いられていたスタータモータに代えて、モータ・ジェネレータを用い、該モータ・ジェネレータのロータをエンジンのクランク軸に直結しておく。
【0014】
本発明に係わる船舶用エンジンを制御する制御装置においては、エンジンのクランク軸が、該エンジンの燃焼サイクルの各行程に相当するクランク角区間よりも充分に狭く設定された瞬時速度検出区間を回転する毎に現れる各特定クランク角位置を検出するクランク角位置検出手段と、クランク角位置検出手段が各特定クランク角位置を検出する毎に、1つ前の特定クランク角位置が検出された時刻から今回の特定クランク角位置が検出された時刻までの時間から検出されるエンジンの回転速度をエンジンの瞬時回転速度として検出して検出した瞬時回転速度の情報を含むデータを記憶する瞬時回転速度検出手段と、瞬時回転速度検出手段により検出された瞬時回転速度の低下から、エンジンのクランク軸に外部から駆動力を与えてエンジンをアシストする必要があるか否かを判定するアシスト要否判定手段と、アシスト要否判定手段によりエンジンをアシストする必要があると判定されているときにモータ・ジェネレータからエンジンに駆動力を与えるようにモータ・ジェネレータを駆動するモータ・ジェネレータ駆動手段とが設けられる。
【0015】
上記のように、モータ・ジェネレータのロータをエンジンのクランク軸に直結して、このモータ・ジェネレータをモータとして駆動してエンジンの始動とアシストを行わせると、アシストを開始する際及びアシストを終了する際にギアを噛み合わせたり外したりする必要がないため、船舶用エンジンの始動装置部分の寿命が短くなるのを防ぐことができる。
【0016】
上記のように、エンジンのクランク軸が、該エンジンの燃焼サイクルの各行程に相当するクランク角区間よりも充分に狭く設定された瞬時速度検出区間を回転する毎に現れる各特定クランク角位置を検出するクランク角位置検出手段を設けて、このクランク角センサが各特定クランク角位置を検出する毎に、一つ前のクランク角検出信号が発生した時刻から今回のクランク角検出信号が発生した時刻までの時間からエンジンの回転速度を検出するようにすると、エンジンの瞬時回転速度を的確に検出することができる。
【0017】
このようにして検出した瞬時回転速度の低下から、エンジンのクランク軸に外部から駆動力を与えてエンジンの回転をアシストする必要があるか否かを判定して、エンジンをアシストする必要があると判定されているときにモータ・ジェネレータからエンジンに駆動力を与えるようにモータ・ジェネレータを駆動するようにすると、エンジンがモータのアシストを必要とする状態になったときに直ちにそれを検出して、エンジンをアシストすることができるため、シフトレバーが前進位置から後退位置に切り換えられた際や、アイドル設定速度を低くしてアイドル運転を行なう際にエンジンがストールするのを確実に防ぐことができる。
【0018】
本発明の好ましい態様では、エンジンがアイドル運転状態にあるのか定常運転状態にあるのかを判定する運転状態判定手段が設けられる。この場合、アシスト要否判定手段は、運転状態判定手段によりエンジンが定常運転状態にあると判定されているときにアシストの要否を判定する定常運転時アシスト要否判定手段と、運転状態判定手段によりエンジンがアイドル運転状態にあると判定されているときにアシストの要否を判定するアイドル運転時アシスト要否判定手段とにより構成される。
【0019】
上記定常運転時アシスト要否判定手段は、瞬時回転速度検出手段により検出された瞬時回転速度がクランク角位置に関わりなく一定の値に設定された定常運転時アシスト開始判定速度以下になったときにエンジンをアシストする必要があると判定し、一度エンジンのアシストが必要であると判定した後は、瞬時回転速度検出手段により検出された瞬時回転速度が定常運転時アシスト開始判定速度よりも高く設定されたアシスト終了判定速度以上になるまでアシストが必要であると判定した状態を維持するように構成される。
【0020】
またアイドル運転時アシスト要否判定手段は、瞬時回転速度検出手段により各特定クランク角位置で検出された瞬時回転速度が、各特定クランク角位置におけるアイドル運転時の安定瞬時回転速度よりも低く設定されたアイドル時アシスト開始判定速度以下であるときにエンジンのアシストが必要であると判定し、一度エンジンのアシストが必要であると判定した後は、各特定クランク角位置で検出される瞬時回転速度が当該特定クランク角位置におけるアイドル運転時の安定瞬時回転速度以上になったことが検出されるまでアシストが必要であると判定した状態を維持するように構成される。
【0021】
アイドル設定速度を低くしてエンジンをアイドル運転しているときには、回転速度が工程変化に伴って細かく変化するため、エンジンがアシストを必要としているか否かを判定するために瞬時回転速度と比較する判定速度を一律に定めても判定を的確に行なうことは難しい。
【0022】
本発明では、上記のように、各特定クランク角位置におけるアイドル運転時の安定瞬時回転速度(エンジンが安定に回転しているときの瞬時回転速度)を基準にして、各特定クランク角位置で検出された瞬時回転速度が、各特定クランク角位置におけるアイドル運転時の安定瞬時回転速度よりも低く設定されたアイドル時アシスト開始判定速度以下であるときにエンジンのアシストが必要であると判定するので、エンジンがアシストを必要としているか否かの判定を的確に行なわせて、アシストを必要とする場合にエンジンをアシストすることができ、エンジンの低回転域での出力トルクが低い場合でも、エンジンをストールさせることなく、微速でのアイドル運転を安定に行わせることができる。
【0023】
上記安定瞬時回転速度は、予め実験的に調べておいてエンジンを制御する電子制御ユニット(ECU)内のメモリに記憶させておいても良いが、極低速時の安定瞬時回転速度は、エンジンの特性のばらつきにより変動するおそれがある。そこで、本発明の好ましい態様では、上記アイドル運転時アシスト要否判定手段が、エンジンのアイドル運転時に、過去の複数の燃焼サイクルにおいて瞬時回転速度検出手段により各特定クランク角位置で検出された瞬時回転速度の平均値を各特定クランク角位置における安定瞬時回転速度として演算する安定瞬時回転速度演算手段を備えている。
【0024】
上記のように、エンジンのアイドル運転時に、各特定クランク角位置で瞬時回転速度検出手段により検出される瞬時回転速度の複数燃焼サイクルに亘る平均値を各特定クランク角位置における安定瞬時回転速度とすると、エンジンの実際の安定瞬時回転速度を基準にしてエンジンがアシストを必要としているか否かを判定することができるため、エンジンの特性のばらつきの影響を受けることなく、エンジンのアシスト制御を的確に行なわせて、アイドル運転時にエンジンが停止するのを防ぐことができる。
【0025】
上記モータ・ジェネレータとしては、ロータに設けられた磁石界磁と、ステータ側に設けられたn相(nは3以上の整数)の電機子コイルと、ステータ側でロータの磁極の極性を検出してステータのn相の電機子コイルに対するロータの回転角度位置の情報を得る信号を発生するn個のホールセンサとを備えて、該n個のホールセンサの出力信号に応じて所定の相順で転流する駆動電流を電機子コイルに流したときにモータとして動作するように構成された回転電機を用いるのが好ましい。この回転電機の基本的な構成は、ブラシレスモータのそれと同様である。
【0026】
上記のような回転電機を用いる場合、クランク角位置検出手段は、n個のホールセンサが出力する信号がレベル変化を示すクランク角位置を特定クランク角位置として検出するように構成するのが好ましい。
【0027】
一般にエンジンの回転速度情報とクランク角位置情報とを得るための信号を発生する信号源としては、クランク軸とともに回転するロータに設けられたリラクタ(誘導子)と、このリラクタの回転方向の前端側エッジ及び後端側エッジをそれぞれ検出したときに極性が異なるパルスを発生する信号発電子(ピックアップコイル)とからなるパルス信号発生器が用いられているが、このパルス信号発生器は、磁束の時間的な変化を検出してパルスを誘起するものであるため、エンジンの回転速度がきわめて低いときには、しきい値レベル以上のパルス信号を発生することが困難である。
【0028】
これに対し、ホールセンサは、エンジンの回転速度がきわめて低いときでもしきい値以上のレベルを有する検出信号を発生するため、上記のように、ホールセンサをクランク角センサとして用いると、エンジンの回転速度がきわめて低い状態でも、エンジンの回転速度情報を確実に検出して、エンジンのアシストの要否の判定を的確に行なわせることができる。
【0029】
トローリングを行なう際には、潮流などに応じてプロペラの回転速度を適宜に調整し得るようにしておくのが好ましい。従って、エンジンの回転速度をアイドル設定速度に保つように制御するアイドル制御部には、アイドル設定速度を設定するアイドル速度設定器を設けて、アイドル設定速度を切り換え得るように該アイドル速度設定器を構成しておくのが好ましい。
【発明の効果】
【0030】
以上のように、本発明によれば、モータ・ジェネレータのロータをエンジンのクランク軸に直結して、このモータ・ジェネレータをモータとして駆動してエンジンの始動とアシストとを行わせるので、アシストを開始する際及びアシストを終了する際にギアを噛み合わせたり外したりする必要がないため、船舶用エンジンの始動装置部分の寿命が短くなるのを防ぐことができる。
【0031】
本発明においては、エンジンのクランク軸が、該エンジンの燃焼サイクルの各行程に相当するクランク角区間よりも充分に狭く設定された瞬時速度検出区間を回転する毎に現れる各特定クランク角位置を検出するクランク角位置検出手段を設けて、このクランク角位置検出手段が各特定クランク角位置を検出する毎に、1つ前の特定クランク角位置が検出された時刻から今回の特定クランク角位置が検出された時刻までの時間から検出される回転速度をエンジンの瞬時回転速度として検出し、この瞬時回転速度の低下からエンジンをアシストする必要があるか否かを判定して、エンジンをアシストする必要があると判定されているときにモータ・ジェネレータからエンジンに駆動力を与えるようにモータ・ジェネレータを駆動するようにしたので、エンジンがモータのアシストを必要とする状態になったときに直ちにそれを検出して、エンジンをアシストすることができ、シフトレバーが前進位置から後退位置に切り換えられた際や、アイドル設定速度を低くしてアイドル運転を行なう際に、エンジンがストールするのを確実に防ぐことができる。
【0032】
本発明において、アシスト要否判定手段を、定常運転時アシスト要否判定手段と、アイドル運転時アシスト要否判定手段とにより構成して、アイドル運転時には、各特定クランク角位置におけるアイドル運転時の安定瞬時回転速度を基準にして、各特定クランク角位置で検出された瞬時回転速度が、各特定クランク角位置におけるアイドル運転時の安定瞬時回転速度よりも低く設定されたアイドル時アシスト開始判定速度以下であるときにエンジンのアシストが必要であると判定するようにした場合には、エンジンがアシストを必要としているか否かの判定を的確に行なわせて、アシストを必要とする場合にエンジンを直ちにアシストすることができ、エンジンの低回転域での出力トルクが低い場合でも、エンジンをストールさせることなく、微速でのアイドル運転を安定に行わせることができる。
【0033】
本発明において、エンジンのアイドル運転時に、過去の複数燃焼サイクルにおいて瞬時回転速度検出手段により各特定クランク角位置で検出された瞬時回転速度の平均値を各特定クランク角位置における安定瞬時回転速度とした場合には、エンジンの実際の安定瞬時回転速度を基準にしてエンジンがアシストを必要としているか否かを判定することができるため、エンジンの特性のばらつきの影響を受けることなく、エンジンのアシスト制御を的確に行なわせて、アイドル運転時にエンジンが停止するのを防ぐことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0034】
以下図面を参照して本発明の好ましい実施形態を詳細に説明する。
図1は本発明に係わるエンジン始動装置を備えたエンジンシステムの構成を示したものである。同図においてENGは並列2気筒4サイクルエンジンである。このエンジンの1番気筒の燃焼サイクルと2番気筒の燃焼サイクルとの位相差は360°である。1はエンジン本体を示している。エンジン本体1は、内部にピストン100が設けられた2つの気筒101(図面には1番気筒のみを示してある。)と、気筒内のピストン100にコンロッド102を介して連結されたクランク軸103とを有している。
【0035】
エンジン本体1は、吸気ポート104と、排気ポート105とを有し、吸気ポート104には吸気管106が接続されている。吸気管106内にはスロットルバルブ107が設けられ、吸気ポート104及び排気ポート105をそれぞれ開閉するように吸気バルブ108及び排気バルブ109が設けられている。エンジン本体のシリンダヘッド110の上部にはカムカバー111が取り付けられ、このカムカバー111の内側に、吸気バルブ108及び排気バルブ109を駆動するカム機構112を収容したカム室113が設けられている。
【0036】
エンジンENGはまた、吸気管106を通して気筒101内に供給する混合気を生成するために燃料を噴射する燃料噴射装置と、気筒101内で圧縮された混合気に点火する点火装置と、クランク軸103を正転方向及び逆転方向に回転駆動し得るスタータモータとを備えている。
【0037】
図示の例では、スロットルバルブ107よりも下流側の吸気管内または吸気ポート内に燃料を噴射するようにインジェクタ(電磁式燃料噴射弁)2が取り付けられ、インジェクタ2には、燃料タンク3内の燃料4を汲み出す燃料ポンプ5から燃料が供給されている。燃料ポンプ5からインジェクタ2に供給される燃料の圧力は、圧力調整器6により一定に保たれている。インジェクタ2のソレノイドは電子式制御ユニット(ECU)10内に設けられたインジェクタ駆動回路に接続されている。インジェクタ駆動回路は、ECU内で噴射指令信号が発生したときにインジェクタ2のソレノイドに駆動電圧を与える回路である。インジェクタ2は、インジェクタ駆動回路からそのソレノイドに駆動電圧Vinjが与えられている間にバルブを開いて吸気管内に燃料を噴射する。インジェクタに与えられる燃料の圧力が一定に保たれる場合、燃料の噴射量は噴射時間(インジェクタのバルブを開いている時間)により管理される。
【0038】
この例では、インジェクタ2と図示しないインジェクタ駆動回路と、該インジェクタ駆動回路に噴射指令を与える燃料噴射制御部と、燃料ポンプ5とにより燃料噴射装置が構成されている。
【0039】
エンジン本体のシリンダヘッドには、各気筒101内の燃焼室に先端の放電ギャップを臨ませた状態で各気筒用の点火プラグ12が取り付けられ、各気筒用の点火プラグは、各気筒用の点火コイル13の二次側に接続されている。各気筒用の点火コイル13の一次側は、ECU10内に設けられた図示しない点火回路に接続されている。
【0040】
点火回路は、点火指令発生部から点火指令が与えられたときに点火コイル13の一次電流I1に急激な変化を生じさせて点火コイル13の二次側に点火用の高電圧を誘起させる回路である。点火プラグ12と、点火コイル13と図示しない点火回路と、該点火回路に点火指令を与える点火指令発生部とにより、エンジンを点火する点火装置が構成されている。点火指令発生部は、エンジンの定常運転時の点火位置を演算して、演算した点火位置が検出されたときに点火指令を発生する定常時点火制御部と、エンジンの始動時に、エンジンを始動させるために適した点火位置で点火指令を発生する始動時点火制御部とにより構成される。
【0041】
図1に示されたエンジンでは、スロットルバルブをバイパスするようにソレノイドにより操作されるISC(Idle Speed Control)バルブ120が設けられている。ECU10内にはISCバルブ120に駆動信号Viscを与えるISCバルブ駆動回路が設けられ、このISCバルブ駆動回路からISCバルブ120に、エンジンのアイドリング回転速度を一定に保つように駆動信号Viscが与えられる。
【0042】
本実施形態では、エンジンの始動時及びエンジンをアシストする際にモータとして駆動され、エンジンの運転中、エンジンをアシストする必要がないときにジェネレータ(発電機)として運転される回転電機(モータ・ジェネレータと呼ばれる。)MGがエンジンに取り付けられている。回転電機MGは、エンジンのクランク軸103に取り付けられたロータ21と、エンジン本体のケース等に固定されたステータ22とからなっている。
【0043】
ロータ21は、カップ状に形成された鉄製のロータヨーク23と、その内周に取り付けられた永久磁石24とからなっている。この例では、ロータヨーク23の内周に取り付けられた永久磁石24により12極の磁石界磁が構成されている。ロータ21は、そのロータヨーク23の底壁部の中央に設けられたボス部25の内側に形成されたテーパ孔にエンジンのクランク軸103の先端のテーパ部を嵌合させて、ネジ部材によりボス部25をクランク軸103に対して締め付けることによりクランク軸103に取り付けられている。
【0044】
ステータ22は、環状のヨーク26yの外周から18個の突極部26pを放射状に突出させた構造を有するステータ鉄心26と、ステータ鉄心の一連の突極部26pに巻回されて3相結線された電機子コイル27とからなっていて、ステータ鉄心26の各突極部26pの先端の磁極部がロータの磁極部に所定のギャップを介して対向させられている。ロータヨーク23の外周には弧状の突起からなるリラクタrが形成され、エンジンのケース側には、リラクタrの回転方向の前端側エッジ及び後端側エッジをそれぞれ検出して極性が異なるパルスを発生するパルス信号発生器28が取り付けられている。
【0045】
モータ・ジェネレータMGのステータ側には、3相の各相の電機子コイルに対してそれぞれ設定された検出位置に配置されて、ロータ21の磁石界磁の各磁極の極性を検出するホールIC等のホールセンサ29uないし29wが設けられている。図1においては、3相のホールセンサ29uないし29wがロータヨーク23の外側に配置されているように図示されているが、3相のホールセンサ29uないし29wは、実際にはロータ21の内側に配置されて、ステータ22に対して固定されたプリント基板等に取り付けられている。ホールセンサの設け方は、通常の3相ブラシレスモータにおけるそれと同様である。ホールセンサ29uないし29wは、検出している磁極がN極であるときとS極であるときとでレベルが異なる電圧信号からなる位置検出信号huないしhwを出力する。
【0046】
本発明においては、ホールセンサ29uないし29wを、エンジンのクランク軸が、該エンジンの燃焼サイクルの各行程に相当するクランク角区間よりも充分に狭く設定された瞬時速度検出区間を回転する毎に現れる各特定クランク角位置でクランク角検出信号を発生するクランク角センサとしても用いる。
【0047】
モータ・ジェネレータMGの3相の電機子コイルは、配線30uないし30wを通してモータ駆動/整流回路31の交流側端子に接続され、モータ駆動/整流回路31の直流側端子間にバッテリ32が接続されている。モータ駆動/整流回路31は、MOSFETやパワートランジスタなどのオンオフ制御が可能なスイッチ素子QuないしQw及びQxないしQzにより3相Hブリッジの各辺を構成したブリッジ形の3相インバータ回路(モータ駆動回路)と、該インバータ回路のスイッチ素子QuないしQw及びQxないしQzにそれぞれ逆並列接続されたダイオードDuないしDw及びDxないしDzにより構成されたダイオードブリッジ3相全波整流回路とを備えた周知の回路である。
【0048】
モータ・ジェネレータMGをモータとして動作させる際には、ホールセンサ29uないし29wの出力から検出されたロータ21の回転角度位置に応じてインバータ回路のスイッチ素子がオンオフ制御されることにより、バッテリ32からインバータ回路を通して3相の電機子コイル27に所定の相順で転流する駆動電流が供給される。このモータ・ジェネレータのモータとしての駆動の仕方は、周知の3相ブラシレスモータの駆動の仕方と同一である。
【0049】
またエンジンが始動した後、モータ・ジェネレータMGをジェネレータとして運転する際には、電機子コイル27から得られる3相交流出力が、モータ駆動/整流回路31内の全波整流回路を通してバッテリ32と、バッテリ32の両端に接続された各種の負荷(図示せず。)とに供給される。このとき、バッテリ32の両端の電圧に応じて、インバータ回路のブリッジの上辺を構成するスイッチ素子またはブリッジ下辺を構成するスイッチ素子が同時にオンオフ制御されることにより、バッテリ32の両端の電圧が設定値を超えないように制御される。例えば、バッテリ32の両端の電圧が設定値以下のときにはインバータ回路のHブリッジを構成するスイッチ素子QuないしQw及びQxないしQzがオフ状態に保持されてモータ駆動/整流回路31内の整流回路の出力がそのままバッテリ32に印加される。また、バッテリ32の両端の電圧が設定値を超えたときには、インバータ回路のブリッジの3つの下辺(上辺でもよい)をそれぞれ構成する3つのスイッチ素子QxないしQzが同時にオン状態にされることにより、ジェネレータの3相交流出力が短絡されて、バッテリ32の両端の電圧が設定値以下に低下させられる。これらの動作の繰り返しによりバッテリ32の両端の電圧が設定値付近の値に保たれる。
【0050】
なおインバータ回路のブリッジの各辺を構成するスイッチ素子としてMOSFETが用いられる場合には、該MOSFETのドレインソース間に形成される寄生ダイオードを上記ダイオードDuないしDw及びDxないしDzとして用いることができる。
【0051】
また図示の例では、ECU10のマイクロプロセッサにエンジンの情報を与えるために、スロットルバルブ107の位置(開度)を検出するスロットルポジションセンサ35と、スロットルバルブ107よりも下流側の吸気管内圧力を検出する圧力センサ36と、エンジンの冷却水温度を検出する冷却水温度センサ37と、エンジンに吸入される空気の温度を検出する吸気温度センサ38とが設けられている。
【0052】
図2を参照すると、図1に示されたシステムの電気的な構成がブロック図で示されている。ECU10は、マイクロプロセッサ(MPU)40と、点火回路41と、インジェクタ駆動回路42と、ISCバルブ駆動回路43と、モータ駆動/整流回路31の温度を検出する温度センサ44と、マイクロプロセッサ40から与えられる指令に応じてモータ駆動/整流回路31のインバータ回路のスイッチ素子に駆動信号を与えるコントロール回路45と、所定個数のインターフェース回路I/Fとを備えている。
【0053】
マイクロプロセッサ40は、ROMに記憶された所定のプログラムを実行させることにより、エンジンを制御するために必要な各種の制御手段を構成する。図示の例では、マイクロプロセッサ40にエンジンの情報を与えるために、スロットルポジションセンサ35から得られるスロットルポジション信号Sa、圧力センサ36から得られる吸気管内圧力検出信号Sb、冷却水温度センサ37から得られる冷却水温検出信号Sc及び吸気温度センサ38から得られる吸気温度検出信号SdがECU10内のマイクロプロセッサにインターフェース回路I/Fを通して入力されている。またホールセンサ29uないし29wの出力信号huないしhwと、パルス信号発生器28の出力Spと、電圧センサ33a及び電流センサ33bからそれぞれ得られる電圧検出信号及び電流検出信号とが所定のインターフェース回路I/Fを通してマイクロプロセッサ40に入力されている。
【0054】
そして、ECU10内の点火回路41から点火コイル13に一次電流I1が供給され、ECU10内のインジェクタ駆動回路42からインジェクタ2に駆動電圧Vinjが与えられている。またコントロール回路45からモータ駆動/整流回路31のインバータ回路の6個のスイッチ素子QuないしQw及びQxないしQzにそれぞれ駆動信号(スイッチ素子をオン状態にするための信号)SuないしSw及びSxないしSzが与えられている。
【0055】
図2において、47はバッテリ32の出力電圧が入力された電源回路である。電源回路47は、バッテリ32の出力電圧を降圧して安定化することにより、ECU10の各部に供給する電源電圧を出力する。
【0056】
図3は、本実施形態のエンジン制御装置のうち、エンジンをモータでアシストするための制御を行なう部分の構成を概略的に示したブロック図である。同図において、50はエンジンがアイドル運転状態にあるのか、定常運転状態にあるのかを判定する運転状態判定手段である。この運転状態判定手段は、回転速度検出手段49が検出するエンジンの平均回転速度がアイドル設定速度以下で、かつスロットルバルブが全閉位置にある状態が所定時間継続したときにエンジンがアイドル状態にあると判定し、これらの条件の少なくとも一方が成立しないときにエンジンが定常状態(アイドル状態以外の運転状態)にあると判定する。回転速度検出手段49は、エンジンに取り付けられたパルス信号発生器28が設定されたクランク角位置で発生するパルス信号の発生周期(エンジンのクランク軸が1回転するのに要する時間)からエンジンの平均回転速度を検出する
【0057】
ECU10には、エンジンのアイドル運転時にエンジンの回転速度をアイドル設定速度に保つようにISCバルブ120を制御するアイドル制御部が設けられている。アイドル設定速度は、エンジンのクランク軸とプロペラとの間に設けられている変速機のギアポジションにより異なる値に設定される。変速機のシフトレバーがニュートラル位置にあるときのアイドル設定速度は、エンジンの温度やモータ・ジェネレータがジェネレータとして運転されるときの発電量等に応じて(アイドル運転時にもバッテリが充電されるように)予め設定された値をとる。変速機のシフトレバーがニュートラル位置にあるときのアイドル設定速度は、通常のエンジン制御において設定されるアイドル設定速度と同様である。
【0058】
変速機のシフトレバーが「前進」位置にあるとき(いわゆるトローリング時)のアイドル設定速度は、トローリング時の船速を微調整するために操船者により適宜に選択される。変速機のシフトレバーが「前進」位置にあるときのアイドル設定速度を切り換えるため、アイドル設定速度を設定するアイドル速度設定器(図示せず。)が前記アイドル制御部に設けられ、このアイドル速度設定器により、アイドル設定速度を適宜に切り換え得るようになっている。アイドル設定速度は、例えば500〜1000[r/min]の範囲で任意に設定される。
【0059】
51はクランク角位置検出手段で、このクランク角位置検出手段は、エンジンのクランク軸が、該エンジンの燃焼サイクルの各行程に相当するクランク角区間よりも充分に狭く設定された単位区間を回転する毎に現れるクランク角位置を特定クランク角位置として検出するように構成される。本実施形態ではこのクランク角位置検出手段が、モータ・ジェネレータMGのステータ側に設けられたホールセンサ29u〜29wと、マイクロプロセッサを用いてこれらのホールセンサの出力信号からクランク角位置の情報を得るための処理を行う過程とにより構成される。
【0060】
モータ・ジェネレータMGのロータとして12極(6対極)の磁石ロータが用いられる場合に、3相のホールセンサ29uないし29wとしてホールICを用いると、センサ29uないし29wがそれぞれ発生する位置検出信号huないしhwの波形は、図4の(C)ないし(E)のようになり、クランク角が10°変化する毎に位置検出信号huないしhwのいずれかが、高レベル(Hレベル)から低レベル(Lレベル)への変化または低レベルから高レベルへの変化を示す。本実施形態では、これらの位置検出信号huないしhwのHレベル及びLレベルをそれぞれ「1」及び「0」で表して、位置検出信号のレベル変化をクランク角検出信号として用いる。また位置検出信号のレベルのパターンの変化から、10°の単位区間を検出し、これらの単位区間がエンジンのいずれのクランク角位置に対応するかを、パルス信号発生器28の出力パルスを用いて識別する。
【0061】
本実施形態では、始動時にパルス信号発生器28からできるだけ波高値が高いパルスを得ることができるようにするために、ピストンが下死点付近にあるとき、即ちエンジンの負荷トルクが比較的軽い区間にあるときに信号発生器28がリラクタrのエッジを検出してパルスを発生するようにしている。具体的には、図4(B)に示すように、2番気筒の圧縮行程の上死点前200°の位置及び160°の位置でパルス信号発生器28がリラクタrの回転方向の前端側エッジ及び後端側エッジをそれぞれ検出して、正極性のパルスSp1及び負極性のパルスSp2を発生するように、パルス信号発生器28が設けられ、パルスSp1及びSp2の一方を基準にして、ホールセンサの出力パターンの変化により検出される一連の単位区間がそれぞれエンジンのいずれのクランク角位置に対応するかを識別する。
【0062】
図示の例では、図4の一番下に示したように、パルス信号発生器28がパルスSp1を発生した直後に検出される10°の単位区間(位置検出信号hu,hv,hwのパターンが0,1,1となった位置から0,0,1となる位置までの区間)に「20」の区間番号をつけ、以後ホールセンサの出力のパターンが切り替わる毎に、区間番号を1ずつ減少させて、区間番号が1になったところで次の区間番号を72とすることにより、クランク軸が2回転する間(1燃焼サイクルが行なわれる間)に検出される72個の単位区間に1ないし72の区間番号をつけて、一連の単位区間とエンジンのクランク角位置との関係を識別するようにしている。
【0063】
ホールセンサの出力のパターンの変化から検出される一連の単位区間とエンジンの現在のクランク角位置との関係を一度識別することができれば、以後はホールセンサの出力のパターンが切り替わる毎に区間番号を更新することにより、各単位区間とエンジンのクランク角位置との対応関係を維持することができ、単位区間と単位区間との各境界位置(クランク軸が10度回転する毎に現れるクランク角位置)から、エンジンの点火位置の制御などに用いるエンジンのクランク角情報を得ることができる。
【0064】
後記するように、本発明においては、エンジンのクランク軸が、燃焼サイクルの各行程に相当するクランク角区間よりも充分に狭く設定された瞬時速度検出区間を回転する毎に現れる各クランク角位置を特定クランク角位置として検出して、各特定クランク角位置が検出される毎にエンジンの瞬時回転速度を示すデータを取得する。そして、このデータに基づいてエンジンがアシストを必要としているか否かを判定し、アシストを必要としている場合にモータ・ジェネレータをモータとして駆動してエンジンをアシストする。
【0065】
瞬時回転速度の検出精度を高くするためには、瞬時速度検出区間の角度を小さくすることが好ましいが、瞬時速度検出区間の角度を余り小さくすると瞬時回転速度の演算や、エンジンのアシストの要否の判定処理を行うためにマイクロプロセッサの処理に頻繁に割り込みをかけることが必要になり、エンジンのアシストの制御を行うために必要とされる処理に要する時間が長くなって、点火時期の制御や燃料噴射量の制御等、エンジンの運転を維持するために必要な他の制御を行うために必要な演算処理時間が不足するおそれが生じる。瞬時速度検出区間の角度(クランク軸が1回転する間に現れる特定クランク角位置相互間の角度)は、エンジンのアシスト制御に割り当てることができる演算処理時間、瞬時回転速度の検出精度、アシスト制御の的確性などを勘案して適宜に設定する。
【0066】
本実施形態では、ホールセンサ29u〜29wの出力がレベル変化を示すクランク角位置(レベル変化位置)のうち、2つ置きに現れるレベル変化位置を特定クランク角位置として用い、各瞬時速度検出区間の角度αを30度とする。具体的には、U相のホールセンサの出力信号huが低レベルを示す区間及び高レベルを示す区間をそれぞれ瞬時速度検出区間とし、区間番号21ないし19の3つの単位区間からなる30度の区間と、区間番号18ないし16の3つの単位区間からなる30度の区間との境界位置を第1気筒の膨張行程の下死点位置に対応する特定クランク角位置θ7とし、この特定クランク角位置から順次30度ずつ位置がずれた一連のクランク角位置を特定クランク角位置θ8 ,θ9,…として、エンジンの1燃焼サイクルが行なわれる720度のクランク角範囲に合計24個の特定クランク角位置を設定する。
【0067】
このように30度の区間を瞬時速度検出区間として、隣り合う瞬時速度検出区間の境界位置を特定クランク角位置とする場合、各瞬時速度検出区間は、各瞬時速度検出区間を構成する3つの単位区間を識別する3つの番号のうちの一つの番号を用いて識別すればよい。例えば、特定クランク角位置θ7とθ8との間の瞬時速度検出区間は3つの区間番号16ないし18のうちのいずれかにより特定すればよい。各瞬時速度検出区間を特定する区間番号としていずれを用いるかは、特定クランク角位置を検出する処理を行わせるためにマイクロプロセッサに実行させるプログラムを作成する際に定めておけばよい。
【0068】
52は、クランク角位置検出手段51が各特定クランク角位置を検出する毎に、1つ前の特定クランク角位置が検出された時刻から今回の特定クランク角位置が検出された時刻までの時間から検出される回転速度をエンジンの瞬時回転速度として検出して、検出した瞬時回転速度の情報を含むデータを記憶する瞬時回転速度検出手段である。
【0069】
エンジンの瞬時回転速度を示すデータとしては、クランク軸が各瞬時速度検出区間を回転する間にマイクロプロセッサのタイマが計測した時間(クランク軸が各瞬時速度検出区間を回転するのに要した時間)のデータそのものを用いてもよく、この時間と瞬時速度検出区間の角度αとから演算した回転速度のデータを用いてもよい。演算処理を速くするためには、クランク軸が各瞬時速度検出区間を回転する間にタイマにより計測された時間そのものを瞬時回転速度を示すデータとして用いるのが好ましい。
【0070】
図3において、53は、瞬時回転速度検出手段52により検出された瞬時回転速度の低下から、エンジンのクランク軸に外部から駆動力を与えてエンジンをアシストする必要があるか否かを判定するアシスト要否判定手段、54は、アシスト要否判定手段53によりエンジンをアシストする必要があると判定されているときにモータ・ジェネレータMGからエンジンENGに駆動力を与えるようにモータ・ジェネレータを駆動するモータ・ジェネレータ駆動手段である。
【0071】
瞬時回転速度の低下に基づく、エンジンのアシストの要否の判定は、例えば、エンジンの瞬時回転速度が、エンジンを安定に回転させるために必要な平均回転速度よりも低く設定されたアシスト開始回転速度以下に低下したことが検出されたときに、エンジンのアシストが必要であると判定し、エンジンの回転速度がアシスト開始回転速度よりも高く設定されたアシスト終了回転速度まで回復したときにエンジンのアシストが不要になったと判定することにより行う。後記するように、本実施形態では、エンジンのアシストの要否の判定に用いる判定速度をアイドル運転時と、それ以外の運転時(定常運転時)とで異ならせる。
【0072】
そのため、本実施形態では、アシスト要否判定手段53を、エンジンの回転速度がアイドル設定速度を超えている定常運転時にアシストの要否を判定する定常運転時アシスト要否判定手段55と、エンジンのアイドル運転時にアシストの要否を判定するアイドル運転時アシスト要否判定手段56とにより構成する。
【0073】
定常運転時アシスト要否判定手段55は、瞬時回転速度検出手段52により検出された瞬時回転速度がクランク角位置に関わりなく一定の値に設定された定常運転時アシスト開始判定速度以下になったときにエンジンをアシストする必要があると判定し、一度エンジンのアシストが必要であると判定した後は、瞬時回転速度検出手段により検出された瞬時回転速度が定常運転時アシスト開始判定速度よりも高く設定されたアシスト終了判定速度以上になるまでアシストが必要であると判定した状態を維持するように構成される。
【0074】
アイドル運転時アシスト要否判定手段56は、瞬時回転速度検出手段により各特定クランク角位置で検出された瞬時回転速度が、各特定クランク角位置におけるアイドル運転時の安定瞬時回転速度よりも低く設定されたアイドル時アシスト開始判定速度以下であるときにエンジンのアシストが必要であると判定し、一度エンジンのアシストが必要であると判定した後は、各特定クランク角位置で検出されるエンジンの瞬時回転速度が当該特定クランク角位置におけるアイドル運転時の安定瞬時回転速度以上になったことが検出されるまでアシストが必要であると判定した状態を維持するように構成される。
【0075】
図示のアイドル運転時アシスト要否判定手段56は、エンジンのアイドル運転時に、過去の複数の燃焼サイクルにおいて瞬時回転速度検出手段52により各特定クランク角位置で検出された瞬時回転速度の平均値を各特定クランク角位置における安定瞬時回転速度として演算する安定瞬時回転速度演算手段57と、安定瞬時回転速度演算手段57により演算された安定瞬時回転速度から一定値ΔNを差し引いて、各特定クランク角位置におけるアイドル運転時の安定瞬時回転速度よりも一定値ΔNだけ低く設定されたアイドル時アシスト開始判定速度を演算する判定速度演算手段58と、瞬時回転速度をアイドル時アシスト開始判定速度と比較して、瞬時回転速度が、アイドル時アシスト開始判定速度以下であるときにエンジンのアシストが必要であると判定し、一度エンジンのアシストが必要であると判定した後は、各特定クランク角位置で検出される瞬時回転速度が当該特定クランク角位置におけるアイドル運転時の安定瞬時回転速度以上になったことが検出されるまでアシストが必要であると判定した状態を維持する比較判定手段59とからなっている。上記ΔNの値は実験結果に基づいて適正な値に設定する。
【0076】
エンジン制御装置が図3のように構成されている場合の制御動作を説明する。瞬時回転速度検出手段52は、クランク角センサ51が各特定クランク角位置でクランク角検出信号を発生する毎に、1つ前のクランク角検出信号が発生した時刻から今回のクランク角検出信号が発生した時刻までの時間をエンジンの瞬時回転速度の情報を含むデータとして記憶する。ここで、運転状態判定手段50により、エンジンがアイドル運転状態になく、定常運転状態にあると判定されているとすると、定常運転時アシスト要否判定手段55が、瞬時回転速度検出手段52により検出された瞬時回転速度を定常運転時アシスト開始判定速度と比較して、瞬時回転速度が定常運転時アシスト開始判定速度以下であるか否かを判定する。その結果、瞬時回転速度が定常運転時アシスト開始判定速度を超えていると判定されたときには、エンジンのアシストは不要であるとして、モータ・ジェネレータMGをジェネレータとして動作させる。
【0077】
瞬時回転速度を定常運転時アシスト開始判定速度と比較した結果、瞬時回転速度が定常運転時アシスト開始判定速度以下であると判定されたときには、エンジンのアシストが必要であるとして、定常運転時アシスト要否判定手段55からモータ・ジェネレータ駆動手段54にモータ駆動指令を与える。このときモータ・ジェネレータ駆動手段54は、モータ・ジェネレータMGのホールセンサの検出信号により得られるロータの回転角度位置の情報に基づいて該モータ・ジェネレータの電機子コイルに所定の相順で転流する駆動電流を流し、これによりモータ・ジェネレータMGをモータとして駆動して該モータからエンジンのクランク軸に、該エンジンの回転をアシストする(補助する)方向のトルクを与える。
【0078】
従って、例えば、船舶が航行中に、危険を回避するためにシフトレバーが前進位置から後退位置に切り換えられたことにより、エンジンの負荷が急増して、その回転速度がエンジンストールを招くおそれがある程度まで低下したときに、定常運転時アシスト要否判定手段55にエンジンのアシストが必要であるとの判定を行わせて、モータ・ジェネレータによるエンジンのアシストを行わせることができる。
【0079】
図5は、従来のように、エンジンの平均回転速度に基づいてエンジンのアシストの要否を判定してエンジンのアシストを行った場合と、本発明のようにエンジンの瞬時回転速度に基づいてエンジンのアシストの要否を判定してエンジンのアシストを行った場合とについて、エンジンの回転速度の変化を示したものである。同図において、曲線a及びbはそれぞれ、瞬時回転速度に基づいてエンジンのアシストの要否を判定してエンジンのアシストを行った場合の回転速度の変化及びエンジンの平均回転速度に基づいてエンジンのアシストの要否を判定してエンジンのアシストを行った場合の回転速度の変化を示し、曲線cは、エンジンのアシストを行わなかった場合の回転速度の変化を示している。またNavはエンジンが1回転する間の平均回転速度を示し、Nas及びNaeはそれぞれ定常運転時アシスト開始判定速度及び定常運転時アシスト終了判定速度を示している。
【0080】
エンジンのアシスト制御を行なわなかった場合には、シフトレバーが前進位置から後退位置に切り換えられて負荷が急増したときに、図5の曲線cのようにエンジンの回転速度が低下していき、エンジンはストールするおそれがある。
【0081】
特許文献1に示されているように、エンジンの平均回転速度に基づいてエンジンのアシストの要否を判定してエンジンのアシストを行った場合には、図5の曲線bのように、クランク角位置θxで平均回転速度Navがアシスト開始回転速度Nas以下になったことが検出されたときにモータ・ジェネレータが駆動されてエンジンのアシストが開始される。これにより、曲線bに示すように回転速度が回復していくが、エンジンの平均回転速度Navがアシスト開始回転速度Nas以下になっとことが検出されるまでに時間がかかるため、アシストの開始が遅れるのを避けられない。
【0082】
これに対し、本発明のように、エンジンの瞬時回転速度に基づいてエンジンのアシストの要否を判定してエンジンのアシストを行った場合には、クランク角位置θaで瞬時回転速度がアシスト開始回転速度Nas以下になったときに、その直後の特定クランク角位置θnで瞬時回転速度がアシスト開始回転速度Nas以下になったことが検出されて、エンジンがアシストを必要としているとの判定が行われるため、エンジンのアシストを速やかに行わせて、曲線aに示すように、エンジンの回転速度を短時間で回復させることができる。クランク角位置θnでエンジンのアシストが開始された後、クランク角θbでエンジンの瞬時回転速度がアシスト終了回転速度Naeを超えると、その直後の特定クランク角位置θn′で瞬時回転速度がアシスト終了回転速度Naeを超えたことが検出されるため、モータ・ジェネレータ駆動手段54によるモータ・ジェネレータの駆動が停止されてエンジンのアシストが終了する。
【0083】
このように、本発明によれば、エンジンの回転速度の瞬時値がアシスト開始回転速度以下になったときにエンジンのアシストを開始するため、エンジンがモータのアシストを必要とする状態になったときに速やかにエンジンのアシストを開始することができる。従って、シフトレバーが前進位置から後退位置に切り換えられた際にエンジンがストールするのを確実に防ぐことができる。
【0084】
次にアイドル判定手段50により、エンジンがアイドル運転状態にあると判定されたとする。エンジンがアイドル運転状態にあるときには、図6に示すようにエンジンの回転速度が、エンジンの行程の変化に伴う負荷の変化により細かく変動する。図6(A)において、曲線aはエンジンの実際の回転速度を示し、直線bはエンジンの平均回転速度(図示の例では800rpm)を示している。図示の例では、エンジンの平均回転速度が800rpmであるため、エンジンのクランク軸は、0.075(=60/800)sec で1回転する。
【0085】
図6(B)及び(C)はそれぞれエンジンの第1気筒及び第2気筒の行程変化を示し、「膨張」、「排気」、「吸気」及び「圧縮」はそれぞれ膨張行程、排気行程、吸気行程及び圧縮行程を示している。この例では、単位区間の角度を30°とし、エンジンの各行程が6つの単位区間に等分されるように、1燃焼サイクルの区間に24個の特定クランク角位置θ1,θ2,…,θ24を設定している。
【0086】
ECU10のマイクロプロセッサ40は、エンジンのアイドル運転時に、エンジンの回転速度をアイドル設定速度(図6に示す例では800rpm)に保つように、スロットルバルブに並列に設けられたISCバルブ120(図1参照)を制御する。ISCバルブの制御は公知であるので詳細な説明は省略する。
【0087】
アイドル運転時にはエンジンの気筒で行なわれる燃料の燃焼が不安定で、エンジンが発生するトルクが小さいため、ちょっとした負荷変動によっても、エンジンがストールするおそれがある。特に、操船者がトローリングを行なう際にアイドル設定速度を低い値に切り換えると、エンジンのアイドル回転が不安定になり、エンジンがストールおそれが高まる。例えば、図7の曲線aに示すようにアイドル設定速度を500rpmまで低下させたとすると、いずれかの気筒内のピストンが圧縮行程の上死点に近づいた際に、図に波線で示した曲線bのように回転速度が低下し始め、やがてエンジンがストールするおそれがある。図示の例では、第2気筒の圧縮行程が終了する際のピストンの上死点である特定クランク角位置θ1で、エンジンの瞬時回転速度が低下し始めている。
【0088】
従って、トローリング時にアイドル設定速度を低い値に切り換えることができるようにするためには、エンジンのアシスト制御に定常運転時よりも更に早い応答性を持たせることが必要になり、エンジンの瞬時回転速度の変化から、エンジンがアシストを必要としていることをできるだけ速やかに、しかも的確に判定することが必要になる。
【0089】
アイドル運転時には、エンジンの回転速度が行程の変化に伴って細かく変動するため、エンジンの瞬時回転速度を一定の判定値と比較しても、エンジンがアシストを必要としているか否かを的確に判定することはできない。そこで、本実施形態では、エンジンのアイドル運転が安定に行なわれている状態での各特定クランク角位置での瞬時回転速度をアイドル運転時の安定瞬時回転速度として、エンジンの瞬時回転速度がこの安定瞬時回転速度より一定値ΔN以上低下したことが検出されたときに、エンジンがアシストを必要としていると判定する。
【0090】
なお図7において曲線aの細い波線で示された部分はアイドル回転速度が低下せずに安定にアイドル運転が継続されたと仮定した場合の回転速度の変化を示している。図7においては、各特定クランク角位置で参照される(前回の燃焼サイクルの同じ特定クランク角位置で演算された)複数の燃焼サイクルに亘る瞬時回転速度の平均値Nis(安定瞬時回転速度)が、各特定クランク角位置毎に短い横線で示されている。
【0091】
アイドル運転時にアイドル設定速度を従来よりも低く設定することを可能にするため、本実施形態においては、各特定クランク角位置で瞬時回転速度が検出されたときに、各特定クランク角位置における瞬時回転速度の過去の連続する複数燃焼サイクル(例えば3〜5燃焼サイクル)に亘る平均値を、次の燃焼サイクルにおける各特定クランク角位置で参照する安定瞬時回転速度(エンジンが安定にアイドル回転しているときの各特定クランク角位置での瞬時回転速度)として演算する安定瞬時回転速度演算手段57を設け、各特定クランク角位置でこの演算手段が演算した安定瞬時回転速度を各特定クランク角位置毎に記憶させておく。また各特定クランク角位置で瞬時回転速度が検出されたときに、前回の燃焼サイクルの同じ特定クランク角位置で演算された安定瞬時回転速度から一定値ΔNを差し引いた値を各特定クランク角位置におけるアイドル時アシスト開始判定速度として演算する判定値演算手段58を設けて、この判定値演算手段58により演算されたアイドル時アシスト開始判定速度を、新たに検出された瞬時回転速度とともに比較判定手段59に与える。
【0092】
そして、各特定クランク角位置で新たな瞬時回転速度が検出されたときに、前回の燃焼サイクルで演算された各特定クランク角位置における安定瞬時回転速度を参照して、アイドル時アシスト開始判定速度を演算し、新たに検出された瞬時回転速度と、アイドル時アシスト開始判定速度とを比較する。その結果、新たに検出された瞬時回転速度がアイドル時アシスト開始判定速度以下になっているときに、エンジンがアシストを必要としていると判定して、モータ・ジェネレータ駆動手段54にモータ・ジェネレータMGのモータとしての駆動を開始させ、エンジンのアシストを開始させる。
【0093】
図7に示した例では、第1気筒の吸気行程及び第2気筒の膨張行程の途中の特定クランク角位置θ17で、瞬時回転速度が一つ前の燃焼サイクルで演算された同じ特定クランク角位置θ17における瞬時回転速度の平均値(安定瞬時回転速度)よりも一定値ΔNだけ低い値に設定されたアイドル時アシスト開始判定速度を下回ったため、この特定クランク角位置θ17でエンジンのアシストが開始され、曲線cに示すようにエンジンの回転速度が回復させられている。
【0094】
上記のように、アイドル運転時の各特定クランク角位置における安定瞬時回転速度を基準にして、各特定クランク角位置で検出された瞬時回転速度が、各特定クランク角位置におけるアイドル運転時の安定瞬時回転速度よりも低く設定されたアイドル時アシスト開始判定速度以下であるときにエンジンのアシストが必要であると判定するようにすると、エンジンがアシストを必要としているか否かの判定を迅速に、かつ的確に行なわせてアシストを必要とする場合に直ちにエンジンをアシストすることができ、エンジンの低回転域における出力トルクが低い場合でも、エンジンをストールさせることなく、微速でのアイドル運転を安定に行わせることができる。
【0095】
また上記のように、エンジンのアイドル運転時に、各特定クランク角位置で瞬時回転速度検出手段により検出される瞬時回転速度の複数燃焼サイクルに亘る平均値を各特定クランク角位置における安定瞬時回転速度として演算する安定瞬時回転速度演算手段を設けておくと、エンジンの実際の安定瞬時回転速度を基準にしてエンジンがアシストを必要としているか否かを判定することができるため、エンジンの特性のばらつきの影響を受けることなく、エンジンのアシスト制御を的確に行なわせて、アイドル運転時にエンジンが停止するのを防ぐことができる。
【0096】
次に図3に示した制御装置の各部を構成するためにマイクロプロセッサに実行させる処理について説明する。図8及び図9は、クランク角センサが各特定クランク角位置でクランク角検出信号を発生する毎に起動する割り込み処理であり、図10は、パルス信号発生器がパルス信号SP1を発生する基準クランク角位置で1燃焼サイクルに1回実行される割り込み処理である。
【0097】
各特定クランク角位置が検出される毎に実行される図8及び図9に示した処理においては、先ず図8のステップS1において、1つ前のクランク角検出信号が発生した時刻から今回のクランク角検出信号が発生した時刻までの時間から瞬時回転速度[ReV*−*]を演算し、ステップS2で演算した瞬時回転速度を記憶する。ここで*−*は各特定クランク角位置の直前の瞬時回転速度検出区間を特定する区間番号を意味する。
【0098】
ステップS2で各特定クランク角位置での瞬時回転速度を記憶した後、ステップS3で瞬時回転速度[Rev*−*]とアイドル設定速度<<IDL>>とを比較する。その結果、瞬時回転速度[Rev*−*]がアイドル設定速度<<IDL>>よりも高い場合には、ステップS4でアイドルフラグ(IDL)をクリア(OFF)する。次いでステップS5で瞬時回転速度[Rev*−*]と定常時アシスト開始判定値<<RevAstON>>とを比較し、瞬時回転速度[Rev*−*]が定常時アシスト開始判定値<<RevAstON>>以下であるときに、ステップS6でエンジンをモータによりアシストすることが要求されていることを示すアシスト要求フラグ(Rq_MtAst)をセット(ON)してこの処理を終了する。
【0099】
ステップS5で瞬時回転速度[Rev*−*]が定常時アシスト開始判定値<<RevAstON>>を超えていると判定されたときには、ステップS7で瞬時回転速度[Rev*−*]を定常時アシスト終了判定値<<RevAstOFF>>と比較する。その結果、瞬時回転速度[Rev*−*]が定常時アシスト終了判定値<<RevAstOFF>>以上であると判定されたときには、ステップS8でアシスト要求フラグ(Rq_MtAst)を解除(OFF)してこの処理を終了する。
【0100】
図3に示されたモータ・ジェネレータ駆動手段54は、アシスト要求フラグ(Rq_MtAst)がセットされている間、モータ・ジェネレータMGをブラシレスモータとして駆動してエンジンをアシストする。
【0101】
図8のステップS3で瞬時回転速度[Rev*−*]がアイドル設定速度<<IDL>>以下であると判定されたときには、ステップS9でエンジンがアイドル運転状態にあることを示すアイドルフラグ(IDL)をセット(ON)した後、図9のステップS10に移行する。ステップS10では、瞬時回転速度[Rev*−*]を、後記する図10の処理で演算される各特定クランク角位置での安定瞬時回転速度[RevAvg*−*]から一定値<<DefAstON>>を差し引くことにより求められたアイドル時アシスト開始判定速度[RevAvg*−*]−<<DefAstON>>とを比較する。その結果、瞬時回転速度[Rev*−*]が、アイドル時アシスト開始判定速度[RevAvg*−*]−<<DefAstON>>以下であると判定されたときには、ステップS11でエンジンをモータによりアシストすることが要求されていることを示すアシスト要求フラグ(Rq_MtAst)をセット(ON)し、ステップS12で回転低下フラグ(IDlLow)をセットしてこの処理を終了する。
【0102】
ステップS10で瞬時回転速度[Rev*−*]が、アイドル時アシスト開始判定速度[RevAvg*−*]−<<DefAstON>>を超えていると判定されたときには、ステップS13で瞬時回転速度[Rev*−*]と安定瞬時回転速度[RevAvg*−*]とを比較する。その結果、瞬時回転速度[Rev*−*]が安定瞬時回転速度[RevAvg*−*]を下回っていると判定されたときには以後何もしないでこの処理を終了する。ステップS13で瞬時回転速度[Rev*−*]が安定瞬時回転速度[RevAvg*−*]以上であると判定されたときには、ステップS14でアシスト要求フラグ(Rq_MtAst)を解除(OFF)した後この処理を終了する。
【0103】
区間番号21の単位区間の終了時にパルス信号発生器28が基準パルス信号Sp1を発生したときに(1燃焼サイクルに1回)図10の処理が開始される。この処理が開始されると、ステップS101でアイドルフラグ(IDL)がセット(ON)されているか否かを判定する。その結果、アイドルフラグ(IDL)がセットされていないときには、以後何もしないでこの処理を終了する。ステップS101でアイドルフラグ(IDL)がセットされていると判定されたときには、ステップS102に進んで、回転低下フラグ(IDlLow)がセットされているか否か(今回の燃焼サイクルで回転の低下があったか否か)を判定する。その結果回転低下フラグ(IDlLow)がセットされていないと判定されたときには、ステップS103においてアシスト要求フラグ(Rq_MtAst)がセットされているか否か(モータによるエンジンのアシストが行なわれているか否か)を判定する。その結果、アシスト要求フラグ(Rq_MtAst)がセットされていない(モータによるエンジンのアシストが行なわれていない)と判定されたときには、ステップS104に進んで安定瞬時回転速度を求めるための演算処理を行なう。この演算処理では、先ず今回の燃焼サイクルで検出された各特定クランク角位置での瞬時回転速度、及び過去の何回かの燃焼サイクルで検出された各特定クランク角位置での瞬時回転速度をそれぞれ1燃焼サイクル前の同じ特定クランク角位置における瞬時回転速度を記憶するメモリに記憶する。
【0104】
即ち、今回の燃焼サイクルで検出された各特定クランク角位置での瞬時回転速度[Rev0−1]を一つ前の燃焼サイクルで検出された同じ特定クランク角位置での瞬時回転速度を記憶させるアドレス[Rev0−1_B1]に記憶させ、前回の燃焼サイクルで検出された各特定クランク角位置での瞬時回転速度[Rev1−2]を前々回の燃焼サイクルで検出された同じ特定クランク角位置での瞬時回転速度を記憶させるアドレス[Rev1−2_B1]に記憶させる。また前々回の燃焼サイクルで検出された各特定クランク角位置での瞬時回転速度[Rev2−3]を更に1つ前の燃焼サイクルで検出された同じ特定クランク角位置での瞬時回転速度を記憶させるアドレス[Rev2−3_B2]に記憶させる。以下同様にして、過去の数燃焼サイクルでそれぞれ検出された同じ特定クランク角位置における瞬時回転速度をそれぞれの燃焼サイクルの一つ前の燃焼サイクルで検出された同じ特定クランク角位置における瞬時回転速度を記憶させるアドレスに記憶させる。
【0105】
次いで、過去の複数の燃焼サイクルでそれぞれ検出されて、アドレス[Rev*−*_B1],[Rev*−*_B2],[Rev*−*_B3]、…に記憶されている各特定クランク角位置での瞬時回転速度の平均値[RevAvg*−*]を演算し、ステップS105で回転低下フラグ(IdlLow)をクリアしてこの処理を終了する。またステップS102で回転低下フラグ(IDlLow)がセットされていると判定されたとき、及びステップS103でアシスト要求フラグ(Rq_MtAst)がセットされていると判定されたときには、ステップS105に移行して、回転低下フラグ(IdlLow)をクリアしてこの処理を終了する。
【0106】
上記のアルゴリズムによる場合には、図8の処理のステップS1及びS2により瞬時回転速度検出手段が構成され、ステップS3、S4及びS9により、運転状態判定手段50が構成されている。また図8の処理のステップS5、S6、S7及びS8により定常運転時アシスト要否判定手段55が構成され、図10の処理により安定瞬時回転速度演算手段57が構成されている。更に図8の処理のステップS10で用いるアイドル時アシスト開始判定速度[RevAvg*−*]−<<DefAstON>>を演算する図示しない過程により、判定速度演算手段58が構成され、図9のステップS10ないしS14により、比較判定手段59が構成されている。
【0107】
なおクランク角位置検出手段51は、図4に示したようにパルス信号発生器の出力パルスを基準にしてホールセンサの出力信号がレベル変化を示すクランク角位置相互間の単位区間に区間番号を付与する過程と、ホールセンサの出力信号がレベル変化を示す毎にそのレベル変化が生じたクランク角位置に続く単位区間の区間番号を識別する過程と、順次識別される区間番号から各瞬時角度検出区間を検出する過程とをマイクロプロセッサに実行させることにより構成される。
【0108】
上記の実施形態では、特定クランク角位置相互間の間隔である瞬時回転速度検出区間の角度αを30度としたが、瞬時回転速度検出区間の角度は30度に限定されない。例えば、上記の実施形態において、マイクロプロセッサによる処理に余裕がある場合には、瞬時回転速度検出区間の角度αを10度としてもよい。
【0109】
上記の例では、モータ・ジェネレータの電機子コイルの相数を3としたが、モータ・ジェネレータとしては、n(nは3以上の整数)相の電機子コイルを有するものを用いることができる。
【0110】
上記の実施形態では、アイドル運転時のアシスト制御において、過去の複数の燃焼サイクルにおいて瞬時回転速度検出手段により各特定クランク角位置で検出された瞬時回転速度の平均値を各特定クランク角位置における安定瞬時回転速度として演算して、この安定瞬時回転速度から一定値ΔNを差し引くことにより、アイドル運転時アシスト開始判定速度を演算するようにしているが、各特定クランク角位置におけるアイドル運転時アシスト開始判定速度の適正値を、各アイドル設定速度に対して予め実験的に求めて、各特定クランク角位置におけるアイドル運転時アシスト開始判定速度を記憶させておき、各特定クランク角位置で検出された瞬時回転速度が記憶された各特定クランク角位置におけるアイドル運転時アシスト開始判定速度以下になったときにアシストを開始させ、各特定クランク角位置で検出された瞬時回転速度が各特定クランク角位置におけるアイドル運転時アシスト開始判定速度を一定値以上上回ったときにアシストを終了させるようにしてもよい。
【0111】
上記の実施形態では、2気筒エンジンに本発明を適用したが、単気筒エンジンや3気筒以上の多気筒エンジンにも本発明を適用することができるのはもちろんである。
【0112】
上記の例では、モータ・ジェネレータに設けられているホールセンサを用いてエンジンのクランク角情報を検出しているが、クランク軸が一定の角度(例えば10度または30度)回転する毎にパルスを発生するエンコーダを別途エンジンに取り付けて、このエンコーダの出力パルスからエンジンのクランク角情報を得るようにすることもできる。
【図面の簡単な説明】
【0113】
【図1】本発明に係わる制御装置を適用するエンジンシステムのハードウェアの構成を示した構成図である。
【図2】図1に示したシステムの電気的な構成を示したブロック図である。
【図3】本発明に係わる制御装置の要部の構成を示したブロック図である。
【図4】本発明の実施形態で用いる信号発生器の出力パルスの波形とホールセンサの出力信号の波形とを模式的に示した波形図である。
【図5】本発明の実施形態に係わる制御装置により、エンジンの定常運転時にアシスト制御を行った場合、及び従来の制御装置によりアシスト制御を行った場合のエンジンの回転速度の変化の一例を示したグラフである。
【図6】本発明の制御装置を適用するエンジンのアイドル運転時の回転速度の変化の一例をエンジンの行程変化とともに示したグラフである。
【図7】本発明の実施形態の制御装置によりエンジンのアイドル運転時のアシスト制御を行った場合及びアシスト制御を行わなかった場合の回転速度の変化を示したグラフである。
【図8】本発明の実施形態において、図3に示した各手段を構成するためにマイクロプロセッサに実行させる処理のアルゴリズムの一部を示したフローチャートである。
【図9】本発明の実施形態において、図3に示した各手段を構成するためにマイクロプロセッサに実行させる処理のアルゴリズムの他の部分を示したフローチャートである。
【図10】本発明の実施形態において、図3に示した各手段を構成するためにマイクロプロセッサに実行させる処理のアルゴリズムの更に他の部分を示したフローチャートである。
【符号の説明】
【0114】
1 エンジン本体
100 ピストン
101 シリンダ
ENG エンジン
MG モータ・ジェネレータ
2 インジェクタ
10 ECU
12 点火プラグ
13 点火コイル
40 マイクロプロセッサ
50 運転状態判定手段
51 クランク角位置検出手段
52 瞬時回転速度検出手段
53 アシスト要否判定手段
54 モータ・ジェネレータ駆動手段
55 定常運転時アシスト要否判定手段
56 アイドル運転時アシスト要否判定手段
57 安定瞬時回転速度演算手段
58 判定速度演算手段
59 比較判定手段

【特許請求の範囲】
【請求項1】
クランク軸にモータ・ジェネレータのロータが直結された船舶用エンジンを制御する制御装置であって、
前記エンジンのクランク軸が、該エンジンの燃焼サイクルの各行程に相当するクランク角区間よりも充分に狭く設定された瞬時速度検出区間を回転する毎に現れる各特定クランク角位置を検出するクランク角位置検出手段と、
前記クランク角位置検出手段が各特定クランク角位置を検出する毎に、1つ前の特定クランク角位置が検出された時刻から今回の特定クランク角位置が検出された時刻までの時間から検出される前記エンジンの回転速度を前記エンジンの瞬時回転速度として検出して検出した瞬時回転速度の情報を含むデータを記憶する瞬時回転速度検出手段と、
前記瞬時回転速度検出手段により検出された瞬時回転速度の低下から、前記エンジンのクランク軸に外部から駆動力を与えて前記エンジンをアシストする必要があるか否かを判定するアシスト要否判定手段と、
前記アシスト要否判定手段により前記エンジンをアシストする必要があると判定されているときに前記モータ・ジェネレータからエンジンに駆動力を与えるように前記モータ・ジェネレータを駆動するモータ・ジェネレータ駆動手段と、
を具備してなる船舶用エンジンの制御装置。
【請求項2】
前記エンジンがアイドル運転状態にあるのか定常運転状態にあるのかを判定する運転状態判定手段が設けられ、
前記アシスト要否判定手段は、前記運転状態判定手段により前記エンジンが定常運転状態にあると判定されているときにアシストの要否を判定する定常運転時アシスト要否判定手段と、前記運転状態判定手段により前記エンジンがアイドル運転状態にあると判定されているときにアシストの要否を判定するアイドル運転時アシスト要否判定手段とを備え、
前記定常運転時アシスト要否判定手段は、前記瞬時回転速度検出手段により検出された瞬時回転速度がクランク角位置に関わりなく一定の値に設定された定常運転時アシスト開始判定速度以下になったときに前記エンジンをアシストする必要があると判定し、一度エンジンのアシストが必要であると判定した後は、前記瞬時回転速度検出手段により検出された瞬時回転速度が前記定常運転時アシスト開始判定速度よりも高く設定されたアシスト終了判定速度以上になるまでアシストが必要であると判定した状態を維持するように構成され、
前記アイドル運転時アシスト要否判定手段は、前記瞬時回転速度検出手段により各特定クランク角位置で検出された瞬時回転速度が、各特定クランク角位置における前記アイドル運転時の安定瞬時回転速度よりも低く設定されたアイドル時アシスト開始判定速度以下であるときに前記エンジンのアシストが必要であると判定し、一度エンジンのアシストが必要であると判定した後は、各特定クランク角位置で検出される瞬時回転速度が当該特定クランク角位置における前記アイドル運転時の安定瞬時回転速度以上になったことが検出されるまでアシストが必要であると判定した状態を維持するように構成されている請求項1に記載の船舶用エンジンの制御装置。
【請求項3】
前記アイドル運転時アシスト要否判定手段は、前記エンジンのアイドル運転時に、過去の複数の燃焼サイクルにおいて前記瞬時回転速度検出手段により各特定クランク角位置で検出された瞬時回転速度の平均値を各特定クランク角位置における前記安定瞬時回転速度として演算する安定瞬時回転速度演算手段を備えている請求項2に記載の船舶用エンジンの制御装置。
【請求項4】
前記モータ・ジェネレータは、ロータに設けられた磁石界磁と、ステータ側に設けられたn相(nは3以上の整数)の電機子コイルと、ステータ側でロータの磁極の極性を検出してステータのn相の電機子コイルに対するロータの回転角度位置の情報を得る信号を発生するn個のホールセンサとを備えて、該n個のホールセンサの出力信号に応じて所定の相順で転流する駆動電流を前記電機子コイルに流したときにモータとして動作するように構成された回転電機からなり、
前記クランク角位置検出手段は、前記n個のホールセンサが出力する信号がレベル変化を示すクランク角位置を前記特定クランク角位置として検出するように構成されている請求項1,2または3に記載の船舶用エンジンの制御装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2009−44778(P2009−44778A)
【公開日】平成21年2月26日(2009.2.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−203801(P2007−203801)
【出願日】平成19年8月6日(2007.8.6)
【出願人】(000001340)国産電機株式会社 (191)
【Fターム(参考)】