説明

船舶鋼材の防錆方法および耐食性に優れた船舶

【課題】スプレー塗装性を低下させず、さらに乾燥と湿潤が繰り返される環境下でも、低コストで、長時間の犠牲防食作用により、従来よりも格段に優れた耐食性・防錆性を発揮する、船舶鋼材の防錆方法および耐食性に優れた船舶を提供する。
【解決手段】相対湿度30%以上〜100%以下の環境下に置かれる船舶鋼材の防錆方法において、質量%で、Mg:0.01〜30%を含有し、残部Znおよび不可避的不純物からなり、平均粒子径が0.01〜200μmであり、かつ、外表面に物理的破砕面を有するZn合金粒子を、乾燥塗膜中に、質量%で、30%以上含有し、残部無機系バインダーからなる無機系プライマーを、下地層として塗布することを特徴とする防錆方法。また、該防錆方法を用いた耐食性に優れた船舶。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、相対湿度30%以上〜100%以下の環境下、特にアッパーデッキ、ハッチカバー、ウォーターバラストタンク、カーゴホールド等の船舶内外板に用いられる鋼材の防錆方法およびその防錆方法を用いた耐食性に優れた船舶に関する。
【背景技術】
【0002】
防錆顔料としてZn金属粒子を多量に含有する防錆塗料、すなわちジンクリッチペイントが、鉄鋼材料の腐食対策として汎用的に用いられている。このジンクリッチペイントは主に重防食塗装の下塗りに用いられるものであり、その防錆機構の特徴は塗膜に含まれるZn金属粒子の犠牲防食作用である。しかし、ジンクリッチペイントの塗膜の防錆能は、Zn金属粒子の犠牲防食作用に強く依存することから、使用環境によって亜鉛の消失速度が大きく鉄鋼材料に対する保護作用が長続きしない場合がある。
【0003】
そこで、塗料中のZn金属粒子の平均粒径を小さくしたり、膜厚を厚くしたりする対策がとられているが、鋼材面との密着性の低下や塗膜のヒビ割れ、或いはダレなどが起こりやすくなり、塗膜の防食性能と物理的性質や施工性を両立しがたく万全とはいえない。
【0004】
このような状況下にあって、従来のジンクリッチペイントの長所を保持し、更に長期にわたり犠牲防食作用を発揮する高性能ジンクリッチペイントの開発が期待され、これまでにも各種の提案がなされてきた。
【0005】
例えば、特許文献1では、塗膜中に導電性高分子化合物、カーボンナノファイバー及びカーボンナノチューブからなる群から選択される導電性成分および、これらの各成分を分散するための溶媒を含有する塗装作業性にすぐれ、高耐食性を示す有機系ジンクリッチペイントに関する発明が提案された。
【0006】
また、新たな合金粒子の組合せによって耐食性の向上を試みたものが提案された。例えば、特許文献2では、Zn金属粒子の他にZn−Mg合金粒子とMn粒子を含有させたジンクリッチペイントに関する発明が提案された。さらに、特許文献3では、Zn−Al−Mg系合金粒子を含有する耐食性塗料に関する発明が開示された。これらは、Zn−Mg系合金粒子とエポキシ系樹脂やウレタン系樹脂などの有機系樹脂との組合せによって耐食性を向上しようとするものである。
【0007】
さらに、無機系バインダーを用いた発明が各種提案された。例えば、特許文献4に記載の発明の特徴は、金属組織がZnとMgZn2より構成された無機系のZn−Mg合金粒子の高寿命防食性能である。
【0008】
更に、粒子形状からも種々検討されてきた。例えば、特許文献5では、Zn−Mg合金のフレーク状粒子を含有する無機系耐食性塗料やこの塗料を塗布してなる耐食性鉄鋼材が提案されている。
【0009】
一方、船舶内外の鋼板は一般的に無機系プライマーを塗装した鋼板が溶接・溶断され、建造される。さらに塗装環境を管理した環境で、その表層に変性タールエポキシ樹脂などの重防食塗装が施される。しかしながら、このように環境まで管理し、重防食塗装を実施しても、腐食が生じる問題が根強く残る。特に腐食の激しい部位としてエッジ部、溶接部が挙げられる。これら部位は、他の部位に比べ、塗装密着性が著しく低く、エッジ面取り、ロールコータなどの刷毛塗り塗装など、船舶内の他の部位よりも丁寧に仕上げられ、船舶内でも腐食を回避する試みが手間隙かけ実施されている。しかしながら、これら作業は、腐食を低減することが可能であるが、必要十分でなく、さらに、工程負荷、作業者によるばらつき問題などが生じ、さらなる改善が求められてきた。
【0010】
これら溶接部、エッジ部の課題に対し、特許文献6では、溶接・溶断時塗装劣化の抑制を目標にZn金属粒子とMgまたはMg合金の混合物を含有する耐熱性塗料組成物に関する発明が提案されている。
【0011】
また、鋼板自身の耐食性向上の視点からも各種提案がされている。例えば、特許文献7では、塗装寿命を延長可能な船舶用鋼として、鋼材の成分組成を、質量%で、C:0.001〜0.025%、Si:0.60%以下、Mn:0.10〜3.0%、P:0.030%以下、S:0.01%以下、Al:0.01%以下、Ni:0.1〜4.0%およびCu:0.1%以下を含むものが開示されている。
【0012】
また、貨油タンクでは、鋼材を裸使用すると実用的な耐食性が得られないため、鋼材の表面に無機系プライマーを塗布し使用される。例えば、特許文献8では、質量%で、C:0.16%以下、Si:1.5%以下、Mn:3.0%以下、P:0.035%以下、S:0.01%以下を含み、さらに、Cu:0.1%〜1.4%、Cr:0.2〜4%、Ni:0.05〜0.7%のうち1種以上を含み優れた耐食性を示す無機系プライマーを鋼材表面に塗布した貨油タンク用耐食鋼が開示されている。
【0013】
【特許文献1】特開2005−68278号公報
【特許文献2】特開平01−311178号公報
【特許文献3】特開2001−164194号公報
【特許文献4】特開平02−73932号公報
【特許文献5】特開2002−285102号公報
【特許文献6】特開昭61−213270号公報
【特許文献7】特開2002−266052号公報
【特許文献8】特開2002−012940号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
しかしながら、特許文献1に記載の発明では、塗膜中に導電性化合物やカーボンナノチューブ等の導電性成分を添加し、電気伝導性を向上させることで、塩水噴霧環境のような常時濡れが生じる環境では耐食性向上効果は得られるが、乾燥過程が生じると、濡れ状態が中断し、導電性が長時間確保できず、その間、犠牲防食作用は生じないので、著しい耐食性向上が認められず、更なる改善が求められていた。
【0015】
また、特許文献2や特許文献3では有機系バインダーを主に、また、特許文献4では無機系バインダーを主に用い、金属粒子にはZnの他に、Mg、Alなどの高耐食合金粒子を用いる発明が開示されている。これらは、MgZn2やMg2Zn11の金属間化合物を形成させ、耐食性を向上させたものである。具体的には金属間化合物は合金粒子内部に存在し表面が酸化物層またはZnとMgの固溶相で覆われている。従って、高耐食性・防錆性作用を発揮する金属間化合物相が合金粒子表面に出現しにくく、鋼板の耐食性が十分に得られない問題点があった。さらに、錆の主成分に電気伝導性の小さいZnCl2・4Zn(OH)2・H2Oが生成すると、犠牲防食作用が十分に発揮されない問題点があり、更なる改善が求められていた。
【0016】
また、特許文献1,2,3は、一般的な有機系塗料であり、紫外線や水分、酸素などの影響を考慮する必要のある複合環境では劣化することを考慮すると、比較的短時間でメンテナンスが必要になるという副次的な問題が残されている。
【0017】
特許文献5では、フレーク状の合金粒子が開示されているが、フレーク状の合金粒子は、スプレー塗装が困難であり、従来のエアレススプレーでは塗装密着性が十分に確保できず、更なる改善が求められていた。
【0018】
また、特許文献6は、溶断・溶接時の塗膜劣化を抑制し、耐食性を向上させる塗装鋼板が開示されているが、溶接、溶断時での作業性が低下することから更なる改善が求められていた。
【0019】
さらに、船舶鋼板に関して、特許文献7で開示された船舶用鋼では、ウォーターバラストタンク環境において不可避的な欠陥部からの塗膜膨れを抑制し、塗装寿命を延長させることが可能となる。しかし、特許文献7に記載された発明は、さびによる塗膜の膨れを抑制し、塗装寿命を延長させる効果はあるが、完全ではない。一旦、膨れが発生すると、下地鋼材の錆面積、腐食量、板厚減少が増大することから、更なる改善が求められていた。
【0020】
また、特許文献8で開示されたプライマー塗装状態で使用する貨油タンク用耐食鋼は、酸露点腐食環境である貨油タンクではプライマーを表面に塗布することにより優れた耐食性を発揮する。しかし、船舶内外板のその他の部位、例えば、ウォーターバラストタンクは海水を出し入れする酸露点環境とは異なる塩水環境であり、これら鋼材と無機ジンクリッチプライマーだけの組み合わせでは、十分な効果が発揮されず、更なる改善が求められていた。
【0021】
そこで、本発明は、スプレー塗装性を低下させず、さらに乾燥と湿潤が繰り返されるような環境下でも、低コストで、長時間の犠牲防食作用により、従来よりも格段に優れた耐食性・防錆性を発揮する、船舶鋼材の防錆方法および耐食性に優れた船舶を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0022】
本発明者らは、Mgを0.01〜30質量%含有し、残部がZnと不可避的不純物からなり、平均粒子径が0.05〜200μmで、好ましくは最大径と最小径のアスペクト比(最大径/最小径)の平均が1〜1.5である形状を有し、物理的破砕面および/または長さ0.01μm以上のき裂をもつZn合金粒子を乾燥塗膜中に30質量%以上含有するよう調合した高耐食塗料もしくはそれを塗布した塗装鋼板を用いることにより、相対湿度30%以上〜100%以下の環境下において、特に相対湿度30〜70%程度の湿度が低い環境下においても、表面保湿効果が働くことで、長時間表面が湿潤状態となることにより、かつてなく著しく優れた耐食性・防錆性を発揮することを新たに見出した。
【0023】
このような表面保湿性に優れた塗料または塗装鋼板を用いると、赤錆の発生が生じるスクラッチ傷、塗装の密着性が低下するエッジ部でさえ、赤錆の発生を抑制することが可能となる。理由は明確でないが、表面保湿効果が従来よりも長くなることで、犠牲防食効果が、広い相対湿度範囲内の大気環境下で、すなわち結果的に長時間にわたって発揮されるためと考える。このメカニズムは不明な点が多いが、次のメカニズムにより長時間の表面保湿性が発揮されるものと考える。Zn合金粒子中のMgが大気中の酸素と反応し、MgO・nH2Oの水酸化物が形成されやすくなり、表面保湿効果が向上するものと考える。
【0024】
本発明者らは、アッパーデッキ、ハッチカバー、ウォーターバラストタンクなどのような塩化物環境下ではさらに次のようなメカニズムにより、より一層表面保湿効果が助長されることを見出した。すなわち、上記塗料または塗装鋼板は、乾湿繰り返し環境、または湿潤環境で、かつ、塩化物を含有する環境では、環境中の塩化物と塗料中のMgにより、表面にMgCl2を形成させる。このMgCl2は、潮解性が高く、長時間の表面保湿性を発揮し、その結果、表面保湿効果により犠牲防食作用性が一層向上し、著しい耐食性・防錆性を発揮するものと考えられる。
【0025】
本発明者らは、表面保湿効果による耐食性・防錆性の更なる向上可能性を詳細に検討し、上記合金粒子に、質量%で、Al:0.01〜30%、Si:0.01〜3%の1種又は2種を含有させることで、自己溶解性(大気から水分を取り込んで、その水分に溶解する性質)が適度に低減され、表面保湿効果の延長によるさらなる耐食性・防錆性が達成できることを見出した。
【0026】
また、金属粒子形状にも着目し、上記Zn合金粒子は、球状ではなく、物理的破砕面および/または長さ0.01μm以上のき裂などにより、略球状多面体になると、特に面数が2以上になると、犠牲防食効果を損なうことなく、自己溶解性を一層低減でき、さらなる耐食性作用の延長が達成できることを見出した。このとき、破砕面および/または長さ0.01μm以上のき裂にMgZn2やMg2Zn11、Mg2Zn3、MgZnまたはMg7Zn3のうち1種以上を含むことの金属間化合物を配置することで、さらに得られる表面保湿効果を高めることができることを見出した。
【0027】
さらに、前記無機系プライマーに、更に、平均粒子径2〜50μmのZnおよび不可避的不純物からなるZn金属粒子を分散させた高耐食性防錆塗料であって、質量%で、(前記Zn合金粒子量):(前記Zn金属粒子量)の比の値を1/xとしたとき、Xが300.0以下、および/またはZn合金粒子と該Zn金属粒子との全金属粒子中のMg含有量が0.01〜30%となるように混合することで、従来のZn金属粒子のみよりも優れた表面保湿効果が得られ、耐食性・防錆性が達成できることを見出した。
【0028】
すなわち、Zn合金粒子は、そのままで塗料用の顔料として用いて優れた耐食性・防錆性をもたらすが、さらなる検討の結果、一般的な生成方法であるミスト法やガスアトマイズ法等で生成された、従来から一般的に用いられているZn金属粒子とZn合金粒子を混合した塗料顔料を用いることで、Zn金属粒子を単独使用した顔料に比較して著しく優れた耐食性・防錆性をもたらすことを見出した。
【0029】
また、本発明の金属粒子を顔料として有機塗料とした場合には紫外線・水分や酸素などの有機塗料の劣化にとって厳しい複合環境であっても従来にない優れた耐食性・防錆性をもたらすことを見出した。
【0030】
本発明は、以上のような検討に基づきなされたものであり、その特徴は以下の通りである。
(1)質量%で、Mg:0.01〜30%を含有し、残部Znおよび不可避的不純物からなり、物理的破砕面および/または長さ0.01μm以上のき裂、もしくは深さ0.01μm以上のき裂を有し、平均粒径が0.05〜200μmで、最大径と最小径のアスペクト比(最大径/最小径)の平均値が1〜1.5であるZn合金粒子を、乾燥塗膜中に、質量%で、30%以上含有し、残部無機系バインダーからなる無機系プライマーを、下地層として塗布することを特徴とする、相対湿度30%以上〜100%以下の環境下に置かれる船舶鋼材の防錆方法。
(2)前記Zn合金粒子が、更に、質量%で、Al:0.01〜30%、Si:0.01〜3%の1種又は2種を含有することを特徴とする、前記(1)に記載の船舶鋼材の防錆方法。
(3)前記Zn合金粒子が、表面にMg固溶相及びZn−Mg金属間化合物を有することを特徴とする、前記(1)または(2)に記載の船舶鋼材の防錆方法。
(4)前記Zn合金粒子の金属間化合物が、MgZn2、Mg2Zn11、Mg2Zn3、MgZnまたはMg7Zn3のうち1種以上を含むことを特徴とする、前記(3)に記載の船舶鋼材の防錆方法。
(5)前記Zn合金粒子が、略球状多面体の面数が2面以上であることを特徴とする、前記(1)〜(4)の何れかに記載の船舶鋼材の防錆方法。
(6)前記無機系プライマーは、前記Zn合金粒子に加え、更に、平均粒子径0.05〜50μmのZnおよび不可避的不純物からなるZn金属粒子を含有し、質量%で、(前記Zn合金粒子量):(前記Zn金属粒子量)の比の値を1/xとしたとき、Xが300.0以下であることを特徴とする前記(1)〜(5)の何れか1項に記載の船舶鋼材の防錆方法。
(7)質量%で、前記Zn合金粒子と前記Zn金属粒子の混合粒子の合計を100%としたとき、Mgの含有量が、0.01〜30%未満であることを特徴とする、前記(6)に記載の乾湿繰返し環境下の船舶鋼材の防錆方法。
(8)前記無機系プライマーに代えて、有機系バインダーからなる有機系プライマーを用いることを特徴とする、前記(1)〜(7)の何れかに記載の船舶鋼材の防錆方法。
(9)船舶の鋼材面に、前記(1)〜(8)の何れかに記載の乾湿繰返し環境下の船舶鋼材の防錆方法により、塗装厚みが2〜300μmのプライマー層が形成されていることを特徴とする、耐食性に優れた船舶。
(10)上記(1)に代え、質量%で、Mg:0.01〜30%を含有し、残部Znおよび不可避的不純物からなり、物理的破砕面および/または長さ0.01μm以上のき裂、もしくは深さ0.01μm以上のき裂を有し、平均粒径が0.05〜200μmであるZn合金粒子を、乾燥塗膜中に、質量%で、30%以上含有し、残部無機系バインダーからなる無機系プライマーを、下地層として塗布することを特徴とする、相対湿度30%以上〜100%以下の環境下に置かれる船舶鋼材の防錆方法。
【発明の効果】
【0031】
本発明によれば、相対湿度30%以上〜100%以下の環境で、例えば、ウォーターバラストタンク、カーゴホールド、アッパーデッキ、ハッチカバー等の船舶内外板が曝される環境下において、長期にわたる表面保湿性による犠牲防食効果を延長させることができるため、船舶内外板を有利に防錆することができ、延いては耐食性に優れた船舶を提供することが可能となるため、産業上の効果は計り知れない。
【発明を実施するための最良の形態】
【0032】
本発明の限定要件を詳細に述べる。
【0033】
船舶鋼材は、造船所の初期工程もしくは、製鉄所の最終工程にて、鋼板表面をブラスト処理し、その表層に無機系Znプライマーを塗布する。これら無機系Znプライマーが塗布された鋼板は目的に即した形状に溶断・溶接され船舶を建造していく。最終工程では、その上層に変性タールエポキシ塗装などの重防食塗装が施され、防食される。上記のような工程にて建造される船舶で、腐食が厳しく、乾湿繰り返しとなる部位に、ウォーターバラストタンクやカーゴホールド等の船舶内板とアッパーデッキ、ハッチカバー等の船舶外板がある。
【0034】
本発明は、上記のような船舶内外の相対湿度30%以上〜100%以下、特に相対湿度30〜70%程度の湿度が低い環境下においても、表面保湿効果が働くことで、長時間表面が湿潤状態となることにより、著しく優れた表面保湿性を発揮する。本発明において、相対湿度30%以上〜100%以下の環境下に置かれる鋼材を対象とした理由は以下のとおりである。従来の塗装方法で塗装した鋼板表面を手で触れてみると、相対湿度30%以上〜100%以下の環境下、特に相対湿度30〜70%程度の湿度が低い環境下においては、水分を含んでいることが指先の感触と肉眼で確認できない場合がある。 一方、本発明方法を施した鋼板表面においては、相対湿度30%以上〜100%以下の環境下で、相対湿度50〜100%に置かれた時はもちろんのこと、特に相対湿度30〜70%程度の湿度が低い環境下においても該鋼板表面を手で触れたときに水分を含んでいることが指先の感触と肉眼で確認できる。即ち、相対湿度30〜70%程度でも表面保湿作用が得られ、犠牲防食効果が十分に発揮されると考えられる。さらに、その他の環境因子として、請求項1のZn合金粒子由来のMgが、MgCl2となって、潮解性が生じる塩化物環境が好ましい。すなわち、海上や海浜環境のように海塩が飛散する環境が望ましい。
【0035】
また、船舶がローリングすることによりアッパーデッキ、ハッチカバーには海水の水滴、飛沫が飛散するが、そのような環境に用いる鋼板の防錆方法として、本発明が適している。従来腐食が厳しく、乾湿繰り返しとなる部位に、ウォーターバラストタンクやカーゴホールド等の船舶内板とアッパーデッキ、ハッチカバー等の船舶外板があるが、本発明を適用することで、耐食性・防錆性が十分得られる。
【0036】
次にZn金属粒子ないしZn合金粒子の限定要件について詳細に述べる。
【0037】
Mgは表面保湿効果発現に必要不可欠のものである。Zn合金粒子中のMg含有量は0.01〜30%とすることが必要である。Mgが0.01%未満では、耐食性の向上に十分な表面保湿効果は得られず、船舶内外板の耐食性を確保することができない。一方、30%を超えて添加すると上記効果が飽和するばかりか、経済性および製造性を阻害することから、Mgの添加量は0.01〜30%とした。ただし、この添加量の最適値は平均粒径によって変化し、一般にスプレー塗装において最適と考えられる平均粒径0.2〜30μmの場合には、下限は0.1%とし、上限は20%とすることが耐食性・防食性の向上効果、経済性の観点から好ましい。さらに、Mg添加量による耐食性と原料コスト、製造安定性のバランスを考慮するとMg添加量は0.2%〜15%がより好ましい。なお、本発明でいう物理的破砕面とは、球状の粒子の一部が欠落した形状を指す。Zn合金粒子が物理的破砕面を有することにより、後述のように耐食性・防食性の向上効果が顕著に得られる。また、本発明でいうき裂とは、球状の粒子表面上に存在する長さ0.01μm以上、表面からの深さ0.01μm以上の割れを意味する。き裂は長さもしくは深さで0.01μm未満では十分な耐食性向上効果が得られず、0.01μm以上の長さもしくは深さを必要とする。
【0038】
Zn合金粒子の平均粒径は、スプレー塗装時に於ける付着性確保のため、0.05μm以上とし、刷毛塗り時の作業安定性確保のため、200μm以下とする。塗装安定性を考慮すると0.2〜50μmが好ましい。また、塗膜密着性を考慮すると0.2〜30μmが好ましい。
【0039】
Zn合金粒子の形状を、好ましくは最大径と最小径のアスペクト比(最大径/最小径)の平均が1〜1.5とする。このような形状に限定したのは、スプレー塗装を前提とした場合には、平均のアスペクト比が1.5を超えると粒子の噴霧・飛行安定性が低下し、塗膜厚および塗膜中での粒子分布安定性が低下するからである。従って値が1.5を超えるアスペクト比の粒子が部分的に存在しても問題とはならない。さらに上記したアスペクト比の値の範囲は原料としてのZn合金粒子を規定するものであり、実際に塗料に混ぜて使用するまでに、空気中の水分等を吸収して、これらのZn合金粒子が凝集し結合した場合や、塗膜として鋼材上で硬化した場合のそれぞれの粒子が結合した場合等のZn合金粒子の形状までも規定するものではない。また、製造時や保管時に、Zn合金粒子表面に小さな凹凸が生じることもあるが、これらによる形状変化もアスペクト比の平均値が1〜1.5という球状や楕円球状から逸脱するものとはしない。
【0040】
Zn合金粒子は、物理的破砕面および/または、き裂を有することが必要である。マグネシウム水酸化物や塩化マグネシウムによる表面保湿効果を発揮させるためには、合金粒子を物理的に破砕し、物理的破砕面および/または、き裂を形成してMgを粒子表面に濃化させておくことが必要だからである。
【0041】
上記破砕面を持つZn合金粒子の製造方法は、特に限定はしないが、例えば、汎用の粉末製造法である揮発法(蒸発凝固法)、アトマイズ法(噴霧法)により、まず、1次粒子を作成する。次に、作成した1次粒子同士の衝突あるいは1次粒子と固体との衝突によって物理的破砕面および/または、き裂を持つZn合金粒子を作製するか、又は含水率を0.3%以下としたトルエンまたはキシレン中に1次粒子を添加してスラリー状としたものを上記のZn合金粒子同士の衝突あるいは固体との衝突法によって物理的破砕面および/または、き裂を持つZn合金粒子を作製できる。また、この製造方法で作成することによりZn合金粒子のアスペクト比を1〜1.5の範囲内とすることもできる。
【0042】
次に乾燥塗膜中でのZn合金粒子の含有量は、質量%で、30質量%以上含有することが必要である。30質量%未満では耐食性等の効果が得られるまでに到らない。上限は、特に規定するものではないが、85質量%を超えると樹脂成分が少なくなり過ぎ、塗膜に欠陥が生じ易くなるため、85質量%以下が望ましい。なお、塗膜中の樹脂成分としては、成膜性を確保するために少なくとも15%とすることが好ましい。さらに、上記Zn合金粒子を30%以上含有していれば、それ以外の粉末粒子を添加してもよく、例えば、(意匠性を目的とした)Al、ステンレス等の金属粉末や酸化チタン、酸化亜鉛等の酸化物粉末、タルク、石粉等の体質顔料を含有していても良い。
【0043】
さらに、このZn合金粒子に、Al:0.01〜30%、Si:0.01〜3%の1種又は2種を含有させることでさらなる防錆性が達成できる。
【0044】
Zn合金粒子中のAl含有量は、0.01%未満では防食性能向上の効果は得られず、また30%より多く添加すると、AlはMgを固溶しやすく物理的破砕性を阻害するので、その範囲を0.01〜30%に限定した。更に、防食性能、物理的破砕性の観点から0.5〜20%が好ましい。さらに、経済性を考慮すると、1.0〜10%が好ましい。
【0045】
Zn合金粒子中のSi含有量は、0.01%未満では塗膜密着性、物理的破砕および/または、き裂の効果は得られず、また3%より多く添加すると、耐食性に悪影響を及ぼすことから、0.01〜3%に限定した。更に、最大限の塗装密着性、耐食性を発揮させるためには0.5〜3.0%が好ましい。さらに製造安定性、経済性を考慮すると1.0〜1.5%が好ましい。
【0046】
また、上記範囲内であれば、Al、Siの塗膜中での配合比率は特に限定しないが、耐食性の観点からそれぞれAl:0.05〜1.5%、Si:0.01〜1.5%が好ましい。
【0047】
本発明のZn合金粒子が、物理的破砕面および/またはき裂にMg固溶相及びZn−Mg金属間化合物を有すると、合金粒子表面に露出したMg固溶相及びZn−Mg金属間化合物の作用で塗装鋼板表面の保湿効果を発揮することができる。Zn合金粒子の場合は、金属間化合物を含んでおり、物理的破砕面および/またはき裂を有することができる。Mg固溶相とZn−Mg金属間化合物を表面に露出することで耐食性と防錆性が向上する理由については不明点が多いが、これらの相のいずれか一方以上が破砕面および/または、き裂に共存することでこれらの特性向上が特に安定に得られることを見いだしており、物理的破砕面および/または、き裂が存在することで、これらの相の化学的性質がより耐食性および防錆性に好ましいものに変化することを実験的に確認している。Mg固溶相及びZn−Mg金属間化合物は、予めZn合金粉末のX線回折法または、エネルギー分散型X線分析装置付き走査電子顕微鏡観察により、物理的破砕面またはき裂表面のMgとZnの組成比分析によって、同定することができる。
【0048】
さらに、本発明では上記金属間化合物相をMgZn2、Mg2Zn11、MgZn、Mg2Zn3またはMg7Zn3のうち1種以上を含むことで、上記の耐食性と防錆性はより一層向上させることが可能である。MgZn2、Mg2Zn11、Mg2Zn3、MgZnまたは、Mg7Zn3はX線回折法または、エネルギー分散型X線分析装置付き走査電子顕微鏡観察による物理的破砕面またはき裂表面のMgとZnの組成比分析によって、同定することができる。
【0049】
金属粒子の形状は、上記Zn合金粒子が球状やフレーク状ではなく、物理的破砕および/またはき裂を有する略球状多面体とすることで、Mg濃化相または、Zn−Mg金属間化合物が露出し、十分な表面保湿性が長時間発現される。略球状多面体とは、球状の粒子が物理的破砕により生じた擬似球状形であり、耐食性を考慮すると、物理的破砕によって生じた一つの閉じた稜線で囲まれる平面または曲面を1面とする、多面体の面数が2面以上あることが好ましい。耐食性や防錆性向上の観点からは、物理的破砕面数は多いほど好ましいが、その破砕面数が平均1面未満では、現時点で理由は不明であるが、上記効果向上の効果のばらつきが大きくなる。また、平均のアスペクト比の値が2超で形状が極端に扁平な場合には、塗装時の作業性が低下し、好ましくない。従って、粒子の形状を非扁平の球状に近い多面体で(アスペクト比の平均値で1〜1.5)、面数が2面以上有する形状と規定した。さらに上記した形状範囲は原料としてのZn合金粒子を規定するものであり、実際に塗料に混ぜて使用するまでに、空気中の水分等を吸収して、これらのZn合金粒子が凝集し結合した場合や、塗膜として鋼材上で硬化した場合のそれぞれの粒子が結合した場合等のZn合金粒子の形状までも規定するものではない。また、製造時や保管時に、Zn合金粉末表面に小さな凹凸が生じることもあるが、これらによる形状変化もアスペクト比の平均値が1〜1.5という球状や楕円球状から逸脱するものとはしない。
【0050】
本発明のプライマーに含有させる金属粒子として、前記Zn合金粒子に代えて、Zn合金粒子とZn金属粒子を混合した金属粒子の混合物を用い、Zn金属粒子は上述の本発明のZn合金粒子と同様のものを用いることができる。
【0051】
本発明は、Zn合金粒子に加えて、更に、平均粒子径2〜50μmのZnおよび不可避的不純物からなるZn金属粒子を含有し、Zn合金粒子と該Zn金属粒子との全金属粒子中のMg含有量が、質量%で、0.01〜30%となるように混合するとともに、Zn合金粒子とZn金属粒子の合計を、乾燥塗膜中に質量%で30%以上含有すると好ましい。
【0052】
本発明における上記した破砕面および/または、き裂を有するZn合金粒子は、利用に際して平均粒径0.05〜50μmのZn金属粒子を含有し、質量%で、前記Zn合金粒子量と前記Zn金属粒子量の比の値を1/xとしたとき、xを300以下で混在させて使用することができる。ここでいうZn金属粒子とは、Znおよび不可避的不純物からなる粒子を意味し、該Zn金属粒子と上記した破砕面および/または、き裂を有するZn合金粒子を混合して塗料顔料に用いることで、従来のようにZn金属粒子を単独使用した顔料に比較して著しく優れた耐食性・防錆性をもたらすが、Zn合金粒子量:Zn金属粒子量の質量%の比の値を1/xとしたとき、xが300.0超では、耐食性・防錆性の向上に及ぼす、Zn合金粒子の効果が十分に発揮されない。したがって、x値を300.0以下とした。さらに耐食性、経済性を考慮すると、x値は1〜120が好ましい。さらに混合安定性を考慮するとx値は1〜30が好ましい。
【0053】
前記Zn合金粒子と混合するZn金属粒子の平均粒径を0.05〜50μmとする。上記した本発明における耐食性向上の効果は、混合するZn金属粒子の平均粒径が0.05〜300μmの範囲で認められるが、工業的に安定かつ安価に供給可能な平均粒径であることから、Zn金属粒子の平均粒径を0.05〜50μmとした。一方、上記した本発明の破砕面および/または、き裂を有するZn合金粒子と前記Zn金属粒子の混合効果は、おおよそ全防錆顔料中に含まれるMgの含有量でも整理することが可能で、質量%で、本発明の物理的破砕面および/または、き裂を有するZn合金粒子と前記Zn金属粒子の混合粒子の合計を100%としたとき、Mgの含有量を0.01〜30%未満として使用することができる。さらに付け加えると破砕面および/または、き裂を有する合金粒子とZn金属粒子の混合効果が最も顕著な範囲である0.1〜20%とすることが耐食性向上の効果安定性からは好ましく、加えて経済性を考慮すると0.5〜15%とすることがより好ましいが、目的に応じて適宜適用できる。
【0054】
次に乾燥塗膜中でのZn合金粒子とZn金属粒子の含有量は、質量%で、30質量%以上含有することが必要である。30質量%未満では耐食性等の効果が得られるまでに到らない。上限は、特に規定するものではないが、85質量%を超えると樹脂成分が少なくなり過ぎ、塗膜に欠陥が生じ易くなるため、85質量%以下が望ましい。
【0055】
上記いずれの本発明においても、塗膜中の樹脂成分としては、成膜性を確保するため、少なくとも15%とすることが好ましい。さらに、上記Zn合金粒子を30%以上含有していれば、チタン、カーボン、べんがら、クロムバーミリオン、紺青、黄鉛などの着色顔料や、鉛丹、亜酸化鉛、塩基性クロム酸鉛などの錆止め顔料、炭酸カルシウム、タルクなどの体質顔料を添加しても良い。
【0056】
なお、本発明において、無機系バインダー、有機系バインダーのいずれの樹脂(バインダー)でも利用できるが、船舶の現状を鑑みると、アルカリシリケートやアルキルシリケート等の無機系バインダーが好ましい。
【0057】
また、船舶鋼材の塗装厚みであるが、2〜300μmに限定した。塗装厚みが2μm未満では、十分な防食効果が期待できず、また、300μmを超えると割れやダレを生じやすく、耐食性・防食性が低下する。
【0058】
さらに、船舶であるが、海上を往来している船舶であれば、種類、サイズなど特に限定するものではない。例えば、LNG船、客船、コンテナ船、油タンカー、自動車専用船、雑貨船、バラ積み船などの商船から、漁船、巡視船、工作船、検疫船などの運賃収入を目的にしない船舶まで船舶全般において有用である。
【0059】
以下に、実施例を用いて本発明を説明する。
【実施例】
【0060】
Zn合金粒子は、ガスアトマイズ法により作製したものを、あるいはガスアトマイズ法により作製したZn合金粒子同士を、含水率0.3%以下のトルエンに加えてスラリー状としたものを対向するジェット噴流として、該ジェット噴流同士を衝突させることによって、Zn合金粒子に物理的破砕面および/またはき裂を生じさせた粒子を用いた。このような製造方法で製造した結果として、Zn合金粒子のアスペクト比は1〜1.5の範囲となる。アスペクト比について記載していない下記表1〜3のものについても同様である。一方、下記表4の比較例78〜82については、Zn合金粒子をガスアトマイズ法で作製した後一旦、高純度アルミナボールを用いたボールミルに投入して1〜3分間、軽い粉砕を行った後、取り出し、次に含水率0.3%以下のトルエンに加えてスラリー状としたものを対向するジェット噴流として、該ジェット噴流同士を衝突させることによって、作製した。
【0061】
なお、用いた各Zn合金粒子の化学組成を、表1〜7「Zn合金粒子の内容」の欄に記した。Zn合金粒子をプライマーに添加する前に、粉末X線回折試験を実施して、Mg固溶相、MgZn2、Mg2Zn11およびその他のZn−Mg金属間化合物の存在有無の確認を行った。さらに、電界放射型電子銃装備の走査電子顕微鏡による観察を実施し、Zn合金粒子の平均粒径を粒子数100個以上で、画像解析により平均球相当直径としてそれぞれ求め、表に記した。なお、それらの値は、別途、該Zn合金粒子のレーザー回折分散法によって求めた平均球相当直径と、10%未満の誤差で一致していた。表1〜3に記載のZn合金粒子のMg濃度について*)を付しているが、ここに表示したMg濃度は、Zn合金粒子とZn金属粒子を混合した場合は、その混合した金属粒子中のMg含有量を示す意味である。
【0062】
また、同時に、Zn合金粒子の表面状態を前記走査電子顕微鏡観察で確認し、物理的破砕面および/またはき裂の有無、およびその面数の概要を観察者が観察像を見て判断した。表1〜表3については、物理的破砕面の有無を観察した。観察結果について、●:破砕面有り、×:破砕面なしと表示した。表4〜表7については、物理的破砕面とき裂の有無を観察した。観察結果について、◎:破砕面及び/又はき裂有り、×:破砕面及びき裂なしと表示した。当該観察では、それぞれの粒子の片面しか見ていないが、影になっている反対側にも、同様の形状が連続的、面対照的に存在しているものと仮定して面数を判断し、粒子数100個以上で、その平均値を有効数字1桁で表した。前述のように、物理的破砕によって生じた一つの閉じた稜線で囲まれる平面または曲面を1面としている。
【0063】
また事前に、該Zn合金粒子の粉末X線回折測定によって、存在するMg固溶相、Zn−Mg金属間化合物の種類を確認した上で、前記走査電子顕微鏡観察において、適宜、同時にX線エネルギー分散型分析装置でZn、Mgの濃度の半定量マッピング観察・濃度比測定または、反射電子顕微鏡像観察で、物理的破砕面またはき裂の表面におけるMg固溶相およびZn−Mg金属間化合物の存在状態を確認した。
【0064】
その後、表1〜7に示す条件で塗装試験片を作製した。塗料調合は、一般的な方法で実施し、バインダーとしては、市販のアルカリシリケートあるいはアルキルシリケート樹脂の無機系または、エポキシ系樹脂の有機系を使用し、塗装は、エアレスプレー塗装を採用した。なお、鋼板は、500mm角の鋼板を用い、Sa1/2 (ISO 8501−1) になるようにブラスト処理を施した後、前記塗装を実施し、船舶内のアッパーデッキ外板、アッパーデッキ裏、ハッチカバー、ウォーターバラストタンクロンジ、カーゴホールド内壁、喫水ラインより上方の船舶外板に設置した。各試験片ともに、巨視的な欠陥をカッターにてXカットを挿入し、地鉄が露出していることを確認した。また、別途、乾燥塗膜中のZn合金粒子の割合を求めている。本試験中、表面が湿度33%、温度35℃環境であることを温湿度センサーにて確認後、本発明の防錆方法に従った試験片(本発明例10、20、30、40、50、60、70、80、90、100、110、120、130、140、150、160、170、180、190、200、210、220、230、240、250、260、270、280、290、300、310、320、330、340、350、360)プライマ表面を指で触れて目視で観察したところ、試験片全体がいずれも湿り気を含んでおり、保湿効果が保たれていることがわかった。
【0065】
本試験の結果は、船舶の前記各位置に設置した試験片の実暴露試験を3年間実施した後の、鋼板の最大腐食深さで評価した。元厚に対し、20%以上減肉した場合は、不良と判断し×、20〜15%の減肉した場合は、優れた防食性を示したと判断し○、15%未満の減肉した場合は、特に優れた防食性を示したと判断し◎で表示した。表4から表6にそれぞれの船内曝露試験の試験結果を示す。
【0066】
表1の比較例1から比較例18は従来の無機系プライマー、表1の比較例19以降および、表2の比較例すべて、表3の比較例すべては、Zn合金粒子または、Zn合金粒子とZn金属粒子の混合物である。また、表1の本発明例1から120は、Zn合金粒子または、Zn合金粒子とZn金属粒子の混合物である。表1〜表7から、上記乾湿が繰り返される環境において、本発明例は著しく優れた耐食性・防錆性を示すことがわかった。
【0067】
また、表1から表3の本発明例1から360のそれぞれ無機系および有機系プライマーの上層に、さらに100〜200μmの変性エポキシ樹脂を塗装した試験片を用意し、試験片四周部の塗膜を外側から3〜5mmを全てカッターで傷をつけ、剥離し、地金を露出させた。これらも、船舶内のアッパーデッキ外板、アッパーデッキ裏、カーゴホールド内壁に設置し、実暴露試験を3年間実施したところ、表面保湿効果は有効に発揮され、元厚に対する減肉量は、いずれも10%を下回り、著しく優れた耐食性・防錆性を示すことがわかった。
【0068】
【表1−1】

【表1−2】

【表1−3】

【表1−4】

【表1−5】

【表1−6】

【0069】
【表2−1】

【表2−2】

【表2−3】

【表2−4】

【表2−5】

【0070】
【表3−1】

【表3−2】

【表3−3】

【表3−4】

【表3−5】

【0071】
【表4−1】

【表4−2】

【表4−3】

【0072】
【表5−1】

【表5−2】

【0073】
【表6−1】

【表6−2】

【表6−3】

【0074】
【表7−1】

【表7−2】

【表7−3】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
質量%で、Mg:0.01〜30%を含有し、残部Znおよび不可避的不純物からなり、物理的破砕面および/または長さ0.01μm以上のき裂、もしくは深さ0.01μm以上のき裂を有し、平均粒径が0.05〜200μmで、最大径と最小径のアスペクト比(最大径/最小径)の平均値が1〜1.5であるZn合金粒子を、乾燥塗膜中に、質量%で、30%以上含有し、残部無機系バインダーからなる無機系プライマーを、下地層として塗布することを特徴とする、相対湿度30%以上〜100%以下の環境下に置かれる船舶鋼材の防錆方法。
【請求項2】
前記Zn合金粒子が、更に、質量%で、Al:0.01〜30%、Si:0.01〜3%の1種又は2種を含有することを特徴とする、請求項1に記載の船舶鋼材の防錆方法。
【請求項3】
前記Zn合金粒子が、表面にMg固溶相及びZn−Mg金属間化合物を有することを特徴とする、請求項1または2に記載の船舶鋼材の防錆方法。
【請求項4】
前記Zn合金粒子の金属間化合物が、MgZn2、Mg2Zn11、Mg2Zn3、MgZnまたはMg7Zn3のうち1種以上を含むことを特徴とする、請求項3に記載の船舶鋼材の防錆方法。
【請求項5】
前記Zn合金粒子が、略球状多面体の面数が2面以上であることを特徴とする、請求項1〜4の何れか1項に記載の船舶鋼材の防錆方法。
【請求項6】
前記無機系プライマーは、前記Zn合金粒子に加え、更に、平均粒子径0.05〜50μmのZnおよび不可避的不純物からなるZn金属粒子を含有し、質量%で、(前記Zn合金粒子量):(前記Zn金属粒子量)の比の値を1/xとしたとき、Xが300.0以下であることを特徴とする請求項1〜5の何れか1項に記載の船舶鋼材の防錆方法。
【請求項7】
質量%で、前記Zn合金粒子と前記Zn金属粒子の混合粒子の合計を100%としたとき、Mgの含有量が、0.01〜30%未満であることを特徴とする、請求項6に記載の乾湿繰返し環境下の船舶鋼材の防錆方法。
【請求項8】
前記無機系プライマーに代えて、有機系バインダーからなる有機系プライマーを用いることを特徴とする、請求項1〜7の何れか1項に記載の船舶鋼材の防錆方法。
【請求項9】
船舶の鋼材面に、請求項1〜8の何れか1項に記載の乾湿繰返し環境下の船舶鋼材の防錆方法により、塗装厚みが2〜300μmのプライマー層が形成されていることを特徴とする、耐食性に優れた船舶。

【公開番号】特開2008−223137(P2008−223137A)
【公開日】平成20年9月25日(2008.9.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−27574(P2008−27574)
【出願日】平成20年2月7日(2008.2.7)
【出願人】(000006655)新日本製鐵株式会社 (6,474)
【出願人】(000159618)吉川工業株式会社 (60)
【Fターム(参考)】