説明

色処理装置及びプログラム

【課題】明度が固定された定点を用いて入力色の対応色を決定する場合よりも、高明度の入力色に対する対応色の明度変化を抑制する。
【解決手段】入力色の明度が閾値Lth1以下の場合及び入力色の彩度が閾値Cth以下の場合は定点の明度を最大彩度点の明度Lcとし、入力色の明度が閾値Lth2(>Lth1)以上かつ彩度が閾値Cthより高い場合は定点の明度を入力色の明度Lとし、入力色の明度が閾値Lth2より低く閾値Lth1より高、かつ彩度が閾値Cthより高い場合は、定点の明度を入力色の明度の変化に応じて最大彩度点の明度Lcと入力色の明度Lとの間で連続的に変化させ、設定した明度の定点を用いて各入力色の対応色を決定する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は色処理装置及びプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、異なる階調再現範囲を持つ第1の出力機器と第2の出力機器との間での階調マッチングを行うために、第1の出力機器の階調特性曲線を第2の出力機器で出力可能な明度域に基づき線形圧縮し、線形圧縮した階調特性曲線と第2の出力機器の階調特性曲線とに基づき、第2の出力機器に出力する画像データを生成するために使用する出力階調再現曲線を求める技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特許第3825965号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、明度が固定された定点を用いて入力色の対応色を決定する場合と比較して、高明度の入力色に対する対応色の明度変化を抑制できる色処理装置及び色処理プログラムを得ることが目的である。
【課題を解決するための手段】
【0005】
請求項1記載の発明に係る色処理装置は、少なくとも入力色の明度が第1閾値以下の場合は、前記入力色に対応する定点の明度として最大彩度点の明度を設定し、少なくとも入力色の明度が前記第1閾値よりも高い場合は、前記入力色に対応する定点の明度として前記最大彩度点の明度よりも高い明度を設定する設定手段と、デバイス非依存色空間上で前記設定手段によって設定された前記入力色に対応する定点と前記入力色とを結ぶ線分上の色を、前記入力色の対応色として決定する決定手段と、を含んで構成されている。
【0006】
請求項2記載の発明は、請求項1記載の発明において、前記設定手段は、入力色の明度が前記第1閾値以下又は入力色の彩度が第2閾値以下の場合は、前記入力色に対応する定点の明度として前記最大彩度点の明度を設定し、入力色の明度が前記第1閾値よりも高くかつ入力色の彩度が前記第2閾値よりも高い場合は、前記入力色に対応する定点の明度として前記最大彩度点の明度よりも高い明度を設定する。
【0007】
請求項3記載の発明は、請求項1又は請求項2記載の発明において、前記設定手段は、対応する定点の明度として前記最大彩度点の明度よりも高い明度を設定する入力色のうち、前記第1閾値よりも明度の高い第3閾値以上の明度の入力色に対しては、対応する定点の明度として前記入力色の明度を設定する。
【0008】
請求項4記載の発明は、請求項3記載の発明において、前記設定手段は、対応する定点の明度として前記最大彩度点の明度よりも高い明度を設定する入力色のうち、明度が前記第1閾値よりも高くかつ前記第3閾値よりも低い入力色に対しては、対応する定点の明度を、前記入力色の明度と前記第1閾値又は前記第3閾値との差の変化に応じて、前記最大彩度点の明度と前記入力色の明度との間で連続的に変化させる。
【0009】
請求項5記載の発明は、請求項4記載の発明において、前記設定手段は、入力色の明度が前記第3閾値以上の場合は変数rateを1.0に設定し、入力色の明度が前記第1閾値よりも高くかつ前記第3閾値よりも低い場合は、
rate=(入力色の明度−第1閾値)/(第3閾値−第1閾値) …(1)
上記(1)式に従って変数rateを求め、変数rateを用いて
定点の明度=rate×入力色の明度+(1.0−rate)×最大彩度点の明度 …(2)
上記(2)式によって対応する定点の明度を演算する。
【0010】
請求項6記載の発明に係る色処理プログラムは、コンピュータを、少なくとも入力色の明度が第1閾値以下の場合は、前記入力色に対応する定点の明度として最大彩度点の明度を設定し、少なくとも入力色の明度が前記第1閾値よりも高い場合は、前記入力色に対応する定点の明度として前記最大彩度点の明度よりも高い明度を設定する設定手段、及び、デバイス非依存色空間上で前記設定手段によって設定された前記入力色に対応する定点と前記入力色とを結ぶ線分上の色を、前記入力色の対応色として決定する決定手段として機能させる。
【0011】
請求項7記載の発明に係る色処理プログラムは、コンピュータを、請求項1〜請求項5の何れか1項記載の色処理装置の各手段として機能させる。
【発明の効果】
【0012】
請求項1,6,7記載の発明は、明度が固定された定点を用いて入力色の対応色を決定する場合と比較して、高明度の入力色(第1閾値よりも高い明度の色)に対する対応色の明度変化を抑制できる、という効果を有する。
【0013】
請求項2記載の発明は、明度が固定された定点を用いて入力色の対応色を決定する場合と比較して、高明度かつ高彩度の入力色(明度が第1閾値よりも高く彩度が第2閾値よりも高い色)に対する対応色の明度変化を抑制できる、という効果を有する。
【0014】
請求項3記載の発明は、本構成を有しない場合と比較して、明度が特に高い入力色(第3閾値以上の明度の色)の対応色の明度を入力色と一致させることができる、という効果を有する。
【0015】
請求項4記載の発明は、本構成を有しない場合と比較して、対応する定点が最大彩度点の明度よりも高い明度に設定される範囲内の入力色に対応する対応色に階調のギャップが生じないように対応色を決定することができる、という効果を有する。
【0016】
請求項5記載の発明は、本構成を有しない場合と比較して、対応する定点が最大彩度点の明度よりも高い明度に設定される範囲内の入力色に対応する対応色に階調のギャップが生じないように対応色を決定することを、簡易な演算によって実現できる、という効果を有する。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本実施形態に係るコンピュータ・システムの概略構成を示すブロック図である。
【図2】本実施形態における色処理の流れを示す概略図である。
【図3】色変換プロファイル生成の流れを示す概略図である。
【図4】色域変換処理の内容を示すフローチャートである。
【図5】入力色の明度と定点明度との関係の一例を示す線図である。
【図6】入力色の明度に応じて定点明度を変化させるマッピングの一例を示す概略図である。
【図7】従来の定点固定マッピングの一例を示す概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、図面を参照して本発明の実施形態の一例を詳細に説明する。図1には本実施形態に係るコンピュータ・システム10の概略構成が示されている。コンピュータ・システム10は、LAN等から成るネットワーク12に、PC(Personal Computer:パーソナル・コンピュータ)等から成る複数台のクライアント端末14と、コンピュータ・システム10に画像(データ)を入力する入力デバイス16と、コンピュータ・システム10から入力された画像データを画像として可視化する出力デバイス18が各々接続されて構成されている。なお、入力デバイス16としては、例えば原稿を読み取って画像データを出力するスキャナが、出力デバイス18としては、例えば入力された画像データが表す画像を用紙へ印刷する画像形成装置(プリンタ、或いはプリンタに複写機やファクシミリ装置としての機能も付加された複合機)、入力された画像データが表す画像を表示する表示装置等が挙げられる。なお、ネットワーク12はインターネット等のコンピュータ・ネットワークにも接続されていてもよい。
【0019】
ネットワーク12に接続された個々のクライアント端末14は、CPU14A、RAM等から成るメモリ14B、HDD(Hard Disk Drive)やフラッシュメモリ等から成る不揮発性の記憶部14C、ネットワーク・インタフェース(I/F)部14Dを備えており、ネットワークI/F部14Dを介してネットワーク12に接続されている。また、クライアント端末14には、出力デバイスの1つである表示装置20、入力手段としてのキーボード22及びマウス24が各々接続されている。なお、スキャナ等の入力デバイス16や画像形成装置等の他の出力デバイス18についても、表示装置20と同様にクライアント端末14に直接接続されていてもよい。例えば入力デバイス16としてはスキャナ以外にデジタルスチルカメラ等が挙げられるが、デジタルスチルカメラ等はクライアント端末14に直接接続される。
【0020】
また、クライアント端末14の記憶部14Cには、OS(Operating System)のプログラム、OS上で動作し入力デバイス16や出力デバイス18を使用する各種のアプリケーション・プログラム、クライアント端末14で次に述べる色処理を行うための色処理プログラムが予め各々インストールされており、色処理で使用するプロファイル等を登録可能な色変換プロファイルDB(データベース)、及び、手動や動的にプロファイルを生成するために利用する色予測モデルのプログラム及びベースデータも各々記憶されている。
【0021】
次に本実施形態の作用を説明する。本実施形態に係るクライアント端末14には、或る入力デバイス16から入力された画像データや、或る出力デバイス18における画像の出力に用いた画像データを、別のデバイス(出力デバイス18)における画像の出力に用いる場合に、デバイス毎の色再現特性の相違を補正して各デバイスで利用者の意図通りの色を再現させる色処理を行うために、図2に示す色処理部30が設けられている。
【0022】
図2に示すように、本実施形態に係る色処理部30は、色域変換部32、色変換プロファイル生成部34及び色変換処理部36から構成されている。本実施形態に係る色変換処理部36には、処理対象の画像データ(出力デバイス18による画像出力のための画像データ)として、特定のデバイス(装置)に依存しない色空間(デバイス非依存色空間)の画像データが入力される。色変換処理部36は色変換プロファイル生成部34から出力された色変換プロファイルを利用することにより、入力されたデバイス非依存色空間の画像データを出力デバイス18に依存する色空間(出力デバイス依存色空間)の画像データへ変換して出力する。色変換プロファイルには様々なデータ形式があり、最も簡素化したデータ形態であるが一定の精度を備えた基本的な形態としてCLUT(カラールックアップテーブル)がある。加えて、高精度にする手段としてはCLUTとTRC(単色の階調特性)を利用する形態がある。ここでは説明の便宜上、色変換プロファイルとしてCLUTの形態を用いて説明する。
【0023】
なお、本実施形態で説明する態様は、ICCの規格に記載されているOutput Profile形式のように、任意のデバイスから予め定めた出力デバイス(例えば画像形成装置等の出力デバイス18)へ色信号(色情報)を出力する際に共通に用いられる色変換プロファイルを生成する態様であり、色処理部30にはデバイス非依存色空間のデータ(格子点データ又は画像データ)が入力される。この場合、色処理30では、デバイス非依存色空間のデータだけに対応できるだけでなく、RGBデータのようなデバイス依存色空間であっても入力画像データと共に画像データの色空間に対応する入力プロファイル(画像に添付されている場合や予め色処理部30で設定している場合などがある)とOutput Profileを連結することでプロファイルを生成した後、画像データの色処理をすることにも適用可能である。さらに、本発明は上記態様以外に、例えばデバイスリンクProfile形式のように、予め定めた第1のデバイスから予め定めた第2のデバイス(出力デバイス)へ色信号(色情報)を出力する際にのみ用いられる色変換プロファイルを生成する態様にも適用可能であり、この場合、色処理部30には前記第1のデバイスに依存する色空間のデータが入力される。
【0024】
また、色域変換部32及び色変換プロファイル生成部34は、色変換処理部36の色変換プロファイルを生成するものであり、このうち色域変換部32は、
予めデバイス非依存色空間を記述するために設定した初期のCLUT(例えばCIELAB色空間の場合なら、L*:0〜100、a*:-128〜127、b*:-128〜127のそれぞれの軸を複数の格子点で分割した格子点データ)に対して、詳細は後述するが、デバイス毎の色の見えの差(この見えの差は、主として個々のデバイスの色域(色再現域)の相違に起因する)を補正すると共に、デバイス非依存色空間上での色の分布範囲をデバイス非依存色空間上での出力デバイスの色再現域内に収める色域変換(色域マッピングともいう)を実現することで、色域変換を施したCLUTを生成する。言い換えると、色域変換部32は、入力された個々の格子点データに対して色域変換を行ったに相当する結果(対応色)を各々求め、得られた対応色をデータ群としたCLUTとして出力する。また、以下ではデバイス非依存色空間としてCIELAB色空間を適用した態様を説明するが、デバイス非依存色空間は、観察条件の影響を排除した色の見えを表す色空間、例えば色の見えモデルであるCIECAM02(或いはCIECAM97s等)によって規定される色空間JCh、或いは色空間JChから求まる色空間Jabであってもよい。また、色処理部30に入力される格子点データ(や画像データ)の色空間と、色域変換部32が対応色(CLUT)の決定に用いる色空間と、が相違している場合には、色域変換部32の前段に、格子点データの色空間を色域変換部32が対応色の決定に用いる色空間へ変換する変換部を設け、当該変換を経た格子点データが色域変換部32に入力されるように構成すればよい。
【0025】
また、色変換プロファイル生成部34は、色域変換部32から出力されたデバイス非依存色空間のCLUTが入力され、出力デバイス依存色空間(例えば出力デバイス18が表示装置20であればRGB色空間、出力デバイス18が画像形成装置であればCMYK色空間)へ変換することで、色変換(色分解ともいう)した結果(出力デバイス依存色空間上の信号値)のデータ群としての色変換プロファイルを生成する。上記のデバイス空間への色変換の方法は、予め作成しておいた色変換プロファイル、例えば各種メーカや業界団体が提供しているICCProfile形式の色変換プロファイルを用いてもよいし、より高精度な色変換のために、上記の色変換プロファイルによる色変換の前処理や後処理として、階調テーブルやガンマ曲線に基づく1次元の色変換を付加してもよいし、上記の色変換プロファイルによる色変換と上記の前処理又は後処理を単一の色変換条件に統合して用いることも可能である。より好ましい形態としては、色予測モデル(少数の入力色と出力色の対応関係を表すベースデータ(素データともいう)に基づいて、対応する出力色が未知の入力色が入力されると、入力された入力色に対応する出力色を各種のアルゴリズムによって推定演算して出力するプログラム)を用いることが望ましく、本実施形態に係る色変換条件生成部34においても、上記の色変換を実現するための色変換プロファイルを、色予測モデルを用いて生成している。
【0026】
色予測モデルは、デバイス依存色空間とデバイス非依存色空間との間の色変換特性を予測・推定するもので、一般に線形演算(線形補間)よりも高い補間性能、スムージング性能を備えている(測定誤差や装置によるノイズ、面内ムラに強い)。色予測モデルには、統計的な手法を用いる方法(Makoto Sasaki and Hiroaki Ikegami, Proc. of International Congress of Imaging Science 2002 (2002) p.413-141)や、ニューラルネットを利用する方法、ノウゲバウワーやクベルカムンク等の物理モデルを基にする方法がある。また色予測モデルには、順方向の色変換(デバイス依存色空間からデバイス非依存色空間への色変換)の色変換特性を予測・推定するもの、逆方向の色変換(デバイス非依存色空間からデバイス依存色空間への色変換) の色変換特性を予測・推定するもの、順方向の色変換及び逆方向の色変換の色変換特性の予測・推定が可能なものが存在しているが、何れのモデルについてもベースデータ(素データ)に基づいて色変換特性の予測・推定を行う。
【0027】
色予測モデルに設定する素データは、具体的には、例えば図3の(1)に示すように、出力デバイスへの入力色(デバイス依存色)が既知の各色のパッチ(色票)を生成し(例えば出力デバイスとしての画像形成装置へ画像データを出力する際の色変換を実現するための色変換プロファイルを生成する場合、色票の生成は画像形成装置への入力色(出力デバイス依存色)が既知の色票を出力デバイスとしての画像形成装置によって印刷させることによって成される)、生成した各色票について、出力色(デバイス非依存色)を測色計等によって各々計測することで、各色票の入力色と出力色を対応付けて入手する(図3の(2)も参照)。色変換プロファイル生成部34では、この素データを取得して色予測モデルに設定し(図3の(3)も参照)、素データを設定した色予測モデルに、色域変換部32から出力されたCLUT(各格子点のデバイス非依存色)を順に入力し、色予測モデルから順に出力される出力色(出力デバイス依存色空間上の色値)を色変換プロファイル(各格子点の出力デバイス依存色)として出力する(図3の(4)も参照)。
【0028】
色変換プロファイル生成部34から出力された色変換プロファイルは、色域変換部32に入力された格子点データに対し、色域変換部32による処理及び色変換プロファイル生成部34による処理を経て得られるデータであるので、色処理部30に入力された画像データを上記の色変換プロファイルによって変換することで、前述の色域変換及び色変換が成された出力デバイス依存色空間の画像データ(出力デバイス18における画像の出力に供した場合に、出力デバイス18によって出力される画像の色の見えを利用者の意図通りに、或いは利用者の意図に近づけることができる画像データ)が得られることになる。
【0029】
なお、クライアント端末14の記憶部14Cにインストールされている色処理プログラムは、上述した色処理部30の各機能ブロックを実現するための複数のプログラム(色域変換部32として機能する色域変換プログラム、色変換プロファイル生成部34として機能する色変換プロファイル生成プログラム、色変換処理部36として機能する色変換処理プログラム)から構成されている。なお、図1では色処理プログラムをOSのプログラムと別に示しているが、色処理プログラムはOS標準のプログラムとしてOSのプログラムに含まれていてもよい。また、色処理プログラムを構成する複数のプログラムのうち、色域変換プログラムは本発明に係る色処理プログラムに対応しており、クライアント端末14は、CPU14Aが上記の色域変換プログラムを実行することで、本発明に係る色処理装置として機能する。
【0030】
次に、色域変換部32で行われる色域変換処理について、図4を参照して説明する。なお、この色域変換処理は色域変換部32に対応する処理であり、クライアント端末14のCPU14Aによって色域変換プログラムが実行されることで実現される。
【0031】
色域変換処理では、まずステップ50において、予め算出されて記憶部14Cに記憶されている、色域変換を行うデバイス非依存色空間上での出力デバイス18の色再現域(出力色域)の外郭形状を表すデータ(出力デバイス18の出力色域データ)を記憶部14Cから読み込んでメモリ14Bに記憶させる。次のステップ52では、色変換プロファイルの生成に用いるために記憶部14Cに予め記憶された複数の格子点データの中から、未処理の単一の格子点の色情報を記憶部14Cから読み出し、読み出した単一の格子点の色情報を入力色としてメモリ14Bに記憶させる。
【0032】
ステップ54では、ステップ52で読み込んだ入力色をステップ50で読み込んだ出力色域データが表す出力色域の外郭の位置と比較し、デバイス非依存色空間上で入力色が出力色域外に位置しているか否か判定する。判定が否定された場合はステップ74へ移行し、予め定めたアルゴリズムに従い入力色の対応色を決定し、決定した対応色を色変換プロファイルとして記憶部14Cに記憶させた後にステップ76へ移行する。なお、この場合は入力色が出力色域内に収まっているので、対応色=入力色としてもよいし、公知の色域マッピング手法に従って対応色を決定するようにしてもよい。
【0033】
公知の色域マッピング手法としては、例えば色域内の共通領域内の色は測色的一致(白色点を用いた相対化を含む)となり、共通領域外の色は出力色域内に収まるように対応色を演算する貼り付け型色域マッピング(この貼り付け型色域マッピングには、より詳しくは、明度保存を優先させる手法や、彩度保存を優先させる手法がある)や、色域内の各色の相対的な関係が保存されるように色域内の全領域に対して対応色を求める色域マッピング、色域内の各領域毎に異なるマッピング手法を適用する適応型色域マッピング、貼り付け型色域マッピングと相対的な関係を維持する色域マッピングを組み合わせたマッピング手法(例えば部分的に測色的一致、部分的に圧縮を行う等)があり、これらの何れを適用してもよい。
【0034】
一方、デバイス非依存色空間上で入力色が出力色域外に位置している場合には、ステップ54の判定が肯定されてステップ56へ移行し、入力色から入力色の色相Hを算出し、ステップ50で読み込んだ出力色域データに基づき、算出した色相Hにおける出力色域の最大彩度点の明度Lcを演算等によって取得する。次のステップ58では、入力色から算出した入力色の明度Lが、予め定めた第1の閾値明度Lth1(図6も参照)以下か否か判定する。なお、上記の第1の閾値明度Lth1は本発明に係る第1閾値に対応している。この判定が肯定された場合はステップ70へ移行し、入力色の対応色を求める色域マッピングで用いる定点の明度として、先のステップ56で求めた色相Hにおける最大彩度点の明度Lcを設定する。そしてステップ72へ移行し、デバイス非依存色空間上において、明度軸上のうちステップ70で設定した明度位置に位置している定点と入力色とを結ぶ線分を求め、求めた線分と出力色域の外郭との交点に相当する色を対応色に決定し(図6に示す「入力色Aの対応色」も参照)、決定した対応色をCLUTとして記憶部14Cに記憶させる。上記処理は定点を基準として入力色を出力色域の外郭上にマッピングすることに相当し、対応色はマッピング後の色に相当している。
【0035】
ここで、最大彩度点はデバイス非依存色空間上で等色相面で最大となる彩度を示す点に相当する再現色であってもよい。例えば、4色以上の多色デバイスで出力色域を作成するとデバイス非依存色空間上で各色相毎に最大となる彩度である最大彩度を示す再現色を求めて、色相に対して最大彩度を示す再現色の明度をプロットした場合、不連続となることがある。この不連続な明度を定点に利用して色域マッピングをすると階調ジャンプが発生する。そこで、この不連続な明度を有する最大彩度点を回避するには、何らかの手段で拘束された最大彩度点に相当する再現色を生成する必要がある。拘束手段の一例として、離散的な色相に対する最大彩度点を利用して、不連続を補間により連続的な最大彩度点として扱う方法などがある。
【0036】
なお、先のステップ50で読み込んだ出力色域データは、デバイス非依存色空間の明度軸回りに離散的かつ均等に分布するように予め定めた複数の基準色相における出力デバイス18の出力色域の最大彩度点を含む外郭形状を各々規定するデータであり、ステップ56で算出した入力色の色相Hが何れの基準色相とも一致していない場合には、補間演算によって対応色を決定する。具体的には、例えば色相Hを挟んで隣り合う一対の基準色相H1,H2のうち、基準色相H1における出力色域の最大彩度点の明度Lc1を定点の明度として用い、当該定点と入力を結ぶ線分と、基準色相H1における出力色域の外郭との交点における明度L1及び彩度C1を求めると共に、基準色相H2における出力色域の最大彩度点の明度Lc2を定点の明度として用い、当該定点と入力を結ぶ線分と、基準色相H2における出力色域の外郭との交点における明度L2及び彩度C2を求め、明度L1,L2から線形補間によって色相Hにおける対応色の明度Lを求め、かつ彩度C1,C2から線形補間によって色相Hにおける対応色の彩度Cを求める。
【0037】
ところで、例えば最大彩度点の明度Lcが比較的低い色相において、入力色の明度が比較的高い場合、上記のように定点の明度として最大彩度点の明度Lcを設定したとすると、例として図7に示すように、入力色と対応色との明度差が大きくなる。また、入力色と対応色との明度差が大きくなる現象は、入力色の彩度が高くなるに従って顕著となる。
【0038】
このため、図4に示す色域変換処理では、ステップ58の判定が否定された場合にステップ60へ移行し、入力色から算出した入力色の彩度Cが、予め定めた閾値彩度Cthよりも大きいか否か判定する。なお、上記の閾値彩度Cthは請求項2に記載の第2閾値に対応している。この判定が否定された場合はステップ70へ移行し、前述のように、入力色の対応色を求める色域マッピングで用いる定点の明度として最大彩度点の明度Lcを設定するが、ステップ60の判定が肯定された場合はステップ62へ移行し、入力色の明度Lが予め定めた第2の閾値明度Lth2以上か否かを判定する。なお、図6に示すように、第2の閾値明度Lth2は第1の閾値明度Lth1よりも明度が高くなるように定められている。また、第2の閾値明度Lth2は請求項3等に記載の第3閾値に対応している。そしてこの判定が肯定された場合はステップ64へ移行し、入力色の対応色を求める色域マッピングで用いる定点明度として、入力色の明度Lを設定した後にステップ72へ移行する。この場合、例として図6に「入力色C」「入力色Cの定点」及び「入力色Cの対応色」として示すように、入力色と対応色との明度差は0となる。
【0039】
また、ステップ62の判定が否定された場合はステップ66へ移行し、ステップ66,68において、色域変換に伴い第1の閾値明度Lth1よりも高明度の入力色の対応色に階調のギャップが生じないように定点の明度を設定する。すなわち、まずステップ66では入力色の明度Lを次の(3)式に代入して比率rateを演算する。
rate←(L−Lth1)/(Lth2−Lth1) …(3)
なお、上記の(3)式は請求項5に記載の(1)式に対応している。そしてステップ68では、ステップ66で演算した比率rate、入力色の明度L及び最大彩度点の明度Lcを次の(4)式に代入して定点の明度を演算した後にステップ72へ移行する。
定点明度←rate×L+(1.0−rate)×Lc …(4)
なお、上記の(4)式は請求項5に記載の(2)式に対応している。
【0040】
上記処理により、例として図5に示すように、入力色の明度Lが第1の閾値明度Lth1以下(又は入力色の彩度が閾値彩度Cth以下)であれば、定点の明度は最大彩度点の明度Lcとなり、入力色の明度Lが第2の閾値明度Lth2以上(かつ入力色の彩度が閾値彩度Cthよりも高)であれば、定点の明度は入力色の明度Lと等しくされる一方、入力色の明度Lが第1の閾値明度Lth1よりも高かつ第2の閾値明度Lth2よりも低(かつ入力色の彩度が閾値彩度Cthよりも高)であれば、定点の明度は、最大彩度点の明度Lc〜第2の閾値明度Lth2の範囲内で、入力色の明度Lの増減に応じて増減することになる。そしてこの場合は、例として図6に「入力色Bの定点」として示すように、定点の明度は最大彩度点の明度Lcよりは高く入力色の明度Lよりは低い明度とされ、図6に示す「入力色B」と「入力色Cの対応色」を比較しても明らかなように、入力色と対応色との明度差は0ではないものの、定点の明度として最大彩度点の明度Lcを設定した場合よりは入力色と対応色との明度差が小さくなる。
【0041】
ステップ72の処理を行うとステップ76へ移行し、記憶部14Cに記憶されている複数の格子点データを入力色として全て読み出したか否か判定する。判定が否定された場合はステップ52に戻り、ステップ76の判定が肯定される迄ステップ52〜ステップ76を繰り返す。これにより、記憶部14Cに記憶されている全ての格子点データに対し、対応色が各々決定、記憶される。そしてステップ76の判定が肯定されるとステップ78へ移行し、上記処理で記憶部14Cに記憶した全ての格子点データの対応色のデータを記憶部14Cから読み出し、色変換プロファイルとして後段(色変換プロファイル生成部34)へ出力して処理を終了する。上述した色域変換処理において、ステップ58〜ステップ68は本発明に係る設定手段(より詳しくは請求項2〜請求項5に記載の設定手段)に対応しており、ステップ72は本発明に係る決定手段に対応している。
【0042】
なお、上記では色域変換処理(図4参照)において、入力色と定点を結ぶ線分と出力色域の外郭との交点を対応色とする(入力色を出力色域の外郭上にマッピングする)態様を説明したが、本発明はこれに限定されるものではなく、対応色の位置は入力色と定点を結ぶ線分上であれば出力色域内であっても出力色域外であってもよく、入力色と定点を結ぶ線分上の任意の位置を対応色の位置として適用可能である。
【0043】
また、上記では色域変換処理(図4参照)において、入力色の明度Lが第1の閾値明度Lth1よりも高く、かつ入力色の彩度Cが閾値彩度Cthよりも高い場合に、定点の明度を最大彩度点の明度Lcよりも高くする態様を説明したが、本発明はこれに限定されるものでもなく、入力色の明度Lが第1の閾値明度Lth1よりも高い場合に、入力色の彩度Cが閾値彩度Cthよりも高いか否かに拘わらず、定点の明度を最大彩度点の明度Lcよりも高くするようにしてもよい。
【0044】
また、上記では色域変換処理(図4参照)において、入力色の明度Lが第1の閾値明度Lth1よりも高かつ第2の閾値明度Lth2よりも低(かつ入力色の彩度が閾値彩度Cthよりも高)の場合に、先の(3),(4)式に基づき、入力色の明度Lの変化に対し、定点の明度を最大彩度点の明度Lc〜第2の閾値明度Lth2の範囲内で線形に変化させる態様(図5参照)を説明したが、本発明はこれに限定されるものでもなく、入力色の明度Lの変化に対して定点の明度を非線形に変化させるようにしてもよい。
【0045】
更に、上記では全色相に対して一律の処理を行う態様を説明したが、本発明はこれに限定されるものではなく、入力色の明度が比較的高い場合に、定点の明度として最大彩度点の明度Lcを設定すると入力色と対応色との明度差が大きくなることは、特に最大彩度点の明度Lcが低い場合に顕著に生ずるので、全色相のうち最大彩度点の明度Lcが予め定めた値以下の色相に対してのみ上記処理(定点を最大彩度点の明度Lcよりも高明度に設定して対応色を求める処理)を行うようにしてもよいし、最大彩度点の明度Lcに応じて第1の閾値明度Lth1、第2の閾値明度Lth2及び閾値彩度Cthの少なくとも1つを変化させるようにしてもよい。
【0046】
また、上記ではクライアント端末14を本発明に係る色処理装置として機能させる態様を説明したが、本発明はこれに限定されるものではなく、例えばクライアント端末14と通信回線を介して接続されたサーバ・コンピュータを本発明に係る色処理装置として機能させ、色変換プロファイルを決定する等の処理を行わせる一方、クライアント端末14はサーバ・コンピュータで決定された色変換プロファイルを受け取り、受け取った色変換プロファイルを用いて画像データに対する色変換処理を行う等の態様に本発明を適用することも可能である。
【0047】
また、上記では本発明に係る色処理プログラムに対応する色処理プログラムがクライアント端末14の記憶部14Cに予め記憶(インストール)されている態様を説明したが、本発明に係る色処理プログラムは、CD−ROMやDVD−ROM等の記録媒体に記録されている形態で提供することも可能である。
【符号の説明】
【0048】
10 コンピュータ・システム
14 クライアント端末
18 出力デバイス
30 色処理部
32 色域変換部
34 色変換プロファイル生成部
36 色変換処理部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも入力色の明度が第1閾値以下の場合は、前記入力色に対応する定点の明度として最大彩度点の明度を設定し、少なくとも入力色の明度が前記第1閾値よりも高い場合は、前記入力色に対応する定点の明度として前記最大彩度点の明度よりも高い明度を設定する設定手段と、
デバイス非依存色空間上で前記設定手段によって設定された前記入力色に対応する定点と前記入力色とを結ぶ線分上の色を、前記入力色の対応色として決定する決定手段と、
を含む色処理装置。
【請求項2】
前記設定手段は、入力色の明度が前記第1閾値以下又は入力色の彩度が第2閾値以下の場合は、前記入力色に対応する定点の明度として前期最大彩度点の明度を設定し、入力色の明度が前記第1閾値よりも高くかつ入力色の彩度が前記第2閾値よりも高い場合は、前記入力色に対応する定点の明度として前記最大彩度点の明度よりも高い明度を設定する請求項1記載の色処理装置。
【請求項3】
前記設定手段は、対応する定点の明度として前記最大彩度点の明度よりも高い明度を設定する入力色のうち、前記第1閾値よりも明度の高い第3閾値以上の明度の入力色に対しては、対応する定点の明度として前記入力色の明度を設定する請求項1又は請求項2記載の色処理装置。
【請求項4】
前記設定手段は、対応する定点の明度として前記最大彩度点の明度よりも高い明度を設定する入力色のうち、明度が前記第1閾値よりも高くかつ前記第3閾値よりも低い入力色に対しては、対応する定点の明度を、前記入力色の明度と前記第1閾値又は前記第3閾値との差の変化に応じて、前記最大彩度点の明度と前記入力色の明度との間で連続的に変化させる請求項3記載の色処理装置。
【請求項5】
前記設定手段は、入力色の明度が前記第3閾値以上の場合は変数rateを1.0に設定し、入力色の明度が前記第1閾値よりも高くかつ前記第3閾値よりも低い場合は、
rate=(入力色の明度−第1閾値)/(第3閾値−第1閾値) …(1)
上記(1)式に従って変数rateを求め、変数rateを用いて
定点の明度=rate×入力色の明度+(1.0−rate)×最大彩度点の明度 …(2)
上記(2)式によって対応する定点の明度を演算する請求項4記載の色処理装置。
【請求項6】
コンピュータを、
少なくとも入力色の明度が第1閾値以下の場合は、前記入力色に対応する定点の明度として最大彩度点の明度を設定し、少なくとも入力色の明度が前記第1閾値よりも高い場合は、前記入力色に対応する定点の明度として前記最大彩度点の明度よりも高い明度を設定する設定手段、
及び、デバイス非依存色空間上で前記設定手段によって設定された前記入力色に対応する定点と前記入力色とを結ぶ線分上の色を、前記入力色の対応色として決定する決定手段
として機能させるための色処理プログラム。
【請求項7】
コンピュータを、請求項1〜請求項5の何れか1項記載の色処理装置の各手段として機能させるための色処理プログラム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2011−24031(P2011−24031A)
【公開日】平成23年2月3日(2011.2.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−168107(P2009−168107)
【出願日】平成21年7月16日(2009.7.16)
【出願人】(000005496)富士ゼロックス株式会社 (21,908)
【Fターム(参考)】