説明

芳香族ポリアミド繊維

【課題】芳香族ポリアミド繊維が持つ機械的物性を保持し、かつ難燃性、耐光性に優れた芳香族ポリアミド繊維を提供すること。
【解決手段】下記化1の構造反復単位(1)からなる芳香族ポリアミド(1)を主成分とし、かつ下記化2の構造反復単位(2)からなる芳香族ポリアミド(2)を0.1〜20mol%含有している芳香族ポリアミド繊維。
【化1】


【化2】


(化1および化2中、ArおよびArは各々独立であり、非置換あるいは置換された2価の芳香族基である。)

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、難燃性、耐光性、機械的物性に優れた芳香族ポリアミド繊維に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、芳香族ポリアミド繊維(アラミド繊維)は、耐熱性、機械特性、耐薬品性に優れ、自動車部品、電気・電子部品、機械部品などに広く利用されてきた。しかし、これらの用途においては、芳香族ポリアミドの更なる耐熱性、難燃性が要求されている。一般に、ポリマーの耐熱性、難燃性向上の手段として、充填剤、すなわち難燃剤とポリマーとの複合材料の開発が盛んに行われており、これまで、ポリマーの耐熱性や難燃性を向上させる目的で、繊維状、針状のフィラーが難燃化剤として用いられ、耐熱性、難燃性が向上することが知られている。
例えば、特開平11−100499号公報(特許文献1)には、水酸化マグネシウムおよびエラストマーをポリアミド樹脂にそれぞれ30重量%以上、特に3〜20重量%含有させ、難燃性を向上させたポリアミド樹脂が開示されている。
しかしながら、添加量の増加に伴ない、繊維の引張強度、弾性率などの機械的物性が低下し、難燃性、熱収縮性の向上と機械的物性の持続とは両立するとは限らない。
【0003】
また、芳香族ポリアミド繊維は、耐光性が必ずしも満足のいくレベルではなく、繊維を日光暴露して使用する場合に繊維物性が劣化しやすく耐光性の改善された芳香族ポリアミド繊維の例は少ない。例えば、特開2007−23451号公報(特許文献2)、特開昭64−85316号公報(特許文献3)、特開平6−81211号公報(特許文献4)には、芳香族ポリアミドにカーボンブラックを含有させることで、耐光性を向上させたポリアミド繊維が開示されている。
しかしながら、カーボンブラックの添加量の増加に伴ない、繊維の引張強度、弾性率などの機械的物性が低下し耐光性の向上と機械的物性の持続とは両立するとは限らない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平11−100499号公報
【特許文献2】特開2007−23451号公報
【特許文献3】特開昭64−85316号公報
【特許文献4】特開平06−81211号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、本来、芳香族ポリアミド繊維が持つ機械的物性を保持し、かつ難燃性、耐光性に優れた芳香族ポリアミド繊維を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、下記化1の構造反復単位(1)からなる芳香族ポリアミド(1)を主成分とし、かつ下記化2の構造反復単位(2)からなる芳香族ポリアミド(2)を0.1〜20mol%含有していることを特徴とする芳香族ポリアミド繊維に関する。
【0007】
【化1】

【0008】
【化2】

【0009】
(化1および化2中、ArおよびArは各々独立であり、非置換あるいは置換された2価の芳香族基である。)
【発明の効果】
【0010】
本発明の芳香族ポリアミド繊維は、化1で表される構造反復単位(1)からなる芳香族コポリアミド(1)に、化2の構造反復単位(2)からなる芳香族ポリアミド(2)を含有する芳香族ポリアミド繊維であり、これにより、難燃性、耐光性、引張強度、弾性率に優れており、かつLOI値、収縮率にも優れている。従って、本発明の芳香族ポリアミド繊維は、マルチフィラメントヤーン、トウ、ステープルファイバー(短繊維)、紡績糸などとして、織物、編み物、不織布などの繊維構造物に形成し、消防、工業用衣料をはじめとする各種分野で有用である。なお、これらの製品を製造するに当り、本発明の芳香族ポリアミド繊維を他の繊維と組み合わせ、混繊、交撚、混紡、交織、交後などで使用することも可能である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の実施形態について詳細に説明する。
本発明における芳香族ポリアミドとは、1種類または2種類以上の2価の芳香族基が直接アミド結合により連結されているポリマーであって、一般に公知の方法に従って、アミド系溶剤中で、芳香族ジカルボン酸ジクロライドと芳香族ジアミンの重縮合反応により得られる。このとき、上記芳香族基は2個の芳香環が酸素、硫黄、アルキル基で結合されたものであっても特に差し支えない。また、これらの2価の芳香環は、非置換またはメチル基やエチル基などの低級アルキル基や、メトキシ基、また塩素基などのハロゲン基で置換されていても差し支えは無く、その置換基の種類や置換基の数は特に限定されるものではない。
【0012】
本発明の芳香族ポリアミド(1)〜(2)において、上記構造反復単位(1)あるいは(2)に用いられる芳香族ジカルボン酸ジクロライドとは、例えばテレフタル酸ジクロライド、2−クロロテレフタル酸ジクロライド、3−メチルテレフタル酸ジクロライド、4,4´−ビフェニルジカルボン酸ジクロライド、2,6−ナフタレンジカルボン酸ジクロライド、イソフタル酸ジクロライドなどが挙げられるが、汎用性や繊維の機械的物性などの面からテレフタル酸ジクロライドが最も好ましい。また、これら芳香族ジカルボン酸ジクロライドを1種類また2種類以上用いることもでき、その組成比は特に限定されるものではない。
【0013】
また、本発明における芳香族ジアミンのうち、上記化(1)で表される構造反復単位(1)に用いられるジアミン(以下「第1のジアミン」ともいう)としては、p-フェニレンジアミン、2-クロルp-フェニレンジアミン、2,5-ジクロルp-フェニレンジアミン、2,6-ジクロルp-フェニレンジアミン、m-フェニレンジアミン、3,4’-ジアミノジフェニルエーテル、4,4’-ジアミノジフェニルエーテル、4,4’-ジアミノジフェニルメタン、4,4’-ジアミノジフェニルスルフォン、3,3’-ジアミノジフェニルスルフォンなどを単独あるいは2種以上挙げることができるが、これらに限定されるものではない。
【0014】
中でもジアミン成分として、p-フェニレンジアミン、m-フェニレンジアミンおよび3,4’-ジアミノジフェニルエーテルを単独あるいは2種以上使用することができる。
芳香族ポリアミド(1)としては、コポリパラフェニレン・3,4’−オキシジフェニレンテレフタルアミドが好ましい。
【0015】
また、芳香族ポリアミドに用いられるジアミンのうち、上記化(2)で表される構造反復単位(2)で用いられるジアミン(以下「第2のジアミン」ともいう)としては、置換または非置換のフェニルベンジミダゾール基を有する芳香族ジアミンであり、中でも入手のし易さ、得られる繊維の引張強度および初期モジュラスなどの点から、5(6)−アミノ−2−(4−アミノフェニル)ベンジミダゾールが好ましい。
芳香族ポリアミド(2)としては、テレフタル酸ジクロライドと5(6)−アミノ−2−(4−アミノフェニル)ベンジミダゾールとの重縮合物が好ましい。
【0016】
次に、本発明の芳香族ポリアミド(1)〜(2)の重合や紡糸に用いられるアミド系溶剤としては、例えばN−メチル−2−ピロリドン(以下NMPと記す)、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、ジメチルイミダゾリジノンなどが挙げられるが、汎用性、有害性、取り扱い性、芳香族ポリアミドポリマーに対する溶解性などの観点から、NMPが最も好ましい。
【0017】
また、本発明におけるポリマードープとは、芳香族ポリアミドポリマーが、これに溶解可能な溶剤に溶解したポリマー溶液を指す。また、芳香族ジカルボン酸ジクロライドと芳香族ジアミンの重縮合反応の際に用いる溶剤が、芳香族ポリアミドポリマーに対しても良溶剤である場合は、重縮合反応後のポリマーを単離することなくそのままポリマードープとして用いることができる。また、ポリマーの溶剤への溶解性を高める目的で無機塩を溶解助剤として用いることもできる。この無機塩としては、例えば塩化カルシウム、塩化リチウムなどが挙げられるが、これらに限定されるものではない。ポリマードープに対する無機塩の添加量としては特に限定されるものではないが、ポリマー溶解性向上の効果や、無機塩の溶剤への溶解度などの観点からポリマードープ重量に対して3〜10重量%が好ましい。
本発明における等方性のポリマードープとは、ポリマーが溶剤に溶解した状態で液晶を形成しておらず、特定の方向性を持たないポリマードープを指す。
【0018】
次に、本発明における重合方法を説明する。
本発明においては、例えば先ず芳香族ポリアミドポリマー(1)を重合する。
すなわち、例えばアミド系溶剤であるNMPに、第1の芳香族ジアミン、例えばパラフェニレンジアミンおよび3,4’−ジアミノジフェニルエーテルをそれぞれ溶解させる。
次に、芳香族ジカルボン酸ジクロライド、例えばテレフタル酸ジクロライドを溶解する。このとき添加する芳香族ジカルボン酸ジクロライドの量は、芳香族ジアミンに対して、95〜105モル%である。芳香族ジカルボン酸ジクロライドが95モル%未満および105モル%を超える場合、芳香族ジアミンとの反応が十分に進まず、高い重合度が得られないため好ましくない。
【0019】
また、反応の際、系内に水分や酸素があると、反応を著しく阻害するため、反応の前に系内から十分に水を除去し、窒素などの不活性ガスで置換しておく必要がある。
【0020】
その後、系を加熱し、公知の撹拌機を用いて芳香族ジアミンと芳香族ジカルボン酸ジクロライドとの重縮合反応を行う。このときの反応温度は50〜100℃が好ましく、さらに好ましくは60〜95℃、最も好ましくは70〜90℃である。反応温度が60℃未満の場合、反応が十分に進まないため好ましくない。また反応温度が100℃を超える場合、反応が急速に進みすぎ、反応を制御することが困難となるため、好ましくない。このときの反応時間は、反応温度により大きく異なるため、重合の進行を見ながら適宜調整することができる。
【0021】
反応終了後、重縮合反応により系内に塩酸が発生し、系内が酸性になるため、中和する目的で、水酸化カルシウムなどのアルカリを添加する。アルカリの添加量は、アルカリの種類や芳香族ジアミンとテレフタル酸ジクロライドの添加量により異なるが、水酸化カルシウムを用いる場合、テレフタル酸ジクロライドに対して95〜100モル%が好ましい。水酸化カルシウムが95モル%未満の場合、十分に中和を行うことができず、系内は依然として酸性を示し、解重合の原因になるため好ましくない。また100モル%を超える場合、系内がアルカリを示し、同じく解重合の原因となり好ましくない。
【0022】
中和反応により発生する塩化カルシウムは、生成したポリマーの溶剤への溶解を高める溶解助剤としてそのまま用いることができるため、系内から除去する必要はない。
【0023】
次に、芳香族ポリアミド(2)の重合は、上記芳香族ジカルボン酸ジクロライド、例えばテレフタル酸ジクロライドと、第2のジアミン、例えば5(6)−アミノ−2−(4−アミノフェニル)ベンジミダゾールを用いて重縮合反応を行う以外は、上記芳香族コポリアミド(1)の重縮合と同様である。
【0024】
得られる芳香族ポリアミド(1)あるいは(2)からなるポリマーは、それぞれ、NMPに溶解した、等方性ポリマードープであり、単離することなくそのまま、製糸工程で用いることができる。ただし、このとき芳香族ポリアミドポリマーの濃度は、ポリマードープの粘度や安定性に著しく影響し、後の製糸工程において曵糸性などに大きく影響する。そのため、ポリマー濃度は、2〜10重量%であることが好ましい。そのため、得られたポリマードープは、ポリマー濃度や粘度調整をする目的で、N−メチル−2−ピロリドンを適量添加することができる。
【0025】
ここで、得られる芳香族ポリアミド(1)あるいは(2)の固有粘度(98%濃度の硫酸中、ポリマー濃度0.5g/dlの溶液について30℃で測定した値)は、通常、それぞれ、2.5〜4.5、4.0〜6.0程度である。
【0026】
本発明のポリアミド繊維においては、上記芳香族ポリアミド(1)を主成分とし、これに上記芳香族ポリアミド(2)を0.1〜20モル%、好ましくは0.1〜6モル%ブレンドした繊維から構成されている。
本発明のポリアミド繊維中、芳香族ポリアミド(2)が0.1モル%未満では、難燃性、耐光性、寸法安定性に乏しくなり、一方、20モル%を超えると、機械的物性、特に強度が低下するため好ましくない。
【0027】
次に、芳香族ポリアミドポリマードープを用い製糸を行う。
先ず、芳香族ポリアミド(1)に芳香族ポリアミド(2)がブレンドされたポリマードープを紡糸口金から吐出する。このとき、紡糸口金の孔径は0.05〜0.25mmであることが好ましく、さらに好ましくは0.06〜0.2mm、最も好ましくは0.07〜0.15mmである。孔径が0.05mm未満の場合、紡糸口金の加工が困難になるばかりでなく、ポリマードープを吐出する際の圧力が著しく高くなり好ましくない。一方、0.25mmを超える場合、吐出されるポリマードープが口金を通過するときにかかる剪断力が小さくなるために、曵糸性が悪くなり製糸作業性が低下するばかりでなく、得られる繊維の分子配向が低くなるため好ましくない。
【0028】
また、紡糸口金のノズル長は、0.3〜5mmが好ましく、さらに好ましくは0.36〜4mm、最も好ましくは0.42〜3mmである。ノズル長が0.3mm未満の場合、ポリマードープが口金を通過して吐出する際、ポリマードープにかかる剪断力が小さくなるために、曵糸性が悪くなり製糸作業性が低下するばかりでなく、得られる繊維の分子配向が低くなるため好ましくない。またノズル長が5mmを超える場合、紡糸口金の加工が困難になるばかりでなく、ポリマードープを吐出する際の圧力が著しく高くなり好ましくない。
【0029】
この際、ノズル長と孔径の長さの比は6〜20が好ましく、さらに好ましくは7〜18、最も好ましくは8〜16である。ノズル長と孔径の比が6未満の場合、ポリマードープにかかる剪断力が小さくなるために、曵糸性が悪くなり製糸作業性が低下するばかりでなく、得られる繊維の分子配向が低くなるため好ましくない。また、ノズル長と孔径の比が20を超える場合、紡糸口金の加工が困難になるばかりでなく、ポリマードープを吐出する際の圧力が著しく高くなり好ましくない。
【0030】
紡糸口金の素材は、NMPに対して腐食しない素材であれば特に限定されるものではないが、汎用性、口金の穴の加工性、耐腐食性などの観点からSUS316が最も好ましい。
口金の孔数は、紡糸口金の面積や孔径により異なるため、特に限定されるものではないが、汎用性や取り扱い性の観点から10〜2,000が好ましい。
紡糸口金を通過する際のポリマードープの温度、および紡糸口金の温度は特に限定されるものではないが、曵糸性や吐出圧の観点から80〜120℃が好ましい。
【0031】
次に、紡糸口金から吐出したポリマードープを凝固液中で凝固する。この際、紡糸口金と凝固液の温度が大きく異なる場合、紡糸口金と凝固液が接触するとそれぞれの温度が変化し、制御が困難になるため、エアギャップを設けることができる。このときのエアギャップの長さは、特に限定されるものではないが、温度の制御性、曵糸性などの観点から5〜15mmが好ましい。
【0032】
ここで用いる凝固液は、NMP水溶液であり、その温度は温度30〜70℃、またNMP濃度が20〜60重量%であることが好ましい。凝固液の温度が30℃未満の場合、吐出したポリマードープから凝固浴中へのNMPの溶出が起こりにくく、曵糸性が悪くなるばかりでなく、繊維へNMPが残留しやすくなり、それを抑制するためには多くの水洗工程を経る必要があるため好ましくない。凝固液の温度が70℃を超える場合、吐出したポリマードープから凝固浴中へのNMPの溶出が多くなることにより、吐出されたポリマードープの表面近傍のみが急速に凝固されてスキン層を形成し、繊維内部のNMPの除去が困難になるとともに曵糸性が悪くなるばかりでなく、凝固液中の水が蒸発しやすくなり、凝固液のNMP濃度の調整が困難になるため好ましくない。
【0033】
また、NMP濃度が20重量%未満の場合、吐出したポリマードープから凝固浴中へのNMPの溶出が多くなることにより、吐出されたポリマードープの表面近傍のみが急速に凝固されてスキン層を形成し、繊維内部のNMPの除去が困難になるとともに曵糸性が悪くなるため好ましくない。一方、NMP濃度が70重量%を超える場合、吐出したポリマードープから凝固浴中へのNMPの溶出が起こりにくく、曵糸性が悪くなるばかりでなく、繊維へNMPが残留しやすくなり、それを抑制するためには多くの水洗工程を経る必要があるため好ましくない。
【0034】
次に、別のNMP水溶液浴中で延伸を行う。このときに用いるNMP水溶液は、温度が5〜40℃、またNMP濃度が30〜80重量%であることが好ましい。浴中の温度が5℃未満の場合、繊維からNMPの溶出が起こりにくく、繊維は延伸のために必要な可塑性を保持しやすくなるために延伸性は向上するが、その可塑性が高すぎるために製糸作業性が低下し好ましくない。40℃を超える場合、繊維からNMPの溶出が起こりやすくなるが、それに伴い繊維の可塑性が低下し、十分に延伸を行うことができないため好ましくない。
【0035】
また、NMP濃度が30重量%未満の場合、繊維からNMPの溶出が起こりやすくなるが、それに伴い繊維の可塑性が低下し、十分に延伸を行うことができないため好ましくない。一方、NMP濃度が80重量%を超える場合、繊維からNMPの溶出が起こりにくく、繊維は延伸のために必要な可塑性を保持しやすくなるために延伸性は向上するが、その可塑性が高すぎるために製糸作業性が低下し好ましくない。
【0036】
次に、延伸は、回転速度の異なる1対のローラーに糸を複数回巻きつけ、その回転速度の違いにより延伸を行う。また、回転速度が同じでも、ローラー径が異なる1対のローラーであっても同様に延伸を行うことができる。なお、この延伸は、ローラー径の半分以上がNMP水溶液に浸漬した状態で行う。
また、この工程における延伸倍率は、1.2〜2.5倍であることが好ましい。延伸倍率が1.2倍未満の場合、延伸による繊維中の分子の配向が起こりにくくなり、その結果として引張強度が高い繊維が得られにくくなるため好ましくない。一方、延伸倍率が2.5倍を超える場合、繊維中の分子の配向は促進するものの、繊維を構成する単繊維の一部または全てが切れやすくなり、製糸作業性が著しく低下するとともにそれに伴い引張強度も低下するため好ましくない。
【0037】
なお、この延伸工程で得られる繊維の配向度は70%以上であることが好ましい。その理由は、この工程で得られる繊維の配向度と、熱処理後の繊維の引張強度に明確な正の相関性が見られ、配向度が70%未満の場合、目標とする引張強度を得ることができないためである。
【0038】
延伸後の繊維は、繊維中のNMP、および溶解助剤として用いた無機塩を除去する目的で適宜水洗を行う。なお、水洗工程における、水洗浴中の液種、ならびに温度は特に限定されるものではなく、NMPおよび溶解助剤の除去が十分に行え得る条件であれば問題はない。
【0039】
次に、水洗後の繊維を乾燥する。このときの乾燥条件は特に限定されるものではなく、繊維に付着した水分を十分に除去できる条件であれば問題はないが、作業性や繊維の熱による劣化を考慮すると、120〜200℃が好ましい。また、乾燥は、ローラーなどの接触型の乾燥装置や、乾燥炉中を繊維が通過するなどといった非接触型の乾燥装置のいずれも用いることができる。
【0040】
次いで、乾燥後の繊維を熱処理する。この熱処理温度は、300〜550℃が好ましく、さらに好ましくは320℃〜530℃、最も好ましくは350〜500℃である。熱処理温度が300℃未満の場合、分子の配向が進まず、高強度の繊維が得られないため好ましくない。一方、熱処理温度が550℃を超える場合、分子の配向および分子間の架橋により、繊維の引張強度は向上するものの、高温のために繊維が熱劣化し、強度低下が起こるため好ましくない。
この熱処理を行う際の雰囲気については特に限定されるものではないが、繊維の酸化劣化が懸念されるため、窒素などの不活性ガス中で行うことが好ましい。
熱処理を行う際の繊維の張力については特に限定されるものではないが、この工程で繊維の配向をさらに促進させる目的で、繊維中の単繊維および全てが断糸しない程度の張力を掛けることが好ましい。
また、熱処理の際、繊維を構成する単繊維同士の融着が起こる可能性があるため、それを抑制する目的で、熱処理前に単繊維表面に無機物を付着させることもできる。
【0041】
本発明の芳香族ポリアミド繊維は、高い難燃性を有しており、その理由としては定かではないが、化1の構造反復単位(1)からなる芳香族ポリアミド分子と化2の構造反復単位(2)からなる芳香族ポリアミド分子が均一に分散し、これらが配向することにより分子間での水素結合などの分子間力が働くためであると考えられる。
かくして、本発明の芳香族ポリアミド繊維は、JIS L1091 E法に準拠して測定した限界酸素指数(LOI値)が25以上、好ましくは26〜30である。
本発明の芳香族ポリアミド繊維において、芳香族ポリアミド全体に、芳香族ポリアミド(2)を0.1〜20モル%含有させることにより、限界酸素指数を25以上にすることが可能である。
【0042】
また、本発明の芳香族ポリアミド繊維は、優れた機械的物性を保持しつつ、耐光性が向上する。この理由としては定かではないが、化1の構造反復単位(1)からなる芳香族ポリアミド分子と化2の構造反復単位(2)からなる芳香族ポリアミド分子が均一に分散、配向することにより強度を保持しつつ耐光性が向上すると考えられる。
かくして、本発明の芳香族ポリアミド繊維は、JIS L0842−71に準拠して測定した40時間の光照射後の強度保持率が70%以上、好ましくは75%〜100%である。
本発明の芳香族ポリアミド繊維において、芳香族ポリアミド全体に、芳香族ポリアミド(2)を0.1〜20モル%含有させることにより、光照射後の強度保持率を70%以上にすることができる。
【0043】
かくして得られる芳香族コポリアミド繊維は、引張強度が20cN/dtex以上、好ましくは25〜40cN/dtex、初期弾性率が500cN/dtex以上、好ましくは500〜1,000cN/dtexである。
得られる芳香族ポリアミド繊維の引張強度、初期弾性率を上記範囲内にするには、延伸工程における延伸倍率や熱処理温度、凝固、水洗時の張力などを調整すればよい。
【0044】
なお、本発明の芳香族ポリアミド繊維は、芳香族ポリアミド(2)の含有率が0.1〜6.0モル%の場合、引張強度は20cN/dtex以上、好ましくは22〜27cN/dtexとなる。
【0045】
さらに、本発明の芳香族ポリアミド繊維は、550℃で1分間、熱処理したのちの収縮率は、1.0〜2.5%、好ましくは1.5〜2.5%である。
芳香族ポリアミド(2)の含有率が0.1〜20.0モル%の場合、収縮率を上記範囲内とすることが可能となり、かつ、引張強度を20cN/dtex以上の芳香族ポリアミド繊維を得ることができる。
【実施例】
【0046】
以下、実施例により、本発明をさらに詳しく具体的に説明する。ただし、これらの実施例は本発明の範囲を限定するものではない。なお、実施例中の物性は、下記の方法により測定した。
<芳香族コポリアミドの固有粘度>
前掲
<繊維の引張強度、初期弾性率>
ASTM
D885に準拠し、下記条件により繊維の引張強度、初期弾性率をそれぞれ測定した。
温度:室温
試験機:INSTRON 5565型(INSTRON社製)を用い、糸試験用チャックを用いて引張試験を行った。
試験片:75cm
試験速度:250mm/分
チャック間距離:500mm
この測定結果を表1に示す。
【0047】
<限界酸素指数>
限界酸素指数の測定は、JIS L 1091 E法に準拠した測定法にて測定を実施した。
<収縮率>
繊維の初期長をLoとし、当該繊維に対して500℃雰囲気の乾燥熱処理を10分間施した後の繊維長をLとしたとき、下記式により計算される(S)を乾熱収縮率とした。
[式1]
S(%)=(Lo−L)/Lo × 100
<耐光性測定>
耐光性測定は、JIS L 0842−71に準拠し40時間の光照射前後で強度測定を実施した。これより、以下の式を用いて強度保持率を求めた。
強度保持率(%)=(光照射後の繊維強度/光照射前の繊維強度)×100
【0048】
[実施例1]
化2の構造反復単位(2)からなる芳香族ポリアミド(2)を、コポリパラフェニレン・3,4’−オキシジフェニレンテレフタルアミド(共重合モル比が1:1の芳香族ポリアミド)の濃度6重量%のNMP溶液中に、パラフェニレンジアミン、5(6)−アミノ−2−(4−アミノフェニル)ベンジミダゾール、テレフタル酸クロライド(共重合比が15:35:50の芳香族コポリアミド)からなる重合体を添加して紡糸用ドープを作成した。この芳香族ポリアミド(2)の固有粘度は、4.2であった。
この芳香族ポリアミド(2)を含むNMP溶液を、コポリパラフェニレン・3,4’−オキシジフェニレンテレフタルアミド(共重合モル比が1:1の芳香族ポリアミド、帝人テクノプロダクツ社製、固有粘度=3.39)の濃度6wt%のNMP溶液中に、芳香族ポリアミドの全物質量を基準として3mol%となる割合で添加し、温度80℃下4時間撹拌混合した。得られたドープを用い、孔数25ホールの紡糸口金から吐出し、半乾半湿式紡糸法によりエアギャップ約10mmを介してNMP濃度30重量%の水溶液中に紡出し凝固した後、水洗、乾燥し、次いで、温度500℃下で11倍に延伸した後、巻き取ることにより化2の構造反復単位(2)からなる芳香族ポリアミド(2)が良好に分散した状態で添加されたパラ型芳香族ポリアミド繊維を得た。
その結果、得られた芳香族ポリアミド繊維は、総繊度42dtex、フィラメント数25フィラメント、単糸繊度1.68detx/フィラメントであり、強度は26.1cN/dtex、初期弾性率は563cN/dtex、限界酸素指数は26.0、収縮率は2.1%、強度保持率は76.3%であった。その結果を表1に示す。
【0049】
[実施例2]
ブレンドする化2の構造反復単位(2)からなる芳香族ポリアミド(2)が芳香族ポリアミドの6mol%となる割合で添加する以外は、実施例1と同様にして、化2の構造反復単位(2)からなる芳香族ポリアミド(2)を含有する芳香族ポリアミド繊維を作成し、その原糸の限界酸素指数、収縮率および機械的物性評価を実施した。その結果を表1に示す。
【0050】
[実施例3]
ブレンドする化2の構造反復単位(2)からなる芳香族ポリアミド(2)が芳香族ポリアミドの9mol%となる割合で添加する以外は、実施例1と同様にして、化2の構造反復単位(2)からなる芳香族ポリアミド(2)を含有する芳香族ポリアミド繊維を作成し、その原糸の限界酸素指数、収縮率および機械的物性評価を実施した。その結果を表1に示す。
【0051】
[実施例4]
ブレンドする化2の構造反復単位(2)からなる芳香族ポリアミド(2)が芳香族ポリアミドの20mol%となる割合で添加する以外は、実施例1と同様にして、化2の構造反復単位(2)からなる芳香族ポリアミド(2)を含有する芳香族ポリアミド繊維を作成し、その原糸の限界酸素指数、収縮率および機械的物性評価を実施した。その結果を表1に示す。
【0052】
[比較例1]
化1の構造反復単位(1)からなる芳香族ポリアミド(1)のみからなる未添加の芳香族ポリアミド繊維を作成し、その原糸の限界酸素指数、収縮率、耐光性および機械的物性評価を実施した。その結果を表1に示す。
【0053】
【表1】

【産業上の利用可能性】
【0054】
本発明に係る化2の構造反復単位(2)からなる芳香族ポリアミド(2)を含有する芳香族ポリアミド繊維は、難燃性、耐光性、引張強度、弾性率が大変良好であるため、これらの特性が要求される衣料用素材、工業用資材など広い分野で有効に使用される。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記化1の構造反復単位(1)からなる芳香族ポリアミド(1)を主成分とし、かつ下記化2の構造反復単位(2)からなる芳香族ポリアミド(2)を0.1〜20mol%含有していることを特徴とする芳香族ポリアミド繊維。
【化1】

【化2】

(化1および化2中、ArおよびArは各々独立であり、非置換あるいは置換された2価の芳香基である。)
【請求項2】
JIS L1091 E法に準拠して測定した限界酸素指数(LOI値)が25以上である請求項1記載の芳香族ポリアミド繊維。
【請求項3】
強度20cN/dtex、弾性率500cN/dtex以上である請求項1または2記載の芳香族ポリアミド繊維。
【請求項4】
550℃で1分間、熱処理したのちの収縮率が1.0〜2.5%である請求項1〜3いずれかに記載の芳香族ポリアミド繊維。
【請求項5】
JIS L0842−71に準拠して測定した40時間の光照射後の強度保持率が70%以上である請求項1〜4いずれかに記載の芳香族ポリアミド繊維。
【請求項6】
化2の構造反復単位からなる芳香族ポリアミドの含有率が0.1〜6.0mol%のときに、強度が20cN/dtex以上である請求項1〜5いずれかに記載の芳香族ポリアミド繊維。
【請求項7】
化1の構造反復単位(1)からなる芳香族ポリアミド(1)が、コポリパラフェニレン・3,4’−オキシジフェニレンテレルタルアミドである請求項1〜6いずれかに記載の芳香族ポリアミド繊維。

【公開番号】特開2010−229592(P2010−229592A)
【公開日】平成22年10月14日(2010.10.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−78646(P2009−78646)
【出願日】平成21年3月27日(2009.3.27)
【出願人】(303013268)帝人テクノプロダクツ株式会社 (504)
【Fターム(参考)】