説明

苗移植機

【課題】整地装置付き苗植付部のローリング精度の向上を図る。
【解決手段】走行車体2に設けた昇降リンク機構13により昇降自在の走行部側ベース14に整地ローリング軸16を介して整地ベース17を左右ローリング自在に設ける。整地ベース17に整地装置22を設けると共に、走行部側ベース14と整地ベース17との間を左右のローリングスプリング43,43で連結して整地ベース17を従動的に左右にローリング制御可能に構成する。整地ベース17には植付ローリング軸18により苗植付部19を左右ローリング自在に設けて、苗植付部19をローリングアクチュエータ21により整地ベース17のローリング制御状態に沿うように左右ローリング制御可能に構成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、苗移植機のローリング制御装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
苗移植機において、走行機体に設けられている昇降リンク機構にローリング制御機構を介して植付装置を装着した苗移植機において、ローリング制御機構に圃場の凹凸を均平する均し部材を設け、ローリング制御機構を、昇降リンク機構に対して左右に回動自在な中間部材と、ローリング検知センサの検知に基づいて、中間部材を設定された姿勢に強制的にローリング制御するアクチュエータと、中間部材と植付装置との間に介装され、植付装置を従動的にローリング制御するローリング弾機とにより構成し、中間部材に均し部材を設けたものは公知である(特許文献1)。
【特許文献1】特開2003−339213号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
前記従来技術にあっては、昇降リンク機構に対して左右にローリング制御される中間部材に均し部材を取り付け、中間部材に対して植付装置をローリング弾機により従動的にローリング制御する構成である。従って、植付装置には左右方向に往復移動する苗載せ台が設けていて左右に重心が移動するので、ローリング弾機によって均し部材に沿うように植付装置を従動的にローリング制御しにくく、苗の植付深さが一定になりにくいという不具合があった。そこで、この発明はこのような不具合を解消しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0004】
本発明は、走行車体2に設けた昇降リンク機構13により昇降自在の走行部側ベース14に整地ローリング軸16を介して整地ベース17を左右ローリング自在に設け、前記整地ベース17に整地装置22を設けると共に、前記走行部側ベース14と前記整地ベース17との間を左右のローリングスプリング43,43で連結して整地ベース17を従動的に左右にローリング制御可能に構成し、前記整地ベース17には植付ローリング軸18により苗植付部19を左右ローリング自在に設けて、該苗植付部19をローリングアクチュエータ21により整地ベース17のローリング制御状態に沿うように左右ローリング制御可能に構成したことを特徴とする苗移植機とする。
【0005】
前記構成によると、走行車体2が走行すると、走行部側ベース14に整地ローリング軸16を介してロータリ自在に取り付けられている整地ベース17は、整地装置22の圃場面への接地整地状態と左右のローリングスプリング43,43の伸縮により従動的にローリング制御される。また、整地ベース17に植付ローリング軸18を介してローリング自在に支持されている苗植付部19は、整地ベース17側の整地装置22と平行になるようにローリングアクチュエータ21により左右にローリング制御される。
【発明の効果】
【0006】
本発明は、整地ベース17に支持されている整地装置22は左右の重心移動がないので圃場面への接地整地状態と左右のローリングスプリング43,43の伸縮により従動的に円滑にローリング制御がなされ、また、整地ベース17に植付ローリング軸18を介してローリング自在に支持されている苗植付部19は苗載せ台の左右移動により重心が左右に移動しても、ローリングアクチュエータ21により整地装置22に平行になるように強制的に左右ローリング制御され、整地装置22で整地され圃場面に苗植付部19により植付深さの安定を図りながら苗の植付作業をすることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
以下、図面に示すこの発明の実施例の形態について説明する。
図1には本発明を具備した乗用田植機の全体側面図、図2には同平面図、図3には整地装置及び苗植付部の切断平面図、図4には苗植付部の正面図、図5には整地装置の正面図がそれぞれ図示されている。
【0008】
この乗用田植機1の走行車体2は、走行推進体である左右の前輪3,3及び後輪4,4を備えた四輪駆動車体であって、走行車体2の前部には、ハンドルポスト6、ルーフ7及びステアリングハンドル8を設け、走行車体2の前後中間部にはエンジン9、エンジンカバー11及び操縦席12を設け、後部には昇降リンク機構13を設けている。
【0009】
昇降リンク機構13の後側端部に走行部ベース14を取り付け、走行部ベース14には整地ローリング軸16を介して整地ベース17を左右ローリング自在に支持し、また、図5に示すように、整地ベース17側の左右のスプリング取付ステー42,42と走行部ベース14との間を左右のローリングスプリング43,43により連結し、整地装置22が自重及びローリングスプリング43,43の伸縮により従動的にローリング制御されるように構成している。
【0010】
また、整地ベース17には整地装置22を設け、整地ベース17には植付ローリング軸18を介して苗植付部19を左右ローリング自在に支持し、図4に示すように、整地ベース17に取り付けたローリングアクチュエータ21により苗植付部19を整地装置22に沿うように左右にローリング制御可能に構成している。
【0011】
また、整地ベース17には左右の整地装置昇降用シリンダ23,23を介して整地装置22を昇降自在に支持している。この整地装置22は、左右の後輪4,4の後方に位置して左右の後輪4,4よりも幅広に構成して、苗植付部19の全植付幅を整地できるように構成している。
【0012】
この実施例では整地装置22は次のように構成されている。左右方向の整地フレーム24から複数のロータ支持ステー26,…を下方に延出し、これらのロータ支持ステー26,…には苗植付列整地均平用の例えば6個のロータ27,…を回転自在に軸架し、ロータ27,…の上部及び後部をロータカバー28で被覆している。
【0013】
なお、実開平7−34602号公報に示すように、整地均平用のロータを左右一側から左右他側に向けて徐々に大径になるように構成すると、ロータの隣接部の整地跡に段差が生じる不具合が発生する。しかし、前記のすように、ロータ27,…の左右中央部を同径の大径部に構成し、左右両端部を徐々に小径になるような小径部に構成すると、ロータ27,…の隣接部に整地段差ができにくく、きれいに整地均平することができる。
【0014】
また、ロータカバー28の左右の後輪4,4対応部分には切欠きの凹部28a,28aを構成し、この凹部28a,28a内に後輪4,4を入り込ませて、整地装置22を走行車体2の後部に接近して配置するように構成している。また、ロータカバー28の凹部28aを構成するにあたり、図6に示すように、後輪4,4の側面に沿うように波消し板44を設けると、後輪4,4により発生した波をロータカバー28の波消し板44により消すことができ、苗の植付姿勢を良好なものにすることができる。
【0015】
また、ロータカバー28の後部中央部には、一体的にレーキ部28b,28bを設けて、後続するセンターフロート38と左右のサイドフロート39,39の間隔部を均平整地するように構成している。このように構成することにより、レーキの構成を簡単化できる。
【0016】
また、機体後部に配置した左右の後輪伝動ケース29,29には左右の後輪4,4を軸架し、エンジン9からの走行動力が左右の走行伝動軸30,30を経て後輪伝動ケース29,29に伝達されて後輪4,4が駆動される。また、一方の後輪伝動ケース29から作業用動力を分岐して、屈折及び伸縮自在の整地伝動軸31を経由して整地フレーム24に設けた整地伝動ケース45に伝達されロータ27,…が駆動される構成である。また、図5に示すように、整地ベース17の左右両側には整地装置上下動シリンダ32,32を設けて、整地装置22を昇降調節可能に構成している。
【0017】
次に、苗植付部19について説明する。苗植付部19は例えば6条植えに構成されていて、フレームを兼ねる伝動ケース33と、苗を載せて左右に往復移動し所定の苗取出口に苗を供給する苗載せ台34と、苗取出口に供給される苗を圃場に植え付ける苗植付装置36,…と、苗載せ台34に載置されている苗を苗取出口に向けて繰り出す苗送り装置37,…と、機体の進行に伴って泥面を整地する中央のセンターフロート38及び左右のサイドフロート39,39等により構成されている。
【0018】
なお、泥面を整地するフロートを図7及び図8のようにローラ形に構成してもよい。即ち、前後方向のフロートフレーム58の中間部を苗植付装置36,…の伝動ケース部36aに左右方向の軸で揺動自在に支持し、フロートフレーム58の前側部には幅広の前側ローラ59を遊転自在に取り付け、後側部には幅狭の後側ローラ60を遊転自在に取り付けている。2条の植え付け作業をする苗植付装置36,…の前方に前側ローラ59を位置させて整地均平作業し、苗植付装置36,…の後方に後側ローラ60を位置させて、2条の植付位置の条間を整地均平する構成である。
【0019】
しかして、前側ローラ59及び後側ローラ60は上下に揺動しながら圃場面に接地して整地均平作業をし、また、前側ローラ59で苗植付装置36の植え付け前の2条の整地をし、後側ローラ60で2条の苗植付装置36の植え付け後の条間を整地均平し、整地均平効果を高めている。
【0020】
また、整地ベース17には植付ローリング軸18を介して苗植付部19の伝動ケース33が左右ローリング自在に支持されていて、整地ベース17に取り付けたローリングアクチュエータ21により苗植付部19を左右にローリング可能に構成し、伝動ケース33には左右傾斜角度センサ41が設けられていて、左右傾斜角度センサ41の検出情報に基づき制御部(図示省略)から制御情報をローリングアクチュエータ21に出力し、整地装置22の圃場面に沿うように苗植付部19をローリング制御する構成である。
【0021】
前記のように構成されているので、走行車体2が走行すると、走行部側ベース14に整地ローリング軸16を介して取り付けられている整地ベース17は、整地装置22の圃場面への接地整地状態及び左右のローリングスプリング43,43の伸縮により従動的にローリング制御される。また、左右傾斜角度センサ41により苗植付部19の左右傾斜角度、及び、整地ベース左右傾斜角度センサ(図示省略)により整地ベース17の左右傾斜角度が検出されて、整地ベース17に植付ローリング軸18を介して支持されている苗植付部19は、整地ベース17側の整地装置22と平行になるようにローリングアクチュエータ21によりローリング制御される。
【0022】
整地装置22と苗植付部19とを一体的にロータリ制御する構成であると、苗植付部19の苗載せ台34が左右に移動し左右のバランスが崩れやすく圃場面への追従が悪くなる不具合がある。しかし、前記のように整地装置22と苗植付部19とを別々にローリング制御するので、整地装置22の圃場面へのローリング制御による追従性が向上し、また、ローリング制御された整地装置22に対して苗植付部19がローリング制御されるので、整地装置22で整地した圃場面に対して苗植付部19が適正にローリング制御され植付深さの安定を図ることができる。
【0023】
次に、図3、図9及び図10に基づき苗植付部19のフロートセンサの感度補正装置について説明する。
整地装置22への作業機動力伝導経路にはトルクセンサ46を設けて、ロータ27の駆動トルクの大小を検出するように構成し、また、苗植付部19には例えばセンターフロート38がフロートセンサ48を兼ねるように構成して、フロートセンサ48の前側部の向い角を上下に調節可能にし、圃場の硬軟度に合わせて感度補正するように構成している。
【0024】
制御部47の入力側には、トルクセンサ46及びフロートセンサ48を接続し、制御部47の出力側には、フロートセンサ48の昇降調節用の油圧バルブ49を接続している。
しかして、フロートセンサ48の感度補正制御が開始されると、まず、トルクセンサ46の検出値が検出されて、検出トルク値が基準値より大きいか否の判定がなされる(ステップS1)。トルクセンサ46の検出トルク値が基準値より大(土壌が硬くフロートセンサ48の沈み込み量が小)の場合には、油圧バルブ49に鈍感側補正出力がなされ、フロートセンサ48が前上りの制御目標値鈍感側に補正される(ステップS2)。
【0025】
また、トルクセンサ46の検出トルク値が基準値より大でない場合には、次いで、トルクセンサ46の検出トルク値が基準値より小か否かの判定がなされ(ステップS3)、トルクセンサ46の検出トルク値が基準値より小(土壌が軟らかくフロートセンサ48の沈み込み量が大)の場合には、油圧バルブ49に敏感側補正出力がなされ、フロートセンサ48が前下がりの制御目標値敏感側に補正される(ステップS4)。また、トルクセンサ46の検出値が基準値より小でない場合には、標準硬度と判定して油圧バルブ49に中立の出力がなされ、フロートセンサ48を基準高さに維持する制御がなされる。
【0026】
前記のように、整地装置22への作業機動力伝導経路中にトルクセンサ46を設けて圃場の硬軟度を検出し、フロートセンサ48の感度補正をするように構成したので、感度補正の構成を簡素化することができる。
【0027】
次に、図11及び図12に基づき苗植付部19及び整地装置22の作業制御について説明する。
制御部47の入力側には、整地装置22の自動作業の入切をする整地自動入切スイッチ51、ステアリングハンドル8の切れ角を検出するハンドル切れ角センサ52、昇降リンク機構13の昇降量を検出する昇降リンクセンサ53、走行車体2の前後傾斜角度を検出する前後傾斜角度センサ54及びフロートセンサ48を夫れ夫れ接続している。また、制御部47の出力側には、昇降リンク機構13昇降用の昇降シリンダを昇降する昇降用油圧バルブ56、整地装置昇降用シリンダ23、整地装置22への動力の断続をする整地装置用電磁クラッチ57を夫れ夫れ接続している。
【0028】
しかして、作業制御が開始されると、まず、整地自動入切スイッチ51が入りか否かの判定がなされ(ステップS1)、整地自動入切スイッチ51が入りの場合には、整地装置用電磁クラッチ57がONされて整地装置22が駆動される(ステップS2)。次いで、前後傾斜角度センサ54の検出傾斜角度が基準値より大きいか否かの判定がなされ(ステップS3)、検出傾斜角度が基準値より大きい場合には、整地装置用電磁クラッチ57がOFF(あるいは、整地装置昇降用シリンダ23,23による整地装置22の所定量上昇)にされる。
【0029】
従って、走行車体2の前側が所定角度以上上昇すると、整地装置22の駆動が停止され、乗用田植機1の前輪3,3が畔に乗り上げた作業終了時等に整地装置22を自動的に停止したり、あるいは、整地装置22が上昇調節されて、畔を耕したり、整地装置22を破損するような不具合を回避することができる。
【0030】
また、前後傾斜角度センサ54の検出傾斜角度が基準値より大きくない場合には、次いで、ハンドル切れ角センサ52の検出角度が基準値より大きいか否かの判定がなされ(ステップS5)、ステアリングハンドル8の切れ角が基準値より大きい場合には、昇降リンクセンサ53の検出値に基づき昇降用油圧バルブ56に所定量上昇出力が出されて昇降リンク機構13が所定量上昇して整地装置22及び苗植付部19が上昇し(ステップS6)、回向時の操作を簡単化することができる。
【0031】
また、ハンドル切れ角センサ52の検出角度が基準値より大きくない場合には、フロートセンサ48の検出値に基づき昇降用油圧バルブ56を昇降制御し(ステップS7)し、整地装置22及び苗植付部19を圃場面に合わせて昇降し整地作業及び苗植付作業がなされる。
【図面の簡単な説明】
【0032】
【図1】乗用田植機の全体側面図
【図2】乗用田植機の全体平面図
【図3】苗植付部及び整地装置の切断平面図
【図4】苗植付部の正面図
【図5】整地装置の正面図
【図6】(1)整地装置の側面図 (2)整地装置の平面図
【図7】苗植付部の切断平面図
【図8】フロートの側面図
【図9】制御ブロック図
【図10】フローチャート
【図11】制御ブロック図
【図12】フローチャート
【符号の説明】
【0033】
1 乗用田植機
2 走行車体
13 昇降リンク機構
14 走行部側ベース
16 整地ローリング軸
17 整地ベース
18 植付ローリング軸
19 苗植付部19
21 ローリングアクチュエータ21
22 整地装置
43 ローリングスプリング

【特許請求の範囲】
【請求項1】
走行車体2に設けた昇降リンク機構13により昇降自在の走行部側ベース14に整地ローリング軸16を介して整地ベース17を左右ローリング自在に設け、前記整地ベース17に整地装置22を設けると共に、前記走行部側ベース14と前記整地ベース17との間を左右のローリングスプリング43,43で連結して整地ベース17を従動的に左右にローリング制御可能に構成し、前記整地ベース17には植付ローリング軸18により苗植付部19を左右ローリング自在に設けて、該苗植付部19をローリングアクチュエータ21により整地ベース17のローリング制御状態に沿うように左右ローリング制御可能に構成したことを特徴とする苗移植機。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【公開番号】特開2006−129827(P2006−129827A)
【公開日】平成18年5月25日(2006.5.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−324961(P2004−324961)
【出願日】平成16年11月9日(2004.11.9)
【出願人】(000000125)井関農機株式会社 (3,813)
【Fターム(参考)】