説明

若しらがにおけるBNIPXL−βの使用

【課題】ヒトの時期尚早のしらがの処置又は予防において、美容又は治療に適用されるポリペプチドの提供、並びに美容又は治療目的に使用される薬剤を同定するためのスクリーニング方法の提供。
【解決手段】BNIPXLβの全て又は一部と少なくとも90%の同一性を有する配列を含んでなるポリペプチドであって、該一部が少なくとも30のアミノ酸を含むポリペプチドの使用、並びにBNIPXLβのcDNA配列の全て又は一部と少なくとも90%の同一性を有するRNAi配列を含有する分子であって、該一部が少なくとも18のヌクレオチドを含有する分子の使用。色素沈着の分野において、美容又は治療目的に使用される薬剤を同定するため、BNIPXL-ベータをコードする遺伝子の発現を調節する分子、及びBNIPXL-ベータポリペプチドの活性を調節する分子をスクリーニングする。

【発明の詳細な説明】
【背景技術】
【0001】
益々多くの人々が加齢の影響を是正し又は無効にすることに大きな関心を抱いてきている。かかる状況下で、見栄えが悪いと考えられる白髪を、着色トリートメントシャンプーを用いて消失させることがかなり頻繁になされている。しかし、そのような技術は現象の影響を効果的に無効化することができるものの、原因に対する効果は全くない。このため、その解決策は一時的なもので、頻繁に繰り返さなければならない。
【0002】
毛髪毛胞からメラノサイトが漸次的に消失して毛髪は白色になる(しらが又は毛髪のグレー化)(Commo S, Gaillard, O & Bernard, B A, 2004)。このプロセスは、毛胞の基底部に位置して繊維の色素沈着の直接的原因となる色素沈着単位のメラノサイトと、色素沈着単位が各毛髪サイクルで再生される貯蔵所として作用する毛髪毛胞の外鞘の遠位部位に位置する前駆体メラノサイトの双方に影響する(Common S及びBernard B A, 2000)。
【0003】
メラノサイトの漸次的消失が、酵素ドパクロムトートメラーゼの発現不在に関連していることは明らかであるが(Commo S, Gaillard O, Thibaut S & Bernard B A, 2004, 仏国特許第2840530号,仏国特許第2840531号,仏国特許第2863484号)、本発明者は、全く新しいアングル、すなわち遺伝学から白髪又はしらがの出現を探求することを選択した。
遺伝学的な観点からのしらがの探求は、色素脱失の根本的メカニズムを特定できることを意味する。またこれにより、しらがに関与する遺伝子を同定することが可能になる。この同定により、化粧品、治療又は診断の如何を問わず、ヘアケアの分野での多くの応用への扉が開かれる。
【0004】
この目的のために、本発明者は、時期尚早のしらが(PC)、すなわち時期尚早の毛髪のグレー化としても知られている、遺伝性であることが既知で、ある種の自己免疫疾患に関連している人生の非常に早い時期での白髪の出現における第1の事例に、自身の研究を集中させることを選んだ。遺伝的なしらがを探究するために、人生の非常に早い時期にしらがが表れた家族からのDNAについて分離研究を実施した。この遺伝子探索の成功の絶好の機会を確保するために、PC表現型は、25歳前で白髪があり、30歳で頭髪の半分がグレーの個体だけに起因させた。12組の家族を連鎖研究への参加のための保持した。
【0005】
これらの研究の結果、発明者等は、まず第1に、白髪に関連している可能性が最も高い遺伝子を含む染色体及び/又はゲノム領域を定めることができた。よって、染色体3、5及び11(仏国特許出願2842105号、及び国際公開第04/007764号)、及び染色体6及び9(仏国特許出願第2842104号、仏国特許出願第2853532号、仏国特許出願第2865217号、及び04/007742号)上の5つの座位が同定された。
【0006】
時期尚早のしらがに関連した遺伝子の中でも、遺伝子DDX31(GI:20336296;受入番号NM_022779)が、時期尚早のしらがに関連し、9q34に位置し、ロレアル社の仏国特許出願第2853532号及び仏国特許出願第2865217号に記載されている推定遺伝子として提案されている。DDX31、DEADボックスタンパク質31は、おそらくはヘリカーゼ類のDEADボックスファミリーに属するATP依存性RNAヘリカーゼである。
【0007】
当初、時期尚早のしらがプロセスにおけるDDX31の役割を探究するために、本発明者は、酵母系におけるツーハイブリッドアプローチを使用し、DDX31と相互作用しやすいタンパク質パートナーを同定しようとした。
驚くべきことに、また予期しないことに、本発明者は、BNIPXL-ベータ(BCl2/アデノウイルスE1B 19kDaタンパク質-相互作用タンパク質2)が、DDX31、好ましくは長形態のDDX31のプレイであることを見出した。
BNIPXL-ベータの種々の機能は、今だ、比較的未知である。このタンパク質はKIAA0367の選択的スプライシングにより生産される(別名:C末端領域1でのBCHモチーフ含有分子、C末端領域1でのBNIP2モチーフ含有分子;受託番号:Q58A63;GI:125987727)。
【0008】
ドメイン相同性(CRAL-TRIO又はSec14ドメイン;BNIP2に存在するドメイン)のために、BNIPXL-ベータは、リン脂質の輸送及び代謝に関与し;bcl2との相互作用に関連したアポトーシス促進機能を有し;細胞輸送に関与していると考えられており;膜突出(membrane protusions)の形成における役割を担っている(Machidaら, 2006;Zhouら, 2005;Shangら, 2003;Qinら, 2003;Belcreditoら, 2001;Sirokmanyら, 2006;Mousleyら, 2007)。
よって、DDX31とBNIPXL-ベータとの間の相互作用は、小胞輸送と、よってメラノソームの遊走及び移動におけるその役割、ひいては時期尚早のしらがを含むしらがにおけるその関与において、おそらく最も重要であろうと思われる。
【発明の概要】
【0009】
この出願において、次の用語は、特に以下の意味を有する:
同一性度合い:2つの配列(タンパク質又は核酸)の間の同一性度合いは、間隙を最小にしつつ、一致する点が最大になるように、2つの配列を整列させることにより決定され;2つの配列の最も長い長さで、共通するアミノ酸又は核酸の数を割ることにより得られる。
【0010】
RNAi:RNA干渉;RNA分子における特定の配列を標的とすることができ、標的配列中の所定部位でそのRNAを切断に導くことができるRNAの分子。RNA干渉による決断が可能なRNA分子は、干渉RNA又はRNAiと命名される。この反応が細胞で生じ、切断されたRNAがメッセンジャーRNA(mRNA)である場合、mRNA分子の切断による分子の分解に至り、よって任意の後続工程、例えばタンパク質におけるmRNAの翻訳が防止される。RNAiの種類に応じて、標的配列は干渉RNAの相補配列(特にsiRNA)、又は干渉RNAの疑似相補配列で、いくつかの非調和性配列を有するもの(特にmiRNA)のいずれかとされる。
【0011】
siRNA:低分子干渉RNA:約21〜23のヌクレオチドを含む二重鎖RNA配列(Dykxhoornら, Nature Reviews 2003, vol 4, p.457)。siRNAは、ダイサーと称されるタンパク質により、より大きな二重鎖RNAを切断することで得られる。ついで、生成したsiRNAは、RNAにより誘発される複合化を阻害するマルチタンパク質に組み込まれる(RISC、RNA誘発性サイレンシング複合体)。標的mRNAは、siRNA(ガイドとして作用)と標的mRNAとの間に形成される二本鎖領域の中心にある単一部位で、siRNAの5'末端から10のヌクレオチドで切断される。
【0012】
細胞中でsiRNAを得るために、いくつかの方法が考えられる:
1.細胞に、化学的合成により得られるsiRNAを直接導入することができ;この場合、ダイサーの作用は回避される;
2.また、細胞に、より大きな二重鎖RNA断片を導入し、ついでダイサータンパク質によりsiRNAに切断することを考慮することができる;
3.細胞においてRNAヘアピン二本鎖、例えばshRNA(小さい又は短いヘアピンRNA)を導入又は発現させ、ついでダイサータンパク質によりsiRNAに切断することができる。
【0013】
ポリヌクレオチド断片とは、少なくとも2つのヌクレオチドの線形鎖状体形成から生じる任意の分子を意味し、該分子はモノ鎖状体(monocatenary)、バイ鎖状体(bicatenary)又はトリ鎖状体(tricatenary)でありうる。よって、それは二重鎖DNA分子、一本鎖DNA分子、RNA分子、一本鎖DNA-RNAの間の二重鎖、DNA-RNA三本鎖、又は任意の他の組み合わせでありうる。ポリヌクレオチド断片は天然の単離体、組換え体又は合成体でありうる。ポリヌクレオチド断片が相補鎖を含む場合、相補性は必ずしも完全ではないが、異なった鎖間の親和性は、二本鎖間にワトソン-クリック型の安定結合を樹立するのに十分である。
塩基対形成は好ましくはワトソン-クリック型のものであるが、フーグスティーン又は逆フーグスティーン型対形成のような他の型を排除するものではない。
【0014】
第1の態様では、本発明は、治療又は美容用途、特にヒトの時期尚早のしらがの処置又は予防用としての、BNIPXLβタンパク質、又はBNIPXLβの一部に関する。時期尚早のしらがに関与するプロセスにおいて、DDX31と相互作用するために、このタンパク質は、それ自身、しらが、特に時期尚早のしらがと関連している。
BNIPXLβタンパク質の配列を図2Aに示すが、これは配列番号:1に相当する。本出願で使用されるBNIPXLβの「一部」なる用語は、BNIPXLβ配列の少なくとも25の連続したアミノ酸を含有するポリペプチドである。好ましくは、BNIPXLβの一部は、配列番号:1の少なくとも30の連続したアミノ酸を含有する。
【0015】
本明細書において、「美容」なる用語は、美的変化のみを意図しており、治療用途用ではない任意の用途を意味する。
また本発明は、BNIPXLβの配列を含む、又はBNIPXLβの一部を含む、治療又は美容用途のポリペプチドに関し、該一部は上で定義したものである。
さらに本発明は、特に時期尚早のしらがの分野における治療用途として、BNIPXLβ又はBNIPXLβの一部と、少なくとも90%の同一性を有する領域を含む任意のポリペプチドに関する。前記BNIPXLβの一部は、少なくとも25のアミノ酸、好ましくは少なくとも30のアミノ酸を含有する。
【0016】
このように記載されたポリペプチドは、BNIPXLβ又はBNIPXLβの一部と、高い同一性パーセントを共有する配列領域を含むが、N末端又はC末端、あるいは双方で、上述したものに加えて、他の配列を含んでいてもよい。
BNIPXLβ又はBNIPXLβの一部と高い同一性パーセントを有するポリペプチドの領域において、好ましくは、同一性パーセントは、90%を越え、好ましくは95%、又はさらには98%を越える。
【0017】
好ましい実施態様によれば、前記ポリペプチドはBNIPXLβタンパク質の一部を含有し、該一部は少なくとも25のアミノ酸、又は30のアミノ酸、又はそれ以上を含む。
再度好ましくは、ポリペプチドは、BNIPXLβタンパク質の732のアミノ酸の、少なくとも40、さらには50の連続したアミノ酸、又は75もしくは100のBNIPXLβの一部と、高い同一性パーセントを共有する配列を含有する。好ましくは、BNIPXLβの一部は、例えばタンパク質パートナーに対する結合部位等、生物学的重要性を有するドメインに相当する部分である。配列番号:1の配列において特に関心のあるドメインを決定するための当業者に公知のプログラムが存在する。
上述の治療又は化粧品用途は、全ての分野、特に毛髪治療、さらには時期尚早のしらがを含むしらがの処置にある。
【0018】
また本発明は、男性におけるしらが、好ましくは時期尚早のしらがの処置又は予防のための医薬を調製するための、上述したBNIPXLβ、BNIPXLβの一部、又はポリペプチドの使用に関する。
さらに本発明は、上述したBNIPXLβ、BNIPXLβの一部、又はポリペプチドを使用する、男性におけるしらが、好ましくは時期尚早のしらがを処置又は予防するための治療又は美容方法に関する。
【0019】
また、本発明者は、DDX31とBNIPXLβとの間の相互作用の重要性と、よってRNAiにより得られるBNIPXLβの発現レベルの低下おける有益な効果を見出した。このような有益な効果は、特に時期尚早のしらがの表現型にあり得る。
よって、本発明は、ヒトの治療又は美容用途における、BNIPXLβに相当するmRNA配列の全て又は一部と少なくとも90%の同一性を有するRNAi配列を含む分子に関し、該一部は少なくとも18のヌクレオチドを含む。好ましくは、当該一部は、少なくとも20、25又は30のヌクレオチドを含む。
好ましくは、治療用途は、しらが、より詳細には時期尚早のしらがの処置又は予防からなる。
mRNA配列は、配列番号:2として、図2Bに示されたBNIPXLβのcDNA配列と均等である。
【0020】
本出願において、RNA配列とDNA配列との間の同一性の度合いを決定する際、RNAのグアニンはDNAのチミンと等価であると考えられ;その結果、与えられたDNA配列と、TをGで置き換えることによりDNA配列から誘導されるRNA配列とは、本発明において、100%同一性を有する。
【0021】
上述したRNAiは、好ましくは二重鎖RNAの断片からなり、2つの塩基対配列は、同じ分子内に存在してヘアピン構造を形成可能であるか、又は2つの別の一本鎖分子内に存在可能である。
よって、RNAi配列を含有する分子は、1回折り畳まれたRNA断片又は2つのRNA分子から構成されてよい。この分子は、対形成配列の3'、5'側又は2つの側、もしくは対形成配列の間、例えば分子が単一の対形成RNA分子により構成される場合はループ内に、他の配列、RNA又はDNA、一本鎖又は二重鎖を含有していてもよい。
記載されたRNAiはsiRNA又はshRNAであってよい。好ましくは、RNAi配列を含有する分子は、BNIPXLβのmRNAと干渉するshRNAを提供するために、ダイサータンパク質により切断されてよいようなものである。
【0022】
また本発明は、男性における時期尚早のしらがを処置又は予防する薬剤を調製するための、上述した分子の使用に関する。
さらに本発明は、スクリーニング方法、特に色素沈着の分野における、美容又は治療目的のために使用される薬剤を同定するための、BNIPXL-ベータをコードする遺伝子の発現を調節する分子をスクリーニングする方法に関する。
BNIPXLβタンパク質(又はBNIPXL-ベータ)をコードする遺伝子は、例えばBMMCC1遺伝子(同義語:BNIPXL、KIAA0367)であり、データベースにおけるその受入番号の一つはENSG00000106772(アンサンブル遺伝子ID)である。選択的スプライシングにより、この遺伝子から、少なくとも3の変異体が生じる;基準アイソフォーム1は2724のアミノ酸を有するポリペプチドに相当し、アイソフォーム3はBNIPXL-ベータに相当し、732のアミノ酸を有するポリペプチドは、アミノ酸1-1959がないことで、基準アイソフォーム1とは本質的に区別される。
遺伝子発現は、特にその転写又は翻訳を調節することにより調節されうる。
【0023】
本発明の方法に使用されるスクリーニングとは、遺伝子の転写及び/又は翻訳を防止、阻害、遅延化又は妨害する、又は遺伝子のレベル又は転写及び/又は翻訳を増加又は低下させる、又はBMMCC1遺伝子の発現における種々のアイソフォームの割合を変化させる分子が同定可能であることを意味する。よって、本発明のスクリーニング方法により同定され易い一分子は、BMMCC1遺伝子のアイソフォーム1の有利性に対して、アイソフォーム3の発現をかなり低下させる分子である。
「増加」、「低下」、「調節」、「阻害」又は「調節」なる用語は、大きさの点での有意な変動、すなわち測定のノイズ及び不正確さよりも大きい、よって標準偏差よりも大きな、統計的見地からの有意な変動を意味すると理解すべきである。
【0024】
本発明のスクリーニング方法は、エキソビボ、例えば細胞培養において実施されるように、特に設計されていることを記すべきである。好ましくは、それはインビトロで実施される。必要であるならば、この方法はインビボで実施されてもよいが、推奨される実施ではない。
本発明の方法は、好ましくは次の工程:
・試験用分子の不在下において、遺伝子の発現を可能にする条件下で、BNIPXL-ベータをコードする遺伝子の存在下に試験される分子を置き;
・試験用分子の存在に起因する、該遺伝子の発現産物の性質、又は該遺伝子の発現度合いにおける変化を検出する
ことを含む。
【0025】
上に説明した「発現産物の性質」なる用語は、例えば種々のアイソフォームのそれぞれの割合、又は付与されたアイソフォームの出現又は消失を意味する。
試験用分子は任意の化学的性質のものであってよい。好ましくは、それらは、細胞壁を通過可能な小分子である。特に好ましい分子は、原子Cl又はFを有することができる、原子C、H、O、Nを本質的に含む人工的な化学分子である。また、試験用分子は生体分子、例えばタンパク質、ポリペプチド、抗体、抗体断片、RNAi、アンチセンスRNA、リボザイム、アプタマー、又は真核細胞で合成可能な分子であってよい。
特に好ましい試験用分子は、タンパク質、RNAi、リボザイム、又はアンチセンスRNAで、BNIPXLβを標的とするもの、又はBNIPXL-ベータをコードする遺伝子を標的とするもの、例えばBNIPXLβを指向する抗体、又はBNIPXLβに対応するmRNAに対するRNAiである。
【0026】
前記遺伝子の発現を可能にする条件には、必要とされる種々の酵素、例えばRNAポリメラーゼ、ヌクレオチド及びアミノ酸、リボゾーム、又は該遺伝子の転写及び翻訳を可能にする任意の他の構造体が存在することが含まれる。これらの種々のエレメントは、原則として細胞内に自然に見出されるもので、本方法がインビトロで実施されるならば、添加されなくてはならない。
試験用分子を添加した後の、前記遺伝子の発現レベル又は該遺伝子の発現産物の性質における変化は、当業者により適切であると考えられている任意の手段を使用して検出されうる。アッセイ、例えば酵素アッセイにより、又は免疫学(免疫学的検定)をベースとした検出手段を使用することにより、又は例えば発現産物の機能的性質、それらの物理化学的性質(等電点、分子量等)、免疫学的、又は他のものをベースにした任意の他の公知の手段を使用することによってなされてもよい。
種々のアイソフォームの特性は、同じ原則を使用して測定されてよい。特に、与えられたアイソフォームを特異的に認識し、他のアイソフォームと相互作用しない種々の抗体が使用されうる。
【0027】
本発明において、発現の特に所望される調節は、発現の阻害、特にBMMCC1遺伝子の転写又は翻訳の阻害、又はBMMCC1遺伝子の発現産物の中でも、アイソフォーム3の割合を低下させることである。
阻害は完全でも部分的なものであってもよく;全ての場合、BMMCC1遺伝子からのBNIPXLβポリペプチドの生成を低下させることを含み、該低下は統計的に有意である。好ましくは、BMMCC1遺伝子からのBNIPXLβの発現レベルの、少なくとも20%、好ましくは少なくとも35%、又は50%、特に60%以上の低下である。
【0028】
上述した方法は、前、後及び/又は中間に、一又は複数の付加的な工程を含んでいてよい。特に本方法が、BMMCC1遺伝子の発現を有意に調節する分子の検出を可能にする場合には、分子を同定し、ついで、それを多量に生産する工程を進めることが考えられる。前記遺伝子の発現を調節可能なものに非常に近い構造を有する種々の他の分子を試験することも考えられる。
【0029】
また本発明は、色素沈着の分野において、美容又は治療目的に使用される薬剤を同定するための、BNIPXL-ベータポリペプチドの活性を調節可能な分子をスクリーニングする方法に関する。試験用分子は上述にて説明した任意の性質を有していてもよく、それらは完全な人工物か、又は生体系に天然に存在するものであってよい。
上述したスクリーニング方法に類似した方式で、このスクリーニング方法は、好ましくはエキソビボ、特にインビトロで実施されるが、インビボ方法も排除されるものではない。
【0030】
「活性の調節」なる用語は、活性を定めるパラメータ、特に標的の性質、及び酵素活性の場合には反応速度、及び相互作用の場合には親和性及び結合活性の、任意の有意な修正を意味する。
修正の「有意」性は、修正されるパラメータが定量可能である場合、上に既に説明されている。
【0031】
記載したようなスクリーニング方法は、好ましくは次の工程:
・試験用分子の不在下で、ポリペプチドの活性を測定可能な条件にて、試験用分子とBNIPXL-ベータポリペプチドを接触させ;
・試験用分子の存在に起因する該ポリペプチドの活性の変化を検出する;
ことを含む。
BNIPXLβの活性を測定することができることを意味する条件には、この活性では、BNIPXLβと作用する種々のパートナーの存在、並びに適切な物理化学的条件、例えば温度、pH、又は媒体の酸化性又は還元性が含まれる。
これら種々のエレメント及び条件は、原則として細胞内、又はその少なくともいくつかに自然に見出されるもので、本方法がインビトロで実施されるならば、添加されなくてはならない。
検出される活性の変化は、例えば、DDX31、好ましくは長形態のDDX31との相互作用であってよい。
【0032】
この方法で使用されるポリペプチドBNIPXL-ベータは、配列番号:1の配列からなるポリペプチドであり、好ましくは、ヒト細胞においてインビボで生産される場合、タンパク質BNIPXLβと同様の翻訳後修飾を受け、特に同様のグルコシル化プロフィールを有する。しかしながら、本発明の方法では、配列番号:1を含有するが、より長いもの、又は配列番号:1の少なくとも100の連続したアミノ酸を含有するが、より短いもの、又は配列番号:1の全て又は一部と少なくとも90%の同一性を有する配列を含有するもので、該一部が少なくとも50のアミノ酸、好ましくは少なくとも100のアミノ酸、好ましくは少なくとも95%の同一性を有し、配列番号:1に対する差異を累積可能なものであるために、配列番号:1と完全に同一ではない配列を有するポリペプチドを使用することも考慮されうる。
【0033】
本発明のスクリーニング方法が、天然のヒトBNIPXLβタンパク質に対して、いくつかの修飾点を有するタンパク質を用いて実施される場合には、当業者は、天然のヒトBNIPXLβタンパク質を用いた方法を繰り返すことにより、この方法で観察される調節度合いを確認することが、この場合では重要であることが分かるであろう。
【0034】
試験用分子の添加後の、前記ポリペプチドの活性における変化の検出は、当業者により適切であると考えられる任意の手段を使用して実施されうる。前記ポリペプチドの活性に直接関連したパラメータ(例えば、BNIPXLβの酵素活性に直接起因する生成物の出現)、又は特に酵素的カスケードを標的とする場合では、該活性に間接的に関連したパラメータを検出することができる。
【0035】
それは、反応産物のアッセイ、例えば酵素アッセイに関し、又は前記ポリペプチドとその標的との間に形成された複合体の免疫学(免疫学的検定)をベースとした検出手段を使用することに関し、その標的は、場合によってはDDX31であり、又は、例えばポリペプチドの活性に起因する生成物の機能的特性において、すなわち物理化学的特性(等電点、分子量等)、免疫学的特性、又はBNIPXLβの活性に起因するポリペプチド又は複合体の他の特性に基づく、任意の他の既知の手段を使用することにも関する。
【0036】
本発明のこの方法の好ましい実施態様では、BNIPXLβの活性の所望される調節は、その活性の全体的又は部分的な阻害である。
部分的な阻害は、好ましくは、試験用分子を添加する前の活性レベルを参照して、前記ポリペプチドの活性の少なくとも10%までが阻害されることである。
好ましくは、活性は前記ポリペプチドの隔離により調節される。この方式において、ポリペプチドBNIPXLβは、その結合パートナーが存在しない細胞区画に隔離され、又は隔離分子とのもの以外の他の相互作用にはもはや利用可能ではない。当業者であれば、BNIPXLβの構造及び配列に基づいて、所望の隔離効果を有しやすい条件又は分子を定めることができるであろう。
【0037】
記載したような本発明の方法を実施するために、試験用分子として、ポリペプチドBNIPXL-ベータ、又はその一部に対する抗体を使用することが特に有利である。BNIPXL-ベータのどの部分が免疫原性になりやすく、よって抗体を得やすいかを定めることが可能なプログラムが利用される。さらに、モノクローナル又はポリクローナルであろうと、抗体技術は現在十分に開発されている;それは、当業者が、本発明の方法においてこのカテゴリーから多量の分子を生産し、迅速に試験することを可能にするマウス抗体のヒト化にも関する。
【0038】
上述したように、本発明に記載されたスクリーニング方法は、既に記載したものに加えて、一又は複数の工程、特に前、後及び/又は中間工程を、有利には含んでいてよい。
記載した2つのタイプのスクリーニング方法にとって、目的は、試験用分子の中から、美容又は治療目的に使用される薬剤、すなわち、色素沈着の分野において美容又は治療に使用される薬剤を同定することである。当該問題における色素沈着は、好ましくは毛髪及び爪、さらに好ましくは頭髪の色素沈着である。
【0039】
また本発明は、種々の使用、特に色素沈着の分野における処置又は予防といった治療目的、又は色素沈着の分野における美容目的にとって、上述した方法によりスクリーニングされた薬剤の使用、また上述した方法によりスクリーニングされた薬剤が使用される、色素沈着の分野における治療及び美容方法に関する。
【0040】
さらに本発明は、色素沈着の分野における美容目的での、BNIPXL-ベータをコードする遺伝子の発現を調節する薬剤の使用、並びに、色素沈着の分野において治療に使用される薬剤を製造するための、BNIPXL-ベータをコードする遺伝子の発現を調節する薬剤の使用、BNIPXL-ベータをコードする遺伝子の発現を調節する薬剤が使用される、色素沈着の分野における治療及び美容方法に関する。
【0041】
「発現を調節する」なる用語が意味することろの定義は、本発明のスクリーニング方法において既に与えられている。特にこの用語は、当該問題の遺伝子の転写の調節及び翻訳の調節をカバーする。調節とは、好ましくは遺伝子の発現、転写又は翻訳の全体的又は部分的低下又は阻害のことである。
「薬剤」とは、任意の種類の化学的、天然又は人工的分子に相当する。特に好ましい薬剤は、上述した本発明のスクリーニング方法、すなわちBNIPXL-ベータをコードする遺伝子の発現を調節する分子をスクリーニングする方法を使用して同定されやすい、又は同定されているものである。
【0042】
また本発明は、色素沈着の分野において治療に使用される、BNIPXL-ベータをコードする遺伝子の発現を調節する薬剤に関する。さらに本発明の範囲には、色素沈着の分野における美容目的で、BNIPXL-ベータをコードする遺伝子の翻訳から誘導されるポリペプチドの活性を調節する薬剤の使用、並びに色素沈着の分野において治療に使用される薬剤を生成するための、BNIPXL-ベータをコードする遺伝子の翻訳から誘導されるポリペプチドの活性を調節する薬剤の使用が含まれる。またさらに本発明は、BNIPXL-ベータをコードする遺伝子の翻訳から誘導されるポリペプチドの活性を調節する薬剤が使用される、色素沈着の分野における治療及び美容方法に関する。
好ましくは、BNIPXL-ベータをコードする遺伝子の翻訳から誘導されるポリペプチドはBNIPXL-ベータである。
【0043】
「活性を調節する」なる用語により理解されることろの定義は、本発明のスクリーニング方法において既に付与されている。調節とは、好ましくは活性の低下、さらには全体的又は部分的阻害のことである。
BNIPXL-ベータをコードする遺伝子の翻訳から誘導されるポリペプチドの活性を調節する薬剤は、任意の種類の化学的、天然又は人工的分子であってよい。特に好ましい薬剤は、上述した本発明のスクリーニング方法、すなわちポリペプチドBNIPXL-ベータの活性を調節可能な分子をスクリーニングする方法により同定可能な又は同定されているものである。
【0044】
また本出願は、色素沈着の分野において治療に使用される、BNIPXL-ベータの活性を調節する薬剤に関する。
さらなる態様において、本発明は、色素沈着の分野における美容目的で、BNIPXL-ベータの転写物、又はBNIPXL-ベータをコードする遺伝子の全て又は一部にその配列が対応する、少なくとも18の連続したヌクレオチドを含む少なくとも一のポリヌクレオチド断片の使用にも関する。
【0045】
本発明において言及されるポリヌクレオチド断片は、染色体断片に相当する。この断片は最小で18ヌクレオチド長を有し、最大長さは、BNIPXLβをコードする遺伝子の全長まででありうる。好ましくは、断片は18を越えるヌクレオチドを含む。特に好ましい長さは、18〜10000ヌクレオチドの範囲、好ましくは30〜8000ヌクレオチドの範囲である。
本発明の好ましい実施態様において、30〜5000ヌクレオチドの範囲、好ましくは50〜3000ヌクレオチドの範囲、例えば100〜2000ヌクレオチドの範囲、又は200〜1000ヌクレオチドの範囲の長さを有する断片が参照される。
【0046】
本発明者は、DXX31遺伝子の翻訳から誘導されるポリペプチドとポリペプチドBNIPXLβとの間の相互作用を示し、この相互作用は時期尚早のしらが現象に関与している。よって本発明は、DDX31遺伝子の翻訳から誘導されるポリペプチドとBNIPXL-ベータポリペプチドとの間の相互作用を調節し、色素沈着の分野における美容又は治療目的に使用される薬剤を同定可能な分子をスクリーニングする方法に関する。
本発明の種々の美容又は治療用途又は方法、並びに「色素沈着の分野」、すなわち主として毛髪及び爪、好ましくは頭髪の色素沈着が何を意味するかも、既に詳細が記載されている。
「相互作用の調節」なる用語は、この相互作用、特に親和性を特徴付けるパラメータの変化を意味する。「調節」とは、統計的見地から有意な変化のことである。
DDX31遺伝子の翻訳から誘導されるポリペプチドは、DDX31の長形態(1-851)又は短形態(1-585)に相当する。好ましくは、それはDDX31の長形態である。
好ましい実施態様において、前記調節は、2つのポリペプチドの間の結合性の破壊、好ましくは全破壊である。
【0047】
スクリーニング方法の他の実施における所望の調節は、2つのポリペプチドの間の結合定数の修正である。従来通り、「結合定数の修正」なる用語は、統計的観点からの、この定数における有意な変化を意味する。
好ましくは、方法の実施により、2つのポリペプチドの間の結合の競合的阻害剤である薬剤を同定することが可能である。
この方法により、例えば、BNIPXLβに結合することで、該ポリペプチドとの相互作用が防止され、又はDDX31遺伝子の翻訳から誘導されるポリペプチドに結合することで、BNIPXLβとの相互作用が防止されることで、DDX31遺伝子の翻訳から誘導されるポリペプチドとBNIPXLβとの間の相互作用を調節する薬剤を同定できる。
【0048】
また本発明は、上述の方法により同定された薬剤を含む。
この発明で定められたDDX31遺伝子の翻訳から誘導されるポリペプチドとBNIPXL-ベータとの間の相互作用を調節する薬剤は、美容又は治療用途又は方法、好ましくは色素沈着の分野で考慮されてよい。このような薬剤は上述したスクリーニング方法により同定可能であるか、又は同定されていてよい。
【0049】
さらに本発明は、色素沈着の分野において治療に使用される薬剤を製造するための、DDX31遺伝子の翻訳から誘導されるポリペプチドとBNIPXL-ベータとの間の相互作用を調節する薬剤の使用に関する。
前記相互作用を調節可能な好ましい薬剤は、好ましくはDX31遺伝子の翻訳から誘導されるポリペプチド又はBNIPXLβに対する抗体又は抗体断片である。このような抗体はモノクローナル又はポリクローナルであってよく;好ましくはモノクローナル抗体である。
【0050】
化粧品の分野における本発明の全ての使用、方法又は用途にとって、使用されるポリペプチド、分子、薬剤又はポリヌクレオチドは、単独で、又は他の薬剤との組合せにて、種々の適切な形態に包装されてよい。特に好ましい形態は、局所適用に使用されることを意図したものであり、それらは、クリーム、ローション、ゲル、エマルション、ポマード及びシャンプーに関する。他の形態は本発明の用途に応じて、特に経口投与用の錠剤として考慮することができる。
【0051】
本発明の種々の美容目的のうち、特に好ましい分野の一つは色素沈着の分野である。色素沈着は皮膚、又は毛髪及び爪のものであってよい。色素沈着の色調、例えば色素沈着がないことにも関し;またに本発明は色素沈着の質及び強度に影響を与える問題にも関する。
特に、本発明の主題事項は、しらがの発現を予防及び/又は制限及び/又は停止させるための、上述した少なくとも一のポリペプチド、分子、薬剤又はポリヌクレオチド断片の使用に関する。
また本発明の主題事項は、グレーの毛髪及び/又は体毛の自然な色素沈着を促進させるための、上述した少なくとも一のポリペプチド、分子、薬剤又はポリヌクレオチド断片の使用に関する。
【0052】
さらに本発明は、処置される領域に、上述した少なくとも一のポリペプチド、分子、薬剤又はポリヌクレオチド断片を含有する組成物を適用することを特徴とする、しらがを美容的処置する方法に関する。
またさらに本発明は、処置される領域に、上述した少なくとも一のポリペプチド、分子、薬剤又はポリヌクレオチド断片を含有する組成物を適用することを特徴とする、グレー又は白髪及び/又は体毛の自然な色素沈着を促進させることを意図した美容処理方法に関する。
処置される領域は、例えば制限されるものではないが、頭皮、眉毛、口ひげ、顎ひげ、及び/又は体の任意の毛で覆われた領域であってよい。
【0053】
特に、しらがを処置、及びグレー又は白髪及び/又は体毛を自然に色素沈着させる方法は、上述した少なくとも一のポリペプチド、分子、薬剤又はポリヌクレオチド断片を含有する組成物を適用することからなる。
本発明の種々の使用又は治療用途に関し、皮膚又は毛髪及び爪にかかわらず、色素沈着システムに関連する疾患は、罹患した個人の健康に関して、重大な結果をもたらすおそれがあることを記すべきである。皮膚の色素沈着は、特に光に対する保護障壁として作用し;色素欠乏症を患っている個人は、それらに対する主要な危険因子を構成する日光から保護されていない。色素沈着に係る他の疾患に、本発明は関与している。
【0054】
色素沈着の特徴を修正させる傾向のある治療的及び美容的使用又は方法において、これは、好ましくは皮膚の色素沈着である。本発明で考慮される他のケースにおいて、修正させなくてはならない種類の色素沈着は、毛髪及び爪、特に爪又は体毛の色素沈着に関する。
本発明の特に好ましい場合において、その特徴が修正させられる色素沈着は、一般的には毛髪系、頭髪、口ひげ及び眉毛のものである。本発明は、毛髪の色素沈着の休止現象、すなわちしらがが、特にそれが個々に時期尚早に生じる場合;このことは時期尚早のしらがとして公知である場合に、修正可能であることを意味する。
【0055】
全ての治療的使用又は方法にとって、薬剤の組成物に使用される活性生成物は、好ましくは製薬的に許容可能な賦形剤を附随する。許容可能であると考えられる任意の投与形態、特に皮内、静脈内、筋肉、経口、耳、鼻、眼経路が、本発明で使用されてよい。処方物は、好ましくは選択された投与経路に適合される。
【0056】
本発明の薬剤を製造するための使用は、それらの処方物に、他の活性成分を含有せしめてもよい。同様に、本発明で定められた薬剤の投与は、該投与が同時、逐次又は別個にかかわらず、他の薬剤の投与と組み合わせてもよい。
同様に、治療用途に使用される上述した種々のポリペプチド、分子、薬剤又はポリヌクレオチド断片を組合せ、単一薬剤の組成の一部を形成させてもよく、又は種々の薬剤の製造に提供してもよい。特に、それらが異なる薬剤の組成の一部を形成するならば、それらは異なる頻度、及び/又は別の時間で投与されてよい。
【0057】
特に好ましくは、本発明で考慮される治療又は美容用途又は方法は、しらが、特に時期尚早のしらがの予防又は処置に関する。
また本発明は、時期尚早のしらが、好ましくは遺伝的時期尚早のしらが(又は毛髪のグレー化)に対する素因を診断する方法に関する。時期尚早のしらがは、とりわけ、人生の初期、好ましくは18又は20才で最初の白髪が生じることを特徴とする、本発明者により定められている表現型である。
この表現型は次の世代に伝わるため、罹患しているかそうでないかにかかわらず、兆候が表れる前に、親又は近親者が罹患していることを調査することが、個々にとって重要であることが分かっている。本発明の診断方法は、好ましくは18才未満、又は20又は25才未満の個人に適している。
【0058】
環境因子が「しらが」表現型及び「時期尚早のしらが」表現型における役割を担っている蓋然性が高いために、本発明の方法は、このような表現型、すなわち時期尚早のしらがの素因の発生の危険性が診断可能であることを意味している。
特に、本発明は、次の工程:
・個人から得られた体からの試料から、BNIPXL-ベータ転写物の発現レベルをアッセイし;さらに
・参照と比較する;
ことを含む、個人の時期尚早のしらがに対する素因を診断する方法に関する。
体の試料は血液であってよく、一滴で本発明の方法の実施には十分である。他の体の試料、例えば毛髪、体毛、尿又は汗を、本発明に使用してもよい。また個人のいくつかの細胞を使用することも考えられる。当業者であれば、それを受ける個人が被る不快感を最小にしつつ、この試験に使用可能な試料を決定することができるであろう。好ましくは、記載された診断方法に使用される体の試料は、メラノサイト細胞を含むか又はこれからなる。
【0059】
本発明の方法は記載された2つの工程に制限されるものではなく、記載した工程の前、後及び/又は中間に、一又は複数の工程を含んでいてよい。
参照は、時期尚早のしらがの素因が明白に存在しない個人におけるBNIPXL-ベータ転写物の発現レベルを表す値である。対照的に、はっきりと時期尚早のしらがに罹患しているか又はこのような疾患の素因がある個人におけるBNIPXL-ベータ転写物の発現度合いを表すレベルを、参照として定義することができる。
【図面の簡単な説明】
【0060】
【図1】試験された個人に対して時期尚早のしらがの表現型を起因させるための臨床パラメータ。図1は、しらがの臨床的指標の参照スケールを示す。
【図2A】図2(2A及び2B)は、BNIPXLβタンパク質に関する配列である。図2Aは、配列番号:1に相当するタンパク質BNIPXLβのアミノ酸配列を示す。
【図2B】図2Bは、配列番号:2に相当する対応転写物のヌクレオチド配列(cDNA)を示し;正確にコードしている部分は太字で特定されている(163〜2361をコード)。
【実施例】
【0061】
(実験セクション)
使用されている頭字語の意味:
CNC:保存された非コード領域
IVS:介在配列
SNP:一塩基多型
【0062】
(序)
男性において、しらが、又は毛髪のグレー化は、加齢に密接に関連した一般的な身体的特徴である。ヨーロッパの住人では、一般的にしらがは約45〜55才で始まり、頭皮の側頭部から開始する。
一遺伝子的ヒト症候群は、局在化した毛髪の時期尚早の白化/グレー化(又は時期尚早のしらが)のプロセスを伴うことが既に報告されている。例えば、ワールデンブルグ症候群に関連した特徴である限局性白皮症は、前頭部の時期尚早の白化により特徴付けられ、それぞれ染色体3及び2における遺伝子PAX3及びMITFに関連している(Baldwinら, 1994、及びTassabehjiら, 1994)。
さらに、毛髪の早期の白化が本質的に遺伝性であることが、頻繁に観察されている。子供時代にしらがが発生し、それは、25才前に、いくつかの場合では18才前に生じる。時期尚早のしらがは、ある種の自己免疫疾患、例えばビールメル貧血又は甲状腺炎に関連していることが記載されている。
【0063】
本発明者は、時期尚早のしらが(PC)に対する素因の危険性に関連した対立遺伝子を同定している。選択されたファミリー及び対照のコホートのサンプルに連鎖解析及び関連分析を使用すると、それらにより、染色体9q上のDDX31及びGTF3C4遺伝子を含む染色体領域における可変性を同定することができる。さらに、酵母ツーハイブリッド分析を使用することで、本発明者は、毛髪及び爪の色素沈着の原因のカスケードにおけるタンパク質DDX31の機能的関与、及びタンパク質BNIPXLβの関与を示すことができた。
【0064】
(結果)
表現型の決定
この研究において、「時期尚早のしらが」表現型(PC)は、(i)25才以下で白髪を有する、(ii)頭髪の半分が30才でグレーである、及び(iii)PCの祖先を有する個人のみに起因するとした。
これらの特徴を、個々に、包括的表現型スコア(5又は4のスコアは強、3又は2のスコアは中、1のスコアは弱;時期尚早のしらがの指標を定める図1及び表1を参照)を得るための臨床的規模を使用して評価した。
【0065】
表1:時期尚早のしらがについて臨床的スコアを得るための方法
各個人について、3つのパラメータを測定した。包括的表現型スコアを、各パラメータを合計することにより得た。
【表1】

【0066】
12家族の連鎖解析:
マイクロサテライトマーカーを使用し、全ゲノムについて実施した連鎖研究に対して、96人の個人(PCを患っている30人、PCを患っていない55人、表現型が不確定な11人)を含む12家族を、それらの家系から出発した検出力計算に基づき選択した。この研究は、特に国際公開第04/007742号及び仏国特許出願第2865217号に記載されている。
染色体9において、本発明者は、マーカーD9S158上の151cM位の最大Lodスコアと、マーカーD9S290及びD9S158の間の9q31-qter位の連鎖間隔を測定した。
【0067】
関連研究
関連研究(罹患/対照)を、PC(スコア3-5)に罹患しており、また彼らの間に関連性のない個人のグループと、対照となるグループからのDNAにおいて実施した。この研究により、染色体9上に、PCを患っている個人と対照となる個人との間の異なる対立遺伝子頻度(Chi-2試験、p<0.05)を示す、33のSNP(SNPs rs2096071〜rs1378955)が同定された。
次の工程で、罹患しているヒトと対照となるヒトとの間で実質的に異なる対立遺伝子頻度を、染色体9上のポジティブSNPの個々の遺伝子型を決定した。ついで、本発明者は有意なp値を有する4つのSNPを検出した(表2を参照)。
【0068】
表2:時期尚早のしらがとの有意な関連性を示す染色体9q34のSNP
【表2】

さらに、ハプロタイプ「B86-92」(rs418320及びrs25260008)は、PC特徴を有する有意な関連性(p=0.0057)を示した。この「B86-92」領域は、35の追加SNPを付加することで低減した。DDX31遺伝子(IVS3+268)のイントロン3に局在するSNP rs3739902は、最も有意(p=6x10−5)であることが証明された。
またハプロタイプHAP86-88も特に有意であり;それはSNPs:rs3739902、rs2583805及びrs377090により定められている。時期尚早のしらがを患っているこのハプロタイプの関連性の統計的p値は10−6未満である。
連鎖不均衡における大きなブロックは、ポジティブSNPを含む領域の全体で、本発明者により観察された。2つの領域(DDX31、DEAD-ボックスヘリカーゼタンパク質ファミリーのメンバー、及びGTF3C4、潜在的な転写因子)が、連鎖不均衡のこのブロックに見出された。
この研究は、国際公開第04/007742号及び仏国特許出願第2865217号に詳細が記載されている。
【0069】
ハプロタイプHAP86-88内の領域における非コード保存領域と候補遺伝子の配列分析
ハプロタイプHAP86-88の領域における、エクソン、スプライシング部位、5'非翻訳領域(5'UTR)及び保存非コード領域を、罹患した個人からのDNAの選択のために配列決定した。6つのコード変異体と4つのニア-スプライス部位イントロン変異体を、時期尚早のしらがに罹患した個人において同定した(表3を参照)。
表3:時期尚早のしらがに罹患した12人における遺伝子DDX31とGTF3C4の配列解析中に同定された変異体
【表3】

【0070】
変異体p.Ile799Val(c.2395A>G、SNP rs306547としても知られている)は、ヘテロ接合状態にある個人からの12のDNA配列のうち6つ、ホモ接合状態(p.V799)にある6人の罹患した個人において見出された。第2の非センス変化p.Ala800Thr(c.2398G>A)が、1人の罹患した個人のヘテロ接合状態に見出された。この変異体の潜在的影響を推定するために、本発明者は、多数の罹患した個人(62)及びコントロール(64)を分析した。この変異の他のキャリアは、PCに罹患した人々又はコントロールのいずれにも見出されなかった。ヒト遺伝子におけるアラニンの代わりに、変異体p.A800Tにおけるように、マウス中の相同残基はスレオニンであるので、哺乳動物の進化中にA800残基は保存されていないため、この事象は生物学的観点からはおそらくは高度にサイレントである。
他の検出された変異体は、遺伝子DDX31(IVS4+15_17delCTC)のイントロン4中のCTCCTC2-単位繰り返しモチーフにおけるCTCの欠失である。
【0071】
ATGコドンに関して「ヘッドトゥーヘッド」に配向する遺伝子GTF3C4及びDDX31の2つの5'UTR(非翻訳領域)に位置する属間配列に何の変異体も検出されなかった。
本発明者は、遺伝子GTF3C4(エクソン2及び3)中に2つのエクソン変異体を同定した。
また本発明者は、この座位における20の保存された非コード(CNC)配列を分析した。そのうち、DDX31遺伝子のイントロン18(134479481位、NCBIビルド126)に位置し、SNP rs509762としても知られている転移c.2141-2018C>Tのただ一つの変異体が同定された。遺伝子型と対立遺伝子頻度の比較により、PC遺伝子型がスコア5の罹患した個人において過剰出現していることが示された(コントロールの32%と比較して時期尚早のしらがでは45%)。この保存された非コード領域CNCは、マウス、ニワトリ及びフグにおいて保存されていた。
【0072】
酵母ツーハイブリッド
時期尚早のしらがの遺伝子としてのDDX31とGTF3C4との生物学的関連性をさらに研究するために、本発明者は、これらの遺伝子の転写物等のアイソフォームとの相互作用に対する潜在的パートナーを測定するため、酵母「ツーハイブリッド」技術を使用した。
簡単に述べると、DDX31の長形態のcDNA(完全長変異体1、アミノ酸1-851)と、短形態のcDNA(C末端部分が切断された変異体2、アミノ酸1-585)を、ヒトメラノサイトmRNAから、ポリメラーゼ連鎖RNAにより増幅させ、2種類のベクター、すなわちpB27(LexA、C末端融合)及びpB6(Ga14、C末端融合)にクローニングした。DDX31の変異体2は、変異体1のエクソン16〜20によりコードされるC末端領域で切断された585のアミノ酸ポリペプチドをコードする。
これらのコンストラクトを、特定のヒトメラノサイトプレイ(10の独立したクローン)のライブラリーをスクリーニングするためのベイトとして使用した。またGTF3C4の単一cDNAも、同じ条件下でベイトとして使用した。
【0073】
ベイトのクローニング、ライブラリーの構築、及び相互作用マップの確立を、Hybrigenics (Paris, France)に委託した。Rain J Cら, 2001により記載された手順を使用し、PMRider(登録商標)ソフトウェアを用いて相互作用を分析した。
DDX31の変異体1及び2について、それぞれ1.90×10及び38×10の相互作用をコンストラクトpB27で試験し、45×10及び119×10の相互作用を、コンストラクトpB6で試験した。
【0074】
DDX31の変異体1と潜在的に相互作用する21のタンパク質と、DDX31の変異体2と潜在的に相互作用する15のタンパク質のうち、PAX3を、クラス「E」において予測される生物学的スコア(PMRider(登録商標)により定義され決定されるPBS(登録商標)「予測される生物学的スコア」)を有し、DDX31と相互作用しやすいタンパク質として同定した。この相互作用を、DDX31の長及び短の2つの形態で同定した。この相互作用はタンパク質PAX3のDEAD「ホメオボックス」ドメイン上に中心があった。PAX3タンパク質における変異が、1型ワールデンブルグ症候群に関連していることは知られていることを記すべきである。
有意な相互作用がGTF3C4についてもまた同定された。
驚くべきことに、また予期しないことに、本発明者は、タンパク質BNIPXL-ベータ(BCl2/アデノウイルスE1B 19kDaタンパク質相互作用タンパク質2)が、DDX31の長形態(変異体1)のプレイであったことを証明した。プログラムにより定められる信頼スコアは、DDX31の変異体1について「C」(相互作用における良好な信頼性)であった。
【0075】
結果を表4に示す
表4:()Rainら, 2001を参照。
【表4】

【0076】
考察
時期尚早のしらがは、毛髪の白化の遺伝的基礎であり、一般的に加齢に関する特徴であると理解されている、特に情報の多い臨床的状態を表す。
関連研究に続き、本発明者は染色体9上のPCに関連した座位を見出した。SNPを用いた関連分析では、当初10Mbpの連鎖間隔が、約100kbpの小さい領域まで低減していた。この領域は、2つの遺伝子:DDX31とGTF3C4を含む連鎖不均衡における単一ブロックにオーガナイズされている。
【0077】
時期尚早のしらがが、おそらく多重遺伝子の特徴とすることができると仮定し、座位が罹患した個人の数が限られていても得られたことを考えると、この座位は時期尚早のしらがにおける主要な役割を担いやすい蓋然性が高いと結論付けることができる。
ツーハイブリッドアプローチの結果により、BNIPXLβがDDX31の長及び短の代替アイソフォームの共通したプレイであることが明らかになったことを記すべきである。またBNIPXLβはアポトーシスプロセスに関与する因子である(Vegetoら, 1999)。
【0078】
最も厳密な表現型を有するPCに罹患した12人の個人からのDNAのコード化、スプライシング、及び保存非コード化(CNC)配列を配列決定することで、いくつかの変異体が同定された。DDX31においては、多型性として記録されていないエクソン20における変異体p.Ala800Thrを、時期尚早のしらがに関連した機能的効果の起源とすることができた。変異体IVS4+15_17delCTCは、哺乳動物の非保存領域に位置しており、この領域がイントロン4のスプライシングを改変可能であるとは予測されなかった(スプライスビュー分析)。この変異体は、表現型の特徴の原因である遺伝的変異に関連していた。
DXX31遺伝子のイントロン18におけるCNChs8内の変異は、それがマウスにおいて高度に保存されてる(100塩基対の距離にわたって間隙なし、変化なし)ことが分かった配列の一部に位置しているために、良好な表現型潜在性を有している。興味あることに、ツーハイブリッドアプローチにより、双方共が時期尚早のしらがに関与する領域に位置しているDDX31及びGTF3C4が、PAX3、色素沈着プロセスに寄与していると長い間思われていたタンパク質と共通した相互作用を有することが証明された。
【0079】
また、DDX31はヘリカーゼをコードすることも記載すべきである。ウェルナー症候群において、毛髪の時期尚早の白化が観察された加齢の促進に対応して、原因である遺伝子はヘリカーゼをコードするものであることが報告されている(WRN)(Yuら, 1996)。
驚くべきことに、また予期しないことに、本発明者は、BNIPXL(BCl2/アデノウイルスE1B 19kDaタンパク質相互作用タンパク質2)が、DDX31のプレイであることを発見した。相互作用における信頼スコアは特に良好である。
よって、DDX31とBNIPXL-ベータとの相互作用は、おそらく小胞輸送、ゆえにメラノソームの遊走及び移動における役割、さらにはしらが及び時期尚早のしらがにとって重要である。
【0080】
材料と方法
罹患した個人、連鎖研究及び関連研究
個人の選択及びそれらの分類は、仏国特許出願第2842104号、仏国特許出願第2853532号、仏国特許出願第2865217号、及び国際公開第04/007742号に示されている。
また連鎖及び関連研究は、それらの特許出願、並びにBlouinら, 2006及びLacharriereら, 2007による要約に記載されている。
要約すると、第1の工程において、本発明者は、時期尚早のしらがの特徴を伴い、有意な関連性を示す染色体9の間隔に含まれるSNPaの選択のために、対となるコントロールと比較して、罹患した個人からのDNAを収集するサンプルの遺伝子型を決定した。
染色体9q34における連鎖間隔に対応する領域を、SNPマーカーrs2096071及びrs1099298の間(2001バージョン(すなわちNCBI Build28)の関数として表される、位置123'405'258bpと132'547'291bpの間;バージョン37における位置130'565'549及び139'556'369の間;genome.cse.uscsc.edu)に定めた。
【0081】
与えられたSNPは、対立遺伝子頻度において有意な偏差を有しているならば、「ポジティブ」であると見なされる。次の条件:(1)少なくとも2の隣接したポジティブSNP、及び(ii)単一のネガティブSNPにより離間した2つのポジティブSNP、の少なくとも一を満足させる各領域を、個々の遺伝子型相について選択した。
個々に遺伝型が決定されたDNAにPC表現型を有する選択されたSNPの関連性を試験するために(分析の段階2)、本発明者は、罹患及びコントロールとなる集団における各SNPの、対立遺伝子頻度又は遺伝子型頻度を比較した。
また、この領域における遺伝子変異の全てを捕獲するために、本発明者は、ハプロタイプを効率よく再構築するために、SNPのスライディングウィンドウ(1のインクリメントを伴い、各時、5のSNPを含む)を使用し、ハプロタイプ分析を実施した。
【0082】
配列決定
PCの個人からのDNAを、遺伝子GTF3C4及びDDX31のエクソン、これらの遺伝子の間の小さな属間領域、及びヒト及びマウスの間で少なくとも70%の同一性を有するCNC配列を含有する領域(間隙なし)で増幅させ、一般的な方法を使用して配列決定した。
【0083】
ツーハイブリッド
ベイトのクローニング、ライブラリーの構築、及び相互作用マップの確立を、Hybrigenics (Paris, France)により実施した。Rain J Cら, 2001により記載された手順を使用し、PMRider(登録商標)ソフトウェアを用いて、相互作用分析を実施した。DDX31の長及び短スプライシング変異体(それぞれ、GenBank受託番号 NM_022779及びNM_138620)、毛髪とタンパク質STX17(GenBank受託番号 NM_017919)を、LexAを有する相ではpB27中で、Gal4のDNA結合ドメインを有する相ではpB6中でクローニングした。ベイトとして4つのコンストラクトを使用し、pP6に構築された特定のヒトメラノサイトcDNAのライブラリーをスクリーニングした。プラスミドpB27、pB6及びpP6を、それぞれプラスミドpBTM116(Vojtek及びHollenberg, 1995)、pAS2ΔΔ(Fromont-Racineら, 1997)、及びpGADGH(Bartelら, 1993)から誘導した。
【0084】
平均7300万のクローン(ライブラリーの複雑度の7倍)を、Fromont-Racineら, 1997により記載されているようにして、酵母株L40-Gal4(mat a)及びY187(mat α)を用いた交配アプローチを使用し、各ベイトについてスクリーニングした。His+コロニーを、トリプトファン、ロイシン及びヒスチジンフリーの培地において選択した。ポジティブなクローンからのプレイ断片をPCRにより増幅させ、PE3700シーケンサーでそれらの3'及び5'接合部において配列決定した。得られた配列を使用し、完全自動化プロセスを用いるGenBankデータベース(NCBI)において相互作用する対応タンパク質を同定した。信頼スコアは、上述のようにして各相互作用に帰した(Formstecherら, 2005)。
【0085】
局所スコアは、与えられた相互作用ドメイン(「選択された相互作用ドメイン」、SID(登録商標))について、等しい確率の仮定を仮説して、すなわちランダムなノイズの結果として得られた確率である。それを定義する独立した断片のそれぞれの確率p(2項式の法則を使用)を組合せることにより推定してもよい。(包括的に)予測された生物学的スコア(PBS)を、各スクリーニングの結果を集めた後に、各相互作用タンパク質について算出する。事象が独立していると仮定することにより、タンパク質ドメインの同じ対が関連している場合に、種々のスクリーニングのスコアを一緒に組合せる。このようにして得られたPBSは、与えられたタンパク質-タンパク質相互作用がノイズのためであろう確率を表す。
【0086】
スコアは0〜1の範囲の実数であるが、実際は、4つのカテゴリー(クラスA、B、C及びD)にまとめられる。最後に、相互作用マップの全体的な結合性は、高頻度、固定閾値でプレイとして見出された選択された相互作用ドメイン(SID)を別個に標識(カテゴリーE)するために分析される:非常に強く結合したSIDを含む各タンパク質-タンパク質相互作用のPBSを1に設定する。同時に、カテゴリー間の閾値、及び強く結合した閾値を、研究下の生物の性質、使用したライブラリー、及び本プロテオーム範囲を考慮して、手作業で定め(A<1610<B<1−5<C<1−2,5<D;カテゴリーEは4ベイトを越えて選択されたプレイSIDに相当し、任意に値1に帰させる。
【0087】
上に鑑み、特に本発明は次の点に関する:
− ヒトの時期尚早のしらがの処置又は予防において治療に使用される、配列番号:1の配列の全て又は一部と少なくとも90%の同一性を有する配列を含有するポリペプチドであって、該一部は少なくとも30のアミノ酸を含有するポリペプチド。
− ヒトの時期尚早のしらがの処置又は予防において治療に使用される、配列番号:2の配列の全て又は一部と少なくとも90%の同一性を有するRNAi配列を含有する分子であって、該一部は少なくとも18のヌクレオチドを含有する分子。
− 色素沈着の分野において、美容又は治療目的で使用される薬剤を同定するための、BNIPXL-ベータをコードする遺伝子の発現を調節する分子をスクリーニングする方法(A)。
【0088】
上述した方法(A)は、次の工程:
・試験用分子の不在下、遺伝子を発現可能にする条件下でBNIPXL-ベータをコードする遺伝子の存在下に試験用分子を配し;
・試験用分子の存在に起因する該遺伝子の発現レベルの変化を検出する;
ことを含みうる。
前記方法(A)において、発現の調節は、BNIPXL-ベータをコードする遺伝子の転写又は翻訳の阻害でありうる。
前記方法(A)において、試験用分子は、タンパク質、RNAi、リボザイム又はアンチセンスRNAで、BNIPXL-ベータをコードする遺伝子を標的とするものでありうる。
【0089】
− 色素沈着の分野において、美容又は治療目的で使用される薬剤を同定するための、ポリペプチドBNIPXL-ベータの活性を調節する分子をスクリーニングする方法(B)。
該スクリーニング方法(B)は、次の工程:
・測定される試験用分子の不在下、前記ポリペプチドの活性を測定可能な条件でポリペプチドBNIPXL-ベータの不在下に試験用分子を配し;
・試験用分子の存在に起因する該ポリペプチドの活性の変化を検出する;
ことを含みうる。
前記スクリーニング方法(B)において、活性の調節は、全体的又は部分的阻害でありうる。
前記スクリーニング方法(B)において、活性の調節は、前記ポリペプチドの隔離により実施されうる。
前記スクリーニング方法(B)において、試験用分子は、ポリペプチドBNIPXL-ベータ又はその一部に対する抗体でありうる。
前記スクリーニング方法(B)において、色素沈着は、毛髪及び爪、特に毛髪のものであってよい。
【0090】
− 色素沈着の分野における美容目的のための、BNIPXL-ベータをコードする遺伝子の発現を調節する薬剤の使用。
− 色素沈着の分野において治療に使用される薬剤を調製するための、BNIPXL-ベータをコードする遺伝子の発現を調節する薬剤の使用。
− 色素沈着の分野における美容目的のための、BNIPXL-ベータをコードする遺伝子の翻訳から誘導されるポリペプチドの活性を調節する薬剤の使用。
− 色素沈着の分野において治療に使用される薬剤を生成するための、BNIPXL-ベータをコードする遺伝子の翻訳から誘導されるポリペプチドの活性を調節する薬剤の使用。
− 色素沈着の分野における美容目的のための、BNIPXL-ベータ又はBNIPXL-ベータ転写物をコードする遺伝子の全て又は一部にその配列が対応する、少なくとも18の連続したヌクレオチドを含有する、少なくとも一のポリヌクレオチド断片の使用。
前述の使用は、好ましくはしらが、特に時期尚早のしらがの予防又は処置に関する。
【0091】
− 次の工程:
i)個人からの体の試料を使用し、BNIPXL-ベータ転写物の発現レベルをアッセイし;
ii)参照レベルと比較する;
ことを含む、個人における時期尚早のしらがに対する素因を診断する方法(C)。
前記診断方法(C)において、参照レベルは、罹患していない個人におけるBNIPXL-ベータ転写物の発現レベルでありうる。
前記診断方法(C)において、体の試料は、メラノサイト細胞を含むか、又はこれからなるものでありうる。
【0092】
− 色素沈着の分野において、美容又は治療目的で使用される薬剤を同定するための、BNIPXL-ベータポリペプチドとDDX31遺伝子の転写物から誘導されるポリペプチドとの間の相互作用を調節する分子をスクリーニングする方法(D)。
前記スクリーニング方法(D)において、調節は、2つのポリペプチドの間の結合の破壊、又は2つのポリペプチドの間の結合定数の修正でありうる。
前記スクリーニング方法(D)において、同定された薬剤は、2つのポリペプチドの間の結合の競合的阻害剤でありうる。
前記スクリーニング方法(D)において、色素沈着は、毛髪及び爪、特に毛髪のものでありうる。
【0093】
− 色素沈着の分野における美容目的のための、遺伝子DDX31の翻訳から誘導されるポリペプチドとBNIPXL-ベータとの間の相互作用を調節する薬剤の使用。
− 色素沈着の分野において治療に使用される薬剤を製造するための、遺伝子DDX31の翻訳から誘導されるポリペプチドとBNIPXL-ベータとの間の相互作用を調節する薬剤の使用。
前記使用において、薬剤は抗体でありうる。
【0094】
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【特許請求の範囲】
【請求項1】
ヒトの時期尚早のしらがの処置又は予防における治療的使用のための、配列番号:1の配列の全て又は一部と少なくとも90%の配列同一性を有する配列を含んでなるポリペプチドであって、該一部が少なくとも30のアミノ酸を含むポリペプチド。
【請求項2】
ヒトの時期尚早のしらがの処置又は予防における治療的使用のための、配列番号:2の配列の全て又は一部と少なくとも90%の配列同一性を有するRNAi配列を含んでなる分子であって、該一部が少なくとも18のヌクレオチドを含む分子。
【請求項3】
次の工程:
・試験用分子の不在下で遺伝子の発現を可能にする条件にて、BNIPXL-ベータをコードする遺伝子の存在下に試験用分子を配し;
・試験用分子の存在に起因する該遺伝子の発現レベルの変化を検出する;
ことを含む、毛髪の色素沈着の分野において、美容又は治療目的で使用される薬剤を同定するための、BNIPXL-ベータをコードする遺伝子の発現を調節する分子をスクリーニングする方法。
【請求項4】
次の工程:
・測定される試験用分子の不在下でポリペプチドの活性の測定を可能にする条件にて、ポリペプチドBNIPXL-ベータの不在下に試験用分子を配し;
・試験用分子の存在に起因する該ポリペプチドの活性の変化を検出する;
ことを含む、毛髪の色素沈着の分野において、美容又は治療目的で使用される薬剤を同定するための、ポリペプチドBNIPXL-ベータの活性を調節する分子をスクリーニングする方法。
【請求項5】
毛髪の色素沈着の分野における美容目的のための、BNIPXL-ベータをコードする遺伝子の発現を調節する薬剤の使用であって、該薬剤が請求項2に記載の分子である使用。
【請求項6】
毛髪の色素沈着の分野において治療に使用される薬剤を製造するための、BNIPXL-ベータをコードする遺伝子の発現を調節する薬剤の使用であって、該薬剤が請求項2に記載の分子である使用。
【請求項7】
毛髪の色素沈着の分野における美容目的のための、BNIPXL-ベータ又はBNIPXL-ベータ転写物をコードする遺伝子の全て又は一部にその配列が対応する少なくとも18の連続したヌクレオチドを含んでなる、少なくとも一のポリヌクレオチド断片の使用。
【請求項8】
次の工程:
i)個人からの体の試料を使用し、BNIPXL-ベータ転写物の発現レベルをアッセイし;
ii)参照レベルと比較する
ことを含む、個人における時期尚早のしらがに対する素因を診断する方法。
【請求項9】
毛髪の色素沈着の分野において、美容又は治療目的で使用される薬剤を同定するための、BNIPXL-ベータポリペプチドとDDX31遺伝子の転写物から誘導されるポリペプチドとの間の相互作用を調節する分子をスクリーニングする方法。
【請求項10】
毛髪の色素沈着の分野における美容目的のための、遺伝子DDX31の翻訳から誘導されるポリペプチドとBNIPXL-ベータとの間の相互作用を調節する薬剤の使用。

【図2A】
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【図2B】
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【図1】
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【公開番号】特開2009−291189(P2009−291189A)
【公開日】平成21年12月17日(2009.12.17)
【国際特許分類】
【外国語出願】
【出願番号】特願2009−110280(P2009−110280)
【出願日】平成21年4月30日(2009.4.30)
【出願人】(391023932)ロレアル (950)
【Fターム(参考)】