説明

茶ポリフェノール組成物及びその製造方法

【課題】 カテキン類が高純度含有されているにもかかわらず、苦味、渋味が緩和されている茶ポリフェノール組成物を提供すること。
【解決手段】 (A)カテキン類を85〜95重量%含有し、(B)カテキン類中に、エピガロカテキンガレート及びガロカテキンガレートを65〜80重量%含有し、(C)(エピガロカテキンガレート+ガロカテキンガレート)/(エピカテキン+カテキン+エピガロカテキン+ガロカテキン+エピカテキンガレート+カテキンガレート)で表される比率が2〜4である、茶ポリフェノール組成物を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、苦味・渋味などの呈味を改善した茶ポリフェノール組成物及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
茶ポリフェノールのカテキン類には、抗酸化作用(特開昭59−219384号公報、特開平1−268683号公報)、抗菌・静菌作用(特開平2−276562、特開平3−246227号公報)、コレステロール上昇抑制作用(特開昭60−156614号公報)、血圧上昇抑制作用(特開昭63−214183号公報)、血糖上昇抑制作用(特開平4−253918号公報)等、様々な効果を有することが知られている。
【0003】
このようなカテキン類の優れた生理効果を得るためにはカテキン類の摂取量を増やすことが必要であり、従来からカテキン類を高濃度含有する茶ポリフェノール組成物の開発がすすめられている。
例えば、リグノセルロースに接触させることにより高純度のポリフェノール化合物(カテキン類)を精製する方法(特許文献1参照)、濃度を適宜変えた親水性有機溶媒の水溶液を用いてゲルカラムクロマトグラフィーにより夾雑物を分離し茶カテキン化合物を高収率で製造する方法(特許文献2参照)、茶葉中に含まれるカフェインをサイクロデキストリンポリマーなどの吸着剤を充填したクロマトカラムに通液することにより除去する高純度なカテキン類の製造方法(特許文献3参照)等が知られている。
【0004】
【特許文献1】特開平7−238078号公報
【特許文献2】特開平1−175978号公報
【特許文献3】特開平10−67771号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
生理的有用性を目的としてカテキン類の摂取量を増やすためには、前記したような方法によりカテキン純度を高めた茶ポリフェノール組成物を摂取することが有効である。
しかしながら、このような方法によりカテキン純度を高めた茶ポリフェノール組成物を製造すると、苦味、渋味が著しく強いものとなってしまう。適度な苦味、渋味は風味の上から不可欠なものであるが、過度の苦味、渋味は一般的嗜好には好まれない。
【0006】
従って、本発明の目的は、上記問題点を克服し、カテキン類が高純度含有されているにもかかわらず、苦味、渋味が緩和されている茶ポリフェノール組成物とその効率的な製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは上記目的を達成すべく鋭意検討を重ねた結果、茶ポリフェノール組成物中の成分組成を特定の比率で含有させることにより、カテキン類が高純度含有されているにもかかわらず、苦味、渋味が緩和されている優れた茶ポリフェノール組成物が得られることを見出し、かかる知見に基づいて本発明を完成するに至った。
【0008】
即ち、請求項1に係る本発明は、
(A)カテキン類を85〜95重量%含有し、(B)カテキン類中に、エピガロカテキンガレート及びガロカテキンガレートを65〜80重量%含有し、(C)(エピガロカテキンガレート+ガロカテキンガレート)/(エピカテキン+カテキン+エピガロカテキン+ガロカテキン+エピカテキンガレート+カテキンガレート)で表される比率が2〜4である、茶ポリフェノール組成物である。
請求項2に係る本発明は、(エピガロカテキンガレート+エピカテキンガレート+ガロカテキンガレート+カテキンガレート)/(エピカテキン+エピガロカテキン+ガロカテキン+カテキン)で表される比率が3〜7である、請求項1記載の茶ポリフェノール組成物である。
請求項3に係る本発明は、(エピガロカテキンガレート+ガロカテキンガレート)/(エピカテキン+エピガロカテキン+ガロカテキン+カテキン)で表される比率が2〜6である、請求項1乃至2記載の茶ポリフェノール組成物である。
請求項4に係る本発明は、カテキン類中に、ガロカテキンガレート、ガロカテキン、カテキンガレート及びカテキンを2〜15重量%含有する、請求項1乃至3記載の茶ポリフェノール組成物である。
請求項5に係る本発明は、エピガロカテキンガレート/(エピカテキン+エピガロカテキン+エピカテキンガレート)で表される比率が2〜4である、請求項1乃至4記載の茶ポリフェノール組成物である。
請求項6に係る本発明は、カフェインを0.0001〜1.2重量%含有する、請求項1乃至5記載の茶ポリフェノール組成物である。
請求項7に係る本発明は、灰分を0.0001〜0.2重量%含有する、請求項1乃至6記載の茶ポリフェノール組成物である。
請求項8に係る本発明は、没食子酸が含まれていない、請求項1乃至7記載の茶ポリフェノール組成物である。
請求項9に係る本発明は、次の工程1)〜3)により得られる請求項1乃至8記載の茶ポリフェノール組成物の製造方法である。
1)茶葉から熱水抽出によりカテキン類を含む茶成分を抽出し、さらに有機溶媒で抽出することにより茶抽出物を供給する工程
2)茶抽出物を合成吸着樹脂に付する工程
3)合成吸着樹脂を5〜15%アルコール水溶液で洗浄後、30〜50%アルコール水溶液を通液することにより茶カテキン類を溶出する工程
【発明の効果】
【0009】
本発明の茶ポリフェノール組成物はカテキン類を高純度含有するため、カテキン類のもつ優れた生理効果、例えば抗酸化作用、抗菌・静菌作用、コレステロール上昇抑制作用、血圧上昇抑制作用、血糖上昇抑制作用等をより効果的に発揮することができる。
しかも、本発明の茶ポリフェノール組成物は、苦味、渋味等の呈味が改善されているなど嗜好性にも優れている。
さらに、本発明の方法によれば、そのような茶ポリフェノール組成物を効率よく製造することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
請求項1に係る本発明は、
(A)カテキン類を85〜95重量%含有し、
(B)カテキン類中に、エピガロカテキンガレート及びガロカテキンガレートを65〜80重量%含有し、
(C)(エピガロカテキンガレート+ガロカテキンガレート)/(エピカテキン+カテキン+エピガロカテキン+ガロカテキン+エピカテキンガレート+カテキンガレート)で表される比率が2〜4である、茶ポリフェノール組成物である。
【0011】
本発明においてカテキン類とは、エピガロカテキンガレート(以下、EGCgという。)、エピガロカテキン(以下、EGCという。)、エピカテキンガレート(以下、ECgという。)、エピカテキン(以下、ECという。)、ガロカテキンガレート(以下、GCgという。)、ガロカテキン(以下、GCという。)、カテキンガレート(以下、Cgという。)及びカテキン(以下、Cという。)を合わせての総称である。これらカテキン類は(+)体であっても(−)体であってもどちらでもよいが、好ましくは、(−)-EGCg、(−)-EGC、(−)-ECg、(−)-EC、(−)-GCg、(−)-GC、(−)-Cg及び(+)-Cである。
【0012】
請求項1に係る本発明の茶ポリフェノール組成物中には、このカテキン類を85〜95重量%含有し、好ましくは85.5〜94.5重量%、より好ましくは86〜94重量%、さらに好ましくは86.5〜93.5重量%含有する。カテキン類含量がこの範囲にあると、多量のカテキン類を容易にとりやすく、茶本来の風味が得られる。
ここでいうカテキン類の濃度は、EGCg、EGC、ECg、EC、GCg、GC、Cg及びCの合計8種の合計量に基づいて定義される。
【0013】
請求項1に係る本発明の茶ポリフェノール組成物においては、カテキン類のもつ優れた生理効果をより効果的に発揮するために、全カテキン類中に、EGCg及びGCgを65〜80重量%含有することが必要であり、好ましくは66〜79重量%、より好ましくは67〜79重量%、さらに好ましくは68〜78.5重量%である。
【0014】
また、請求項1に係る本発明においては、カテキン類の苦味、渋味などの呈味を改善する上で、EGCgとGCgの濃度の合計値を、ECとCとEGCとGCとECgとCgの濃度の合計値で割った値が2〜4であることが好ましく、2.1〜3.9であることがより好ましく、2.2〜3.8であることがさらに好ましく、2.3〜3.7であることが最も好ましい。
【0015】
次に、請求項2に記載したように、本発明においては、EGCgとECgとGCgとCgの濃度の合計値(ガレート体カテキン類)を、ECとEGCとGCとCの濃度の合計値(非ガレート体カテキン類)で割った値が3〜7であることが好ましく、3.1〜6.8であることがより好ましく、3.1〜6.6であることがさらに好ましく、3.2〜6.4であることが最も好ましい。この範囲であると、カテキン類のもつ優れた生理効果を発揮しやすく、かつ、渋味、苦味などの呈味が緩和されるため、好ましい。
【0016】
さらに、請求項3に記載したように、本発明においては、カテキン類の苦味、渋味などの呈味を改善する上で、EGCgとGCgの濃度の合計値を、ECとEGCとGCとCの濃度の合計値(非ガレート体カテキン類)で割った値が2〜6であることが好ましく、2.5〜5.9であることがより好ましく、2.8〜5.8であることがさらに好ましく、2.9〜5.6であることが最も好ましい。
【0017】
また、請求項4に記載したように、本発明においては、風味を改善するために、カテキン類中に、GCgとGCとCgとC(非エピ体カテキン類)を2〜15重量%含有することが好ましく、2.2〜13重量%含有することがより好ましく、2.5〜11重量%含有することがさらに好ましく、2.7〜10.4重量%であることが最も好ましい。
【0018】
次に、請求項5に記載したように、本発明の茶ポリフェノール組成物においては、カテキン類の苦味、渋味などの呈味を改善する上で、EGCg/(EC+EGC+ECg)であらわされる重量比率が2〜4であることが好ましく、2.2〜3.9であることがより好ましく、2.1〜3.8であることがさらに好ましい。
【0019】
さらに、請求項6に記載したように、本発明の茶ポリフェノール組成物においては、カフェインを0.0001〜1.2重量%含有することが好ましく、より好ましくは0.001〜1.2重量%含有する。カフェインが1.2重量%を超えると、摂取量や個人差によってはカフェインのもつ強い生理作用により、めまい、不眠、心悸亢進、悪心などが生じる恐れがあるため、好ましくない。
【0020】
また、請求項7に記載したように、本発明の茶ポリフェノール組成物においては、灰分を、好ましくは0.0001〜0.2重量%、より好ましくは0.001〜0.2重量%とするのが、渋味、苦味などの呈味を改善する上で好ましい。
【0021】
次に、請求項8に記載したように、本発明においては、カテキン類のもつ優れた生理効果をより効果的に発揮するために、没食子酸(ガーリックアシッド)が含まれていないことが好ましい。
【0022】
本発明においては、上記請求項1〜8に記載した全ての要件を具備したものが渋味、苦味などの呈味を改善する上で好ましく、特により好適な範囲をそれぞれ組合わせたものがより好ましい。
【0023】
上記した如き請求項1乃至8記載の茶ポリフェノール組成物は、例えば請求項9に係る本発明の方法により製造することができる。
即ち、請求項9に係る本発明は、次の工程1)〜3)により得られる請求項1乃至8記載の茶ポリフェノール組成物の製造方法である。
1)茶葉から熱水抽出によりカテキン類を含む茶成分を抽出し、さらに有機溶媒で抽出することにより茶抽出物を供給する工程
2)茶抽出物を合成吸着樹脂に付する工程
3)合成吸着樹脂を5〜15%アルコール水溶液で洗浄後、30〜50%アルコール水溶液を通液することにより茶カテキン類を溶出する工程
【0024】
本発明における茶ポリフェノールとは、茶葉から抽出されたポリフェノール含有抽出物又は精製されたポリフェノール化合物をさす。
ここでいう茶葉とは、主にツバキ科に属する茶樹(Camellia sinensis)に由来する葉を意味し、発酵、不発酵の別を問わず、既製の紅茶、プアール茶などの発酵茶、ウーロン茶、包種茶などの半発酵茶、緑茶、釜煎り緑茶、ほうじ茶などの不発酵茶のいずれであってもよいし、また、これらの2種類以上の混合物であってもよい。
本発明のポリフェノールは、酒石酸鉄を用いた比色定量法により測定可能であるが、茶ポリフェノールの組成を詳細に測定するためには、逆相高速液体クロマトグラフィーで測定することが好ましい。
本発明において用いられる茶葉は、生又は乾燥物の別を問わないが、特に乾燥物を用いることが好ましい。乾燥物を用いる場合は、茶葉を乾燥後、必要に応じて粉砕して抽出操作に供して調製すればよい。例えば、茶の葉をそのまま乾燥した後粉砕するか、又は生のまま細かく切断した後乾燥することによって調製することができる。
【0025】
請求項9に係る本発明は、1)〜3)の3つの工程からなる。
第1の工程は、茶葉から熱水抽出によりカテキン類を含む茶成分を抽出し、さらに有機溶媒で抽出することにより茶抽出物を供給する工程(抽出工程)である。
この抽出工程では、まず、前記した茶葉から熱水抽出によりカテキン類を含む茶成分を抽出する。このときの熱水温度は、常圧下で100℃以下であればよく特に制限されないが、60℃〜100℃が好ましく、70〜90℃がさらに好ましく、80〜85℃が最も好ましい。ここで100℃より高温で抽出するとカテキン類の異性化重合など構造変化が起こってしまう可能性があり好ましくなく、一方、60℃未満ではカテキン類の十分な抽出が行われないため好ましくない。また、圧力をかけて抽出を行う場合は、常圧下の抽出温度よりもさらに低い温度で抽出することができ、圧力の大きさに合わせて適宜抽出温度を調整すればよい。茶葉から抽出を行う際の熱水量は特に制限されないが、茶葉量に対し重量比で3〜10倍量の熱水を用いることが好ましく、5〜7倍量の熱水を用いることがさらに好ましい。茶葉量に対し重量比で3倍量未満の熱水使用量では十分な抽出が行えず、一方、熱水使用量が10倍量を超えても抽出効率の特段の上昇は認められない。また、熱水抽出の回数は1回のみであっても2回以上繰り返し行ってもよいが、2回抽出が好ましい。2回抽出を行う場合の熱水量は特に制限されないが、抽出1回目は茶葉量に対し重量比7倍量で行い、抽出2回目は茶葉量に対し重量比5倍量で行うのが好ましい。
【0026】
上記のような熱水抽出により得た被抽出液は一度冷却させる。冷却温度は、50℃以下が好ましく、30℃以下がさらに好ましく、15℃以下が最も好ましい。冷却温度が50℃を超えると、後の工程で行う遠心濾過の際に、不溶成分の除去が十分に行われないため好ましくない。
次に、冷却した被抽出液を濃縮させる。濃縮方法は一般的に行われる方法であればよく、例えば、減圧式濃縮法、上圧式濃縮法、加熱式濃縮法、バッチ式濃縮法、膜式濃縮法、循環式濃縮法などいずれの方法であってもよいが、好ましくは膜式濃縮法、中でもRO膜を用いた膜式濃縮法により行うのが好ましい。また、濃縮前にフィルター濾過や遠心濾過などを行っても何ら問題はない。
【0027】
第1の工程では、上記のように茶葉から熱水抽出によりカテキン類を含む茶成分を抽出し、得られた被抽出液を好ましくは冷却した後濃縮し、しかる後、得られた被濃縮液をさらに有機溶媒で抽出する。
このとき使用する有機溶媒としては、例えば、アセトニトリル、メタノール、エタノール、酢酸エチル、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、テトラヒドロフラン、ジオキサンなどの茶ポリフェノール可溶性有機溶媒もしくはこれらの含水有機溶媒や混合溶媒が挙げられるが、中でも酢酸エチルを使用するのが好ましい。有機溶媒量は、被濃縮液に対して体積比0.5〜5倍量が好ましく、1〜3倍量がさらに好ましく、1.5〜2倍量が最も好ましい。有機溶媒量が被濃縮液に対して0.5倍量未満ではカテキン類の十分な抽出が行えず、一方、5倍量を超えても抽出効率の特段の上昇は認められない。
次に、得られた有機溶媒層を濃縮する。このときの濃縮方法は一般的に行われる方法であればよく、例えば、減圧式濃縮法、上圧式濃縮法、加熱式濃縮法、バッチ式濃縮法、膜式濃縮法、循環式濃縮法などの方法により行えばよい。また、前記したいずれかの方法をいくつか組み合わせて用いてもよく、特に、減圧式濃縮法、加熱式濃縮法および循環式濃縮法を組み合わせて行うのが好ましい。
そして前記した被濃縮液を乾燥させることにより、茶抽出物(粗茶抽出物)を得ることができる。このときの乾燥方法は特に制限されないが、スプレードライ方法、フリーズドライ方法、バキュームドライ方法などにより行うとよい。このとき粗茶抽出物として市販品を用いても特に問題はない。
【0028】
第2の工程は、第1の工程により得られた茶抽出物(粗茶抽出物)を合成吸着樹脂に付する工程である。
この第2の工程では、まず得られた粗茶抽出物を好ましくは5〜15%アルコール水溶液、より好ましくは10%アルコール水溶液、特に好ましくは10%メタノール水溶液に溶解し、しかる後、合成吸着樹脂に付して茶抽出成分を吸着させる。
合成吸着樹脂としては架橋スチレン系のものを使用するのが好ましく、例えば、HP−20(ダイヤイオン、三菱化成(株)製)、セパビーズ(三菱化成(株)製)、アンバーライト(オルガノ(株)製)、ショウデックス(昭和電工(株)製)、セファデックス(ファルマシア製)などが挙げられる。
【0029】
第3の工程は、合成吸着樹脂を5〜15%アルコール水溶液で洗出後、30〜50%アルコール水溶液を通液することにより茶カテキン類を溶出する工程である。
この第3の工程では、30%〜50%アルコール水溶液を通液することによりカテキン類を溶出するが、30%〜50%アルコール水溶液による溶出を行う前に未吸着成分を洗い流しておく。
即ち、まず合成吸着樹脂を5〜15%アルコール水溶液で洗出し、未吸着成分を洗い流しておく。このとき用いるアルコール水溶液の濃度は5%〜15%であればよく、好ましくは10%である。アルコール水溶液の通液量は、カラム体積300Lに対して50L以上であればよい。
しかる後、30〜50%アルコール水溶液を通液することにより茶カテキン類を溶出する。このとき使用するアルコール水溶液はその種別を問わないが、メタノール水溶液が好ましい。アルコール水溶液の濃度は30%〜50%であればよく、好ましくは35%〜45%であり、40%がさらに好ましい。従って、好ましくは40%メタノール水溶液を用いて茶カテキン類を溶出する。アルコール水溶液の通液量はカラム体積300Lに対して100L以上であればよく、好ましくは280±56Lである。
【0030】
そして、好ましくは最後にアルコール水溶液を用いてカフェインなどの不溶成分を洗浄・除去する。このとき使用するアルコール水溶液はその種別を問わないが、メタノール水溶液が好ましい。アルコール水溶液の濃度は50%〜100%であればよく、好ましくは60%〜80%であり、70%がさらに好ましい。アルコール水溶液の通液量は、カラム体積300Lに対して100L以上であればよく、好ましくは400L以上、さらに好ましくは600L以上である。
【0031】
茶カテキン画分の回収は、(−)-EGCgが(−)-EGCの2倍以上、好ましくは5倍以上となる時点から開始し、終了時点は(−)-EGCg<(−)-ECgとなる時点、又は、カフェインが5%、好ましくは1%となる時点がよい。回収開始時点をこれ以上早めると(−)-EGCg含有量が低下してしまい、回収終了時点をこれ以上遅くすると(−)-EGCg含有量が低下し、カフェイン含有量が上昇してしまう。
【0032】
以上のような工程により得られた茶カテキン画分を濃縮・乾燥させることにより、本発明の茶ポリフェノール組成物を得ることができる。濃縮方法は一般的に行われる方法であればよく、例えば、減圧式濃縮法、上圧式濃縮法、加熱式濃縮法、バッチ式濃縮法、膜式濃縮法、循環式濃縮法などの方法により行えばよい。また、前記したいずれかの濃縮方法をいくつか組み合わせて用いてもよく、特に、減圧式濃縮法、加熱式濃縮法および循環式濃縮法を組み合わせて行うのが好ましい。乾燥方法は特に制限されないが、スプレードライ方法、フリーズドライ方法、バキュームドライ方法などにより行うとよい。
【0033】
このようにして得られた茶ポリフェノール組成物は、カテキン類特有の苦味・渋味などの呈味が大幅に軽減されたものである。
また、ガレート基を有する茶カテキン類の含有比率が高く、カフェインや没食子酸をほとんど含有していないために、後記するカフェインのもつマイナス効果を懸念することなく、ポリフェノール類本来の作用、例えば、抗酸化作用、抗菌・静菌作用、コレステロール上昇抑制作用、血圧上昇抑制作用、血糖上昇抑制作用等の生理機能の付与に期待することができる。カフェインは、中枢神経興奮作用、強心作用、利尿作用などの生理活性を有することが知られているが、摂取量や個人差によってはカフェインのもつ強い生理作用により、めまい、不眠、心悸亢進、悪心などが生じる恐れがあり、カフェイン過敏症の人々によっては問題視されている。
本発明の茶ポリフェノール組成物は、化学的、物理的及び生物的にも非常に安定であるため、その利用分野は制限されず、例えば、飲食品、医薬品、医薬部外品、化粧品、繊維などに添加することができる。本発明品は用途に応じて、トコフェロールやビタミンCなどのビタミン類、抗菌・殺菌剤、色素、香料、バルキング剤やコーティング剤などを併用することも可能である。
【実施例】
【0034】
以下に、実施例、比較例及び試験例を挙げ、本発明をさらに詳しく説明する。但し、本発明はこれに限定されるものではない。
【0035】
実施例1(本発明品1の製造)
乾燥した緑茶葉270kgを1890Lの80℃熱水で抽出した後、さらに1350Lの80℃熱水で抽出を行った。この抽出液を15℃以下に冷却した後、RO膜により濃縮し、濃縮液500Lを得た。この濃縮液を1000Lの酢酸エチルで抽出し、酢酸エチル層を75kgにまで濃縮し、これを乾燥させて15kgの粗茶抽出物を得た。
このようにして得られた粗茶抽出物12kgを原料とし、22Lの10%メタノール水溶液に溶解し、架橋スチレン系合成吸着樹脂(三菱化成(株)製「HP−20」)300Lに茶抽出成分を吸着させた。
次に、280Lの10%メタノール水溶液を通液することにより未吸着成分を除いた後、280Lの40%メタノール水溶液を通液することにより茶カテキン画分を溶出させた。続いて、600Lの70%メタノール水溶液を通液することにより不溶成分を洗浄・除去し、茶カテキン画分約240Lを回収した。この画分を、遠心薄膜濃縮装置((株)大川原製作所製)により循環濃縮を行い、濃縮液約20Lを得た。この濃縮液をスプレードライヤー(ニロ製)により噴霧乾燥し、茶ポリフェノール組成物4.8kgを得、これを本発明品1とした。
【0036】
このようにして得られた茶ポリフェノール組成物(本発明品1)の成分分析を、高速液体クロマトグラフィーにより下記の条件で行った。茶ポリフェノール組成物の成分組成を表1に示す。
【0037】
[高速液体クロマトグラフィーの条件]
カラム :Mightysil(関東化学(株)製)
移動相A液:アセトニトリル:燐酸水溶液=10:400の溶液
移動相B液:メタノール:アセトニトリル:燐酸水溶液=200:10:400の溶液
検出 :UV230nm
カラム温度:40℃
サンプル温度:室温
サンプル量:10μl
流速 :1ml/min.
【0038】
実施例2(本発明品2の製造)
乾燥した緑茶葉270kgを1890Lの80℃熱水で抽出した後、さらに1350Lの80℃熱水で抽出を行った。この抽出液を15℃以下に冷却した後、RO膜により濃縮し、濃縮液500Lを得た。この濃縮液を1000Lの酢酸エチルで抽出し、酢酸エチル層を75kgにまで濃縮し、これを乾燥させて15kgの粗茶抽出物を得た。
このようにして得られた粗茶抽出物12kgを原料とし、22Lの10%メタノール水溶液に溶解し、架橋スチレン系合成吸着樹脂(三菱化成(株)製「HP−20」)300Lに茶抽出成分を吸着させた。
次に、280Lの10%メタノール水溶液を通液することにより未吸着成分を除いた後、280Lの35%メタノール水溶液を通液することにより茶カテキン画分を溶出させた。続いて、600Lの70%メタノール水溶液を通液することにより不溶成分を洗浄・除去し、茶カテキン画分約240Lを回収した。この画分を、遠心薄膜濃縮装置((株)大川原製作所製)により循環濃縮を行い、濃縮液約20Lを得た。この濃縮液をスプレードライヤー(ニロ製)により噴霧乾燥し、茶ポリフェノール組成物4.8kgを得、これを本発明品2とした。
このようにして得られた茶ポリフェノール組成物(本発明品2)の成分分析を、実施例1と同様にして行った。結果を表1に示す。
【0039】
実施例3(本発明品3の製造)
乾燥した緑茶葉270kgを1890Lの80℃熱水で抽出した後、さらに1350Lの80℃熱水で抽出を行った。この抽出液を15℃以下に冷却した後、RO膜により濃縮し、濃縮液500Lを得た。この濃縮液を1000Lの酢酸エチルで抽出し、酢酸エチル層を75kgにまで濃縮し、これを乾燥させて15kgの粗茶抽出物を得た。
このようにして得られた粗茶抽出物12kgを原料とし、22Lの10%メタノール水溶液に溶解し、架橋スチレン系合成吸着樹脂(三菱化成(株)製「HP−20」)300Lに茶抽出成分を吸着させた。
次に、280Lの5%メタノール水溶液を通液することにより未吸着成分を除いた後、280Lの35%メタノール水溶液を通液することにより茶カテキン画分を溶出させた。続いて、600Lの70%メタノール水溶液を通液することにより不溶成分を洗浄・除去し、茶カテキン画分約240Lを回収した。この画分を、遠心薄膜濃縮装置((株)大川原製作所製)により循環濃縮を行い、濃縮液約20Lを得た。この濃縮液をスプレードライヤー(ニロ製)により噴霧乾燥し、茶ポリフェノール組成物4.8kgを得、これを本発明品3とした。
このようにして得られた茶ポリフェノール組成物(本発明品3)の成分分析を、実施例1と同様にして行った。結果を表1に示す。
【0040】
実施例4(本発明品4の製造)
乾燥した緑茶葉270kgを1890Lの80℃熱水で抽出した後、さらに1350Lの80℃熱水で抽出を行った。この抽出液を15℃以下に冷却した後、RO膜により濃縮し、濃縮液500Lを得た。この濃縮液を1000Lの酢酸エチルで抽出し、酢酸エチル層を75kgにまで濃縮し、これを乾燥させて15kgの粗茶抽出物を得た。
このようにして得られた粗茶抽出物12kgを原料とし、22Lの10%メタノール水溶液に溶解し、架橋スチレン系合成吸着樹脂(三菱化成(株)製「HP−20」)300Lに茶抽出成分を吸着させた。
次に、280Lの10%メタノール水溶液を通液することにより未吸着成分を除いた後、280Lの45%メタノール水溶液を通液することにより茶カテキン画分を溶出させた。続いて、600Lの65%メタノール水溶液を通液することにより不溶成分を洗浄・除去し、茶カテキン画分約240Lを回収した。この画分を、遠心薄膜濃縮装置((株)大川原製作所製)により循環濃縮を行い、濃縮液約20Lを得た。この濃縮液をスプレードライヤー(ニロ製)により噴霧乾燥し、茶ポリフェノール組成物4.8kgを得、これを本発明品4とした。
このようにして得られた茶ポリフェノール組成物(本発明品4)の成分分析を、実施例1と同様にして行った。結果を表1に示す。
【0041】
実施例5(本発明品5の製造)
乾燥した緑茶葉270kgを1890Lの80℃熱水で抽出した後、さらに1350Lの80℃熱水で抽出を行った。この抽出液を15℃以下に冷却した後、RO膜により濃縮し、濃縮液500Lを得た。この濃縮液を1000Lの酢酸エチルで抽出し、酢酸エチル層を75kgにまで濃縮し、これを乾燥させて15kgの粗茶抽出物を得た。
このようにして得られた粗茶抽出物12kgを原料とし、22Lの10%メタノール水溶液に溶解し、架橋スチレン系合成吸着樹脂(三菱化成(株)製「HP−20」)300Lに茶抽出成分を吸着させた。
次に、280Lの15%メタノール水溶液を通液することにより未吸着成分を除いた後、280Lの35%メタノール水溶液を通液することにより茶カテキン画分を溶出させた。続いて、600Lの70%メタノール水溶液を通液することにより不溶成分を洗浄・除去し、茶カテキン画分約240Lを回収した。この画分を、遠心薄膜濃縮装置((株)大川原製作所製)により循環濃縮を行い、濃縮液約20Lを得た。この濃縮液をスプレードライヤー(ニロ製)により噴霧乾燥し、茶ポリフェノール組成物4.8kgを得、これを本発明品5とした。
このようにして得られた茶ポリフェノール組成物(本発明品5)の成分分析を、実施例1と同様にして行った。結果を表1に示す。
【0042】
実施例6(本発明品6の製造)
乾燥した緑茶葉270kgを1890Lの80℃熱水で抽出した後、さらに1350Lの80℃熱水で抽出を行った。この抽出液を15℃以下に冷却した後、RO膜により濃縮し、濃縮液500Lを得た。この濃縮液を1000Lの酢酸エチルで抽出し、酢酸エチル層を75kgにまで濃縮し、これを乾燥させて15kgの粗茶抽出物を得た。
このようにして得られた粗茶抽出物12kgを原料とし、22Lの10%メタノール水溶液に溶解し、架橋スチレン系合成吸着樹脂(三菱化成(株)製「HP−20」)300Lに茶抽出成分を吸着させた。
次に、280Lの15%メタノール水溶液を通液することにより未吸着成分を除いた後、280Lの40%メタノール水溶液を通液することにより茶カテキン画分を溶出させた。続いて、600Lの65%メタノール水溶液を通液することにより不溶成分を洗浄・除去し、茶カテキン画分約240Lを回収した。この画分を、遠心薄膜濃縮装置((株)大川原製作所製)により循環濃縮を行い、濃縮液約20Lを得た。この濃縮液をスプレードライヤー(ニロ製)により噴霧乾燥し、茶ポリフェノール組成物4.8kgを得、これを本発明品6とした。
このようにして得られた茶ポリフェノール組成物(本発明品6)の成分分析を、実施例1と同様にして行った。結果を表2に示す。
【0043】
実施例7(本発明品7の製造)
乾燥した緑茶葉270kgを1890Lの80℃熱水で抽出した後、さらに1350Lの80℃熱水で抽出を行った。この抽出液を15℃以下に冷却した後、RO膜により濃縮し、濃縮液500Lを得た。この濃縮液を1000Lの酢酸エチルで抽出し、酢酸エチル層を75kgにまで濃縮し、これを乾燥させて15kgの粗茶抽出物を得た。
このようにして得られた粗茶抽出物12kgを原料とし、22Lの10%メタノール水溶液に溶解し、架橋スチレン系合成吸着樹脂(三菱化成(株)製「HP−20」)300Lに茶抽出成分を吸着させた。
次に、280Lの15%メタノール水溶液を通液することにより未吸着成分を除いた後、280Lの40%メタノール水溶液を通液することにより茶カテキン画分を溶出させた。続いて、600Lの75%メタノール水溶液を通液することにより不溶成分を洗浄・除去し、茶カテキン画分約240Lを回収した。この画分を、遠心薄膜濃縮装置((株)大川原製作所製)により循環濃縮を行い、濃縮液約20Lを得た。この濃縮液をスプレードライヤー(ニロ製)により噴霧乾燥し、茶ポリフェノール組成物4.8kgを得、これを本発明品7とした。
このようにして得られた茶ポリフェノール組成物(本発明品7)の成分分析を、実施例1と同様にして行った。結果を表2に示す。
【0044】
比較例1〜3
市販品を用いた。
即ち、比較例1(比較品1)は市販のポリフェノール製剤「ポリフェノン-70A(三井農林(株)製)」、比較例2(比較品2)は「ポリフェノン-60B(三井農林(株)製)」、比較例3(比較品3)はエピガロカテキンガレート純品をそれぞれ用いた。
これら茶ポリフェノール組成物(比較品1〜3)の成分分析を、実施例1と同様にして行った。結果を表2に示す。
【0045】
試験例1:茶ポリフェノール組成物の苦味・渋味に関する官能検査
実施例1〜7及び比較例1〜3の茶ポリフェノール組成物の苦味・渋味を以下の試験方法に従って調べた。結果を表1、2に示す。
【0046】
[試験方法]
ランダムに選んだ男女10名をパネラーとして官能検査を行った。
まず、イオン交換水800gに実施例で得られた本発明品1〜7、比較品1〜3をカテキン含量として1gとなるよう添加し、さらにアスコルビン酸ナトリウム0.3g、5%重曹水溶液を適量加えることによりpHを6.2とし、さらにイオン交換水を加え全量を1000gとし、試験液を調製した。本発明品と比較品とを比べて、苦味・渋味が抑制されているかどうか評価した。苦味・渋味の評価は、以下の5段階評価で行った。なお、一つの試験液・比較液を評価した後は、温湯で口中をすすぎ、30分以上経過してから次の評価を行った。
【0047】
[評価判定基準]
苦味・渋味を非常に強く感じる ・・・・・5点
苦味・渋味を強く感じる ・・・・・4点
苦味・渋味を少し感じる ・・・・・3点
苦味・渋味をあまり感じない ・・・・・2点
苦味・渋味をまったく感じない ・・・・・1点
【0048】
【表1】

【0049】
【表2】

【0050】
表1に示すとおり、本発明品1〜7は、比較品1〜3と比較して苦味・渋味が少ないことが明らかである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)カテキン類を85〜95重量%含有し、(B)カテキン類中に、エピガロカテキンガレート及びガロカテキンガレートを65〜80重量%含有し、(C)(エピガロカテキンガレート+ガロカテキンガレート)/(エピカテキン+カテキン+エピガロカテキン+ガロカテキン+エピカテキンガレート+カテキンガレート)で表される比率が2〜4である、茶ポリフェノール組成物。
【請求項2】
(エピガロカテキンガレート+エピカテキンガレート+ガロカテキンガレート+カテキンガレート)/(エピカテキン+エピガロカテキン+ガロカテキン+カテキン)で表される比率が3〜7である、請求項1記載の茶ポリフェノール組成物。
【請求項3】
(エピガロカテキンガレート+ガロカテキンガレート)/(エピカテキン+エピガロカテキン+ガロカテキン+カテキン)で表される比率が2〜6である、請求項1乃至2記載の茶ポリフェノール組成物。
【請求項4】
カテキン類中に、ガロカテキンガレート、ガロカテキン、カテキンガレート及びカテキンを2〜15重量%含有する、請求項1乃至3記載の茶ポリフェノール組成物。
【請求項5】
エピガロカテキンガレート/(エピカテキン+エピガロカテキン+エピカテキンガレート)で表される比率が2〜4である、請求項1乃至4記載の茶ポリフェノール組成物。
【請求項6】
カフェインを0.0001〜1.2重量%含有する、請求項1乃至5記載の茶ポリフェノール組成物。
【請求項7】
灰分を0.0001〜0.2重量%含有する、請求項1乃至6記載の茶ポリフェノール組成物。
【請求項8】
没食子酸が含まれていない、請求項1乃至7記載の茶ポリフェノール組成物。
【請求項9】
次の工程1)〜3)により得られる請求項1乃至8記載の茶ポリフェノール組成物の製造方法。
1)茶葉を熱水抽出によりカテキン類を含む茶成分を抽出し、さらに有機溶媒で抽出することにより茶抽出物を供給する工程
2)茶抽出物を合成吸着樹脂に付する工程
3)合成吸着樹脂を5〜15%アルコール水溶液で洗出後、30〜50%アルコール水溶液を通液することにより茶カテキン類を溶出する工程

【公開番号】特開2006−36645(P2006−36645A)
【公開日】平成18年2月9日(2006.2.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−214370(P2004−214370)
【出願日】平成16年7月22日(2004.7.22)
【出願人】(303044712)三井農林株式会社 (72)
【Fターム(参考)】