説明

荷電粒子ビームの評価方法及び走査方法並びに荷電粒子ビーム装置

【課題】 ナイフエッジ部材のエッジ部に理想応答からのずれが生じている場合においても、荷電粒子ビームの正確な評価を行う。
【解決手段】 荷電粒子ビーム1を、ナイフエッジ部材4のエッジ部4bを横切るように走査し、この走査に伴って検出された荷電粒子ビーム1の信号波形と、エッジ応答関数に基づいてモデル化された評価関数とのカーブフィッティングを行い、この結果に基づいて荷電粒子ビーム1の特徴量を測定する際に、当該評価関数は、エッジ位置の異なる2つのエッジ応答の和からなるエッジ応答関数に基づいてモデル化されている。よって、ナイフエッジ部材4のエッジ部4bに理想応答からのずれが生じている場合においても、荷電粒子ビーム1の正確な評価を行うことができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電子ビーム描画装置やイオンビーム装置などの荷電粒子ビームを用いた装置における荷電粒子ビームの評価方法に関する。
【背景技術】
【0002】
電子ビーム描画装置では、実際の描画動作に先立って、描画に用いる電子ビームのサイズや位置、あるいは電子ビームのフォーカス状態を測定することにより、当該電子ビームの評価を行い、その評価結果に基づいて電子ビームの調整を行っている。図1は、このような電子ビームの測定に用いられる装置の一例を示している。
【0003】
同図において、1は測定される電子ビームである。この電子ビーム1は、当該装置の上段側に位置する図示しない2枚の矩形スリットと、当該2枚の矩形スリットの間に設けられた偏向器(図示せず)によって断面が矩形に形成されている。
【0004】
電子ビーム1は、最終段レンズ2によって集束され、さらに静電偏向器3によって偏向される。偏向器3の下段側にはナイフエッジ部材4が配置されている。このナイフエッジ部材4には矩形の開口部4aが形成されている。そして、ナイフエッジ部材4において、この開口部4aの周囲各辺を規定する内側エッジ部4bは、当該各辺に対応する直線状部を有しており、その厚さは薄く形成されている。
【0005】
ナイフエッジ部材4の下段側には、散乱された電子ビーム1を遮蔽するアパーチャ部材5が設けられ、さらにその下方には電子ビーム1の電流量を検出するファラデーカップ6が配置されている。
【0006】
上記の構成で、偏向器3に所定の偏向信号を印加すると、矩形の電子ビーム1は、図中のX方向に偏向される。これにより、電子ビーム1は、ナイフエッジ部材4の内側エッジ部4bを横切るように走査されることとなる。従って、偏向器3による電子ビーム1の走査によって、この電子ビーム1は、ナイフエッジ部材4により遮蔽された状態から開口部4を通過する状態に移行したり、もしくは開口部4を通過する状態からナイフエッジ部材4により遮蔽された状態に移行することとなる。
【0007】
図1に示す例は、偏向器3による電子ビーム1の走査によって、電子ビーム1が、ナイフエッジ部材4により遮蔽された状態から開口部4を通過する状態に移行する例である。すなわち、当初偏向器3により偏向されて電子ビーム1がナイフエッジ部材4上(図1中での一点鎖線の矩形A参照)に位置し、ナイフエッジ部材4により遮蔽された状態から、電子ビーム1がX方向に偏向されてナイフエッジ部材4の内側エッジ部4bを横切るように走査され、この結果電子ビーム1が開口部4aの中央(図1中での実線の矩形B参照)に位置し、これにより電子ビーム1が開口部4を通過している状態である。
【0008】
電子ビーム1を上記のように走査すると、当初は電子ビーム1がナイフエッジ部材4により遮蔽されてファラデーカップ6により検出される電子ビーム1の電流(吸収電流)は検出されないが、この状態から電子ビーム1が部分的に順次開口部4を通過してくこととなり、ファラデーカップ6による電子ビームの検出電流(吸収電流)は徐々に上がっていく。そして、図1中の矩形Bの位置に電子ビーム1が到達すると、電子ビーム1の全体が開口部4を通過することとなり、ファラデーカップ6による電子ビーム1の検出電流信号はピークに達する。
【0009】
当該走査において、ファラデーカップ6による電子ビーム1の検出電流信号を、電子ビーム1の走査位置に対してサンプリングを行うと、波形データが得られる。このとき、走査位置をx、電子ビーム1の走査方向のプロファイルを表す関数をp(x)、エッジ部4bの応答関数をT(x)とすると、得られる波形は次のような畳み込み積分で表される関数F(x)となる。
【0010】
【数3】

【0011】
ここで、理想的なエッジ部の応答関数は、次式のようなステップ関数T0(x)である。
【0012】
【数4】

【0013】
なお、参考として、上記プロファイル関数p(x)とステップ関数T0(x)を、それぞれ図2及び図3に図示する。
【0014】
当該ステップ関数T0(x)が適用されたときの波形を表す関数F(x)は、以下に示す式となり、元のプロファイル関数p(x)の積分形となる。
【0015】
【数5】

【0016】
従って、関数F(x)の一次微分を行うと、元のプロファイル関数p(x)が再現される。
【0017】
ところで、元の電子ビーム1の性質がある程度わかっていれば、サイズ情報a、位置情報b、ボケ情報cなどのビーム特徴量をパラメータとしてモデル化し、具体的な関数p(x,a,b,c)を設定することができる。従来においては、このモデル関数p(x,a,b,c)を用いて、以下に示す方法で電子ビーム1の上記各特徴量a,b,cの導出を行い、評価を実施していた。
【0018】
先ず、ファラデーカップ6を介した実際の電子ビーム1の電流測定において、サンプリングにより得られた検出信号波形のデータ列Gi(i=1,2,…,n)に対して、一次微分処理を行ったデータ列をgi(i=1,2,…,n)とする。ここで、理想的なエッジ部の応答関数に基づいて得られる上記データ列Gi及びデータ列giを、参考として、それぞれ図4及び図5に図示する。
【0019】
そして、p(x,a,b,c)を評価関数として、以下で表される二乗残差s(a,b,c)が最小となるように評価関数p(x,a,b,c)のフィッティング処理を行い、各パラメータa,b,cを求める。
【0020】
【数6】

【0021】
あるいは、モデル関数p(x,a,b,c)の積分形F(x,a,b,c)が具体的な関数形で与えられている場合には、F(x,a,b,c)を評価関数として、以下で表される二乗残差S(a,b,c)が最小となるように評価関数F(x,a,b,c)のフィッティング処理を行い、各パラメータa,b,cを求める。
【0022】
【数7】

【0023】
なお、このように検出信号波形を、モデル化された波形に対してフィッティングを行う点は、例えば特許文献1に記載されている。
【0024】
【特許文献1】特開平9−166698号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0025】
しかしながら、実際のナイフエッジ部材4のエッジ部4bは、有機物の付着(コンタミネーション)、エッジ加工誤差、及び端面での電子ビーム1の散乱等の影響により、上述のように理想的な応答はしない。
【0026】
従って、ファラデーカップ6を介して得られた波形データ列Giにも、理想波形F(x)からのずれが生じ、このずれは、当該波形データGiを微分処理して得られるデータ列giにも影響が出る。ここで、図6及び図7に、このような場合に得られる波形データ列Gi及び上記データ列giの例を図示する。図6に示す例は、ナイフエッジ部材4のエッジ部4bに有機物の付着がある場合を示す。また、図7に示す例は、ナイフエッジ部4のエッジ部4bの端面における電子ビーム1の遮蔽が不完全である場合を示す。
【0027】
このように、理想的な応答をしないエッジ部4bに基づいて得られた波形データ列Gi及び上記データ列giに対して、従来技術における関数p(x,a,b,c)または関数F(x,a,b,c)を評価関数として適用すると、測定に誤差が生じてしまい、電子ビーム1の正確な評価を行うことができなかった。特に、エッジ部4bへの有機物の付着は、電子ビーム1の走査を繰り返すたびに積み重ねられるので、電子ビーム1の連続測定を行うと、測定ごとに得られる結果が変化してしまう。
【0028】
また、エッジ部4bへの有機物の付着が著しくなると、測定誤差もそれに伴って大きくなるので、その際には有機物の付着が無いエッジ部4bの部分を選択して電子ビーム1の走査位置を変える必要がある。しかしながら、その変更時期は、装置を操作するオペレータの判断に依存しており、オペレータによって当該変更時期の判断にばらつきが生じていた。
【0029】
本発明は、このような点に鑑みてなされたものであり、ナイフエッジ部材のエッジ部に理想応答からのずれが生じている場合においても、荷電粒子ビームの正確な評価を行うことができる荷電粒子ビームの評価方法を提供することを目的とする。
【0030】
また、本発明の他の目的は、ナイフエッジ部材のエッジ部への異物(有機物等)の付着状態を判断して荷電粒子ビームの走査位置の変更を自動的に行うことができる荷電粒子ビームの偏向方法及び荷電粒子ビーム装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0031】
本発明に基づく荷電粒子ビームの評価方法は、荷電粒子ビームをエッジ部を横切るように走査し、この走査に伴って検出された荷電粒子ビームの信号波形と、エッジ応答関数に基づいてモデル化された評価関数とのカーブフィッティングを行い、この結果に基づいて荷電粒子ビームの特徴量を測定する荷電粒子ビームの評価方法であって、前記評価関数は、エッジ位置の異なる2つのエッジ応答の和からなるエッジ応答関数に基づいてモデル化されていることを特徴とする。
【0032】
また、本発明に基づく荷電粒子ビームの走査方法は、カーブフィッティングにより得られたパラメータS及びパラメータwの値と所定の基準値とを比較し、当該比較結果に基づいて前記荷電粒子ビームによる前記エッジ部の走査位置を制御することを特徴とする。
【0033】
そして、本発明に基づく荷電粒子ビーム装置は、上記荷電粒子ビームの走査方法と同様に、カーブフィッティングにより得られたパラメータS及びパラメータwの値と所定の基準値とを比較し、当該比較結果に基づいて前記荷電粒子ビームによる前記エッジ部の走査位置を制御することを特徴とする。
【発明の効果】
【0034】
本発明における荷電粒子ビームの評価方法おいては、カーブフィッティングに適用される評価関数は、エッジ位置の異なる2つのエッジ応答の和からなるエッジ応答関数に基づいてモデル化されている。よって、ナイフエッジ部材のエッジ部に理想応答からのずれが生じている場合においても、荷電粒子ビームの正確な評価を行うことができる。
【0035】
また、本発明における荷電粒子ビームの走査方法若しくは荷電粒子ビーム装置においては、カーブフィッティングにより得られたパラメータS及びパラメータwの値と所定の基準値とを比較し、当該比較結果に基づいて荷電粒子ビームによるエッジ部の走査位置を制御する。これにより、ナイフエッジ部材のエッジ部への異物(有機物等)の付着状態を判断して荷電粒子ビームの走査位置の変更を自動的に行うことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0036】
以下、図面を参照して、本発明における実施の形態について説明する。図8は、本発明における荷電粒子ビームの評価方法に用いられる装置を示す概略構成図である。この装置は荷電粒子ビーム装置の一部を構成する装置である、そして、本発明においては、荷電粒子ビーム装置は電子ビーム描画装置の例となっている。ここで、図1に示す従来装置の構成部材と同一のものは、各々同一の番号により示されている。
【0037】
同図において、1は測定される電子ビームである。この電子ビーム1は、当該装置の上段側に位置する図示しない2枚の矩形スリットと、当該2枚の矩形スリットの間に設けられた偏向器(図示せず)によって断面が矩形に形成されている。
【0038】
電子ビーム1は、最終段レンズ2によって集束され、さらに静電偏向器3によって偏向される。偏向器3の下段側にはナイフエッジ部材4が配置されている。このナイフエッジ部材4には矩形の開口部4aが形成されている。そして、ナイフエッジ部材4において、この開口部4aの周囲各辺を規定する内側エッジ部4bは、当該各辺に対応する直線状部を有しており、その厚さは薄く形成されている。
【0039】
ナイフエッジ部材4の下段側には、散乱された電子ビーム1を遮蔽するアパーチャ部材5が設けられ、さらにその下方には電子ビーム1の電流量を検出するファラデーカップ6が配置されている。これによって、ファラデーカップによる吸収電流が検出される。
【0040】
ファラデーカップ6により検出された吸収電流の検出信号は、AD変換器7によりデジタル信号に変換される。これによりデジタル化された検出信号は、波形メモリー8に出力される。波形メモリー8に供給されて記憶された検出信号は、制御CPU9によって読み出され、後述するカーブフィッティング処理がこの制御CPU9によって実行される。なお、制御CPU9は、偏向器3に電子ビーム1を走査するための偏向信号(走査信号)を供給するための偏向回路10を制御する。これにより、偏向器3には、偏向回路10により偏向信号が印加されることとなる。
【0041】
偏向器3に所定の偏向信号が印加されると、矩形の電子ビーム1は、X方向に偏向される。これにより、電子ビーム1は、ナイフエッジ部材4の内側エッジ部4bを横切るように走査されることとなる。従って、偏向器3による電子ビーム1の走査によって、この電子ビーム1は、ナイフエッジ部材4により遮蔽された状態から開口部4を通過する状態に移行したり、もしくは開口部4を通過する状態からナイフエッジ部材4により遮蔽された状態に移行することとなる。
【0042】
図8に示す例は、偏向器3による電子ビーム1の走査によって、電子ビーム1が、ナイフエッジ部材4により遮蔽された状態から開口部4を通過する状態に移行する例である。すなわち、当初偏向器3により偏向されて電子ビーム1がナイフエッジ部材4上(図8中での一点鎖線の矩形A参照)に位置し、ナイフエッジ部材4により遮蔽された状態から、電子ビーム1が、図中のX方向に偏向されてナイフエッジ部材4の内側エッジ部4bを横切るように走査され、この結果電子ビーム1が開口部4aの中央(図8中での実線の矩形B参照)に位置し、これにより電子ビーム1が開口部4を通過している状態である。
【0043】
電子ビーム1を上記のように走査すると、当初は電子ビーム1がナイフエッジ部材4により遮蔽されてファラデーカップ6により検出される電子ビーム1の電流(吸収電流)は検出されないが、この状態から電子ビーム1が部分的に順次開口部4を通過してくこととなり、ファラデーカップ6による電子ビームの検出電流(吸収電流)は徐々に上がっていく。そして、図8中の矩形Bの位置に電子ビーム1が到達すると、電子ビーム1の全体が開口部4を通過することとなり、ファラデーカップ6による電子ビーム1の検出電流信号はピークに達する。
【0044】
当該走査において、ファラデーカップ6による電子ビーム1の検出電流信号を、電子ビーム1の走査位置に対してサンプリングを行い、波形データを得る。このとき、走査位置をx、電子ビーム1の走査方向のプロファイルを表す関数をp(x)、エッジ部4bの応答関数をT(x)とすると、得られる波形は次のような畳み込み積分で表される関数F(x)となる。
【0045】
【数8】

【0046】
本発明では、ナイフエッジ部材4のエッジ部4bの応答関数として、近似的に、X方向でのエッジ位置の異なる2つのエッジ応答の和としてモデル化された関数を適用する。応答量の比を表すパラメータSと基準位置のからの変位を表すパラメータwを用いて定式化すると、当該モデル化された関数は次式のようになる。ここで、パラメータSは、0≦S<1の範囲にて設定される。
【0047】
【数9】

【0048】
上式において、第2項は不完全部の応答を表す。なお、上記パラメータSとパラメータwの適用例は、前述した図6中及び図7中に示されている。
【0049】
本発明においては、このモデル化された関数を上記(1)式[数8参照]に適用することによって、畳み込み積分により得られる波形を取得する。この演算は、制御CPU9により実行される。
【0050】
このとき、本発明では、上記(2)式[数7参照]の第2項である不完全部は、完全なステップ応答はしないので、ステップ応答からのずれを表す補正用関数h(x)を導入して近似の精度を上げる。このようにして関数h(x)を導入すると、上記(2)式は次式のようになる。
【0051】
【数10】

【0052】
応答関数が上記(3)式であるとすると、プロファイル関数p(x,a,b,c)の電子ビーム1に対する波形を上記(1)式に基づいて計算すると、次式となる。
【0053】
【数11】

【0054】
上記(2)式の第2項に関数h(x)を導入したことによる効果は、関数h(x)が導入された上記(3)式の第2項の理想応答からのボケ量のパラメータdが設定されることにより表れている。従って、パラメータとしてS,w,dを導入すると、理想波形の関数形F(x)を用いて、実際の波形をモデル化して表現できる。
【0055】
そして、上記(4)式の微分形は次式となる。
【0056】
【数12】

【0057】
よって、ファラデーカップ6を介して測定され、サンプリングにより得られた電子ビーム1の吸収電流波形のデータ列Gi(i=1,2,…,n)に対して、一次微分処理を行ったデータ列をgi(i=1,2,…,n)とすると、上記(5)式で得られた関数f(a,b,c,S,w,d)を評価関数として、次式で表される二乗残差s(a,b,c,S,w,d)が最小となるように評価関数f(a,b,c,S,w,d)のフィッティング処理を行い、各パラメータa,b,c,S,w,dを求める。
【0058】
【数13】

【0059】
もしくは、モデル関数f(a,b,c,S,w,d)の積分形F(x,a,b,c,S,w,d)を評価関数として、次式で表される二乗残差S(a,b,c)が最小となるように評価関数F(x,a,b,c,S,w,d)のフィッティング処理を行い、各パラメータa,b,c,S,w,dを求める。
【0060】
【数14】

【0061】
このようにして求められた各パラメータa,b,c,S,w,dにより、電子ビーム1の評価を行うことができる。
【0062】
なお、上述のように補正用関数h(x)を導入せずに、上記(2)式[数9参照]を応答関数とすることも可能である。応答関数が上記(2)式であるとすると、プロファイル関数p(x,a,b,c)の電子ビーム1に対する波形を上記(1)式[数8参照]に基づいて計算すると、次式となる。
【0063】
【数25】

【0064】
上記式の微分形を評価関数として、上述したフィッティング処理を行うようにしてもよい。もしくは、当該微分形の積分形を評価関数として、上述したフィッティング処理を行うようにしてもよい。
【0065】
このように、本発明においては、荷電粒子ビーム(電子ビーム)をエッジ部を横切るように走査し、この走査に伴って検出された荷電粒子ビームの信号波形と、エッジ応答関数に基づいてモデル化された評価関数とのカーブフィッティングを行い、この結果に基づいて荷電粒子ビームの特徴量を測定する荷電粒子ビームの評価方法において、評価関数は、エッジ位置の異なる2つのエッジ応答の和からなるエッジ応答関数にモデル化されている。
【0066】
よって、エッジ部に理想応答からのずれが生じている場合においても、荷電粒子ビームの正確な評価を行うことができる。
【0067】
さらに本発明においては、2つのエッジ応答の一方は、他方のエッジ応答からのエッジ位置のずれを表す補正用評価関数に基づいてモデル化されている。
【0068】
これにより、荷電粒子ビームの評価精度をさらに向上することができる。
【0069】
次に、本発明における荷電粒子ビームの走査方法及び荷電粒子ビーム装置について、以下に説明する。
【0070】
本発明での荷電粒子ビームの走査方法及び荷電粒子ビーム装置においては、上述した荷電粒子ビームの評価方法におけるカーブフィッティングにより得られたパラメータS及びパラメータwの各値と、所定の基準値S0,w0との比較を行い、パラメータS,wが、対応する基準値S0,w0を超えた場合には、荷電粒子ビームによるナイフエッジ部材のエッジ部の走査位置を変えることをする。すなわち、当該エッジ部への異物(有機物等)の付着状態によりパラメータS,wが変化することとなるので、このパラメータS,wの変化に基づいて、荷電粒子ビームによるエッジ部の走査位置を変える。
【0071】
これにより、当該比較結果に基づいて、荷電粒子ビームによるエッジ部の走査位置が制御される。なお、このとき、R(S,w)=S・wという別の評価値を演算し、これと基準値R0との比較を行ってもよい。上記演算及び比較は、制御CPU9により実行される。
【0072】
本発明における荷電粒子ビームの走査方法及び荷電粒子ビーム装置においては、ナイフエッジ部材のエッジ部への異物の付着状態を判断して、荷電粒子ビームによるナイフエッジ部材のエッジ部の走査位置を制御するので、当該走査位置の管理を自動的に行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0073】
【図1】電子ビームの測定に用いられる装置の一例を示す概略構成図である。
【図2】電子ビームの走査方向のプロファイルを表す関数p(x)を示す図である。
【図3】理想的なエッジ部の応答関数に対応するステップ関数T0(x)を示す図である。
【図4】データ列Giを示す図である。
【図5】データ列giを示す図である。
【図6】エッジ部に有機物の付着がある場合での各関数p(x),T(x)、及び各データ列Gi,giを示す図である。
【図7】エッジ部の端面における電子ビームの遮蔽が不完全である場合での各関数p(x),T(x)、及び各データ列Gi,giを示す図である。
【図8】本発明における荷電粒子ビームの評価方法に用いられる装置を示す概略構成図である。
【符号の説明】
【0074】
1…電子ビーム(荷電粒子ビーム)、2…最終段レンズ、3…偏向器、4…ナイフエッジ部材、4a…開口部、4b…エッジ部、5…アパーチャ部材、6…ファラデーカップ、7…AD変換器、8…波形メモリー、9…制御CPU、10…偏向回路

【特許請求の範囲】
【請求項1】
荷電粒子ビームをエッジ部を横切るように走査し、この走査に伴って検出された荷電粒子ビームの信号波形と、エッジ応答関数に基づいてモデル化された評価関数とのカーブフィッティングを行い、この結果に基づいて荷電粒子ビームの特徴量を測定する荷電粒子ビームの評価方法において、前記評価関数は、エッジ位置の異なる2つのエッジ応答の和からなるエッジ応答関数に基づいてモデル化されていることを特徴とする荷電粒子ビームの評価方法。
【請求項2】
前記2つのエッジ応答の一方は、他方のエッジ応答からのエッジ位置のずれを表す補正用関数により補正されていることを特徴とする請求項1記載の荷電粒子ビームの評価方法。
【請求項3】
荷電粒子ビームをエッジ部を横切るように走査し、この走査に伴って検出された荷電粒子ビームの信号波形と、エッジ応答関数に基づいてモデル化された評価関数とのカーブフィッティングを行い、この結果に基づいて荷電粒子ビームの特徴量を測定する荷電粒子ビームの評価方法において、エッジ部の理想応答からのずれを表すパラメータとして、応答量を表すパラメータS及び位置の差を表すパラメータwを導入し、
【数1】

で与えられる関数F(x)を評価関数とすることを特徴とする荷電粒子ビームの評価方法。
【請求項4】
荷電粒子ビームをエッジ部を横切るように走査し、この走査に伴って検出された荷電粒子ビームの信号波形と、エッジ応答関数に基づいてモデル化された評価関数とのカーブフィッティングを行い、この結果に基づいて荷電粒子ビームの特徴量を測定する荷電粒子ビームの評価方法において、エッジ部の理想応答からのずれを表すパラメータとして、応答量を表すパラメータS、位置の差を表すパラメータw、理想応答からのボケ量を表すパラメータdを導入し、荷電粒子ビームのボケ量パラメータをcとして
【数2】

で与えられる関数F(x)を評価関数とすることを特徴とする荷電粒子ビームの評価方法。
【請求項5】
請求項3若しくは4記載の荷電粒子ビームの評価方法におけるカーブフィッティングにより得られたパラメータS及びパラメータwの値と所定の基準値とを比較し、当該比較結果に基づいて前記荷電粒子ビームによる前記エッジ部の走査位置を制御することを特徴とする荷電粒子ビームの走査方法。
【請求項6】
請求項3若しくは4記載の荷電粒子ビームの評価方法におけるカーブフィッティングにより得られたパラメータS及びパラメータwの値と所定の基準値とを比較し、当該比較結果に基づいて前記荷電粒子ビームによる前記エッジ部の走査位置を制御することを特徴とする荷電粒子ビーム装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2006−194618(P2006−194618A)
【公開日】平成18年7月27日(2006.7.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−3928(P2005−3928)
【出願日】平成17年1月11日(2005.1.11)
【出願人】(000004271)日本電子株式会社 (811)
【Fターム(参考)】