説明

荷電粒子ビーム描画装置の位置補正係数算出方法及び荷電粒子ビーム描画装置の位置補正係数更新方法

【目的】補正係数を算出するために費やす時間を短縮することが可能な方法を提供すると共に、補正係数を更新する方法を提供することを目的とする。
【構成】電子ビーム描画装置の構成から生じる位置ずれを補正するための近似式の係数を算出する本発明の一態様の電子ビーム描画装置の位置補正係数算出方法は、ステージ上で描画される試料の描画領域に相当する領域全体に規則的に配列された複数のマークを荷電粒子ビームを用いてスキャンするスキャン工程(S102)と、スキャンされた各マークの位置のずれ量を装置の座標系でフィッティングして、フィッティングされた近似式の係数を算出する係数算出工程(S104)と、を備えたことを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、荷電粒子ビーム描画装置の位置補正係数算出方法及び荷電粒子ビーム描画装置の位置補正係数更新方法に係り、例えば、電子ビームを可変成形させながら試料に描画する電子ビーム描画装置の位置補正手法に関する。
【背景技術】
【0002】
半導体デバイスの微細化の進展を担うリソグラフィ技術は半導体製造プロセスのなかでも唯一パターンを生成する極めて重要なプロセスである。近年、LSIの高集積化に伴い、半導体デバイスに要求される回路線幅は年々微細化されてきている。これらの半導体デバイスへ所望の回路パターンを形成するためには、高精度の原画パターン(レチクル或いはマスクともいう。)が必要となる。ここで、電子線(電子ビーム)描画技術は本質的に優れた解像性を有しており、高精度の原画パターンの生産に用いられる。
【0003】
図15は、従来の可変成形型電子線描画装置の動作を説明するための概念図である。
可変成形型電子線描画装置(EB(Electron beam)描画装置)における第1のアパーチャ410には、電子線330を成形するための矩形例えば長方形の開口411が形成されている。また、第2のアパーチャ420には、第1のアパーチャ410の開口411を通過した電子線330を所望の矩形形状に成形するための可変成形開口421が形成されている。荷電粒子ソース430から照射され、第1のアパーチャ410の開口411を通過した電子線330は、偏向器により偏向され、第2のアパーチャ420の可変成形開口421の一部を通過して、所定の一方向(例えば、X方向とする)に連続的に移動するステージ上に搭載された試料340に照射される。すなわち、第1のアパーチャ410の開口411と第2のアパーチャ420の可変成形開口421との両方を通過できる矩形形状が、X方向に連続的に移動するステージ上に搭載された試料340の描画領域に描画される。第1のアパーチャ410の開口411と第2のアパーチャ420の可変成形開口421との両方を通過させ、任意形状を作成する方式を可変成形方式という。
【0004】
ここで、電子ビーム描画装置においては、寸法精度と共に位置精度は重要な要素となる。そこで、電子ビーム描画装置では、描画装置の座標系を理想的な座標系に補正するため、描画される試料の全面を所定のグリッド寸法でメッシュ状に分割し、各メッシュの頂点の位置を測定する。そして、測定された位置と設計上の位置との誤差から描画装置の座標系を補正している(かかる機能を「グリッドマッチングコレクション:GMC」機能と呼ぶ。以下、かかる機能による補正をGMCという。)。具体的には、レジストが塗布されたマスクブランクスの上述した各メッシュの頂点の位置に相当する位置にGMC測定用のパターンを描画する。そして、かかるマスクを現象及びエッチング等のプロセス処理を行なって、描画されたパターンから位置精度の測定を行なっていた。そして、得られた結果から描画装置の座標系を補正している。
【0005】
GMCには、例えば3次の多項式補正とマップ補正が用いられ、描画装置の立ち上げ時に決めた多項式係数(補正係数)と補正マップとが使われている。また、描画装置を構成する各部品は、ねじ止めやエポキシ樹脂で固定されるが、これらが経年変化を起こすために上述した補正係数等が変動してしまう。よって、装置座標系が理想的な座標系からずれてしまい位置精度が劣化することになる。従来の描画されるパターンの線幅では、かかる経年変化から生じる位置ずれ量は、それほど問題視される量ではなかったが、近年の回路線幅の微細化に伴って問題になってきた。
【0006】
ここで、経年変化する装置の座標系のずれを補正する技術に関連して、マルチビーム型電子ビーム装置において露光毎に行う各ビームのキャリブレーションについての記載が文献に開示されている(例えば、特許文献1参照)。かかる技術では、ステージ上の一箇所に配置されたファラデーカップやマーク群にビームを照射して、測定された位置と設計位置との関係からビーム座標系と偏向座標系とを一致させている。しかしながら、位置精度は、描画されるマスク面内の位置に依存して変化するため、一点の位置を測定しただけでは、十分な座標系の補正を行なうことは困難である。
【非特許文献1】特開平9−330867号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上述したように、装置のハードウェア構成の経年変化により理想的な座標系からずれてしまう装置座標系の位置ずれ量が、近年の回路線幅の微細化に伴って問題になってきた。
図16は、従来の直交度の経年変化を説明するための概念図である。
図16では、描画領域全体をあるグリッド寸法でメッシュ分割して描画位置を示している。ここで、描画装置の立ち上げ時には、図16(a)に示すように、立ち上げ時に決めた多項式係数(補正係数)や補正マップで装置の座標系を理想的な座標系に補正しているが、装置のハードウェア構成の経年変化により次第に図16(b)や図16(c)に示すように直交度にずれが生じていく。
【0008】
図17は、従来の直交度の経年変化の一例を示す図である。
図17では、6種類のレイアウトパターンを描画装置で描画した場合の経過日数に対する直交度の変化を示している。いずれのレイアウトパターンも日数が経過することにより直交度が変化しているのがわかる。そして、描画装置の立ち上げ日から6ヶ月後の180日が経過したところで、描画装置の立ち上げ時に決めた多項式係数(補正係数)と補正マップとを更新している。しかし、更新後も一定日数は、直交度が維持されているが、その後もまた直交度が変化していくのがわかる。
【0009】
よって、位置精度を維持するためには、GMCの補正係数の更新を短期間の周期で行なうことが望まれる。しかしながら、上述したように、レジストが塗布されたマスクブランクスにGMC測定用のパターンを描画して、マスクにプロセス処理を行なった後に描画されたパターンから位置精度の測定を行なっていたのでは、GMCの補正係数算出に約2日程度かかってしまう。GMCの補正係数算出のために約2日の期間を頻繁に費やしていたのではユーザの負担も大きいものとなる。
【0010】
そこで、本発明は、上述した問題点を克服し、補正係数を算出するために費やす時間を短縮することが可能な方法を提供すると共に、補正係数を更新する方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の一態様の荷電粒子ビーム描画装置の位置補正係数算出方法は、
荷電粒子ビーム描画装置の構成から生じる位置ずれを補正するための近似式の係数を算出する荷電粒子ビーム描画装置の位置補正係数算出方法において、
ステージ上で描画される試料の描画領域に相当する領域全体に規則的に配列された複数のマークを荷電粒子ビームを用いてスキャンするスキャン工程と、
スキャンされた各マークの位置のずれ量を装置の座標系でフィッティングして、フィッティングされた近似式の係数を算出する係数算出工程と、
を備えたことを特徴とする。
【0012】
プロセス処理を行なうのではなく、マークをスキャンすることにより各マークの位置を短時間で算出することができる。その結果、短時間で近似式の係数を算出することができる。
【0013】
ここで、ステージ上に載置されたハーフエッチ基板上に形成された規則的に配列する前記複数のマークをスキャンすると好適である。
【0014】
或いは、ステージ表面に加工された規則的に配列する前記複数のマークをスキャンするようにしてもまた好適である。
【0015】
本発明の一態様の荷電粒子ビーム描画装置の位置補正係数更新方法は、
装置構成から生じる位置ずれを補正するための近似式の係数が記憶装置に格納された荷電粒子ビーム描画装置におけるかかる係数を更新する荷電粒子ビーム描画装置の位置補正係数更新方法において、
ステージ上で描画される試料の描画領域に相当する領域全体に規則的に配列された複数のマークを荷電粒子ビームを用いてスキャンするスキャン工程と、
スキャンされた各マークの位置のずれ量を装置の座標系でフィッティングして、フィッティングされた近似式の係数を算出する係数算出工程と、
算出された係数を前回の係数が格納されている記憶装置に上書きする更新工程と、
を備えたことを特徴とする。
【0016】
上述したように、プロセス処理を行なうのではなく、マークをスキャンすることにより各マークの位置を短時間で算出することができる。その結果、短時間で近似式の係数を算出することができる。よって、短時間で前回の係数を更新することができる。
【0017】
そして、6ヶ月より短い所定の時間毎に前記係数を更新することが望ましい。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、短時間で近似式の係数を算出することができる。その結果、短い周期で係数を更新することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
以下、実施の形態では、荷電粒子ビームの一例として、電子ビームを用いた構成について説明する。但し、荷電粒子ビームは、電子ビームに限るものではなく、イオンビーム等の他の荷電粒子を用いたビームでも構わない。
【0020】
実施の形態1.
図1は、実施の形態1における描画装置の位置補正係数算出方法並びに位置補正係数更新方法の要部工程を示すフローチャート図である。
図1において、実施の形態1における描画装置の位置補正係数算出方法は、スキャン工程(S102)、係数算出工程(S104)といった一例の工程を実施する。そして、位置補正係数更新方法は、位置補正係数算出方法の各工程に、さらに、更新工程(S106)を実施する。
【0021】
図2は、実施の形態1における描画装置の構成を示す概念図である。
図2において、荷電粒子ビーム描画装置の一例である描画装置100は、描画部150を構成する電子鏡筒102、描画室103、XYステージ105、電子銃201、照明レンズ202、第1のアパーチャ203、投影レンズ204、偏向器205、第2のアパーチャ206、対物レンズ207、偏向器208、検出器218、固定ピン222を備え、制御系として、制御計算機120、メモリ130、データベース109、偏向制御部の一例となる偏向制御回路140、偏向アンプ144、ステージ駆動回路114、増幅器326、A/D(アナログ・デジタル)変換器328を備えている。
【0022】
電子鏡筒102内には、電子銃201、照明レンズ202、第1のアパーチャ203、投影レンズ204、偏向器205、第2のアパーチャ206、対物レンズ207、偏向器208、検出器218が配置される。そして、描画室103内には、XYステージ105が配置される。XYステージ105上では、固定ピン212が配置され、固定ピン212により試料101が固定される。
【0023】
また、制御計算機120は、測定部122、係数計算部124、マップ作成部126、描画制御部128といった各機能を有している。制御計算機120に入力される情報或いは演算処理中及び処理後の各情報はその都度メモリ130に記憶される。
【0024】
そして、制御計算機120には、メモリ130、偏向制御回路140、データベース109、ステージ駆動回路114、A/D変換器328が図示していないバスを介して接続されている。偏向制御回路140は、偏向アンプ144を介して偏向器208に接続される。また、A/D変換器328は、増幅器326を介して検出器218に接続される。
【0025】
図2では、本実施の形態1を説明する上で必要な構成部分以外については記載を省略している。描画装置100にとって、通常、必要なその他の構成が含まれることは言うまでもない。また、図2では、コンピュータの一例となる制御計算機120で、測定部122、係数計算部124、マップ作成部126、描画制御部128といった各機能の処理を実行するように記載しているがこれに限るものではなく、電気的な回路によるハードウェアにより実施させても構わない。或いは、電気的な回路によるハードウェアとソフトウェアとの組合せにより実施させても構わない。或いは、かかるハードウェアとファームウェアとの組合せでも構わない。
【0026】
電子銃201から出た荷電粒子ビームの一例となる電子ビーム200は、照明レンズ202により矩形例えば長方形の穴を持つ第1のアパーチャ203全体を照明する。ここで、電子ビーム200をまず矩形例えば長方形に成形する。そして、第1のアパーチャ203を通過した第1のアパーチャ像の電子ビーム200は、投影レンズ204により第2のアパーチャ206上に投影される。かかる第2のアパーチャ206上での第1のアパーチャ像の位置は、偏向器205によって偏向制御され、ビーム形状と寸法を変化させることができる。そして、第2のアパーチャ206を通過した第2のアパーチャ像の電子ビーム200は、対物レンズ207により焦点を合わせ、偏向器208により偏向され、連続移動するXYステージ105上の試料101の所望する位置に照射される。偏向器208は、偏向制御回路140に制御され、XYステージ105は、ステージ駆動回路114に制御される。
【0027】
図3は、実施の形態1におけるXYステージの上面概念図である。
XYステージ105上には、3本の固定ピン212が配置され、マスク配置位置214に描画されるマスク等の試料101が配置されることになる。そして、XYステージ105上には、マスク配置位置214と重ならないように位置を異にして、ハーフエッチ基板20が配置されている。実施の形態1では、後述するように、このハーフエッチ基板20を用いて描画領域の各位置を測定することになる。XYステージ105上に、マスク配置位置214と位置を異にして、ハーフエッチ基板20が配置されることで、試料101の描画の動作に邪魔しないようにすることができる。さらには、ハーフエッチ基板20を必要に応じて配置しておくようにしておけば、ハーフエッチ基板20をその都度XYステージ105上に搬送する手間を省くことができる。その結果、搬送にかかる時間を短縮することができる。図3でも、本実施の形態1を説明する上で必要な構成部分以外については記載を省略している。よって、その他の構成が配置されることを排除するものではない。
【0028】
図4は、実施の形態1におけるハーフエッチ基板の一例を示す概念図である。
図4において、ハーフエッチ基板20は、XYステージ105上で描画される試料101の描画領域と同じ領域の大きさ、或いは、試料101と同じ大きさに形成されている。そして、ハーフエッチ基板20には、描画される試料101の描画領域に相当する領域全体に規則的に配列された複数のマーク10が形成されている。領域全体をカバーすることで、位置に依存する位置ずれ量を測定することができる。
【0029】
図5は、実施の形態1におけるマークの一例を示す概念図である。
マーク10は、十字型のパターンとして形成される。そして、例えば、パターン幅が5μm、十字の長さが縦横それぞれ50μmに形成されている。かかる寸法はこれらに限るものではなく、必要に応じて寸法を適宜選択すればよい。
【0030】
図6は、実施の形態1におけるハーフエッチ基板の断面を示す概念図である。
ハーフエッチ基板20は、ガラス基板22上にクロム(Cr)膜24を形成後、所定のリソグラフィ工程を経てマーク10がパターン形成されている。その際、凸部となるマーク以外の位置でもCr膜24が残るようにエッチングして形成される。電子ビーム200がガラス基板22に直接当たるとガラス基板22が劣化してしまうが、このようにハーフエッチにすることで、マーク10の周辺上に電子ビーム200を走査させる場合でもガラス基板22が劣化することを防止することができる。よって、1枚のハーフエッチ基板20を繰り返し使用することができる。その結果、短期間に何度もマーク10の位置を測定することができる。ここでは、マーク10を凸状に形成しているが、逆に凹状になるようにパターン形成してもよい。
【0031】
以上のようなハーフエッチ基板20を用いて、以下、描画装置の位置補正係数算出方法並びに位置補正係数更新方法の各工程を実施していく。
S(ステップ)102において、スキャン工程として、描画装置100は、XYステージ105上で描画される試料の描画領域に相当する領域全体に規則的に配列された複数のマーク10を電子ビーム200を用いてスキャンする。
【0032】
図7は、実施の形態1における反射電子を計測する様子を説明するための概念図である。
まず、電子ビーム200がハーフエッチ基板20を照射するようにXYステージ105を移動させて調整しておく。そして、図7に示すように例えば四角形に成形された電子ビーム200をマーク10に向かって走査していく。その際、電子ビーム200の照射によりCr膜24から反射電子12が飛び出す。そして、飛び出した反射電子12を検出器218で検出する。検出器218で検出された信号は、増幅器326で増幅され、A/D変換器328でデジタル情報に変換され、測定部122にデジタル信号して送られる。そして、ここでは、マーク10の位置のCr膜24の厚さとそれ以外の位置のCr膜24の厚さとが異なるため、検出される信号に差が生じ、測定部122は、マーク10の位置を測定することができる。
【0033】
図8は、実施の形態1における検出出力の一例を示す図である。
図8に示すように、凸状に形成されたマーク10の位置では、他の位置に比べて検出器218からの検出出力が大きくなる。
【0034】
以上のようにして、全てのマーク10をスキャンして、各マーク10の位置を測定する。
【0035】
図9は、実施の形態1におけるマーク位置のマップの一例を示す図である。
図9において、実線で示す理想的な座標系のマップに対し、実際に測定されるマーク10の位置をマップにした場合には、点線で示すように歪みが生じている。図9では、理想的な座標系の各位置から測定された各位置へ矢印で位置ずれ量(ベクトル量)を示している。ここで測定された位置には、ステージ座標、直行度、及び図示していないステージ位置測長用のミラー曲がりによる歪みも含まれる。図9では、3×3の9点の位置を示しているが、これに限るものではなく、さらに、多くの点の位置を測定してもよい。マーク10の数と同じ数の位置が測定されることになる。
【0036】
ここで、測定されるハーフエッチ基板20上のマーク10の数は、精度に応じて適宜設ければよい。好ましくは、3×3の9点以上が望ましい。図2では、対物偏向器として偏向器208が1つ記載されているが、主副2段偏向で構成する場合には、主偏向位置の数だけマーク10をハーフエッチ基板20に設けることがなお望ましい。
【0037】
S104において、係数算出工程として、係数計算部124は、スキャンされた各マーク10の位置のずれ量を装置の座標系でフィッティングして、フィッティングされた近似式の係数を算出する。
図10は、実施の形態1におけるフィッティング関数の一例を示す図である。
最小2乗法を用いて理想的な座標系に設定されている装置の座標系における座標(X,Y)を変数とする3次関数(近似式)でスキャンされた各マーク10の位置のずれ量をフィッティングする。フィッティングは、x方向とy方向それぞれ行い、フィッティングされたx方向の近似式の係数a〜aとy方向の近似式の係数b〜bを求める。かかる係数a〜aと係数b〜bが、描画装置100のハードウェア構成から生じる位置ずれを補正するための位置補正係数(GMC係数)となる。
【0038】
図11は、実施の形態1におけるマーク位置のマップの他の例を示す図である。
図11では、図9と同様、実線で示す理想的な座標系のマップに対し、実際に測定されるマーク10の位置をマップにした場合には、点線で示すように歪みが生じている。そして、図9と同様、図11では、理想的な座標系の各位置から測定された各位置へ矢印で位置ずれ量(ベクトル量)を示している。ここで測定された位置には、ステージ座標、直行度、及び図示していないステージ位置測長用のミラー曲がりによる歪みも含まれる点も同様である。ここでは、5×5の25点の場合を示している。上述した3次の多項式では、補正しきれない場合等では、マップによる補正が有効である。そこで、マップ作成部126より図11に示すような補正マップが作成され、作成された補正マップを装置の座標系からの位置ずれ量の補正に利用する。ある任意の座標(x,y)位置における位置ずれ量ΔG(x,y)を求める場合には、図11に示すように、座標(x,y)を取り囲む周辺の4つの測定点の位置ずれ量ΔGで内挿して求めればよい。ここで、座標(i,j)は、測定点の座標を示している。
【0039】
S106において、更新工程として、係数計算部124は、算出された係数を前回の係数が格納されているデータベース109(記憶装置の一例)に上書きする。これによりGMC係数を更新することができる。また、データベース109には、補正マップも同様に格納しておき、マップ作成部126は、作成した補正マップを前回の補正マップが格納されているデータベース109(記憶装置の一例)に上書きする。このようにして補正マップも更新することができる。
【0040】
そして、描画制御部128は、データベース109から最新のGMC係数と補正マップを読み出し、偏向制御回路140に補正された偏向位置へと電子ビーム200を偏向させるための信号を出力する。そして、ステージ駆動回路114に対しても補正された位置へとXYステージ105を移動させるための信号を出力する。
【0041】
以上のようにして、描画装置の座標系が補正された状態で電子ビーム200が試料101に照射される。
【0042】
図12は、更新前後の描画位置の一例を示す図である。
経年変化しているにも関わらずGMC係数を更新せずに古いGMC係数で描画位置の補正を行なうと図12(a)に示すように歪みが発生してしまうのに対し、所定の周期でGMC係数を更新することで、図12(b)に示すように描画位置の歪みを解消することができる。所定の周期としては、6ヶ月以内が望ましく、より好ましくは1回/1日がよい。
【0043】
また、所定の周期としては、1回/1日より少なくして、例えば、1回/1月にする場合などは、位置ずれ量の時間依存の変化量から平均化した1日あたりの変化量を求めて、かかる1日あたりの変化量に基づいて、GMC係数や補正マップを毎日更新させるようにしても好適である。例えば、前回測定した結果とその1ヶ月後の結果とを直線で結び、その月の日数で割った値を1日あたりの変化量としてもよい。
【0044】
ここでは、補正マップも更新しているが、GMC係数を用いた多項式による補正だけでも構わない。逆に、補正マップによる補正だけでも構わない。より好ましくは、両方を用いるのがよい。
【0045】
以上のように、ビームをスキャンすることで、従来に比べ短時間でGMC係数や補正マップを得ることができるので、短い周期でデータベース109内のデータの更新を行なうことができる。その結果、より精度の高い位置に描画することができる。
【0046】
実施の形態2.
図13は、実施の形態2におけるXYステージの上面概念図である。
XYステージ105上には、3本の固定ピン212が配置され、マスク配置位置214に描画されるマスク等の試料101が配置されることになる。そして、XYステージ105の表面には、マスク配置位置214と同じ位置に、描画領域に相当する領域全体に規則的に配列された複数の位置マーク18が加工されている。領域全体をカバーすることで、位置に依存する位置ずれ量を測定することができる。
【0047】
図14は、実施の形態2における位置マークの一例を示す概念図である。
位置マーク18には、シリコン(Si)16の下地にマーク14が十字型のパターンとして形成される。そして、例えば、パターン幅が5μm、十字の長さが縦横それぞれ50μmに形成されている。かかる寸法はこれらに限るものではなく、必要に応じて寸法を適宜選択すればよい。そして、かかる位置マーク18が、描画領域に相当する領域全体に規則的に配列されている。
【0048】
実施の形態2では、実施の形態1におけるハーフエッチ基板20の代わりに、XYステージ105の表面に直接、複数の位置マーク18を加工しておき、かかる複数の位置マーク18内のマーク14の位置を電子ビーム200でスキャンして測定することで、GMC係数の算出や補正マップの作成を行なう。その他の装置構成や、GMC係数の算出並びに補正マップの作成、および描画動作等は、実施の形態1と同様で構わないため説明を省略する。
【0049】
以上のように、実際に描画される試料101が配置されるマスク配置位置214と同じ位置で各マーク14をスキャンすることで、別の場所に配置した実施の形態1のハーフエッチ基板20を用いる場合よりXYステージ105の表面位置に依存する誤差を低減することができる。また、XYステージ105上に加工されているので、測定される基板等の搬送の手間を省くことができる。その結果、搬送にかかる時間を短縮することができる。図13でも、本実施の形態2を説明する上で必要な構成部分以外については記載を省略している。よって、その他の構成が配置されることを排除するものではない。
【0050】
以上、具体例を参照しつつ実施の形態について説明した。しかし、本発明は、これらの具体例に限定されるものではない。
【0051】
また、装置構成や制御手法等、本発明の説明に直接必要しない部分等については記載を省略したが、必要とされる装置構成や制御手法を適宜選択して用いることができる。例えば、描画装置100を制御する制御部構成については、記載を省略したが、必要とされる制御部構成を適宜選択して用いることは言うまでもない。
【0052】
その他、本発明の要素を具備し、当業者が適宜設計変更しうる全ての荷電粒子ビーム描画方法、荷電粒子ビーム描画装置、荷電粒子ビーム描画装置の位置補正係数算出方法及び荷電粒子ビーム描画装置の位置補正係数更新方法は、本発明の範囲に包含される。
【図面の簡単な説明】
【0053】
【図1】実施の形態1における描画装置の位置補正係数算出方法並びに位置補正係数更新方法の要部工程を示すフローチャート図である。
【図2】実施の形態1における描画装置の構成を示す概念図である。
【図3】実施の形態1におけるXYステージの上面概念図である。
【図4】実施の形態1におけるハーフエッチ基板の一例を示す概念図である。
【図5】実施の形態1におけるマークの一例を示す概念図である。
【図6】実施の形態1におけるハーフエッチ基板の断面を示す概念図である。
【図7】実施の形態1における反射電子を計測する様子を説明するための概念図である。
【図8】実施の形態1における検出出力の一例を示す図である。
【図9】実施の形態1におけるマーク位置のマップの一例を示す図である。
【図10】実施の形態1におけるフィッティング関数の一例を示す図である。
【図11】実施の形態1におけるマーク位置のマップの他の例を示す図である。
【図12】更新前後の描画位置の一例を示す図である。
【図13】実施の形態2におけるXYステージの上面概念図である。
【図14】実施の形態2における位置マークの一例を示す概念図である。
【図15】従来の可変成形型電子線描画装置の動作を説明するための概念図である。
【図16】従来の直交度の経年変化を説明するための概念図である。
【図17】従来の直交度の経年変化の一例を示す図である。
【符号の説明】
【0054】
10,14 マーク
12 反射電子
16 Si
18 位置マーク
20 ハーフエッチ基板
22 ガラス基板
24 Cr膜
100 描画装置
101,340 試料
102 電子鏡筒
103 描画室
105 XYステージ
109 データベース
114 ステージ駆動回路
120 制御計算機
122 測定部
124 係数計算部
126 マップ作成部
128 描画制御部
130 メモリ
140 偏向制御回路
144 偏向アンプ
150 描画部
200 電子ビーム
201 電子銃
202 照明レンズ
203,410 第1のアパーチャ
204 投影レンズ
205,208 偏向器
206,420 第2のアパーチャ
207 対物レンズ
214 マスク配置位置
218 検出器
222 固定ピン
326 増幅器
328A/D変換器
330 電子線
411 開口
421 可変成形開口
430 荷電粒子ソース

【特許請求の範囲】
【請求項1】
荷電粒子ビーム描画装置のハードウェア構成から生じる位置ずれを補正するための近似式の係数を算出する荷電粒子ビーム描画装置の位置補正係数算出方法において、
ステージ上で描画される試料の描画領域に相当する領域全体に規則的に配列された複数のマークを荷電粒子ビームを用いてスキャンするスキャン工程と、
スキャンされた各マークの位置のずれ量を装置の座標系でフィッティングして、フィッティングされた近似式の係数を算出する係数算出工程と、
を備えたことを特徴とする荷電粒子ビーム描画装置の位置補正係数算出方法。
【請求項2】
前記ステージ上に載置されたハーフエッチ基板上に形成された規則的に配列する前記複数のマークをスキャンすることを特徴とする請求項1記載の荷電粒子ビーム描画装置の位置補正係数算出方法。
【請求項3】
前記ステージ表面に加工された規則的に配列する前記複数のマークをスキャンすることを特徴とする請求項1記載の荷電粒子ビーム描画装置の位置補正係数算出方法。
【請求項4】
装置のハードウェア構成から生じる位置ずれを補正するための近似式の係数が記憶装置に格納された荷電粒子ビーム描画装置における前記係数を更新する荷電粒子ビーム描画装置の位置補正係数更新方法において、
ステージ上で描画される試料の描画領域に相当する領域全体に規則的に配列された複数のマークを荷電粒子ビームを用いてスキャンするスキャン工程と、
スキャンされた各マークの位置のずれ量を装置の座標系でフィッティングして、フィッティングされた近似式の係数を算出する係数算出工程と、
算出された係数を前回の係数が格納されている前記記憶装置に上書きする更新工程と、
を備えたことを特徴とする荷電粒子ビーム描画装置の位置補正係数更新方法。
【請求項5】
6ヶ月より短い所定の時間毎に前記係数を更新することを特徴とする請求項4記載の荷電粒子ビーム描画装置の位置補正係数更新方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【公開番号】特開2008−85120(P2008−85120A)
【公開日】平成20年4月10日(2008.4.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−264190(P2006−264190)
【出願日】平成18年9月28日(2006.9.28)
【出願人】(504162958)株式会社ニューフレアテクノロジー (669)
【Fターム(参考)】