説明

蒸気タービン発電機の軸受保持構造

【課題】軸受の外輪外周側に生ずるクリアランスを適正に保持して軸受の挙動を安定化させ、軸受内部に充填されたグリースが漏出して飛散することを確実に防止でき、軸受の寿命延長を図り得る蒸気タービン発電機の軸受保持構造を提供する。
【解決手段】発電機ケーシング7と軸受12,15との間に、該軸受12,15と線膨張係数が同等な材質のスリーブ26を、運転時に該スリーブ26と発電機ケーシング7との間に隙間が生じないよう、介装する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、蒸気タービン発電機の軸受保持構造に関するものである。
【背景技術】
【0002】
一般に、蒸気タービン発電機は、蒸気のエネルギを利用してタービンを回転駆動することにより、発電を行うようにしたものである。
【0003】
前記蒸気タービン発電機としては、近年、自動車に搭載できる小型・軽量の発電機の開発が進められており、この種の蒸気タービン発電機は、発電機ケーシングを軽量化のためにアルミニウム合金製とし、該アルミニウム合金製とした発電機ケーシングに対し、軸受鋼で構成される軸受を介してタービン軸を回転自在に支持せしめた構造を有している。
【0004】
尚、前述の如き自動車に搭載できるような小型・軽量の蒸気タービン発電機は、特許文献、非特許文献には見当たらないが、蒸気タービンを用いた発電装置の一般的技術水準を示すものとしては、例えば、特許文献1がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2009−68367号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、前述の如き蒸気タービン発電機においては、発電機ケーシングを構成するアルミニウム合金の線膨張係数が24×10-6[1/℃]であるのに対し、軸受を構成する軸受鋼の線膨張係数が12.5×10-6[1/℃]であり、常温(20[℃])で組み立てられて製造された蒸気タービン発電機の発電機ケーシング及び軸受は、運転時には、流通する蒸気により、およそ80[℃]程度まで温度上昇する。
【0007】
このため、前記蒸気タービン発電機の運転時には、前記発電機ケーシングと軸受の外輪との間に生ずるクリアランスをcとすると、該軸受の外径をD=φ17[mm]とし、製造時と運転時との温度差をΔTとした場合、
c=D×ΔT×(24−12.5)×10-6
=17×(80−20)×(24−12.5)×10-6
=0.01173[mm]
≒12[μm]
といったように前記クリアランスが拡がる形となり、軸受の挙動が不安定になって軸受内部に充填されているグリースが漏出し、飛散してしまい、軸受の寿命が短くなるという不具合があった。
【0008】
尚、本発明者等は、前記グリースの漏出を見込んで、該グリースを軸受内部に多めに充填することも検討したが、グリースを軸受内部に多めに充填した場合、摩擦が増えて逆に発熱量が増加し、グリースの劣化を早めてしまい、好ましい対策であるとは言えなかった。
【0009】
本発明は、斯かる実情に鑑み、軸受の外輪外周側に生ずるクリアランスを適正に保持して軸受の挙動を安定化させ、軸受内部に充填されたグリースが漏出して飛散することを確実に防止でき、軸受の寿命延長を図り得る蒸気タービン発電機の軸受保持構造を提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、発電機ケーシングに対し、両側に軸を有し一方の軸にタービンが設けられたロータを、前記発電機ケーシングと線膨張係数の異なる材質からなる軸受を介して回転自在に支持せしめた蒸気タービン発電機の軸受保持構造であって、
前記発電機ケーシングと軸受との間に、該軸受と線膨張係数が同等な材質のスリーブを、運転時に該スリーブと発電機ケーシングとの間に隙間が生じないよう、介装したことを特徴とする蒸気タービン発電機の軸受保持構造にかかるものである。
【0011】
上記手段によれば、以下のような作用が得られる。
【0012】
前記発電機ケーシングと軸受との間には、該軸受と線膨張係数が同等な材質のスリーブを、運転時に該スリーブと発電機ケーシングとの間に隙間が生じないよう、介装してあるため、常温で組み立てられて製造された蒸気タービン発電機の発電機ケーシング、スリーブ及び軸受が、運転時に流通する蒸気により、温度上昇したとしても、前記発電機ケーシングとスリーブとの間にがたつきが生じる心配はなく、又、前記スリーブは軸受と線膨張係数が同等な材質を用いているため、該スリーブと軸受との間で温度上昇に伴う膨張差もほとんど生じないこととなる。
【0013】
この結果、前記蒸気タービン発電機の運転時に、従来のように、前記発電機ケーシングと軸受の外輪との間のクリアランスが拡がってしまうことが避けられ、軸受の挙動が不安定とならず、軸受内部に充填されているグリースが漏出しにくくなり、軸受の寿命を長くすることが可能となる。
【0014】
前記蒸気タービン発電機の軸受保持構造においては、前記スリーブを発電機ケーシングに対し圧入することができる。
【0015】
又、前記蒸気タービン発電機の軸受保持構造においては、前記スリーブを発電機ケーシングの鋳造時に鋳ぐるむようにすることもできる。
【発明の効果】
【0016】
本発明の蒸気タービン発電機の軸受保持構造によれば、軸受の外輪外周側に生ずるクリアランスを適正に保持して軸受の挙動を安定化させ、軸受内部に充填されたグリースが漏出して飛散することを確実に防止でき、軸受の寿命延長を図り得るという優れた効果を奏し得る。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明の蒸気タービン発電機の軸受保持構造の実施例を示す側断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の実施の形態を添付図面を参照して説明する。
【0019】
図1は本発明の蒸気タービン発電機の軸受保持構造の実施例であって、1は両側に軸2,3を備えたロータであり、該ロータ1の一方の軸2にはタービン4が一体に嵌着されている。5は前記タービン4を収容するように形成されたタービンハウジングであり、該タービンハウジング5は、蒸気を前記タービン4に導くためのガス通路6を有していると共に、タービン4を回転駆動した後の低圧となった蒸気を排気するための排出通路6aを有している。
【0020】
7aは固定ボルト8によって前記タービンハウジング5に一体に組み付けるようにした発電機ケーシング7を構成するステータハウジングであり、該ステータハウジング7aは、前記一方の軸2に近づくよう内周側に突出し更に内周部がロータ1に近づくように環状に突出した筒状突出部9を有しており、該筒状突出部9によって形成されるモータステータ収容部10に、ロータ1を包囲するように形成したモータステータ11のタービンハウジング5側の一端部(図1の例では左側端部)を収容して保持するようになっている。更に、前記筒状突出部9の内周部と一方の軸2との間には第一の軸受12が配置されて一方の軸2を回転可能に支持するようになっている。尚、前記モータステータ11は、内側のコイルからなるステータ11aと、該ステータ11aの外周に嵌着されたステータスリーブ11bとから構成されている。
【0021】
7bは固定ボルト13によって前記ステータハウジング7aに一体に組み付けるようにして該ステータハウジング7aと共に発電機ケーシング7を構成する軸受フランジであり、該軸受フランジ7bは、前記モータステータ11の反タービンハウジング5側の他端部(図1の例では右側端部)の内側において軸方向へ突出して該モータステータ11の他端部を保持するようにした筒状突出部14を有しており、更に、該筒状突出部14の内周部と前記ロータ1の他方の軸3との間には第二の軸受15が配置されて他方の軸3を回転可能に支持するようになっている。
【0022】
尚、前記タービンハウジング5に一体に組み付けられるステータハウジング7aの端面には、前記ガス通路6の蒸気をタービン4へ周方向から導くノズル部16に対して周方向に複数配置するようしたベーン17を有し且つ該各ベーン17を固定するノズルフランジ18が取り付けられている。
【0023】
又、前記軸受フランジ7bには、コネクタ取付カバー19が固定ボルト20によって一体に組み付けられると共に、該コネクタ取付カバー19には、前記モータステータ11のステータ11aにコード21を介して電気的に接続された発電機コネクタ22が固定ボルト23によって一体に組み付けられている。
【0024】
更に又、前記タービンハウジング5とステータハウジング7aとの間、前記モータステータ11の外周とステータハウジング7aとの間、前記ステータハウジング7aと軸受フランジ7bとの間、並びに前記軸受フランジ7bとコネクタ取付カバー19との間にはそれぞれ、Oリング等からなるシール材を介装してあり、前記モータステータ11の外周とステータハウジング7aとの間に設けたシール材24は、ステータハウジング7aに形成されたモータステータ11用の冷却水路25に対し給排口(図示せず)を介して流通される冷却水のシールを行うようになっている。
【0025】
そして、前記発電機ケーシング7を構成するステータハウジング7aと軸受フランジ7bはアルミニウム合金で形成され、その線膨張係数は24×10-6[1/℃]であるのに対し、前記第一の軸受12と第二の軸受15は軸受鋼で形成され、その線膨張係数は12.5×10-6[1/℃]であるが、本実施例の場合、前記発電機ケーシング7と軸受12,15との間に、該軸受12,15と線膨張係数が同等な材質のスリーブ26を、運転時に該スリーブ26と発電機ケーシング7との間に隙間が生じないよう、介装してある。
【0026】
前記スリーブ26としては、例えば、機械構造用炭素鋼鋼材であるS45Cを選定することができ、その線膨張係数は12.1×10-6[1/℃]である。
【0027】
前記ステータハウジング7aの筒状突出部9と軸受フランジ7bの筒状突出部14の内周側に前記スリーブ26を圧入する場合、予め、運転時に前記発電機ケーシング7と軸受12,15の外輪との間に生ずるクリアランスが、例えば、c≒12[μm]程度である場合には、余裕を見て前記スリーブ26の外径よりおよそ20[μm]程度小さい内径の凹部9a,14aを、前記ステータハウジング7aの筒状突出部9と軸受フランジ7bの筒状突出部14の内周側に形成しておき、該凹部9a,14aに前記スリーブ26を圧入すれば良い。
【0028】
尚、前記スリーブ26は、前述の如く圧入する代わりに、前記発電機ケーシング7を構成するステータハウジング7aと軸受フランジ7bの鋳造時に鋳ぐるむようにすることも可能である。
【0029】
次に、上記実施例の作用を説明する。
【0030】
前記タービンハウジング5のガス通路6に導入された蒸気は、ノズル部16からベーン17を経てタービン4へ導かれ、該タービン4を回転駆動した後の低圧となった蒸気は排出通路6aから排出されるが、前記タービン4が回転駆動されることにより、ロータ1がモータステータ11のステータ11aに対して回転し、発電が行われ、該モータステータ11のステータ11aにコード21を介して電気的に接続された発電機コネクタ22から電気が取り出される。
【0031】
ここで、前記発電機ケーシング7を構成するステータハウジング7aと軸受フランジ7bはアルミニウム合金で形成され、その線膨張係数は24×10-6[1/℃]であるのに対し、前記第一の軸受12と第二の軸受15は軸受鋼で形成され、その線膨張係数は12.5×10-6[1/℃]であるが、本実施例の場合、前記発電機ケーシング7と軸受12,15との間には、該軸受12,15と線膨張係数が同等な材質(例えば、機械構造用炭素鋼鋼材であるS45Cを選定した場合、その線膨張係数は12.1×10-6[1/℃])のスリーブ26を、圧入、或いは前記発電機ケーシング7を構成するステータハウジング7aと軸受フランジ7bの鋳造時に鋳ぐるむという手段を用いて、介装するようにしてあるため、常温(20[℃])で組み立てられて製造された蒸気タービン発電機の発電機ケーシング7、スリーブ26及び軸受12,15が、運転時に流通する蒸気により、およそ80[℃]程度まで温度上昇したとしても、前記発電機ケーシング7とスリーブ26との間にがたつきが生じる心配はなく、又、前記スリーブ26は軸受12,15と線膨張係数が同等な材質を用いているため、該スリーブ26と軸受12,15との間で温度上昇に伴う膨張差もほとんど生じないこととなる。
【0032】
この結果、前記蒸気タービン発電機の運転時に、従来のように、前記発電機ケーシング7と軸受12,15の外輪との間のクリアランスが拡がってしまうことが避けられ、軸受12,15の挙動が不安定とならず、軸受12,15内部に充填されているグリースが漏出しにくくなり、軸受12,15の寿命を長くすることが可能となる。
【0033】
こうして、軸受12,15の外輪外周側に生ずるクリアランスを適正に保持して軸受12,15の挙動を安定化させ、軸受12,15内部に充填されたグリースが漏出して飛散することを確実に防止でき、軸受12,15の寿命延長を図り得る。
【0034】
尚、本発明の蒸気タービン発電機の軸受保持構造は、上述の実施例にのみ限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において種々変更を加え得ることは勿論である。
【符号の説明】
【0035】
1 ロータ
2 軸
3 軸
4 タービン
7 発電機ケーシング
7a ステータハウジング
7b 軸受フランジ
9 筒状突出部
9a 凹部
11 モータステータ
12 軸受
14 筒状突出部
14a 凹部
15 軸受
26 スリーブ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
発電機ケーシングに対し、両側に軸を有し一方の軸にタービンが設けられたロータを、前記発電機ケーシングと線膨張係数の異なる材質からなる軸受を介して回転自在に支持せしめた蒸気タービン発電機の軸受保持構造であって、
前記発電機ケーシングと軸受との間に、該軸受と線膨張係数が同等な材質のスリーブを、運転時に該スリーブと発電機ケーシングとの間に隙間が生じないよう、介装したことを特徴とする蒸気タービン発電機の軸受保持構造。
【請求項2】
前記スリーブを発電機ケーシングに対し圧入するようにした請求項1記載の蒸気タービン発電機の軸受保持構造。
【請求項3】
前記スリーブを発電機ケーシングの鋳造時に鋳ぐるむようにした請求項1記載の蒸気タービン発電機の軸受保持構造。

【図1】
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【公開番号】特開2012−5273(P2012−5273A)
【公開日】平成24年1月5日(2012.1.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−138917(P2010−138917)
【出願日】平成22年6月18日(2010.6.18)
【出願人】(000000099)株式会社IHI (5,014)
【Fターム(参考)】