説明

蒸煮装置

【課題】処理槽1内に収容した食材5を飽和蒸気によって加熱するようにしている蒸煮装置において、食材の状況を検出し、適正な撹拌を確実に行うことができるようにする。
【解決手段】煮物用食材を収容した処理槽1内に飽和蒸気を導入することによって食材5の加熱を行う蒸煮装置であって、食材を加熱調理している蒸煮工程時に、処理槽内の圧力を蒸煮温度における飽和蒸気圧力よりも一時的に低くして食材を撹拌する減圧撹拌を行う蒸煮装置において、食材内上部の温度を検出する上部品温センサ14と食材内下部の温度を検出する下部品温センサ15を設け、運転制御装置13は蒸煮工程時に食材内上部と下部での温度差を検出し、温度差が所定値よりも大きくなると減圧撹拌操作を行う。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、処理槽内に収容した煮汁と煮物用の具材を飽和蒸気によって加熱することで煮物調理を行う蒸煮装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
処理槽内に食材を収容しておき、処理槽内に飽和蒸気を供給することで食材を加熱する蒸煮装置がある。この蒸煮装置に煮汁と煮物用の具材を収容して加熱すると、煮物の調理をすることができる。しかしこの蒸煮装置は、処理槽内を密閉して蒸気を供給するようにしているため、食材の撹拌を行いにくいという問題があった。そこで特許4581846号公報にて処理槽内の圧力を変更することよって撹拌を行うことが提案されている。飽和蒸気で満たされている処理槽内から蒸気を排出し、処理槽内の圧力を低下すると、食材部分の飽和蒸気圧力は処理槽内の飽和蒸気圧力より高いことになる。その場合、煮汁部分では激しく沸騰することになり、そのことによって食材の撹拌を行うことができる。この発明を使用すると、撹拌装置のない蒸煮装置であっても煮物調理中に撹拌を行うことができるようになるが、撹拌のために処理槽内の圧力を低下させれば煮物調理にかかる時間は長くなるため、むやみに撹拌を行うのは非効率であり、撹拌が過剰になると食材が崩れて商品価値を低下させることになる。逆に撹拌が不足するならば、食材の温度にばらつきが生じるため、この場合にも商品価値を低下させることになる。そのため適切な時期に撹拌を行うことが必要となるが、撹拌を行うタイミングを外部から判断することはできず、撹拌が過剰に行われていたり、逆に撹拌が不足することになる場合もあるという問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特許4581846号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明が解決しようとする課題は、処理槽内に収容した煮汁と煮物用の具材を飽和蒸気によって加熱するようにしている蒸煮装置において、食材の状況を検出し、適正な撹拌を確実に行うことができるようにした蒸煮装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
請求項1に記載の発明は、内部を加圧することのできる処理槽、処理槽内への蒸気供給を制御する蒸気供給制御手段、処理槽内からの蒸気排出を制御する排気制御弁、処理槽内の温度又は圧力に基づき前記蒸気供給制御手段及び排気制御弁の作動を制御する運転制御装置を持ち、処理槽内に固形の具材と液体の煮汁からなる煮物用食材を収容し、処理槽内に飽和蒸気を導入することによって食材の加熱を行う蒸煮装置であって、処理槽内を所定の蒸煮温度に維持することで食材を加熱調理している蒸煮工程時に、処理槽内の圧力を蒸煮温度における飽和蒸気圧力よりも一時的に低くすることで、食材内を沸騰させて食材を撹拌する減圧撹拌操作を行うことができるようにしている蒸煮装置において、処理槽内の食材内には、食材内上部の温度を検出する上部品温センサと食材内下部の温度を検出する下部品温センサを設け、食材内の上部と下部での温度差を検出するようにしておき、運転制御装置は蒸煮工程時に食材内上部と下部での温度差を検出し、温度差が所定値よりも大きくなると減圧撹拌操作を行うものであることを特徴とする。
【0006】
請求項2に記載の発明は、前記の蒸煮装置において、運転制御装置は減圧撹拌操作時の食材内上下での温度差に基づいて減圧の終了時期を検出するものであることを特徴とする。
【発明の効果】
【0007】
食材の撹拌が行われていない状態では、食材には温度のばらつきが発生する。そのため、食材温度のばらつきを検出することで撹拌が必要であるか否かを判断することができ、食材内での温度差が大きくなった場合には撹拌を行うようにしておけば、撹拌が過剰になったり撹拌が不足することを防止できる。また、撹拌によって食材温度のばらつきがなくなったことを検出すると減圧撹拌を終了するようにしておけば、食材の撹拌が行われなかったり、逆に撹拌が過剰になることなく、適正な撹拌を確実に行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1】本発明の一実施例での蒸煮装置のフロー図
【図2】本発明の一実施例での処理槽内温度と圧力変化の説明図
【図3】本発明の一実施例での食材内温度変化の説明図
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明の一実施例を図面を用いて説明する。図1は本発明を実施している蒸煮装置のフローを示したものである。蒸煮装置は横置きにした円筒形の処理槽1内に食材5を収容し、処理槽1内へ蒸気を導入することによって食材5を加熱調理するようにしている。処理槽1の一方の側面には扉2を設けておき、扉2を開くことで処理槽1内への食材5の出し入れを行い、扉2を閉じることで処理槽1内を密閉する。食材5は食材容器4に入れた状態で台車3に乗せ置き、台車3を処理槽1内の奥まで押し込むことで処理槽1内へ収容する。処理槽1の底部には、処理槽1内へ蒸気を供給するための蒸気供給経路6を接続しており、蒸気供給経路6の途中には処理槽1へ供給する蒸気量を制御するための蒸気供給制御手段7を設ける。蒸気供給制御手段7は蒸気供給量を増減することができるものが好ましく、例えば口径が異なった複数個の弁を組み合わせるなどによって蒸気供給量を調節することができる。また、処理槽1の底部には処理槽1内から水を排出する排水経路10を設け、蒸気供給経路6は排水経路10とも接続しておく。蒸気は凝縮することで液体に戻るために排水経路10を設けておくが、加熱調理中は排水経路10を閉じておくことで蒸気が排水経路10から漏れ出ないようにしておく。
【0010】
処理槽1の上部には、処理槽1内の空気や蒸気を排出するための排気経路8を接続しておき、排気経路8の途中には排気制御弁9を設ける。処理槽1内への蒸気供給や処理槽1内を減圧する動作の制御は、運転制御装置13によって行う。運転制御装置13は処理槽1内の圧力を検出する圧力検出装置11を通じて処理槽1内の圧力を検出し、処理槽1内の温度を検出する温度検出装置12を通じて処理槽1内の温度を検出するようにしており、処理槽1内の圧力及び温度に基づいて蒸気の供給や排出を行う。また食材5の温度を検出するための品温センサを設け、品温センサで検出した温度も運転制御装置13へ送るようにしておく。品温センサは食材内上部の品温を検出する上部品温センサ14と、食材内下部の品温を検出する下部品温センサ15からなっており、運転制御装置13では上部品温センサ14と下部品温センサ15にて検出した温度の差に基づいて減圧撹拌の開始時期と終了時期を検出する。
【0011】
蒸煮の工程について説明する。本実施例で蒸煮する食材は、固形の具材と液体の煮汁を加熱調理する煮物であり、食材容器4内に具材と煮汁からなる食材を入れる。食材を入れた食材容器4は台車3に乗せておき、処理槽1の扉2を開いて台車3ごと処理槽1内へ収容する。台車3の収容後、扉2を閉じて処理槽1内を密閉する。扉2はクラッチリングによって固定し、処理槽1内の圧力が上昇しても扉は開かないようにしておく。処理槽1内の温度を上昇させる昇温工程では、最初は排気制御弁9を開いた状態で蒸気供給制御手段7を開き、蒸気の供給を行う。当初の処理槽1内は空気が充満しており、空気があると食材5の加熱に障害となるため、蒸気を供給しながら排気経路8を通して排気を行うことによって処理槽1内の空気を蒸気で置き換える。温度検出装置12で検出している処理槽1内温度が排気停止用の所定温度まで上昇すると、運転制御装置13は排気制御弁9は閉じ、蒸気はさらに供給することで処理槽1内の温度及び圧力を高める。密閉状態の処理槽1内に蒸気を供給することで処理槽1内の温度と圧力は上昇し、処理槽1内の温度が蒸煮温度(例えば120℃)に到達すると昇温工程から蒸煮工程に移り、運転制御装置13は蒸煮温度を維持するように蒸気供給を行う。
【0012】
通常の蒸煮では、所定の蒸煮時間が経過するまでは蒸煮温度を維持する。そして、蒸煮時間が終了すると、蒸気の供給は停止し、処理槽1内の蒸気を排出して処理槽1内が大気圧まで戻った後で扉2を開き、調理の終了した食材を処理槽1内から取り出す。しかし本発明では、蒸煮工程の途中で処理槽1内圧力を変化させることによって煮汁を沸騰させ、食材の撹拌を行うようにしている。
【0013】
図2は蒸煮工程中に減圧撹拌操作を行った場合の処理槽内の温度及び圧力変化状況を示した説明図、図3は蒸煮工程中に減圧撹拌操作を行った場合の食材内の温度変化状況を示した説明図である。蒸煮工程中の運転制御装置13は、温度検出装置12が検出する処理槽1内の温度を蒸煮温度の120℃に保つように蒸気供給制御手段7の制御を行うとともに、上部品温センサ14及び下部品温センサ15で検出している温度の差を検出しておく。運転制御装置13は、食材内上下での温度差が所定値よりも大きくなると減圧撹拌の操作を開始する。減圧撹拌の工程に入ると、運転制御装置13は蒸煮温度における飽和蒸気圧力値よりも低い値に設定した減圧撹拌時の下限圧力値(例えば0.07MPa)に向けて減圧するため、排気制御弁9の操作を行う。蒸煮温度が120℃場合、120℃の飽和蒸気圧力値は0.10MPaであるため、蒸煮時の処理槽1内圧力は0.10MPaとなっている。この状態で排気制御弁9を開くと、処理槽1内の蒸気は排気経路8を通して排出され、処理槽1内の圧力は低下していく。
【0014】
処理槽1内から蒸気を排出していくと、処理槽1内の圧力及び温度は短時間で低下するが、食材5の温度変化は処理槽内圧力変化よりも遅いために温度差が生じる。食材5の温度から定まる食材部の飽和蒸気圧力が、処理槽1内の温度から定まる処理槽内の飽和蒸気圧力より高いと、食材の内部で沸騰が発生する。沸騰が発生すれば、食材内では気泡の上昇による撹拌が発生し、食材の撹拌によって食材温度は均一化するため、上部品温センサ14及び下部品温センサ15で検出している食材温度の差は小さくなる。
【0015】
図3では減圧撹拌前の処理槽内及び食材の温度、減圧撹拌中の処理槽内及び食材の温度、減圧撹拌後の処理槽内及び食材の温度を順に記載している。撹拌が行われていない状態では食材内部で温度むらが発生することがあり、図では食材の上部は120.0℃であるが食材の下部では119.6℃となっている。運転制御装置13では食材内上下での温度差が所定値よりも大きくなったことを検出して減圧撹拌の操作を開始する。
【0016】
この状態で処理槽内から蒸気を排出し、処理槽内の圧力を0.08MPaまで低下させた場合、処理槽1内の温度は0.08MPa時の飽和温度である116℃になる。しかし、食材部分での温度変化は処理槽内の蒸気部よりも遅くなる。そのため、食材部分の温度は処理槽内温度の116℃よりも高いことになり、食材部分での飽和蒸気圧力が処理槽1内の飽和蒸気圧力よりも高くなると、食材内部では沸騰が発生し、この沸騰によって食材部分の撹拌が行われる。食材内での沸騰が発生して食材の撹拌が行われると、食材の温度は均一化するため、この段階では食材上部の温度は上部と下部で共に119.8℃となっている。運転制御装置13では、上部品温センサ14及び下部品温センサ15で計測している食材温度の差を監視しておき、食材の温度差が小さくなったことを検出することによって減圧撹拌の終了時期を検出する。運転制御装置13はその後、温度検出装置12で検出している処理槽内温度が蒸煮温度(120℃)となるように、蒸気供給制御手段7の操作を行って処理槽1内へ蒸気を供給し、蒸煮温度まで温度を上昇する。
【0017】
なお、バックアップとして圧力検出装置11にて検出している処理槽内圧力値に基づいてでも減圧操作は終了するようにしておく。上部品温センサ14又は下部品温センサ15が食材温度を正確に検出できなかったなどによって減圧操作の終了を検出できなかったとしても、圧力検出装置11で検出している処理槽圧力が減圧撹拌時の下限圧力値(0.07MPa)まで低下した場合には減圧操作を終了する。
【0018】
その後、この実施例では蒸煮工程中にさらにもう一度減圧撹拌操作を行っている。蒸煮工程中に複数回撹拌を行うようにしておくと、一回当たりの撹拌量を小さくすることができ、食材への煮汁の浸透性も向上する。減圧撹拌操作の動作は既に記載した通りであるためここでの説明は省略する。蒸煮工程を終了すると、運転制御装置13は処理槽1内の蒸気を排出する減圧/排気工程を行い、排気経路8を通して蒸気を排出することで処理槽1内を減圧する。処理槽1内が大気圧まで戻ると、扉2を開いて煮物調理を終了した食材を処理槽1内から取り出すことで、すべての工程を終了する。
【0019】
以上の工程を行うことで、密閉した処理槽1内の食材を撹拌することができる。食材内の上部と下部で温度を検出しておくことで、撹拌が必要となる時期を検出することができ、必要以上に撹拌を行ったり、逆に撹拌が足りなくなるということなく煮物調理を行うことができる。また、減圧撹拌時の減圧幅が大きくなり、沸騰による撹拌が激しくなりすぎることによって食材の形が過度に崩れることになると、商品価値が低下することになる。しかし、食材内上下での温度差を監視しておき、沸騰が始まったことを検出すると減圧を終了するようにすれば、撹拌が過度になることを防ぐことができる。なお、食材の沸騰検出から減圧停止までの時間を調節することによって、撹拌強度を調節することもできる。強く撹拌した方がよい食材であれば、沸騰開始の検出から減圧停止までの時間を長くすることで撹拌を強めることができ、遅延時間の調節によって撹拌の強度を調節することができる。
【符号の説明】
【0020】
1 処理槽
2 扉
3 台車
4 食材容器
5 食材
6 蒸気供給経路
7 蒸気供給制御手段
8 排気経路
9 排気制御弁
10 排水経路
11 圧力検出装置
12 温度検出装置
13 運転制御装置
14 上部品温センサ
15 下部品温センサ


【特許請求の範囲】
【請求項1】
内部を加圧することのできる処理槽、処理槽内への蒸気供給を制御する蒸気供給制御手段、処理槽内からの蒸気排出を制御する排気制御弁、処理槽内の温度又は圧力に基づき前記蒸気供給制御手段及び排気制御弁の作動を制御する運転制御装置を持ち、処理槽内に固形の具材と液体の煮汁からなる煮物用食材を収容し、処理槽内に飽和蒸気を導入することによって食材の加熱を行う蒸煮装置であって、処理槽内を所定の蒸煮温度に維持することで食材を加熱調理している蒸煮工程時に、処理槽内の圧力を蒸煮温度における飽和蒸気圧力よりも一時的に低くすることで、食材内を沸騰させて食材を撹拌する減圧撹拌操作を行うことができるようにしている蒸煮装置において、処理槽内の食材内には、食材内上部の温度を検出する上部品温センサと食材内下部の温度を検出する下部品温センサを設け、食材内の上部と下部での温度差を検出するようにしておき、運転制御装置は蒸煮工程時に食材内上部と下部での温度差を検出し、温度差が所定値よりも大きくなると減圧撹拌操作を行うものであることを特徴とする蒸煮装置。
【請求項2】
請求項1に記載の蒸煮装置において、運転制御装置は減圧撹拌操作時の食材内上下での温度差に基づいて減圧の終了時期を検出するものであることを特徴とする蒸煮装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2012−157642(P2012−157642A)
【公開日】平成24年8月23日(2012.8.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−21037(P2011−21037)
【出願日】平成23年2月2日(2011.2.2)
【出願人】(000130651)株式会社サムソン (164)
【Fターム(参考)】