説明

蒸着フィルムおよびその製造方法

【課題】酸化ケイ素を蒸発源とした電子ビーム式の真空蒸着装置にて高分子フィルムからなる基材上に無機化合物層を成膜する場合において、巾方向での膜質が安定した蒸着フィルムを提供する。
【解決手段】高分子フィルムからなる基材と、この基材の少なくとも片面に電子ビーム式真空蒸着法によりSiOxが成膜された無機化合物層とを備える蒸着フィルムにおいて、前記無機化合物層のO/Si比が1.65以上1.95以下であり、かつ、前記基材の巾方向でのO/Si比分布において最大値と最小値の差が0.1以下であることを特徴とする蒸着フィルム。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ガスバリア性を有する蒸着フィルムに係り、より詳しくは、例えば生鮮食品、加工食品、医療品、医療機器、電子部品等の包装用フィルムの少なくとも片面に無機化合物層を形成された蒸着フィルムおよびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
食品、医療・医薬品などの包装材料分野や液晶、有機ELなどのフラットパネルディスプレイ用樹脂基板等のエレクトロニクス分野においては、高度のガスバリア性をもつことが求められている。この観点からアルミニウムなどの金属、あるいは酸化ケイ素、酸化アルミニウム、酸化マグネシウムなどの金属酸化物を高分子フィルム基材上に真空成膜させたガスバリア性フィルムが使用されている。
ガスバリア性を有する金属酸化物の中でも、酸化ケイ素は特にガスバリア性に優れており、原料であるケイ素は地球上に豊富に存在するため安価で取引され、供給が安定している。
一方、真空で成膜する方法には、スパッタ法、イオンプレーティング法、CVD法、真空蒸着法等が挙げられるが、成膜速度やコスト面において、真空蒸着法が最も優れている。特に電子ビーム式では成膜速度を照射面積や電子ビーム電流等で制御しやすく、材料を局部的に加熱させられるため、短時間で熱を与えられる点で有効である。
酸化ケイ素を蒸発源として、電子ビーム方式の真空蒸着法で蒸着フィルムを作成する手法は、多数提案されてきた(例えば、下記特許文献1〜5を参照)。
【0003】
電子ビーム方式での真空蒸着によって蒸着フィルムを生産する場合において、巻取り式の蒸着機を用いて長尺、広幅のフィルムに蒸着し、一度に大量に蒸着フィルムの生産を行うのが一般的である。巻取り式の蒸着機において生産を行う場合、基材フィルムの巻m数は小型の蒸着機で数百m、大型の蒸着機では数万mにも及ぶ。基材フィルムの幅は小型の蒸着機では1m以内となるが、大型では約2mに及ぶ。
生産にあたっては、バリア性、透明性等の目的に応じて膜厚、光線透過率等を制御しながら加工する必要がある。制御項目には、電子ビームだけでも電流、パターン、照射面積等があり、同じ条件でも材料によって蒸発プロセスが異なる為、制御は容易ではない。特に長尺で加工する際には、成膜開始から終了まで一定の膜にする必要があり、広幅での加工に際しては、幅方向でのばらつきを極力抑えて加工することが望ましい。いずれもフィルムの歩留まりを上げるためである。加えて、コストダウンのために加工時間を短縮すべく、フィルムの巻取速度も可能な限り上げることが望ましい。
幅方向の成膜の制御に関して、特許文献6にて提案がなされているが、蒸着加工幅500mm以上に対して電子ビームを2つ以上要するため、プロセスが複雑化する上に、コストがかかってしまう。そして膜質の均一性を確保するには至っていない。
材料面では特許文献7にて、材料中の2種類の蒸着成分の割合に高さ方向で傾斜をつけることが提案されているが、大量生産に向いた手法ではない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許第3230370号公報
【特許文献2】特許第3747498号公報
【特許文献3】特開平9−169075号公報
【特許文献4】特開平7−34224号公報
【特許文献5】特開昭63−166965号公報
【特許文献6】特開平9−287074号公報
【特許文献7】特開平11−189864号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の目的は、酸化ケイ素を蒸発源とした電子ビーム式の真空蒸着装置にて高分子フィルムからなる基材上に無機化合物層を成膜する場合において、巾方向での膜質が安定した蒸着フィルムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記の課題を解決するための手段として、請求項1に記載の発明は、高分子フィルムからなる基材と、この基材の少なくとも片面に電子ビーム式真空蒸着法によりSiOxが成膜された無機化合物層とを備える蒸着フィルムにおいて、
前記無機化合物層のO/Si比が1.65以上1.95以下であり、かつ、
前記基材の巾方向でのO/Si比分布において最大値と最小値の差が0.1以下であることを特徴とする蒸着フィルムである。
【0007】
請求項2に記載の発明は、前記基材と前記無機化合物層との間にアンカーコート層を有することを特徴とする請求項1記載の蒸着フィルムである。
【0008】
請求項3に記載の発明は、前記無機化合物層上にさらにオーバーコート層を有することを特徴とする請求項1または2記載の蒸着フィルムである。
【0009】
請求項4に記載の発明は、高分子フィルムからなる基材の少なくとも片面に、蒸発源として酸化ケイ素、または、ケイ素と酸化ケイ素との混合物を用いた電子ビーム式真空蒸着法により、SiOxからなる無機化合物層を形成する蒸着フィルムの製造方法において、
前記蒸発源である酸化ケイ素、または、ケイ素と酸化ケイ素との混合物における、電子ビーム照射巾の両端25%の密度が、1.0〜1.6g/cm3であり、かつ、
前記蒸発源である酸化ケイ素、または、ケイ素と酸化ケイ素との混合物における、電子ビーム照射巾の中央50%の密度が、前記両端の密度と比較して10〜40%低いことを特徴とする蒸着フィルムの製造方法。
【0010】
請求項5に記載の発明は、前記蒸発源である酸化ケイ素、または、ケイ素と酸化ケイ素との混合物における、電子ビーム照射巾の両端の25%のO/Si比が、1.2以上1.7以下であり、かつ、
前記蒸発源である酸化ケイ素、または、ケイ素と酸化ケイ素との混合物における、電子ビーム照射巾の中央50%のO/Si比が、前記両端の25%のO/Si比と比較して10〜40%高いことを特徴とする請求項4記載の蒸着フィルムの製造方法。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、酸化ケイ素を蒸発源とした電子ビーム式の真空蒸着装置にて高分子フィルムからなる基材上に無機化合物層を成膜する場合において、巾方向での膜質が安定した蒸着フィルムを提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の詳細を説明する。
本発明の蒸着フィルムは、高分子フィルムからなる基材と、この基材の少なくとも片面に電子ビーム式真空蒸着法によりSiOxが成膜された無機化合物層とを備える蒸着フィルムにおいて、前記無機化合物層のO/Si比(原子比)が1.65以上1.95以下であり、かつ、前記基材の巾方向でのO/Si比分布において最大値と最小値の差が0.1以下であることを特徴とする蒸着フィルムである。
【0013】
本発明で使用される基材は、高分子フィルムであり、特に限定はされない。例えば、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエチレンナフタレート(PEN)などのポリエステルフィルム、ポリエチレンやポリプロピレンなどのポリオレフィンフィルム、ポリスチレンフィルム、ポリアミドフィルム、ポリ塩化ビニルフィルム、ポリカーボネートフィルム、ポリアクリルニトリルフィルム、ポリイミドフィルム等が用いられ、延伸、未延伸のどちらでも良く、また機械的強度や寸法安定性を有するものが良い。特に二軸方向に任意に延伸されたPETが好ましく用いられる。
基材の表面に、帯電防止剤、紫外線防止剤、可塑剤、滑材などが使用されていても良く、薄膜との密着性を良くするために前処理としてコロナ処理、低温プラズマ処理などを施しておいても良い。
【0014】
また、基材と下記で説明する無機化合物層との間にアクリルポリオール、ポリエステル、イソシアネート化合物等の非水性樹脂、ポリビニルアルコール(PVA)、でんぷん、セルロース、ポリアクリル酸、エチレンビニルアルコール樹脂等の水溶性樹脂からなるアンカーコート層を設けても良く、これにより基材と無機化合物層との密着性を良くするだけでなく、表面を平滑にすることで無機化合物層を欠陥なく成膜し、さらに無機化合物層の微小なバリア欠陥を補助しバリア性を向上することができる。
【0015】
無機化合物層の上にオーバーコート層を設けても良く、オーバーコート層の存在によって、硬く脆い傾向のある蒸着膜を保護し擦れや屈曲によるクラックを防止することができる。
【0016】
上記基材の厚みは特に制限を受けるものではないが、包装材料としての適性、他の層を積層する可能性があることを考えると、6〜30μmの厚みが好ましい。
【0017】
本発明で成膜されるSiOxの無機化合物層は、電子ビーム式真空蒸着の蒸発源に酸化ケイ素ならびに必要に応じてケイ素を用いることによって得ることができ、酸化ケイ素には主にSiO、SiO2の2種類がある。但し、SiOはSiO2を原料として製造されるために原料費が高く、SiOを用いずに成膜できるほうが、少なくとも原料費の上ではコストダウンとなり、望ましい。粉末の種類を1種類に限定して材料としても良いが、特に価格が安く、Si、SiO2の2種類を混合させた材料において、蒸発プロセス及びSiOxのxの値を制御しやすく、すなわち膜厚や透明性を制御しやすい。
【0018】
蒸発源となる蒸着材料の形状としては、粉状、粒状、成形体等が考えられる。粒状及び成形体は粉末から製造されるため、粉状が原料費の上では最もコストを抑えられるが、ハンドリング性に乏しいためにるつぼ中に均一に充填しにくく、安定性を出しにくい場合があり、一般に電子ビーム式の真空蒸着に最も適した形状は成形体と考えられる。
【0019】
用いる粉末は、粒径は特に制限しない。一般にSiは平均粒径が約6〜20μm、SiO2は約1〜20μm程度のグレードが市販されている。平均粒径や粒度分布の山がシャープかワイドか等の特性は、分散性、材料かさ密度、蒸発のプロセス等に影響を及ぼすため、選定が必要である。2種以上のグレードを混合させて用いる場合は組み合わせに留意しなければならない。
【0020】
このうち材料かさ密度に関しては、同じ体積の材料から同じ蒸着膜厚を得る場合、単純にはかさ密度の小さい材料のほうが、材料の体積上の減少が早い。従って、かさ密度が小さいほど、材料が底をつき、電子ビームで底を撃ってしまいやすいといえる。そのため、材料送り速度を早くせざるを得なくなり、蒸着プロセスに影響を及ぼすだけでなく、短時間で材料が無くなるため、長尺で加工することができないケースが生じる。逆にかさ密度が高すぎると、材料の減りは遅くとも、電子ビームでの材料加熱に時間を要し、蒸発開始が遅くなる危険性がある。材料かさ密度は、高すぎても低すぎても不具合を生じるため、生産機や蒸着フィルムの仕様等に合わせて適宜設計することが望ましい。
【0021】
さて、成形体の製造方法は、流し込み法、ラバープレス法などの成形のみを行う方法と、ホットプレス法、熱間静水圧加圧法(HIP)など成形と同時に加圧焼結を行う方法があり、後者の方法を用いると緻密化の起こる温度が下がり異常粒成長のない均一な粒径からなる高密度な焼結体を得ることができるが、本発明では特に限定しない。焼結時の雰囲気としては真空雰囲気、窒素雰囲気、アルゴン雰囲気、大気雰囲気などがある。本発明では特に限定しないが、無機化合物層の主成分をSi、Oとするため、雰囲気中のガスと蒸着材料の反応が無いほうが望ましい。かさ密度を調整する方法としては、選択する粉末の粒径のほか、粉末を成形体とする際の製造方法によって調整することができる。例えば、水等と混合してスラリー状とする場合は、水分との混合比により調整される。また、プレス法などで押し固める場合は、その圧力により調整される。また、バインダーとして添加剤を用いる場合には、添加剤が空隙に充填されて、密度を高くさせることができる。
【0022】
成膜される無機化合物層であるSiOxのxは膜のO/Si比であり、1.65〜1.95の数値を取ることが好ましい。1.95より大きい場合、性質がSiO2に近くなり、透明性が増すが、バリア性に欠けてしまうが、1.65より小さい場合、バリア性は上がるが、膜が黄色を呈して透明性が欠けてしまうという、相反する関係がある。これは、蒸着法の原理として、加熱されて蒸発したSiOxが基材上に物理的に堆積するためであり、その結果堆積時の隙間がガスバリア性能を決定する因子となる。そのため、xの値が小さいとフィルム上のSiOxの原子間ネットワークが密になってガスバリア性が発現し、反対にxの値が大きいと原子間ネットワークが疎になりガスバリア性が発現しないと推察される。
そこで、目的に応じて適切なx値にするべく、蒸着材料の処方設定、真空蒸着の機械条件設定を行う必要がある。例えば蒸着材料では材料のO/Si比が一般に高いほど、蒸着膜のO/Si比も高くなる。機械条件では例えば、真空蒸着中に成膜室に酸素あるいは水を適度に導入し、調整することが可能であるが、成膜室の圧力が電子ビームを使用できなくなるほど上昇してしまう場合もあり、技術確立の難易度が高い。
【0023】
ところで、蒸着フィルムを大量に生産する場合の真空蒸着は、歩留まり向上のため出来るだけ長尺、広幅での加工が望ましい。しかし電子ビームの数に対して、加工の必要な蒸着幅が長いと、巾方向に膜厚、膜質ともに精度良く成膜することが難しくなる。
まず、膜厚を等しくするためには、単純に考えた場合には基材の真下の材料の蒸発量が等しくなれば良い訳であるが、それのみでは、蒸着幅の中央の膜厚が厚くなり、両端の膜厚は薄くなってしまう。蒸発した材料は、真上だけに成膜されるのではなく、真上を中心とした蒸着幅全体に成膜され、膜厚に分布が生じるためである。そのため、材料及び蒸着幅の両端の蒸発量を増やす必要が出てくるが、手段としては電子ビームの軌道のうち、端の照射時間を増やすことが一例に考えられる。しかしその場合、端の蒸発が多い、すなわち材料の減りが早くなってしまうことになる。材料が底をつくと、蒸発量が減るのはもちろん、スプラッシュが発生しやすくなり、基材に微小な孔や凹凸を作ることにもつながる。材料の送り速度を速めることで、底をつくことは防止可能であるが、その場合には材料の中央部分が余剰になってしまい、材料の歩留まりを下げることになる。部分的に照射時間を過剰に長くすると、材料にかかる熱量も過剰になり、それが突沸や材料の飛散につながり、スプラッシュの発生に至る危険性が高くなる。
【0024】
また、電子ビームの数に対する蒸着幅が広いほど、ガスバリア性や透明性などの膜質にも分布が発生しやすい。理由として、蒸発した材料が基材に到達する向きが巾方向で異なるため、蒸着膜が成長する方向が変化すること、また、蒸着材料への電子ビームの照射条件が巾方向で等しくないため、照射角度や材料の蒸発プロセスが巾方向で異なり、成膜される物質の物性が異なってしまうこと等が考えられる。
電子ビームの数を増やすと、巾方向の分布は減らしやすくなるものの、装置上のコストダウンの観点から、無闇に増すことなく分布を減らすことができるほうが望ましい。
【0025】
そこで、本発明は、O/Si比または密度の異なる無機化合物層の蒸発源を、電子ビーム照射巾方向に配置することで、巾方向の分布を減らすことができる。
具体的には、蒸発源である酸化ケイ素、または、ケイ素と酸化ケイ素との混合物における、電子ビーム照射巾の両端25%の密度が、1.0〜1.6g/cm3であり、蒸発源である酸化ケイ素における、電子ビーム照射巾の中央50%の密度が、前記両端の密度と比較して10〜40%低いことが好ましい。また、蒸発源である酸化ケイ素、または、ケイ素と酸化ケイ素との混合物における、電子ビーム照射巾の両端の25%のO/Si比が、1.2以上1.7以下であり、かつ、前記蒸発源である酸化ケイ素における、電子ビーム照射巾の中央50%のO/Si比が、前記両端の25%のO/Si比と比較して10〜40%高いことが好ましい。
ここで、電子ビーム照射巾の両端25%とは、例えば、蒸発源への電子ビームの照射巾が480mmの場合、電子ビーム照射巾の両端から中央に向かって120mm(電子ビーム照射巾の25%に相当)の位置まで範囲のことをいう。また、電子ビーム照射巾の中央50%とは、例えば、蒸発源への電子ビームの照射巾が480mmの場合、電子ビーム照射巾の中央から両端に向かってそれぞれ120mm(電子ビーム照射巾の25%に相当)位置までの範囲のことをいう。
上述のように、蒸発源である酸化ケイ素、または、ケイ素と酸化ケイ素との混合物における、電子ビーム照射巾の両端25%の密度が、1.0〜1.6g/cm3であり、蒸発源である酸化ケイ素、または、ケイ素と酸化ケイ素との混合物における、電子ビーム照射巾の中央50%の密度が、前記両端の密度と比較して10〜40%低い場合、および/または、蒸発源である酸化ケイ素、または、ケイ素と酸化ケイ素との混合物における、電子ビーム照射巾の両端の25%のO/Si比が、1.2以上1.7以下であり、かつ、前記蒸発源である酸化ケイ素、または、ケイ素と酸化ケイ素との混合物における、電子ビーム照射巾の中央50%のO/Si比が、前記両端の25%のO/Si比と比較して10〜40%高いことにより、膜成分のO/Si比の分布を抑え、歩留まり向上と色味のばらつき防止を図ることができる。
【実施例】
【0026】
以下、本発明を実施例及び比較例によりさらに説明するが、本発明は下記例に制限されない。
【実施例1】
【0027】
Si(平均粒径10μm)、SiO2(平均粒径8μm)を材料のO/Si比が1.3及び1.5となるように混合し、更に水、シリカゾルを混合し、スラリーを調整し、このスラリーを型に流し込み、それぞれ成形した。この成形物を乾燥及び熱処理して蒸着材料とし、かさ密度を測定した後に、材料粉末のO/Si比をエネルギー分散型X線分光分析装置(JDE-2300 JEOL社製)を用いて求めた。測定した結果を表1に示す。
さらに電子ビーム加熱方式の巻き取り式蒸着装置を用いて、作成した蒸着材料を、12μm厚のポリエステルフィルムに、巻き取り速度200nm・m/s、蒸着巾480mm、ビーム数1つで真空蒸着させ、実施例1の蒸着フィルムを得た。このとき、O/Si比の大きい材料(1.5)をビーム中央の300mmに配置し(蒸着巾480mm中、両端部90mmを除く中央部分の巾300mmに相当する部分)、小さい材料(1.3)をその両端に配置した(前記両端部90mm相当する部分)。
次に、得られた蒸着フィルムの酸素透過度(ml/m2・day・MPa)及び水蒸気透過度(g/m2・day)を、酸素透過度測定装置(OXTRAN 2/20、mocon社製、30℃70%RH)または水蒸気透過度測定装置(PERMATRAN 3/30、mocon社製、40℃90%RH)で測定した。得られた結果を表1に示す。また、膜組成を蒸着巾の中央(0mm)および中央からポンプ側(P側)に向かって40mm、90mm、140mm、190mm、中央からギア側(G側)に向かって40mm、90mm、140mm、190mm、の9点をXPS(日本電子製 JPS-90SXV)にて計測し、O/Si比を求めた。得られた結果を表1及び表2に示す。
【実施例2】
【0028】
蒸着材料の粉末のO/Si比が1.4及び1.75であること以外は実施例1と同じ方法で成形体を作成して蒸着を行い、実施例2の蒸着フィルムを得た。成形体及び蒸着フィルムの評価は実施例1と同じ方法で行った。
【実施例3】
【0029】
蒸着材料の粉末のO/Si比が1.5及び1.65であること、ポリエステルフィルムの厚みが12μmであること以外は実施例1と同じ方法で成形体を作成して蒸着を行い、実施例3の蒸着フィルムを得た。成形体及び蒸着フィルムの評価は実施例1と同じ方法で行った。
【実施例4】
【0030】
蒸着材料の粉末のO/Si比が1.5及び1.7であること、蒸着巾が1020mmであること、ビームの数が2つであること以外は実施例1と同じ方法で成形体を作成して蒸着を行い、実施例4の蒸着フィルムを得た。なおこのとき、O/Si比の大きい材料(1.7)をビーム中央の300mm、すなわち2ヶ所に配置し、小さい材料(1.5)をその両端及びO/Si比の大きい材料の間に配置した。成形体及び蒸着フィルムの評価は、膜組成を蒸着巾の中央(0mm)および中央からポンプ側(P側)に向かって60mm、160mm、260mm、360mm、460mm、中央からギア側(G側)に向かって60mm、160mm、260mm、360mm、460mm、の11点を実施例1と同じ方法で行った。各測定値は表3に示す。
【実施例5】
【0031】
ポリウレタン系樹脂からなるアンカーコート層を設けられたポリエステルフィルムを蒸着基材として用いたこと以外は実施例1と同じ方法で成形体を作成して蒸着を行い、実施例5の蒸着フィルムを得た。成形体及び蒸着フィルムの評価は実施例1と同じ方法で行った。
【実施例6】
【0032】
蒸着膜上に水溶性高分子からなるオーバーコート層を設けたこと以外は実施例5と同じ方法で成形体を作成して蒸着を行い、実施例6の蒸着フィルムを得た。成形体及び蒸着フィルムの評価は実施例1と同じ方法で行った。
【比較例1】
【0033】
蒸着材料の粉末のO/Si比が1.6及び1.8であること以外は実施例1と同じ方法で成形体を作成して蒸着を行い、比較例1の蒸着フィルムを得た。成形体及び蒸着フィルムの評価は実施例1と同じ方法で行った。
【比較例2】
【0034】
蒸着材料の粉末のO/Si比が1.75のみで、かさ密度の異なる成形体を2つ作成したこと以外は実施例1と同じ方法で成形体を作成して蒸着を行い、比較例2の蒸着フィルムを得た。成形体及び蒸着フィルムの評価は実施例1と同じ方法で行った。
【比較例3】
【0035】
O/Si比の大きい材料(1.5)をビーム中央の200mmに配置し、小さい材料(1.3)をその両端に配置した以外は実施例1と同じ方法で成形体を作成して蒸着を行い、比較例3の蒸着フィルムを得た。成形体及び蒸着フィルムの評価は実施例1と同じ方法で行った。
【比較例4】
【0036】
O/Si比の大きい材料(1.5)をビーム中央の400mmに配置し、小さい材料(1.3)をその両端に配置した以外は実施例1と同じ方法で成形体を作成して蒸着を行い、比較例4の蒸着フィルムを得た。成形体及び蒸着フィルムの評価は実施例1と同じ方法で行った。
【0037】
【表1】

【0038】
【表2】

【0039】
【表3】

【0040】
表1からわかるように、実施例1〜6の蒸着材料はいずれも、膜成分のO/Si比が1.65以上1.95以下であり、かつ、巾方向での分布が±0.05の範囲である蒸着バリアフィルムであり、酸素透過度および水蒸気透過度が、比較例に対して優れていた。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
高分子フィルムからなる基材と、この基材の少なくとも片面に電子ビーム式真空蒸着法によりSiOxが成膜された無機化合物層とを備える蒸着フィルムにおいて、
前記無機化合物層のO/Si比が1.65以上1.95以下であり、かつ、
前記基材の巾方向でのO/Si比分布において最大値と最小値の差が0.1以下であることを特徴とする蒸着フィルム。
【請求項2】
前記基材と前記無機化合物層との間にアンカーコート層を有することを特徴とする請求項1記載の蒸着フィルム。
【請求項3】
前記無機化合物層上にさらにオーバーコート層を有することを特徴とする請求項1または2記載の蒸着フィルム。
【請求項4】
高分子フィルムからなる基材の少なくとも片面に、蒸発源として酸化ケイ素、または、ケイ素と酸化ケイ素との混合物を用いた電子ビーム式真空蒸着法により、SiOxからなる無機化合物層を形成する蒸着フィルムの製造方法において、
前記蒸発源である酸化ケイ素、または、ケイ素と酸化ケイ素との混合物における、電子ビーム照射巾の両端25%の密度が、1.0〜1.6g/cm3であり、かつ、
前記蒸発源である酸化ケイ素、または、ケイ素と酸化ケイ素との混合物における、電子ビーム照射巾の中央50%の密度が、前記両端の密度と比較して10〜40%低いことを特徴とする蒸着フィルムの製造方法。
【請求項5】
前記蒸発源である酸化ケイ素、または、ケイ素と酸化ケイ素との混合物における、電子ビーム照射巾の両端の25%のO/Si比が、1.2以上1.7以下であり、かつ、
前記蒸発源である酸化ケイ素、または、ケイ素と酸化ケイ素との混合物における、電子ビーム照射巾の中央50%のO/Si比が、前記両端の25%のO/Si比と比較して10〜40%高いことを特徴とする請求項4記載の蒸着フィルムの製造方法。

【公開番号】特開2011−256419(P2011−256419A)
【公開日】平成23年12月22日(2011.12.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−130737(P2010−130737)
【出願日】平成22年6月8日(2010.6.8)
【出願人】(000003193)凸版印刷株式会社 (10,630)
【Fターム(参考)】