説明

蒸着フィルムの製造方法

【課題】他の部材に接着させて使用される蒸着フィルムをより早くまた生産性の高い製造方法を提供する。
【解決手段】蒸着層2の上に形成された接着層3によって、他の部材と接着させて使用される蒸着フィルム4の製造方法であって、フィルム状の基材1を巻出部11から巻取部51まで搬送する基材搬送手段と、巻出部から巻取部の間に設けられた真空蒸着室21と、真空蒸着室と巻取部の間に設けられたロールコータ31とを少なくとも有する装置10を使用し、基材搬送手段によってフィルム状の基材1を真空蒸着室に連続的に導入しつつ、真空蒸着室において、導入されたフィルム状の基材に対し蒸着層2を蒸着し、さらに基材搬送手段によって真空蒸着室から搬出された蒸着層が蒸着された基材の当該蒸着層の上にロールコータによって接着剤を塗布して接着層3を形成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属やセラミックを蒸着した蒸着フィルムの製造方法に関し、特に蒸着層の上に形成された接着層によって、他の部材と接着させて使用される蒸着フィルムの製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来から、フィルムのバリア性能を高めるために、フィルムに金属やセラミックを蒸着させた蒸着フィルムが使用されている。特に、アルミニウムは、遮光性が高く、酸素や窒素のガスバリア性がよく、さらに水蒸気バリア性もよいため、食品等を包装するための包装体としてアルミ蒸着フィルムが利用されている。また、アルミニウムは光の反射率が高く美しい金属光沢を有するため、アルミニウム蒸着層よりも表面側に印刷を施すことにより、背景に金属光沢を持つ印刷ができるので、アルミ蒸着フィルムは装飾用としても注目されていた。
【0003】
このようなアルミ蒸着フィルムは、それ自体をフィルム状の包装体として製袋して、包装袋として利用されることもあったが、そのバリア特性及び意匠性を付与するために、他の部材に接着させて使用されることも多かった。例えば、金型でプラスチックの成形を行う際に成形品の表面にラベルを張り合わせるインモールドラベル成形において、ラベル材として、アルミ蒸着フィルムを張り合わせることにより容器等の表面に容易に装飾を施すことができる(特許文献1)。
【0004】
このラベル材の構成は、印刷基材層、ガスバリア層及び接着層からなり、ガスバリア層として金属または金属酸化物を蒸着等でプラスチックフィルムに積層したものを利用していた。印刷基材層はポリエステルフィルム、ポリプロピレンフィルム、ナイロンフィルム等に印刷を施したものであり、また接着層は、射出樹脂と同材質のプラスチックや、EVA(エチレン・酢酸ビニル共重合体)を含有するポリエチレン等で、射出樹脂と接着するためのものであった。そして、従来では、これら各層を独立して製膜した後、ドライラミネーションで張り合わせたり、その一部もしくは全層を溶融押出ラミネーションすることによって形成していた。
【0005】
このような蒸着層を製造するための蒸着装置として、従来、真空チャンバー内に蒸着手段だけではなく、ロール状に巻いたフィルムをも装填し、1ロール毎に真空蒸着するバッチ式のものが主流であった。バッチ式は、蒸着層の品質は安定するが、1ロール毎にフィルムを取り換える必要があり、そのたびに真空チャンバー内を真空から大気圧に回復した後に再び真空に減圧しなければならず、生産性が非常に悪いものであった。これに対し、真空チャンバー外にロール状に巻いたフィルムを配置し、フィルムを大気中から真空チャンバー内に連続的に導入し、真空チャンバー内で蒸着層を蒸着した後、真空チャンバー内から大気中に蒸着フィルムを搬出する生産性の高い連続式の蒸着装置も開発されている(特許文献2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2006−150979号公報(段落0014〜0019)
【特許文献2】特開平8−311650号公報(図1)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかし、従来の製膜方法では、印刷基材層、ガスバリア層及び接着層をそれぞれ製膜した後、張り合わせていたため、ラベル材として完成するまでに複数の装置を経由するため、時間がかかり、生産性が悪かった。例えば、印刷装置によって印刷基材層を製造した後に、蒸着装置によってガスバリア層を蒸着し、最後に押出ラミネーション装置によって接着層を積層させてようやくラベル材が完成していた。各装置は、フィルムをロール単位で処理することで生産性を向上させていたが、それでも各装置の処理時間の違いや処理能力の差によって、無駄な待ち時間が発生し、能率が悪かった。なお、各層を独立して製膜した後に張り合わせる場合には、それぞれの層に基材等が必要となり原価が増加することや、ラベル材の膜厚が厚くなるので使い勝手も悪くなることから、実用性の面で大きな問題があった。
【0008】
本発明は、上記の問題点を解決するために、従来に比べて、他の部材に接着させて使用される蒸着フィルムをより早くまた生産性の高い製造方法を提供することを目的とする。また、膜厚を薄くし、原材料費を安くし、使い勝手のよい他の部材と接着させて使用される蒸着フィルムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するため、本発明の蒸着フィルムの製造方法は、蒸着層の上に形成された接着層によって、他の部材と接着させて使用される蒸着フィルムの製造方法であって、フィルム状の基材を巻出部から巻取部まで搬送する基材搬送手段と、前記巻出部から巻取部の間に設けられた真空蒸着室と、前記真空蒸着室と前記巻取部の間に設けられたロールコータとを少なくとも有する装置を使用し、前記基材搬送手段によって前記フィルム状の基材を前記真空蒸着室に連続的に導入しつつ、前記真空蒸着室において、導入されたフィルム状の基材に対し蒸着層を蒸着し、さらに前記基材搬送手段によって前記真空蒸着室から搬出された蒸着層が蒸着された基材の当該蒸着層の上に前記ロールコータによって接着剤を塗布して接着層を形成することを特徴とする。
【0010】
さらに、上記蒸着フィルムの製造方法において、前記装置は、前記巻出部から前記真空蒸着室までの間に印刷層を形成する印刷手段を有し、前記印刷手段によって、前記フィルム状の基材の上に印刷層を形成することが好ましい。
【0011】
さらに、前記接着剤は、有機溶剤に溶解された状態で前記ロールコータによって前記蒸着層の上に塗布されることが好ましい。
【0012】
前記装置は、前記ロールコータから前記巻取部までの間に、乾燥室を有し、接着剤を乾燥させることが好ましい。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、ロールコータによって蒸着層の上に接着剤を塗布するだけで接着層が形成できるため、フィルム基材に対して、蒸着層を形成した後、連続して接着層を形成することができる。このように、製造装置によって、フィルム基材上に、蒸着層及び接着層を一連の連続的な処理で形成することができるので、接着層を有する蒸着フィルムを完成させるまでに必要な時間を短縮することができ、生産性を高めることができた。従来の蒸着装置で蒸着層を形成し、その後、押出ラミネーション装置等の別の装置によって接着層を積層させた場合は、一つの基材に対する蒸着層の形成工程と、その上への接着層の積層工程とは別の日程で行うのが通常であり、接着層を有する蒸着フィルムを完成させるまで、少なくとも2日、積層装置の待ち時間によってはより多くの日数が必要であった。これに対し、本発明によれば、基材を装置に装填できれば、その日のうちに接着層を有する蒸着フィルムを製造することができるので、生産性が著しく向上した。さらに、接着層として、押出ラミネーション装置等によってフィルムを積層するのではなく、接着剤を塗布して接着層を形成するので、本発明では、接着層を有する蒸着フィルム全体の膜厚を薄くすることができた。つまり、従来よりも、およそ接着層のフィルム分、膜厚を薄くすることができるのである。本発明のその他の効果については、以下の実施の形態において記載する。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明の蒸着フィルムの製造装置の概略構成図
【図2】(A)〜(C)は本発明の蒸着フィルムの各製造工程における概略断面図
【図3】本発明の他の蒸着フィルムの製造装置の概略構成図
【図4】本発明の他の蒸着フィルムの概略断面図
【図5】蒸着フィルムが接着された装飾容器の概略断面図
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の実施の形態を図面を参照して説明するが、本発明は下記例に限定されるものではない。図1には、本発明の蒸着フィルムの製造装置10の概略構成図を示し、図2(A)〜(C)には、本発明の蒸着フィルムの各製造工程における概略断面図を示す。図1に示す製造装置10は、巻出部11、真空蒸着室21、ロールコータ31、乾燥室41、巻取部51を有している。
【0016】
巻出部11は、通常、フィルム状の基材1(以下「フィルム基材」と表示することもある)がロール状に巻き取られたロールが装填される部分であり、巻取部51は、装置内で処理された蒸着フィルム4(基材1を含む)をロール状に巻き取って回収する部分である。図示しない搬送手段によって、巻出部11のロール及び/又は巻取部51のロール、さらに必要に応じて製造装置10内の適宜のロールを回転させて、巻出部11から装置内にフィルム基材1を連続的に供給し、また巻取部51において蒸着フィルム4を連続的に回収して、巻出部11から巻取部51までフィルム基材1を搬送する。なお、蒸着フィルム4は、図2(C)に示すように、基材1に少なくとも蒸着層2及び接着層3が積層されたものであり、巻取部51において蒸着フィルム4を巻き取ることによって、それに含まれるフィルム基材1も同時に巻き取られる。
【0017】
真空蒸着室21は、巻出部11から巻取部51までの間に設けられ、フィルム基材1の一方の面に蒸着層2を形成するものであり、大気圧下の基材1を真空蒸着室21に連続的に導入し、真空蒸着室21内で蒸着層2を蒸着し、蒸着層2が蒸着された基材1を真空蒸着室21から大気圧下に取り出すことができる連続式である。図1の真空蒸着室21は、フィルム基材1が導入及び取り出される導入出部22と、複数の減圧部23と、蒸着層2が蒸着される蒸着部24と、減圧部23及び蒸着部24を減圧する排気手段25とを有し、大気圧下の導入出部22から真空状態の蒸着部24までの間に設けられた複数の減圧部23によって段階的に真空度を向上し、また真空度を安定に維持するように構成されている。
【0018】
導入出部22は、フィルム基材1が真空蒸着室21内に導入され、フィルム基材1が真空蒸着室21から取り出される部分であり、通常は、大気圧下に設けられている。フィルム基材1の導入と取り出しを一か所にまとめることによって、省スペース化及び減圧の容易化を図っている。なお、フィルム基材1を真空蒸着室21に導入する部分とフィルム基材1を真空蒸着室21から取り出す部分とを別々に設けてもよい。
【0019】
減圧部23は、段階的に真空度を高めるために設けられた小部屋であり、導入出部22から蒸着部24までの間に少なくとも1つ、好ましくは複数段の部屋が設けられる。他の減圧部23や導入出部22又は蒸着部24との間は、多段に配設したシールロール群26によって仕切られており、排気手段25によって小部屋内の雰囲気を排気することによって減圧部23内の圧力を減圧状態にすることができ、さらにシールロール群26を介して真空度を維持したままフィルム基材1を搬送できるように構成されている。各シールロール群26は、図1においては、横方向に互いに接触するように並んだ3個のロールからなり、たとえば左のロールと中央のロールとで導入側のフィルム基材1を挟持し、右のロールと中央のロールとで導出側のフィルム基材1を挟持している。このように3個のロールが横方向に互いに接触するように配置されているため、各減圧部23や蒸着部24の真空度を維持しつつ、各減圧部23や蒸着部24にフィルム基材1を導入出することができる。さらに、各減圧部23内には、上下各段のシールロール群26の中間にデフレクタロール30が配置され、導入側および導出側のフィルム基材1を片寄らせるよう張力をかけて、フィルム基材1の円滑な走行を確保している。
【0020】
なお、図1においては、減圧部23は3部屋としているが、その数を増やすことによって、蒸着部24の真空度をより高くしたり、より安定に維持したりすることができる。また、図1のシールロール群26の構成は、中央のロールが導入側のロール対と導出側のロール対とで共通して使用され、3個のロールによって導入側も導出側も搬送できるようになっているが、4個のロールによって導入側のロール対と導出側のロール対を別個に設けてもよい。また、導入出部22として、フィルム基材1を真空蒸着室21に導入する部分とフィルム基材1を真空蒸着室21から取り出す部分とを別々に設けた場合には、フィルム基材1を導入する部分と蒸着部24との間及び蒸着部24とフィルム基材1を取り出す部分との間のそれぞれに減圧部23を配置する。
【0021】
蒸着部24は、真空チャンバー内に蒸着層2を蒸着するための設備が備えられており、排気手段25によって高真空状態に維持される。図1の蒸着部24内には、フィルム基材1を支持すると共にその背面から冷却する冷却ロール27、冷却ロール27の下方に配置されたるつぼ28及びるつぼ28の周囲に配置された加熱手段29が設けられている。減圧部23からシールロール群26を介して蒸着部24に搬入されたフィルム基材1は、冷却ロール27に巻きつけられ、冷却ロール27に沿って搬送される。冷却ロール27の下方において、るつぼ28内に収容された蒸着材料が加熱手段29によって加熱されることにより蒸発しており、冷却ロール27に巻きつけられたフィルム基材1に蒸着し、フィルム基材1の表面上に蒸着層2が形成される。図示していないが、るつぼ28と冷却ロール間の空間を仕切るチャンネル、蒸発した蒸着材料がフィルム基材1以外の冷却ロール27に蒸着するのを防ぐためのエッジマスク、フィルム停止時にるつぼからの熱や蒸着を遮断するコールドシャッタ等を設けていてもよい。なお、図1及び図2においては、フィルムの下面に蒸着層2及び接着層3を形成しているが、本明細書における層の上下関係は、基材側を下、外側を上とする。
【0022】
排気手段25は、減圧部23及び蒸着部24内を排気するポンプであり、各部屋を真空引きしている。図1においては、排気手段25は、各減圧部23及び蒸着部24の全てに対して連結されており、各減圧部23及び蒸着部24を減圧状態とする。ただし、同じポンプによって排気していても、最上段の減圧部23は、大気圧下の導入出部22が隣接しているため、真空度が低くなり、その下の段の減圧部23は最上段の減圧部23よりも真空度が高くなり、蒸着部24では最も真空度が高くなる。
【0023】
ロールコータ31は、移動する蒸着層2が形成されたフィルム基材1に対し、連続的に接着剤を塗布して蒸着層2の上に接着層3を形成するものである。ロールコータ31としては、例えばグラビアロールコータやリバースロールコータを使用することができる。グラビアロールコータはグラビアロールの線密度とセルの深さを決めることで精度よく接着剤のコート量を管理することができる。反面、グラビアロールコータでは、接着剤のコート量を変更する場合にはグラビアロール自体を変更しなければならなかった。この点、リバースロールコータはメタリングロールとアプリケータロールの間隔及び各ロールの回転速度を変更することによって、接着剤のコート量を容易に変更することができる。なお、蒸着層2の上に接着層3を形成する場合、蒸着層2に接して接着層3を形成するものも、蒸着層2と接着層3の間に他の層を介在するものも含まれる。例えば、蒸着層2の上にトップコート層を形成したのち、トップコート層の上に接着層3を形成してもよい。
【0024】
乾燥室41は、熱源による高温(通常、80〜120℃)の気体及び/又は気流(風)を生成して、ロールコータ31において塗布された接着剤をより早く乾燥させるためのものであり、より早い搬送速度で蒸着フィルムを製造するために設けることが好ましい。すなわち、ロールコータ31において接着剤が塗布された蒸着フィルム4は、乾燥室41内を搬送され、高温の雰囲気や気流等によって溶剤分を蒸発させ、接着層3を乾燥させる。ただし、ロールコータ31から巻取部51までの間を搬送させるだけで乾燥するような乾燥しやすい接着剤を使用すれば、乾燥室41を設けなくてもよい。
【0025】
次に、上記製造装置10によって製造される蒸着フィルム4について説明する。まず、図2(A)に示すように、上記製造装置10の巻出部11にはロール状に巻き取られたフィルム基材1が装填され、図示しない搬送手段によって、フィルム基材1が巻取部51まで搬送される。その途中に配置された真空蒸着室21において、フィルム基材1は大気圧下の導入出部22から、連続的に導入され、複数の減圧部23によって段階的に真空度を向上し、真空状態の蒸着部24で、図2(B)に示すように、フィルム基材1上に蒸着層2が形成される。その後、真空蒸着室21の導入出部22から搬出された蒸着層2が形成されたフィルム基材1は、図2(C)に示すように、ロールコータ31によって接着剤を塗布することで接着層3が形成され、蒸着フィルム4が形成される。このように、蒸着フィルム4は、図2(C)に示す通り、少なくともフィルム状の基材1と、基材1の一表面上に積層された蒸着層2と、蒸着層の上に形成された接着層3を有している。
【0026】
基材1は、その一方の表面に蒸着層2を形成されるフィルムであり、蒸着層2を形成できる基材であれば使用することが可能である。例えば、基材1として、プラスチック、紙等の材質からなる単層フィルム、プラスチック、紙等の材質からなる層の1種または複数種類を積層した積層フィルム又はこれらの単層フィルムまたは積層フィルムに印刷層などが形成されたフィルム(予め印刷層が形成された基材1はもちろん、後述するように、製造装置内で蒸着層の前に印刷層を形成する場合も含む)であってもよい。基材1としての積層体フィルムの形成方法は、特に限定されず、押出ラミネーション法やドライラミネーション法によって複数の層を貼り合わせたり、押出コーティング法によって積層したりしてもよい。フィルム基材1の厚さについては特に制限はなく、製造装置10において、搬送できる程度の可撓性を有していればよい。一部の分野において「シート」と呼ばれる0.25mm以上の厚みのものも本発明のフィルム基材1に含まれる。基材1は、蒸着フィルムが接着される他の部材の材料と同じ材料のフィルムを基材の最下層(接着層が形成される面とは反対側の表面)となるようにすれば、蒸着フィルムを接着後の他の部材において、蒸着フィルムを接着した部分とそれ以外の部分とで同じ材質となるため、全体として統一した質感の部材(容器、皿等)を製造できる。また、金型で他の部材を成形する際に表面にラベルを張り合わせるインモールドラベル成形において、蒸着フィルムを使用する場合には、蒸着フィルムの基材が他の部材と同じ材料であれば、成形加工において、ラベルの接着性が高まり好ましい。
【0027】
基材1の一部として、プラスチックを利用する場合は、ポリスチレン、ポリエステル、ポリプロピレン、ポリエチレン、ポリアクリロニトリル、ポリ(メタ)アクリル、ポリアミド、ポリアラミド、ポリカーボネート、ポリアセタール、ナイロンなどを使用することができる。特に、延伸ポリスチレン(OPS)、二軸延伸ポリエチレンテレフタレート(PET)、二軸延伸ポリプロピレン(OPP)、無延伸ポリプロピレン(CPP)、高密度ポリエチレン、中密度ポリエチレン、低密度ポリエチレン、直鎖状低密度ポリエチレン(LLDPE)、二軸延伸ナイロン(ONY)、無延伸ナイロン(CNY)等を使用することができる。
【0028】
基材1の一部として紙を利用する場合には、薄葉紙、上質紙、中質紙、書籍用紙、アート紙、コート紙、キャストコート紙、純白ロール紙、模造紙などがあげられ、場合によってはボール紙、段ボールなども用いることができる。また、基材1の一部として紙を利用する場合、紙の上にプラスチック層を積層することが好ましい。プラスチック層としては、上述した材質のものが挙げられ、特にポリエチレン層として、密度0.910〜0.925の低密度ポリエチレンと密度0.941〜0.980の高密度ポリエチレンとの重量比で2:8〜8:2(好ましくは3:7〜7:3)の組成物からなる密度0.930〜0.965のポリエチレン組成物の押出コート層を用いることが好ましい。この場合、ポリエチレン組成物の密度が0.936〜0.960であることが特に好ましい。なおポリエチレン層の厚みは、たとえば10〜30μm程度とすることが多い。
【0029】
低密度ポリエチレン単独の場合あるいは低密度ポリエチレンの割合が上記の範囲よりも多いときは、耐熱性が不足するため、高温工程や高温での取り扱いを行うような場合には使用制限を受ける。高密度ポリエチレン単独の場合あるいは高密度ポリエチレンの割合が上記の範囲よりも多いときは、押出コートに際し平滑性が損なわれる上、押出コートにより形成された層が不透明になって商品価値が減ずるようになる。また、低密度ポリエチレンと高密度ポリエチレンとの重量比が上記範囲にあっても、組成物の密度が上記規定の範囲から外れるときは、やはり耐熱性の点で不満が残る。
【0030】
蒸着層2は、基材に金属やセラミックを蒸着することにより得られる。蒸着層2としては、金属を蒸着してなる金属蒸着層やセラミックを蒸着したセラミック蒸着層を利用することができる。より具体的には、蒸着層としては、Al、Sn、In、ITO、Zn、Ag、Al2O3、SiOx等の単独蒸着層、又は、SiOx/Al2O3、SiOx/ZnO、SiOx/CaO、SiOx/B2O3、CaO/Ca(OH)2からなる2元蒸着層が用いられる。なお、SiOxとしては、例えば、SiO2、SiO1.8、SiO1.6等が挙げられる。また、アルミニウム(Al)には、成形時の延展性を付与させる目的で鉄を0.1〜9.0wt%、好ましくは0.5〜2.0wt%含有させてもよい。なかでも、アルミニウム(Al)、酸化アルミニウム(Al2O3)又は酸化珪素(SiOx)から形成されることが好ましい。蒸着層の厚みは、30〜100nm、好ましくは40nmの範囲とすることが好ましい。
【0031】
酸化アルミニウム(Al2O3)や酸化珪素(SiOx)等を蒸着したセラミック蒸着層は、金属検出器等による異物等の混入検査を行うことができる点で好ましい。また、セラミック蒸着層は、透明である点、電子レンジでも使用できる点、耐熱性が高い点、酸やアルカリに対して強い点において、金属蒸着層に比べて優れた特性を有するものであるが、他方で、伸びに対しては弱く、その基材1は、二軸延伸ポリエチレンテレフタレート、二軸延伸ナイロン等の伸びにくい材質を含んでいることが好ましい。
【0032】
接着層3は、ロールコータ31によって蒸着層2の上に塗布されて形成されるものであり、有機溶剤や水に溶解させた接着剤または溶解した接着剤をグラビアロールコート法、リバースロールコート法等によって、蒸着層2の上に均一に塗布して形成する。接着層3は、その後、溶剤分を蒸発させて乾燥させて接着性を喪失させた状態で巻取部51において巻き取られる。また、安定した接着力を付与するため、接着層3を形成する表面にコロナ処理を行ってもよい。
【0033】
接着剤としては、ポリウレタン系、ポリスチレン系、ポリエステル系、ポリエステル−ポリウレタン系あるいはポリエーテル−ポリウレタン系、アクリル系、ビニル系、ポリアミド系、エポキシ系、ゴム系等の接着剤を使用することができ、特に2液反応型のポリウレタン系接着剤を使用することが好ましい。例えば、2液反応型ポリウレタン系接着剤の場合、主剤として、各種のポリエステルポリオール、ポリエステルポリウレタンポリオール、ポリエーテルポリウレタンポリオール、ポリエステルポリエーテルポリウレタンポリオール等が挙げられ、硬化剤として、アダクト(トリメチロールプロパンと有機ジイソシアネートの付加物)、ビューレット(3モルの有機ジイソシアネートと1モルの水の反応物)、イソシアヌレート(3モルの有機ジイソシアネートの重合物)等の多官能の有機ポリイソシアネートが使用され、又、ポリイソシアネートとポリエステルポリオール、ポリエーテルポリオールまたは必要によりこれらと低分子ポリオールを反応させて得られるポリウレタンポリイソシアネート化合物を使用することができる。また、ウレタン系接着剤の溶剤としては、酢酸エチル、メチルエチルケトン、トルエン、ノルマルヘキサン等を使用することができる。接着層3としては、1.5〜5.0g/m2のコート量(乾燥時)とすることが好ましく、これらのコート量における接着層3の厚さは2〜3μm程度とすることが好ましい。
【0034】
以上のように、本発明によれば、ロールコータ31によって蒸着層2の上に接着剤を塗布するだけで接着層が形成できるため、フィルム基材1に対して、蒸着層2を形成した後、連続して接着層3を形成することができる。このように、製造装置10によって、フィルム基材1上に、蒸着層2及び接着層3を一連の連続的な処理で形成することができるので、接着層を有する蒸着フィルムを完成させるまでに必要な時間を短縮することができ、生産性を高めることができた。従来の蒸着装置で蒸着層を形成し、その後、押出ラミネーション装置等の別の装置によって接着層を積層させた場合は、一つの基材に対する蒸着層の形成工程と、その上への接着層の積層工程とは別の日程で行うのが通常であり、接着層を有する蒸着フィルムを完成させるまで、少なくとも2日、積層装置の待ち時間によってはより多くの日数が必要であった。これに対し、本発明によれば、基材を装置に装填できれば、その日のうちに接着層を有する蒸着フィルムを製造することができるので、生産性の向上の効果は計り知れないものである。さらに、接着層として、押出ラミネーション装置等によってフィルムを積層するのではなく、接着剤を塗布して接着層を形成するので、本発明では、接着層を有する蒸着フィルム全体の膜厚を薄くすることができた。つまり、従来よりも、およそ接着層のフィルム分、膜厚を薄くすることができるのである。
【0035】
また、図3には、本発明の他の蒸着フィルムの製造装置の概略構成図を示し、図4には、図3の製造装置によって形成された蒸着フィルムの概略断面図を示す。
【0036】
図3に示す製造装置60は、図1の製造装置10の真空蒸着室21の前段に、印刷層を形成する印刷手段61を設け、フィルム基材1上に印刷層5(図4参照)を形成し、その上に蒸着層2及び接着層3を連続的に形成できるものである。なお、図3において、図1の製造装置10と同じ構成は、同じ符号で示し、図4において、図2の蒸着フィルム4と同じ構成は、同じ符号で示し、それらの説明は省略する。
【0037】
図3において、印刷手段61は、フィルム基材1の上に印刷層5を形成するものである。印刷手段61としては、例えば凹版印刷(グラビア)、凸版印刷(フレキソ)、平版印刷(オフセット)、スクリーン印刷、転写印刷等の方式を使用できる。印刷手段61は、インキ選択性が高く、適用可能なフィルム基材1の種類が多いグラビア印刷を利用することが好ましい。なお、印刷層5を形成する前のフィルム基材1の表面に対し、コロナ放電処理を施してもよい。
【0038】
印刷手段61によって印刷層5を形成した後、印刷層5が形成されたフィルム基材1は、真空蒸着室21に搬入され、蒸着部において、印刷層5の上に蒸着層2が蒸着される。さらに、真空蒸着室21から搬出された蒸着層2が印刷層5の上に形成されたフィルム基材1は、ロールコータ31によって蒸着層2の上に接着層3が形成される。その後、乾燥室41を経て、巻取部51において、蒸着フィルム62が巻き取られる。なお、印刷手段61の後段(真空蒸着室21までの間)に印刷層5を乾燥させるための乾燥室を設けてもよい。
【0039】
この蒸着フィルム62は、図4に示すように、フィルム基材1の上に印刷層5、蒸着層2及び接着層3が順番に形成された構造である。そして、蒸着フィルム62の接着層3を他の部材に接着させると、フィルム基材1を通して印刷層5の文字、模様、色彩等を観察できるので、他の部材の表面に装飾を施すことができる。この場合、フィルム基材1としては、少なくとも光を一部透過する材質のものを使用する。また、蒸着層2として、金属(特にAl)を使用すれば、印刷層5の文字、模様、色彩等が背景の金属光沢によって、より華やかとなり、人目を引く装飾を提供できる。
【0040】
以上のとおり、図3の製造装置60によれば、印刷層5、蒸着層2及び接着層3を有する蒸着フィルム62を一連の処理を連続して行うことで製造することができるので、印刷層及び接着層を有する蒸着フィルムを完成させるまでに必要な時間を短縮することができ、生産性を高めることができる。なお、予め表面に印刷層が形成されたフィルム基材や積層構造の一部に印刷層を有するフィルム基材を装填すれば、図1に示す製造装置10を使用しても、印刷層を有する蒸着フィルムを製造することができる。しかし、予め表面に印刷層を形成する工程や印刷層を積層させる工程が別途必要となるので、図3の製造装置60を使用して印刷層を有する蒸着フィルムを形成する方がより生産性を高くできる。
【0041】
図5は、図4の蒸着フィルム62が接着された装飾容器70の概略断面図である。図5においては、容器71の内側表面に蒸着フィルム62が接着されている。蒸着フィルム62は、接着層3によって、容器71の内側表面に接着されるため、装飾容器70において、内側表面の最表面は、フィルム基材1が配置され、その次に、印刷層5及び蒸着層2が順番に配置される。そして、蒸着フィルム62のフィルム基材1を通して印刷層5の文字、模様、色彩等が観察されるため、装飾容器70は、蒸着フィルム62によって内側表面に装飾が施されたのである。
【0042】
容器70は、他の部材の一実施形態であり、材質としては、プラスチック、紙等の材質、またはプラスチック、紙等の材質からなる層の1種または複数種類を積層した積層体を使用できる。特に、容器70としては、インモールド成形するために、射出成形可能な熱可塑性樹脂、例えば、ポリスチレン、ポリプロピレン、ポリエチレン等を使用することが好ましい。なお、図5においては、容器70の内側表面に蒸着フィルム62が接着されているが、容器70の外側表面、内側及び外側表面の両方または内側若しくは外側表面の一部に蒸着フィルム62を接着してもよい。
【0043】
[実施例1]本実施例では、20μm又は25μmの膜厚の延伸ポリスチレン(OPS)からなるフィルムの上に、印刷機によって印刷層を形成したものをフィルム基材1として使用した。また、製造装置としては、図1に示す製造装置10の真空蒸着室21の前段に、アンカーコート層を形成するコータ―を設けた装置を利用した。そして、フィルム基材1(OPS/印刷)の印刷面側に、コータ―によってアクリル系のアンカーコート層を1μm程度の厚さに形成し、続いて真空蒸着室21において、アンカーコート層の上に40nmのアルミニウム層を蒸着した。最後に、シクロヘキサンとメチルエチルケトンの混合溶剤で希釈したポリスチレン系の接着剤をロールコータ31によってアルミニウム層の上に塗布し、乾燥室41において溶剤分を蒸発させて2〜3μmの膜厚のポリスチレン系の接着層を形成した。こうして、印刷層が形成された延伸ポリスチレン上に、アンカーコート層、蒸着アルミニウム層及び接着層を有する蒸着フィルムを製造することができた。
【0044】
かかる蒸着フィルムを別の部材に接着させた。別の部材としては、2mmの厚さのポリスチレンシートを使用し、蒸着フィルムの接着層をポリスチレンシートに対向させて160〜180℃の温度で熱圧着して蒸着フィルムをポリスチレンシートに貼り合わせた。蒸着フィルムが接着されたポリスチレンシートは、表面の延伸ポリスチレンフィルムを通して観察される印刷層によって、美しい金属光沢のある装飾を簡単に施すことができた。また、別の部材であるポリスチレンシートと、接着層の材質であるポリスチレン系の接着剤及びフィルム基材1の延伸ポリスチレン(OPS)が同質であるため、強固な接着を実現でき、全体として一体感のあるポリスチレンシートを得ることができた。
【符号の説明】
【0045】
1 フィルム状の基材
2 蒸着層
3 接着層
4 蒸着フィルム
5 印刷層
10 製造装置
11 巻出部
21 真空蒸着室
31 ロールコータ
41 乾燥室
51 巻取部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
蒸着層の上に形成された接着層によって、他の部材と接着させて使用される蒸着フィルムの製造方法であって、
フィルム状の基材を巻出部から巻取部まで搬送する基材搬送手段と、前記巻出部から巻取部の間に設けられた真空蒸着室と、前記真空蒸着室と前記巻取部の間に設けられたロールコータとを少なくとも有する装置を使用し、
前記基材搬送手段によって前記フィルム状の基材を前記真空蒸着室に連続的に導入しつつ、前記真空蒸着室において、導入されたフィルム状の基材に対し蒸着層を蒸着し、さらに前記基材搬送手段によって前記真空蒸着室から搬出された蒸着層が蒸着された基材の当該蒸着層の上に前記ロールコータによって接着剤を塗布して接着層を形成することを特徴とする蒸着フィルムの製造方法。
【請求項2】
前記装置は、前記巻出部から前記真空蒸着室までの間に印刷層を形成する印刷手段を有し、
前記印刷手段によって、前記フィルム状の基材の上に印刷層を形成することを特徴とする請求項1に記載の蒸着フィルムの製造方法。
【請求項3】
前記接着剤は、有機溶剤に溶解された状態で前記ロールコータによって前記蒸着層の上に塗布されることを特徴とする請求項1または2に記載の蒸着フィルムの製造方法。
【請求項4】
前記装置は、前記ロールコータから前記巻取部までの間に、乾燥室を有し、接着剤を乾燥させることを特徴とする請求項1乃至3の何れか1項に記載の蒸着フィルムの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2010−208077(P2010−208077A)
【公開日】平成22年9月24日(2010.9.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−54915(P2009−54915)
【出願日】平成21年3月9日(2009.3.9)
【出願人】(390033868)株式会社メイワパックス (27)
【Fターム(参考)】