説明

蒸着用マスク

【課題】蒸着パターンの位置ずれを抑え所望の位置に精度よく蒸着を行うことができ、コンパクトで使用しやすい蒸着用マスクを提供する。
【解決手段】被処理基板上に蒸着源から蒸発した蒸着材料を成膜する蒸着パターンに対応するマスク開口部22が形成されたチップ20と、チップ20を保持する支持基板30とを有し、チップ20の一方面を被処理基板に重ね合わせた状態で蒸着に用いられる蒸着用マスク1において、熱遮蔽板40がマスク開口部22を遮らないように断熱部材41を介して支持基板30の蒸着源の側に配設されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、蒸着用マスクに関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、蒸着用マスクとしては、形成材料にNi-Co合金を用いて電鋳により作製されたものやインバー材を用いてエッチングにより作製されたものなど、様々な熱膨張係数のメタルマスクを用いている。このメタルマスクを用いた蒸着を行う場合は、メタルマスクと被処理基板とを永久磁石により密着させて蒸着を行っている。
【0003】
しかしながら、このメタルマスクでは有機材料などの低温で蒸着が可能な材料を用いることはできるが、無機材料などの低温で蒸着できない材料を用いることは困難である。具体的には、メタルマスクを用いてAlやMg-Ag合金などの無機材料の蒸着を行う場合は、蒸着温度が1000℃以上となり輻射熱が大きくなる。これに伴ってこの輻射熱を受けたメタルマスクの熱膨張が大きくなる。このため、Ni-Co合金などの熱膨張係数が大きいメタルマスクでは、被処理基板とメタルマスクのパターン領域内における開孔との相対位置がずれてしまう。
一方、メタルマスクにインバー材を用いた場合は、輻射熱によるメタルマスクの熱膨張に伴う寸法変化はほとんどないが、メタルマスクが受けた熱が被処理基板に伝わり被処理基板の熱膨張が生じて寸法変化が発生してしまう。このように、従来のメタルマスクでは、蒸着温度の高い無機材料を用いて蒸着を行う際、蒸着パターンの位置ずれを抑えて精度よく行うことは困難である。
【0004】
このような問題を解決するための技術として、Alなどの無機材料の蒸着パターンを形成するマスク本体を単結晶シリコンで形成し、このマスク本体を支持するベースガラスをパイレックス(登録商標)ガラスで形成した蒸着用マスクが開示されている。この蒸着用マスクを構成する単結晶シリコンやパイレックス(登録商標)ガラスの熱膨張係数(3.2×10−6/℃)は、被処理基板として低温TFT素子が形成されたガラス基板を用いた場合の熱膨張係数(3.5×10−6/℃)と同程度である。このため、この蒸着用マスクを高温下で使用しても、反り、ひずみが無視できるほど小さい。このことから、熱膨張係数の差に起因する蒸着パターンの位置ずれはほとんど発生しないことがわかる。
【0005】
一方、特許文献1においては、ベースガラスとマスク本体との間に冷却水を流す流路を形成することによりマスク全体を冷却する技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2003−100453号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、従来のマスク本体を単結晶シリコンで形成しベースガラスをパイレックス(登録商標)ガラスで形成した蒸着用マスクでは、パイレックス(登録商標)ガラスの熱伝導率(1W・m−1・K−1)と単結晶シリコンの熱伝導率(168W・m−1・K−1)との差が非常に大きい。これにより、ベースガラスはゆっくりと熱が伝導して徐々に伸びてゆくが、マスク本体はすぐに熱が伝導して急激に伸びる。その上、ベースガラスは、撓まないように板厚が3〜10mm程度に形成されるため、熱容量が大きく、熱を受けてもゆっくりと熱膨張をはじめる。このため、Alなどの無機材料の蒸着パターンを形成する場合、蒸着回数を増やすにつれてベースガラスとマスク本体との相対位置が徐々にずれていく。その結果、蒸着パターンの位置ずれが発生してしまい所望の位置に精度よく蒸着を行うことが困難となる。
また、特許文献1では、流路を形成することでマスク全体として大規模になり、汎用的な蒸着には使用しにくい問題がある。
【0008】
本発明はこのような事情に鑑みてなされたものであって、蒸着パターンの位置ずれを抑え所望の位置に精度よく蒸着を行うことができ、コンパクトで使用しやすい蒸着用マスクを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記の課題を解決するため、本発明の蒸着用マスクは、被処理基板上に蒸着源から蒸発した蒸着材料を成膜する蒸着パターンに対応するマスク開口部が形成されたチップと、該チップを保持する支持基板とを有し、前記チップの一方面を前記被処理基板に重ね合わせた状態で蒸着に用いられる蒸着用マスクにおいて、熱遮蔽板が前記マスク開口部を遮らないように断熱部材を介して前記支持基板の前記蒸着源の側に配設されていることを特徴とする。
【0010】
この蒸着用マスクによれば、支持基板の蒸着源側に熱遮蔽板が設けられているので、蒸着源からの輻射熱や蒸発した高温の蒸着材料の熱が支持基板に伝わることが防止される。また、熱遮蔽板と支持基板との間に断熱部材が設けられているので、蒸着源からの輻射熱や高温の蒸着材料の熱が熱遮蔽板に吸収されたとしても支持基板に熱が伝導しにくい構造となっている。このため、支持基板に熱が蓄積されにくくなり、支持基板の変形(熱膨張による寸法変化)の速さを遅くすることができる。つまり、支持基板とチップ(マスク開口部)との単位時間当たりの相対位置のずれを無視できるほど小さくすることができる。したがって、蒸着パターンの位置ずれを抑え所望の位置に精度よく蒸着を行うことが可能な蒸着用マスクが提供できる。また、特許文献1のように冷却水を流す流路を設けていないので、コンパクトで使用しやすい大きさとすることができる。
【0011】
また、上記蒸着用マスクは、前記熱遮蔽板と前記支持基板との間に前記断熱部材を介して隙間が生じていてもよい。
【0012】
この蒸着用マスクによれば、熱遮蔽板と支持基板との間が断熱構造となる。具体的には、蒸着の際に隙間は真空となることから断熱層となるため、熱遮蔽板が蒸着材料の熱を吸収して高温になったとしても支持基板の温度は容易に上昇しないようになっている。このため、支持基板30の熱膨張による寸法変化の速さを確実に遅くすることができる。したがって、蒸着パターンの位置ずれを抑え所望の位置に精度よく蒸着を行うことが可能となる。
【0013】
また、上記蒸着用マスクは、前記熱遮蔽板にリブが形成されていてもよい。
【0014】
この蒸着用マスクによれば、熱遮蔽板の撓みを防止することができる。また、熱遮蔽板の板厚を厚くして撓みを防止する構造に比べて軽量化を図ることができる。
【0015】
また、上記蒸着用マスクは、前記断熱部材が前記支持基板と一体に形成されていてもよい。
【0016】
この蒸着用マスクによれば、断熱部材を支持基板と別体に形成する場合(例えば熱遮蔽板の上に形成する場合)に比べて製造プロセスを簡略化できる。したがって、生産効率を向上させ低コストを図ることが可能となる。
【0017】
また、上記蒸着用マスクは、前記熱遮蔽板の外周部に前記支持基板と前記熱遮蔽板とを固定するマスクトレイが設けられていてもよい。
【0018】
この蒸着用マスクによれば、チップが固定された支持基板と熱遮蔽板とが断熱部材を介した状態で当接される。このため、支持基板と熱遮蔽板との相対位置がずれることを防止することができる。したがって、蒸着パターンの位置ずれを抑え所望の位置に精度よく蒸着を行うことが可能となる。
【0019】
また、上記蒸着用マスクは、前記マスクトレイは、前記蒸着材料から前記熱遮蔽板が吸収した熱を放熱することが望ましい。
【0020】
この蒸着用マスクによれば、熱遮蔽板の吸熱作用を促進させることができる。このため、蒸着源からの輻射熱や蒸発した高温の蒸着材料の熱が支持基板に伝わることを確実に防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】本発明に係る蒸着用マスクの概略構成を示す図である。
【図2】本発明に係る蒸着用マスクの概略構成を示す断面図である。
【図3】他の形態の蒸着用マスクの概略構成を示す断面図である。
【図4】蒸着回数と蒸着用マスクの温度との関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、図面を参照して、本発明の実施の形態について説明する。かかる実施の形態は、本発明の一態様を示すものであり、この発明を限定するものではなく、本発明の技術的思想の範囲内で任意に変更可能である。また、以下の図面においては、各構成をわかりやすくするために、実際の構造と各構造における縮尺や数等が異なっている。
【0023】
図1は、本発明に係る蒸着用マスクの一例を示す概略構成図である。図1(a)は、蒸着用マスク全体の基本的構成を示す図である。図1(b)は、蒸着用マスクの一部を拡大して示す図である。なお、図1(a)においては便宜上断熱部材41及び熱遮蔽板40の図示を省略している。
【0024】
図1に示すように、蒸着用マスク1は、図示略の被処理基板上に蒸着材料を蒸着する蒸着パターンに対応するマスク開口部22が形成されたチップ20と、チップ20を保持する支持基板30と、断熱部材41と、断熱部材41を介して蒸着源100の側に配設された熱遮蔽板40と、を備えている。
【0025】
この蒸着用マスク1は、ベース基板をなす矩形の支持基板30に、複数のチップ20を取り付けた構成を有している。本実施形態において、チップ20はシリコン製であり、複数枚が各々、支持基板30にアライメントされた状態で支持基板30の上面に陽極接合や紫外線硬化型接着剤などにより接合されている。
【0026】
蒸着用マスク1は、所定の成膜パターンをマスク蒸着法により形成するためのマスクである。このマスクを構成するチップ20には、成膜パターンに対応する長孔形状のマスク開口部22が複数一定間隔で平行に並列した状態で形成されている。このため、チップ20には、マスク開口部22の各間に梁部27が形成されている。チップ20において、マスク開口部22の形成領域の周りには外枠部26が形成されており、かかる外枠部26が支持基板30に接合されている。
【0027】
支持基板30には、長方形の貫通孔からなる複数の開口領域32が平行、かつ一定間隔で設けられている。複数のチップ20は、支持基板30の開口領域32を塞ぐように支持基板30上に固定されている。この支持基板30の板厚T1(図2参照)は、例えば3mm程度になっている。
【0028】
支持基板30の形成材料は、チップ20の形成材料の熱膨張係数と同一又は近い熱膨張係数を有するものが好ましい。チップ20はシリコンであるので、シリコンの熱膨張係数と同等の熱膨張係数を有する材料で支持基板30を構成する。このようにすることにより、支持基板30とチップ20との熱膨張量の違いによる「歪み」や「撓み」の発生を抑えることができる。本実施形態では、支持基板30としてはパイレックス(登録商標)ガラスからなる透明基板が用いられている。なお、支持基板30の形成材料としてはこれに限らず、例えば、無アルカリガラス、ホウケイ酸ガラス、ソーダガラス、石英ガラスなどを用いることができる。
【0029】
チップ20は、例えば、面方位(100)を有する単結晶シリコン基板20aからなっている。このチップ20は、単結晶シリコン基板20aにフォトリソグラフィ技術やエッチング技術などを用いて、貫通溝からなるマスク開口部22を形成することにより、製造される。チップ20の下面(他方面)には大きな凹部29が形成されており、マスク開口部22は、凹部29の底部で開口している。これにより、マスク開口部22が形成された領域では基板厚(梁部27の厚さ)が薄く、その厚さは5μm〜50μmである。このため、マスク開口部22では、斜め方向に進行する蒸着粒子もマスク開口部22を通過しやすくなっている。
【0030】
蒸着用マスク1において、支持基板30の上面には、開口領域32の長手方向に沿って一定間隔にアライメントマーク34が形成されている。また、チップ20上面(一方面)には、第1アライメントマーク24及び第2アライメントマーク25が形成されている。第1アライメントマーク24及びアライメントマーク34は、チップ20を支持基板30に固定する際の位置合わせに使用される。また、第2アライメントマーク25は、被処理基板(図示略)に蒸着用マスク1を装着する際の位置合わせに使用される。
【0031】
支持基板30の蒸着源100の側(チップ20が固定された側と反対の側)には、断熱部材41を介して、熱遮蔽板40が設けられている。熱遮蔽板40は、例えば、SUS、インバー材、Alなどの金属によって、支持基板30の開口領域32に対応した開口を有する平板状に形成されたものである。熱遮蔽板40の板厚T2(図2参照)は、例えば0.5mm〜1mm程度になっている。この熱遮蔽板40は、蒸着源100からの輻射熱や蒸発した蒸着材料の熱を吸収する機能を有する。
【0032】
蒸着源100に用いられる蒸着材料としては、例えば、Al、金、白金などの金属材料が挙げられる。Alを用いた場合の蒸着温度は1200℃程度、金や白金を用いた場合の蒸着温度は500℃以上である。支持基板30の蒸着源100の側に熱遮蔽板40を設けることによって、蒸着源100から蒸発した高温の蒸着材料が支持基板30に付着することを防止することができる。
【0033】
熱遮蔽板40と支持基板30との間には、柱状の断熱部材41が複数一定間隔で設けられている。断熱部材41は、例えばガラスなどの熱伝導率の低い材料から構成されている。この断熱部材41は、熱遮蔽板40に吸収された熱が支持基板30の側に伝導することを抑制するためのものである。
【0034】
本実施形態では、断熱部材41が支持基板30と一体に形成されている。例えば、断熱部材41の形成材料として支持基板30の形成材料と同じパイレックス(登録商標)ガラスを用いる場合は、以下のようなプロセスで一体に形成することができる。先ず、支持基板の板厚と断熱部材の高さとを足し合わせた程度の板厚のベースガラスを用意する。次に、このベースガラスにレジストパターンをマスクにして、エッチングによりベースガラスを所定の深さ(断熱部材の高さに相当)だけエッチングする。その後、レジストパターンを除去することにより、支持基板と一体化した断熱部材(支持基板に断熱部材が作りこまれた構造)が作製される。これにより、断熱部材41を支持基板30と別体に形成する場合(例えば熱遮蔽板40の上に形成する場合)よりも製造プロセスを簡略化できるので、生産効率を向上させ低コストを図ることが可能となる。
【0035】
なお、断熱部材41は柱状に限らず、例えば凸状、球状、リブ状など必要に応じて種々の形状に形成することができる。また、断熱部材41の形成材料はガラスに限らず樹脂を用いてもよい。樹脂としては、例えば、エンプラや熱硬化型樹脂などの耐熱性に優れた材料を用いることができる。また、断熱部材41の形成材料として樹脂を用いる場合は、支持基板30の下面あるいは熱遮蔽板40の上面にベタ状に形成することもできる。
【0036】
図2は、蒸着用マスク1の断面構成を示す図である。図2において、符号T1は支持基板30の板厚、符号T2は熱遮蔽板40の板厚、符号Hは断熱部材41の高さ、符号W1は支持基板30の開口領域32の幅、符号W2は熱遮蔽板40の開口42の幅である。また、符号Pは温度測定の位置である(後述する実施例参照)。
【0037】
図2に示すように、熱遮蔽板40は支持基板30と平面視重なるように形成されている。つまり、熱遮蔽板40の開口42の幅W2と熱遮蔽板40の支持基板30の開口領域32の幅W1とは略同一になっている(W2≒W1)。このように、熱遮蔽板40は支持基板30の開口領域32を遮らない程度に配置されている。これにより、蒸着源100から蒸発した蒸着材料がマスク開口部22に向かうことを遮ることなく、高温の蒸着材料が支持基板30に付着して支持基板30に熱が伝わることを防止することができる。
【0038】
また、熱遮蔽板40と支持基板30との間には断熱部材41を介して隙間33が生じている。つまり、熱遮蔽板40はその上面の一部と断熱部材41の下面とが接触しており、熱遮蔽板40と断熱部材41とが接触する面積が小さくなっている。一方、支持基板30はその下面の一部と断熱部材41の上面が接触しており、支持基板30と断熱部材41とが接触する面積が小さくなっている。このように、熱遮蔽板40と支持基板30との間の一部に断熱部材41を設けて隙間33を形成することで、熱遮蔽板40と支持基板30との間が断熱構造となる。具体的には、蒸着の際に隙間33は真空状態となり断熱層となるため、熱遮蔽板40が蒸着材料の熱を吸収して高温になったとしても支持基板30の温度は容易に上昇しないようになっている。このため、支持基板30に熱が蓄積されにくくなり、支持基板30の変形(熱膨張による寸法変化)の速さを遅くすることができる。
【0039】
なお、断熱部材41の高さHを適宜変更することができる構造としてもよい。例えば、断熱部材41が支持基板30と別体で形成されている場合には、断熱部材41を上下に駆動する機構を設ける(例えば、断熱部材41をねじ部材とする)ことにより、断熱部材41の高さHを適宜変更できるようになる。これにより、支持基板30や熱遮蔽板40の撓みを必要に応じて補正することが可能となる。
【0040】
また、断熱部材41の高さHを適宜変更できる構造とすることで、隙間33の大きさを適宜変更することができるようになる。このため、隙間33を大きくすることで断熱構造の断熱作用を高めることができる。ただし、隙間33の大きさは、蒸着源100から飛散してくる蒸着材料が隙間33を通って支持基板30に付着しない程度の大きさに設定する。
【0041】
熱遮蔽板40の外周部には、支持基板30と熱遮蔽板40とを固定するマスクトレイ50が設けられている。マスクトレイ50は、熱遮蔽板40を載置するステージとなる載置部51と、支持基板30と熱遮蔽板40とを固定するL字状の固定部52とを有して構成されている。これにより、チップ20が固定された支持基板30と熱遮蔽板40とが断熱部材41を介した状態で当接されるようになっている。このため、支持基板30と熱遮蔽板40との相対位置がずれることを防止することができる。
【0042】
また、マスクトレイ50は、例えば、Alなどの熱伝導率が大きい材料で形成されており、蒸着材料から熱遮蔽板40が吸収した熱を放熱する機能を有する。これにより、熱遮蔽板40に吸収された熱は、マスクトレイ50を介して外部(例えば蒸着チャンバー)に排熱できるようになっている。
【0043】
本発明に係る蒸着用マスク1によれば、支持基板30の蒸着源100側に熱遮蔽板40が設けられているので、蒸着源100からの輻射熱や蒸発した高温の蒸着材料の熱が支持基板30に伝わることが防止される。また、熱遮蔽板40と支持基板30との間に断熱部材41が設けられているので、蒸着源100からの輻射熱や高温の蒸着材料の熱が熱遮蔽板40に吸収されたとしても支持基板30に熱が伝導しにくい構造となっている。このため、支持基板30に熱が蓄積されにくくなり、支持基板30の変形(熱膨張による寸法変化)の速さを遅くすることができる。つまり、支持基板30とチップ20(マスク開口部22)との単位時間当たりの相対位置のずれを無視できるほど小さくすることができる。したがって、蒸着パターンの位置ずれを抑え所望の位置に精度よく蒸着を行うことが可能な蒸着用マスクが提供できる。また、特許文献1のように冷却水を流す流路を設けていないので、コンパクトで使用しやすい大きさとすることができる。
【0044】
また、この蒸着用マスク1によれば、熱遮蔽板40と支持基板30との間に断熱部材41を介して隙間33が生じているので、熱遮蔽板40と支持基板30との間が断熱構造となる。具体的には、蒸着の際に隙間33は真空となることから断熱層となるため、熱遮蔽板40が蒸着材料の熱を吸収して高温になったとしても支持基板30の温度は容易に上昇しないようになっている。このため、支持基板30の熱膨張による寸法変化の速さを確実に遅くすることができる。したがって、蒸着パターンの位置ずれを抑え所望の位置に精度よく蒸着を行うことが可能となる。
【0045】
また、この蒸着用マスク1によれば、断熱部材41が支持基板30と一体に形成されているので、断熱部材41を支持基板30と別体に形成する場合(例えば熱遮蔽板40の上に形成する場合)よりも製造プロセスを簡略化できる。したがって、生産効率を向上させ低コストを図ることが可能となる。
【0046】
また、この蒸着用マスク1によれば、熱遮蔽板40の外周部にマスクトレイ50が設けられているので、チップ20が固定された支持基板30と熱遮蔽板40とが断熱部材41を介した状態で当接されるようになっている。このため、支持基板30と熱遮蔽板40との相対位置がずれることを防止することができる。したがって、蒸着パターンの位置ずれを抑え所望の位置に精度よく蒸着を行うことが可能となる。
【0047】
また、この蒸着用マスク1によれば、マスクトレイ50が熱遮蔽板40の吸収した熱を放熱する機能を有するので、熱遮蔽板40の吸熱作用を促進させることができる。このため、蒸着源100からの輻射熱や蒸発した高温の蒸着材料の熱が支持基板30に伝わることを確実に防止することができる。
【0048】
また、マスクトレイ50に冷却装置(図示略)が付設されていてもよい。冷却装置としては、例えば、油冷、水冷、空冷などの冷却機構を有するものに限らず、種々のものを用いることができる。これにより、マスクトレイ50を冷却することができるので、マスクトレイ50の放熱作用を向上させることができる。このため、熱遮蔽板40の吸熱作用を促進され、蒸着源100からの輻射熱や蒸発した高温の蒸着材料の熱が支持基板30に伝わることを確実に防止することができる。
【0049】
なお、上記実施形態では、熱遮蔽板40が平板状に形成されているがこれに限らない。図3は、上記実施形態の蒸着用マスク1と異なる形態の蒸着用マスク2の概略構成を示す断面図である。図3に示すように、本実施形態の蒸着用マスク2は熱遮蔽板にリブが形成されてなる構造となっている。つまり、蒸着用マスク2は、熱遮蔽板にリブが形成されている点で、上述の実施形態で説明した蒸着用マスク1と異なっている。その他の点は上記実施形態と同様であるので、図2と同様の要素には同一の符号を付し、詳細な説明は省略する。
【0050】
図3に示すように、熱遮蔽板40aにはリブが形成されている。このリブは熱遮蔽板40aと一体に形成されている。例えば、リブの形成材料として熱遮蔽板40aの形成材料と同じAlを用いる場合は、以下のようなプロセスで一体形成することができる。先ず、熱遮蔽板40aの板厚とリブの高さとを足し合わせた程度の板厚のAl板を用意する。次に、このAl板にレジストパターンをマスクにして、エッチングによりAl板を所定の深さ(リブの高さに相当)だけエッチングする。その後、レジストパターンを除去することにより、熱遮蔽板と一体化したリブ(熱遮蔽板にリブが作りこまれた構造)が作製される。これにより、熱遮蔽板40aの撓みを防止することができる。また、熱遮蔽板の板厚を厚くして撓みを防止する構造に比べて軽量化を図ることができる。
【実施例】
【0051】
本願発明者は、本発明に係る蒸着用マスクの効果を確認するための実験を行った。本実験は、蒸着材料をAlとした蒸着チャンバーを用いて行った。なお、Alの蒸着膜厚は600nmとした。
【0052】
実施例としては本発明に係る蒸着用マスク(図1及び図2参照)、比較例としては熱遮蔽板と断熱部材とを配設していない構造(図1及び図2に示す蒸着用マスクにおいて熱遮蔽板と断熱部材とを取り除いたもの)を用いた。比較した特性は、蒸着回数の増加に対する支持基板(ベースガラス)の温度変化である。なお、温度測定の位置は蒸着用マスクの中央部(図2に示す符号Pの位置)である。また、温度測定は熱電対を用いて行った。
【0053】
図4は、評価結果(蒸着回数と支持基板の温度との関係)を示すグラフである。図4において、横軸は蒸着回数(蒸着した被処理基板の枚数)、縦軸は温度である。
【0054】
図4に示すように、シリコンチップの温度変化は、初期の25℃から蒸着1枚目で一気に62℃に上昇するものの、蒸着2枚目以降は60℃〜62℃の間で安定していることが確認される。
【0055】
比較例のベースガラスの温度変化は、初期の25℃から蒸着1枚目、2枚目、3枚目と蒸着回数の増加に従って50℃、55℃、60℃と徐々に上昇し、3枚目で最大の60℃に達することが確認される。また、蒸着3枚目以降は57℃〜60℃の間で安定していることがわかる。
【0056】
実施例のベースガラスの温度変化は、初期の25℃から蒸着1枚目、2枚目、3枚目と蒸着回数の増加に従ってほとんど変化せず、3枚目で30℃、5枚目で35℃であることが確認される。また、蒸着5枚目以降は35℃以上の温度上昇が認められなかった。
【0057】
このように、本発明に係る蒸着用マスクによって、ベースガラスの単位時間当たりの温度変化が小さくなることが認められる。つまり、ベースガラスの単位時間当たりの変形の速さが遅くなる。したがって、蒸着パターンの位置ずれを抑え所望の位置に精度よく蒸着を行うことが可能な蒸着用マスクが実現していることがわかる。
【符号の説明】
【0058】
1,2…蒸着用マスク、20…チップ、22…マスク開口部、30…支持基板、33…隙間、40,40a…熱遮蔽板、41…断熱部材、50…マスクトレイ、100…蒸着源

【特許請求の範囲】
【請求項1】
被処理基板上に蒸着源から蒸発した蒸着材料を成膜する蒸着パターンに対応するマスク開口部が形成されたチップと、該チップを保持する支持基板とを有し、前記チップの一方面を前記被処理基板に重ね合わせた状態で蒸着に用いられる蒸着用マスクにおいて、
熱遮蔽板が前記マスク開口部を遮らないように断熱部材を介して前記支持基板の前記蒸着源の側に配設されていることを特徴とする蒸着用マスク。
【請求項2】
前記熱遮蔽板と前記支持基板との間に前記断熱部材を介して隙間が生じていることを特徴とする請求項1に記載の蒸着用マスク。
【請求項3】
前記熱遮蔽板にリブが形成されていることを特徴とする請求項1または2に記載の蒸着用マスク。
【請求項4】
前記断熱部材が前記支持基板と一体に形成されていることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の蒸着用マスク。
【請求項5】
前記熱遮蔽板の外周部に前記支持基板と前記熱遮蔽板とを固定するマスクトレイが設けられていることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載の蒸着用マスク。
【請求項6】
前記マスクトレイは、前記蒸着材料から前記熱遮蔽板が吸収した熱を放熱することを特徴とする請求項5に記載の蒸着用マスク。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2011−117028(P2011−117028A)
【公開日】平成23年6月16日(2011.6.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−274223(P2009−274223)
【出願日】平成21年12月2日(2009.12.2)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】