説明

蒸着装置

【課題】 蒸着により形成される薄膜の品質を向上し、装置の稼働率を向上し得る蒸着装置を提供することを目的とする。
【解決手段】 ガラス基板1が配置されて蒸着が行われる蒸着用容器3内に、蒸発材料を放出する放出孔11dが形成され、放出孔11dからガラス基板1に向かう蒸発材料の飛翔経路Xを遮断または開放するシャッター12と、シャッター12に付着した蒸着材料である蒸着物16を掻き落とすスクレーパー17を備え、シャッター巻取り部材14の巻取り回数が所定回数に到達するごとに、蒸着物16がスクレーパー17により掻き落とされるため、一連の成膜工程において蒸着物16が落下することを防止することができ、したがって蒸着により形成される薄膜の品質を向上させることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、被蒸着部材に蒸発させた材料を蒸着させる装置に関し、例えば有機ELディスプレイなどの画像表示部を製造するための蒸着装置などにも適用可能な技術に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、ディスプレイの薄型化が進み、この種のディスプレイとしては、液晶ディスプレイの実用化が非常に進んでいる。この液晶画面については、バックライトを必要とするもので、視野範囲、消費電力などの点で難点があり、最近、自発光性の有機EL方式のディスプレイが注目されている。
【0003】
ところで、有機ELディスプレイの基本構造は、ガラス基板上に、陽極(透明電極)を配置し、この上に、ホール輸送層および発光層が順番に配置され、さらに陰極が配置されたものであり、少なくとも、前記発光層については、有機材料が蒸着により形成されている。
【0004】
そして、基板上に、蒸着により薄膜を形成する場合、真空容器内に有機材料の蒸発源を配置しておき、真空状態で蒸発源を加熱し、その蒸気(以下、蒸発材料という)を同じく真空容器内に配置された基板の表面に付着させることにより薄膜が形成されていた。
【0005】
ところで、上記蒸発源からの蒸発材料の飛翔経路を遮って、蒸発材料の供給制御を行うシャッターを備えたものがある。
このようなシャッターを備えた蒸着装置として、特許文献1には、異なる材料で形成された3基のシャッターが設けられており、蒸発材料に対応してシャッターを使い分けて、蒸発源の坩堝穴から被蒸着部材に対して蒸発材料の供給制御を行っている。これにより、一連の成膜工程において、各シャッター板に付着する蒸着物の量が少なくされ、また、各シャッター板の上部に設けられた遮閉壁を蒸着物質と同値または近似する値の熱膨張率を有する材料で形成し、蒸着物の剥離を阻止することにより、成膜時に蒸着物が蒸着源の坩堝内に落ち込み、膜品質(純度)が低下されることが抑制され、さらに、シャッター板のクリーニング間隔が長くなるため、装置の稼働率の向上がはかられていた。
【特許文献1】実公平6−9014号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、上記した従来の構成によると、複数種の蒸発材料全てに対応するシャッター板を備えてないため、シャッター板を異なる蒸発物質で共用することになり、各シャッター板に付着する蒸着物が坩堝穴に落下し、剥離された蒸着物の混ざった蒸発材料が蒸発されると、純度の低下した蒸発材料が被蒸着部材へ向かうことになり、蒸着後の膜厚分布を所定の範囲内に抑えることができず、したがって蒸着により形成される薄膜の品質が低下するという問題がある。
【0007】
また、上記坩堝穴から蒸発材料を被蒸着部材に直接飛翔させるのではなく、蒸発材料を移送する移送管やその先端に設けられ放出孔が複数形成されている放出用容器などを介して蒸発材料を被蒸着部材に飛翔させる際、移送管や放出用容器は内部で蒸発材料が蒸着しないように加熱されており、このような構成に特許文献1のシャッター板を設けた場合、シャッター板から放出用容器の上面に落下した蒸着物は、加熱されて蒸発され、放出用容器の放出孔から放出される蒸発材料と混ざることとなるため、被蒸着部材において所望の膜厚分布が得られなくなるという問題がある。
【0008】
さらに、シャッター板のクリーニング作業は、所定期間ごとに、真空容器の開放により容器外に取り出して行わなければならないため、装置の稼働率が低下するという問題がある。
【0009】
そこで本発明は、蒸着により形成される薄膜の品質を向上し、装置の稼働率を向上し得る蒸着装置を提供することを目的としたものである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
前記した目的を達成するために、本発明の請求項1に記載の発明は、蒸発された蒸着材料である蒸発材料を被蒸着部材に付着させて蒸着を行う蒸着装置であって、前記被蒸着部材が配置されて蒸着が行われる蒸着用容器内に、前記蒸発材料を放出する放出孔が形成され、前記放出孔から前記被蒸着部材に向かう前記蒸発材料の飛翔経路を遮断または開放する遮蔽手段と、前記遮蔽手段に付着した蒸着材料である蒸着物を掻き落とす除去手段を備えたことを特徴としたものである。
【0011】
また、請求項2に記載の発明は、請求項1に記載の発明であって、前記遮蔽手段は、シート状に形成され、前記蒸発材料の前記飛翔経路を開放する開口部を有することを特徴としたものである。
【0012】
そして、請求項3に記載の発明は、請求項2に記載の発明であって、前記遮蔽手段の巻取りを行う巻取り手段を備え、前記巻取り手段により前記飛翔経路の遮断または開放が行われることを特徴としたものである。
【0013】
さらに、請求項4に記載の発明は、請求項2または請求項3に記載の発明であって、前記遮蔽手段の張りを均等にする張り調整手段を備え、前記張り調整手段に前記遮蔽手段を冷却する冷却手段を具備したことを特徴としたものである。
【0014】
しかも、請求項5に記載の発明は、請求項1から請求項4のいずれか1項に記載の発明であって、前記除去手段は、前記飛翔経路外に配置されていることを特徴としたものである。
【発明の効果】
【0015】
本発明の蒸着装置は、遮蔽手段が所定回数蒸発材料の飛翔経路を遮蔽および開放するごとに、遮蔽手段の下面に付着している蒸着物が除去手段により掻き落とされるため、一連の成膜工程において蒸着物が落下することを防止することができ、したがって蒸着により形成される薄膜の品質を向上させることができる。
【0016】
また、蒸着物の回収作業は、被蒸着部材の交換中や、蒸着装置稼動中、すなわち被蒸着部材に対して薄膜を形成しつつ行うことができるため、蒸着装置の稼働率を向上させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
[実施の形態1]
以下に、本発明の実施の形態1に係る蒸着装置について、図面を参照しながら説明する。
【0018】
図1に示すように、上記蒸着装置は、ガラス基板(被蒸着部材の一例)1が、その蒸着面が下方となるように、水平方向で挿入されるとともに保持具2により保持されている蒸着用容器(蒸着室または蒸着チャンバーともいう)3と、この蒸着用容器3の下方に配置されて有機材料の蒸発(以下、有機材料を蒸着材料といい、蒸発した有機材料を蒸発材料という)が行われる蒸発用容器(蒸発室ともいう)4と、蒸着用容器3と蒸発用容器4とを接続する連通穴部5aが形成されるとともに、ニードルバルブ(流量調整弁の一例)6および蒸気用ゲートバルブ(仕切弁の一例)7が介装された接続部材5とを有している。
【0019】
図1および図2に示すように、上記蒸着用容器3は、平面視が矩形状の箱体(直方体状)に形成され、この箱体の内部を蒸発材料の拡散空間とし、下面11aの中央に形成されている蒸気導入口11bが接続部材5の連通穴部5aと連通された状態で接続され、上面11cに複数の放出孔11dが形成され、加熱手段(例えばシースヒータ、図示せず)により全体が所定温度に保たれている放出用容器11と、薄板金属シートによりシート状に形成され、放出孔11dより放出される蒸発材料がガラス基板1に向かう飛翔経路Xを遮断または開放し、蒸発材料の供給制限を行うシャッター(遮蔽手段の一例)12と、飛翔経路X外である放出用容器11の長手方向(シャッター12の移動方向)における両側外方の上方に、放出用容器11の短手方向(シャッター12の移動方向と直交した方向)と平行に配置され、シャッター12のテンションを均等にする円筒状のテンションローラ(張り調整手段の一例)13と、飛翔経路X外である各テンションローラ13の上方に、放出用容器11の短手方向と平行に配置され、シャッター12の巻取りを行う円筒状のシャッター巻取り部材(巻取り手段の一例)14と、冷却水を供給する冷却水供給部(図示せず)から各テンションローラ13の円筒内を介して再度冷却水供給部へ接続されるよう配設され、シャッター12の冷却を行う冷却水用配管(冷却手段の一例)15と、飛翔経路X外である一方のテンションローラ13の外方かつ一方のシャッター巻取り部材14の下方に、放出用容器11の短手方向と平行に配置され、シャッター12の下面に付着している固化した蒸発材料である蒸着物16を掻き落とす断面が三角柱状のスクレーパー(除去手段の一例)17と、スクレーパー17の下方に設けられ、スクレーパー17により掻き落とされた蒸着物16を回収する回収容器18を備えている。なお、上記放出孔11dは、放出用容器11の上面11cにおける長手方向の両側において短手方向に3つずつ形成されているとともに、上面11cの中央付近において短手方向に2つずつ2列形成されている。
【0020】
また、蒸着用容器3には、ゲートバルブ(仕切弁)19aが介装され、真空ユニット(図示せず)により蒸発用容器3内を真空雰囲気にする真空用ポート19と、ゲートバルブ(仕切弁)20aが介装され、ガラス基板1の搬入および搬出を行う搬入出用ポート20を備えている。
【0021】
上記シャッター12は、図3に示すように、矩形状に形成され、両側から所定の長さ形成されている巻取り部12aと、一方の巻取り部12aと隣接して形成され、蒸発材料の飛翔経路Xを遮断するシャッター閉部12bと、他方の巻取り部12aおよびシャッター閉部12bにそれぞれ隣接して形成されているテンション部12cと、両テンション部12cの間に形成され、蒸発材料の飛翔経路Xを開放する矩形状の開口部12eが形成されているシャッター開部12dにより形成されている。
【0022】
上記スクレーパー17は、放出用容器11の短手方向と平行に配置されている回転軸17aを有しており、この回転軸17aを回転駆動させることにより、スクレーパー17の先端部をシャッター12の下面に当接または離間させることができる。
【0023】
また、図4に示すように、蒸着装置は駆動装置31と制御装置41と指令部(図示せず)を備えており、上記駆動装置31は、シャッター巻取り部材14と接続され、指令部から開閉指令を入力することによりシャッター巻取り部材14を回転駆動させる第1回転駆動部32と、スクレーパー17の回転軸17aと接続され、回転軸17aを回転駆動させる第2回転駆動部33を有している。また、上記制御装置41は、上記開閉指令が入力され、シャッター巻取り部材14によるシャッター12の巻取り回数、すなわち開閉指令の入力回数をカウントするカウンタ42と、カウンタ42から入力されたシャッター巻取り部材14の巻取り回数が所定回数(例えば20回、任意に設定変更可能)となった場合、第2回転駆動部32に回転指令を出力する制御部43を有している。
【0024】
上記蒸発用容器4は、加熱用電熱線(加熱手段)21aを有し、この加熱用電熱線21aにより蒸着材料を加熱して蒸発させる材料収納容器(蒸発源または蒸発ポットともいう)21と、ゲートバルブ(仕切弁)22aが介装され、真空ユニット(図示せず)により蒸発用容器4内を真空雰囲気にする真空用ポート22と、ゲートバルブ(仕切弁)23aが介装され、材料収納容器21の搬入および搬出を行う搬入出用ポート23などを備えている。
【0025】
以下に、上記した実施の形態1における作用を説明する。
蒸発用容器4の加熱用電熱線21aにより材料収納容器21内の蒸着材料が加熱され蒸発されると、蒸発した蒸着材料である蒸発材料は、連通穴部5aを介して放出用容器11へ導かれ、各放出孔11dよりガラス基板1へ放出される。
【0026】
ガラス基板1交換後の蒸着開始時や、材料収納容器21交換後において安定的に蒸発材料が得られるようになってから、蒸発材料を各放出孔11dからガラス基板1へ放出する際、放出用容器11の上方に位置するシャッター12を開動し、すなわち第1回転駆動部32によりシャッター巻取り部材14を回転駆動させて放出用容器11の上方に位置するシャッター12をシャッター開部12dとし、蒸発材料の放出を開始する。また、蒸着終了後のガラス基板1交換前や、材料収納容器21交換前などには、開動時とは異なる方向へシャッター巻取り部材14を回転させて、放出用容器11の上方に位置するシャッター12を閉動し、すなわち第1回転駆動部32によりシャッター巻取り部材14を回転駆動させて放出用容器11の上方に位置するシャッター12をシャッター閉部12bとし、蒸発材料の飛翔経路Xを遮断する。なお、放出用容器11の上方に位置するシャッター12がシャッター閉部12bであるとき、冷却された冷却水用配管15によりシャッター12の下面に固化された蒸発材料である蒸着物16が付着することとなる。
【0027】
ここで、シャッター巻取り部材14の巻取り回数(開閉指令の入力回数)はカウンタ42によりカウントされており、制御部43は、カウンタ42から入力されたシャッター巻取り部材14の巻取り回数を入力して、その巻取り回数が所定回数に到達したことを検知すると、第2回転駆動部32に回転指令を出力し、回転軸17aを回転駆動させ、スクレーパー17の先端をシャッター12の下面と接触させる。そして、シャッター12の下面に付着している蒸着物16は、次のシャッター巻取り部材14によるシャッター12の巻取り時にスクレーパー17により掻き落とされ、収納容器18に収納される。
【0028】
このように、シャッター巻取り部材14の巻取り回数が所定回数に到達するごとに、シャッター12の下面に付着している蒸着物16がスクレーパー17により掻き落とされるため、一連の成膜工程において蒸着物16が放出用容器11等の加熱された部分へ落下することが防止される。また、シャッター12のメンテナンスの回数が低減されるため、蒸着用容器3の開放やシャッター12のクリーニング等を行う作業員の手間が軽減される。
【0029】
また、シャッター巻取り部材14の巻取り回数が所定回数に到達するごとに、シャッター12の下面に付着している蒸着物16がスクレーパー17により掻き落とされ、蒸着物16が放出用容器11の上面へ落下することが防止されるため、放出用容器11の各放出孔11dから放出される蒸発材料に他の蒸発材料が混ざることが無くなり、したがってガラス基板1は所望の膜厚分布とされる。
【0030】
また、上述した蒸着物16の回収作業は、ガラス基板1の交換中や、蒸着装置稼動中、すなわちガラス基板1に対して薄膜を形成しつつ行われるため、蒸着装置の稼働率が向上される。
【0031】
さらに、各テンションローラ13の円筒内に冷却水用配管15が配設され、冷却水供給部から冷却水用配管15へ約20℃の冷却水を循環させることにより、各テンションローラ13を介してシャッター12が冷却され、材料収納容器21からガラス基板1への熱(輻射熱)の移動が抑制されるため、ガラス基板1での温度上昇が抑制され、したがってガラス基板1に配置されているマスクの熱膨張が阻止されて成膜精度が向上され、蒸着サイズが変化することを防止される。具体的に、放出用容器11とガラス基板1との温度差ΔTは、冷却水用配管15に冷却水を循環させることなく、放出用容器11を330℃で運転させた場合、ΔT=40℃前後となったが、冷却水用配管15へ約20℃の冷却水を循環させて、放出用容器11を330℃で運転させた場合、ΔT=5℃前後となるため、ガラス基板1側での温度上昇が抑制される。
【0032】
加えて、シャッター12は金属シートのみにより形成されているため、複数の材料により複数のシャッターを構成する場合と比較して、シャッター12を製造するコストが低減される。
【0033】
以上のように実施の形態1によれば、シャッター巻取り部材14の巻取り回数が所定回数に到達するごとに、シャッター12の下面に付着している蒸着物16がスクレーパー17により掻き落とされるため、一連の成膜工程において蒸着物16が落下することを防止することができ、したがって蒸着により形成される薄膜の品質を向上させることができる。
【0034】
また、実施の形態1によれば、シャッター巻取り部材14の巻取り回数が所定回数に到達するごとに、シャッター12の下面に付着している蒸着物16がスクレーパー17により掻き落とされ、蒸着物16が放出用容器11の上面へ落下することが防止されるため、放出用容器11の各放出孔11dから放出される蒸発材料に他の蒸発材料が混ざることが無くなり、したがってガラス基板1を所望の膜厚分布とすることができる。
【0035】
また、実施の形態1によれば、上述した蒸着物16の回収作業は、ガラス基板1の交換中や、蒸着装置稼動中、すなわちガラス基板1に対して薄膜を形成しつつ行われるため、蒸着装置の稼働率を向上させることができる。
【0036】
なお、実施の形態1では、放出用容器11の放出孔11dは、放出用容器11の上面11cにおける長手方向の両側において短手方向に3つずつ形成されているとともに、上面11cの中央付近において短手方向に2つずつ2列形成されていたが、他の配置パターンでもよい。
【0037】
また、実施の形態1では、放出用容器11は、平面視が矩形状の箱体(直方体状)に形成されていたが、平面視で円状の箱体など他の形状であってもよい。
また、実施の形態1では、シャッター12が、放出用容器11と放出用容器11の上方に位置するガラス基板1との間に配置されるアップデポ方式の蒸着方法であったが、各部材および容器がそれぞれ逆方向に配置されるダウンデポ方式、もしくはアップデポ方式の状態で配置されている各部材および容器を90°回転させた状態の配置となるサイドデポ方式であってもよい。
【0038】
また、実施の形態1では、シャッター巻取り部材14の巻取り回数が所定回数に到達するごとに、スクレーパー17によりシャッター12の下面に付着している蒸着物16が掻き落とされていたが、ガラス基板1交換時や材料収納容器21交換時等の蒸着作業中断時に、巻取り回数に関係なくスクレーパー17により蒸着物16を掻き落としてもよい。この場合、回転指令が第2回転駆動部33に入力されて、スクレーパー17がシャッター12と接し、続いて第1回転駆動部32に開閉指令が入力されて、蒸着物16の掻き落としが実施され、そしてカウンタ42に入力された開閉指令はクリアされる。
[実施の形態2]
以下に、本発明の実施の形態2に係る蒸着装置について、図面を参照しながら説明する。
【0039】
なお、実施の形態1と実施の形態2の異なる箇所は、材料収納容器21の位置、シャッター12および放出用容器11などの構成であるため、本実施の形態2においては、これら異なる部分に着目して説明するとともに、他の構成部材については、実施の形態1と同一の番号を付して説明を行うものとする。また、実施の形態1では、図4に示すように、第1回転駆動部32はシャッター巻取り部材14を回転駆動させていたが、実施の形態2では、第1回転駆動部32はシャッター用回転軸52(後述する)を回転駆動させている。
【0040】
図5(a)に示すように、蒸着用容器3は、平面視が円形状の円筒型に形成され、材料収納容器21により蒸発された蒸発材料がガラス基板1に向かう飛翔経路Xを遮断または開放し、蒸発材料の供給制限を行うシャッター(遮蔽手段の一例)51と、このシャッター51の下面における偏心した位置に鉛直方向に接続され、第1回転駆動部32によって回転駆動されることにより、シャッター51を回転させるシャッター用回転軸52と、シャッター51の下方における飛翔経路Xを遮断しない位置に、シャッター用回転軸52を回転させることによりシャッター51により描かれる円の軌跡における半径方向に配置され、シャッター51の下面に付着している蒸着物16を掻き落とす断面が三角柱状のスクレーパー(除去手段)53と、スクレーパー53の下方に設けられ、スクレーパー53により掻き落とされた蒸着物16を回収する回収容器54などを備えている。
【0041】
図5(b)に示すように、シャッター用回転軸52およびシャッター51内には、冷却水を供給する冷却水供給部(図示せず)と接続された冷却水用配管(冷却手段の一例)55が設けらており、この冷却水用配管55は、シャッター用回転軸52内に設けられ、鉛直方向に直線状に形成されている配管55Aと、シャッター51内に設けられ、シャッター51の外周部に沿って円形状に形成されている配管55Bとから構成されている。なお、上記冷却水用配管55は、シャッター用回転軸52を支持する支持体内に設けられている配管(図示せず)と、回転継手(図示せず)を介して接続されている。
【0042】
以下に、上記した実施の形態2における作用を説明する。
蒸発材料を材料収納容器21からガラス基板1へ放出する際、蒸発材料をガラス基板1の表面へ均一に蒸着させるため、放出用容器11の上方に位置するシャッター51を回転させ、蒸発材料の放出量を調整する。なお、放出用容器11の上方にシャッター51が位置したとき、シャッター51の下面に複数の蒸着物16が付着することとなる。
【0043】
ここで、シャッター用回転軸52の回転数はカウンタ42によりカウントされており、制御部43は、カウンタ42から入力されたシャッター用回転軸52の回転数を入力して、その回転数が所定回数に到達したことを検知すると、第2回転駆動部32に回転指令を出力し、回転軸53aを回転駆動させ、スクレーパー53の先端をシャッター51の下面と接触させる。そして、スクレーパー53によりシャッター51の下面に付着している複数の蒸着物16が掻き落とされると、蒸着物16は落下し、収納容器54に収納される。
【0044】
このように、シャッター用回転軸52が所定回数回転するごとに、シャッター51の下面に付着している蒸着物16がスクレーパー17により掻き落とされるため、一連の成膜工程において蒸着物16が落下することが防止される。また、シャッター51のメンテナンスの回数が低減されるため、蒸着用容器3の開放やシャッター51のクリーニング等を行う作業員の手間が軽減される。
【0045】
また、上述した蒸着物16の回収作業は、ガラス基板1の交換中や、蒸着装置稼動中、すなわちガラス基板1に対して薄膜を形成しつつ行われるため、蒸着装置の稼働率が向上される。
【0046】
さらに、シャッター用回転軸52およびシャッター51内には冷却水用配管55を配設しており、冷却水供給部から冷却水用配管15へ約20℃の冷却水を循環させることにより、シャッター51が冷却され、材料収納容器21からガラス基板1への熱(輻射熱)の移動が抑制されるため、ガラス基板1での温度上昇が抑制され、したがってガラス基板1に配置されているマスクの熱膨張が阻止されて成膜精度が向上され、蒸着サイズが変化することを防止される。
【0047】
加えて、シャッター51は金属のみ(1つの材料)により形成されているため、複数の材料により複数のシャッターを構成する場合と比較して、シャッター51を製造するコストが低減される。
【0048】
以上のように実施の形態2によれば、シャッター用回転軸52が所定回数回転するごとに、シャッター51の下面に付着している蒸着物16がスクレーパー53により掻き落とされるため、一連の成膜工程において蒸着物16が落下することを防止することができ、したがって蒸着により形成される薄膜の品質を向上させることができる。
【0049】
また、実施の形態2によれば、上述した蒸着物16の回収作業は、ガラス基板1の交換中や、蒸着装置稼動中、すなわちガラス基板1に対して薄膜を形成しつつ行われるため、蒸着装置の稼働率を向上させることができる。
【0050】
なお、実施の形態2では、シャッター用回転軸52がシャッター51の下面における偏心した位置に鉛直方向に接続され、平面視が円形状の円筒型に形成されたシャッター51が使用されていたが、図6(a)に示すように、シャッター用回転軸52がシャッター61の円心に位置して鉛直方向に接続され、平面視が円形状の円筒型を扇形状に切り欠いたシャッター61を使用してもよい。
【0051】
このとき、シャッター用回転軸52およびシャッター61内に設けられている冷却水用配管62は、図6(b)に示すように、シャッター用回転軸52内に設けられ、鉛直方向に直線状に形成されている配管62Aと、シャッター61の外周部に沿って形成されている62Bとから構成される。この構成にについても、上記実施の形態2と同様の効果が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0052】
【図1】本発明の実施の形態1における蒸着装置の縦断面図である。
【図2】同蒸着装置の要部の斜視図である。
【図3】同シャッターの平面図である。
【図4】同蒸着装置の制御ブロック図である。
【図5】本発明の実施の形態2における蒸着装置であり、(a)は縦断面図、(b)は斜視図である。
【図6】本発明の実施の形態2における他の蒸着装置であり、(a)は縦断面図、(b)は斜視図である。
【符号の説明】
【0053】
1 ガラス基板(被蒸着部材)
3 蒸着用容器
11d 放出孔
12 シャッター(遮蔽手段)
12e 開口部
13 テンションローラ(張り調整手段)
14 シャッター巻取り部材(巻取り手段)
15 冷却水用配管(冷却手段)
16 蒸着物
17 スクレーパー(除去手段)
X 飛翔経路

【特許請求の範囲】
【請求項1】
蒸発された蒸着材料である蒸発材料を被蒸着部材に付着させて蒸着を行う蒸着装置であって、
前記被蒸着部材が配置されて蒸着が行われる蒸着用容器内に、
前記蒸発材料を放出する放出孔が形成され、前記放出孔から前記被蒸着部材に向かう前記蒸発材料の飛翔経路を遮断または開放する遮蔽手段と、
前記遮蔽手段に付着した蒸着材料である蒸着物を掻き落とす除去手段
を備えたこと
を特徴とする蒸着装置。
【請求項2】
前記遮蔽手段は、シート状に形成され、前記蒸発材料の前記飛翔経路を開放する開口部を有すること
を特徴とする請求項1に記載の蒸着装置。
【請求項3】
前記遮蔽手段の巻取りを行う巻取り手段を備え、前記巻取り手段により前記飛翔経路の遮断または開放が行われること
を特徴とする請求項2に記載の蒸着装置。
【請求項4】
前記遮蔽手段の張りを均等にする張り調整手段を備え、前記張り調整手段に前記遮蔽手段を冷却する冷却手段を具備したこと
を特徴とする請求項2または請求項3に記載の蒸着装置。
【請求項5】
前記除去手段は、前記飛翔経路外に配置されていること
を特徴とする請求項1から請求項4のいずれか1項に記載の蒸着装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2006−104497(P2006−104497A)
【公開日】平成18年4月20日(2006.4.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−289459(P2004−289459)
【出願日】平成16年10月1日(2004.10.1)
【出願人】(000005119)日立造船株式会社 (764)
【Fターム(参考)】