説明

蓄冷器式冷凍機

【課題】軸受部材の内部空間から潤滑剤が流出する量を低減でき、軸受部材の内部空間に異物が混入する量を低減できるとともに、軸受部材のシール部材の変形を防止できる蓄冷器式冷凍機を提供する。
【解決手段】シリンダと、蓄冷器と、蓄冷器を往復駆動するための駆動力を発生する回転駆動部と、回転駆動部により回転駆動される回転部材31aと、同一の回転軸RAを中心として相対回転可能に設けられた内輪部材61及び外輪部材62と、回転軸RAに沿って内輪部材61及び外輪部材62の前後両側に各々が設けられた2つのシール部材63−1、63−2とを含み、回転部材31aを回転可能に支持する軸受部材60とを有する。シール部材63−1、63−2は、内輪部材61及び外輪部材62のいずれか一方の部材に固定されるとともに、他方の部材との間に隙間Gが形成されるように設けられたものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、冷媒ガスを膨張させて発生した冷熱を蓄冷器に蓄冷する蓄冷器式冷凍機に関する。
【背景技術】
【0002】
4K程度の極低温を得るための極低温冷凍機として、例えばギフォード・マクマホン(Gifford-McMahon;GM)冷凍機が用いられている。
【0003】
GM冷凍機は、圧縮機からの例えばヘリウムガスよりなる冷媒ガスをシリンダ内に形成された膨張空間に供給し、供給した冷媒ガスを膨張空間で膨張させることによって、冷熱を発生する。
【0004】
GM冷凍機の各段は、シリンダと、シリンダ内に設けられたディスプレーサを有する。ディスプレーサは、シリンダ内に往復動可能に設けられており、ディスプレーサの一端とシリンダとの間に膨張空間を形成する。ディスプレーサの内部には、膨張空間に冷媒ガスを供給及び排出するための冷媒ガス流路が形成されている。また、ディスプレーサの内部に形成された冷媒ガス流路には、冷媒ガスと接触して冷熱を蓄冷するための蓄冷材が収容されている。
【0005】
このようなGM冷凍機には、ディスプレーサを往復駆動するために、例えば、モータと、クランク部材と、スコッチヨークとを有するものがある(例えば、特許文献1参照)。また、このようなGM冷凍機には、シリンダを圧縮機の高圧側又は低圧側に切り替えて連通させるロータリー弁装置を有するものがある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2007−205581号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
GM冷凍機は、例えばモータの回転軸を回転可能に支持する軸受部材、クランク部材とスコッチヨークとの間に設けられた軸受部材、又は、ロータリー弁装置のバルブ本体を回転可能に支持する軸受部材、等の軸受部材を有する。
【0008】
軸受部材は、内輪、外輪、転動体及び保持器を有する。内輪及び外輪は、同一の回転軸を中心として相対回転可能に設けられている。内輪と外輪との間には、例えば球形状を有する転動体が、保持器に保持された状態で、回転軸を中心とした周方向に沿って等間隔に設けられている。
【0009】
このような軸受部材には、回転軸に沿って内輪及び外輪の前後両側に潤滑剤を封入するための2枚のシール部材が設けられているものもある。内輪と外輪と2枚のシール部材とにより囲まれた内部空間には、潤滑剤が封入されている。2枚のシール部材は、外輪に固定されている。
【0010】
ところが、潤滑剤を封入するために、シール部材は内輪と接触しているため、内輪と外輪と2枚のシール部材とにより囲まれた内部空間は、軸受部材の外部に対して気密性を有する。また、ロータリー弁装置によりシリンダを圧縮機の高圧側又は低圧側に切り替えて連通させる際に、軸受部材の外部の圧力が大きく変動する。そして、軸受部材の外部の圧力の変動に伴って軸受部材の内部空間と外部との間に大きな圧力差が発生し、発生した圧力差によりシール部材が大きな力を受け、変形するおそれがある。
【0011】
また、上記した課題は、GM冷凍機のみならず、蓄冷材を含み、冷媒ガスを膨張させて発生させた冷熱を蓄冷材に蓄冷する蓄冷器を備えた各種の蓄冷器式冷凍機にも共通する課題である。
【0012】
本発明は上記の点に鑑みてなされたものであり、軸受部材の内部空間から潤滑剤が流出する量を低減でき、軸受部材の内部空間に異物が混入する量を低減できるとともに、軸受部材のシール部材の変形を防止できる蓄冷器式冷凍機を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記の課題を解決するために本発明では、次に述べる手段を講じたことを特徴とするものである。
【0014】
本発明は、冷媒ガスを膨張させるためのシリンダと、前記シリンダ内に往復動可能に設けられ、内部に蓄冷材が収容されてなるとともに、前記冷媒ガスの膨張に伴って発生した冷熱を前記蓄冷材に蓄冷する蓄冷器と、前記蓄冷器を往復駆動するための駆動力を発生する回転駆動部と、前記回転駆動部により回転駆動される回転部材と、同一の回転軸を中心として相対回転可能に設けられた内輪部材及び外輪部材と、前記回転軸に沿って前記内輪部材及び前記外輪部材の前後両側に各々が設けられた、前記内輪部材と前記外輪部材との間に潤滑剤を封入するための2つのシール部材とを含み、前記回転部材を回転可能に支持する軸受部材とを有し、前記2つのシール部材は、前記内輪部材及び前記外輪部材のいずれか一方の部材に固定されるとともに、他方の部材との間に隙間が形成されるように設けられたものである、蓄冷器式冷凍機である。
【0015】
また、本発明は、上述の蓄冷器式冷凍機において、前記2つのシール部材は、少なくとも前記隙間を挟んで前記他方の部材に対向する部分が、樹脂よりなるものである。
【0016】
また、本発明は、上述の蓄冷器式冷凍機において、前記隙間の幅寸法が10〜100μmである。
【0017】
また、本発明は、上述の蓄冷器式冷凍機において、前記回転部材は、前記回転駆動部の回転軸である。
【0018】
また、本発明は、上述の蓄冷器式冷凍機において、前記回転部材は、クランク部材であり、回転駆動される前記クランク部材の回転駆動力を往復駆動力に変換して前記ディスプレーサを往復駆動するスコッチヨークを有し、前記軸受部材は、前記スコッチヨークに設けられたものである。
【0019】
また、本発明は、上述の蓄冷器式冷凍機において、前記シリンダから吸入した冷媒ガスを圧縮し、圧縮した冷媒ガスを前記シリンダへ吐出する圧縮機を有し、前記回転部材は、前記シリンダを、前記圧縮機の吸入側又は吐出側に切り替えて連通させるロータリーバルブである。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、軸受部材の内部空間から潤滑剤が流出する量を低減でき、軸受部材の内部空間に異物が混入する量を低減できるとともに、軸受部材のシール部材の変形を防止できる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】実施の形態に係るGM冷凍機の構成を示す断面図である。
【図2】軸受部材を拡大して示す斜視図である。
【図3】スコッチヨーク機構の分解斜視図である。
【図4】ロータリー弁装置の分解斜視図である。
【図5】軸受部材の構成を示す断面図である。
【図6】比較例1に係るGM冷凍機の軸受部材の構成を示す断面図である。
【図7】比較例2に係るGM冷凍機の軸受部材の構成を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
次に、本発明を実施するための形態について図面と共に説明する。
(実施の形態)
図1を参照し、実施の形態に係る蓄冷器式冷凍機について、GM冷凍機を例示して説明する。GM冷凍機は、数K〜20K程度の極低温を得るのに適した2段構成を有する。
【0023】
図1は、本実施の形態に係るGM冷凍機の構成を示す断面図である。図2は、軸受部材60を拡大して示す斜視図である。図3は、スコッチヨーク機構32の分解斜視図である。図4は、ロータリー弁装置40の分解斜視図である。
【0024】
GM冷凍機は、圧縮機1、シリンダ部2及びハウジング部3を有する。
【0025】
圧縮機1は、冷媒ガス(ヘリウムガス)を低圧側1aから吸入する。そして、吸入した冷媒ガスを圧縮して圧力を高めると共に冷却し、高圧側1bへと吐出する。高圧側1bの圧力は、例えば2MPa程度とすることができ、低圧側1aの圧力は、例えば0.5MPa程度とすることができる。
【0026】
シリンダ部2は、第1段目シリンダ11、第2段目シリンダ12、第1段目ディスプレーサ13、第2段目ディスプレーサ14、内部空間15、16、蓄冷材17、18を有する。
【0027】
第1段目シリンダ11、第2段目シリンダ12は、上下2段に配置されている。第1段目シリンダ11内、及び、第2段目シリンダ12内には、それぞれ第1段目ディスプレーサ13、第2段目ディスプレーサ14が、摺動しながら往復動可能に設けられている。
【0028】
第1段目ディスプレーサ13、第2段目ディスプレーサ14と、第1段目シリンダ11、第2段目シリンダ12との間には、膨張空間21、22、23が形成されている。第1段目ディスプレーサ13の内部には、内部空間15が形成されている。第2段目ディスプレーサ14の内部には、内部空間16が形成されている。内部空間15、16には、それぞれ蓄冷材17、18が収容されている。
【0029】
膨張空間21、22、23相互の間は、内部空間15、16、並びに第1段目ディスプレーサ13内及び第2段目ディスプレーサ14内に設けられた冷媒ガス流路L1〜L4により接続されている。従って、内部空間15、16は、膨張空間21、22、23に冷媒ガスを供給及び排出するための冷媒ガス流路でもある。
【0030】
また、第1段目シリンダ11、第2段目シリンダ12の下部外周には、それぞれフランジ19、20が熱的に結合するように設けられている。
【0031】
なお、後述するように、第1段目ディスプレーサ13、第2段目ディスプレーサ14は、それぞれ膨張空間21、22における冷媒ガスの膨張に伴って発生した冷熱を蓄冷材17、18に蓄冷するものであり、本発明における蓄冷器に相当する。
【0032】
図1に示すように、ハウジング部3は、駆動装置30及びロータリー弁装置40を有する。
【0033】
駆動装置30は、モータ31及びスコッチヨーク機構32を有する。モータ31は回転駆動力を発生する。なお、モータ31は、本発明における回転駆動部に相当する。
【0034】
図1に示すように、モータ31の回転軸31aは、回転軸31aに沿ってモータ31の前後両側に設けられた軸受部材60により、回転可能に支持されている。図2に示すように、軸受部材60は、互いに相対回転可能に設けられた内輪61、外輪62及びシール部材63を有する。シール部材63は、外輪62に固定されるとともに、内輪61との間に隙間Gが形成されるように設けられている。内輪61は、回転軸31aに固定されている。その他の軸受部材60の詳細な構造については、図5を用いて後述する。
【0035】
図3に示すように、スコッチヨーク機構32は、クランク部材33及びスコッチヨーク34を有し、モータ31で発生した回転駆動力を往復駆動力に変換し、第1段目ディスプレーサ13及び第2段目ディスプレーサ14を往復駆動するためのものである。
【0036】
クランク部材33は、モータ31の回転軸31aに固定されており、モータ31に回転駆動される。クランク部材33は、モータ31の回転軸31aに取り付けられる位置から偏心した位置にクランクピン33bを設けた構成とされている。従って、クランク部材33をモータ31の回転軸31aに取り付けると、回転軸31aとクランクピン33bは、偏心した状態となる。
【0037】
スコッチヨーク34は、ヨーク板35、上下軸36、及び軸受部材60Aを有する。スコッチヨーク34は、ハウジング部3内で図1及び図3におけるZ1、Z2方向に往復移動可能に設けられている。ヨーク板35の中央上下位置には、上下軸36が上下方向(Z1、Z2方向)に延出するように設けられている。なお、上下軸36は、摺動軸受38a、38bにより上下方向(Z1、Z2方向)に摺動可能に支持されている。
【0038】
ヨーク板35には、図3における矢印X1、X2方向に延在する横長窓35aが形成されており、横長窓35a内には、軸受部材60Aが設けられている。軸受部材60Aは、横長窓35a内で矢印X1、X2方向に転動可能に設けられている。
【0039】
軸受部材60Aは、互いに相対回転可能に設けられた内輪61、外輪62及びシール部材63を有し、前述した軸受部材60と同様に構成されている。シール部材63は、外輪62に固定されるとともに、内輪61との間に隙間Gが形成されるように設けられている。内輪61は、クランクピン33bに固定されている。その他の軸受部材60Aの詳細な構造については、図5を用いて後述する軸受部材60と同様である。
【0040】
クランクピン33bが軸受部材60Aに固定された状態で回転軸31aを回転すると、クランクピン33bは、円弧を描くように回転(偏心回転)し、スコッチヨーク34は、図3における矢印Z1、Z2方向に往復動する。この際、軸受部材60Aは、横長窓35a内を図3中矢印X1、X2方向に往復移動する。
【0041】
スコッチヨーク34の下部に設けられた上下軸36は、第1段目ディスプレーサ13に連結されている。よって、スコッチヨーク34は、第1段目ディスプレーサ13を、図1における矢印Z1、Z2方向に往復駆動する。
【0042】
なお、クランク部材33はクランクピン33bの軸方向(Y1、Y2方向)への移動が拘束されており、スコッチヨーク34もクランクピン33bの軸方向(Y1、Y2方向)への移動が拘束されている。
【0043】
また、クランクピン33bは、本発明におけるクランク部材に相当する。
【0044】
図1に示すように、ロータリー弁装置40は、圧縮機1と第1段目シリンダ11及び第2段目シリンダ12との間に設けられている。ロータリー弁装置40は、冷媒ガスの流れを制御するためのものである。具体的には、ロータリー弁装置40は、第1段目シリンダ11及び第2段目シリンダ12を、圧縮機1の高圧側1bに切り替えて連通させる。このとき、圧縮機1の高圧側1bから吐出された冷媒ガスは、第1段目シリンダ11、第2段目シリンダ12内に吸気される。また、ロータリー弁装置40は、第1段目シリンダ11及び第2段目シリンダ12を、圧縮機1の低圧側1aに切り替えて連通させる。このとき、第1段目シリンダ11、第2段目シリンダ12内から排気された冷媒ガスは、ハウジング部3の内部に設けられた空間4、ハウジング部3の上側に設けられた、空間4と連通する低圧側配管5を通り、圧縮機1の低圧側1aに吸入される。このような動作を繰り返すことによって、ロータリー弁装置40は、第1段目シリンダ11及び第2段目シリンダ12を、圧縮機1の低圧側1a又は高圧側1bに切り替えて連通させる。なお、圧縮機1の低圧側1aは、本発明における吸入側に相当し、圧縮機1の高圧側1bは、本発明における吐出側に相当する。
【0045】
図1及び図4に示すように、ロータリー弁装置40は、バルブ本体41とバルブプレート42とを有する。バルブ本体41及びバルブプレート42は、平坦な面を有し、この平坦な面同士が面接触している。
【0046】
バルブ本体41は、ハウジング部3内に、固定ピン43で固定される。一方、バルブプレート42は、図3に示すように、クランクピン33bがクランク軸33a(モータ31の回転軸31a)を中心として回転(偏心回転)することによって、バルブプレート42が回転するように、クランクピン33bの先端に係合されている。
【0047】
図1及び図4に示すように、バルブプレート42は、軸受部材60Bにより回転可能に支持されている。軸受部材60Bは、互いに相対回転可能に設けられた内輪61、外輪62及びシール部材63を有し、前述した軸受部材60と同様に構成されている。シール部材63は、外輪62に固定されるとともに、内輪61との間に隙間Gが形成されるように設けられている。内輪61は、バルブプレート42に固定されている。その他の軸受部材60Bの詳細な構造については、図5を用いて後述する軸受部材60と同様である。
【0048】
なお、図4では、図示を容易にするために、軸受部材60Bは点線により表示されている。また、バルブプレート42は、本発明におけるロータリーバルブに相当する。
【0049】
バルブ本体41の中心には、圧縮機1の高圧側1bに接続される冷媒ガス吸気孔44が貫通されている。図4に示すように、バルブプレート側端面45には、冷媒ガス吸気孔44を中心とする同心円上に円弧状溝46が設けられている。バルブ本体41には、一端を円弧状溝46に開口し、バルブ本体41内を通って他端をバルブ本体41の側面に吐出孔47として開口した通孔48が穿設されている。また、吐出孔47は、通路49(図1参照)を介して膨張空間23に連通している。
【0050】
バルブプレート42のバルブ本体側端面50には、その中心から半径方向に延びる溝51が設けられている。また、バルブプレート42のバルブ本体側端面50から反対側端面52まで貫通するように、バルブ本体41の円弧状溝46と同一円周上の位置に、円弧状孔53が穿設されている。
【0051】
冷媒ガス吸気孔44、溝51、円弧状溝46、及び通孔48により吸気弁が構成される。また、通孔48、円弧状溝46、及び円弧状孔53により排気弁が構成される。
【0052】
スコッチヨーク34がZ1、Z2方向に往復移動すると、第1段目ディスプレーサ13、第2段目ディスプレーサ14は、Z1、Z2方向に往復駆動され、それぞれ第1段目シリンダ11内、第2段目シリンダ12内を、下死点LPと上死点UPとの間で往復動する。
【0053】
第1段目ディスプレーサ13、第2段目ディスプレーサ14が下死点LPに達する際に、排気弁が閉じるとともに、通孔48、円弧状溝46、溝51との間に冷媒ガス流路が形成される。高圧の冷媒ガスは、ハウジング部3内の通路49を経て膨張空間23に流れ始める。その後、第1段目ディスプレーサ13、第2段目ディスプレーサ14は下死点LPを過ぎて上昇を始め、冷媒ガスは蓄冷材17、18を上から下に通過し、膨張空間21、22に充填されてゆく。
【0054】
そして、第1段目ディスプレーサ13、第2段目ディスプレーサ14が上死点UPに達する際に、吸気弁は閉じるとともに、通孔48と円弧状溝46、円弧状孔53との間に冷媒ガス流路が形成される。膨張空間21、22において、高圧の冷媒ガスは、断熱膨脹することによって冷熱を発生させ、発生した冷熱によりフランジ19、20を冷却するとともに、蓄冷材17、18を冷却しながら下から上に通過し、空間4、低圧側配管5を通って圧縮機1の低圧側1aに流れ始める。このとき、発生した冷熱は、蓄冷材17、18に蓄冷される。
【0055】
その後、第1段目ディスプレーサ13、第2段目ディスプレーサ14が下死点LPに達する際に、排気弁は閉じ、吸気弁が開いて1サイクルを終了する。このようにして、冷媒ガスの圧縮、膨張のサイクルを繰り返すことによって、冷凍機は冷熱を発生し、発生した冷熱を蓄冷することができる。
【0056】
なお、ロータリー弁装置40に代え、ハウジング部3の外部であって圧縮機1側に吸気弁及び排気弁により構成されている切替え装置を設け、切替え装置により、圧縮機1と膨張空間21〜23とを、ディスプレーサの往復動と同期して吸気弁及び排気弁が切り替え可能に介されるように接続してもよい。そして、第1段目ディスプレーサ13、第2段目ディスプレーサ14を往復動する際に、切替え装置により、膨張空間21〜23と圧縮機1の低圧側1a、高圧側1bとの接続を切り替えることにより、冷媒ガスの圧縮、膨張のサイクルを繰り返すことができる。このときは、軸受部材60Bは設けられない。
【0057】
次に、軸受部材60、60A、60Bの構成について説明する。以下では、軸受部材60、60A、60Bを代表し、軸受部材60について説明するが、軸受部材60A、60Bも、軸受部材60と同様な構成とすることができる。
【0058】
図5は、軸受部材60の構成を示す断面図である。図5では、内輪61に固定されている回転軸31aも合わせて図示している。なお、軸受部材60Aでは、回転軸31aに代え、クランクピン33bが内輪61に固定されている。また、軸受部材60Bでは、回転軸31aに代え、バルブプレート42が内輪61に固定されている。
【0059】
図5に示すように、軸受部材60は、内輪61、外輪62、シール部材63、転動体64及び保持器65を有する。
【0060】
なお、内輪61は本発明における内輪部材に相当し、外輪62は本発明における外輪部材に相当する。
【0061】
内輪61及び外輪62は、同一の回転軸RAを中心として相対回転可能に設けられている。外輪62の内部には、内輪61が組み込まれている。
【0062】
外輪62の内周面と内輪61の外周面との間には、内輪61に対して外輪62を相対回転自在にするための転動体64が設けられている。転動体64として、例えば球形状(ボールベアリング)、円筒形状(ニードルベアリング)などを用いることができる。また、外輪62と内輪61との間には、回転軸RAを中心とする周方向に沿って隣接する転動体64同士の間隔を一定にした状態で、転動体64を保持するための保持器65が設けられている。
【0063】
図1及び図2を用いて前述したように、内輪61は回転軸31aに固定されている。一方、外輪62はGM冷凍機のハウジング部3に固定されている。従って、内輪61及び外輪62よりなる軸受部材60は、GM冷凍機において回転軸31aを回転可能に支持する。
【0064】
内輪61、外輪62、転動体64及び保持器65の材質として、例えば、SUS440C等のマルテンサイト系ステンレス鋼又はフェライト系ステンレス鋼に適当な熱硬化処理を施したもの、SUS630等の析出硬化系ステンレス鋼、あるいは、SUS316等のオーステナイト系ステンレス鋼に表面硬化処理を施したもの、等を用いることができる。
【0065】
内輪61と外輪62との間に形成された内部空間S内には、例えばグリースよりなる潤滑剤が封入されている。そして、回転軸RAに沿って内輪61と外輪62の前後両側(図5における左右両側)には、シール部材63−1、63−2が設けられている。シール部材63−1、63−2は、内輪61と外輪62との間に潤滑剤を封入するためのものである。
【0066】
シール部材63−1、63−2は、外輪62に固定されている。シール部材63−1、63−2は、回転軸RAを中心とする周方向に沿って、外輪62に例えば接着によって固定されており、外輪62との間に隙間は形成されていない。一方、シール部材63−1、63−2は、内輪61には固定されていない。シール部材63−1、63−2は、回転軸RAを中心とする周方向に沿って、内輪61との間に隙間Gが形成されるように設けられている。これにより、内部空間Sから潤滑剤が流出する量を低減でき、内部空間Sに異物が混入する量を低減できるとともに、シール部材63−1、63−2の変形を防止できる。
【0067】
ここで、内部空間Sから潤滑剤が流出する量を低減でき、内部空間Sに異物が混入する量を低減できるとともに、シール部材63−1、63−2の変形を防止できる作用効果について、比較例1、2を参照しながら説明する。
【0068】
図6は、比較例1に係るGM冷凍機の軸受部材60aの構成を示す断面図である。図7は、比較例2に係るGM冷凍機の軸受部材60bの構成を示す断面図である。
【0069】
比較例1では、軸受部材60aには、シール部材が設けられておらず、シール部材に代え、鋼板よりなるシールド板63a−1、63a−2が設けられている。シールド板63a−1、63a−2は、内輪61と大きく離れて設けられており、潤滑剤を封止する機能を有していない。従って、潤滑剤が、シールド板63a−1、63a−2と内輪61との間LGを通って内部空間Sから流出する量が増加する。また、GM冷凍機の各摺動部から発生する磨耗粉等の異物が、シールド板63a−1、63a−2と内輪61との間LGを通って内部空間Sに混入する量が増加する。
【0070】
また、比較例2では、軸受部材60bには、シール部材63b−1、63b−2は設けられているものの、シール部材63b−1、63b−2と内輪61との間に隙間が形成されておらず、接触している。このため、内輪61と外輪62と2枚のシール部材63b−1、63b−2とにより囲まれた内部空間Sは、軸受部材60bの外部に対して気密性を有する。また、前述したように、シリンダ11、12を圧縮機1の高圧側1b又は低圧側1aに切り替えて連通させる際に、ハウジング部3の内部に設けられた空間4の圧力は、高圧側1bの例えば2MPaと低圧側1aの例えば0.5MPaとの間で変動する。そして、空間4の圧力の変動に伴って軸受部材60bの内部空間Sと外部との間に大きな圧力差が発生し、発生した圧力差によりシール部材63b−1、63b−2が大きな力を受け、変形するおそれがある。また、内輪61とシール部材63b−1、63b−2とが接触して摺動し、内輪61と外輪62とを相対回転させるのに必要なトルクが増加するおそれがある。
【0071】
一方、本実施の形態では、シール部材63−1、63−2が、外輪62に固定されるとともに、内輪61との間に隙間Gが形成されるように設けられている。これにより、潤滑剤が、シール部材63−1、63−2と内輪61との間を通って内部空間Sから流出する量を低減することができる。また、GM冷凍機の各摺動部から発生する磨耗粉等の異物が、シール部材63−1、63−2と内輪61との間を通って内部空間Sに混入する量を低減することができる。また、シリンダ11、12を圧縮機1の高圧側1b又は低圧側1aに切り替えて連通させる際に、ハウジング部3の空間4における圧力の変動により、シール部材63−1、63−2が変形することを防止できる。また、内輪61とシール部材63−1、63−2とが接触して摺動し、内輪61と外輪62とを相対回転させるのに必要なトルクが増加することを防止できる。
【0072】
回転軸RAを中心とする径方向に沿った隙間Gの幅寸法GWは、10〜100μmであることが好ましい。幅寸法GWが100μmを超える場合、内部空間Sから潤滑剤が流出する量が増加するか、あるいは、内部空間Sに異物が混入する量が増加するおそれがあるためである。また、幅寸法GWが10μm未満の場合、内部空間Sの気密性が高まり、シリンダ11、12を圧縮機1の高圧側1b又は低圧側1aに切り替えて連通させる際に、ハウジング部3の空間4における圧力の変動により、シール部材63−1、63−2が変形するおそれがあるためである。あるいは、幅寸法GWが10μm未満の場合、寸法公差等に起因して内輪61とシール部材63−1、63−2とが一部接触して摺動し、内輪61と外輪62とを相対回転させるのに必要なトルクが増加するおそれがあるためである。
【0073】
また、シール部材63−1、63−2は、少なくとも隙間Gを挟んで内輪61に対向する部分が、樹脂よりなることが好ましく、樹脂として、NBRやACN(アクリルゴム)等の合成ゴム、PTFE等のフッ素樹脂などを用いることがより好ましい。これにより、寸法公差等に起因して内輪61とシール部材63−1、63−2とが一部接触して摺動した場合でも、トルクの増加分を少なくすることができるため、幅寸法GWを小さく設定することができ、潤滑剤の流出量及び異物の混入量を更に低減することができる。また、内輪61とシール部材63−1、63−2とが一部接触して摺動した場合でも、内輪61等が損傷することを防止できる。その結果、軸受部材60の寿命を長くすることができる。
【0074】
以上、本発明の好ましい実施の形態について記述したが、本発明はかかる特定の実施の形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲内に記載された本発明の要旨の範囲内において、種々の変形・変更が可能である。
【0075】
例えば、本実施の形態では、シール部材63−1、63−2が、外輪62に固定されるとともに、内輪61との間に隙間Gが形成されるように設けられている例について説明した。しかし、シール部材63−1、63−2が、内輪61に固定されるとともに、外輪62との間に隙間Gが形成されるように設けられていてもよい。すなわち、シール部材63−1、63−2は、内輪61及び外輪62のいずれか一方の部材に固定されるとともに、他方の部材との間に隙間Gが形成されるように設けられていてもよい。
【0076】
また、3つの軸受部材60、60A、60Bのいずれか1つ又は2つにおいて、シール部材63−1、63−2が、内輪61及び外輪62のいずれか一方の部材に固定されるとともに、他方の部材との間に隙間Gが形成されるように設けられていてもよい。
【符号の説明】
【0077】
1 圧縮機
2 シリンダ部
3 ハウジング部
11 第1段目シリンダ
12 第2段目シリンダ
13 第1段目ディスプレーサ
14 第2段目ディスプレーサ
15、16 内部空間
17、18 蓄冷材
21、22、23 膨張空間
30 駆動装置
31 モータ
31a 回転軸
32 スコッチヨーク機構
33 クランク部材
33a クランク軸
33b クランクピン
34 スコッチヨーク
40 ロータリー弁装置
41 バルブ本体
42 バルブプレート
60、60A、60B 軸受部材
61 内輪
62 外輪
63、63−1、63−2 シール部材
64 転動体
65 保持器

【特許請求の範囲】
【請求項1】
冷媒ガスを膨張させるためのシリンダと、
前記シリンダ内に往復動可能に設けられ、内部に蓄冷材が収容されてなるとともに、前記冷媒ガスの膨張に伴って発生した冷熱を前記蓄冷材に蓄冷する蓄冷器と、
前記蓄冷器を往復駆動するための駆動力を発生する回転駆動部と、
前記回転駆動部により回転駆動される回転部材と、
同一の回転軸を中心として相対回転可能に設けられた内輪部材及び外輪部材と、前記回転軸に沿って前記内輪部材及び前記外輪部材の前後両側に各々が設けられた、前記内輪部材と前記外輪部材との間に潤滑剤を封入するための2つのシール部材とを含み、前記回転部材を回転可能に支持する軸受部材と
を有し、
前記2つのシール部材は、前記内輪部材及び前記外輪部材のいずれか一方の部材に固定されるとともに、他方の部材との間に隙間が形成されるように設けられたものである、蓄冷器式冷凍機。
【請求項2】
前記2つのシール部材は、少なくとも前記隙間を挟んで前記他方の部材に対向する部分が、樹脂よりなるものである、請求項1に記載の蓄冷器式冷凍機。
【請求項3】
前記隙間の幅寸法が10〜100μmである、請求項1又は請求項2に記載の蓄冷器式冷凍機。
【請求項4】
前記回転部材は、前記回転駆動部の回転軸である、請求項1から請求項3のいずれかに記載の蓄冷器式冷凍機。
【請求項5】
前記回転部材は、クランク部材であり、
回転駆動される前記クランク部材の回転駆動力を往復駆動力に変換して前記ディスプレーサを往復駆動するスコッチヨークを有し、
前記軸受部材は、前記スコッチヨークに設けられたものである、請求項1から請求項3のいずれかに記載の蓄冷器式冷凍機。
【請求項6】
前記シリンダから吸入した冷媒ガスを圧縮し、圧縮した冷媒ガスを前記シリンダへ吐出する圧縮機を有し、
前記回転部材は、前記シリンダを、前記圧縮機の吸入側又は吐出側に切り替えて連通させるロータリーバルブである、請求項1から請求項3のいずれかに記載の蓄冷器式冷凍機。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2013−2687(P2013−2687A)
【公開日】平成25年1月7日(2013.1.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−132506(P2011−132506)
【出願日】平成23年6月14日(2011.6.14)
【出願人】(000002107)住友重機械工業株式会社 (2,241)
【Fターム(参考)】