説明

蓄圧器圧力目標値を決定するための方法、および、内燃機関の制御装置、および、コンピュータプログラム

【課題】構成要素の構造上の変更を行わないでその寿命を高める。
【解決手段】機関回転数およびトルク要求に基づいて蓄圧器圧力目標値を設定する第1の特性マップから複数の蓄圧器圧力目標値を取得し、機関システム量および平均機関回転数に基づいて蓄圧器圧力上昇勾配を設定する第2の特性マップから蓄圧器圧力上昇勾配を取得し、変速機の速度段および蓄圧器圧力に基づいて蓄圧器圧力上昇勾配に対する補正値を設定する第3の特性マップから取得される補正値により、取得された蓄圧器圧力上昇勾配を補正し、該補正された蓄圧器圧力上昇勾配を所定の最大値と最小値とのあいだに制限し、制限された蓄圧器圧力上昇勾配に基づいて取得された複数の蓄圧器圧力目標値から1つの蓄圧器圧力目標値を選択することによって現在の蓄圧器圧力目標値を形成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、レール圧力目標値が最大で、レール圧力目標値を変更するための最大勾配によって変更されかつ該最大勾配が内燃機関の作動パラメータに依存して特性マップから取り出される形式の、内燃機関の高圧レールに対するレール圧力目標値を決定するための方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ディーゼル機関に対する噴射系の持ちを確保するために、車両における負荷集団測定に基づいて、構成要素が上手く作動しないことに関する設計目標の維持が保証される。
【0003】
機関の組み立てにおいて、噴射系を現在の所普通には比較的高い圧力で作動する傾向が認められている。これにより、コストのかかる構成手段に依拠することなしに故障率を維持するという課題を充足するのは比較的困難になっている。現在の所、比較的高い作動圧力において構成要素の比較的高い寿命を実現するために、例えば材料選択のような措置が講ぜられる。これに付加的に、機関パラメータ適用期間に例えばレール圧力特性マップの設計、高圧閉ループ制御のような措置を講ずることができる。適用に関連した非常に多くの措置は機関特性、殊にその放出およびその出力特性に影響力を持っている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明の課題は、構成要素の構造上の変更を行わないでその寿命を高めることである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
この課題は、内燃機関の燃料供給システムの高圧領域の圧力を定める蓄圧器の圧力目標値である蓄圧器圧力目標値を決定するための方法であって、機関回転数(n)およびトルク要求(M)に基づいて蓄圧器圧力目標値を設定する第1の特性マップ(Kp)から、複数の蓄圧器圧力目標値(P_Rail_Soll)を取得し、機関システム量(InjCtl_qSetUnBal)および平均機関回転数(Eng_nAvrg)に基づいて蓄圧器圧力上昇勾配を設定する第2の特性マップ(Rail_dpSetPointInc_Map)から、蓄圧器圧力上昇勾配を取得し、変速機の速度段(Geabx_stGear)および蓄圧器圧力(RailCD_pPeak)に基づいて蓄圧器圧力上昇勾配に対する補正値を設定する第3の特性マップ(Rail_dpSetPointIncOfs_Map)から取得される補正値により、前記取得された蓄圧器圧力上昇勾配を補正し、該補正された蓄圧器圧力上昇勾配を所定の最大値と最小値とのあいだに制限し、該制限された蓄圧器圧力上昇勾配(Rail_dpSetPointInc)に基づいて前記取得された複数の蓄圧器圧力目標値から1つの蓄圧器圧力目標値を選択することによって、現在の蓄圧器圧力目標値を形成する方法によって解決される。
【図面の簡単な説明】
【0006】
【図1】燃料調量システムのブロック線図
【図2】レール圧力の目標値を決定する基本形態を示す略線図
【図3】レール圧力の勾配を決定する基本形態を示す略線図
【発明を実施するための形態】
【0007】
レール圧力目標値は、レール(蓄圧器)において予め定められた目標値として閉ループ制御される圧力である。内燃機関はディーゼル機関であっても、オットー機関であってもよい。内燃機関の作動パラメータは測定されたまたはモデル化された物理量、例えば目標回転数、実際回転数、目標噴射量、実際噴射量、実際レール圧力、機関システム量または内燃機関の種々の温度もしくは圧力量である。特性マップは入力値を出力値に結び付けかつ1次元または多次元のテーブルの形において、例えば制御装置のメモリに格納しておくことができる。
【0008】
有利には、最大勾配の値が下方への最小値および/または上方への最大値に制限されるようになっている。つまり勾配の最大値は両方の方向において制限され、これにより高すぎる勾配および低すぎる勾配、殊に勾配<0は排除される。
【0009】
冒頭に述べた形式の課題は、レール圧力目標値が最大で、レール圧力目標値を変更するための最大勾配によって変更されかつ該最大勾配が内燃機関の作動パラメータに依存して特性マップから取り出される形式の、内燃機関の高圧レールに対するレール圧力目標値を決定するための手段を備えている装置、殊に内燃機関の制御装置であって、前記作動パラメータは有段変速機の挿入された速度段および/またはレール圧力実際値を含んでいる装置によって解決される。
【0010】
冒頭に述べた課題は、プログラムがコンピュータにおいて実行されるとき、本発明の方法によるすべてのステップを実施するためのプログラムコードを備えているコンピュータプログラムによって解決される。
【実施例】
【0011】
次に本発明の実施例を添付図面に基づいて詳細に説明する。
【0012】
図1には、高圧噴射ポンプを備えている内燃機関の燃料供給システムの、本発明を理解する上で必要な部品が図示されている。図示のシステムは通例、コモンレールシステムと称される。100で燃料貯蔵容器が示されている。これはプレフィードポンプ110を介して高圧ポンプ125に接続されている。高圧ポンプ125は少なくとも1つのエレメント遮断弁を含んでいる。高圧ポンプ125はレール130に接続されている。レール130は蓄圧器とも称され、燃料導管を介して種々のインジェクタに接続されている。センサ140を用いてレールもしくは高圧領域全体における圧力の時間に依存した実際値P_Rail_Ist(t)が検出される。その際、時間依存性は付されている変数(t)によって表される。圧力閉ループ制御弁135を介してレール130は燃料貯蔵容器100に接続可能である。圧力閉ループ制御弁135はコイル136を用いて制御可能である。制御部160はエレメント遮断弁126にドライブ制御信号AP、インジェクタ131にドライブ制御信号Aおよび圧力閉ループ制御弁136に信号AVを供給する。制御部160は、内燃機関および/または内燃機関が駆動する自動車の作動状態を特徴付けている種々のセンサ165の種々の信号を処理する。この種の作動状態は例えば内燃機関の実際回転数n_istである。
【0013】
この装置は次のように動作する:貯蔵容器に存在している燃料はプレフィードポンプ110から高圧ポンプ125に搬送される。高圧ポンプ125は燃料を低圧領域から高圧領域に搬送する。高圧ポンプ125はレール130において非常に高い圧力を形成する。通例、外部点火される内燃機関に対するシステムの場合約30〜100barの圧力値が実現され、自己点火形内燃機関の場合約1000〜2000barの圧力値が実現される。インジェクタ131を介して燃料は高圧下で内燃機関の個々のシリンダに調量されるようになっている。センサ140を用いて、レールもしくは高圧領域全体におけるレール圧力実際値P_Rail_Ist(t)が検出されかつ制御部160においてレール圧力目標値P_Rail_Sollと比較される。この比較に依存して、圧力閉ループ制御弁135が制御される。所要燃料量が僅かである場合、高圧ポンプ125の搬送出力はエレメント遮断弁の相応のドライブ制御により段階的に低減されるようにすることができる。
【0014】
このためにレール圧力目標値P_Rail_Sollは、内燃機関の作動状態の種々様々なパラメータが入ってくるようになっている特性マップから取り出される。内燃機関のダイナミック作動、つまりトルク要求または回転数のようなパラメータが変化するとき、レール圧力目標値は突然ではなくて、時間遅延を以て変化される。このことは図2において、回転数n、要求されるトルクM等のような内燃機関の作動パラメータが特性マップKpに入ってくるので、特性マップKpからレール圧力に対する目標値P_Rail_Soll’(t)を取り出すことができる。先行する計算ステップの目標値P_Rail_Soll’(t−1)はその時点で特性マップKpから読み出されたP_Rail_Soll’(t)から減算されかつ勾配Rail_dpSetPointlncと比較される。それから両方の値の最小値が先行する計算ステップの目標値P_Rail_Soll’(t−1)に加算されかつこのようにして現在の目標値P_Rail_Soll(t)を形成する。
【0015】
図3には、レール圧力目標値P_Rail_Soll(t)を変更するための最大勾配Rail_dpSetPointIncの値を決定するための基本原理が示されている。公知の方法は、機関の定常的な作動点における要求に相応するレール圧力目標値を設定している。ダイナミックな機関利用ではとりわけ、閉ループ制御および騒音技術の理由から、レール圧力目標値特性マップの点が圧力上昇(例えばbar/sにおいて)に対するレール圧力勾配特性マップRail_dpSetpointInc_Mapと相互に結合される。この圧力上昇勾配特性マップは機関システム量InjCtl_qSetUnBalおよび機関回転数Eng_nAvrgに依存する。
【0016】
そこで本発明の実施例では、特性マップRail_dpSetpointInc_Mapにおいて、レール圧力が比較的高い状態にある場合に目標値をますます緩慢に得ることを目的として、速度段依存のGearbx_stGear、実際回転数依存のn_istおよびレール圧力依存のRaiCD_pを使用してレール圧力上昇勾配特性マップRail_dpSetPointInc_Mapのピーク低減が行われるようにしている。
【0017】
レール圧力実際値依存により、影響を及ぼすべき量に対する直接的な(システム量を介する手間をかけずに)介入操作が可能になる。速度段依存により選択な利用を可能にすることおよびレール圧力実際値依存を取り入れることにより、例えば低い速度段においてだけ影響力が及び、関連していない圧力領域には触れない。
【0018】
誤った適用により大きすぎる上昇勾配または≦0の上昇勾配が妨げられるように、両側での制限が可能である(Rail_dpSetpointInc_Max_CおよびRail_dpSetpointInc_Min_C)。
【0019】
圧力上昇に対するこの速度段依存のレール圧力低減勾配特性マップRail_dpSetpointIncOfs_MapはPT1フィルタの特性に等しい。
【0020】
「勾配の低減」(リダクショングラジェント)の巧妙な選択により、機関特性への影響を僅かに抑えることができる。
【符号の説明】
【0021】
100 燃料貯蔵容器、 110 プレフィードポンプ、 125 高圧ポンプ、 126 エレメント遮断弁、 130 レール、 131 インジェクタ、 135 圧力閉ループ制御弁、 136 コイル、 140 センサ、 160 制御部、 165 センサ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
内燃機関の燃料供給システムの高圧領域の圧力を定める蓄圧器の圧力目標値である蓄圧器圧力目標値を決定するための方法であって、
機関回転数(n)およびトルク要求(M)に基づいて蓄圧器圧力目標値を設定する第1の特性マップ(Kp)から、複数の蓄圧器圧力目標値(P_Rail_Soll)を取得し、
機関システム量(InjCtl_qSetUnBal)および平均機関回転数(Eng_nAvrg)に基づいて蓄圧器圧力上昇勾配を設定する第2の特性マップ(Rail_dpSetPointInc_Map)から、蓄圧器圧力上昇勾配を取得し、
変速機の速度段(Geabx_stGear)および蓄圧器圧力(RailCD_pPeak)に基づいて蓄圧器圧力上昇勾配に対する補正値を設定する第3の特性マップ(Rail_dpSetPointIncOfs_Map)から取得される補正値により、前記取得された蓄圧器圧力上昇勾配を補正し、
該補正された蓄圧器圧力上昇勾配を所定の最大値と最小値とのあいだに制限し、
該制限された蓄圧器圧力上昇勾配(Rail_dpSetPointInc)に基づいて前記取得された複数の蓄圧器圧力目標値から1つの蓄圧器圧力目標値を選択することによって、現在の蓄圧器圧力目標値を形成する
ことを特徴とする蓄圧器圧力目標値を決定するための方法。
【請求項2】
第1の計算時点で得られた第1の蓄圧器圧力目標値(P_Rail_Soll’(t−1))と、前記第1の計算時点より時間的に後の第2の計算時点で得られた第2の蓄圧器圧力目標値(P_Rail_Soll’(t))との差を取得し、
該差と前記制限された蓄圧器圧力上昇勾配(Rail_dpSetPointInc)とを比較して、小さいほうの値を選択し、
該選択された小さいほうの値を前記第1の蓄圧器圧力目標値(P_Rail_Soll’(t−1))に加算して、現在の蓄圧器圧力目標値を取得する、
請求項1記載の蓄圧器圧力目標値を決定するための方法。
【請求項3】
内燃機関の燃料供給システムの高圧領域の圧力を定める蓄圧器の圧力目標値である蓄圧器圧力目標値を決定する、内燃機関の制御装置であって、
複数の蓄圧器圧力目標値(P_Rail_Soll)を取得するために、機関回転数(n)およびトルク要求(M)に基づいて蓄圧器圧力目標値を設定している第1の特性マップ(Kp)と、
蓄圧器圧力上昇勾配を取得するために、機関システム量(InjCtl_qSetUnBal)および平均機関回転数(Eng_nAvrg)に基づいて蓄圧器圧力上昇勾配を設定している第2の特性マップ(Rail_dPSetPointInc_MAP)と、
取得された蓄圧器圧力上昇勾配を補正するために、変速機の速度段(Geabx_stGear)および蓄圧器圧力(RailCD_pPeak)に基づいて蓄圧器圧力上昇勾配に対する補正値を設定している第3の特性マップ(Rail_dpSetPointIncOfs_Map)と、
補正された蓄圧器圧力上昇勾配を所定の最大値と最小値とのあいだに制限する手段と、
制限された蓄圧器圧力上昇勾配(Rail_dPSetPointInc)に基づいて前記取得された複数の蓄圧器圧力目標値から1つの蓄圧器圧力目標値を選択することによって、現在の蓄圧器圧力目標値を形成する手段と
を有する
ことを特徴とする内燃機関の制御装置。
【請求項4】
第1の計算時点において得られた第1の蓄圧器圧力目標値(P_Rail_Soll’(t−1))と、該第1の計算時点より時間的に後の第2の計算時点において得られた第2の蓄圧器圧力目標値(P_Rail_Soll’(t))との差を取得する手段と、
該差と前記制限された蓄圧器圧力上昇勾配(Rail_dPSetPointInc)とを比較して、小さいほうの値を選択する手段と、
該選択された小さいほうの値を前記第1の蓄圧器圧力目標値(P_Rail_Soll’(t−1))に加算して、現在の蓄圧器圧力目標値を取得する手段と
を有する、
請求項3記載の内燃機関の制御装置。
【請求項5】
内燃機関の燃料供給システムの高圧領域の圧力を定める蓄圧器の圧力目標値である蓄圧器圧力目標値を決定するために、
内燃機関の制御装置としてのコンピュータに、
機関回転数(n)およびトルク要求(M)に基づいて蓄圧器圧力目標値を設定する第1の特性マップ(Kp)から、複数の蓄圧器圧力目標値(P_Rail_Soll)を取得するステップと、
機関システム量(InjCtl_qSetUnBal)および平均機関回転数(Eng_nAvrg)に基づいて蓄圧器圧力上昇勾配を設定する第2の特性マップ(Rail_dpSetPointInc_Map)から、蓄圧器圧力上昇勾配を取得するステップと、
変速機の速度段(Geabx_stGear)および蓄圧器圧力(RailCD_pPeak)に基づいて蓄圧器圧力上昇勾配に対する補正値を設定する第3の特性マップ(Rail_dpSetPointIncOfs_Map)から取得される補正値により、前記取得された蓄圧器圧力上昇勾配を補正するステップと、
該補正された蓄圧器圧力上昇勾配を所定の最大値と最小値とのあいだに制限するステップと、
該制限された蓄圧器圧力上昇勾配(Rail_dpSetPointInc)に基づいて前記取得された複数の蓄圧器圧力目標値から1つの蓄圧器圧力目標値を選択することによって、現在の蓄圧器圧力目標値を形成するステップと
を実行させる
コンピュータプログラム。
【請求項6】
さらに、前記コンピュータに、
第1の計算時点で得られた第1の蓄圧器圧力目標値(P_Rail_Soll’(t−1))と、前記第1の計算時点より時間的に後の第2の計算時点で得られた第2の蓄圧器圧力目標値(P_Rail_Soll’(t))との差を取得するステップと、
該差と前記制限された蓄圧器圧力上昇勾配(Rail_dpSetPointInc)とを比較して、小さいほうの値を選択するステップと、
該選択された小さいほうの値を前記第1の蓄圧器圧力目標値(P_Rail_Soll’(t−1))に加算して、現在の蓄圧器圧力目標値を取得するステップと
を実行させる、
請求項5記載のコンピュータプログラム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2012−233487(P2012−233487A)
【公開日】平成24年11月29日(2012.11.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−197653(P2012−197653)
【出願日】平成24年9月7日(2012.9.7)
【分割の表示】特願2009−524151(P2009−524151)の分割
【原出願日】平成19年7月16日(2007.7.16)
【出願人】(390023711)ローベルト ボツシユ ゲゼルシヤフト ミツト ベシユレンクテル ハフツング (2,908)
【氏名又は名称原語表記】ROBERT BOSCH GMBH
【住所又は居所原語表記】Stuttgart, Germany
【Fターム(参考)】