説明

薄膜の製造に使用されるシリコン材料

【課題】なるべくスプラッシュを発生させず、蒸発源に安定して供給できるシリコン材料を提供する。
【解決手段】薄膜を製造する際の蒸発源にシリコンを供給するために用いられる、棒状のシリコン材料であって、長軸方向に垂直な断面における中心から外周部に向かって、長さ90%の位置に存在する、それぞれ粒界で囲まれた複数の第一領域と、前記中心から前記外周部に向かって長さ50%の位置に存在する、それぞれ粒界で囲まれた複数の第二領域と、を含み、前記第一領域は長径の面積加重平均値が200μm以下であり、かつ前記第二領域は、長径の面積加重平均値が1000μm以上である、棒状のシリコン材料。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、薄膜の製造に使用されるシリコン材料に関する。
【背景技術】
【0002】
デバイスの高性能化、小型化に薄膜技術が幅広く展開されている。デバイスの薄膜化は、ユーザーに直接的なメリットをもたらすだけでなく、地球資源の保護、消費電力の低減といった環境側面からも重要な役割を果たしている。
【0003】
薄膜技術の進展には、薄膜製造方法の高効率化、安定化、高生産性化、低コスト化といった要請に応える必要がある。例えば、薄膜の生産性を高めるためには、長時間成膜技術が必須である。例えば、太陽電池やリチウムイオン二次電池の製造において、シリコンを各種基板へ蒸着させて薄膜を形成することが知られている。真空蒸着法による薄膜製造において長時間成膜を行うためには、蒸発源への材料供給が有効である。
【0004】
蒸発源に材料を供給するために、使用する原料や成膜条件等に応じて各種方法が選択される。具体的には、(i)粉状、粒状、ペレット状等の各種形状の材料を蒸発源に加える方法、(ii)棒状または線状の材料を蒸発源に浸す方法、(iii)液状の材料を蒸発源に流し込む方法が知られている。
【0005】
蒸発源の温度は、蒸発源に材料が加えられることに応じて変化する。蒸発源の温度変化は、材料の蒸発速度、すなわち成膜速度の変化を招く。そのため、蒸発源の温度変化を極力小さくすることが重要である。例えば特開昭62−177174号公報には、ルツボの上方にて材料を一旦溶解させた後、その溶解した材料をルツボ内に供給する技術が開示されている。また、棒状の原料を蒸発源の上方で先端部から順次溶解させ、溶解により生じた液滴を蒸発源に供給する方法もある。これらの供給方法は、蒸発源の熱的変動を小さくする上で有効である。
【0006】
棒状のシリコン材料は、例えば、シリコンの芯線を通電加熱し、該芯線上でトリクロロシランを水素と反応させ、多結晶シリコンを析出する方法により作製することができる(特許第3343508号公報参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開昭62−177174号公報
【特許文献2】特許第3343508号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
特開昭62−177174号公報に開示されているような、原料として棒状の材料をその先端より順次溶解して供給する方法は、蒸発源に与える温度変動が小さい点で優れている。しかし、この方法を用いる場合、蒸発源のルツボ内へ溶融原料を的確に流下させる必要がある。そのためには、棒状の材料の加熱範囲を限定し、急速加熱により材料の溶解開始点を制御する必要がある。
【0009】
また、原料にシリコン等の脆性材料を用いる場合、急速加熱時の熱膨張により棒状の材料が割れ、未溶解の材料がルツボ内に落下する可能性がある。ルツボ内に落下した未溶解の材料は、溶解時に溶解熱を吸収するため、ルツボ内の溶湯の温度を下げ、ルツボ内の材料の蒸発速度を低下させる。
【0010】
さらに、急速加熱時の熱膨張により棒状の材料が砕けた場合、加熱部より発生した微粉末がいわゆるスプラッシュとして飛散し、蒸着基板を破損するおそれがある。特に、電子線の照射によりルツボ内の材料を加熱する場合、電子線が照射された微粉末は電荷を帯びやすい。このため、微粉末同士の静電反発によって飛散が起こりやすくなり、スプラッシュによる基板の損傷が顕著となる。
【0011】
特に、特許第3343508号公報に開示されているような、トリクロロシランを用いて析出により製造された棒状のシリコン材料は、結晶粒径が小さく、材料の表層が粗になりやすい。このような材料は、強度が低く、使用に際して割れが起こりやすい。
【0012】
こうした背景のもと、なるべくスプラッシュを発生させず、蒸発源に安定して材料を供給できる方法が望まれている。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明は、上述の課題に鑑みてなされたものである。すなわち、本発明は、
基板上に薄膜が形成されるように、蒸発源より飛来した粒子を真空中の所定の成膜位置にて前記基板上に堆積させる工程と、
前記薄膜の原料を含む棒状の材料を前記蒸発源の上方で溶解させるとともに、溶解した前記材料を液滴の形で前記蒸発源に供給する工程とを含み、
前記材料として、
(a)前記材料の長軸方向に垂直な断面における中心から外周部に向かって、長さ90%の位置には、それぞれ粒界で囲まれた複数の第一領域が存在し、前記複数の第一領域の長径の面積加重平均値が200μm以下であり、かつ、(b)前記中心から前記外周部に向かって、長さ50%の位置には、それぞれ粒界で囲まれた複数の第二領域が存在し、前記複数の第二領域の長径の面積加重平均値が1000μm以上である棒状のシリコン材料を用いる、薄膜製造方法を提供する。
【0014】
本発明は、別の観点から、
棒状の材料を供給しながら蒸着を行なう薄膜形成法において、材料として棒状のシリコンであって、棒の長軸方向に垂直な断面において棒の中心から外周部に向かって、棒の中心から長さ90%以上の領域において、粒界で囲まれた領域の長径が200μm以下である結晶粒が占める面積が50%以上であり、棒の中心から長さ40〜60%の領域において、粒界で囲まれた領域の長径が1mm以上である結晶粒が占める面積が50%以上であることを特徴とするシリコン材料を用い、前記シリコン材料を順次溶解して蒸着源に供給することを特徴とする。
【0015】
また、本発明は、排気手段により減圧された真空容器中において、巻出しロールから巻きだされた長尺基板を遮蔽板により規制された開口部を経由して巻取りロールまで搬送させ、
前記開口部にて、薄膜形成源より飛来した蒸着粒子を、前記搬送中の基板表面上に付着させ薄膜を形成する薄膜形成法であって、
前記薄膜を形成するための棒状の材料を前記薄膜形成源上方まで棒の軸方向に搬送し、前記薄膜形成源の上方で溶解し、溶解した液滴を前記薄膜形成源に滴下する薄膜形成法を提供する。
【0016】
さらに他の側面において、本発明は、
薄膜を製造する際の蒸発源にシリコンを供給するために用いられる、棒状のシリコン材料であって、長軸方向に垂直な断面における中心から外周部に向かって、長さ90%の位置に存在する、それぞれ粒界で囲まれた複数の第一領域と、前記中心から前記外周部に向かって長さ50%の位置に存在する、それぞれ粒界で囲まれた複数の第二領域と、を含み、
前記第一領域は長径の面積加重平均値が200μm以下であり、かつ前記第二領域は、長径の面積加重平均値が1000μm以上である、棒状のシリコン材料を提供する。
【発明の効果】
【0017】
本発明の方法によれば、棒状のシリコン材料を先端より順次溶解して連続的に供給する、低コストな材料供給方法を採用できる。本発明の方法によれば、外周部の粒度が内部の粒度に比べて小さい棒状のシリコン材料を用いる。このようなシリコン材料によると、シリコン材料が十分な強度を有し、かつ、材料供給時に急加熱されることによるシリコン材料の割れ(破砕)を抑制できる。それゆえ、シリコン材料の割れに伴うスプラッシュの発生を抑制でき、スプラッシュによる蒸着基板の損傷を抑制できる。また、シリコン材料に割れが生じにくいことから、材料の供給状態、例えば、棒状のシリコン材料への電子線の照射状態に変動が生じにくくなる。さらに、シリコン材料の割れが生じにくくなることにより、未溶解の材料のルツボ内への落下が生じにくくなるため、溶湯の温度低下に伴う蒸発速度の低下を抑制することができる。それゆえ、材料供給の安定性も向上する。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】図1は、本発明の実施の形態における薄膜製造装置の概略図である。
【図2】図2は、本発明の実施の形態における蒸着源の概略図である。
【図3】図3は、本発明の実施の形態におけるシリコン材料の断面図である。
【図4】図4は、図3の右側に示した部分断面図の拡大図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明の実施の形態について、図面を参照しながら説明する。
【0020】
図1に示すように、薄膜製造装置20は、真空容器22、基板搬送ユニット40、遮蔽板29、蒸発源9(薄膜形成源)および材料供給ユニット42を備えている。基板搬送ユニット40、遮蔽板29、蒸発源9および材料供給ユニット42は、真空容器22内に配置されている。真空容器22には真空ポンプ34(排気手段)が接続されている。真空容器22の側壁には、電子銃15および原料ガス導入管30が設けられている。
【0021】
真空容器22内の空間は、遮蔽板29によって、蒸発源9が配置された第1側空間(下側空間)と、基板搬送ユニット40が配置された第2側空間(上側空間)とに分けられている。遮蔽板29には開口部31が設けられており、この開口部31を通じて、第1側空間から第2側空間へと、蒸発源9から蒸発粒子が進める。
【0022】
基板搬送ユニット40は、蒸発源9に向かい合う所定の成膜位置33に基板21を供給する機能と、成膜後の基板21をその成膜位置33から退避させる機能とを有する。成膜位置33とは、基板21の搬送経路上の位置であって、遮蔽板29の開口部31によって規定された位置を意味する。この成膜位置33を基板21が通過する際に、蒸発源9から飛来した蒸発粒子が基板21上に堆積する。これにより基板21上に薄膜が形成される。
【0023】
具体的に、基板搬送ユニット40は、巻き出しロール23、搬送ローラ24、冷却キャン25および巻き取りロール27によって構成されている。巻き出しロール23には成膜前の基板21が準備される。搬送ローラ24は、基板21の搬送方向における上流側と下流側とのそれぞれに配置されている。上流側の搬送ローラ24は、巻き出しロール23から繰り出された基板21を冷却キャン25に誘導する。冷却キャン25は、基板21を支持しながら成膜位置33に誘導するとともに、成膜後の基板21を下流側の搬送ローラ24に誘導する。冷却キャン25は、円筒の形状を有し、冷却水等の冷媒で冷却されている。基板21は、冷却キャン25の周囲に沿って走行するとともに、蒸発源9と向かい合う側とは反対側から冷却キャン25によって冷却される。下流側の搬送ローラ24は、成膜後の基板21を巻き取りロール27に誘導する。巻き取りロール27は、モータ(図示せず)によって駆動され、薄膜が形成された基板21を巻き取って保存する。
【0024】
成膜時には、巻き出しロール23から基板21を繰り出す操作と、成膜後の基板21を巻き取りロール27に巻き取る操作とが同期して行われる。巻き出しロール23および巻き取りロール27は、その回転を制御することができ、それにより、基板21には冷却キャン25上に基板21を均一に沿わせるための張力が加えられている。巻き出しロール23から繰り出された基板21は、成膜位置33を経由して巻き取りロール27まで搬送される。すなわち、薄膜製造装置20は、巻き出しロール23から巻き取りロール27へと搬送中の基板21上に薄膜を形成する、いわゆる巻き取り式の薄膜製造装置である。巻き取り式の薄膜製造装置によると、長時間成膜によって高い生産性が望める。なお、基板搬送ユニット40の一部、例えば駆動用モータ等が真空容器22の外に配置されることもある。この場合、回転導入端子を介して、モータの駆動力を真空容器22内の各種ロールに供給できる。
【0025】
本実施形態において、基板21は、可撓性を有する長尺基板である。基板21の材料は特に限定されず、高分子フィルムや金属箔を使用できる。高分子フィルムの例は、ポリエチレンテレフタレートフィルム、ポリエチレンナフタレートフィルム、ポリアミドフィルムおよびポリイミドフィルムである。金属箔の例は、アルミ箔、銅箔、ニッケル箔、チタニウム箔およびステンレス箔である。高分子フィルムと金属箔との複合材料も基板21に使用できる。
【0026】
基板21の寸法も製造するべき薄膜の種類や生産数量に応じて決まるので、特に限定されない。基板21の幅は例えば50〜1000mmであり、基板21の厚さは例えば3〜150μmである。
【0027】
成膜時において、基板21は一定の速度で搬送される。搬送速度は製造するべき薄膜の種類や成膜条件によって異なるが、例えば0.1〜500m/分である。成膜速度は例えば1〜50μm/分である。搬送中の基板21には基板21の材料、基板21の寸法および成膜条件等に応じて適切な大きさの張力が付与される。なお、静止状態の基板21に薄膜を形成するために、基板21を間欠的に搬送してもよい。
【0028】
蒸発源9は、電子銃15からの電子線18でルツボ9a内の材料9bを加熱するように構成されている。つまり、本実施形態の薄膜製造装置20は真空蒸着装置として構成されている。蒸発した材料が鉛直上方に向かって進むように、真空容器22の下部に蒸発源9が配置されている。電子線に代えて、抵抗加熱や誘導加熱等の他の方法でルツボ9a内の材料9bを加熱してもよい。
【0029】
ルツボ9aの開口部の形状は、例えば円形、小判形、矩形およびドーナツ形である。連続式の真空蒸着においては、成膜幅よりも幅広の開口部を有するルツボ9aを用いることが幅方向の膜厚均一性に有効である。ルツボ9aの材料として、金属、酸化物および耐火物等を使用できる。金属の例は、銅、モリブデン、タンタル、タングステンおよびこれらを含む合金である。酸化物の例は、アルミナ、シリカ、マグネシアおよびカルシアである。耐火物の例は、窒化硼素および炭素である。ルツボ9aは水冷されていてもよい。
【0030】
原料ガス導入管30は、真空容器22の外部から内部へと延びている。原料ガス導入管30の一端は、蒸発源9と基板21との間の空間に向けられている。原料ガス導入管30の他端は、真空容器22の外部において、ガスボンベやガス発生装置等の原料ガス供給源に接続されている(図示省略)。原料ガス導入管30を通じて真空容器22の内部に酸素ガスや窒素ガスを供給すれば、ルツボ9a内の材料9bの酸化物、窒化物または酸窒化物を含む薄膜を形成できる。
【0031】
成膜時において、真空容器22の内部は、真空ポンプ34によって薄膜の形成に適した圧力、例えば1.0×10-3〜1.0×10-1Paに保たれる。真空ポンプ34として、ロータリポンプ、油拡散ポンプ、クライオポンプ、ターボ分子ポンプ等の各種真空ポンプを使用できる。
【0032】
材料供給ユニット42は、形成するべき薄膜の原料を含む塊状の材料32を蒸発源9の上方で溶解させ、溶解した材料を液滴14の形で蒸発源9に供給するために使用される。本実施形態では、塊状の材料32として、棒状のシリコン材料32が用いられている。材料供給ユニット42によれば、真空容器22内を空気等でパージすることなく、ルツボ9a内の材料9b(シリコン溶湯)の消費に応じて蒸発源9にシリコンを連続供給できる。さらに、蒸発源9aより飛来したシリコン粒子を基板21上に堆積させながら、蒸発源9にシリコンを供給できる。これにより、長時間連続成膜が可能となる。
【0033】
なお、薄膜の形成を一時停止して、ルツボ9aにシリコンを供給することも可能である。すなわち、ルツボ9aにシリコンを供給する工程と、基板21にシリコンを堆積させる工程とを交互に実施することも可能である。さらに、成膜位置33への基板(例えばガラス基板)の搬送および成膜位置33からのその基板の退避をロードロックシステムで行うことも考えられる。
【0034】
材料供給ユニット42は、コンベア10と電子銃15とで構成されている。コンベア10は、シリコン材料32を水平に保持するとともに、シリコン材料32を蒸発源9のルツボ9aの上方に搬送する役割を担う。電子銃15は、ルツボ9aの上方に搬送された材料32を加熱する役割を担う。本実施形態において、電子銃15は、ルツボ9a内の材料9bを加熱して蒸発させるためのものと兼用である。
【0035】
シリコン材料32は、コンベア10によりルツボ9aの上方に搬送され、電子線16により加熱され、溶解する。溶解により生じたシリコン融液が液滴14の形でルツボ9aへと落下する。これにより、薄膜の原料としてのシリコンがルツボ9aに供給される。なお、シリコン材料32を加熱するための手段として、電子銃に代えて、または電子銃とともに、レーザー照射装置も使用できる。電子線やレーザーを使用すると、シリコン材料32の割れにより生じた微粉末が電子線やレーザーによる急加熱や帯電により、スプラッシュとして飛散しやすい。そのため、電子線やレーザーを使用する場合には、割れにくいシリコン材料32の使用が特に推奨される。なお、レーザーを使用する場合、レーザーを広範囲に照射するためにポリゴンミラーを介した照射が必要になることがあり、エネルギーロスが発生しやすい。そのため、例えば、幅が広い基板および幅が広いルツボを用いて薄膜製造を行なう場合や、高温および高エネルギー条件下で薄膜製造を行なう場合、電子線を使用することによって高い薄膜製造速度を得ることができる。
【0036】
シリコン材料32は、例えば0.5kg以上の質量を有していること、言い換えれば、十分な熱容量を有していることが望ましい。そのようなシリコン材料32によれば、先端部を急速加熱したときの全体の温度上昇を抑えることができる。この場合、シリコン材料32の先端部分が選択的に溶解するので、一定の滴下位置を保持しやすい。すなわち、液滴14がルツボ9aの外に落ちたりせず、ルツボ9aへの安定した材料供給が可能となる。シリコン材料32の質量に特に上限はないが、薄膜製造装置20の大きさを考慮すると、例えば10kgである。
【0037】
本実施形態では、シリコン材料32が棒状の形を有している。このような形のシリコン材料32によれば、その表面積が小さいので、表面に付着している水分も少ない。シリコン材料32は、典型的には、円形の断面を有する棒の形をしている。円形の断面を有するシリコン材料32の直径は、例えば、40mm〜100mmであり、好ましくは50mm〜60mmである。
【0038】
図2に示すように、ルツボ9aは、遮蔽板29の開口部31の開口幅35よりも幅広の矩形の開口部を有している。平面視で、遮蔽板29の開口部31に重ならないように、シリコン材料32の先端部の位置が定められている。ルツボ9a内の材料9bを蒸発させるために、ルツボ9aの長手方向(幅方向)に関して遮蔽板29の開口幅35よりも広く設定された走査範囲36に電子線18が照射される。このことにより、幅方向に関する薄膜の膜厚均一性が改善する。幅方向に関して、走査範囲36の両端に他の位置よりも長い時間電子線18を照射すると、幅方向の膜厚均一性の改善に更なる効果がある。
【0039】
他方、シリコン材料32を溶解させるための電子線16の照射位置37は、電子線18の走査範囲36の外に設定されている。言い換えれば、シリコンの液滴14の落下位置が、電子線18の走査範囲36の外に設定されている。この構成によれば、液滴14の供給による材料9b(シリコン溶湯)の温度変化や材料9bの液面の振動が成膜に与える影響を少なくできる。
【0040】
ルツボ9a内へのシリコンの液滴の供給速度(材料供給速度)は、例えば、1〜500g/minである。電子線のエネルギーは、例えば、1〜100W/mm2である。
【0041】
シリコン材料32は棒の長軸方向に垂直な断面において、外周部の粒度が内部の粒度に比べて小さいものを用いる。具体的には長軸に垂直な断面において棒の中心から外周部に向かって、長さ90%以上の領域の結晶粒径が、棒の長さ50%の位置の結晶の結晶粒径よりも小さい材料を用いる。ここで、長さが90%とは、棒の中心から外周部までの長さの90%を意味する。さらには、棒の中心から外周部に向かって、長さ10%以下の領域にも、棒の中心から長さ50%の位置の結晶の結晶粒径よりも小さい結晶粒径を持つことが望ましい。
【0042】
シリコン材料中の粒界は脆いため、力学的な衝撃がかかった場合、材料が割れる起点となる。しかし、シリコン材料中の粒界は熱伝達が小さいという特徴を有するため、熱的な衝撃が加わることによる材料の割れを最小限の領域で食い止める効果がある。
【0043】
本実施形態におけるシリコン材料32は、その表層において結晶粒径が小さい。すなわち、シリコン材料の長軸方向(長手方向)に垂直な断面における外周部において結晶粒界が多く存在する。それゆえ、シリコン材料32を溶解して供給する際に、シリコン材料32の表面に与えられた熱衝撃は表層における粒界によって遮られる。シリコン材料32の表層部分が選択的に急加熱されるのに対し、シリコン材料32の内部は急加熱が抑制されるため、熱衝撃によるシリコン材料32の割れを抑制することができる。
【0044】
結晶粒径の小さいシリコン材料は、結晶粒界が多く存在することにより、力学的な衝撃に弱く、機械的な振動や、落下物等の衝撃によって容易に割れが生じうる。これに対し、本実施形態におけるシリコン材料32は、結晶粒径が小さい表層の領域よりも内部の領域において、結晶粒径の大きい領域(大粒径領域)、すなわち、粒界の少ない領域が存在する。それゆえ、本発明におけるシリコン材料は、物理強度が高くなり、機械的な振動や力学的な衝撃に対する高い強度を確保することができる。
【0045】
さらに、結晶粒径が大きい領域(大粒径領域)よりも内部に、結晶粒径の小さい領域が形成されている場合、急加熱によるシリコン材料の割れをより効果的に抑制することができる。すなわち、加熱時の熱衝撃が何らかの理由で、熱衝撃に弱い大粒径領域にまで到達して亀裂が生じた場合、結晶粒径の小さい内部の領域によって亀裂の進行が抑制される。
【0046】
以上のことから、棒状のシリコン材料において、(a)長軸方向に垂直な断面における中心から外周部に向かって、長さ90%の位置には、それぞれ粒界で囲まれた複数の第一領域が存在し、複数の第一領域の長径の面積加重平均値が200μm以下であり、かつ、(b)当該断面における中心から外周部に向かって、長さ50%の位置には、それぞれ粒界で囲まれた複数の第二領域が存在し、複数の第二領域の長径の面積加重平均値が1000μm以上であることが好ましい。言い換えれば、棒の長軸方向に垂直な断面における中心から外周部に向かって、長さ90%の位置に存在する粒界で囲まれた領域の総面積の50%以上は、長径が200μm以下である粒界で囲まれた領域によって占められており、かつ、長さ50%の位置に存在する粒界で囲まれた領域の総面積の50%以上は、長径が1000μm以上である粒界で囲まれた領域によって占められている。
【0047】
また、上記に加えて、当該断面における中心から外周部に向かって、長さ10%の位置に存在する粒界で囲まれた領域は、長径の面積加重平均値が200μm以下であることがさらに好ましい。言い換えれば、当該断面における中心から外周部に向かって、長さ10%の位置に存在する粒界で囲まれた領域の総面積の50%以上は、長径が200μm以下である粒界で囲まれた領域によって占められていることがさらに好ましい。
【0048】
第一領域の長径の面積加重平均値の下限は、特に限定されないが、例えば、50μmである。第二領域の長径の面積加重平均値の上限は、特に限定されないが、例えば、5000μmである。第三領域の長径の面積加重平均値の下限は、特に限定されないが、例えば、50μmである。
【0049】
特許文献2に開示されるような、シリコン母材の表面にシリコンを析出させる方法を用いて、粒径の小さい領域を有するシリコン材料を作製した場合、“ポップコーン”と呼ばれる粗な構造が形成されやすい。そのため、本実施形態におけるシリコン材料32は、鋳造法を用いて作製することが望ましい。
【0050】
具体的には、シリコン材料32はシリコンを大気中で鋳造することにより作製される。鋳造に用いるシリコンとしては、通常、冶金に用いられる低純度の金属シリコンを使用できる。金属シリコンとして、太陽電池および半導体に用いられるような高純度のシリコンを用いても、何ら問題はない。また、ケイ石、シリカ等の酸化ケイ素を還元剤とともに溶解することでシリコン溶湯を得て、それを鋳型に流し込んでもよい。例えば、耐火ルツボに金属シリコンを投入する。金属シリコンを1500℃〜1800℃に加熱して溶解し、その間に空気中の酸素との反応によって溶湯表面に生成したシリカ等のスラグを除去する。シリコンの溶湯を鋳型に傾注することにより、シリコンの鋳造棒を得ることができる。耐火ルツボとしては、例えば、アルミナ、シリカ、またはそれらの混合物からなる耐火ルツボが挙げられる。金属シリコンの加熱方法としては、例えば、抵抗加熱用ヒーターによる加熱、水素またはメタン等のガスの燃焼による加熱、コイルによる高周波誘導加熱、アーク放電によるアーク溶解等の各種加熱方法を採用できる。溶湯を鋳型に傾注する速度は、例えば、0.1〜0.7kg/秒程度である。シリコンの鋳造棒の内部になるべく空孔が生じないようにするためには、溶湯を鋳型に傾注する速度は、例えば、0.01〜0.05kg/秒が好ましい。
【0051】
シリカ等のスラグの発生を抑制するためには、溶解および鋳造をアルゴン等の不活性雰囲気中もしくは真空炉中で行うこと、黒鉛や炭化珪素等の非酸化性の材料からなるルツボを用いること、またはその両方を実施することが有効である。
【0052】
鋳型には黒鉛やセラミックスのような耐熱材料を用いることができる。また、シリコンと鋳型との癒着を抑制するため、窒化ホウ素等の離型剤を鋳型の表面に塗布してもなんら問題はない。鋳型の熱容量は、シリコン溶湯を注いだときに、鋳型が例えば1000℃以上に加熱されないように調整する。鋳型の内部形状は、上述で説明した棒状のシリコン材料の好ましい形状およびサイズに応じて決めればよい。なお、これ以降、棒状のシリコン材料を単に「シリコン棒」と表記することがある。
【0053】
このような鋳型にシリコン溶湯を注いでシリコン棒を形成させた場合、シリコン棒の表層が急激に冷却されるため、シリコン棒の表層には細かい粒界が形成される。シリコン棒の内部は、表層の凝固に伴う放熱により、表層よりもゆっくりと冷却される。そのため、シリコン棒の内部には大きな粒界が形成される。他方、シリコンは水と同じく、凝固に伴い膨張する性質がある。そのため、シリコン棒の中心部は、表層から中心に向かって順に凝固したシリコンによる大きな圧力を受ける。これにより、シリコン棒の中心部では結晶が成長できなくなり、再び細かい粒界をもつ領域が形成される。
【0054】
シリコン溶湯が流し込まれた鋳型の冷却は、自然放冷により行なうことが好ましい。シリコン棒に形成されるシリコン結晶の粒界の大きさおよびその分布は、例えば、冷却速度を制御することにより調整できる。冷却速度は、例えば、鋳型の周囲に配置された断熱材の充填率、熱伝導率、厚みおよび初期温度を適宜調節することによって変更することができる。
【0055】
冷却速度は、鋳型に1500〜1800℃のシリコン溶湯を流し込んでから、鋳型内の鋳造シリコンが100℃になるまでの冷却時間で表して、例えば3時間〜18時間に設定される。大粒径領域のさらに内側に、結晶粒径の小さい領域が形成されるためには、冷却時間が5時間〜12時間であることが好ましい。
【0056】
シリコン棒の凝固中心は、凝固時における棒形状のゆがみ等により、若干のばらつきは発生するが、概ねシリコン棒の形状の中心に一致する。例えば、概円形の断面をもつシリコン棒の場合、その断面におけるシリコンの凝固中心は概ね断面の外接円の中心に一致する。
【0057】
本明細書において、断面における中心とは、断面の外接円の中心を意味する。また、本明細書において、長さx%の位置とは、中心からの長さが、中心から外周部までの長さのx%である位置を意味する。なお、断面が真円である場合、中心から外周部までの長さは一定である。しかし、シリコン棒の断面は真円とは限らない。したがって、中心から長さx%の位置までの距離も一定とは限らない。
【0058】
図3は、棒状のシリコン材料の、長軸方向に垂直な断面における結晶粒界の分布を模式的に示す図である。シリコン棒の長軸方向に垂直な断面は、外周51で囲まれた概ね円形の形状を有している。外周51は、鋳造法で作製されたときにシリコン材料が鋳型に接触する部分である。断面における表層部および中心部には、等方的な形状をした粒界が形成されている。表層部と中心部との間には、結晶の粒径が大きい領域(大粒径領域)が存在している。凝固時、大粒径領域ではシリコン棒の表層から中心に向かう一方向への凝固が進行する。そのため、大粒径領域には、中心から表層に向かって放射状にのびるように、細長い形状の粒界52が形成されている。
【0059】
本発明における複数の第二領域について図4を用いて説明する。図4は、図3の右側に示した部分断面図の拡大図である。図4において、長さ50%の位置とは、曲線53上の点である。複数の第二領域は、長さ50%の位置を表す曲線53上に存在する、それぞれ粒界で囲まれた複数の領域である。すなわち、複数の第二領域は、図4において斜線を付した複数の領域である。
【実施例】
【0060】
鋳造法により、結晶粒径およびその分布が異なる各種のシリコン棒を作製した。鋳造に用いるシリコンとしては、不純物含有量が、鉄:2000ppm未満、アルミニウム:2000ppm未満、カルシウム:200ppm未満である、♯2202グレードの金属シリコンを用いた。実施例1〜16および比較例6〜10,14〜16では、金属シリコンの溶湯を鋳型に流し込み、放冷することによりシリコン棒を形成した。すなわち、金属シリコンを1800℃に加熱して得られたシリコンの溶湯を、0.03kg/秒(2kg/分)の速度で黒鉛製鋳型に傾注した。黒鉛製鋳型の周囲にジルコニア断熱材を配置し、断熱材の充填率および厚みを変えることで冷却時間を調節した。比較例1〜5、11〜13では、金属シリコンの溶湯を、鋳型に流し込まずに溶鉱炉内で24時間かけて徐冷することによりシリコン棒を形成した。
【0061】
結晶粒径およびその分布、すなわち、シリコン棒の長軸方向に垂直な断面における、粒界で囲まれた領域の長径長さは、表1および表2に示すように、冷却時間を調節することによって制御した。なお、冷却時間とは、溶湯を冷却し始めてから、鋳造物または凝固物の温度が100℃に達するまでに要した時間を意味する。鋳造物または凝固物の温度は、黒鉛シースで保護した熱電対を黒鉛鋳型内壁に設置し、鋳造物または凝固物の表面の温度を計測することで得た。実施例1〜10および比較例1〜10では、直径55mm、長さ200mmのシリコン棒を作製した。実施例11〜16および比較例11〜16では、直径60mm、長さ200mmのシリコン棒を作製した。
【0062】
作製したシリコン棒を長軸方向に垂直に切断した。その断面において、長さ10%、50%、および90%の位置に存在する粒界で囲まれた領域に対して、それぞれ長径の面積加重平均値を求めた。
【0063】
なお、長径の面積加重平均値は下記式(1)で表される。すなわち、長さx%の位置に存在する粒界で囲まれた領域における長径の面積加重平均値は、次のようにして求められる。まず、長さx%の位置に存在する粒界で囲まれた領域の総面積を計算する。つぎに、長さx%の位置に存在する粒界で囲まれたそれぞれの領域について、長径長さと面積とを掛け合わせた数値を計算し、それらの数値の総和を求める。この総和を総面積で割った値が長径の面積加重平均値である。
【0064】
【数1】

【0065】
面積加重平均値は、例えば、棒状のシリコン材料を長軸方向に垂直な面で切断して得られる断面の画像をコンピュータに取り込み、上記式(1)の計算処理を行うことにより求められる。長径は、粒において最も遠い2点間の距離として求められる。すなわち、断面画像で観察された、対象となる粒の外周を検出し、外周上の2点間の距離を測定する。外周上の全ての点について当該距離を測定し、最も遠い2点間の距離を粒の長径として扱う。
【0066】
また、作製したシリコン棒を供給材料として、図1の蒸着装置を用いて電子線照射による蒸着試験を行った。電子線強度は材料表面での照射範囲において16W/mm2とし、材料供給速度は30g/minとした。電子線の照射中にシリコン棒を50mm/分の速さで前進させた。シリコン棒における割れの有無を調べた。5分間の電子線照射後、真空容器内に直径約5mm以上の未溶解の破片の落下が確認された場合に「割れあり」と判断した。
【0067】
これらの結果を表1および表2に示す。なお、以降、簡単のために、シリコン棒の断面における中心から外周部に向かって長さ10%、50%、および90%の位置を、それぞれ10%位置、50%位置、および90%位置と表記する。
【0068】
【表1】

【0069】
【表2】

【0070】
表1と表2との比較により明らかであるように、蒸着試験によるシリコン棒の割れの発生率は、シリコン棒における直径の違いには依存せず、シリコン結晶の粒径およびその分布に関係していた。
【0071】
表1および表2に示すように、冷却時間が12時間である実施例6〜10,14〜16のシリコン棒では、50%位置と10%位置とにおいて結晶の成長がみられ、90%位置では大きな結晶の成長がみられなかった。面積加重平均値は50%位置において1000μm以上、かつ、90%位置において200μm以下であり、この場合、ほとんどのシリコン棒において割れが抑制されていた。
【0072】
冷却時間が5時間である実施例1〜5,11〜13のシリコン棒では、50%位置において大きな結晶の成長がみられ、10%位置および90%位置では大きな結晶の成長がみられなかった。このように中心軸付近の結晶粒径が小さい場合、全てのシリコン棒において割れが抑制されていた。
【0073】
比較例6〜10,14〜16に示すように、50%位置の面積加重平均値が1000μm未満である場合、全てのシリコン棒に割れが発生した。また、比較例1〜5,11〜13に示すように、面積加重平均値が50%位置において1000μm以上であるものの、90%位置において200μmより大きい場合、殆どのシリコン棒に割れが発生した。
【産業上の利用可能性】
【0074】
本発明は、長尺の蓄電デバイス用極板の製造に応用できる。基板21として銅箔や銅合金箔等の金属箔を用いる。電子線18によりルツボ9a内の材料9b(シリコン)を蒸発させ、負極集電体としての基板21上にシリコン薄膜を形成する。真空容器22内に微量の酸素ガスを導入すれば、シリコンと酸化シリコンとを含むシリコン薄膜を基板21上に形成できる。シリコンはリチウムを吸蔵および放出可能なので、シリコン薄膜が形成された基板21は、リチウムイオン二次電池の負極に利用できる。
【0075】
本発明は、蓄電デバイス用極板、磁気テープ、コンデンサ、各種センサ、太陽電池、各種光学膜、防湿膜、導電膜等における、シリコンおよび酸化シリコンの少なくとも1つを主成分として含む薄膜の製造に適用できる。特に、本発明は、長時間製膜および比較的厚い膜の形成が必要とされる、蓄電デバイス用極板における薄膜の製造に有利に適用できる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
薄膜を製造する際の蒸発源にシリコンを供給するために用いられる、棒状のシリコン材料であって、長軸方向に垂直な断面における中心から外周部に向かって、長さ90%の位置に存在する、それぞれ粒界で囲まれた複数の第一領域と、前記中心から前記外周部に向かって長さ50%の位置に存在する、それぞれ粒界で囲まれた複数の第二領域と、を含み、
前記第一領域は長径の面積加重平均値が200μm以下であり、かつ前記第二領域は、長径の面積加重平均値が1000μm以上である、棒状のシリコン材料。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2011−140718(P2011−140718A)
【公開日】平成23年7月21日(2011.7.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−85230(P2011−85230)
【出願日】平成23年4月7日(2011.4.7)
【分割の表示】特願2010−545296(P2010−545296)の分割
【原出願日】平成22年7月1日(2010.7.1)
【出願人】(000005821)パナソニック株式会社 (73,050)
【Fターム(参考)】