説明

薄膜の評価方法

本発明は、レーザーにより、膜(22)と接する気体または液体媒体中に屈折率回折格子を生じさせて、極めて薄い固体膜(22)を評価する新しい測定法を提供する。第1の実施例では、気体または液体媒体中の励起弾性波(25)が回折プローブビームの強度を変調し、固体試料で励起される弾性モードの周波数よりも低い周波数に信号成分が得られる。この低周波成分の振幅は、膜(22)によって吸収されるエネルギー量、すなわち膜厚と相関があるため、下地誘電体層上の金属膜の膜厚を測定したり、金属膜を検出したりする方法が提供される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願は、2003年4月16日に出願された米国仮出願第60/463,259号の利益を主張するものであり、その内容は、ここでは参照文献として取り入れられている。
【0002】
本発明は、例えば薄膜構造の試料の特性を評価する光測定技術に関する。
【背景技術】
【0003】
例えばシリコン基板や誘電体層上に成膜された金属薄膜の特性を評価する非接触式光測定法には、産業用プロセスモニタリングやプロセス制御に対する大きな需要がある。プロセス制御を行う上での最も重要なパラメータの一つに、金属薄膜の厚さ測定がある。現在、超小型電子機器に用いられる金属薄膜の厚さは、通常100−200Åから数ミクロンの範囲にあり、さらに最先端技術では、100Åまたはそれ未満のより薄い膜を用いることが必要となる。100Åよりも薄い金属薄膜の評価が要求される一つの用途は、銅の相互接続用の最新拡散バリアの成形加工である。別の想定される用途は、誘電体層上部の金属残留物の検出であり、この残留物は、銅の相互接続処理プロセスでの研磨ステップ後に残留し、回路の電気特性を不安定にする。
【0004】
レーザー誘起過渡回折格子法またはインパルス励起熱散乱法(以降ISTSという)と呼ばれる、ある既知の方法では、図1に示すように、第1の励起レーザーパルス3、3’が表面弾性波(SAW)を生じさせ、このSAWは、膜の平面方向に伝搬する(拡大部8参照)。第2のプローブレーザーパルス6、6’は、膜1の表面で回折し、センサ7がSAWの周波数を測定する。SAW周波数は、膜厚に依存する。ISTSは、例えば米国特許第5,633,711号(題目;光誘起フォノンによる材料特性の評価)および米国特許第5,812,261号(題目;不透明および透明膜の厚さ計測の方法と装置)に記載されており、それらの内容は、ここでは参照文献として取り入れられている。
【0005】
上記の技術は、100Å−10μmの範囲の金属膜の厚さ測定には、支障なく用いられている。しかしながら、この方法による測定を極めて薄い膜(<100Å)に拡張して適用することは、難しいことが明らかとなっている。主な問題は、通常のSAW波長は数ミクロンであり、数十Åの膜厚は、SAW波長の1/1000程度に過ぎないことである。このため、膜はSAWの伝搬に対してほとんど影響を及ぼさず、SAWの周波数に基づいて膜厚測定を正確に行うことは難しい。
【0006】
ISTSによって固体表面に生じる信号波形は、励起光の吸収によって生じた異なる物理的プロセスによるいくつかの成分を有する。通常、信号に対して最も大きな影響を及ぼす成分は、表面の「リップル」からのプローブビームの回折によるものである。表面弾性波による表面変位は、信号の高周波数成分に影響を及ぼし、温度分布に関連する変位は、遅い側に減衰成分を生じさせる。
【0007】
信号の別の成分は、試料表面上部の空気の屈折率の変化によるものである。試料表面での励起パルスの吸収の際に、発生した熱の一部が熱拡散により空気に伝達される。この結果、空気の温度が空間的に、周期的に上昇する。この瞬間的な空気温度の上昇は、さらに弾性波の励起につながる。これらの弾性波は、プローブパルスの屈折率に周期的変化を生じさせ、プローブパルスの回折にも影響を及ぼす。空気中の音速は比較的低速度のため、空気中の弾性波の周波数は、通常、同じ波長のSAW周波数よりも小さな値となる。この低周波数のため、空気中の波の影響は、信号中の他の成分から容易に区別することができる。
【0008】
空気中の弾性波による過渡回折格子信号の成分は、従来より注目されており、例えばヤングらの、題目「C-N膜の弾性率と熱拡散の光測定」(J. Mater. Res.、10巻、1号、1995年1月)に示されているが、この信号成分から有益な情報を取り出すことは、全く行われていない。従って、ISTS信号に含まれる、このようなこれまで未使用の付随的情報を利用することが望まれている。
【特許文献1】米国特許第5,812,261号明細書
【特許文献2】米国特許第5,633,711号明細書
【非特許文献1】ヤングら、J. Mater. Res.、10巻、1号、1995年1月
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、試料と接する気体または液体媒体の屈折率攪乱部によって生じる過渡回折格子信号成分を用いて、極めて薄い金属膜を検出し、その厚さを評価することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
ある態様では、本発明は、膜を励起させて膜を評価する方法を有し、本方法は、
空間周期的な光励起場で前記膜を照射して、熱回折格子を生じさせるステップと、
前記膜と接する気体または液体媒体中に、前記膜から前記媒体への熱伝達により、空間周期的な屈折率攪乱部を生じさせるステップと、
前記媒体中の前記屈折率攪乱部でプローブレーザービームを回折させ、信号ビームを形成するステップと、
時間の関数として前記信号ビームを検出して、信号波形を生じさせるステップと、
前記信号波形に基づいて、前記膜の少なくとも一つの特性を決定するステップと、
を有する。
【0011】
本発明のある実施例では、前記膜は金属膜である。別の実施例では、前記膜は、100Å未満の厚さの金属膜である。別の実施例では、前記膜は、励起放射線に対して透明な下地層を覆うように設置される。さらに別の実施例では、励起周波数での下地層の光吸収係数は、前記膜の材料の吸収係数よりも小さい。
【0012】
別の実施例では、前記膜と接する前記気体媒体は空気である。
【0013】
別の実施例では、前記試料と接する気体および液体中の前記屈折率攪乱部は、媒体中の弾性波によって生じる。
【0014】
別の実施例では、前記媒体中の前記弾性波は、前記信号波形の低周波変調を生じさせる。
【0015】
別の実施例では、前記決定するステップは、前記信号波形の前記低周波成分の解析に基づいて行われる。
【0016】
別の実施例では、前記決定するステップは、実験的補正により前記信号波形を解析するステップを有する。
【0017】
さらに別の実施例では、前記決定するステップは、理論モデルで前記信号波形を解析するステップを有する。
【0018】
別の実施例では、前記少なくとも一つの特性は、前記膜の厚さに関する。
【0019】
さらに別の実施例では、前記少なくとも一つの特性は、前記膜の有無に関する。
【0020】
本発明は多くの利点を有し、これらは以下の記載、図面および特許請求の範囲から明らかであろう。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
本発明は、添付の図面を参照することにより、より理解されよう。
【0022】
本発明の新しい方法では、波動信号を用いて、通常、シリコンウェハ上の誘電体層を覆うように成膜される金属薄膜が検出され、その厚さが測定される。
【0023】
図2には、シリコン基板24上の透明誘電体層23(例えばSiO2)層を覆うように成膜された、極めて薄い半透明金属膜22を有する試料21を示す。2本の短レーザーパルス26、26’は、従来技術の方法と同様に、周期27を有する空間周期的な光強度パターンを形成する。金属薄膜22がない場合、励起光26、26’の吸収は、Si基板24においてのみ生じる。通常、相互接続誘電体の熱伝導度は、シリコンに比べて十分に低いため、空気側にはほとんど熱は伝達されない。従って、空気中に弾性波は発生しない。
【0024】
図3には、シリコンウェハ上に熱成長させた0.55μm厚さのSiO2膜を有する試料で測定された信号波形を示す。励起周期は8.86μmである。この波形は、空気中に生じる弾性波による寄与分を含まない。試料には金属膜22が設けられていないからである。
【0025】
試料21の表面に金属薄膜22がある場合、励起パルス26、26’のエネルギーの一部は、膜22に吸収され、熱拡散により空気側に伝達される。図2には、この伝達が矢印25で示されている。この結果、瞬間的な空気の熱膨張および弾性波の励起が生じ、空気の屈折率が変化する。得られる空気の屈折率の空間周期的な変化は、回折格子としてプローブビーム6に影響を及ぼし、回折信号ビーム6’が得られる。
【0026】
図4には、図3に示した波形と同じ条件で測定された信号波形を示す。試料には、Siウェハ上の0.55μmのSiO2に46ÅのTiSiN膜が化学蒸着されている。従って、図3と図4の測定では、後者の場合、極めて薄いTiSiN膜22があることだけが異なっている。信号波形は変調され、遅い振動200が生じていることがわかる。励起パターンの空間周期によって定められる8.86μmの弾性波を、遅い振動200の周期25.4nsで割ると、349m/sの速度、すなわち通常の条件での空気の音速が得られる。従って遅い振動200は、TiSiN膜22から膜の上部の空気への熱伝達により生じる、空気中の弾性波による信号成分に対応する。その低周波数のため、空気中の弾性波の信号への寄与は、他の信号成分(例えば、波形の高周波数振動100に影響するSAW成分)から容易に区別することができる。
【0027】
金属膜の厚さがゼロの場合、空気中の弾性波による信号成分は存在しないため、この信号成分の振幅は、ある厚さの範囲では、膜厚の増大とともに増大する。膜が厚くなると、膜はより多くの励起エネルギーを吸収し、結果的により多くのエネルギーが空気中に伝達される。この傾向は、膜がほぼ透明な場合、すなわち材質にもよるが、100乃至300Åまでの厚さである限り観測され得る。厚く、不透明な膜の場合、この傾向は逆になる。これは、膜が厚い場合、膜の厚み方向を横断する熱が膜の表面に至るまでに冷却され、空気にまで伝達される熱量が少なくなるからである。
【0028】
従って、膜厚が100Å未満の場合、信号中の遅い振動200の振幅と膜厚との間には相関がある。これにより、遅い振動200の振幅を用いて膜厚の測定を行うことが可能となる。
【0029】
前記振幅の識別のため、信号波形の「尾部」が、指数関数的に減衰する関数、減衰振動および一定のオフセットの総和からなる以下の関数でフィッティングされる。
【0030】
【数1】

波動の周波数ω、位相θ、および減衰時間τ2は、一つのTiSiN膜試料のデータに基づいて定められ、定められた値に固定される。他のパラメータ、すなわち、A、τ1、BおよびCは、波動振幅として得られたBの最適なフィット値を用いて、マルチパラメータフィッティングにおいて定められる。図5には、フィッティングの手法を示すが、線201は測定された信号波形を示し、線201の一部と近接する線202は、(1)式により算定された最適フィッティングを示す。
【0031】
図6には、1組のTiSiN膜試料において得られた信号の遅い振動成分の測定振幅を示す。この図には、低角入射x線反射法(XRR)という別の既知の方法によって測定された結果も示されている。図6においてシンボル60は、実験的に測定されたデータを表し、シンボル60をつなぐ線61は、その後の測定において校正曲線として使用される、内挿多項式曲線を表す。本発明の方法による測定とXRRの間には、良好な相関が得られている。内挿曲線がx軸とゼロではなく、約13Åに相当する点で交差していることは、成膜と測定の期間内に、膜が周囲の空気にさらされて、部分的に酸化されたことを示している。通常金属酸化物は、金属に比べて十分に小さい吸収係数を示すため、本発明の方法では、金属膜22の非酸化残留部分に対してのみ感度がある。
【0032】
図7には、0.55μmの熱成長SiO2を有する直径200mmのSiウェハ上に成膜された2種類のTiSiN膜の半径方向のプロファイルを示す。上述の手法により信号中の遅い振動200の振幅を測定して、図6のような実験値補正を行ったデータが示されている。信号対ノイズ比を改善するため、データは、半径方向の走査により連続的に測定された10箇所以上の値で平均化されている。上記の測定例は、実験値補正を用いているが、本方法は、以下のステップを有する理論モデルを用いることで、精度をより高め得ることに留意する必要がある。そのステップは、
(1)多層構造上に成膜された測定膜での光吸収の算定。これは従来技術による方法で行うことができる。
(2)熱拡散問題を解いて、試料と接する気体または液体媒体の温度上昇を決定するステップ、および、
(3)気体または液体媒体に生じる弾性波の振幅を算定するステップ、
を有する。
【0033】
固体試料と接する液体の熱拡散および音響問題(2)、(3)を解くために用いられるモデルおよび方法は、従来技術である。
【0034】
図7に示すデータは、本発明の方法の実際的な利用の一例を表しており、本方法は、化学蒸着されたCuの相互接続(厚さ〜50Å)のバリア膜の厚さおよび均一性の評価に利用される。
【0035】
上述のXRR技術および分光偏光解析法のような他の技術を用いることにより、100Åおよびより薄い金属膜でも測定を行うことができることに留意する必要がある。本発明の方法の利点は、その高い感度にあり、これは、空気中の弾性波による過渡回折格子信号の成分が、ほぼ完全に金属膜の存在に起因するためである。金属膜の有無を検出する必要がある場合、例えば、銅の相互接続構造部の化学的機械的研磨(CMP)後の金属残留物の検出に、この方法を利用することは特に有意である。別の利点は、本測定を、標準的な市販のISTS機器を用いて行うことができることであり、極めて薄い膜の測定は本発明によって、またより厚い膜の測定は従来技術のISTS技術によって、単一の機器で行うことが可能となる。
【0036】
空気中の弾性波励起に関する上述の機構は、試料と接する別の気体または液体媒体にも等しく適用できることに留意する必要がある。液体中に浸漬された試料での測定は、CMPプロセスのその場制御のような潜在的用途に利用し得る。本発明は、多くの付随的な利点を有し、それらの利点は、本記述、図面および特許請求の範囲から明らかである。
【0037】
上述の表現および例示は、一例に過ぎず、請求項の範囲を限定するものと解することはできない。
【図面の簡単な説明】
【0038】
【図1】従来技術によるインパルス励起熱散乱法を用いて検査される金属薄膜を示す図である。
【図2】本発明によるインパルス励起熱散乱法を用いて検査される金属薄膜を示す図である。
【図3】Siウェハ上にSiO2層を有し、表面金属膜のない試料に生じる信号波形を示す図である。
【図4】Siウェハ上にSiO2層を有し、SiO2層上に成膜されたTiSiNの薄膜を有する試料に生じる信号波形を示す図である。
【図5】式1による最適なフィッティングカーブで表される信号波形を示す図である。
【図6】金属膜厚に対する波動の振幅を示すチャートである。
【図7】本発明の方法により測定されたTiSiN膜厚の半径方向プロファイル例を示す図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
膜を評価する方法であって、
空間周期的な光励起場で前記膜を照射して、熱回折格子を生じさせるステップと、
前記膜と接する気体または液体媒体中に、前記膜から前記媒体への熱伝達により、空間周期的な屈折率攪乱部を生じさせるステップと、
前記媒体中の前記屈折率攪乱部でプローブレーザービームを回折させ、信号ビームを形成するステップと、
時間の関数として前記信号ビームを検出して、信号波形を生じさせるステップと、
前記信号波形に基づいて、前記膜の少なくとも一つの特性を決定するステップと、
を有する方法。
【請求項2】
前記膜は、金属膜を有することを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記膜は、100オングストローム未満の厚さの金属膜であることを特徴とする請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記膜は、励起放射線に対して透明な下地層上に設置されることを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項5】
前記膜は、前記下地層上に設置され、該下地層は、励起周波数では前記膜の材料に比べて小さな吸収係数であることを特徴とする請求項4に記載の方法。
【請求項6】
前記膜と接する前記媒体は、空気であることを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項7】
前記媒体の前記屈折率攪乱部は、弾性波に関連することを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項8】
前記媒体中の前記弾性波は、前記信号波形の低周波変調を生じさせることを特徴とする請求項7に記載の方法。
【請求項9】
前記決定するステップは、前記信号波形の前記低周波変調の解析に基づいて行われることを特徴とする請求項9に記載の方法。
【請求項10】
前記決定するステップは、実験的補正による前記信号波形の解析を有することを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項11】
前記決定するステップは、前記膜による光吸収の算定を有する理論モデルでの前記信号波形の解析と、
前記膜と接する前記気体または液体媒体中に温度上昇を生じさせる熱拡散の解析と、
前記温度上昇によって生じる前記弾性波の励起の解析と、
前記温度上昇および前記媒体中の弾性波によって生じる、前記屈折率攪乱部で回折される前記プローブビームの解析と、
を有することを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項12】
前記少なくとも一つの特性は、前記膜の厚さに関することを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項13】
前記少なくとも一つの特性は、前記膜の有無に関することを特徴とする請求項1に記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公表番号】特表2006−524813(P2006−524813A)
【公表日】平成18年11月2日(2006.11.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−506458(P2006−506458)
【出願日】平成16年4月12日(2004.4.12)
【国際出願番号】PCT/IB2004/001107
【国際公開番号】WO2004/092714
【国際公開日】平成16年10月28日(2004.10.28)
【出願人】(590000248)コーニンクレッカ フィリップス エレクトロニクス エヌ ヴィ (12,071)
【氏名又は名称原語表記】Koninklijke Philips Electronics N.V.
【住所又は居所原語表記】Groenewoudseweg 1,5621 BA Eindhoven, The Netherlands
【Fターム(参考)】