説明

薄膜トランジスタ及びその製造方法

本発明の薄膜トランジスタは、半導体層(14)と、前記半導体層に相互に対向するように分離して設けられたソース領域(15)とドレーン領域(16)とを有する薄膜トランジスタ(100)であって、前記半導体層はπ共役系有機半導体分子を主成分として有し、前記π共役系有機半導体分子が、π軌道が実質的に対向するように配向され、かつ主鎖の分子軸が前記半導体層に形成されるチャネルにおける電界の方向に対して傾斜して配向されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
本発明は、薄膜トランジスタ及びその製造方法に関し、特に、配向形成されたπ共役系有機半導体を半導体層として用いる薄膜トランジスタ及びその製造方法に関する。
【技術背景】
現在、薄膜トランジスタ(以下、TFTという)は、アクティブマトリクス型の液晶ディスプレイ等における駆動素子として好適に使用されている。このTFTの構成としては種々の構成が提案されているが、基本的には、半導体層に接触して設けられたソース電極とドレーン電極との間に流れる電流を、半導体層に対して絶縁層を介して設けられたゲート電極に印加される電圧(つまり、印加される電圧で発生する電界)により制御するように構成されている。そして、TFTを構成する前記半導体層に関し、現在実用化されている半導体材料としては、結晶シリコンと比して特性面では劣るものの、比較的安価であるアモルファスシリコンや低温ポリシリコン等といった半導体材料がある。又、ゲート電極が設けられる前記絶縁層に関し、現在実用化されている絶縁材料としては、酸化シリコンや窒化シリコン等がある。しかし、これらの半導体材料及び絶縁材料を用いるTFTの製造プロセスでは、プラズマCVD法等の大規模な装置や、精密加工のための薄膜制御装置を必要とする。そのため、TFTの製造コストは高コスト化する。又、前記製造プロセスは、一般に、350℃を越えるような処理温度のプロセスを含むため、使用可能な基板材料等には制限がある。
ところで、近年では、TFT用として利用可能な半導体材料として、有機化合物で構成される有機物半導体が注目されている。この有機物半導体は、前述したアモルファスシリコンや低温ポリシリコン等の無機系の半導体を用いる場合と比べて、低コストプロセスでありかつ低温プロセスであるスピンコーティング、インクジェット印刷、及び浸漬コーティング等の製造プロセスによって前記半導体層を形成することが可能である。そのため、TFTの製造コストを低コスト化することが可能であり、又、使用可能な基板材料等に関する制限が解消される。又、前述した低コストプロセスや低温プロセスが適用可能であることにより、フレキシブルな基板上や大面積な基板へのTFT形成が実現でき、これによって大画面ディスプレイやシートライク、或いはペーパーライクなディスプレイ、又は無線IDタグ等への用途拡大が期待されている。しかしながら、現在報告されている有機物半導体は、そのキャリア移動度が前記無機系半導体と比して低い。そのため、アモルファスシリコン並のキャリア移動度を実現するために、種々の取り組みがなされている。
有機物半導体の内、π共役系の有機物半導体は、π共役二重結合を有する分子骨格からなる有機化合物で構成されている。そして、前記π共役二重結合におけるπ軌道の重なりによって生じる荷電子帯と伝導帯、及びそれらの間のバンドギャップによって、半導体特性が得られると考えられている。ところで、π共役系有機半導体分子を寄せ集めて集合体を形成した場合、電気伝導の容易さは、その容易さの上位から、分子内の主鎖方向に沿った電気伝導、隣り合う分子同士のπ軌道の重なりを利用した電気伝導、分子間の電子のホッピングによる電気伝導の順となる。従って、π共役系有機半導体分子においてキャリア移動度を向上させるためには、如何に前記電気伝導の容易さの内で上位の電気伝導を有効に利用できる構成にするかが問題となる。そして、前記分子間の電子のホッピングによる電気伝導をより少なくする方法としては、従来から、分子を一定の方向に配向制御する方法が採られてきた。より具体的な配向方法としては、ポリシラン薄膜を、ラングミュア・ブロジェット法(LB法)や、延伸法を用いて配向させる方法が開示されている(例えば、日本国特許公開公報:特開平5−275695号公報)。又、基板上にポリテトラフルオロエチレンを一定圧力で押し付けスライドさせて配向形成し、その配向形成したポリテトラフルオロエチレンの膜の上面にオリゴチオフェン化合物を接触させることで配向成膜する方法が開示されている(例えば、日本国特許公開公報:特開平7−206599号公報)。又、π共役系オリゴマー分子を、ホット・ウォール・エピタキシー法を用いて配向成長させる方法も開示されている(例えば、日本国特許公開公報:特開2002−270621号公報)。これらの配向方法を用いることによって、前記分子間の電子のホッピングによる電気伝導を限りなく少なくすることが可能となる。
又、更なるキャリア移動度の改善方法としては、π共役系有機半導体分子の配向方向を、TFTのソース電極とドレーン電極とを結ぶ垂線に対して平行になるように制御し、これによって前記分子内の主鎖方向に沿った電気伝導を有効に利用しようという方法や(例えば、日本国特許公開公報:特開平5−275695号公報、及び、日本国特許公表公報:特表2003−502874号公報)、π共役系有機半導体分子の配向方向を、TFTのソース電極とドレーン電極とを結ぶ垂線に対して垂直になるように制御し、これによって前記隣り合う分子同士のπ軌道の重なりを利用した電気伝導を有効に利用しようという方法等も提案されている(例えば、日本国特許公開公報:特開平9−116163号公報)。
ところで、π共役系有機半導体分子の配向方向をTFTのソース電極とドレーン電極とを結ぶ直線に対して平行になるように制御し、これによってπ共役系有機半導体分子の主鎖方向に沿った電気伝導を利用して高キャリア移動度を実現しようとする方法においては、π共役系有機半導体分子の主鎖の分子長と比してソース電極とドレーン電極との間の距離が長くなってくると、その距離の増大に伴ってπ共役系有機半導体分子間における電子の移動回数が次第に多くなってくる。そして、この場合、ソース電極とドレーン電極とを結ぶ垂線に対して垂直方向に隣り合うπ共役系有機半導体分子間における電子の移動は、ソース電極とドレーン電極との間の電界が形成されている方向と直交する方向に電子が移動しなければならないため、非常に困難となる。つまり、ソース電極とドレーン電極との間の距離と比較して非常に長い分子長を有するπ共役系有機半導体分子を用いる場合や、π共役系有機半導体分子の分子長と比較してソース電極とドレーン電極との間の距離が充分に狭い場合を除いて、π共役系有機半導体分子の配向方向をTFTのソース電極とドレーン電極とを結ぶ垂線に対して平行になるように制御しても、十分なキャリア移動度を得ることはできない。
又、π共役系有機半導体分子の配向方向をTFTのソース電極とドレーン電極とを結ぶ垂線に対して垂直になるように制御し、これによって隣り合うπ共役系有機半導体分子同士のπ軌道の重なりを利用して高キャリア移動度を実現しようとする方法においては、π共役系有機半導体分子の主鎖の長手方向はソース電極とドレーン電極とを結ぶ垂線に垂直に並んでおり、これによってπ共役系有機半導体分子内の主鎖方向に沿った電気伝導は寄与せず、殆どπ共役系有機半導体分子間のπ軌道の重なりを利用する電気伝導が支配的となる。そのため、ソース電極とドレーン電極との間の距離が増大すると、その距離の増大に比例して電子の移動回数が多くなる。つまり、π共役系有機半導体分子の配向方向をTFTのソース電極とドレーン電極とを結ぶ垂線に対して垂直になるように制御し、かつ配向度を上げても、キャリアの移動度の改善には限界がある。
【発明の開示】
本発明は、上記課題を解決するためになされたものであり、π共役系有機半導体分子を所定の方向に配向形成して構成したキャリア移動度が改善されたTFTと、そのTFTの製造方法を提供することを第1の目的としている。又、本発明は、キャリア移動度が改善されたTFTを複数個配置したアクティブマトリクス型のディスプレイや、前記キャリア移動度が改善されたTFTを集積回路部に用いた無線IDタグや、前記キャリア移動度が改善されたTFTを集積回路部に用いた携帯テレビ、通信端末、PDA、携帯用医療機器等の携行用機器を提供することを第2の目的としている。
そして、これらの目的を達成するために、本発明に係るTFTは、半導体層と、前記半導体層に相互に対向するように分離して設けられたソース領域とドレーン領域とを有する薄膜トランジスタであって、前記半導体層はπ共役系有機半導体分子を主成分として有し、前記π共役系有機半導体分子が、π軌道が実質的に対向するように配向され、かつ主鎖の分子軸が前記半導体層に形成されるチャネルにおける電界の方向に対して傾斜して配向されている構成を採る。ここで、本明細書において、ソース領域及びドレーン領域とは、ソース電極及びドレーン電極、並びに、ソース電極及びドレーン電極を半導体層に接続するコンタクト層又は高濃度不純物領域(層)等を含む概念をいう。かかる構成により、π共役系有機半導体分子内での主鎖方向に沿った電荷移動と、電界の掛かっているソース領域からドレーン領域の方向へのπ軌道の重なりを利用した電荷移動とが有効に活用されるので、キャリア移動度の高いTFTを実現することができるとする。
この場合、ソース領域とドレーン領域とが前記半導体層に相互に対向する辺を有するように分離して設けられ、前記π共役系有機半導体分子が、主鎖の分子軸が前記対向する辺に垂直な方向に対して傾斜して配向されている構成を採る。又、ソース領域とドレーン領域とが前記半導体層に該半導体層の膜厚方向において相互に対向する面を有するように分離して設けられ、前記π共役系有機半導体分子が、主鎖の分子軸が前記対向する面に垂直な方向に対して傾斜して配向されている構成を採る。かかる構成により、π共役系有機半導体分子の主鎖の分子軸がソース領域とドレーン領域との対向する辺に垂直な方向に対して傾斜して配向されているので、π共役系有機半導体分子内での主鎖方向に沿った伝導がソース領域とドレーン領域との間の電荷移動において有効に活用される。又、隣り合うπ共役系有機半導体分子同士のπ軌道がソース領域からドレーン領域への方向において対向するように形成されており、従って分子間の電荷の移動はホッピングではなく電界の掛かっているソース領域からドレーン領域の方向へのπ軌道の重なりを利用した電荷移動が主となる。そのため、キャリア移動度の高いTFTを実現することができるとする。
上記の場合、前記半導体層の少なくとも一面にゲート絶縁層を介して設けられたゲート電極を有し、前記ゲート電極に前記薄膜トランジスタのON時と同等の電圧が印加された状態における前記π共役系有機半導体分子の主鎖の分子軸方向の導電率がσ1で、前記分子軸方向と垂直方向でかつπ軌道軸方向の導電率がσ2であるとき、前記π共役系有機半導体分子の主鎖の分子軸が、前記ソース領域と前記ドレーン領域との対向する辺または対向する面に垂直な方向に対して(1)式で算出される角度θ傾いた方向を実質的な配向方向として配向されている構成を採ることが好ましい。かかる構成により、薄膜トランジスタのON時の状態において最も導電率の高くなる方向を基準にしてソース領域及びドレーン領域が形成されることになるので、より一層キャリア移動度の高いTFTを実現することができるとする。
θ=arctan(σ2/σ1) ・・・(1)
又、本発明は、前記π共役系有機半導体分子の主鎖の分子軸が前記半導体層の主面に実質的に平行な平面内に存在するよう配向され、かつ該配向範囲が前記角度θ±10°なる構成を採ることが好ましい。かかる構成により、π共役系有機半導体分子の主鎖の分子軸が半導体層の主面に実質的に平行な平面内に配向可能な材料について、キャリア移動度の高いTFTを実現することができるとする。
又、本発明は、前記π共役系有機半導体分子の主鎖の分子軸が前記半導体層の主面に実質的に平行な平面内に存在しないように配向され、かつ該配向範囲が前記角度θ±5°なる構成を採ることが好ましい。かかる構成により、π共役系有機半導体分子の主鎖の分子軸が半導体層の主面に実質的に平行な平面に対して所定の角度をもって配向可能な材料について、キャリア移動度の高いTFTを実現することができるとする。
又、本発明は、前記π共役系有機半導体分子が、チオフェン、アセチレン、ピロール、フェニレン、及びアセンの内の何れか、若しくは、これらを組み合わせた分子骨格を主鎖とする誘導体である構成を採る。かかる構成により、キャリア移動度の優れたπ共役系の電荷移動が実現できるとする。
又、本発明は、前記π共役系有機半導体分子における各々のπ軌道の延出方向が、全て同一ベクトル方向に統一されていない構成を採ることが好ましい。かかる構成により、1つのπ共役系有機半導体分子中においてπ軌道の延出方向が全て同一ベクトル方向に統一されていないので、主鎖の分子軸の方向を揃えることにより、隣り合うπ共役系有機半導体分子同士のπ軌道が容易に対向するようにできるとする。
又、本発明は、前記π共役系有機半導体分子が結晶質である構成を採ることがより好ましい。かかる構成により、π共役系有機半導体分子の配向度を、非晶質の分子を用いる場合よりも高めることができるので、より一層キャリア移動度の高いTFTを実現することができるとする。
又、本発明に係るTFTの製造方法は、半導体層と、前記半導体層に相互に対向するように分離して設けられたソース領域とドレーン領域とを有する薄膜トランジスタの製造方法であって、前記半導体層にπ共役系有機半導体分子を主成分として用い、前記π共役系有機半導体分子を、π軌道が実質的に対向するように配向し、かつ主鎖の分子軸が前記半導体層に形成されるチャネルにおける電界の方向に対して傾斜して配向する構成を採る。かかる構成により、π共役系有機半導体分子内での主鎖方向に沿った電荷移動と、電界の掛かっているソース領域からドレーン領域の方向へのπ軌道の重なりを利用した電荷移動とが有効に活用されるので、キャリア移動度の高いTFTを実現することができるとする。
この場合、ソース領域とドレーン領域とを前記半導体層に相互に対向する辺を有するように分離して設け、前記π共役系有機半導体分子を、主鎖の分子軸が前記対向する辺に垂直な方向に対して傾斜して配向する構成を採る。又、ソース領域とドレーン領域とを前記半導体層に該半導体層の膜厚方向において相互に対向する面を有するように分離して設け、前記π共役系有機半導体分子を、主鎖の分子軸が前記対向する面に垂直な方向に対して傾斜して配向する構成を採る。かかる構成により、π共役系有機半導体分子の主鎖の分子軸がソース領域とドレーン領域との対向する辺に垂直な方向に対して傾斜して配向されているので、π共役系有機半導体分子内での主鎖方向に沿った伝導がソース領域とドレーン領域との間の電荷移動において有効に活用されるとする。又、隣り合うπ共役系有機半導体分子同士のπ軌道がソース領域からドレーン領域への方向において対向するように形成されており、従って分子間の電荷の移動はホッピングではなく電界の掛かっているソース領域からドレーン領域の方向へのπ軌道の重なりを利用した電荷移動が主となる。そのため、キャリア移動度の高いTFTを製造することができるとする。
上記の場合、前記半導体層の少なくとも一面にゲート絶縁層を介して設けられたゲート電極を有し、前記ゲート電極に前記薄膜トランジスタのON時と同等の電圧が印加された状態における前記π共役系有機半導体分子の主鎖の分子軸方向の導電率がσ1で、前記分子軸方向と垂直方向でかつπ軌道軸方向の導電率がσ2であるとき、前記π共役系有機半導体分子の主鎖の分子軸を、前記ソース領域と前記ドレーン領域との対向する辺または対向する面に垂直な方向に対して(1)式で算出される角度θ傾いた方向を実質的な配向方向として配向する構成を採ることが好ましい。かかる構成により、薄膜トランジスタのON時の状態において最も導電率の高くなる方向を基準にしてソース領域及びドレーン領域が形成されることになるので、より一層キャリア移動度の高いTFTを製造することができるとする。
θ=arctan(σ2/σ1) ・・・(1)
又、本発明は、前記π共役系有機半導体分子の主鎖の分子軸を前記半導体層の主面に実質的に平行な平面内に存在するよう配向し、かつ該配向範囲を前記角度θ±10°なる構成を採ることが好ましい。かかる構成により、π共役系有機半導体分子の主鎖の分子軸が半導体層の主面に実質的に平行な平面内に配向可能な材料について、キャリア移動度の高いTFTを製造することができるとする。
又、本発明は、前記π共役系有機半導体分子の主鎖の分子軸を前記半導体層の主面に実質的に平行な平面内に存在しないように配向し、かつ該配向範囲を前記角度θ±5°なる構成を採ることが好ましい。かかる構成により、π共役系有機半導体分子の主鎖の分子軸が半導体層の主面に実質的に平行な平面に対して所定の角度をもって配向可能な材料について、キャリア移動度の高いTFTを製造することができるとする。
又、本発明は、前記π共役系有機半導体分子として、チオフェン、アセチレン、ピロール、フェニレン、及びアセンの内の何れか、若しくは、これらを組み合わせた分子骨格を主鎖とする誘導体を用いる構成を採る。かかる構成により、キャリア移動度の優れたπ共役系の電荷移動が実現できるとする。
又、本発明に係る薄膜トランジスタを用いたアクティブマトリクス型ディスプレイは、請求の範囲第1項乃至第9項の何れかに記載の薄膜トランジスタが、画素を駆動するためのスイッチング素子として複数個配設されてなる構成を採る。かかる構成により、低コストで特性の良いシートライク、或いはペーパーライクなディスプレイを具現化することができるとする。
又、本発明に係る薄膜トランジスタを用いた無線IDタグは、請求の範囲第1項乃至第9項の何れかに記載の薄膜トランジスタが、集積回路を構成するための半導体素子として利用されてなる構成を採る。かかる構成により、無線IDタグを様々な形状の物体、或いは素材へ貼り付けることができるとする。又、任意の形状に形成可能な無線IDタグを具現化することができるとする。
又、本発明に係る薄膜トランジスタを用いた携行用機器は、請求の範囲第1項乃至第9項の何れかに記載の薄膜トランジスタが、集積回路を構成するための半導体素子として利用されてなる構成を採る。ここで、携行用機器としては、例えば、携帯テレビ、通信端末、PDA、携帯用医療機器等が挙げられる。しかし、これらの携行用機器に限定されることはなく、例えば、携帯用AV機器、携帯用コンピュータ等の如何なる携行用機器も含まれる。かかる構成により、携帯テレビ、通信端末、PDA、携帯用医療機器等の携行用機器に、低コスト、フレキシブル、耐衝撃性、任意形状に形成可能等の利点を付加することができるとする。
本発明の上記目的、他の目的、特徴、及び利点は、添付図面参照の下、以下の好適な実施態様の詳細な説明から明らかにされる。
【図面の簡単な説明】
図1は、TFTの第1の代表的な構成の各々を模式的に示す断面図である。
図2は、TFTの第2の代表的な構成の各々を模式的に示す断面図である。
図3は、半導体層に用いるπ共役系有機半導体分子であるオリゴチオフェン誘導体分子の構造を示す図であり、図3Aは化学構造式を示し、図3Bはσ結合及びπ電子雲の様子を示し、図3Cは分子を模式的に示す斜視図である。
図4は、半導体層におけるオリゴチオフェン誘導体分子の配向状態を模式的に示す斜視図である。
図5は、TFTのキャリア移動度を測定するための測定試料の構成を示す模式図である。
図6は、種々のゲート電圧を印加した場合におけるオリゴチオフェン誘導体分子の配向角度を変化させた際のキャリア移動度の変化を測定した結果を表すグラフであり、図6Aはゲート電圧が20Vである場合の測定結果を示し、図6Bはゲート電圧が30Vである場合の測定結果を示し、図6Cはゲート電圧が40Vである場合の測定結果を示す。
図7は、6個の五員環を有しかつ両方の末端をアルキル基で化学修飾したオリゴチオフェン誘導体分子を用いたTFTのキャリア移動度の変化を測定した結果を表すグラフである。
図8は、半導体層に用いるπ共役系有機半導体分子であるペンタセンの構造を示す図であり、図8Aはペンタセンの化学構造式を示し、図8Bはペンタセンにおけるσ結合及びπ電子雲の様子を示し、図8Cはペンタセンを模式的に示す斜視図である。
図9は、半導体層におけるペンタセンの配向状態を模式的に示す斜視図である。
図10は、種々のゲート電圧を印加した場合におけるペンタセンの配向角度を変化させた際のキャリア移動度の変化を測定した結果を表すグラフであり、図10Aはゲート電圧が20Vである場合の測定結果を示し、図10Bはゲート電圧が40Vである場合の測定結果を示す。
図11は、有機ELを表示部に用いたアクティブマトリクス型ディスプレイの構成を模式的に示す斜視図である。
図12は、TFT駆動回路部の構成を拡大して示した模式図である。
図13は、本実施の形態に係るTFTを用いた無線IDタグの構成を模式的に示した斜視図である。
図14は、本実施の形態に係るTFTを用いた携帯テレビの構成を模式的に示した正面図である。
図15は、本実施の形態に係るTFTを用いた携帯電話の構成を模式的に示した正面図である。
図16は、本実施の形態に係るTFTを用いた携帯用医療機器の構成を模式的に示した斜視図である。
参照符号一覧表(1)
10 垂線
11 基板
12 ゲート電極
13 ゲート絶縁層
14 半導体層
15 ソース電極
16 ドレーン電極
21 炭素原子
22 硫黄原子
23 π電子雲
40 半導体層
40a オリゴチオフェン誘導体分子
41 プラスティック基盤
42 半導体層
43 ソース電極
44 ドレーン電極
45 ゲート絶縁層
46 ゲート電極
47 半導体層の配向方向
48 半導体層
48a ペンタセン
71 炭素原子
73 π電子雲
100 TFT
101 プラスティック基板
102 有機EL層
103 透明電極
104 保護フィルム
105 ソース電極線
106 ゲート電極線
110 TFT駆動回路部
112 ゲート電極
113 ゲート絶縁層
114 半導体層
115 ソース電極
参照符号一覧表(2)
116 ドレーン電極
117 画素電極
118 絶縁層
120 無線IDタグ
121 プラスティック基板
122 アンテナ部
123 メモリーIC部
130 携帯テレビ
131 表示部
132 受信部
133 電源スイッチ
134 操作スイッチ
135 音声出力部
136 入出力端子
137 記録メディア挿入部
140 携帯電話
141 表示部
142 送受信部
143 音声出力部
144 カメラ部
145 折り畳み用可動部
146 操作スイッチ
147 音声入力部
150 携帯用医療機器
151 表示部
152 操作スイッチ
153 医療的処置部
154 経皮コンタクト部
155 腕
200 TFT
【発明を実施するための最良の形態】
以下、本発明の実施の形態について、図面を参照しながら説明する。
(第1の実施形態)
本発明の第1の実施形態では、TFTの半導体層を構成するπ共役系有機半導体分子として、オリゴチオフェン誘導体を用いる場合について説明する。
図1は、TFTの第1の代表的な構成の各々を模式的に示す断面図である。
図1A〜図1Dに示すように、本実施の形態に係るTFT100の構成としては、様々な構成が考えられている。何れの構成においても、その構成要素として、基板11と、ゲート電極12と、ゲート絶縁層13と、半導体層14と、ソース電極15と、ドレーン電極16とを備えていることでは共通している。ここで、一般に、図1A及び図1Bは、ボトムゲート方式と呼ばれている。又、図1C及び図1Dは、トップゲート方式と呼ばれている。更に、半導体層14とソース電極15、ドレーン電極16との位置関係により、図1A及び図1Cは、トップコンタクト方式とも呼ばれている。又、図1B及び図1Dは、ボトムコンタクト方式とも呼ばれている。これらの図1A〜図1Dで示したTFT100は、ソース電極15とドレーン電極16とが断面視において横方向に対向するよう配置されているので、横型TFTと呼ばれている。
一方、図1A〜図1Dに示した従来の横型TFTに対し、近年では、ソース電極15とドレーン電極16とが断面視において縦方向に対向するよう配置された縦型TFTも提案されている。
図2A及び図2Bは、TFTの第2の代表的な構成の各々を模式的に示す断面図である。
図2A及び図2Bに示すように、本実施の形態に係るTFT200の構成でも、その構成要素として、基板11と、ゲート電極12と、ゲート絶縁層13と、半導体層14と、ソース電極15と、ドレーン電極16とを備えていることでは、図1A〜図1Dで示したTFT100と基本的に同様である。しかし、本実施の形態に係るTFT200では、図2A及び図2Bの何れにおいても、ソース電極15とドレーン電極16とが半導体層14をその膜厚方向に(縦方向に)挟んで対向するように配置されている。このため、TFT200は、縱型TFTと呼ばれている。
尚、本発明によって得られる効果は、半導体層に用いるπ共役系有機半導体分子の配向方向をソース電極とドレーン電極との配置に対して適当な方向に制御することによって得られるものであるので、TFT自体の構成は図1及び図2に示した何れの構成でも良く、即ち、何れかの構成に限定されるものではない。従って、以降の説明では、TFTの構成の代表例として、図1Cに示したトップゲート方式のTFT100の構成を適用した場合について説明する。
図1Cに示すように、トップゲート方式が採用されたTFT100は、基板11と、π共役系有機半導体分子からなる半導体層14と、ソース電極15と、ドレーン電極16と、ゲート絶縁層13と、ゲート電極12とを有している。具体的には、基板11の主面上に半導体層14が設けられており、この半導体層14の上に、ソース電極15及びドレーン電極16が、互いに分離するように設けられている。又、このソース電極15及びドレーン電極16と、半導体層14の露出面とを覆うように、ゲート絶縁層13が設けられている。そして、このゲート絶縁層13の上に、平面視において少なくともソース電極15とドレーン電極16との間に位置するように、ゲート電極12が設けられている。このように、図1Cに示すトップゲート方式が採用されたTFT100は、基板11上に半導体層14、ソース電極15及びドレーン電極16、ゲート絶縁層13が積層され、このゲート絶縁層13の上にゲート電極12が配設された構成を有している。
上記構成を有するTFT100を製造する場合、先ず、所定の溶媒に溶解・分散させたπ共役系有機半導体分子を、予め所望の配向方向に平行に溝を形成した基板11上に塗布する。そして、そのπ共役系有機半導体分子が塗布された基板11を十分に乾燥させることにより、基板11上にπ共役系有機半導体分子からなる半導体層14を配向成膜する。次に、π共役系有機半導体分子からなる半導体層14上にソース電極15とドレーン電極16とを形成するために、所定の電極材料を、所望の形状が得られるように予めパターニングされたスクリーン版を用いることによって印刷した後、十分に乾燥させる。これによって、半導体層14上には、所望の形状のソース電極15及びドレーン電極16が形成される。その後、ゲート絶縁層13を形成するために、所定の絶縁材料を予めパターニングされたスクリーン版を用いることによってソース電極15、ドレーン電極16、及び半導体層14上に印刷した後、十分に乾燥させる。これにより、半導体層14、ソース電極15及びドレーン電極16上には、所望の形状のゲート絶縁層13が形成される。そして、最後に、ゲート絶縁層13上にゲート電極12を形成するために、上記と同様にして、所定の電極材料を、所望の形状が得られるように予めパターニングされたスクリーン版を用いることによって印刷した後、これを十分に乾燥させる。これによって、ゲート絶縁層13上には所望の形状のゲート電極12が形成される。このように、TFT100は、基板11上に半導体層14、ソース電極15及びドレーン電極16、ゲート絶縁層13、及びゲート電極12の各々がスクリーン版を用いる印刷法によって印刷され、その後十分に乾燥されることによって形成される。
本実施の形態におけるTFT100では、基板11を構成する材料としては、ポリエチレン系のプラスティック基板を用いた。又、半導体層14を構成する材料としては、π共役系有機半導体分子の内の1つであるオリゴチオフェン誘導体分子を用いた。又、ソース電極15、ドレーン電極16、及びゲート電極12を構成する材料としては、ポリ3,4−エチレンダイオキシチオフェン(以下、PEDOTという)を主成分とする電極材料を用いた。更に、ゲート絶縁層13を構成する材料としては、ポリビニルフェノールを用いた。
先ず、半導体層14に用いるπ共役系有機半導体分子であるオリゴチオフェン誘導体分子について詳細に説明する。
図3は、半導体層14に用いるπ共役系有機半導体分子であるオリゴチオフェン誘導体分子の構造を示す図である。ここで、図3Aはオリゴチオフェン誘導体分子の化学構造式を示し、図3Bはオリゴチオフェン誘導体分子におけるσ結合及びπ電子雲の様子を示し、図3Cはオリゴチオフェン誘導体分子を模式的に示す斜視図である。尚、図3Aにおいて、オリゴチオフェン誘導体分子の主鎖の末端の化学構造は、その記載を省略している。
図3Aに示すように、オリゴチオフェン誘導体分子の主鎖においては、硫黄原子(S)を含み二重結合を有する五員環がσ結合により繰り返し結合して構成されるπ共役系が発達している。尚、図3Aでは、水素原子は明示していない。この時、分子軌道法等の手段を用いて電子状態を計算すると、二重結合の内のπ結合に利用されるπ電子の電子雲の存在範囲を求めることができる。即ち、図3Bに示すように、このオリゴチオフェン誘導体分子では、炭素原子21と硫黄原子22とで構成される各五員環面に対して垂直方向にπ電子雲23が存在している。尚、このオリゴチオフェン誘導体分子では、各五員環同士は同一平面内に存在するのではなく、各五員環同士がσ結合により多少ねじれて結合しているため、π電子雲23の存在方向を示すベクトルは、一定の方向に統一されていない。そして、本実施の形態では、実際には、オリゴチオフェン分子の主鎖の末端を所定の置換基で化学修飾したオリゴチオフェン誘導体分子を用いている。具体的には、図3Aに示すように硫黄原子を含む8個の五員環を有し、かつ主鎖の両末端をアルキル基(例えば、−C1021)で化学修飾したオリゴチオフェン誘導体分子を用いている。
次に、本発明を特徴付けるオリゴチオフェン誘導体分子の配向角度に関する検討方法と、その検討結果について説明する。尚、以降の説明では、オリゴチオフェン誘導体分子の1分子を図3Cに示すように短冊状の四角形で表すこととする。又、π電子雲はその存在方向を示すベクトルが実際には全て統一されている訳ではないが、実質的にこの四角形平面に対して垂直な方向に存在するものと仮定する。
図4は、前述した製造方法によって得られた半導体層40におけるオリゴチオフェン誘導体分子40aの配向状態を模式的に示す斜視図である。ここで、図4においては、XY軸によって形成される平面は半導体層40の主面と平行な平面を表しており、Z軸方向は半導体層40の厚み方向を示している。
図4において、オリゴチオフェン誘導体分子40aは、その主鎖の分子軸がY軸方向と平行になるように配向されており、かつ、各々の分子面を表す四角形がYZ軸で形成される平面に平行となるように配置されている。つまり、半導体層40は、Y軸方向及びZ軸方向を除く方向、即ちX軸方向において、隣り合うオリゴチオフェン誘導体分子同士のπ軌道が対向するように構成されている。
このように配向形成された半導体層40を用いて、図5に示すように、オリゴチオフェン誘導体分子40aの配向方向であるY軸方向に対して各々矩形形状を有するソース電極及びドレーン電極の対向する辺同士に共通するその垂線10を10°ずつ傾けたTFT100を各々作製した。即ち、オリゴチオフェン誘導体分子40aの各々を、そのπ軌道が実質的に対向するように配向し、かつその主鎖の分子軸をソース電極とドレーン電極との対向する辺に垂直な方向に対して10°ずつ傾斜するように各々配向した。ここで、この作製された各々のTFT100は、プラスティック基板41と、図4の半導体層40で構成された半導体層42と、ソース電極43と、ドレーン電極44と、絶縁層45と、ゲート電極46とを有して構成されている。尚、矢印47は、半導体層42における図5では図示しないオリゴチオフェン誘導体分子の配向方向を示している。
以上のようにして準備された各々の測定サンプルについて、ゲート電極に種々のゲート電圧を印加した場合のI−V特性を測定することによって、TFT100のキャリア移動度を求めた。又、ソース電極43とドレーン電極44との対向する辺の垂線10と、オリゴチオフェン誘導体分子40aの主鎖の分子軸とのなす角(配向角度)が0°である場合のソース電極−ドレーン電極間の導電率(即ち、π共役系有機半導体分子の主鎖の分子軸に代表される方向の導電率σ1に相当)と、同じく90°である場合の導電率(即ち、配向方向と垂直方向で、かつπ電子雲存在方向の導電率σ2に相当)とを求め、こられの導電率の値を(1)式に代入することによってθを算出した。ここで、式(1)における「arctan」は、逆正接tan−1を意味する。
θ=arctan(σ2/σ1) ・・・(1)
図6は、種々のゲート電圧を印加した場合におけるオリゴチオフェン誘導体分子の配向角度を変化させた際のキャリア移動度の変化を測定した結果を表すグラフである。ここで、図6Aはゲート電圧が20Vである場合の測定結果を示し、図6Bはゲート電圧が30Vである場合の測定結果を示し、図6Cはゲート電圧が40Vである場合の測定結果を示している。尚、図6において、横軸はオリゴチオフェン誘導体分子の主鎖の分子軸と、ソース電極とドレーン電極との対向する辺の垂線とのなす角(°)を示し、縦軸はキャリア移動度(cm/Vsec)を示している。
図6Aに示すように、ゲート電圧が20Vである場合には、導電率σ1は7.7×10−3S/mであり、導電率σ2は1.9×10−3S/mであった。又、キャリア移動度については、オリゴチオフェン誘導体分子の配向角度が0°より大きくなるに従って向上するが、前記式(1)で求められるθ=14°近傍を超えると徐々に低下し、配向角度が90°では最も低いキャリア移動度となった。
又、図6Bに示すように、ゲート電圧が30Vである場合には、導電率σ1は9.2×10−3S/mであり、導電率σ2は3.9×10−3S/mであった。又、キャリア移動度については、ゲート電圧が20Vである場合と同様に、オリゴチオフェン誘導体分子の配向角度が0°より大きくなるに従って向上するが、前記式(1)で求められるθ=23°近傍を超えると徐々に低下し、配向角度が90°では最も低いキャリア移動度となった。
更に、図6Cに示すように、ゲート電圧が40Vである場合には、導電率σ1は1.0×10−2S/mであり、導電率σ2は5.4×10−3S/mであった。又、キャリア移動度については、ゲート電圧が20V及び30Vである場合と同様に、オリゴチオフェン誘導体分子の配向角度が0°より大きくなるに従って向上するが、前記式(1)で求められるθ=28°近傍を超えると徐々に低下し、配向角度が90°では最も低いキャリア移動度となった。
このように、オリゴチオフェン誘導体分子の配向角度が90°の場合、即ち、オリゴチオフェン誘導体分子の主鎖の分子軸がソース電極とドレーン電極との対向する辺に垂直な方向に対して垂直である場合には、キャリア移動度が最も低下することが判明した。又、図6A〜図6Cにおいて斜線で示した領域におけるキャリア移動度は、オリゴチオフェン誘導体分子の配向角度が0°の場合、即ち、オリゴチオフェン誘導体分子がソース電極からドレーン電極への方向において隣り合う分子同士のπ軌道が対向するように形成されていない場合に比べて改善していることが分かった。更に、最高のキャリア移動度が得られる配向角度は、配向角度が0°である場合の導電率σ1と、配向角度が90°である場合の導電率σ2とを用いて式(1)によって計算されるθの近傍であることが分かった。そして、オリゴチオフェン誘導体分子の好ましい配向角度の範囲について更に調査した結果、図6A〜図6Cに示すように、式(1)によって算出されるθを中心として±10°の範囲が最も好適であることが判明した。
更に、本実施の形態では、半導体層40に用いるオリゴチオフェン誘導体分子として、6個の五員環を有し、かつ、両方の末端をアルキル基(例えば、−C1021)で修飾したオリゴチオフェン誘導体分子についても、同様の測定サンプルを作製し測定を行った。その測定の結果を、図7に示す。ここで、図7に示す測定結果は、ゲート電圧が30Vである場合についての測定結果を示している。尚、図7における横軸と縦軸とは、図6の場合と同様である。
図7に示すように、6個の五員環を有し末端が前記化学修飾されたオリゴチオフェン誘導体分子を用いた場合には、オリゴチオフェン誘導体分子の配向角度が0°である場合と90°である場合とのキャリア移動度は概ね等しく、その他の配向角度におけるキャリア移動度は、前記0°及び前記90°の場合のキャリア移動度に対して改善されていることが分かった。又、前記8個の五員環を有するオリゴチオフェン誘導体分子を用いる場合と同様に、配向角度が0°である場合の導電率σ1と、配向角度が90°である場合の導電率σ2とを用いて式(1)によって計算されるθ=39°の近傍において最高のキャリア移動度が得られることが分かった。そして、この場合も、オリゴチオフェン誘導体分子の好ましい配向角度の範囲は、図7に示すように、式(1)によって算出されるθを中心として±10°の範囲であることが判明した。
尚、本実施の形態では、半導体層に用いるπ共役系有機半導体分子として、五員環が8個又は6個であり、末端が各々アルキル基(例えば、−C1021)で修飾されたオリゴチオフェン誘導体を用いた場合について説明したが、本発明の効果はこのような構造を有する材料に限定されるものではない。つまり、本発明によって得られる効果は、TFTのソース電極及びドレーン電極の配設方向と、半導体層の配向方向との位置関係によって発現するものであるので、他のπ共役系有機半導体分子を用いた場合でも、同様の効果が得られる。例えば、五員環の数が異なるポリチオフェン誘導体を用いても良いし、末端の修飾基をその他の適当な置換基に変更することも可能である。又、末端ではなく、主鎖の途中に修飾基を導入しても良い。
又、図4ではオリゴチオフェン誘導体分子を表す四角形がYZ軸で形成される平面に平行に配置されているよう模式的に示したが、分子面を表す四角形は全てが完全にXY軸で形成される平面に対して直立している必要は無い。つまり、π軌道の重なりを利用した電荷移動が可能である程度においては、多少分子面が傾いていても良いし、その傾きも一様である必要は無い。その際、本実施例で用いたオリゴチオフェン誘導体分子のように、π電子雲の存在方向を示すベクトル方向が一方向に統一されていないものは、その傾きの許容範囲が広くなるので、本発明に係るTFTの作製が容易になるという効果が得られる。
(第2の実施形態)
本発明の第2の実施形態では、TFTの半導体層を構成するπ共役系有機半導体分子として、ペンタセンを用いる場合について説明する。
本実施の形態では、図1Bに示す構成を有するTFT100を採用した。尚、本発明の効果は、半導体層の配向方向を基板平面に対して適当な角度の向きに制御することによって得られるものである。従って、TFT100自体の構成は、図1Bに示した構成に限定されるものではない。
図1Bに示すように、ボトムゲート方式が採用されたTFT100は、基板11と、ゲート電極12と、ゲート絶縁層13と、ソース電極15と、ドレーン電極16と、π共役系有機半導体分子からなる半導体層14とを有している。具体的には、基板11の主面上にゲート電極12が設けられており、このゲート電極12と基板11との露出した表面を覆うようにして、ゲート絶縁層13が設けられている。このゲート絶縁層13上に、ソース電極15及びドレーン電極16が、平面視においてゲート電極12の両側に位置するように設けられている。そして、このソース電極5及びドレーン電極6とゲート絶縁層13の露出する表面とを覆うようにして、半導体層14が設けられている。このように、図1Bに示すボトムゲート方式が採用されたTFT100は、基板11上にゲート電極12、ゲート絶縁層13、ソース電極15及びドレーン電極16、及び半導体層14が順次積層された構成を有している。
上記構成を有するTFT100を製造する場合、先ず、ゲート電極12を形成するために、基板11上に所定の電極材料を真空蒸着法にて成膜した後にパターニングする。これによって、基板11上の所定の位置には、所定の形状のゲート電極12が形成される。次に、ゲート絶縁層13を形成するために、所定の絶縁材料をスピンコーティング法にて塗布した後に十分に乾燥させる。次いで、ソース電極15及びドレーン電極16を形成するために、所定の電極材料を真空蒸着法にて成膜した後にパターニングする。これにより、ゲート絶縁層13上には所定の形状を有するソース電極15及びドレーン電極16が形成される。最後に、半導体層14を形成するために、π共役系有機半導体分子を真空蒸着法にて成膜した後にパターニングする。この時、前記π共役系有機半導体分子の分子軸と基板11の平面とのなす角については、成膜条件を調整することによって制御した。又、平面方向におけるπ共役系有機半導体分子の重なりについては、通常の成膜ではグレイン毎にはその重なる方向が揃うが、層全体としてはグレイン毎にランダムな方向になってしまうため、実際にはπ共役系有機半導体分子を成膜する前に下地となるゲート絶縁層13上に配向層を塗布及び乾燥により設けて、これにより層全体として一様な分子の重なりが得られるようにした。このように、TFT100は、基板11上にゲート電極12、ゲート絶縁層13、ソース電極15及びドレーン電極16、及び半導体層14の各々が真空蒸着法又はスピンコーティング法によって成膜及びパターニングされることによって形成される。
本実施例におけるTFT100では、基板11を構成する材料としてポリエチレン系のプラスティック基板を用いた。又、ゲート電極12を構成する材料としては、金(以下、Au)を用いた。又、ゲート絶縁層13を構成する材料としては、ポリビニルフェノールを用いた。又、ソース電極15及びドレーン電極16を構成する材料としては、Auを用いた。そして、半導体層14を構成する材料としては、π共役系有機半導体分子の内の1つであるペンタセンを用いた。
先ず、半導体層14に用いるπ共役系有機半導体分子であるペンタセンについて詳細に説明する。
図8は、半導体層14に用いるπ共役系有機半導体分子であるペンタセンの構造を示す図である。ここで、図8Aはペンタセンの化学構造式を示し、図8Bはペンタセンにおけるσ結合及びπ電子雲の様子を示し、図8Cはペンタセンを模式的に示す斜視図である。
図8Aに示すように、ペンタセンの主鎖においては、複数の二重結合を有する六員環が繰り返し結合して構成されるπ共役系が発達している。尚、図8Aでは、水素原子は明示していない。この時、分子軌道法等の手段を用いて電子状態を計算すると、二重結合の内のπ結合に利用されるπ電子の電子雲の存在範囲を求めることができる。即ち、図8Bに示すように、このペンタセンでは、炭素原子71で構成される各六員環面に対して垂直方向にπ電子雲73が存在している。尚、このペンタセンでは、各六員環同士は同一平面内に存在するので、π電子雲73の存在方向を示すベクトルは、図8Cに示す四角形平面に垂直な方向に統一されている。
次に、本発明を特徴付けるペンタセンの配向角度に関する検討方法と、その検討結果について説明する。尚、以降の説明では、ペンタセンの1分子を図8Cに示すように短冊状の四角形で表すこととする。
図9は、前述した製造方法によって得られた半導体層48におけるペンタセン48aの配向状態を模式的に示す斜視図である。ここで、図9においては、XY軸によって形成される平面は半導体層48の主面と平行な平面を表しており、Z軸方向は半導体層48の厚み方向を示している。
図9において、ペンタセン48aは、その主鎖の分子軸がXY軸で形成される平面に対してα°のなす角をもって配向されており、かつ、各々の分子面を表す四角形がX軸に平行な方向において、隣り合う分子同士のπ軌道が対向するように構成されている。尚、このように形成された半導体層48に対して、ソース電極及びドレーン電極は、何れのなす角α°のペンタセン48aについても、X軸方向がチャネル方向となるよう形成される。
以上のようにして準備された各々の測定サンプルについて、ゲート電極に種々のゲート電圧を印加した場合のI−V特性を測定することによって、TFT100のキャリア移動度を求めた。又、なす角α°が0°である場合のソース電極とドレーン電極との間の導電率(即ち、π共役系有機半導体分子の主鎖の分子軸に代表される方向の導電率σ1に相当)と、なす角α°が90°である場合の導電率(即ち、配向方向と垂直方向で、かつπ電子雲存在方向の導電率σ2に相当;実際には完全に90°配向の物が得られていないが、最も90°に近いもので代表させた)とを求め、これらの導電率の値を前述の(1)式に代入することによってθを算出した。
θ=arctan(σ2/σ1) ・・・(1)
図10は、種々のゲート電圧を印加した場合におけるペンタセンの配向角度を変化させた際のキャリア移動度の変化を測定した結果を表すグラフである。ここで、図10Aはゲート電圧が20Vである場合の測定結果を示し、図10Bはゲート電圧が40Vである場合の測定結果を示している。尚、図10における横軸と縦軸とについても、図6の場合と同様である。
図10Aに示すように、ゲート電圧が20Vである場合には、導電率σ1は1.9×10−3S/mであり、導電率σ2は1.3×10−2S/mであった。又、キャリア移動度については、ペンタセンの配向角度が0°で最も低い移動度となったが、0°より大きくなるに従って次第に向上し、前記式(1)で求められるθ=81°近傍でピークとなった後、徐々に低下することが分かった。
又、図10Bに示すように、ゲート電圧が40Vである場合には、導電率σ1は3.2×10−3S/mであり、導電率σ2は6.3×10−2S/mであった。又、キャリア移動度については、ペンタセンの配向角度が0°で最も低い移動度となったが、0°より大きくなるに従って次第に向上し、前記式(1)で求められるθ=87°近傍でピークとなった後、徐々に低下することが分かった。
このように、半導体層48のキャリア移動度は、ペンタセンの配向角度を0°より大きくするに従って、配向角度が0°である場合(即ち、ペンタセンの分子軸が基板平面と平行に配向しており、π共役系有機半導体分子がソース電極からドレーン電極への方向において隣り合う分子同士のπ軌道が対向するように形成されていない場合)に比べて改善することが分かった。又、図10A及び図10Bにおいて斜線で示した領域におけるキャリア移動度は、ペンタセンの配向角度が90°近傍である場合、即ち、ペンタセンの分子軸が基板平面に直立しており、π共役系有機半導体分子の主鎖の分子軸がソース電極とドレーン電極との対向する辺の垂線に対して垂直である場合に比べて改善していることが分かった。更に、最高のキャリア移動度が得られる配向角度は、配向角度が0°である場合の導電率σ1と、配向角度が90°である場合の導電率σ2とを用いて式(1)によって計算されるθの近傍であることが分かった。そして、ペンタセンの好ましい配向角度の範囲について更に調査した結果、図10A及び図10Bに示すように、式(1)によって算出されるθを中心として±5°の範囲(但し、90°を超える部分を除く)が最も好適であることが判明した。
尚、本実施の形態では、半導体層に用いるπ共役系有機半導体分子としてペンタセンを用いた場合について説明したが、本発明の効果はこの材料に限定されるものではない。即ち、本発明の効果は、半導体層を構成するπ共役系有機半導体分子の分子軸の配向方向と基板平面との位置関係によって発現するものであるので、その他のπ共役系有機半導体分子を用いた場合でも同様の効果が得られる。例えば、六員環の数が異なるテトラセン等のその他のオリゴアセンを用いても良いし、それらの構造の一部を置換したり、又は化学修飾したりしたオリゴアセン系の誘導体を用いても良い。
又、第1の実施形態ではチオフェン系ポリマーの誘導体を用いた場合を、第2の実施形態ではアセン系ポリマーの誘導体を用いた場合を例として説明したが、本発明の効果はこれらの材料に限定されるものではなく、アセチレン系、ピロール系、又はフェニレン系のポリマーの誘導体を用いても、本発明の主旨に沿って配向方向が制御されて成膜される限りにおいては同様の効果が得られる。又、前記材料の何れかを組み合わせたコポリマーの誘導体を用いた場合も、本発明の効果と同様の効果が得られる。又、これらの中から材料を選択する際、第2の実施形態で説明したペンタセンのように結晶質の材料を選択すると、非晶質の材料を用いる場合と比べてより一層高いキャリア移動度を得ることが可能になる。
又、第1,2の実施形態では、ソース電極、ドレーン電極、ゲート電極の各々の電極材料として有機材料であるPEDOTを主成分とする材料、若しくはAuを用いたが、その他の導電性高分子材料を用いることも可能であり、又、ITO,Cu等の無機材料を用いることも可能である。但し、機械的柔軟性、耐衝撃性のあるTFTを構成するためには弾性のある材料を選択するか、若しくは曲げの影響を受けにくい電極構成を選択することが好ましい。又、ゲート絶縁層や基板も第1,2の実施形態で用いた材料に限定はされないが、電極と同様に弾性のある材料を選択するか、若しくは曲げの影響を受けにくい材料を用いることが好ましい。
又、第1の実施形態では、オリゴチオフェン誘導体分子を所定の方向に配向させる方法として、基板に溝を設けてその上に溶媒に分散させたオリゴチオフェン誘導体分子を塗布し乾燥させるという方法を、又、第2の実施形態では、ペンタセンを所定の方向に配向させる方法として、下地となるゲート絶縁層上に配向層を設けて所定の条件で真空蒸着して成膜する方法を各々用いたが、本発明の効果は前述の通り半導体層の配向方向とソース電極−ドレーン電極、或いは基板平面との位置関係によって発現するものであるので、その配向方法が何であるかは問題でない。例えば、背景技術として説明したLB法、延伸法、又は、基板上にポリテトラフルオロエチレンを一定圧力で押し付けスライドさせて配向形成し、その上に有機半導体を接触させる方法や、π共役系オリゴマー分子を、ホット・ウォール・エピタキシー法を用いる方法等を用いて配向成膜しても同様の効果が得られる。又、π共役系有機半導体分子の側鎖に液晶性の置換基を化学修飾し、その置換基の効果を利用することによって配向制御する方法を用いても良い。
更に、第1,2の実施形態で用いた材料について、各々のゲート電圧において最適と思われる配向角度をθとして示したが、これらは材料によって一意的に決まるものではない。つまり、導電率σ1、及びσ2は同一材料であってもその成膜状態、又はTFTの構成等によって変わり得る。しかしながら、本発明の主旨に従って配向角度を決定することにより、実際に使われる状態において、最もキャリア移動度が高くなるTFTを構成することが可能となる。
(第3の実施形態)
本発明の第3の実施形態では、第1,2の実施形態で説明したTFTを用いたアプリケーション例として、シートライクなフレキシブルディスプレイ、無線IDタグ、及び、携帯テレビ、通信端末、携帯用医療機器等の携行用機器について説明する。
先ず、シートライクなフレキシブルディスプレイとして有機ELを表示部に用いたアクティブマトリクス型ディスプレイの構成例について説明する。
図11は、本実施の形態に係る有機ELを表示部に用いたアクティブマトリクス型ディスプレイの構成を模式的に示す斜視図である。
図11に示すように、本実施の形態に係るアクティブマトリクス型ディスプレイは、プラスティック基板101上に画素電極に接続されたTFT駆動回路110がアレイ状に配置されており、そのTFT駆動回路110の上に有機EL層102と保護フィルム104とが配設されている。尚、有機EL層102の上面には、透明電極103が設けられる。ここで、有機EL層102は、電子輸送層、発光層、正孔輸送層等の各層が積層され構成されている。そして、各々のTFTの所定の電極から延長されたソース電極線105とゲート電極線106とは、各々ここでは図示しない制御回路へ接続されている。ここで、TFT駆動回路部110の拡大図を図12に示す。尚、TFT自体の積層構成は、基本的に第1の実施形態で示した積層構造と同様である。つまり、図12に示すTFTは、半導体層114と、ソース電極115及びドレーン電極116と、ゲート絶縁層113と、ゲート電極112とが積層されてなる。そして、図12に示すように、ドレーン電極116は有機ELの画素電極117に電気的に接続されている。又、ゲート電極112が接続されたゲート電極線106と、ソース電極115が接続されたソース電極線105とが交差する部分には、絶縁層118が配設されている。
このように、第1,2の実施形態で説明したTFTを用いてアクティブマトリクス型のディスプレイを構成することにより、TFT部分を低コストプロセスで作製できるため、ディスプレイ全体としても安価で、かつ機械的柔軟性及び耐衝撃性に優れたシートライクなディスプレイを実現することができる。又、表示速度(反応速度)の速いアクティブマトリクス型のディスプレイを提供することが可能になる。
尚、本実施の形態では、表示部に有機ELを用いた場合について説明したが、本発明の効果はこの構成を有するアクティブマトリクス型のディスプレイに限定されるものではない。つまり、TFT回路を必要とするアクティブマトリクス型のディスプレイであれば、その効果は同様に発揮される。
又、画素を駆動する駆動回路部の構成は、本実施の形態で示した構成に限定されるものではない。つまり、例えば、1つの画素を駆動するために電流駆動用のTFTとそれを制御するためのスイッチング用TFTとを組み合わせた構成としても良い。又、更に複数個のTFTを組み合わせた回路構成とすることも可能である。
次に、本発明に係るTFTを無線IDタグに応用した場合について説明する。
図13は、本実施の形態に係るTFTを用いた無線IDタグの構成を模式的に示した斜視図である。
図13に示すように、本実施の形態に係る無線IDタグ120は、フィルム状のプラスティック基板121を基材として使用している。この基板121上には、アンテナ部122とメモリーIC部123とが設けられている。ここで、メモリーIC部123は、第1,2の実施形態において説明したTFTを利用して構成することが可能である。そして、この無線IDタグ120は、裏面に粘着効果を持たせることで、菓子袋やドリンク缶のような平坦でないものにも貼り付けて使用することが可能である。尚、無線IDタグ120の表面には、必要に応じて保護膜が設けられる。
このように、第1,2の実施形態で説明したTFTを用いて無線IDタグを構成することにより、様々な形状、又は素材へ貼り付けることが可能な無線IDタグを具現化することが可能になる。又、反応速度(処理速度)の速い無線IDタグを提供することが可能になる。
尚、本発明の効果は、図13に示した無線IDタグの構成に限定され得られるものではない。従って、アンテナ部、メモリーIC部の配置や構成方法は、任意に設定可能である。又、例えば、倫理回路部を無線IDタグに組み込むことも可能である。
又、本実施の形態では、プラスティック基板121上に予めアンテナ部122とメモリーIC部123とを形成しておく形態について説明したが、本発明はこの形態に限定されるものではなく、インクジェット印刷のような方法を用いて、直接対象物に無線IDタグを形成することも可能である。そして、その際も、本発明に係るTFTの構成を用いることにより、機械的柔軟性、耐衝撃性に優れた高性能な無線IDタグを低コストで作製することが可能になる。
最後に、本発明に係るTFTを携行用機器に応用した場合について説明する。図14〜図16では、本発明に係るTFTを利用した携行用機器の幾つかの具体的な応用例を示している。
先ず、本発明に係るTFTを携帯テレビに応用した場合について説明する。
図14は、本実施の形態に係るTFTを用いた携帯テレビの構成を模式的に示した正面図である。
図14に示すように、本実施の形態に係る携帯テレビ130は、テレビ映像を表示する液晶表示装置等からなる表示部131と、ここでは伸縮自在なロッドアンテナからなる放送電波を受信可能な受信部132と、携帯テレビ130電源のON/OFFを制御する電源スイッチ133と、後述する音声出力装置135から出力される音声出力の音量の調整や受信するテレビ放送のチャンネルの切り換えを行うための操作スイッチ134と、テレビ音声を出力するスピーカ等からなる音声出力部135と、音声信号や映像信号を携帯テレビ130に入力又は携帯テレビ130から出力する入出力端子136と、受信したテレビ放送等に係る音声信号及び映像信号が必要に応じて記録される記録メディアを挿入する記録メディア挿入部137とを備えている。
この携帯テレビ130は、図14では特に図示しないが、その内部にICやLSI等の集積回路を有している。そして、本発明に係るTFTを利用した集積回路が、携帯テレビ130を構成する演算素子、記憶素子、スイッチング素子等として適宜使用されている。これにより、携帯テレビ130は、携帯型のテレビ放送受信機として機能する。
次に、本発明に係るTFTを通信端末に応用した場合について説明する。尚、ここでは、通信端末として、携帯電話を例示している。
図15は、本実施の形態に係るTFTを用いた携帯電話の構成を模式的に示した正面図である。
図15に示すように、本実施の形態に係る携帯電話140は、電話番号等を表示する液晶表示装置等からなる表示部141と、ここでは収納自在なホイップアンテナからなる通信電波を送受信可能な送受信部142と、通信音声を出力するスピーカ等からなる音声出力部143と、写真撮影可能なCCD素子等を有するカメラ部144と、携帯電話140を必要に応じて折り畳むための折り畳み用可動部145と、電話番号や文字を入力するための複数の操作スイッチ146と、通信音声を入力するコンデンサマイク等からなる音声入力部147とを備えている。
この携帯電話140は、図15では特に図示しないが、その内部にICやLSI等の集積回路を有している。そして、本発明に係るTFTを利用した集積回路が、携帯電話140を構成する演算素子、記憶素子、スイッチング素子等として適宜使用されている。これにより、携帯電話140は、携帯型の通信端末として機能する。
次に、本発明に係るTFTを携帯用医療機器に応用した場合について説明する。
図16は、本実施の形態に係るTFTを用いた携帯用医療機器の構成を模式的に示した斜視図である。尚、ここでは、携帯用医療機器の一例として、取得された生体情報に基づいて患者に対し薬物投与等の医療的処置を自動的に行う携帯用医療機器を例示している。又、図16では、後述する患者の腕155を透視的に表している。
図16に示すように、本実施の形態に係る携帯用医療機器150は、機器の動作状態や取得された生体情報等を表示する液晶表示装置等からなる表示部151と、携帯用医療機器150の動作に係る設定等を行うための操作スイッチ152と、後述する経皮コンタクト部154によって取得された生体情報を処理しかつその処理の結果に基づいて経皮コンタクト部154を介した患者に対する薬物投与等の医療的処置を行う医療的処置部153と、医療的処置のための患者の生体情報を逐次収集すると共に患者に対する医療的処置を実質的に行う経皮コンタクト部154とを備えている。
この携帯用医療機器150が用いられて患者に対する医療的処置が行われる場合、携帯用医療機器150は、例えば図16に示すように患者の腕155に巻き付けられて携行される。この図16に示す装着状態において、経皮コンタクト部154と患者の腕155の表面とは相互に密着している。そして、携帯用医療機器150は、この図16に示す装着状態において、経皮コンタクト部154を介して腕155から医療的処置のための生体情報を取得する。患者の生体情報が取得されると、この取得された生体情報は医療的処置部153に入力される。医療的処置部153では、取得された生体情報の医療的処置のための所定の処理が行われる。そして、その処理の結果に基づいて、医療的処置部153によって経皮コンタクト部154を介した患者に対する薬物投与等の医療的処置が行われる。
この携帯用医療機器150は、図16では特に図示しないが、その内部にICやLSI等の集積回路を有している。そして、本発明に係るTFTを利用した集積回路が、携帯用医療機器150を構成する演算素子、記憶素子、スイッチング素子等として適宜使用されている。これにより、携帯用医療機器150は、携帯型の医療機器として機能する。
このように、第1,2の実施形態で説明したTFTが利用された集積回路を用いて携行用機器を構成することにより、以下に記す効果が得られる。即ち、上述した携行用機器において利用される集積回路としては演算素子、記憶素子、及びスイッチング素子等の半導体特性を使った素子が種々考えられるが、前記携行用機器において、機械的柔軟性、耐衝撃性、廃却する際の対環境性や軽量、安価等の有機材料の利点として挙げられる性能が要求される際にその一部を本発明に係るTFTを利用して構成することにより、高性能な素子を安価に実現することが可能になる。又、その結果として、前記利点を備えた携行用機器を安価に製造することが可能になる。
第3の実施形態では、本発明に係るTFTを応用した携行用機器として幾つかの例を挙げて説明したが、これらの例示した機器の構成は上述した構成に限定されるものではない。又、本発明に係るTFTを応用可能な携行用機器についても、上述した機器に限定されるものではない。例えば、PDA端末、ウェアラブルなAV機器、ポータブルなコンピュータ、腕時計タイプの通信機器等、機械的柔軟性、耐衝撃性、廃却する際の対環境性、軽量、安価等が要求される携行用機器に対して本発明に係るTFTを好適に応用することが可能である。
尚、第1,2の実施形態では、図1B及び図1Cの構成のTFTに本発明を適用したが、図1A及び図1Dの構成のTFTにも本発明を同様に適用することが可能である。ここで、図1Aは、基板11上にゲート電極12、ゲート絶縁層13、及び半導体層14が積層され、この半導体層14の上にソース電極15及びドレーン電極16が積層され構成されている。又、図1Dは、基板11上にソース電極15及びドレーン電極16、半導体層14、及びゲート絶縁層13が積層され、このゲート絶縁層13の上にゲート電極12が積層され構成されている。
又、第1,2の実施形態では、ソース電極及びドレーン電極が矩形の形状を有する場合を説明したが、平面視においてソース電極とドレーン電極とが相互に対向する辺を有するように形成されていれば、本発明を好適に適用することができる。又、ソース電極及びドレーン電極が任意の形状を有する場合にも、方向π共役系有機半導体の主鎖の分子軸が半導体層に形成されるチャネルにおける電界の方向に対し傾斜して配向させることにより、本発明を適用することができる。
又、第1,2実施形態では、平面視において相互に対向する辺を有するように分離して設けられたソース電極とドレーン電極とを有する薄膜トランジスタの構成について示したが、この構成以外に、例えば、厚み方向において相互に対向する辺を有するように分離して設けられたソース電極とドレーン電極とを有する構成において、π共役系有機半導体分子が、π軌道が実質的に対向するように配向され、かつ主鎖の分子軸が前記対向する辺に垂直な方向に対して傾斜して配向されてなる構成としてもよい。かかる構成としても、第1,2の実施形態と同様の効果が得られる。
本発明は以上に述べたような構成を有し、π共役系有機半導体分子を所定の方向に配向形成して構成したキャリア移動度が改善されたTFTと、その製造方法を提供することができると共に、キャリア移動度が改善されたTFTを複数個配置したアクティブマトリクス型のディスプレイや、前記キャリア移動度が改善されたTFTを集積回路部に用いた無線IDタグや、前記キャリア移動度が改善されたTFTを集積回路部に用いた携行用機器等を提供することができるという効果を奏する。
上記説明から、当業者にとっては、本発明の多くの改良や他の実施形態が明らかである。従って、上記説明は、例示としてのみ解釈されるべきであり、本発明を実行する最良の態様を当業者に教示する目的で提供されたものである。本発明の精神を逸脱することなく、その構造及び/又は機能の詳細を実質的に変更できる。
〔産業上の利用の可能性〕
本発明に係るTFT及びその製造方法は、π共役系有機半導体分子を所定の方向に配向形成して構成したキャリア移動度が改善されたTFTと、そのTFTの製造方法として有用である。又、本発明に係るTFTは、シートライク又はペーパーライクなアクティブマトリクス型のディスプレイや、無線IDタグ、携帯テレビや携帯電話等の携行用機器等を製造するために有用である。



【図4】

【図5】


【図7】


【図9】


【図11】

【図12】

【図13】

【図14】

【図15】

【図16】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
半導体層と、前記半導体層に相互に対向するように分離して設けられたソース領域とドレーン領域とを有する薄膜トランジスタであって、
前記半導体層はπ共役系有機半導体分子を主成分として有し、
前記π共役系有機半導体分子が、π軌道が実質的に対向するように配向され、かつ主鎖の分子軸が前記半導体層に形成されるチャネルにおける電界の方向に対して傾斜して配向されている、薄膜トランジスタ。
【請求項2】
ソース領域とドレーン領域とが前記半導体層に相互に対向する辺を有するように分離して設けられ、
前記π共役系有機半導体分子が、主鎖の分子軸が前記対向する辺に垂直な方向に対して傾斜して配向されている、請求の範囲第1項記載の薄膜トランジスタ。
【請求項3】
ソース領域とドレーン領域とが前記半導体層に該半導体層の膜厚方向において相互に対向する面を有するように分離して設けられ、
前記π共役系有機半導体分子が、主鎖の分子軸が前記対向する面に垂直な方向に対して傾斜して配向されている、請求の範囲第1項記載の薄膜トランジスタ。
【請求項4】
前記半導体層の少なくとも一面にゲート絶縁層を介して設けられたゲート電極を有し、
前記ゲート電極に前記薄膜トランジスタのON時と同等の電圧が印加された状態における前記π共役系有機半導体分子の主鎖の分子軸方向の導電率がσ1で、前記分子軸方向と垂直方向でかつπ軌道軸方向の導電率がσ2であるとき、
前記π共役系有機半導体分子の主鎖の分子軸が、前記ソース領域と前記ドレーン領域との対向する辺または対向する面に垂直な方向に対して(1)式で算出される角度θ傾いた方向を実質的な配向方向として配向されている、請求の範囲第2項又は第3項記載の薄膜トランジスタ。
θ=arctan(σ2/σ1) ・・・(1)
【請求項5】
前記π共役系有機半導体分子の主鎖の分子軸が前記半導体層の主面に実質的に平行な平面内に存在するよう配向され、かつ該配向範囲が前記角度θ±10°である、請求の範囲第4項記載の薄膜トランジスタ。
【請求項6】
前記π共役系有機半導体分子の主鎖の分子軸が前記半導体層の主面に実質的に平行な平面内に存在しないように配向され、かつ該配向範囲が前記角度θ±5°である、請求の範囲第4項記載の薄膜トランジスタ。
【請求項7】
前記π共役系有機半導体分子が、チオフェン、アセチレン、ピロール、フェニレン、及びアセンの内の何れか、若しくは、これらを組み合わせた分子骨格を主鎖とする誘導体である、請求の範囲第1項記載の薄膜トランジスタ。
【請求項8】
前記π共役系有機半導体分子における各々のπ軌道の延出方向が、全て同一ベクトル方向に統一されていない、請求の範囲第7項記載の薄膜トランジスタ。
【請求項9】
前記π共役系有機半導体分子が結晶質である、請求の範囲第7項又は第8項記載の薄膜トランジスタ。
【請求項10】
半導体層と、前記半導体層に相互に対向するように分離して設けられたソース領域とドレーン領域とを有する薄膜トランジスタの製造方法であって、
前記半導体層にπ共役系有機半導体分子を主成分として用い、
前記π共役系有機半導体分子を、π軌道が実質的に対向するように配向し、かつ主鎖の分子軸が前記半導体層に形成されるチャネルにおける電界の方向に対して傾斜して配向する、薄膜トランジスタの製造方法。
【請求項11】
ソース領域とドレーン領域とを前記半導体層に相互に対向する辺を有するように分離して設け、
前記π共役系有機半導体分子を、主鎖の分子軸が前記対向する辺に垂直な方向に対して傾斜して配向する、請求の範囲第10項記載の薄膜トランジスタの製造方法。
【請求項12】
ソース領域とドレーン領域とを前記半導体層に該半導体層の膜厚方向において相互に対向する面を有するように分離して設け、
前記π共役系有機半導体分子を、主鎖の分子軸が前記対向する面に垂直な方向に対して傾斜して配向する、請求の範囲第10項記載の薄膜トランジスタの製造方法。
【請求項13】
前記半導体層の少なくとも一面にゲート絶縁層を介して設けられたゲート電極を有し、
前記ゲート電極に前記薄膜トランジスタのON時と同等の電圧が印加された状態における前記π共役系有機半導体分子の主鎖の分子軸方向の導電率がσ1で、前記分子軸方向と垂直方向でかつπ軌道軸方向の導電率がσ2であるとき、
前記π共役系有機半導体分子の主鎖の分子軸を、前記ソース領域と前記ドレーン領域との対向する辺または対向する面に垂直な方向に対して(1)式で算出される角度θ傾いた方向を実質的な配向方向として配向する、請求の範囲第11項又は第12項記載の薄膜トランジスタの製造方法。
θ=arctan(σ2/σ1) ・・・(1)
【請求項14】
前記π共役系有機半導体分子の主鎖の分子軸を前記半導体層の主面に実質的に平行な平面内に存在するよう配向し、かつ該配向範囲を前記角度θ±10°とする、請求の範囲第13項記載の薄膜トランジスタの製造方法。
【請求項15】
前記π共役系有機半導体分子の主鎖の分子軸を前記半導体層の主面に実質的に平行な平面内に存在しないように配向し、かつ該配向範囲を前記角度θ±5°とする、請求の範囲第13項記載の薄膜トランジスタの製造方法。
【請求項16】
前記π共役系有機半導体分子として、チオフェン、アセチレン、ピロール、フェニレン、及びアセンの内の何れか、若しくは、これらを組み合わせた分子骨格を主鎖とする誘導体を用いる、請求の範囲第10項記載の薄膜トランジスタの製造方法。
【請求項17】
請求の範囲第1項乃至第9項の何れかに記載の薄膜トランジスタが、画素を駆動するためのスイッチング素子として複数個配設されてなる、アクティブマトリクス型ディスプレイ。
【請求項18】
請求の範囲第1項乃至第9項の何れかに記載の薄膜トランジスタが、集積回路を構成するための半導体素子として利用されてなる、無線IDタグ。
【請求項19】
請求の範囲第1項乃至第9項の何れかに記載の薄膜トランジスタが、集積回路を構成するための半導体素子として利用されてなる、携行用機器。

【国際公開番号】WO2005/045939
【国際公開日】平成17年5月19日(2005.5.19)
【発行日】平成19年5月24日(2007.5.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−515233(P2005−515233)
【国際出願番号】PCT/JP2004/010759
【国際出願日】平成16年7月22日(2004.7.22)
【出願人】(000005821)松下電器産業株式会社 (73,050)
【Fターム(参考)】