説明

薄膜固体二次電池および薄膜固体二次電池の製造法

【課題】薄膜固体リチウム二次電池製造工程中の、負極(活物質層および集電体層)形成部分において、同一ターゲットで連続的に成膜することにより、装置の小型化および製造工程の簡素化を提供する。
【解決手段】薄膜固体二次電池において、負極活性物質をニオブ酸化物、負極集電体をニオブとし、同一のニオブ金属ターゲットを用い、DCスパッタリングにより負極活物質層5と負極集電体層6を連続成膜する。このとき、負極活物質層5及び負極集電体層6を成膜するためのターゲット金属を一種類しか必要としないため、製造装置の小型化、および製造工程の簡素化を実現できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、薄膜固体二次電池および薄膜固体二次電池の製造法に係り、特に、負極活物質としてニオブを用いる薄膜固体二次電池および薄膜固体二次電池の製造法に関する。
【背景技術】
【0002】
現在、携帯電話をはじめとする小型携帯機器は広く普及し、より小型、軽量、多機能化が進んでいる。それに伴い、それらの機器を駆動させるために必要な電池もより小型でエネルギー密度が高いことが求められている。リチウムイオン二次電池は、他の電池と比べてエネルギー密度が高いため広い用途で用いることが可能で、現在、最も広く普及している。
【0003】
最近では、安全性や高温での耐性もリチウムイオン二次電池の重要な要素となってきているが、電解液を用いる従来の電池には液洩れや熱膨張による爆発などの危険性が伴うため、安全性や高温での耐性が完全ではない面がある。例えば、電池動作が可能な温度の上限は、溶液電解質を使った通常のリチウムイオン二次電池では80℃程度であり、それよりも温度が上がると電池特性は劣化し、熱膨張による不測の事態が生じる可能性がある。
【0004】
また、小型化、薄型化に関しても、電解液を用いる従来の電池では容器の厚さなどから限界がある。このため、ゲル状の電解質や固体電解質を用いて全固体型の電池が提案されており、例えばゲル状の電解質を用いるポリマー電池(例えば、特許文献1参照)や、固体電解質を用いる薄膜固体二次電池(例えば、特許文献2、3参照)が提案されている。
【0005】
特許文献1に記載のポリマー電池は、外装体内部に、正極集電体、内部に高分子固体電解質を含有する複合正極、イオン伝導性高分子化合物からなる電解質層、内部に高分子固体電解質を含有する複合負極、負極集電体を順に配置して構成されている。
【0006】
このようなポリマー電池は、電解液を使う通常のリチウムイオン二次電池よりは薄型化、小型化が可能であり、また、安定した電池動作が可能な温度も100℃程度まで向上する。しかしながら、ゲル状の電解質や接合剤、封口部材等を必要とするため、厚さとしては0.1mm程度が限界であり、より一層の薄型化、小型化を進めるには適当ではなかった。また、電解質がポリマーであるため、150℃ぐらいの温度になると構造変化を起こし、電池そのものが崩壊してしまうため、より高い温度での使用や安全性に問題があった。
【0007】
一方、薄膜固体二次電池の構成は、特許文献2、3に記載のように、基板上に集電体薄膜、負極活物質薄膜、固体電解質薄膜、正極活物質薄膜、集電体薄膜を順に積層した構成、又は基板上に上記層を逆の順で積層した構成である。このような構成により、薄膜固体二次電池は、基板を除けば1μm程度の薄さにすることが可能である。また、基板の厚さを薄くしたり、薄膜化した固体電解質フィルムを基板の代わりに使用したりすれば、全体としてより薄型化、小型化を図ることが可能である。さらに、全固体型の薄膜固体二次電池であるため、液漏れ等の不都合もなく、高い安全性を備えたものとすることができる。
【0008】
薄膜固体二次電池の製造技術に関しては、薄膜固体二次電池(例えば薄膜固体リチウム二次電池)の各層を積層させる際、スパッタ技術、真空蒸着技術等のドライプロセスによりその材料および成膜技術に関して、種々の材料および技術が提案されている。その中でも、スパッタリングによる成膜技術においては、装置の小型化、成膜工程の簡略化、およびそれに伴うコストダウンも期待されることから、電池セルを構成する正極集電体、正極活物質、固体電解質、負極活物質、負極集電体の5層成膜に必要なターゲットの数が少なく、また、切り替えの回数が少ない技術が好ましいとされている。
【0009】
ニオブ酸化物は薄膜固体リチウム二次電池の負極活物質として使用できる材料の一つであり、負極活物質として提案されている(例えば、特許文献4,5参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開平10−74496号公報
【特許文献2】特開平10−284130号公報
【特許文献3】特開2002−42863号公報
【特許文献4】特開平7−142054号公報
【特許文献5】特開2008−159399号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
特許文献5の技術では、負極活物質としてリチウム−チタン−ニオブ複合酸化物を用いているので、水分に強く、酸化されにくい性質を有すると同時に毒性がほとんどないので、取扱いが容易で、安定した特性を持つリチウムイオン二次電池を歩留まり良く作製でき、また充放電カーブにおいて電圧減少が緩やかになり、充放電容量も増加する。また、リチウム−チタン−ニオブ複合酸化物は電気伝導性が高いので、特に薄膜固体二次電池を作製する際にリチウム−チタン−ニオブ複合酸化物をターゲットとしてスパッタリングにより薄膜形成を行う場合、スパッタパワーを増加させることができるので、成膜レートを向上させることができるなどの利点を有するものである。
このようなニオブ酸化物を薄膜固体二次電池の負極活物質として用いる場合、負極集電体層としては、ニオブ酸化物との界面で電池性能を劣化させる化合物を生成しないような金属が必要である。
【0012】
しかしながら、ニオブ酸化物を薄膜固体二次電池の負極活物質として用いる場合、一般に、負極活物質はニオブ酸化物ターゲットによりRFスパッタ、負極集電体は金属ターゲットによりDCスパッタで形成する必要がある。すなわち、抵抗率の高い酸化ニオブに対してはRFスパッタ、抵抗率の低い金属に対してはDCスパッタを用いる必要がある。したがって、こうしたターゲット材料の違いにより、異なるスパッタ法が必要となるため、成膜装置が煩雑になり、且つ複数のターゲットを用いなければならないという不都合もある。
【0013】
また、負極活物質を形成するニオブ酸化物ターゲットのRFスパッタでは高電力を必要とし、成膜速度が遅いために成膜時間が長くなり、基板温度が上昇して変形が生じる可能性があるという問題もある。
さらに、成膜装置を一旦大気開放してターゲットを交換する場合は、作業者の作業効率に依存して、電池が成膜途中の段階で大気に曝される時間が異なり、その結果、得られる電池の性能が均一にならないという問題もある。
【0014】
本発明の目的は、薄膜固体二次電池を構成する薄膜のうちスパッタリングによる成膜において、必要なターゲットの種類、数を少なくして、成膜時間の短縮が可能で、製造装置の小型化および製造工程の簡素化を図った薄膜固体二次電池の製造法および当該製造法による薄膜固体二次電池を提供することにある。
本発明の他の目的は、長時間電圧を維持できる薄膜固体二次電池の製造法および当該製造法による薄膜固体二次電池を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0015】
前記課題は、本発明に係る薄膜固体二次電池の製造法によれば、基板上に、正極集電体層,正極活物質層,固体電解質層,負極活物質層,負極集電体層を、この順にあるいはこの逆順にそれぞれ所定の膜厚で積層してなる薄膜固体二次電池の製造法であって、前記正極集電体層、前記正極活物質層、前記固体電解質層を、各層が所定の厚さで重なるように成膜する工程と、前記負極活物質層をニオブ酸化物とし、所定の厚さで重なるように成膜する負極活物質層成膜工程と、前記負極集電体層をニオブとし、所定の厚さで重なるように成膜する負極集電体層成膜工程と、を備え、前記負極活物質層成膜工程と前記負極集電体層成膜工程は、ニオブターゲットを用いて連続した工程で成膜すること、によって解決される。
【0016】
このように、負極活物質層成膜工程で形成される負極活物質層と負極集電体層成膜工程で形成される負極集電体層を、同じニオブターゲットを用いて連続した工程で成膜しているので、装置内に配置するターゲットの数が少なくなり、装置の小型化、製造工程の簡素化につながる。
【0017】
このとき、前記負極活物質層成膜工程および前記負極集電体層成膜工程は、DCスパッタリングによって成膜するものであって、同一のターゲットを使用して連続成膜すると好適である。
このように同一のターゲットを利用できるので、成膜に使用するターゲット数および電源の切り替え回数を減らし、製造工程を簡略化することができ、更なる操作の簡易化、装置の小型化を図ることができる。
【0018】
さらに、DCスパッタリングによって成膜することができるため、RFスパッタリングに比して、成膜速度の向上が促され、成膜時間の短縮が可能となり、生産効率が向上し、製造原価を削減することができる。これは、負極活物質であるニオブ酸化物をニオブ金属ターゲットから酸素ガスリアクティブでDCスパッタして成膜した場合、ニオブ酸化物ターゲットからRFスパッタして成膜した場合と比較すると、成膜速度が非常に速いためである。
【0019】
このとき、前記負極活物質層成膜工程を前記負極集電体層成膜工程より先に行う場合には、負極活物質層成膜工程と負極集電体層成膜工程の間に、酸素を遮断したプレスパッタ工程を行なうと好適である。ここで、プレスパッタとは、負極活物質層成膜工程で成膜した負極活物質層に、直ちに負極集電体を積層するのではなく、ターゲットの表面等に生じる金属面の汚れを取り、清浄な金属面を作るために行なわれるもので、このプレスパッタ工程の後で、負極集電体層成膜工程で負極集電体を成膜することにより、不純物の混入しない負極集電体を形成することが可能となる。
このようにすると、前記負極活物質層成膜工程を前記負極集電体層成膜工程より先に行う場合で、連続成膜する工程中、ニオブの酸化度を調整し、負極活物質、負極集電体の2層を明確に作り分けることができ、薄膜固体二次電池の製造における再現性を向上させることができる。
【0020】
また、前記正極集電体層、前記正極活物質層、前記固体電解質層、前記負極活物質層、前記負極集電体層が、正極からこの順に積層されていることが好ましい。このように構成すると、正極活物質層に含まれるリチウムが成膜中に負極活物質層等に移動し、不可逆容量の原因となり、電池特性が低下するのを防止できる。すなわち、リチウムイオン可動部分を密封することができるので、リチウムを含んでいる正極活物質の表面保護を図り、電池性能の劣化を抑えることができ、電池性能を長期間保持することが可能となる。
【0021】
前記課題は、本発明の薄膜固体二次電池によれば、請求項1乃至4のいずれか1項に記載の薄膜固体二次電池の製造法によって製造されたこと、により解決される。このように、本発明の薄膜固体二次電池は、上記製造法で述べた特性を備えた薄膜固体二次電池となる。
【0022】
また、前記課題は、本発明の薄膜固体二次電池によれば、基板上に、正極集電体層、正極活物質層、固体電解質層、負極活物質層、負極集電体層が積層されてなる薄膜固体二次電池において、前記固体電解質が、リン酸リチウム(LiPO)、リン酸リチウムの酸素を窒素で一部置換したリン酸リチウムオキシナイトライドガラス(LiPON)、TaとNbのいずれかあるいは両方の遷移金属およびLiとNを含む複合酸化物のうちの一つであり、前記負極活物質層がニオブ酸化物、前記負極集電体層がニオブであること、により解決される。
【0023】
このように、リチウムイオンの伝導性が良好な上記化合物を固体電解質層に含有することで、リチウムイオン二次電池の充放電特性を向上させることができる。
このとき、前記正極活物質がマンガン酸リチウムであると好適である。リチウムイオンを離脱、吸蔵させやすいこれらの化合物を正極活物質層に含むことで、正極活物質層に多くのイオンを吸蔵・離脱させることが可能となる。したがって、薄膜固体二次電池の充放電特性を更に向上させることが可能となる。さらに、薄膜固体電池の正極活物質層がマンガン酸リチウムである場合、比較的低温で成膜することが可能となる。
【発明の効果】
【0024】
本発明の請求項1の薄膜固体二次電池の製造法によれば、負極活物質、負極集電体層の2層の成膜において、同じターゲットを使用することができるため、用いるターゲット数を少なくすることができる。
【0025】
また請求項2の発明によれば、成膜に使用するターゲット数および電源の切り替え回数を減らし、製造工程を簡略化することができ、操作の簡易化、装置の小型化を図ることができる。また、金属ターゲットを交換する必要がないため、作業者の作業効率に依存して得られる電池の性能の均一性を確保することができる。さらに、DCスパッタリングによって成膜することができるため、RFスパッタリングに比して、成膜速度の向上が促され、成膜時間の短縮が可能となり、生産効率が向上し、製造原価を削減することができる。
【0026】
また請求項3のように、負極活物質層成膜工程を負極集電体層成膜工程より先に行う場合、プレスパッタ工程の後で、負極集電体層成膜工程で負極集電体を成膜することにより、不純物の混入しない負極集電体を形成することが可能となり、連続成膜する工程中、ニオブの酸化度を調整し、負極活物質、負極集電体の2層を明確に作り分けることができ、薄膜固体二次電池の製造における再現性を向上させることができる。
【0027】
また請求項4のように、正極集電体、正極活物質層、固体電解質、負極活物質層、負極集電体が、正極からこの順に積層すると、正極活物質に含まれるリチウムが成膜中に負極活物質層等に移動し、不可逆容量の原因となり、電池特性が低下するのを防止できる。
【0028】
さらに請求項5の発明によれば、上記製造法で述べた特性を備えた薄膜固体二次電池となる。
また請求項6の発明によれば、上述した効果を備えると共に、リチウムイオンの伝導性が良好な上記化合物を固体電解質層に含有することで、リチウムイオン二次電池の充放電特性を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【図1】本発明の実施形態に係る薄膜固体二次電池の概略断面図である。
【図2】薄膜固体二次電池のサイクル特性を示すグラフ図である。
【図3】薄膜固体二次電池の放電曲線を示すグラフ図である。
【発明を実施するための形態】
【0030】
本発明の実施形態に係る薄膜固体二次電池および薄膜固体二次電池の製造法を図面に基づいて説明する。なお、以下に説明する材料、配置、構成等は、本発明を限定するものでなく、本発明の趣旨の範囲内で種々改変することができるものである。
図1は本発明の実施形態に係る薄膜固体二次電池の概略断面図であり、本実施形態の薄膜固体二次電池は、基板1上に、正極集電体層2、正極活物質層3、固体電解質層4、負極活物質層5、負極集電体層6の薄膜が順に積層されて形成されている。なお、基板1上への積層順序は、正極集電体層2と負極集電体層6、および正極活物質層3と負極活物質層5とを入れ替えた順序、すなわち、負極集電体層6、負極活物質層5、固体電解質層4、正極活物質層3、正極集電体層2の順であってもよい。
【0031】
そして、本発明の薄膜固体二次電池の製造法では、正極集電体層2、正極活物質層3および固体電解質層4の成膜工程と、負極活物質層5の成膜工程と、負極集電体層6の成膜工程と、から構成されている。
正極集電体層2、正極活物質層3および固体電解質層4の成膜工程は、正極集電体層2、正極活物質層3、固体電解質層4を、この順あるいは逆順で各層が所定の厚さで重なるように成膜する。
負極活物質層5の成膜工程は、負極活物質をニオブ酸化物とし、所定の厚さで重なるように成膜する。
負極集電体層6の成膜工程は、負極集電体をニオブとし、所定の厚さで重なるように成膜する。
【0032】
そして、負極活物質層5の成膜工程と負極集電体層6の成膜工程は、同一成膜装置で、連続した工程で成膜しているために、大気に開放することなく、真空状態を保った状態で、DCスパッタリングによって成膜している。このDCスパッタリングによれば、負極活物質であるニオブ酸化物をニオブ金属ターゲットから酸素ガスリアクティブでDCスパッタして成膜した場合、ニオブ酸化物ターゲットからRFスパッタして成膜した場合と比較すると、成膜レートが非常に速い。また、同一ターゲットを使用するため、負極活物質層5と負極集電体層6を形成する際にターゲット交換の必要がない。このようにして成膜した負極活物質層5は、従来に比して、よりリチウムイオン挿入・脱離に適した酸化度合いのニオブ酸化物薄膜を形成できる。
【0033】
本実施形態では、負極活物質層5の成膜工程を負極集電体層6の成膜工程より先に行う場合、負極活物質層5の成膜工程と負極集電体層6の成膜工程の間に、酸素を遮断したプレスパッタ工程を行なっている。ここで、プレスパッタとは、負極活物質層5に、直ちに負極集電体を積層するのではなく、ターゲットの表面等に生じる金属面の汚れを取り、清浄な金属面を作るために行なわれるもので、負極活物質層5の成膜工程で既に積層されている負極活物質としてのニオブ酸化物と、次に積層する負極集電体としてのニオブ単体に、酸化物等が混在しないようにするために、ニオブからなるターゲット表面に付着している可能性のある不純物等を除去するために行なうものである。
【0034】
このとき、負極活物質をニオブ酸化物、負極集電体をニオブとし、同一のニオブ金属ターゲットを用いて、成膜装置に、スパッタ時に導入するアルゴンと酸素の流量比を調整し、連続的に成膜することで、負極活物質層5と負極集電体層6との界面が一様に形成できることになる。
【0035】
ここで、正極側から、順に積層するのが好ましい理由としては、リチウムを含んでいる正極活物質の表面保護という目的があり、逆に負極側から積層して電池セルを作製した場合、正極活物質に含まれるリチウムが成膜中に負極活物質層5等に移動してしまい、不可逆容量の原因となり、電池特性が低下する可能性があることによる。
【0036】
上記の各薄膜の形成方法としては、スパッタリング法、電子ビーム蒸着法、加熱蒸法等の真空成膜法や、塗布法等を用いることができる。好ましくは、より薄く均一に薄膜を形成できる真空成膜法を用いるのが良い。さらに好ましくは、蒸着物質との原子組成のずれが少なく、均一に成膜ができるスパッタリング法を用いるのが良い。特に、負極活物質層5の成膜工程で成膜される負極活物質としてのニオブ酸化物と、負極集電体層6の成膜工程で成膜される負極集電体としてのニオブ単体は、DCスパッタリングにより成膜するのが好ましい。
【0037】
基板1は、ガラス、半導体シリコン、セラミック、ステンレス、樹脂基板等を用いることができる。樹脂基板としては、ポリイミドやPET等を用いることができる。また、形が崩れずに取り扱いができるものであれば、基板1に折り曲げが可能な薄いフィルムを用いることができる。これらの基板には、例えば透明性を増したり、Naなどのアルカリ元素の拡散を防止したり、耐熱性を増したり、ガスバリア性を持たせるなどの付加特性が備わっていればより好ましく、そのために表面にSiO、TiOなどの薄膜がスパッタリング法などにより形成された基板であっても良い。
【0038】
正極集電体層2は、正極活物質層3との密着性がよく、電気抵抗が低い導電膜を用いることができる。正極集電体層2が取り出し電極として良好に機能するためには、そのシート抵抗が1kΩ/□以下であることが望ましい。正極集電体層2の膜厚を0.1μm程度以上に設定すると、正極集電体層2は抵抗率が1×10−2Ω・cm程度以下の物質によって形成する必要がある。このような物質として、例えば、バナジウム、チタン、ニオブ、アルミニウム、銅、ニッケル、金等を使用することができる。これらの物質によって正極集電体層2は、できるだけ薄くて電気抵抗も低くなる0.05〜1μm程度の膜厚に形成することができる。
【0039】
正極活物質層3は、リチウムイオンの脱離、挿入が可能な遷移金属であるマンガン、コバルト、ニッケルのうちのいずれか一つ以上とリチウムを含む金属酸化物薄膜を用いることができる。例えば、リチウム−マンガン酸化物(LiMn,LiMn等),リチウム−コバルト酸化物(LiCoO,LiCo等),リチウム−ニッケル酸化物(LiNiO,LiNi等),リチウム−マンガン−コバルト酸化物(LiMnCoO,LiMnCoO等),リチウム−チタン酸化物(LiTi12,LiTi等)等を使用することができる。これらの中でも、非晶質のリチウム‐マンガン酸化物(LiMn,LiMn等)は、低温で薄膜が作製可能であるから好適である。また、リチウムを含む物質を正極活物質層3に用いていると、後からリチウムを注入する必要がなく、より少ない製造時間と工程で電池特性の良い薄膜固体二次電池を安定して作製できる。正極活物質層3の膜厚は、できるだけ薄いことが望ましいが、充放電容量を確保できる0.05〜5μm程度とするとよい。
【0040】
固体電解質層4は、リチウムイオンの伝導性が良いリン酸リチウム(LiPO)、リン酸リチウムの酸素を窒素で一部置換したリン酸リチウムオキシナイトライドガラス(LiPON)、および他のリチウムイオン伝導体(イオン伝導度の高いLi,Ta,Nb,N,Oから成る複合酸化物)等を用いることができる。固体電解質層4の膜厚は、ピンホ−ルの発生が低減され且つできるだけ薄い0.05〜1μm程度が好ましい。
【0041】
負極活物質層5は、リチウムイオンの挿入、脱離を繰り返した際に、構造の変化が比較的安定な五酸化ニオブ(Nb)を用いる。五酸化ニオブは毒性が無く、大気中でも水分、酸化による劣化が少ないので、取り扱いが容易である。負極活物質層5の膜厚は、できるだけ薄いことが望ましいが、充放電容量を確保できる0.05〜5μm程度とするとよい。
【0042】
負極集電体層6をニオブ(Nb)とすると、上記負極活物質層5の五酸化ニオブ(Nb)と同一のニオブ金属ターゲットを用いて、DCスパッタ成膜時の酸素ガス流量を各層で調整することで、負極活物質層5、負極集電体層6の2層を大気開放することなく、成膜装置内で連続成膜して形成することができる。より具体的には、負極活物質層5を成膜する際には酸素ガス流量を増やして成膜し、負極集電体層6を成膜する際には酸素を排気、遮断して成膜を行う。また、2層連続成膜を行なう事によって、異物の混入、不純物の生成が妨げられ、界面を安定して作製する事ができる。
【0043】
上記の薄膜固体二次電池は、充電を行うと、正極活物質層3からリチウムがイオンとなって離脱し、固体電解質層4を介して負極活物質層5に吸蔵される。このとき、正極活物質層3から外部へ電子が放出される。また、放電時には、負極活物質層5からリチウムがイオンとなって離脱し、固体電解質層4を介して正極活物質層3に吸蔵される。このとき、負極活物質層5から外部へ電子が放出される。
【0044】
次に、図面を参照して、本発明に係る実施例、比較例について説明する。図2は負極活物質と負極集電体を変更した電池セルのサイクル特性のグラフ図であり、充放電サイクル数と放電容量との関係を示すものである。図3は負極活物質と負極集電体を変更した電池セルの放電曲線のグラフ図であり、電池容量と電池電圧との関係を示すものである。
【実施例】
【0045】
前記した製造法により、図1の構成のように、基板1上に、正極集電体層2、正極活物質層3、固体電解質層4、負極活物質層5、負極集電体層6をこの順にスパッタリングにより積層して形成し、薄膜固体二次電池を作成した。
基板1には、縦50mm、横50mm、厚さ1mmのソーダライムガラスを用いた。
正極集電体層2は、チタン金属ターゲットを用い、DCマグネトロンスパッタリング法にて形成した。DCパワーは1KW、無加熱で成膜した。これにより、正極集電体層2として0.1μmのチタン薄膜を形成した。
【0046】
正極活物質層3は、マンガン酸リチウム(LiMn)の焼結体ターゲットを用い、酸素を導入してRFマグネトロンスパッタリング法にて形成した。RFパワーは1KW、無加熱で成膜した。これにより、0.2μmのマンガン酸リチウム薄膜を形成した。
固体電解質層4は、リン酸リチウム(LiPO)の焼結体ターゲットを用い、窒素ガスを導入してRFマグネトロンスパッタリング法にて形成した。RFパワーは1KW、無加熱で成膜した。これにより、0.1μmのリン酸リチウムオキシナイトライドガラス(LiPON)薄膜を形成した。
【0047】
負極活物質層5および負極集電体層6は、同一ターゲットを用いており、ニオブ(Nb)の焼結体ターゲットを用い、アルゴンおよび酸素を導入してDCマグネトロンスパッタリング法にて形成した。なお、負極集電体6の成膜時には酸素を十分に脱気した。DCパワーは1KW、無加熱で成膜した。これにより、0.1μmのNb薄膜と0.1μmのNb薄膜を連続して形成した。この時の成膜レートはNb,Nb共に約2〜3Å/sであった。
【0048】
以上のようにして得られた薄膜固体二次電池について、X線回折測定を行い、この結果、回折ピークが現れないことを確認した。これにより、いずれの構成層も非晶質であることが確認できた。
【0049】
次に電池性能を評価するために、放電容量の充放電サイクル数依存性および充放電特性を測定した。
測定条件は、充電および放電時の電流はいずれも0.02mA、充電および放電の終止電圧はそれぞれ3.5V、0.3Vとした。その結果、繰り返し充放電動作を示すことが確認できた。
【0050】
[比較例1]
比較例1では、実施例と同様に、図1の構成の薄膜固体二次電池をスパッタリング法により作成した。負極活物質層5および負極集電体層6以外の層は、実施例と同じ物質、膜厚、成膜条件で形成した。負極活物質層5は、酸化ニオブ(Nb)の焼結ターゲットを用い、アルゴンおよび酸素を導入してRFマグネトロンスパッタリング法にて形成した。RFパワーは1KW、無加熱で成膜した。これにより、0.1μmのNb薄膜を形成した。この時の成膜レートは約0.3〜0.6Å/sであった。負極集電体層6は、チタン(Ti)の焼結ターゲットを用い、アルゴンを導入してDCマグネトロンスパッタリング法にて形成した。DCパワーは1KW、無加熱で成膜した。これにより、0.1μmのTi薄膜を形成した。この時の成膜レートは約1.5〜2Å/sであった。
【0051】
[比較例2]
比較例2では、実施例と同様に、図1の構成の薄膜固体二次電池をスパッタリング法により作成した。負極集電体層6以外の層は、実施例と同じ物質、膜厚、成膜条件で形成した。負極集電体層6は、チタン(Ti)の焼結ターゲットを用い、アルゴンを導入してDCマグネトロンスパッタリング法にて形成した。およびDCパワーは1KW、無加熱で成膜した。これにより、0.1μmのTi薄膜を形成した。この時の成膜レートは約1.5〜2Å/sであった。
【0052】
図2に示されるように、電池の放電時は、等しい電池容量においては、実施例の方法により作成した電池の方が高い放電容量を維持できることが示された。例えば20サイクル目では、実施例の方法により負極活物質層5と負極集電体層6を連続して成膜して作製した薄膜固体二次電池は、比較例1の方法により負極活物質層5と負極集電体層6を分けて成膜して作製した薄膜固体二次電池よりも約1.2倍高い放電容量を維持できることが示された。
【0053】
図3に示されるように、等しい電池容量においては、実施例の方法により作成した電池の方が放電時に高い電池電圧を維持できることが示された。例えば電池電圧が1.0V以上を維持できる電池容量を比較すると、実施例の方法により負極活物質層5と負極集電体層6を連続して成膜して作製した薄膜固体二次電池は、比較例1の方法により負極活物質層5と負極集電体層6を分けて成膜して作製した薄膜固体二次電池の約1.4倍の電池容量であることが示された。
【0054】
以上のように、負極集電体としてチタンを用いた場合と比較した結果、ニオブを用いたときは放電カーブが緩やかになり、より長い時間、所定電圧を維持できる効果が見られた。これは、負極活物質として、よりリチウムイオン挿入・脱離に適した酸化度のニオブ酸化物薄膜を作製できたことと、電子電導に適した負極活物質層と負極集電体層との界面を作成できたことを示唆している。
【産業上の利用可能性】
【0055】
本発明により製造された薄膜固体二次電池は、デバイスを備えた複合型機器の電源として用いられることにより、安定的かつ長時間にわたってデバイスを駆動することができる。このようなデバイスとして、たとえば、携帯電話、ノートパソコン、デジタルカメラ、携帯型ゲーム等のモバイル機器が挙げられる。
【符号の説明】
【0056】
1 基板
2 正極集電体層
3 正極活物質層
4 固体電解質層
5 負極活物質層
6 負極集電体層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板上に、正極集電体層,正極活物質層,固体電解質層,負極活物質層,負極集電体層を、この順にあるいはこの逆順にそれぞれ所定の膜厚で積層してなる薄膜固体二次電池の製造法であって、
前記正極集電体層、前記正極活物質層、前記固体電解質層を、各層が所定の厚さで重なるように成膜する工程と、
前記負極活物質層をニオブ酸化物とし、所定の厚さで重なるように成膜する負極活物質層成膜工程と、
前記負極集電体層をニオブとし、所定の厚さで重なるように成膜する負極集電体層成膜工程と、
を備え、
前記負極活物質層成膜工程と前記負極集電体層成膜工程は、ニオブターゲットを用いて連続した工程で成膜することを特徴とする薄膜固体二次電池の製造法。
【請求項2】
前記負極活物質層成膜工程および前記負極集電体層成膜工程は、DCスパッタリングによって成膜するものであって、同一のターゲットを使用して連続成膜してなることを特徴とする請求項1記載の薄膜固体二次電池の製造法。
【請求項3】
前記負極活物質層成膜工程を前記負極集電体層成膜工程より先に行う場合、前記負極活物質層成膜工程と前記負極集電体層成膜工程の間に、酸素を遮断したプレスパッタ工程を行うことを特徴とする請求項2記載の薄膜固体二次電池の製造法。
【請求項4】
前記正極集電体層、前記正極活物質層、前記固体電解質層、前記負極活物質層、前記負極集電体層が、正極からこの順に成膜して積層されていることを特徴とする請求項1に記載の薄膜固体二次電池の製造法。
【請求項5】
前記請求項1乃至4のいずれか1項に記載の薄膜固体二次電池の製造法によって製造されたことを特徴とする薄膜固体二次電池。
【請求項6】
基板上に、正極集電体層、正極活物質層、固体電解質層、負極活物質層、負極集電体層が積層されてなる薄膜固体二次電池において、
前記固体電解質層が、リン酸リチウム(LiPO)、リン酸リチウムの酸素を窒素で一部置換したリン酸リチウムオキシナイトライドガラス(LiPON)、TaとNbのいずれかあるいは両方の遷移金属およびLiとNを含む複合酸化物のうちの一つであり、
前記負極活物質層がニオブ酸化物、前記負極集電体層がニオブであることを特徴とする薄膜固体二次電池。
【請求項7】
前記正極活物質層がマンガン酸リチウムであることを特徴とする請求項6に記載の薄膜固体二次電池。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2010−182643(P2010−182643A)
【公開日】平成22年8月19日(2010.8.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−27725(P2009−27725)
【出願日】平成21年2月9日(2009.2.9)
【出願人】(591124765)ジオマテック株式会社 (35)
【Fターム(参考)】