説明

薄膜太陽電池およびその製造方法

【課題】レーザスクライブ法による太陽電池セル分離時における残余物質に起因した出力特性の低下が抑制された高品質の薄膜太陽電池およびその製造方法を得ること。
【解決手段】透光性絶縁基板10上に、第1電極層12と光電変換層13と第2電極層14とがこの順で積層されてなり、透光性絶縁基板10よりも上部の層12、13、14が分離溝20、21、22により短冊状に分割された複数の薄膜太陽電池セルが配設された薄膜太陽電池の製造方法であって、遮光性材料からなる線形状のマスク層11を分離溝20、21、22により分割される層よりも下層または同層に形成し、マスク層11を含む領域に透光性絶縁基板10側からレーザ光を照射し、透光性絶縁基板10の面内方向における一部分がマスク層11によってマスクされることにより成形されたレーザ光により透光性絶縁基板10よりも上部の層に分離溝を形成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、薄膜太陽電池およびその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
太陽光発電システムは、21世紀の地球環境を化石エネルギーの燃焼による二酸化炭素(CO)ガスの増加から守るクリーンエネルギーとして期待されており、その生産量は世界中で爆発的に増加している。そして、現在の太陽電池の主流は、シリコンの塊をスライスした基板を太陽電池用基板として用いるバルク型太陽電池である。このため、世界中でシリコンウェハが不足するという事態が発生している。そこで、近年では、光電変換層(半導体層)が、シリコンウェハの供給量に律速されない薄膜からなる薄膜太陽電池の生産量が急速に伸びつつある。
【0003】
薄膜太陽電池では光の入射する側の表面電極層には透明導電性酸化物材料が一般的に用いられる。しかしながら、薄膜太陽電池の面積が大きくなると、表面電極層での直列抵抗成分が増大し、これがジュール損失となり太陽電池の発電効率を低下させる。
【0004】
そこで薄膜太陽電池では、複数の幅の狭い短冊状に分離された薄膜太陽電池セルを各々の長軸方向が一致するように配置し、隣接する太陽電池セルの表面電極と裏面電極とを接触させて直列接続し集積化する。これにより、全体として薄膜太陽電池モジュールとして動作させることで、表面電極層での直列抵抗成分の増大を低減し、太陽電池の発電効率の低下を抑制している。
【0005】
薄膜太陽電池の集積化では、レーザ光を用いたレーザスクライブ法により、表面電極層、光電変換層、裏面金属電極層のそれぞれに分離溝を形成し、太陽電池セルの分離および直列接続を行うことが一般的である(たとえば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開昭59−220979号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、上記従来の技術によれば、スクライブに用いられるレーザ光のエネルギー分布は一般的にはガウス分布に近い分布となり、レーザ光の周辺部ほどエネルギー強度が低くなる。このため、レーザ照射部におけるレーザ光の径方向の中心部では十分なエネルギー強度を持つためスクライブが可能であっても、レーザ照射部におけるレーザ光の径方向の周辺部ではスクライブに必要なスレッショルドエネルギーに達せずに除去できない半導体層が変性層となって残余し、この変性層がリーク等を引き起こしセル特性を低下させる原因となっていた。
【0008】
これに対して、レーザ光源側にマスクを設けてエネルギー強度の低い周辺部をカットすることで、急峻なエネルギー分布を持つレーザ光を得ることも行われている。しかし、レーザ光源から薄膜太陽電池の分離溝までの距離があるため、レーザ光は分散し、そのエネルギー分布はなだらかになる、という問題があった。
【0009】
本発明は、上記に鑑みてなされたものであって、レーザスクライブ法による太陽電池セル分離時における残余物質に起因した出力特性の低下が抑制された高品質の薄膜太陽電池およびその製造方法を得ることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上述した課題を解決し、目的を達成するために、本発明にかかる薄膜太陽電池の製造方法は、透光性絶縁基板上に、透明導電膜からなる第1電極層と、半導体膜からなり光電変換を行う光電変換層と、光を反射する導電膜からなる第2電極層と、がこの順で積層されてなり、前記透光性絶縁基板よりも上部の層が分離溝により短冊状に分割された複数の薄膜太陽電池セルが配設されるとともに、隣接する前記薄膜太陽電池セル同士が電気的に直列接続された薄膜太陽電池の製造方法であって、遮光性材料からなる線形状のマスク層を前記分離溝により分割される層よりも下層または同層に形成し、前記マスク層を含む領域に前記透光性絶縁基板側からレーザ光を照射し、前記透光性絶縁基板の面内方向における一部分が前記マスク層によってマスクされることにより成形された前記レーザ光により前記透光性絶縁基板よりも上部の層に前記分離溝を形成すること、を特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、薄膜太陽電池の製造におけるレーザスクライブ工程での残余物質に起因したセル特性の低下を抑制して、高品質の薄膜太陽電池を得ることができる、という効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1−1】図1−1は、本発明の実施の形態1にかかる薄膜太陽電池モジュールの概略構成を模式的に示す平面図である。
【図1−2】図1−2は、本発明の実施の形態1にかかる薄膜太陽電池モジュールを構成する薄膜太陽電池セルの短手向における断面構造を説明するための図である。
【図2−1】図2−1は、本発明の実施の形態1にかかる薄膜太陽電池モジュールの製造工程の一例を説明するための要部断面図である。
【図2−2】図2−2は、本発明の実施の形態1にかかる薄膜太陽電池モジュールの製造工程の一例を説明するための要部断面図である。
【図2−3】図2−3は、本発明の実施の形態1にかかる薄膜太陽電池モジュールの製造工程の一例を説明するための要部断面図である。
【図2−4】図2−4は、本発明の実施の形態1にかかる薄膜太陽電池モジュールの製造工程の一例を説明するための要部断面図である。
【図2−5】図2−5は、本発明の実施の形態1にかかる薄膜太陽電池モジュールの製造工程の一例を説明するための要部断面図である。
【図2−6】図2−6は、本発明の実施の形態1にかかる薄膜太陽電池モジュールの製造工程の一例を説明するための要部断面図である。
【図2−7】図2−7は、本発明の実施の形態1にかかる薄膜太陽電池モジュールの製造工程の一例を説明するための要部断面図である。
【図3】図3は、本発明の実施の形態1にかかるレーザスクライブ工程を説明するための詳細図であり、レーザ照射時における遮光マスクの周辺部を拡大して示す図である。
【図4】図4は、遮光マスクにより成形される以前のレーザ光のエネルギー分布を示す特性図であり、図3のB−B断面におけるエネルギー分布を示す特性図である。
【図5】図5は、遮光マスクによりマスクされた場合のレーザ光のエネルギー分布を示す特性図であり、図3のC−C断面におけるエネルギー分布を示す特性図である。
【図6】図6は、本発明の実施の形態2にかかる薄膜太陽電池モジュールの構成を説明するための要部断面図である。
【図7−1】図7−1は、本発明の実施の形態2にかかる薄膜太陽電池モジュールの製造工程の一例を説明するための要部断面図である。
【図7−2】図7−2は、本発明の実施の形態2にかかる薄膜太陽電池モジュールの製造工程の一例を説明するための要部断面図である。
【図7−3】図7−3は、本発明の実施の形態2にかかる薄膜太陽電池モジュールの製造工程の一例を説明するための要部断面図である。
【図7−4】図7−4は、本発明の実施の形態2にかかる薄膜太陽電池モジュールの製造工程の一例を説明するための要部断面図である。
【図7−5】図7−5は、本発明の実施の形態2にかかる薄膜太陽電池モジュールの製造工程の一例を説明するための要部断面図である。
【図7−6】図7−6は、本発明の実施の形態2にかかる薄膜太陽電池モジュールの製造工程の一例を説明するための要部断面図である。
【図7−7】図7−7は、本発明の実施の形態2にかかる薄膜太陽電池モジュールの製造工程の一例を説明するための要部断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下に、本発明にかかる薄膜太陽電池およびその製造方法の実施の形態を図面に基づいて詳細に説明する。なお、本発明は以下の記述に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲において適宜変更可能である。また、以下に示す図面においては、理解の容易のため、各部材の縮尺が実際とは異なる場合がある。各図面間においても同様である。
【0014】
実施の形態1.
図1−1は、本発明の実施の形態1にかかる薄膜太陽電池である薄膜太陽電池モジュール(以下、モジュールと呼ぶ)1の概略構成を模式的に示す平面図である。図1−2は、モジュール1を構成する薄膜太陽電池セル(以下、セルと呼ぶ場合がある)2の短手向における断面構造を説明するための図であり、図1−1の線分A−Aにおける要部断面図である。
【0015】
図1−1および図1−2に示すように、本実施の形態にかかるモジュール1は、透光性絶縁基板10上に形成された短冊状(矩形状)のセル2(図1−2においては、セル2−1、セル2−2、セル2−3を記載)を複数備え、これらのセル2が電気的に直列に接続された構造を有する。
【0016】
セル2は、図1−2に示すように透光性絶縁基板10、透光性絶縁基板10上に形成された遮光マスク11、透光性絶縁基板10上および遮光マスク11上に形成された第1電極層となる透明表面電極層12、透明表面電極層12上に形成された薄膜半導体層からなる光電変換層13、光電変換層13上に形成された第2電極層となる裏面金属電極層14、が順次積層された構造を有する。また、透光性絶縁基板10上には不純物の阻止層および光反射防止層として、必要に応じて酸化珪素(SiO)、酸化ハフニウム(HfO)、酸化チタニウム(TiO)、五酸化ニオブ(Nb)等の透明材料、あるいはこれらの積層膜から構成されるアンダーコート層が設けられてもよい。ここで、光入射側(透光性絶縁基板10側)の面を表面といい、表面とは反対側(裏面金属電極層14側)の面を裏面とする。
【0017】
透光性絶縁基板10上に形成された透明表面電極層12には、透光性絶縁基板10の短手方向(図1−1におけるY方向)と略平行な方向に延在するとともに透光性絶縁基板10に達するストライプ状(線形状)の第1分離溝20が形成されている。そして、この第1分離溝20の部分に光電変換層13が埋め込まれることで、透明表面電極層12が隣接するセル2に跨るように分離されて形成されている。
【0018】
また、透明表面電極層12上に形成された光電変換層13には、第1分離溝20と異なる箇所において透光性絶縁基板10の短手方向(図1−1におけるY方向)と略平行な方向に延在するとともに透明表面電極層12に達するストライプ状(線形状)の第2分離溝21が形成されている。
【0019】
また、裏面金属電極層14および光電変換層13には、第1分離溝20および第2分離溝21とは異なる箇所で、透明表面電極層12に達するストライプ状(線形状)の第3分離溝22が形成されて、各セル2(例えば、セル2−1、セル2−2、セル2−3)が分離されている。そして、この第2分離溝21の部分に裏面金属電極層14が埋め込まれることで、裏面金属電極層14が透明表面電極層12に接続される。そして、透明表面電極層12が隣接するセル2に跨っているため、隣り合う2つのセル2の一方の裏面金属電極層14と他方の透明表面電極層12とが電気的に接続されている。このように、セル2の透明表面電極層12が、隣接するセル2の裏面金属電極層14と接続することによって、隣接するセル2同士が電気的に直列接続している。これにより、例えば隣接するセル2−1、セル2−2、セル2−3の順で直列接続されている。
【0020】
また、上述した透明表面電極層12を分離する第1分離溝20と、光電変換層13を分離する第2分離溝21と、光電変換層13および裏面金属電極層14を分離する第3分離溝22との3本の分離溝から、短冊状(矩形状)のスクライブ部3(例えば、スクライブ部3−1、スクライブ部3−2)が構成されている。
【0021】
このように、モジュール1は、短冊状(矩形状)のセル2が、同じく短冊状(矩形状)のスクライブ部3にはさまれた形でそれぞれの長手方向(延在方向)を一致させる形態で複数配置された構造を持つ。そして、このように配列されたセル2が直列に接続されることにより、全体としてモジュール1として機能する。なお、モジュール1においては、セル2の長手方向、セル2の延在方向および透光性絶縁基板10の短手方向は同一方向であり、図1−1におけるY方向である。
【0022】
透光性絶縁基板10は、例えば高光透過率のガラス基板や、ポリイミドなどの透光性の有機フィルム材料などの透光性及び絶縁性を有する材料によって構成される。
【0023】
遮光マスク11は、第1分離溝20と第2分離溝21と第3分離溝22とをレーザスクライブにより形成する際にレーザ光の遮光マスクとして機能する。遮光マスク11は、スクライブ部3においてセル2の長手方向(延在方向)と略平行な方向に延在するストライプ状(線形状)に形成されている。また、遮光マスク11は、隣接する遮光マスク11同士の間隙上に第1分離溝20、第2分離溝21、第3分離溝22が位置するように配置されている。詳細には、遮光マスク11は、第1分離溝20、第2分離溝21および第3分離溝22のすぐ横の領域における、透明表面電極層12と透光性絶縁基板10との間に配置されている。換言すると、遮光マスク11は、分離溝20、21、22により分割されている層よりも下層または同層において、分離溝20、21、22および遮光マスク11を透光性絶縁基板10上に投影した場合に分離溝20、21、22の長手方向と遮光マスク11の長手方向とが略重なる位置に配置されている。
【0024】
遮光マスク11は、遮光性を有する材料、例えば光反射特性を有する材料により構成される。その中でも特に、クロム(Cr)、アルミニウム(Al)、銀(Ag)等の金属材料や、二酸化チタン(TiO)等の白色顔料を主成分とする塗布材など、光反射率が高い材料が好ましく、さらに透光性絶縁基板10との密着性に優れた材料であることがより好ましい。また、透光性絶縁基板10と遮光マスク11との間の密着性や濡れ性を改善するために、透光性絶縁基板10の全面または透光性絶縁基板10と遮光マスク11との界面部のみに酸化シリコンや酸化チタン等の薄膜からなる敷設層を挿入してもよい。
【0025】
また、実施の形態1にかかるモジュール1の構造では、遮光マスク11は透明表面電極層12に被覆されているため、遮光マスク11の成分が光電変換層13中に拡散することが防止されている。これにより、遮光マスク11の成分の光電変換層13中への拡散に起因したモジュール1の特性低下を防止することができる。
【0026】
透明表面電極層12は、酸化亜鉛(ZnO)、酸化インジウム錫(ITO:Indium Tin Oxide)、酸化スズ(SnO)などの透明導電性酸化物材料や、これらの透明導電性酸化物材料にアルミニウム(Al)やガリウム(Ga)などの金属を添加した膜などの透光性を有する膜によって構成される。また、透明表面電極層12は、ドーパントとしてアルミニウム(Al)、ガリウム(Ga)、インジウム(In)、ホウ素(B)、イットリウム(Y)、シリコン(Si)、ジルコニウム(Zr)、チタン(Ti)、フッ素(F)、窒素(N)から選択した少なくとも1種類以上の元素を用いたZnO膜、ITO膜、SnO膜、またはこれらを積層して形成した透明導電膜であってもよく、光透過性を有している透明導電膜であればよい。また、透明表面電極層12は、表面に凹凸が形成された表面テクスチャ構造を有することが好ましい。このテクスチャ構造は、入射した太陽光を散乱させ、光電変換層13での光利用効率を高める機能を有する。
【0027】
光電変換層13は、PN接合またはPIN接合を有し、入射する光により発電を行う薄膜半導体層が1層以上積層されて構成される。このような光電変換層13としては、水素化アモルファスシリコン、水素化微結晶シリコン、水素化アモルファスシリコンゲルマニウム、水素化微結晶シリコンゲルマニウム、水素化アモルファス炭化シリコン、水素化微結晶炭化シリコン、水素化アモルファス酸化シリコン、水素化微結晶酸化シリコン、などを用いることができる。また、これらの薄膜半導体層の積層体を用いることができる。
【0028】
光電変換層13として複数の薄膜半導体層を積層する場合には、表面側からバンドギャップが大きい順番に積層していく必要がある。さらに異なる薄膜半導体層の層間には、酸化錫、酸化亜鉛、ITOなどの透明導電性酸化物材料や、これらの透明導電性酸化物材料にアルミニウムやガリウムといった金属を添加した材料や、ボロン(B)やリン(P)などの不純物をドーピングして導電性を向上させた水素化微結晶シリコンや水素化微結晶炭化シリコンや水素化微結晶酸化シリコンなどのシリコン化合物、あるいは上記材料の積層体を中間層として挿入してもよい。
【0029】
裏面金属電極層14は、銀(Ag)、アルミニウム(Al)、チタン(Ti)、金(Au)、銅(Cu)、ネオジウム(Nd)、クロム(Cr)等の高い導電性と光反射性とを併せ持つ金属材料、および金属材料の混合物を、単層あるいは積層して使用することができる。また、反射率を向上させるため、上記金属材料と光電変換層13との層間に酸化錫、酸化亜鉛、ITOなどの透明導電性酸化物材料や、これらの透明導電性酸化物材料にアルミニウム(Al)やガリウム(Ga)といった金属を添加した材料からなる透明導電層を挿入してもよい。
【0030】
このような本実施の形態にかかるモジュール1の動作の概略について説明する。透光性絶縁基板10の裏面(セル2が形成されていない方の面)から太陽光が入射すると、光電変換層13で自由キャリアが生成され、電流が発生する。各セル2で発生した電流は透明表面電極層12と裏面金属電極層14とを介して隣接するセル2に流れ込み、モジュール1全体の発電電流を生成する。
【0031】
次に、上記のように構成された本実施の形態にかかるモジュール1の製造方法について説明する。図2−1〜図2−7は、実施の形態1にかかるモジュール1の製造工程の一例を説明するための要部断面図である。図2−1〜図2−7は、図1−2の要部断面図に対応している。
【0032】
まず、透光性絶縁基板10を用意する。ここでは、透光性絶縁基板10として例えば平板状の白板ガラスを用いる。透光性絶縁基板10上には不純物の阻止層および光反射防止層として、必要に応じて酸化珪素(SiO)、酸化ハフニウム(HfO)、酸化チタニウム(TiO)、五酸化ニオブ(Nb)等の透明材料、あるいはこれらの積層膜から構成されるアンダーコート層が設けられてもよい。
【0033】
用意した透光性絶縁基板10上の所定の位置に、複数の遮光マスク11をスクリーン印刷法やインクジェット法により形成する(図2−1)。ここで、遮光マスク11は、第1分離溝20、第2分離溝21、第3分離溝22が形成される領域が、隣接する遮光マスク11同士の間隙領域となるように、且つ透光性絶縁基板10の短手方向と略平行な方向に延在するように、複数の線形状に形成される。遮光マスク11の配線幅および配線間の間隙は、例えばそれぞれ10μmから50μm程度とする。なお、透光性絶縁基板10とマスク電極11との間の密着性や濡れ性を改善するために、透光性絶縁基板10の全面または透光性絶縁基板10と遮光マスク11との界面部のみに酸化シリコンや酸化チタン等の薄膜からなる敷設層を挿入してもよい。
【0034】
つぎに、透光性絶縁基板10上および遮光マスク11上に、透明表面電極層12として例えば酸化亜鉛(ZnO)膜をスパッタリング法により形成する(図2−2)。また、透明表面電極層12を構成する材料として、ZnO膜の他に酸化スズ(SnO)、酸化インジウム錫(ITO)などの透明導電性酸化膜や、導電率向上のためにこれらの透明導電性酸化膜にアルミニウム(Al)などの金属を添加した膜を用いることができる。また、製膜方法として、化学的気相成長法(CVD法)などの他の製膜方法を用いてもよい。
【0035】
透明表面電極層12には、表面に小さな凹凸を形成して表面テクスチャ構造を形成することが好ましい。小さな凹凸は、例えば希塩酸で透明表面電極層12の表面をエッチングして粗面化することにより形成することができる。また、プラズマエッチング方法により粗面化することにより形成することもできる。ただし、酸化スズ(SnO)、酸化亜鉛(ZnO)等の透明表面電極層12をCVD法により形成した場合には自己組織的に透明表面電極層12の表面に凹凸が形成されるため、希塩酸を用いたエッチング等による凹凸の形成は必要ない。また、透明表面電極層12を少なくとも2層以上の積層構造とする場合は、積層される透明表面電極層12の層間に遮光マスク11を形成しても良い。
【0036】
次に、透明表面電極層12の一部を透光性絶縁基板10の短手方向と略平行な方向のストライプ状に切断・除去して、透明表面電極層12を短冊状にパターニングし、複数の透明表面電極層12に分離する(図2−3)。透明表面電極層12のパターニングは、レーザ光30を用いたレーザスクライブ法により、透光性絶縁基板10の短手方向と略平行な方向に延在して透光性絶縁基板10に達するストライプ状(線形状)の第1分離溝20を形成することで行う。
【0037】
レーザ光30の光源(図示せず)には、例えば波長1064nmのYAGレーザを用いる。出力を0.1Wから3Wの範囲で調整し、透光性絶縁基板10の裏面(透明表面電極層12が形成されていない方の面)からレーザ光30をパルス状に照射しつつ、同時に透光性絶縁基板10を透光性絶縁基板10の短手方向と略平行な方向に移動させることで、該短手方向と略平行な方向に延在するストライプ状(線形状)の第1分離溝20を形成する。ここで、透光性絶縁基板10の長手方向(図2−3におけるX方向)において、レーザスクライブを行うレーザ光30の両端部は遮光マスク11により成形される。また、透光性絶縁基板10を移動させる代わりにミラー等の光学系を動作させてレーザ光30を走査させることで、ストライプ状(線形状)の第1分離溝20を形成してもよい。レーザスクライブの後、加工残渣やレーザによる変質層除去のため洗浄工程を用いてもよい。
【0038】
次に、第1分離溝20内および透明表面電極層12上に、PN接合またはPIN接合を有する1層または複数層の薄膜半導体層からなる光電変換層13をCVD法により形成する(図2−4)。また、光電変換層13として複数の薄膜半導体層を積層する場合は、異なる薄膜半導体層の層間にスパッタリングまたはCVD法により中間導電体層を形成してもよい。
【0039】
次に、光電変換層13の一部を透光性絶縁基板10の短手方向と略平行な方向のストライプ状に切断・除去して、光電変換層13を短冊状にパターニングし、複数の光電変換層13に分離する(図2−5)。光電変換層13のパターニングは、レーザ光31を用いたレーザスクライブ法により、第1分離溝20と異なる箇所に、透光性絶縁基板10の短手方向と略平行な方向に延在して透明表面電極層12に達するストライプ状(線形状)の第2分離溝21を形成することで行う。
【0040】
レーザ光31の光源(図示せず)には、例えば波長1064nmのYAGレーザの2次高調波を用いた波長532nmの光を用いる。出力を0.05Wから1Wの範囲で調整し、透光性絶縁基板10の裏面(透明表面電極層12が形成されていない方の面)からレーザ光31をパルス状に照射しつつ、同時に透光性絶縁基板10を透光性絶縁基板10の短手方向と略平行な方向に移動させることで、該短手方向と略平行な方向に延在するストライプ状(線形状)の第2分離溝21を形成する。ここで、透光性絶縁基板10の長手方向(図2−5におけるX方向)において、レーザスクライブを行うレーザ光31の両端部は遮光マスク11により成形される。また、透光性絶縁基板10を移動させる代わりにミラー等の光学系を動作させてレーザ光31を走査させることで、ストライプ状(線形状)の第2分離溝21を形成してもよい。レーザスクライブの後、加工残渣やレーザによる変質層除去のため洗浄工程を用いてもよい。
【0041】
つぎに、第2分離溝21内および光電変換層13上に裏面金属電極層14として例えば銀(Ag)をスパッタリング法により製膜する(図2−6)。このとき、第2分離溝21内が裏面金属電極層14により埋め込まれる条件で裏面金属電極層14を形成する。これにより、第2分離溝21内に裏面金属電極層14が形成されて、光電変換層13上の裏面金属電極層14と透明表面電極層12との電気的な接続が確保される。ここで、光電変換層13と裏面金属電極層14との層間に、スパッタリング法やCVD法によって形成された透明導電層を挿入してもよい。
【0042】
最後に、光電変換層13および裏面金属電極層14の一部を透光性絶縁基板10の短手方向と略平行な方向のストライプ状に切断・除去して、光電変換層13および裏面金属電極層14を短冊状にパターニングし、分離する(図2−7)。光電変換層13および裏面金属電極層14のパターニングは、レーザ光32を用いたレーザスクライブ法により、第1分離溝20および第2分離溝21と異なる箇所に、透光性絶縁基板10の短手方向と略平行な方向に延在して透明表面電極層12に達するストライプ状(線形状)の第3分離溝22を形成することで行う。
【0043】
レーザ光32の光源(図示せず)には、例えば波長1064nmのYAGレーザの2次高調波を用いた波長532nmの光を用いる。出力を0.05Wから1Wの範囲で調整し、透光性絶縁基板10の裏面(透明表面電極層12が形成されていない方の面)からレーザ光32をパルス状に照射しつつ、同時に透光性絶縁基板10を透光性絶縁基板10の短手方向と略平行な方向に移動させることで、該短手方向と略平行な方向に延在するストライプ状(線形状)の第3分離溝22を形成する。ここで、透光性絶縁基板10の長手方向(図2−7におけるX方向)において、レーザスクライブを行うレーザ光32の両端部は遮光マスク11により成形される。また、透光性絶縁基板10を移動させる代わりにミラー等の光学系を動作させてレーザ光32を走査させることで、ストライプ状(線形状)の第3分離溝22を形成してもよい。レーザスクライブの後、加工残渣やレーザによる変質層除去のため洗浄工程を用いてもよい。
【0044】
以上により、図1−1および図1−2に示すようなセル2を有する本実施の形態にかかるモジュール1が完成する。
【0045】
上記のレーザスクライブ工程、すなわち第1分離溝20、第2分離溝21および第3分離溝22の形成工程では、レーザ照射部においては透光性絶縁基板10の長手方向(X方向)におけるレーザ光30の両端部は遮光マスク11により成形される。すなわち、X方向においてレーザ光30、31、32の径方向の両端部は遮光マスク11により成形される。図3は、レーザスクライブ工程を説明するための詳細図であり、レーザ照射時における遮光マスク11の周辺部を拡大して示す図である。なお、図3においては、透光性絶縁基板10および遮光マスク11の上層の図示は省略している。
【0046】
図4は、遮光マスク11により成形される以前のレーザ光30、31、32のエネルギー分布を示す特性図であり、図3のB−B断面におけるエネルギー分布を示す特性図である。遮光マスク11により成形される以前のレーザ光30、31、32のエネルギー分布は、図4に示されるようにガウス分布に近い分布となり、周辺部ほどエネルギー強度が低くなる。このエネルギー分布のまま、レーザスクライブが行われると、レーザ照射部におけるレーザ光30、31、32の径方向の中心部Dの近傍では十分なエネルギー強度を持つためスクライブが可能であっても、レーザ照射部におけるレーザ光30、31、32の径方向の周辺部ではスクライブに必要なスレッショルドエネルギーに達せず、確実に加工対象を除去できない。特に、第3分離溝22の形成工程では、確実に除去できなかった半導体層が変性層となって残余し、この変性層がリーク等のセル特性を低下させる原因となる。
【0047】
そこで、本実施の形態では、遮光マスク11を用いて、レーザ光30、31、32のうち、エネルギー強度の低い周辺部をカットして、レーザ光30、31、32のうちエネルギー強度の強い径方向の中心部Dの近傍のレーザ光のみを用いてレーザスクライブを行う。
【0048】
図5は、遮光マスク11によりマスクされた場合のレーザ光30、31、32のエネルギー分布を示す特性図であり、図3のC−C断面におけるエネルギー分布を示す特性図である。遮光マスク11によりレーザ光30が成形される場合は、レーザ光30、31、32は、透明表面電極層12の下面位置で遮光マスク11により成形されるため、レーザ光30、31、32が分散してエネルギー分布がなだらかになることがない。そして、レーザ光30、31、32のうち、X方向における周辺部のレーザ光は遮光マスク11において反射してそれぞれ反射光30R、31R、32Rとなる。このため、遮光マスク11によりレーザ光30が成形される場合のレーザ光30のエネルギー分布は、図5に示されるように図4に示された分布においてエネルギー強度の低いX方向の周辺部がカットされた、急峻な勾配を有するエネルギー分布となる。
【0049】
この場合は、十分なエネルギー強度を持つ、X方向の中心部Dおよびその近傍のレーザ光のみをレーザスクライブに使用するため、確実に加工対象を除去することができる。特に第3分離溝22の形成工程では、確実に除去できなかった光電変換層13の半導体層が変性層となって残余する(残余物質)ことを抑制することができ、該変性層に起因したリーク等の発生を抑制し、変性層に起因したセル特性の低下を抑制することができる。
【0050】
すなわち、本実施の形態では、分離溝の直前でレーザ光をマスクすることができるため、極めて急峻なエネルギー分布を持つレーザ光によりスクライブを行うことができる。これにより、分離溝における変性層の形成を抑制することができ、リーク等によるセル特性の低下を低減することができる。
【0051】
したがって、本実施の形態によれば、薄膜太陽電池モジュール1の製造におけるレーザスクライブ工程での残余物質に起因したセル特性の低下を抑制して、高品質の薄膜太陽電池を得ることができる、という効果を奏する。
【0052】
また、分離溝の位置精度は遮光マスク11の位置精度によって決まるため、遮光マスク11を高い位置精度で形成することで、分離溝の幅およびピッチを狭くすることができ、発電に寄与しない無効領域を狭くすることができ、薄膜太陽電池の発電量の増大させることができる。
【0053】
さらに、遮光マスク11の裏面側には光が入射しない領域が形成される。光電変換層13の半導体層は光が照射されない状態では光に照射された状態よりも導電率が低くなるため、遮光マスク11の裏面側の光電変換層13では横方向へのキャリアの移動を抑制することができ、薄膜太陽電池セル2の端部でのキャリアロスを低減し、セル特性の低下を抑制することができる。
【0054】
なお、図2−3、図2−5、図2−7においては、理解の容易のため、遮光マスク11によりマスクされずに裏面側に進むレーザ光を隣接する遮光マスク11間の間隔よりも細い幅の矢印で記載しているが、実際には図3に示されるように隣接する遮光マスク11間の間隔と同じ幅のレーザ光が裏面側に向かって進んでいく。
【0055】
また、本実施の形態では全てのレーザスクライブ工程において遮光マスク11によりレーザ光をマスクする場合について説明したが、レーザスクライブ工程のうち一部の工程のみに遮光マスク11を用いてもよい。また、レーザ光の径方向(X方向)において、片側の周辺端のみを遮光マスク11によりマスクしてもよい。
【0056】
実施の形態2.
図6は、実施の形態2にかかるモジュールの構成を説明するための要部断面図であり、実施の形態1における図1−2に対応する図である。なお、図6においては図1−2と同じ部材については、同じ符号を付すことで詳細な説明は省略する。
【0057】
図6に示す実施の形態2にかかるモジュールは、図1−1および図1−2に示した実施の形態1にかかるモジュール1と基本的に同じ構成を有する。すなわち、実施の形態2にかかるモジュールは、透光性絶縁基板10上に形成された短冊状(矩形状)のセル2(図6においては、セル2−1、セル2−2、セル2−3を記載)を複数備え、これらのセル2が電気的に直列に接続された構造を有する。
【0058】
セル2は、図6に示すように透光性絶縁基板10、透光性絶縁基板10上に形成された第1電極層となる透明表面電極層12、透明表面電極層12上に形成された遮光マスク11、透明表面電極層12上および遮光マスク11上に形成された薄膜半導体層からなる光電変換層13、光電変換層13上に形成された第2電極層となる裏面金属電極層14、が順次積層された構造を有する。また、透光性絶縁基板10上には不純物の阻止層および光反射防止層として、必要に応じて酸化珪素(SiO)、酸化ハフニウム(HfO)、酸化チタニウム(TiO)、五酸化ニオブ(Nb)等の透明材料、あるいはこれらの積層膜から構成されるアンダーコート層が設けられてもよい。ここで、光入射側(透光性絶縁基板10側)の面を表面といい、表面とは反対側(裏面金属電極層14側)の面を裏面とする。
【0059】
以下では、実施の形態1にかかるモジュール1と異なる点について説明する。遮光マスク11は、第2分離溝21と第3分離溝22とをレーザスクライブにより形成する際にレーザ光の遮光マスクとして機能する。遮光マスク11は、スクライブ部3においてセル2の長手方向(延在方向)と略平行な方向に延在するストライプ状(線形状)に形成されている。また、遮光マスク11は、隣接する遮光マスク11同士の間隙上に第2分離溝21、第3分離溝22が位置するように配置されている。詳細には、遮光マスク11は、第2分離溝21および第3分離溝22のすぐ横の領域における、光電変換層13と透明表面電極層12との間に配置されている。
【0060】
遮光マスク11は、実施の形態1の場合と同様に光反射特性を有する材料により構成される。その中でも特に、クロム(Cr)、アルミニウム(Al)、銀(Ag)等の金属材料や、二酸化チタン(TiO)等の白色顔料を主成分とする塗布材など、光反射率が高い材料が好ましい。本実施の形態の構造では遮光マスク11は透明表面電極層12上に形成されるため、透光性絶縁基板10上に遮光マスク11を形成する場合に比べて密着性の点で有利であり、密着性や濡れ性を改善させるための敷設層は不要となる。
【0061】
次に、上記のように構成された本実施の形態にかかるモジュールの製造方法について説明する。図7−1〜図7−7は、実施の形態2にかかるモジュールの製造工程の一例を説明するための要部断面図である。図7−1〜図7−7は、図6の要部断面図に対応している。
【0062】
まず、透光性絶縁基板10を用意する。ここでは、透光性絶縁基板10として例えば平板状の白板ガラスを用いる。透光性絶縁基板10上には不純物の阻止層および光反射防止層として、必要に応じて酸化珪素(SiO)、酸化ハフニウム(HfO)、酸化チタニウム(TiO)、五酸化ニオブ(Nb)等の透明材料、あるいはこれらの積層膜から構成されるアンダーコート層が設けられてもよい。
【0063】
つぎに、透光性絶縁基板10上に、透明表面電極層12として例えば酸化亜鉛(ZnO)膜をスパッタリング法により形成する(図7−1)。また、透明表面電極層12を構成する材料として、ZnO膜の他に酸化スズ(SnO)、酸化インジウム錫(ITO)などの透明導電性酸化膜や、導電率向上のためにこれらの透明導電性酸化膜にアルミニウム(Al)などの金属を添加した膜を用いることができる。また、製膜方法として、化学的気相成長法(CVD法)などの他の製膜方法を用いてもよい。
【0064】
次に、透明表面電極層12の一部を透光性絶縁基板10の短手方向と略平行な方向のストライプ状に切断・除去して、透明表面電極層12を短冊状にパターニングし、複数の透明表面電極層12に分離する(図7−2)。透明表面電極層12のパターニングは、レーザ光30を用いたレーザスクライブ法により、透光性絶縁基板10の短手方向と略平行な方向に延在して透光性絶縁基板10に達するストライプ状(線形状)の第1分離溝20を形成することで行う。
【0065】
レーザ光30の光源(図示せず)には、例えば波長1064nmのYAGレーザを用いる。出力を0.1Wから3Wの範囲で調整し、透光性絶縁基板10の裏面(透明表面電極層12が形成されていない方の面)からレーザ光30をパルス状に照射しつつ、同時に透光性絶縁基板10を透光性絶縁基板10の短手方向と略平行な方向に移動させることで、該短手方向と略平行な方向に延在するストライプ状(線形状)の第1分離溝20を形成する。レーザスクライブの後、加工残渣やレーザによる変質層除去のため洗浄工程を用いてもよい。
【0066】
次に、透明表面電極層12上の所定の位置に、複数の遮光マスク11をスクリーン印刷法やインクジェット法により形成する(図7−3)。ここで、遮光マスク11は、第2分離溝21および第3分離溝22が形成される領域が、隣接する遮光マスク11同士の間隙領域となるように、且つ透光性絶縁基板10の短手方向と略平行な方向に延在するように、複数の線形状に形成される。遮光マスク11の配線幅および配線間の間隙は、例えばそれぞれ10μmから50μm程度とする。
【0067】
次に、第1分離溝20内、遮光マスク11上および透明表面電極層12上に、PN接合またはPIN接合を有する1層または複数層の薄膜半導体層からなる光電変換層13をCVD法により形成する(図7−4)。また、光電変換層13として複数の薄膜半導体層を積層する場合は、異なる薄膜半導体層の層間にスパッタリングまたはCVD法により中間導電体層を形成してもよい。
【0068】
以降は、図7−5〜図7−7に示した工程、すなわち実施の形態2において図7−5〜図7−5を用いて説明した工程を実施することにより、図6に示すようなセル2を有する本実施の形態にかかるモジュールが完成する。
【0069】
上述した実施の形態2においても遮光マスク11を用いてレーザ光31、32のうち、エネルギー強度の低い周辺部をカットして、レーザ光31、32のうちエネルギー強度の強い径方向の中心部Dの近傍のレーザ光のみを用いてレーザスクライブを行う。すなわち、十分なエネルギー強度を持つ、X方向の中心部Dおよびその近傍のレーザ光のみをレーザスクライブに使用するため、確実に加工対象を除去することができる。特に第3分離溝22の形成工程では、確実に除去できなかった光電変換層13の半導体層が変性層となって残余する(残余物質)ことを抑制することができ、該変性層に起因したリーク等の発生を抑制し、変性層に起因したセル特性の低下を抑制することができる。
【0070】
すなわち、本実施の形態では、分離溝の直前でレーザ光をマスクすることができるため、極めて急峻なエネルギー分布を持つレーザ光によりスクライブを行うことができる。これにより、分離溝における変性層の形成を抑制することができ、リーク等によるセル特性の低下を低減することができる。
【0071】
したがって、本実施の形態によれば、薄膜太陽電池モジュールの製造におけるレーザスクライブ工程での残余物質に起因したセル特性の低下を抑制して、高品質の薄膜太陽電池を得ることができる、という効果を奏する。
【0072】
また、分離溝の位置精度は遮光マスク11の位置精度によって決まるため、遮光マスク11を高い位置精度で形成することで、分離溝の幅およびピッチを狭くすることができ、発電に寄与しない無効領域を狭くすることができ、薄膜太陽電池の発電量の増大させることができる。
【0073】
さらに、遮光マスク11の裏面側には光が入射しない領域が形成される。光電変換層13の半導体層は光が照射されない状態では光に照射された状態よりも導電率が低くなるため、遮光マスク11の裏面側の光電変換層13では横方向へのキャリアの移動を抑制することができ、薄膜太陽電池セル2の端部でのキャリアロスを低減し、セル特性の低下を抑制することができる。
【産業上の利用可能性】
【0074】
以上のように、本発明にかかる薄膜太陽電池は、レーザスクライブ法による太陽電池セル分離時における残余物質に起因した出力特性の低下が抑制された高品質の薄膜太陽電池の実現に有用である。
【符号の説明】
【0075】
1 薄膜太陽電池モジュール
2、2−1、2−2、2−3 薄膜太陽電池セル(セル)
3、3−1、3−2 スクライブ部
10 透光性絶縁基板
11 遮光マスク
12 透明表面電極層
13 光電変換層
14 裏面金属電極層
20 第1分離溝
21 第2分離溝
22 第3分離溝
30、31、32 レーザ光
30R、31R、32R 反射光

【特許請求の範囲】
【請求項1】
透光性絶縁基板上に、透明導電膜からなる第1電極層と、半導体膜からなり光電変換を行う光電変換層と、光を反射する導電膜からなる第2電極層と、がこの順で積層されてなり、前記透光性絶縁基板よりも上部の層が分離溝により短冊状に分割された複数の薄膜太陽電池セルが配設されるとともに、隣接する前記薄膜太陽電池セル同士が電気的に直列接続された薄膜太陽電池の製造方法であって、
遮光性材料からなる線形状のマスク層を前記分離溝により分割される層よりも下層または同層に形成し、前記マスク層を含む領域に前記透光性絶縁基板側からレーザ光を照射し、前記透光性絶縁基板の面内方向における一部分が前記マスク層によってマスクされることにより成形された前記レーザ光により前記透光性絶縁基板よりも上部の層に前記分離溝を形成すること、
を特徴とする薄膜太陽電池の製造方法。
【請求項2】
前記マスク層により前記レーザ光の径方向における片側をマスクして前記レーザ光を成形すること、
を特徴とする請求項1に記載の薄膜太陽電池の製造方法。
【請求項3】
前記マスク層により前記レーザ光の径方向における両側をマスクして前記レーザ光を成形すること、
を特徴とする請求項1に記載の薄膜太陽電池の製造方法。
【請求項4】
前記透光性絶縁基板上に前記マスク層を形成する工程と、
前記透光性絶縁基板上および前記マスク層上に前記第1電極層を形成する工程と、
前記成形された前記レーザ光により前記第1電極層に第1分離溝を形成して前記第1電極層を短冊状に分割する工程と、
前記第1分離溝内および前記第1電極層上に前記光電変換層を形成する工程と、
前記成形された前記レーザ光により前記光電変換層に第2分離溝を形成して前記光電変換層を短冊状に分割する工程と、
前記第2分離溝内および前記光電変換層上に前記第2電極層を形成する工程と、
前記成形された前記レーザ光により前記第2電極層に第3分離溝を形成して前記第2電極層を短冊状に分割する工程と、
を特徴とする請求項1に記載の薄膜太陽電池の製造方法。
【請求項5】
前記透光性絶縁基板上に、第1分離溝で分離された複数の前記第1電極層を形成する工程と、
前記第1電極層上に前記マスク層を形成する工程と、
前記第1電極層上および前記マスク層上に前記光電変換層を形成する工程と、
前記成形された前記レーザ光により前記光電変換層に第2分離溝を形成して前記光電変換層を短冊状に分割する工程と、
前記第2分離溝内および前記光電変換層上に前記第2電極層を形成する工程と、
前記成形された前記レーザ光により前記第2電極層に第3分離溝を形成して前記第2電極層を短冊状に分割する工程と、
を特徴とする請求項1に記載の薄膜太陽電池の製造方法。
【請求項6】
透光性絶縁基板上に、透明導電膜からなる第1電極層と、半導体膜からなり光電変換を行う光電変換層と、光を反射する導電膜からなる第2電極層と、がこの順で積層されてなり、前記透光性絶縁基板上の層が分離溝により短冊状に分割された複数の薄膜太陽電池セルが配設されるとともに、隣接する前記薄膜太陽電池セル同士が電気的に直列接続された薄膜太陽電池であって、
遮光性材料からなり前記分離溝の延在方向と同方向に延在する線形状のマスク層を、前記分離溝により分割されている層よりも下層または同層において、前記分離溝および前記マスク層を前記透光性絶縁基板上に投影した場合に前記分離溝の長手方向の端部と前記マスク層の長手方向の端部とが略重なる位置に備えること、
を特徴とする薄膜太陽電池。
【請求項7】
前記マスク層を前記透光性絶縁基板上に備えること、
を特徴とする請求項6に記載の薄膜太陽電池。
【請求項8】
前記マスク層を前記第1電極層上に備えること、
を特徴とする請求項6に記載の薄膜太陽電池。

【図1−1】
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【図1−2】
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【図2−1】
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【図2−2】
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【図2−3】
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【図2−4】
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【図2−5】
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【図2−6】
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【図2−7】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7−1】
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【図7−2】
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【図7−3】
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【図7−4】
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【図7−5】
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【図7−6】
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【図7−7】
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【公開番号】特開2011−138951(P2011−138951A)
【公開日】平成23年7月14日(2011.7.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−298366(P2009−298366)
【出願日】平成21年12月28日(2009.12.28)
【出願人】(000006013)三菱電機株式会社 (33,312)
【Fターム(参考)】