説明

薄膜形成装置及び薄膜形成方法

【課題】電気的手法によって高い成長速度で薄膜を形成することが可能な薄膜形成装置及び薄膜形成方法を提供すること。
【解決手段】ターゲット22を保持するターゲット保持部21が導電性材料からなることとしたので、電子線をターゲット22に照射し続けてもターゲット保持部21がチャージアップすることが無い。このため、ターゲット22に電子線を照射した状態で時間が経過しても、当該電子線がターゲット22に到達しにくくなることは無いので、成長速度の低下を回避することができる。これにより、高い成長速度で薄膜を形成することが可能となる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、薄膜形成装置及び薄膜形成方法に関する。
【背景技術】
【0002】
基板上に例えばIII族窒化物の結晶を薄膜状に成長させた半導体基板が知られている。このIII族窒化物の薄膜は、従来、主として有機金属気相成長法(MOCVD)や分子線エピタキシー法(MBE)、パルスレーザ堆積法(PLD法)などによって作製されてきた。これらの方法は、いずれも高温下でIII族窒化物の結晶を基板上に成長させるものである。高温下では、基板の材料によっては、基板表面で化学反応(界面反応)が発生し、基板表面が劣化する虞がある。このため、上記の方法に用いられる基板は、サファイア基板やSiC基板など化学的に安定し界面反応が生じにくいものに限られていた。また、MOCVD法は、発生するガスの排ガス処理装置や安全装置が必要となるため、装置コストが高いという問題がある。MBE法は、液体窒素を循環させて装置を冷却する必要があるため、この方法も装置コストが高いという問題がある。また、PLD法は高い運動エネルギーを持ったIII族原子のプルームを前駆体として薄膜を成長させるが、ターゲットにパルスレーザ光を照射したときのプルームの広がりは極めて小さいという問題がある(例えば、非特許文献1参照)。
【0003】
これに対して、パルス電子線堆積法(PED法)と呼ばれる手法や、直流電源を用いたスパッタリング法(DCスパッタリング法やパルスDCスパッタリング法等)などの手法が知られている。このような電気的手法によって薄膜を形成すると、高品質の薄膜を低コストで形成することができる。PED法やDCスパッタリング法では、III族金属及びその合金をターゲットとして用いる。このターゲットを電気的手法によって蒸発させ、基板上に成長させるようにする。GaやInなどのIII族金属は低融点物質であり、液体の状態で蒸発させることになる。このため、ターゲットを蒸発させる際には、坩堝などのターゲット保持部に当該ターゲットを保持する。ターゲット保持部の材料としては、液体金属と反応性の低い窒化ホウ素やアルミナが用いられている。
【非特許文献1】J.Ohta, H.Fujioka, and M.Oshima, Appl. Phys. Lett., 83, 3060 (2003)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、窒化ホウ素やアルミナは絶縁性の物質であるため、電子あるいは電荷を帯びた粒子をターゲットに照射し続けると、電子あるいは電荷を受けてターゲット保持部がチャージアップしてしまう。時間の経過と共に電子あるいは電荷を帯びた粒子がターゲットに到達しにくくなってしまうため、成長速度が次第に低くなってしまうという問題がある。
【0005】
以上のような事情に鑑み、本発明の目的は、電気的手法によって高い成長速度で薄膜を形成することが可能な薄膜形成装置及び薄膜形成方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するため、本発明に係る薄膜形成装置は、金属を含むターゲットを電気的手法で蒸発させて対象物上に薄膜を形成する薄膜形成装置であって、前記ターゲットを保持するターゲット保持部を有し、前記ターゲット保持部が導電性材料からなることを特徴とする。
ここで、「電気的手法」とは、ターゲットに電荷を帯びた粒子(例えば電子やイオンなど)を照射することで、当該ターゲットを蒸発させる手法である。この電気的手法としては、例えばパルス電子線堆積法(PED法)や直流電圧スパッタリング法(DCスパッタリング法)などが挙げられる。
【0007】
本発明によれば、金属を含むターゲットを電気的手法で蒸発させて対象物上に薄膜を形成する場合、このターゲットを保持するターゲット保持部が導電性材料からなることとしたので、電子あるいは電荷を帯びた粒子をターゲットに照射した状態で時間が経過してもターゲット保持部がチャージアップすることが無い。このため、これらの電子あるいは粒子がターゲットに到達しにくくなることは無く、成長速度の低下を回避することができる。これにより、高い成長速度で薄膜を形成することが可能となる。
【0008】
上記の薄膜形成装置は、前記ターゲット保持部が、金属を添加した窒化ホウ素であることを特徴とする。
金属を添加した窒化ホウ素は一定の導電性を有する物質であることが知られている。本発明によれば、ターゲット保持部が金属を添加した窒化ホウ素であることとしたので、電子あるいは電荷を帯びた粒子をターゲットに照射した状態で時間が経過しても、これらの電子あるいは粒子がターゲットに到達しにくくなることは無く、成長速度の低下を回避することができる。
【0009】
上記の薄膜形成装置は、前記添加する金属がチタンであることを特徴とする。
窒化ホウ素にチタンをドーピングした物質は、高い導電性を有することが知られている。本発明によれば、添加する金属がチタンであることとしたので、電子あるいは電荷を帯びた粒子をターゲットに照射した状態で時間が経過しても、これらの電子あるいは粒子がターゲットに到達しにくくなることは無く、成長速度の低下を回避することができる。
【0010】
上記の薄膜形成装置は、前記ターゲット保持部が、前記ターゲットに含まれる金属の窒化物からなることを特徴とする。
本発明によれば、ターゲット保持部が当該ターゲットに含まれる金属の窒化物からなるものであり、ターゲットに含まれる金属とターゲット保持部に含まれる金属とが同種の金属である。これにより、不純物濃度の低い単結晶の薄膜を形成することができる。
【0011】
上記の薄膜形成装置は、前記ターゲットに含まれる金属がIII族金属であり、前記ターゲット保持部がIII族金属窒化物からなることを特徴とする。
III族金属の窒化物は一定の導電性を有することが知られている。また、III族金属の窒化物は化学的に特に安定であることが知られている。本発明によれば、ターゲットに含まれる金属がIII族金属であり、前記ターゲット保持部がIII族金属窒化物からなることとしたので、電子あるいは電荷を帯びた粒子をターゲットに照射した状態で時間が経過しても、これらの電子あるいは粒子がターゲットに到達しにくくなることは無く、成長速度の低下を回避することができる。また、純度の高い単結晶を成長させることができる。
【0012】
本発明に係る薄膜形成方法は、金属を含むターゲットを電気的手法で蒸発させて対象物上に薄膜を形成する薄膜形成方法であって、前記ターゲットを蒸発させるときには、導電性材料からなるターゲット保持部に前記ターゲットを保持することを特徴とする。
本発明によれば、金属を含むターゲットを電気的手法で蒸発させて対象物上に薄膜を形成する場合に、ターゲットを蒸発させるときには、導電性材料からなるターゲット保持部に当該ターゲットを保持することとしたので、電子あるいは電荷を帯びた粒子をターゲットに照射した状態で時間が経過してもターゲット保持部がチャージアップすることが無い。このため、これらの電子あるいは粒子がターゲットに到達しにくくなることは無く、成長速度の低下を回避することができる。これにより、電気的手法によって高い成長速度で薄膜を形成することが可能となる。
【0013】
上記の薄膜形成方法は、前記ターゲット保持部が、金属を添加した窒化ホウ素であることを特徴とする。
本発明によれば、ターゲット保持部が金属を添加した窒化ホウ素であることとしたので、電子あるいは電荷を帯びた粒子をターゲットに照射した状態で時間が経過しても、これらの電子あるいは粒子がターゲットに到達しにくくなることは無く、成長速度の低下を回避することができる。
【0014】
上記の薄膜形成方法は、前記添加する金属がチタンであることを特徴とする。
本発明によれば、成長速度の低下を回避することができると共に、純度の高い単結晶を成長させることができる。
【0015】
上記の薄膜形成方法は、前記ターゲット保持部が、前記ターゲットに含まれる金属の窒化物からなることを特徴とする。
本発明によれば、ターゲット保持部が当該ターゲットに含まれる金属の窒化物からなることとしたので、化学的に安定となる。これにより、不純物濃度の低い単結晶の薄膜を形成することができる。
【0016】
上記の薄膜形成方法は、前記ターゲットに含まれる金属がIII族金属であり、前記ターゲット保持部がIII族金属窒化物からなることを特徴とする。
本発明によれば、ターゲットに含まれる金属がIII族金属であり、ターゲット保持部がIII族金属窒化物からなることとしたので、純度の高い単結晶を成長させることができる。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、金属を含むターゲットを電気的手法で蒸発させて対象物上に薄膜を形成する場合、このターゲットを保持するターゲット保持部が導電性材料からなることとしたので、電子あるいは電荷を帯びた粒子をターゲットに照射した状態で時間が経過してもターゲット保持部がチャージアップすることが無い。このため、これらの電子あるいは粒子がターゲットに到達しにくくなることは無く、成長速度の低下を回避することができる。これにより、高い成長速度で薄膜を形成することが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
[第1実施形態]
本発明の第1実施形態を図面に基づき説明する。
図1は、本実施形態に係る薄膜を有する半導体素子の構成を示す図である。
同図に示すように、半導体素子1は、本実施形態に係る半導体薄膜3が対象物上である基板2上に形成された構成になっている。この半導体素子1は、例えば発光素子や電子素子などに搭載される。
【0019】
基板2は、例えばサファイア(0001)やZnO(0001)、6H−SiC(0001)などの材料からなる。また、MgO(111)やSi(111)などの材料であっても構わない。
【0020】
半導体薄膜3は、例えばIII族窒化物半導体からなる薄膜である。III族窒化物としては、例えばGaN(ガリウムナイトライド)、AlN(アルミニウムナイトライド)、InN(インジウムナイトライド)などが挙げられ、一般式InGaAl1−X−YN(0≦X≦1、0≦Y≦1、0≦X+Y≦1)で表される。
【0021】
図2は、本実施形態に係るPED装置1の概略的な構成を示す図である。
同図に示すように、PED装置1は、チャンバ10と、電子線源11と、ターゲット保持駆動部12と、基板保持部13と、ガス供給部14と、圧力調整部15とを主体として構成されており、ターゲットとなる物質に電子線を照射して蒸発させたものである。本実施形態では、一例として基板上にIII族窒化物半導体を形成するものとする。III族窒化物半導体は、例えばGaN、AlN、InNなどが挙げられ、一般式InGaAl1−X−YN(0≦X≦1、0≦Y≦1、0≦X+Y≦1)で表される。
【0022】
電子線源11は、チャンバ10の外側に設けられており、放電管41と、ホローカソード42と、トリガー電極43と、対向電極44と、パルス発生器45とを主体として構成されている。放電管41は、例えばガラスなどからなり、長手方向の一端41aが開放された構成になっている。ホローカソード42は、放電管41の外面に取り付けられており、放電管41内に電場を印加可能になっている。トリガー電極43は放電管41内の長手方向の他端41bに設けられており、対向電極44は放電管41の一端41aに設けられている。パルス発生器45は、トリガー電極43に電気的に接続されており、トリガー電極43に所定の周波数でパルス信号を供給するようになっている。電子線源11は、このような機構により放電管41内でチャネルスパーク放電を起こし、発生したパルス電子線を一端41aから射出するようになっている。
【0023】
放電管41の一端41aには、パルス電子線を誘導するセラミックチューブ16が取り付けられている。チャンバ10には窓部17が設けられており、セラミックチューブ16は当該窓部17を介してチャンバ10の内部(ターゲット保持駆動部12)に到達するように設けられている。セラミックチューブ16の一端には開口部(射出部)16aが設けられており、放電管41内で発生し当該セラミックチューブ16内を誘導されたパルス電子線が当該開口部16aから射出されるようになっている。セラミックチューブ16の内径は2mm〜4mm程度である。セラミックチューブ16には図示しない移動機構が設けられており、当該セラミックチューブ16の開口部16aを移動させるができるようになっている。
【0024】
ターゲット保持駆動部12は、ターゲット保持部21と、ターゲット駆動部23と、ターゲット駆動軸24とを備えている。ターゲット保持部21は、ターゲット22を水平に保持可能に設置された坩堝である。ターゲット保持部21の内部には、例えば電熱線などの加熱機構(図示しない)が設けられており、ターゲット22を加熱可能になっている。ターゲット保持部21は、一定の導電性を有する材料からなる。このような材料としては、例えばチタン(Ti)などの金属を添加した窒化ホウ素(BN)や、窒化ガリウム(GaN)、窒化インジウム(InN)、窒化アルミニウム(AlN)などのIII族金属の窒化物が挙げられる。
【0025】
ターゲット22としては例えばIII族金属(例えばAl、Ga、In又はこれらの混合体)やIII−V族化合物(例えばAlN、GaN、InN)のなどが挙げられる。これらは、30℃で液体状になっている。
【0026】
ターゲット駆動部23は、ターゲット駆動軸24を介してターゲット保持部21を図中上下に移動させると共に、このターゲット駆動軸24を回転軸としてターゲット保持部21を回転させることが可能になっている。
【0027】
基板保持部13は、基板ホルダ31と、基板ホルダ駆動部33と、基板ホルダ駆動軸34とを備えている。基板ホルダ31は、基板2を水平に保持可能に設置されている。基板ホルダ31の内部には、例えば電熱線などの加熱機構(図示しない)が設けられており、基板2を加熱可能になっている。
【0028】
基板2としては、上述したサファイア(0001)やZnO(0001)、6H−SiC(0001)などの材料からなる基板を用いることができる。基板ホルダ駆動部33は、基板ホルダ駆動軸34を介して基板ホルダ31を図中左右方向に移動させると共に、この基板ホルダ駆動軸34を回転軸として基板ホルダ31を回転させることが可能になっている。
【0029】
ガス供給部14は、チャンバ10内にV族ガス、例えば窒素ガスを供給するガス供給源である。圧力調整部15は、例えばポンプなどからなり、チャンバ10内の圧力を調整可能になっている。
【0030】
次に、上記のように構成されたPED装置1によって基板2上にIII−V窒化物の薄膜を形成する手法を説明する。
ガス供給部14によってチャンバ10内の窒素ガスの圧力を1mTorr〜20mTorr程度にしておく。また、基板ホルダ31に基板2を保持させ、基板ホルダ31内の加熱機構によって基板2の温度を200℃〜850℃程度にしておく。移動機構によって、セラミックチューブ16の開口部16aをターゲット22から2mm〜10mm程度離れた位置、より好ましくは2mm〜3mm程度離れた位置に配置しておく。
【0031】
この状態で、電子線源11の放電管41内でパルス電子線を発生させる。パルス電子線の加速電圧を10kV〜20kVとし、周波数を1Hz〜20Hz程度にすることが好ましい。このパルス電子線は、セラミックチューブ16内を誘導され、開口部16aから射出される。射出されたパルス電子線は、ターゲット22に照射される。セラミックチューブ16の開口部16aを例えば一筆書きの要領でターゲット22の全面に移動させて、パルス電子線をターゲット22の全面に照射する。
【0032】
ターゲット22にパルス電子線が照射されると、ターゲット22を構成する原子あるいは分子に運動エネルギーが供給され、当該原子あるいは分子がプルームとなって蒸発する。このプルームは窒素ガスと衝突反応等を繰り返しながら徐々に状態を変化させて基板2に近接する。基板2に到達したプルームは、格子整合性の最も安定な状態、すなわちIII族窒化物の状態で基板2上に堆積する。
【0033】
基板2上には、III族窒化物がまず島状(3次元島状)に成長する。その後、島状のIII族窒化物が成長し、コアレッセンスが形成される。そして、膜厚方向に2次元的に成長し、III族窒化物の薄膜(半導体層)が形成される。このようにして基板2上に薄膜が形成される。
【0034】
本実施形態によれば、ターゲット22を保持するターゲット保持部21が導電性材料からなることとしたので、電子線をターゲット22に照射し続けてもターゲット保持部21がチャージアップすることが無い。このため、ターゲット22に電子線を照射した状態で時間が経過しても、当該電子線がターゲット22に到達しにくくなることは無いので、成長速度の低下を回避することができる。これにより、高い成長速度で薄膜を形成することが可能となる。
【0035】
金属を添加した窒化ホウ素は一定の導電性を有する物質であることが知られている。本実施形態によれば、ターゲット保持部21が金属を添加した窒化ホウ素であることとしたので、ターゲット22に電子線を照射した状態で時間が経過しても、当該電子線がターゲット22に到達しにくくなることは無いので、成長速度の低下を回避することができる。
【0036】
特に、窒化ホウ素にチタンを添加した物質を用いた場合、高い導電性を有することとなるため、ターゲット22に電子線を照射した状態で時間が経過しても、これらの電子あるいは粒子がターゲットに到達しにくくなるのを確実に抑えることができ、成長速度の低下を一層確実に回避することができる。
【0037】
また、ターゲット保持部21が当該ターゲット22に含まれる金属(Ga、In、AlなどのIII族金属)の窒化物からなるものであり、ターゲット22に含まれるこれらの金属とターゲット保持部21に含まれる金属とが同種の金属とした場合、不純物濃度の低い単結晶の薄膜を形成することができる。
【0038】
特に、III族金属の窒化物は一定の導電性を有することが知られている。また、III族金属の窒化物は化学的に特に安定であることが知られている。このため、ターゲット22に含まれる金属がIII族金属であり、ターゲット保持部21がIII族金属窒化物からなる場合、成長速度の低下を回避することができ、また、純度の高い単結晶を成長させることができる。
【0039】
したがって、従来では作製できなかった高In濃度のInGaNなどの薄膜を高品質な状態で作製することができる。このような薄膜を備えた半導体素子を発光素子に搭載した場合、例えば輝度の高い緑色、黄色、赤色、赤外線などの長波長発光素子を得ることができる。
【0040】
[第2実施形態]
次に、本発明の第2実施形態を説明する。
図3は、スパッタ装置の構成を示す図である。
同図に示すように、スパッタ装置110は、チャンバ111と、基板側電極112と、ターゲット側電極113と、直流電源114と、基板保持部115と、ターゲット保持部116と、窒素供給源117と、加熱装置118とを主体として構成されている。
【0041】
チャンバ111は、外部に対して密閉可能に設けられている。チャンバ111内は図示しない真空ポンプなどによって減圧できるようになっている。
基板側電極112は、チャンバ111内の基板側に配置されている。ターゲット電極113は、チャンバ111内に基板側電極112に対向して設けられている。直流電源114は、基板側電極112及びターゲット側電極113にそれぞれ電気的に接続されており、基板側電極112とターゲット側電極113との間に直流電圧を印加する電圧源である。
【0042】
基板保持部115は、薄膜を形成する基板102を保持可能に設けられている。
ターゲット保持部116は、ターゲット116aを水平に保持可能に設置された坩堝であり、一定の導電性を有する材料からなる。このような材料としては、第1実施形態と同様に、例えばチタン(Ti)などの金属を添加した窒化ホウ素(BN)や、窒化ガリウム(GaN)、窒化インジウム(InN)、窒化アルミニウム(AlN)などのIII族金属の窒化物が挙げられる。
【0043】
ターゲット116aは、例えばIII族金属及びその合金からなる。ターゲット116aとして用いられるIII族金属としては、例えばGa(ガリウム)、Al(アルミニウム)、In(インジウム)などが挙げられる。これらのIII族金属は、坩堝内に液体状で保持されるようになっている。
【0044】
窒素供給源117は、例えば供給管などによってチャンバ111内に接続されており、チャンバ111内に窒素ガスを供給する。図示しないが、窒素供給源117の他、チャンバ内にアルゴンガスを供給するアルゴンガス供給源も設けられている。
加熱装置118は、例えば基板保持部115に固定されており、基板保持部115上の基板102の周囲温度を調節できるようになっている。
【0045】
次に、上記のスパッタ装置110を用いて薄膜を形成する工程を説明する。
まず、チャンバ111内にアルゴンガスを供給し、窒素供給源117から窒素ガスをチャンバ111内に供給する。アルゴンガス及び窒素ガスによってチャンバ111内が所定の圧力になった後、基板102を基板保持部115に保持し、ターゲット116aをターゲット保持部116上に保持させる。
【0046】
基板102及びターゲット116aを配置した後、加熱装置118によって、基板102の周囲温度を調節する。基板102の周囲温度を調節したら、基板側電極112とターゲット側電極113との間に直流電圧を印加する。直流電圧が印加されている間、電荷を帯びたアルゴンのプラズマが発生し、ターゲット116aに衝突する。この衝突エネルギーを受けて、ターゲット116aを構成する金属原子がチャンバ111内に放出される。
【0047】
本実施形態では、ターゲット保持部116が導電性を有する材料からなるため、時間が経過してもターゲット保持部116がアルゴンのプラズマの電荷によってチャージアップされることが無い。基板102上にはターゲットを構成するIII族金属と窒素との化合物が堆積される。このように堆積したIII族窒素化合物が薄膜となって形成される。
【0048】
このように、本実施形態によれば、直流電源スパッタリング法(DCスパッタリング法)によって薄膜を形成する場合についても、ターゲット116aを保持するターゲット保持部116が導電性材料からなることとしたので、電荷を帯びたプラズマをターゲット116aに照射し続けてもターゲット保持部116がチャージアップすることが無い。このため、ターゲット116にプラズマを照射した状態で時間が経過しても、当該プラズマがターゲット116に到達しにくくなることは無いので、成長速度の低下を回避することができる。これにより、高い成長速度で薄膜を形成することが可能となる。
【実施例】
【0049】
次に、本発明に係る実施例を説明する。
本実施例では、上記実施形態のPED装置を用いてPED法によってGaNの薄膜を形成した。ターゲット保持部内には液体状のGaをターゲットとして保持させ、パルス電子線の加速電圧を19kV、パルス電子線のパルス周波数を8Hz、窒素雰囲気圧力を6mTorrとして、Gaのターゲットにパルス電子線を照射した。ターゲット保持部を構成する材料を、(1)窒化ホウ素(BN)、(2)窒化ガリウム(GaN)、(3)窒化ホウ素にチタンを添加した材料、とした場合について、上記の条件でそれぞれGaN薄膜を成長させた。
【0050】
図4は、パルス電子線を照射してからの時間の経過に伴うGaNの成長速度の変化を示すグラフである。グラフの縦軸がGaNの成長速度(nm/時)である。グラフの横軸がカソード電圧の大きさ(kV)であり、時間の経過を示している。ここでは、カソード電圧を15kVから20kVとした場合について測定した。
【0051】
同図に示すように、ターゲット保持部として(2)及び(3)の材料を用いた場合、GaNの成長速度は大きく増加するが、(1)の材料を用いた場合、成長速度はそれほど増加しない。図示を省略するが、この後カソード電圧をさらに大きくした場合、(1)の材料を用いた場合では、成長速度の低下が確認されたが、(2)及び(3)の材料を用いた場合には、成長速度の低下は確認されなかった。また、(1)の材料を用いた場合、チャージアップのため60nm/hrの成長速度しか得られなかったが、(3)の材料では140nm/hrと高い結晶成長速度が得られた。
【図面の簡単な説明】
【0052】
【図1】本発明の第1実施形態に係る半導体素子の構成を示す図。
【図2】本実施形態に係るPED製造装置を示す図。
【図3】本発明の第2実施形態に係るスパッタ装置の構成を示す図。
【図4】本発明の実施例に係るGaNの成長速度と時間の経過との関係を示すグラフ。
【符号の説明】
【0053】
1…製造装置 10…チャンバ 11…電子線源 12…ターゲット保持駆動部 21…ターゲット保持部 22…ターゲット

【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属を含むターゲットを電気的手法で蒸発させて対象物上に薄膜を形成する薄膜形成装置であって、
前記ターゲットを保持するターゲット保持部を有し、
前記ターゲット保持部が導電性材料からなる
ことを特徴とする薄膜形成装置。
【請求項2】
前記ターゲット保持部が、金属を添加した窒化ホウ素である
ことを特徴とする請求項1に記載の薄膜形成装置。
【請求項3】
前記添加する金属がチタンである
ことを特徴とする請求項2に記載の薄膜形成装置。
【請求項4】
前記ターゲット保持部が、前記ターゲットに含まれる金属の窒化物からなる
ことを特徴とする請求項1に記載の薄膜形成装置。
【請求項5】
前記ターゲットに含まれる金属がIII族金属であり、
前記ターゲット保持部がIII族金属窒化物からなる
ことを特徴とする請求項4に記載の薄膜形成装置。
【請求項6】
金属を含むターゲットを電気的手法で蒸発させて対象物上に薄膜を形成する薄膜形成方法であって、
前記ターゲットを蒸発させるときには、導電性材料からなるターゲット保持部に前記ターゲットを保持する
ことを特徴とする薄膜形成方法。
【請求項7】
前記ターゲット保持部が、金属を添加した窒化ホウ素である
ことを特徴とする請求項6に記載の薄膜形成方法。
【請求項8】
前記添加する金属がチタンである
ことを特徴とする請求項7に記載の薄膜形成方法。
【請求項9】
前記ターゲット保持部が、前記ターゲットに含まれる金属の窒化物からなる
ことを特徴とする請求項6に記載の薄膜形成方法。
【請求項10】
前記ターゲットに含まれる金属がIII族金属であり、
前記ターゲット保持部がIII族金属窒化物からなる
ことを特徴とする請求項9に記載の薄膜形成方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2008−240008(P2008−240008A)
【公開日】平成20年10月9日(2008.10.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−78185(P2007−78185)
【出願日】平成19年3月26日(2007.3.26)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)国等の委託研究の成果に係る特許出願(平成17年度独立行政法人科学技術振興機構、独創的シーズ展開事業 権利化試験「レーザーMBEによる高輝度窒化ガリウム素子の開発」委託研究、産業活力再生特別措置法第30条の適用を受けるもの)
【出願人】(591243103)財団法人神奈川科学技術アカデミー (271)
【出願人】(504137912)国立大学法人 東京大学 (1,942)
【Fターム(参考)】