説明

薄膜形成装置

【課題】蒸発材料を劣化させずに長時間放出を継続できる技術を提供する。
【解決手段】
真空槽11内に加熱側筒体23と冷却側筒体24とを、加熱側筒体23が上になるように配置して、それらの内部に蒸発材料15が配置された蒸発材料容器26を挿入し、蒸発材料15の上部の所定量が、加熱側筒体23の内側に配置されて、加熱側筒体23から加熱されて蒸気が放出されるようにする。このとき、蒸発材料15の下部は、冷却側筒体24によって冷却され、不必要に加熱されず、劣化しないようになる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、薄膜形成の技術分野に係り、特に、有機材料を変質させずに薄膜を形成する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
現在では有機EL表示装置が注目されており、有機薄膜形成装置が盛んに開発されている。
図7の符号101は、従来技術の有機薄膜形成装置であり、真空槽111の内部の底壁側には蒸着源113が配置され、その上方にはフォルダ114が配置されている。蒸着源113内に有機材料115を配置し、真空ポンプ139によって真空槽111内を真空排気し、真空雰囲気にされた真空槽111内に成膜対象物を搬入してフォルダ114に保持させる。
【0003】
次いで、加熱電源144を動作させ、蒸着源113周囲のヒータ131に通電して発熱させ、蒸着源113を加熱し、有機材料115を昇温させて、有機材料115の蒸気を生成し、真空槽111の内部に放出させる。
蒸気が安定して放出されるようになった後、蒸着源113と成膜対象物117の間に位置するシャッタ138を開け、蒸気を成膜対象物に到達させる。
蒸気放出速度は、膜厚センサ137と制御装置136によって検出し、検出結果に基づいて加熱電源144が出力する電力を制御し、蒸気放出速度が一定値になるようにする。
【0004】
この有機薄膜形成装置101では、蒸着源113内の有機材料が全部加熱されており、有機材料115は、表面部分から蒸気が放出されて減少するようになっている。従って、蒸着源113内の有機材料115のうち、蒸着源113の下部の部分は蒸発せず、長時間加熱された状態が維持されるため、変質してしまうという問題がある。
【0005】
また、メンテナンス等のため、蒸着源113内に有機材料115が残っている状態で真空槽111内に大気を導入しようとするときに、有機材料115全部が高温であると、変質してしまう。有機材料115が低温になってから大気を導入しようとすると、長時間を必要としてしまう。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平06−316484号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は上記従来技術の不都合を解決するために創作されたものであり、その目的は、有機材料を変質させずに蒸気を長時間放出することができ、また、一定の蒸気放出速度が得られ、メンテナンスに要する時間も短い技術を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するために本発明は、真空槽と、前記真空槽内に配置された蒸着源と、前記真空槽内を真空排気する真空ポンプとを有し、前記真空ポンプによって前記真空槽内を真空雰囲気にした状態で、前記蒸着源内に配置された蒸発材料を加熱して、前記蒸着源内で前記蒸発材料の蒸気を生成し、前記真空槽内に配置された成膜対象物の表面に前記蒸気を到達させ、前記成膜対象物の表面に薄膜を形成する薄膜形成装置であって、前記蒸着源は、前記蒸発材料が配置される蒸発材料容器と、前記蒸発材料容器を加熱する加熱部と、前記蒸発材料容器を冷却する冷却部とを有し、前記加熱部は、筒形状である加熱側筒体と、前記加熱側筒体を加熱する加熱装置とを有し、前記冷却部は、筒形状である冷却側筒体と、前記冷却側筒体を冷却する冷却装置とを有し、前記加熱側筒体は前記冷却側筒体の上方に配置され、前記蒸発材料容器は、上部が前記加熱側筒体の内周面に接触して前記加熱側筒体の内側に位置し、下部が前記冷却側筒体の内周面に接触して前記冷却側筒体の内側に位置した状態にできるように構成され、前記蒸発材料容器を、前記加熱側筒体と前記冷却側筒体に対して、上下移動させる移動装置が設けられ、前記加熱側筒体と前記冷却側筒体に対する前記蒸発材料容器の高さを変更できるように構成された薄膜形成装置である。
また、本発明は、前記加熱側筒体の内周面と、前記冷却側筒体の内周面と、前記蒸発材料容器の外周面は、それぞれ円筒形形状に形成され、前記加熱側筒体の内周面と、前記冷却側筒体の内周面とには、雌ねじがそれぞれ設けられ、前記蒸発材料容器の外周面には雄ねじが設けられ、前記雌ねじと前記雄ねじは噛み合わされ、前記蒸発材料容器が前記加熱側筒体と前記冷却側筒体に対して回転すると、前記蒸発材料容器は、前記加熱側筒体と前記冷却側筒体に対して上下移動されるように構成された薄膜形成装置である。
また、本発明は、前記蒸気は、前記蒸発材料容器の開口から前記真空槽内に放出されるように構成された薄膜形成装置である。
また、本発明は、前記真空槽内には、前記蒸着源が少なくとも二個配置され、二個の前記蒸着源から前記真空槽内に前記蒸気がそれぞれ放出され、同一の前記成膜対象物に蒸気がそれぞれ到達できるように構成された薄膜形成装置である。
また、本発明は、前記真空槽内には放出装置が設けられ、前記蒸着源内で生成された前記蒸気は供給管内を移動して前記放出装置に供給され、前記放出装置から前記真空槽内に前記蒸気が放出されるように構成された薄膜形成装置である。
また、本発明は、前記真空槽内には、前記蒸着源が少なくとも二個配置され、二個の前記蒸着源内で生成された蒸気は、同一の前記成膜対象物にそれぞれ到達できるように構成された薄膜形成装置である。
また、本発明は、前記蒸着源内で生成され、前記蒸着源の外部に放出される蒸気の時間当たりの量である蒸気放出速度を測定し、測定した前記蒸気放出速度の値と基準値と比較して、測定した蒸気に対する蒸着源の前記加熱側筒体と前記冷却側筒体に対する前記蒸発材料容器の高さを変更するように構成された薄膜形成装置である。
【発明の効果】
【0009】
有機材料のうち、不要に加熱される部分が無くなるので、有機材料の変質を防止することができ、多量の有機材料を有機材料容器内に配置して長時間蒸気の放出を継続させることができる。
加熱側筒体から加熱される量を一定にすることができるので、蒸気発生速度を一定にすることができる。
蒸発温度に昇温した有機材料は、有機材料容器を下方に移動させて冷却側筒体で囲めば、短時間で冷却することができ、メンテナンス開始までの待ち時間が短くなる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】本発明の第一例の薄膜形成装置
【図2】有機材料を配置した蒸着源を説明するための図
【図3】有機材料が減少した蒸着源を説明するための図
【図4】蒸発材料容器の内側に内筒が設けられた蒸着源を説明するための図
【図5】本発明の第二例の薄膜形成装置
【図6】第二例の薄膜形成装置の蒸着源を説明するための図
【図7】従来の薄膜形成装置
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明の薄膜形成装置を図面を用いて説明する。
図1を参照し、符号1は、本発明の第一例の薄膜形成装置であり真空槽11を有している。
真空槽11の内部には、一又は複数台(ここでは二台)の蒸着源13a、13bが配置されており、真空槽11内の各蒸着源13a、13bの上方位置には、成膜対象物(ここでは表面にトランジスタ等が形成されたガラス基板)が配置されるフォルダ14が一台配置されている。
【0012】
各蒸着源13a、13bは同一種類の部材によって構成されており、共通した部材には同じ符号を付して説明する。図2を参照し、各蒸着源13a、13bは、加熱部21と、冷却部22と、容器部18とを有している。
加熱部21は、無底円筒形状の加熱側筒体23と、加熱側筒体23の外周側面に配置された加熱装置31とを有している。加熱装置31は、抵抗加熱ヒータであり、加熱側筒体23の外周に巻き回されている。
冷却部22は、無底円筒形状の冷却側筒体24と、冷却側筒体24の外周側面に配置された冷却装置32とを有している。冷却装置32は配管であり、内部に冷却媒体が流れると、冷却側筒体24の温度が低下する。
【0013】
真空槽11の外部には、加熱用電源44a、44bが配置されている。加熱装置31は加熱用電源44a又は44bに接続されており、加熱用電源44a、44bを動作させ、加熱用電源44a、44bから加熱装置31に電流を流すと、加熱装置31が発熱し、加熱側筒体23を昇温させる。
【0014】
真空槽11の外部には、循環装置45a、45bが配置されている。循環装置45a、又は45bによって冷却された冷却媒体は、冷却装置32内を流れ、冷却側筒体24を冷却して循環装置45a又は45bに戻る。冷却媒体は、冷却側筒体24の熱が伝導して昇温されており、昇温した冷却媒体は循環装置45a又は45bによって冷却された後、冷却装置32に供給される。
【0015】
加熱側筒体23と冷却側筒体24とは、加熱側筒体23を上方にし、加熱側筒体23と冷却側筒体24とは、中心軸線を一致させて、加熱側筒体23が上、冷却側筒体24が下に配置されている。加熱側筒体23と冷却側筒体24とは、真空槽11に対して静止するように固定されている。
加熱側筒体23と冷却側筒体24の内周面は円筒形であり、同じ有効径で同じピッチの雌ねじ51、52が形成されている。
【0016】
他方、容器部18は、外周面が円筒の蒸発材料容器26と、上部が蒸発材料容器26の鉛直下方を向く外部底面に固定され、鉛直下方に伸ばされたリニアガイド48とを有している。
リニアガイド48には、回転軸42の上端に固定されたリニア軸受け46が取り付けられており、リニアガイド48とリニア軸受け46とは、相対的に滑り移動できるように構成されている。
回転軸42の下部は、真空槽11の外部に気密に導出されており、各蒸着源13a、13b毎に設けられた移動装置41に接続されている。
【0017】
蒸発材料容器26の外周面は円筒形であり、加熱側筒体23と冷却側筒体24の雌ねじ51、52と同じ有効半径で同ピッチの雄ねじ53が形成されており、蒸発材料容器26は、開口27を上方に向け、雌ねじ51、52と雄ねじ53とが噛み合った状態で、上下に配置された加熱側筒体23と冷却側筒体24とで構成される筒体の内部に配置されている。
【0018】
移動装置41は、回転軸42を、その中心軸線を中心にして回転移動させるモータであり、移動装置41によって回転軸42を回転させると、リニア軸受け46とリニアガイド48を介して蒸発材料容器26に回転軸42の回転が伝達され、蒸発材料容器26と回転軸42とは、同一方向、同一角度回転する。
【0019】
その結果、雄ねじ53と雌ねじ51、52との噛み合いにより、回転力が上方又は下方に向く力に変換され、リニアガイド48とリニア軸受け46とは滑りながら、蒸発材料容器26が上方又は下方に移動する。
【0020】
移動装置41は、制御装置36a、36bに接続されており、制御装置36a、36bを動作させて移動装置41を制御すると、回転軸42を、その中心軸線を中心として、所望量、所望方向に回転させることができるので、蒸発材料容器26を、開口27を上方に向けた状態で、加熱側筒体23と冷却側筒体24とで構成される筒体の内部の所望位置に配置することができる。
【0021】
このように、蒸発材料容器26の移動により、加熱側筒体23と冷却側筒体24に対する蒸発材料容器26の高さを変更することができる。
なお、蒸発材料容器26は、その中心軸線が、加熱側筒体23と冷却側筒体24との中心軸線と一致して配置される。
蒸発材料容器26の内部には、粉体状や液体状の有機材料から成る蒸発材料15が配置されている。
【0022】
ここでは、回転しない状態では、蒸発材料容器26には、自重と蒸発材料15の重量によって、下向きの力が働いており、雌ねじ51、52と雄ねじ53とが噛み合った状態では、雄ねじ53のねじ山の下方を向く側面は、加熱側筒体23と冷却側筒体24の雌ねじ51、52のねじ山の上方を向く側面うち、両方の雌ねじ51、52の側面か、加熱側筒体23の雌ねじ51の側面に接触しており、蒸発材料容器26の重さは、加熱側筒体23と冷却側筒体24の両方、又は、加熱側筒体23によって支持され、蒸発材料容器26の開口27から放出された蒸気は、加熱側筒体23と冷却側筒体24の間の隙間から漏出しないようになっている。
【0023】
蒸発材料容器26の位置を、内部の蒸発材料15の上部は加熱側筒体23の内部に位置させ、下部は冷却側筒体24の内部に位置するようにしておき、加熱装置31の発熱によって加熱側筒体23を加熱し、冷却装置32に冷却媒体を流して冷却側筒体24を冷却すると、加熱側筒体23の熱は、加熱側筒体23の雌ねじ51と蒸発材料容器26の雄ねじ53との接触部分を通って蒸発材料容器26の加熱側筒体23内に位置する部分が加熱され、蒸発材料容器26の加熱された部分の内側に配置された部分の蒸発材料15が加熱される。
【0024】
蒸発材料15の昇温によって、冷却側筒体24の内側に配置された部分の蒸発材料15も加熱されるが、その熱は、蒸発材料容器26の雄ねじ53と冷却側筒体24の雌ねじ52との接触部分を通って冷却側筒体24に伝達され、冷却装置32によって冷却される。接触しない部分では、輻射熱によって熱が伝達される。
【0025】
真空槽11には、真空ポンプ39が接続されており、真空槽11内部は真空排気されて真空雰囲気にされている。
蒸発材料容器26内の蒸発材料15のうち、加熱側筒体23の内側に配置された部分が大きく昇温し、真空雰囲気中での蒸発材料15の蒸発温度以上の温度に昇温する。冷却側筒体24の内側に配置された部分は、加熱側筒体23の内側に配置された部分よりも低い温度に冷却されており、蒸発温度未満の温度に維持することもできる。
蒸発材料容器26の内周及び底面の露出面は、蒸発材料15とは反応しない材料で構成されており、蒸発材料15が加熱されても、蒸発材料容器26とは反応しない。
【0026】
この薄膜形成装置1を用いて成膜対象物に有機薄膜を形成する手順について説明する。
各蒸着源13a、13bのうち、一台の蒸着源13aの蒸発材料容器26に、有機薄膜のホストとなる蒸発材料15を配置し、他の一台の蒸着源13bに、有機薄膜のドーパントとなる蒸発材料15を配置し、制御装置36a、36bと移動装置41によって、回転軸42を回転させ、加熱側筒体23と冷却側筒体24とで構成される筒体の中で、蒸発材料容器26を、蒸発材料15の上部の所定量が加熱側筒体23の内側に配置されるようにすると共に、真空ポンプ39によって真空槽11内を真空排気しておく。
【0027】
次に、真空槽11内の真空雰囲気を維持しながら成膜対象物を搬入し、フォルダ14に保持させる。図1の符号17は、その状態の成膜対象物を示している。
次いで、循環装置45a、45bと加熱電源44a、44bとにより、ホストの蒸着源13aに配置された冷却側筒体24と、ドーパントの蒸着源13bに配置された冷却側筒体24とを冷却しながら、ホストの蒸着源13aに配置された加熱側筒体23と、ドーパントの蒸着源13bに配置された加熱側筒体23とを加熱し、ホストの蒸発材料15と、ドーパントの蒸発材料15の下部を冷却しながら上部を加熱してホストとドーパントの蒸気を発生させる。
【0028】
蒸発材料容器26の内部で発生した蒸気は、蒸発材料容器26の開口27と加熱側筒体23の開口28を通って、真空槽11の内部の上方に向けて放出される。
各蒸着源13a、13bと、フォルダ14との間には、シャッター38が設けられており、シャッター38が閉じた状態では、各蒸着源13a、13bから放出された蒸気はシャッター38に衝突して付着し、フォルダ14に保持された成膜対象物17の表面には到達しない。
【0029】
各蒸着源13a、13bの斜め上方には、膜厚センサ37a、37bが、各蒸着源13a、13b毎に配置されている。従って、各膜厚センサ37a、37bは、一個の蒸着源13a、13bが放出する蒸気が到着するようにされており、その蒸気により、膜厚センサ37a、37b表面に薄膜が形成される。
各膜厚センサ37a、37bは、制御装置36a、36bに接続されており、膜厚センサ37a、37bで検出された膜厚のデータは、制御装置36a、36bに出力されている。
【0030】
蒸気の単位時間当たりの放出量を蒸気放出速度と呼ぶと、制御装置36a、36bは、膜厚と、膜厚の成長時間とから、膜厚センサ37a、37b上の薄膜の成長速度や、各蒸着源13a、13bの蒸気放出速度を求めており、ホストの蒸気放出速度と、ドーパントの蒸気放出速度とを、それぞれ基準値と比較し、蒸気放出速度と基準値の間が一定の関係になったとき、例えば、蒸気放出速度が基準値以上の値になったときに、シャッター38を開け、ホストの蒸気とドーパントの蒸気を成膜対象物17の表面に到達させる。
【0031】
成膜対象物17の表面では、到達した蒸気によって有機薄膜の形成が開始される。ドーパントの蒸気放出速度は、ホストの蒸気放出速度よりも小さくなるように温度や蒸発材料容器26内の有機材料の量が設定されており、形成される有機薄膜は主としてホストから成り、ドーパンドが微少量含有された有機薄膜である。
【0032】
成膜対象物17表面で有機薄膜が成長する間も、膜厚センサ37a、37b上でのホストの薄膜とドーパントの薄膜とはそれぞれ成長されており、制御装置36a、36bは、膜厚センサ37a、37b上の成膜速度や各蒸着源13a、13bの蒸気放出速度から、成膜対象物17上の有機薄膜の成長速度を求め、それぞれ基準値と比較しており、
【0033】
蒸気放出速度が基準値よりも小さいため、蒸気放出量を増大させる場合は、制御装置36a、36bは蒸発材料15が配置された蒸発材料容器26を上昇させ、加熱側筒体23で囲まれて、加熱される部分の有機材料の量を増加させて蒸気放出速度を増大させる。
【0034】
逆に、蒸気放出速度が基準値よりも大きすぎる場合は、蒸発材料容器26を降下させ、加熱側筒体23で囲まれて、加熱される部分の蒸発材料15の量を減少させて、蒸気放出速度を遅くする。
【0035】
蒸発材料容器26内の有機材料は、蒸発時間に従って減少し、その上端の位置は下降するから、蒸発材料容器26の高さが一定であれば、蒸発材料15のうち、加熱側筒体23の内側に配置された部分の量は減少し、蒸気放出速度が小さくなるから、蒸気放出速度を一定値に維持するためには、蒸発時間の経過に従って、蒸発材料容器26は上昇される。
【0036】
一定の成長速度で有機薄膜を成膜対象物17の表面に成長させ、所定膜厚の有機薄膜が形成された後、シャッター38を閉じ、有機薄膜を形成された成膜対象物17を真空槽11の外部に搬出し、未成膜の成膜対象物17を真空槽11の内部に搬入し、フォルダ14に保持させた後、シャッター38を開け、有機薄膜の形成を開始する。このようにして、複数枚数の成膜対象物の表面に有機薄膜を形成する。
【0037】
所定枚数の成膜対象物への薄膜形成の途中に、有機薄膜の形成を一旦中止する場合は蒸発材料容器26を降下させ、蒸発材料容器26中の蒸発材料15のうち、加熱側筒体23の内部に位置する部分を減少させる。
【0038】
ここでは、全部を冷却側筒体24の内部に位置させ、蒸発材料15の温度を低下させる。有機材料の全部が蒸発温度よりも低い温度になると、蒸発が停止する。
このとき、加熱装置31は通電して発熱させておき、加熱側筒体23を加熱しておくこともできる。加熱しておくと、有機薄膜の形成を再開する際に、蒸発材料容器26を上昇させて蒸発材料15の上部の部分を加熱側筒体23の内部に配置すると、蒸発材料15は直ぐに昇温し、蒸発温度以上の温度になって蒸発を開始する。
【0039】
なお、上記第一例の薄膜形成装置1の蒸発材料容器26は、蒸発材料15とは反応しない材料(例えば炭素材料やセラミックス材料)で構成したが、金属材料で形成した容器本体の内周面に蒸発材料15とは反応しない材料の薄膜を形成し、その薄膜が内周面に露出するようにしてもよい。
【0040】
また、図4に示すように、蒸発材料容器26を金属で形成し、その内側に、外周壁面が蒸発材料容器26の内周面と密着し、内周面が蒸発材料15と反応しない材料で構成された有底の内筒29を設け、内筒29内に蒸発材料15を配置するようにしてもよい。
【0041】
蒸発材料容器26が上方に移動しても、蒸発材料容器26の上端である開口27が、加熱側筒体23の開口28よりも高くならないようにしておき、図6に示す蒸着源13c又は13dのように、加熱側筒体23の開口28に蓋部61を設けて蒸発材料容器26と加熱側筒体23と蓋部61との間の蒸気空間60を密閉し、蓋部61に供給口62を設け、供給口62に供給管63c又は63dを接続し、蒸気空間60に充満する蒸気が、供給管63c、63dを通って、蒸着源13c、13dの外部に導出されるようにしてもよい。
【0042】
この場合、図5に示す第二例の薄膜形成装置2のように、真空槽12の内部であって、真空槽12内に配置されたフォルダ14に対面する位置に放出装置66を設けておき、真空槽12内の別の位置に、ホストの蒸発材料15が配置された蒸着源13cとドーパントの蒸発材料15が配置された蒸着源13dとを設け、真空ポンプ39によって真空槽12内を真空排気した後、蒸着源13c、13d内で蒸気を発生させ、供給管63c、63dによって、それぞれ別々に放出装置66内に蒸気を導入させ、放出装置66に形成された一乃至複数個の放出口67から真空槽12内にホストの蒸気とドーパントの蒸気が混合された蒸気を放出させ、フォルダ14に配置された成膜対象物17に到達させて、成膜対象物17の表面に有機薄膜を形成することができる。
【0043】
図5、6中、符号44、44c、44dは、加熱装置31に通電する加熱用電源であり、符号45、45c、45dは、冷却装置32に冷却した冷却媒体を供給する循環装置である。
本例では、供給管63c、63dには、供給口62と放出装置66に接続された部分との間の位置に、サンプル口65c、65dが設けられており、膜厚センサ37c、37dが、サンプル口65c、65dと対向して配置されている。
【0044】
供給管63c、63d内を蒸気が流れると、サンプル口65c、65dから、供給管63c、63d内を流れる蒸気の一部が真空槽12内の膜厚センサ37c、37dに向かって放出され、膜厚センサ37c、37dの表面に到達して有機薄膜を形成する。
【0045】
サンプル口65c、65dから放出される単位時間当たりの蒸気量である蒸気放出速度は、本例でも、第一例と同じように、膜厚センサ37c、37dが検出した有機薄膜の膜厚と成膜時間から、制御装置36c、36dが求めており、その蒸気放出速度に基づいて、蒸発材料容器26を上下に移動させ、成膜対象物17表面の有機薄膜の成長速度を一定にすることができる。
【0046】
なお、図5、6に示した第二例の薄膜形成装置2では、蒸発材料容器26の開口27を上方に向け、蒸発材料15が開口27から落下しないようにして蒸気を放出し、成膜対象物17の鉛直下方を向けられた表面に有機薄膜を成長させていたが、放出口67を放出装置66の側面に配置し、成膜対象物17を鉛直にして放出口67と対面させ、放出口67から真空槽12内の水平方向に蒸気を放出して成膜対象物17表面に到達させて有機薄膜を成長させるようにしてもよい。
【0047】
第一、第二例の薄膜形成装置1、2では、成膜対象物17上での有機薄膜の成長速度を制御するために、蒸発材料容器26の高さを制御したが、蒸発材料容器26の高さを制御すると共に、加熱装置31への通電量を、蒸気放出速度が大きすぎるときは低下させ、少なすぎるときは増加させて、蒸気放出速度が一定値になるようにしてもよい。
【0048】
上記例では、蒸発材料容器26の雄ねじ53のねじ山の下方を向く側面が、加熱側筒体23と冷却側筒体24の雌ねじ51、52のねじ山の上方を向く側面に接触していたが、回転軸42を上方に押圧して蒸発材料容器26に下方から上方に向かう力を印加し、雄ねじ53のねじ山の上方を向く側面を、加熱側筒体23と冷却側筒体24の雌ねじ51、52のねじ山の下方を向く側面に接触するようにしても、接触によって熱が導伝し、非接触に比べて熱導伝率が高くなる。
【0049】
なお、上記蒸発材料15は、有機化合物であったが、無機材料を蒸発材料として蒸発材料容器26の内部に配置して、無機薄膜を形成することもでき、無機蒸発材料の残留ガスとの反応・変質を防止することができる。
【符号の説明】
【0050】
1、2……薄膜形成装置
11、12……真空槽
13a〜13d……蒸着源
17……成膜対象物
18……容器部
21……加熱部
22……冷却部
23……加熱側筒体
24……冷却側筒体
26……蒸発材料容器
31……加熱装置
32……冷却装置
37a〜37d……膜厚センサ
39……真空ポンプ
41……移動装置
51、52……雌ねじ
53……雄ねじ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
真空槽と、
前記真空槽内に配置された蒸着源と、
前記真空槽内を真空排気する真空ポンプとを有し、
前記真空ポンプによって前記真空槽内を真空雰囲気にした状態で、前記蒸着源内に配置された蒸発材料を加熱して、前記蒸着源内で前記蒸発材料の蒸気を生成し、
前記真空槽内に配置された成膜対象物の表面に前記蒸気を到達させ、前記成膜対象物の表面に薄膜を形成する薄膜形成装置であって、
前記蒸着源は、前記蒸発材料が配置される蒸発材料容器と、
前記蒸発材料容器を加熱する加熱部と、
前記蒸発材料容器を冷却する冷却部とを有し、
前記加熱部は、筒形状である加熱側筒体と、前記加熱側筒体を加熱する加熱装置とを有し、
前記冷却部は、筒形状である冷却側筒体と、前記冷却側筒体を冷却する冷却装置とを有し、
前記加熱側筒体は前記冷却側筒体の上方に配置され、前記蒸発材料容器は、上部が前記加熱側筒体の内周面に接触して前記加熱側筒体の内側に位置し、下部が前記冷却側筒体の内周面に接触して前記冷却側筒体の内側に位置した状態にできるように構成され、
前記蒸発材料容器を、前記加熱側筒体と前記冷却側筒体に対して、上下移動させる移動装置が設けられ、前記加熱側筒体と前記冷却側筒体に対する前記蒸発材料容器の高さを変更できるように構成された薄膜形成装置。
【請求項2】
前記加熱側筒体の内周面と、前記冷却側筒体の内周面と、前記蒸発材料容器の外周面は、それぞれ円筒形形状に形成され、
前記加熱側筒体の内周面と、前記冷却側筒体の内周面とには、雌ねじがそれぞれ設けられ、
前記蒸発材料容器の外周面には雄ねじが設けられ、
前記雌ねじと前記雄ねじは噛み合わされ、前記蒸発材料容器が前記加熱側筒体と前記冷却側筒体に対して回転すると、前記蒸発材料容器は、前記加熱側筒体と前記冷却側筒体に対して上下移動されるように構成された請求項1記載の薄膜形成装置。
【請求項3】
前記蒸気は、前記蒸発材料容器の開口から前記真空槽内に放出されるように構成された請求項1又は請求項2のいずれか1項記載の薄膜形成装置。
【請求項4】
前記真空槽内には、前記蒸着源が少なくとも二個配置され、二個の前記蒸着源から前記真空槽内に前記蒸気がそれぞれ放出され、同一の前記成膜対象物に蒸気がそれぞれ到達できるように構成された請求項3記載の薄膜形成装置。
【請求項5】
前記真空槽内には放出装置が設けられ、前記蒸着源内で生成された前記蒸気は供給管内を移動して前記放出装置に供給され、
前記放出装置から前記真空槽内に前記蒸気が放出されるように構成された請求項1又は請求項2のいずれか1項記載の薄膜形成装置。
【請求項6】
前記真空槽内には、前記蒸着源が少なくとも二個配置され、二個の前記蒸着源内で生成された蒸気は、同一の前記成膜対象物にそれぞれ到達できるように構成された請求項5記載の薄膜形成装置。
【請求項7】
前記蒸着源内で生成され、前記蒸着源の外部に放出される蒸気の時間当たりの量である蒸気放出速度を測定し、
測定した前記蒸気放出速度の値と基準値と比較して、測定した蒸気に対する蒸着源の前記加熱側筒体と前記冷却側筒体に対する前記蒸発材料容器の高さを変更するように構成された請求項1乃至請求項6のいずれか1項記載の薄膜形成装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate


【公開番号】特開2012−107287(P2012−107287A)
【公開日】平成24年6月7日(2012.6.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−256448(P2010−256448)
【出願日】平成22年11月17日(2010.11.17)
【出願人】(000231464)株式会社アルバック (1,740)
【Fターム(参考)】