説明

薄膜積層体の検査方法

【課題】所望の位置における断面をより容易かつ確実に取得可能な薄膜積層体の検査方法を提供すること。
【解決手段】基板本体2上に形成された線状パターン15と、基板本体2上に線状パターン15と線状パターン15上で交差するように形成された第1電極層16とを有する第1TFD素子18の検査方法において、基板本体2を、線状パターン15の一端辺15cと第1電極層16の一端辺16aとの第1交点P1と平面視で重なる箇所を支点として応力をかけて、第1TFD素子18のうち少なくとも平面視で線状パターン15及び第1電極層16と重なる領域を、第1電極層16の一端辺16aに沿って割断する割断工程を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えばSEM(Scanning Electron Microscope:走査型電子顕微鏡)などを用いた薄膜積層体の検査方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、基板本体上に積層されたパターンを有する薄膜積層体の断面形状をSEMなどで観察することにより、薄膜積層体の検査を行うことがある。ここで、薄膜積層体の断面形状を取得するための方法として、基板本体の裏面に直線状の傷を付け、この傷を起点として基板を分割することで薄膜積層体の断面形状を得る方法がある(例えば、特許文献1参照)。
このような薄膜積層体において、基板本体上に第1パターンと第1パターン上で交差する第2パターンとを形成してTFD(Thin Film Diode:薄膜ダイオード)を構成したものがある。そして、この薄膜積層体を第2パターンの一端辺に沿って分割して断面を形成し、第1及び第2パターンの層構造を観察することで、TFDの検査を行うことがある。
【特許文献1】特開平6−307998号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかしながら、上記従来の薄膜積層体の検査方法には、以下の課題が残されている。すなわち、上述した第1及び第2パターンを有する積層構造体を検査する場合には、基板本体の裏面に付けた傷を起点として薄膜積層体の分割を行うが、より確実に所望の位置で積層構造体を分割し、層構造を観察して検査することが望まれている。ここで、FIB(Focused Ion Beam:収束イオンビーム)などを用いて薄膜積層体に溝を形成することによって断面を得る方法があるが、溝の形成に時間がかかるという問題がある。
【0004】
本発明は、上記従来の問題に鑑みてなされたもので、所望の位置における断面をより容易かつ確実に取得可能な薄膜積層体の検査方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は、前記課題を解決するために以下の構成を採用した。すなわち、本発明にかかる薄膜積層体の検査方法は、基板本体上に薄膜をパターニングして形成された第1パターンと、前記基板本体上に前記第1パターンと該第1パターン上で交差するように薄膜をパターニングして形成された第2パターンとを有する薄膜積層体の検査方法において、前記基板本体を、前記第1パターンの一端辺と前記第2パターンの一端辺との交点と平面視で重なる箇所を支点として前記基板本体に応力をかけて、前記薄膜積層体のうち少なくとも平面視で前記第1及び第2パターンと重なる領域を、該第2パターンの前記一端辺に沿って割断する割断工程を備えることを特徴とする。
【0006】
この発明では、交点(第1交点)を支点として基板本体に応力をかけることで、その応力が第1交点と、第1パターンの他の一端辺と第2パターンの一端辺との交点(第2交点)とに集中する。これにより、薄膜積層体のうち平面視で第1及び第2パターンと重なる領域を第2パターンの一端辺に沿って割断することができる。
すなわち、基板本体にかけた応力は、第1及び第2交点に集中する。このため、薄膜積層体のうち平面視で第1及び第2パターンと重なる領域は、第2パターンの一端辺を支点として反ることになる。これにより、薄膜積層体が平面視で第1及び第2パターンと重なる領域における第2パターンの一端辺に沿って割断され、一端辺に沿った断面形状を取得できる。
したがって、薄膜積層体の第1及び第2パターンの断面形状をより容易に取得でき、第1及び第2パターンの観察、検査の短時間化が図れる。
【0007】
また、本発明にかかる薄膜積層体の検査方法は、前記割断工程で、平面視で前記交点と重なる点を通る直線と前記基板本体の側縁とが交差する位置に切欠を形成した後に、前記基板本体に応力をかけることが好ましい。
この発明では、切欠を起点として基板本体を割断することで、薄膜積層体を容易に割断できる。
【0008】
また、本発明にかかる薄膜積層体の検査方法は、前記基板本体の裏面であって前記交点と平面視で重なる点を通る直線を支点として、前記基板本体に応力をかけることが好ましい。
この発明では、直線を支点として基板本体に応力をかけることで、より確実に第1交点に応力を集中させると共に第2交点にも応力を集中させ、薄膜積層体をより確実に第2パターンの一端辺に沿って割断できる。
【0009】
また、本発明にかかる薄膜積層体の検査方法は、平面視で前記直線と前記第2パターンの前記一端辺とのなす角が、−20°以上+20°以下であることが好ましい。
この発明では、直線と第2パターンの一端辺とのなす角を−20°以上+20°以下することで、より確実に薄膜積層体を第2パターンの一端辺に沿って割断できる。
ここで、直線と第2パターンの一端辺とのなす角度は、−5°以上+5°以下であることがより好ましい。これにより、薄膜積層体のうち平面視で第1及び第2パターンと重なる領域における割断位置を、より確実に第2パターンの一端辺に沿わせることができる。
【0010】
また、本発明にかかる薄膜積層体の検査方法は、前記第1パターンが、第1導体層と、該第1導体層の上面に形成された第1絶縁層とを有し、前記第2パターンが、第2導体層を有すると共に、前記薄膜積層体が、薄膜ダイオードを構成することとしてもよい。
また、本発明にかかる薄膜積層体の検査方法は、前記第1導体層がタンタルで構成されると共に前記第1絶縁層が酸化タンタルで構成され、前記第2導体層がクロムで構成されていることとしてもよい。
この発明では、薄膜積層体の断面を取得して第1及び第2導体層や第1絶縁層の層厚、形状を観察することで、薄膜ダイオードの検査、評価を行う。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下、本発明による薄膜積層体の検査方法の一実施形態を図面に基づいて説明する。ここで、図1は基板の平面図、図2(a)は図1のA−A’矢視断面図(b)、図2(b)はB−B’矢視断面図を示している。なお、以下の説明ではこれらの図面を用いて各種の構造を例示するが、各図面に示される構造は特徴的な部分をわかりやすく示すために実際の構造に対して寸法を異ならせて示す場合がある。
【0012】
本実施形態では、薄膜積層体は、例えば液晶パネルに用いられるTFDアレイ基板の中間体である基板1の構成要素であるTFD素子であって、このTFD素子の断面形状の検査を行う。
基板1は、図1及び図2(a)、(b)に示すように、基板本体2と、基板本体2の上面に形成された信号線3、TFD素子部4及び画素電極5とを備えている。
基板本体2は、例えばガラスによって構成されており、上面に酸化タンタル(Ta)で構成された絶縁層11が形成されている。この絶縁層11は、高周波スパッタリング法などによって形成されている。なお、基板本体2の上面に絶縁層11を形成しなくてもよい。
【0013】
信号線3は、互いが平行に並び、全体としてストライプ状となるように複数形成されている。そして、信号線3は、基板本体2の上面の絶縁層11上に形成された線状パターン12上に設けられており、例えばクロム(Cr)などの導電材料によって構成されている。ここで、線状パターン12は、タンタル(Ta)によって構成された導体層12aと、導体層12aの上面を陽極酸化することによって形成されて酸化タンタル(Ta)で構成された絶縁層12bを備えている。
【0014】
TFD素子部4は、各信号線3に沿って形成された非線形抵抗素子であってスイッチング素子として機能し、一方が信号線3に接続されると共に、他方が画素電極5のそれぞれに接続されている。そして、TFD素子部4は、基板本体2の上面の絶縁層11上に形成された線状パターン(第1パターン)15と、線状パターン15と交差するように線状パターン15上にそれぞれ積層して形成された第1電極層(第2パターン、第2導体層)16及び第2電極層17とを備えている。
なお、上述したように、信号線3の下層には、導体層12a及び絶縁層12bが形成されている。これは、そもそも導体層15aが導体層12aから分岐して形成されたものであって、絶縁層12b、15bが同一プロセスにおける陽極酸化により形成された後、線状パターン15が島状に切り離されたものであるからである。
【0015】
線状パターン15は、導体層(第1導体層)15aと導体層15aの上面に形成された絶縁層(第1絶縁層)15bとを備えている。この導体層15aは、例えばタンタルで構成されており、絶縁層11上に島状に形成されている。また、絶縁層15bは、導体層15aの上面を陽極酸化することによって形成されており、酸化タンタルで構成されている。
【0016】
第1及び第2電極層16、17は、信号線3と同様に、それぞれクロムなどの同一の導電材料をパターニングしたものである。そして、第1電極層16は信号線3から分岐するように形成されており、第2電極層17は画素電極5に接続されている。
この線状パターン15及び第1電極層16によって第1TFD素子(薄膜積層体)18が構成され、線状パターン15及び第2電極層17によって第2TFD素子19が構成されている。すなわち、TFD素子部4は、信号線3と画素電極5との間を第1及び第2TFD素子18、19を直列接続した構成となっている。
【0017】
ここで、第1TFD素子18は、信号線3側から見ると順番に、第1電極層16/絶縁層15b/導体層15aとなっており、金属/絶縁体/金属の層構造であるため、その電流−電圧特性が正負双方向にわたって非線形となる。一方、第2TFD素子19は、信号線3側から見ると、導体層15a/絶縁層15b/第2電極層17となっており、第1TFD素子18とは逆向きの層構造である。このため、第2TFD素子19の電流−電圧特性が第1TFD素子18の電流−電圧特性を原点を中心として点対称化したものとなる。したがって、TFD素子部4は、2つの素子を互いに逆向きに直列接続した形となるため、1つの素子を用いる場合と比較して、電流−電圧の非線形特性が正負双方向にわたって対称化されることとなる。
【0018】
画素電極5は、ITO(Indium Tin Oxide:酸化インジウムスズ)などの透明導電材料で構成されてX方向及びY方向に並べられており、全体としてドットマトリックス状に配列されている。また、画素電極5の一部は第2電極層17上に積層されており、画素電極5と第2電極層17との導通を確保している。
【0019】
次に、このような構成の第1TFD素子18の検査方法について説明する。本実施形態では、SEMを用いて第1TFD素子18を構成する線状パターン15及び第1電極層16の層構造を観察することで、第1TFD素子18の検査を行う。
まず、基板1を割断して第1TFD素子18の断面を形成する割断工程を行う。これは、図3(a)、(b)に示すように、適宜の矩形状に切り出した基板1の一対の側縁に、それぞれ切欠1aを形成する。ここで、各切欠1aは、両切欠1aを結ぶ直線が複数設けられた第1TFD素子18の内の1つを構成する第1電極層16の幅方向の−X側の端辺(一端辺)16aと線状パターン15の幅方向の−Y側の端辺(一端辺)15cとの交点である第1交点(交点)P1を交差するように形成されている。また、両切欠1aを接続する直線Lと第1TFD素子18を構成する第1電極層16の端辺16aとのなす角度θは、−5°以上+5°以下となっている。
【0020】
そして、基板1の裏面に、例えばガラスなどの硬質の割断案内板Bを配置する。ここで、割断案内板Bは、ほぼ矩形状を有しており、その一端辺Baが直線Lと平面視で一致するように配置されている。
その後、基板1の上面側から割断案内板Bの一端辺Baを支点として応力をかけ、基板1を反らせる。
【0021】
このとき、上述した第1交点P1と、第1電極層16の端辺16aと線状パターン15の幅方向の+Y側の端辺(他の一端辺)15dとの交点である第2交点P2とに応力が集中する。このため、基板1のうち平面視で線状パターン15及び第1電極層16と重なる領域において、基板1が第1電極層16の端辺16aを支点として反る。このように、第1及び第2交点P1、P2に応力が集中することで、基板1は、線状パターン15及び第1電極層16と重なる領域において確実に第1及び第2交点P1、P2を結ぶ線である第1電極層16の端辺16aで割断される。この割断工程で形成される第1TFD素子部4の断面形状は、例えば図4に示すようになる。
なお、割断工程による基板1の割断位置は、基板1のうち線状パターン15及び第1電極層16と重なる領域において第1及び第2交点P1、P2を結ぶように割断されればよく、他の領域における割断位置は第1及び第2交点P1、P2を結ぶ直線に限らない。
【0022】
次に、このようにして割断された基板1をSEMで観察する観察工程を行う。これは、割断された基板1をSEM内に配置し、基板1に電子ビームを照射する。そして、基板1は、電子が照射されると、その照射面の形状に応じた量の二次電子を放出する。その後、放出された二次電子の量から照射面の形状を算出し、基板1の断面形状を画像としてSEMに設けられたモニタ(図示略)に表示する。このときに得られる観察像は、例えば図5に示すようになる。
その後、SEMによる観察像から第1TFD素子18の層構造を確認し、第1電極層16や導体層15a、絶縁層15bの層厚や導体層15aの傾斜角などを求める。以上のようにして、第1TFD素子18の検査を行う。
【0023】
このように、本実施形態における第1TFD素子18の検査方法によれば、応力が第1及び第2交点P1、P2に集中するので、基板1のうち平面視で線状パターン15及び第1電極層16と重なる領域を第1電極層16の端辺16aに沿って割断できる。これにより、第1TFD素子18の断面形状を容易に取得でき、第1TFD素子18の層構造の検査の短時間化が図れる。
ここで、切欠1aを形成することで、容易に基板1を割断できる。また、直線と第1電極層16の端辺16aとのなす角度を−5°以上+5°以下とすることで、第1TFD素子18をより確実に第1電極層16の端辺16aに沿って割断できる。
【0024】
なお、本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲において種々の変更を加えることが可能である。
例えば、上記実施形態では、電子顕微鏡としてSEMを用いたが、SEMに限らず、TEM(Transmission Electron Microscope:透過型電子顕微鏡)などの他の電子顕微鏡や光学顕微鏡などであってもよい。
また、割断工程において、第1電極層の一方の端辺に沿うように第1TFD素子を割断しているが、第2電極層の一方の端辺に沿うように第2TFD素子を割断してもよい。
また、割断工程において、基板の両側縁に切欠を形成しているが、一方の側縁にのみ切欠を形成してもよく、第1TFD素子のうち平面視で線状パターン及び第1電極層と重なる領域における割断位置を確実に第1電極層の一方の端辺に沿わせることができれば、切欠を形成しなくてもよい。
また、割断工程において、切欠を結ぶ直線と第1電極層の一方の端辺とのなす角度を−5°以上+5°以下としているが、−20°以上+20°以下であればよく、第1TFD素子のうち平面視で線状パターン及び第1電極層と重なる領域を第1電極層の一方の端辺に沿って割断できれば、この範囲に限られない。
また、薄膜積層体は、基板本体の上面に形成された第1パターンとこの第1パターンと交差するように形成された第2パターンとを有する構造であれば、TFD素子に限られず、TFT(Thin Film Transistors:薄膜トランジスタ)など他の素子などであってもよい。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】本発明の一実施形態における基板を示す平面図である。
【図2】(a)は図1のA−A’矢視断面図、(b)はB−B’矢視断面図である。
【図3】割断工程時の基板を示す、(a)は平面図、(b)は拡大図である。
【図4】割断工程で得られた第1TFD素子の断面形状である。
【図5】一実施形態の検査方法における第1TFD素子の断面の観察像である。
【符号の説明】
【0026】
1a 切欠、2 基板本体、15 線状パターン(第1パターン)、15a 導体層(第1導体層)、15b 絶縁層(第1絶縁層)、15c 一端辺、15d 他の一端辺、16 第1電極層(第2パターン、第2導体層)、16a 一端辺、18 第1TFD素子(薄膜積層体)、L 直線、P1 第1交点(交点)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板本体上に薄膜をパターニングして形成された第1パターンと、前記基板本体上に前記第1パターンと該第1パターン上で交差するように薄膜をパターニングして形成された第2パターンとを有する薄膜積層体の検査方法において、
前記基板本体を、前記第1パターンの一端辺と前記第2パターンの一端辺との交点と平面視で重なる箇所を支点として前記基板本体に応力をかけて、
前記薄膜積層体のうち少なくとも平面視で前記第1及び第2パターンと重なる領域を、該第2パターンの前記一端辺に沿って割断する割断工程を備えることを特徴とする薄膜積層体の検査方法。
【請求項2】
前記割断工程で、平面視で前記交点と重なる点を通る直線と前記基板本体の側縁とが交差する位置に切欠を形成した後に、前記基板本体に応力をかけることを特徴とする請求項1に記載の薄膜積層体の検査方法。
【請求項3】
前記基板本体の裏面であって前記交点と平面視で重なる点を通る直線を支点として、前記基板本体に応力をかけることを特徴とする請求項1または2に記載の薄膜積層体の検査方法。
【請求項4】
平面視で前記直線と前記第2パターンの前記一端辺とのなす角が、−20°以上+20°以下であることを特徴とする請求項2または3に記載の薄膜積層体の検査方法。
【請求項5】
前記第1パターンが、第1導体層と、該第1導体層の上面に形成された第1絶縁層とを有し、
前記第2パターンが、第2導体層を有すると共に、
前記薄膜積層体が、薄膜ダイオードを構成することを特徴とする請求項1から4のいずれか1項に記載の薄膜積層体の検査方法。
【請求項6】
前記第1導体層がタンタルで構成されると共に前記第1絶縁層が酸化タンタルで構成され、
前記第2導体層がクロムで構成されていることを特徴とする請求項5に記載の薄膜積層体の検査方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2007−225540(P2007−225540A)
【公開日】平成19年9月6日(2007.9.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−49634(P2006−49634)
【出願日】平成18年2月27日(2006.2.27)
【出願人】(304053854)エプソンイメージングデバイス株式会社 (2,386)
【Fターム(参考)】