説明

薬剤として有用なポリ硫酸カルボキシエチル化シクロデキストリン

本発明は、グルコピラノース単位あたり1〜3個の2−カルボキシエチル置換基、および少なくとも2個の硫酸基を含んでなる新規ポリ硫酸β−シクロデキストリン化合物に関し、この化合物は変形性疾患、変形性関節症、関節リウマチ、関節症または変形性関節炎の処置および/または予防のための、またはヘパリン誘導型の血小板減少症の処置のための、または軟骨修復もしくは結合組織修復のための有効成分として有用である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
発明の分野
本発明は、ポリ硫酸カルボキシアルキル化β−シクロデキストリンおよびその塩、それらの調製法、これら化合物の治療に有効な量を含んでなる製薬学的組成物、および変形性関節疾患(degenerative joint disease)、特に変形性関節症(osteoarthritis)の処置および/または予防に、またはヘパリン誘導型の血小板減少症の処置に、または軟骨修復もしくは結合組織修復の方法において、有効成分として単独で、または他の治療薬と組み合わせたそのようなカルボキシアルキル化β−シクロデキストリン化合物の使用に関する。
【背景技術】
【0002】
発明の背景
シクロデキストリンは、1−4グリコシド結合を介して連結された5以上のD−グルコピラノシド単位を含有する環式オリゴ糖および多糖のファミリーを構成する。最も典型的なシクロデキストリンは、環中に6〜8個のグルコピラノシド単位を含有し、円錐形を形成する。このファミリーでは、β−シクロデキストリンは環中に7個のグルコピラノシド単位を有する。古典的な硫酸化法では、グルコピラノシド単位の1、2または3個のヒドロキシル基の硫酸化を生じる。当該技術分野ではポリ硫酸化シクロデキストリンの幾つかの医学的使用がすでに知られている。例えば特許文献1では、関節症に罹患したヒトを、ポリ硫酸化シクロデキストリンまたはその付加塩から本質的になる組成物を、1もしくは複数の非毒性の製薬学的に許容され得る賦形剤と組み合わせて投与することによる処置を教示し、好ましくはそのような処置の投薬用量は、1日あたり50mg〜1,500mgの範囲である。非特許文献1によれば、実験的変形性関節症(OA)のウサギモデルを対象として皮下投与されたポリ硫酸β−シクロデキストリン(CDPS)は、罹患した関節の軟骨損傷および骨細胞形成を減少した。これらのデータはCDPSがOAに潜在する組織的病状に良い影響を及ぼし、したがってこの薬剤が構造または疾患緩和(modifying)OA薬に分類できることを示唆している。
【0003】
軟骨保護能(chondroprotective capacity)とは別に、CDPSの他の特徴が文献に記載されている。ポリ硫酸化シクロデキストリンは、分子構造の類似性により説明することができるヘパリンの生物活性に似た重要な生物活性を保有することが示された。繊維芽細胞増殖因子に対する強力な結合親和性、抗血管新生活性およびHIVレトロウイルスによる細胞侵襲を抑制する能力とは別に、両多糖は抗凝固性を保有し、そしてCDPSはヘパリン誘導型の血小板減少症を誘発する恐れがある。
【0004】
CDPSと凝固に関するインビトロ実験では、トロンビン凝固時間の延長および血栓形成の減少が示される。そのような生物学的活性は明らかに多糖の分子構造に関連し、そして別個の修飾後に変動することが示された。例えば別個のアルキル基の導入では、インビトロで活性化された部分トロンボプラスチン時間(aPTT)を延長せず、CDPSに比べて低下した抗凝固活性を示唆している。
【0005】
次にヘパリン/血小板第IV因子抗体との交差反応を介して、ヘパリン誘導型の血小板減少症(今後HITと呼ぶ)および血栓塞栓的事故を誘導する可能性が重要である。これらの抗体は、ヘパリンの処置中に活性化された血小板が血小板第IV因子(PF4)を放出する場合に時折生じる可能性がある。次いでヘパリンは、自己抗体の生産を誘発する抗原として作用するPF4と複合体を形成する。これら抗体はそれらのF(ab)’領域を介して複合体に結合し、そしてFc部分を介して他の血小板のFcγRII(IgG C
D32)に結合し、これにより血小板の活性化、凝固および血小板由来マイクロパーティクルの生産を開始する。これらの前−凝固粒子が、HITの血栓性合併症を誘導すると思われる。数種の低分子量ヘパリンならびに他の硫酸化多糖、例えばポリ硫酸コンドロイチンもPF4の存在下でHIT抗体に結合することができ、そしてその反応性はそれらの分子量および硫酸化度に依存することが示された。患者のある集団のみがヘパリン治療後に血小板活性化特性をもつ抗体を生産する。これらの幾人かは血小板減少症を発症し、そしてさらに少数の患者が血栓症を発症するだろう。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】米国特許第6,930,098号明細書
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】Osteoarthritis and Cartilage(2008)16:986−993
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
このようにここで特許請求する本発明が取り組むべき課題の1つは、保存された軟骨保護能力、凝固に対して低減した効果を有し、そしてヘパリン誘導型の血小板減少症に関して危険性が低下した新規治療薬を提供することである。
【0009】
ここで特許請求する本発明が取り組むべき課題の1つは、HIT症候群に罹患した個体の血小板凝固および血管血栓症を防止するために適する新規治療薬を提供することである。
【0010】
本発明により取り組むべき別の課題は、抗凝固活性を誘導せずにHIT症候群を処置するために使用できる新規治療薬を提供することである。
【0011】
さらにここで特許請求する本発明が取り組むべき別の課題は、ヘパリン−および血小板第IV因子−複合体反応性抗体の存在下で、血小板の活性化または血栓症を誘導せずにHIT症候群を処置するために使用できる新規治療薬を提供することである。
【0012】
ここで特許請求する本発明が取り組むべき別の課題は、変形性関節疾患、例えば変形性関節症、関節リウマチ、関節症または変形性関節炎(degenerative arthritis)の処置および/または予防に、または軟骨修復もしくは結合組織修復に使用できる新規治療薬を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
発明の要約
予期せずに、ポリ硫酸2−カルボキシエチル−β−シクロデキストリン誘導体(CE−CDPS)、およびそれらの塩、およびそれらの類似体(特にカルボキシメチル、カルボキシプロピルおよびカルボキシブチル類似体)は、有意に血小板を活性化せず、したがってインビボでヘパリンが関与する血栓−塞栓的事故を誘導する可能性が最小であることが分かった。CE−CDPSをマウスを対象としてコラゲナーゼが誘導する膝の変形性関節症について試験した場合、この化合物はマウスの変形性関節症の膝関節の軟骨プロテオグリカンの消耗を防止すると同時に、ヘパリン誘導型の血小板減少症のような悪い副作用を示さなかった。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】図1Aは、ポリ硫酸β−シクロデキストリン誘導体で処置した変形性関節症の軟骨細胞によるアグレカン生産における変化のパーセントを表す。点は1名の患者の3連のカルチャーの平均値を表す。棒は全体の平均を表す。図1Bは、ポリ硫酸β−シクロデキストリン誘導体で処置したOA軟骨細胞によるIL−6放出における変化のパーセントを表す。点は1名の患者の3連のカルチャーの平均値を表す。棒は全体の平均を表す。
【図2】血漿凝固活性の変数に及ぼすポリ硫酸β−シクロデキストリン誘導体の影響を表す。縦座標:aPTT(秒)、PT(秒)、フィブリノーゲン(mg/ml);横座標:硫酸化シクロデキストリン(μg/ml)。
【図3】ヘパリンでのHIT ab陽性血漿による血小板のインビトロ活性化を表す。A.側方散乱でゲートした血小板(SSlog)およびCD41活性。HIT ab陽性血漿の不存在(B)または存在(C)下でヘパリン添加後にCD62pを用いて染まる細胞のパーセント。陽性についてのインターフェイスチャンネルは、対照蛍光の2%未満が陽性である点に設定した。
【図4】変形性関節症の関節の組織学に及ぼすCE−CDPSの効果を表す。炎症(infl)、線維症(fibr)、骨棘(ophy)およびプロテオグリカンの消耗(pgly)を健康な対照関節、塩水処置OA関節よびCE−CDPS処置OA関節について採点した。左縦座標:infl、fibrおよびophyに関する組織学的スコア。右縦座標:pglyに関するスコア。平均(棒)±1 SEMを示す
【発明を実施するための形態】
【0015】
発明の詳細な説明
このように第一の観点では、本発明は構造式(I)
【0016】
【化1】

【0017】
[式中、各Rは独立して−CH−CH−COOHまたは−CH−COOHまたは−CH−CH(CH)−COOHまたは−CH−CH(C)−COOHまた
は−SOHまたはHのいずれかとなるように選択されるが、ただし
−1から3個のRが−CH−CH−COOHを表すか、あるいは1から4個のRが−CH−COOHまたは−CH−CH(CH)−COOHまたは−CH−CH(C)−COOを表し、そして
−グルコピラノ−ス単位あたり少なくとも2個のRが−SOHを表す、
ことを条件とする]
により表される新規β−シクロデキストリン化合物、およびその対応する製薬学的に許容され得る塩および/またはその溶媒和物に関する。これら酸性化合物の特に好適な塩には、カリウム、ナトリウムおよびカルシウム塩を含む。
【0018】
前述の基は、β−シクロデキストリン分子の前記の任意の位置Rに位置することができる。本発明の特定の態様に従い、カルボキシメチル部分−CH−CH−COOHは、β−シクロデキストリン分子のD−グルコピラノース単位の炭素2または炭素6のいずれかに存在してよい。本発明の別の特定の態様に従い、β−シクロデキストリン分子の7個のD−グルコピラノース単位の3個が、それぞれカルボキシメチル部分−CH−CH−COOHで置換される。本発明の別の特定の態様に従い、β−シクロデキストリン分子の7個のD−グルコピラノース単位の3または4個が、それぞれカルボキシメチル部分−CH−COOHまたはカルボキシプロピル部分−CH−CH(CH)−COOHまたはカルボキシブチル部分−CH−CH(C)−COOHで置換される。
【0019】
本発明の特定の態様に従い、各Rは独立して−CH−CH−COOHまたは−SOHまたはHのいずれかとなるように選択されるが、ただし2から3個のRが−CH−CH−COOHを表し、そして少なくとも7個、好ましくは少なくとも10個、より好ましくは少なくとも14個、最も好ましくは少なくとも16個のRが−SOHを表すことを条件とする。本発明の別の特定の態様に従い、各Rは独立して−CH−CH−COOHまたは−SOHまたはHのいずれかとなるように選択されるが、ただしすべてのRは一緒に(すなわち組全体で21基)、3個の基−CH−CH−COOH、そして16個の基−SOHと2個の水素原子、または17個の基−SOHと1個の水素原子のいずれか、あるいは18個の基−SOH(この場合、β−シクロデキストリン化合物の7個のD−グルコピラノース単位の4個が3個の−SOHに置換され、そしてβ−シクロデキストリン化合物の7個のD−グルコピラノース単位の3個が2個の−SOH基に置換されている)を表す。
【0020】
本発明は、構造式(I)により表されるβ−シクロデキストリン化合物をその酸性の形態またはその任意の製薬学的に許容され得る塩の形態で包含する。酸性形態では、−COOおよび−SO官能基がそれぞれ−COOH−および−SOH形である。
【0021】
「製薬学的に許容され得る塩」という表現は、1もしくは複数の−COOおよび−SO官能基(アニオン)が、限定するわけではないが金属カチオンのような製薬学的に許容され得る対イオンにイオン的に結合している構造式(I)により表される化合物を指す。本発明に従い好適な塩は、カチオンがアルカリ金属カチオンから選択されるものであり、そしてさらにより一層好適であるのはカチオンがNaまたはKであるものである。あるいは適切な製薬学的に許容され得る塩はカルシウム塩である。
【0022】
本発明による用語「溶媒和物」は、構造式(I)により表される任意の形態の化合物、またはその製薬学的に許容され得る塩を意味すると理解され、ここでそれらは溶媒分子(好ましくは極性溶媒)に非共有的に結合している。これには特に水和物およびアルコラート、例えばメタノレートもしくはエタノレートを含む。構造式(I)により表される化合物の溶媒和物、好ましくは水和物は、当業者に周知である標準的な溶媒化法により得ることができる。
【0023】
別の観点では、本発明は構造式(I)により表されるカルボキシアルキル化β−シクロデキストリン化合物の調製法に関する。
【0024】
特定の態様では、この方法は構造式
【0025】
【化2】

【0026】
[式中、各Rは独立して−CH−CH−COOHまたは−CH−COOHまたは−CH−CH(CH)−COOHまたは−CH−CH(C)−COOHまたはHのいずれかとなるように選択されるが、ただし1から3個のRが−CH−CH−COOHを表すか、または1から4個のRが−CH−COOHまたは−CH−CH(CH)−COOHまたは−CH−CH(C)−COOHを表すことを条件とする]により表されるβ−シクロデキストリン化合物をスルホン化剤と反応させることを特徴と、そしてここで該スルホン化剤の量は該反応がグルコピラノース単位あたり少なくとも2個のHを−SOH基に転換させるような量である。
【0027】
上記の特定態様の出発材料は市販されているか、または当該技術分野で周知な技術により作成することができる。3.5の置換度のカルボキシメチル化β−シクロデキストリンは、Cyclolab社(ハンガリー)から市販されている。3.6の置換度のカルボキシメチル化β−シクロデキストリンはJin & LiによりJ.Chromatogr.B(1998)708:265に記載されている。当業者は整数ではない置換度の値は、分子の混合物を表す平均値であると理解する。例えば3.5の置換度のカルボキシメチル化β−シクロデキストリンは、3個のカルボキシメチル置換基をもつカルボキシメチル化β−シクロデキストリンと、4個のカルボキシメチル置換基をもつカルボキシメチル化β−シクロデキストリンとの50/50混合物を表す。
【0028】
3の置換度を有するカルボキシエチル化β−シクロデキストリンは、Cyclolab社(ハンガリー)から市販されている。種々の置換度をもつカルボキシエチル化β−シクロデキストリンは、限定するわけではないがProceedings of the 9th International Symposium on Cyclodextrins(1998)の513−516頁に記載されている手順のようなマイケル付加条件
下でβ−シクロデキストリンをアクリルアミドと反応させることにより製造することができる。上記構造式において、2.2からおよそ3.0の置換度をもつ、すなわち平均2.2から3.0個のR基が−CH−CH−COOHを表すカルボキシエチル化β−シクロデキストリンも、該マイケル付加条件の日常的な至適化により得ることができる。
【0029】
同様に、種々の置換度をもつカルボキシプロピル化(R=−CH−CH(CH)−COOH)およびカルボキシブチル化(R=−CH−CH(C)−COOH)β−シクロデキストリンは、β−シクロデキストリンをそれぞれメタクリルアミドまたはエタクリルアミドを用いてマイケル付加条件下で反応させることにより製造することができる。 使用すべきアクリルアミド、メタクリルアミドまたはエタクリルアミドの量は、β−シクロデキストリンの量に対してモル過剰(例えば1から100の範囲のモル比)でよい。反応は冷却または加熱条件下、例えば40℃から95℃の範囲内の温度で、そして場合により適切な溶媒の存在下で行うことができる。
【0030】
カルボキシエチル化−β−シクロデキストリンとスルホン化剤との反応は、適切な溶媒中で行うことができる。スルホン化剤として、例えば三酸化硫黄錯体、例えば三酸化硫黄−ピリジン錯体、三酸化硫黄−トリアルキルアミン錯体、三酸化硫黄−ジオキサン錯体、三酸化硫黄ジメチルホルムアミド錯体等、無水硫酸、濃硫酸、クロロスルホン酸などを適切に使用することができる。
【0031】
使用するスルホン化剤の量は、カルボキシアルキル化β−シクロデキストリン、例えばカルボキシエチル−β−シクロデキストリンの量に対して過剰でよい。例えば三酸化硫黄−ピリジン錯体または三酸化硫黄−トリアルキルアミン錯体をスルホン化剤として使用する場合、使用すべきそれらの量は、カルボキシアルキル化β−シクロデキストリン、例えばカルボキシエチルβ−シクロデキストリンの量に対して1から10モル当量、特に2から5モル当量となることが好ましい。
【0032】
スルホン化反応の溶媒として、好ましくは例えば三級アミン、例えばピリジン、ピコリン、ルチジン、N,N−ジメチルホルムアミド、ホルムアミド、ヘキサメチレンホスホリルトリアミド、クロロホルム、ベンゼン、トルエン、キシレン、水、アルコールまたはこれら溶媒の任意の適切な比率の混合物、液体二酸化硫黄などを使用することができる。スルホン化反応は冷却または加熱条件下で行うことができ、そして好ましくは加熱下で、好ましくは40℃から100℃の範囲内の温度で行うことができる。
【0033】
さらに具体的に、そしてスルホン化反応条件に依存して(限定するわけではないが温度、反応時間等のような)、構造式(I)により表されるポリ硫酸カルボキシアルキル化β−シクロデキストリン化合物は、例えば化合物内に16個のSOH基または17個のSOH基または18個のSOH基のいずれかが存在する化合物の混合物として得ることができる。
【0034】
スルホン化反応が完了した後、構造式(I)により表される酸性状態のβ−シクロデキストリン化合物である反応生成物は単離または精製でき、あるいはさらに製薬学的に許容され得る塩に転換するためにそのまま使用することができる。例えばスルホン化反応から得られた粗生成物は、限定するわけではないが酢酸ナトリウムのようなアルカリ金属化合物で処理して対応するアルカリ金属、例えばナトリウム塩を生成することができる。高純度の製薬学的等級を達成することを望む場合、これは次いでメタノールでの洗浄および/または活性炭での処理によるさらなる精製にかけることができる。
【0035】
本発明の別の観点では、ポリ硫酸カルボキシアルキル化β−シクロデキストリン化合物[構造式(I)により表されるようなその製薬学的に許容され得る塩および/またはその
溶媒和物を含み、上記任意の1つの特定態様、特に平均3個の2−カルボキシエチル鎖を持つものを含む(すなわち3個のRが−CH−CH−COOHを表す条件に合う)]は、HITのインビトロモデルにおいてヘパリンおよび他のポリ硫酸化β−シクロデキストリン誘導体よりも有意に少ない血小板を活性化したことが分かり、本発明の化合物、特にCE−CDPSがヘパリン−および血小板第IV因子−複合体反応性抗体と交差反応性を表さないことを示している。
【0036】
このように別の観点では、本発明は構造式(I)により表されるポリ硫酸カルボキシアルキル化β−シクロデキストリン化合物(その製薬学的に許容され得る塩および/またはその溶媒和物を含み、そして上記任意の1つの特定態様を含む)を、1もしくは複数の非毒性の製薬学的に許容され得る賦形剤と組み合わせて含んでなる製薬学的組成物に関する。
【0037】
それらの生化学的および薬理学的活性によって、本発明の新規ポリ硫酸カルボキシアルキル化β−シクロデキストリン化合物は、大変有利な薬剤を構成する。それらの低毒性はこの用途に完全に適合する。それらはまた大変安定であり、したがって製薬学的組成物の活性の本質(有効成分)またはその1つを構成するために特に適している。
【0038】
好ましくは本発明の製薬学的組成物は構造式(I)により表されるポリ硫酸カルボキシアルキル化β−シクロデキストリン化合物を含んでなり、そのグルコピラノース単位は1.00〜2.57の範囲、好ましくは1.43〜2.57の範囲、より好ましくは2.28〜2.57の範囲の平均硫酸化度を示し、最も好ましくは硫酸化度は2.57に等しい。
【0039】
当業者には周知であるように、β−シクロデキストリンのグルコピラノース単位の硫酸化度または置換度(DS)は、以下のように算出することができる:
DS=[%S*m(C)/%C*m(S)]*Cの総数
式中、mは原子質量である。
【0040】
本発明の製薬学的組成物の各投薬単位中、有効成分(active principle)すなわち本発明の構造式(I)により表されるポリ硫酸カルボキシアルキル化β−シクロデキストリン化合物(その製薬学的に許容され得る塩および/またはその溶媒和物を含み、そして上記任意の1つの特定態様を含む)は、治療に有効な量、すなわち想定される投与の頻度および種類に従い適切に調整された量で、例えば錠剤、ゼラチンカプセル等、小袋、バイアル、シロップ等、ドロップ、経皮または経粘膜パッチ中に存在することが好ましい。好ましくはそのような投薬単位は10〜5,000mg、好ましくは20〜500mg、より好ましくは25〜250mgの有効成分を含む。
【0041】
本発明の化合物は、例えば以下に特定する任意の1つの望ましい治療のために有用となる他の1もしくは複数の有効成分と組み合わせた製薬学的組成物に使用することもできる。そのような有効成分の適切な例には限定するわけではないが、抗血栓薬、抗凝固薬、抗炎症薬、細胞産物および抗血小板凝固薬、例えばジピリダモール、アスピリン、チクロピジン、クロピドグレルまたは糖タンパク質IIb/IIIa複合体の拮抗薬がある。適切な有効成分の他の例は、国際公開第2005/014026号パンフレットに開示されているようなCXCL6のようなインビボで軟骨形成を促進できるケモカイン、またはCXCL6−発現細胞である。
【0042】
本発明のポリ硫酸カルボキシアルキル化β−シクロデキストリンと組み合わせられる有効成分に関して本明細書で使用する用語「細胞産物(cell products)」には以下を含む:
−軟骨形成細胞、すなわち安定な硝子軟骨を形成できる細胞、および
−軟骨形成細胞の前駆細胞、すなわち事前に定められたような軟骨形成細胞への分化を受けることができる前駆細胞;それらには骨髄または臍帯を含む異なる組織から得ることができる幹細胞を含む;特に適切な態様は、国際公開第01/25402号パンフレットに記載されているような軟骨生産細胞に分化することができる滑膜(synovial membrane)から得られるような骨格前駆細胞からなる。
【0043】
本発明の製薬学的組成物は、以下に特定する任意の1つの疾患を処置するために、ヒトを含む哺乳動物に投与するために配合することができる。
【0044】
好ましくは本発明の製薬学的組成物は、新規なポリ硫酸カルボキシアルキル化β−シクロデキストリン化合物を単独で、または上記に特定したような別の有効成分と組み合わせて含んでも変形性関節疾患、好ましくは変形性関節症ならびに関節リウマチ、関節症または変形性関節炎の処置および/または予防に、あるいはヘパリン誘導型の血小板減少症の処置に、あるいは軟骨修復または結合組織修復に使用することができる。
【0045】
本発明の製薬学的組成物は、ヘパリン−および血小板第IV因子−複合体反応性抗体の存在下で、血小板の活性化または血栓症を誘導せずに、ヘパリン誘導型の血小板減少症症候群の処置に特に適している。
【0046】
本発明の製薬学組成物は、例えば注射可能または飲用可能な溶液、糖衣錠剤、通常の錠剤またはゼラチンカプセルのような種々の形態で有利に得ることができる。注射可能な溶液が好適な製薬学的形態である。適切な投薬量は、母体となる患者の年齢、体重および健康状態、疾患の性質および重篤度、ならびに投与経路に依存して広い範囲内で変動することができる。1つの適切な治療計画には、1日あたり約20mg〜約500mgの1もしくは複数の投薬単位の筋肉内または皮下投与を、連続的または断続的におよそ規則的な時間間隔で含んでなる。
【0047】
本発明の別の態様は、消化または非経口経路を介して投与するために、構造式(I)により表されるポリ硫酸カルボキシアルキル化β−シクロデキストリン化合物(その製薬学的に許容され得る塩および/またはその溶媒和物を含み、そして上記特定態様の任意の1つを含む)を、別の活性の本質(すなわち有効成分)と合わせて含有する組成物に関する。
【0048】
本発明の製薬学的組成物では、経口、舌下、皮下、筋肉内、静脈内、経皮、経粘膜、局所もしくは直腸投与のために、有効成分を標準的な製薬学的担体または賦形剤と混合した単位投与形態で、動物すなわちヒトに投与することができる。適切な投与単位形態は:
−経口剤形、例えば錠剤、ゼラチンカプセル、粉剤、粒剤および経口懸濁剤または溶剤
−舌下および頬内の投与形態
−皮下、筋肉内、静脈内、鼻内または眼内の投与形態、および
−直腸の投与形態。
【0049】
錠剤形の固体組成物が調製される場合、主要な有効成分を1もしくは複数の製薬学的に許容され得る補形剤(vehicles)もしくは賦形剤、例えば限定するわけではないがゼラチン、澱粉、ラクトース、ステアリン酸マグネシウム、タルク、アラビアガム等と混合することができる。錠剤はスクロースまたは他の適切な材料でコートすることができ、あるいはそれらが持続的もしくは遅延型の活性を有するように、そしてそれらが予め定めた量の有効成分を連続的に放出するように処理することができる。ゼラチンカプセルの調製物は有効成分を希釈剤と混合し、そして得られた混合物を軟質もしくは硬質ゼラチンカプセルに注入することにより得られる。水分散性の粉末または粒末は、有効成分を分散
剤もしくは湿潤剤と、あるいは沈殿防止剤、例えばポリビニルピロリドン、ならびに甘味料または風味増強剤と混合して含むことができる。
【0050】
直腸投与には、直腸の温度で溶解する結合剤、例えばカカオ脂もしくはポリエチレングリコールを用いて調製される座薬が使用される。
【0051】
非経口、鼻内または眼内投与には、製薬学的に適合性のある分散剤および/または湿潤剤、例えばプロピレングリコールもしくはポリブチレングリコールを含む水性懸濁剤、等張性の塩溶液、または滅菌した注入可能溶液が使用される。
【0052】
経粘膜投与には、有効成分は胆汁酸塩、親水性ポリマー、例えばヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、エチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、デキストラン、ポリビニルピロリジノン、ペクチン、澱粉、ゼラチン、カゼイン、アクリル酸、アクリル酸エステルおよびそのコポリマー、ビニルポリマーまたはコポリマー、ビニルアルコール、アルコキシポリマー、ポリエチレンオキシドポリマー、ポリエーテルまたはそれらの混合物のような促進剤の存在下で配合することができる。
【0053】
また有効成分は、場合により1もしくは複数の担体もしくは添加剤を含むマイクロカプセルの形態に配合することもできる。
【0054】
経口投与には、微粉剤または粒剤が希釈剤、分散剤および/または表面活性剤を含んでよく、そして水、またはシロップ、カプセルまたは小袋中に乾燥状態で存在することができ、あるいは非水性溶液もしくは懸濁液中に存在でき、ここで沈殿防止剤を錠剤に含むことができ、ここで結合剤および滑沢剤を含むことができ、あるいは水中の懸濁液またはシロップに含むことができる。望ましくは、または必要ならば、風味料、保存剤、沈殿防止剤、シックニング剤(sickening agent)または乳化剤を含めてもよい。錠剤および粒剤は、好適な経口投与形であり、そしてこれらはコートすることができる。経口浸透および胃腸管吸収を強化するために、構造式(I)により表されるポリ硫酸カルボキシアルキル化β−シクロデキストリン化合物は、オリーブオイル、胆汁酸塩またはN[8−(2−ヒドロキシベンジルベンゾイル)アミノ]カプリル酸ナトリウムの混合物を用いて配合することができる。
【実施例】
【0055】
実施例1−カルボキシエチル−β−シクロデキストリンの硫酸化
ピリジンスルホン酸塩(三酸化硫黄ピリジン錯体)を、水浴中で70〜80℃に加熱した。ピリジンスルホン酸塩(1000mL)を機械的に撹拌している容器にサイドアームを用いて加え、そして水浴で80℃に維持した。Cyclolab社(ハンガリー)から置換度3のカルボキシエチル−β−シクロデキストリン(100g)を、素早く撹拌しながらゆっくりと加えた。混合物は撹拌しながら2.5時間、80℃に維持し、次いで水(500mL)を加えた。
【0056】
実施例2−硫酸カルボキシエチル−β−シクロデキストリンのナトリウム塩の調製
実施例1から得られた反応混合物を、酢酸ナトリウム(750g)を含有するメタノール(7500mL)に素早く撹拌しながら注いだ。沈殿はブフナー漏斗を使用して濾過により単離し、メタノール(2000mL)で洗浄し、風乾し、次いで真空下で乾燥した。次いで沈殿(硫酸カルボキシエチル−β−シクロデキストリンのナトリウム塩)を水(1000mL)に溶解し、そして生じた水溶液を遊離の硫酸塩含量について分析し、そして熱水に溶解したBaClを加えてバリウムを沈殿させた。沈殿を静置し、次いで遠心により取り出した。5倍容量のメタノールを上清に加えて生成物を沈殿させ、そしてこれを
ブフナー漏斗により単離し、メタノールで洗浄し、そして真空下で乾燥した。
【0057】
実施例3−ポリ硫酸カルボキシエチルシクロデキストリンナトリウム塩の活性炭処理
実施例2からのポリ硫酸2−カルボキシエチル−β−シクロデキストリンナトリウム塩(今後CE−CDPSと言う)を、水中300mg/mLの割合で溶解した。活性炭(10g)を各100gのポリ硫酸シクロデキストリンナトリウム塩に加えた。混合物を室温で30分間撹拌し、そして最終0.2μmのフィルター膜の使用を含む数回の濾過で活性炭を除去した。濾過したシクロデキストリン化合物溶液を、5倍容量の撹拌メタノールにゆっくり加えた。混合物を10分間撹拌した。生じた生成物を濾過により単離し、メタノールで洗浄し、そして真空下で乾燥した。元素分析データを表1に与える。
【0058】
実施例4−β−シクロデキストリン誘導体の比較元素分析
2,3,6−トリ−O−メチル−β−シクロデキストリン(ME−CD)および2,6−ジ−O−メチル−3−サルフェート−β−シクロデキストリン(ME−CD−3−S)は、Cyclolab社(ハンガリー)から購入した。2,3−ジ−O−メチル−6−サルフェート−β−シクロデキストリン(ME−CD−6−S)はRegis Technologies社(モートン グローブ、イリノイ州、米国)から入手可能であった。2−ヒドロキシプロピル−β−シクロデキストリン(HP−CDPS)はSigma Chemical Companyから入手可能であり、そして硫酸化6−モノデオキシ−6−モノアミノ−β−シクロデキストリン(MA−CDPS)はCyclolab社から入手可能であった。それらの元素分析データは、実施例3の精製したポリ硫酸2−カルボキシエチル−β−シクロデキストリンナトリウム塩のデータと比較する目的で表1に提供する。
【0059】
【表1】

【0060】
実施例5−関節の軟骨細胞の単離
ヒト関節の軟骨細胞を、J.Tissue Culture Methods(1993)15:139−146に記載されているように単離した。簡単に説明すると、ヒト関節の軟骨は15名の異なるドナーの大腿骨顆部(femoral condyles)および脛骨高原(tibial plateau)から、全膝置換手術で得た。彼らのうちの誰もコルチコステロイドまたは細胞増殖抑制薬を摂取していなかった。視覚的に完全な
、および原線維からなる(fibrillated)OA軟骨サンプルの両方を別々に回収し、そしてOA関節のみを細胞培養に使用した。軟骨サンプルはサイコロ型の小さい断片に切り、そして軟骨細胞を、Osteoarthritis Cartilage(2001)9:73−84に記載されているように細胞外マトリックス(ECM)の連続的酵素消化(ヒアルロニダーゼ、プロナーゼおよびコラゲナーゼ)により単離した。次いで単離した細胞を10分間、1500rpmで遠心し、10(容量/容量)%のウシ胎児血清を含むダルベッコの改良イーグル培地(DMEM)中で3回洗浄し、そしてトリパンブルーを用いてカウントして死んだ細胞を排除した。90%より多くの細胞が単離後に生存した。
【0061】
実施例6−アルギン酸ゲル中での軟骨細胞培養
軟骨細胞はそれらの分化した表現型を維持するためにアルギン酸ビーズ中で培養した。培養はConnect Tissue Res.(1989)19:277−297に記載されているように調製した。カルシウムおよびマグネシウムを含まない1容量の2倍濃度ハンクスバランス塩溶液(HBSS、Gibcoから市販されている)に懸濁した軟骨細胞を、慎重に等容量の2(重量/容量)%のHBSS中のオートクレーブ処理したアルギン酸塩(Sigmaから市販されているオオウキモ(Macrocystis pyrifera)由来の低粘度アルギン酸塩)と混合した。最終的な細胞濃度は、1%アルギン酸塩中1mlあたり5×10個の軟骨細胞であった。次いでこの軟骨細胞/アルギン酸塩懸濁液を、23ゲージ針を通してゆっくりと102mMの塩化カルシウム溶液に滴下した。ビーズを10分間、室温で重合させた。塩化カルシウムを除去した後、ビーズを0.15Mの塩化ナトリウムで3回洗浄した。アルギン酸塩ビーズは、10%FCSおよび50mg/mlのアスコルビン酸塩を補充した3mlのDMEM中、37℃、5%CO中で、12ウェルプレート中にカルチャーあたり10個の細胞で培養した(各ウェルは20個のアルギン酸塩ビーズ;ビーズあたり±50,000個の軟骨細胞を含有する)。栄養培地は1週間に2回交換した。軟骨細胞によるECM代謝は、このアルギン酸塩培養系で1週間後に定常に達することが知られている。
【0062】
実施例7−硫酸化β−シクロデキストリンを用いたインビトロでの軟骨細胞処置
15名のドナーの変形性関節症(OA)軟骨から得た軟骨細胞を使用して、種々のポリ硫酸β−シクロデキストリンがECMアグレカンの合成および蓄積に及ぼす効果を評価した。培養5日目、各ドナーのOA軟骨細胞を5μg/mlのME−CD、ME−CD−3−S、ME−CD−6−S、MA−CDPS、HP−CDPS、CE−CDPSおよびCDPSにそれぞれ暴露した(実施例3−4に定めたように、そして表1に特性をまとめた)。さらに5日間の培養後、培地を集め、そしてIL−6濃度をさらに分析するために−20℃で保存した。細胞はアルギン酸塩を3mlの55mM無水クエン酸三ナトリウムpH6.8、0.15M NaClに25℃で10分間溶解することによりアルギン酸塩コートから分離した。生じた懸濁液を1,500rpmで10分間遠心して、細胞結合基質(cell−associated matrix:CAM)を含む細胞から、領域間基質(interterritorial matrix)の成分を含有する上清を分離した。領域間基質中のアグレカン含量は、製造元の使用説明に従いELISA(Biosource、ベルギー)によりアッセイした。すべての実験を3連で行った。
【0063】
実施例8−ポリ硫酸β−シクロデキストリンおよび血液凝固活性
MA−CDPS、HP−CDPS、CE−CDPSおよびCDPS(実施例3−4で定義し、そして表1に特性を記載した)を、種々の濃度でバッファー溶液として調製した。多糖は40名の健康な有志から調製した正常プール血漿とインキュベーションし、そしてそれらの活性化部分トロンボプラスチン時間(aPTT)、プロトロンビン時間(PT)およびフィブリノーゲンレベルに及ぼす効果について、製造元の使用説明に従いSTA Compact(商標)凝固アナライザー(Diagnostica Stago、アニ
エール、フランスから入手可能)で分析した。
【0064】
実施例9−ポリ硫酸β−シクロデキストリンおよびヘパリン誘導型血小板減少症
健康なドナーの血小板の、HIT患者の抗ヘパリン/PF4抗体による活性化を、ヘパリンおよび様々に硫酸化された形態のβ−シクロデキストリンの存在下で試験した。ヘパリンの投与後にヘパリン誘導型の血小板減少症(HIT)の偶発症状を体験し、そして免疫学的およびフローサイトメトリー試験で抗−ヘパリン/PF抗体(HIT Ab)を示した患者の血漿をこれらのアッセイに選択した。活性化血小板によるCD62pの発現は、FC500アナライザーでフローサイトメトリーによりアッセイした(ベルギーのBeckman Coulterから入手可能)。血小板が豊富な血漿溶液(PRP)は、正常なドナーから得られた新鮮なクエン酸塩抗−凝固血(1:9容量/容量、0.129モル/リットルまたは3.8%のクエン酸三ナトリウムバッファー)の遅い遠心(10分、180g)により調製した。患者由来のHIT Ab陽性血漿サンプルおよび健康なドナー由来のHIT Ab陰性対照血漿は、新鮮なクエン酸塩抗−凝固血の二重遠心(15分、2230rpm)により調製した。70μlのPRPを20μLのHIT Ab含有血漿(場合によりヘパリン(0.3IU/ml)または関連するβ−シクロデキストリン誘導体(5μg/ml)の存在下)でインキュベーションした。各HIT Ab陽性血漿サンプルを用いた実験は、非反応性血小板の可能性を回避するために、2名のドナー(AおよびB)の血小板を使用して独立して繰り返した。
【0065】
最初の40分間のインキュベーション工程後、5μlの血小板溶液を、1%ウシ血清アルブミン(BSA)および0.1%Na−アジド、5μl(0.25μg)モノクローナル抗−CD41抗体(Ab)(フィコエリトリン−Texas Red Energy結合色素(ECD)−結合、Beckman Coulter)および5μl(0.125μg)の抗−CD62p Ab(フィコエリトリン(PE)−結合、Beckman Coulter)を含有する85μLのリン酸緩衝化生理食塩水(PBS)を含む新しい試験管に移した。CD41(グリコプロテイン IIb)は、血小板および血小板前駆体の選択的マーカーである。CD62pはアルファ顆粒の成分であり、そして活性化で血小板表面へ放出される。
【0066】
室温で20分間のインキュベーション後、血小板懸濁液の全容量を600μLの緩衝溶液に調整し、そしてフローサイトメトリーによりディレイ無しで評価した。サンプルあたり20,000事象を分析し、そして血小板集団を側方散乱特性および血小板マーカーCD41によりゲートした(gated)。活性化血小板(CD62p)は、CD62p−PE発現により休止している(resting)血小板と分けられた(図3に示すように)。全血小板集団中の活性化血小板画分を測定し、そして内部対照に対する相対的CD62p比を算出した[比率:%CD62p(0.3IUヘパリンまたは5μg/ml β−シクロデキストリン誘導体)/%CD62p(0IUヘパリンまたは0μg/ml
β−シクロデキストリン誘導体)]。ヘパリン処理血小板に関する試験結果は、Thromb.Haemost.(1999)82:1255−1259に記載されている採点系により評価した。対照試験は、正常な個体で以前に得られた結果に基づき、少なくとも2名のドナーの算出比率が2より大きい場合に陽性と採点した。種々のβ−シクロデキストリン誘導体が血小板の活性化を誘導する能力を評価するために、それぞれのβ−シクロデキストリンとインキュベーションした後のCD62p血小板のパーセントと比率の両方を、ヘパリンインキュベーション後のCD62pのパーセントと比率と統計的に比較した。
【0067】
実施例10−実験的変形性関節症の誘導
膝の変形性関節症を、成体(10週齢)のC57Bl/6オスマウスの右膝に10μlの2U/μlコラゲナーゼVII型(SigmaC−9572、ベルギーのSigma−
Aldrichから入手可能)溶液を注射することにより誘導した。これら動物の左膝には10μlのPBSを注射し、そして対照とした。各8匹の2群を体重について無作為化し、第1群には1週間に1回、1mg/kgの実施例3のCE−CDPSを皮下注射し、そして第2群は塩水で処置した。処置はマウスが関節内注射を受けてから3日後に開始した。動物には標準食および水道水を自由に与え、そしてそれらの体重を1週間に2回測定した。マウスを膝の変形性関節症の誘発から3週間後に屠殺し、そして肝臓、腎臓および膝関節を2%の中性緩衝化パラホルムアルデヒド(Fluka 76240、ベルギーのSigma−Aldrichから入手可能)で直ちに固定した。
【0068】
実施例11−組織病理学
固定後、膝関節をPBS中の0.5M EDTAで脱石灰し、そしてパラフィンに包埋した。5μ組織切片を切り、そして一般的形態の分析にヘマトキシリンおよびエオシンで、あるいはプロテオグリカン含量の評価にサフラニン−Oで染色した。各100μmの関節の3切片を評価した。
【0069】
染色したスライドを評価にかけた。以下のパラメーターを評価した:滑膜炎症、線維症、骨棘および軟骨の侵食。滑膜炎症は以下のように0から+3に等級づけた:0正常からの変化なし;+1わずかな変化;+2中程度の変化;+3重篤な変化。
【0070】
線維症は以下のように採点した:0正常からの変化なし;+1化生なしの線維症;+2軟骨形成(chondroplasia)を伴う線維症;+3化生骨を伴う線維症。骨棘は観察される骨棘の量を参照にして0から+4に等級づけし、区分あたり1の最大スコアを付ける。
【0071】
軟骨の侵食は以下のように0から+3に等級づけた:0正常からの変化なし;+1表面のみの侵食;+2 1区分でのプロテオグリカンの損失;および+3 異なる区分でのプロテオグリカンの損失。この採点系では、全体として大腿/脛骨関節が2名の独立した調査者により考察された。
【0072】
実施例12−統計的分析
ポリ硫酸シクロデキストリン処置後の軟骨細胞カルチャー中の変化の影響を研究するために、平均IL−6およびアグレカン濃度を各ドナーの3連の軟骨細胞カルチャーから算出した。ウィルコクソンの符号付順位検定を使用して、未処置対照と種々のポリ硫酸シクロデキストリンに暴露した後のカルチャーとの間の有意差を試験した。インビトロで誘導される血小板活性化に関して、多糖のヘパリンとの交差反応性をウィルコクソンの符号付順位検定により分析した。経時的なマウスの体重の進展は、縦断的データ分析法により、より詳細には曲線下面積および混合モデル解析により分析した。組織学的スコアはマン−ホイットニー検定により比較した。すべての試験について有意レベルはp<0.05と設定した。
【0073】
実施例13−硫酸化β−シクロデキストリンによるアグレカン生産およびIL−6放出の阻害に及ぼす効果
非硫酸化ME−CDはアグレカン合成を促進できず、またはIL−6放出に影響を及ぼすことができず、そして単離した軟骨細胞に関するこの実験において対照として使用した。さらに一硫酸化シクロデキストリンME−CD−3−SおよびME−CD−6−Sも軟骨細胞のアグレカン合成およびIL−6分泌に影響を与えることができなかった。しかし二硫酸化(CDPS、MA−CDPS)および三硫酸化β−シクロデキストリン(HP−CDPS、CE−CDPS)は、平均50%〜70%まで軟骨細胞のアグレカン合成を有意に増強した(図1Aに示すように)。これらの高度に硫酸化されたβ−シクロデキストリンは、軟骨細胞のIL−6分泌も有意に抑制した(図1Bに示すように)。
【0074】
実施例14−β−シクロデキストリンは血液凝固活性に影響を及ぼす
濃度を上げると、aPTT値は試験したすべてのCDPS誘導体について5μg/mlの濃度まで停滞した。50μg/mlより上では、試験した誘導体について実験の観察時間中に凝固は形成されなかった(図2aに示すように)。同じ傾向がPT値についても観察されたが、50μg/mlより上の濃度についてはプロ−トロンビン時間の上昇がより一層限定されていたことは除く(図2bに示すように)。フィブリノーゲン濃度(mg/ml)では、それぞれ50または100μg/mlのMA−CDPS、HP−CDPS、CE−CDPSまたはCDPSとのインキュベーション後にわずかな減少が観察された(図2cに見られるように)。このようにインビトロの軟骨保護的効果に焦点を当てた濃度では、血液凝固のカスケードに及ぼす影響は検出できなかった。
【0075】
実施例15−血小板活性化の誘導
すべてのHIT Ab陽性血漿サンプルは、2名のドナーに関して2より高い血小板ヘパリン活性化比 %CD62P(0.3IUヘパリン)/%CD62p(0IUヘパリン)を表し、ヘパリン/PF4抗体による血小板の活性化を示した。血小板は患者のHIT Abの不存在下ではヘパリンにより、または任意のポリ硫酸β−シクロデキストリン誘導体により活性化されなかった。
【0076】
ヘパリンと数種のポリ硫酸化β−シクロデキストリンとの間の免疫学的交差反応性は、ヘパリンへの事前の暴露でHIT Abを生じた個体の血漿サンプルの存在下で、HP−CDPS、MA−CDPSおよびCDPSが誘導した血小板活性化として明らかになった(図3に示すように)。CD62p陽性細胞の比率およびパーセントの両方のペアード検定で、ヘパリンとCE−CDPSインキュベーション血小板との間の有意差(パーセントについてはp=0.017、比率についてはp=0.012)が確認され、CE−CDPSはヘパリン/PF4抗体(表2)との交差反応が無いことが示された(表2)。さらにCE−CDPSと他の分析した各シクロデキストリンとの間の活性化血小板の比率およびパーセントのペアード検定から算出されたp−値は、0.05より低かった。
【0077】
実施例16−膝の実験的変形性関節症に及ぼすCE−CDPSの効果
HITに関するインビトロ試験を考慮した場合、CE−CDPSが最高に安定したプロファイルを有したので、この化合物をマウスの実験的変形性関節症モデルに使用した。CE−CDPS処置は動物の体重に影響を与えなかった。実験を通して処置群と対照群との間に体重の差は無かった。
【0078】
マウスの膝関節へのコラゲナーゼの関節内投与により靭帯の弱化を生じ、関節の緩みを導く。機械的な不安定性および恐らく同時に放出される多数の抗原性新−エピトープ(neo−epitope)の結果、これらのマウスはOA損傷および重篤な滑膜炎症反応を発症した。健康な対照の膝と比較して、CE−CDPSならびにPBS処置マウスのOA膝は、滑膜に炎症細胞の重大な侵襲が示され、顕著な滑膜パンヌスの形成が認められた。骨棘形成もこれらOA関節で顕著であった。滑膜炎症、パンヌス形成および骨棘成長は、処置により抑制されなかった。対照的に、処置したマウスの膝の脛骨高原および大腿骨顆部の両方のサフラニンO染色は、対照のPBSで処置した膝よりも保存されていたので、全体的な関節の傷害はCE−CDPS処置マウスで減少した(図4に示すように)。
【0079】
【表2】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
構造式
【化1】

[式中、各Rは独立して−CH−CH−COOHまたは−SOHまたはHのいずれかとなるように選択されるが、ただし
−1から3個のRが−CH−CH−COOHを表し、そして
−グルコピラノース単位あたり少なくとも2個のRが−SOHを表す、
ことを条件とする]
により表されるポリ硫酸β−シクロデキストリン化合物、およびその製薬学的に許容され得る塩および/またはその溶媒和物。
【請求項2】
置換基Rの組全体で、合わせて3個の基−CH−CH−COOH、17個の基−SOH、および1個の水素を表すことを特徴とする請求項1に記載のポリ硫酸β−シクロデキストリン化合物。
【請求項3】
置換基Rの組全体で、合わせて3個の基−CH−CH−COOHおよび18個の基−SOHを表すことを特徴とする請求項1に記載のポリ硫酸β−シクロデキストリン化合物。
【請求項4】
グルコピラノース単位あたり平均2.00から2.57個のR基が−SOHを表すことを特徴とする請求項1ないし3のいずれか1項に記載のポリ硫酸β−シクロデキストリン化合物。
【請求項5】
平均2.2から3.0個のR基が−CH−CH−COOHを表す、請求項1ないし4のいずれか1項に記載のポリ硫酸β−シクロデキストリン化合物。
【請求項6】
請求項1ないし5のいずれかに記載のポリ硫酸β−シクロデキストリン化合物の調製法であって、
構造式
【化2】

[式中、各Rは独立して−CH−CH−COOHまたはHのいずれかとなるように選択されるが、ただし1から3個のRが−CH−CH−COOHを表すことを条件とする]により表されるβ−シクロデキストリン化合物を、スルホン化剤と反応させ、ここで該スルホン化剤の量は該反応がグルコピラース単位あたり少なくとも2個のHを−SOH基に転換させるような量であることを特徴とする上記調製法。
【請求項7】
上記反応が40℃から100℃の範囲内の温度で行われることを特徴とする請求項6に記載の方法。
【請求項8】
構造式
【化3】

[式中、各Rは独立して−CH−CH−COOHまたはHのいずれかとなるように選択されるが、ただし1から3個のRが−CH−CH−COOHを表すことを条件とする]により表される上記β−シクロデキストリン化合物が、β−シクロデキストリンをアクリルアミドと、上記反応がβ−シクロデキストリンの1から3個のヒドロキシル基を−CH−CH−COOH基に転換する量で反応させることにより得られることを特徴とする請求項6または請求項7に記載の方法。
【請求項9】
上記反応が40℃から95℃の範囲内の温度で行われることを特徴とする請求項8に記載の方法。
【請求項10】
β−シクロデキストリンに対するアクリルアミドのモル比が1から100の範囲内であることを特徴とする請求項8または請求項9に記載の方法。
【請求項11】
少なくとも1種の請求項1ないし5のいずれか1項に記載のポリ硫酸β−シクロデキストリン化合物を、1もしくは複数の非毒性の製薬学的に許容され得る賦形剤と組み合わせて含んでなる製薬学的組成物。
【請求項12】
変形性関節疾患、変形性関節症、関節リウマチ、関節症または変形性関節炎の処置および/または予防のための、またはヘパリン誘導型の血小板減少症の処置のための、または軟骨修復もしくは結合組織修復のための請求項1ないし5のいずれか一項に記載のポリ硫酸βシクロデキストリン化合物。
【請求項13】
抗血栓薬、抗凝固薬、抗炎症薬、細胞産物および抗血小板凝集薬からなる群から選択される1もしくは複数の他の有効成分をさらに含んでなる請求項11に記載の製薬学的組成物。
【請求項14】
上記の他の有効成分がジピリダモール、アスピリン、チクロピジン、クロピドグレルおよび糖タンパク質IIb/IIIa複合体の拮抗薬からなる群から選択される、請求項13に記載の製薬学的組成物。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公表番号】特表2012−503059(P2012−503059A)
【公表日】平成24年2月2日(2012.2.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−527356(P2011−527356)
【出願日】平成21年9月22日(2009.9.22)
【国際出願番号】PCT/EP2009/062277
【国際公開番号】WO2010/031876
【国際公開日】平成22年3月25日(2010.3.25)
【出願人】(511072909)
【Fターム(参考)】