説明

薬剤揮散装置

回転に際し、通気が可能である空隙を有している板状体に薬剤を含浸させ、単数又は複数の当該板状体によって形成された回転体2に対する回転駆動装置4を設けたことを基本構成としており、前記のような空隙を有している板状体の典型的な具体的構成としては、複数個の通気孔を設けている実施形態、通気性を有しているシート又は布を支持体に支持された状態にて張設している実施形態、二次元又は三次元のメッシュ状態を形成している実施形態、を採用しているが、このような構成に基づいて、長期に亘って効率的な揮散を持続することが可能となる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
本発明は、回転体に薬剤を含浸させるか、塗布させることに基づく薬剤揮散装置に関するものである。
【背景技術】
回転体に薬剤を含浸又は塗布させることによって、薬剤を揮散させる薬剤揮散装置は、既に公然と知られている。
例えば、実開昭62−42836号公報においては、回転するファンの表面に芳香剤を含有又は貼着させたことによる薬剤揮散装置を開示しており、特開2003−144033号公報は、開口部を形成しているブレードの表面において、殺虫剤を含浸させたことによる薬剤揮散装置を開示しており、更には、特開平5−68459号公報において、揮散性薬剤、好ましくはエムペントリンをファンに保持させることによる薬剤揮散方法が開示されている。
前記各公知技術の構成の内、薬剤を回転体に塗布した構成においては、塗布した薬剤が身体又は使用している他の物体に付着する危険性がある点において、使用上極めて不便である。
これに対し、薬剤を含浸させている構成においては前記不都合は生じないが、薬剤がファン内部に取り込まれ表面への移行がスムーズに起こらない結果、長期間にわたって効率的な揮散性能や防除効果を示し得ないという点において、使用上極めて不便である。
他方、本発明者らは、特開2001−247406号公報において、粒状の薬剤含浸体を収納するカートリッジをモーターで回転させ、その遠心力とファンによる風力によって薬剤を効率的に揮散、放出させる薬剤揮散方法を提唱した。当該方法による構成は、揮散性能や害虫防除効果に優れ極めて有用性の高いものであるが、薬剤含浸体を収納する回転体としてのカートリッジを必要とし、特に洋服タンスやクローゼットなどの衣料防虫用途として構造がシンプルとは言えない面があった(このような難点は、特開2003−144033号公報に示す構成の場合においても同様である。)。
本発明は、常温揮散性薬剤を含浸させた回転体の回転により薬剤を気中に拡散させることによる薬剤揮散装置において、シンプルな構造であって、しかも洋服タンスやクローゼットなどの衣料防虫用途において長期間にわたり優れた揮散効果を発揮し得る薬剤揮散装置の構成を提供することを課題とする。
【発明の開示】
本発明は、回転に際し、通気が可能である空隙を有している板状体に薬剤を含浸させ、単数又は複数の当該板状体によって形成された回転体に対する回転駆動装置を設けたことによる薬剤揮散装置を基本構成としているが、板状体を単位としているため、構造がシンプルであって、製造上有利であるばかりか、薬剤を含浸させた回転体に通気性を有する空隙が存在するため、回転に伴って、空気が当該空隙を透過したうえで、薬剤が含浸されている表面と接触しながら通過することによって、表面に含浸されている薬剤の揮散を助長し、更には表面内部における薬剤を表面に順次スムーズに移行させ、効率的な揮散効果を発揮することができ、優れた殺虫効果、又は芳香効果を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
図1は、実施例1における回転体の平面図を示しており、(a)は、(1)記載の場合を示しており、(b)、(c)は、それぞれ(2)記載の場合を示している。
図2は、実施例2における回転体の平面図を示しており、(a)は、(1)記載の場合を示しており、(b)は、(2)記載の場合を示しており、(c)は、(3)記載の場合を示しており、(d)は、(4)の場合を示している。
図3は、駆動装置を含む本件発明の揮散装置の全体構成に対応する断面図を示しており、(a)は、実施例1に対応しており、(b)は、実施例2に対応している。
【発明を実施するための最良の形態】
本発明の回転体の単位である板状体には、通気を可能とする空隙が存在しているが、空隙の構造又は形状は、特に限定されている訳ではなく、回転体表面における回転速度(回転角速度×回転中心位置からの距離による速度)が大きいほど、空隙の占める割合が少なくとも、表面に置ける薬剤の揮散を助長することができる。
このような空隙を有している板状体として採用する典型例としては、
a 複数個の通気孔を設けている実施形態、
b 通気性を有しているシート又は布を支持体に支持された状態にて張設している実施形態、
c 二次元又は三次元のメッシュ状態を形成している実施形態、
に分類することが可能であり、前記a、b、cの何れにおいても、1個又は複数個の平板形状の構成と、複数個の板状体による羽根を有しているファンの構成を採用することが可能である。
前記aの実施形態において、複数個の通気孔を設ける板状体は、当該板状体自体が、前記b、cのように、通気性を有している場合と、有していない場合との双方を採用することが可能である。
当該通気孔の形状は、特に限定されていないが、回転中心位置から放射状に長孔を設計する実施形態、又は複数個の孔を略一様に点在させる実施形態を典型例として採用することが可能である。
板状体表面において、通気孔が占める好ましい面積の割合としては、0.5%〜10%であり、当該割合は、1個又は複数個の平板形状の場合と、複数個の板状体の羽根によるファンの場合の何れにおいても同様である。
前記bの実施形態においては、パルプによるシート、天然繊維及び/又は合成繊維を相互に織合したことによる布を典型例として採用することが可能である。なお、シートや布の外周端部を凹凸状に形成したり、或いは外周端部から中心部に向けて複数個の切り込み部を設けてもよい。
前記cの実施形態においては、天然繊維及び/又は合成繊維による不織布によるメッシュ状態、及び合成樹脂を相互に交錯させたメッシュ状態などを典型例として採用することが可能である。
前記a、b、cの実施形態における板状体の原材料としては、十分な薬剤保持能と含浸体内部から順次表面への移動・滲出性を奏するものであれば特に限定される訳ではないが、例えばパルプ、レーヨン、ビスコースなどのセルロースを有している天然繊維及び/又はポリエステル、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリアミドなどの合成繊維、ガラス繊維などをあげることができる。
前記セルロースを有している天然繊維及び合成繊維を採用した場合において、適切な通気性を有している割合については、目付(g/m)を厚さ(mm)で除したパラメーターによって表現することが可能であり、回転体が、1個又は複数個の平板形状の場合には、30〜300(g/m・mm)の範囲に設定することが好ましく、回転体がファン形状の場合には、100〜500(g/m・mm)に設定することが好ましい。
回転体の適切な回転数は、回転体の径によっても影響を受けるが、単位時間当りの回転数が所定数よりも低い場合には、揮散効率が減少し、回転数が所定の量よりも多い場合には、揮散の持続性が損なわれることになる。
通常平板形状の回転体の場合には、500rpm〜2000rpmが適切であり、ファン形状の回転体の場合には、50rpm〜2000rpmが適切である。
本発明において使用する薬剤は、殺虫剤及び芳香剤をその典型例としてあげることができ、双方を含浸させることも当然可能である。
前記の殺虫剤としては、通常常温揮散性ピレスロイド系薬剤が用いられることが多く、特にエムペントリン、テフラメトリン及び一般式(I)
【化1】

(式中、X及びYは同一又は相異なって水素原子、メチル基、ハロゲン原子又はトリフルオロメチル基を表し、Zは水素原子、フッ素原子、メチル基、メトキシメチル基又はプロパルギル基を表す)で表されるフッ素置換ベンジルアルコールエステル化合物が好ましい殺虫剤の類型に該当する。
一般式(I)で表される化合物の具体例としては、2,3,5,6−テトラフルオロベンジル−クリサンテマート(以後、化合物Aと称す)、2,3,5,6−テトラフルオロベンジル−2,2−ジメチル−3−(1−プロペニル)シクロプロパンカルボキシレート(以後、化合物Bと称す)、2,3,5,6−テトラフルオロベンジル−2,2−ジメチル−3−(2,2−ジクロロビニル)シクロプロパンカルボキシレート(以後、化合物Cと称す)、4−メチル−2,3,5,6−テトラフルオロベンジル−クリサンテマート(以後、化合物Dと称す)、4−メチル−2,3,5,6−テトラフルオロベンジル−2,2−ジメチル−3−(1−プロペニル)シクロプロパンカルボキシレート(以後、化合物Eと称す)、4−メチル−2,3,5,6−テトラフルオロベンジル−2,2−ジメチル−3−(2,2−ジフルオロビニル)シクロプロパンカルボキシレート(以後、化合物Fと称す)、4−メトキシメチル−2,3,5,6−テトラフルオロベンジル−クリサンテマート(以後、化合物Gと称す)、4−メトキシメチル−2,3,5,6−テトラフルオロベンジル−2,2−ジメチル−3−(1−プロペニル)シクロプロパンカルボキシレート(以後、化合物Hと称す)、2,3,4,5,6−ペンタフルオロベンジル−2,2−ジメチル−3−(2−クロロ−2−トリフルオロメチルビニル)シクロプロパンカルボキシレート(以後、化合物Iと称す)、又は4−プロパルギル−2,3,5,6−テトラフルオロベンジル−2,2−ジメチル−3−(1−プロペニル)シクロプロパンカルボキシレート(以後、化合物Jと称す)をあげることができる。これらの化合物は一種類を使用してもよいし、又は二種類以上の化合物を組み合わせて使用してもよい。なお、一般式(I)で表される化合物には、その不斉炭素や二重結合に基づく光学異性体や幾何異性体が存在するが、これらの各々やそれらの任意の混合物の使用も本発明に含まれるのは勿論である。
前記の芳香剤としては、例えば1−ヘプタノールなどの飽和アルコール、酢酸フェニルエチルフェニルエステルなどの飽和エステルによる芳香脂肪族、カンフェンなどの芳香炭化水素、フェニルアセトアルデヒドジメチルアセタールなどの芳香アセタール、チモール、カルバクロールなどの芳香フェノールなどの芳香剤を典型例として採用することができる。
本発明では、前記通気性薬剤含浸体に前述の薬剤の単位面積当りの含浸量を0.5mg/cm〜100mg/cmと設定することが好ましい。
即ち、薬剤の単位面積当りの含浸量が0.5mg/cmより少ないと、殺虫効力の持続性に不足を生じる場合があり、一方100mg/cmを超えると薬剤保持能に支障をきたす恐れがあるので好ましくない。
薬剤の含浸に際しては、必要に応じ溶剤、希釈剤、界面活性剤、分散剤、徐放化剤などを用い、また従来から知られている各種含浸手段を採用することができる。更に、前記薬剤含浸体に、安定剤、香料、着色剤、帯電防止剤などを適宜配合してもよく、また薬剤組成物に、揮散性能に支障をきたさない程度において、揮散性の高い他の殺虫、忌避成分(例えば、ヒノキチオール、カルボン、サフロール、シトロネロール、ケイ皮アルデヒドなどの防虫香料など)、殺ダニ剤、殺菌剤、消臭剤などを添加して多目的組成物とすることもできる。
本発明において使用する駆動装置は、大抵の場合モーターであって、当該モーターの仕様は、DC1.5V〜6.0V駆動で、通常の場合、500〜2000rpmの回転数を設定する場合が多く、家庭において使用されている100Vの交流電源は、ACアダプターを用いて電圧をドロップし、かつ整流した後モーター用電源回路に供給される。ACアダプターは、薬剤揮散装置に内蔵してもよいが、コンセントプラグと一体化すると、プラグと薬剤揮散装置間の電源コードを軽量化できるというメリットを有する。
また、電源コードの先端プラグを薬剤揮散装置のコネクターと取り外し可能に構成することもできる。
本発明の薬剤揮散装置には、揮散プログラムを制御するCPU(コンピュータによる中央処理装置)やメモリーを内蔵し、更に液晶による目視可能な(1)薬剤残量表示機能、(2)乾電池/又は充電池の残量表示機能を備えるのが好ましい。
薬剤残量表示機能の制御方式としては種々可能であり、例えば所定量以上の電圧下でモーターが作動する際に固有の周波パルスを発振するRC発振回路を内蔵し、この発振パルスの感知とこれに基づくモーター作動時間の計測、ならびに薬剤残量への変換を制御する方式を採用することができる。通常、メモリーを備え、タイマーのデータは電源を切っても消失しないように保存される。薬剤残量液晶表示器の形状や表示デザインも任意で、例えば薬剤用途ごとに切り替え可能に棒状の液晶表示器を設けてもよいし、数個の液晶表示が段階的に消えるようにしてもよい。
本発明の薬剤揮散装置では、モーター、CPU、メモリー、液晶表示器用電源として、例えばAC100VにACアダプターを介し半波整流、電圧ドロップ、抵抗、コンデンサー等により作成した1.5〜6.0Vの直流電源、あるいは1.5〜6.0Vの乾電池/又は充電地を用いるが、好ましくは、AC/DC判別回路を内蔵し、AC電源から作成した直流電源を優先的に使用する。このため、例えばACアダプターの先端プラグが薬剤揮散装置のコネクターに接続されると同時に、乾電池/又は充電地からの電源供給が遮断される回路を配設しうる。ここで、モーター作動用電圧を例えば2.0V〜3.0Vとした場合、以下のようなCPUに対する制御プログラムによって、制御を行うことが可能であり、かつこれらの制御を行うことが好ましい。
薬剤用途の種別の識別とその液晶表示の制御、薬剤残量表示機能の制御。
乾電池/又は充電地による電源を採用した場合の残量電圧の計測とその液晶表示の制御(2.0V未満の場合警告表示)。
なお、乾電池/又は充電地の残量電圧については、電圧低下判別回路を内蔵し、CPUが電圧の認識と計測を行うようにすればよい。そして、その液晶表示器の形状や表示デザインは何ら限定されず、前述の薬剤残量液晶表示器と一体化されていても別体であっても構わない。
【実施例】
実施例ならびに試験例に基づいて、本発明の薬剤揮散装置、及びこれを用いた害虫防除方法を更に詳細に説明する。
【実施例1】
実施例1は、図1(a)、(b)、(c)に示すように、板状体を平板形状に構成した場合を示す。
(1) 薬剤の内、殺虫剤として、2,3,4,5,6−ペンタフルオロベンジル−2,2−ジメチル−3−(2−クロロ−2−トリフルオロメチルビニル)シクロプロパンカルボキシレート(化合物I)100mgを、図1(a)に示すように、直径7cm、厚さ2.5mmの平板状円形コートボール紙において中心部から幅3mmで長さ2cmの長孔8を放射状に4本くり貫いた板状体(有孔面積比率:9.4%、目付/厚さによるパラメーター:250g/m・mm)に含浸させることにより、前記aの実施形態としての回転体2を形成した。
前記回転体2を図3(a)に示すように、モーター4と一体形成したことによる薬剤揮散装置1を犬小屋において吊り下げたうえで、3.0Vの乾電池による電源によってモーター4を作動させた。
本薬剤揮散装置1は、1日あたり8時間の使用で延べ30日間にわたり蚊、ユスリカなどの防除に有効で、犬は害虫に悩まされることはなかった。
更に、約240時間後に、通気性薬剤含浸体と乾電池6を交換することによって、更に継続して使用することができた。
(2) 薬剤の内、殺虫剤として、2,3,5,6−テトラフルオロベンジル−2,2−ジメチル−3−(1−プロペニル)シクロプロパンカルボキシレート(化合物B)150mgを、それぞれ、
ポリプロピレン繊維を織合したことによる直径7cm、厚さ2.5mmを有している布を、図1(b)に示すように、外側の円輪状及び放射状を形成している支持体3に張設しし、前記bの実施形態による板状体(目付/厚さによるパラメーター:62g/m・mm)、及び
ポリプロピレン繊維/レーヨン繊維からなり、直径7cm、厚さ10mmを有している複合不織布を、図1(c)に示すように、そのまま採用することによる前記cの実施形態による板状体(目付/厚さによるパラメーター:62g/m・mm)に対し含浸させ、それぞれ円板状の回転体を形成した。
前記回転体2を図3(a)に示すように、モーター4と一体形成したことによる薬剤揮散装置1を30mの部屋の中央に置き、ACアダプター5を100V電源に接続し、DC3.0Vに変換したうえで、モーター4を作動させた。
薬剤揮散装置1は、CPU7によって作動時間が制御され、1日あたり8時間の使用で延べ45日間にわたり蚊の防除に有効であった。
試験例1
前記(1)、(2)の実施例に準じて、モーター作動用電源がDC3.0Vで、有効使用時間が360時間である各種薬剤揮散装置を作製した。
30mの部屋において、開始直後、180時間後及び360時間後に、蚊成虫に対する殺虫効力を調べた。結果は市販の蚊取りリキッドと比べて、以下のような○、△、×によって評価し、併せて表1に示した。
○;市販の蚊取りリキッドと比べて優れる、 △;ほぼ同等、 ×;劣る
【表1】

前記試験例1による試験結果からも明らかなように、前記a、b、cの各実施形態において、平面形状又は平板形状の場合の薬剤揮散装置は、遠心力の作用のみで360時間の長期にわたり優れた殺虫効力を保持し、製造上の面でも極めて有利であった。なお、通気性薬剤含浸体は、その材質を目付/厚さによるパラメーターを基準とした場合、30〜300(g/m・mm)の範囲にあるものがより好ましかった。
前記試験では、回転体2の回転速度を500rpm〜2000rpmという適切な回転数に設定していることもまた、良好な揮散効率の維持に寄与しているものと解される。
【実施例2】
実施例2では、図2(a)、(b)、(c)、(d)に示すように、ファン型の回転体2を採用している。
(1) 薬剤の内、殺虫剤として、常温揮散性薬剤4−メチル−2,3,5,6−テトラフルオロベンジル−2,2−ジメチル−3−(1−プロペニル)シクロプロパンカルボキシレート(化合物E)200mgを厚さ2.8mm、有孔面積比率1%、重量4.7gのシート状の板状体6個によって、図2(a)のように形成した有孔6枚羽根ファン(目付/厚さによるパラメーター:410g/m・mm)に含浸させることによって、回転体2を形成した。
前記(1)による回転体2を、図3(b)に示すように、モーター4と一体形成し、1000rpmの回転数に設定したうえで、衣類が多数収納された6mのクローゼットで使用したところ、1時間当りの薬剤揮散量は0.03mgであった。遠心力と風力の作用でクローゼット内の薬剤拡散性にすぐれ、6ケ月にわたりイガ、コイガ、カツオブシムシなどの衣料害虫の防除に有効であった。なお、およそ6ケ月経過時点でモーターの回転が極端に遅くなったので、ファンと乾電池を新たに交換して更に半年間装置を使用することができた。
(2) 薬剤の内、殺虫剤として、4−メチル−2,3,5,6−テトラフルオロベンジル−2,2−ジメチル−3−(2,2−ジフルオロビニル)シクロプロパンカルボキシレート(化合物F)240mgを厚さ2.8mm、重量4.7gのポリプロピレン繊維を織合した布3個によって、図2(b)のように形成した3枚羽根ファン(目付/厚さによるパラメーター:280g/m・mm)に含浸させることによって、回転体2を形成した。
(3) 薬剤の内、殺虫剤として、4−メトキシメチル−2,3,5,6−テトラフルオロベンジル−クリサンテマート(化合物G)180mgを、総計21枚のポリアミド・パルプ製であって、5mm×30mmの細長い矩形状を呈し、かつ厚さ2.5mmを有している板状体(目付/厚さによるパラメーター:120g/m・mm)に含浸させ、図2(c)に示すように、前記板状体を外側周囲に位置している円輪状の支持体3に係着させた状態にて、等角度に縦に立てて配置し、回転体2を形成した。
前記(2)、(3)による各回転体2を、図3(b)に示すように、モーター4と結合し、1日の内、3時間を回転オンの状態とし、他の21時間をオフとするような間欠制御を行ったうえで、衣類が多数収納された6mのクローゼットで使用したところ、1時間当りの薬剤揮散量は何れの場合も0.1mg程度であった。羽根による風がスポークから薬剤を効率的に拡散させるため、間欠的な作動においても12ケ月にわたり優れた衣料害虫防除効果を示した。
(4) 薬剤の内、殺虫剤として、エムペントリン1000mgを、重量:4g、厚さ:2.0mmを有しており、レーヨン90%とポリプロピレン10%からなる不織布によるメッシュ状板状体4個によって、図2(d)のように形成した4枚羽根ファン(目付/厚さによるパラメーター:250g/m・mm)に含浸させたうえで、プラスチック製の支持体3に取り付けることによって、回転体2を形成した。
前記(4)による回転体2を、図3(b)に示すように、モーター4と結合したうえで、1000rpmの回転数に設定し、1日の内、1時間を回転オンの状態とし、残23時間を回転オフの状態とすることによる間欠制御タイマー(図示せず)を設置したうえで、衣類が多数収納された8mのクローゼットで使用した。間欠制御プログラムにより1日に1時間ファンが作動し、その間の薬剤揮散量は0.8mgであったが、本薬剤揮散装置の場合、ファンの回転が休止中においても一部エムペントリンはファンから揮散した。ファンの作動は間欠的であっても薬剤の拡散性向上に寄与し、12ケ月にわたり衣料害虫の防除に有効であった。また、乾電池の消費電力が小さく、使用期間中乾電池を交換する必要がないという利便性を得ることができた。
試験例2
実施例2に準じて、モーター作動用電源がDC3.0Vで、有効時間が360時間である各薬剤揮散装置を作製した。
6mのクローゼットで6ケ月間使用し、定期的に衣類上にイガ幼虫を放飼して薬剤揮散装置の食害防止効果を調べた。
表1の場合と同じように、前記効果に基づく結果を○、△、×によって評価し、併せて〔表2〕に示した。
【表2】

試験例2の結果からも明らかなように、ファン構成に係る本発明の薬剤揮散装置は、6ケ月間の長期にわたり優れた害虫防除効果を示し、比較例3の従来の薬剤保持体固定タイプに比べて極めて効率的な揮散性能を奏することが認められた。なお、通気性ファンの材質がセルロース基材の場合、目付/厚さパラメーターは、100〜500g/m・mmの範囲が好ましく、またポリオレフィン系プラスチック樹脂を20%まで混入することによって薬剤揮散性の徐放化を調節できることも明らかとなった。
これに対し、比較例1や比較例2のように、ファンの材質として気密性ポリスチレンや高密度ポリプロピレンのような非通気性プラスチック樹脂を採用したものは、薬剤の揮散性が劣り害虫防除効果が低かった。
前記試験では、回転体の回転速度を50rpm〜2000rpmという適切な回転数に設定していることもまた、良好な揮散効率の維持に寄与しているものと解される。
【産業上の利用可能性】
本発明の薬剤揮散装置は、薬剤を効率的に揮散、放出させるので、有効成分を適宜選択したうえで、例えば芳香、消臭、抗菌用途など、害虫防除以外の分野でも実用化が可能である。
【図1】

【図2】

【図3】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
回転に際し、通気が可能である空隙を有している板状体に薬剤を含浸させ、単数又は複数の当該板状体によって形成された回転体に対する回転駆動装置を設けたことによる薬剤揮散装置。
【請求項2】
板状体において、複数個の通気孔を設けたことを特徴とする請求項1記載の薬剤揮散装置。
【請求項3】
回転中心位置から放射状の長孔を複数個設けたことを特徴とする請求項2記載の薬剤揮散装置。
【請求項4】
点在している所定形状の孔を複数個設けたことを特徴とする請求項2記載の薬剤揮散装置。
【請求項5】
通気性を有しているシート又は布を支持体に支持された状態にて張設したことによる板状体を採用することを特徴とする請求項1記載の薬剤揮散装置。
【請求項6】
パルプによるシート、又は天然繊維及び/又は合成繊維を相互に織合したことによる布を採用していることを特徴とする請求項5記載の薬剤揮散装置。
【請求項7】
二次元方向又は三次元方向にメッシュ状態を形成している板状体を採用したことを特徴とする請求項1記載の薬剤揮散装置。
【請求項8】
天然繊維及び/又は合成繊維による不織布によるメッシュ状態を採用したことを特徴とする請求項7記載の薬剤揮散装置。
【請求項9】
プラスチック繊維を相互に交錯させたことによるメッシュ状態を採用したことを特徴とする請求項7記載の薬剤揮散装置。
【請求項10】
回転体が、1個又は複数個の平板形状の板状体であることを特徴とする請求項1、2、3、4、5、6、7、8、9記載の薬剤揮散装置。
【請求項11】
回転体が、複数個の板状体による羽根を有しているファンであることを特徴とする請求項1、2、3、4、5、6、7、8、9記載の薬剤揮散装置。
【請求項12】
天然繊維及び/又は合成繊維を素材としたうえで、板状体に対する目付として、単位面積当りの重量(g/m)を厚さ(mm)で除したパラメーターを採用した場合、当該パラメーターが、30〜300(g/m・mm)の範囲であることを特徴とする請求項10記載の薬剤揮散装置。
【請求項13】
天然繊維及び/又は合成繊維を素材としたうえで、板状体に対する目付として、単位面積当りの重量(g/m)を厚さ(mm)で除したパラメーターを採用した場合、当該パラメーターが、100〜500(g/m・mm)の範囲にあることを特徴とする請求項11記載の薬剤揮散装置。
【請求項14】
駆動装置において、電源からの入力を所定時間毎に開閉状態とする間欠制御装置を設けたことを特徴とする請求項1記載の薬剤揮散装置。
【請求項15】
薬剤として、殺虫剤、又は芳香剤を採用していることを特徴とする請求項1記載の薬剤揮散装置。
【請求項16】
殺虫剤が、エムペントリン、テフラメトリン、及び一般式(I)
【化2】

(式中、X及びYは同一又は相異なって水素原子、メチル基、ハロゲン原子又はトリフルオロメチル基を表し、Zは水素原子、フッ素原子、メチル基、メトキシメチル基又はプロパルギル基を表す)で表されるフッ素置換ベンジルアルコールエステル化合物から選ばれた1種又は2種以上であることを特徴とする請求項15記載の薬剤揮散装置。

【国際公開番号】WO2004/089076
【国際公開日】平成16年10月21日(2004.10.21)
【発行日】平成18年7月6日(2006.7.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−505281(P2005−505281)
【国際出願番号】PCT/JP2004/004899
【国際出願日】平成16年4月5日(2004.4.5)
【出願人】(000207584)大日本除蟲菊株式会社 (184)
【出願人】(593060366)阪神商事株式会社 (1)
【Fターム(参考)】