説明

薬物溶解度勾配を用いた重合体薬物送達システムを含む医療機器

薬物溶解度勾配を有する重合体と混合される薬物を含む薬物送達システムと、重合体を調製する方法とが開示される。また、薬物溶解度勾配を含む重合体および少なくとも1つの薬物を含む皮膜で被覆された医療機器も開示される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、薬物の放出の制御のための薬物溶解度勾配を用いた薬物送達システムを含む医療機器と、薬物溶解度勾配(drug solubility gradients)を作製する方法とに関する。
【背景技術】
【0002】
医療機器の移植は、患者身体内の多様な内科的状態または疾病状態を治療するための比較的一般的な技術となっている。治療対象となる状態に応じて、今日の医療用移植物を患者身体の特定部位内に配置して、当該医療用移植物からの有益な機能を数日から数年にわたる期間にわたって提供することができる。広範かつ多様な医療機器を、本発明の目的のための移植物としてみなすことができる。このような医療機器としては、例えば構造的移植物(例えば、血管用ステントおよび内部足場、交換部品(例えば、血管グラフト)または留置機器(例えば、患者の心臓血管系内の生物活性の監視、測定および修正のためのプローブ、カテーテルおよび微粒子)がある。異なる種類の内科的状態または疾病状態を治療するための他の種類の医療用移植物の例を数例だけ挙げると、留置アクセス機器またはポート、弁、板、障壁、支持部、シャント、円板、および関節などがある。
【0003】
例えば、心臓血管疾病(一般的にアテローム性動脈硬化として知られる)は、相変わらず先進国において主な死因となっている。アテローム性動脈硬化は、血管が狭くなる(狭窄)疾患であり、狭窄が発展して、冠状動脈を形成する狭窄血管を通過する血流が遮断された場合、心臓発作または脳卒中が発生し得る。冠状動脈の狭窄に起因する心臓血管疾病は、閉塞部周囲の冠動脈バイパスグラフト(CABG)または血管形成術と呼ばれる手術のいずれかにより、一般的に治療される。血管形成術において、バルーンカテーテルを閉塞した冠動脈内に挿入し、バルーンが当該血管狭窄に到達するまで、バルーンを進ませる。その後、バルーンを膨張させて、狭窄開口部を変形させ、これにより血流を回復させる。
【0004】
しかし、血管形成術またはバルーンカテーテル挿入の場合、内部血管損傷が発生し得、最終的に、前回開口された動脈内の狭窄血管沈着物が再構成される場合がある。このように、前回開口された動脈が再度閉塞する生物学的プロセスを再狭窄と呼ぶ。再狭窄の可能性を低減するように設計された一つの血管形成術では、後続する工程において、バルーン膨張によって開口された狭窄閉塞内において動脈ステント展開が行われる。血管形成術バルーンの膨張によって狭窄性病変開口部を変形させることにより動脈開放が回復した後、バルーンを収縮させ、狭窄部位にわたる管状穴または血管腔内に血管ステントを挿入する。その後、カテーテルを冠動脈管腔から除去し、展開したステントを開口された狭窄部にわたって移植された状態にして、これにより、血管形成術手術そのものに起因する内部血管損傷に応じて、新規開口された動脈が自然に収縮または狭窄しないようにする。しかし、血管形成術およびステント展開前に行われる血管形成術のうちいくつかの場合、それでも再狭窄が発生し得ることが分かっている。
【0005】
再狭窄を治療するには、いくつかの場合、一般的にはより高侵襲性であるさらなる手術(CABGを含む)が必要となる。その結果、再狭窄の回避のための方法または再狭窄の初期形成の治療のための方法が、積極的に追及されている。再狭窄回避のための1つの有望な方法として、局所侵入または単球の活性化、損傷または感染に反応する白血球を遮断する薬剤を投与し、これにより、当該再狭窄部位における血管内における成長因子の関連分泌(これは、当該血管壁の肥厚およびその後の当該動脈の狭窄の原因となる血管平滑筋細胞(VSMC)の増殖および遊走を誘発し得る)を回避する。代謝阻害剤(例えば、抗腫瘍薬)が、このような目的のための潜在的な抗再狭窄化合物として現在調査されている。しかし、既知の代謝阻害剤を全身投与することに関連する毒性に起因して、より最近では、主に毒性の可能性があるより大量の投与量を患者に投与するのではなく、抗再狭窄化合物を潜在的な再狭窄性病変部内の標的部位に直接配置するように設計されたin situまたは部位特異的な薬物送達の展開が、促進されている。
【0006】
例えば、当該分野において公知の1つの特定の部位特異的な薬物送達技術では、抗再狭窄薬物で被膜された血管ステントが使用される。これらのステントは、損傷を受けた血管の開放または開放性を維持するための機械的構造を提供するだけでなく、抗再狭窄剤を周囲の組織内に直接放出するため、特に有用である。このような部位特異的な送達により、このような薬剤化合物の全身的薬物送達に関連し得る副作用を患者に与えること無く、臨床的に有効な薬物濃度を狭窄部位において局所的に達成することが可能になる。その上、抗再狭窄薬物の局所的なまたは部位特異的な送達により、同様の目的を達成するためのより複雑な特異的細胞標的技術が不要となる。
【0007】
in situ薬物送達の効果における重要な要素として、当該薬物をステントに付着させ、その結果標的部位に送達する方法がある。より具体的には、十分な量の送達可能な薬物を、ステントまたは移植可能な薬物送達賦形剤に放出可能な様態で付着させかつ関連付ける必要がある。典型的には、当該分野において公知のように、抗再狭窄薬物は、非共有結合または共有結合のいずれかを介した移植可能な薬物送達装置(例えば、ステント)の表面との化学結合を介して、表面に放出可能な様態で付着される。非共有結合は一般的には共有結合よりも脆弱であるため、結合された薬物をより容易に放出する。逆に、共有結合による化学結合は一般的により強力であり、結合された薬物によりしっかりと付着するため、取り扱いおよび保存がより容易になる。
【0008】
移植可能な医療機器の表面に薬剤化合物を結合させるための別のアプローチでは、移植物の表面に薬物を直接結合させるのではなく、被膜を用いている。例えば、薬物を重合体層内に組み込むかまたは付加することができ、この重合体層そのものを移植物の表面に付加する。医療用移植物に薬物を装着し、その後送達するための多様な重合体が、当該分野において開発されている。そのような材料について、米国特許第6,278,018号、米国特許第6,214,901号および米国特許第5,858,653号中に開示がある。同文書を本明細書中参照により援用する。
【0009】
上記したように、このようなin situ薬物送達技術および装置の効果および応用における重要な要素は、有効な投与量の薬物を適切な時に適切な期間放出する能力である。ほとんどの関連技術の場合、薬物送達移植物は、薬物を重合体被膜内に拘束または保持し、重合体被膜が患者身体内の通常のプロセスによって分解するかまた薬物が水性環境または湿潤環境内に入って重合体被膜から単に拡散すると、薬物を放出する重合体で被膜される。典型的には、これらの薬物放出メカニズムに起因して、ダンピングとして知られる、拘束された薬物の大部分が比較的短時間で相対的に突然に放出される現象が、発生する。
【0010】
さらに、このような突然の放出プロファイルに起因して、標的部位に送達される薬物の量が、経時的に短時間で逓減する。その結果、移植後のごく短時間に有効な薬物投与量が送達される。その結果、薬物の投与量が有効投与量よりも少なくなり得る。従って、これらの関連技術による薬物放出のための被膜技術は有用かつ有望であるものの、薬物放出プロファイルおよび関連する薬物投薬量を経時的に制御することが可能な、医療用移植物を用いた部位特異的な薬物送達技術が強く求められている。本発明の目的は、上記および他の要求に対処することである。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0011】
本明細書に開示される本発明により、勾配重合体被膜(gradient polymer coating)を有する移植可能な医療機器を提供する。この重合体被膜は、薬物の放出制御を可能にする勾配重合体から構成される薬物溶解度勾配を有する。
【0012】
本発明の一実施形態において、重合体と混合された薬物を含む放出制御型薬物送達システムを含む医療機器が提供される。前記重合体は薬物溶解度勾配を含む。本発明の一実施形態において、混合される薬物は疎水性である。本発明の別の実施形態において、混合される薬物は親水性である。さらに別の実施形態において、重合体薬物溶解度勾配が、ε−カプロラクトン、ポリエチレングリコール(PEG)、トリメチレンカーボネート、ラクチド、グリコリド、p−ジオキサノン、メチルメタクリレート、エチルアクリレート、プロピルメタクリレート、ブチルメタクリレート、ペンチルメタクリレート、ヘキシルメタクリレート、ヘプチルメタクリレート、オクチルメタクリレート、ドデシルメタクリレート、2−(エトキシエチルメタクリレート)、グリシジルメタクリレート、ポリ(エチレングリコール)メタクリレート、メチルアクリレート、エチルアクリレート、プロピルアクリレート、ブチルアクリレート、ペンチルアクリレート、ヘキシルアクリレート、ヘプチルアクリレート、オクチルアクリレート、ドデシルアクリレート、2−エトキシエチルアクリレート、グリシジルアクリレート、ポリ(エチレングリコール)アクリレート、N−ビニルピロリジノン、およびその誘導体からなる群から選択された少なくとも2つの単量体を含む医療機器が提供される。さらに別の実施形態において、前記単量体がヘキシルメタクリレートおよびN−ビニルピロリジノンを含む医療機器が提供される。
【0013】
本発明の別の実施形態において、薬物が、FKBP−12結合剤、エストロゲン、シャペロン阻害剤、プロテアーゼ阻害剤、タンパク質チロシンキナーゼ阻害剤、レプトマイシンB、ペルオキシソーム増殖因子活性化受容体γリガンド(PPARγ)、ヒポテマイシン、一酸化窒素、ビスフォスフォネート、上皮成長因子阻害剤、抗体、プロテアソーム阻害剤、抗生物質、抗炎症薬、アンチセンスヌクレオチドおよび形質転換核酸からなる群から選択される医療機器が提供される。
【0014】
本発明の別の実施形態において、薬物が、シロリムス(ラパマイシン)、タクロリムス(FK506)、エベロリムス(サーティカン)、テムシロリムス(CCI−779)およびゾタロリムス(ABT−578)からなる群から選択された少なくとも1つの化合物を含む医療機器が提供される。本発明の別の実施形態において、薬物はゾタロリムスを含む。本発明のさらに別の実施形態において、医療機器は1つよりも多くの薬物を含む。
【0015】
本発明の別の実施形態において、薬物溶解度勾配は、相対的疎水性がより高い領域および相対的親水性がより高い領域を含む。本発明の別の実施形態において、疎水性がより高い領域および相対的親水性がより高い領域は、連続的勾配を含む。本発明のさらに別の実施形態において、疎水性がより高い領域および相対的親水性がより高い領域は、非連続的勾配を含む。
【0016】
本発明の別の実施形態において、医療機器は、血管ステント、ステントグラフト、尿道ステント、胆管ステント、カテーテル、ガイドワイヤー、ペースメーカーリード、骨ねじ、縫合、および人工心臓弁からなる群から選択される。本発明のさらに別の実施形態において、医療機器は血管ステントである。
【0017】
本発明の別の実施形態において、医療機器は血管ステントであり、前記血管ステントは放出制御型薬物送達システムを含み、前記放出制御型薬物送達システムは、薬物溶解度勾配を含む重合体と混合された薬物であって、前記重合体はヘキシルメタクリレートおよびN−ビニルピロリジノンを含む薬物を含む。
【0018】
本発明の別の実施形態は、薬物溶解度勾配を作製する方法を含む。前記方法は、少なくとも1つの単量体をさらに含む第1のチャージ溶液(charge solution)を重合を促進させる条件下で調製する工程を含む。前記方法は、少なくとも1つの単量体を含む少なくとも1つのさらなるチャージ溶液を調製する工程をさらに含む。さらなるチャージ溶液は、第1のチャージ溶液に添加され、反応させられる。所望の重合度に到達するまで、第1のチャージ溶液およびさらなるチャージ溶液を反応させる。本発明において、さらなるチャージ溶液は2〜10のチャージ溶液を含む。
【0019】
本発明の別の実施形態において、添加工程は、第1のチャージ溶液へさらなるチャージ溶液を連続的に添加することを含む。本発明のさらに別の実施形態において、添加工程は、第1の溶液へさらなるチャージ溶液を非連続的に添加することを含む。
【0020】
本発明の別の実施形態において、前記方法は、少なくとも1つの単量体を含む第3の溶液を調製する工程と、第3の溶液を第1の溶液およびさらなるチャージ溶液の混合物に添加する工程とを含む。所望の重合度に到達するまで、第1の溶液、さらなるチャージ溶液、および第3の溶液を反応させる。
【0021】
本発明の別の実施形態において、単量体は、ε−カプロラクトン、ポリエチレングリコール(PEG)、トリメチレンカーボネート、ラクチド、グリコリド、p−ジオキサノン、メチルメタクリレート、エチルアクリレート、プロピルメタクリレート、ブチルメタクリレート、ペンチルメタクリレート、ヘキシルメタクリレート、ヘプチルメタクリレート、オクチルメタクリレート、ドデシルメタクリレート、2−(エトキシエチルメタクリレート)、グリシジルメタクリレート、ポリ(エチレングリコール)メタクリレート、メチルアクリレート、エチルアクリレート、プロピルアクリレート、ブチルアクリレート、ペンチルアクリレート、ヘキシルアクリレート、ヘプチルアクリレート、オクチルアクリレート、ドデシルアクリレート、2−エトキシエチルアクリレート、グリシジルアクリレート、ポリ(エチレングリコール)アクリレート、N−ビニルピロリジノン、およびその誘導体を含む群から選択される。
【0022】
本発明のさらに別の実施形態において、薬物溶解度勾配は少なくとも1つの薬物をさらに含む。別の実施形態において、薬物は、FKBP−12結合剤、エストロゲン、シャペロン阻害剤、プロテアーゼ阻害剤、タンパク質チロシンキナーゼ阻害剤、レプトマイシンB、ペルオキシソーム増殖因子活性化受容体γリガンド(PPARγ)、ヒポテマイシン、一酸化窒素、ビスフォスフォネート、上皮成長因子阻害剤、抗体、プロテアソーム阻害剤、抗生物質、抗炎症薬、アンチセンスヌクレオチドおよび形質転換核酸からなる群から選択される。本発明の別の実施形態において、薬物は、シロリムス(ラパマイシン)、タクロリムス(FK506)、エベロリムス(サーティカン)、テムシロリムス(CCI−779)およびゾタロリムス(ABT−578)からなる群から選択された少なくとも1つの化合物を含む。
【0023】
本発明のさらに別の実施形態において、前記方法は、薬物溶解度勾配を含む重合体を血管ステント上にコーティングする工程を含む。
さらに別の実施形態において、前記方法は、薬物溶解度勾配を含む重合体から血管ステントを製造する工程をさらに含む。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】本発明の教示に従って作製された勾配重合体で被膜された血管ステントからのABT−578の放出を示す。
【図2】本発明の教示による例示的な薬物溶解度勾配を図示する。
【図3】本発明の教示による薬物溶解度勾配の一実施形態を図示する。
【図4】本発明の教示による薬物溶解度勾配の一実施形態を図示する。
【発明を実施するための形態】
【0025】
(用語の定義)
両親媒性:本明細書において、「両親媒性」とは、親水性薬物および疎水性薬物のどちらに対しても比較的均等な親和性を有する重合体または重合体領域を指す。
【0026】
主鎖:本明細書において、「主鎖」とは、本発明の重合体または共重合体の主鎖を指す。本明細書において、「ポリエステル主鎖」とは、エステル結合を含む生分解性高分子の主鎖を指す。本明細書において、「ポリエーテル主鎖」とは、エーテル結合を含む生分解性高分子の主鎖を指す。例示的なポリエーテルとして、ポリエチレングリコール(PEG)がある。
【0027】
生体適合性:本明細書において、「生体適合性」とは、動物の損傷または死亡の原因とならず、かつ、動物の組織と密接に接触した様態で配置された際に当該動物内の有害反応を誘起しない任意の材料を意味する。有害反応の例としては、炎症、感染、線維化組織の形成、細胞死または血栓形成がある。
【0028】
共重合体:本明細書において、「共重合体」とは、2つ以上の異なる単位(例えば、単量体)の同時重合または段階重合によって生成される高分子である。共重合体は、2元重合体(2つの異なる単位)、3元重合体(3つの異なる単位)などを含む。
【0029】
放出制御:本明細書において、「放出制御」とは、医療機器表面からの生物活性化合物の所定の速度での放出を指す。放出制御という用語が暗示しているのは、当該生物活性化合物が当該医療機器表面から散発的かつ予測不可能な様態で放出されず、かつ、生物学的環境との接触時に当該機器から「バースト」されない(ただし、明確にそのようなことを意図する場合を除く)ことである(本明細書中一次速度論とも呼ぶ)。しかし、本明細書において、「放出制御」という用語は、展開に関連する「バースト現象」を除外しない。本発明のいくつかの実施形態において、薬物を初期バーストさせた後、より段階的に放出させることが望ましい場合があり得る。放出速度は安定状態(一般的に「徐放」または0次速度論)でよく、すなわち、当該薬物を所定時間にわたって均等量ずつ放出する(初期バーストフェーズはあってもなくてもよい)。あるいは、放出速度は勾配放出であってもよい。勾配放出は、機器表面から放出される薬物の濃度が経時的に変化することを暗示する。
【0030】
薬物(単数または複数):本明細書において、「薬物」とは、動物内において治療効果を有する任意の生物活性剤または薬剤化合物を含む。例示的な非限定的例としては、抗増殖剤(例えば、マクロライド抗生物質(例えば、FKBP12結合化合物)、エストロゲン、シャペロン阻害剤、プロテアーゼ阻害剤、タンパク質チロシンキナーゼ阻害剤、レプトマイシンB、ペルオキシソーム増殖因子活性化受容体γリガンド(PPARγ)、ヒポテマイシン、一酸化窒素、ビスフォスフォネート、上皮成長因子阻害剤、抗体、プロテアソーム阻害剤、抗生物質、抗炎症薬、アンチセンスヌクレオチドおよび形質転換核酸を含むが、これに限定されない)が挙げられる。薬物とは、生物活性剤(例えば、抗増殖剤化合物、細胞増殖抑制性化合物、毒性化合物、抗炎症化合物、化学療法剤、鎮痛剤、抗生物質、プロテアーゼ阻害剤、スタチン、核酸、ポリペプチド、成長因子および送達ベクター(組み換え微生物、リポソームを含む))なども指す。
【0031】
例示的なFKBP12結合化合物としては、シロリムス(ラパマイシン)、タクロリムス(FK506)、エベロリムス(サーティカンまたはRAD−001)、テムシロリムス(CCI−779または3−ヒドロキシ−2−(ヒドロキシメチル)−2−メチルプロピオン酸との無定形ラパマイシン42−エステル)、およびゾタロリムス(ABT−578)がある。さらに、他のラパマイシンヒドロキシエステルを本発明の薬物送達システムと共に用いてもよい。
【0032】
薬物溶解度勾配(drug solubility gradient):本明細書において、「薬物溶解度勾配」とは、材料全体において異なる比の単量体を有する重合体を設けることで、得られる材料全体にわたって疎水性および/または親水性単量体の指向性勾配(directional gradient)または選択的に(alternatively)非均等な分布を有する重合体である。
【0033】
延性:本明細書において、「延性」または「延性の」とは、動作温度において折り曲げ、応力付加または歪みを受けた際の、当該重合体の破壊(fracture)または亀裂(cracking)に対する耐性によって特徴付けられる重合体属性である。本発明の重合体被膜組成物に関連して用いられる場合、被膜の通常の動作温度は、室温と、身体温度との間(すなわち、およそ15℃〜40℃)である。規定された環境における重合体耐久性は、その弾性/延性の関数であることが多い。
【0034】
ガラス転移温度(Tg):本明細書において、「ガラス転移温度」(Tg)とは、重合体の構造が弾性的に可撓な状態から剛性かつ脆性の状態に転移する温度を指す。
【0035】
親水性薬物:薬物に関連して本明細書において、「親水性」という用語は、水中溶解度が1ミリリットル当たり200マイクログラム超である生物活性剤を指す。
【0036】
親水性:重合体に関連して本明細書において、「親水性」という用語は、50%よりも高い親水性単量体を含みかつ親水性薬物に対して親和性を有する重合体または重合体領域を指す。
【0037】
疎水性薬物:薬物に関連して本明細書において、「疎水性」という用語は、水中溶解度が1ミリリットル当たり200マイクログラム未満の生物活性剤を指す。
【0038】
疎水性:重合体に関連して本明細書において、「疎水性」という用語は、50%よりも高い疎水性単量体を含みかつ疎水性薬物に対して親和性を有する重合体または重合体領域を指す。
【0039】
n:本明細書において、Mnとは、数平均分子量を指し、数学的には以下の式によって表される:
n=Σiii/Σii
(式中、Niは、重量がMiであるモル数である)。
【0040】
w:本明細書において、Mwとは、所与の重合体が持ち得る平均重量である重量平均分子量を指し、数学的には、以下の式によって表される:
w=Σiii2/Σiii
(式中、Niは、重量がMiであるモル数である)。
【0041】
(発明の詳細な説明)
本発明により、薬物放出の制御のための薬物溶解度勾配を含む薬物送達システムと、前記勾配を作製する方法とを提供する。薬物溶解度勾配を含む重合体と可逆的に結合された1つ以上の薬物の放出プロファイルを制御することにより、有効量の生物活性剤の徐放標的型in situ薬物送達を可能にする。さらに、本発明の勾配重合体は、薬物溶出速度を変更しかつ多様な薬物を溶出させるよう、調整および修正可能である。
【0042】
重合体中の薬物溶解度勾配は、重合体の合成時に単量体供給時(重合プロセス時の単量体の添加時)の濃度および組成を経時的に変更することにより、形成される。薬物溶解度勾配の形成は、温度、圧力および単量体比の変更と、合成時の選択とを含む。
【0043】
薬物溶解度勾配を有する重合体は、2つ以上の重合性単量体(ε−カプロラクトン、ポリエチレングリコール(PEG)、トリメチレンカーボネート、ラクチド、グリコリド、p−ジオキサノン、メチルメタクリレート、エチルメタクリレート、プロピルメタクリレート、ブチルメタクリレート、ペンチルメタクリレート、ヘキシルメタクリレート、ヘプチルメタクリレート、オクチルメタクリレート、ドデシルメタクリレート、2−(エトキシエチルメタクリレート)、グリシジルメタクリレート、ポリ(エチレングリコール)メタクリレート、メチルアクリレート、エチルアクリレート、プロピルアクリレート、ブチルアクリレート、ペンチルアクリレート、ヘキシルアクリレート、ヘプチルアクリレート、オクチルアクリレート、ドデシルアクリレート、ポリ(エチレングリコール)アクリレート、N−ビニルピロリジノンおよびその誘導体があげられるが、これに限定されない)から形成される。
【0044】
重合体内の薬物溶解度勾配は、前記理論に拘束されることなく、生理的溶液および溶出すべき薬物の双方にとって局所的に良好な環境を提供することにより、有効な薬物溶出プロファイルをサポートする。親水性薬物と相溶性である単量体を使用した場合、親水性薬物の重合体に対する物理的引力を増加することができ、疎水性薬物と相溶性である単量体を使用した場合、疎水性薬物の重合体に対する物理的引力を増加することができる。重合体の領域の疎水性、親水性および/または両親媒性は、合成時の適切な単量体の濃度および組成物を増加または低減することにより、調整することができる。
【0045】
図2は、本発明の薬物溶解度勾配の一実施形態を示す。図2は、領域A〜領域Gを含む薬物溶解度勾配を有する重合体を示す。領域A〜領域Gはそれぞれ、異なる相対的疎水性を表す。例えば、非限定的に、図2の勾配重合体は連続的なものであり得、この勾配重合体において、領域Aは相対的疎水性が高い領域であり、各後続領域A〜Fは相対的疎水性がより低い領域を表し、領域Gは重合体において最も相対的疎水性が低い領域を表す。図4は本発明の一実施形態を示し、薬物溶解度勾配は、相対的疎水性が高い組成物から相対的親水性が高い組成物(相対的疎水性が低い)へと連続している。逆に、別の非限定的例において、領域Aは最も低い相対的疎水性を有し、領域Gは最も高い相対的疎水性を有する。高疎水性から低疎水性への転移時において、両親媒性領域が存在し得る。
【0046】
さらに、本発明の薬物溶解度勾配は、非連続であってもよい。再度図2を参照すると、本発明の非連続的薬物溶解度勾配において、領域A〜領域Gはそれぞれ、異なる相対的疎水性を含む。例えば、限定的されるものではなく、かつ図3において示されるように、領域Aは高い相対的疎水性を有し、領域Bは両親媒性であり、領域Cは相対的親水性が高く、領域Dは高い相対的疎水性を有する。非連続的薬物溶解度勾配内の領域の数は、図2または図3のいずれかに示す領域に限定されず、合成プロセス中の工程数のみによって限定される任意の数の領域でよい。
【0047】
一般的に、本発明の重合体は、以下の方法によって合成される。1つ以上のさらなる単量体を含むさらなる溶液を所定の速度で反応混合物中に注入するのと同時に、選択された単量体を重合させる。反応混合物中へ単量体を注入することにより、勾配を確立することができる。
【0048】
より具体的には、少なくとも1つの単量体の別の溶液であるチャージ溶液2を所定の速度で少なくとも1つの単量体の溶液であるチャージ溶液1中に注入しながら、チャージ溶液1を重合させる。本発明重合体は、少なくとも2つのチャージ溶液で合成される。各チャージ溶液は、少なくとも1つの重合性単量体を含む。一実施形態において、重合体は3つのチャージ溶液で合成される。本発明の別の実施形態において、重合体は4つのチャージ溶液で合成される。さらに別の実施形態において、重合体は、100個までのチャージ溶液で合成される。各チャージ溶液は、少なくとも1つの単量体を含み、特定の重合体を合成するためのチャージ溶液と同一であるかまたは異なる単量体から構成される。
【0049】
本発明の一実施形態において、第2以降のチャージ溶液が、第1のチャージ溶液に順次添加される。別の実施形態において、第1のチャージ溶液中の反応の開始後、第2以降のチャージ溶液は、任意の順序で任意の時間において任意の組み合わせで添加される。
【0050】
本発明の別の実施形態において、第2以降のチャージ溶液は、一定速度または非連続的速度で第1のチャージ溶液に添加される。
【0051】
非限定的例において、重合体中の薬物溶解度勾配は、重合体の合成成長にわたる単量体の濃度または組成を連続的に変化させることにより、確立される。例えば、非限定的勾配は、50:50の比の単量体Aおよび単量体Bを含むチャージ溶液1から開始し、75:25の比の単量体Aおよび単量体Bを含むチャージ溶液2を所定の速度で反応混合物中に注入することにより、確立される。
【0052】
別の実施形態において、さらなる勾配は、合成プロセス時にさらなる異なる単量体を加えることにより、確立される。非限定的例において、勾配形成は、50:50の比の単量体Aおよび単量体Bを含むチャージ1溶液から開始し、50:25:25の比単量体A、単量体Bおよび単量体Cを含むチャージ2溶液を反応混合物に添加し、これにより最終重合体中に勾配を生成する。
【0053】
別の例示的な実施形態において、さらなる勾配の確立は、50:50の比の単量体Aおよび単量体Bを含むチャージ溶液1から開始し、単量体A、単量体Bまたは第3の種類の単量体を含む単一の単量体を含むチャージ溶液2を添加する。同一であるかまたは異なる単量体を同一であるかまたは異なる比で含むさらなるチャージ溶液を、必要に応じて反応混合物に添加する。
【0054】
本発明による薬物溶解度勾配を有する重合体は、薬物の局所的部位への送達および放出制御において放出制御型薬物送達システムを有用にする治療用薬物と混合された場合、放出制御型薬物送達システムを形成する。一実施形態において、少なくとも1つの薬物が薬物送達システム内に組み込まれる。本発明の薬物溶解度勾配を含む重合体からの放出に適した薬物としては、抗増殖剤化合物、細胞増殖抑制性化合物、毒性化合物、抗炎症化合物、化学療法剤、鎮痛剤、抗生物質、プロテアーゼ阻害剤、スタチン、核酸、ポリペプチド、成長因子および送達ベクター(組み換え微生物、リポソームなどを含む)(ただし、これらに限定されない)が挙げられる。
【0055】
本発明の一実施形態において、制御可能な様態で重合体から放出される薬物を挙げると、FKBP−12結合剤を含むマクロライド抗生物質(ただし、これに限定されない)がある。このクラスの例示的な薬物を挙げると、シロリムス(ラパマイシン)(式2)、タクロリムス(FK506)、エベロリムス(サーティカンまたはRAD−001)、テムシロリムス(CCI−779)およびゾタロリムス(ABT−578;USPN第6,015,815号およびUSPN第6,329,386号を参照)(式1)がある。さらに、USPASN第10/930,487号中に開示されているような3−ヒドロキシ−2−(ヒドロキシメチル)−2−メチルプロピオン酸との非晶質ラパマイシン42−エステルと、USPN第5,362,718号中に開示されているような他のラパマイシンヒドロキシエステル(テムシロリムスを含む)とを本発明の重合体と組み合わせて用いてもよい。上記の特許および特許出願全てについては、教示内容がFKBP−12結合化合物およびその誘導体に関連しているため、その内容全体を本明細書中参照により援用する。
【0056】
本発明の薬物送達システムは、移植可能な医療機器(例えば、血管ステント、ステントグラフト、尿道ステント、胆管ステント、カテーテル、ガイドワイヤー、ペースメーカーリード、骨ねじ、縫合および人工心臓弁を含むが、これに限定されない)をコーティングする際に、特に有用である。さらに、本発明の重合体は、医療機器(例えば、血管ステント、ステントグラフト、尿道ステント、胆管ステント、カテーテル、ガイドワイヤー、ペースメーカーリード、骨ねじ、縫合および人工心臓弁(ただし、これらに限定されない))を製造するのに適している。本発明の一実施形態において、本発明の薬物送達システムは、血管ステントをコーティングするために用いられる。
【0057】
本発明はまた、ガラス転移温度(Tg)を含む可変特性を有する、薬物溶解度勾配を含む重合体も提供する。重合体の物理的特性は、その意図する用途に合わせて重合体が最適に機能を発揮するように、微調整することができる。微調整可能な特性を非限定的に挙げると、Tg、分子量(MnおよびMw双方)、多分散度指数(PDI、Mw/Mnの商)、ならびに弾性度および両親媒性度がある。
【0058】
本発明の一実施形態において、薬物溶解度勾配を含む重合体のTgは、約−10℃〜約85℃である。別の実施形態において、Tgは約0℃〜約40℃である。別の実施形態において、Tgは約10℃〜約35℃である。別の実施形態において、Tgは約15℃〜約30℃である。別の実施形態において、Tgは約20℃〜約25℃である。本発明のさらに別の実施形態において、薬物溶解度勾配を含む重合体のPDIは、約1.3〜約4.0である。さらに別の実施形態において、PDIは約1.5〜約3.5である。さらに別の実施形態において、PDIは約2.0〜約3.0である。さらに別の実施形態において、PDIは約2.5〜約2.7である。
【0059】
重合体からの薬物溶出は、重合体密度を含む多くの要素に依存する。溶出されるべき薬物は、多様な特性のうち特に当該重合体の分子的性状およびTgに依存する。Tgがより高くなると(例えば40℃を超える温度になると)、重合体の脆性がより高くなり、Tgがより低くなると(例えば40℃よりも低くなると)、重合体の可撓性および弾性がより高くなる。本発明において、重合体の弾性および可撓性を温度の関数として変化させることができるように、Tgを制御することができる。機械的特性により、重合体の用途が決定される。例えば、高いTgを有する重合体からは薬物溶出が低速である一方、低いTgを有する重合体の場合、より高速の薬物溶出が観察される。
【0060】
比較的高いTgを有する被膜重合体の場合、医療機器は、不適切な薬物溶出特性および望ましくない脆性を持ち得る。重合体でコーティングされた血管ステントの場合、被膜重合体中のTgが比較的低いと、血管ステントの展開に影響が出る。例えば、Tgが低い重合体被膜は「粘着性」であり、展開時に血管ステントを拡張させるために用いられるバルーンに付着して、その結果、ステントの展開において問題を引き起こし得る。しかし、Tgが低い重合体の場合、Tgがより高い重合体と比較して所与の温度においてより高弾性であるという有益な特徴を有する。重合体で被膜された血管ステントが拡張および収縮すると、機械的応力が被膜に加えられる。被膜の脆性が高すぎる場合(すなわち、被膜が比較的高いTgを有する場合)、被膜は破壊し得、その結果恐らくは被膜は動作不可能となる。被膜が弾性である場合(すなわち、比較的低いTgを有する場合)、被膜に付加される応力が被膜の構造的完全性を機械的に変化させる可能性は低くなる。従って、本発明の薬物溶解度勾配を含む重合体のTgは、単量体組成物および合成条件の組み合わせにより、適切な被膜用途に合わせて微調整することができる。本発明の薬物溶解度勾配を含む重合体は、調節可能な物理的特性を有するように設計され、これにより、実行者は、選択された機能に合わせて適切な重合体を選択することができる。
【0061】
本発明の薬物溶解度勾配を含む重合体を調整または修正するには、多様な特性(Tg、接続性、分子量および熱特性(を含むが、これらに限定されない))が考えられる。
【0062】
本発明において、薬物溶解度勾配を含む重合体における疎水性と親水性との間のバランスが制御され、広範囲の薬物に合わせて微調整することができる。例えば、勾配重合体の疎水性が増加すると、勾配重合体の疎水性薬物との相溶性が増加する。さらに、勾配重合体は、特定の医療機器に付着するように微調整することができる。
【0063】
記載される方法は、移植可能な医療機器の一部のみをコーティングすることで、医療機器が被膜による有益な効果が得られる部位と、被膜されていない部位とを含むようにする際にも、有用である。被膜工程を繰り返してもよいし、あるいは、同一被膜または異なる被膜の複数の層が得られるように前記方法を組み合わせてもよい。一実施形態において、各被膜層は、異なる重合体または同一の重合体を含む。別の実施形態において、各層は、同一の薬物または異なる薬物を含む。さらに、薬物溶解度勾配を含む重合体で被膜された医療機器は、トップまたはキャップ被膜をさらに含み得る。ここで用いられるキャップ被膜は、別の被膜上に加えられる最外被膜層を指す。薬物を放出する薬物溶解度勾配を含む重合体被膜は、必要に応じてプライマー被膜上に加えられる。重合体キャップ被膜は、薬物を放出する勾配重合体被膜上に加えられる。キャップ被膜は、薬物放出をさらに制御するかまたは別個の薬物を提供するように、必要に応じて拡散障壁として機能し得る。キャップ被膜は、ステントを保護するために送られた薬物溶解度勾配の表面に加えられた生体適合性重合体のみであり得、溶出速度に何の影響も与えない。
【0064】
本発明の薬物溶解度勾配を含む重合体被膜を形成するために用いられる材料の種類に応じて、当該分野において公知であるかまたは開発された被膜プロセスのいずれかにより、下塗りされているかまたはむき出し状態の医療機器の表面に被膜を付加することができる。本発明に適合する付加方法を挙げると、噴霧、ディッピング、はけ塗り、真空蒸着など(ただし、これらに限定されない)がある。1つの方法では、勾配重合体を移植物の表面に直接結合させる。重合体被膜を機器に直接付着させることにより、共有結合の化学結合技術が用いられる。一般的に、機器表面はその表面上に、化学官能基(例えば、用いられる活性化合物上の同様の基と共に強力な化学結合を形成する、カルボニル基、1級アミン、ヒドロキシル基、またはシラン基)を有する。このような化学官能基が無い場合、公知の技術を用いて、材料の表面を活性化させた後、生物学的化合物を結合させることができる。表面活性化は、化学的技術または物理的技術(例えば、イオン化、加熱、光化学活性化、酸化性酸、および強力な有機溶媒によるエッチング(ただし、これらに限定されない))を用いた、反応性化学官能基を生成または生産するプロセスである。
【0065】
あるいは、勾配重合体被膜は、中間層を通じて、機器の表面に間接的に結合させてもよい。この中間層は、固定された基板表面に共有結合してもよいし、あるいは、分子間引力(例えば、イオン力またはファンデルワールス力)を通じて結合してもよい。本発明の範囲内において一般的に用いられる中間層の例を挙げると、有機重合体(例えば、シリコーン、ポリアミン、ポリスチレン、ポリウレタン、アクリレート、メトキシシランなど(ただし、これらに限定されない))がある。
【0066】
本発明の教示によれば、医療機器に、非腐食性のベース被膜を設けてもよい。ベース被膜は、前記機器の生体適合性を向上させるように、設けることができる。例示的なベース被膜は、ポリウレタン、シリコーンおよびポリシランからなる群から選択することができる。利用可能な他の重合体を挙げると、ポリオレフィン、ポリイソブチレンおよびエチレン−アルファオレフィン共重合体、アクリル重合体および共重合体、エチレン−酢酸ビニル共重合物、ポリブチルメタクリレート、ハロゲン化ビニル重合体および共重合体(例えば、ポリ塩化ビニル)、ポリビニルエーテル(例えば、ポリビニルメチルエーテル)、ポリハロゲン化ビニリデン(例えば、ポリフッ化ビニリデンおよびポリ塩化ビニリデン)、ポリアクリロニトリル、ポリビニルケトン、ポリビニル芳香族(例えば、ポリスチレン)、ポリビニルエステル(例えば、ポリ酢酸ビニル)、ビニル単量体の相互の共重合体およびオレフィン(例えば、エチレン−メチルメタクリレート共重合体、アクリロニトリル−スチレン共重合体、ABS樹脂、およびエチレン−酢酸ビニル共重合体)、ポリアミド(例えば、ナイロン66およびポリカプロラクタム)、ポリカーボネート、ポリオキシメチレン、ポリイミド、ポリエーテル、エポキシ樹脂、ポリウレタン、レーヨン、レーヨン−トリアセテート、セルロース、酢酸セルロース、酪酸セルロース、酢酸酪酸セルロース、セロファン、硝酸セルロース、プロピオン酸セルロース、セルロースエーテル、およびカルボキシメチルセルロースがある。本発明の教示に従って、ベース被膜は、非限定的に、抗生物質、抗炎症剤、潤滑性向上剤、抗凝固剤、代謝拮抗剤、抗血栓薬、免疫抑制剤、筋弛緩薬、タンパク質、ペプチドおよびホルモンも含み得る。
【実施例】
【0067】
以下の非限定的例において、本発明の教示による例示的な重合体の合成方法を提供する。
【実施例1】
【0068】
実施例1は、ヘキシルメタクリレートおよびN−ビニルピロリジノンを含む勾配を有する共重合体Aの合成を示す。
【0069】
チャージ番号1の溶液をを以下のようにして調製した。磁気撹拌子を備えた瓶に、0.6gのN−ビニルピロリジノン、2.4gのヘキシルメタクリレート、13gの2−ブテノンおよび75mgのアゾビスイソブチロニトリルを投入した。瓶を密封し、攪拌し、および20分間窒素でパージした。
【0070】
チャージ番号の2溶液を以下のようにして調製した。磁気撹拌子を備えた瓶に、7.2gのN−ビニルピロリジノン、7.2gのヘキシルメタクリレート、14.4gの2−ブテノンおよび108mgのアゾビスイソブチロニトリルを投入した。瓶を密封し、攪拌し、および20分間窒素でパージした。
【0071】
注射器ポンプを介してチャージ番号2の溶液をチャージ番号1の溶液中に6時間の間ポンプ輸送(4mL/時間)(合計注入量は24mL)しながら、チャージ番号1の瓶を水浴中で加熱(60℃)した。重合体溶液をヘキサン(400mL)の冷却溶液(−60℃)に注入し、重合体を沈殿させた。沈殿した重合体を温ヘキサン(50℃)に溶解させ、溶液を冷却(−60℃)して、重合体を再度沈殿させた。沈殿した重合体をクロロホルムに溶解させ、テフロン(登録商標)トレイ上に噴霧し、重合体を真空下で45℃で乾燥させた。
【0072】
特性化データ:Mw=70,000、PDI=1.62、平均で78%のヘキシルメタクリレートおよび22%のN−ビニルピロリジノン。
【実施例2】
【0073】
実施例2は、ヘキシルメタクリレートおよびN−ビニルピロリジノンを含む勾配を有する共重合体Bの合成を示す。
【0074】
チャージ番号1の溶液を以下のようにして調製した。磁気撹拌子を備えた瓶に、2.47gのN−ビニルピロリジノン、0.63gのヘキシルメタクリレート、3.14の1,4ジオキサンおよび23mgのアゾビスイソブチロニトリルを投入した。瓶を密封し、攪拌し、および20分間窒素でパージした。
【0075】
チャージ番号2の溶液を以下のようにして調製した。磁気撹拌子を備えた瓶に、3.62gのN−ビニルピロリジノン、10.97gのヘキシルメタクリレート、14.56gの1,4ジオキサン、および108mgのアゾビスイソブチロニトリルを投入した。瓶を密封し、攪拌し、および20分間窒素でパージした。
【0076】
注射器ポンプを介してチャージ番号2の溶液をチャージ番号1の溶液中に6時間の間ポンプ輸送(4mL/時間)(合計注入量は24mL)しながら、チャージ番号1の瓶を水浴中で加熱(60℃)した。重合体溶液をヘキサン(400mL)の冷却溶液(−60℃)中に注入し、重合体を沈殿させた。沈殿した重合体を温ヘキサン(50℃)に溶解させ、溶液を冷却(−60℃)して、重合体を再度沈殿させた。沈殿した重合体をクロロホルムに溶解させ、テフロン(登録商標)トレイ上に噴霧し、重合体を真空下で45℃で乾燥させた。
【0077】
特性化データ:Mw=219,000、PDI=1.86、平均で72%のヘキシルメタクリレートおよび28%のN−ビニルピロリジノン。
【実施例3】
【0078】
実施例3は、本発明の放出制御型勾配組成重合体を備えた血管ステントの被膜を示す。
【0079】
クロロホルム中の勾配重合体(例えば、実施例1および実施例2に記載のもの)ならびにABT−578(重合体:薬物比は重量比で70:30)の1%溶液を、血管ステント上に噴霧し、乾燥させて、血管ステント上に放出制御被膜を生成した。その後、血管ステントを30日間まで溶媒に曝露させ、ステントから溶媒中への薬物放出を高速液体クロマトグラフィー(HPLC)によって測定した。図1に示すように、ABT−578の放出は、2つの異なる勾配重合体(実施例1および実施例2において合成された勾配重合体Aおよび勾配重合体B)それぞれから良好に制御された。
【0080】
他に明記がない限り、本明細書および特許請求の範囲において用いられる成分、特性(例えば、分子量)、反応条件の数量を表す数値は全て、全ての場合において「約」という用語によって修正されるものとして理解されるべきである。従って、逆の記載がない限り、以下の明細書および添付の特許請求の範囲中に記載される数値パラメータは、本発明によって求められるべき所望の特性に応じて異なり得る近似値である。少なくとも、特許請求の範囲の範囲に対する均等論の適用を限定することなく、各数値パラメータは、記載の有効数字を鑑みてそして通常の四捨五入を適用して、少なくとも解釈されるべきである。本発明の広い範囲を説明する数値範囲およびパラメータは近似値であるにもかかわらず、特定の例中に記載される数値は、できるだけ正確に記載されている。しかし、いずれの数値も、そのそれぞれの試験測定において見受けられる標準偏差に必然的に起因する特定の誤差を本質的に含む。
【0081】
本発明の説明における文脈において(特に、以下の請求項の文脈において)用いられる「a」、「an」、「the」および類似の指示語は、本明細書中他に明記があるかまたは文脈から明らかに矛盾することが分かる場合を除いて、単数および複数両方を網羅するものとして解釈されるべきである。本明細書中の数値の範囲の記載は、当該範囲内に収まる各別個の値について個別に言及するための手短な方法の提供のみを意図している。本明細書中他に明記がない限り、各個々の値は、本明細書中に個々に記載されているかのように、本明細書中に組み込まれる。本明細書中他に明記があるかまたは文脈から明らかに矛盾することが分かる場合を除いて、本明細書中記載の全方法が任意の順序で実施可能である。本明細書中において提供される任意および全ての例または例示的な言葉使い(例えば、「等」)の使用は、本発明をより明らかにすることのみを意図しており、他に明記がない限り、本発明の範囲を限定するものではない。本明細書のいかなる文言も、本発明の実施に必要な任意の非請求要素を示すものとして解釈されるべきではない。
【0082】
本明細書中開示される、本発明の代替的要素または実施形態のグループ分けは、限定として解釈されるべきではない。各グループ構成物は、個別にあるいは当該グループの他の構成物または本明細書中見受けられる他の要素と任意に組み合わせて、参照および請求され得る。便宜および/または特許性の理由のために、1つのグループの1つ以上の構成物を或るグループに含めてもよいしあるいは或るグループから除去してもよいことが、予測される。任意のこのような包含または除去が発生した場合、本明細書は、前記グループを修正されたものとして含むものとみなされ、これにより、添付の請求項において用いられる全てのマーカッシュグループの記載を満たす。
【0083】
本発明者らが知る本発明を実施するための最良の形態を含む本発明の特定の実施形態が、本明細書中記載される。もちろん、当業者にとって、上記記載を読めば、開示の実施形態の改変例が明らかである。本発明者は、当業者がこのような改変例を適切に用いることを期待し、本発明者らは、本明細書中具体的に記載される様態以外の様態で本発明が実施されることを意図する。よって、本発明は、本明細書に添付される請求項に記載の内容について、適用法によって許される全ての改変物および均等物を含む。さらに、前述した要素のその可能な全改変物の任意の組み合わせも、本明細書中他に明記があるかまたは文脈から明らかに矛盾することが分かる場合を除いて、本発明に包含される。
【0084】
さらに、本明細書全体において、特許および印刷公開文献について多く言及している。本明細書中、前述した参考文献および印刷公開文献の全体をそれぞれ参考のため援用する。
【0085】
最後に、本明細書中開示される本発明の実施形態は本発明の原理を例示したものであることが、理解されるべきである。使用され得る他の改変物が、本発明の範囲内である。よって、例示的かつ非限定的に、本発明の代替的構成を本明細書中の教示に従って利用することができる。よって、本発明は、記載および説明された内容そのものに限定されない。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
放出制御型薬物送達システムを含む医療機器であって、薬物溶解度勾配を含む重合体と混合した薬物を含む、前記医療機器。
【請求項2】
前記薬物が疎水性である、請求項1に記載の医療機器。
【請求項3】
前記薬物が親水性である、請求項1に記載の医療機器。
【請求項4】
前記重合体薬物溶解度勾配が、ε−カプロラクトン、ポリエチレングリコール(PEG)、トリメチレンカーボネート、ラクチド、グリコリド、p−ジオキサノン、メチルメタクリレート、エチルアクリレート、プロピルメタクリレート、ブチルメタクリレート、ペンチルメタクリレート、ヘキシルメタクリレート、ヘプチルメタクリレート、オクチルメタクリレート、ドデシルメタクリレート、2−(エトキシエチルメタクリレート)、グリシジルメタクリレート、ポリ(エチレングリコール)メタクリレート、メチルアクリレート、エチルアクリレート、プロピルアクリレート、ブチルアクリレート、ペンチルアクリレート、ヘキシルアクリレート、ヘプチルアクリレート、オクチルアクリレート、ドデシルアクリレート、2−エトキシエチルアクリレート、グリシジルアクリレート、ポリ(エチレングリコール)アクリレート、N−ビニルピロリジノン、およびその誘導体からなる群から選択された少なくとも2つの単量体を含む、請求項1に記載の医療機器。
【請求項5】
前記単量体が、ヘキシルメタクリレートおよびN−ビニルピロリジノンを含む、請求項4に記載の医療機器。
【請求項6】
前記薬物が、FKBP−12結合剤、エストロゲン、シャペロン阻害剤、プロテアーゼ阻害剤、タンパク質チロシンキナーゼ阻害剤、レプトマイシンB、ペルオキシソーム増殖因子活性化受容体γリガンド(PPARγ)、ヒポテマイシン、一酸化窒素、ビスフォスフォネート、上皮成長因子阻害剤、抗体、プロテアソーム阻害剤、抗生物質、抗炎症薬、アンチセンスヌクレオチドおよび形質転換核酸からなる群から選択される、請求項1に記載の医療機器。
【請求項7】
前記薬物が、シロリムス(ラパマイシン)、タクロリムス(FK506)、エベロリムス(サーティカン)、テムシロリムス(CCI−779)およびゾタロリムス(ABT−578)からなる群から選択された少なくとも1つの化合物を含む、請求項6に記載の医療機器。
【請求項8】
前記薬物がゾタロリムスを含む、請求項7に記載の医療機器。
【請求項9】
1つよりも多くの薬物をさらに含む、請求項1に記載の医療機器。
【請求項10】
前記薬物溶解度勾配が、相対的疎水性がより高い領域および相対的親水性がより高い領域を含む、請求項1に記載の医療機器。
【請求項11】
前記疎水性がより高い領域および相対的親水性がより高い領域が、連続的勾配を含む、請求項10に記載の医療機器。
【請求項12】
前記疎水性がより高い領域および相対的親水性がより高い領域が、非連続的勾配を含む、請求項10に記載の医療機器。
【請求項13】
前記医療機器が、血管ステント、ステントグラフト、尿道ステント、胆管ステント、カテーテル、ガイドワイヤー、ペースメーカーリード、骨ねじ、縫合および人工心臓弁からなる群から選択される、請求項1に記載の医療機器。
【請求項14】
前記医療機器が血管ステントである、請求項13に記載の医療機器。
【請求項15】
放出制御型薬物送達システムを含む血管ステントであって、薬物溶解度勾配を含む重合体と混合した薬物を含み、該重合体はヘキシルメタクリレートおよびN−ビニルピロリジノンを含む前記血管ステント。
【請求項16】
薬物溶解度勾配を作製する方法であって、
重合を促進させる条件下で、少なくとも1つの単量体を含む第1のチャージ溶液を調製する工程と、
少なくとも1つの単量体を含む少なくとも1つのさらなるチャージ溶液を調製する工程と、
前記さらなるチャージ溶液を第1のチャージ溶液に添加する工程と、
所望の重合度に到達するまで、第1のチャージ溶液およびさらなるチャージ溶液を反応させる工程と、
を含む、前記方法。
【請求項17】
さらなるチャージ溶液が2〜10のチャージ溶液を含む、請求項16に記載の方法。
【請求項18】
添加工程が、さらなるチャージ溶液の第1のチャージ溶液への連続的付加を含む、請求項16に記載の方法。
【請求項19】
添加工程が、第2のさらなるチャージ溶液の第1の溶液への非連続的付加を含む、請求項16に記載の方法。
【請求項20】
少なくとも1つの単量体を含む第3の溶液を調製する工程と、
第3の溶液を第1の溶液および第2のさらなるチャージ溶液の混合物に付加する工程と、
所望の重合度に到達するまで、第1の溶液および第2の溶液を反応させる工程と、
を含む、請求項16に記載の方法。
【請求項21】
前記単量体が、ε−カプロラクトン、ポリエチレングリコール(PEG)、トリメチレンカーボネート、ラクチド、グリコリド、p−ジオキサノン、メチルメタクリレート、エチルアクリレート、プロピルメタクリレート、ブチルメタクリレート、ペンチルメタクリレート、ヘキシルメタクリレート、ヘプチルメタクリレート、オクチルメタクリレート、ドデシルメタクリレート、2−(エトキシエチルメタクリレート)、グリシジルメタクリレート、ポリ(エチレングリコール)メタクリレート、メチルアクリレート、エチルアクリレート、プロピルアクリレート、ブチルアクリレート、ペンチルアクリレート、ヘキシルアクリレート、ヘプチルアクリレート、オクチルアクリレート、ドデシルアクリレート、2−エトキシエチルアクリレート、グリシジルアクリレート、ポリ(エチレングリコール)アクリレート、N−ビニルピロリジノン、およびその誘導体を含む群から選択される、請求項16または20のいずれかに記載の方法。
【請求項22】
前記薬物溶解度勾配が、少なくとも1つの薬物をさらに含む、請求項16に記載の方法。
【請求項23】
前記薬物が、FKBP−12結合剤、エストロゲン、シャペロン阻害剤、プロテアーゼ阻害剤、タンパク質チロシンキナーゼ阻害剤、レプトマイシンB、ペルオキシソーム増殖因子活性化受容体γリガンド(PPARγ)、ヒポテマイシン、一酸化窒素、ビスフォスフォネート、上皮成長因子阻害剤、抗体、プロテアソーム阻害剤、抗生物質、抗炎症薬、アンチセンスヌクレオチドおよび形質転換核酸からなる群から選択される、請求項22に記載の方法。
【請求項24】
前記薬物が、シロリムス(ラパマイシン)、タクロリムス(FK506)、エベロリムス(サーティカン)、テムシロリムス(CCI−779)およびゾタロリムス(ABT−578)からなる群から選択された少なくとも1つの化合物を含む、請求項23に記載の方法。
【請求項25】
薬物溶解度勾配を含む重合体を血管ステント上にコーティングする工程をさらに含む、請求項16に記載の方法。
【請求項26】
薬物溶解度勾配を含む重合体から血管ステントを製造する工程をさらに含む、請求項16に記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公表番号】特表2010−534244(P2010−534244A)
【公表日】平成22年11月4日(2010.11.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−518251(P2010−518251)
【出願日】平成20年6月18日(2008.6.18)
【国際出願番号】PCT/US2008/067316
【国際公開番号】WO2009/014827
【国際公開日】平成21年1月29日(2009.1.29)
【出願人】(502129357)メドトロニック カルディオ ヴァスキュラー インコーポレイテッド (125)
【Fターム(参考)】