説明

蛋白間相互作用を調節することによる新規アポトーシス調節方法と、それを用いる医薬

本発明は、Omiを介するカスパーゼ非依存性アポトーシス機構の優れた調節法、即ち、WARTS蛋白質とOmi蛋白質の相互作用を亢進または抑制することを含む、細胞の新規アポトーシス調節方法、例えば(1)細胞に外部よりOmiおよび/またはWARTS、またはそれらに実質的に同質な蛋白質を加えること、(2)Omiおよび/またはWARTSをコードするDNAで組換えた組換えベクターを与えて細胞を形質転換すること、(3)Omiおよび/またはWARTSをコードするDNAで形質転換した細胞を被検患者に戻すこと、等によってWARTSとOmiの相互作用を亢進または抑制することを特徴とする、前記アポトーシス調節方法、を提供するとともに、アポトーシスが関与する各種疾患の治療または予防に有効な新規医薬組成物を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
本発明は細胞のアポトーシスを誘導する方法、ならびに該方法を用いる各種治療法、予防法、および医薬に関する。
【背景技術】
細胞死は、形態学的な特徴に基づいてアポトーシス(apoptosis;Kerr、Wyllie及びCurrie:1972年)とネクローシス(necrosis)とに分類される。ネクローシスが細胞の障害、酸素欠乏、栄養不足等の刺激による受動的な細胞死・細胞崩壊(壊死)であるのに対し、アポトーシスはprogramed cell deathとも呼ばれる遺伝子的に制御された細胞死で、多細胞生物の個体発生の過程と恒常性維持に必要な普遍的プロセスである。アポトーシスの過程では、細胞内外の様々な生理的・病理的因子が細胞死の開始のシグナルとして働き、多様な経路をたどって細胞中に情報伝達される。(1)核全体の凝縮・縮小(染色体凝集、染色体DNAの断片化);(2)細胞縮小・空胞化(細胞質凝集);(3)細胞表面の微絨毛消失による平滑化;(4)細胞の断片化によるアポトーシス小体(apoptotic body)の形成;(5)マクロファージ等によるアポトーシス小体の貪食;という一連の形態変化を生じるのが特徴である。近年に至って、細胞死制御における変化(抑制、低下等)は、癌、自己免疫疾患、脱髄性疾患等、多くのヒト疾患の病因の一つにであると考えられている。
システインプロテアーゼのファミリーの一つであるカスパーゼ(caspase)は、アポトーシス機構における中心的蛋白質と考えられているが、一方で、遺伝子のノックアウトまたは各種阻害剤でカスパーゼを不活性化しても、殆どのアポトーシス刺激剤で細胞死が起きることから、カスパーゼの活性化が細胞死に必ずしも必要ではないことが明らかとなっている。カスパーゼ依存的アポトーシス以外にもカスパーゼ非依存的経路があって、該非依存的経路が並列的に機能していると考えられている。
アポトーシスシグナル伝達において、ミトコンドリアが重要な役割を担うことが知られている。細胞死刺激剤によって、ミトコンドリアはシトクロームc(cytochrome−c)、AIF(apoptosis inducing factor)、カスパーゼ・チモーゲン(caspase zymogen)等、様々なアポトーシス誘導因子を遊離する。該因子の一つであるミトコンドリア蛋白質Smac/DIABLOは、アポトーシスを促進するカスパーゼ活性化蛋白質で、ターゲットシークエンスが切断されて成熟型になると、アポトーシス刺激剤の刺激に応答して細胞質へ放出され、そこでアラニン残基で始まるN末端部位がアポトーシスタンパク質阻害因子IAP(inhibitor of apoptosis protein)のBIR3およびBIR2ドメインに結合し、IAPのカスパーゼ阻害作用を抑えることが知られている。ショウジョウバエ(Drosophila)のアポトーシス誘導蛋白質であるReaper、Hid、およびGrimも、同様にアラニン残基で始まる自身のN末端部位を通じてIAPと相互作用してカスパーゼを活性化する作用を有し、Smac/DIABLOは、構造的にも機能的にも、ショウジョウバエのアポトーシス誘導蛋白質のヒトホモログ蛋白質であると考えられている。
ミトコンドリアのセリンプロテアーゼであるOmi/HtrA2(以下、「Omi」と略す。)も、ショウジョウバエのアポトーシス誘導蛋白質に対するヒトホモログ蛋白質とされる。OmiはそのC末端にPDZドメインとよばれるドメインを有しており、該PDZドメインは、様々な調節蛋白質に見られるドメインで、蛋白質ターゲッティングや蛋白質複合体形成において重要な役割を担っていることで知られる。Omiは、アポトーシス誘導刺激に応じてミトコンドリアの膜間スペースから細胞質に放出されて、異なる2つの機序で細胞死を引き起こすことが明らかになっている。第1の機序は、N末端が切り出されて形成された成熟型Omiの更にこのN末端モチーフがIAPに結合してIAPのカスパーゼ活性化阻害を遮断する機序;第2の機序は、カスパーゼの活性化を経ずにOmiプロテアーゼ活性依存的に細胞死を誘導する機序である。最近の研究から、OmiにおけるIAP結合モチーフが必ずしも全哺乳動物に保存されたものではないことがわかっている。
warts遺伝子(wtsまたはlatsとして知られる。)は、当初ショウジョウバエの癌抑制遺伝子として同定され、セリン/トレオニンリン酸化酵素をコードする遺伝子で、多くの分裂過程に関与する筋緊張性ジストロフィー蛋白質リン酸化酵素(myotonic dystrophy protein kinase:DMPK)ファミリーとの間に高度な相同性を有する。このwts遺伝子に関して、wts遺伝性の突然変異を有するハエの体細胞は巨大化して組織中に大きな腫瘍を形成するとの報告があり、wtsはショウジョウバエの細胞の形態形成・増殖に関わっていると考えられている。
一方、WARTS/LATS1(以下、「WARTS」と略記する。)は、wtsに対する哺乳類ホモログ遺伝子として同定された(例えば、特許文献1参照)。ショウジョウバエの場合と同様、WARTS遺伝子が欠損したマウスでも悪性腫瘍の形成がみられたとの報告もあり、WARTSは哺乳動物細胞において癌抑制遺伝子として機能していると考えられている。本発明者らは、かつて、分裂期にWARTSが分裂装置に動的に局在し、そこでZyxinというアクチン重合促進蛋白質と相互作用していることと、WARTSがZyxinを含む複合体を形成して分裂制御において中心的働きを担っていることとを報告している。
前記OmiによるIAP結合とそれによるIAP活性阻害が細胞死(アポトーシス)に必須であるとは必ずしもいえず、Omi誘導細胞死においては、これ以外に、カスパーゼ非依存性経路が重要な役割を担っていると考えられる。
一方、WARTSが機能しない場合、クロモソーム不安定化に至る通常の細胞分裂が進行しないというだけの事実で、WARTS蛋白質の癌抑制作用を説明し解明するのは不可能であり、より詳細なWARTSの機能解明が必要である。
他方、アポトーシスの抑制または低下は、各種癌疾患、自己免疫疾患、神経変性疾患、等の疾患の病因に関与していると考えられ、アポトーシス機序の解明は、前記各種疾患を治療・予防するための方法とそのための薬剤の開発とを可能にすると期待することができる。
即ち、本発明の目的は、Omiプロテアーゼの活性化機構、および、Omiを介するカスパーゼ非依存的アポトーシスの経路・機序を明らかにすることにより、Omiを介するカスパーゼ非依存的アポトーシスの調節法(誘導・抑制法)を探索し見出すこと、並びに、アポトーシスが関与する各種疾患の治療法、予防法およびそのための医薬を見出すこと、にある。
【特許文献1】 特開平11−089580号公報(配列表における配列番号:1)
【発明の開示】
本発明者らは、上記事情に鑑みて精力的に検討と研究を重ねた。その結果、予想外にも、
(1)WARTSのC末端20アミノ酸を使ったスクリーニングにより、WARTSのC末端の3個のアミノ酸(Val−Tyr−Val)とOmi PDZドメインとが直接結合すること;
(2)正常型Omi/プロテアーゼ不活性型(S306A)Omiのインビトロ(in vitro)アッセイで、全長WARTSはOmiにより切断されるが、C末端結合部位を欠失させたWARTSは切断を受けないこと;
(3)細胞質内局在を呈するOmiを過剰発現させると細胞内でも内因性WARTSが切断を受けること;ならびに
(4)スタウロスポリン(Staurosporine)によるアポトーシス刺激でも細胞内WARTSの切断が生じたこと、等を見出した。そして、研究を継続した結果、
(5)成熟型Omiの基質はWARTS蛋白質であり、両者の相互作用によってOmiが活性化されること;
(6)Omiを介するカスパーゼ非依存性アポトーシス過程にはOmiとWARTSの相互作用が必要不可欠であること;とを初めて見出して、本発明を完成するに至った。即ち、本発明は、[1]配列番号:1に記載のアミノ酸配列からなる蛋白質(以下、「WARTS」と称する。)と配列番号:2に記載のアミノ酸配列からなる蛋白質(以下、「Omi」と称する。)の間における相互作用を亢進または抑制することを含む、細胞のアポトーシス調節方法;[2]細胞内におけるOmiおよび/またはWARTSの量を増加させることによりアポトーシスを誘導することを特徴とする、前記[1]に記載のアポトーシス調節方法;[3]細胞内におけるOmiとWARTSの間における相互作用を阻害することによりアポトーシスを抑制することを特徴とする、前記[1]に記載のアポトーシス調節方法;[4](1)細胞に外部よりOmiおよび/またはWARTS、あるいはそれらに実質的に同質な蛋白質またはその塩を加えること、(2)Omiおよび/またはWARTSをコードするDNAで組換えた組換えベクターを与えて細胞を形質転換すること、(3)Omiおよび/またはWARTSをコードするDNAで形質転換した細胞を被検患者に戻すこと、または(4)Omiおよび/またはWARTSのモノクローナル抗体を外部より加えることによってWARTSとOmiの相互作用を亢進または抑制することを特徴とする、前記[1]に記載のアポトーシス調節方法;
[5](1)WARTS、それに実質的に同質な蛋白質、もしくはそれらの塩、または(2)Omi、それに実質的に同質な蛋白質、もしくはそれらの塩を有効成分として含む、医薬組成物;[6]アポトーシスを調節するための医薬である、前記[5]に記載の組成物;[7]各種癌疾患、自己免疫疾患または神経変性疾患の治療剤または予防剤である、前記[5]記載の組成物;[8]前記[1]に記載の方法を用いることを含む、各種癌疾患、自己免疫疾患または神経変性疾患の治療または予防法。
[9](1)細胞に外部よりOmiおよび/またはWARTS、あるいはそれらに実質的に同質な蛋白質またはその塩を加えること、(2)Omiおよび/またはWARTSをコードするDNAで組換えた組換えベクターを与えて細胞を形質転換すること、(3)Omiおよび/またはWARTSをコードするDNAで形質転換した細胞を被検患者に戻すこと、または(4)Omiおよび/またはWARTSのモノクローナル抗体を外部より加えることによってWARTSとOmiの相互作用を亢進または抑制することを特徴とする、前記[8]に記載の治療または予防法;[10]WARTSおよび/またはOmiの蛋白質量を定量することにより細胞にアポトーシスの起こる程度を評価することを含む、各種癌疾患、自己免疫疾患または神経変性疾患の診断方法;[11]Omiおよび/またはWARTSを用いることを特徴とする、アポトーシス調節活性を有する化合物のスクリーニング方法;[12]Omiおよび/またはWARTSを用いることを特徴とする、アポトーシス調節活性を有する化合物のスクリーニング用キット;[13]前記[11]に記載のスクリーニング法または前記[12]に記載のスクリーニング用キットの使用により得られうる、アポトーシス調節活性を有する化合物またはその塩;[14]前記[13]に記載の化合物またはその塩を含む医薬組成物;[15]各種癌疾患、自己免疫疾患または神経変性疾患の治療剤または予防剤である、前記[14]に記載の組成物、に関する。
【図面の簡単な説明】
図1は、各種試験に用いたWARTSとOmiの各種発現フラグメントを示す。
図2は、バキュロウイルスで産生したWARTS全長タンパクとGST−Omiの結合実験を示す。
図3は、WARTSがOmiのPDZと特異的に結合することを示す。
図4は、WARTSのC末端3アミノ酸がOMIとの結合に必須であることを示す。
図5は、Omiに対する抗体の作成と、その特異性の検定を示す。
図6は、内在性Wartsの免疫沈降とOmiの検出を示す。
図7は、活性型Omiによるin vitroでのWARTS分解を示す。
図8は、WARTSのC末端欠失蛋白質がOmiと結合できず蛋白質分解を受けないことを示す。
図9は、各種試験に用いたOmiの各種発現フラグメントと細胞内での局在を示す。
図10は、前記図9のOmiをWARTS全長の発現プラスミドと共にトランスフェクションしてWARTSのレベルを比べた結果を示す。
図11は、細胞内Omi発現によるWARTSレベルの変化を示す。
図12は、前記図11の定量化を示す。
図13は、Omiの発現をsiRNAで抑えた時のWARTS発現量を示す。
図14は、Omiの発現をsiRNAで抑えてスタウロスポリン刺激を与えた時の細胞死の割合を示す。
図15は、WARTS分解におけるスタウロスポリンの影響を示す。
図16は、カスパーゼ阻害剤とスタウロスポリンの存在下でWARTSが分解されることを示す。
図17は、WARTSの発現がsiRNAで抑えられることを示す。
図18は、WARTSの発現をsiRNAで抑え、z−vad−fmk存在下スタウロスポリン刺激で有意に細胞死が抑制されたことを示す。
図19は、細胞にOmiとWARTSを一緒にトランスフェクションした時の細胞死を示す。
図20は、前記図19の実験の顕微鏡像を示す図である。
【発明を実施するための最良の形態】
次に、本発明の実施の形態について、記号、用語等の意義を示しつつ説明する。以下の実施形態は、本発明を説明するための例示であり、本発明をこの実施形態にのみ限定する趣旨ではない。本発明は、その要旨を逸脱しない限り、さまざまな形態で実施することができる。
本発明にかかるアポトーシス誘導方法は、WARTS蛋白質とOmi蛋白質との相互作用を用いる点に第1の特徴がある。これまで、アポトーシス誘導に必要不可欠なOmi蛋白質がどのような機構でアポトーシスを誘導するのかが、全く知られていなかったが、本発明者らによりそれが明らかとなった。即ち、本発明者らは、以下の検討と試験の結果、WARTS蛋白質がOmiプロテアーゼの基質であり、OmiはWARTSとの相互作用によって活性化される機構と、そして、WARTS蛋白質とWARTS−Omi相互作用がアポトーシス誘導に必要であることとを見出したものである。
なお、WARTS蛋白質は配列表の配列番号:1、Omi蛋白質は配列表の配列番号:2で示すアミノ酸配列を有する。
(1)WARTSのOmi PDZドメインへの結合
以下に示すように、酵母ツーハイブリッド(yeast two−hybrid)スクリーニング法を用いて、HeLa cDNAライブラリーを探索した。WARTSのC末端20アミノ酸(Ser−Asp−Glu−Asp−Asp−Gln−Asn−Thr−Gly−Ser−Glu−Ile−Lys−Asn−Arg−Asp−Leu−Val−Tyr−Val;図1に示されるSSフラグメント)を含むGal4−結合ドメイン融合蛋白質を作製し、該SSフラグメントをbaitとしてHeLa cDNAライブラリーをスクリーニングした結果、8個の独立且つ配列の重なった同じ遺伝子のcDNAクローンが得られ、これらはセリンプロテアーゼOmi/HtrA2であることがわかった(図1)。
OmiがWARTSに直接的に結合することは、以下のin vitro結合アッセイによって示された。即ち、単離したOmi/C70のcDNA断片を細菌の発現ベクターpGEXにクローニングし、GST−Omi/C70またはGSTをグルチオン−アガロースビーズ上に固定した。WARTSに対するOmi PDZドメインの特異性を示すために、NE−dlgの3つのPDZドメインを含むGST融合蛋白質も使用した。結果、バキュロウィルスで作製して精製した全長WARTSはGST−Omi/C70とは共沈したが、GST−NE−dlg PDZやGST単独では見られなかった(図2)。
また、同由来のWARTSを、全長GST−OmiまたはGST−OmiΔPDZ融合蛋白質とインキュベートしたところ、全長GST−OmiはWARTSと結合したがGST−OmiΔPDZ融合蛋白質はしなかった(図3)。即ち、Omi PDZドメインはWARTSとの相互作用に特異的なドメインであることが示された。
PDZドメインを含む殆どの蛋白質は、自己のC末端配列を介してターゲットに結合することで知られるが、WARTSにおいても、やはり、PDZドメインとの結合に用いられる共通モチーフ(consensus motif)に同じようなC末端DLVYVが見出されている。C末端とOmiとの相互作用を確認する目的で、HAタグを有するWARTSΔN1(図1)、ΔN1−ΔSSおよびΔN1−ΔVYVを発現しているCOS7細胞のLysate(可溶化液)を、グルチオン−アガロースビーズに固定したGST−Omi/C70とインキュベートしたところ、ΔN1−ΔSSもΔN1−ΔVYVもGST−Omi/C70に結合しなかったが、ΔN1は結合をした(図4)。即ち、WARTSのC末端のVYVはOmi蛋白質と相互作用をすることが示された。
更に、WARTSとOmiとのin vivoにおける物理的相互作用を試験する目的で、細菌で精製したHis−tagged Omi/C70蛋白質をラットに注入して、アフィニティーで精製し、抗Omi抗体RC70を作製した。RC70の特異性はウェスターンブロッティングで確認した。C末をFLAGでタグした全長OmiをCOS7細胞に発現させ、抗FLAGモノクローナル抗体(M2)で免疫沈降させたところ、該複合体のOmi−FLAGはRC70抗体により認識された(図5)。また、内在性のWARTSを抗WARTS抗体(G3)でHaLa細胞のLysateを処理したところ、RC70抗体は当該免疫沈降に内在性Omiの成熟型をとらえた(図6)。即ち、WARTSはin vivoでOmiの成熟型と相互作用していることが示された。
(2)OmiによるWARTSのin vitro加水分解反応
WARTSがOmiプロテアーゼの基質であるかを確認すべく、in vitroプロテアーゼアッセイを行った。全長WARTSを精製し、細菌に生産させたOmiと37℃でインキュベートし、抗WARTS抗体(C2)とイムノブロッティングして解析した(図7)。WARTS蛋白質量は野生体(wild−type)の組換えOmiとのインキュベーションで濃度依存的に減少し、一方で、プロテアーゼ不活性なOmi変異体(S306:以下、S/Aと称する。)はWARTS蛋白質量に何ら影響を与えなかった。更に、セリンプロテアーゼ阻害剤であるN−トシルリシンクロロメチルケトン(N−tosyllysine chloromethyl ketone:TLCK)が野生体Omiのプロテアーゼ活性を阻害することが示された。即ち、Omiはin vitroでWARTSを蛋白質分解することが示された。
次に、N末が切断されたWARTS(ΔN2)と更にこれのC末端3アミノ酸を欠失させたWARTS(図1のΔN2−ΔVYV)を用いてin vitroプロテアーゼアッセイを行った。HAタグをしたこれらのWARTS変異体は、COS7細胞に発現され、HA−アフィニティーマトリックスクロマトグラフィーで精製後、in vitroプロテアーゼアッセイに用いられた。結果、ΔN2はOmi野生体によって直接消化されたがプロテアーゼ不活性なS/A Omiには消化されなかった(図8)。これに対し、Omiが結合できない変異体ΔN2−ΔVYVは、Omiの野生体とインキュベートしても蛋白質分解を受けなかった。従って、Omi PDZドメインとWARTSのC末端領域は、OmiによるWARTSの消化に必要であることが示された。
(3)Omiのin vivo基質(WARTS)の確認
図9に示す様々なフォームのOmiを全長WARTSとともに過剰発現させた時のHEK293T細胞におけるWARTSの量を調べた。24時間のトランスフェクションの後、SDS−PAGEと抗WARTS抗体(C2)とのイムノブロッティングを行ったところ、図10に示すように、成熟型Omiの過剰発現によってWARTSの発現が減少し(図10のlane4)、野生体の全長OmiをトランスフェクトしたものでもWARTSの発現が減少したが(図10のlane2)、しかしながら、プロテアーゼ不活性な変異体Omi(全長または成熟型)では、WARTSの発現量には何ら影響が見られなかった(図10のlane3と5)。
本発明者らは、ミトコンドリアリーダー配列を欠損するOmiは細胞質に局在するが、全長Omiは核とミトコンドリア内に局在することを、実験的に示した(図11)。図11で示されるように、様々なOmi関連蛋白質でトランスフェクトされたHeLa細胞において、成熟型のOmiを発現させると内在性のWARTSの染色が減少するが、プロテアーゼ不活性にしたOmi(S/A)ではWARTS染色に何ら影響を与えなかった。既に報告されているように、成熟型のwild−type Omiを過剰に発現させると、クロマチン凝集や細胞質凝集といった細胞死の形態を呈することがわかっているが、本発明者らは、WARTSの染色に対応してこれらの形態変化が発現することを示した(図11)。同時に、全長wild−type Omiの発現により、内在性WARTSの発現が減少した細胞の割合が増加することを見出した(図12)。図12で示す結果は、図10における解析結果に合致するものである。
更に、本発明者らは、内在性OmiのWARTS発現調節への関与を確認する目的で、二本鎖siRNA(small interfering RNA)を用いるRNA干渉法により、二本鎖RNAでトランスフェクトして遺伝子発現を抑制(破壊)する試験、ここでは、HeLa細胞のOmiの発現を破壊して、その効果を見た。その結果、Omiの発現を抑制(破壊)し内在するOmiの発現量を減少させると、内在性WARTSの発現量が有意に増加することが示された(図13)。
以上の知見に基づいて、本発明者らは、WARTSがOmiの生理学的基質であることを見出すことができた。
(4)スタロスポリン(Staurosporine)によるOmiプロテアーゼ活性化とWARTS蛋白質分解誘導
本発明者らは、スタロスポリン(Staurosporine;以下、「STS」と略記することがある。)によるOmiプロテアーゼ活性の活性化と、WARTS蛋白質の分解について試験を行った。STSには、カスパーゼ阻害剤の存在下で細胞死を誘導すると報告や、Omiがミトコンドリアから細胞質へ転移するのを誘導するとの報告がある。本発明者らは、これらの知見から、STSがOmiを介し、且つカスパーゼに非依存的なアポトーシスを活性化することができると考え、Omi siRNA実験を行ってOmi発現が抑制された細胞のSTSに対する感受性を調べた。その結果、コントロールsiRNAと比較して、Omi siRNAでトランスフェクトした細胞では、STSに対する有意な耐性が確認された(図14)。図14で示されるように、特に、カスパーゼ阻害剤であるz−VAD−fmk存在下では、STSに対して8倍もの耐性を獲得していた。
この結果に基づいて、本発明者らは、HEK293細胞を全長WARTS、またはC末端3アミノ酸を欠失させたWARTS(ΔVYV)でトランスフェクトし、STSで活性化されたOmiプロテアーゼとWARTSの蛋白質分解との関連を調べた。HEK293細胞にトランスフェクションして48時間後、該細胞を更に12時間STSで処理してから、抗HA抗体でイムノブロッティング解析をしたところ、全長WARTSの発現量は、STS処理に対し濃度依存的に減少し、一方で、ΔVYVの発現量にはSTSによる影響が見受けられなかった(図15)。この知見から、本発明者らは、WARTSは、STSに誘導されたアポトーシスの過程において活性型のOmiプロテアーゼと相互作用し、そして消化されることを見出した。
次に、本発明者らは、カスパーゼ阻害剤であるz−VAD−fmkの存在下でWARTSの発現に対するSTSの効果を調べた。これは、WARTSを分解する酵素がカスパーゼであるとする可能性を除くことが目的であった。結果、図16で示すように、ポリADPリボースポロメラーゼ(poly ADP−ribose polymerase:PARP)が切断されない条件下で、内在性WARTSが消化を受けることはなかった(図16のlane3と6)。この知見から、本発明者らは、STSで誘導されたアポトーシス過程において、全長WARTSの蛋白質分解にはカスパーゼの活性が必要ではなく、該アポトーシス過程においては、Omiプロテアーゼが活性化されてOmiがWARTSをカスパーゼ非依存的に分解することを見出した。
(5)WARTS遺伝子発現の抑制実験
本発明者らは、HeLa細胞をsiRNAで処理してWARTS蛋白質をノックダウン(knock−down)する試験を行い、Omiを介するアポトーシスにおける効果を調べた。その結果、z−VAD−fmkと2μMのSTSの存在下にてコントロールsiRNAで処理した細胞では、viabilityが388.5%であったが(図18)、WARTS特異的なsiRNAを用いてWARTSの発現を充分に抑えた細胞群では、死に至った細胞数が101.9%まで減少した(図17、18)。これに対し、HEK293細胞を用いた実験で、正常型のWARTS蛋白質を過剰発現させると、Omiを介する細胞死が増加した(図19、20)。これらの知見より、本発明者らは、WARTSの発現ならびにWARTSとOmiとの相互作用が、Omiを介するアポトーシスに必要であることを初めて見出すに至った。
本願明細書における「OmiとWARTSの相互作用を亢進または抑制」における「相互作用を亢進」とは、Omi蛋白質とWARTS蛋白質との相互作用の頻度を実質的に増加させることを意味し、ここでいう実質的にとは、OmiとWARTSが直接相互作用(結合)するか、または、WARTSと同質の生理作用を有する物質をOmiと相互作用させることによりOmiを活性化することを意味する。また、「相互作用を抑制」とは、OmiとWARTSとの相互作用の頻度を減少させることによりOmiを不活性化することを意味する。
本願明細書における「アポトーシスを調節する」とは、細胞のアポトーシスを誘導または抑制することを意味する。
(1)本発明における「アポトーシスを誘導する」方法とは、Omi蛋白質とWARTS蛋白質とが相互作用し、且つ、OmiによるWARTSの蛋白質分解反応を亢進する方法に基づく。そのためには、(a)細胞内のOmiの量を増やす方法、(b)WARTSの量を増やす方法または(c)OmiとWARTSの量いずれをも増やす方法を直接的にまたは間接的に行う手法が有効である。また、WARTS蛋白質を増やす以外にも、例えば(d)WARTSと同等の生理活性を有する実質的に同質な蛋白質を細胞内に投与し増やす方法や(e)Omiに対してWARTS蛋白質と同等の生理活性を発揮しうる化合物を投与してWARTS活性を事実上亢進しOmiを活性化する方法、等が可能である。蛋白質量を増やす方法としては、蛋白質を直接添加する方法や、該蛋白質をコードするDNAを細胞に組み込んで発現させ間接的に増やす方法、等がある。ここで、実質的に同質な蛋白質とは、OmiまたはWARTSそれぞれと活性の性質が同質であることを意味する。
(2)本発明における「アポトーシスを抑制する」方法とは、Omi蛋白質とWARTS蛋白質との相互作用を抑制・阻害してWARTSの蛋白質分解反応を抑制する方法に基づく。そのためには、(a)細胞内のOmiの量を減らす方法、(b)WARTSの量を減らす方法または(c)OmiとWARTSの量いずれをも減らす方法を直接的にまたは間接的に行う手法が有効である。また、WARTS蛋白質を減らす以外にも、例えば(d)OmiまたはWARTSの特異的抗体(モノクローナル抗体)を投与してOmiとWARTSとの相互作用を阻害する方法、(e)OmiとWARTSとの相互作用を拮抗阻害し得るアンタゴニストを投与してOmiを不活性化する方法、等が可能である。
なお、WARTS、Omiおよび前記各種モノクローナル抗体は、当業者であれば自体公知の方法に同じかまたはそれに準じて容易に製造することができる。
本発明にかかるアポトーシス調節法は、各種癌疾患、自己免疫疾患、神経変性疾患等の治療または予防に有用であり、具体的疾患としては、例えば脳腫瘍、頭頸部癌、食道癌、胃癌、大腸癌、肝癌、膵癌、肺癌、乳癌、皮膚癌、卵巣癌、前立腺癌、腎癌、膀胱癌、リンホーマ、白血病、各種急性神経変性疾患、脳血管障害急性期、頭部外傷、脊髄損傷、低酸素による神経障害、低血糖による神経障害、各種慢性神経変性疾患、アルツハイマー病、パーキンソン病、ハンチントン舞踏病、筋萎縮性側索硬化症、脊髄小脳変性症、てんかん、肝性脳症、末梢神経障害、パーキンソン症候群、痙性麻痺、痛み、神経痛、精神分裂病、不安、薬物依存症、嘔気、嘔吐、排尿障害、緑内障による視力障害、抗生物質による聴覚障害、食中毒、感染性脳脊髄炎、脳血管性痴呆、髄膜炎による痴呆、神経症状、HIV性脳脊髄炎、各種脱髄性疾患(脳炎、急性散在性脳脊髄炎、多発性硬化症、急性多発性根神経炎、ギラン−バレー症候群、慢性炎症性脱髄性多発神経障害、Marchifava−Bignami病、中心性橋延髄崩壊症、視神経脊髄炎、デビック病、バロ病、HIV性ミエロパシー、HTLV性ミエロパシー、進行性多巣性白質脳症、二次性脱髄性疾患(CNSエリテマトーデス、結節性多発動脈炎、シェーグレン症候群、サルコイドーシス、乖離性脳血管炎等)等)等があげられる。また、本発明にかかる前記アポトーシス調節法は、哺乳類(例えばヒト、マウス、ラット、モルモット、ウサギ、イヌ、ウマ、サル等)、特にヒトに用いられるのが好適である。
本発明にかかるアポトーシス調節法を用いれば、細胞内のWARTS蛋白質および/またはOmi蛋白質の量を調節することにより、容易にアポトーシスを誘導し或いは抑制することができる。
(1)例えば、癌細胞では、アポトーシス制御なされず、分裂・増殖が進行するが、本発明を癌細胞に適用して、WARTSまたはOmiのいずれか一方、或いはWARTSとOmiの両方の量を増やすことにより、アポトーシスを誘導して癌細胞を細胞死させることができる。これを利用して抗癌剤を提供することもできる。特に、抗癌剤を投与された患者には耐性によりアポトーシスが起こりにくくなっている患者が多くみられ、該患者には本発明にかかるアポトーシス誘導法や医薬が極めて有効である。WARTSまたはOmiの量を増やす方法としては、(a)WARTSまたはOmiを癌患者に投与して該患者の細胞内のWARTSまたはOmiの存在量を増やす方法や、(b)WARTSまたはOmiをコードするDNAを該患者に投与して該患者の生体内で発現させることにより細胞内のWARTSまたはOmiの存在量を増やす方法や、(c)治療等の対象である細胞にWARTSまたはOmiの蛋白質をコードするDNAを組み込んで発現させた後に、該細胞を対象患者の体内に移植して戻してやり、WARTSまたはOmiの発現量を増やす方法、(e)WARTSまたはOmiと実質的に同質な蛋白質を投与または発現させる方法、等を用いることができる。
(2)これとは逆に、アポトーシスが亢進していると考えられる疾患(自己免疫疾患等)がある。本発明をこれらの疾患に適用して、WARTSまたはOmiのいずれか一方、或いはWARTSとOmiの両方の量を減らすことにより、アポトーシスを抑制して疾患の治療または予防をすることができる。WARTSまたはOmiの量を減らす方法としては、(a)WARTSまたはOmiの抗体を対象患者に投与して該患者の細胞内におけるWARTSとOmiの相互作用を阻害する方法や、(b)WARTSまたはOmiの発現を阻害するRNAを直接該患者に投与するか、あるいは該RNAから逆転写して作成したDNAを該患者に投与して該患者の生体内で発現させることにより、細胞内のWARTSまたはOmiの発現量を減らす方法や、(c)治療等の対象である細胞に前記(b)記載のRNAまたはDNAを組み込んで発現させた後に、該細胞を対象患者の体内に移植して戻してやり、WARTSまたはOmiの発現量を減らす方法、等を用いることができる。
本発明者らが見出したWARTSとOmiの相互作用を利用すれば、前記癌疾患、自己免疫疾患、神経変性疾患等、各種疾患の診断が容易に行える。即ち、WARTSおよび/またはOmiの細胞内蛋白質量を定量し、これらの数値を健常者のそれと比較して、数値が増加している被験者ではアポトーシスが亢進され(例えば自己免疫疾患患者)、逆に数値が低下している被験者ではアポトーシスが抑制されている(例えば癌患者)とする診断が可能である。ここで、WARTSまたはOmiの蛋白質量の定量は、当業者に用いられる定量法を用いて容易に行うことができ、例えばELISA法はじめ、各種免疫染色法(蛍光抗体法、酵素抗体法、放射性同位元素標識)等の使用が可能である。
また、被験者のWARTSおよび/またはOmiの蛋白質量を定量して、健常者のWARTSとOmiの蛋白質量と比較することにより、該被験者においてアポトーシスが起こる程度を診断することが容易に可能である。更に、該診断に基づいて、癌疾患、自己免疫疾患、神経変性疾患等の診断も容易に実施可能である。特に、抗癌剤や、放射線治療による癌細胞の感受性の評価・診断が容易であるし、また、自己免疫疾患では、OmiやWARTSの量的増加や活性上昇によりアポトーシスが亢進している可能性があることから、該疾患の診断法として有用である。
本発明は、アポトーシスを誘導または抑制する活性を有する化合物をスクリーニングするための新規な方法と、それに使用するスクリーニング用キットをも提供する。かかるスクリーニング法は、WARTS蛋白質および/またはOmi蛋白質を用いることを特徴とする方法である。例えば、動物の試料(血液、細胞、臓器、その他組織)を採取して、これらをそのまま用いるか、或いは、細胞または組織の粗酵素抽出液を用いるかOmi蛋白質標本を調製して、適当な条件下において被検化合物を添加し、OmiによるWARTS蛋白質の分解量を定量し、阻害剤不存在下でWARTSを添加した場合の分解量と比較することにより、目的とする化合物をスクリーニングすることが容易に可能である。WARTSの分解量の定量は、WARTSを直接定量することにより分解量を求めるか、または、分解産物を直接定量することにより求めてもよい。定量法には、WARTSまたはその分解産物のモノクローナル抗体を用いる免疫染色法(ELISA法を含む)が有効であり、当業者であれば容易に実施することができる。
前記スクリーニング法により得られる化合物は、アポトーシスを誘導または抑制する作用を有する化合物であり、前記各種癌疾患、自己免疫疾患または神経変性疾患の治療や予防に有用である。
本発明は新規な医薬組成物をも提供する。本発明にかかる医薬組成物は、(1)WARTS蛋白質、それに実質的に同質な蛋白質、もしくはそれらの塩、および/または(2)Omi蛋白質、それに実質的に同質な蛋白質、もしくはそれらの塩を有効成分として含む医薬組成物と、前記スクリーニング法により得られうる化合物またはその塩を含む医薬組成物であり、医薬の有効成分としては新規な蛋白質または化合物を含有し、該医薬組成物は、前記各種癌疾患、自己免疫疾患または神経変性疾患の治療や予防に有用である。
前記塩は、薬理学的に許容される塩である限りにおいて特に種類は限定されず、塩酸塩、硫酸塩、炭酸塩、重炭酸塩、臭化水素酸塩、ヨウ化水素酸塩などの無機酸の付加塩;酢酸塩、マレイン酸塩、乳酸塩、酒石酸塩、トリフルオロ酢酸塩などの有機カルボン酸の付加塩;メタンスルホン酸塩、ヒドロキシメタンスルホン酸塩、ヒドロキシエタンスルホン酸塩、ベンゼンスルホン酸塩、トルエンスルホン酸塩、タウリン塩などの有機スルホン酸の付加塩;トリメチルアミン塩、トリエチルアミン塩、ピリジン塩、プロカイン塩、ピコリン塩、ジシクロヘキシルアミン塩、N,N’−ジベンジルエチレンジアミン塩、N−メチルグルカミン塩、ジエタノールアミン塩、トリエタノールアミン塩、トリス(ヒドロキシメチルアミノ)メタン塩、フェネチルベンジルアミン塩などのアミンの付加塩;アルギニン塩、リジン塩、セリン塩、グリシン塩、アスパラギン酸塩、グルタミン酸塩などのアミノ酸の付加塩等が好適である。
本発明にかかる医薬組成物を医薬として使用する場合は、投与形態は特に限定されず、経口でも非経口的投与でもよい。哺乳類(例えばヒト、マウス、ラット、モルモット、ウサギ、イヌ、ウマ、サル、等)、特にヒトに投与する場合の投与量は、症状の程度、患者の年齢、性別、体重、感受性差、投与方法、投与時期、投与間隔、医薬製剤の性質、調剤、種類、有効成分の種類等によって異なり特に限定されないが、30μgないし10g、好ましくは100μgないし500mg、さらに好ましくは100μgないし100mgを、注射投与で約1ないし3000μg/kg、好ましくは3ないし1000μg/kgを、それぞれ1回または数回に分けて投与することができる。
本発明にかかる医薬組成物は、蛋白質またはその塩、あるいは化合物またはその塩をそのまま用いるか、または自体公知の薬学的に許容できる担体等と混合し、慣用される方法により製剤化することが可能である。好ましい剤形としては錠剤、散剤、細粒剤、顆粒剤、被覆錠剤、カプセル剤、シロップ剤、トローチ剤、吸入剤、坐剤、注射剤、軟膏剤、眼軟膏剤、点眼剤、点鼻剤、点耳剤、パップ剤、ローション剤等があげられる。製剤化には、通常用いられる賦形剤、結合剤、崩壊剤、滑沢剤、着色剤、矯味矯臭剤や、および必要により安定化剤、乳化剤、吸収促進剤、界面活性剤、pH調整剤、防腐剤、抗酸化剤などを使用することができ、一般に医薬品製剤の原料として用いられる成分を配合して常法により製剤化可能である。
例えば大豆油、牛脂、合成グリセライド等の動植物油;流動パラフィン、スクワラン、固形パラフィン等の炭化水素;ミリスチン酸オクチルドデシル、ミリスチン酸イソプロピル等のエステル油;セトステアリルアルコール、ベヘニルアルコール等の高級アルコール;シリコン樹脂;シリコン油;ポリオキシエチレン脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル、グリセリン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレン硬化ひまし油、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレンブロックコポリマー等の界面活性剤;ヒドロキシエチルセルロース、ポリアクリル酸、カルボキシビニルポリマー、ポリエチレングリコール、ポリビニルピロリドン、メチルセルロースなどの水溶性高分子;エタノール、イソプロパノールなどの低級アルコール;グリセリン、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、ソルビトールなどの多価アルコール;グルコース、ショ糖などの糖;無水ケイ酸、ケイ酸アルミニウムマグネシウム、ケイ酸アルミニウムなどの無機粉体;精製水などがあげられる。賦形剤としては、例えば乳糖、コーンスターチ、白糖、ブドウ糖、マンニトール、ソルビット、結晶セルロース、二酸化ケイ素等;結合剤としては、例えばポリビニルアルコール、ポリビニルエーテル、メチルセルロース、エチルセルロース、アラビアゴム、トラガント、ゼラチン、シェラック、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ポリビニルピロリドン、ポリプロピレングリコール・ポリオキシエチレン・ブロックポリマー、メグルミン、クエン酸カルシウム、デキストリン、ペクチン等;崩壊剤としては、例えば澱粉、寒天、ゼラチン末、結晶セルロース、炭酸カルシウム、炭酸水素ナトリウム、クエン酸カルシウム、デキストリン、ペクチン、カルボキシメチルセルロース・カルシウム等;滑沢剤としては、例えばステアリン酸マグネシウム、タルク、ポリエチレングリコール、シリカ、硬化植物油、等;着色剤としては医薬品に添加することが許可されているものであれば、いかなるものでもよく;矯味矯臭剤としては、ココア末、ハッカ脳、芳香散、ハッカ油、竜脳、桂皮末等;抗酸化剤としては、アスコルビン酸、α−トコフェロール、等、医薬品に添加することが許可されているものがそれぞれ用いられる。
経口製剤は、賦形剤、さらに必要に応じて結合剤、崩壊剤、滑沢剤、着色剤、矯味矯臭剤などを加えた後、常法により散剤、細粒剤、顆粒剤、錠剤、被覆錠剤、カプセル剤等とする。
錠剤・顆粒剤の場合には、糖衣、ゼラチン衣、その他必要により適宜コーティングすることはもちろん差支えない。
シロップ剤、注射用製剤、点眼剤、等の液剤の場合は、pH調整剤、溶解剤、等張化剤、等と、必要に応じて溶解補助剤、安定化剤、緩衝剤、懸濁化剤、抗酸化剤、等を加えて、常法により製剤化する。該液剤の場合、凍結乾燥物とすることも可能で、また、注射剤は静脈、皮下、筋肉内に投与することができる。懸濁化剤における好適な例としては、メチルセルロース、ポリソルベート80、ヒドロキシエチルセルロース、アラビアゴム、トラガント末、カルボキシメチルセルロースナトリウム、ポリオキシエチレンソルビタンモノラウレート、等;溶解補助剤における好適な例としては、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油、ポリソルベート80、ニコチン酸アミド、ポリオキシエチレンソルビタンモノラウレート等;安定化剤における好適な例としては、亜硫酸ナトリウム、メタ亜硫酸ナトリウム、エーテル等;保存剤における好適な例としては、パラオキシ安息香酸メチル、パラオキシ安息香酸エチル、ソルビン酸、フェノール、クレゾール、クロロクレゾール等があげられる。
外用剤の場合は、特に製法が限定されず、常法により製造することができる。使用する基剤原料としては、医薬品、医薬部外品、化粧品等に通常使用される各種原料を用いることが可能で、例えば動植物油、鉱物油、エステル油、ワックス類、高級アルコール類、脂肪酸類、シリコン油、界面活性剤、リン脂質類、アルコール類、多価アルコール類、水溶性高分子類、粘土鉱物類、精製水などの原料が挙げられ、必要に応じ、pH調整剤、抗酸化剤、キレート剤、防腐防黴剤、着色料、香料などを添加することができる。さらに、必要に応じて分化誘導作用を有する成分、血流促進剤、殺菌剤、消炎剤、細胞賦活剤、ビタミン類、アミノ酸、保湿剤、角質溶解剤、等の成分を配合することもできる。
以下に示す本発明の参考例、実施例および試験例は例示的なものであり、本発明は以下の具体例に制限されるものではない。当業者は、以下に示す実施例に様々な変更を加えて本発明を最大限に実施することができ、かかる変更は本願特許請求の範囲に包含される。
実施例1 酵母ツーハイブリット法
WARTSのカルボキシル末端20アミノ酸の塩基配列を導入したpAS2−1c/SS発現ベクターを作成した。酵母CG1945株を用い、pAS2−1c/SS安定発現株を樹立した。この株をHeLa cDNA library発現ベクターを用いて形質転換し、栄養要求性の変化(His+)、beta−gal活性の有無を指標にスクリーニングを行った。9.3×10個の独立したクローンより最終的に540個の発現クローンを得た。
実施例2 細胞培養、トランスフェクション
HeLa,COS7,HEK293,293T細胞は10%仔牛血清加DMEM/F12培地にて37℃、5%COの条件下に培養した。トランスフェクションはFuGENE6またはLipofectAMINE,PLUS reagentを用い標準的手法にて行った。
実施例3 発現ベクター、特異的抗体
培養細胞の発現ベクターはpCGN,pcDNA3ベクターを用いた。大腸菌発現ベクターはpGEX−2TH,pGEX4T−1ベクターを用いた。PCRにて増幅した塩基断片をこれらベクターに挿入して発現ベクターを得た。変異導入発現ベクターはStratagene社のsite directed mutagenesis kitを用い作成した。
各々の特異的抗体は、大腸菌を用いて作成し、精製した以下のリコンビナント蛋白をウサギ(Newzealand white)またはラット(Wister rat)に注入して作成した。
WARTS60−4:GST−WARTS(a.a.136−700)、ウサギ
RC70:His−Omi(a.a.362−458)、ラット
C70:GST−Omi(a.a.362−458)、ウサギ
他の市販抗体は以下より得た。
抗FLAG抗体(M2):SIGMA,抗HA抗体(3F10):Roche,抗GST抗体:Pharmacia,
抗tubulin(B−5−1−2)抗体:SIGMA,抗PARP p85抗体:Promega
実施例4 GSTおよび免疫沈降実験
GST沈降実験は以下の如く行った。細胞に発現ベクターをトランスフェクションした後、5%NP−40lysis buffer(0.5%NP−40,25mM Tris−Cl,pH7.5,137mM NaCl,1mM EDTA,5% glycerol,1mM DTT,20mM β−glycerophosphate,1mM sodium vanadate,2μg/ml aprotinin,1mM AEBSF,10μM leupeptin,and 1mM p
epstatin)を用い可溶化した。この可溶化溶液をglutathione−agaroseに結合させたGSTまたはGST−Omi(a.a.362−458)と混合沈降した後、SDS電気泳動、ウエスタンブロットにて解析した。なお、免疫沈降および試験管内結合試験はHirotaら(JCB 149,1073,2000)の方法に拠った。
実施例5 試験管内プロテアーゼ実験
大腸菌に発現させた全長Omi、不活性Omi(S306A)はNi−agarose beadsを用い精製した。これらリコンビナント蛋白の濃度はBCA法にて求めた。バキュウロウイルスを用いて作成した全長WARTSを前述したOmiまたOmi(S306A)と共に50mM Tris溶液内で37℃で2時間インキュベートし、試験管内プロテアーゼ実験を行った。これらをSDS電気泳動、ウエスタンブロットにて解析した。
実施例6 細胞蛍光免疫染色
35mm petri dishに培養した細胞を4%paraformaldehyde/PBS(pH7.5)にて固定したのち、0.2%Triton X−100/PBSにて15分処理した。PBSでの洗浄後、一次抗体としてrabbit anti−WARTS抗体(60−4),mouse anti−FLAG抗体(M2)、二次抗体としてFITC−conjugated anti−rabbit IgG抗体(Bioresource)またはTexas red−conjugated anti−mouse IgG抗体(Molecular Probes)を用い、免疫染色を行った。これらの検体は共焦点レーザー顕微鏡(Olympus)を用いて観察した。
実施例7 RNA干渉法
HeLa細胞を6ウエルプレートに各ウエル2×10個ずつ播き、1日培養した後にsiRNAをトランスフェクションした。siRNA二量体の作成およびトランスフェクション手技はElbashirら(Nature 411,494,2001)の方法に拠った。トランスフェクション後86時間目に、スタウロスポリンを加え、さらに12時間培養を行ったのち細胞を回収した。これらの一部をSDS電気泳動、ウエスタンブロットに供し、細胞死判定はトリパンブルー染色排除試験にて行った。siRNAオリゴヌクレオチドは日本バイオサービスより得た。配列は以下の如くである。

実施例8 細胞死誘導試験
35mm petri dishに培養したHEK293細胞にLipofectAMINE,PLUS reagentを用いて以下の発現ベクターを共トランスフェクションした。
0.1μg pEGFP(膜局在GFP)
0.05μg FLAG−成熟型Omi
2μgのpCGN全長またはカルボキシル末端3アミノ酸欠失ΔVYV WARTS(非結合型)
トランスフェクション後24時間目に細胞を固定、PI染色を行った。死細胞は蛍光顕微鏡観察での細胞胞体および核の形態変化により判定した。
【実施例9】
本発明にかかるアポトーシス調節法または医薬の、各種癌疾患、自已免疫疾患または神経変性疾患への有効性は、いずれも公知の手法に準じて容易に試験可能である。例えば、ヒト大腸癌に対する抗癌効果は以下のように確認可能であった。即ち、ヒト大腸癌株HCT15(ATCC)を、5%炭酸ガスインキュベーターにてRPMI1640(10%FBS含)で約80%コンフルエントとなるまで培養し、その後細胞を回収して、該細胞懸濁液を用意したヌードマウスの体側皮下に移植した。所定の平均腫瘍体積に成長した後、本発明にかかる医薬を投与して腫瘍体積を観察し、効果を調べた。なお、腫瘍体積=腫瘍長径(mm)x腫瘍短径(mm)/2の計算式にて計算をした。
その結果、本発明にかかる医薬組成物は優れた抗癌作用を示した。その他の各種自己免疫疾患および神経変性疾患においても同じく優れた治療効果を示した。
【産業上の利用可能性】
本発明により、新規なアポトーシス調節方法を提供することができ、該方法により、アポトーシスの誘導または抑制ができるようになった。また、本発明にかかるアポトーシス調節方法を用いることにより、新規な医薬組成物、新規な疾患の治療法および予防法を提供することができた。本発明にかかる前記医薬組成物、治療法および予防法は、アポトーシスの調節が有効な疾患(例えば、癌疾患、自己免疫疾患、神経変性疾患)の治療・予防に有用である。
【配列表】













【図1】

【図2】

【図3】

【図4】

【図5】

【図6】

【図7】

【図8】

【図9】

【図10】

【図11】

【図12】

【図13】

【図14】

【図15】

【図16】

【図17】

【図18】

【図19】

【図20】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
配列番号:1に記載のアミノ酸配列からなる蛋白質(以下、「WARTS」と称する。)と配列番号:2に記載のアミノ酸配列からなる蛋白質(以下、「Omi」と称する。)の間における相互作用を亢進または抑制することを含む、細胞のアポトーシス調節方法。
【請求項2】
細胞内におけるOmiおよび/またはWARTSの量を増加させることによりアポトーシスを誘導することを特徴とする、請求項1に記載のアポトーシス調節方法。
【請求項3】
細胞内におけるOmiとWARTSの間における相互作用を阻害することによりアポトーシスを抑制することを特徴とする、請求項1に記載のアポトーシス調節方法。
【請求項4】
(1)細胞に外部よりOmiおよび/またはWARTS、あるいはそれらに実質的に同質な蛋白質またはその塩を加えること、(2)Omiおよび/またはWARTSをコードするDNAで組換えた組換えベクターを与えて細胞を形質転換すること、(3)Omiおよび/またはWARTSをコードするDNAで形質転換した細胞を被検患者に戻すこと、または(4)Omiおよび/またはWARTSのモノクローナル抗体を外部より加えることによってWARTSとOmiの相互作用を亢進または抑制することを特徴とする、請求項1に記載のアポトーシス調節方法。
【請求項5】
(1)WARTS、それに実質的に同質な蛋白質、もしくはそれらの塩、または(2)Omi、それに実質的に同質な蛋白質、もしくはそれらの塩を有効成分として含む、医薬組成物。
【請求項6】
アポトーシスを調節するための医薬である、請求項5に記載の組成物。
【請求項7】
各種癌疾患、自已免疫疾患または神経変性疾患の治療剤または予防剤である、請求項5記載の組成物。
【請求項8】
請求項1に記載の方法を用いることを含む、各種癌疾患、自己免疫疾患または神経変性疾患の治療または予防法。
【請求項9】
(1)細胞に外部よりOmiおよび/またはWARTS、あるいはそれらに実質的に同質な蛋白質またはその塩を加えること、(2)Omiおよび/またはWARTSをコードするDNAで組換えた組換えベクターを与えて細胞を形質転換すること、(3)Omiおよび/またはWARTSをコードするDNAで形質転換した細胞を被検患者に戻すこと、または(4)Omiおよび/またはWARTSのモノクローナル抗体を外部より加えることによってWARTSとOmiの相互作用を亢進または抑制することを特徴とする、請求項8に記載の治療または予防法。
【請求項10】
WARTSおよび/またはOmiの蛋白質量を定量することにより細胞にアポトーシスの起こる程度を評価することを含む、各種癌疾患、自己免疫疾患または神経変性疾患の診断方法。
【請求項11】
Omiおよび/またはWARTSを用いることを特徴とする、アポトーシス調節活性を有する化合物のスクリーニング方法。
【請求項12】
Omiおよび/またはWARTSを用いることを特徴とする、アポトーシス調節活性を有する化合物のスクリーニング用キット。
【請求項13】
請求項11に記載のスクリーニング法または請求項12に記載のスクリーニング用キットの使用により得られうる、アポトーシス調節活性を有する化合物またはその塩。
【請求項14】
請求項13に記載の化合物またはその塩を含む医薬組成物。
【請求項15】
各種癌疾患、自己免疫疾患または神経変性疾患の治療剤または予防剤である、請求項14に記載の組成物。

【国際公開番号】WO2004/030688
【国際公開日】平成16年4月15日(2004.4.15)
【発行日】平成18年1月26日(2006.1.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−541266(P2004−541266)
【国際出願番号】PCT/JP2003/012615
【国際出願日】平成15年10月1日(2003.10.1)
【出願人】(502019933)リンク・ジェノミクス株式会社 (11)
【Fターム(参考)】