説明

蛍光体、その製造方法およびこれを用いた発光装置

【課題】窒化物半導体材料を用いた、発光特性に優れたナノ粒子蛍光体と、これを高い歩留りで製造出来る製造方法およびこれを用いた発光装置を提供すること。
【解決手段】直径が3nm以下の柱状結晶で構成される蛍光体であって、柱状結晶において発光領域と光吸収領域とが規定され、発光領域および光吸収領域は、柱状結晶の長手方向に隣接しており、発光領域は、蛍光体の長手方向において2つの光吸収領域に挟持されており、発光領域の呈する発光波長が430nmより長波長であり、蛍光体の励起光の波長は200〜450nmであり、光吸収領域は、AlxGa1-xN(0≦x≦1)およびInyGa1-yN(0≦y≦0.15)の少なくとも1つからなる蛍光体を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、柱状を有する結晶性の蛍光体、その製造方法およびこれを用いた発光装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、母体材料に半導体結晶を用いた蛍光体がさかんに研究されており、特に量子サイズ効果によって発光効率を増大させたナノ粒子蛍光体の開発が進展している。特にII−VI族化合物半導体であるZnSやCdSeは、下記非特許文献1に示されるように、室温で合成が可能であり、共沈法や逆ミセル法などの合成法によって均一な粒径のナノ粒子を大量合成できることから、蛍光体材料として実用化する研究が進んでいる。
【0003】
しかし、ナノ粒子蛍光体は凝集し易く、また非表面積の増大によって表面欠陥に起因する発光キラーが増大し発光特性が低下する。そこで、下記特許文献1には、ナノ粒子の表面を表面安定化剤によって修飾し、単分散と欠陥キャッピングの効果を得る技術が開示されている。
【0004】
一方、III−V族化合物半導体であるGaN、InN、AlNなどの窒化物半導体は、優れた発光特性を有し、高輝度の青紫色発光素子材料として知られている。下記特許文献2〜4に示されるように、近年ではこの窒化物半導体を用いて蛍光体を製造しようとする技術も開示されている。
【0005】
ところが、窒化物半導体は化学的に安定な化合物であるため、合成には高い反応温度を必要とする。このため、下記非特許文献1に示された逆ミセル法による合成方法や、下記特許文献1に示された安定化剤による表面修飾手法は、いずれも熱分解しやすい材料を用いるため適用することが出来ない。
【0006】
一方、下記特許文献2〜4に示された方法では、量子サイズ効果を有する(具体的にはボーア半径の2倍以下の粒径を有する)様な蛍光体粒子を得ることは出来ない。特に、核粒子の周囲に半導体をヘテロエピタキシャル成長して蛍光体粒子を得る方法では、特定の方位に結晶が成長しやすいため、均一に被覆された蛍光体粒子を得ようとすると、その粒径が大きくならざるを得ないという問題がある。また、粒子の物理粉砕や後工程による表面修飾では、いずれも発光効率を飛躍的に増大させることは出来ず、製造工程も手間がかかり高コストである。
【0007】
このように、従来の窒化物蛍光体およびその製造方法では、発光効率に優れたナノ粒子蛍光体を効率良く得ることは出来なかった。
【特許文献1】特開2003−226521号公報
【特許文献2】特開2000−8035号公報
【特許文献3】特開2003−34510号公報
【特許文献4】特開2003−63810号公報
【非特許文献1】磯部徹彦著「蛍光体材料のナノサイズ化による発光の高量子効率化」応用物理第70巻第9号p.1087−1091(2001年)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、上記従来の技術の問題を解決するためになされたものであり、その目的は、窒化物半導体材料を用いた、発光特性に優れた蛍光体と、これを高い歩留りで製造できる
製造方法およびこれを用いた発光装置を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、直径が3nm以下の柱状結晶で構成される蛍光体であって、該柱状結晶において発光領域と光吸収領域とが規定され、該発光領域および該光吸収領域は、前記柱状結晶の長手方向に隣接していることを特徴とする蛍光体を提供する。
【0010】
好ましくは、前記発光領域の長さが3nm以下である。
好ましくは、前記発光領域が前記光吸収領域により挟まれている。
【0011】
好ましくは、前記発光領域が2個以上存在する。
好ましくは、前記発光領域は、赤色を呈する発光領域、緑色を呈する発光領域および青色を呈する発光領域を含み、該赤色、緑色および青色が混色されて全体として白色を呈する。
【0012】
好ましくは、前記柱状結晶は、III族窒化物を含み、該結晶の構造はウルツ鉱構造である。
【0013】
好ましくは、前記柱状結晶の直径を含む面が(0001)面であり、長手方向が<0001>方向である。
【0014】
好ましくは、前記発光領域に発光中心が添加されている。
好ましくは、前記発光中心が希土類元素である。
【0015】
好ましくは、前記吸収領域に光吸収を制御する元素が添加されている。
本発明はまた、基板上に誘電体薄膜を形成する工程と、該誘電体薄膜上に柱状結晶蛍光体を成長させる工程と、エッチングにより前記柱状結晶蛍光体を前記基板から脱離させる工程とを包含する蛍光体の製造方法を提供する。
【0016】
好ましくは、前記誘電体が窒化珪素または酸化珪素である。
本発明はまた、基板上に並列して、上記のいずれかに記載の蛍光体が、所定の密度で設置されたことを特徴とする発光装置を提供する。
【発明の効果】
【0017】
本発明の蛍光体によれば、良好な発光効率および発光強度を得ることができる。また、本発明の蛍光体の製造方法によれば、高い歩留りで製造できる。また、本発明の発光装置によれば、面状に発光体を形成する場合に比べて発光効率が向上する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
本発明の蛍光体は、直径が3nm以下の柱状結晶で構成され、該柱状結晶において発光領域と光吸収領域とが規定され、該発光領域および該光吸収領域は、前記柱状結晶の長手方向に隣接していることを特徴とする。このように、柱状結晶の直径を3nm以下にすることにより、量子サイズ効果によって発光効率を顕著に向上させることができ、また、内部電界によって発光効率が低下するのを防止することができる。また、直径が3nm以下ということにより微細な発光パターンを得ることができ、本発明の蛍光体をディスプレイや白色照明に用いた場合においても色ムラが生じない。より好ましくは、2.5nm以下である。
【0019】
本発明の蛍光体において、柱状結晶は、長手方向に垂直な断面であるナノサイズの微小領域から特定の方向に結晶成長した柱状の結晶からなる。また、当該柱状結晶には、光吸収領域とこれに隣接する発光領域が設けられている。ここで、光吸収領域とは、光を吸収する領域であり、当該光吸収領域の材料を適宜設計することにより吸収の対象とする波長を調整することができる。また、発光領域とは、光吸収領域から移動してきたエネルギを光に変換して外部に発光する領域である。当該発光する色は、光吸収領域から移動してきたエネルギ、および、発光領域を構成する材料によって調整することができる。
【0020】
以下、本発明の蛍光体を、図を用いて説明する。図1は、本発明の蛍光体の概略斜視図である。図1において、蛍光体1は、上述のとおり、直径が3nm以下の柱状の半導体単結晶から構成される。蛍光体1には、光吸収領域2とこれに挟まれた発光領域3とが設けられている。
【0021】
本発明において、蛍光体1を構成する半導体材料は、GaN、AlN、InNおよびこれらの混晶よりなるIII族窒化物半導体が好ましい。これらの半導体材料は、直接遷移型のワイドギャップ半導体であり、多彩な発光色を発色するのに必要なRGB(赤、緑および青色)発光を達成することができるからである。
【0022】
本発明において、発光領域3は直径および長さにおいて3nm以下であることが好ましい。3nmを超えると、量子サイズ効果が減少すると共に、内部電界による遮蔽効果が顕著となって発光効率が低下する。3nm以下とすることにより量子サイズ効果を顕著に発揮することができるので、より高い発光効率を達成することができる。当該発光領域の直径および長さは、断面の直径および柱状結晶の長手方向の長さを測定したものであり、たとえば、走査型電子顕微鏡を用いて、当該柱状結晶の形状を断面および側面から観察することにより測定することができる。
【0023】
本発明の蛍光体を励起する励起光源は、従来より用いられている紫外線(ここでは200〜380nmと定義する)に加え、青紫色(ここでは380〜450nmと定義する)を発する光源を用いることができる。なかでも、III族窒化物半導体を用いた青紫色半導体発光素子は、発光効率と省電力性に優れ、小型軽量化が可能であるために好ましい。
【0024】
このような紫外〜青紫色の励起光を吸収するためには、光吸収領域2はバンドギャップとして2.5eV〜6.5eVの範囲において調整されることが好ましく、このようなバンドギャップ制御が可能な半導体材料として、AlxGa1-xN(0≦x≦1)またはInyGa1-yN(0≦y≦0.15)混晶を用いることが好ましい。
【0025】
たとえば、励起光に波長300nmの紫外光源を用いた場合、光吸収領域2のバンドギャップが4.1eVよりも小さければ当該波長の励起光を吸収できるため、光吸収領域2はAl組成比xが0.3以下のAlxGa1-xNによって構成されることが好ましい。
【0026】
また、励起光に波長405nmの青紫色光源を用いた場合、光吸収領域2のバンドギャップが3.0eVよりも小さければ当該波長の励起光を吸収できるため、光吸収領域2はIn組成比yが0.08以上のInyGa1-yNによって構成されることが好ましい。
【0027】
また、RGBを混合し白色発光を得る目的で本発明の蛍光体を用いる場合には、演色性に優れた白色発光を得るための青色成分(450〜480nm)を吸収しないことが好ましく、光吸収領域2のバンドギャップは波長450nmに相当するバンドギャップ2.75eVよりも大きいことが好ましい。すなわち、光吸収領域2をInyGa1-yNで構成する場合には、In組成比yが0.15以下であることが好ましい。
【0028】
また、光吸収領域2の直径および長さは光吸収量を増大させるためには大きい方が好ましいが、体積増大に伴って蛍光体サイズが大きくなり、精細な発色が困難になるので、蛍光体1の長手方向の長さが1μm以下となるよう光吸収領域の長さを調整することが好ましい。当該光吸収領域の直径および長さは、上記発光領域と同様にして測定することができる。
【0029】
本発明において、発光領域3は、図1に示されるように、光吸収領域2により挟持されていることが好ましい。具体的には、発光領域3は、蛍光体1の長手方向において、2つの光吸収領域2に挟持されていることが好ましい。長手方向に垂直な発光領域3の両面が、光吸収領域2と接触することにより、エネルギ輸送効率が向上し、さらに、表面の欠陥を減少することができ、よって発光効率が向上する。
【0030】
また、本発明において、発光領域3は、図2に示すように、蛍光体1を構成する柱状結晶において2箇所以上あってもよい。さらに、これらの2つ以上の発光領域2は、それぞれ異なる発光波長で発光することもできる。図2の場合には、発光領域2は、3つ存在するので、当該発光領域3を挟持する光吸収領域2は4つ存在する。
【0031】
このように、発光領域3を蛍光体1中に2箇所以上設けることにより、光吸収領域2のエネルギを無駄なく発光領域3へ移動させることができる。また、複数の発光領域3を設けることにより、1つの蛍光体から異なる発光を行うことができる。特に、3原色である、赤、緑および青色の発光を呈する発光領域を含むことにより、これらの色が混色して、1つの蛍光体1から白色光を発色することができる。よって、複数の蛍光体を混合するなどの手間が不要となり、製造コストも低減でき、コストパフォーマンスの高い白色蛍光体を得ることができる。
【0032】
視認性が高く、また白色発光を得たときの演色性に優れた蛍光体の波長は、赤色発光はピーク波長が600〜670nmの範囲であることが好ましく、緑色発光はピーク波長が500〜550nmの範囲であることが好ましく、青色発光はピーク波長が450〜480nmの範囲であることが好ましい。
【0033】
上記のように複数の発光領域を有し、これらが異なる波長で発光する場合、発光波長の制御にはいくつかの方法を適用することができる。例えば、発光領域の組成比を制御して実質的なバンドギャップを変化させてもよい。
【0034】
上記に示した好ましい発光波長ピークを得るためのIII族窒化物半導体には、InzGa1-zN(0≦z≦1)混晶が好ましく、上述した好ましいRGB発光ピーク波長を任意に制御することができる。
【0035】
また、不純物を添加することにより、不純物を介した発光によって波長を制御してもよい。このような目的に用いられる不純物としては、柱状結晶の蛍光体としてIII族窒化物半導体材料を用いる場合には、ドナーとしてSiを用いることができ、アクセプターとしてZnやMgを用いることができる。
【0036】
ドナー不純物による準位はバンドギャップに比べて浅いため、これらは発光ピーク波長をバンドギャップから微細に制御することが可能である。一方、アクセプター準位はドナー準位に比べて深いため、発光ピーク波長を大きく変動させることができる。
【0037】
さらに、内殻遷移によって発光する発光中心を添加することにより発光ピーク波長を制御すると、上記のバンド間遷移や不純物準位を介した遷移に比べ、発光効率が高く、温度や励起条件による発光波長の変動が少なく好ましい。このような発光中心には希土類元素が適しており、具体的には、Nd,Sm、Eu、Gd、Tb、DyおよびYbなどが挙げられる。
【0038】
内殻遷移を利用した発光の場合は、発光ピーク波長は母体となるIII族窒化物半導体のバンドギャップによらず、希土類元素の種類とイオン価数で決定される。上述した好ましい発光ピーク波長を得るためには、赤色蛍光体についてはSm3+、Eu3+が特に好ましく、緑色蛍光体についてはTb3+、Eu2+が特に好ましく、青色蛍光体についてはCe3+、Tm3+が特に好ましい。
【0039】
また、本発明において、光吸収領域2にも不純物を添加して、吸収波長を制御するようにしてもよい。このような不純物として、上記のドナー・アクセプタ不純物および希土類発光中心を吸収不純物として用いることができる。
【0040】
本発明の蛍光体1は、その結晶構造がウルツ鉱構造であり、長手方向が<0001>方向である場合に、当該方向と垂直な面で切断した断面は、ウルツ鉱構造の(0001)面であることが好ましい。これにより、<0001>方向は容易配向軸であるので柱状結晶としやすく、また、径の寸法が揃った柱状蛍光体に容易に製造することができる。
【0041】
すなわち、蛍光体1の断面形状は、ウルツ鉱型の結晶構造を反映した6角形に近い形状となっており、断面の結晶面は(0001)面である。一方、長手方向はこれに垂直な<0001>方向となっている。蛍光体1に用いる上述した半導体材料はいずれもウルツ鉱型の結晶構造を含み、(0001)面から<0001>方向に向かって安定に配向し成長する。よって、本発明の蛍光体において柱状結晶を容易に得ることができる。当該断面形状の確認方法としては、走査型電子顕微鏡を用いて、当該柱状結晶の形状を断面および側面から観察することにより確認することができる。
【0042】
次に、本発明の蛍光体の製造方法について説明する。本発明の蛍光体の製造方法は、基板上に誘電体薄膜を形成する工程と、該誘電体薄膜上に柱状結晶蛍光体を成長させる工程と、エッチングにより前記柱状結晶蛍光体を前記基板から脱離させる工程とを包含する。
【0043】
これにより、誘電体薄膜状の結晶核から特定の配向性を有する柱状結晶をエピタキシャル成長させることができる。また、蛍光体を基板から脱離させる工程として、エッチングを用いることにより、柱状結晶からなる微小な蛍光体を容易に脱離することができる。以下本発明の蛍光体の製造方法について図を用いて説明する。
【0044】
図3は、本発明の蛍光体の製造プロセスの各工程を説明する概略断面図である。
まず、図3(a)に示すように、基板10を準備し、図3(b)に示すように、基板10の表面に誘電体膜11を形成する。基板材料としては(111)面Si基板、(0001)面サファイア基板、(0001)面または(111)面SiC基板が好ましい。当該基板10の厚さは、100μm以上1mm未満であることが好ましい。1mmを超えると、厚すぎるため基板10の裏面からの熱伝導が損なわれるという理由から、後述する柱状結晶の成長工程において、成長温度の制御が困難になるという問題が生じるおそれがあり、100μm未満であると、薄すぎるため割れやすいという理由から、製造工程における歩留まりが著しく低下するという問題が生じるおそれがある。
【0045】
また、誘電体膜11は、酸化硅素(SiO2)あるいは窒化硅素(Si34)が好ましい。基板10としてSiあるいはSiC基板を用いた場合は、基板表面を酸化または窒化処理することにより、これらの誘電体膜を形成することもできる。また、サファイア基板を用いた場合でも、スパッタリング法やCVD法、EB蒸着法など公知の薄膜形成手法により、これらの誘電体膜を形成することができる。当該誘電体膜11の厚さは、1nm以上100μm未満であることが好ましい。100μmを超えると、厚すぎるため、後述する選択エッチングなどで除去されにくいという理由から、誘電体膜から柱状結晶を離脱させる工程で柱状結晶が損傷を受けやすくなるという問題が生じるおそれがあり、1nm未満であると、薄すぎるため誘電体膜が均一に形成されにくいという理由から、誘電体膜上に成長させる結晶核が所望の配向をとりにくくなるという問題が生じるおそれがある。
【0046】
このように、誘電体として窒化珪素または酸化珪素を用いることにより、選択エッチングによって柱状蛍光体をエピタキシャル成長基板から容易に脱離することができ、柱状結晶からなる微小な蛍光体を容易に得ることができる。
【0047】
次に、図3(c)に示すように、誘電体膜11上に半導体の結晶核12を形成する。結晶核12の形成方法としては、分子線エピタキシー(MBE)法、化学気相堆積(CVD)法、パルスレーザ堆積(PLD)法などの手段を用いると、結晶成長の初期段階において自己形成的に結晶核を得ることができる。
【0048】
その後、図3(d)に示すように、結晶核12を成長させて、柱状結晶より成る光吸収領域12aを得る。誘電体膜11は半導体原料の付着確率が小さく、結晶核12は基板10上に一定の密度で点在する。また、その後の成長は結晶核12を中心に特定の方向に配向成長するため、図3dに示すような柱状結晶を容易に成長させることができる。
【0049】
次に、図3(e)に示すように、結晶成長条件を変更して、光吸収領域12aの上部に発光領域13を結晶成長させる。その後、図3(f)に示すように、結晶成長条件を再度変更し、発光領域13の上部に光吸収領域12bを結晶成長させる。
【0050】
以上の工程により、光吸収領域12と発光領域13より成る柱状結晶の蛍光体1が、基板10上に並設された状態で得られる。結晶成長手法には、分子線エピタキシー(MBE)法、化学気相堆積(CVD)法、パルスレーザ堆積(PLD)法などを用いることができる。
【0051】
その後、蛍光体1を脱離するために、誘電体膜11のみを選択的にエッチングする溶液を用いて、誘電体膜11を除去することにより、基板10から蛍光体1を脱離させる(図示せず)。このような工程を経て、本発明の蛍光体1を得ることができるものである。
【0052】
誘電体膜11が酸化硅素または窒化硅素で構成されている場合、エッチング溶液には弗化水素(HF)を含んだ溶液を用いることにより、基板10や蛍光体1に影響を与えずに誘電体膜のみをエッチング除去することができる点で好ましい。
【0053】
また、本発明の蛍光体1を用いて発光装置とすることができる。本発明の発光装置は、基板上に並列して、上述の蛍光体が、所定の密度で設置されたことを特徴とする。このよに、基板上に成長した柱状の蛍光体が所定の密度で並設されているので、基板を柱状蛍光体への励起光導光部として用いることができ、柱状蛍光体と基板とが一体であるため結合損失が低い。よって効率に優れた発光装置を得ることができる。本発明の発光装置の概略断面図を図4に示す。
【0054】
本発明の発光装置20は、上述の蛍光体の製造方法に従って、基板上21に誘電体膜22を介して成長させた柱状結晶の蛍光体群24を、基板から脱離させず、基板側面より励
起光源25を照射して励起させる。本発明の発光装置20は、薄膜状の発光領域を有する面発光型の発光装置に比べ、蛍光体の発光効率が高いために、より明るく効率に優れた発光装置となる。また、従来の粒子状の蛍光体を分散させた蛍光面を設ける場合に比べ、導光部となる基板と柱状蛍光体とが一体となっているために結合損失が小さく、効率の高い面発光型の発光装置を実現することができる。
【0055】
励起光源25と基板21の側面の間には、結合効率を向上させるためにレンズ26を介在させてもよい。また、基板21に入射した励起光を柱状結晶の蛍光体群24の内部に効率よく導光させため、基板21の下面に光反射板23を設けてもよい。当該光反射板23としては、アルミニウム(Al)、銀(Ag)、白金(Pt)などの材料を用いることができる。
【0056】
以下、実施例を用いて本発明を詳細に説明するが本発明はこれに限定されることを意図しない。
【実施例】
【0057】
(実施例1)
本実施例では、III族窒化物半導体を用いて柱状結晶とした蛍光体およびその製造方法の一例について説明する。
【0058】
図3において、基板10として(111)面を主面とするSiウエハ材料を用い、酸素雰囲気中900℃で3時間熱酸化して基板表面に厚さ10nmのSiO2膜を形成した。このSiO2膜が誘電体膜11に相当する。
【0059】
その後、基板10を分子線エピタキシ装置(図示せず)に導入し、金属Ga、金属Inおよびプラズマ化された活性な原子状Nビームを原料として基板10に照射することにより、In0.1Ga0.9Nより成る結晶核12を形成した。走査型電子顕微鏡により結晶核12を観察したところ、その表面は6角形の形状を有し、その直径は2.5nmであった。
【0060】
更に成長を続けることにより、結晶核12は長さ20nmのIn0.1Ga0.9Nより成る柱状結晶となった。この柱状結晶の領域が光吸収領域12aに相当する。
【0061】
次に、金属Gaと金属Inの分子線ビーム強度を調整して、光吸収領域12a上にIn0.2Ga0.8Nよりなる発光領域13を2nmの長さで成長した。
【0062】
次に、金属Gaと金属Inの分子線ビーム強度を再度調整して、光吸収領域12aと同組成のIn0.1Ga0.9Nより成る柱状結晶を、発光領域13上に20nmの長さで成長した。この柱状結晶の領域が光吸収領域12bに相当する。
【0063】
以上の結晶成長により、蛍光体1を形成した。その後、蛍光体1が形成した基板10を分子線エピタキシ装置から取り出し、HFを含む水溶液に浸漬させて、SiO2膜から成る誘電体膜11をエッチング除去し、蛍光体1を基板10から脱離させた。
【0064】
蛍光体1に波長405nmの青色LD光源を照射したところ、吸収領域12aおよび12bで光吸収が生じ、エネルギが発光領域13に遷移して、波長430nmの青色発光が得られた。
【0065】
(実施例2)
上記実施例1において、発光領域13を成長する際に不純物としてSiを添加した以外は、実施例1と同様にして本発明の蛍光体1を作製した。
【0066】
蛍光体1に波長405nmの青色LD光源を照射したところ、吸収領域12aから発光領域13に遷移したエネルギは、Siの不純物準位を介して発光し、波長450nmの青色発光が得られた。また、発光効率は実施例1の場合に比べ40%増大した。
【0067】
(実施例3)
上記実施例1において、発光領域13を成長する際に不純物としてTbを添加した以外は、実施例1と同様にして本発明の蛍光体1を作製した。
【0068】
次いで、実施例1と同様に、蛍光体1に波長405nmの青色LD光源を照射したところ、吸収領域12aから発光領域13に遷移したエネルギは、Tbのf軌道に相当する内殻遷移によって発光し、波長543nmの緑色発光が得られた。
【0069】
(実施例4)
上記実施例1において、光吸収領域12aおよび12bを成長する際に不純物としてTbとともにSmを添加した以外は、実施例3と同様にして本発明の蛍光体1を作製した。
【0070】
次いで、実施例1と同様に、蛍光体1に波長405nmの青色LD光源を照射したところ、吸収領域12aおよび12bに添加されたSmによって光吸収が促進され、Smから発光領域13に遷移したエネルギは、Tbのf軌道に相当する内殻遷移によって発光し、波長543nmの緑色発光が得られた。
【0071】
また、本実施例の蛍光体1の発光強度は、光吸収領域にSmを添加しない実施例3の蛍光体に比べ、発光強度が1.4倍に増大した。
【0072】
(実施例5)
上記実施例1において、発光領域13と光吸収領域12bに成長を交互に繰り返し行うことにより、図2に示すような、複数の発光領域を有する蛍光体1を作製した。その他は実施例1と同様にして本発明の蛍光体1を作製した。
【0073】
すなわち、本実施例の蛍光体1は、発光領域として3a、3bおよび3cの3つを有し、不純物として各々Tb、EuおよびSiが添加されている。
【0074】
次いで、本実施例の蛍光体1に波長405nmの青色LD光源を照射したところ、発光領域3a、3bおよび3cは各々緑、赤および青色に発光し、これらが混色されて白色発光を呈した。また、発光領域3a〜3cの形成順序を変更しても、発光強度および発光色は変らなかった。
【0075】
(実施例6)
上記実施例5において、蛍光体1を基板10から脱離させる工程を省略し、基板10から垂直に柱状の蛍光体1が固着された状態とした。基板10において、蛍光体1が固着された面と反対側の面には、厚さ500nmのAl膜を蒸着し、光反射板23とした。
【0076】
次いで、図4に示すように、基板10の側面から波長405nmの青色半導体レーザ素子25のレーザ光を、結合レンズ26を介して入射させた。
【0077】
レーザ光は基板10内部を横方向に導光すると共に光反射板23によって垂直方向に反射され、蛍光体1に入射し、白色発光を呈した。
【0078】
本実施例の発光装置は、量子サイズ効果が顕著なナノサイズの柱状蛍光体から発光しているため、面状に発光体を形成する場合に比べて発光効率が向上した。
【0079】
今回開示された実施の形態および実施例はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【図面の簡単な説明】
【0080】
【図1】本発明の蛍光体の概略斜視図である。
【図2】本発明の蛍光体の概略斜視図である。
【図3】本発明の蛍光体の製造プロセスの各工程を説明する概略断面図である。
【図4】本発明の発光装置の概略断面図である。
【符号の説明】
【0081】
1 蛍光体、2,12a,12b 光吸収領域、3,3a,3b,3c,13 発光領域、10,21 基板、11,22 誘電体、12 結晶核、20 発光装置、23 光反射板、24 蛍光体群、25 励起光源、26 レンズ。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
直径が3nm以下の柱状結晶で構成される蛍光体であって、該柱状結晶において発光領域と光吸収領域とが規定され、該発光領域および該光吸収領域は、前記柱状結晶の長手方向に隣接しており、
前記発光領域は、蛍光体の長手方向において2つの光吸収領域に挟持されており、
前記発光領域の呈する発光波長が430nmより長波長であり、
前記蛍光体の励起光の波長は200〜450nmであり、
前記光吸収領域は、AlxGa1-xN(0≦x≦1)およびInyGa1-yN(0≦y≦0.15)の少なくとも1つからなることを特徴とする、蛍光体。
【請求項2】
前記発光領域の長さが3nm以下であることを特徴とする、請求項1に記載の蛍光体。
【請求項3】
前記発光領域が2個以上存在することを特徴とする、請求項1または2に記載の蛍光体。
【請求項4】
前記発光領域は、赤色を呈する発光領域、緑色を呈する発光領域および青色を呈する発光領域を含み、該赤色、緑色および青色が混色されて全体として白色を呈することを特徴とする、請求項1〜3のいずれかに記載の蛍光体。
【請求項5】
前記柱状結晶は、III族窒化物を含み、該結晶の構造はウルツ鉱構造であることを特徴とする、請求項1〜4のいずれかに記載の蛍光体。
【請求項6】
前記柱状結晶の直径を含む面が(0001)面であり、長手方向が<0001>方向であることを特徴とする、請求項1〜5のいずれかに記載の蛍光体。
【請求項7】
前記発光領域に発光中心が添加されていることを特徴とする、請求項1〜6のいずれかに記載の蛍光体。
【請求項8】
前記発光中心が希土類元素であることを特徴とする、請求項7に記載の蛍光体。
【請求項9】
前記吸収領域に光吸収を制御する元素が添加されていることを特徴とする、請求項1〜8のいずれかに記載の蛍光体。
【請求項10】
請求項1〜9のいずれかに記載の蛍光体の製造方法であって、
基板上に誘電体薄膜を形成する工程と、該誘電体薄膜上に柱状結晶蛍光体を成長させる工程と、エッチングにより前記柱状結晶蛍光体を前記基板から脱離させる工程とを包含する蛍光体の製造方法。
【請求項11】
前記誘電体が窒化珪素または酸化珪素であることを特徴とする、請求項10に記載の蛍光体の製造方法。
【請求項12】
基板上に並列して、請求項1〜9のいずれかに記載の蛍光体が、所定の密度で設置されたことを特徴とする発光装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2009−30073(P2009−30073A)
【公開日】平成21年2月12日(2009.2.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−265458(P2008−265458)
【出願日】平成20年10月14日(2008.10.14)
【分割の表示】特願2004−296444(P2004−296444)の分割
【原出願日】平成16年10月8日(2004.10.8)
【出願人】(000005049)シャープ株式会社 (33,933)
【Fターム(参考)】