説明

蛍光体塗布装置および発光装置の製造方法

【課題】スプレー法によって蛍光体分散膜を形成する際に、蛍光体混合液を給送する配管内で蛍光体が沈殿せず、繰り返し塗布作業を行っても、濃度ムラが生じず、蛍光体が均一に分散された蛍光体分散膜を形成可能な蛍光体塗布装置を提供し、この蛍光体塗布装置を用いて、蛍光体が均一に分散された蛍光体分散膜を有する発光装置を連続的に製造可能な発光装置の製造方法を提供する。
【解決手段】蛍光体混合液を貯留するタンク11からスプレーノズル14まで給送する配管13内の蛍光体混合液20を攪拌する攪拌手段30を設けた蛍光体塗布装置10(10A〜10K)とし、この蛍光体塗布装置を用いて、配管内で攪拌混合された前記蛍光体混合液をスプレーノズルから吹き付けて塗布する配管内攪拌塗布工程を備える発光装置の製造方法とした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、発光素子と該発光素子から出射される光の波長を変換する蛍光体を含む波長変換部とを有する発光装置に関し、特に、発光素子に蛍光体を塗布する蛍光体塗布装置およびこの蛍光体塗布装置を用いた発光装置の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、所定の色で発光するLED発光素子と、LED発光素子から発光される色を所望の色合いの光に変換する蛍光体を分散した波長変換部を備えた発光装置(LED光源)が知られている。
【0003】
例えば、窒化ガリウム(GaN)系の青色LED(Light Emitting Diode:発光ダイオード)チップの近傍にYAG蛍光体等の蛍光体を配置し、青色LEDチップから出射される青色光と、蛍光体が青色光を受けて二次発光することにより出射される黄色光との混色により白色LEDを得る技術が広く用いられている。
【0004】
この際に、色調が一様な白色発光を得るためには、透明樹脂中に蛍光体を均一に分散させた蛍光体分散ガラス(波長変換部)を用いて、この膜材中でLED発光素子から発光される青色と蛍光体が発する黄色とを均一に混色してガラス体の外に混色光である白色光を一様に放出することが肝要である。
【0005】
波長変換部(蛍光体分散ガラス)は、例えば、ガラス粉末と蛍光体粉末とを混合し、樹脂バインダーを添加して所定形状に加圧成型して焼成することで作成できる。また、蛍光体粉末をアルコールや樹脂バインダーに配合して生成した液状の蛍光体混合液をスプレー塗布し、その後、硬化させて、所定厚みの蛍光体分散膜(波長変換部)を形成することもできる。
【0006】
また、バインダー中における蛍光体の密度が一定となるように攪拌して、蛍光体混合液の密度を保持したまま塗布することが行われており、例えば、バインダー中における蛍光物質の密度が実質的に一定になるよう攪拌させながら保持する工程と、密度を保持したまま所望量塗布する工程とを有する発光装置の形成方法及び形成装置が既に提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平10−233533号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
上記したように、蛍光体分散膜を発光素子の発光面に成膜して、所定の色合いで発光する発光装置を形成することができる。また、蛍光体混合液を貯留するタンクやスプレー手段部に攪拌装置を配設して、蛍光体の密度を一定に保つように攪拌しながら塗布して、均一な発光色を呈する蛍光体分散膜を生成することができる。
【0009】
特に、大量に連続的に蛍光体塗布作業を行うために、大型のタンクを使用して大量の蛍光体混合液を準備する場合では、タンクを別の場所に設置して、スプレー手段まで配管を経由して蛍光体混合液を給送している。また、このような構成であっても、蛍光体混合液を貯留するタンクやスプレー手段部に攪拌装置を配設することで、蛍光体の密度のバラツキを抑制することが可能である。
【0010】
しかし、たとえ、タンクやスプレー手段部に攪拌装置を配設した構成であっても、蛍光体塗布作業が行われていないと、配管内の蛍光体混合液の流れが止まるため、蛍光体が沈殿し、さらには蛍光体が配管に付着してしまうことがある。この配管における蛍光体の沈殿や付着により、タンク及びスプレー手段部で蛍光体混合液の攪拌を行っても、繰り返し塗布作業を行うと、塗布される蛍光体層に濃度ムラが生じる虞があることが判った。
【0011】
特に、大量に連続的に蛍光体塗布作業を行う際には、断続的に蛍光体塗布作業を行うために、作業の前半部分と後半部分とで、配管内の蛍光体の濃度ムラが生じてしまい、同一ロットの製品であっても、発光装置の蛍光体層に濃度ムラが生じて問題となる。
【0012】
蛍光体層に濃度ムラが生じると、発光素子から発光される色を変換する割合にムラが生じて、均一な発光色が得られずに色度が変化する。そのために、同一ロットの発光装置であっても、一様な色度が得られずに問題となる。
【0013】
また、このような色度変化を抑えるには、蛍光体塗布作業が停止されると、次の塗布作業の前に、配管内の蛍光体混合液を全て排出する必要や、沈殿し付着した蛍光体を取り除くメンテナンスを行う必要が生じて好ましくない。
【0014】
そのために、蛍光体混合液を貯留するタンクからスプレー手段まで配管を経由して蛍光体混合液を給送して繰り返し塗布作業を行う場合には、配管内で蛍光体が沈殿せず、付着しないように構成される蛍光体塗布装置が求められる。また、この蛍光体塗布装置を用いて、蛍光体が均一に分散された蛍光体分散膜を有して色度の変化が生じずに均一な発光色を呈する発光装置を連続的に製造することが求められる。
【0015】
そこで本発明は、スプレー法によって蛍光体分散膜を形成する際に、蛍光体混合液を給送する配管内で蛍光体が沈殿せず、繰り返し塗布作業を行っても、濃度ムラが生じず、蛍光体が均一に分散された蛍光体分散膜を形成可能な蛍光体塗布装置を提供し、この蛍光体塗布装置を用いて、蛍光体が均一に分散された蛍光体分散膜を有する発光装置を連続的に製造可能な発光装置の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0016】
上記目的を達成するために本発明は、蛍光体混合液を貯留するタンクと、蛍光体混合液を塗布対象物に吹き付けるスプレーノズルと、蛍光体混合液をタンクからスプレーノズルまで給送する配管とを備え、発光素子の発光面に前記蛍光体混合液を塗布して、当該発光素子から出射される光の波長を変換する蛍光体を含む波長変換部を形成するために用いる蛍光体塗布装置であって、前記発光素子はLED発光素子であり、LED基板に搭載される前記LED発光素子の発光面に、所定の蛍光体が分散された前記蛍光体混合液を前記スプレーノズルから吹き付けて塗布すると共に、前記配管内の蛍光体混合液を攪拌する攪拌手段を設けたことを特徴としている。
【0017】
上記の構成によると、タンクから配管を介してスプレーノズルに給送される蛍光体混合液を、配管内で攪拌した状態で塗布対象物である発光面に吹き付けるので、蛍光体の濃度ムラを生じない構成となって、繰り返し塗布作業を行っても、蛍光体が均一に分散された蛍光体分散膜を形成することが可能な蛍光体塗布装置を得ることができる。
【0018】
また本発明は上記構成の蛍光体塗布装置において、前記配管は主経路と循環経路を有し、前記攪拌手段は、蛍光体混合液を前記循環経路および前記主経路に沿って移動させる混合液移動装置を有することを特徴としている。この構成によると、循環経路内を循環させた後からスプレーノズルから吹き付けるので、蛍光体混合液に配合される蛍光体の濃度にムラが生じ難い構成となり、蛍光体が均一に分散された蛍光体分散膜を形成することが可能となる。
【0019】
また本発明は上記構成の蛍光体塗布装置において、前記混合液移動装置は、蛍光体混合液を前記循環経路および前記主経路に沿って循環させる混合液循環装置であることを特徴としている。この構成によると、循環経路内を循環させた後からスプレーノズルから吹き付けるので、蛍光体混合液に配合される蛍光体の濃度にムラが生じ難い構成となり、蛍光体が均一に分散された蛍光体分散膜を形成することが可能となる。
【0020】
また本発明は上記構成の蛍光体塗布装置において、前記混合液移動装置は、蛍光体混合液を前記循環経路および前記主経路に沿って往復移動循環させる混合液往復移動装置であることを特徴としている。この構成によると、循環経路内を循環させた後からスプレーノズルから吹き付けるので、蛍光体混合液に配合される蛍光体の濃度にムラが生じ難い構成となり、蛍光体が均一に分散された蛍光体分散膜を形成することが可能となる。
【0021】
また本発明は上記構成の蛍光体塗布装置において、前記攪拌手段は、前記配管を振動させる配管振動装置を有することを特徴としている。この構成によると、配管振動装置を用いて配管を振動させて、配管内の蛍光体混合液を攪拌するので、攪拌され蛍光体濃度が一様にされた混合液をスプレーノズルから吹き付ける構成となり、蛍光体が均一に分散された蛍光体分散膜を形成することが可能となる。
【0022】
また本発明は上記構成の蛍光体塗布装置において、前記攪拌手段は、前記配管内の蛍光体混合液を振動させる混合液加振装置を有することを特徴としている。この構成によると、混合液加振装置を用いて配管内の蛍光体混合液を加振してビビらせることで、攪拌したのと同じ効果を発揮して、蛍光体濃度のバラツキを低減して、蛍光体を一様に分散することができる。
【0023】
また本発明は上記構成の蛍光体塗布装置において、前記攪拌手段は、前記配管を上下左右のいずれか一方向に揺さぶる配管揺動装置を有することを特徴としている。この構成によると、配管揺動装置を用いて配管を揺さぶることで、攪拌したのと同じ効果を発揮して、蛍光体濃度のバラツキを低減して、蛍光体を一様に分散することができる。
【0024】
また本発明は上記構成の蛍光体塗布装置において、前記攪拌手段は、前記配管を振り回す配管回転装置を有することを特徴としている。この構成によると、配管回転装置を用いて配管を回転させることで、攪拌したのと同じ効果を発揮して、蛍光体濃度のバラツキを低減して一様に分散することができる。
【0025】
また本発明は上記構成の蛍光体塗布装置において、前記配管は伸縮容易なチューブ配管であって、前記攪拌手段は、前記チューブ配管を軸方向に伸縮させる配管伸縮装置を有することを特徴としている。この構成によると、配管伸縮装置を用いてチューブ配管を伸縮することで、攪拌したのと同じ効果を発揮して、蛍光体濃度のバラツキを低減して一様に分散することができる。
【0026】
また本発明は上記構成の蛍光体塗布装置において、前記配管はコイル状配管であり、前記攪拌手段は、前記コイル状配管をその長手軸方向に伸縮させる配管伸縮装置を有することを特徴としている。この構成によると、配管伸縮装置を用いてコイル状配管を伸縮することで、攪拌したのと同じ効果を発揮して、蛍光体濃度のバラツキを低減して一様に分散することができる。
【0027】
また本発明は上記構成の蛍光体塗布装置において、前記スプレーノズルに、吹き付け直前の蛍光体混合液を攪拌する攪拌部材を設けたことを特徴としている。この構成によると、配管内で攪拌したあと、さらに、スプレーノズル部で攪拌することで、蛍光体濃度をさらに均一にすることができる。
【0028】
また本発明は、蛍光体混合液を貯留するタンクと、蛍光体混合液を塗布対象物に吹き付けるスプレーノズルと、蛍光体混合液をタンクからスプレーノズルまで給送する配管とを備える蛍光体塗布装置を用いて、発光素子と該発光素子から出射される光の波長を変換する蛍光体を含む波長変換部とを有する発光装置を製造する発光装置の製造方法であって、前記発光素子はLED発光素子であり、前記スプレーノズルを用いて、LED基板に搭載される前記LED発光素子の発光面に、所定の蛍光体が分散された蛍光体混合液を塗布する蛍光体塗布工程と、塗布された前記蛍光体混合液を焼成し蛍光体分散膜を生成して前記波長変換部を形成する焼成工程とを備えると共に、前記蛍光体塗布工程が、前記配管内の蛍光体混合液を攪拌する攪拌手段を介して攪拌し、配管内で攪拌混合された前記蛍光体混合液を前記スプレーノズルから吹き付けて塗布する配管内攪拌塗布工程であることを特徴としている。
【0029】
上記の構成であれば、タンクに貯留された蛍光体混合液をスプレーノズルまで給送する配管内で、混合液を攪拌し蛍光体を一様に混合するので、スプレーノズルから吹き付けられる混合液中の蛍光体濃度は一様となり、繰り返し塗布作業を行っても、濃度ムラのない蛍光体混合液を塗布することができる。そのために、蛍光体が均一に分散された蛍光体分散膜を有する発光装置を連続的に製造可能な発光装置の製造方法となる。
【0030】
また本発明は上記構成の発光装置の製造方法において、前記攪拌手段は、配管内で蛍光体混合液を循環させる循環移動方式や、配管内で蛍光体混合液を往復移動させる往復移動方式や、振動させる振動付加方式や、配管を伸縮させる配管伸縮方式のうちのいずれか、もしくはこれらを組み合わせた方式を有することを特徴としている。この構成によると、配管内で蛍光体混合液を循環させたり、配管内で蛍光体混合液を往復移動させたり、振動させたりして、配管内の蛍光体混合液を攪拌することができる。
【発明の効果】
【0031】
本発明によれば、配管内の蛍光体混合液を攪拌する攪拌手段を設けて、攪拌され蛍光体濃度が一様にされた混合液をスプレーノズルから吹き付けて塗布するので、塗布作業を繰り返しおこなっても、常に蛍光体が均一に分散された蛍光体分散膜を形成することが可能な蛍光体塗布装置を得ることができる。そのために、蛍光体の濃度ムラを低減して色度の変化を抑制可能となる。また、この蛍光体塗布装置を用いて、配管内で攪拌混合された蛍光体混合液をスプレーノズルから吹き付けて塗布する配管内攪拌塗布工程を有する本発明に係る発光装置の製造方法によれば、均一な蛍光体濃度の蛍光体分散膜を有する発光装置を製造可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0032】
【図1】本発明に係る蛍光体塗布装置の構成を示す概略説明図である。
【図2】本発明に係る発光装置の概略構成を示す断面図である。
【図3】攪拌手段の第一実施形態を示す概略説明図である。
【図4】攪拌手段の第二実施形態を示す概略説明図である。
【図5】攪拌手段の第三実施形態を示す概略説明図である。
【図6】攪拌手段の第四実施形態を示す概略説明図である。
【図7】攪拌手段の第五実施形態を示す概略説明図である。
【図8】攪拌手段の第六実施形態を示す概略説明図である。
【図9】攪拌手段の第七実施形態を示す概略説明図である。
【図10】攪拌手段の第八実施形態を示す概略説明図である。
【図11】攪拌手段の第九実施形態を示す概略説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0033】
以下に本発明の実施形態を図面を参照して説明する。また、同一構成部材については同一の符号を用い、詳細な説明は適宜省略する。
【0034】
先ず、図1を用いて本実施形態に係る蛍光体塗布装置について説明する。本実施形態に係る蛍光体塗布装置10は、蛍光体混合液20を貯留するタンク11と、蛍光体混合液20を塗布対象物に吹き付けるスプレーノズル14と、蛍光体混合液20をタンク11からスプレーノズル14まで給送する配管13とを備え、LED基板1に搭載されたLED発光素子3に蛍光体混合液20をスプレーノズル14を用いて塗布する装置である。また、塗布された蛍光体混合液20を焼成し波長変換部を生成して、LED発光素子3の発光面に、所定の蛍光体が分散された蛍光体分散膜6(波長変換部)を備える発光装置LD(LED光源;図2参照)を製造する。
【0035】
また、蛍光体混合液20を貯留するタンク11にタンク内の蛍光体混合液20を攪拌するための攪拌装置12を備え、スプレーノズル14部にも吹き付け前の蛍光体混合液20を攪拌する攪拌装置15を設けている。
【0036】
これらの攪拌装置は、有機溶媒に蛍光体や無機微粒子などを混合した蛍光体混合液20を攪拌して均一に混ぜ合わせる機能を有し、例えば、磁力や電気力を介して装置内に配設する羽根状の可動片を駆動する構成であればよく、特に、その構成は限定されない。
【0037】
攪拌装置12を介して均一に混合された蛍光体混合液20は、圧力をかけられてタンク11から配管13を通じてスプレーノズル14に供給され、風圧を受けてスプレーノズル先端より、塗布対象物にスプレー塗布される。この際に、スプレーノズル14の先端に開閉自在な開口部を設けて、この開口部を開閉操作して吹き付け作業のオン・オフを制御する構成としてもよい。
【0038】
また、タンク11やスプレーノズル14部に攪拌装置を配設した構成であっても、蛍光体塗布作業が行われていないと、配管13内の蛍光体混合液20の流れが止まるため、配管13内に蛍光体が沈殿し、さらには蛍光体が付着してしまうことがある。また、配管内に蛍光体が沈殿したり付着したりすると、スプレーノズル14部で蛍光体混合液20の攪拌を行っても、多数の発光装置を連続的に製造するために断続的に塗布作業を行うときに、作業の前半と後半とで、塗布される蛍光体層に濃度ムラが生じる場合がある。
【0039】
そのために、本実施形態では、配管13内の蛍光体混合液20を攪拌する攪拌手段30を設けて、スプレーノズル14に給送する蛍光体混合液20中の蛍光体濃度のバラツキを抑制して、繰り返し蛍光体塗布作業を行う構成であっても、蛍光体を一様に混合した蛍光体混合液20を吹き付けて塗布するようにしたものである。
【0040】
すなわち、本実施形態に係る蛍光体塗布装置10は、タンク11に貯留された蛍光体混合液20をスプレーノズル14まで給送する配管13内で攪拌し、常に蛍光体の濃度を一様に混合して、塗布対象物に塗布する構成である。
【0041】
そのために、繰り返し蛍光体塗布作業を行うときでも、スプレーノズル14から吹き付けられる混合液中の蛍光体濃度は一様となり、濃度ムラのない蛍光体混合液20を塗布することができ、均一な濃度の蛍光体分散膜を形成可能な蛍光体塗布装置10となって好ましい。
【0042】
蛍光体混合液20は、例えば、有機金属化合物を有機溶媒に混合したゾル状の混合液に、蛍光体、層状ケイ酸塩鉱物、無機微粒子を含有している。有機金属化合物は、蛍光体、層状ケイ酸塩鉱物、無機微粒子を封止するバインダーとしての役割を果たすものである。本実施形態で用いる有機金属化合物としては、例えば、金属アルコキシド、金属アセチルアセトネート、金属カルボキシレート等が挙げられるが、加水分解と重合反応によりゲル化し易い金属アルコキシドが好ましい。
【0043】
金属アルコキシドは、テトラエトキシシランのような単分子のものでも良いし、有機シロキサン化合物が鎖状または環状に連なったポリシロキサンでも良いが、混合液の粘性が増加するポリシロキサンが好ましい。なお、透光性のガラス体を形成可能であれば金属の種類に制限はないが、形成されるガラス体の安定性や製造の容易性の観点から、ケイ素を含有していることが好ましい。また、複数種の金属を含有していても良い。
【0044】
蛍光体は、LED発光素子3からの出射光の波長(励起波長)により励起されて、励起波長と異なる波長の蛍光を出射するものである。本実施形態では、青色LED素子から出射される青色光(波長420nm〜485nm)を黄色光(波長550nm〜650nm)に変換するYAG(イットリウム・アルミニウム・ガーネット)蛍光体を使用している。
【0045】
このような蛍光体は、Y、Gd、Ce、Sm、Al、La、Gaの酸化物、または高温で容易に酸化物となる化合物を使用し、それらを化学量論比で十分に混合して混合原料を得る。或いは、Y、Gd、Ce、Smの希土類元素を化学量論比で酸に溶解した溶液をシュウ酸で共沈したものを焼成して得られる共沈酸化物と、酸化アルミニウム、酸化ガリウムとを混合して混合原料を得る。そして、得られた混合原料にフラックスとしてフッ化アンモニウム等のフッ化物を適量混合して加圧し、成形体を得る。得られた成形体を坩堝に詰め、空気中1350〜1450℃の温度範囲で2〜5時間焼成し、蛍光体の発光特性を持つ焼結体を得る。次に、この焼成品を水中でボールミルして、洗浄、分離、乾燥して、最後に篩を通すことで所望の蛍光体を得ることができる。
【0046】
また、得られた蛍光体の組成を調べ、所望の蛍光体であることを確認し、465nmの励起光における発光波長を調べたところ、おおよそ570nmにピーク波長を有していることを確認した。つまり、青色の光を照射すると黄色の発光を示す蛍光体を得ることができる。
【0047】
なお、本実施形態ではYAG蛍光体を使用しているが、蛍光体の種類はこれに限定されるものではなく、例えばCeを含まない非ガーネット系蛍光体等の他の蛍光体を使用することもできる。また、蛍光体の粒径が大きいほど発光効率(波長変換効率)は高くなる反面、有機金属化合物との界面に生じる隙間が大きくなって形成されたセラミック層の膜強度が低下する。従って、発光効率と有機金属化合物との界面に生じる隙間の大きさを考慮し、平均粒径が1μm以上50μm以下のものを用いることが好ましい。蛍光体の平均粒径は、例えばコールターカウンター法によって測定することができる。
【0048】
層状ケイ酸塩鉱物は、雲母構造、カオリナイト構造、スメクタイト構造等の構造を有する膨潤性粘土鉱物が好ましく、膨潤性に富むスメクタイト構造が特に好ましい。これは、後述するように混合液中に水を添加することで、スメクタイト構造の層間に水が進入して膨潤したカードハウス構造をとるため、混合液の粘性を大幅に増加させる効果があるためである。
【0049】
セラミック層中における層状ケイ酸塩鉱物の含有量が0.5重量%未満になると混合液の粘性を増加させる効果が十分に得られない。一方、層状ケイ酸塩鉱物の含有量が20重量%を超えると加熱後のセラミック層の強度が低下する。従って、層状ケイ酸塩鉱物の含有量は0.5重量%以上20重量%以下とすることが好ましく、0.5重量%以上10重量%以下がより好ましい。
【0050】
なお、有機溶媒との相溶性を考慮して、層状ケイ酸塩鉱物の表面をアンモニウム塩等で修飾(表面処理)したものを適宜用いることもできる。
【0051】
無機微粒子は、有機金属化合物と、蛍光体及び層状ケイ酸塩鉱物との界面に生じる隙間を埋める充填効果、加熱前の混合液の粘性を増加させる増粘効果、及び加熱後のセラミック層の膜強度を向上させる膜強化効果を有する。本発明に用いられる無機微粒子としては、酸化ケイ素、酸化チタン、酸化亜鉛等の酸化物微粒子、フッ化マグネシウム等のフッ化物微粒子等が挙げられる。特に、有機金属化合物としてポリシロキサン等の含ケイ素有機化合物を用いる場合、形成されるセラミック層に対する安定性の観点から酸化ケイ素の微粒子を用いることが好ましい。
【0052】
セラミック層中における無機微粒子の含有量が0.5重量%未満になると上述したそれぞれの効果が十分に得られない。一方、無機微粒子の含有量が50重量%を超えると加熱後のセラミック層の強度が低下する。従って、セラミック層中における無機微粒子の含有量は0.5重量%以上50重量%以下とすることが好ましく、1重量%以上40重量%以下がより好ましい。また、無機微粒子の平均粒径は、上述したそれぞれの効果を考慮して0.001μm以上50μm以下のものを用いることが好ましい。無機微粒子の平均粒径は、例えばコールターカウンター法によって測定することができる。
【0053】
なお、有機金属化合物や有機溶媒との相溶性を考慮して、無機微粒子の表面をシランカップリング剤やチタンカップリング剤で処理したものを適宜用いることもできる。
【0054】
有機金属化合物を有機溶媒に混合した前駆体溶液を加熱することにより透光性のセラミック層を得ることができる。この前駆体溶液に蛍光体、層状ケイ酸塩鉱物、及び無機微粒子を混合した蛍光体混合液を塗布し加熱することで、蛍光体分散膜(波長変換部)が形成される。さらに、混合液に水を添加することにより、層状ケイ酸塩鉱物の層間に水が入り込んで混合液の粘性が増加するため、蛍光体の沈降を抑制することができる。なお、水に不純物が含まれていると重合反応を阻害するおそれがあるため、添加する水は不純物を含まない純水を用いる必要がある。
【0055】
有機溶媒としては、添加される水との相溶性に優れたメタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール等のアルコール類が好ましい。また、有機溶媒に対する有機金属化合物の混合量が5重量%未満になると混合液の粘性を増加させることが困難となり、有機金属化合物の混合量が50重量%を超えると重合反応が必要以上に速く進んでしまう。そのため、有機溶媒に対する有機金属化合物の混合量は5重量%以上50重量%以下が好ましく、8重量%以上40重量%以下がより好ましい。
【0056】
混合液の調製手順としては、例えば、表面処理された親油性の層状ケイ酸塩鉱物を用いる場合は、先ず有機金属化合物を有機溶媒に混合した溶液(前駆体溶液)に層状ケイ酸塩鉱物を予備混合し、その後に蛍光体、無機微粒子、及び水を混合する。また、表面処理されていない親水性の層状ケイ酸塩鉱物を用いる場合は、先ず層状ケイ酸塩鉱物と水とを予備混合し、その後に蛍光体、無機微粒子、及び前駆体溶液を混合する。これにより、層状ケイ酸塩鉱物を均一に混合して増粘効果をより高めることができる。混合液の好ましい粘度は25〜800cPであり、最も好ましい粘度は30〜500cPである。
【0057】
また、有機溶媒に水を加えた総溶媒量に対する水の割合が5重量%未満になると上記の増粘効果を十分に得ることができず、水の割合が60重量%を超えると増粘効果よりも水の混合過多による粘度低下効果の方が大きくなる。そのため、水の割合は総溶媒量に対し5重量%以上60重量%以下が好ましく、7重量%以上55重量%以下がより好ましい。
【0058】
混合液の最も好ましい組成は、有機金属化合物としてポリシロキサンを用いたものであり、混合液中に含まれる上記各成分の最も好ましい組成範囲は、ポリシロキサン分散液が4〜30重量%、層状ケイ酸塩鉱物が1〜10重量%、無機微粒子が1〜40重量%、水が10〜50重量%である。
【0059】
以上のようにして得られた蛍光体混合液20をLED発光素子3に所定量塗布し、加熱、焼成して所定の膜厚の蛍光体分散膜6(波長変換部)を形成する。加熱温度が100℃未満である場合は有機金属化合物の重合反応が進行せず、加熱温度が1000℃を超える場合は層状ケイ酸塩鉱物が熱分解して層状構造が破壊されてしまう。従って、混合液の加熱温度は100℃以上1000℃以下とする必要があり、250℃〜600℃が好ましい。
【0060】
また、形成された蛍光体分散膜6(波長変換部)の厚みが5μm未満である場合は波長変換効率が低下して十分な蛍光が得られず、蛍光体分散膜6の厚みが500μmを超える場合は膜強度が低下してクラック等が発生し易くなる。従って、蛍光体分散膜6の厚みは5μm以上500μm以下であることが好ましい。
【0061】
上記のようにして製造された発光装置LD(LED光源)について図2を用いて説明する。
【0062】
図2に示すように、発光装置LDは、平板状あるいは断面凹状のLED基板1上にメタル部2を設け、メタル部2上にLED発光素子3を配置している。LED発光素子3は、メタル部2に対向する面に、突起電極4が設けられており、メタル部2とLED発光素子3とを突起電極4を介して接続している(フリップチップ型)。なお、一つのLED基板1に対して一つのLED発光素子3を設ける構成でも、一つのLED基板に対して複数のLED発光素子3を設ける構成であってもよい。
【0063】
本実施形態では、断面凹状のLED基板1を用い、LED発光素子3として青色LED素子を搭載した発光装置LDを製造している。青色LED素子は、例えばサファイア基板上にn−GaN系クラッド層、InGaN発光層、p−GaN系クラッド層、及び透明電極を積層してなる。
【0064】
また、LED基板1の凹部には、LED発光素子3の周囲を封止するように蛍光体分散膜6(波長変換部)が形成されている。蛍光体分散膜6(波長変換部)は、LED発光素子3から出射される所定波長の光を、異なる波長の光に変換する部分であり、透光性を有するセラミック層中にLED発光素子3からの波長により励起されて、励起波長と異なる波長の蛍光を出す所定の蛍光体が添加されている。
【0065】
蛍光体分散膜6(波長変換部)は、少なくとも、LED発光素子3の周囲(上面および側面)に設ければよく、それ以外のLED基板1の凹部には設けていなくてもよい。また、LED発光素子3の周囲のみに蛍光体分散膜6(波長変換部)を設ける方法としては、LED発光素子3の周囲以外をマスクする方法を用いることができる。
【0066】
図1に示す本実施形態の蛍光体塗布装置10は、蛍光体分散膜6中の蛍光体の濃度ムラを低減して発光色度のバラツキを抑制するために、配管13内の蛍光体混合液20を攪拌する攪拌手段30を備えている。
【0067】
配管13内の蛍光体混合液20を攪拌する攪拌手段30は、種々のタイプの装置を用いることができる。例えば、循環装置や、往復移動装置や、振動装置や加振装置などを用いて、配管13内の蛍光体混合液20を移動させ、循環させ、振動させるなどして攪拌することができる。実際に適用した攪拌手段30について図3―図11を用いて説明する。
【0068】
図3に示す蛍光体塗布装置10Aは、攪拌手段30として循環ポンプ31を用いた第一実施形態例である。また、配管13に循環経路16を設けて、継手部17、18を介して接続している。そのために、配管13の継手部17と継手部18との間が主経路13Aとなって、循環ポンプ31を介して、循環経路16内の蛍光体混合液20を、例えば、循環経路16、継手部17、主経路13A、継手部18、循環経路16の順に図中の矢印に示す方向に循環移動する。
【0069】
このときに、継手部17はタンク11の極近くに、また、直接タンク11に設けてもよく、継手部18はスプレーノズル14の極近くに、またスプレーノズル本体部に直接設けてもよい。いずれにしても、スプレーノズル14に給送される蛍光体混合液20中の蛍光体濃度にバラツキが生じ難い部位にそれぞれの継手部17、18を設けることが好ましい。
【0070】
このような構成であれば、循環経路内を循環させた後からスプレーノズル14から吹き付けるので、配管内で蛍光体の沈殿や付着が生じずに、蛍光体混合液20に配合される蛍光体の濃度にムラが生じ難い構成となり、蛍光体が均一に分散された蛍光体分散膜を形成することが可能な蛍光体塗布装置10Aとなって好ましい。
【0071】
蛍光体が均一に分散された蛍光体分散膜を所定厚み形成した構成であれば、発光素子が発光する一次光と蛍光体が発光する二次光とが一様に混色された第三光を発光して、発光色度の変化を抑制することができ、高品質の発光装置(LED光源)を製造することが可能となる。すなわち、本実施形態の蛍光体塗布装置10Aを用いることで、同一ロットの発光装置を大量に製造する場合でも、蛍光体が均一に分散された蛍光体分散膜を有する高品質の発光装置LDを製造可能となる。
【0072】
また、循環ポンプ31を介してタンク11内の蛍光体混合液20を攪拌可能であれば、タンク11に設ける攪拌装置12を用いる必要がなくなり削減可能である。同じく、循環ポンプ31を介してスプレーノズル部の蛍光体混合液20を攪拌可能であれば、スプレーノズル部に設ける攪拌装置15を用いる必要がなくなり削減可能である。
【0073】
図4に示す蛍光体塗布装置10Bは、攪拌手段30として混合液移動装置32を用いた第二実施形態例である。また、配管13に継手部17、18を介して循環経路16を設けている。混合液移動装置32は、例えば、循環経路内に磁性体からなるシリンダ部材32aを移動自在に収容し、このシリンダ部材32aを、外部に設置する一軸アクチュエータのマグネット駆動子32bを介して往復移動させる構成とされる。
【0074】
このように、循環経路16内でシリンダ部材32aを往復移動させることでも、配管内の蛍光体混合液20を攪拌して、蛍光体濃度のバラツキを抑制することが可能である。
【0075】
シリンダ部材32aの形状は、特には限定されないが、往復移動するマグネット駆動子32bにより駆動力を受けて循環経路16内を摺動移動し、蛍光体混合液20を攪拌可能な形状であればよい。
【0076】
このように、シリンダ部材32aとマグネット駆動子32bを備えた構成の混合液移動装置32であっても、循環経路16内、および主経路13A内の蛍光体混合液20を攪拌することができる。そのために、蛍光体混合液20を攪拌した後、スプレーノズル14から吹き付けるので、蛍光体混合液に配合される蛍光体の濃度にムラが生じ難い構成となり、蛍光体が均一に分散された蛍光体分散膜を形成することが可能となって好ましい。
【0077】
図5に示す蛍光体塗布装置10Cは、攪拌手段30として循環装置としての回転プロペラ33を用いた第三実施形態例である。また、配管13に設ける継手部17、18を介して循環経路16を設けている。回転プロペラ33は、例えば、磁力や電気力を介して装置内に配設するプロペラ状の可動片を駆動する構成であればよく、特に、その構成は限定されない。
【0078】
このように、回転プロペラ33を備えた構成の循環装置であっても、循環経路16内、および主経路13A内の蛍光体混合液20を攪拌することができる。そのために、蛍光体混合液20を攪拌した後、スプレーノズル14から吹き付けるので、蛍光体混合液20に配合される蛍光体の濃度にムラが生じ難い構成となり、蛍光体が均一に分散された蛍光体分散膜を形成することが可能となって好ましい。
【0079】
図6に示す蛍光体塗布装置10Dは、攪拌手段30として配管を振動させる配管振動装置34を用いた第四実施形態例である。また、配管13に継手部17、18を設けて、この間の主経路13Aを振動領域としてもよい。この構成であれば、設置する配管振動装置34により振動付加され易い配管部材を用いることで、配管を効果的に振動させて、蛍光体混合液20を加振して混合する、すなわち、良好に攪拌することができる。
【0080】
上記したように、配管振動装置34も攪拌手段30として機能するので、配管振動装置34を備えた蛍光体塗布装置10Dも配管内の蛍光体混合液20を攪拌することができる。そのために、蛍光体混合液20を攪拌した後、スプレーノズル14から吹き付けるので、蛍光体混合液20に配合される蛍光体の濃度にムラが生じ難い構成となり、蛍光体が均一に分散された蛍光体分散膜を形成することが可能となって好ましい。
【0081】
図7に示す蛍光体塗布装置10Eは、攪拌手段30として配管内の蛍光体混合液20を振動させる混合液加振装置35を用いた第五実施形態例である。また、配管13に継手部17、18を設けて、この間の主経路13A内の蛍光体混合液20Aを振動させる構成としてもよい。この混合液加振装置35としては、例えば、配合する所定粒子径の蛍光体を振動させる効果を有する超音波振動装置を用いることができる。
【0082】
また、超音波振動装置を用いる場合は、超音波を伝達しやすい溶液中に主経路13Aを浸漬して、また主経路13Aと混合液加振装置35を一体的に浸漬して、超音波による振動効果を向上させる構成としてもよい。
【0083】
上記した構成であれば、混合液加振装置35を用いて配管内の蛍光体混合液20Aを加振してビビらせることで、攪拌したのと同じ効果を発揮して、蛍光体濃度のバラツキを低減して、蛍光体を一様に分散することができる。
【0084】
すなわち、混合液加振装置35も攪拌手段30として機能するので、混合液加振装置35を備えた蛍光体塗布装置10Eも配管内の蛍光体混合液20を攪拌することができる。そのために、蛍光体混合液20を攪拌した後、スプレーノズル14から吹き付けるので、蛍光体混合液20に配合される蛍光体の濃度にムラが生じ難い構成となり、蛍光体が均一に分散された蛍光体分散膜を形成することが可能となって好ましい。
【0085】
図8に示す蛍光体塗布装置10Fは、攪拌手段30として配管を上下左右のいずれか一方向に揺さぶる配管揺動装置36を用いた第六実施形態例である。また、継手部17Aを配管揺動装置36により、例えば、図面に示すように上下に移動して、継手部17Aと継手部18との間の主経路13A部分を揺さぶって波打たせるようにしている。この配管揺動装置36としては、例えば、継手部17Aを所定方向に往復移動する一軸アクチュエータを用いることができる。
【0086】
上記した構成であれば、配管揺動装置36を用いて配管を揺さぶることで、攪拌したのと同じ効果を発揮して、蛍光体濃度のバラツキを低減して、蛍光体を一様に分散することができる。
【0087】
すなわち、配管揺動装置36も攪拌手段30として機能するので、配管揺動装置36を備えた蛍光体塗布装置10Fも配管内の蛍光体混合液20を攪拌することができる。そのために、蛍光体混合液20を攪拌した後、スプレーノズル14から吹き付けるので、蛍光体混合液20に配合される蛍光体の濃度にムラが生じ難い構成となり、蛍光体が均一に分散された蛍光体分散膜を形成することが可能となって好ましい。
【0088】
図9に示す蛍光体塗布装置10Gは、攪拌手段30として配管を振り回す配管回転装置37を用いた第七実施形態例である。この場合には、配管に設ける継手部として、それぞれ配管を回転自在に支持する回転継手部17B、18Aを用い、一方の継手部、例えば、継手部17Bを配管回転装置37により所定半径で振り回す構成とする。すなわち、この配管回転装置37としては、継手部17Bを所定半径で振り回す機能を有する回転駆動部材、例えばロータリーアクチュエータを用いることができる。
【0089】
上記した構成であれば、配管回転装置37を用いて配管を回転させることで、攪拌したのと同じ効果を発揮して、蛍光体濃度のバラツキを低減して一様に分散することができる。
【0090】
すなわち、配管回転装置37も攪拌手段30として機能するので、配管回転装置37を備えた蛍光体塗布装置10Gも配管内の蛍光体混合液20を攪拌することができる。そのために、蛍光体混合液20を攪拌した後、スプレーノズル14から吹き付けるので、蛍光体混合液20に配合される蛍光体の濃度にムラが生じ難い構成となり、蛍光体が均一に分散された蛍光体分散膜を形成することが可能となって好ましい。
【0091】
図10に示す蛍光体塗布装置10Hは、攪拌手段30として配管を軸方向に伸縮させる配管伸縮装置38を用いた第八実施形態例である。この場合には、配管は伸縮容易なチューブ配管が好ましいので、例えば、継手部17、18の間に伸縮容易なチューブからなる主経路13Bを設け、一方の継手部、例えば、継手部17を配管伸縮装置38により軸方向に往復移動して伸縮させる構成とする。すなわち、この配管伸縮装置38としては、移動端38Aまでの間を往復移動してチューブ配管からなる主経路13Bを伸縮させる機能を有する駆動部材、例えば一軸アクチュエータを用いることができる。
【0092】
上記した構成であれば、配管伸縮装置38を用いてチューブ配管を伸縮することで、攪拌したのと同じ効果を発揮して、蛍光体濃度のバラツキを低減して一様に分散することができる。
【0093】
すなわち、配管伸縮装置38も攪拌手段30として機能するので、配管伸縮装置38を備えた蛍光体塗布装置10Hも配管内の蛍光体混合液20を攪拌することができる。そのために、蛍光体混合液20を攪拌した後からスプレーノズルから吹き付けるので、蛍光体混合液20に配合される蛍光体の濃度にムラが生じ難い構成となり、蛍光体が均一に分散された蛍光体分散膜を形成することが可能となって好ましい。
【0094】
図11に示す蛍光体塗布装置10Kは、上記の蛍光体塗布装置10Hと同様に、攪拌手段30として配管を軸方向に伸縮させる配管伸縮装置38を用いた第九実施形態例であるが、伸縮させる配管部をコイル状配管13Cとしている点が異なる。すなわち、この第九実施形態例では、継手部17、18の間の主経路にコイル状配管13Cを設け、一方の継手部、例えば、継手部17を配管伸縮装置38により軸方向に往復移動して伸縮させる構成とする。すなわち、この配管伸縮装置38は、例えば前述した一軸アクチュエータであって、移動端38Aまでの間を往復移動してコイル状配管13Cを伸縮させる機能を有する。
【0095】
上記した構成であれば、配管伸縮装置38を用いてコイル状配管13Cを長手軸方向に伸縮することで、配管内の蛍光体混合液を攪拌したのと同じ効果を発揮して、蛍光体濃度のバラツキを低減して一様に分散することができる。
【0096】
すなわち、配管伸縮装置38を用いてコイル状配管13Cを伸縮させる構成も攪拌手段30として機能するので、蛍光体塗布装置10Kも配管内の蛍光体混合液20を攪拌することができる。そのために、蛍光体混合液20を攪拌した後からスプレーノズルから吹き付けるので、蛍光体混合液20に配合される蛍光体の濃度にムラが生じ難い構成となり、蛍光体が均一に分散された蛍光体分散膜を形成することが可能となって好ましい。
【0097】
上記の第一実施形態例から第九実施形態で説明したように、本実施形態の蛍光体塗布装置10(10A〜10K)は、配管内の蛍光体混合液を攪拌する攪拌手段30を設けて、攪拌され蛍光体濃度が一様にされた混合液をスプレーノズルから吹き付けて塗布する構成としている。そのために、本実施形態に係る蛍光体塗布装置によれば、蛍光体が均一に分散された蛍光体分散膜を形成することが可能となる。
【0098】
〈実験例〉
次に、実際に行った実験結果について説明する。この実験では、発光素子として青色LED素子を用いて、この発光面に青色を黄色光(波長550nm〜650nm)に変換するYAG蛍光体を成膜したものである。また、第一実施形態で説明した循環ポンプ31を使用した第一実験、第二実施形態で説明したシリンダ部材を使用した第二実験、第三実施形態で説明した回転プロペラ33を使用した第三実験、第五実施形態で説明した超音波振動装置を使用した第四実験、第六実施形態で説明した配管揺動装置を使用した第五実験を行い、それぞれにおける発光装置を複数作製し、その発光色度の変化程度を確認した。また、比較例として、配管内で蛍光体混合液を攪拌しない従来方法による蛍光体分散膜を成膜した発光装置を複数作製し、その発光色度の変化程度を確認した。この実験結果を表1に示す。
【0099】
【表1】

【0100】
表1に示すように、青色LED素子に黄色蛍光体分散膜を成膜して白色発光する発光装置を用いて、その色合い(発光色度)の変化程度を目視にて確認したところ、配管内で攪拌しない比較例(従来例)では、その色合いは確かに一様ではなく変化していることが明らかとなった。しかし、配管内で攪拌する本実施形態によれば、いずれの方法でも比較例よりも色度の変化は小さくなることが確認され、特に、第一実験での循環ポンプを用いた例や、第三実験でのプロペラを用いた例、第四実験での超音波振動装置を用いた例では、複数の発光装置における色度の変化は全く見られなかった。
【0101】
次に、本実施形態に係る発光装置の製造方法について説明する。
【0102】
本実施形態に係る発光装置の製造方法は、蛍光体混合液を貯留するタンクと、蛍光体混合液を塗布対象物に吹き付けるスプレーノズルと、蛍光体混合液をタンクからスプレーノズルまで給送する配管とを備える蛍光体塗布装置を用いて、発光素子と該発光素子から出射される光の波長を変換する蛍光体を含む波長変換部とを有する発光装置の製造方法である。また、発光素子はLED発光素子であり、スプレーノズルを用いて、LED基板に搭載されるLED発光素子の発光面に、所定の蛍光体が分散された蛍光体混合液を塗布する蛍光体塗布工程と、塗布された蛍光体混合液を焼成し蛍光体分散膜を生成して波長変換部を形成する焼成工程とを備えている。
【0103】
また、本実施形態においては、蛍光体塗布工程は、配管内の蛍光体混合液を攪拌する攪拌手段を介して攪拌し、配管内で攪拌混合された蛍光体混合液をスプレーノズルから吹き付けて塗布する配管内攪拌塗布工程である。
【0104】
上記の構成であれば、タンクに貯留された蛍光体混合液をスプレーノズルまで給送する配管内で、混合液を攪拌し蛍光体を一様に混合するので、スプレーノズルから吹き付けられる混合液中の蛍光体濃度は一様となり、繰り返し塗布作業を行っても、濃度ムラのない蛍光体混合液を繰り返し塗布することができる。そのために、蛍光体が均一に分散された蛍光体分散膜を有する発光装置を連続的に製造可能な発光装置の製造方法となって好ましい。
【0105】
また、配管内の蛍光体混合液を攪拌する攪拌手段として、前述した各種の攪拌手段を用いることができる。すなわち、配管内で蛍光体混合液を循環させる循環移動方式や、配管内で蛍光体混合液を往復移動させる往復移動方式や、振動させる振動付加方式や、配管を伸縮させる配管伸縮方式などのうちのいずれか、もしくはこれらを組み合わせた方式を用いることができる。このような構成であれば、配管内で蛍光体混合液を循環させたり、配管内で蛍光体混合液を往復移動させたり、振動させたりして、配管内の蛍光体混合液を攪拌することができる。
【0106】
そのために、蛍光体濃度がばらつかず、均一に混合された状態の蛍光体混合液を吹き付けるので、蛍光体が均一に分散された所定厚みの塗布膜を形成することができる。すなわち、本実施形態に係る発光装置の製造方法は、繰り返し塗布作業を行っても、所定波長の一次光を発光する発光面に対応して、均一な二次光を生成する蛍光体分散膜を形成可能な製造方法となる。
【0107】
上記したように本発明に係る蛍光体塗布装置によれば、配管内の蛍光体混合液を攪拌する攪拌手段を設けて、攪拌され蛍光体濃度が一様にされた混合液をスプレーノズルから吹き付けて塗布するので、繰り返し塗布作業を行っても、蛍光体が均一に分散された蛍光体分散膜を形成することが可能な蛍光体塗布装置を得ることができる。
【0108】
また、この蛍光体塗布装置を用いた本発明に係る発光装置の製造方法によれば、均一な蛍光体濃度の蛍光体分散膜を有する発光装置(LED光源)を連続的に製造可能となる。
【産業上の利用可能性】
【0109】
本発明に係る蛍光体塗布装置および発光装置の製造方法は、LED発光素子が発光する一次光と蛍光体が発する二次光を混色して所望の色合いの第三光を発光する発光装置(LED光源)に好適に適用可能な蛍光体塗布装置および発光装置の製造方法となる。
【符号の説明】
【0110】
1 LED基板
3 LED発光素子
6 蛍光体分散膜(波長変換部)
10 蛍光体塗布装置
11 タンク
12 攪拌装置
13 配管
13A 主経路
14 スプレーノズル
16 循環経路
20 蛍光体混合液
30 攪拌手段
31 循環ポンプ
32 混合液移動装置
33 回転プロペラ
34 配管振動装置
35 混合液加振装置
36 配管揺動装置
37 配管回転装置
38 配管伸縮装置
LD 発光装置(LED光源)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
蛍光体混合液を貯留するタンクと、蛍光体混合液を塗布対象物に吹き付けるスプレーノズルと、蛍光体混合液をタンクからスプレーノズルまで給送する配管とを備え、発光素子の発光面に前記蛍光体混合液を塗布して、当該発光素子から出射される光の波長を変換する蛍光体を含む波長変換部を形成するために用いる蛍光体塗布装置であって、
前記発光素子はLED発光素子であり、LED基板に搭載される前記LED発光素子の発光面に、所定の蛍光体が分散された前記蛍光体混合液を前記スプレーノズルから吹き付けて塗布すると共に、前記配管内の蛍光体混合液を攪拌する攪拌手段を設けたことを特徴とする蛍光体塗布装置。
【請求項2】
前記配管は主経路と循環経路を有し、前記攪拌手段は、蛍光体混合液を前記循環経路および前記主経路に沿って移動させる混合液移動装置を有することを特徴とする請求項1に記載の蛍光体塗布装置。
【請求項3】
前記混合液移動装置は、蛍光体混合液を前記循環経路および前記主経路に沿って循環させる混合液循環装置であることを特徴とする請求項2に記載の蛍光体塗布装置。
【請求項4】
前記混合液移動装置は、蛍光体混合液を前記循環経路および前記主経路に沿って往復移動循環させる混合液往復移動装置であることを特徴とする請求項2に記載の蛍光体塗布装置。
【請求項5】
前記攪拌手段は、前記配管を振動させる配管振動装置を有することを特徴とする請求項1に記載の蛍光体塗布装置。
【請求項6】
前記攪拌手段は、前記配管内の蛍光体混合液を振動させる混合液加振装置を有することを特徴とする請求項1に記載の蛍光体塗布装置。
【請求項7】
前記攪拌手段は、前記配管を上下左右のいずれか一方向に揺さぶる配管揺動装置を有することを特徴とする請求項1に記載の蛍光体塗布装置。
【請求項8】
前記攪拌手段は、前記配管を振り回す配管回転装置を有することを特徴とする請求項1に記載の蛍光体塗布装置。
【請求項9】
前記配管は伸縮容易なチューブ配管であって、前記攪拌手段は、前記チューブ配管を軸方向に伸縮させる配管伸縮装置を有することを特徴とする請求項1に記載の蛍光体塗布装置。
【請求項10】
前記配管はコイル状配管であり、前記攪拌手段は、前記コイル状配管をその長手軸方向に伸縮させる配管伸縮装置を有することを特徴とする請求項1に記載の蛍光体塗布装置。
【請求項11】
前記スプレーノズルに、吹き付け直前の蛍光体混合液を攪拌する攪拌部材を設けたことを特徴とする請求項1から10のいずれかに記載の蛍光体塗布装置。
【請求項12】
蛍光体混合液を貯留するタンクと、蛍光体混合液を塗布対象物に吹き付けるスプレーノズルと、蛍光体混合液をタンクからスプレーノズルまで給送する配管とを備える蛍光体塗布装置を用いて、発光素子と該発光素子から出射される光の波長を変換する蛍光体を含む波長変換部とを有する発光装置を製造する発光装置の製造方法であって、
前記発光素子はLED発光素子であり、前記スプレーノズルを用いて、LED基板に搭載される前記LED発光素子の発光面に、所定の蛍光体が分散された蛍光体混合液を塗布する蛍光体塗布工程と、塗布された前記蛍光体混合液を焼成し蛍光体分散膜を生成して前記波長変換部を形成する焼成工程とを備えると共に、前記蛍光体塗布工程が、前記配管内の蛍光体混合液を攪拌する攪拌手段を介して攪拌し、配管内で攪拌混合された前記蛍光体混合液を前記スプレーノズルから吹き付けて塗布する配管内攪拌塗布工程であることを特徴とする発光装置の製造方法。
【請求項13】
前記攪拌手段は、配管内で蛍光体混合液を循環させる循環移動方式や、配管内で蛍光体混合液を往復移動させる往復移動方式や、振動させる振動付加方式や、配管を伸縮させる配管伸縮方式のうちのいずれか、もしくはこれらを組み合わせた方式を有することを特徴とする請求項12に記載の発光装置の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2012−134289(P2012−134289A)
【公開日】平成24年7月12日(2012.7.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−284462(P2010−284462)
【出願日】平成22年12月21日(2010.12.21)
【出願人】(303000408)コニカミノルタアドバンストレイヤー株式会社 (3,255)
【Fターム(参考)】