説明

蛍光観察装置

【課題】複数の蛍光タグを用いて観察する場合でも最適な蛍光観察装置を提供する。
【解決手段】光源と、該光源からの光線を選択的に反射する光線分離手段と、試料を照明または観察する対物レンズと、試料を固定するステージと、該光線分離手段を通過した光線のうち所望の波長領域を選択する波長選択手段と、該波長選択手段を通過する光を検出する検出器を備えた蛍光観察装置は、2つ以上の波長で試料の照明を行ったときに得られる散乱または蛍光による2つ以上の波長を検出し、該照明における励起波長のうちで最も長波長側のものをλ1、最も短波長側のものをλ2とし、Δ1、Δ2をλ1、λ2の軸上の集光位置としたときに、以下の条件式を満たす。
λ1−λ2≧180nm
|Δ1−Δ2|<0.2μm

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、蛍光観察装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、生物試料の内部の分子挙動の観察に蛍光タグをつけた蛍光観察装置が多く用いられている。蛍光タグは蛍光物質を特定の生物学的な分子に結びつけることによって、生物内の分子の挙動や結合状態や運動状態などを観察することが可能となる。ここで蛍光タグとして使われるものとして、蛍光色素や蛍光たんぱく質や量子ドットなどが知られている。
【0003】
また、近年の特徴として、蛍光タグの多色化が挙げられる。蛍光タグを多色化すると複数種類の分子を区別して観察することができ、生体内の分子たちの相互作用などの複雑な現象を捉えることもできる。
【0004】
そしてこの蛍光タグの多色化によって、蛍光観察では従来よりも広い波長の範囲が利用されるようになった。
また、例えばKaedeやPA−GFPなどのフォトアクチベーション蛍光タンパク質では440nmや405nmの波長が用いられる。この様な短波長光は従来ではあまり利用されてこなかった光である。その結果、従来よりも広い波長域で収差補正がされた対物レンズに対する要求が高まっている。
【0005】
一方で近年では、生物試料の観察対象も例えば細胞内の構造から分子レベルの挙動を観察することが多くなり、顕微鏡における試料平面内および光軸方向の分解能の要求レベルも高くなっている。また、共焦点顕微鏡の普及により、高分解能で観測することが可能になっている。つまり、高分解能を達成するための高開口数の対物レンズに対する要求も高い。
【0006】
以下に示す特許文献1と特許文献2では蛍光観察に適した高開口数の顕微鏡対物レンズが提案されている。しかしながら、これらの顕微鏡対物レンズでは上記のような背景による要求を十分には満たしてはいないといえる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平7−35983号公報
【特許文献2】特開2003−21786号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
従来のアポクロマート顕微鏡対物レンズは、g線(435.83nm)〜C線(656.27nm)の波長域で収差補正を行うのが一般的であった。よって、近年では重要になっている405nmでの収差補正が十分でない場合があった。
【0009】
また、従来のアポクロマート対物レンズは目視による観察を想定したものが多く、最近のレーザ走査型顕微鏡の解像度に対応しきれていない場合があった。
また、対物レンズの軸上色収差に起因して、対物レンズに入射する照明光の大きさによって集光位置が異なる場合があった。例えば、対物レンズの瞳を完全に満たす照明光束の場合と、対物レンズの瞳を完全には満たさない照明光束の場合では、照明光束の集光する位置が異なる。この現象は従来の対物レンズでは、NAに対する球面収差量の特性が波長ごとに異なることによって起きていた。
【0010】
これにより、複数の波長の蛍光タグを同時に使用した場合、本来同じ場所にある複数の蛍光タグが、対物レンズの軸上色収差や倍率色収差に起因して、異なる場所にあるという間違った結果が観測される場合があった。或いは、本来異なる場所にある複数の蛍光タグが、対物レンズの軸上色収差や倍率色収差に起因して、同じ場所にあるという間違った結果が観測される場合があった。
【0011】
本発明の目的は、複数の蛍光タグを用いて観察する場合でも最適な蛍光観察装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明は、光源と、該光源からの光線を選択的に反射する光線分離手段と、試料を照明または観察する対物レンズと、試料を固定するステージと、該光線分離手段を通過した光線のうち所望の波長領域を選択する波長選択手段と、該波長選択手段を通過する光を検出する検出器を備えた蛍光観察装置において、2つ以上の波長で試料の照明を行ったときに得られる散乱または蛍光による2つ以上の波長を検出し、該照明における励起波長のうちで最も長波長側のものをλ1、最も短波長側のものをλ2とし、Δ1とΔ2をλ1とλ2の軸上の集光位置としたときに、以下の条件を満たすことを特徴とする蛍光観察装置によっても特徴付けられる。
(11) λ1−λ2≧180nm
(12) |Δ1−Δ2|<0.2μm
(11)と(12)式を満たすことができれば、試料内を複数の蛍光タグで染色しても色収差は無視できるレベルとなる。
【0013】
さらに、以下の条件を満たすことが望ましい。
(13) λ2≦442nm
近年蛍光タグには短波長側の刺激光を与えると特性が変化するフォトアクチベーション蛍光タグが用いられるようになっている。たとえばカエデやPA−GFPなどのフォトコンバージョン蛍光たんぱく質では405nmの波長を用いることが一般的である。また、442nmはCFP−YFPの蛍光共鳴エネルギー移動(FRET)の観察などで用いられるため、(13)式を満たすとフォトアクチベーションや蛍光共鳴エネルギー移動(FRET)の観察に対応することが可能となる。
【0014】
さらに、以下の条件を満たすことが望ましい。
(14) |δ1−δ2|≦0.3μm
ここでδ1とδ2はそれぞれλ1とλ2の視野数9での倍率の色収差を示す。
【0015】
このとき、前記対物レンズは、物体側より順に正のレンズ群Gaと正のレンズ群Gbとレンズ群Gcとレンズ群Gdとレンズ群Geとから構成され、前記正のレンズ群Gaは、物体側に平面を向けた平凸レンズと物体側に凹面を向けたメニスカスレンズを接合した接合レンズと正の単レンズとを含み、前記正のレンズ群Gbは、接合レンズからなり、前記レンズ群Gcは、少なくとも1つ以上の接合レンズを含み、前記レンズ群Gdは、像側に強い凹面を向けたメニスカス形状のものであり、前記レンズ群Geは、物体側に強い凹面を向けた負レンズを含み、前記レンズ群Gbは正レンズと負レンズと正レンズとの3枚接合であることが考えられる。この構成の対物レンズを蛍光観察装置に利用することが、課題解決の一手段である。
【0016】
さらに、前記対物レンズが以下の条件を満たすことが望ましい。
(1) 0.5 ≦ H2/H1 ≦ 0.75
(2) 7.8 ≦ f(Gb)/f ≦ 20
さらに、前記対物レンズが単独で色収差を行っていることが望ましい。単独で色収差を補正した場合、組み合わせるユニット(結像光学系や照明光学系)を選択する自由度が増える。
【0017】
本発明による蛍光観察装置において、該励起波長λ1とλ2で該試料の照明を行ったときの該検出器での検出結果より形成されるそれぞれ2つの画像を保存する画像保存手段と、該画像の重ね合せまたは差分または比率計算を行う画像解析手段とを備え、2つの画像の重ね合わせまたは差分または比率計算を行うことは好適である。
【0018】
また、該励起波長λ1とλ2とで励起した画像を保存する画像保存手段と、該画像の重ね合せまたは差分または比率計算を行う画像解析手段を備え、複数の画像の重ね合わせまたは差分または比率計算により蛍光タグで染色した試料内分子の解析が容易になる。近年FRETのように複数の蛍光波長のレシオをとって分子解析することが多くなっている。この場合は本発明のような色収差が補正された蛍光観察装置が適している。
【0019】
また、本発明の実施では、該ステージまたは該対物レンズが光軸方向に移動可能であり、
該試料と該対物レンズの間隔を複数変えて該試料の照明を行ったときの該検出器での検出結果より形成される画像を取得し、該取得された画像のうち該励起波長λ1、λ2で該試料の照明を行ったときの画像を各断面位置での画像保存位置に保存し、該試料と対物レンズの間隔が同じ位置で取得されたλ1、λ2の画像の演算を行うことが好適である。
【0020】
色収差の補正された本システムでは試料の3次元像の構築に有効である。軸上色収差がある場合、λ1、λ2での光軸方向の像位置が光軸方向にずれてしまう。このためλ1、λ2の画像を重ね合わせる場合、従来では対物レンズの軸上色収差分の異なった断面位置の像の重ね合わせを必要としていた。本システムでは軸上色収差が無視できるほど小さいため、正確な3次元像構築が可能である。
【0021】
本発明による蛍光観察装置において、試料面にビームスポットを走査する走査手段をもち、共焦点式の検出手段を持つことは好ましい。
本発明は軸上色収差を補正しているため、前述の通り、試料の3次元像を観察することに適している。このため、3次元的な検出が可能となる共焦点式の検出手段をもっていることが望ましい。
【0022】
また、本発明の実施による蛍光観察装置において、該複数のレーザ光源を備え、該複数波長のレーザを同一光路上に合成し、1本のファイバで蛍光観察装置に導入することが望ましい。
【0023】
通常レーザ光を顕微鏡に導入する場合は、システムレイアウトの自由度の高い光ファイバを用いることが多い。従来は、大きく異なる波長のレーザを顕微鏡に導入する場合に複数の光ファイバを用いることが多かった。波長が大きく異なることによる色収差はファイバの後段に配置されたコリメータの調整により補正可能であったが、各ファイバの調整が複雑であることが問題であった。近年に対応波長域の広い光ファイバが開発されてきた。この光ファイバを用いれば、本システムのような軸上色収差が十分補正されているシステムにきわめて有効である。
【0024】
本発明の実施による蛍光観察装置において、複数の蛍光タグにより標識された試料において、λ1とλ2の励起波長により取得された画像を重ね合わせ出力するとこにより2つ以上の標識された試料内分子の位置情報を解析することは好適である。
【0025】
蛍光共鳴エネルギー移動(FRET)やフォトコンバージョンを使った観察の場合、2つの蛍光波長の重ね合わせ、またはその比率を求める必要がある。この場合、色収差があると画像の重ね合わせにずれが生じて、正確なデータが得られない可能性がある。本システムは異なる波長を重ね合わせた場合でも波長による位置ずれが少ないため、試料内の分子の正確な位置情報を得るのに優れている。
【0026】
本発明の実施による蛍光観察装置において、λ1とλ2の励起波長により該試料の照明を行ったときの該検出器での検出結果より形成される画像を時間の経過に応じて複数取得し、該同一時刻に取得された時間経過のλ1とλ2における画像の比率を複数とることにより試料内の分子間の蛍光共鳴エネルギー移動を観察することは好適である。
【0027】
従来の共焦点顕微鏡では試料の3次元像を得るときに問題となる対物レンズの色収差を、複数の蛍光像を重ね合わせするときに、光軸方向に異なる断面の画像を重ねて表示する場合があった。このようにすれば、静止した試料での3次元像を得るときには問題ないが、細胞内の分子移動を見る場合は光軸方向に異なる断面を見る必要があり、波長により時間差が生じる。このため、この従来の方法ではたとえば細胞内の速い分子運動を見ることはできない。しかし、本発明のような色収差が補正された蛍光観察装置では速い分子運度も観察することが可能となる。
【0028】
さらに、2種類以上の蛍光タグを有するサンプルの画像を取得し、得られた画像の輝度情報をピクセル毎に2次元化し、プロットすることにより各分子の局在を推定する分子局在判定をすることも好ましい。
【0029】
2種類以上の蛍光タグを有するサンプルの画像を取得し、得られた画像の輝度情報をピクセル毎に2次元化し、プロットすることにより各分子の局在を推定する方法はコローカリゼーションと呼ばれ、2つの分子が結合しているかどうかの判定に用いる。このような観察においても本発明の色収差が補正された本発明は優れている。
【0030】
本発明の実施による蛍光観察装置において、ある波長による励起を行ったときの該検出器での検出結果より形成される試料画像をモニタ上に出力し、モニタ上に出力された試料像の一部の領域を指定し、指定部分のみ光を照射して蛍光退色を行い、指定領域内または指定領域外の蛍光像の時間変化を記録して試料内の分子拡散を検出することは好適である。
【0031】
試料画像をある波長により取得し、モニタ上に出力し、モニタ上に出力された試料像の一部の領域を指定し、指定部分のみ光を照射して蛍光退色を行い、指定領域内または指定領域外の蛍光像の時間変化を記録して試料内の分子拡散を求める方法はFRAPと呼ばれる手法である。この手法においても本発明のような色収差が補正された蛍光観察装置は適している。
【0032】
本発明の実施による蛍光観察装置において、試料画像をある波長による励起を行ったときの該検出器での検出結果より形成される試料画像をモニタ上に出力し、モニタ上に出力された試料像の一部の領域を指定し、指定部分のみ光を照射して試料内蛍光色素のアクチベーションを行い、指定領域内または指定領域外の蛍光像の時間変化を記録して試料内の分子分析を行うことは好適である。
【0033】
前述の通り、カエデやPA−GFPのように405nmの波長の光を用いてフォトコンバージョンする蛍光たんぱく質を用いる場合でも本発明のような蛍光観察装置は色収差が少ないため優れている。
【0034】
本発明の実施による蛍光観察装置において、試料内に複数の蛍光タグをつけた分子が存在し、複数の励起光を同時に照射し、得られる蛍光を分離してλ1、λ2に相当する蛍光波長を検出し、検出された蛍光の時間変化を記録し、蛍光相互相関分光法によって試料内分子の拡散速度を求めることは好適である。
【0035】
蛍光の時間変化を記録し相関関数を計算する手法として代表的なものにFCSとFCCS呼ばれるものがある。この手法で複数の励起波長を用いて複数の蛍光波長を検出すると分子が結合しているかが分かる。この場合、試料への集光スポットが励起波長でずれがないことが必要のため、本発明の蛍光観察装置が適している。
【0036】
なお、蛍光観察装置の対物レンズは、物体側より順に正のレンズ群Gaと正のレンズ群Gbとレンズ群Gcとレンズ群Gdとレンズ群Geとから構成され、前記正のレンズ群Gaは、物体側に平面を向けた平凸レンズと物体側に凹面を向けたメニスカスレンズを接合した接合レンズと正の単レンズとを含み、前記正のレンズ群Gbは、接合レンズからなり、前記レンズ群Gcは、少なくとも1つ以上の接合レンズを含み、前記レンズ群Gdは、像側に強い凹面を向けたメニスカス形状のものであり、前記レンズ群Geは、物体側に強い凹面を向けた負レンズを含み、H1をレンズ群Gbから射出するマージナル光線の光線高、H2をレンズ群Gdに入射するマージナル光線の光線高、fを対物レンズ全系の焦点距離、f(Gb)をレンズ群Gbの焦点距離、前記レンズ群Geは、物体側に強い凹面を向けた負レンズLenと、正レンズLepとを含み、νd(Len)を負レンズLenのガラスのアッベ数、νd(Lep)を正レンズLepのガラスのアッベ数、H3を前記レンズ群Geから射出するマージナル光線の光線高としたときに、次の条件式(1),(2),(3)’,(6)を満足する液浸系顕微鏡対物レンズによって解決される。
(1) 0.5 ≦ H2/H1 ≦ 0.75
(2) 7.8 ≦ | f(Gb)/f | ≦ 20
(3)’ 45 ≧ νd(Len)−νd(Lep) ≧ 30
(6) 0.5 ≦ H3/H1 ≦ 0.65
条件式(1)は軸上色収差を良好に補正するための条件である。条件式(1)により、レンズ群Gbからレンズ群Gdへの光線高を規定し軸上色収差を補正しやすくしている。条件式(1)の下限を下回ると、レンズ群Gbからレンズ群Gdへの光線高が低くなりすぎて、像面湾曲やコマ収差を補正することが困難となる。条件式(1)の上限を超えると、レンズ群Gbからレンズ群Gdへの光線高が高くなりすぎて、軸上色収差を良好に補正することが困難となる。ここではマージナル光線は、対物レンズのNAにより決まる軸上従属光線の最も光線高の高いものとする。
【0037】
条件式(2)は球面収差等の諸収差を良好に補正するための条件である。条件式(2)により、レンズ群Gbのパワーを規定している。条件式(2)の下限を下回ると、レンズ群Gbのパワーが強くなりすぎて、ここでの球面収差の発生量が大きくなりすぎる。条件式(2)の上限を超えると、レンズ群Gbのパワーが弱くなりすぎて、条件式(1)を満たすことが困難となり、軸上色収差を良好に補正できなくなる。なお、次の条件式
(1)’ 0.55 ≦ H2/H1 ≦ 0.73
(2)’ 8 ≦ | f(Gb)/f | ≦ 20
を満たすことがより好ましい。
【0038】
条件式(3)’は、レンズ群Geの負レンズと正レンズのアッベ数の差を大きくし、倍率の色収差を補正するための条件である。条件式の下限値を下回ると、倍率の色収差が補正不足となる。対物レンズ単独で軸上色収差および倍率色収差を補正するコンペンゼーションフリー対物レンズは、組み合わせるユニット(結像光学系や照明光学系)を選択する自由度が増える。
条件式(6)は諸収差を良好に補正するための条件である。条件式(6)の下限値を下回ると、レンズ群Gaおよびレンズ群Gbのパワーが弱くなりすぎ、レンズ群Gc以降の後群に強いパワーが必要となり、後群での諸収差の発生量が大きくなる。条件式の上限値を上回ると、レンズ群Gaおよびレンズ群Gbのパワーが強くなりすぎ、レンズ群Gaおよびレンズ群Gbでの諸収差の発生量が大きくなる。
【0039】
前記正レンズLepの光学ガラスは、Nb成分、或いは、Ta成分を含む光学ガラスであり、前記正レンズLepのd線の屈折率をnd(Lep)としたとき、次の条件式
(4) 1.65 ≦ nd(Lep) ≦ 1.8
(5) 25 ≦ νd(Lep) ≦ 41
を満足することが望ましい。
【0040】
コマ収差や倍率の色収差を良好に補正するため、正レンズLepは屈折率が高く色分散の大きい(アッベ数νdの小さい)光学ガラスを用いる必要がある。Nb成分、或いは、Ta成分を含むこれらの光学ガラスは、屈折率が高く色分散が大きい。よって、コマ収差や倍率の色収差を良好に補正できる。更に、これらの光学ガラスは、自家蛍光が小さく、紫外域での透過率が高い。よって、蛍光観察時にコントラストが高く明るい観察が可能である。
【0041】
なお、前記レンズ群Gbは、正レンズと負レンズと正レンズとの3枚接合であることが望ましい。マージナル光線の光線高が高いレンズ群Gbに3枚接合レンズを配置することで、軸上色収差を良好に補正できる。
【0042】
また、前記正のレンズ群Gaは、物体側に平面を向けた平凸レンズと物体側に凹面を向けたメニスカスレンズを接合した接合レンズG1と、物体側に凹面を向けた正のメニスカスレンズG2と、正の単レンズG3とからなり、f(G1+G2)を接合レンズG1とメニスカスレンズG2との合成焦点距離、fを対物レンズ全系の焦点距離、Dを接合レンズG1とメニスカスレンズG2との間のマージナル光線の長さとしたときに、次の条件式(7)(8)を満足する構成も好ましい。
(7) 1 ≦ f(G1+G2)/f ≦ 2
(8) D/f ≦ 0.6
物体からの発散光束を収斂させるために、物体側のレンズ群は強いパワーを持つのが一般的である。特にNAが大きな液浸系対物レンズは、最も物体側のレンズ群は半球に近い形状を持つのが一般的である。しかし、最も物体側のレンズ群に大きな収斂パワーを持たせると、そこで発生する球面収差や軸上色収差が大きくなりすぎて補正が困難となる。本発明では、これまでは最も物体側のレンズ群のみに持たせていた強い収斂作用を、接合レンズG1とメニスカスレンズG2の2つのレンズ群に持たせることにより、収差の発生量を低減し、かつ、収差を補正するレンズ面を増やしている。
【0043】
条件式(7)と(8)は、これらのレンズ群G1とG2について規定している。条件式(7)の下限を下回ると、レンズ群G1とG2のパワーが強くなりすぎ、ここでの球面収差量や軸上色収差量が増える。条件式(7)の上限を超えると、十分な収斂パワーが得られず、それ以後のレンズ群での光線高が上がり、球面収差や軸上色収差の補正が困難となる。条件式(8)の上限を超えると、レンズ群G1とG2の2つのレンズ群のパワーのバランスが保たれず、2つのレンズ群で従来の物体側レンズ群を代替するという目的を達成することができなくなる。なお、条件式(7)(8)を満たすことで、レンズ群G1が半球に近い形状になるのに加えて、レンズ群G2も半球に近い形状となる。すなわち球欠が深いレンズが2つある構成となる。この構成では、レンズ群G1の屈折力の負荷をレンズ群G2にも分担させることになり、レンズ群G1のレンズ厚の公差の影響をレンズ群G2に分散させることができ、レンズ群G1の加工性を良くする効果もある。
【0044】
また、本発明の対物レンズの外形的特徴は、接合レンズG1の像側面の曲率半径が焦点距離fより小さく、かつ、メニスカスレンズG2の像側の曲率半径が焦点距離fの2倍よりも小さいことである。これらの特徴により、レンズ群G3以降の光線高を抑えることができ、高次の収差(球面収差、コマ収差)を補正しやすくしているのと同時に、全体のレンズの外径を小さくすることができレンズの加工性が向上している。
【0045】
なお、前記レンズ群Gcが光軸方向に移動可能であり、次の条件式(9)を満足することが望ましい。
(9) | f(Gc)/f | ≦ 50
ただし、fは対物レンズ全系の焦点距離、f(Gc)はレンズ群Gcの焦点距離である。
【0046】
生体細胞(屈折率1.33〜1.45)の深部を観察する場合、細胞とオイルの屈折率が近い方が屈折率の差による球面収差の発生を抑えることができる。ところが、オイルの屈折率を1.51より低いものを使用すると、カバーガラス(nd=1.52426)との屈折率差が大きくなる。そのため、カバーガラスの厚みが0.17mmからずれた場合、大きな球面収差が発生する。条件式(9)は、カバーガラスの厚みによる球面収差や、生体細胞(nd=1.33〜1.45)とオイルの屈折率差による球面収差を補正するための条件である。条件式(9)の上限を超えると、球面収差を十分に補正することができなくなる。
【0047】
なお、条件式(9)の代わりに以下の条件式(10)を満たすことも考えられる。
(10) 10 ≦ |f(Gc)/f| ≦ 20
を満たすことが望ましい。この条件式の下限値を下回ると、レンズ群Gcのパワーが強くなりすぎて、レンズ群Gcでの収差の発生量が大きくなる。更に、レンズ群Gcの移動量が小さくなり、球面収差を補正する補正環の使用時に操作性が劣化する。
【発明の効果】
【0048】
本発明によると、複数の蛍光タグを用いて観察する場合でも最適な蛍光観察装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0049】
【図1】実施例1の対物レンズのレンズ断面図を示す。
【図2】実施例1の対物レンズの収差図を示す。
【図3】実施例2の対物レンズのレンズ断面図を示す。
【図4】実施例2の対物レンズの収差図を示す。
【図5】実施例3の対物レンズのレンズ断面図を示す。
【図6】実施例3の対物レンズの収差図を示す。
【図7】実施例4の対物レンズのレンズ断面図を示す。
【図8】実施例4の対物レンズの収差図を示す。
【図9】実施例5の対物レンズのレンズ断面図を示す。
【図10】実施例5の対物レンズの収差図を示す。
【図11】実施例6の対物レンズのレンズ断面図を示す。
【図12】実施例6の対物レンズの収差図を示す。
【図13】実施例7の対物レンズのレンズ断面図を示す。
【図14】実施例7の対物レンズの収差図を示す。
【図15】比較例1の対物レンズのレンズ断面図を示す。
【図16】比較例1の対物レンズの収差図を示す。
【図17】比較例2の対物レンズのレンズ断面図を示す。
【図18】比較例2の対物レンズの収差図を示す。
【図19】比較例3の対物レンズのレンズ断面図を示す。
【図20】比較例3の対物レンズの収差図を示す。
【図21】結像レンズAのレンズ断面図を示す。
【図22】結像レンズBのレンズ断面図を示す。
【図23】各実施例の物体面での各波長での軸上の集光位置を示す。
【図24】対物レンズの軸上色収差の収差図の概略図を示す。
【図25】照明光束の大きさの違いによる、各波長の集光位置の違いを表した概略図を示す。
【図26】各実施例の物体面での視野数9の倍率の色収差を示す。
【図27】従来技術のレーザ走査型鏡焦点顕微鏡を示す。
【図28】本発明の実施によるレーザ走査型鏡焦点顕微鏡を示す。
【図29】本発明の実施によるレーザ走査型鏡焦点顕微鏡を用いた画像処理システムを示す。
【図30】本発明を利用した蛍光共鳴エネルギー移動(FRET)の観察例を示す。
【発明を実施するための形態】
【0050】
次に本発明の顕微鏡対物レンズの実施の形態を各実施例にもとづいて説明する。
ただし、実施例中において、sは各レンズ面の面番号、rは各レンズ面の曲率半径(単位mm)、dは各レンズ面間の間隔(単位mm)、ndは各レンズのd線の屈折率、νdは各レンズのd線におけるアッベ数である。また、βは倍率、NAは開口数、WDは作動距離(単位mm)、fは対物レンズ全系の焦点距離(単位mm)、f(G1+G2)は第1レンズ群と第2レンズ群との合成焦点距離(単位mm)、f(Ga)〜f(Ge)はレンズ群Ga〜レンズ群Geの各レンズ群の焦点距離(単位mm)、H1はレンズ群Gbから射出するマージナル光線の光線高(単位mm)、H2はレンズ群Gdに入射するマージナル光線の光線高(単位mm)、H3は対物レンズ射出側のマージナル光線の光線高(単位mm)である。
【0051】
下記の各実施例で用いられる光学ガラスは、紫外域での透過率が優れ、自家蛍光の少ない光学ガラスを選択しており、各実施例は蛍光観察に最適な対物レンズとなっている。また、各光学ガラスは、環境対応ガラス(鉛フリーガラス)を選択しており、各実施例は環境に配慮した対物レンズとなっている。
【0052】
なお、各媒質の各波長の屈折率は以下のとおりである。
【0053】
【表1】

また、各実施例は、対物レンズからの射出光が平行光束となる無限遠補正型の対物レンズであり、それ自身では結像しない。そこで、例えば以下の結像レンズA(焦点距離180mm)、あるいは、結像レンズB(焦点距離180mm)と組み合わせて使用される。ただし、図21は結像レンズAの断面図を示し、図22は結像レンズBの断面図を示す。
(結像レンズA)
【0054】
【表2】

(結像レンズB)
【0055】
【表3】

結像レンズAと組み合わせる場合は、各実施例の対物レンズと結像レンズAの間の間隔は50mm〜170mmの間のいずれの位置でもよい。結像レンズBと組み合わせる場合は、実施例の対物レンズと結像レンズBの間の間隔は50mm〜250mmの間のいずれの位置でもよい。また、以下で示される各実施例の収差図は、結像レンズAとの間隔を120mmで組み合わせた場合のものである。
【0056】
ただし、収差図の光線追跡は、結像面(受光面)から物体面(試料面)への方向で行い、物体面での収差を表示している。また、(a)は球面収差、(b)は正弦条件違反量、(c)は非点収差、(d)はコマ収差を示す。これらの収差図から、本発明の対物レンズは405nmから656nmまで、軸上色収差、倍率色収差等の収差が良好に補正されていることが分かる。
【実施例1】
【0057】
本発明の実施例1は、図1に示す通りの構成である。つまり、物体側より順に正のレンズ群Gaと正のレンズ群Gbとレンズ群Gcとレンズ群Gdとレンズ群Geとから構成される。正のレンズ群Gaは、物体側に平面を向けた平凸レンズと物体側に凹面を向けたメニスカスレンズからなる接合レンズG1と、正の単レンズG2とによって構成される。正のレンズ群Gbは正レンズと負レンズと正レンズとからなる3枚接合レンズG3からなる。レンズ群Gcは、負レンズと正レンズとからなる接合レンズG4と、正レンズと負レンズとからなる接合レンズG5とにより構成される。レンズ群Gdは正レンズと負レンズとからなる接合レンズG6からなり、像側に強い凹面を向けたメニスカス形状をしている。レンズ群Geは物体側に強い凹面を向けた負レンズG7と正レンズG8とにより構成されている。
【0058】
この実施例1のレンズデータは下記の通りである。実施例1の対物レンズは、nd=1.51483,νd=41.0の液浸液を使用する。この液浸液は、従来から使用されている顕微鏡対物レンズ用オイルである。
【0059】
【表4】

β= 60×、NA = 1.4、視野数= 22、WD = 0.16、f = 3
f(Ga) = 4.809
f(Gb) = 27.656
f(Gc) = 156.491
f(Gd) = −97.432
f(Ge) = −32.359
f(Ga)/f = 1.60
f(Gb)/f = 9.22
f(Gc)/f = 52.16
f(Gd)/f = −32.48
f(Ge)/f = −10.79
H1 = 7.27
H2 = 5.2
H3 = 4.2
νd(Len) = 63.3
νd(Lep) = 29.8
nd(Len) = 1.61800
nd(Lep) = 1.80000
(1) H2/H1 = 0.72
(2) f(Gb)/f = 9.22
(3) νd(Len)−νd(Lep) = 33.5
(6) H3/H1 = 0.58
上記のような構成によって、本実施例では色収差及び諸収差を405nmから656nmまでの波長域で収差補正を補正している。その補正の様子は、図2によって示される。
【実施例2】
【0060】
本発明の実施例2は、図3に示す通りの構成である。つまり、物体側より順に正のレンズ群Gaと正のレンズ群Gbとレンズ群Gcとレンズ群Gdとレンズ群Geとから構成される。正のレンズ群Gaは、物体側に平面を向けた平凸レンズと物体側に凹面を向けたメニスカスレンズからなる接合レンズG1と、正の単レンズG2とによって構成される。正のレンズ群Gbは正レンズと負レンズと正レンズとからなる3枚接合レンズG3からなる。レンズ群Gcは、負レンズと正レンズとからなる接合レンズG4と、正レンズと負レンズとからなる接合レンズG5とにより構成される。レンズ群Gdは正レンズと負レンズとからなる接合レンズG6からなり、像側に強い凹面を向けたメニスカス形状をしている。レンズ群Geは物体側に強い凹面を向けた負レンズG7と正レンズG8とにより構成されている。
【0061】
この実施例2のレンズデータは下記の通りである。実施例2の対物レンズは、nd=1.51483,νd=41.0の液浸液を使用する。この液浸液は、従来から使用されている顕微鏡対物レンズ用オイルである。
【0062】
【表5】

β = 60×、NA = 1.4、視野数= 22、WD = 0.16、f = 3
f(Ga) = 4.587
f(Gb) = 28.014
f(Gc) = 158.735
f(Gd) = −68.519
f(Ge) = −36.452
f(Ga)/f = 1.53
f(Gb)/f = 9.34
f(Gc)/f = 52.91
f(Gd)/f = −22.84
f(Ge)/f = −12.15
H1 = 6.91
H2 = 4.72
H3 = 4.2
νd(Len) = 70.3
νd(Lep) = 29.8
nd(Len) = 1.48745
nd(Lep) = 1.80000
(1) H2/H1 = 0.68
(2) f(Gb)/f = 9.34
(3) νd(Len)−νd(Lep) = 40.5
(6) H3/H1 = 0.61
(9) |f(Gc)/f| = 52.9
上記のような構成によって、本実施例では色収差及び諸収差を405nmから656nmまでの波長域で収差補正を補正している。その補正の様子は、図4によって示される。
【実施例3】
【0063】
本発明の実施例3は、図5に示す通りの構成である。つまり、物体側より順に正のレンズ群Gaと正のレンズ群Gbとレンズ群Gcとレンズ群Gdとレンズ群Geとから構成される。正のレンズ群Gaは、物体側に平面を向けた平凸レンズと物体側に凹面を向けたメニスカスレンズからなる接合レンズG1と、正の単レンズG2と、正の単レンズG3と、によって構成される。正のレンズ群Gbは正レンズと負レンズと正レンズとからなる3枚接合レンズG4からなる。レンズ群Gcは、負レンズと正レンズとからなる接合レンズG5と、正レンズと負レンズとからなる接合レンズG6とにより構成される。レンズ群Gdは正レンズと負レンズとからなる接合レンズG7からなり、像側に強い凹面を向けたメニスカス形状をしている。レンズ群Geは物体側に強い凹面を向けた負レンズと正レンズとからなる接合レンズG8により構成されている。
【0064】
この実施例3のレンズデータは下記の通りである。実施例3の対物レンズは、nd=1.51483,νd=41.0の液浸液を使用する。この液浸液は、従来から使用されている顕微鏡対物レンズ用オイルである。
【0065】
【表6】

β= 60×、NA = 1.4、視野数= 22、WD = 0.16、f = 3
f(Ga) = 4.057
f(Gb) = 55.132
f(Gc) = 424.929
f(Gd) = −14.706
f(Ge) = 425.459
f(Ga)/f = 1.35
f(Gb)/f = 18.38
f(Gc)/f = 141.64
f(Gd)/f = −4.90
f(Ge)/f = 141.82
H1 = 6.7
H2 = 4.19
H3 = 4.2
νd(Len) = 70.3
νd(Lep) = 32.2
nd(Len) = 1.48745
nd(Lep) = 1.73800
(1) H2/H1 = 0.63
(2) f(Gb)/f = 18.38
(3) νd(Len)−νd(Lep) = 38.1
(6) H3/H1 = 0.63
(9) |f(Gc)/f|= 141.6
上記のような構成によって、本実施例では色収差及び諸収差を405nmから656nmまでの波長域で収差補正を補正している。その補正の様子は、図6によって示される。
【実施例4】
【0066】
本発明の実施例4は、図7に示す通りの構成である。つまり、物体側より順に正のレンズ群Gaと正のレンズ群Gbとレンズ群Gcとレンズ群Gdとレンズ群Geとから構成される。正のレンズ群Gaは、物体側に平面を向けた平凸レンズと物体側に凹面を向けたメニスカスレンズとからなる接合レンズG1と、正の単レンズG2と、正の単レンズG3と、によって構成される。正のレンズ群Gbは正レンズと負レンズと正レンズとからなる3枚接合レンズG4からなる。レンズ群Gcは、負レンズと正レンズとからなる接合レンズG5と、正レンズと負レンズとからなる接合レンズG6とにより構成される。レンズ群Gdは正レンズと負レンズとからなる接合レンズG7からなり、像側に強い凹面を向けたメニスカス形状をしている。レンズ群Geは物体側に強い凹面を向けた負レンズと正レンズとからなる接合レンズG8により構成されている。
【0067】
この実施例4のレンズデータは下記の通りである。実施例4の対物レンズは、nd=1.51483,νd=41.0の液浸液を使用する。この液浸液は、従来から使用されている顕微鏡対物レンズ用オイルである。
【0068】
【表7】

β= 60×、NA = 1.4、視野数= 22、WD = 0.16、f = 3
f(Ga) = 4.178
f(Gb) = 39.814
f(Gc) = 133.751
f(Gd) = −13.142
f(Ge) = 350.726
f(Ga)/f = 1.39
f(Gb)/f = 13.27
f(Gc)/f = 44.58
f(Gd)/f = −4.38
f(Ge)/f = 116.91
H1 = 6.96
H2 = 4.1
H3 = 4.2
νd(Len) = 70.3
νd(Lep) = 32.2
nd(Len) = 1.48745
nd(Lep) = 1.73800
(1) H2/H1 = 0.59
(2) f(Gb)/f = 13.27
(3) νd(Len)−νd(Lep) = 38.1
(6) H3/H1 = 0.60
上記のような構成によって、本実施例では色収差及び諸収差を405nmから656nmまでの波長域で収差補正を補正している。その補正の様子は、図8によって示される。
【実施例5】
【0069】
本発明の実施例5は、図9に示す通りの構成である。つまり、物体側より順に正のレンズ群Gaと正のレンズ群Gbとレンズ群Gcとレンズ群Gdとレンズ群Geとから構成される。正のレンズ群Gaは、物体側に平面を向けた平凸レンズと物体側に凹面を向けたメニスカスレンズとからなる接合レンズG1と、正の単レンズG2とによって構成される。正のレンズ群Gbは正レンズと負レンズと正レンズとからなる3枚接合レンズG3からなる。レンズ群Gcは、負レンズと正レンズとからなる接合レンズG4と、正レンズと負レンズからなる接合レンズG5とにより構成される。レンズ群Gdは正レンズと負レンズとからなる接合レンズG6からなり、像側に強い凹面を向けたメニスカス形状をしている。レンズ群Geは物体側に強い凹面を向けた負レンズG7と正レンズG8とにより構成されている。レンズ群Gcは光軸方向に移動可能である。
【0070】
この実施例5のデータは下記の通りである。実施例5の対物レンズは、nd=1.40430,νd=52.0の液浸液を使用する。この液浸液は、シリコーンオイルである。シリコーンオイルの屈折率は、生体細胞(nd=1.33〜1.45)の屈折率に近く、生体細胞との屈折率ミスマッチが少ない。そのため、シリコーンオイルを用いた対物レンズは、生体細胞の深いところまで鮮明に見えるという利点がある。また、自家蛍光が少なく、蛍光観察に適している。また、揮発しにくく、屈折率の変化が少ないため、長時間の観察に適している。一方、一般的に用いられているグリセリン液浸液や、グリセリンと水の混合液の液浸液は、長時間の観察に不適である。なぜなら、グリセリンは吸湿性のために時間とともに屈折率が変化するためである。
【0071】
【表8】

β=60×、NA=1.3、視野数=22、WD=0.32、f=3
f(Ga) = 5.006
f(Gb) = 28.159
f(Gc) = −43.184
f(Gd) = 34.104
f(Ge) = −68.746
f(Ga)/f = 1.67
f(Gb)/f = 9.39
f(Gc)/f = −14.39
f(Gd)/f = 11.37
f(Ge)/f = −22.92
H1 = 7.32
H2 = 4.49
H3 = 3.9
νd(Len) = 64.2
νd(Lep) = 32.2
nd(Len) = 1.51630
nd(Lep) = 1.73800
(1) H2/H1 = 0.61
(2) f(Gb)/f = 9.39
(3) νd(Len)−νd(Lep) = 32.0
(6) H3/H1 = 0.53
(9) |f(Gc)/f| = 14.4
上記のような構成によって、本実施例では色収差及び諸収差を405nmから656nmまでの波長域で収差補正を補正している。その補正の様子は、図10によって示される。
【実施例6】
【0072】
本発明の実施例6は、図11に示す通りの構成である。つまり、物体側より順に正のレンズ群Gaと正のレンズ群Gbとレンズ群Gcとレンズ群Gdとレンズ群Geとから構成される。正のレンズ群Gaは、物体側に平面を向けた平凸レンズと物体側に凹面を向けたメニスカスレンズとを接合した接合レンズG1と、物体側に凹面を向けた正のメニスカスレンズG2と、正の単レンズG3とによって構成される。正のレンズ群Gbは正レンズと負レンズと正レンズとからなる3枚接合レンズG4からなる。レンズ群Gcは正レンズと負レンズとからなる接合レンズG5と、正レンズと負レンズとからなる接合レンズG6により構成される。レンズ群Gdは正レンズと負レンズとからなる接合レンズG7からなり、像側に強い凹面を向けたメニスカス形状をしている。レンズ群Geは物体側に強い凹面を向けた負レンズと正レンズとからなる接合レンズG8により構成されている。
【0073】
図11から読み取れるように、本実施例は最も物体側のレンズ群Gaに特徴的な形状を持っている。一般にNAが大きな液浸系の対物レンズはこの部分のレンズ群が半球に近い形状をもつ。しかし本実施例では、これを2つの半球状のレンズを含むことが形態上の特徴の一つとなっている。この形態により、レンズ群Gaによって発生する収差量を低減させている。また、接合レンズG1の像側面の曲率半径は焦点距離fより小さく、かつ、メニスカスレンズG2の像側の曲率半径は焦点距離fの2倍よりも小さい。これらの特徴により、レンズ群G3以降の光線高を抑えることができ、高次の収差(球面収差、コマ収差)を補正しやすくしているのと同時に、全体のレンズの外径を小さくすることができレンズの加工性が向上している。
【0074】
この実施例1のデータは下記の通りである。実施例6の対物レンズは、nd=1.51483,νd=41.0の液浸液を使用する。この液浸液は、従来から使用されている顕微鏡対物レンズ用オイルである。
【0075】
【表9】

β=60×、NA=1.4、視野数=22、WD=0.16、f=3
f(Ga) = 4.835
f(Gb) = 24.100
f(Gc) = −66.770
f(Gd) = −30.153
f(Ge) = −436.809
f(Ga)/f = 1.61
f(Gb)/f = 8.03
f(Gc)/f = −22.26
f(Gd)/f = −10.05
f(Ge)/f = −145.60
f(G1+G2) = 5.740
H1 = 7.12
H2 = 4.47
H3 = 4.2
D = 1.33
νd(Len) = 64.2
νd(Lep) = 29.8
nd(Len) = 1.51630
nd(Lep) = 1.80000
(1) H2/H1 = 0.63
(2) f(Gb)/f = 8.03
(3) νd(Len)−νd(Lep) = 34.4
(6) H3/H1 = 0.59
(7) f(G1+G2)/f = 1.91
(8) D/f = 0.44
上記のような構成によって、本実施例では色収差及び諸収差を405nmから656nmまでの波長域で収差補正を補正している。その補正の様子は、図12によって示される。
【実施例7】
【0076】
本発明の実施例7は、図13に示す通りの構成である。つまり、物体側より順に正のレンズ群Gaと正のレンズ群Gbとレンズ群Gcとレンズ群Gdとレンズ群Geとから構成される。正のレンズ群Gaは、物体側に平面を向けた平凸レンズと物体側に凹面を向けたメニスカスレンズとを接合した接合レンズG1と、物体側に凹面を向けた正のメニスカスレンズG2と、正の単レンズG3とによって構成される。正のレンズ群Gbは正レンズと負レンズと正レンズとからなる3枚接合レンズG4からなる。レンズ群Gcは正レンズと負レンズからなる接合レンズG5と正レンズと負レンズからなる接合レンズG6により構成される。レンズ群Gdは正レンズと負レンズとからなる接合レンズG7からなり、像側に強い凹面を向けたメニスカス形状をしている。レンズ群Geは物体側に強い凹面を向けた負レンズと正レンズとからなる接合レンズG8により構成されている。
【0077】
図13から読み取れるように、本実施例も最も物体側のレンズ群Gaに特徴的な形状を持っている。本実施例でもレンズ群Gaに2つの半球状のレンズを含むことが形態上の特徴の一つとなっている。この形態により、レンズ群Gaによって発生する収差量を低減させている。また、接合レンズG1の像側面の曲率半径は焦点距離fより小さく、かつ、メニスカスレンズG2の像側の曲率半径は焦点距離fの2倍よりも小さい。これらの特徴により、レンズ群G3以降の光線高を抑えることができ、高次の収差(球面収差、コマ収差)を補正しやすくしているのと同時に、全体のレンズの外径を小さくすることができレンズの加工性が向上している。
【0078】
この実施例7のレンズデータは下記の通りである。実施例7の対物レンズは、nd=1.51483,νd=41.0の液浸液を使用する。この液浸液は、従来から使用されている顕微鏡対物レンズ用オイルである。
【0079】
【表10】

β=60×、NA=1.4、視野数=22、WD=0.16、f=3
f(Ga) = 3.973
f(Gb) = 28.967
f(Gc) = 3756.617
f(Gd) = −19.235
f(Ge) = 671.695
f(Ga)/f = 1.32
f(Gb)/f = 9.66
f(Gc)/f = 1252.21
f(Gd)/f = −6.41
f(Ge)/f = 223.90
f(G1+G2) = 4.5
H1 = 7.01
H2 = 4.16
H3 = 4.2
D = 1.3
νd(Len) = 70.3
νd(Lep) = 32.2
nd(Len) = 1.48745
nd(Lep) = 1.73800
(1) H2/H1 = 0.59
(2) f(Gb)/f = 9.66
(3) νd(Len)−νd(Lep) = 38.1
(6) H3/H1 = 0.60
(7) f(G1+G2)/f = 1.50
(8) D/f = 0.43
上記のような構成によって、本実施例では色収差及び諸収差を405nmから656nmまでの波長域で収差補正を補正している。その補正の様子は、図14によって示される。
【0080】
ここで上記実施例1から7における、400nmから700nmまでの軸上色収差を図23に示す。また、従来技術との比較のために、特許文献1と特許文献2に記載の対物レンズも併記した。図23における、比較例1は特許文献1における実施例1に記載の対物レンズであり、比較例2は特許文献1における実施例2に記載の対物レンズであり、比較例3は特許文献2における実施例4に記載の対物レンズである。なお、比較例1のレンズ断面図は図15に記載され、収差図は図16に記載されている。比較例2のレンズ断面図は図17に記載され、収差図は図18に記載されている。比較例3のレンズ断面図は図19に記載され、収差図は図20に記載されている。
【0081】
この図23はe線(546.07nm)を基準とした場合の、各波長での物体面での軸上の集光位置を表している。横軸は波長(nm)であり、縦軸はe線(546.07nm)を基準位置とした場合の各波長における集光位置のずれである。
【0082】
図23から解るように、本発明の対物レンズは軸上色収差が良好に補正されており、400〜700nmにおいて、各波長の集光位置のずれが0.1μm(0.0001mm)以内に収まっている。このことは、本発明の対物レンズが多波長観察に対して非常に有効に機能することを意味している。
【0083】
また、各実施例の収差図(図2、図4、図6、図8、図10、図12、図14)と各比較例の収差図(図16、図18、図20)を比較すると解るように、本発明の実施例は球面収差の補正の仕方にも特徴を持つ。本願実施例の対物レンズは図24(b)のように、各波長ですべてのNAに渡って均等に球面収差を補正している。一方、従来技術である比較例では図24(a)のように、NAに関して球面収差が正の部分と負の部分があり、それらが相殺することによって、波長ごとの集光位置がほぼ等しく補正される。
【0084】
上述の従来技術のような収差補正をした場合、対物レンズのNAの利用に偏りがある場合に大きな影響が生じる。例えばこのような影響は、対物レンズのNAを絞ったときや、ガウス分布をもったレーザ光を対物レンズに入射した場合に現れる。
【0085】
図25はこの現象を説明するための図である。同図に説明されるように、一般的な従来の対物レンズでは、NAの大きい位置からの光線は波長によらずほぼ同じ位置に集光されるように色収差を補正されているが、NAの小さい位置での光線は波長ごとに異なる位置に集光してしまう。この現象の直接的な原因が、従来技術における図24(a)のような球面収差の補正の仕方である。
【0086】
一方、本発明の実施による対物レンズでは、図24(b)のように、球面収差が各波長ですべてのNAに渡って均等に球面収差を補正しているので、対物レンズのNAの利用に偏りがある場合でも影響が少ない。すなわち、本発明による対物レンズは、ガウシアンビームを対物レンズに入射して利用するレーザ走査型顕微鏡に対して非常に好適である。
【0087】
図26は実施例1から7および比較例1から3の倍率の色収差を示している。この図は、波長488nmを基準とした場合の、視野数9における倍率の色収差を表している。横軸は波長(nm)であり、縦軸は各波長の基準位置からの集光位置のずれである。なお、本発明の実施例はすべて60倍であるので、視野数9は物体面で物体高0.075mmに相当する。
【0088】
同図から読み取れるように、本発明の実施例では倍率の色収差も良好に補正されており、各波長での色収差が0.3μm(0.0003mm)以内に収まっている。
以下では本願発明の実施の形態をレーザ走査型顕微鏡の装置の視点から説明する。
【0089】
図27は従来のレーザ走査型顕微鏡の構成図を示す。従来のレーザ走査型顕微鏡では可視光レーザ2として例えばアルゴンイオンレーザ(波長488nm)とHe−Neグリーンレーザ(波長543nm)とHe−Neレーザ(波長633nm)を用いた場合、これらのレーザをダイクロイックミラー4で同一光路に合成し、集光レンズ6でシングルモードファイバ8に集光させる。シングルモードファイバはNAが0.1程度であり、コア径が数μmの大きさになっているので、レーザ光をファイバに入れるのは厳密な調整が必要となる。このため、ファイバへのレーザ光の傾きと横ずれを調整するファイバカップリング機構7を備えている。
【0090】
このとき、例えば波長405nmのレーザなどをさらに用いる場合は短波用レーザ1として別なファイバを用いてレーザ走査型顕微鏡に導入し、後段のダイクロイックミラー12によって合成させることが従来では多かった。これは対物レンズ18の色収差をファイバ後のコリメータレンズ10により調整していたためである。この様な調節していた理由は、従来の対物レンズでは色収差を補正している波長域が十分ではないので波長405nmなどのレーザを使う場合には特別な方法を採用しなければいけなかったのである。
【0091】
しかし、対物レンズはそれぞれが異なる色収差をもつので、この方法ではすべての対物レンズで対応することが非常に難しいという問題点がある。光ファイバはコア径が数ミクロンと非常に小さいため、顕微鏡への導入時のファイバの平行出しと傾け調整は非常に精密なファイバ傾き位置合わせ機構9の調整が必要となる。そのために、従来のレーザ走査型顕微鏡はこの調整が複雑であった。
【0092】
本発明のレーザ走査型顕微鏡の実施例を図28に示す。本発明の対物レンズは405nmから656nmまでの波長域で色収差が補正されているため、短波長側のレーザと可視レーザは同一の光で入射させることが可能となる。このため、1本のファイバ8を用いる。このファイバは使用波長域が広い光ファイバが適している。
【0093】
ファイバ8からの光線はコリメータレンズ10により平行光線となり、ミラーやダイクロイックミラーにより可視光レーザと短波長側レーザは同一光路に合成され、ダイクロイックミラー13で反射される。ダイクロイックミラーで反射後のレーザ光はガルバノミラー14でスキャンされ、瞳投影レンズ15、結像レンズ16によりリレーされ、対物レンズに入射する。試料からの蛍光は逆の光路を通り、ダイクロイックミラー13を通過し、結像レンズ20によって共焦点効果を出すためのピンホール19に集光させる。そしてピンホール19を通過することができた蛍光をダイクロイックミラー21を使い分光した後、バリアフィルタ23により所望の波長域の蛍光を光検出器24で検出する。なお、符号3、5、11、17、22は光路を曲げるためのミラーである。
【0094】
また、ダイクロイックミラー13は切り替えをすることなく複数の波長のレーザを反射することができるマルチバンドタイプのダイクロイックミラーが望ましい。ダイクロイックミラーに楔がある場合、ダイクロイックミラーの切り替えで標本面での集光位置がわずかにずれる。しかし、マルチバンドのダイクロイックミラーを用いると1つのダイクロイックミラーで複数のレーザに対応できるため、切り替えの必要がなく、ダイクロの楔によって標本面の集光位置がずれることがない。また、複数の対物レンズを使用した場合も、従来技術だと複数の対物レンズに対して色収差を合わせることは不可能だったが、本発明の低色収差対物レンズを用いて、本発明の蛍光観察装置の構成を用いれば、色収差のずれが少ない観察が可能となる。
【0095】
また、本実施例の対物レンズは対物レンズ単独で色収差補正を行っている。このため、対物レンズ18と結像レンズ16の間にレーザ光を導入する場合に有利となる。結像レンズ16と対物レンズ18をコンペンゼーションして色収差補正を行う場合は、対物レンズ18と結像レンズ16の間からレーザなどを導入すると、集光位置のずれが生じる。一方、対物レンズ単独で色収差補正を行っている本実施例では集光位置のずれが生じないので、レーザ光で刺激しながらレーザ走査型顕微鏡で観察するような場合に有利となる。
【0096】
図28では、対物レンズ18とミラー17の間にダイクロイックミラー32を配置して、刺激用レーザ33を備えた構成を示している。ここでは、刺激用レーザ33の照射位置を調節するために可動式ミラー34を備えた構成とした。
【0097】
図29は本発明の実施によるレーザ走査型鏡焦点顕微鏡の外観構成例を示す。試料25はステージ26の上に置かれており、対物レンズ18は顕微鏡28のレボルバに取り付けられている。このレボルバには複数の対物レンズが取り付いていてもよい。対物レンズは光軸方向に移動する対物レンズ上下機構27を有しており、試料25の光軸方向の複数の断面像を得ることが可能である。試料の3次元像をとるために、共焦点スキャナー29が顕微鏡本体28に取り付けられており、ガルバノスキャナーやピンホールなどが内部に配置されている。図示していないが、レーザ光源は図28のようにファイバで共焦点スキャナー29に接続されている。共焦点スキャナー29で得られた信号を画像処理装置31に伝達し、画像表示装置30で表示する。試料の3次元像を構築するため、対物レンズを光軸方向に移動させ、複数の波長の蛍光像を取得する。各断面像は画像処理装置31に保存され、試料の3次元像を画像表示装置30に表示する。
【0098】
本発明は色収差が十分補正されているため、複数の蛍光像は光軸方向のずれがない。このため、画像処理装置31に保存された複数の蛍光波長の試料の光軸方向の断面像を重ね合わせ表示するときに、波長が変わっても同じ断面像を重ね合わせするだけで正確な試料の3次元像を得ることができる。また、試料内の分子の高速な運動を見る場合にも本発明の構成は複数の蛍光画像を重ね合わせするときに、色収差補正のための光軸方向の対物レンズ駆動が不要となるため、試料内分子の高速運動も観察することが可能となる。
【0099】
また、本発明は共焦点顕微鏡以外の蛍光顕微鏡、蛍光観察装置でも有効である。例えば、細胞内のタンパク質を複数の波長の異なった蛍光タグで標識して、細胞膜からタンパク質がどう移動しているかを見る観察法がある。この場合、細胞膜自体に顕微鏡のピントを合わせる必要があるが、対物レンズに軸上色収差がある場合は、異なった蛍光タグでピントがずれてしまう現象が生じ、蛍光波長を変えると細胞膜からずれた位置を観察することになる。このよう場合にも本発明の対物レンズを用いれば、複数の蛍光波長が異なる蛍光タグを使用する場合、常に標本内の同一平面を観察することが可能となり、正確なデータを得ることが可能となる。
【0100】
図30は本発明の実施による蛍光観察装置のアプリケーションである蛍光共鳴エネルギー移動(FRET)の観察例を示す。この観察では、たとえばカメレオンなどの蛍光プローブを用いて細胞内のカルシュウムイオン濃度を測定する。カメレオン(cameleon)はCFP、YFPという2種類の蛍光タンパクをカルモジュリンMなどのたんぱく質で繋げた構造を持っている。細胞内のカルシュウムイオンが低い状態では波長442nmの励起光が照射されるとCFPからの波長485nmの蛍光しか放射されないが、カルシュウムイオン濃度が高くなると、CFPからYFPにエネルギー転移が起こり、YFPからの蛍光である波長530nmの蛍光が観察される。この現象から、CFPとYFPの蛍光強度の比をとることにより、カルシュウムイオン濃度を測定することが可能となる。
【0101】
蛍光顕微鏡またはレーザ走査型顕微鏡にて485nmと530nmの2つの波長で画像を取得する。たとえば、図30の(1)を485nmの画像とし、図30の(2)を530nmの画像とする。この画像(1)と画像(2)の各画素毎に輝度の比をとった像を図29の(3)とする。このような操作によって得られた画像(3)は細胞内のカルシュウムイオン濃度の情報を持っている。上記の手順からも解るように、この観察方法では、異なる波長で取得した画像を、画素毎に正確に対応させることが必要となっている。本発明の実施による蛍光観察装置ではこのような観察に好適である。
【0102】
上記は蛍光共鳴エネルギー移動(FRET)について述べたが、fura2などのカルシュウム測光などの蛍光のレシオをとる観察法において、本発明の対物レンズを用いれば、常に標本面の同一平面でのレシオをとることができるので正確な測定が可能となる。
【符号の説明】
【0103】
1 短波長レーザ
2 可視光レーザ
3 ミラー
4 ダイクロイックミラー
5 ミラー
6 集光レンズ
7 ファイバカップリング機構
8 ファイバ
9 ファイバ傾き位置合わせ機構
10 コリメータレンズ
11 ミラー
12 ダイクロイックミラー
13 ダイクロイックミラー
14 ガルバノミラー
15 瞳投影レンズ
16 結像レンズ
17 ミラー
18 対物レンズ
19 ピンホール
20 結像レンズ
21 ダイクロイックミラー
22 ミラー
23 バリアフィルタ
24 検出器
25 標本
26 ステージ
27 対物レンズ上下機構
28 顕微鏡本体
29 共焦点スキャナー
30 画像表示装置
31 画像処理装置
32 ダイクロイックミラー
33 刺激用レーザ
34 可動式ミラー

【特許請求の範囲】
【請求項1】
光源と、該光源からの光線を選択的に反射する光線分離手段と、試料を照明または観察する対物レンズと、試料を固定するステージと、該光線分離手段を通過した光線のうち所望の波長領域を選択する波長選択手段と、該波長選択手段を通過する光を検出する検出器を備えた蛍光観察装置において、
2つ以上の波長で試料の照明を行ったときに得られる散乱または蛍光による2つ以上の波長を検出し、該照明における励起波長のうちで最も長波長側のものをλ1、最も短波長側のものをλ2とし、Δ1、Δ2をλ1、λ2の軸上の集光位置としたときに、以下の条件式
λ1−λ2≧180nm
|Δ1−Δ2|<0.2μm
を満たすことを特徴とする蛍光観察装置。
【請求項2】
以下の条件式
λ2≦442nm
を満たすことを特徴とする請求項1記載の蛍光観察装置。
【請求項3】
δ1とδ2とをそれぞれ励起波長λ1とλ2との視野数9での倍率の色収差としたときに、以下の条件式
|δ1−δ2|≦0.3μm
を満たすことを特徴とする請求項1または請求項2に記載の蛍光観察装置。
【請求項4】
請求項1から3のいずれか1項に記載の蛍光観察装置において、
該励起波長λ1とλ2とで該試料の照明を行ったときの該検出器での検出結果より形成されるそれぞれ2つの画像を保存する画像保存手段と、
該画像の重ね合せまたは差分または比率計算を行う画像解析手段とを備え、
前記2つの画像の重ね合わせまたは差分または比率計算を行う蛍光観察装置。
【請求項5】
該ステージまたは該対物レンズが光軸方向に移動させる移動手段を備えることを特徴とする請求項4記載の蛍光観察装置。
【請求項6】
請求項4記載の蛍光観察装置において、試料面にビームスポットを走査する走査手段をもち、共焦点式の検出手段を持つことを特徴とする蛍光観察装置。
【請求項7】
請求項6記載の蛍光観察装置において、該複数のレーザ光源を備え、該複数波長のレーザを同一光路上に合成し、1本のファイバで該蛍光観察装置に導入することを特徴とする蛍光観察装置。
【請求項8】
請求項4記載の蛍光観察装置において、複数の蛍光タグにより標識された試料において、λ1、λ2の励起波長により該試料の照明を行ったときの該検出器での検出結果より形成される画像を重ね合わせて出力することにより、2つ以上の標識された試料内分子の位置情報を解析することを特徴とする蛍光観察装置。
【請求項9】
請求項4記載の蛍光観察装置において、λ1、λ2の励起波長により該試料の照明を行ったときの該検出器での検出結果より形成される画像を時間の経過に応じて複数取得し、該同一時刻に取得された時間経過のλ1、λ2における画像の比率を複数とることにより試料内分子間の蛍光共鳴エネルギー移動を観察することを特徴とする蛍光観察装置。
【請求項10】
請求項6記載の蛍光観察装置において、2種類以上の蛍光タグを有するサンプルの画像を取得し、
得られた画像の輝度情報をピクセル毎に2次元化し、プロットすることにより各分子の局在を推定する蛍光観察装置。
【請求項11】
請求項6記載の蛍光観察装置において、ある波長による励起を行ったときの該検出器での検出結果より形成される試料画像をモニタ上に出力し、該モニタ上に出力された試料像の一部の領域を指定し、指定領域のみ光を照射して蛍光退色を行い、該指定領域内または該指定領域外の蛍光像の時間変化を記録して試料内の分子拡散を検出する蛍光観察装置。
【請求項12】
請求項6記載の蛍光観察装置において、試料画像をある波長による励起を行ったときの該検出器での検出結果より形成される試料画像をモニタ上に出力し、該モニタ上に出力された試料像の一部の領域を指定し、指定領域のみ光を照射して試料内蛍光色素のアクチベーションを行い、該指定領域内または該指定領域外の蛍光像の時間変化を記録して試料内の分子分析を行う蛍光観察装置。
【請求項13】
請求項4記載の蛍光観察装置において、試料内に複数の蛍光タグをつけた分子が存在し、複数の励起光を同時に照射し、得られる蛍光を分離して励起波長λ1、λ2に相当する蛍光波長を検出し、検出された蛍光の時間変化を記録し、蛍光相互相関分光法によって試料内分子の拡散速度を求めることを特徴とする蛍光観察装置。

【図27】
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【図28】
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【図29】
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【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【図22】
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【図23】
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【図24】
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【図25】
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【図26】
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【図30】
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【公開番号】特開2013−8069(P2013−8069A)
【公開日】平成25年1月10日(2013.1.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−225775(P2012−225775)
【出願日】平成24年10月11日(2012.10.11)
【分割の表示】特願2007−311963(P2007−311963)の分割
【原出願日】平成19年12月3日(2007.12.3)
【出願人】(000000376)オリンパス株式会社 (11,466)
【Fターム(参考)】