説明

融雪スパイラルの巻付方法および低風音型融雪電線

【課題】電線の外周上に風音スパイラルを巻付け、更にその上から融雪スパイラルを巻付けることにより、架空布設される電線の風騒音を低減するとともに落雪を防止することが可能な融雪スパイラルの巻付方法および低風音型融雪電線を提供する。
【解決手段】電線にアルミ合金などからなる第1スパイラル線である風音防止スパイラルを巻付け、更にその上に磁性線材からなる第2スパイラル線である融雪スパイラルを巻付けることにより、電線から発生する風音を防止するとともに、融雪効果を得ることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、融雪スパイラルの巻付方法および低風音型融雪電線に関する。特に、架空布設される電線の風騒音または/およびコロナ発生を低減するとともに落雪を防止することが可能な融雪スパイラルの巻付方法および低風音型融雪電線に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、鉄塔間に架設される架空送電線は風を受けて条件が適合すると風音が発生することが知られている。このような風音の発生によって、架空送電線の架設地周辺においては、風音による苦情が発生することがあり、架空送電線の風騒音防止対策が必要であった。また、降雨によって、コロナが発生し、場合によってはラジオにノイズが入る等の影響をおよぼすこともあった。
また、冬季における架空送電線への着雪は、高所からの落雪により線下の屋根やビニールハウス等の建築物や農作物等に被害を及ぼす原因になる場合があり、架空送電線の着雪対策も重要であった。
【0003】
その為、従来の架空送電線の風騒音防止対策または/およびコロナ発生防止対策としては、例えば、図2に示すように、電線31に風音防止スパイラル32を巻付ける方法が、一般に用いられている。風音防止スパイラル32は、電線31に径φ5〜8mm程度のアルミ合金線をスパイラル状に巻付けるものである。電線31にスパイラル状の金属線である風音防止スパイラル32を巻付けることにより、風が吹いたときの風騒音の原因となるカルマン渦の発生を防止し、風騒音を低減することができる。
【0004】
また、架空送電線の着雪対策としては、例えば、図3に示すように、電線31に融雪スパイラル33を巻付ける方法が、一般に用いられている。融雪スパイラル33による着雪対策は、電線31に線径φ2〜5mm程度の磁性線材をスパイラル状に巻付け(即ち、電線31に融雪スパイラル33を巻付け)、電線31に流れる電流によって発生する交番磁界によるジュール熱により磁性線材を発熱させて、融雪する方法である。即ち、電線31に融雪スパイラル33を巻付けた方法は、電線31に付着した雪を融解して、水として線下におとすものであり、着雪を防止する方法の一つである。
【0005】
上述したように、架空送電線の風音防止対策の方法及び落雪対策の方法は個別には確立されているが、風音と落雪とを同時に防止する効果的な方法はなく、様々な方法が試されている。例えば、特許文献1では、風音と落雪とを同時に防止する方法として、電線の外周に第1スパイラルを巻付け、更に第1スパイラルと径の異なる第2スパイラルを第1スパイラルに交差するように、電線と該第2スパイラルとの間が第1スパイラルの径とほぼ等しい間隔となるように巻付けた雪害対策型低風音電線が提案されている。
【0006】
また、特許文献2では、電線外周上に低キュリー点材料の平形スパイラル線を電線の長さ方向にその巻き方向を交互に巻付け、かつ、それぞれのスパイラル線の先端部を交差させて他方のスパイラル線に接触せしめた低風音型難着雪電線が提案されている。
【0007】
【特許文献1】特公平8−28931号公報
【特許文献2】特開平5−120920号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、上述した特許文献1で提案された電線では、落雪を細分化する効果はあるが、2本のスパイラルのいずれにも融雪効果は無く、落雪を完全に防止することはできないという問題点があった。
【0009】
また、風音防止スパイラルを磁性線材で構成し、風音防止スパイラルの発熱による融雪を利用して風音と落雪とを同時に防止する方法では、磁性線材の発熱により、融雪に十分な発熱量を得るためには、磁性線材で構成した風音防止スパイラルを電線の長手方向に一般的に用いる風音防止スパイラルの巻付けピッチ(電線ACSR810mm(外径38.4mm)において400mm程度)より小さいピッチで巻付ける必要がある。そのため、既にアルミ合金などからなる風音防止スパイラルを巻付けいている架空送電線では、風音防止スパイラルを外したのち、新たに巻付けピッチの小さな磁性線材で構成した風音防止スパイラルを巻付けなければならないという問題点もあった。
【0010】
また、電線に磁性線材からなる融雪スパイラルを巻付けて、その上から風音防止スパイラルを巻くことにより風音と落雪とを同時に防止する方法では、風音防止には効果があるが、風音防止スパイラル自体には発熱作用がないため、風音防止スパイラルに着雪してしまう。また、風音防止スパイラルが放熱フィンとなり、磁性線材から発生した熱が風音防止スパイラルを介して空気中に放散されてしまい、融雪スパイラルによる融雪効果が失われてしなうという問題点もあった。
【0011】
本発明は、以上のような問題点を解決するためになされたもので、電線の外周上に風音スパイラルを巻付け、更にその上から融雪スパイラルを巻付けることにより、架空布設される電線の風騒音を低減するとともに落雪を防止することが可能な融雪スパイラルの巻付方法および低風音型融雪電線を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上述した従来の問題点を解決すべく下記の発明を提供する。
本発明の第1の態様にかかる融雪スパイラルの巻付方法は、電線の外周上に第1スパイラル線を巻付け、前記第1スパイラル線が巻付けられた前記電線の外周上に磁性線材からなる第2スパイラル線を、前記電線の長手方向に前記第1スパイラル線の巻付けピッチより、前記第2スパイラル線の巻付けピッチを小さく巻付けることを特徴とする。
【0013】
電線にアルミ合金などからなる第1スパイラル線である風音防止スパイラルを巻付け、更にその上に磁性線材からなる第2スパイラル線である融雪スパイラルを巻付けることにより、電線から発生する風音を防止するとともに、融雪効果を得ることができる。
【0014】
即ち、風音防止スパイラルの上から融雪スパイラルを巻付けるので、風音防止スパイラルの所は凸状になり、長手方向のある部分は融雪スパイラルが電線に直接巻付けされることにより、断面が凸凹となり低風音効果がある形状となる。
【0015】
また、電線と融雪スパイラルとの間にスパイラル状の金属線が介在することにより、融雪スパイラル表面を流れる気流の一部が融雪スパイラルと電線との隙間に入り込み、その結果、気流が乱れ、風騒音の原因となるカルマン渦の発生を防止する効果がある。
【0016】
また、最外層表面に、電線の長手方向に風音防止スパイラルの巻付けピッチより、巻付けピッチを小さく磁性線材からなる融雪スパイラルが巻かれることにより、磁性線材が効果的に発熱し融雪することができる。また、融雪スパイラルの外側には風音防止スパイラルが巻かれていないため、風音防止スパイラルに着雪したり、風音防止スパイラルを介して熱が放散して電線温度が低下したりすることがない。
【0017】
本発明の第2の態様にかかる融雪スパイラルの巻付方法は、本発明の第1の態様にかかる融雪スパイラルの巻付方法において、前記電線の外径をD、前記第1スパイラル線の径をd、前記第2スパイラル線の径をdとしたとき、

の関係をともに満たすことを特徴とする。
【0018】
これにより、更に電線から発生する風音を防止することができる。即ち、確実に、風音防止効果を得るためには、風音防止スパイラルがある程度の太さを有していることが必要であり、経験から風音防止スパイラルの径は、電線の外径のおよそ0.1倍以上であることが望ましい。
【0019】
また、融雪スパイラルの径が大きすぎると、融雪スパイラルの内側に流れる気流の量が小さくなり、風音防止スパイラルの効果が薄れることから、融雪スパイラルの径は風音防止スパイラルの径より小さいことが望ましい。
【0020】
本発明の第3の態様にかかる融雪スパイラルの巻付方法は、本発明の第1または2の態様にかかる融雪スパイラルの巻付方法において、前記電線の外径をD、前記第2スパイラル線の巻付けピッチをLとしたとき、

の関係を満たすことを特徴とする。
【0021】
これにより、更に融雪効果を得ることができる。即ち、融雪スパイラルの巻付けピッチが大きいと、磁性線材から発生する発熱量が小さくなり、融雪効果が薄れることから、融雪スパイラルの巻付けピッチは電線外径の0.2倍以下であることが望ましい。
【0022】
本発明の第4の態様にかかる融雪スパイラルの巻付方法は、本発明の第1から3のいずれか1つの態様にかかる融雪スパイラルの巻付方法において、前記第1スパイラル線が前記電線からの風音発生または/およびコロナ発生を防止する防止機能を有するときに、前記第2スパイラル線を、前記防止機能を保持するように巻付けることを特徴とする。
これにより、風音発生防止効果と融雪効果とを得ることができる。
【0023】
本発明の第1の態様にかかる低風音型融雪電線は、本発明の第1から4のいずれか1つの態様にかかる融雪スパイラルの巻付方法によって、前記第1スパイラル線及び前記第2スパイラル線が巻付けられていることを特徴とする。
これにより、上述した本発明の第1から4のいずれか1つの態様にかかる融雪スパイラルの巻付方法と同等の効果がある低風音型融雪電線を得られる。
【0024】
本発明の第2の態様にかかる低風音型融雪電線は、本発明の第1の態様にかかる融雪電線において、前記第1スパイラル線が前記電線からの風音発生または/およびコロナ発生を防止する防止機能を有するときに、前記第2スパイラル線を所定ピッチで巻付けて、一定以上の前記防止機能を保持し、かつ、前記第2スパイラル線により融雪する機能を有することを特徴とする。
これにより、上述した本発明の第4の態様にかかる融雪スパイラルの巻付方法と同等の効果がある低風音型融雪電線を得られる。
【発明の効果】
【0025】
本発明によれば、電線から発生する風音を防止するとともに、融雪効果を得ることができる。即ち、電線と融雪スパイラルとの間にスパイラル状の金属線が介在することにより、融雪スパイラル表面を流れる気流の一部が融雪スパイラルと電線との隙間に入り込み、その結果、気流が乱れ、風騒音の原因となるカルマン渦の発生を防止することができる。
【0026】
また、最外層表面に、電線の長手方向に対してほぼ直角に磁性線材からなる融雪スパイラルが巻かれることにより、磁性線材が効果的に発熱し融雪することができる。また、融雪スパイラルの外側には風音防止スパイラルが巻かれていないため、風音防止スパイラルに着雪したり、風音防止スパイラルを介して熱が放散して電線温度が低下したりすることがない。
【発明を実施するための最良の形態】
【0027】
この発明の一実施形態を、図面を参照しながら説明する。なお、以下に説明する実施形態は説明のためのものであり、本発明の範囲を制限するものではない。従って、当業者であればこれらの各要素もしくは全要素をこれと同等なもので置換した実施形態を採用することが可能であるが、これらの実施形態も本発明の範囲に含まれる。
【0028】
図1は、本発明を適用可能な低風音型融雪電線の一例を示した図である。図1に示すように、低風音型融雪電線10は、鋼心アルミニウム撚線(ACSR)等の電線11の外周に、アルミ合金などからなる風音防止スパイラル12を所定の巻付けピッチで巻付け、更にその上から、即ち、風音防止スパイラル12が巻付けられた電線10の外周に、鉄やニッケルなどを主成分とした磁性線材からなる融雪スパイラル13を、電線11の長手方向にほぼ直角になるように所定の巻付けピッチで巻付けた構造になっている。
【0029】
また、融雪スパイラル13の巻付けは、風音防止スパイラルが巻付けられている上から、巻付装置を用いて巻付けを行うものである。なお、本発明では、巻付装置の説明は省略する。
【0030】
また、所望の風音防止効果を得るためには、風音防止スパイラル12がある程度の太さを有していることが必要であることから、風音防止スパイラル12の径は、電線の外径のおよそ0.1倍以上とする。
【0031】
また、融雪スパイラル13の径が大きすぎると、融雪スパイラル13の内側に流れる気流の量が小さくなり、風音防止スパイラル12を巻付けた効果が薄れることから、融雪スパイラル13の径は、風音防止スパイラル12の径より小さくする。
【0032】
また、融雪スパイラル13の巻付けピッチが大きいと、磁性線材から発生する発熱量が小さくなり、融雪効果が薄れることから、融雪スパイラル13の巻付けピッチは電線11の外径の0.2倍以下とする。
【0033】
本発明の低風音型融雪電線10の具体的な例として、ACSR810mm(外径38.4mm)を電線11として使用して、径がφ4mmのアルミ合金線からなる風音防止スパイラル12を500mmの巻付けピッチで、電線11に巻付け、更に、風音防止スパイラル12を巻付けた電線11の上から、径がφ2.0mmのFe−Ni合金からなる融雪スパイラル13を5mmの巻付けピッチで巻付けることにより低風音型融雪電線10を形成した。
【0034】
ここで、融雪スパイラル13は、発熱量が大きいほど融雪性能に優れているが、夏場の高温時にも発熱すると電線温度が上昇し過ぎてしまい、電線13に流せる許容電流を低下させてしまう。よって、融雪スパイラルは着雪のない夏季(高温時)には発熱量を小さく、冬季(低温時)には大きな発熱量が得られることが望ましい。その為、Feのみの場合に比べキュリー温度を低く設定することができ、高温時における磁気特性を低下させることが可能であるFe−Ni合金を使用する。
【0035】
上述したように、電線11と融雪スパイラル13との間に風音防止スパイラル12が介在することにより、融雪スパイラル13の表面を流れる気流の一部が融雪スパイラル13と電線11との隙間に入り込み、その結果、気流が乱れ、風騒音の原因となるカルマン渦の発生を防止することができる。
【0036】
また、低風音型融雪電線10の最外層表面に、電線の長手方向に対してほぼ直角に磁性線材からなる融雪スパイラル13が巻かれることにより、磁性線材が効果的に発熱し融雪することができる。
【0037】
また、融雪スパイラル13の外側には風音防止スパイラルが巻かれていないため、風音防止スパイラルに着雪したり、風音防止スパイラルを介して熱が放散して電線温度が低下したりすることがない。
【0038】
上述の例では、ACSR810mm(外径38.4mm)を使用した低風音型融雪電線10の場合を説明したが、電線のサイズには制限は無い。また、架空送電線のみならず、架空地線にも適用が可能である。
【0039】
また、上述の例では、風音防止スパイラル12としてアルミ合金線を用いたが、径が小さい場合は、より強度のあるアルミ覆鋼線を用いても良い。また、融雪スパイラル13としてFe−Ni合金を用いたが、Fe−Ni合金に限らず磁性線材、特に、キュリー温度の低い合金であれば良い。
【0040】
また、上述した例では、風音防止スパイラル12及び融雪スパイラル13は、ともに金属線を手作業で巻付けるように記載したが、巻付け工具を利用して巻付けたり、予めスパイラル状に成形した金属線を巻付けたりするようにしても良い。
【0041】
また、上述した例では、風音防止スパイラル12と融雪スパイラル13の巻き方向が互いに逆方向になっているが、同じ方向であっても良い。また、電線11の長手方向において、融雪スパイラル13を巻付けする区間のうち、所望の区間ごとに融雪スパイラル13の巻き方向を異ならせても良い。
【0042】
また、上述した例では、風音防止スパイラル12が1条を巻付けたものであるが、密着して2条を巻付け(密着2条)、対角に1条ずつ巻付け(対角2条)、対角に密着して2条ずつ(対密4条)を巻付けるなどの場合にも適用できる。
【図面の簡単な説明】
【0043】
【図1】本発明を適用可能な低風音型融雪電線の一例を示した図である。
【図2】従来の風音防止スパイラルを巻付けた電線を示した図である。
【図3】従来の融雪スパイラルを巻付けた電線を示した図である。
【符号の説明】
【0044】
10 低風音型融雪電線
11 電線
12 風音防止スパイラル
13 融雪スパイラル



【特許請求の範囲】
【請求項1】
電線の外周上に第1スパイラル線を巻付け、前記第1スパイラル線が巻付けられた前記電線の外周上に磁性線材からなる第2スパイラル線を、前記電線の長手方向に前記第1スパイラル線の巻付けピッチより、前記第2スパイラル線の巻付けピッチを小さく巻付けることを特徴とする融雪スパイラルの巻付方法。
【請求項2】
前記電線の外径をD、前記第1スパイラル線の径をd、前記第2スパイラル線の径をdとしたとき、

の関係をともに満たすことを特徴とする請求項1に記載の融雪スパイラルの巻付方法。
【請求項3】
前記電線の外径をD、前記第2スパイラル線の巻付けピッチをLとしたとき、

の関係を満たすことを特徴とする請求項1または2に記載の融雪スパイラルの巻付方法。
【請求項4】
前記第1スパイラル線が前記電線からの風音発生または/およびコロナ発生を防止する防止機能を有するときに、前記第2スパイラル線を、前記防止機能を保持するように巻付けることを特徴とする請求項1から3のいずれか1項に記載の融雪スパイラルの巻付方法。
【請求項5】
請求項1から4のいずれか1項に記載の融雪スパイラルの巻付方法によって、前記第1スパイラル線及び前記第2スパイラル線が巻付けられていることを特徴とする低風音型融雪電線。
【請求項6】
前記第1スパイラル線が前記電線からの風音発生または/およびコロナ発生を防止する防止機能を有するときに、前記第2スパイラル線を所定ピッチで巻付けて、一定以上の前記防止機能を保持し、かつ、前記第2スパイラル線により融雪する機能を有することを特徴とする請求項5に記載の低風音型融雪電線。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2009−129551(P2009−129551A)
【公開日】平成21年6月11日(2009.6.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−300057(P2007−300057)
【出願日】平成19年11月20日(2007.11.20)
【出願人】(502308387)株式会社ビスキャス (205)
【出願人】(000005186)株式会社フジクラ (4,463)
【出願人】(000005290)古河電気工業株式会社 (4,457)
【Fターム(参考)】